(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記運転状態判定手段が、ディーゼルエンジンの回転数の単位時間当たりの変動割合に基づいて当該ディーゼルエンジンの運転が安定しているか否か及び今後不安定になる可能性があるか否かを判定することを特徴とする請求項1に記載のディーゼルエンジンの燃料供給制御装置。
前記運転状態判定手段が、ディーゼルエンジンの排気温度に基づいて当該ディーゼルエンジンの運転が安定しているか否か及び今後不安定になる可能性があるか否かを判定することを特徴とする請求項1に記載のディーゼルエンジンの燃料供給制御装置。
前記運転状態判定手段が、ディーゼルエンジンの各気筒の排気温度を比較し、排気温度の最大値と最小値の差が一定割合又は一定量以上のときに当該ディーゼルエンジンの運転が不安定である又は今後不安定になる可能性があると判定することを特徴とする請求項3に記載のディーゼルエンジンの燃料供給制御装置。
前記運転状態判定手段が、フライホイールの回転状態に基づいて当該ディーゼルエンジンの運転が安定しているか否か及び今後不安定になる可能性があるか否かを判定することを特徴とする請求項1に記載のディーゼルエンジンの燃料供給制御装置。
前記運転状態判定手段が、ディーゼルエンジンの運転が安定しているか否か及び今後不安定になる可能性があるか否かの判定を、ディーゼルエンジンの回転数の単位時間当たりの変動割合と、ディーゼルエンジンの排気温度と、フライホイールの回転状態のうち少なくとも一つに基づいて行うことを特徴とする請求項1に記載のディーゼルエンジンの燃料供給制御装置。
【背景技術】
【0002】
近年、食品産業や一般家庭などから排出され、廃棄物として処理されていた食用油脂などの動植物性の廃食油やエンジンオイル等の鉱物油をディーゼルエンジン燃料の原料として再利用する研究開発が資源の保護及び環境保全の観点から進められてきている。
本明細書中においては、上記使用済の廃食油及び鉱物油の総称を「廃油」と表記する。
【0003】
例えば特許文献1には、廃食油とメチルアルコールを特定の条件下でエステル交換反応により精製して得た脂肪酸メチルエステルをバイオディーゼル燃料として利用する技術が開示されている。
このような廃食油を精製して得られるバイオディーゼル燃料はカーボンニュートラルであるため環境負荷の少ない燃料として注目されている。
【0004】
しかし、廃食油をエステル化処理するための設備が別途必要になると共に、当該設備の建設費やエステル化処理費のコストが価格に転嫁されるために燃料価格が高くなってしまうという問題がある。
また、燃料価格が高いこと等が原因となってバイオディーゼル燃料の普及に遅れが生じている。
【0005】
そこで、廃食油を石油系燃料油と改質せずに混合し、この混合油をディーゼルエンジンの燃料として使用する技術も知られている。
廃食油は一般的に粘度が高いため、例えば低温状況下でディーゼルエンジンを始動させた場合に燃料供給路内をスムーズに流れず、燃料供給が不安定になるおそれがある。したがって、廃食油を燃料供給路中で加熱することで適正な粘度に調整する技術が知られている。しかし、廃食油は加熱により酸化劣化し易いため、燃費悪化等の悪影響がでるおそれがある。
そこで、特許文献2には、低粘度の石油系燃料油と高粘度の非精製の廃食油を混合したものを燃料油とし、予め設定した粘度条件を満たしつつ且つ高粘度の非精製の廃食油の含有量が最大となるように、燃料油を加熱することなくその混合割合を補正していく技術が開示されている。これによれば、石油系燃料油と比較して価格及び二酸化炭素排出量の観点から有利な高粘度の非精製の廃食油を最大限に使用することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献2に開示された技術では以下のような問題があった。
すなわち、特許文献2に開示された技術は混合油の粘度に着目したものであり、ディーゼルエンジンへの供給に適した混合油の粘度条件を予め設定しておき、この粘度条件を満たすべく、混合割合と粘度と温度との対応関係を示す燃料マップを参照しながら混合割合を補正するものである。
したがって、予め設定しておいた粘度条件が適切でなかった場合や、ディーゼルエンジン運転中の環境変化(気温、湿度及び気圧の変化)や、廃食油の品質の変化及びバラツキに対応することが困難であるという問題があった。
【0008】
また、非精製の廃食油には様々な不純物が含まれており、たとえ同一の原料から得られた廃食油であっても、その粘度と温度との対応関係は一様ではない。
