【実施例】
【0070】
実施例:
戦略:
以下の特定の実施例において使用した形質転換 DNA コンストラクトは、相同なプロモーターの最初の 700-1000 bp および Flp リコンビナーゼの発現を駆動する強く調節される特異的に突然変異誘発された AOX1 プロモーター、その後に続く転写ターミネーターおよび抵抗性マーカーカセット、さらにその後に続く異なった調節をされる特異的に突然変異誘発された AOX1 プロモーターならびに該相同な遺伝子の最初の 500-1000 bp からなる。リコンビナーゼ認識部位は、該相同なプロモーターの最初の 100-300 bp (天然の PDI プロモーターがおよそ 1000 bp からなり得るとの仮定に基づく)の後であって、且つ第2の特定の AOX1 プロモーターのすぐ上流(且つ制限マーカーカセットの下流)に位置している。
【0071】
予想される(envisaged)座位(相同な隣接領域(flanking region)によって事前に決定される)における形質転換コンストラクトのゲノム挿入の後、上流の強力な誘導性プロモーターによって調節されるリコンビナーゼ遺伝子の転写を誘導するため、コロニーをメタノール含有培地に供する。Flp リコンビナーゼは、Flp リコンビナーゼ認識部位に作用し、それにより、相同なプロモーターのほとんど、強力な誘導性 AOX1 プロモーター変異体ならびに抵抗性マーカーカセット全体を切除し、相同なプロモーターの残余画分(residual fraction)および対象とする相同な遺伝子を駆動する異なった調節をされる特異的に突然変異誘発された AOX1 プロモーターを残す。
【0072】
上記の戦略を用いる PDI 遺伝子転写産物のレベルの有意な増大の検証のために、ヒト血清トランスフェリンならびに N-グリコシル化モチーフを有さない突然変異誘発された変異体非グリコシル化トランスフェリンの合成遺伝子は、理想的なモデルタンパク質であった: 組換え発現カセットからの PDI の共発現がなければ、いずれのタンパク質も分泌され得ない。この原因は、天然の ER抵抗性 PDI タンパク質によっては十分に触媒され得ない、分泌を受容できるインタクトなタンパク質に関して形成される 19 個という非常に多数のジスルフィド結合である可能性が非常に高い。明らかに、異種性過剰発現によって追加の酵素を供給すると、ER におけるトランスフェリンおよび非グリコシル化トランスフェリンの翻訳後修飾は、正しくフォールディングされたタンパク質の分泌を可能にする程度に機能する。
【0073】
株
Ausubel, F.M., et al. (2003) Current Protocols in Molecular Biology; John Wiley & Sons, New York, US に従って標準的な分子生物学的手法を実施した。
【0074】
全ての大腸菌クローニング実験において大腸菌(E. coli) DH5α (NEB、USA) を用いた。
【0075】
muts表現型(Δaox1遺伝子型)を有するピキア・パストリス株 CBS7435 を、全ての酵母実験において宿主として用いた(例えば Cregg and Madden in Stewart, Russell, Klein and Hiebsch (Eds) Biological Research on Industrial Yeast, vol II (1987), CRC Press, pp 1-18 を参照)。
【0076】
化合物および培地
特に断りの無い限り、全ての化合物は Carl Roth GmbH (ドイツ) および Becton, Dickinson and Company (USA)からそれぞれ購入した。滅菌水は Fresenius Kabi (オーストリア)から購入した。
【0077】
具体的に言及しない限り、全ての培地および成分は Pichia タンパク質発現キット(Invitrogen、USA)のプロトコールに従って調製した。
【0078】
ピキア・パストリス(P. pastoris)の形質転換、Pichia の生育条件および陽性クローンの選択
