(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ケイ素と酸素を少なくとも含む四面体結晶構造からなる四面体シートの間にアルミニウム又はアルミニウム及びマグネシウムと酸素を少なくとも含む八面体結晶構造からなる八面体シートを有する層(以下、「基本構造層」という。)が積層した層状構造を持つ変性層状粘土鉱物であって、
前記八面体シートおよび/または前記四面体シートの中にリチウムイオンを含み、前記基本構造層の層間の陽イオンをカチオン性高分子有機化合物由来のカチオンで置換したことを特徴とする層状粘土鉱物複合体。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献4の方法により、これまでと比較して大幅に耐水性を改善した膜組成物が形成可能である。しかしながら、層状粘土鉱物単独の膜は非常に脆く、フィルムとしての実用性に乏しいといった問題があった。
【0009】
特許文献5の方法では、ポリイミドのようなカチオン性の高耐熱性ポリマーと層間にリチウムイオンを有する層状粘土鉱物からなる膜組成物を用いることで、耐水性と実用特性を併せ持ったシートを調製することが可能である。しかしながら、特許文献5に記載があるように、耐水性を向上するためには、膜形成後の230℃以上での熱処理を行う必要が有る旨が記載されている他、低温であるほど長時間の熱処理が必要になることが記載されており、上記熱処理により変形や劣化が生じるようなポリマー基材へのコーティングは不可能である他、膜の生産性が乏しいといった問題があった。また、上記熱処理を膜形成前に行うことが考えられるが、特許文献5記載の方法では、十分な熱処理を行うことにより耐水性は向上するものの、熱処理過程でカチオン性有機化合物の架橋や重合が進行し、分子量が増大することにより不溶化する、またカチオン性有機化合物が熱分解、劣化するなどの理由により、溶媒への分散性が大きく低下し、膜状に成型できないといった問題点を有していた。
【0010】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであって、高い耐水性を有し、且つ有機溶媒に高い分散性を有する層状粘土鉱物複合体、および該層状粘土鉱物複合体を有機溶媒に分散した膜形成組成物、および該膜形成組成物を用いてなる高耐水性膜組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明者らは、層状粘土鉱物とカチオン性有機化合物とからなる複合体において、耐水性を付与するための熱処理温度が高いこと、熱処理時間が長いことが悪影響を及ぼしていることに着眼して鋭意検討を行った。そして、層状粘土鉱物とカチオン性有機化合物との複合体において、層状粘土鉱物の層間に含まれる陽イオンがリチウムイオンである場合、不活性雰囲気中、高圧下、熱処理を行うことにより、熱処理温度、時間を常圧での処理と比較して、低減できる他、カチオン性有機化合物の分解を抑制できることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は以下のような技術的手段から構成される。
〔1〕 ケイ素と酸素を少なくとも含む四面体結晶構造からなる四面体シートの間にアルミニウム又はアルミニウム及びマグネシウムと酸素を少なくとも含む八面体結晶構造からなる八面体シートを有する層(以下、「基本構造層」という。)が積層した層状構造を持つ変性層状粘土鉱物であって、
前記八面体シートおよび/または前記四面体シートの中にリチウムイオンを含み、前記基本構造層の層間の陽イオンをカチオン性有機化合物由来のカチオンで置換したことを特徴とする層状粘土鉱物複合体。
〔2〕 前記層状粘土鉱物複合体の90℃、100%RH下での24h後の吸水率が8wt%以下であり、且つ有機溶媒に対して膨潤性または分散性を有する前記〔1〕に記載の層状粘土鉱物複合体。
〔3〕 前記層状粘土鉱物複合体が有機溶媒に対して分散性を有する前記〔1〕又は前記〔2〕に記載の層状粘土鉱物複合体。
〔4〕 前記カチオン性の有機化合物が、テトラアルキルアンモニウム、N−アルキルピリジニウム、1,3−ジアルキルイミダゾリウム、およびN、N−ジアルキルピロリジニウムからなる群より選択される少なくとも1種のカチオン性基を有することを特徴とする前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の層状粘土鉱物複合体。
〔5〕 前記カチオン性の有機化合物が、カチオン性高分子有機化合物であることを特徴とする前記〔4〕に記載の層状粘土鉱物複合体。
〔6〕 層間にリチウムイオンを有する層状粘土鉱物の陽イオン交換容量の一部を前記カチオン性有機化合物によりイオン交換した後、不活性雰囲気下、60℃以上300℃以下の温度条件下、0.1MPaより高い圧力条件下にて熱処理することを特徴とする層状粘土鉱物複合体の製造方法。
〔7〕 前記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の層状粘土鉱物複合体を有機溶媒に対して分散させた膜形成組成物。
〔8〕 前記〔7〕に記載の膜形成組成物を基材に塗布することにより形成される膜。
〔9〕 熱、光、電子線、および放射線からなる群より選択される少なくとも1種の手段により架橋された前記〔8〕に記載の膜。
〔10〕 前記〔8〕に記載の膜の表面側に、有機分子、有機無機複合体および無機化合物のいずれか1種以上を形成、積層した膜。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、熱処理による層状粘土鉱物とカチオン性有機化合物との複合体の有機溶媒への分散性を損なわせることを回避することが可能となり、このようにして得られた層状粘土鉱物複合体は高い耐水性と有機溶媒への高い分散性を有するものである。
【0014】
すなわち、本発明は、有機溶媒への高い分散性を保持しつつ、吸湿性が低くなるように変性された層状粘土鉱物を提供するものである。
【0015】
