【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1には、同文献に記載された放熱部材(多孔質セラミックス)に関し、どのような手法で固着対象箇所に対して固着するのかについて、具体的な説明はない。
【0005】
一般的な放熱部材(例えば、金属材料からなる放熱部材など)であれば、多くの場合、放熱部材を回路基板上の固着対象箇所に取り付ける際には、ねじ止めなどを行っている。
しかし、上記特許文献1に記載されているような多孔質セラミックスの場合、多孔質セラミックスをねじ止めによって固定しようとすると、ねじからの力を受けて多孔質セラミックスが割れてしまうことがあるので、この種の多孔質セラミックスをねじで固定することは困難である。また、ねじ止めの場合、ねじが必要な分だけ部品点数が増える上に、ねじを一箇所ずつ締める作業には人手も時間もかかる。
【0006】
ねじ止め以外の固定方法としては、例えば、両面テープなどの固着手段で放熱部材を固着する、という手法も考え得る。しかし、両面テープの場合、固着箇所と放熱部材との間に両面テープが挟まれるので、固着箇所から放熱部材への熱移動が両面テープによって阻害されるおそれがあり、その場合、放熱効率が低下するという問題がある。また、両面テープの場合、ねじ止めなどに比べて固着力が弱い、という問題もある。
【0007】
また、上述のようなねじや両面テープを利用しない固着方法としては、はんだ付けのような固着方法が考えられるが、この種の多孔質セラミックスは、一般に、はんだとの馴染みが悪いので、多孔質セラミックス製の放熱部材の場合、単にはんだ付けするだけでは適切に固着することが困難である。
【0008】
セラミックス材料からなる部材をはんだ付けする方法としては、事前にセラミックス表面にめっき被膜を形成しておいて、そのめっき部分をはんだ付けするという方法が考えられる。
【0009】
しかし、セラミックス表面にめっき被膜を施すには、通常、無電解めっき法でめっき被膜を形成することになるので、放熱部材の全面にめっき被膜が形成されてしまう。そのため、放熱部材の一部(例えば、はんだ接合面)だけに部分的にめっき被膜を形成したい場合には、事前のマスキング作業や事後の被膜除去作業など、何らかの製造工程が増えることになり、放熱部材の製造に相応の手間がかかるという問題がある。
【0010】
また、無電解めっき法によるめっき被膜の場合、膜厚を十分に厚くすることが難しく、膜厚が薄い場合、はんだ付けの際にめっき食われ(めっき被膜を形成する金属がはんだ側へ溶解する現象)が発生すると、はんだがめっき被膜を貫通してしまうことがある。この場合、はんだがめっき被膜を貫通した箇所では、めっき被膜を設けたことによる効果が失われてしまうので、放熱部材と固着対象箇所との接合強度が低下してしまうという問題がある。
【0011】
以上のような事情から、多孔質セラミックス製の放熱部材は、高い放熱性能は備えているものの、簡便な手法で回路基板の表面に対して適切に実装することが難しく、この点に改善の余地が残されていた。
【0012】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、多孔質セラミックス製でありながら、はんだ付けが可能で、その接合強度も十分に高めることができる放熱部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以下、本発明において採用した構成について説明する。
本発明の放熱部材は、セラミックスの多孔質体によって形成された多孔質セラミックス部と、金属又は金属を含有する材料のいずれかである金属系材料を、前記多孔質セラミックス部に対して溶射することによって形成されており、固着対象箇所に対してはんだ付けによる接合が可能な溶射被膜部とを有する。
【0014】
このように構成された放熱部材によれば、溶射被膜部を固着対象箇所に対してはんだ付けすることにより、当該箇所に放熱部材を固着することができる。しかも、溶射被膜部は、多孔質セラミックス部に対して金属系材料を溶射することによって形成されているので、無電解めっき法によって形成されるめっき被膜に比べ、溶射被膜部の厚さを格段に厚くすることができる。
【0015】
したがって、はんだ付けをする際に仮に金属食われが発生したとしても、その程度でははんだが溶射被膜部を貫通しない程度まで溶射被膜部の厚さを厚くすることができ、これにより、はんだ付け部分の接合強度を十分に高めることができる。
【0016】
また、溶射被膜部を形成する際には、多孔質セラミックス上において必要な範囲だけをターゲットにして、金属系材料を溶射することができる。そのため、めっき対象物の全面にめっき被膜が形成されてしまう無電解めっき法に比べ、より容易に部分的な溶射被膜を形成することができる。
【0017】
さらに、溶射被膜部は、金属系材料の微粒子が溶融若しくは軟化した状態で多孔質セラミックスの表面に向かって噴射され、多孔質セラミックスの表面に堆積・凝固することによって形成される。そのため、溶射被膜部も微粒子間の空隙が微細な気孔として残る多孔質体となっており、はんだ接合面は微細な凹凸を有する表面積の大きい面になる。したがって、このような溶射被膜部を備える放熱部材であれば、溶射被膜部が有する空隙ないし凹凸に、溶融したはんだが入り込むので、はんだ接合面が平滑になっているものに比べ、より強固なはんだ接合を行うことができる。