したがって、ディーゼルエンジン運転中に燃料油の混合割合を正確に補正するには、使用予定の廃食油毎に燃料マップを作成する必要がある。換言すると、一種類の廃食油の原料に対して一種類の燃料マップを使用するものとすると、混合割合の補正を正確に行えず、ディーゼルエンジンを長期間にわたって安定して運転することが難しいという問題があった。
【0009】
本発明はこのような問題に鑑み、石油系燃料油とエステル化処理のような改質をしない非精製の廃油との混合油を使用して、ディーゼルエンジンを長期間安定して運転可能にすると共に廃油の使用比率を大幅に増加できるディーゼルエンジンの燃料供給制御装置、ディーゼルエンジン及び燃料供給制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のディーゼルエンジンの燃料供給制御装置は、石油系燃料油と非精製の廃油とを混合し、当該混合油を燃料としてディーゼルエンジンに供給するディーゼルエンジンの燃料供給制御装置であって、ディーゼルエンジンの運転が安定しているか否か及び今後不安定になる可能性があるか否かを所定の時間間隔で判定し、判定結果を第1、第2・・・第n(nは正の整数)の判定情報として出力し続ける運転状態判定手段と、前記運転状態判定手段からの前記判定情報に基づいて前記石油系燃料油と前記廃油の混合割合を変更する混合割合変更手段と、前記混合割合を記憶する記憶手段とを備え、前記混合割合変更手段は、前記運転状態判定手段からディーゼルエンジンの運転が安定している旨及び今後不安定になる可能性がない旨の前記判定情報を受信する毎に前記廃油の混合割合を第1、第2・・・第n段と段階的に増加させていき、前記運転状態判定手段からディーゼルエンジンの運転が不安定である旨又は今後不安定になる可能性がある旨の前記判定情報を受信した場合には、ディーゼルエンジンの運転が安定している旨及び今後不安定になる可能性がない旨の前記判定情報に基づいて決定された前記廃油の混合割合に対して2段階前の
混合割合となるように前記廃油の混合割合を減少させ、前記記憶手段が当該減少させた状態での前記廃油の混合割合を最適な混合割合として記憶することを特徴とする。
【0011】
また、前記運転状態判定手段が、ディーゼルエンジンの回転数の単位時間当たりの変動割合に基づいて当該ディーゼルエンジンの運転が安定しているか否か及び今後不安定になる可能性があるか否かを判定することを特徴とする。
また、前記運転状態判定手段が、ディーゼルエンジンの排気温度に基づいて当該ディーゼルエンジンの運転が安定しているか否か及び今後不安定になる可能性があるか否かを判定することを特徴とする。
【0012】
また、前記運転状態判定手段が、ディーゼルエンジンの各気筒の排気温度を比較し、排気温度の最大値と最小値の差が一定割合又は一定量以上のときに当該ディーゼルエンジンの運転が不安定である又は今後不安定になる可能性があると判定することを特徴とする。
また、前記運転状態判定手段が、フライホイールの回転状態に基づいて当該ディーゼルエンジンの運転が安定しているか否か及び今後不安定になる可能性があるか否かを判定することを特徴とする。
また、前記運転状態判定手段が、ディーゼルエンジンの運転が安定しているか否か及び今後不安定になる可能性があるか否かの判定を、ディーゼルエンジンの回転数の単位時間当たりの変動割合と、ディーゼルエンジンの排気温度と、フライホイールの回転状態のうち少なくとも一つに基づいて行うことを特徴とする。
【0013】
本発明のディーゼルエンジンは上記燃料供給制御装置を備えることを特徴とする。
本発明のディーゼルエンジンの燃料供給制御方法は、石油系燃料油と非精製の廃油とを混合し、当該混合油を燃料としてディーゼルエンジンに供給するディーゼルエンジンの燃料供給制御方法であって、運転状態判定手段が、ディーゼルエンジンの運転が安定しているか否か及び今後不安定になる可能性があるか否かを所定の時間間隔で判定すると共に当該判定結果を第1、第2・・・第n(nは正の整数)の判定情報として出力し続けるステップと、混合割合変更手段が、ディーゼルエンジンの運転が安定している旨及び今後不安定になる可能性がない旨の前記判定情報を受信する毎に前記廃油の混合割合を第1、第2・・・第n段と段階的に増加させていくステップと、混合割合変更手段が、ディーゼルエンジンの運転が不安定である旨又は今後不安定になる可能性がある旨の前記判定情報を受信した場合には、ディーゼルエンジンの運転が安定している旨及び今後不安定になる可能性がない旨の前記判定情報に基づいて決定された前記廃油の混合割合に対して2段階前の