本発明の層状粘土鉱物複合体は、吸湿性が低く、有機溶媒に分散可能であるため、溶液キャストにより、層状粘土鉱物複合体が面内方向に高度に配向した高耐水性の膜を形成できるという効果を奏する。また、該層状粘土鉱物複合体の層間には有機化合物が挿入されているため、各種ポリマーへの分散性に優れる他、各種基材へ密着性の良い膜を形成可能であるという効果を奏する。
【0016】
本発明の膜は、層状粘土鉱物複合体を主体とし、且つ層状粘土鉱物複合体の吸水率が低いために、高湿度下でのガスバリア性はもちろん水蒸気に対するガスバリア性を付与することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の層状粘土鉱物複合体は、ケイ素と酸素を少なくとも含む四面体結晶構造からなる四面体シートの間にアルミニウム又はアルミニウム及びマグネシウムと酸素を少なくとも含む八面体結晶構造からなる八面体シートを有する層(以下、「基本構造層」という。)が積層した基本構造層を持つ層状粘土鉱物複合体であって、前記八面体シートおよび/または前記四面体シートの中にリチウムイオンを含み、前記基本構造層の層間の一部の陽イオンをカチオン性有機化合物由来のカチオンで置換したことを特徴とする層状粘土鉱物複合体である。
【0019】
本発明で用いられる層状粘土鉱物について図を用いて説明すると、層状粘土鉱物は層状構造を持つケイ酸塩鉱物等で、その基本構造層(
図1)は、八面体結晶構造からなる八面体シート1および四面体結晶構造からなる1対の四面体シート2を有する層3のような構成を有する無機化合物であり、八面体結晶構造は、主としてアルミニウムイオンまたはアルミニウムイオンおよびマグネシウムイオンと酸素イオンまたは酸素イオンおよび水酸化物イオンからなるものであり、場合によっては微量の鉄イオンなどを有している。また、四面体結晶構造は、主としてケイ素イオンと酸素イオンからなるものであり、場合によっては微量のアルミニウムイオンなどを有している。
【0020】
上記層状粘土鉱物においては、スメクタイト類が好適に用いられる。ススメクタイトとしては、例えば、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スティーブンサイト、ソーコナイト等が知られている。これらのスメクタイトは、金属元素の一部に低原子価金属元素との同型置換や欠陥があるために八面体シート1および/または四面体シート2が負に帯電している。そのため、これらスメクタイトはこの負電荷を補償し、電気的中性を保つために、基本構造層(層3)と基本構造層(層3)の間、すなわち層間には、リチウムイオン(Li
+)、ナトリウムイオン(Na
+)、カリウムイオン(K
+)、カルシウムイオン(Ca
2+)、マグネシウムイオン(Mg
2+)などの交換可能な金属陽イオンを1種以上有している。また、スメクタイトはこれら金属陽イオンのために、水と水和、膨潤する特性を有する。
【0021】
上記スメクタイトとしては、八面体シート1および/または四面体シート2に存在する金属元素の一部に低原子価金属元素との同型置換や欠陥があるため、層3と層3の間、すなわち基本構造層間に有する金属陽イオンがリチウムイオンである場合、後に説明する処理により、リチウムイオンが八面体シート1の内部および/または四面体シート2の六角形空隙の底へ移動し、安定して存在できる。このようなリチウムイオンの結晶シート内への移動により、負に帯電していた八面体シート1および/または四面体シート2は全体として電気的中性を保ち、水による水和、膨潤を生じない特性を有する。
【0022】
上記スメクタイトにおいて、リチウムイオンが八面体シート1の内部および/または四面体シート2の六角形空隙の底へ移動し、安定化したことは、スメクタイトの吸湿性の低下および層3と層3の間、すなわち基本構造層間に有する金属陽イオンと水との水和の減少を、X線回折測定により確認することにより、明らかにすることができる。
【0023】
以下、本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0024】
好ましい実施形態においては、上記層状粘土鉱物の長径が10nm〜50μmである。
上記層状粘土鉱物の長径は、好ましくは10nm〜50μmであり、より好ましくは10nm〜10μmであり、さらに好ましくは10nm〜1μmである。層状粘土鉱物の長径が10nm未満、または50μmを超える場合には、本発明が想定する技術分野で必要とされる性能(例えば、ガスバリア性能)が得られないおそれがある。
【0025】
好ましい実施形態においては、変性前の上記層状粘土鉱物の陽イオン交換容量が30〜200mmol/100gである。
上記層状粘土鉱物は、リチウムイオン(Li
+)、ナトリウムイオン(Na
+)、カリウムイオン(K
+)、カルシウムイオン(Ca
2+)、マグネシウムイオン(Mg
2+)などの交換可能な金属陽イオンを保持しており、その量は陽イオン交換容量(単位:mmol/100g)と定義されている。この陽イオン交換容量は、好ましくは30〜200mmol/100gであり、より好ましくは60〜170mmol/100gであり、さらに好ましくは80〜120mmol/100gである。層状粘土鉱物の陽イオン交換容量が30mmol/100g未満の場合には、該層状粘土鉱物の水への分散性が乏しく、カチオン性有機化合物による均一な処理ができないおそれがある。また、層状粘土鉱物の陽イオン交換容量が200mmol/100gを超える場合には、本発明が想定する技術分野で必要とされる性能(例えば耐水性)が得られないおそれがある。
【0026】
上記層状粘土鉱物の層間に有する金属イオンは、リチウムイオンに交換されている事が好ましく、イオン交換後の陽イオン交換容量に占めるリチウムイオンの割合は50mol%以上であることが好ましく、70mol%以上であることがより好ましく、さらに好ましくは90mol%以上である。リチウムイオンに交換された層状粘土鉱物、例えばクニミネ工業製のクニピアM等を用いることにより、後述の層状粘土鉱物複合体の製造方法に記載のリチウムイオン交換プロセスを省略することが可能となる。なお、前記リチウムイオンの割合が50mol%を下回る場合、後述する熱処理の効果が十分に生じず、耐水性が得られないおそれがある。
【0027】
