(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る薄膜トランジスタの製造方法の一態様は、基板を準備する工程と、前記基板上にゲート電極を形成する工程と、前記ゲート電極上にゲート絶縁層を形成する工程と、前記ゲート絶縁層上に半導体膜を形成する工程と、前記半導体膜上に有機材料を含むエッチストッパ層を形成する工程と、前記エッチストッパ層上に少なくとも一部が位置するように、ソース電極及びドレイン電極を互いに対向配置して形成する工程と、前記半導体膜をドライエッチングして、区画された半導体層を形成する工程と、前記ソース電極及び前記ドレイン電極から露出した前記エッチストッパ層の表面層が前記ドライエッチングにより変質した層であって少なくとも一部が前記半導体層の表面と接する層である変質層に対して、水素雰囲気下でプラズマ処理を行う工程と、を含むことを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、水素雰囲気下でプラズマ処理を行うことにより、ドライエッチングによりエッチストッパ層の表面付近に形成される固定電荷を多く含有した変質層を改質して、当該変質層の固定電荷量を減らすことができる。これにより、変質層に起因する寄生トランジスタの発生を抑制することができるので、ハンプ現象が抑制された薄膜トランジスタを製造することができる。
【0019】
さらに、本発明に係る薄膜トランジスタの製造方法の一態様において、前記変質層の密度は、前記エッチストッパ層のうち前記ドライエッチングにより変質しなかった部分の密度よりも高い。
【0020】
本態様によれば、変質層は、エッチストッパ層の母体よりも密度が高くなっている領域である。これにより、変質層を特定することができる。また、このような変質層は、固定電荷を多く含み、ハンプ現象の原因となる。従って、プラズマ処理により、ハンプ現象の原因となる変質層の固定電荷量を減らして寄生トランジスタの発生を抑制することができる。
【0021】
さらに、本発明に係る薄膜トランジスタの製造方法の一態様において、前記変質層は、膜厚が30nm以上である。さらに、本発明に係る薄膜トランジスタの製造方法の一態様において、前記変質層に含まれる塩素の濃度は、前記エッチストッパ層に含まれる塩素の濃度の少なくとも10倍以上である。さらに、本発明に係る薄膜トランジスタの製造方法の一態様において、前記変質層に含まれる炭素の濃度は、前記エッチストッパ層に含まれる炭素の濃度の少なくとも1/100以下である。但し、炭素濃度は、物質によって大きく異なる場合があるため、変質層に含まれる炭素濃度は、エッチストッパ層に含まれる炭素濃度の1/100を超えてもよい。
【0022】
これらの構成により、半導体層の保護膜であるエッチストッパ層と、改質すべき変質層と区別することができ、変質層を特定することができる。また、このような変質層は、固定電荷を多く含み、ハンプ現象の原因となる。したがって、ハンプ現象の原因となる変質層に対して効果的にプラズマ処理を行うことができるので、優れたトランジスタ特性を有する薄膜トランジスタを実現することができる。
【0023】
さらに、本発明に係る薄膜トランジスタの製造方法の一態様において、前記変質層に対して行う前記プラズマ処理を行う工程において、前記プラズマ処理は、平行平板電極型の高周波プラズマ装置を用いて行ってもよい。この場合、前記変質層に対して前記プラズマ処理を行う工程において、プラズマを発生させるときの前記平行平板電極の設定温度は、280℃以上350℃以下とすることができる。また、前記変質層に対して前記プラズマ処理を行う工程において、プラズマを発生させるときの前記平行平板電極の間隔は、500mm以上600mm以下とすることができる。
【0024】
これらの構成により、ドライエッチングにより生成した変質層を改質して、変質層の固定電荷量を効果的に低減させることができる。
【0025】
さらに、本発明に係る薄膜トランジスタの製造方法の一態様において、前記半導体膜は、シリコン膜である、とすることができる。この場合、前記エッチストッパ層を形成する工程の前に、第1のプラズマ処理として前記半導体膜に対して水素雰囲気下でプラズマ処理を行う工程を含み、第2のプラズマ処理として前記変質層に対する前記プラズマ処理を行う、としてもよい。
【0026】
有機材料からなるエッチストッパ層は、水素プラズマによって削られる。すなわち、水素プラズマがエッチストッパ層によって消費されてしまう。本態様によれば、エッチストッパ層を形成する前にプラズマ処理を行うので、エッチストッパ層によってプラズマが消費されてしまうことを防止することができる。これにより、シリコン膜の水素プラズマ処理を効果的に行うことができる。
【0027】
さらに、本発明に係る薄膜トランジスタの製造方法の一態様において、前記第2のプラズマ処理において発生させるプラズマの強さは、前記第1のプラズマ処理において発生させるプラズマの強さよりも小さくなるように行う、としてもよい。この場合、前記第1のプラズマ処理及び前記第2のプラズマ処理は、平行平板電極型の高周波プラズマ装置を用いて行い、前記第2のプラズマ処理を行う際の前記平行平板電極の間隔は、前記第1のプラズマ処理を行う際の前記平行平板電極の間隔よりも長くすることで実現することができる。
【0028】
さらに、本発明に係る薄膜トランジスタの製造方法の一態様において、前記第1のプラズマ処理を行う工程は、前記シリコン膜におけるシリコン元素のダングリングボンドを水素終端する工程であり、前記第2のプラズマ処理を行う工程は、前記エッチストッパ層において前記変質層の部分と前記変質層以外の部分との固定電荷量が等しくなるように前記変質層を改質する工程である、とすることができる。
【0029】
また、本発明に係る薄膜トランジスタの製造方法の一態様において、前記半導体膜は、酸化物半導体膜である、とすることができる。
【0030】
また、本発明に係る薄膜トランジスタの一態様は、基板上に位置するゲート電極と、前記ゲート電極上に位置するゲート絶縁層と、前記ゲート絶縁層を間に介して、前記ゲート電極と対向する半導体層と、前記半導体層上に位置する、有機材料を含むエッチストッパ層と、互いに対向して配置され、前記エッチストッパ層上に少なくとも一部が位置するソース電極及びドレイン電極と、を有し、前記エッチストッパ層は、前記ソース電極及び前記ドレイン電極から露出した前記エッチストッパ層の表面領域であって少なくとも一部が前記半導体層の表面と接する領域に、前記エッチストッパ層の材料が変質した変質層が改質された改質層を有することを特徴とする。
【0031】
本態様によれば、変質層における固定電荷量の偏りをなくしてエッチストッパ層における固定電荷量を均一にすることができる。これにより、変質層に起因する寄生トランジスタの発生を抑制することができる。従って、ハンプ現象を抑制することができ、優れたトランジスタ特性を実現することができる。
【0032】