“Pichia 発現キット”(Invitrogen)に従い、標準的エレクトロポレーションプロトコールを用いてピキア・パストリスを形質転換した。ピキア・パストリスのゲノムへの発現プラスミドの付加のために、制限酵素、例えば BglII または SacI(いずれも NEB、USA から購入したもの)を用いてプラスミドDNA(1-10μg)を直鎖化し、室温で60 分間、滅菌水に対しニトロセルロースフィルター(0.0025μm、Millipore、USA)を用いる透析によって脱塩した。
【0079】
形質転換の後、分注した 100 μl を、100 μg/ml のゼオシンが補充された YPD 寒天プレート上に播種し、30℃で 2日間インキュベートした。
【0080】
ピキア・パストリスのゲノム中における発現カセットの存在をコロニー PCR によって確認した。ゼオシン抵抗性クローンを、コロニー PCR 解析のために、非選択性培地上に再度プレーティングした。単一のコロニーを 100 μl の滅菌水に再懸濁させ、95℃まで 5 分間加熱し、卓上遠心機において最高速度で 1 分間遠心した。10 μl の上清を、0.2 mM dNTPs、1x反応バッファー(Qiagen、Germany)、1.2 U の HotStar Taq ポリメラーゼ(Qiagen)、各々 200 nM のプライマー PPDI5_for (5'-ccaaaaccaggtgtgtcaatc-3') および PDIgene_rev (5'-cgactggtctgagtgctagg-3') を含む 50 μl の反応の鋳型として用いた。PCR には以下のプログラムを用いた: 95℃で 15 分、95℃で 30 秒を 30 サイクル、61℃で 1 分および 72℃で 3.5 分、その後 72℃で 10 分の最終伸長工程。得られた PCR 産物の正体を DNA 配列決定によって検証した。
【0081】
(Weis et al、FEMS YR 2004)に従って、酵母培養を、YPD 培地 (1% w/v 酵母抽出物、2% w/v ペプトンおよび 2% w/v グルコース)、最小デキストロース(MD)培地 (1.34% Yeast Nitrogen Base YNB、4 x 10-5% ビオチンおよび 1% グルコース)、最小メタノール(MM)培地 (1.34% YNB、4 x 10-5% ビオチンおよび 0.5% メタノール)、緩衝MD(BMD)培地 (200 mM リン酸ナトリウムバッファー pH 6.0 を含有)または MMと比較して2倍濃度(1%メタノールを含むBMM2)もしくは10倍濃度(5%メタノールを含むBMM10)のメタノールを有する緩衝MM培地のいずれかにおいて生育させた。プレート用培地は、1.5% w/v まで寒天を添加することにより凝固させた。
【0082】
スケールアップ
Cino, J. High Yield Protein Production from Pichia pastoris Yeast: A Protocol for Benchtop Fermentation, New Brunswick Scientific, Edison, NJ. に記載されているプロトコールと同様にしてピキア・パストリスの発酵を行った。グリセロールの供給(feed)の終了時に、供給速度を調整することによってメタノール濃度(オフライン(off-line)メタノール解析)を 1% 前後に保つ目的でメタノール供給を開始した。あるいは、メタノールを供給する代わりに、プロセス時間全体において、メタノール誘導発酵の古典的なグリセロール流加(fed-batch)期間と同じ速度でグリセロールを供給した。pH値を 5.5 に設定し、アンモニアによって制御した。溶存酸素を、主として撹拌機の速度によって制御し、通気速度(aeration rate)によって補助することで 30% より高く維持した。温度を 20-28℃に設定した。細胞の乾燥重量を Whittaker, M.M. and Whittaker, J.M. (2000) Protein, Expr. Pu-rif. 20, 105-111 に記載されている通りに決定した。
【0083】
分泌された標的タンパク質の測定
