(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6085706
(24)【登録日】2017年2月3日
(45)【発行日】2017年2月22日
(54)【発明の名称】抗トリトリコモナス剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4178 20060101AFI20170213BHJP
A61P 33/02 20060101ALI20170213BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20170213BHJP
【FI】
A61K31/4178
A61P33/02 171
A61P33/02
A61K9/14
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-70255(P2016-70255)
(22)【出願日】2016年3月31日
【審査請求日】2016年3月31日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507029007
【氏名又は名称】株式会社ポーラファルマ
(73)【特許権者】
【識別番号】000232623
【氏名又は名称】日本農薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(74)【代理人】
【識別番号】100151596
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 俊明
(72)【発明者】
【氏名】宮田 善之
(72)【発明者】
【氏名】増田 孝明
【審査官】
常見 優
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/147584(WO,A1)
【文献】
国際公開第2014/167554(WO,A1)
【文献】
特表2016−504987(JP,A)
【文献】
特表2011−526264(JP,A)
【文献】
特開2014−074008(JP,A)
【文献】
特開2014−172858(JP,A)
【文献】
特開昭60−218387(JP,A)
【文献】
Journal of Pharmacy and Pharmacology,1964年,Vol.16, Issue.12,p.801-809
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
A61P 33/02
A61K 9/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が100μm以下である(但し、90%粒子径が30μm以下のものを除く)、ルリコナゾールの固体。
【請求項2】
平均粒径が70〜100μmである、請求項1記載のルリコナゾールの固体。
【請求項3】
固体でトリトリコモナス原虫に対して80%以上の生育抑制率を示す、請求項1又は2記載のルリコナゾールの固体。
【請求項4】
抗トリトリコモナス剤用である、請求項1〜3の何れか1項に記載のルリコナゾールの固体。
【請求項5】
ヒト又は動物用の抗トリトリコモナス剤用である、請求項4に記載のルリコナゾールの固体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗トリトリコモナス剤及び抗トリトリコモナス剤の有効成分であるルリコナゾールに関する。
【背景技術】
【0002】
トリトリコモナス属(genus Tritrichomonas)の原虫(以下、「トリトリコモナス原虫」ともいう)は、鞭毛虫類に属した、自由生活性の高い原虫である。トリトリコモナス属の原虫には、トリトリコモナス・フィータス(Tritrichomonas foetus)やトリトリコモナス・モビレンシス(Tritrichomonas mobilensis)等が存在し、これらは形態が極めて類似している。トリトリコモナス・フィータスは牛の流産の原因や、猫や豚の下痢症の原因となる。又、トリトリコモナス・モビレンシスは疾病との因果関係はあまり知られていないが、共感染などにより消化管に潰瘍を起こすことが知られている(例えば、非特許文献1、2を参照)。更に、これらのトリトリコモナス属の原虫は、人に対しても日和見感染をすることが知られている。このような日和見感染は主として消化管を感染部位とし、下痢症状を起こすことから始まり、重篤になると全身感染へと発展する(例えば、非特許文献3を参照)。
【0003】
トリコモナス原虫の内、膣炎の原因となる、テトラトリコモナス属(genus Tetratrichomonas)のトリコモナス・バージナリス(Trichomonas vaginaris)に対しては、通常メトロニダゾールの膣錠又は注射剤が治療薬として用いられる。しかしながら、メトロニダゾールは腸管内のトリコモナス原虫に対しては有効ではないため、腸管内のトリトリコモナス属の原虫に対しては使用できない。即ち、腸管内のトリトリコモナス属の原虫に対して有効に働く薬剤の開発が望まれていたと言える(例えば、非特許文献4を参照。)言い換えれば、腸管内まで安定に到達し、なおかつトリトリコモナス属の原虫に有効に働く薬剤が求められていたと言える。