混合割合となるように前記廃油の混合割合を減少させ、記憶手段が当該減少させた状態での前記廃油の混合割合を最適な混合割合として記憶するステップとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のディーゼルエンジンの燃料供給制御装置、当該装置を使用したディーゼルエンジン及びディーゼルエンジンの燃料供給制御方法によれば、運転状態判定手段が、ディーゼルエンジンの運転が安定している及び今後不安定になる可能性がないと判定している間は燃料中の廃油の混合割合を段階的に増加させていく。そして、運転状態判定手段が、ディーゼルエンジンの運転が不安定である又は今後不安定になる可能性があると判定した場合には、その時点での廃油の混合割合ではなく、廃油の割合を減少させたものを最適な混合割合とする。
したがって、廃油をディーゼルエンジンの運転に不具合が生じない範囲内で、若干の安全マージンを取った混合割合で燃料として使用できるので、ディーゼルエンジンの運転コストを抑制し、且つ長期間安定して運転できる。廃油が比較的良質なものである場合は廃油の混合割合を90%程度と従来と比較して大幅に高めることができる。
また、温度、湿度等の周囲の環境の変化に起因して石油系燃料油及び非精製の廃油の質が変化した場合でも、当該変化に対応して混合割合を適当な値に調節するため、高温多湿地帯や寒冷地帯などの厳しい環境下でもディーゼルエンジンを長期間安定して運転できる。
【0015】
特に、運転状態判定手段が、ディーゼルエンジンの運転が不安定である旨又は今後不安定になる可能性がある旨を第m(mは3以上の正の整数)の判定情報として出力した場合に、その2段階前に当たる第(m−2)段目の廃油の混合割合を最適な混合割合とすることで、廃油の一部に品質不良がある場合や、燃料供給路に一時的な目詰まりが発生した場合などにも、安全マージンを十分に取った状態でディーゼルエンジンを長期間安定して運転できる。
また、当該ディーゼルエンジンの運転状態の判定をディーゼルエンジンの回転数の単位時間当たりの変動割合、ディーゼルエンジンの排気温度、フライホイールの回転状態に基づいて行う場合には、一般的なディーゼルエンジンが通常備えている機器を利用してこれらデータを得ることができるので、燃料供給制御装置の製造コストを抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第1の実施の形態]
次に本発明の第1の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1及び
図2に示すように、本実施の形態に示すディーゼルエンジンの燃料供給制御装置10は、軽油等の石油系燃料油と、エステル化処理による改質を行っていない非精製の廃食油等の廃油とを混合し、この混合油をディーゼルエンジン20の燃料として供給するために使用するものである。
本実施の形態では発電機の駆動源として使用されるディーゼルエンジンに燃料供給制御装置を適用した例を示す。
【0018】
まず、ディーゼルエンジン20の構成について説明するが、一般的に広く知られているディーゼルエンジンの構成と同一となる箇所については詳しい説明を省略する。
ディーゼルエンジン20は、石油系燃料油と非精製の廃油との混合油を燃焼させることにより回転エネルギーを取り出すエンジン本体30と、エンジン本体30に混合油を供給する燃料供給手段40と、エンジン本体30に空気を供給する空気供給手段50と、エキゾーストマニホールド60を含んで構成される。
なお、燃料供給手段40からエンジン本体30に対して上記混合油ではなく、エンジンの駆動状況に応じて石油系燃料油のみを供給することもできるが、以下、混合油を供給する場合について主に説明する。
【0019】
燃料供給手段40は、燃料混合タンク13aからの混合油をエンジン本体30の燃料噴射弁(図示省略)に供給するものである。
燃料供給手段40は、燃料供給ポンプ41と、噴射量制御装置(ガバナ一)42と、アクチュエータ43とを含んで構成される。
噴射量制御装置42は、後述するECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)80により制御されるアクチュエータ43によって駆動されるものであり、燃料供給ホンプ41から燃料噴射弁を介してシリンダ(図示省略)内に噴射される燃料の噴射量を調整する。
【0020】
空気供給手段50は、エアクリーナ51、過給器52等を備えており、空気中の塵埃をエアクリーナ51で除去した後、過給器52で外気圧より高圧にした状態でエンジン本体30の各シリンダに供給する。各シリンダで燃焼された後の排気ガスはエキゾーストマニホールド60及びマフラー(図示省略)を介して大気中に放出される。なお、過給器52を備えないことにしてもよい。