それぞれマイクロスケール(microscale)またはバイオリアクターにおける培養の後、上清サンプル(遠心により細胞を分離することによって得たもの)を、製造者の説明書に従って微少流体(microfluidic)キャピラリー電気泳動(GXII、Caliper Life Sciences、USA)によって解析した。内部および外部標準との標的タンパク質ピークの比較により、培養上清における標的タンパク質の収量を得た。
【0084】
実施例 1: 天然のタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)プロモーターと PDI 遺伝子の間における特異的に突然変異誘発された AOX1 プロモーターのプロモーター同時組み込み(co-integration)カセットの構築
形質転換される DNA コンストラクトは、相同な PDI プロモーターの最初の 500 bp (3' 末端から)(天然の PDI プロモーターがおよそ 1000 bp からなり得るとの仮定に基づく)、および Flp リコンビナーゼの発現を駆動する、特異的に調節される突然変異誘発された AOX1 プロモーター(WO 2006/089329; 配列番号1に由来)、その後に続く CYC1 転写ターミネーターおよびゼオシン抵抗性カセット(大腸菌においては EM72 プロモーターにより、ピキア・パストリスにおいては ILV5 プロモーターおよび AOD 転写ターミネーターにより機能的である)、さらにその後に続く相同な PDI 遺伝子の最初の 500 bp からなる。リコンビナーゼの認識部位は、該特異的 AOX1 プロモーターの後であって、且つ相同な PDI 遺伝子のすぐ上流に位置している(
図1)。この DNA 断片を、合成により作成される DNA として DNA2.0 (Menlo Park、USA)に注文した。
【0085】
実施例 2: CBS7435 muts へのプロモーター組み込みコンストラクトの形質転換、ゲノム配置(genomic constellation)の確認、メタノール培地上での増殖、ならびにカセットの切除および確認
形質転換および寒天プレート上での選択の後、コロニー PCR により、20 個のコロニーが、組み込まれた形質転換カセットを正しいゲノム上の配向で保有していることを確認した。
【0086】
クローンを 5 日間(大きな単一のコロニーが形成されるまで)、最小メタノール寒天プレートに移し、これを全部で 3 回連続して行った。その後、FRT 部位の間の DNA 領域(相同なプロモーター領域のほとんどの部分、強力な誘導性 AOX1 プロモーターおよび Flp リコンビナーゼ、抵抗性マーカーカセット)の切除を、選択マーカー(ゼオシン)を含む YPhyD プレート上での逆再ストリーク(counter-restreaking)によってチェックした: 陽性クローン、即ち切除が起こったクローンはこれらのプレート上で生育することができなかった。コロニー PCR により、残存している FRT 部位および(インタクトな)PDI遺伝子がこれに続く特異的に突然変異誘発された AOX1 プロモーターの上流における、相同な PDI プロモーターの存在が証明された(
図2、配列番号2)。
【0087】
配列番号 2: ゲノム PDI 座位について得られた配列
太字: 天然の PDI プロモーター領域 (非改変株における天然の PDI 遺伝子の 1000 bp 上流)
イタリック体: 突然変異誘発された AOX1 プロモーター
標準書体: 5' kozak 配列を有する天然の PDI 遺伝子 (最初の 892 塩基)
下付き文字: FRT 部位
【化4】
【0088】
実施例 3: マイクロスケールにおける、メタノール誘導条件下での相同な PDI の上昇したレベルを有する株におけるトランスフェリンの分泌生産
