特許第6085365号(P6085365)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6085365改良された快削性展伸アルミニウム合金製品およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6085365
(24)【登録日】2017年2月3日
(45)【発行日】2017年2月22日
(54)【発明の名称】改良された快削性展伸アルミニウム合金製品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/02 20060101AFI20170213BHJP
   C22F 1/043 20060101ALI20170213BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20170213BHJP
【FI】
   C22C21/02
   C22F1/043
   !C22F1/00 602
   !C22F1/00 612
   !C22F1/00 626
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630C
   !C22F1/00 630J
   !C22F1/00 630K
   !C22F1/00 631A
   !C22F1/00 651B
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 692A
   !C22F1/00 692B
   !C22F1/00 694B
【請求項の数】15
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-511947(P2015-511947)
(86)(22)【出願日】2013年5月15日
(65)【公表番号】特表2015-519475(P2015-519475A)
(43)【公表日】2015年7月9日
(86)【国際出願番号】EP2013001424
(87)【国際公開番号】WO2013170953
(87)【国際公開日】20131121
【審査請求日】2015年10月30日
(31)【優先権主張番号】12003829.4
(32)【優先日】2012年5月15日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】514291314
【氏名又は名称】コンステリウム エクストルージョンズ ジェチーン エス.アール.オー.
【氏名又は名称原語表記】CONSTELLIUM EXTRUSIONS DECIN S.R.O.
(74)【代理人】
【識別番号】100080447
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】シャアニ,ラヴィ
(72)【発明者】
【氏名】ドルガ,リュカツ
(72)【発明者】
【氏名】コラリク,イヴォ
【審査官】 鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−266719(JP,A)
【文献】 特開平11−140575(JP,A)
【文献】 特開平10−017971(JP,A)
【文献】 特開2000−063973(JP,A)
【文献】 特開昭57−149445(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/078080(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00 − 21/18
C22F 1/04 − 1/057
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で表示した下記の化学組成
‐1.3%≦Si≦12%、
‐1.35%≦Fe≦1.8%、
を有する快削性展伸アルミニウム合金製品であって、
Fe+Siの総含有量は3.4%より高く
‐0.15%≦Cu≦6%、
‐0.6%≦Mg≦3%、
‐任意で、一つまたは複数の下記の元素
‐Mn≦1%
‐Cr≦0.25%
‐Ni≦3%
‐Zn≦1%
‐Ti≦0.1%
‐Bi≦0.7%
‐In≦0.7%
‐Sn≦0.7%
‐他の元素は各々が0.05%未満で、総量が0.15%未満
‐残余がアルミニウム
であることを特徴とする快削性展伸アルミニウム合金製品。
