特許第6085488号(P6085488)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6085488
(24)【登録日】2017年2月3日
(45)【発行日】2017年2月22日
(54)【発明の名称】電動工具
(51)【国際特許分類】
   B25F 5/00 20060101AFI20170213BHJP
【FI】
   B25F5/00 C
   B25F5/00 H
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-13427(P2013-13427)
(22)【出願日】2013年1月28日
(65)【公開番号】特開2014-144496(P2014-144496A)
(43)【公開日】2014年8月14日
【審査請求日】2015年7月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000137292
【氏名又は名称】株式会社マキタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 慈
(72)【発明者】
【氏名】大村 翔洋
【審査官】 小川 真
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−016210(JP,A)
【文献】 特開2003−200363(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/108415(WO,A1)
【文献】 特開2011−201006(JP,A)
【文献】 特開2011−230272(JP,A)
【文献】 特開2010−012547(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25F 5/00− 5/02
B23B 45/00−45/16
B24B 23/00−23/08
H02P 6/00− 6/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラシレスモータと、
前記ブラシレスモータの駆動に用いるバッテリの電圧を検出するバッテリ電圧検出部と、
前記ブラシレスモータの回転位置を検出する回転位置検出部と、
前記回転位置検出部からの信号により、前記ブラシレスモータへの駆動出力を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記ブラシレスモータへの駆動出力制御時に、前記ブラシレスモータの回転数若しくは通電電流が前記バッテリ電圧検出部にて検出されたバッテリ電圧に対応した目標値になるよう、前記ブラシレスモータへの通電角若しくは進角を、設定値を基準に増減させることで調整する、ことを特徴とする電動工具。
【請求項2】
前記制御部は、
前記ブラシレスモータの回転数が、前記バッテリ電圧に対応した目標回転数よりも低い場合は、前記通電角を広げるか、前記進角を進めることにより、前記ブラシレスモータの回転を上昇させ、
前記ブラシレスモータの回転数が、前記バッテリ電圧に対応した目標回転数よりも高い場合は、前記通電角を狭くするか、或いは、前記進角を遅らせることにより、前記ブラシレスモータの回転を低下させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の電動工具。
【請求項3】
前記制御部は、
前記ブラシレスモータの通電電流が、前記バッテリ電圧に対応した目標電流よりも低い場合には、前記通電角を広げるか、或いは、前記進角を進めることにより、前記ブラシレスモータの通電電流を増加させ、
前記ブラシレスモータの通電電流が、前記バッテリ電圧に対応した目標電流よりも高い場合には、前記通電角を狭くするか、或いは、前記進角を遅らせることにより、前記ブラシレスモータの通電電流を低下させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の電動工具。
【請求項4】
前記制御部は、前記ブラシレスモータの回転数若しくは通電電流が、前記目標値に対応した許容範囲内に収束すると、前記通電角若しくは前記進角を固定することで、前記通電角若しくは前記進角の調整を終了することを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の電動工具。
【請求項5】