好ましい実施形態においては、上記変性層状粘土鉱物の層間に挿入される有機化合物が、テトラアルキルアンモニウム、N−アルキルピリジニウム、1,3−ジアルキルイミダゾリウム、およびN、N−ジアルキルピロリジニウムからなる群より選択される少なくとも1種のカチオン性基を片側末端および/または側鎖に有するカチオン性高分子である。
【0028】
<カチオン性有機化合物>
本発明で用いられるカチオン性有機化合物は、低分子化合物、高分子化合物のいずれでもよいが、層状粘土鉱物複合体により形成される膜の各種基材への密着性、ポリマーへの分散性などの観点からは、高分子化合物であることが好ましい。また、アンモニウム塩やホスホニウム塩、ピリジニウム塩、イミダゾリウム塩からなる群より選択される少なくとも1種のカチオン性基を有している。カチオン性有機化合物は、さらに、ハロアルキル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、イソシアナト基、ビニル基、および、アクリロイル基からなる群より選択される少なくとも1種の反応性基を有していてもよい。
【0029】
カチオン性有機化合物が高分子化合物である場合の分子量は、重量平均分子量として、好ましくは500〜100000であり、より好ましくは1000〜50000であり、さらに好ましくは1000〜30000である。該高分子化合物の重量平均分子量が500未満の場合には、低分子化合物を処理する場合との差異が無く、100000を超える場合には、イオン交換による有機化処理が均質にできないおそれがある。
【0030】
上記カチオン性高分子は、高分子の重合単位として、あるいは高分子主鎖の末端基を利用して導入することができる。上記カチオン性基を高分子の重合単位、または高分子主鎖の末端基を利用して導入する方法としては、任意の適切な方法により行うことができる。高分子の重合単位としてカチオン性基を導入する方法の一例としては、以下の方法が挙げられる。例えば、M.Kamigaito et al.(Chem.Rev.2001,101,3689−3745)に記載されている開始剤や触媒を用いた原子移動ラジカル重合(ATRP)などのリビングラジカル重合により、(i)モノマーを好ましい分子量に達するまで重合し、最後にジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートを反応させる、または(ii)モノマーとジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートの混合物を重合させることにより、高分子末端にアミノ基を導入する。次いで、該アミノ基に、ヨウ化メチル、臭化ベンジルのような有機ハロゲン化合物を反応させて4級化することにより、高分子をカチオン化することができる。または、モノマーを好ましい分子量に達するまで重合し、最後にクロロメチルスチレンを反応させ、高分子末端にクロロメチル基を導入する。次いでクロロメチル基をジメチルアミンなどでアミノ化した後、ヨウ化メチル、臭化ベンジルのような有機ハロゲン化合物を反応させて4級化することにより高分子をカチオン化することができる。
【0031】
末端に反応性基を有する高分子の製造方法は任意の適切な方法を用いることができ、例えば、上記ATRP、連鎖移動剤を用いた連鎖移動重合などの重合反応によって作製することができる。ATRPであれば、M.Kamigaito et al.(Chem.Rev.2001,101,3689−3745)に記載されている反応性基を有する開始剤を用いるか、反応性基を有するアルケンを最後に加えて重合を停止させることにより高分子主鎖末端に反応性基を導入できる。連鎖移動重合であれば、2−メルカプトエタノールのような反応性基を有するメルカプト化合物を連鎖移動剤とし、モノマーをラジカル重合開始剤を用いてラジカル重合することで高分子主鎖末端に反応性基を導入することができる。
【0032】
末端にアミノ基や含窒素複素環基を有する高分子は、上記ATRP、連鎖移動剤を用いた連鎖移動重合などの重合反応によって作製することができる。ATRPであれば、アリルアミン、ビニルピリジンのようなアミノ基や含窒素複素環基を有するアルケンを最後に加えて重合を停止させることにより高分子主鎖末端にアミノ基または含窒素複素環基を導入できる。なお、アミノ基や含窒素複素環基の窒素原子は、2−フルオレニルメチルオキシカルボニル基のような保護基で保護して用いることが好ましい。連鎖移動重合であれば、2−メルカプトエチルアミン、2−メルカプトエチルピリジンのようなアミノ基や含窒素複素環基を有するメルカプト化合物を連鎖移動剤とし、モノマーをラジカル重合開始剤を用いてラジカル重合することで高分子主鎖末端にアミノ基や含窒素複素環基を導入することができる。なお、メルカプトエチルアミンのようなアミノ基は、これを2−フルオレニルメチルオキシカルボニル基のような保護基で保護するか塩酸塩として用いることが好ましい。
【0033】
上記重合反応によって高分子を作製する場合、モノマーとしては、リビングラジカル重合でき、かつ得られたカチオン性高分子の水への溶解度が上記範囲に入るような物質であれば任意の適切なものを用いることができる。例えば、直鎖状または環状または分岐状アルキル(メタ)アクリレート、アリールメタクリレート、グリシジルメタクリレート、イソシアナトエチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート類、スチレン、スチレン誘導体などが挙げられる。これらのモノマーは、単独で用いても、2種以上を組み合わせても良い。さらに、得られたカチオン性高分子の水への溶解度が上記範囲に入る範囲で、アクリル酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの親水性モノマーを共重合してもよい。なお、高分子のモノマー組成は、基材の種類に応じて適宜選択することができる。
【0034】
カチオン化する高分子がポリエステルやポリカーボネートの場合、末端の水酸基またはカルボキシル基を利用して高分子をカチオン化してもよい。また、水酸基やカルボキシル基で末端変性されている各種高分子も同様にカチオン化することができる。