【0004】
一方、ルリコナゾールについては、寄生性の高いトリコモナス・バージナリス等のテトラトリコモナス属の原虫に対して抗原虫作用を発揮することが知られている(例えば、特許文献1を参照)。しかしながら、自由生活性の高いトリトリコモナス属の原虫に対する作用は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2016−504987号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Midlej V. et.al.,Vet. Parasitol. 182: 171-180
【非特許文献2】Doi, J. et. al., 2012. J. Vet. Med. Sci. 74: 413-417
【非特許文献3】Suzuki J. et. al., J. Vet. Med. Sci. Article ID: 15-0644
【非特許文献4】Schroeder MS., Am Fam Physician.71: 921-8 (2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような状況下為されたものであり、トリトリコモナス原虫に有効に働く薬剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような状況に鑑みて、本発明者らは、トリトリコモナス原虫に有効に働く新たな薬剤、特に、腸管内まで安定に到達し、なおかつトリトリコモナス原虫に有効に働く薬剤を求めて、鋭意研究努力を重ねた。その結果、ルリコナゾールを有効成分とする製剤がそのような効果を有していることを見いだし、発明を完成させるに至った。即ち、本発明は以下に示すとおりである。
【0009】
[1] ルリコナゾールからなる抗トリトリコモナス剤。
[2] トリトリコモナス原虫が、トリトリコモナス・フィータス又はトリトリコモナス・モビレンシスである、[1]に記載の抗トリトリコモナス剤。
[3] 腸トリコモナス症用である、[1]又は[2]に記載の抗トリトリコモナス剤。
[4] ルリコナゾールは、剤中に固体で存在する、[1]〜[3]の何れかに記載の抗トリトリコモナス剤。
[5] 剤中に存在するルリコナゾールの平均粒径が100μm以下である、[4]に記載の抗トリトリコモナス剤。
[6] 剤中に存在するルリコナゾールの平均粒径が、70〜100μmである、[5]に記載の抗トリトリコモナス剤。
[7] ヒト又は動物用である、[1]〜[6]の何れかに記載の抗トリトリコモナス剤。
【0010】
[8] 平均粒径が100μm以下である、ルリコナゾール。
[9] 平均粒径が70〜100μmである、[8]記載のルリコナゾール。
[10] 固体でトリトリコモナス原虫に対して80%以上の生育抑制率を示すルリコナゾール。
[11] 抗トリトリコモナス剤用である、[8]〜[10]の何れかに記載のルリコナゾール。
[12] ヒト又は動物用の抗トリトリコモナス剤用である、[11]に記載のルリコナゾール。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、トリトリコモナス原虫に有効に働く新たな薬剤を提供することができる。また、本発明によれば、腸管内まで到達することができ、なおかつトリトリコモナス原虫に有効に働く薬剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<1> 抗トリトリコモナス剤
本発明の抗トリトリコモナス剤は、ルリコナゾールからなることを特徴とする。ルリコナゾールは以下に示す構造を有しており、既に抗真菌剤として市場で流通され、使用されている。
【0014】
かかるルリコナゾールは、例えば、特開昭60−218387号公報に記載されている方法に従って合成することができる。具体的には、下記式に記載の方法により合成することができる。即ち、1−シアノメチルイミダゾールと二硫化炭素とを反応させ、(III)の化合物を得、これと脱離基を有する一般式(II)の化合物と反応させることにより、一般式(1)に表される化合物を得ることができる。反応後、常法の再結晶法により、精製をしてもよい。
下記式中、R及びXは、水素原子又はハロゲン原子を表す。この一般式(1)に表される化合物の内、R=X=Clに相当する化合物がルリコナゾールである。脱離基Y及びY’としては、例えば、メタンスルホニルオキシ基、ベンゼンスルホニルオキシ基、p−トルエンスルホニルオキシ基又はハロゲン原子等が好適に例示できる(下記のスキームを参照。)
【0016】
ルリコナゾールは、トリトリコモナス原虫に対して優れた抗原虫作用を有する。ルリコナゾールは水に難溶であるため、経口投与した場合、腸管まで安定に到達すると考えられる(ルリコン(登録商標)クリーム医薬品インタビューフォーム2006年改訂版 第4ページを参照)。また、ルリコナゾールは溶液の形態ではもちろん、固体の状態でもトリトリコモナス原虫に対して優れた抗原虫作用を示すため、固形製剤に加工して経口投与した場合、未変化体で腸管まで到達し、腸管内のトリトリコモナス原虫の生育を阻害することができる。