また、本発明に係る薄膜トランジスタの一態様において、前記変質層は、前記半導体層を区画するときのドライエッチングにより前記エッチストッパ層の表面層が変質した層である。
【0033】
さらに、本発明に係る薄膜トランジスタの一態様において、前記改質層は、膜厚が30nm以上である。さらに、本発明に係る薄膜トランジスタの一態様において、前記改質層に含まれる塩素の濃度は、前記エッチストッパ層に含まれる塩素の濃度の少なくとも10倍以上である。さらに、本発明に係る薄膜トランジスタの一態様において、前記改質層に含まれる炭素の濃度は、前記エッチストッパ層に含まれる炭素の濃度の少なくとも1/100以下である。
【0034】
(実施の形態)
以下、本発明の実施の形態に係る薄膜トランジスタ及びその製造方法について、図面を参照しながら説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示すものである。したがって、以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置および接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であって本発明を限定する主旨ではない。よって、以下の実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、本発明の課題を達成するのに必ずしも必要ではないが、より好ましい形態を構成するものとして説明される。
【0035】
また、各図において、実質的に同一の構成部材については同一の符号を付す。なお、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示したものではない。
【0036】
図1は、本発明の実施の形態に係る薄膜トランジスタの構成を模式的に示した図であり、(a)は(b)のA−A’線の断面図、(b)は透過平面図、(c)は(b)のB−B’線の拡大断面図である。
【0037】
図1に示すように、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ10は、チャネル保護型でボトムゲート型の薄膜トランジスタであって、基板1上に位置するゲート電極2と、ゲート電極2上に位置するゲート絶縁層3と、ゲート絶縁層3を間に介してゲート電極2と対向する半導体層40と、半導体層40上に位置する保護層6と、保護層6上に少なくとも各々の一部が位置するソース電極8S及びドレイン電極8Dと、を有する。
【0038】
本実施の形態における薄膜トランジスタ10は、さらに、一対のコンタクト層7と、パッシベーション層9とを有する。一対のコンタクト層7の各々は、保護層6上に少なくとも各々の一部が位置し、かつ、ソース電極8S又はドレイン電極8Dと半導体層40との間に形成されている。
【0039】
また、半導体層40は、基板1上において島状に区画されており、下層の第1半導体層である結晶質シリコン半導体層4と上層の第2半導体層である非晶質シリコン半導体層5との積層膜によって構成されている。半導体層40は、ゲート絶縁層3を間に介して、ゲート電極2と対向するように形成されている。
【0040】
なお、本実施の形態における薄膜トランジスタ10は、nチャネル型TFTである。以下、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ10の各構成部材について詳述する。
【0041】
基板1は、例えば、石英ガラス、無アルカリガラスおよび高耐熱性ガラス等のガラス材料からなるガラス基板である。なお、ガラス基板の中に含まれるナトリウムやリン等の不純物が半導体層40に侵入することを防止するために、表面に窒化シリコン(SiN
x)、酸化シリコン(SiO
y)又はシリコン酸窒化(SiO
yN
x)等からなるアンダーコート層が形成された基板を用いてもよい。また、アンダーコート層は、レーザアニール等の高温熱処理プロセスにおいて、基板1への熱の影響を緩和させる役割も担う。アンダーコート層の膜厚は、例えば、100nm〜2000nm程度である。
【0042】
ゲート電極2は、基板1の上に所定形状で形成される。ゲート電極2は、シリコンの融点温度に耐えられる導電性材料又はその合金等の単層構造又は多層構造からなり、例えば、モリブデン(Mo)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、タングステン(W)、Ta(タンタル)、Nb(ニオブ)、Ni(ニッケル)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、またはモリブデンタングステン(MoW)等を用いることができる。ゲート電極2の膜厚は、例えば、20nm〜500nm程度である。
【0043】
ゲート絶縁層3(ゲート絶縁膜)は、基板1の上方に形成される。本実施の形態において、ゲート絶縁層3は、ゲート電極2を覆うように基板1上の全面に形成されている。ゲート絶縁層3は、例えば、酸化シリコン(SiO
y)、窒化シリコン(SiN
x)、シリコン酸窒化(SiO
yN
x)、酸化アルミニウム(AlO
z)、酸化タンタル(TaO
w)又はその積層膜等を用いて形成することができる。ゲート絶縁層3の膜厚は、例えば、50nm〜300nm程度である。
【0044】
なお、本実施の形態では半導体層40として結晶質シリコン半導体層4を用いているので、ゲート絶縁層3としては少なくとも酸化シリコンを用いるとよい。これは、TFTにおける良好な閾値電圧特性を維持するためには半導体層40とゲート絶縁層3との界面状態を良好なものにすることが好ましく、これには酸化シリコンが適しているからである。
【0045】
結晶質シリコン半導体層4は、ゲート絶縁層3上に形成される半導体薄膜であって、ゲート電極2に印加される電圧によってキャリアの移動が制御される領域である所定のチャネル領域を有するチャネル層である。チャネル領域は、ゲート電極2の上方の領域であり、チャネル領域の電荷移動方向の長さはゲート長に対応する。結晶質シリコン半導体層4は、例えば、非結晶性の非晶質シリコン(アモルファスシリコン)を結晶化することによって形成することができる。
【0046】
結晶質シリコン半導体層4における結晶シリコンの結晶粒径は、例えば、5nm〜1000nm程度である。この場合、結晶質シリコン半導体層4は、平均結晶粒径が100nm以上の多結晶シリコンのみによって構成されるだけではなく、当該多結晶シリコンと、平均結晶粒径が20nm以上40nm未満のマイクロクリスタルと呼ばれる微結晶シリコンとの混晶構造とすることもできるし、あるいは、アモルファスシリコン(非結晶性シリコン)と結晶性シリコンとの混晶構造とすることもできる。なお、優れたオン特性を得るためには、少なくとも結晶質シリコン半導体層4のチャネル領域については、結晶性シリコンの割合が多い膜で構成するとよい。結晶質シリコン半導体層4の膜厚は、例えば、10nm〜90nm程度である。
【0047】