【0035】
好ましい実施形態においては、下記式で示される変性前の層状粘土鉱物の陽イオン交換容量に占めるカチオン性有機化合物由来のカチオンの割合(Polymer/CEC)が20〜90%である。
【0036】
【数1】
本発明における層状粘土鉱物複合体は、層状粘土鉱物とカチオン性有機化合物の複合体であり、変性前の層状粘土鉱物の陽イオン交換容量に占めるカチオン性有機化合物由来のカチオンの割合が、好ましくは20〜90%であり、より好ましくは30〜80%である。変性前の層状粘土鉱物の陽イオン交換容量に占めるカチオン性有機化合物由来のカチオンの割合が20%未満であると、該層状粘土鉱物複合体の有機溶媒に対する分散性が低下するおそれがある。また、90%を超えると、カチオン性有機化合物同士の疎水性相互作用等による吸着が生じることにより、層間のイオン性化合物量が増大するため、本発明が想定する技術分野で必要とされる性能(例えば、耐水性)が得られないおそれがある。なお、層状粘土鉱物の層間へイオン交換されたカチオン性有機化合物の量は、イオン交換処理前後の熱重量測定により測定可能である。具体的には、室温から150℃までの熱重量減少を吸着水に由来する重量減少とし、150℃から1000℃までの熱重量減少を層間に挿入されたカチオン性有機化合物および層状粘土鉱物自体の重量減少とすることで、層間に実際に挿入されたカチオン性有機化合物の重量が算出可能となる。また、本重量と層間に実際に挿入されたカチオン性有機化合物の分子量およびカチオン性有機化合物一分子中のカチオン性基の数から、該カチオン性有機化合物のカチオン量[mmol/100g]が算出できるため、前記変性前の層状粘土鉱物の陽イオン交換容量に占めるカチオン性有機化合物由来のカチオンの割合が算出可能である。
【0037】
上記層状粘土鉱物複合体は、前記カチオン性有機化合物を層間に有することにより、有機溶媒に高い分散性を有する。前記分散性は、層状粘土鉱物複合体を1%の濃度で分散させた後、24h静置した際の沈降高さ比(%)[(沈降高さ)/(分散液の高さ)×100]を測定することにより、定量化することが可能であり、本沈降高さ比が高ければ高いほど分散性が良いと言える。具体的には、10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上である。尚、分散性を判断する上での沈降高さ比は、層状粘土鉱物複合体のベース材料である層状粘土鉱物の種類、サイズ等によって変わるため、場合によっては、沈降高さ比が70%以上のものもある。
【0038】
上記層状粘土鉱物複合体は、該層状粘土鉱物複合体中に含まれる一部またはすべてのリチウムイオンが該層状粘土鉱物の八面体シート1および/または四面体シート2の六角形空隙の底に移動することにより、吸湿性が低減された層状粘土鉱物複合体である。また、該層状粘土鉱物複合体の層間には、カチオン性有機化合物が存在するため、各種有機溶媒へ高い分散性を有する。なお、リチウムイオンが上記のように層状粘土鉱物の八面体シート1および/または四面体シート2の六角形空隙の底に移動していることは、該層状粘土鉱物複合体の吸湿試験やX線回折測定を行うことにより、確認可能である。つまり、一定温度、湿度下にて静置された後、X線回折測定により算出される層状粘土鉱物の層間距離は、層間に残存した金属陽イオンおよび該金属陽イオンに水和した水により増大するため、リチウムイオンが上記のように移動することにより、本測定により算出される層間距離は短くなる。また、一定温度、湿度下に静置した際の吸湿量が減少することも一般的に知られていることから、リチウムイオンが上記のように移動している確証として利用することができる。
【0039】
上記層状粘土鉱物複合体の、X線回折測定結果より算出される層間距離は、好ましくは11Å以下であり、より好ましくは10.5Å以下である。上記層間距離が11Åより大きいと、層間のリチウムイオンが十分に層状粘土鉱物の八面体シート1および/または四面体シート2の六角形空隙の底に移動しておらず、耐水性が得られないおそれがある。
【0040】
続いて、層状粘土鉱物複合体の製造方法について説明する。
本発明の層状粘土鉱物複合体の製造方法は、層間にリチウムイオンを有する層状粘土鉱物の陽イオン交換容量の一部を前記カチオン性有機化合物によりイオン交換した後、不活性雰囲気下、60℃以上300℃以下の温度条件下、0.1MPaより高い圧力条件下にて熱処理することを特徴とする。
【0041】
本発明の層状粘土鉱物複合体の製造方法の詳細は以下の通りである。
層状粘土鉱物の水分散液にリチウム化合物を加えることで、層間に元来有するNa
+やK
+などの陽イオンとリチウムイオンとがイオン交換する。この際、イオン交換後の陽イオン交換容量に占めるリチウムイオンの割合が50mol%以上になるように処理することが好ましく、より好ましくは70mol%以上、さらに好ましくは90mol%以上になるように処理することが好ましい。また、層間にリチウムイオンを有する層状粘土鉱物として、クニピアM(クニミネ工業製)のように、あらかじめ層間のイオンがリチウムイオンに交換されている製品を利用することができる。
【0042】
このように調製された層間にリチウムイオンを有する層状粘土鉱物を水に分散させた後、該層状粘土鉱物の分散液をホモジナイザー等で激しく撹拌しながらカチオン性有機化合物の親水性有機溶媒溶液をゆっくりと添加する。添加終了後、遠心分離機を用いてカチオン性有機化合物が層間に挿入された層状粘土鉱物複合体の中間体(
図2に示す基本構造層が積層したもの)を遠心沈降させ、沈殿物を親水性有機溶媒に再度分散させる。この操作を数度繰り返すことにより、層間にイオン交換されなかったカチオン性有機化合物は取り除かれる。層状粘土鉱物複合体の中間体を作製するにあたって用いる親水性有機溶剤としては、水に可溶でありかつカチオン性有機化合物を溶解できる溶剤であれば任意の適切なものを用いることができる。例えば、イソプロピルアルコールなどのアルコール、テトラヒドロフランのような環状エーテル、エトキシエタノールのようなグリコール誘導体、ジメチルアセトアミド、N−メチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどが挙げられる。