前記制御部は、前記ブラシレスモータの回転数若しくは通電電流が前記許容範囲内にある状態が所定時間以上継続すると、前記通電角若しくは前記進角を固定することで、前記通電角若しくは前記進角の調整を終了することを特徴とする請求項4に記載の電動工具。
【請求項6】
前記制御部は、前記ブラシレスモータの駆動を開始する前に、前記バッテリ電圧検出部を介して前記バッテリ電圧を検出し、該検出したバッテリ電圧に基づき、前記目標値を設定することを特徴とする請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の電動工具。
【請求項7】
ブラシレスモータと、
前記ブラシレスモータの駆動に用いるバッテリの電圧を検出するバッテリ電圧検出部と、
前記ブラシレスモータの回転位置を検出する回転位置検出部と、
前記回転位置検出部からの信号により、前記ブラシレスモータへの駆動出力を制御する制御部と、
使用者が操作するための操作部と、
を備え、
前記制御部は、前記操作部が操作されると、所定の進角で前記ブラシレスモータへの通電を開始し、その後、前記ブラシレスモータの回転数若しくは通電電流が、前記バッテリ電圧検出部にて検出されたバッテリ電圧に対応した目標値になるよう、前記ブラシレスモータへの進角を、前記所定の進角を基準に増減させることで調整する、ことを特徴とする電動工具。
【請求項8】
ブラシレスモータと、
前記ブラシレスモータの駆動に用いるバッテリの電圧を検出するバッテリ電圧検出部と、
前記ブラシレスモータの回転位置を検出する回転位置検出部と、
前記回転位置検出部からの信号により、前記ブラシレスモータへの駆動出力を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記ブラシレスモータが回転しているときに、前記ブラシレスモータの回転数若しくは通電電流が、前記バッテリ電圧検出部にて検出されたバッテリ電圧に対応した目標値になるよう、前記ブラシレスモータへの進角を、設定値を基準に増減させることで調整する、ことを特徴とする電動工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシレスモータを動力源とする電動工具に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の電動工具においては、最適な駆動特性が得られるように、ブラシレスモータ駆動時の通電角及び進角を設定し、その設定した通電角及び進角値にてブラシレスモータへの通電を制御するようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−276042号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のようにブラシレスモータ駆動時の通電角や進角値を固定すると、ブラシレスモータの回転位置を検出するセンサによる位置検出誤差、電動工具の製造時に生じる製品誤差等によって、所望の駆動特性が得られないことがある。
【0005】
このため、例えば、ブラシレスモータを駆動したときの回転数や消費電流が、製品毎にばらつき、使用者に違和感を与えてしまうという問題があった。
本発明は、こうした問題に鑑みなされたものであり、ブラシレスモータを動力源とする電動工具において、通電角若しくは進角を制御することで、製品毎に生じる誤差によって電動工具の駆動特性がばらつくのを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するためになされた本発明の電動工具には、動力源であるブラシレスモータと、ブラシレスモータの回転位置を検出する回転位置検出部と、回転位置検出部からの信号によりブラシレスモータへの駆動出力を制御する制御部とが備えられている。
【0007】
そして、制御部は、ブラシレスモータへの駆動出力制御時に、ブラシレスモータの回転数若しくは通電電流が、バッテリ電圧検出部にて検出されたバッテリ電圧に対応した目標値になるよう、ブラシレスモータへの通電角若しくは進角を制御する。
【0008】
従って、本発明の電動工具によれば、ブラシレスモータへの回転位置検出部の組み付け誤差等、製品の個体差によって、電動工具の駆動特性がばらつくのを防止し、同じ性能を有する電動工具を提供できる。
【0009】
また特に、本発明では、ブラシレスモータの駆動時に流れる電流を制限するために、通電角や進角を制限するのではなく、ブラシレスモータの回転数や通電電流が目標値になるよう通電角若しくは進角を制御する。