非晶質シリコン半導体層5は、結晶質シリコン半導体層4上に形成される半導体薄膜であって、例えば真性アモルファスシリコン膜である。非晶質シリコン半導体層5の膜厚は、例えば、10nm〜60nm程度である。
【0048】
なお、本実施の形態における半導体層40は、結晶質シリコン半導体層4と非晶質シリコン半導体層5との積層構造としたが、これに限らない。半導体層40は、結晶質シリコン半導体層及び非晶質シリコン半導体層のどちらか一方であるシリコン半導体層の単体でもよい。また、半導体層40としては、シリコン半導体層に限らず、金属酸化物半導体層又は有機物半導体層を用いても構わない。
【0049】
保護層6は、半導体層40の上に形成されるエッチストッパ層であり、チャネル層となる半導体層40を保護するためのチャネル保護膜である。すなわち、保護層6は、一対のコンタクト層7及び半導体層40をパターニングするときのエッチング処理時において、半導体層40のチャネル領域がエッチングされてしまうことを防止するためのチャネルエッチングストッパ(CES)層として機能する。本実施の形態における保護層6は、非晶質シリコン半導体層5の上に形成される。本実施の形態において、ソース電極8S又はドレイン電極8Dと重なる領域における保護層6の膜厚は、例えば、300nm〜1μmである。さらに、保護層6の膜厚は、500nm以上1μm以下であることが好ましい。保護層6の膜厚の下限は、エッチングによるマージン及び保護層6中の固定電荷の影響を抑制する観点で決定され、保護層6の膜厚の上限は、非晶質シリコン半導体層5との段差増大に伴うコンタクト層7等の段差切れによるプロセスの信頼性低下を抑制する観点で決定される。
【0050】
また、保護層6は、主成分としてシリコン(Si)及び酸素(O)を含有する。本実施の形態における保護層6は、シリコン、酸素、及び、炭素(C)を含む有機材料を主として含有する有機材料膜である。この場合、保護層6は、例えばポリシロキサンによって形成することができる。ポリシロキサンは、主鎖としてシリカ結合を有し、これにメチル基等の炭素を有する有機成分が結合したものである。このような保護層6は、有機系塗布材料をスピンコート法等により塗布することによって形成することができる。また、スピンコート法等の塗布法以外に、液滴吐出法、又は、スクリーン印刷やオフセット印刷等の所定のパターンを形成することができる印刷法等によっても形成することができる。
【0051】
このように構成される保護層6は、非変質層61と、変質層が改質した層である改質層62とからなる。非変質層61は、半導体層40を区画するときのドライエッチングによって変質しなかった保護層6である。一方、改質層62は、半導体層40を区画するときのドライエッチングにより保護層6の表面層が変質した層である変質層が、プラズマ処理によって改質された層である。改質層62として改質される前の層である変質層は、保護層6において、ソース電極8S及びドレイン電極8Dから露出した保護層6の表面領域であって少なくとも一部が半導体層40の表面と接する領域に生成される。なお、
図1の(b)において、非変質層61が見えるように図示されているが、本来非変質層61は改質層62に覆われていて見えない。
図1の(b)では、便宜的に非変質層61を図示している。以下、同様である。
【0052】
また、保護層6は、絶縁性を有しており、一対のコンタクト層7同士は電気的に接続されていない。
【0053】
一対のコンタクト層7は、不純物を高濃度に含む非晶質半導体層、又は、不純物を高濃度に含む多結晶半導体層からなる。一対のコンタクト層7は、例えば、アモルファスシリコンにn型不純物としてリン(P)がドープされたn型半導体層とし、1×10
19[atm/cm
3]以上の高濃度の不純物を含むn
+層とすることができる。
【0054】
一対のコンタクト層7は、保護層6上において所定の間隔をあけて対向配置されており、一対のコンタクト層7のそれぞれは、保護層6の上面から非晶質シリコン半導体層5までを跨るようにして形成されている。なお、各コンタクト層7の膜厚は、例えば、5nm〜100nmとすることができる。
【0055】
本実施の形態における一対のコンタクト層7は、非晶質シリコン半導体層5とソース電極8S及びドレイン電極8Dとの間に形成されているが、半導体層40の側面(非晶質シリコン半導体層5の側面及び結晶質シリコン半導体層4の側面)には形成されていない。すなわち、一対のコンタクト層7は、半導体層40(非晶質シリコン半導体層5及び結晶質シリコン半導体層4)と面一に形成されている。
【0056】
なお、コンタクト層7は、単層で構成したが、下層を低濃度の電界緩和層(n
−層)とし、上層を高濃度のコンタクト層(n
+層)とする2層によって構成してもよい。この場合、低濃度の電界緩和層には、例えば、1×10
17[atm/cm
3]程度のリンがドープされている。
【0057】
一対のソース電極8S及びドレイン電極8Dは、所定の間隔をあけて互いに対向するように配置されるとともに、一対のコンタクト層7上に当該一対のコンタクト層7と面一に形成されている。
【0058】
ソース電極8Sは、一方のコンタクト層7を介して、保護層6の一方の端部及び半導体層40(非晶質シリコン半導体層5)に跨るようにして形成されている。一方、ドレイン電極8Dは、他方のコンタクト層7を介して、保護層6の他方の端部及び半導体層40(非晶質シリコン半導体層5)に跨るようにして形成されている。
【0059】
本実施の形態において、ソース電極8S及びドレイン電極8Dは、それぞれ導電性材料又はこれらの合金等からなる単層構造又は多層構造とすることができ、例えば、アルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、銅(Cu)、チタン(Ti)又はクロム(Cr)等の材料により構成される。本実施の形態では、ソース電極8S及びドレイン電極8Dは、MoW/Al/MoWの三層構造によって形成されている。なお、ソース電極8S及びドレイン電極8Dの膜厚は、例えば、100nm〜500nm程度とすることができる。
【0060】
パッシベーション層9は、ソース電極8S及びドレイン電極8Dと、ソース電極8S及びドレイン電極8Dの間から露出する保護層6とを覆うようにして形成される。パッシベーション層9の膜厚は、例えば、20nm以上1000nm以下とすることができる。
【0061】
パッシベーション層9は、保護層6と主成分が同じとなるように構成されている。本実施の形態では、保護層6が主成分としてシリコン及び酸素を含むので、パッシベーション層9も主成分としてシリコン及び酸素を含む。また、保護層6は有機材料によって構成したが、パッシベーション層9は無機材料で構成している。例えば、パッシベーション層9は、酸化シリコンによって形成することができる。なお、パッシベーション層9としては、窒化シリコンによって形成することもできる。パッシベーション層9は、薄膜トランジスタ10を構成する半導体層材料に外部から酸素や水分等の不純物が侵入することを防止すること等を目的として用いられる。