【請求項2】
Fe+Si+Cuの総含有量は4重量%より高いことを特徴とする請求項1に記載の快削性展伸アルミニウム合金製品。
【請求項3】
Fe含有量は1.55重量%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の快削性展伸アルミニウム合金製品。
【請求項4】
Si含有量は1.55重量%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の快削性展伸アルミニウム合金製品。
【請求項5】
Si含有量は5重量%より低いことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の快削性展伸アルミニウム合金製品。
【請求項6】
重量%で表示したFe含有量は、1.7%<Fe≦1.8%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の快削性展伸アルミニウム合金製品。
【請求項7】
重量%で表示したCu含有量は、0.65%より高いことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載の快削性展伸アルミニウム合金製品。
【請求項8】
Bi含有量は、0.05〜0.4重量%であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載の快削性展伸アルミニウム合金製品。
【請求項9】
Sn含有量は、0.05〜0.4重量%であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一つに記載の快削性展伸アルミニウム合金製品。
【請求項10】
Fe+Mn含有量は、1.9重量%より低いことを特徴とする請求項1〜9のいずれか一つに記載の快削性展伸アルミニウム合金製品。
【請求項11】
Fe+Mn+Cr含有量は2.1重量%より低いことを特徴とする請求項1〜10のいずれか一つに記載の快削性展伸アルミニウム合金製品。
【請求項12】
(i)請求項1〜11のいずれか一つに記載の化学組成を有する合金製のビレットを鋳造する段階、
(ii)前記鋳造ビレットを525〜580℃の範囲の温度で少なくとも一時間均質化する段階、
(iii)前記均質化ビレットを押出成形する段階、
(iv)500℃より高い温度で押出製品を固溶化熱処理し、つづいて、急冷される段階であって、前記固溶化熱処理は押出成形中に発生した熱によって実施されるものであるか、或いは、前記固溶化熱処理は別の熱処理炉を使用することによって制御されるものである段階、
(v)押出成形され、急冷された製品の合金を時効する段階、
を含む快削性展伸アルミニウム合金製品の製造方法。
【請求項13】
時効処理された押出製品は、平均粒径が2μm未満で、面積比が5〜15%の二次相粒子を含むことを特徴とする請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記アルミニウム合金のCu含有量は1.4重量%より低く、時効処理された押出製品の極限強さは400MPaより高いことを特徴とする請求項12または13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記展伸アルミニウム合金製品は機械加工され、次に硬質陽極酸化され、ブレーキピストンボディを得ることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一つに記載の、または、請求項12〜14のいずれか一つに記載の方法によって作製された、快削性展伸アルミニウム合金製品の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械加工用途のための、とくに快削用途のための展伸アルミニウム合金製品に関するものである。本発明は、また、押出成形および精密旋削への適合性の機能として最適化され、特に、融点が低く、鉛などのように環境および健康に有害か、または、合金の冶金学的構造の脆化を引き起こすことのある元素を含まない化学組成を有するAA6000系アルミニウム製の、主に棒またはロッド型の単純な押出製品から得られる精密旋削部品の分野に関するものである。
【0002】