ディーゼルエンジン20の回転軸21の一端には、三相交流発電機22の回転軸23が継手24を介して連結されている。また、エンジン本体30には、ディーゼルエンジン20の回転数を検出する回転数検出器25が設けられている。
回転数検出器25は、回転軸26の一端に設けられ、外周縁の全周に亘り一定ピッチの突起が形成されてなる円盤形状のフライホイール25aと、このフライホイール25aの突起に近接して配置された回転センサ25bとから構成される。回転センサ25bは回転するフライホイール25aの突起を検知し、突起に対応した正弦波状の信号を生成する。この信号はECU80内の運転状態判定手段81にディーゼルエンジンの回転数算出用の情報として取り込まれる。
【0021】
次に、ディーゼルエンジンの燃料供給制御装置10の構成について説明する。
ディーゼルエンジンの燃料供給制御装置10は、
図2に示すように運転状態判定手段81、混合割合変更手段82及び記憶手段83を含んで構成されており、更に、
図1に示すように廃油を貯留する第1の燃料タンク11、石油系燃料油を貯留する第2の燃料タンク12、第1の燃料タンク11及び第2の燃料タンク12と繋がる燃料混合手段13、廃油量調節手段14、石油系燃料油量調節手段15、燃料切換バルブ16、ECU80、燃料リターン用切換バルブ17を備えている。なお、運転状態判定手段81、混合割合変更手段82及び記憶手段83はECU80内に格納されている。
【0022】
第1の燃料タンク11の廃油流出口11aには、廃油流出管11bを介してフィルタ11cが接続されている。このフィルタ11cは、廃油中に浮遊している廃油の酸化劣化で生じた生成物質やその他の不純物質(塵埃)を捕集するもので、濾材を含んで構成されている。このフィルタ11cを備えることによりレストランや各家庭等から集めた廃油、すなわちエステル化などの改質処理を施していない非精製の廃油を直接第1の燃料タンク11に投入してディーゼルエンジン20の燃料として利用することが可能になる。
【0023】
燃料混合手段13は、第1の燃料タンク11から供給される廃油と、第2の燃料タンク12から供給される石油系燃料油とを混合するもので、燃料混合タンク13a、廃油と石油系燃料油を撹絆混合する撹絆機13b、燃料混合タンク13a内の混合油MOの液面レベルを上限レベルと下限レベルの2点で検出する液面計13cを含んで構成されている。
液面計13cで検出される上限レベル及び下限レベルの信号はECU80に取り込まれ、廃油量調節手段14、石油系燃料油量調節手段15及び撹絆機13bの制御に供される。
【0024】
廃油量調節手段14は、フィルタ11cと燃料混合タンク13aとの間を連通状態に接続する配管14aと、この配管14aの上流端側と下流端側にそれぞれ設けた開閉バルブ14b、14cと、フィルタ11cを透過した廃油を燃料混合タンク13aに送給する電磁ポンプ14dと、電磁ボンプ14dからの廃油流量を制御する流量制御バルブ14eとを含んで構成される。また、電磁ホンプ14d及び流量制御バルブ14eはECU80によって制御される。
石油系燃料油量調節手段15は、第2の燃料タンク12と燃料混合タンク13aの間を連通状態に接続する配管15aと、この配管15aの上流端側と下流端側にそれぞれ設けた開閉バルブ15b、15cと、第2の燃料タンク12からの石油系燃料油を燃料混合タンク13aに送給する電磁ホンプ15dと、電磁ホンプ15dからの石油系燃料油流量を制御する流量制御バルブ15eとを含んで構成されている。また、電磁ボンプ15d及び流量制御バルブ15eはECU80によって制御される。
【0025】
燃料混合タンク13aに接続する混合油供給管13dと、第2の燃料タンク12に接続する石油系燃料油供給管15fと、燃料供給ポンプ41に接続する燃料供給管41aは燃料切換バルブ16を介して接続されている。
燃料切換バルブ16は、燃料供給管41aに接続する管を混合油供給管13dと石油系燃料油供給管15fのいずれか一方に切り換えるために設けられており、ECU80から出力される指令信号に基づいて動作する。
なお、混合油供給管13dの上流側には開閉バルブ14fが設けられ、石油系燃料油供給管15fの上流側にも開閉バルブ15gが設けられている。
【0026】
燃料混合タンク13aに接続する混合油戻し管13eと、第2の燃料タンク12に接続する石油系燃料油戻し管15hと、燃料供給ポンプ41に接続する燃料戻し管41bは燃料リターン用切換バルブ17を介して接続されている。
燃料リターン用切換バルブ17は、燃料戻し管41bに接続する管を混合油戻し管13eと石油系燃料戻し管15hのいずれか一方に切り換えるために設けられており、ECU80から出力される指令信号に基づいて動作する。
【0027】