【0062】
次に、本発明の実施の形態に係る薄膜トランジスタ10の製造方法について、
図2及び
図3A〜
図3Mを用いて説明する。
図2は、本発明の実施の形態に係る薄膜トランジスタの製造方法のフローチャートである。
図3A〜
図3Mは、本発明の実施の形態に係る薄膜トランジスタの製造方法における各工程を模式的に示した図である。なお、
図3A〜
図3Mの各図において、(a)は、(b)のA−A’線に沿って切断した同薄膜トランジスタの断面図であり、(b)は、同薄膜トランジスタの平面図である。また、各平面図に示される構成部材については、理解しやすいように、各断面図に示される構成部材と同じハッチングが施されている。
【0063】
図2に示すように、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ10の製造方法は、基板1を準備する基板準備工程(S10)と、ゲート電極2を形成するゲート電極形成工程(S20)と、ゲート絶縁層3を形成するゲート絶縁層形成工程(S30)と、半導体膜40Fを形成する半導体膜形成工程(S40)と、保護層6(エッチストッパ層)を形成する保護層形成工程(S60)と、ソース電極8S及びドレイン電極8Dを形成するソースドレイン電極形成工程(S70)と、半導体膜40Fをドライエッチングによりパターニングして半導体膜40Fを区画する半導体膜パターニング工程(S80)と、プラズマ処理によって保護層6の一部が変質した層である変質層6aを改質するプラズマ処理工程(S90)と、を含む。本実施の形態では、さらに、変質層を改質するための水素プラズマ処理とは別に、保護層形成工程の前にプラズマ処理を行うプラズマ処理工程(S50)と、変質層を改質するプラズマ処理工程の後にパッシベーション層9を形成するパッシベーション層形成工程(S100)と、を含む。なお、本実施の形態における半導体膜形成工程(S40)は、第1半導体膜を形成する第1半導体膜形成工程と第2半導体膜を形成する第2半導体膜形成工程とを含む。以下、本実施の形態の製造方法における各工程について詳細に説明する。
【0064】
まず、
図3Aに示すように、基板1を準備する(基板準備工程)。基板1としては、例えば、ガラス基板を準備する。なお、ゲート電極2を形成する前に、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)等によって基板1の表面にアンダーコート層を形成してもよい。また、基板1を準備する工程には、アンダーコート層を形成する工程の他に、基板1を洗浄する工程等も含まれる。
【0065】
次に、
図3Bに示すように、基板1の上方に所定形状のゲート電極2をパターン形成する(ゲート電極形成工程)。例えば、基板1上の全面にモリブデンタングステン(MoW)等からなるゲート金属膜をスパッタによって成膜し、フォトリソグラフィ及びウェットエッチングを施すことにより、ゲート金属膜をパターニングして矩形のゲート電極2を形成する。
【0066】
次に、
図3Cに示すように、基板1の上方にゲート絶縁層3を形成する(ゲート絶縁層形成工程)。例えば、ゲート電極2を覆うようにして基板1の上方の全面に、プラズマCVD等によってゲート絶縁層3を成膜する。本実施の形態では、酸化シリコン膜と窒化シリコン膜との2層構造のゲート絶縁層3を形成した。
【0067】
次に、
図3Dに示すように、第1半導体膜として、ゲート絶縁層3の上に結晶質シリコン半導体膜4Fを形成する(第1半導体膜形成工程)。この場合、まず、ゲート絶縁層3上に、例えばアモルファスシリコン膜からなる非結晶シリコン薄膜をプラズマCVD等によって成膜する。アモルファスシリコン膜は、例えば、シランガス(SiH
4)と水素ガス(H
2)とを所定の濃度比で導入し、所定の成膜条件にて成膜することができる。その後、脱水素アニール処理を行った後、所定の温度で非晶質シリコン薄膜をアニールすることにより非結晶シリコン薄膜を結晶化する。これにより、ゲート絶縁層3上に、結晶質シリコン半導体膜4Fを形成することができる。
【0068】
なお、本実施の形態において、非結晶シリコン薄膜の結晶化は、レーザ光を非結晶シリコン薄膜に照射させることによるレーザアニールによって行った。レーザアニールは、波長190nm〜350nm程度のエキシマレーザを用いたレーザアニール(ELA)の他に、波長370nm〜900nm程度のパルスレーザを用いたレーザアニール、又は、波長370nm〜900nm程度の連続発振型のレーザ(CWレーザ)を用いたレーザアニールを用いることができる。また、レーザアニール以外に、急速熱処理(RTP)や急速熱アニール(RTA)によって結晶化してもよい。あるいは、非結晶シリコン薄膜を結晶化して結晶質シリコン半導体膜を形成するのではなく、CVDによる直接成長によって結晶質シリコン半導体膜4Fを形成しても構わない。
【0069】
次に、
図3Eに示すように、第2半導体膜として、結晶質シリコン半導体膜4F上に非晶質シリコン半導体膜5Fを形成する(第2半導体膜形成工程)。例えば、非晶質シリコン半導体膜5Fとしてアモルファスシリコン膜を成膜することができる。アモルファスシリコン膜は、シランガス(SiH
4)、ジシランガス(Si
2H
6)及びトリシランガス(Si
3H
8)のいずれかを含む原料ガスを用いてプラズマCVD等によって所定の成膜条件にて成膜することができる。また、原料ガスとともに導入する不活性ガスとして、水素ガス(H
2)以外に、アルゴンガス(Ar)又はヘリウムガス(He)を所定の濃度比で導入して成膜することができる。
【0070】
これにより、ゲート絶縁層3上に、結晶質シリコン半導体膜4Fと非晶質シリコン半導体膜5Fとの積層膜である半導体膜40Fを成膜することができる。
【0071】
次に、
図3Fに示すように、半導体膜40Fに対して水素雰囲気下で第1のプラズマ処理を行う(第1のプラズマ処理工程)。第1のプラズマ処理は、例えば、H
2、H
2/アルゴン(Ar)等の水素ガスを含むガスを原料として高周波(RF)電力により水素プラズマを発生させて、当該水素プラズマを半導体膜40Fに照射することにより行われる。この水素プラズマ処理は、プラズマ雰囲気中に水素イオン(H
+)と水素ラジカル(H
*)を含む水素プラズマを発生させるものである。発生させた水素イオンと水素ラジカルとが結晶質シリコン半導体膜4F内に入り込んでいくことにより、結晶質シリコン半導体膜4Fを構成するシリコン原子のダングリングボンド(欠陥)が水素終端される。つまり、シリコン原子のダングリングボンドが水素と結合する。これにより、結晶質シリコン半導体膜4Fの結晶欠陥密度を低減させることができるので、結晶質シリコン半導体膜4Fの結晶性が向上する。
【0072】
このように、結晶質シリコン半導体膜4Fにおけるダングリングボンドの水素終端化を行うことにより、ダングリングボンドにおけるキャリアのトラップ等を抑制することができるので、薄膜トランジスタにおけるオンオフ特性を向上させることができる。