【0043】
得られた層状粘土鉱物複合体の中間体は、トルエン、酢酸エチルのような疎水性有機溶剤に分散後、有機層を水洗してもよい。これにより、イオン交換後、層状粘土鉱物の層間に存在する余剰の金属カチオンや、元来カチオン性有機化合物の対イオンの残存物である塩素イオン、ヨウ素イオン等のハロゲンイオンを除去できるため、得られる層状粘土鉱物複合体の耐水性を向上させることができる。
【0044】
上記層状粘土鉱物複合体の中間体に対し、次いで、不活性雰囲気中、オートクレーブ等の密閉容器中、高圧下、熱処理を行う。なお、熱処理の温度は60〜300℃が好ましく、より好ましくは100〜270℃、さらに好ましくは150〜250℃である。熱処理温度が100℃より低い場合、リチウムイオンの八面体シート内への移動が生じにくい他、300℃より高い場合、上記カチオン性有機化合物が熱分解することにより、処理後に有機溶媒へ分散しないおそれがある。また、処理圧力は0.1MPaより高い圧力であることが好ましく、より好ましくは0.5MPa以上であることが好ましく、さらに好ましくは1MPa以上である。0.1MPaより高い圧力で処理することにより、常圧で処理する場合と比較して、熱処理温度の低減および時間の短縮が可能となる。また、処理圧力は100MPa以下であることが好ましく、より好ましくは20MPa以下である。これは、100MPa以上のような非常に高圧の処理は、設備の大型化が難しく、生産性が低いといった理由による。また、本処理においては、カチオン性有機化合物が分解しにくいような不活性雰囲気中であれば任意の適切な雰囲気とすることができる。例えば、アルゴン、窒素などの不活性ガスにより処理する系を置換、加圧し、処理することが出来るほか、トルエンなどの芳香族炭化水素、テトラヒドロフランのような環状エーテル等の有機溶媒へ分散せしめ、オートクレーブ等の密閉容器中にて加圧、処理することが出来る。後者の場合、熱処理時の溶媒の蒸気圧で圧力をかけることが可能なため、予め加圧はしてもしなくてもよい。
【0045】
上記処理により得られた処理物を、有機溶媒へ分散、遠心分離といった洗浄プロセスを数回繰り返した後、沈殿物を取り出して乾燥させることによって層状粘土鉱物複合体(
図3に示す基本構造層が積層したもの)が得られる。本洗浄プロセスで用いられる有機溶媒としては、層状粘土鉱物複合体を分散可能な溶媒であれば任意の適切なものを用いることができる。例えば、イソプロピルアルコールなどのアルコール、テトラヒドロフランのような環状エーテル、トルエンのような芳香族炭化水素、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどが挙げられる。
【0046】
<膜形成組成物>
本発明の膜形成組成物は、有機媒体中へ層状粘土鉱物複合体を分散させることにより得られる。膜形成組成物中の層状粘土鉱物複合体の濃度は、好ましくは0.1〜30重量%であり、より好ましくは0.5〜20重量%であり、さらに好ましくは1〜10重量%である。層状粘土鉱物複合体の濃度が0.1重量パー千tの未満の場合、膜形成機能を十分に発揮できないおそれがある。層状粘土鉱物複合体の濃度が30重量%を超える場合には、膜形成組成物の粘土が高くなりすぎて不都合が生じるおそれがある。
【0047】
本発明で用いる有機媒体は、層状粘土鉱物複合体を分散可能なものであれば、任意の適切なものを用いることができる。好ましくは、上記有機溶媒は、親水性溶媒及び疎水性溶媒からなる群より選択される少なくとも1種である。親水性有機溶媒としては、例えば、イソプロピルアルコールなどのアルコール、テトラヒドロフランのような環状エーテル、エトキシエタノールのようなグリコール誘導体、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどが挙げられる。疎水性有機溶媒としては、例えば、トルエンなどの芳香族炭化水素、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素などが挙げられる。
【0048】
本発明の膜形成組成物は、さらに添加剤として重合性モノマーおよび/または他の高分子を含んでいてもよい。重合性モノマーおよび/または他の高分子を配合することにより、膜形成組成物から形成される膜の物性を改善することができる。重合性モノマーとしては、例えば、直鎖状または環状または分岐状アルキル(メタ)アクリレート、アリールメタクリレート、グリジシルメタクリレート、イソシアナトエチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート類、スチレン、スチレン誘導体などのラジカル重合性化合物、および、イソシアネート基、カルボン酸基、エポキシ基、ホルミル基、ヒドロキシル基、オキサゾリン環、メルカプト基などの反応性基を少なくとも1種有する化合物、イミダゾール化合物などが挙げられる。これらの重合性モノマーは、単独で用いても、2種以上を組み合わせてもよい。他の高分子としては、例えば、ポリカーボネート、ポリエステル樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスチレン、シクロオレフィンポリマー、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリオレフィン樹脂などが挙げられる。これらの高分子は、任意の化合物により変性されていてもよい。
【0049】
上記添加剤の含有量は、好ましくは上記層状粘土鉱物複合体の含有量の0.1〜300重量%であり、より好ましくは0.5〜200重量%であり、さらに好ましくは1〜100重量%である。添加剤の含有量が上記層状粘土鉱物複合体の0.1重量%未満の場合には、膜の物性改善効果が十分に得られないおそれがある。添加剤の含有量が上記変性層状粘土鉱物の300重量%を超えると、膜形成組成物中の層状粘土鉱物の割合が相対的に少なくなり、層状粘土鉱物を配合することによる効果(例えばガスバリア性)が十分に得られないおそれがある。添加剤が重合性モノマーの場合、該重合性モノマーがカチオン性有機化合物を溶解可能であれば、有機媒体としても利用することができる。添加剤が重合性モノマーおよび他の高分子の両方からなる場合、両者の比率は、本発明が想定する技術分野で必要とされる性能を考慮して決めることができる。なお、膜形成組成物は、重合性モノマーを重合するための開始剤または硬化剤を適宜配合しても良い。開始剤および硬化剤としては、任意の適切なものを用いることができる。
