【実施例】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
図1は本発明の実施例を示す心機能監視装置付き表面式迷走神経電気刺激装置のブロック図、
図2はその心機能監視装置付き表面式迷走神経電気刺激装置の左迷走神経上部表面の刺激の様子を示す図面代用写真、
図3はその左迷走神経上部表面の刺激装置を頸部に固定するネックカラー型装着具の模式図、
図4はその頸部左迷走神経上部表面への刺激装置の刺激による心拍数への影響を示す図である。
【0017】
これらの図において、Aは使用者、Bは左迷走神経、1,1は頸部に配置される左迷走神経刺激用双極性表面電極(迷走神経を刺激する陽極と陰極から成る)、2は頸動脈の脈波及び血圧情報を検知するための体表電極を有する圧センサー(脈波を検出するための圧電素子からなる加速度計:例えば、(株)メディセンスの「筋音計」や「連続血圧計」をも利用することもできる)、3はネックカラー型装着具、10は表面式迷走神経電気刺激装置、11は電気刺激装置、12は電気刺激信号発生装置、13は電気刺激強度調整装置、14は圧信号検出装置、15は計時装置、16は圧センサー2からの情報と計時装置15からの情報により心拍数を計測する心拍数計測装置、17は圧センサー2からの情報と計時装置15からの情報により総頸動脈の血圧を計測する血圧計測装置、18は心拍数計測装置16と血圧計測装置17からの情報と計時装置15からの情報に基づいて脳循環が保たれていることを確認するための循環動態監視を行う循環動態監視装置である。また、
図2においては、体表電極を有する圧センサー2は省略されている。
【0018】
本願発明では、被験者の頸部に左迷走神経を刺激する陽極と陰極から成る迷走神経刺激用双極性表面電極1,1とそれらの間に体表電極を有する左頸動脈の脈および血圧を検知するための圧センサー2を配置し、それらをカフスの機能を有するネックカラー型装着具3で保持するようにしている。したがって、簡便かつコンパクトに電気刺激を行うとともに脈拍および血圧の時間的情報の検出を行うことができる。
【0019】
なお、頸部において左迷走神経Bを電気刺激する場合、てんかんに有効な電気刺激強度では、心臓や肺などの呼吸循環系および腹部の消化器系臓器への下行性刺激による悪影響はきわめてまれで、後遺障害の報告はないことが知られている。実際、上記した特許文献2で示されている右迷走神経を刺激するてんかん治療用電気刺激法に比べると、左迷走神経刺激方式が有利である。
【0020】
このように、使用者Aにとって危険性のない左迷走神経Bに対応する位置の頸部体表に、迷走神経を刺激する陽極と陰極から成る迷走神経刺激用双極性表面電極1,1とそれらの間に体表電極を有する圧センサー2を配置し、これらを保持するとともに血圧計測のためのカフ圧を付与するネックカラー型装着具3とを配置する。
【0021】
電気刺激装置11からは両極性の低周波パルスが出力されて、陽極と陰極から成る迷走神経刺激用双極性表面電極1,1に印加され、使用者Aに対するTES(Therapeutic Electrical Stimulation;治療的電気刺激)を行うことができる。このように、両極性の低周波パルスにすることにより、交番パルスが印加されるので、単極性の低周波パルスに比べて迷走神経刺激用双極性表面電極1,1の劣化を防止することができる。
【0022】
より具体的には、電気刺激装置11からの電気刺激波は両極性の3Hz以下の低周波であり、電気刺激装置11からの刺激電圧は1Vから50V、電気刺激間隔は0.1m秒から1m秒である。
【0023】
また、低酸素に最も弱い臓器は脳である。脳循環が障害され、酸素が十分に脳に供給されないと、不可逆的な脳障害(低酸素脳症)を生じる。
【0024】
脳循環を規定する要因は心拍数と血圧値である。例えば、心拍数が40拍/分に低下すると意識障害(一過性脳虚血発作の原因)が出現する可能性が高くなる。血圧が急激に低下するとショック状態となり生命に危険性が生じる。したがって、本発明では、圧センサー2からの情報により心拍数計測装置15により心拍数を計測するとともに、圧センサー2からの情報に基づいて血圧計測装置16により血圧値を計測して、それらの変化をモニターし、循環動態監視装置17により脳循環が保たれていることを確認するようにしている。
【0025】
例えば、本願発明者らが11人の被験者に対して調べたところ、
図4に示すように、電気刺激装置11からの刺激電圧が印加されると、心拍数が若干下がることがある。例えば、
図4では刺激電圧印加から約15分後に心拍数72/分から心拍数69/分へと下がっているが、このような心拍変化を心拍数監視装置13により監視することができる。
【0026】
また、血圧と血流は血管抵抗値が一定とすると比例関係にあり、刺激前に比し刺激中の血圧が相対的に低下することにより、脳血流の低下を招く恐れがある。したがって、これらの心臓機能への危険因子を極力避けるために、心拍数と血圧値を刺激中(刺激後も一定時間)モニターするようにする。
【0027】
具体的には、血圧計測装置16により、総頸動脈の血圧が所定域にあることを監視して、異常な値になると、循環動態監視装置17がこれを検知して、電気刺激装置11を停止させるようにしている。
【0028】
てんかんは脳における神経ネットワークが過剰な活動状態になることによって起こる症状である。左迷走神経の電気刺激は、心臓や肺などの胸部内臓や胃や腸などの腹部で内臓にほとんど影響することなく、その刺激効果の約85%強が脳に対する効果といわれている。すなわち、脳の神経ネットワークの過剰活動を迷走神経刺激により抑制することがその治療効果の主理由であるが、本願発明の電気刺激では、1回の刺激時間が15分程度で1週間に1〜2回行うだけで、その効果が持続するという神経修飾効果が得られる。すなわち、1回の電気刺激によって刺激停止後も脳の神経ネットワークの過活動抑制効果が2,3日から数日持続し、薬物治療でも効果のほとんどでない難治性てんかんに有効であるところに最大の特徴を有する。
【0029】
これまであるいは現行のてんかんに対する電気刺激法は、持続的・連続的に刺激を継続する方法を取っており、本願発明のように15分/回、1−2回/週という間欠的治療法を行うことによって神経修飾効果によるてんかんの予防・治療効果を得られる電気刺激法はない。この効果はすでに後述する発明者の臨床試験によって確認されている。
【0030】
難治性(薬剤抵抗性)症候性てんかんに対するTESの効果をまとめたものが表1である。
【0031】
【表1】
このように、本発明によれば、表面式迷走神経電気刺激装置の左迷走神経上部表面の刺激により、難治性(薬剤抵抗性)症候性てんかん5例全例で有効であることが分かった。つまり、発作回数が減少し、発作自体が軽減し、発作は短時間化した。
【0032】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。