(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
(発明者等が得た知見)
まず、本発明の実施形態の説明に先立ち、発明者等が得た知見について説明する。
【0018】
本発明者等の鋭意検討により、上述したような銅条に形成された光を反射させる表面めっき層としてのAgめっき層の反射率を低下させる主な原因は、例えば
図7に示すように、Agめっき層の表面に形成される山脈のような凸部(山脈状凸部)であることが分かった。
図7は、従来の銅条に形成したAgめっき層表面のSEM画像である。
図7に示すSEM画像は、銅条と、下地めっき層としてのCuめっき層又はNiめっき層の少なくともいずれかと、表面めっき層としてのAgめっき層と、を備える試料であるめっき付銅条を、紙面の上下方向に70度傾斜させて、Agめっき層の側から撮影している。これは、試料の真上から撮影すると、山脈状凸部が観察されにくいためである。
図7において、紙面の左右方向が銅条の圧延方向となる。
図7から、山脈状凸部は、銅条の圧延方向に沿って形成されていることが確認できる。例えば、山脈状凸部は、圧延方向に10μm〜30μmの長さで連続して形成されていることが確認できる。また、山脈状凸部は、銅条の圧延方向と直交する方向に30μm〜100μm間隔で多数形成されていることが確認できる。
【0019】
このような山脈状凸部は、銅条の下地めっき層が成長される面(下地めっき層成長面)の結晶組織の結晶方位に起因して形成されてしまうことが分かった。一般的に、銅条は、圧延加工と焼鈍加工とが所定回数繰り返されて形成される。この過程で、銅条の圧延面の結晶組織は、圧延方向と同じ方位の結晶方位や圧延方向に近い方位の結晶方位を持つ結晶粒が連なる傾向にある。下地めっき層としてのCuめっき層又はNiめっき層の成長は、銅条の圧延面、すなわち下地めっき層成長面の結晶粒の結晶方位に依存する。このため、下地めっき層の成長速度は、下地めっき層成長面の結晶粒の結晶方位によって異なる。これは、銅条に用いられる銅(Cu)と下地めっき層に用いられる銅(Cu)やニッケル(Ni)とが同じFCC金属であり、かつ、下地めっき層に用いられるCuやNiの平均粒子径が、銅条に用いられるCuの粒子径とほぼ同程度であるため、下地めっき層が、銅条の下地めっき層成長面の結晶粒(Cu)の結晶方位を受けてエピタキシャルに成長されやすいことに起因する。このため、下地めっき層成長面に、下地めっき層が面内均一に成長されず、下地めっき層成長面上に成長(電着)される下地めっき層の成膜量(成長量)に差が生じてしまう。すなわち、銅条の圧延方向に沿って、下地めっき層の厚さが厚い箇所と薄い箇所とが生じてしまう。これにより、下地めっき層の表面に山脈状凸部が形成されてしまうことが分かった。その結果、下地めっき層上に成長されて形成されるAgめっき層の表面に山脈状凸部が形成されてしまい、Agめっき層の反射率が低下してしまうことが分かった。なお、下地めっき層成長面には、圧延加工を行う際に圧延ロールの表面から転写された筋等の凹凸が存在する。しかしながら、圧延加工の際に圧延ロールによって下地めっき層成長面に転写された凹凸は、Agめっき層の表面に形成された山脈状凸部と直接の関係はない。
【0020】
そこで、本発明者等は、銅条の下地めっき層成長面の結晶組織の状態から、Agめっき層の表面をより平坦にする必要があると考えた。すなわち、より反射率の高いAgめっき層を形成するためには、銅条の下地めっき層成長面の結晶組織(結晶粒)の状態を調整する必要があると考えた。本発明は、発明者等が見出した上記知見に基づくものである。
【0021】
(1)銅条及びめっき付銅条の構成
まず、本発明の一実施形態にかかる銅条及びめっき付銅条の構成について、主に
図1を用いて説明する。
図1は、本実施形態にかかるめっき付銅条1の概略断面図である。
【0022】
図1に示すように、めっき付銅条1は、銅条2と、下地めっき層3と、表面めっき層4と、を備えて構成されている。銅条2の少なくともいずれかの主面上には、下地めっき層3が成長されて形成されている。銅条2は、良好な機械的強度と電気伝導性とを兼ね備えている。このような銅条2は、銅や銅合金等の鋳塊に圧延処理や焼鈍処理等を行うことで形成される。
【0023】
銅条2の形成材料としては、鉄(Fe)や、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)等を含有する銅合金を用いることができる。例えば、銅条2の形成材料として、Feと燐(P)とを含有するCu−Fe−P系の銅合金が用いられるとよい。Cu−Fe−P系の銅合金として、例えば、0.05wt%〜0.15wt%のFeと、0.025wt%〜0.04wt%のPとを含有する銅合金(C19210)や、2.1wt%〜2.6wt%のFeと、0.015wt%〜0.15wt%のPと、0.05wt%〜0.20wt%の亜鉛(Zn)とを含有する銅合金(C19400)が広く知られている。この他、例えば、銅条2の形成材料として、無酸素銅(OFC;Oxygen-Free Copper)や、ジルコニウム(Zr)を含有するCu−Zr系の銅合金(例えばC15150)や、所定量のZnとNiとPとシリコン(Si)とをそれぞれ含有するコルソン系の銅合金等を用いてもよい。このように、本実施形態では、銅合金を用いて形成される銅合金条も銅条2に含めて考える。
【0024】