【0073】
本実施の形態において、第1のプラズマ処理は、平行平板電極型のRFプラズマCVD装置を用いて行った。この場合、例えば、上記装置内に設置した基板1の温度を280℃とし、原料ガスとして装置内に水素ガス(H
2)ガスを200sccmの流量で導入し、装置内の圧力を400Paとし、平行平板電極の間隔を500mmに設定し、さらに、平行平板電極に印加するRFパワー密度を125Wとして水素プラズマを発生させた。
【0074】
次に、
図3Gに示すように、半導体膜40F上にエッチストッパ層となる保護層6を形成する(保護層形成工程)。例えば、所定の塗布方法によって半導体膜40F上に所定の有機材料を塗布して焼成することによって有機保護膜からなる保護層6を形成することができる。
【0075】
本実施の形態では、まず、ポリシロキサンからなる有機材料を非晶質シリコン半導体膜5F上に塗布してスピンコートして、非晶質シリコン半導体膜5F上の全面に保護層6を形成する。その後、保護層6をプリベーク(仮焼成)した後に、フォトマスクを用いて露光及び現像して所定形状の保護層6を形成する。その後、保護層6をポストベーク(本焼成)する。これにより、所定形状の保護層6を形成することができる。
【0076】
次に、
図3Hに示すように、保護層6を覆うようにして半導体膜40F(非晶質シリコン半導体膜5F)上にコンタクト層用膜7Fを形成する(コンタクト層用膜形成工程)。例えば、プラズマCVDによって、リン等の5価元素の不純物をドープしたアモルファスシリコンからなるコンタクト層用膜7Fを成膜する。
【0077】
次に、同図に示すように、コンタクト層用膜7F上に、ソース電極8S及びドレイン電極8Dとなるソースドレイン金属膜8Fを形成する。例えば、スパッタによって、MoW/Al/MoWの三層構造のソースドレイン金属膜8Fを成膜する(ソースドレイン金属膜形成工程)。
【0078】
次に、
図3Iに示すように、ソースドレイン金属膜8Fをパターニングすることで、非晶質シリコン半導体膜5F上に、保護層6を挟んで一対のソース電極8S及びドレイン電極8Dを形成する。具体的には、ソースドレイン金属膜8Fを所定形状にパターニングするために、ソースドレイン金属膜8F上にレジストを塗布し、露光及び現像を行うことによって、当該レジストを、ソース電極8S及びドレイン電極8Dの形状に対応した形状にパターニングする。次に、このレジストをマスクとしてウェットエッチング等のエッチング処理を施すことによって、ソースドレイン金属膜8Fをパターニングする。これにより、同図に示すように、分離された所定形状の一対のソース電極8S及びドレイン電極8Dを形成することができる。なお、このとき、コンタクト層用膜7Fがエッチングストッパとして機能する。
【0079】
その後、ソース電極8S及びドレイン電極8D上のレジストを除去し、ソース電極8S及びドレイン電極8Dをマスクとしてドライエッチング等のエッチングを施すことにより、コンタクト層用膜7Fをパターニングするとともに、これと同時に、半導体膜40F(非晶質シリコン半導体膜5F及び結晶質シリコン半導体膜4F)を島状にパターニングする(半導体膜パターニング工程)。これにより、
図3Jに示すように、所定形状の一対のコンタクト層7を形成するとともに、島状にパターニングされた非晶質シリコン半導体層5及び結晶質シリコン半導体層4を形成することができる。なお、このとき、保護層6がエッチストッパとして機能する。
【0080】
本実施の形態において、半導体膜40Fをパターニングする際のドライエッチング装置のエッチング条件は、エッチングガスをCl
2ガスとし、圧力を2Paとし、ICP(Inductive Coupled Plasma)パワーを300Wとした。なお、半導体膜40Fをドライエッチングする際、本実施の形態では、ソース電極8S及びドレイン電極8D上のレジストを除去して行ったが、当該レジストを残したままドライエッチングを行っても構わない。
【0081】
このとき、
図3Jの(b)に示すように、半導体膜40Fをパターニングする際のドライエッチングによって、保護層6のソース電極8S及びドレイン電極8Dから露出した領域において、保護層6の表面付近に変質層6aが生成される。すなわち、変質層6aは、ソース電極8S及びドレイン電極8Dから露出した保護層6の表面層がドライエッチングのエッチングガスによって変質した層である。また、変質層6aは、同図に示すように、特に、露出する保護層6の側面部分にあらわれる。このように、半導体膜40Fをドライエッチングした後における保護層6は、ドライエッチングによって変質した部分であって少なくとも一部が半導体層40の表面と接する層である変質層6aと、ドライエッチングによって変質されなかった部分であるバルク層とを有することになる。
【0082】
次に、
図3Kに示すように、ドライエッチングを施した際に生成した変質層6aを改質するために、水素雰囲気下で第2のプラズマ処理を行う(第2のプラズマ処理工程)。第2のプラズマ処理は、変質層6aに対する表面処理であり、変質層6aにおける固定電荷量と変質層6a以外の部分における固定電荷量とが等しくなるように変質層6aを改質するものである。第2のプラズマ処理は、例えば、H
2、H
2/アルゴン(Ar)等の水素ガスを含むガスを原料として高周波(RF)電力により水素プラズマを発生させて、当該水素プラズマを保護層6(変質層6a)に照射することにより行われる。
【0083】
本実施の形態において、第2のプラズマ処理は、平行平板電極型のRFプラズマCVD装置を用いて行った。この場合、例えば、上記装置内に設置した基板1の温度(成長温度)を280℃とし、原料ガスとして装置内に水素ガス(H
2)ガスを200sccmの流量で導入し、装置内の圧力を400Paとし、平行平板電極の間隔を600mmに設定し、さらに、平行平板電極に印加するRFパワー密度を125Wとして、水素プラズマを発生させた。
【0084】
このプラズマ処理により、
図3Lの(b)に示すように、保護層6は、ドライエッチングによって変質されなかった部分である非変質層61と、ドライエッチングによって変質された変質層6aが改質された層である改質層62とを有することになる。
【0085】
また、第2のプラズマ処理工程において発生させるプラズマの強さは、第1のプラズマ処理において発生させるプラズマの強さよりも小さくするとよい。本実施の形態では、第2のプラズマ処理を行う際の平行平板電極の間隔を、第1のプラズマ処理を行う際の平行平板電極の間隔よりも長くすることで、第2のプラズマ処理におけるプラズマ強度を小さくしている。
【0086】
最後に、
図3Mに示すように、パッシベーション層9を形成する(パッシベーション層形成工程)。本実施の形態では、露出する全ての部材(ソース電極8S及びドレイン電極8D、保護層6、非晶質シリコン半導体層5)を覆うようにして、パッシベーション層9を形成する。