【0010】
このため、例えば、回転数が目標値よりも高いときに、通電角や進角を制限することもできるし、回転数が目標値よりも低いときに通電角を広げたり、進角を進めることで、ブラシレスモータにより大きなトルクを発生させることもできる。つまり、本発明によれば、電動工具の駆動特性をより最適に制御することができる。
【0011】
また、通電角若しくは進角を制御する際の目標値として、バッテリ電圧に対応した値を利用するので、例えば、バッテリ電圧が低いときに目標値を高く設定しすぎて、過進角となり、ブラシレスモータの駆動効率が低下する、といったことを防止できる。つまり、本発明の電動工具によれば、動力源であるブラシレスモータを効率よく駆動し、無駄なエネルギ消費(換言すれば電力消費)を抑えることができる。
【0012】
ここで、制御部に対し、ブラシレスモータの回転数が目標値(つまり目標回転数)になるよう通電角若しくは進角を制御させる場合、制御部は、次のように構成すればよい。
【0013】
つまり、この場合、制御部は、ブラシレスモータの回転数が目標回転数よりも低い場合は、通電角を広げるか、進角を進めることにより、回転数を上昇させ、回転数が目標回転数よりも高い場合は、通電角を狭くするか、或いは、進角を遅らせることにより、回転数を低下させるように構成すればよい。
【0014】
また、制御部に対し、ブラシレスモータの通電電流が目標値(つまり目標電流)になるよう通電角若しくは進角を制御させる場合、制御部は、次のように構成すればよい。
【0015】
つまり、この場合、制御部は、通電電流が目標電流よりも低い場合には、通電角を広げるか、或いは、進角を進めることにより、通電電流を増加させ、通電電流が目標電流よりも高い場合には、通電角を狭くするか、或いは、進角を遅らせることにより、通電電流を低下させるように構成すればよい。
【0016】
なお、制御部は、通電角及び進角の一方を制御するようにしてもよく、或いは、その両方を制御するようにしてもよい。
に、制御部は、ブラシレスモータの回転数若しくは通電電流が目標値に対応した許容範囲内に収束すると、通電角若しくは進角を固定することで、通電角若しくは進角の調整を終了するよう構成されていてもよい。
【0017】
また、制御部は、ブラシレスモータの回転数若しくは通電電流が許容範囲内にある状態が所定時間以上継続すると、通電角若しくは進角を固定することで、通電角若しくは進角の調整を終了するよう構成されていてもよい。
【0018】
このようにすれば、制御部は、ブラシレスモータの回転数若しくは通電電流が許容範囲内に収束するか、更にその状態が所定時間以上継続すると、通電角若しくは進角を固定することになる。
【0019】
従って、ブラシレスモータの回転数若しくは通電電流が許容範囲内に収束してから、電動工具(延いてはブラシレスモータ)に加わる負荷が変動して、回転数若しくは通電電流が変化したとしても、その負荷変動に影響されることなく、通電角若しくは進角を最適値に保持することができる。
【0020】
に、制御部は、ブラシレスモータの駆動を開始する前に、バッテリ電圧検出部を介してバッテリ電圧を検出し、その検出したバッテリ電圧に基づき、目標値を設定するよう構成されていてもよい。
【0021】
この場合、ブラシレスモータの駆動によってバッテリ電圧が変動しても、その変動前のバッテリ電圧にて目標値を設定できることになり、バッテリ電圧に対応して目標値を適正に設定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施形態の電動工具の回路構成を表すブロック図である。
図2】制御回路にて実行されるモータ駆動制御を表すフローチャートである。
図3図2のS140にて実行される進角調整量の設定処理を表すフローチャートである。
図4】バッテリ電圧に基づき目標回転数を設定するのに用いられるマップを表す説明図である。
図5】実施形態の制御回路による制御結果を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
本実施形態は、例えば、充電式丸ノコ等の電動工具において、動力源となる3相ブラシレスモータ(以下、単にモータという)2を駆動するモータ駆動装置に、本発明を適用したものである。
【0024】
図1に示すように、モータ駆動装置10には、直流電源であるバッテリ4の正極側に接続される電源ラインと、バッテリ4の負極側に接続されるグランドラインとが備えられている。