【0050】
膜形成組成物により形成される膜の物性を改善または機能化する目的で、膜形成組成物に、さらに微粒子および/または有機分子を添加することができる。微粒子を用いる場合には、微粒子の大きさは、好ましくは1nm〜10μm、より好ましくは2nm〜1μm、さらに好ましくは2nm〜500nmである。微粒子の大きさが1nm未満、または10μmを超える場合には、微粒子を添加する効果が十分に得られないおそれがある。
【0051】
微粒子および/または有機分子の含有量は、好ましくは層状粘土鉱物複合体の0.1〜300重量%であり、より好ましくは0.5〜200重量%であり、さらに好ましくは1〜100重量%である。微粒子および/または有機分子の含有量が、上記変性層状粘土鉱物の0.1重量%未満の場合には、膜の物性改善または機能化が十分に得られないおそれがある。微粒子および/または有機分子の含有量が、層状粘土鉱物複合体の300重量%を超えると、膜形成組成物中の層状粘土鉱物の割合が相対的に少なくなり、層状粘土鉱物を配合することによる効果が十分に得られないおそれがある。
【0052】
微粒子は、任意の適切なものを用いることができ、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物;酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化イットリウム、酸化亜鉛、酸化銀などの金属酸化物;金、銀、銅などの金属;グラファイト、カーボンナノチューブなどの炭素材;ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリアミドなどのポリマー;などが挙げられる。これらは単独または2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0053】
上記微粒子の形状は、特に限定されないが、例えば、球状、楕円形状、扁平状、ロッド状、平板状、無定形状、または中空状などが挙げられる。
【0054】
有機分子としては、色素、酸化防止剤、紫外線吸収剤、薬理活性物質などが挙げられる。
【0055】
<膜の形成方法>
本発明の膜は、本発明の膜形成用組成物を基材に塗布し、乾燥させることにより、形成することができる。
【0056】
他の好ましい実施形態においては、重合性モノマーおよび/または他の高分子を配合した本発明の膜形成用組成物を基材に塗布し、乾燥させることにより、上記膜を上記層状粘土鉱物複合体と熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等の有機化合物との複合体とすることができる。
【0057】
膜形成用組成物の塗布方法としては、任意の適切な方法を用いることができ、例えば、バーコーター法、ドクターブレード法、スプレー法、キャスティング法等が挙げられる。乾燥方法としては、特に制限はなく、自然乾燥であっても、強制乾燥であってもよい。強制乾燥する際の、加熱温度および加熱時間は、基材等に応じて、適宜設定することができる。
【0058】
本発明の膜形成用組成物を塗布する基材としては、本発明の膜を用いる用途に応じて、任意の適切なものを用いることができ、例えば、各種プラスチック、ゴム、金属、セラミックなどが挙げられる。
【0059】
本発明の膜は、好ましくは膜形成組成物の塗布後または塗布、乾燥後に、さらに、熱、光、電子線、および放射線からなる群より選択される少なくとも1種の方法により架橋処理が施されていてもよい。架橋処理をすることにより、膜形成組成物にさらに含まれる重合性モノマーを重合することができ、より強度に優れた膜を得ることができる。上記の架橋処理方法としては、任意の適切な方法を用いることができる。
【0060】
本発明の膜は、好ましくは膜形成組成物の塗布、乾燥後に、さらに、膜組成物を積層されていてもよい。膜組成物をさらに積層することにより、表面反射、散乱等の抑制、表面硬度向上等の機能を付与または向上させることができる。上記の膜組成物としては、有機分子および/または有機無機複合体および/または無機化合物等が挙げられる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0062】
(原子移動ラジカル重合を用いたカチオン性高分子1の作製)
三方コック付のシュレンクチューブに、塩化第一銅0.6g(6mmol)とメチルメタクリレート4.8g(48mmol)とを入れ、脱気、窒素置換し、溶液(1−1液)を得た。他の容器において、ビピリジン2.8g(18mmol)、およびα、α’―ジクロロトルエン0.96g(6mmol)を酢酸ブチル10mlに溶解し、脱気、窒素置換し、溶液(1−2液)を得た。次いで、得られた1−2液を1−1液にシリンジで加え、撹拌しながら、110℃で重合を行った。重合開始90分後、脱気、窒素置換したジメチルアミノエチルメタクリレート1.2g(8mmol)を加え、さらに1時間加熱撹拌した。室温に冷却した後、重合液を酢酸エチルで希釈し、ろ過した後、ヘキサンに投入して重合体を回収した(収量3.7g)。
得られた重合体は、GPC測定で数平均分子量(Mn)が1825、重量平均分子量(Mw)が2198であった。得られた重合体をテトラヒドロフラン5mlに溶解し、これにヨウ化メチル1mlを加え、室温で3時間撹拌した。次いで、反応溶液を乾固してカチオン性高分子1を得た。このプロトンNMRを測定すると、メチルメタクリレート重合単位と4級化ジメチルアミノエチルメタクリレート重合単位の比が20:1.6であった。
【0063】
α―クロロトルエン残基を片末端に、そしてジメチルアミノエチルメタクリレート重合単位を2個片末端に有し、その間にメチルメタクリレート重合単位が20個連続したモデル重合体の分子量を計算すると2135であり、メチルメタクリレート重合単位とジメチルアミノエチルメタクリレート重合単位の比は20:2となる。これより、得られたカチオン性高分子は一つの高分子鎖中に平均1.6個のカチオン性基を有しているものと考えられる。