なお、混合油戻し管13eの上流側には開閉バルブ13fが設けられ、石油系燃料油戻し管15hの上流側にも開閉バルブ15iが設けられている。
燃料供給ポンプ41から燃料噴射ノズルに供給される廃油のうち余剰分は燃料リターン用切換バルブ17の動作により混合油戻し管13eを介して燃料混合タンク13aに戻される。また、燃料供給ボンプ41から燃料噴射ノズルに石油系燃料油のみが供給される場合には、当該石油系燃料油のうち余剰分は燃料リターン用切換バルブ17の動作により石油系燃料戻し管15hを介して第2の燃料タンク12に戻される。
【0028】
ECU80は、ディーゼルエンジンの燃料供給制御装置10全体を管理し制御するもので、機能的には
図2に示すように運転状態判定手段81、混合割合変更手段82及び記憶手段83を含んで構成される。
運転状態判定手段81はディーゼルエンジン20の運転が安定しているか否か及び今後不安定になる可能性があるか否かを所定の時間間隔で判定し、判定結果を第1、第2・・・第n(nは正の整数)の判定情報として出力し続けるものである。
本実施の形態においては、運転状態判定手段81はディーゼルエンジン20の回転数の単位時間当たりの変動割合に基づいて上記判定を行う。
【0029】
具体的には、運転状態判定手段81は、ディーゼルエンジン20が廃油と石油系燃料油との混合油で運転(回転駆動)されている状態において、まず回転数検出器25から出力される信号に基づいてディーゼルエンジン20の単位時間当たり(例えば30秒間当たり)の回転数の変動割合を算出する。例えば、単位時間を30秒間とした場合、単位時間内で変動したエンジン回転数の最大値と最小値に基づいて回転数の変動割合を算出したり、あるいはエンジンが安定して運転されているときの回転数を例えば1,800rpmとして予め設定しておき、この値と単位時間におけるエンジン回転の平均値との差分を回転数の変動割合として算出するものとしてもよい。
【0030】
次に、運転状態判定手段81は、算出した上記変動割合を、予め設定されている許容変動割合と比較して、変動割合が許容変動割合を上回っている場合には「ディーゼルエンジンの運転が不安定である又は今後不安定になる可能性がある」と判定する。
あるいは、回転数の変動は発電した電力の周波数の変動として表れるため、例えば電力の基準周波数を50Hzと定めると共に変動の許容範囲を48.5Hz〜50.5Hzと定めた上で、許容範囲を逸脱した場合に「ディーゼルエンジンの運転が不安定である」と判定し、許容範囲内で変動し続けている場合に「今後不安定になる可能性がある」と判定するものとしてもよい。
運転状態判定手段81は、この判定結果を単位時間が経過する度に第1、第2・・・第n(nは正の整数)の判定情報として混合割合変更手段82に出力し続ける。
単位時間の計測はECU80に接続するタイマー84によって行われる。タイマー84は単位時間の始期と終期に運転状態判定手段81に対して信号を出力し、運転状態判定手段81はこの信号を受信する度に上記回転数の単位時間当たりの変動割合を算出して、上記判定情報を出力する。
【0031】
なお、運転状態判定手段81が運転状態を判定している間、すなわち単位時間が経過するまでの間は燃料供給ポンプ41から燃料噴射弁に供給される混合油の混合割合は一定のまま維持されるものとする。
単位時間の設定は、燃料供給経路(混合油供給管13d、燃料供給管41a及び燃料供給ポンプ41)全てが当該混合割合の混合油で満たされるのに必要な時間と同程度あるいは少し長くするのが好ましく、経路の長さやポンプの能力等によって変動するものである。
【0032】
混合割合変更手段82は、運転状態判定手段81から出力される判定情報に基づいて石油系燃料油と廃油の混合割合を変更するものである。
具体的には、運転状態判定手段81から「ディーゼルエンジンの運転が安定している旨及び今後不安定になる可能性がない旨」の判定情報を受信する毎に、混合割合変更手段82は廃油量調節手段14の電磁ポンプ14d及び流量制御バルブ14eを制御すると共に、石油系燃料油量調節手段15の電磁ポンプ15d及び流量制御バルブ15eを制御して、第1の燃料タンク11から燃料混合タンク13aへ供給する廃油の量を増加させ、同時に第2の燃料タンク12から燃料混合タンク13aへ供給する石油系燃料油の量を減少させることで燃料中の廃油の混合割合を増加させる。
ここで、例えば、運転状態判定手段81から送信された第4の判定情報に基づいて廃油の量を増加させ石油系燃料油の量を減少させた場合には、その時点での混合割合を「第4段の混合割合」とし、次に第5の判定情報に基づいて廃油の量を増加させ石油系燃料油の量を減少させた場合には、その時点での混合割合を「第5段の混合割合」とする。このように運転状態判定手段81から「ディーゼルエンジンの運転が安定している旨及び今後不安定になる可能性がない旨」の判定情報が、第1、第2・・・第nの判定情報として出力される度に、混合割合変更手段82は廃油の混合割合を、第1、第2・・・第n段と段階的に増加させていく。