その他の表示がなければ、合金の化学組成に関するすべての値は重量%で表示される。また、参照されるすべてのアルミニウム合金は、その他の表示がなければ、Aluminium Associationによって定期的に刊行されるRegistration Record Seriesによって定義された名称を使用して、名付けられている。
【背景技術】
【0003】
精密旋削は、金属製の棒またはロッドから材料を除去することによる、一般的に回転部品(ねじ、ボルト、車軸など)である部品の量産分野に関するものである。後者は、特にアルミニウム合金の場合、普通はビレットからの押出成形によって得られる。したがって、部品はマニュアルまたはデジタル制御による切削機械で高い生産速度で製造される。それらは、時計製造から医療機器まで、さらに、輸送(航空、鉄道、自動車)および工業(電気、電子、油圧など)の分野までの様々な分野で使用される。
【0004】
生産性、ならびに最終部品の寸法の精度および表面粗度は、この種の製造に関連する主な目的である。機械加工性は、最終製品を得るためにワークピースから金属を除去する相対的な容易さと定義できる。アルミニウム合金に関して、機械加工性に関する最も重要な性質の一つは、形成された切屑の破砕である。切屑が破砕しないとき、長い切屑が形成され、それは、仕様書から外れた製品を得ることから高い困難性を伴って機械加工されたピースから切屑を排出することまでにわたる、広範囲の問題につながることがある。
【0005】
最近まで、鉛、錫、インジウムおよびビスマスのような元素が、有効なチップブレーカとして作用する相を形成するので、添加されていた。快削用途の典型的な合金はAA6262であり、鉛およびビスマスを高水準で含む。鉛およびビスマスのような元素は、アルミニウムへの可溶性が低く、融点が低いため、機械加工作業によって引き起こされる加熱の結果として融解し、その結果、アルミニウムマトリックス内に軟質領域を形成する。硬質マトリックス内の軟質領域によって、小さいサイズの切屑は機械加工または精密旋削作業中に容易に破砕され、したがって、材料の急速な除去、およびその結果として、高い機械加工生産性が可能であり、また、より高い量の熱を破砕された切屑と共に排出するため、部品の最終的な表面粗度の潜在的な劣化を防ぐ。
【0006】
しかしながら、鉛の存在に関係する毒性の問題のせいで、ヨーロッパの法律では、アルミニウム合金のような合金、特に精密旋削用に使用される合金における許容含有量はますます制限されている。最近の規制制限では、アルミニウム合金の鉛濃度を0.4%までに制限している。ここ数年、精密旋削合金型として鉛の含有量が低いもの、鉛を含まないものさえもが提案されていた。それらの組成は、錫、ビスマスまたはインジウムなどの、同様に融点が低い置換元素の存在に基づいていた。しかしながら、これらの合金は、正確には鉛を含む合金と同様な精密旋削中の性能を示さない。さらに、これらの合金は置換元素から由来する低融点相による粒界の完全な濡れを原因とする脆化の問題を提起することがある。この脆化は、不十分な冷却が行われたとき機械加工中に発生することがある。
【0007】
国際公開第2005/100623号には、機械加工または快削用途のための、好ましくは押出成形の形態の快削性展伸AlMgSi合金製品が開示されており、その合金は、重量%で、0.6〜2.0のSi、0.2〜1.0のFe、0.5〜2.0のMg、最大1.0のCu、最大1.5のMn、最大1.0のZn、最大0.35のCr、最大0.35のTi、0.04〜0.3のZr、各々最大0.05で総量で最大0.15の不純物を含み、残余がAlである。
【0008】
特開平9−249931号公報には、1.5〜12.0質量%のSi、0.5〜6.0質量%のMg、0.01〜0.1質量%のTiおよび残余がAl及び不可避不純物からなり、必要に応じて、0.5〜2.0質量%のMnおよび0.1〜1.0質量%のCuのいずれか一方又は双方、あるいは0.5〜1.0質量%のFe、0.1〜0.5質量%のCr、0.1〜0.5質量%のZrのうちいずれか1種以上を含有するアルミニウム合金が開示されている。
【0009】
米国特許第6059902号明細書には、1.5〜12%のSi、0.5〜6%のMg、および、任意で0.5〜2%のMn、0.15〜3%のCuおよび0.04〜0.35%のCrの少なくとも一つを含み、さらに、0.01〜0.1%のTi、不可避的不純物および残余のAlを含み、Si系化合物の二次相硬質粒子の平均粒径は2〜20μmで、その面積比は2〜12%であるアルミニウム合金押出製品が開示されている。その合金は、DAS(デンドライトアームスペーシング)が10〜50μmの鋳造ビレットを得るために融解され、次に、450〜520℃で浸漬処理され、それから、押出成形過程に置かれる。