このときの固体のルリコナゾールの形状としては、抗トリトリコモナス効果の観点から、平均粒径100μm以下の粉末が好ましく、より好ましくは平均粒径70〜100μmの粉末が好ましく、平均粒径75〜100μmの粉末が更に好ましい。該粉末は、結晶であっても、アモルファスであってもかまわない。
かかる粉末は、ルリコナゾール結晶を壊砕すること等により得られる。壊砕方法としては、例えば、メノウ乳鉢を用いた擂壊機、遊星ボールミルやダイノミルなどの媒体ミルによる壊砕、ジェットミルなどによる壊砕などが好ましく例示できる。同じ壊砕条件であっても、使用する原末により得られる平均粒径が異なるし、厳しい壊砕条件が必ずしも細かい平均粒径を提供するものでもないので、平均粒径は壊砕条件で置き換えることはできない。従って、実際に平均粒径を計測し、同平均粒径を有するルリコナゾールの抗トリトリコモナス剤への適用の可否を決めることが望ましい。ここで、ルリコナゾールの平均粒径は、個数平均粒子径として測定して得ることができる。個数平均粒子径は顕微鏡画像の解析により、粒子の平均径として測定して得ることができる。
例えば、以下の手順で測定する。まず、倒立顕微鏡として、株式会社ニコン社製Diaphot倒立顕微鏡を用いて、ルリコナゾールの粉体を観察する。次いで、任意の粒子を選択し、その粒子径を測定する。このとき、100個以上の粒子について測定する。
また、ルリコナゾールの平均粒径は、レーザー回折式粒度分布計により測定して得られる体積積算の平均粒径としても得ることができる。
このような形態をとることにより、本発明の有効成分であるルリコナゾールは固体の状態で、トリトリコモナス原虫、取り分けトリトリコモナス・モビレンシスに対して80%以上の生育抑制率を示す。言い換えれば、80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは88%以上の生育抑制率を示すルリコナゾールが本発明のルリコナゾールであるともいえる。このとき、生育抑制率は
[(コントロールの生存虫体数−サンプルの生存虫体数)/コントロールの生存虫体数
]×100で算出される。尚、抗トリトリコモナス効果は、5mLの液体培地に5mgのサンプルとなるルリコナゾールを加え、10,000匹のトリトリコモナス原虫を播種し、播種後24〜72時間に判定することが好ましい。前記液体培地としては、所望により5〜15%の成牛血清を添加したダイアモンドの培地を用いることが好ましい。
【0017】
<2>抗トリトリコモナス剤の製剤化
本発明の抗トリトリコモナス剤は、種々の製剤に加工して実用に供することができる。好ましい製剤の形態は、腸管内において、平均粒径100μm以下の粉末のルリコナゾール、より好ましくは平均粒径70〜100μmの粉末のルリコナゾール、更に好ましくは、平均粒径75〜100μmの粉末のルリコナゾールを呈する剤形である。かかる剤形としては、例えば、平均粒径100μm以下の粉末、より好ましくは平均粒径70〜100μmの粉末、更に好ましくは平均粒径75〜100μmの粉末を、賦形剤や崩壊剤とともに加工して得られる、錠剤又は顆粒剤などの固形製剤が好ましく例示できる。また、ルリコナゾールの粉末をカプセルに充填して得られるカプセル剤などの固形製剤も好ましく例示できる。
賦形剤としては、例えば、乳糖やクロスカルメロースなどが、崩壊剤としては、例えば、デンプンや結晶セルロースなどが好ましく例示できる。適宜、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)やヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)などの結合剤、ステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤なども加えることができる。製剤における、抗トリトリコモナス剤の含有量は10〜90質量%が好ましく、より好ましくは20〜80質量%である。これらの成分を常法に従って処理することにより、顆粒剤、錠剤、カプセル剤などの製剤に加工することができる。また、剤を適宜被覆剤などで被覆することもできる。
本発明の抗トリトリコモナス剤は、腸管内のトリトリコモナス原虫を対象としているため、経口投与されることが好ましい。経口投与における投与量は、症状などにより異なるが、大凡成人1人あたり、100〜10,000mgを1回又は数回に分けて投与することが好ましい。この様に本発明の製剤を経口投与することにより、本発明の抗トリトリコモナス剤を腸管の感染部位に到達させ、下痢の原因となるトリトリコモナス原虫を駆除することができる。
【実施例】
【0018】
以下に実施例を挙げて、本発明について更に詳細に説明を加えるが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
【0019】
<実施例1>
ルリコナゾールについて、トリトリコモナス属のトリトリコモナス・モビレンシス(T.