銅条2の下地めっき層が成長される面(以下では、単に「下地めっき層成長面」とも言う。)、すなわち銅条2の圧延面は、下地めっき層3の成長速度が下地めっき層成長面で面内均一となるように形成されている。すなわち、下地めっき層成長面には、非晶質な領域又は結晶粒径が非常に小さな(微細な)結晶粒(例えば直径換算で10nm程度以下の結晶粒)からなる領域(以下では、「微細結晶粒領域」とも言う。)の少なくともいずれかが形成されている。また、非晶質な領域又は微細結晶粒領域の少なくともいずれかは、下地めっき層成長面内に均一に分布しているとよい。これにより、下地めっき層3としての例えば銅(Cu)めっき層やニッケル(Ni)めっき層の成長速度が、下地めっき層成長面内で面内均一となる。従って、下地めっき層3の厚さが、下地めっき層成長面で面内均一となり、下地めっき層3の表面が平坦となる。その結果、後述するように、下地めっき層3上に形成される表面めっき層4としての光を反射させる銀(Ag)めっき層の表面が平坦となるため、表面めっき層4の反射率を高くできる。
【0025】
下地めっき層成長面は、EBSD(Electron Back Scattering Diffracted Pattern)法にて、測定領域(観察領域)を90μm×120μmとし、測定間隔(ステップサイズ)を0.2μmとして測定することで得られる信頼性指数(CI値;Confidence Index値)が0.1以下である測定点の割合が50%以上、好ましくは68%以上である面であるとよい。
【0026】
CI値が0.1以下である測定点の割合とは、測定領域における測定点の総数に対するCI値が0.1以下である測定点の割合である。例えば、測定領域が90μm×120μmであり、ステップサイズが0.2μmである場合、測定領域内の測定点の総数は270,000点となる。従って、この場合、CI値が0.1以下である測定点の割合が50%以上とは、CI値が0.1以下である測定点の数が135,000点以上あることを言う。
【0027】
また、CI値とは、EBSD法にて、すなわちEBSD装置を用いて下地めっき層成長面の結晶粒の結晶方位を測定し、解析した結果の信頼性(測定精度)を示す値である。EBSD法を用いることで、銅条2の極表面のみの情報を得ることができる。例えば、加速電圧を20kVとした場合、下地めっき層成長面から30nm〜50nm程度の深さまでの情報のみを得ることができる。また、CI値は、測定点ごとに測定可能である。EBSD法では、非晶質な領域や、1つの測定点中に異なる結晶方位を有する複数の微細な結晶粒(例えば直径換算で10nm程度以下の結晶粒)が含まれる領域(すなわち微細結晶粒領域)の結晶粒の結晶方位を正しく測定することが難しい。従って、このような測定点では、EBSD法による解析結果の信頼性が低下し、CI値が低くなる。すなわち、CI値が0.1以下の測定点は、EBSD法にて結晶粒の結晶方位が正しく測定されていない可能性があると判定される。従って、CI値が0.1以下の測定点は、非晶質な領域又は微細結晶粒領域であると判定される。これに対し、CI値が0.1を超える測定点は、EBSD法にて結晶粒の結晶方位が正しく測定され、解析されていると判定される。すなわち、CI値が0.1を超える測定点は、結晶化が進み、結晶性が高い領域(非晶質な領域又は微細結晶粒領域ではない領域)と判定される。なお、CI値の測定方法については後述する。
【0028】
上述したように、下地めっき層成長面は、所定の測定領域内において、CI値が0.1以下である測定点の割合が50%以上、好ましくは68%以上である面であるとよい。このような下地めっき層成長面であれば、実質的に、同じ結晶方位を有する結晶粒が、銅条2の圧延方向に沿って10μm〜30μmの長さで連続して形成されることがない。従って、下地めっき層3が銅条2の下地めっき層成長面上に成長されて形成される際、下地めっき層3の成長速度を下地めっき層成長面で面内均一にできる。これにより、下地めっき層3は、下地めっき層成長面で面内均一に成長されて、下地めっき層3の表面が平坦になる。その結果、下地めっき層3上に形成される表面めっき層4の表面を平坦にでき、表面めっき層4の反射率を向上させることができる。
【0029】
また、CI値が0.1以下である測定点が、測定領域内で、できるだけ均一に分布されているとよい。これにより、下地めっき層3の成長速度を、下地めっき層成長面でより面内均一にできる。
【0030】
CI値の測定は、例えばケミカルエッチングにより下地めっき層成長面(すなわち測定面)が50nm以上、好ましくは50nm以上100nm以下除去された後、行われるとよい。これにより、下地めっき層成長面上に形成されてしまった自然酸化膜や、下地めっき層成長面に付着してしまった汚染物質を除去できる。従って、例えば、結晶性が高い領域が、非晶質な領域又は微細結晶粒領域であると判定されてしまうことを抑制できる。その結果、下地めっき層成長面のCI値の測定をより正確に行うことができる。
【0031】
(CI値の測定方法)
以下では、EBSD法にて、銅条2の下地めっき層成長面を測定することで、下地めっき層成長面のCI値を得る方法について説明する。
【0032】
まず、例えばEBSD装置を用い、銅条2の下地めっき層成長面上の複数の測定点(照射点)に電子線を照射して、各測定点で回折パターン(電子後方散乱回折像)を得る。EBSD装置としては、例えば株式会社日立ハイテクノロジーズ製の走査型電子顕微鏡(SU−70)に装着された株式会社TSLソリューションズ製の結晶方位解析(OIM;Orientation Imaging Microscopy)装置を用いることができる。銅条2の下地めっき層成長面に電子線が照射される際、銅条2は例えば70°の傾斜角度で保持されている。また、EBSD装置の加速電圧は例えば20kVとする。これにより、下地めっき層成長面から30nm〜50nm程度の深さまでの情報のみを得ることができる。