【0010】
国際公開第2010/112698号には、重量%で表示した、0.8≦Si<1.5%、1.0<Fe≦1.8%、Cu<0.1%、Mn<1%、0.6〜1.2%のMg、Ni<3.0%、Cr<0.25%、Ti<0.1%、他の元素が各々<0.05%で総量<0.15%、残余がアルミニウムである化学組成を有するアルミニウム合金製の快削性押出製品が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、これらの最近開発された合金は、精密旋削用途において、特に切屑破砕に関して、従来の鉛含有合金ほど良好な結果を示さない。
【0012】
したがって、鉛含有合金AA6262またはAA2011製のそれらの製品に類似した性質を有する、すなわち、快削中に長い切屑を形成することを防止し、適切な機械的性質および耐食性を有し、陽極酸化されるのに適した、Pbを含まない快削性展伸合金製品を得ることは今なお目標である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第一の目的は、重量%で表示した下記の化学組成
‐1.3%≦Si≦12%、
‐1.35%≦Fe≦1.8%、
を有する快削性展伸アルミニウム合金製の押出製品であって、
Fe+Siの総含有量は3.4%、好ましくは3.6%、より高く、
‐0.15%≦Cu≦6%、
‐0.6%≦Mg≦3%、
‐任意で、一つまたは複数の下記の元素
‐Mn≦1%
‐Cr≦0.25%
‐Ni≦3%
‐Zn≦1%
‐Ti≦0.1%
‐Bi≦0.7%
‐In≦0.7%
‐Sn≦0.7%
‐他の元素が各々≦0.05%で総量≦0.15%
‐残余がアルミニウム
であることを特徴とする押出製品である。
【0014】
本発明によると、展伸合金製品では、合金製品の強度、硬度を高めるため、および、切屑が削ぎ取られ、より容易に破砕されるように共に機械加工性を改良するSi含有金属間粒子の量を増加させるために、Si含有量は1.3重量%より高い。好ましくは、Si含有量は1.3重量%よりかなり高い。有利には、Si含有量は1.55重量%より高い。しかしながら、シリコン量が高すぎると、その結果として粗ダイヤモンド立方体‐F格子相粒子の沈澱が生じ、押し出し性が悪化し、均質化中の二次相粒子の初期融解の危険性を増大させることにつながる。Si含有量は共晶含有量に近い12%より低いことが有利であり、好ましくは5重量%より低い。
【0015】
展伸合金製品のFe含有量は1.35重量%より高く、チップブレーカとして作用するアルミニウムを含む硬質金属間相を形成する。Fe含有量は短い切屑の形成を促進する二次相粒子の量を制御する。Fe含有量は好ましくは1.55%より高いが、押し出し性を低下させるビレット鋳造中の一次鉄含有相の形成を防ぐために、1.8%より低い。さらに好ましくは、Fe含有量は1.7重量%から1.8重量%の範囲である。
【0016】
シリコンおよび鉄のような成分がアルミニウム合金の機械加工性を向上させるとして既に公知であっても、両方の組み合わせは推奨されなかった。Si含有量が高いときには、Fe含有量は1%以下でなければならず(特開平9−249931号)、Fe含有量が高い場合には、Si含有量は1.5%以下でなければならない(国際公開第2010/112698号)。本発明の枠内で、本出願人は、Fe+Si≧3.4重量%、好ましくは≧3.6重量%のように、高いSi含有量と高いFe含有量を組み合わせると、それでも容易に押出成形することができるアルミニウム合金が得られ、この含有量が高すぎないならば、その最大含有量は金属間相の形成に寄与する他の成分の量によるが、良好な機械加工性を有する、すなわち快削中に長い切屑を形成するのを防止し、高い機械的性質および耐食性を有する押出製品が得られることを発見した。他の成分の可能な含有量の範囲を考慮すると、(Si+Fe)含有量は8重量%より低い方が有利で、さらに好ましくは、7重量%より低い。
【0017】
展伸合金製品は0.6%より高いMg含有量を有し、Mgの存在は合金の強度を増大させ、Mg含有金属間粒子の量を増加させ、それは切屑が削り取られ、より容易に破砕されるので、さらに機械加工性を改良する。Mg含有量は、0.6〜3重量%であり得る。それは、好ましくはSi含有量との関係によって決定され、シリコン含有量が高いほど、均質化中の二次相粒子の初期融解の危険性を低下させるためにマグネシウム含有量は高くなければならない。しかしながら、マグネシウム含有量が高過ぎると、押し出し性および工具摩耗に都合が良くない。したがって、Si含有量が5重量%より低いとき、Mg含有量は0.6〜2重量%であるのが好ましい。