【0087】
パッシベーション層9の材料は、保護層6と同じ主成分を有する材料とすることが好ましく、本実施の形態では、酸化シリコン(SiO
x)からなるパッシベーション層9をプラズマCVDによって成膜した。
【0088】
以上のようにして、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ10を製造することができる。
【0089】
次に、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ10の作用効果について、本発明に至った経緯も含めて詳細に説明する。
【0090】
図4は、従来の薄膜トランジスタの構成を模式的に示した図であり、(a)は(b)のA−A’線の断面図、(b)は透過平面図、(c)は(b)のB−B’線の拡大断面図である。
図5A及び
図5Bは、従来の薄膜トランジスタの電流電圧特性(Ids−Vgs特性)を示す図である。
【0091】
図4の(a)に示すように、従来の薄膜トランジスタ100は、基板1上に、ゲート電極2と、ゲート絶縁層3と、結晶質シリコン半導体層4と、非晶質シリコン半導体層5と、保護層6と、一対のコンタクト層7と、ソース電極8S及びドレイン電極8Dとが形成されることで構成されている。
【0092】
エッチストッパ層(保護層6)が有機系塗布材料によって形成された従来の薄膜トランジスタ100は、所望のトランジスタ特性(電流電圧特性)を得ることが難しいという問題がある。このような薄膜トランジスタ100において電流電圧特性を測定すると、
図5Aに示すように、電流が急激に増加する領域においてハンプ現象と呼ばれるコブが生じることが分かった。
【0093】
ここで、ハンプ現象について、
図5Bを用いて説明する。ハンプ現象とは、
図5Bに示すように、一つの薄膜トランジスタではあるが、メイントランジスタの他に寄生トランジスタが存在することに起因すると考えられ、メイントランジスタの電流電圧特性にその寄生トランジスタの電流電圧特性が合わさることで、一つの薄膜トランジスタ100の電流電圧特性上に不自然なコブが現れる現象のことである。なお、本明細書において、有機系塗布材料とは、炭素を含む有機物からなる物質であり、またインクジェット等による印刷工程やスピンコート等による塗布工程により形成される材料とする。
【0094】
本願発明者は、このハンプ現象が発生する原因について鋭意解析及び検討した結果、エッチストッパ層(保護層)として有機系塗布材料を用いた場合、半導体膜をパターニングして区画(島化)する時に、露出するエッチストッパ層がダメージを受けて、エッチストッパ層の母材である有機系塗布材料が変質してなる変質層がエッチストッパ層の表面付近に現れることが分かった。このとき、さらに、露出するエッチストッパ層の外周端部ではエッチングによりエッチストッパ層の膜厚が薄くなることも分かった。この結果、新たに生成された変質層と半導体層とが接することで寄生トランジスタが形成され、ハンプ現象が発生するということが判明した。
【0095】
この寄生トランジスタの発生について、
図6を用いて、さらに詳細に説明する。
図6は、
図4に示す従来の薄膜トランジスタにおいて、保護層6がソース電極(ドレイン電極)からゲート幅方向にはみ出した長さ(d)を複数異ならせたときに得られる各々の電流電圧特性を重ね合わせた図である。
【0096】
図6に示すように、はみ出し長さdが異なる各々の薄膜トランジスタの電流電圧特性において、メイントランジスタの飽和電流値には変化がみられないのに対して、寄生トランジスタの飽和電流値については、はみ出し長さdの長さに応じて変化していることが分かる。具体的には、はみ出し長さdが長くなればなるほど、寄生トランジスタの飽和電流値が減少していることが分かる。これは、寄生トランジスタの原因となる部分、すなわち変質層6aが保護層6の外周端部に存在していることを示している。
【0097】
また、変質層6aによって、ハンプ現象が発生するという点について、
図4の(c)に戻って詳細に説明する。
図4の(c)は、従来の薄膜トランジスタ100における保護層(エッチストッパ層)の外周端部周辺の断面図であり、同図には、半導体層のバックチャネル側の固定電荷量が模式的に図示されている。
【0098】
本来、半導体層40のバックチャネル側の全面は、組成元素及びその濃度が均一な保護層6で覆われており、バックチャネル側の固定電荷量は面内均一になっているはずである。つまり、この場合、薄膜トランジスタの電流電圧特性上にはハンプ現象は現れない。
【0099】
しかし、上述のとおり、保護層6の材料として有機系塗布材料を用いると、半導体層40をパターン形成する際のドライエッチングにより、保護層6を構成する有機系塗布材料が変質して変質層6aが出現すると共に、半導体層40の側面が後退しながらエッチングが行われるために、保護層6の外周端部において半導体層40と変質層6aとが接する状況が生じる。このため、
図4の(c)に示すように、半導体層40のバックチャネル側部分が、ドライエッチングによって保護層6が変質された層である変質層6aと接するとともに、ドライエッチングによって保護層6が変質されなかった層である無変質層(バルク層)と接する状態となる。この場合、変質層6aと無変質層とでは固定電荷が異なり、ダメージを受けた変質層6aの方により多くの固定電荷が発生する。このように、半導体層40と固定電荷が多い変質層6aとが接するために寄生トランジスタが発生し、
図5A及び
図5Bに示すように、電流電圧特性上にハンプ現象が発生すると考えられる。
【0100】
実際に、
図4に示す構成の従来の薄膜トランジスタ100を作製して、
図4の(c)に相当する部分について、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)にて断面観察した。
図7は、
図4に示す従来の薄膜トランジスタの保護層の外周端部周辺における断面TEM像である。なお、
図7では、パッシベーション層も形成している。
【0101】
図7に示す断面TEM像によれば、保護層6の表面(傾斜側面)上に膜厚30nm程度の変質層6aが存在し、保護層6の外周端部で半導体層40と接していることが確認できる。また、TEM像における色の濃さは密度(体積密度)の違いを表すことから、保護層6の表面付近には、明らかに保護層6とは異なる層(変質層6a)が現れていることが確認できる。そして、変質層6aは、母体となる保護層6よりも色が濃いことから、変質層6aの密度(体積密度)は、母体となる保護層6(変質しなかった部分)の密度(体積密度)よりも高いことが分かる。
【0102】
ここで、従来の薄膜トランジスタ100における塩素(Cl)及び炭素(C)の濃度分布について、
図8A及び
図8Bを用いて説明する。
図8Aは、
図4に示す従来の薄膜トランジスタを構成する膜中に含まれる塩素の濃度分布を示す図である。また、
図8Bは、
図4に示す従来の薄膜トランジスタを構成する膜中に含まれる炭素の濃度分布を示す図である。なお、