トランスフェリン(配列番号3)および非グリコシル化トランスフェリン(配列番号4; 両方の N-グリコシル化モチーフを突然変異させる部位特異的二重突然変異誘発によって作成された非グリコシル化トランスフェリン)をコードする遺伝子を、WO 2006/089329 において同定されている配列番号 1 のヌクレオチド 170 から 235 の欠失を含む特異的に突然変異誘発された AOX1 プロモーター(WO 2006/089329)の制御下にある未処理の宿主 CBS7435 muts および上記の相同な PDI の上昇したレベルを有する可能性がある対応する株のゲノムに組み込んだ。両方のトランスフェリン変異体の遺伝情報の存在をコロニー PCR (PAOX1 と結合するフォワードプライマー、最初の 80 bp 以内において両方のトランスフェリン遺伝子と結合するリバースプライマー) によって証明した。マイクロスケールにおいて培養すると、基本の株である CBS7435 muts 宿主および相同な PDI の上昇したレベルを有する可能性がある対応する株のいずれも、いかなる形態においても(微少流体キャピラリー電気泳動によって検出できるレベルまで)トランスフェリンを分泌することができなかった。
【0089】
プライマー配列 (配列番号8)
5' CAGCACACCATCTAACAG 3'
【0090】
配列番号3: トランスフェリン
【化5】
【0091】
配列番号4: 非グリコシル化トランスフェリン
【化6】
【0092】
実施例 4: 特異的に突然変異誘発された AOX1 プロモーターによる天然のタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)プロモーターのプロモーター置換カセットの構築
形質転換される DNA コンストラクトは、相同な PDI プロモーターの最初の 1000 bp (天然の PDI プロモーターがおよそ 1000 bp からなり得るとの仮定に基づく)、および Flp リコンビナーゼの発現を駆動する特異的に調節される突然変異誘発された AOX1 プロモーター(WO 2006/089329)、その後に続く CYC1 転写ターミネーターおよびゼオシン抵抗性カセット(大腸菌においては EM72 プロモーターにより、ピキア・パストリスにおいては ILV5 プロモーターおよび AOD 転写ターミネーターにより機能的である)、さらにその後に続く異なった調節をされる特異的に突然変異誘発された AOX1 プロモーター(WO 2006/089329)および相同な PDI 遺伝子の最初の 500 bp からなる。リコンビナーゼの認識部位は、相同なプロモーターの最初の 300 bp の後であって、且つ第2の特異的 AOX1 プロモーターのすぐ上流に位置している(
図3)。この DNA 断片を、合成により作成される DNA として DNA2.0 (Menlo Park、USA) に注文した。
【0093】
実施例 5: CBS7435 muts へのコンストラクトの形質転換、ゲノム配置の確認、メタノール培地上での増殖、ならびにカセットの切除および確認
形質転換および寒天プレート上での選択の後、コロニー PCR により、20 個のコロニーが、組み込まれた形質転換カセットを正しいゲノム上の配向で保有していることを確認した。
【0094】
クローンを 5 日間(大きな単一のコロニーが形成されるまで)、最小メタノール寒天プレート上に移し、これを全部で 3 回連続して行った。その後、FRT 部位の間の DNA 領域(相同なプロモーター領域のほとんどの部分、強力な誘導性 AOX1 プロモーターおよび Flp リコンビナーゼ、抵抗性マーカーカセット)の切除を、選択マーカー(ゼオシン)を含む YPhyD プレート上での逆再ストリークによってチェックした: 陽性クローン、即ち切除が起こったクローンはこれらのプレート上で生育することができなかった。コロニー PCR により、相同なプロモーターの上流部分のみ、ならびに隣接する特異的 AOX1 プロモーターおよび相同な PDI 遺伝子の存在が証明された(
図4、配列番号5)。
【0095】
配列番号5: ゲノム PDI 座位について得られた配列
太字: 切断された天然の PDI プロモーター領域 (天然の PDI 遺伝子の 1000 bp 上流にある元の位置の塩基から開始)、残り 333 bp
イタリック体: 突然変異誘発された AOX1 プロモーター
標準書体: 5' kozak 配列を有する天然の PDI 遺伝子 (最初の 892 塩基)
下付き文字: FRT 部位
【化7】
【0096】