【0018】
銅もまた合金製品の強度をかなり増大させる。本発明による展伸製品の合金は最小含有量が0.15重量%の銅を含む。Cu、SiおよびMgの同時存在の結果、合金の低下した靭性と組み合わされた、増大した強度を得ることになり、それは切屑の脆弱性および形状を改良する。好ましくは、銅の含有量は0.65%より高いが、6%より低く、好ましくは、その押し出し性への逆効果のせいで1%より低い。
【0019】
マンガンは任意の成分である。それは、チップブレーカとして作用する他の元素との硬い金属間相を形成する。Mnはまた、合金の強度を増大させる微細な分散質を形成する。しかしながら、Mn含有量が高過ぎると、陽極酸化後、押出製品に望まれない、不安定な様相が与えられる。したがって、本発明の合金は最大1重量%のMnを含む。鉄と組み合わせると、マンガンは粗い一次相粒子を形成し、そのサイズは典型的には50〜100μmであり、それは合金の延性の顕著な損失につながる。したがって、Fe+Mnの含有量は好ましくは1.9重量%より低い。
【0020】
ニッケルもまた任意の成分である。マンガンのように、精密または棒旋削中の切屑破砕に適切な二次相粒子の形成に関与する。その含有量は、脆化作用を有する一次相の形成を防ぐために3%までに制限される。Ni含有量は、有利には1重量%より低い。
【0021】
展伸合金製品は、任意で最大1重量%のZn含有量を有する。特にMgおよび/またはCuと組み合わせると、Znは合金製品の強度を増大させる。
【0022】
展伸合金製品は、同様にビスマス、錫、またはインジウムを含むことがある。鉛のように、これらの元素は融点が低い軟質相を形成することがある。切屑の形成の間、これらの軟質相は材料中に脆弱点を形成し、その結果、切屑はより容易に破砕される。本発明では、Bi、SnまたはInの含有量は0.7%より低い。しかしながら、それらは好ましくは他の元素と組み合わせてチップブレーカとして作用する金属間相を形成するのに十分な低濃度で合金中に存在し、それによって、低い融点での軟質層の形成を防止する。好ましい実施態様では、これらの元素の少なくとも一つの含有量は0.05重量%よりわずかに高く、0.4重量%より低い。
【0023】
クロムもまた、チップブレーカとして限定された有効性を有する他の元素と共に硬質金属間相を形成することがある。クロムはまた微細な分散質を形成し、それは合金の強度を増大させる。これは抗再結晶元素であり、マンガンのように合金の粒状構造に影響する二次相を形成することがある。その含有量は、押し出し性に悪影響があるせいで、0.25重量%未満に保たれる。好ましいCr含有量は、0.1〜0.2重量%である。鉄および/またはマンガンと組み合わせて、クロムもまた合金の延性のかなり大きな損失につながる粗い一次相粒子を形成する。したがって、Fe+Mn+Cr含有量は好ましくは2.1重量%より低く、さらに好ましくは2.0重量%より低い。
【0024】
チタンは一次アルミニウムの細粒化を促進し、上述の二次相の分布に影響する。それは鋳放しの微細構造の細粒化剤として添加され、最大で0.1重量%まで存在することができる。細粒化アルミニウム展伸合金技術で公知のように、Tiは、TiB2および/またはTiCと共に、または、それとして添加される。その含有量は、押し出し性に悪影響があるせいで、0.1%までに制限される。
【0025】
本発明の別の目的は、
(i)上述のような化学組成を有する合金製のビレットを鋳造する段階、
(ii)前記鋳造ビレットを525〜580℃、好ましくは535〜555℃の範囲の温度で少なくとも一時間均質化する段階、
(iii)前記均質化ビレットを押出成形する段階、
(iv)500℃より高い温度で押出製品を固溶化熱処理し、つづいて、急冷、好ましくは、水焼き入れされる段階であって、前記固溶化熱処理は押出成形中に発生した熱によって実施されるものであるか、或いは、前記固溶化熱処理は別の熱処理炉を使用することによって制御されるものである段階、
(v)押出成形され、急冷された製品の合金を時効処理する段階
からなる快削性展伸アルミニウム合金製品の製造方法である。
【0026】