【0033】
廃油の混合割合の増加度は任意に設定できるが、例えば一定値(例えば5%)ずつ段階的に増加させていくことにしてもよいし、あるいは廃油の混合割合が一定割合に至るまで(例えば60%に至るまで)は廃油の混合割合を大幅に(例えば10%ずつ)増加させていき、一定割合に至った後は廃油の混合割合を小幅に(例えば3%ずつ)増加させることにしてもよい。
混合割合変更手段82によって廃油の混合割合が変更される度に、当該混合割合を記憶手段83が記憶していく。
【0034】
一方、運転状態判定手段81から「ディーゼルエンジンの運転が不安定である旨又は今後不安定になる可能性がある旨」の判定情報を受信した場合には、混合割合変更手段82は廃油の混合割合を減少させる。
具体的には、混合割合変更手段82は廃油量調節手段14の電磁ポンプ14d及び流量制御バルブ14eを制御すると共に、石油系燃料油量調節手段15の電磁ポンプ15d及び流量制御バルブ15eを制御して、第1の燃料タンク11から燃料混合タンク13aへ供給する廃油の量を減少させ、同時に第2の燃料タンク12から燃料混合タンク13aへ供給する石油系燃料油の量を増加させることで燃料中の廃油の混合割合を減少させる。
【0035】
そして、記憶手段83は、当該減少させた状態の廃油の混合割合を最適な混合割合として記憶し、この最適な混合割合を維持した状態でディーゼルエンジン20が運転される。
この際に、運転状態判定手段81から「ディーゼルエンジンの運転が不安定である旨又は今後不安定になる可能性がある旨」を第m(mは3以上の正の整数)の判定情報として出力された場合には、第(m−2)段目の廃油の混合割合を最適な混合割合として記憶手段83が記憶するのが好ましい。つまり「ディーゼルエンジンの運転が安定している旨及び今後不安定になる可能性がない旨」の判定情報に基づいて決定された廃油の混合割合に対して2段階前の混合割合を最適な混合割合とするのが好ましい。
【0036】
このように1段階前ではなく、2段階前の混合割合を最適な廃油の混合割合とすることが、第1の燃料タンク11に貯蔵されている廃油の一部に品質不良がある場合や、燃料供給路に一時的な目詰まりが発生した場合などにも、安全マージンを十分に取った状態でディーゼルエンジン20を長期間安定して運転可能にするという観点から好ましい。
なお、運転状態判定手段81から「ディーゼルエンジン20の運転が不安定である旨又は今後不安定になる可能性がある旨」を第m(mは3以上の正の整数)の判定情報として出力された場合に、第(m−1)段の廃油の混合割合を最適な混合割合としてもよいし、廃油の混合割合を一定値(例えば10%)減少させたものを最適な混合割合にしてもよい。
【0037】
ECU80には上記運転状態判定手段81、混合割合変更手段82及び記憶手段83以外にも、図示は省略するが、CPU、制御プログラムおよび各種データなどを格納するROM、ワーキングエリアを提供するRAM、周辺回路とのインターフェース部などが格納されており、これらがバスによって接続されて構成されている。そして、CPUが制御プログラムを実行することにより上記運転状態判定手段81、混合割合変更手段82、記憶手段83等が実現される。
【0038】
次に、本実施の形態におけるディーゼルエンジン燃料供給制御装置10の処理動作について
図3を参照して説明する。
まず、操作者がディーゼルエンジン20を始動させた時点での燃料中の廃油の混合割合はゼロあるいは低く(例えば5%)抑えられている。
【0039】
また、ECU80の動作によりタイマー84が単位時間(例えば30秒)の計測を開始し、始期を告げる信号を運転状態判定手段81に対して出力すると共に、回転数検出器25から回転数算出用の情報が運転状態判定手段81に対して出力される。
【0040】
まずステップ1では、運転状態判定手段81が、エンジン回転が不安定等の状態か否か、すなわち「変動割合測定中ではなく(変動割合の測定が完了しており)且つディーゼルエンジン20の運転が不安定である又は今後不安定になる可能性がある」か否かを判定する。
このステップ1での判定は、上述の通りディーゼルエンジン20の回転数の単位時間当たりの変動割合に基づいて行われる。