【0025】
正極側の電源ラインと負極側のグランドラインとの間には、モータ2の各相U,V,Wに流れる電流を制御するためのスイッチング回路12が設けられている。
スイッチング回路12は、モータ2の各相U,V,Wの端子と電源ラインとの間の正極側通電経路に設けられた3つのスイッチング素子(所謂ハイサイドスイッチ)Q1,Q2,Q3と、モータ2の各相U,V,Wの端子とグランドラインとの間の負極側通電経路に設けられた3つのスイッチング素子(所謂ローサイドスイッチ)Q4,Q5,Q6とから構成されている。
【0026】
スイッチング回路12とグランドラインとの間(つまり、負極側のスイッチング素子Q4〜Q6とグランドラインとの間)の負極側通電経路には、通電遮断用のスイッチング素子(通電遮断スイッチ)Q7及び抵抗R1が設けられている。
【0027】
この抵抗R1の両端には、抵抗R1の両端電圧からモータ2に流れた電流を検出する電流検出回路14が接続されており、通電遮断スイッチQ7の近傍には、通電遮断スイッチQ7の温度に応じて特性が変化する温度センサ17が設けられている。
【0028】
温度センサ17には、温度センサ17を介して通電遮断スイッチQ7の温度を検出する温度検出回路18が接続されており、この温度検出回路18からの検出信号は、電流検出回路14からの検出信号と共に、制御回路30に入力される。
【0029】
バッテリ4の正極側からスイッチング回路12に至る電源ライン(正極側通電経路)とグランドラインとの間には、平滑用のコンデンサC1が設けられると共に、そのライン間の電圧(つまりバッテリ電圧)を検出する電圧検出回路16が設けられている。
【0030】
モータ駆動装置10には、モータ2の回転位置を検出する回転位置検出回路20、及び、この回転位置検出回路20により検出される回転位置に基づいてモータ2の回転数を演算する回転数演算回路22、も設けられている。
【0031】
そして、電圧検出回路16、回転位置検出回路20、及び、回転数演算回路22からの検出信号も、制御回路30に入力される。
なお、回転位置検出回路20は、モータ2に設けられた回転位置検出用の3つのホールセンサ6,7,8からの検出信号(ホール信号)に基づき、モータ2の回転位置(換言すれば回転角度)を検出するものである。
【0032】
すなわち、ホールセンサ6,7,8は、それぞれ、モータ2のロータの周囲に120度の間隔で配置されており、ロータが180度回転する度に増減方向が反転する、U相,V相,W相のホール信号を出力する。
【0033】
回転位置検出回路20は、各ホールセンサ6,7,8からの各相U,V,Wのホール信号を波形整形することで、ロータの180度毎に正負が反転するパルス状のホール信号を生成し、各ホール信号のエッジから60度間隔でモータ2(詳しくはロータ)の回転位置を検出する。
【0034】
また、回転数演算回路22は、各ホール信号のエッジ間隔から、モータ2の回転数を算出する。
次に、制御回路30は、CPU、ROM、RAMを中心に構成されるマイクロコンピュータ(マイコン)にて構成されており、使用者により操作される操作部24の状態に従い、モータ2の駆動制御を実行する。
【0035】
制御回路30は、操作部24が使用者により操作されると、駆動指令が入力されたと判断して、操作部24の操作量に応じてモータ2を駆動し、使用者による操作部24の操作が終了すると、減速指令若しくは停止指令が入力されたと判断して、モータ2にブレーキをかける。
【0036】
こうしたモータ2の駆動制御を実行するために、制御回路30は、ROMに記憶された各種制御プログラムを実行し、図1に示すPWM生成部32、進角・通電角生成部34、過電流検出部38、及び、駆動信号生成部40としての機能を実現する。
【0037】
ここで、進角・通電角生成部34は、電流検出回路14により検出されるモータ2への通電電流や回転位置検出回路20により検出されるモータ2の回転位置に基づき、予めROM内に記憶された進角・通電角マップ37を参照して、モータ2の駆動時の進角・通電角を表す通電指令を生成し、駆動信号生成部40へ出力する。
【0038】
また、PWM生成部32は、モータ2への通電をPWM制御するための駆動デューティ比を演算し、その駆動デューティ比を表すPWM指令を生成して駆動信号生成部40へ出力する。
【0039】