【0064】
(原子移動ラジカル重合を用いたカチオン性高分子2の作製)
三方コック付のシュレンクチューブに、塩化第一銅0.6g(6mmol)とn−ブチルメタクリレート6.1g(48mmol)とを入れ、脱気、窒素置換し、溶液(2−1液)を得た。他の容器において、ビピリジン2.8g(18mmol)、およびα、α’―ジクロロトルエン0.96g(6mmol)を酢酸ブチル10mlに溶解し、脱気、窒素置換し、溶液(2−2液)を得た。次いで、得られた2−2液を2−1液にシリンジで加え、撹拌しながら、110℃で重合を行った。重合開始10分後、脱気、窒素置換したジメチルアミノエチルメタクリレート1.4g(9mmol)を加え、さらに1時間加熱撹拌した。室温に冷却した後、重合液を酢酸エチルで希釈し、ろ過した後、ヘキサンに投入して重合体を回収した(収量4.2g)。
得られた重合体は、GPC測定で数平均分子量(Mn)が2253、重量平均分子量(Mw)が2951であった。得られた重合体をテトラヒドロフラン5mlに溶解し、これにヨウ化メチル1mlを加え、室温で3時間撹拌した。次いで、反応溶液を乾固してカチオン性高分子2を得た。このプロトンNMRを測定すると、ブチルメタクリレート重合単位と4級化ジメチルアミノエチルメタクリレート重合単位の比が17:1.2であった。
【0065】
α―クロロトルエン残基を片末端に、そしてジメチルアミノエチルメタクリレート重合単位を1個片末端に有し、その間にメチルメタクリレート重合単位が17個連続したモデル重合体の分子量を計算すると2631であり、ブチルメタクリレート重合単位とジメチルアミノエチルメタクリレート重合単位の比は17:1となる。これより、得られたカチオン性高分子は一つの高分子鎖中に平均1.2個のカチオン性基を有しているものと考えられる。
【0066】
(カチオン性高分子挿入の分散液1−1、1−2の作製)
層状粘土鉱物(クニピアM、陽イオン交換容量:106.3mmol/100g、長径:350〜500nm、リチウムイオン交換率:90%以上)3gを水300mlに分散した分散液へ、ホモジナイザーで強撹拌下、N−メチルホルムアミド50mlにカチオン性高分子1を4g溶解した溶液を滴下した。滴下後、得られたスラリー状の液から遠心分離によりカチオン性高分子挿入層状粘土鉱物を沈降させた。沈降物をアセトンに分散後、再度遠心沈降させた。この操作をもう一度行って沈降物を回収したものの一部を、アセトンに固形分1wt%となるように分散させた(分散液1−1)。また、上記沈殿、回収物の一部をトルエンに分散後、再度遠心沈降させた。この操作をもう一度行って、沈殿物中のアセトンを完全にトルエンに置換した。また、本沈殿物をトルエンに固形分1wt%となるように分散させた(分散液1−2)。
【0067】
(カチオン性高分子挿入層状粘土鉱物2の分散液2の作製)
カチオン性高分子としてカチオン性高分子2を用いた以外は、分散液1−2の調製方法と同様の方法にて固形分1wt%の分散液2を得た。
【0068】
(層状粘土鉱物複合体1の作製)
上記分散液1−1、70gをオートクレーブに入れ、オートクレーブ内をアルゴンに完全に置換した。その後、昇温速度2℃/minで220℃まで昇温し、220℃で3時間熱処理を行った。熱処理時の圧力は5.3MPaであった。熱処理後、オートクレーブから処理物のアセトン分散液を回収し、遠心分離により層状粘土鉱物複合体1を沈降させた。沈降物をアセトンに分散後、再度遠心沈降させた。この操作をもう一度行って沈降物を回収し、乾燥させ、層状粘土鉱物複合体1を得た。尚、本層状粘土鉱物複合体1は、トルエン、アセトン、メチルエチルケトン、プロピレングリコールモノエチルエーテルに熱処理前の分散液と同様に高い分散性を有することが確認された。
【0069】
(層状粘土鉱物複合体2の作製)
上記分散液1−2、70gをオートクレーブに入れ、オートクレーブ内をアルゴンに完全に置換した。その後、昇温速度2℃/minで240℃まで昇温し、240℃、2.0MPaで3時間熱処理を行った以外は、層状粘土鉱物複合体1と同様の手法にて層状粘土鉱物複合体2を得た。尚、本層状粘土鉱物複合体2はトルエン、アセトン、メチルエチルケトン、プロピルエーテルモノエチルエーテルに熱処理前の分散液と同様に高い分散性を有することが確認された。
【0070】
(層状粘土鉱物複合体3の作製)
上記分散液2、70gをオートクレーブに入れ、オートクレーブ内をアルゴンに完全に置換した。その後、アルゴンガスによりオートクレーブ内圧を11MPaまで昇圧した後、昇温速度2℃/minで180℃まで昇温し、180℃、14.7MPaで3時間熱処理を行った以外は、層状粘土鉱物複合体1と同様の手法にて層状粘土鉱物複合体3を得た。尚、本層状粘土鉱物複合体3はトルエン、アセトン、メチルエチルケトン、プロピルエーテルモノエチルエーテルに熱処理前の分散液と同様に高い分散性を有することが確認された。
【0071】
(層状粘土鉱物複合体4の作製)
上記分散液2、70gをオートクレーブに入れ、オートクレーブ内をアルゴンに完全に置換した。その後、アルゴンガスによりオートクレーブ内圧を11MPaまで昇圧した後、昇温速度2℃/minで80℃まで昇温し、80℃、12.7MPaで3時間熱処理を行った以外は、層状粘土鉱物複合体1と同様の手法にて層状粘土鉱物複合体4を得た。尚、本層状粘土鉱物複合体4はトルエン、アセトン、メチルエチルケトン、プロピルエーテルモノエチルエーテルに熱処理前の分散液と同様に高い分散性を有することが確認された。
【0072】
(層状粘土鉱物複合体5の作製)
上記分散液2、70gを乾固後、固形分0.7gを10mlのナスフラスコへ入れ、ナスフラスコ内をアルゴンにより窒素置換を行った。その後、180℃にて3時間常圧で熱処理を行い、層状粘土鉱物複合体5を得た。尚、本層状粘土鉱物複合体5はトルエン、アセトン、メチルエチルケトン、プロピレングリコールモノエチルエーテルに分散することが確認されたが、熱処理前と比較すると分散性が大きく低下していた。