図8A及び
図8Bは、単膜にて二次イオン分析計(Secondary Ion−microprobe Mass Spectrometer:SIMS)を用いて分析した結果を示している。なお、
図8A及び
図8Bでは、複数のサンプルを分析した結果を図示している。
【0103】
図8Aに示すように、パッシベーション層と保護層6との間には、他よりも塩素元素が多く検出される層が存在することが分かる。また、
図8Bに示すように、パッシベーション層と保護層6との間には、パッシベーション層9よりも炭素の濃度が大きく、保護層6よりも炭素の濃度が小さい層が存在することが分かる。パッシベーション層と保護層6との間に現れる層が変質層6aであり、保護層6の有機系塗布材料の組成以外に、ドライエッチングに使用する原料ガスである塩素元素を多く含む。つまり、変質層6aは、保護層6がドライエッチングの原料ガスによって変質した層である。また、変質層6aは、保護層6よりも炭素の濃度が低くなっていることから、変質層6aは保護層6の炭素が変質したと考えられる。このように、
図8A及び
図8Bに示す結果から、変質層6aは、保護層6の母材である有機系塗布材料とドライエッチングの原料ガスとが結びついた層であると考えられる。
【0104】
なお、
図8Aに示すように、変質層6aに含まれる塩素の濃度は、保護層6に含まれる塩素の濃度の少なくとも10倍以上であることが分かる。また、
図8Bに示すように、変質層6aに含まれる炭素の濃度は、保護層6に含まれる炭素の濃度の少なくとも1/100以下であることが分かる。
【0105】
以上により、本願発明者は、この変質層6aの存在によってハンプ現象が発生するという知見を得て、この変質層6aを改質することにより、ハンプ現象の発生を抑制できると考えた。
【0106】
そこで、本願発明者は、この知見に基づいて、上述のように、保護層6に対してプラズマ処理を行った。すなわち、ドライエッチングにて半導体層40を島状にパターニングした後に、水素雰囲気下でプラズマ処理を施した。
【0107】
実際に、
図3A〜
図3Mに示される製造方法によって薄膜トランジスタ10を作製して、電流電圧特性を測定してみたところ、
図9に示すような特性が得られた。
図9は、本発明の実施の形態に係る薄膜トランジスタの電流電圧特性(Ids−Vgs特性)を示す図である。
【0108】
図9に示すように、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ10では、電流電圧特性上にハンプ現象が発生していないことが分かる。特に、電流が急激に増加する領域で問題となっていたハンプ現象が解消していることが分かる。これは、プラズマ処理によって変質層6aが改質されたからであると考えられる。この点について、
図10を用いて説明する。
図10は、本実施の形態に係る薄膜トランジスタにおける保護層の外周端部周辺の拡大断面図であり、
図1の(c)に対応する図である。なお、
図10においては、半導体層のバックチャネル側の固定電荷量が模式的に図示されている。
【0109】
本実施の形態によれば、変質層6aに対してプラズマ処理を行うことにより、
図10に示すように、ドライエッチングによって保護層6の表面付近に生成した変質層6aが改質されて改質層62となる。改質層62は、寄生トランジスタの閾値(閾値電圧)がメイントランジスタの閾値(閾値電圧)よりも大きくなるように変質層6aが改質された層であって、改質により変質層6aの固定電荷量が低減された層である。改質層62の固定電荷量は、プラズマ処理によって、非変質層61の固定電荷量(すなわちドライエッチングにより変質されなかった保護層6の固定電荷量)とほぼ同程度にまで低減させることができる。この結果、非変質層61及び改質層62によって構成される保護層6では、プラズマ処理前における変質層6aに伴う固定電荷量の偏りがなくなり、層全体における固定電荷量が均一になっている。これにより、半導体層40のバックチャネル側の固定電荷量を面内均一にすることができる。
【0110】
なお、プラズマ処理後の変質層6a(すなわち改質層62)の塩素及び炭素の濃度を二次イオン分析計で測定してみたところ、
図8A及び
図8Bに示す測定結果と同様の結果が得られた。すなわち、プラズマ処理前後において変質層6aの塩素濃度及び炭素濃度は変化せず、改質層62と変質層6aとは塩素濃度及び炭素濃度が同じであることが分かった。すなわち、改質層62に含まれる塩素の濃度は、非変質層61に含まれる塩素の濃度の少なくとも10倍以上である。また、改質層62に含まれる炭素の濃度は、非変質層61に含まれる炭素の濃度の少なくとも1/100以下である。また、プラズマ処理によって変質層6aの厚さも変わらず、改質層62の厚さは変質層6aの厚さと同程度である。本実施の形態において、改質層62の膜厚は30nm以上である。
【0111】
さらに、本願発明者は、実験計画法を用いて変質層6aが改質する制御因子と交互作用とを見極めた。この点について、
図11を用いて説明する。
図11は、本発明の実施の形態に係る薄膜トランジスタの製造方法における第2のプラズマ処理を、直交条件を用いて行った際のプラズマCVDの条件別要因効果を示す図である。
【0112】
図11に示すように、L18直交表を用いてハンプ量の要因効果図を作成して、有効因子を見極めた。ここで、ハンプ量とは、縦軸に薄膜トランジスタのドレイン電流値を2階微分した値をプロットするとともに横軸に電圧値をプロットして、そのカーブのピーク値のことであると定義した。つまり、ハンプ現象がより顕著に現れるほど、電流電圧特性のカーブの屈折が大きくなることを利用して、2階微分したドレイン電流のピーク値をハンプ量として、ハンプ現象の定量指標とした。
【0113】
図11に示す要因効果図より、ハンプ量(ハンプ現象)の有効因子は、RFプラズマCVD装置の基板温度(成長温度)及び平行平板電極の間隔であることが分かった。また、ハンプ量を低減するためには、基板温度は280℃以上、電極間距離は500mm以上に設定すればよいことが分かった。より好ましくは、基板の設定温度は280℃以上350℃以下であり、平行平板電極の間隔は500mm以上600mm以下である。
【0114】
以上、本発明の実施の形態に係る薄膜トランジスタ10によれば、プラズマ処理を行うことにより、ドライエッチングにより保護層6の表面付近に形成される固定電荷を多く含有した変質層6aを改質して、当該変質層6aの固定電荷量を減らすことができる。これにより、変質層6aに起因する寄生トランジスタの発生を抑制することができるので、ハンプ現象を抑制することができる。従って、トランジスタ特性に優れた薄膜トランジスタを実現することができる。
【0115】
特に、本実施の形態では、電流電圧特性の電流が急激に増加する領域で発生していたハンプ現象を解消することができる。これにより、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ10を有機ELディスプレイの駆動トランジスタとして用いた場合、表示装置における低階調領域(黒表示領域)の特性を向上させることができる。