そして、駆動信号生成部40は、操作部24が操作されて、モータ2の駆動制御を行う際に、通電遮断スイッチQ7をオンさせ、更に、進角・通電角生成部34からの通電指令に従って、スイッチング回路12を構成する正極側のスイッチング素子(ハイサイドスイッチ)Q1〜Q3のいずれか1つ及び負極側のスイッチング素子(ローサイドスイッチ)Q4〜Q6のいずれか1つをオンさせる駆動信号を生成し、スイッチング回路12へ出力する。
【0040】
また、駆動信号生成部40は、ハイサイドスイッチ及びローサイドスイッチの何れか一方に対する駆動信号を、PWM生成部32からのPWM指令に対応した駆動デューティ比のPWM信号とすることで、そのスイッチをデューティ駆動する。
【0041】
この結果、モータ2の各相U,V,Wに、駆動デューティ比に対応した電流が流れ、モータ2は、操作部24の操作量に対応した回転数で回転することになる。
また、過電流検出部38は、電流検出回路14にて検出されたモータ2の駆動電流が過電流判定用の閾値を超えると、駆動信号生成部40からの駆動信号の出力(換言すればモータ2の駆動)を停止させる。
【0042】
また、制御回路30は、電圧検出回路16及び温度検出回路18からの検出信号に基づき、バッテリ電圧及び温度を監視し、バッテリ電圧の低下時や、温度上昇時には、モータ2の駆動制御を停止する。
【0043】
ところで、進角・通電角生成部34は、進角・通電角マップ37を参照してモータ2の駆動時の進角・通電角を設定するが、これら各パラメータを、進角・通電角マップ37から得られる設定値に固定していると、モータ2へのホールセンサ6,7,8の組み付け誤差や、電動工具本体(図示せず)へのモータ2の組み付け誤差等によって、モータ2(延いては電動工具)の駆動特性が製品毎にばらつき、使用者に違和感を与えることがある。
【0044】
そこで、本実施形態では、進角・通電角生成部34は、モータ2の駆動開始後、進角・通電角を、進角・通電角マップ37に基づく設定値に制御すると、その後、進角を設定値を基準に増減させることで、駆動特性のばらつきを低減するようにされている。
【0045】
つまり、本実施形態では、制御回路30のROM内に、電圧検出回路16にて検出されるバッテリ電圧から、モータ2の目標回転数を設定するための目標回転数マップ36が記憶されている。
【0046】
この目標回転数マップ36は、モータ2のNT特性(回転数−トルク特性)や、IT特性(電流−トルク特性)に基づき、最適な駆動特性が得られるバッテリ電圧と回転数との関係を記述したものであり、図4に例示するように、所定のバッテリ電圧毎に目標回転数が設定されている。
【0047】
そして、進角・通電角生成部34は、目標回転数マップ36に基づき設定される目標回転数と、回転数演算回路22にて算出されるモータ2の回転数とに基づき、モータ2の回転数が目標回転数となるよう、モータ駆動時の進角を補正(増・減)し、モータ2の回転数が目標回転数に収束させる。
【0048】
以下、制御回路30にて実行されるモータ駆動制御について説明する。
図2に示すように、制御回路30は、モータ2の駆動制御を開始すると、まずS110(Sはステップを表す)にて、電圧検出回路16からバッテリ電圧を読み込み、続くS120にて、モータ2の回転数や回転位置等、モータ2の駆動制御に必要なモータ情報を取得する。
【0049】
次に、S130では、S110、S120にて読み込んだバッテリ電圧及びモータ情報に基づき、進角・通電角マップ37を用いて進角・通電角を設定し、続くS140では、目標回転数マップ36を用いてバッテリ電圧に対応した目標回転数を求め、モータ2の回転数が目標回転数となるようモータ駆動時の進角の調整量を設定する。
【0050】
そして、S150では、モータ2への印加電圧をPWM制御するための駆動デューティ比を設定し、その駆動デューティ比と、S130、S140で設定される進角・通電角、進角の調整量とに基づき、スイッチング回路12に出力する駆動信号を生成することで、モータ2を駆動させる。
【0051】
なお、モータ駆動制御においては、上記S110〜S150の一連の処理を繰り返し実行することで、モータ駆動時の印加電圧、進角、通電角、及び進角調整量を段階的に制御し、最終的に、モータ2の回転数を目標回転数に制御する。
【0052】
つまり、図5に示すように、まず、進角、通電角を初期値(例えば、進角0°、通電角120°)にした状態で、PWM制御によりモータ2への印加電圧を設定値まで上昇させる(手順1)。
【0053】