均質化が高温、通常545℃で5または6時間実施されるこの方法のおかげで、押出製品は、同じ幾何学的形状および同じ焼き戻しを有するAA6262押出成形棒と同様な機械的性質を有する。押出製品は、直接押出プレスによって、またはビレットを約500℃、好ましくは480〜520℃に予備加熱して、それを押出比約20、好ましくは10〜50で、押出速度約10m/分、好ましくは5〜30m/分で押出成形する間接押出プレスによって得られる。
【0027】
前記の方法によって得られた押出製品は、平均粒径が2μm未満、典型的には1〜2μmおよび面積比が5〜15%である二次相硬質粒子を含む。それらは合金の高い機械的性質に寄与し、おそらく転位の滑りを停止させることによって固定点として作用し、切屑が破砕されるのを容易にする空洞の形成が起きることになる多量の金属間粒子のおかげで、切屑が破砕されるのを助ける。Cu含有量が1.4重量%より低くても、適切な時効処理後400MPaより高い極限引張り強さを有する押出製品で、最良の結果が得られた。
【0028】
本発明のまた別の目的は、展伸アルミニウム合金製品をいずれかの機械加工金属切削作業を使用して機械加工し、次に硬質陽極酸化して、典型的には低粗度の約30μmの陽極酸化層を有し、その陽極酸化表面の粗度Rmaxは好ましくは4μm未満、さらに好ましくは3μm未満であり、それによって特に改良されたブレーキピストンボディが得られる、本発明による展伸アルミニウム合金製品の使用である。
【0029】
実際、本出願人は、本発明による展伸アルミニウム合金製品が、重金属を含まない快削性合金製の公知の製品の陽極酸化後の表面粗度よりもかなり良好な、陽極酸化後の優れた表面粗度を示すことに気づいた。本発明による展伸アルミニウム合金製品の使用は、それらの優れた機械的性質、機械加工性、および陽極酸化後に低い表面粗度を有するそれらの優れた適性によって、特にブレーキピストンボディの製造に推奨される。
【0030】
陽極酸化から生じる表面粗度は複数のパラメータによって変化し、それらのパラメータとしては、陽極酸化前の表面粗度、陽極酸化方法および陽極酸化される合金、特にその微細構造に存在する相の分布、サイズおよび化学的性質がある。陽極酸化された表面粗度が極めて重要な用途の一つに、ブレーキピストンボディの製造がある。ブレーキピストンボディは、通常円筒形である所望の形状の機械加工によって展伸アルミニウム棒から通常製造される部品である。高性能ブレーキピストンボディは、その後硬質陽極酸化され、厚さが約30μmの陽極酸化層が得られる。
【0031】
本出願人は、本発明による合金から押出成形され、その後機械加工され硬質陽極酸化されたブレーキピストンボディが、従来の重金属を含む快削性合金の粗度と同じか、わずかに良好でさえあり、公知の重金属を含まない快削性合金の粗度より良好な粗度を有することを発見した。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明は、下記の実施例からよりよく理解されるであろうが、しかしながら、それらの実施例は本発明を何ら限定するものではない。
【実施例1】
【0033】
六つの合金をダイレクトチル(DC)鋳造方法を使用して鋳造し、直径が120mmである2.5〜3mの丸太を形成した。これらの合金の組成を表1に記載した。
【0034】
【表1】
【0035】
これらの合金はすべて、0.04〜0.05重量%のチタン含有量を有する。
【0036】
合金CおよびDは本発明による化学組成を有し、一方、合金AおよびBはCuの含有量が低く、合金EおよびFは国際公開第2010/112698号による化学組成を有し、合金GのMn含有量は本発明による合金より高い。
【0037】
丸太は温度545℃で5時間30分の間均質化された。次にそれらを切断して、長さが220mmのビレットを得た。ビレットを500℃まで加熱して、それから、間接6.3MN押出プレスで押出成形して、外径が30mmで、内径が15mmで、したがって、壁の厚さが7.5mmである管を形成した。押出成形された管は押出プレスから押出速度6m/分で外に出され、ダイスの出口の近傍で水焼き入れされた。次に管を10時間170℃で人工的に時効処理し、最大の機械的強度を得た。
【0038】