抵抗性カセットの切除により、この抗生物質上での逆選択(counter-selection)は、負の生育挙動(即ち、抗生物質に対する抵抗性の欠如)によって陽性株を明らかにした。さらに、コロニー PCR により、意図したゲノム配置が確認された。陽性株の1つを選択し、CBS7435 muts PDI プラットフォームと命名した。
【0097】
実施例 6: マイクロスケールにおける、メタノール誘導条件下での相同な PDI の上昇したレベルを有する株におけるトランスフェリンの分泌生産
トランスフェリンおよび非グリコシル化トランスフェリン(実施例3を参照)をコードする遺伝子を、特異的に突然変異誘発された AOX1 プロモーター(WO 2006/089329)の制御下にある未処理の宿主 CBS7435 muts および上記の相同な PDI の上昇したレベルを有する可能性がある対応する株のゲノムに組み込んだ。両方のトランスフェリンの遺伝情報の存在を、コロニー PCR (PAOX1 と結合するフォワードプライマー、最初の 80 bp 以内において両方のトランスフェリン遺伝子と結合するリバースプライマー)によって証明した。マイクロスケールにおいて培養すると、基本の株である CBS7435 muts 宿主はいかなる形態においても(微少流体キャピラリー電気泳動によって検出できるレベルまで)トランスフェリンを分泌することができなかったが、相同な PDI の上昇したレベルを有する可能性がある株は、上清において検出可能な両方のトランスフェリン変異体を生産した(表1、
図5および6)。この事は、基本の株とは反対に、特異的に突然変異誘発された PAOX1 によって PDI 活性を両方のトランスフェリン変異体のフォールディング/分泌を促進するのに十分な高さに増大させたことを示すものである。
【0098】
【表1】
【0099】
実施例 7: バイオリアクター培養における、メタノール誘導条件下での相同な PDI の上昇したレベルを有する株におけるトランスフェリンおよび非グリコシル化トランスフェリンの分泌生産
組み込まれたトランスフェリンおよび非グリコシル化トランスフェリン発現カセットならびに証明された分泌速度(非分泌型 CBS7435 muts 株と比較して)を有する CBS7435 muts PDI プラットフォーム株を、1L のバイオリアクターにおいて制御された条件下で培養した。109 時間の全プロセス時間(90時間のメタノール誘導)の後、発酵上清を微少流体キャピラリー電気泳動によってアッセイした。希釈系列の作成ならびに内部および外部標準との比較の後、高い濃度の両方のタンパク質を検出することができた(表2)。
【0100】
【表2】
【0101】
実施例 8: 基本の CBS7435 muts 株および相同な PDI の潜在的に上昇したレベルを有する株における相同な PDI の転写産物レベルの測定
転写産物のレベル(存在する mRNA とハイブリダイズした特異的プライマーに基づく)を、回分段階(batch phase)(グリセロールが大量に存在)、グリセロール流加段階(fed-batch phase)(グリセロールが抑制解除量で存在)およびメタノール誘導段階(組換えタンパク質の生産段階)中のいくつかの時点における発酵サンプルから解析した (PlexPress、Helsinki、Finland)。等しいバイオマス量の CBS7435 muts および組み込まれた組換え発現カセットを有さない CBS7435 muts PDI プラットフォーム。代謝的に活性な細胞と関連させるため、ハウスキーピング遺伝子の発現レベルとの比較によってさらに標準化を行った。
【0102】
回分段階(高グリセロール)の間、天然の PDI1 遺伝子の mRNA レベルは CBS7435 muts 株において上昇したが(CBS7435 muts PDI プラットフォーム株における PDI1 遺伝子の発現を調節する特異的 AOX1 プロモーターに対するグリセロールの抑制効果のため)、抑制解除条件下(グリセロール流加)およびメタノール誘導(組換えタンパク質の生産段階)の全工程においては、天然の PDI1 遺伝子の mRNA レベルは、CBS7435 muts とは反対に、CBS7435 muts PDI プラットフォーム株において 60 倍増大した。