すなわち、単位時間が経過した時点で、タイマー84から単位時間の終期を告げる信号が運転状態判定手段81に出力されることにより、運転状態判定手段81では、回転数検出器25から出力された回転数算出用の情報に基づいて、単位時間当たりの回転数の変動割合を算出する。そして、算出した変動割合が予め設定している許容変動割合を逸脱している場合に(ステップ1において「YES」)、運転状態判定手段81は「ディーゼルエンジンの運転が不安定又は今後不安定になる可能性がある」と判定し、判定情報を混合割合変更手段82に送信すると共にステップ7に移行する。
【0041】
ステップ7では、運転状態判定手段81からの判定情報を受信した混合割合変更手段82が廃油の混合割合を減少させる。
そして、ステップ8において、混合割合変更手段82は当該減少させた状態での廃油の混合割合を最適な混合割合として決定すると共に、当該混合割合を記憶手段83が記憶する。
また、ステップ1において「NO」、すなわち「ディーゼルエンジンの運転が不安定又は今後不安定になる可能性がある」と判定しなかった場合にはステップ2に移行する。
ステップ2では、運転状態判定手段81は記憶手段83の記憶に基づき、混合割合が最適な状態になっているか否か、すなわち、記憶手段83に「最適な混合割合」が既に記憶されているか否かを判断する。
そして「最適な混合割合」が記憶されている(YES)と判断した場合にはステップ6へ移行する。
ステップ6では、廃油の混合割合を増減させずに維持することで一連のステップが終了し、その後は上記ステップ1に戻る。
一方、ステップ2において「最適な混合割合」がまだ記憶されていない(NO)と判断した場合にはステップ3へ移行する。
【0042】
ステップ3では「変動割合測定中」すなわち、「未だ単位時間が経過しておらず、単位時間当たりの回転数の変動割合を算出できない状態」と判断した場合には(YES)ステップ6に移行し、一方、変動割合の測定が終了している状態と判断した場合には(NO)ステップ4に移行する。
ステップ6では、廃油の混合割合を増減させずに維持して一連のステップが一旦終了し、その後は上記ステップ1に戻る。
また、ステップ4では、エンジン回転が安定しており(ステップ1で「NO」)、最適な混合割合が未だ記憶されておらず(ステップ2で「NO」)、変動割合の測定が終了している(ステップ3で「NO」)ことから、運転状態判定手段81は現時点での混合割合で「ディーゼルエンジンの運転が安定している及び今後不安定になる可能性がない」状態と判定し、この判定結果を第nの判定情報として混合割合変更手段82に出力すると共にステップ5に移行する。
【0043】
ステップ5において、第nの判定情報を受信した混合割合変更手段82は、廃油の混合割合を所定量だけ増加させる。そして、記憶手段83はこの時点での混合割合を第n段の混合割合として記憶して一連のステップが一旦終了し、その後は上記ステップ1に戻る。
なお、混合油中に占める廃油の最大割合(限界値)は廃油の種類毎に予め定められており、記憶手段83に記憶されている。したがって、最適な廃油の混合割合はこの限界値を超えない範囲で決定されることになり、廃油の混合割合が限界値に到達した場合には、当該限界値が最適な廃油の混合割合となる。
このように、「最適な混合割合」が一旦決定された後は原則当該最適な混合割合でディーゼルエンジンを安定的に運転し続けることになる。
しかし、最適な混合割合が決定された後でも、例えば廃油の一部に品質不良があった場合や、燃料供給路に一時的な目詰まりが発生した場合などにはディーゼルエンジンの運転が不安定になる場合がある。
本発明ではこのような場合を考慮して、一旦最適な混合割合を決定した後でも、ステップ1でディーゼルエンジンの運転が不安定等の場合はステップ7で廃油の混合割合を減らして、ステップ8で減らした後の混合割合を最適な混合割合として再記憶する。
つまり、廃油の混合割合を動的に変更するため、ディーゼルエンジンを長期間安定して運転することが可能となる。
【0044】
なお、操作者はディーゼルエンジン20の回転が安定した後、ブレーカー(図示略)をONにすることで三相交流発電機22から電力が供給される。なお、最適な混合割合が決定される前であっても電力供給は可能であるため、ディーゼルエンジン20の回転が安定する前の状態で電力供給を開始してもよい。
【0045】
[第2の実施の形態]
つぎに、本発明の第2の実施の形態について説明するが、上記第1の実施の形態と同様の構成になる箇所については同一の符号を付してその説明を省略する。
本実施の形態では、運転状態判定手段81が、ディーゼルエンジンの運転が安定しているか否か及び今後不安定になる可能性があるか否かを、当該ディーゼルエンジン20の排気温度に基づいて判定する点に特徴を有する。
【0046】
ディーゼルエンジン20の排気温度を測定する場合、例えば