【0116】
(変形例)
次に、本発明の実施の形態の変形例に係る薄膜トランジスタ10Aについて、
図12を用いて説明する。
図12は、本発明の実施の形態の変形例に係る薄膜トランジスタの構成を模式的に示した図であり、(a)は(b)のA−A’線の断面図、(b)は透過平面図である。
【0117】
図12に示すように、本変形例に係る薄膜トランジスタ10Aは、保護層6Aがゲート幅方向においてソース電極8S及びドレイン電極8Dからはみ出さない構成となっている。すなわち、上記実施の形態に係る薄膜トランジスタ10では、保護層6はソース電極8S及びドレイン電極8Dからはみ出すように形成されていたが、本変形例に係る薄膜トランジスタ10Aでは、保護層6Aがソース電極8S及びドレイン電極8Dからはみ出さない構成となっており、保護層6Aのゲート幅方向の側面が、ソース電極8S及びドレイン電極8Dのゲート幅方向の側面よりも後退している。なお、それ以外の構成は、
図1に示す実施の形態と同様である。
【0118】
以上、本変形例に係る薄膜トランジスタ10Aによれば、上記実施の形態に係る薄膜トランジスタ10と同様の効果を奏する。
【0119】
(その他)
以上、本発明に係る薄膜トランジスタ及び薄膜トランジスタの製造方法について、実施の形態及び変形例に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態及び変形例に限定されるものではない。
【0120】
例えば、
図4及び
図10においては、固定電荷として正の固定電荷を示しているが、固定電荷としては負の固定電荷でもよい。また、固定電荷は、層のバルクと層間の界面とのどちらに存在してもよい。本発明において、固定電荷は、半導体層40からみたバックチャネル側の固定電荷量が、保護層6の外周端部と中央部とで等しくなっていることが重要である。
【0121】
また、上記の実施の形態及び変形例では、シリコン元素のダングリングボンドを水素終端するために第1のプラズマ処理を行ったが、第1のプラズマ処理は必ずしも行う必要はない。例えば、半導体膜40Fが酸化物半導体や有機物半導体等である場合には、第1のプラズマ処理は行う必要がない。まら、半導体膜40Fにシリコン膜を用いた場合であっても、第1のプラズマ処理は必ずしも行う必要はない。
【0122】
但し、第1のプラズマ処理を行う場合は、保護層6を形成する前に行うとよい。これは、炭素を含む有機系塗布材料によって保護層6を形成した後に水素プラズマ処理を行うと、発生させた水素プラズマによって保護層6に含有する炭素が削られてしまって(すなわち、保護層6に含まれる炭素によって水素プラズマが消費されてしまって)、水素プラズマが半導体膜40Fに届かない場合があるからである。特に、保護層6の膜中に、塗布材料として用いられる感光剤(ナフトキノンジアジト等)が残っている場合、保護層6と水素プラズマとが反応しやすくなるので、さらに水素プラズマが保護層6で消費されてしまう。従って、半導体膜40Fに対する水素プラズマ処理は、保護層6を形成する前に行う方がよい。
【0123】
その他、各実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態及び変形例における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本発明に含まれる。
【0124】
また、本実施の形態に係る薄膜トランジスタは、有機EL表示装置又は液晶表示装置等の表示装置に用いることができる。例えば、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ10を有機EL表示装置に適用した場合について、
図13を用いて説明する。
図13は、本発明の実施の形態に係る有機EL表示装置の一部切り欠き斜視図である。
【0125】
図13に示すように、本実施の形態に係る有機EL表示装置20は、アクティブマトリクス基板21と、アクティブマトリクス基板21上にマトリクス状に配置された複数の画素22と、複数の画素22のそれぞれに対応して形成された有機EL素子23と、画素22の行方向に沿って形成された複数のゲート線27と、画素22の列方向に沿って形成された複数のソース線28と、ソース線28と並行して形成された電源線29(不図示)とを備える。有機EL素子23は、アクティブマトリクス基板21上に順次積層された、陽極24、有機EL層25及び陰極26(透明電極)を有する。また、有機EL層25は、電子輸送層、発光層、正孔輸送層等の各層が積層されて構成されている。
【0126】
なお、本実施の形態において、薄膜トランジスタ10は、画素22を選択するためのスイッチングトランジスタとして設けられているが、駆動トランジスタとして用いることもできる。
【0127】
次に、上記有機EL表示装置20における画素22の回路構成について、
図14を用いて説明する。
図14は、本発明の実施の形態に係る薄膜トランジスタを用いた画素の回路構成を示す図である。
【0128】
図14に示すように、各画素22は、直交するゲート線27とソース線28とによって区画されており、駆動トランジスタ31と、スイッチングトランジスタ32と、有機EL素子23と、コンデンサ33とを備える。駆動トランジスタ31は、有機EL素子23を駆動するトランジスタであり、また、スイッチングトランジスタ32は、画素22を選択するためのトランジスタである。
【0129】
駆動トランジスタ31において、ゲート電極31Gがスイッチングトランジスタ32のドレイン電極32Dに接続され、ソース電極31Sが中継電極(不図示)を介して有機EL素子23のアノードに接続され、ドレイン電極31Dが電源線29に接続される。
【0130】
また、スイッチングトランジスタ32において、ゲート電極32Gはゲート線27に接続され、ソース電極32Sはソース線28に接続され、ドレイン電極32Dはコンデンサ33及び駆動トランジスタ31のゲート電極31Gに接続されている。
【0131】
この構成において、ゲート線27にゲート信号が入力されて、スイッチングトランジスタ32がオン状態になると、ソース線28を介して供給された映像信号電圧がコンデンサ33に書き込まれる。そして、コンデンサ33に書き込まれた映像信号電圧は、1フレーム期間を通じて保持される。この保持された映像信号電圧により、駆動トランジスタ31のコンダクタンスがアナログ的に変化し、発光階調に対応した駆動電流が、有機EL素子23のアノードからカソードへと流れて有機EL素子23が発光する。これにより、所定の画像を表示することができる。
【0132】
なお、本実施の形態に係る有機EL表示装置等の表示装置については、フラットパネルディスプレイとして利用することができ、テレビジョンセット、パーソナルコンピュータ又は携帯電話などの電子機器に適用することができる。