【0033】
次に、得られた各測定点での回折パターンに基づいて、各測定点における結晶粒の結晶方位を決定する。すなわち、例えばコンピュータによって各測定点での回折パターンが解析され、コンピュータによって最も信頼性が高いと判断された結晶方位が選択される。そして、この選択された結晶方位が各測定点における結晶方位と決定される。このとき、下地めっき層成長面が非晶質な領域であると回折パターンが得られない。また、下地めっき層成長面が微細結晶粒領域である場合、高分解能TEMで格子像が得られる結晶粒であっても、EBSD装置では回折パターンが得られないことがある。すなわち、下地めっき層成長面が微細結晶粒領域であると、1つの測定点中に結晶方位の異なる複数の微細な結晶粒が含まれているため、非晶質な領域と同様に回折パターンが得られない。このため、例えばコンピュータによって回折パターンが解析される際、下地めっき層成長面の非晶質な領域や微細結晶粒領域では、コンピュータは、回折パターンが得られない状況で測定点毎にランダムな結晶方位を選択する。
【0034】
具体的には、各測定点での結晶方位の決定は、以下に記載するように行われる。例えば、EBSD法にて結晶方位が測定されて解析される面(すなわち下地めっき層成長面)が銅(Cu)等のFCC金属である場合、EBSD装置(EBSD装置が備えるOIM解析ソフトウェア)は、通常、各測定点での回折パターンからそれぞれ、7本のバンド(検知線)を検出する。そして、検出した7本のバンドから3本のバンドを選び、角度関係から結晶方位を推定する。7本のバンドから3本のバンドを選ぶ組み合わせは35通りある。従って、35通り全ての組み合わせ毎に結晶方位を推定する。各組み合わせで推定される結晶方位は全て同じ方位となるとは限らない。すなわち、各組み合わせで推定される結晶方位は1つとは限らず、複数の結晶方位が推定される場合がある。35通り全ての組み合わせ毎に推定された結晶方位のうち、最も多く推定された結晶方位が、測定点における結晶方位として決定される。
【0035】
次に、得られた各測定点での結晶方位に基づいて、隣り合う測定点における結晶方位の方位差を算出する。この方位差が許容角度(Tolerance Angle)(例えば5°)未満であれば、同一の結晶粒とみなし、この方位差が許容角度(例えば5°)以上であれば、異なる結晶粒とみなす。
【0036】
得られた結晶方位によって結晶粒の色分けを行い、IPF(Inverse Pole Figure)マップを得る。このとき、同一の結晶方位を有する結晶粒には、同一の色が付される。すなわち、IPFマップでは、結晶化している領域は、その結晶粒の大きさ(粒径)に応じて同一色の領域が示される。
【0037】
次に、各測定点での信頼性指数(CI値)を算出して得る。以下では、上述の7本のバンドから3本のバンドを選び、各測定点における結晶方位を決定する場合を例に、CI値を算出する方法について説明する。すなわち、35通りの各組み合わせで推定された結晶方位のうち、推定された結晶方位の回数を例えばVote数と呼ぶとする。最も大きいVote数と二番目に大きいVote数との差が大きいほど、推定された結晶方位の信頼性が高いと言える。CI値は、このような考え方に基づき、下記(式1)から算出される。
(式1)
CI値=(V1−V2)/V
ideal
ここで、V1は最も大きいVote数、V2は二番目に大きいVote数、V
idealは組み合わせ数である。例えば、7本のバンドから3本のバンドを選ぶ際、V
idealは35となる。
【0038】
CI値は0.0から1.0までの値をとる。例えば、35通りの組み合わせがある場合、V1=35、V2=0のときにCI値=1.0となり、最も信頼性が高くなる。これに対し、V1=V2のときにCI値=0.0となり、最も信頼性が低くなる。
【0039】
一般的に、例えばCu等のFCC金属では、CI値が0.2〜0.3以上である測定点では、90%以上の確率で正しく結晶方位が測定されて選択されていると言われている。これに対し、CI値が0.1以下である測定点では、最も多く推定された(Vote数が最も大きい)結晶方位と、二番目に多く推定された(Vote数が二番目に大きい)結晶方位とが、同じ程度の確率で選択されている可能性があるほど、選択された結晶方位の信頼性が低いことになる。すなわち、CI値が0.1以下である測定点は、回折パターンが得られない非晶質な領域又は微細結晶粒領域であることになる。このような手順で、全測定点についてCI値をそれぞれ算出する。
【0040】
そして、IPFマップと、全測定点のCI値の分布とを比べて見ると、測定領域内においてCI値が0.1以下である測定点が多い箇所ほど、非晶質な領域又は微細結晶粒領域が多い箇所であることが分かる。
【0041】
上述したように、銅条2の下地めっき層成長面上には、下地めっき層3が成長されて形成されている。下地めっき層3として、例えば銅(Cu)めっき層又はニッケル(Ni)めっき層の少なくともいずれかが成長されて形成されているとよい。上述したように、下地めっき層3が形成される銅条2の下地めっき層成長面には、非晶質な領域又は微細結晶粒領域の少なくともいずれかが形成されている。これにより、下地めっき層3の成長速度が、銅条2の下地めっき層成長面上で面内均一となる。従って、下地めっき層3は、下地めっき層成長面に面内均一に成長されて、下地めっき層3の表面が平坦になる。すなわち、下地めっき層3の表面の平滑度を向上させることができる。
【0042】