【0103】
実施例 9: マイクロスケールにおけるメタノール誘導条件下およびバイオリアクター条件下における、相同な PDI の上昇したレベルを有する株におけるインターロイキン-2 およびヒト血清アルブミン(HSA)の分泌生産
トランスフェリンおよび非グリコシル化トランスフェリンに関する上記の実施例と同様に、インターロイキン-2 (配列番号6) または HSA (配列番号7) 用の発現カセットを、特異的に突然変異誘発された AOX1 プロモーター(WO 2006/089329)の制御下にある未処理の宿主 CBS7435 muts および上記の相同な PDI の上昇したレベルを有する対応する株のゲノムに形質転換した。両方の遺伝子の遺伝情報の存在を、コロニー PCR (PAOX1 と結合するフォワードプライマー、最初の 80 bp 以内においてインターロイキン-2 または HSA 遺伝子と結合するリバースプライマー) によって証明した。
【0104】
マイクロスケールにおいて培養すると、両方の株(基本株 CBS7435 muts および相同な PDI の上昇したレベルを有する株)がインターロイキン-2 または HSA を分泌したが、バイオリアクター条件下では、CBS7435 muts PDI プラットフォーム株によって、ほぼ 2倍高い HSA の収量および 4倍高いインターロイキン-2 の収量が達成された。
【0105】
プライマー HSA (配列番号9)
5' GGTCCTTGAATCTATGAG 3'
プライマー IL2 (配列番号10)
5' CGTAGAAGAAGAGGTTGG 3'
【0106】
配列番号 6 IL-2
【化8】
【0107】
配列番号 7 HSA
【化9】
【0108】
要約:
PDI プロモーター(5'相同性)および PDI 遺伝子の始めの部分(3'相同性)における組換えカセットの正しい二重交差は、天然の PDI プロモーターと天然の PDI 遺伝子の間におけるリコンビナーゼ発現カセット、抵抗性カセットおよび特異的 AOX1 プロモーター変異体の挿入組込みをもたらした。グリセロールまたはグルコース上における継続的生育は、リコンビナーゼの発現を駆動する AOX1 プロモーター変異体からの転写を強く抑制し、そのため、かかる条件下では切除は起こらなかった。
【0109】
メタノール含有培地上で生育させると、リコンビナーゼ遺伝子の転写が始まり、続いて2つの Flp リコンビナーゼ認識部位の間の DNA 断片の切除がもたらされ、それにより天然の PDI プロモーターの大部分、リコンビナーゼ発現カセットおよび抵抗性カセットが切除され、天然の PDI 遺伝子のすぐ上流の特異的に突然変異誘発された AOX1 プロモーターのみが残る。
【0110】
天然の PDI プロモーターと PDI 遺伝子の間における特異的に突然変異誘発された PAOX1 の直接組み込みを用いる別のアプローチにおいては、トランスフェリンおよび非グリコシル化トランスフェリンの発現は不可能であった。これは、上流の天然の PDI プロモーターによってもたらされる抑制効果、または突然変異誘発された AOX1 プロモーターと PDI 遺伝子の間に残存する FRT 部位によってもたらされる突然変異誘発された PAOX1 からの PDI 遺伝子の非効率的転写に起因し得る。
【0111】
抵抗性カセットの切除により、この抗生物質上での逆選択は、負の生育挙動(即ち、抗生物質に対する抵抗性の欠如)によって陽性株を明らかにした。さらに、コロニー PCR により、意図したゲノム配置が確認された。陽性株の1つを選択し、CBS7435 muts PDI プラットフォームと命名した。
【0112】
親株である CBS7435 muts および新たに作成した CBS7435 muts PDI プラットフォームを、組換え発現カセットからのいかなる標的遺伝子の異種性発現をも伴わず、1L のバイオリアクターにおいて、制御された古典的なメタノール誘導条件下で培養した。培養の異なる時点における両方の株の天然の PDI の転写産物レベルにより、グリセロール回分条件下において、PDI1 遺伝子の mRNA の存在が CBS7435 muts PDI プラットフォームと比較して親株においてより高いことが明らかとなった。低レベルのグリセロールを供給した場合ならびにメタノール誘導条件下においては、CBS7435 muts と比較して CBS7435 muts PDI プラットフォーム株において有意に多い mRNA (60倍) が存在していた。