【0018】
また、溶射被膜部を形成する際、上述のように金属系材料の微粒子が多孔質セラミックスの表面に向かって噴射されると、一部の微粒子は多孔質セラミックス側の細孔内に入り込む。そのため、更に細孔外に微粒子が吹き付けられた際、細孔の内外で金属系材料の微粒子同士が接合されると、多孔質セラミックスの表面とその表面に堆積した金属系材料には機械的な噛み合いが生じるので、そのアンカー効果によって多孔質セラミックス部と溶射被膜部を物理的に強固に接合することができる。
【0019】
なお、本発明の放熱部材において、溶射被膜部を形成する際の溶射方式は任意であり、フレーム溶射、高速フレーム溶射、爆発溶射、電気式溶射などの溶射方式を利用することができる。
【0020】
ところで、溶射被膜部の被膜厚は、はんだ付けに伴う金属食われが発生しても、はんだが溶射被膜部を貫通しない程度に設定されていればよく、その厚さははんだ付け工程の時間条件や温度条件によっても左右される。ただし、一般的な条件を想定して具体的な目安を例示すれば、前記溶射被膜部は、被膜の厚さが10μm以上とされていると好ましい。このような被膜厚が確保された放熱部材とすれば、はんだ食われに起因する接合強度の低下を防止ないし抑制できるので、固着対象箇所に対する接合強度を十分に高めることができる。
【0021】
なお、被膜の厚さが10μmを下回ると、はんだ付けに伴う金属食われが発生した際に十分な被膜厚を確保することが難しくなる傾向がある。一方、被膜の厚さが10μm以上あれば所期の接合強度を確保できるので、接合強度の確保という観点からは、被膜厚について特に上限はない。
【0022】
ただし、過剰に被膜を厚くしても既に十分に確保された接合強度はそれ以上向上しないので、このような点だけを考慮するのであれば、例えば、被膜厚を10〜500μm程度の範囲内で調節するとよい。その一方、別の点を考慮するのであれば、被膜厚を500μm以上としてもよい。例えば、溶射被膜部にはんだ接合部としての機能以外の別機能を持たせたい場合には、その別機能に必要となる被膜厚として、500μm以上の被膜厚を確保することも考え得る。
【0023】
つまり、はんだ接合以外の他の事情も考慮した場合には、必要に応じて被膜厚を適宜決めることができるのである。溶射方式で被膜を形成する場合、例えば10mm厚程度の被膜であっても形成可能なので、本発明においても、そのような厚い溶射被膜を形成してもよい。
【0024】
また、多孔質セラミックス部を形成する多孔質セラミックスについては、放熱を図ることができる程度に熱伝導率が高ければよいが、一つの目安としては、例えば、5W/(m・K)以上の熱伝導率を有するものが好ましい。
【0025】
放熱を図ることができる程度に熱伝導率が高く、工業的に放熱部材を製造する上で実用的な材料を例示すれば、前記多孔質セラミックス部は、SiC、Al
2O
3、Si
3N
4、MgO、AlN、及びBNの中から選ばれる少なくとも一種のセラミックスの多孔質体によって形成されていると好ましい。これらの多孔質セラミックスは、いずれも十分に熱伝導率が高く、放熱部材として所期の性能を確保することができる。
【0026】
また、溶射被膜部を形成する金属系材料については、溶射によって溶射被膜部を形成することができ、かつ、溶射被膜部を形成したことによってはんだ付けが可能となる材料であれば、特に限定されないが、一例を挙げれば、前記金属系材料は、Cu、Sn、及びNiの中から選ばれる少なくとも一種の金属材料、又は当該金属材料を含有する材料であると好ましい。金属材料(Cu、Sn、Ni)を含有する材料としては、当該金属材料(Cu、Sn、Ni)を含有する合金や当該金属材料(Cu、Sn、Ni)を含む複合組成物を挙げることができる。このような材料で形成された溶射被膜部を備えていれば、固着対象箇所に対するはんだ付けを行うことができ、その接合強度を十分に高めることができる。
【0027】
また、溶射被膜部を形成する金属系材料については、溶射によって溶射被膜部を形成することができ、かつ、溶射被膜部を形成したことによってはんだ付けが可能となる材料であることに加え、はんだ付けとは別の観点で新たな機能を付加できる材料を選定してもよい。
【0028】
一例を挙げれば、前記金属系材料は、磁性材料又は磁性材料を含有する材料のいずれかであると好ましい。磁性材料の例としては、Fe,Co,Niに、Fe,Co,Ni,Y,Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Si,Bなどを添加したものを用いることができ、より具体的には、FeNi合金(パーマロイ)や電磁ステンレス鋼やCoZrNb合金などを挙げることができる。このような材料で形成された溶射被膜部を備えていれば、固着対象箇所に対するはんだ付けを行うことができる他、溶射被膜部によって電磁波を減衰ないし遮断できるようになるので、これにより、放熱部材をノイズ抑制部材としても利用することができるようになる。なお、磁性材料を用いて溶射被膜部を作成する場合、溶射被膜は厚い方が磁性材料による効果を得ることができるので、その場合の被膜厚さは10μm〜10mmの範囲内で調節されればよく、どの程度の被膜厚とするかについては、必要とされる性能とコストを鑑み決定すればよい。