下地めっき層3上には、表面めっき層4が成長されて形成されている。表面めっき層4として、反射率(光反射率)の高い例えば銀(Ag)めっき層が成長されて形成されているとよい。表面めっき層4は、例えば電解めっきにより成長されて形成されるとよい。このように、表面めっき層4は、表面が平坦である(すなわち平滑度が高い)下地めっき層3上に形成されている。これにより、表面めっき層4は下地めっき層3上に面内均一に成長されるため、表面めっき層4の表面が平坦となる。すなわち、表面めっき層4の表面の平滑度を向上させることができる。従って、表面めっき層4の光沢度を向上させることができ、反射率を向上させることができる。
【0043】
このようなめっき付銅条1は、例えばリードフレーム等に好適に用いられる。例えば、めっき付銅条1に金型等を用いた打ち抜き加工を行うことで、例えばリードフレームが形成される。
【0044】
(2)銅条及びめっき付銅条の製造方法
次に、本実施形態にかかる銅条2及びめっき付銅条1の製造方法の一実施形態について、主に
図2を用いて説明する。
図2は、本実施形態にかかる銅条2及びめっき付銅条1の製造工程を示すフロー図である。
【0045】
(鋳造工程(S10))
図2に示すように、まず、例えば坩堝式溶解炉、チャネル式溶解炉等の電気炉を用い、母材である銅(Cu)を溶解して銅の溶湯を製造する。なお、銅合金の鋳塊を鋳造する場合は、銅の溶湯中に所定量の所定元素を添加し、銅合金の溶湯を製造する。そして、この銅の溶湯又は銅合金の溶湯を鋳型に供給して、厚さが150mm〜250mm程度、幅が400mm〜1000mm程度であり、矩形断面を有する銅又は銅合金の鋳塊(ケーク)を鋳造する。
【0046】
(熱間圧延工程(S20))
鋳造工程(S10)が終了した後、鋳造したケークを所定温度に加熱して熱間圧延処理を行い、所定厚さの熱延材を形成する。すなわち、所定温度(例えば800℃以上1000℃以下)に加熱した加熱炉中にケークを搬入する。そして、加熱炉中で所定時間(例えば30分以上)ケークを保持してケークを加熱する。所定時間経過後、ケークを加熱炉から搬出し、熱間圧延機を用い、例えば室温でケークを所定厚さ(例えば10mm〜15mm)となるように圧延して熱延材を形成する。熱間圧延処理が終了した後は、なるべく速やかに熱延材を例えば室温程度まで冷却するとよい。
【0047】
熱間圧延処理の処理温度、すなわち加熱炉の加熱温度は、銅合金の化学組成によって調整するとよい。例えば、銅合金中に添加した添加物を析出させた銅合金(析出型銅合金)では、熱間圧延処理の処理温度(特に熱間圧延処理の開始温度)は、銅合金中に添加している元素が固溶する温度であると良い。これにより、熱間圧延処理によって熱延材の表面に形成される酸化膜(酸化スケール)を低減できる。すなわち、熱間圧延処理の処理温度が高すぎると、熱延材の表面に形成される酸化スケールが増大する場合がある。
【0048】
(面削工程(S30))
熱間圧延工程(S20)が終了した後、面削を行うことで、熱間圧延処理により熱延材の表面に形成された酸化膜(酸化スケール)を削り、酸化膜を除去する。
【0049】
(冷間圧延工程・焼鈍工程(S40・S50))
面削工程(S30)が終了した後、熱延材に、所定の加工度の冷間圧延処理(冷間圧延工程(S40))と、所定温度で所定時間加熱する焼鈍処理(焼鈍工程(S50))とを所定回数繰り返して行い、所定厚さの生地と呼ばれる冷延材を形成する。熱延材に冷間圧延処理による加工歪みを与えることで、銅条2の強度を向上させることができる。なお、焼鈍処理は、時効処理を含んでいてもよい。
【0050】
(バフ研磨工程(S60))
冷間圧延工程(S40)と焼鈍工程(S50)とを所定回数繰り返して行った後、冷延材の圧延面、すなわち下地めっき層成長面となる面を研磨するバフ処理を行う。バフ処理は、銅条2の下地めっき層成長面(すなわち圧延面)に、非晶質な領域又は微細結晶粒領域の少なくともいずれかが形成されるように行う。すなわち、バフ処理は、EBSD法にて、測定領域を90μm×120μmとし、ステップサイズを0.2μmとして測定することで得られる下地めっき層成長面のCI値が0.1以下である測定点の割合が50%以上、好ましくは68%以上となるように行うとよい。バフ処理は、例えば、表面に研磨砥粒が付着した円筒状のバフを用いて行う。そして、このようなバフを、銅条2の下地めっき層成長面上で所定方向(例えば時計回り方向)に回転させることで、バフの表面上の研磨砥粒により、銅条2の下地めっき層成長面の表面を研磨し、下地めっき層成長面に非晶質な領域又は微細結晶粒領域の少なくともいずれかを形成する。このとき、研磨砥粒として、番手が#600〜#3000相当の粒径を有するものを用いるとよい。
【0051】
(仕上圧延工程(S70))
バフ研磨工程(S60)が終了した後、冷延材に、所定の加工度で仕上圧延処理を行い、所定厚さ(例えば0.2mm)の銅条2を形成する。なお、仕上圧延工程(S70)が終了した後は、銅条2に焼鈍処理を行わない方が良い。仕上圧延工程(S70)が終了した後に焼鈍処理を行うと、銅条2の下地めっき層成長面の結晶組織が変わることがある。すなわち、下地めっき層成長面に形成された非晶質な領域又は微細結晶粒領域が、非晶質な領域又は微細結晶粒領域でなくなることがある。これにより、本実施形態にかかる銅条2が製造される。
【0052】
(下地めっき層形成工程(S80))
仕上圧延工程(S70)が終了した後、銅条2の下地めっき層成長面(圧延面)上に、所定厚さの下地めっき層3を形成する。下地めっき層3として、例えばCuめっき層又はNiめっき層の少なくともいずれかを形成する。
【0053】
(表面めっき層形成工程(S90))