図4に示すように、エンジン本体30の各気筒から繋がる各排気管31(31a〜31d)の内部又は外部であって、各排気管がエキゾーストマニホールド60で一つにまとめられる前の位置に周知の温度センサ90(90a〜90d)を各々取り付けるのが好ましい。このような構成にすることで各気筒の排気温度を測定することができる。
温度センサ90で検出された各気筒の排気温度に関する信号は運転状態判定手段81に送信される。
運転状態判定手段81では、各気筒の排気温度に基づいてディーゼルエンジン20の運転状態を判定する。
【0047】
具体的には、例えば各気筒の排気温度を比較して温度差が著しい場合、例えば排気温度の最大値が最小値の2倍以上のとき、あるいは最大値と最小値の差が30度以上のときなど、最大値と最小値の差が一定割合又は一定量以上のときに、当該最大値を記録した気筒又は最小値を記録した気筒の内部で不完全燃焼等の不具合が発生しており、当該ディーゼルエンジン20の運転が不安定である又は今後不安定になる可能性があると判定できる。あるいは各気筒の排気温度の平均値を算出し、この値を予め設定しているディーゼルエンジン20の安定状態における排気温度の平均値と比較して判定してもよい。また、一つの温度センサ90をエキゾーストマニホールド60の内部又は外部に取り付けることにしてもよく、この場合は各気筒の排気がエキゾーストマニホールド60で混ざった状態の温度を測定することになるので、各気筒の排気温度の平均値を算出するのとほぼ同じ値を得られる。
【0048】
[第3の実施の形態]
つぎに、本発明の第3の実施の形態について説明するが、上記第1及び第2の実施の形態と同様の構成になる箇所については同一の符号を付してその説明を省略する。
本実施の形態では、
図1に示すように、運転状態判定手段81が、ディーゼルエンジン20の運転が安定しているか否か及び今後不安定になる可能性があるか否かを、フライホイール25aの回転状態に基づいてディーゼルエンジン20の各気筒の燃焼状態を判断し、判定する点に特徴を有する。
具体的には、上述の通り、フライホイール25aの外周縁全周に亘って形成した突起を回転センサ25bが検知して、当該突起に対応した正弦波状の信号(パルス)を運転状態判定手段81に送信している。
【0049】
ディーゼルエンジン20の運転が安定している状態、つまり各気筒において圧縮・自己着火・燃焼・排気のサイクルが規則正しく行われている状態では、各気筒での燃焼時にフライホイール25aの回転速度が上昇し、次の燃焼までフライホイール25aの回転速度(角速度)が下降することが繰り返され、全気筒の燃焼が完了した時点でフライホイール25aが一回転することになる。したがって、フライホイール25aの回転速度の上昇・下降を示す上記正弦波状のパルスに乱れが生じている場合には、当該乱れの原因となった気筒において不完全燃焼等の不具合が生じていると判断できる。
このように、フライホイール25aの回転状態に基づいて各気筒の燃焼状態を判断することで、ディーゼルエンジン20の運転が安定しているか否か及び今後不安定になる可能性があるか否かを運転状態判定手段81が判定することができる。
【0050】
また、上記各実施の形態では、ディーゼルエンジン20の運転が安定しているか否か及び今後不安定になる可能性があるか否かの判定を、ディーゼルエンジン20の回転数の単位時間当たりの変動割合(第1の実施の形態)、ディーゼルエンジン20の排気温度(第2の実施の形態)、フライホイール25aの回転状態(第3の実施の形態)に基づいて行うものとしたが、これらディーゼルエンジン20の回転数の単位時間当たりの変動割合、ディーゼルエンジン20の排気温度及びフライホイール25aの回転状態のうちの2つ以上を組み合わせて判定することにしてもよい。この場合、回転数の単位時間当たりの変動割合、ディーゼルエンジン20の排気温度及びフライホイール25aの回転状態の3要素のうちいずれか2つの要素の判定結果が一致した場合や3つの要素全ての判定結果が一致した場合に当該判定結果に基づいて上記判定処理を行うことにしてもよい。
【0051】
また、上記各実施の形態では、本発明のディーゼルエンジンの燃料供給制御装置を発電機の駆動源として使用されるディーゼルエンジンに適用した例を示したが、これに限らず、車両用のディーゼルエンジンにも適用できる。
図5は車両用のディーゼルエンジンに適用した場合の構成を示すものである。基本構成は上記各実施の形態で示したものと同様だが、ディーゼルエンジン20の出力が三相交流発電機22ではなく、ドライブシャフトや駆動輪等からなる車両駆動機構100に伝達される点及び噴射量制御装置42を駆動するためのアクチュエータ43を備えない点が相違する。なお、噴射量制御装置42は操作者がアクセルペダル(図示略)の踏み込み量を調節することで制御される。