【0113】
トランスフェリンおよび/または非グリコシル化トランスフェリンの分泌発現のための、増大したレベルの天然の PDI の必要量を検証するため、両方の遺伝子を、両方の株、即ち CBS7435 muts および CBS7435 muts PDI プラットフォームに(別々に)形質転換した。マイクロスケール培養の後、上清を微少流体キャピラリー電気泳動によって解析した。CBS7435 muts においては標的タンパク質を検出できなかったが、CBS7435 muts PDI プラットフォームは、明らかに、両方のタンパク質を効率的に分泌するのに十分な天然のPDIを(導入された AOX1 プロモーター変異体の転写過剰調節(over-regulation)によって)生産した(
図5および6)。制御されたメタノール誘導条件下におけるバイオリアクター培養により、高度にジスルフィド結合した(highly disulfide-bonded)両方の標的タンパク質の高濃度での存在が確認された。
【0114】
メタノールを含まない条件下におけるトランスフェリンおよび非グリコシル化トランスフェリンの増大した生産への特異的 AOX1 プロモーター変異体(WO 2006/089329)の適用も、発現のために CBS7435 muts PDI プラットフォーム株を用いるマイクロスケールおよびバイオリアクター条件において効率的に機能することが証明された。
【0115】
CBS7435 muts 株、即ち天然の PDI の増大または異種性 PDI の過剰生産を伴わない株によっても高レベルで生産される標的タンパク質、例えばヒト血清アルブミン(HSA)に対しても、CBS7435 muts PDI プラットフォーム株は生産レベルを増大させる手段を提供する。CBS7435 muts において培養上清中に 8g/L の HSA が生産された一方、CBS7435 muts PDI プラットフォームは、使用したプロモーター、組み込まれた発現カセットのコピー数および培養条件に関して同一の条件下で 14g/L の HSA を分泌した。
【0116】
HSA は 17 個のジスルフィド結合の形成を必要とするものであるため、その天然のフォールディングのために 1 個のみのジスルフィド結合が形成されることを要するさらなるモデルタンパク質を試験した。インターロイキン-2 は、バイオリアクターにおいて制御された条件下で、CBS7435 muts PDI プラットフォーム株から、CBS7435 muts 株と比較して 4 倍高い収量で発現した。
【0117】
実施例 10: 組換え発現される1コピーの“天然の”PDI を有する株および改変を有さない野生型株における分泌生産との直接
比較における、マイクロスケールにおけるメタノール誘導条件下での、相同な PDI の上昇したレベルを有する株における HSA融合タンパク質(HSA-インターフェロン(アルファ2a))の分泌生産。
上記の実施例と同様に、特異的に突然変異誘発された AOX1 プロモーター(WO 2006/089329)の制御下にある HSA-インターフェロン(アルファ2a)(配列番号16)の発現カセットを、未処理の宿主 CBS7435 muts および上記の相同な PDI の上昇したレベルを有する対応する株のゲノムに形質転換した。さらに、HSA-インターフェロン(アルファ2a)の発現カセット、ならびに相同な PDI の上昇したレベルを有する株において天然の PDI 遺伝子の発現を制御している同一の突然変異誘発された AOX1 プロモーターの制御下にある天然の PDI 遺伝子の発現カセットを有する異なるプラスミドの両方を用いて、未処理の宿主株 CBS7435 muts を形質転換した。導入された全ての遺伝子の遺伝情報の存在を、コロニー PCR (PAOX1 と結合するフォワードプライマー、最初の 80 bp 以内においてインターフェロン(アルファ2a)または HSA 遺伝子と結合するリバースプライマー) によって証明した。組換えにより導入された天然の PDI 遺伝子の遺伝情報の存在を、コロニー PCR (天然の PDI 遺伝子と結合するフォワードプライマー、ジェネテシンに対する抵抗性マーカーと結合するリバースプライマー)によって証明した。