下地めっき層形成工程(S80)が終了したら、下地めっき層3上に、光を反射させる表面めっき層4として例えばAgめっき層を形成する。これにより、本実施形態にかかるめっき付銅条1が製造されて、その製造工程を終了する。
【0054】
(3)本実施形態にかかる効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果を奏する。
【0055】
(a)本実施形態によれば、下地めっき層3が成長されることとなる銅条2の下地めっき層成長面には、下地めっき層3の成長速度が下地めっき層成長面で面内均一となるように、非晶質な領域又は微細結晶粒領域の少なくともいずれかが形成されている。これにより、下地めっき層3が、下地めっき層成長面上に面内均一に成長されるため、下地めっき層3の表面が平坦になる。その結果、下地めっき層3上に成長されて形成される表面めっき層4(例えばAgめっき層)の表面が平坦になり、表面めっき層4の光反射率が向上する。
【0056】
(b)本実施形態によれば、下地めっき層成長面は、EBSD法にて、測定領域を90μm×120μmとし、測定間隔を0.2μmとして測定することで得られる信頼性指数(CI値)が0.1以下である測定点の割合が50%以上、好ましくは68%以上である面である。すなわち、下地めっき層成長面は、非晶質な領域又は微細結晶粒領域の割合が50%以上、好ましくは68%以上である面である。これにより、銅条2の下地めっき層成長面上に、表面がより平坦な下地めっき層3を成長させて形成できる。従って、下地めっき層3上に成長されて形成される表面めっき層4の表面をより平坦にでき、表面めっき層4の光反射率をより向上させることができる。
【0057】
(c)本実施形態によれば、下地めっき層成長面のCI値の測定は、ケミカルエッチングにより下地めっき層成長面が50nm以上除去された後、行われている。これにより、下地めっき層成長面のより正確なCI値を得ることができる。
【0058】
(d)本実施形態によれば、めっき付銅条1は、非晶質な領域又は微細結晶粒領域の少なくともいずれかが形成された下地めっき層成長面を有する銅条2を備えて構成されている。すなわち、銅条2の下地めっき層成長面上に、銅条2の側から順に、下地めっき層3と表面めっき層4とがそれぞれ成長されて、めっき付銅条1が形成されている。従って、めっき付銅条1は、表面めっき層4の表面が平坦となり、光反射率が高くなる。
【0059】
(e)本実施形態によれば、めっき付銅条1を用いてリードフレームを形成している。これにより、例えばリードフレーム上に発光素子が搭載されて発光ダイオードが形成された場合、発光ダイオードの光取出効率を向上させることができる。
【0060】
(本発明の他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態を具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0061】
例えば、下地めっき層3及び表面めっき層4が形成されためっき付銅条1を用いてリードフレームが形成され、リードフレームに発光素子が搭載されて発光ダイオード(LED)が形成される場合、銅条2の外部配線との接続部には、電気的な接続の信頼性を向上させるために、めっき処理が行われていてもよい。このようなめっき処理としては、例えば銀(Ag)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)等を用いて行うとよい。
【0062】
また、銅条2は、リードフレーム以外の用途に用いてもよい。例えば、銅条2の下地めっき層成長面上に、他のFCC金属を含有するめっき層が成長されて形成されていれば、下地めっき層3と表面めっき層4とが形成されていなくてもよい。この場合においても、めっき層の表面を平坦にでき、光沢度を向上させることができる。従って、めっき層の表面の外観上の美しさや光沢度が重視される用途全般において効果的に利用することができる。
【実施例】
【0063】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0064】
(実施例1)
実施例1では、2.1wt%〜2.6wt%の鉄(Fe)と、0.05wt%〜0.2wt%の亜鉛(Zn)と、0.015wt%〜0.15wt%の燐(P)とが含まれ、残部が97wt%以上の銅(Cu)及び不可避的不純物から成る銅合金(C194:CDA No.C19400)を用いた。このとき、Cuは銅合金中に97wt%以上含まれている。そして、坩堝式溶解炉を用い、窒素雰囲気下にて上記銅合金を溶解して溶湯を作製した。その後、溶湯を鋳型に供給し、所定厚さで所定幅のケークを鋳造した。
【0065】
次に、ケークを所定温度に加熱して熱間圧延処理を行い、所定厚さの熱延材を作製した。そして、熱延材に、所定の加工度の冷間圧延処理と、焼鈍処理とを所定回数繰り返して行い、所定厚さの冷延材を作製した。なお、焼鈍処理は、還元雰囲気下で行った。
【0066】
そして、冷延材の圧延面、すなわち下地めっき層成長面となる面に所定条件でバフ処理を行った。バフ処理は、作製される試料である銅条の下地めっき層成長面(すなわち圧延面)に非晶質な領域又は微細結晶粒領域が形成されるように行った。そして、バフ処理を行った冷延材に、仕上圧延処理を所定の加工度で行い、厚さが0.2mmの銅条を作製した。これを実施例1の試料とした。
【0067】
(実施例2〜9及び比較例1〜8)
実施例2〜9及び比較例1〜8では、銅合金の種類を表1に示す通りとするとともに、バフ処理条件を変更した。この他は、上述の実施例1と同様にして銅条を作製した。これらをそれぞれ、実施例2〜9及び比較例1〜8の試料とした。
【0068】