次に、モータ2の回転数が設定値を越えると、進角をS130にて設定された設定値まで増加させ(手順2)、進角が設定値で制御されると、通電角をS130にて設定された設定値まで増加させる(手順3)。
【0054】
こうした手順1〜手順3の制御で、製品にばらつきがなければ、モータ2の回転数は概ね目標回転数に収束するが、実際には、製品毎に特性が異なるので、図5に示すように、モータ2の回転数は製品毎にばらついてしまう。
【0055】
そこで、本実施形態では、通電角が設定値に達すると、その後、S140にて設定される進角の調整量に従い、進角を調整し、モータ2の回転数を目標回転数に収束させる(手順4)。
【0056】
次に、このようにモータ2の回転数を目標回転数に収束させるためにS140にて実行される進角調整量の設定処理について、図3を用いて説明する。
図3に示すように、この設定処理では、まずS210にて、現在、モータ2が回転中か否かを判断する。
【0057】
モータ2が回転中でなければ、S220に移行し、目標回転数マップ36を用いて、現在の(換言すれば、モータ2の駆動停止中の)バッテリ電圧に対応した目標回転数を設定する。そして、続くS230にて、進角の調整量を初期値「0」に設定する初期化の処理を実行し、当該設定処理を終了する。
【0058】
一方、S210にてモータ2が回転中であると判断されると、S240に移行し、通電角及び進角は、S130にて設定された設定値で制御されているか否か、つまり、図5に示した手順1〜手順3でのモータ2の駆動制御が完了したか否か、を判断する。
【0059】
そして、通電角及び進角はまだ設定値で制御されていない場合には、そのまま当該設定処理を終了し、通電角及び進角が設定値で制御されていれば、S250に移行して、当該設定処理による進角調整は完了しているか否かを判断する。
【0060】
進角調整が既に完了している場合には、当該設定処理を終了し、進角調整がまだ完了していなければ、S260に移行する。
S260では、回転数演算回路22で算出されたモータ2の現在の回転数(実回転数)と、モータ2の回転停止時にS220にて設定された目標回転数との差(回転数差)を算出する。
【0061】
そして、続くS270では、その算出した回転数差は、予め設定されたしきい値よりも大きいか否か(換言すれば、回転数差は許容範囲を超えているか否か)を判断し、回転数差がしきい値よりも大きい場合には、S280に移行して、実回転数は目標回転数よりも大きいか否かを判断する。
【0062】
S280にて、実回転数が目標回転数よりも大きいと判断されると、S290にて、進角の調整量を所定量減少させた後、当該設定処理を終了し、S280にて、実回転数が目標回転数以下であると判断されると、S300にて、進角の調整量を所定量増加させた後、当該処理を終了する。
【0063】
つまり、進角の調整量を減少させれば、モータ駆動時の進角値が遅角側に補正されて、モータ2の駆動トルクが抑制され、実回転数が低下し、逆に、進角の調整量を増加させれば、モータ駆動時の進角値が進角側に補正されて、モータ2の駆動トルクが増加して、実回転数が上昇する。
【0064】
従って、S280〜S300の処理によって、モータ2の実回転数が目標回転数となるように進角の調整量が更新され、延いては、モータ2の実回転数が目標回転数となるようにモータ駆動時の進角が補正されることになる。
【0065】
一方、S270にて、実回転数と目標回転数との回転数差がしきい値以下であると判断された場合には、S310に移行して、この状態(実回転数≦目標回転数)が所定時間以上継続しているか否かを判断する。
【0066】
そして、S310にて、実回転数≦目標回転数の状態が所定時間以上継続していないと判断された場合には、当該設定処理を終了し、実回転数≦目標回転数の状態が所定時間以上継続していると判断された場合には、S320に移行する。
【0067】
S320では、現在の進角調整量を、今回のモータ駆動時の進角調整量の最終値として設定(固定)することで、進角調整完了を記憶し、当該設定処理を終了する。この結果、モータ2の駆動(回転)が停止するまで、進角の調整量は現在の値に固定される。
【0068】
以上説明したように、本実施形態の電動工具によれば、モータ駆動装置10が、モータ2の駆動を開始し、図5に示すように、手順1〜手順3の制御で、モータ2の通電角及び進角が基準となる設定値に制御されると、モータ2の回転数が目標回転数となるよう、モータ駆動時の進角を制御する。
【0069】
従って、本実施形態の電動工具によれば、製品の個体差によりモータ2(延いては電動工具)の駆動特性がばらつくのを防止し、同じ性能を有する電動工具を提供できる。