各合金について、EN−755−1にしたがって一つの管を機械加工して、引張試験サンプルを採取した。各合金の機械的性質は表2に記載されている。ただし、表2において、Rpは応力解放後に0.2%の永久伸びが観察されるところで測定された降伏強さであり、Rmは引張強度であり、A5%は破砕後のゲージ長の永久伸びであり、当初のゲージ長L0のパーセンテージで表示され、ただし、L0は5.65√S0に等しいとされ、S0はテスト片の初期断面積である。
【0039】
【表2】
【0040】
合金CおよびDの機械的性質は、同様な伸びでは合金EおよびFの機械的性質より高い。それらは、また、合金AおよびBの機械的性質よりも高い。これらの値は、また、焼き戻しT6でAA6262合金製の直径30mmを有する押出成形棒の機械的性質と比較することもできるが、ただし、焼き戻しT6において、Rmは通常400MPa近傍であり、Rpは通常350MPa近傍である。合金Gの伸びは、おそらくMnおよび/またはMn+Feおよび/またはMn+Fe+Crの含有量が高すぎるせいで、7%まで降下した。
【0041】
合金の機械加工性は、それらの切屑の破砕性を観察することによって評価された。それはあらかじめ決定された機械加工作業から生じる切屑をすべて回収し、所定の質量の回収された切屑、ここでは質量100g中のそれらの数(切屑の数/100g)を算出することで測定された。機械加工作業は、CNC回転旋盤SP 12CNCおよびSANDVIK Coromant Coroturn(登録商標)107で販売されているひし形80°の基本形状の挿入物を、アルミニウム合金の回転用に設計された参照CCGX 09 T3 04−ALと共に使用して実施された。下記の機械加工パラメータが適用された。すなわち、回転速度3150rpm/分、供給0.3mm/revおよび切断深さ3.5mmである。100gの切屑の数の平均値は、±500にほぼ等しい95%信頼区間で、表3に記載されている。最も良い結果は、合金C、DおよびGに対応するサンプルで得られ、それらは優れた切屑破砕を示すが、一方、サンプルA(低Cu含有量)およびB(高Ni含有量)は並の切屑破砕の結果を示し、サンプルEおよびFはあまり良くない切屑破砕の不十分な結果を示す。
【0042】
また、表3に記載した二次相粒子の平均粒径および面積比(「表面比」とも呼ばれる)は、画像分析ソフトウェアを使用して、倍率500で撮った光学顕微鏡写真に基づいて各サンプルについて決定した。粒径は、粒子の領域を有する円の直径と定義された。平均粒径は、すべての検出可能な粒子の粒径の算術平均を計算することで得られた。
【0043】
合金Gは優れた切屑破砕に好都合な組成を有するが、その構造は粗い一次粒子を含み、結果として、合金の延性にかなり大きな損失を与える。
【0044】
【表3】
【0045】
したがって、これらの観察は米国特許第6059902号明細書に記載されたものとは完全には適合しない。特に二次相の平均粒径は有利には2μm未満である。スリッピングラインの蓄積に基づく米国特許第6059902号明細書の説明が完全には真実ではないか、または、2μmのサイズ制限が少なくとも本発明による化学組成を有する合金については、スリッピングラインの蓄積を妨げないかである。また、最良の切屑破砕の結果は最大の強度(400MPaより高い)を有する合金で得られることが分かった。
【実施例2】
【0046】
化学組成を表1に記載した合金C、D、FおよびGから押出成形した、外径30mmおよび厚さ7.5mmの複数の管からサンプルを抽出した。
【0047】
サンプルの製造方法は、下記の通りである。
1 長さ70mmで押出成形された管を切断し、前記管の直径面に沿って削る、
2 直径方向の平坦面を磨く、
3 脱脂する、
4 洗浄する、
5 H2SO4電解質で硬質陽極酸化して、厚さ30μmの酸化層を得る。
【0048】
粗度測定は、サンプルの軸線方向に沿って、直径方向の平坦な陽極酸化面について実施した。以下の三つの粗度パラメータが測定された。
・Rmax:粗度プロファイルの最大粗度深さ
・Ra:粗度プロファイルの算術平均偏差
・Rz:粗度プロファイルの平均最大高さ
【0049】
表4に記載した粗度値は、合金CおよびD製のサンプルの粗度がFおよびGの粗度より小さいことを示している。
【0050】
【表4】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0051】
【特許文献1】国際公開第2005/100623号
【特許文献2】特開平9−249931号公報
【特許文献3】米国特許第6059902号明細書
【特許文献4】国際公開第2010/112698号