なお、表1中のOFCとは、0.0010wt%以下の酸素(O)が含まれ、残部が99.95wt%以上のCu及び不可避的不純物から成る銅(無酸素銅)(CDA No.C10200)である。また、HCL02Zとは、0.015wt%〜0.03wt%のジルコニウム(Zr)が含まれ、Cu及びZrの合計重量(Cu+Zr)が99.96wt%以上である銅合金(CDA No.C15150)である。また、HCL305とは、コルソン系の銅合金と呼ばれるもので、1.5wt%〜2.0wt%の亜鉛(Zn)と、2.2wt%〜2.8wt%のニッケル(Ni)と、0.015wt%〜0.06wt%の燐(P)と、0.3wt%〜0.7wt%のシリコン(Si)とが含まれ、残部がCu及び不可避的不純物から成る銅合金である。
【0069】
【表1】
【0070】
(前処理工程)
次に、実施例1〜9及び比較例1〜8の各試料に、表2に示す条件で、陰極電解脱脂工程と酸洗工程とを行い、試料の表面を清浄化する前処理を行った。すなわち、前処理を行うことで、各試料の表面に形成されてしまった自然酸化膜や、各試料の表面に付着してしまった汚染物質を除去した。なお、本実施例における酸洗工程の処理条件は、各試料に表面めっき層としての銀(Ag)めっき層を成長させて形成する際の量産Agめっきラインにおける酸洗処理の条件を想定した。また、酸洗処理の条件は、量産Agめっきラインにおける酸洗処理の条件の範囲内でエッチング量が多くなる条件とした。具体的には、量産Agめっきラインにおける酸洗処理でエッチングされる量(エッチング量)は一般的に50nm〜100nmである。従って、本実施例においても、酸洗工程でのエッチング量が50nm〜100nmとなるような処理条件とした。
【0071】
【表2】
【0072】
表2に示すように、陰極電解脱脂工程では、陽極としてSUS板を用い、水酸化ナトリウム20g/Lと、炭酸ナトリウム20g/Lとを含む水溶液中にて、液温を40℃とし、電流密度を5A/dm
2とし、処理時間を30秒として、各試料に電解脱脂処理を行った。陰極電解脱脂工程が終了した後、各試料を水洗した。その後、酸洗工程では、硫酸5wt%と、過硫酸カリウム10g/Lとを含む水溶液中に、水溶液の液温を室温として、各試料を10秒間水溶液に浸漬し、酸洗処理を行った。酸洗工程において、温度条件や過硫酸カリウム(酸化剤)の劣化等でエッチング速度が変動した場合は、エッチング量が50nm〜100nmとなるように、例えば酸洗処理の処理時間(浸漬時間)を適宜調整すればよい。
【0073】
<下地めっき層成長面の評価>
前処理工程が終了した実施例1〜9及び比較例1〜8の各試料について、各試料の下地めっき層成長面(すなわち圧延面)の評価を行った。前処理工程が終了した後に下地めっき層成長面の評価を行うことで、評価をより正確に行うことができる。
【0074】
(CI値が0.1以下である測定点の割合の算出)
まず、表3に示す条件で、実施例1〜9及び比較例1〜8の各試料の下地めっき層成長面のCI値が0.1以下である測定点の割合の算出を行った。その結果を、表1に示す。
【0075】
【表3】
【0076】
すなわち、表3に示すように、EBSD装置として、株式会社日立ハイテクノロジーズ製の走査型電子顕微鏡(SU−70)に装着された株式会社TSLソリューションズ製の結晶方位解析(OIM;Orientation Imaging Microscopy)装置を用いた。そして、各試料を70°傾斜させて保持し、EBSD装置を用い、各試料の下地めっき層成長面(圧延面)上の複数の測定点(照射点)に電子線を照射して、各測定点で回折パターン(電子後方散乱回折像)を得た。このとき、走査型電子顕微鏡の加速電圧を20kV、観察倍率を1000倍とした。また、EBSD装置により電子線を照射する際、各試料は、70°傾斜されて保持されている。このため、電子線照射位置(測定点)により焦点がシフトする。焦点が合わないまま測定すると、IQ(Image Quality)値が低くなり、適切な測定、解析ができなくなるため、傾斜焦点補正を行った。また、傾斜焦点補正は、観察倍率に合わせて正確に行った。そして、得られた結晶方位に基づいてIPFマップを作成した。また、得られた各測定点での回折パターンに基づいて、各測定点における結晶粒の結晶方位を測定して解析し、各測定点におけるCI値を算出して得た。
【0077】
次に、実施例1〜9及び比較例1〜8の各試料毎に、全ての測定点について得られたCI値に基づいて、観察領域における測定点の総数に対するCI値が0.1以下の測定点の割合を算出した。本実施例では、観察領域を90μm×120μmとし、測定間隔(ステップサイズ)を0.2μmとしたので、観察領域における測定点の総数は270,000点となる。
【0078】
(銅条の下地めっき層成長面の解析結果)
得られたIPFマップの一例を
図3に示す。
図3は、銅合金としてC194を用いた実施例1、実施例2、実施例9、比較例1及び比較例2の各試料のIPFマップである。
図3から、実施例1、実施例2及び実施例9の各試料の下地めっき層成長面は、非晶質な領域又は微細結晶粒領域が多く形成されていることを確認した。すなわち、実施例1、実施例2及び実施例9の各試料の下地めっき層成長面は、連続した複数の測定点が同じ結晶方位を示す、又は方位差が許容角度(Tolerance Angle;本実施例では5°)未満を示すため同一の結晶粒とみなされ、粒径の大きな結晶粒が形成されていると認識される箇所が点在しているが、観察領域のほとんどは、測定点毎にランダムな結晶方位を示す結晶粒により形成されていることを確認した。また、これら各試料の下地めっき層成長面は、非晶質な領域又は微細結晶粒領域が、観察領域内に均一に分布している、すなわち特定の箇所に偏って存在していないことを確認した。