また特に、本実施形態では、モータ2の進角を制御するに当たって、モータ2の回転数と目標回転数となるように進角の調整量を増・減させることから、モータ2の回転数が高く、過進角になっているときに進角を遅らせることができるだけでなく、モータ2の回転数が低い場合に、進角を更に進めて、モータ2の回転数を上昇させることができる。
【0070】
また、本実施形態では、進角を制御する際の目標回転数を、モータ2の回転停止時(換言すればバッテリ4からモータ2に電力供給がなされていないとき)のバッテリ電圧に基づき設定する。
【0071】
このため、モータ2の駆動によってバッテリ電圧が変動しても、その変動前のバッテリ電圧にて目標回転数を適正に設定できる。また、例えば、バッテリ電圧が低いときに目標回転数を高く設定しすぎて、過進角となり、ブラシレスモータの駆動効率が低下する、といったことも防止できる。
【0072】
また更に、本実施形態では、進角の調整量を増・減することにより、モータ2の回転数が目標回転数に制御されて、その後、所定時間以上、回転数差がしきい値以下になると(つまり、モータ2の回転数が目標回転数を中心とする許容範囲内に制御されると)、調整量をそのときの値に固定して、モータ2の進角調整を完了する。
【0073】
従って、モータ2の回転数が許容範囲内に収束してから、電動工具(延いてはモータ2)に加わる負荷が変動して、回転数が変化したとしても、その負荷変動に影響されることなく、進角を最適値に保持することができる。
【0074】
なお、本実施形態においては、電圧検出回路16が、本発明のバッテリ電圧検出部に相当し、ホールセンサ6,7,8及び回転位置検出回路20が、本発明の回転位置検出部に相当し、制御回路30が、本発明の制御部に相当する。
【0075】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内にて種々の態様をとることができる。
例えば、上記実施形態では、モータ2の回転数が目標回転数となるよう、モータ駆動時の進角を制御するものとして説明したが、通電角を制御するようにしてもよく、進角と通電角の両方を制御するようにしてもよい。
【0076】
なお、通電角を制御する場合、モータ2の回転数が目標回転数よりも低いときに、調整量を所定量増加させることで、通電角を広げ、モータ2の回転数が目標回転数よりも高いときに、調整量を所定量減少させることで、通電角を狭くするようにすればよい。
【0077】
また、上記実施形態では、進角を制御するに当たって、モータ2の回転停止時のバッテリ電圧から目標回転数を設定し、モータ駆動時に、モータ2の回転数が目標回転数となるように、進角の調整量を増・減させるものとして説明したが、回転数に代えてモータ駆動時の電流が目標電流となるよう進角若しくは通電角を制御するようにしてもよい。
【0078】
具体的には、例えば、図3に示した進角調整量の設定処理において、S220では、バッテリ電圧に基づき目標電流を設定し、S260では、電流検出回路14にて検出されたモータ2の実電流と目標電流との電流差を算出し、S270では、その算出した電流差がしきい値を越えたか否かを判断し、S280では、実電流が目標電流よりも大きいか否かを判断するようにする。
【0079】
そして、このようにモータ駆動時にモータ2に流れる実電流が目標電流となるように進角若しくは通電角を制御するようにしても、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0080】
また、上記実施形態では、電動工具は3相ブラシレスモータを備えており、モータ駆動装置10は、その3相ブラシレスモータを制御するものとして説明したが、モータ2が単相モータであっても、本発明を適用することにより、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0081】
2…モータ(ブラシレスモータ)、4…バッテリ、6,7,8…ホールセンサ、10…モータ駆動装置、12…スイッチング回路、14…電流検出回路、16…電圧検出回路、17…温度センサ、18…温度検出回路、20…回転位置検出回路、22…回転数演算回路、24…操作部、30…制御回路、32…PWM生成部、34…進角・通電角生成部、36…目標回転数マップ、37…進角・通電角マップ、38…過電流検出部、40…駆動信号生成部。
図1
図2
図3
図4
図5