mobilensis:USA: M776 cl2)に対するルリコナゾールの作用を調べた。上記特開昭60
−218387号公報に記載の方法に従って合成したルリコナゾールをサンプルとして用いた。即ち、10%成牛血清加ダイアモンドの培地でトリトリコモナス原虫を培養した。これを各種のルリコナゾールの濃度になるように、100μLのメタノールにルリコナゾールを溶解したものを添加した、5mLの10%成牛血清加ダイアモンドの培地に接種し、35℃で24時間培養後にトリトリコモナス原虫の生存数をノイバウアー血球計数盤で確認した。この生存数より、MICとIC
50を求めた。MICは50μg/mLであり、IC
50は10.1μg/mLであった。これより、ルリコナゾールは溶解状態でトリトリコモナス原虫に対してすぐれた抗原虫効果を示すことがわかる。
【0020】
<実施例2>
乳鉢でルリコナゾールを壊砕して、粒径を変え、固体でのルリコナゾールの抗トリトリコモナス作用を調べた。即ち、10%成牛血清加ダイアモンド培地5mLに、各種粒径のルリコナゾールを5mg加え、10,000匹のトリトリコモナス・モビレンシスを接種し、35℃で24時間培養後に培地中のトリトリコモナス・モビレンシスの生存数をノイバウアー血球計測盤で計数した。コントロールはルリコナゾールを加えなかった。生育抑制率を、
[(コントロールの生存虫体数−サンプルの生存虫体数)/コントロールの生存虫体数
]×100で算出した。
結果を表1に示す。これより、固体状態でもルリコナゾールは抗原虫作用を発揮し、好ましい粒径は100μm以下であることもわかる。なお、粒径はレーザー回折法(Microtrac MT3000、日機装株式会社;分散媒:水)により測定した。
この結果より、ルリコナゾールは固体でもトリトリコモナス原虫に対してすぐれた抗原虫効果を示すことがわかる。したがって、経口投与により腸管内に安定して到達すると考えられることから、腸管内でも有効に抗トリトリコモナス効果を示すことがわかる。
【0021】
【表1】
【0022】
<実施例3>
実施例2の実験において、溶液中に溶出したルリコナゾールの影響を確かめるために、ルリコナゾールの7分間壊砕品を5mg加え、24時間35℃で保管した10%成牛血清加ダイアモンド培地の上清を取り、これにトリトリコモナス・モビレンシスを接種して35℃で24時間培養し、生存数をノイバウアー血球計測盤で計測した。コントロールはルリコナゾールを加えなかった。結果は、コントロールが973,333±23,094であるのに対し、上清は1,000,000±144,222であった。上清の抗トリトリコモナス効果はなく、ルリコナゾールは固体で作用していることが明確になった。即ち、この点においてもルリコナゾールは腸管内において有効にトリトリコモナス原虫を制御できることがわかる。
【0023】
<実施例4>
実施例2の各種壊砕品を用いて製剤を作製した。即ち、各種壊砕品(5分間解砕品、6分間解砕品、7分間解砕品及び8分間解砕品)をそれぞれ100mgカプセルに充填し、製剤例1〜4を作製した。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、医薬、動物薬などに応用できる。
【要約】
【課題】新規の抗トリトリコモナス剤を提供することを課題とする。
【解決手段】ルリコナゾールからなる抗トリトリコモナス剤。
【選択図】なし