【0079】
これに対し、比較例1及び比較例2の各試料の下地めっき層成長面には、粒径の大きな結晶粒が形成されていることを確認した。また、これらの結晶粒は、圧延方向(紙面の上下方向)に沿って所定長さに連続して形成されていることを確認した。すなわち、比較例1及び比較例2の各試料の下地めっき層成長面の結晶組織は、圧延方向と同じ方位の結晶方位や圧延方向に近い方位の結晶方位を持つ結晶粒が繋がっていることを確認した。
【0080】
(CI値の積算分布の解析結果)
また、実施例1、実施例2、実施例9、比較例1及び比較例2の各試料のCI値の積算分布の解析結果を
図4に示す。
図4は、CI値とCI値の積算割合との関係を示すグラフ図である。すなわち、
図4に示すグラフ図において、例えばCI値が0.3の箇所のCI値の積算割合とは、CI値が0.3以下である全ての測定点(例えばCI値が0.1や0.2である測定点も含む)の割合を示している。
図4及び表1から、所定の観察領域において、CI値が0.1以下である測定点の割合は、実施例1の試料では85%であり、実施例2の試料では68%であり、実施例9の試料では52%であり、比較例1の試料では37%であり、比較例2の試料では16%であることを確認した。また、
図4から、実施例1、実施例2及び実施例9の各試料では、CI値が0.1を超える測定点が少ないため、CI値が0.1を超えると、積算グラフの勾配がゆるやかになることを確認した。また、比較例1及び比較例2の各試料では、CI値が0.1を超える測定点が多いため、実施例1、実施例2及び実施例9の各試料の積算グラフと比べて、CI値が0.1を超える箇所のグラフの勾配が大きくなることを確認した。
【0081】
(銅条の下地めっき層成長面の評価結果)
図3及び
図4から、銅条の下地めっき層成長面は、CI値が0.1以下である測定点が多いほど、観察領域内に非晶質な領域又は微細結晶粒領域が多く形成されていることを確認した。すなわち、CI値が0.1以下である測定点は、非晶質な領域又は微細結晶粒領域であるため、結晶方位が正しく測定できない箇所であることを確認した。
【0082】
<反射率の評価>
次に、実施例1〜9及び比較例1〜8の各試料の下地めっき層成長面上に、表4に示す条件で下地めっき層を成長させて形成し、下地めっき層上に表面めっき層を成長させて形成してめっき付銅条をそれぞれ作製した。そして、表面めっき層の反射率を測定して評価した。
【0083】
【表4】
【0084】
(前処理工程)
すなわち、まず、実施例1〜9及び比較例1〜8の各試料に、表4に示す条件で、陰極電解脱脂工程と酸洗工程とを行い、試料の表面を清浄化する前処理を行った。すなわち、陰極電解脱脂工程では、陽極としてSUS板を用い、水酸化ナトリウム20g/Lと、炭酸ナトリウム20g/Lとを含む水溶液中にて、液温を40℃とし、電流密度を5A/dm
2とし、処理時間を30秒として、各試料に電解脱脂処理を行った。陰極電解脱脂工程が終了した後、各試料を水洗した。その後、酸洗工程では、硫酸5wt%と、過硫酸カリウム120g/Lとを含む水溶液中に、水溶液の液温を室温として、各試料を10秒間水溶液に浸漬し、酸洗処理を行った。酸洗工程において、温度条件や過硫酸カリウム(酸化剤)の劣化等でエッチング速度が変動した場合は、エッチング量が50nm〜100nmとなるように、例えば酸洗処理の処理時間(浸漬時間)を適宜調整すればよい。これにより、各試料の表面に形成されてしまった自然酸化膜や、各試料の表面に付着してしまった汚染物質を除去した。
【0085】
(下地めっき層形成工程)
次に、上述の前処理工程が終了した実施例1〜9及び比較例1〜8の各試料の下地めっき層成長面に、表4に示す条件で、所定厚さの下地めっき層を成長させて形成した。下地めっき層として、銅(Cu)めっき層又はニッケル(Ni)めっき層のいずれかを成長させた。なお、下地めっき層の目標めっき厚(目標成膜量)は1μmとした。
【0086】
すなわち、下地めっき層としてCuめっき層を形成する場合、下地めっき層形成工程では、陽極としてCu板を用い、硫酸銅5水和物200g/Lと、硫酸100g/Lとを含む水溶液中にて、液温を40℃とし、電流密度を5A/dm
2とし、処理時間を55秒として、下地めっき層を成長させて形成した。
【0087】
また、下地めっき層としてNiめっき層を形成する場合、下地めっき層形成工程では、陽極としてNi板を用い、硫酸ニッケル6水和物280g/Lと、塩化ニッケル6水和物45g/Lと、ホウ酸45g/Lとを含む水溶液中にて、液温を40℃とし、電流密度を5A/dm
2とし、処理時間を55秒として、下地めっき層を成長させて形成した。
【0088】
(表面めっき層形成工程)
続いて、下地めっき層を形成した実施例1〜9及び比較例1〜8の各試料に、表4に示す条件で、表面めっき層を成長させて形成した。すなわち、各試料の下地めっき層上に、表面めっき層としての銀(Ag)めっき層を成長させて形成した。なお、表面めっき層の目標めっき厚(目標成膜量)は3μmとした。
【0089】
すなわち、表面めっき層形成工程では、シアン化銀36g/Lと、シアン化カリウム60g/Lと、炭酸カリウム15g/Lと、セレンシアン酸カリウム70mg/Lとを含む水溶液中にて、液温を室温とし、電流密度を4A/dm
2とし、処理時間を210秒として、表面めっき層としてのAgめっき層を成長させて形成した。
【0090】
(反射率の測定)