【0073】
(層状粘土鉱物複合体6の作製)
上記分散液2、70gを乾固後、固形物0.7gを10mlのナスフラスコへ入れ、空気中、250℃にて3時間常圧で熱処理を行った。得られた本層状粘土鉱物6は、トルエン、アセトン、メチルエチルケトン、プロピレングリコールモノエチルエーテルに溶媒に分散することが確認されたが、熱処理前と比較すると分散性が大きく低下していた。
【0074】
(カチオン性高分子挿入層状粘土鉱物および層状粘土鉱物複合体中のカチオン性有機化合物の含有量の分析)
カチオン性高分子挿入層状粘土鉱物1〜2および層状粘土鉱物複合体1〜6中のカチオン性有機化合物の含有量は、TG−DTA測定((株)リガク製、thermoplus800)により分析した。熱分析の測定は、室温〜1000℃まで10℃/minの昇温速度により実施した。カチオン性高分子挿入層状粘土鉱物および層状粘土鉱物複合体中のカチオン性有機化合物の含有量については、このとき得られる室温〜150℃までの重量減少量Aを吸着水によるものとし、また150℃〜1000℃までの重量減少量Bをカチオン性有機化合物によるものとすることで、下記式により算出した。尚、下記式中のSは試験に供したサンプル重量、AcはクニピアMの室温〜150℃までの重量減少量、Bcは150〜1000℃までの重量減少量のことである。
【0075】
【数2】
また、変性前の層状粘土鉱物の陽イオン交換容量に占めるカチオン性有機化合物由来のカチオンの割合(Polymer/CEC)についても、下記式により算出できる。
【0076】
【数1】
【0077】
(吸湿性および有機分量)
カチオン性高分子挿入層状粘土鉱物1〜2と層状粘土鉱物複合体1〜6の90℃、100%RHの条件下での、24h静置した際の、吸湿量[wt%]を測定した。
【0078】
(X線回折測定)
25℃、65%RHにて24時間保持したクニピアMおよびカチオン性高分子挿入および層状粘土鉱物複合体3,4について、粉末X線回折装置(リガク製、Ultima IV)により2θ=5°〜10°の広角X線回折測定を行い、層間距離を算出した。
【0079】
得られた結果を表1、表2にまとめた。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
表1に示すように不活性雰囲気下、高圧条件において、熱処理を行うことにより、明らかに層状粘土鉱物の吸湿量が低下していることが分かる。また、表2から、カチオン性有機化合物を含まない層状粘土鉱物の層間距離が、上記処理により明らかに小さくなっている他、吸湿量も低減していることから、カチオン性高分子挿入層状粘土鉱物中のリチウムイオンの一部または全部が、上記処理の過程で、層状粘土鉱物の結晶シート内へと移動していると言える。
【0083】
(膜形成組成物1の作製)
上記の層状粘土鉱物複合体1を、濃度が1wt%となるようにアセトンに分散し、膜形成組成物を得た。
【0084】
(膜形成組成物2の作製)
上記のカチオン性高分子挿入層状粘土鉱物を、濃度が1wt%となるようにアセトンに分散し、膜形成組成物を得た。
【0085】
(膜1の作製)
膜形成組成物1を、PMMA基板上へ、バーコーター(コート厚み:100μm)にて均一に塗布した後、乾燥させ、膜厚2μmの均一で透明な膜1を得た。
【0086】
(膜2の作製)
膜形成組成物2を、PMMA基板上へ、バーコーター(コート厚み:100μm)にて均一に塗布した後、乾燥させ、膜厚2μmの均一で透明な膜2を得た。
【0087】
(膜の密着性評価)
得られた膜1および膜2の密着性を碁盤目試験(JIS K 5400)にて評価を行ったところ、100/100といずれも良好な密着性を示した。また、これらの膜の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、層状化合物が基板面に対して平行に積層している様子を観察できた(
図4)。これらより、熱処理等の変性処理による密着性低下が少ない他、膜形成時に層状粘土鉱物が基材に並行に配列することが分かる。
【0088】
(膜3の作製)
10gの膜形成組成物1中に、マクシーブ(三菱瓦斯化学製、二液硬化型エポキシ)の主剤であるM−100および硬化剤であるC−93のメタノール/酢酸エチル(90/10:Vol/Vol)の混合溶液(3−1液、濃度5wt%)を40g添加、撹拌し、ペースト状の分散液(3−2液)とした。その後、3−2液を12μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(ユニチカ製エンブレットPET)のコロナ処理面側にバーコーターにて塗布、乾燥し、1μmの透明なコーティング層を設けた。次いで120℃で30分の熱処理を行った後、3−1液をバーコーターにて塗布、乾燥し、20μmの透明なコーティング層を設け、120℃で30分の熱処理を行い、膜3を得た。
【0089】
(膜4の作製)
膜形成組成物2を用いた以外は、膜3と同様の手法により、膜4を得た。
【0090】
(膜5の作製)
3−1液を12μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(ユニチカ製エンブレットPET)のコロナ処理面側にバーコーターにて塗布、乾燥し、19μmのコーティング層を設け、120℃で30分の熱処理を行い、膜5を得た。
【0091】
(酸素および水蒸気透過度の測定)
上記膜3〜5およびエンブレットPETについて、ガス透過率測定装置(GTRテック(株)製)を用いて酸素および水蒸気の透過度測定行った。測定は、酸素、水蒸気のいずれも40℃、90%RHの条件下で行った。
【0092】
結果を表3にまとめる。
【0093】
【表3】
【0094】
表3に示すように、基材やエポキシ樹脂のみをコーティングした膜5と比較して、層状粘土鉱物を含むコーティング層を設けた膜3および膜4のガスバリア性が向上していることが分かる。また、特に吸湿性を抑えた層状粘土鉱物複合体3を利用したコーティング層を設けた膜3は、変性処理を行っていないカチオン性高分子挿入層状粘土鉱物を利用したコーティング層を設けた膜4と比較して、高湿度下でのガスバリア性および水蒸気バリア性が向上していることが明らかとなった。