【0118】
マイクロスケールで培養すると、3 つ全ての株 (基本の株 CBS7435 muts、相同な PDI の上昇したレベルを有する株、および組換えによって天然の PDI をも共発現する基本の株) が HSA-インターフェロン(アルファ2a)を分泌した。組換えによる天然の PDI 遺伝子の共発現は、基本の株 CBS7435 muts と比較して HSA-インターフェロン(アルファ2a)の分泌レベルを〜60%増大させたが、相同な PDI の上昇したレベルを有する株は、組換えにより天然の PDI をも共発現する基本の株と比較してさらに力価を 57% 増強させた(
図7)。
【0119】
プライマー インターフェロン(アルファ2a) (配列番号13)
5' CTTGAACCCAATGAGTGTG 3'
プライマー 天然の PDI (配列番号14)
5' GAAGCTGAAGAAGAAGCTG 3'
プライマー 抵抗性マーカー (配列番号15)
5' GATTGTCGCACCTGATTGCC 3'
【0120】
配列番号16 HSA-インターフェロン(アルファ2a)
標準書体: HSA
下線付き: インターフェロン(アルファ2a)
【化10】
【0121】
実施例 11: 組換え発現される1コピーの“天然の”Karを有する株および改変を有さない野生型株における分泌生産との直接比較における、マイクロスケールにおけるメタノール誘導条件下での相同な Kar2 の上昇したレベルを有する株における Fab(抗原結合性断片)分子の分泌生産。
上記の実施例と同様に、特異的に突然変異誘発された AOX1 プロモーター(WO 2006/089329)の制御下にある Fab の軽鎖(配列番号20)および Fab の重鎖(配列番号21)の発現カセットを、未処理の宿主 CBS7435 muts および相同な Kar2 の上昇したレベルを有する対応する株のゲノムに形質転換した。さらに、軽鎖および重鎖の発現カセット、ならびに相同な Kar2 の上昇したレベルを有する株において天然の Kar2 遺伝子の発現を制御している同一の突然変異誘発された AOX1 プロモーターの制御下にある天然の Kar2 遺伝子の発現カセットを有する異なるプラスミドを用いて、未処理の宿主株 CBS7435 muts を形質転換した。導入された全ての遺伝子の遺伝情報の存在を、コロニー PCR (PAOX1 と結合するフォワードプライマー、最初の 80 bp 以内において軽鎖および重鎖遺伝子と結合するリバースプライマー)によって証明した。組換えにより導入された天然の Kar2 遺伝子の遺伝情報の存在を、コロニー PCR (天然の PDI 遺伝子と結合するフォワードプライマー、ジェネテシンに対する抵抗性マーカーと結合するリバースプライマー)によって証明した。
【0122】
マイクロスケールで培養すると、3 つ全ての株 (基本の株 CBS7435 muts、相同な Kar2 の上昇したレベルを有する株、および組換えにより天然の Kar2 をも共発現する基本の株) が Fab を分泌した。組換えによる天然の Kar2 遺伝子の共発現は、基本の株 CBS7435 muts と比較して Fab の分泌レベルを〜47%増大させたが、相同な Kar2 の上昇したレベルを有する株は、組換えにより天然の Kar2 をも共発現する基本の株と比較してさらに力価を 27% 増強させた(
図8)。
【0123】
プライマー Fab 軽鎖 (配列番号17)
5' CAGAAACGGAAGGAGGTTG 3'
プライマー Fab 重鎖 (配列番号18)
5' CTGACTTCAGCTCCAGATTG 3'
プライマー Kar2 (配列番号19)
5' GTACTCCACCTGGTGGTC 3'
【0124】
配列番号 20 Fab 軽鎖
【化11】
【0125】
配列番号 21 Fab 重鎖
【化12】