次に、実施例1〜9及び比較例1〜8の各試料を用いて作製しためっき付銅条の反射率の測定を行った。反射率の測定は、表面めっき層形成工程終了後の各試料について行った。すなわち、反射率の測定は、下地めっき層及び表面めっき層が形成された各試料について行った。各試料の反射率の測定は、表5に示す条件で、以下に示すように行った。
【0091】
【表5】
【0092】
表5に示すように、反射率を測定する装置として、オーシャンフォトニクス株式会社製の装置を組み合わせたものを用いた。そして、照射光の波長を350nm〜850nmの範囲で変えて、各波長での反射率をそれぞれ測定した。まず、標準板である鏡面板の表面に350nm〜850nmの波長をそれぞれ照射し、各波長での反射光量をそれぞれ測定した。次に、実施例1〜9及び比較例1〜8の各試料の表面めっき層の表面に、350nm〜850nmの波長をそれぞれ照射し、各波長での反射光量をそれぞれ測定した。そして、各波長における標準板の反射光量に対する各試料の反射光量の比率を算出し、これを各試料の反射率(%)とした。すなわち、各試料の反射率(%)は、標準板の反射率を100%としたときの相対反射率で表した。従って、反射率が100%を超える場合は、標準板よりも反射光量が多かったことを意味し、入射光よりも多くの光が反射されたという意味ではない。なお、本実施例では、簡便のため、人間の目における感度が高い波長550nmでの反射率で比較した。その結果を、表1に示す。
【0093】
(反射率の評価)
図5に、各波長における実施例1及び比較例2の各試料を用いて形成しためっき付銅条の反射率の測定結果をグラフ図で示す。
図5から、実施例1の試料を用いて形成しためっき付銅条は、比較例2の試料を用いて形成しためっき付銅条と比べて、全可視光波長域にわたって(すなわち、いずれの波長においても)反射率が高くなることを確認した。例えば、人間の目における感度が最も高い550nmの波長の光を照射した際、実施例1の試料を用いて形成しためっき付銅条の反射率は113%であるのに対し、比較例2の試料を用いて形成しためっき付銅条の反射率は98%であった。なお、上述したように、反射率は、標準板の反射光量を100%としたときの相対反射率である。従って、反射率が113%であるとは、標準板よりも13%多く反射したことを意味する。
【0094】
また、
図6(a)に、実施例1の試料を用いて形成しためっき付銅条の表面めっき層の表面のSEM画像の一例を示し、
図6(b)に比較例2の試料を用いて形成しためっき付銅条の表面めっき層の表面のSEM画像の一例を示す。
図6から、実施例1の試料を用いて形成しためっき付銅条の表面めっき層の表面は、比較例2の試料を用いて形成しためっき付銅条と比べて、平坦で均一であり、平滑度が高いことを確認した。これに対し、比較例2の試料を用いて形成しためっき付銅条の表面めっき層の表面には、圧延方向(紙面の左右方向)に沿って、山脈状の凸部が形成され、平滑度が低いことを確認した。
【0095】
また、
図5と
図6とを比較することで、銅条の下地めっき層成長面に非晶質な領域又は微細結晶粒領域が形成されていると、下地めっき層の成長速度が下地めっき層成長面で面内均一になることを確認した。これにより、下地めっき層が下地めっき層成長面上に面内均一に成長されるため、下地めっき層の表面が平坦になることを確認した。その結果、下地めっき層上に、表面が平坦な表面めっき層(Agめっき層)を形成でき、表面めっき層の反射率を高くできることを確認した。
【0096】
<総合評価>
表1から、実施例1〜9にかかる試料を用いて形成しためっき付銅条は、標準板と比較して、反射率が高くなることを確認した。すなわち、CI値が0.1以下である測定点の割合が50%以上である試料は、銅条の形成材料によらず、反射率が108%〜116%となることを確認した。このことから、実施例1〜9にかかる試料のように、下地めっき層成長面に非晶質な領域又は微細結晶粒領域が形成されていると、下地めっき層の成長速度が下地金属成長面で面内均一となり、下地めっき層の表面が平坦になることを確認した。その結果、下地めっき層上に形成される表面めっき層(Agめっき層)の表面が平坦となり、反射率が高くなることを確認した。
【0097】
このような実施例1〜9にかかる各試料が例えばLED(LEDモジュール)に用いられると、LEDの光学性能の評価が高くなる。すなわち、例えば、LEDの光学性能の評価を、積分球を用いて測定した全光束によって行う場合、高い全光束を得ることができる。なお、表面めっき層の反射率が高いほど、LEDの光学性能の評価は高くなる、すなわち全光束が大きくなる。
【0098】
これに対し、比較例1〜8にかかる試料を用いて形成しためっき付銅条は、標準板と比較して、反射率が低くなることを確認した。すなわち、CI値が0.1以下である測定点の割合が50%未満である試料は、反射率が95%〜99%となることを確認した。このことから、銅条の下地めっき層成長面が、結晶性が高い領域(非晶質な領域又は微細結晶粒領域でない領域)が多い面であると、下地めっき層が、下地めっき層成長面の結晶粒(結晶組織)の結晶方位に起因してエピタキシャルに成長され、下地めっき層成長面で、下地めっき層の成膜量に差が生じてしまうことを確認した。すなわち、比較例1〜8にかかる試料では、下地めっき層成長面で下地めっき層の成長速度が面内均一にならないことを確認した。従って、下地めっき層が下地めっき層成長面上に面内均一に成長されず、下地めっき層の表面が平坦ではなくなることを確認した。その結果、比較例1〜8にかかる試料では、下地めっき層上に形成される表面めっき層の表面に山脈状の凸部が形成されてしまい、平滑度が低くなることを確認した。これにより、比較例1〜8の試料では、表面めっき層の反射率が低くなることを確認した。