【文献】
LAFOREST, Richard et al.,Dosimetry of 60/61/62/64Cu-ATSM: a hypoxia imaging agent for PET,European Journal of Nuclear Medicine and Molecular Imaging,2005年,Vol.32, No.7,p.764-770
【文献】
BOURGEOIS, Mickael et al.,Contribution of [64Cu]-ATSM PET in molecular imaging of tumour hypoxia compared to classical [18F]-MISO - a selected review,Nuclear Medicine Review,2011年,Vol.14, No.2,p.90-95
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
[放射性医薬]
本発明において、上記一般式(1)中の置換基R
1、R
2、R
3、R
4のアルキル基及びアルコキシ基の炭素数は、好ましくは1〜5の整数であり、より好ましくは炭素数1〜3の整数である。本発明において、上記一般式(1)中の置換基R
1、R
2、R
3、R
4は、同一又は異なって水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基であることが好ましく、R
1及びR
2が同一又は異なって水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基であり、R
3が水素原子であり、R
4が炭素数1〜3のアルキル基であることがより好ましく、R
1及びR
2が同一又は異なって水素原子又はメチル基であり、R
3が水素原子であり、R
4がメチル基であることが更に好ましい。
【0014】
上記一般式(1)で表される放射性ジチオセミカルバゾン銅錯体は、具体的には、
放射性グリオキザール−ビス(N4−メチルチオセミカルバゾン)銅錯体、
放射性グリオキザール−ビス(N4−ジメチルチオセミカルバゾン)銅錯体、
放射性エチルグリオキザール−ビス(N4−メチルチオセミカルバゾン)銅錯体、
放射性エチルグリオキザール−ビス(N4−エチルチオセミカルバゾン)銅錯体、
放射性ピルブアルデヒド−ビス(N4−メチルチオセミカルバゾン)銅錯体、
放射性ピルブアルデヒド−ビス(N4−ジメチルチオセミカルバゾン)銅錯体、
放射性ピルブアルデヒド−ビス(N4−エチルチオセミカルバゾン)銅錯体、
放射性ジアセチル−ビス(N4−メチルチオセミカルバゾン)銅錯体、
放射性ジアセチル−ビス(N4−ジメチルチオセミカルバゾン)銅錯体、
放射性ジアセチル−ビス(N4−エチルチオセミカルバゾン)銅錯体
等が示される。中でも放射性ジアセチル−ビス(N4−メチルチオセミカルバゾン)銅錯体(以下、放射性Cu−ATSMともいう。)又は放射性ピルブアルデヒド−ビス(N4−ジメチルチオセミカルバゾン)銅錯体(以下、放射性Cu−PTSMともいう。)が好ましく、放射性ジアセチル−ビス(N4−メチルチオセミカルバゾン)銅錯体がより好ましい。
【0015】
上記一般式(1)中の銅の放射性同位体は、
61Cu、
62Cu、
64Cu又は
67Cuであることが好ましい。これらの放射性同位体は、いずれも陽電子を放出する。また、放射性ジチオセミカルバゾン銅錯体は低酸素領域に集積し、中でもCu−ATSMはがん幹細胞に集積する。そのため、
61Cu、
62Cu、
64Cu又は
67Cuを含む放射性医薬は、陽電子断層撮影(PET)を用いた腫瘍又は虚血、好ましくは腫瘍の画像化剤として用いることができる。一方、
64Cu、
67Cuは飛程の短いβ線も放出し、細胞を破壊する治療効果を有する。そのため、
64Cu又は
67Cuを含む放射性医薬は、腫瘍の治療剤としてより好ましい。
【0016】
放射性ジチオセミカルバゾン銅錯体は、各種の腫瘍に集積することができる。放射性ジチオセミカルバゾン銅錯体が集積する腫瘍としては、例えば、乳癌、脳腫瘍、前立腺癌、膵臓癌、胃癌、肺癌、結腸癌、直腸癌、大腸癌、小腸癌、食道癌、十二指腸癌、舌癌、咽頭癌、唾液腺癌、神経鞘腫、肝臓癌、腎臓癌、胆管癌、子宮内膜癌、子宮頸癌、卵巣癌、膀胱癌、皮膚癌、血管腫、悪性リンパ腫、悪性黒色腫、甲状腺癌、副甲状腺がん、鼻腔がん、副鼻腔がん、骨腫瘍、血管線維腫、網膜肉腫、陰茎癌、精巣腫瘍、小児固形癌、肉腫、白血病などが挙げられる。これらの腫瘍は、原発性であっても転移性であってもよい。
【0017】
本発明の放射性医薬は、上記の放射性ジチオセミカルバゾン銅錯体をそのまま、あるいは薬理学的に許容され得る担体、希釈剤、若しくは賦形剤とともに製剤化されていればよい。剤形は、経口投与又は非経口投与のいずれであってもよいが、例えば注射剤などの非経口投与の剤形が好ましい。
【0018】
[放射性医薬の製造方法]
本発明の放射性医薬は、例えば、以下の方法により製造することができる。
【0019】
まず、Petering et al.(Cancer Res., 24,367−372,1964)に記載の方法によりジチオセミカルバゾン誘導体を合成する。すなわち、α−ケトアルデヒドの1mol水溶液又は50体積%エタノール溶液を30〜40分かけてチオセミカルバジド、N4−メチルチオセミカルバジド、N4−ジメチルチオセミカルバジド等の2.2mol含有5%氷酢酸溶液に50〜60℃で滴下する。滴下中は反応液を撹拌する。滴下終了後室温で数時間放置した後、冷却して結晶を分離する。結晶はメタノールに溶解して再結晶を行い精製する。
【0020】
つづいて、放射性銅イオンを製造する。
61Cuイオンは、
59Co(α,2n)
61Cu反応、
natZn(p,x)
61Cu反応、
58Ni(α,p)
61Cu反応等から
61Cuを生成した後、イオンクロマトグラフィー等を用いてターゲットから化学的に分離することにより得ることができる。また、
62Cuイオンは例えば、WO2005/084168、Journal of Nuclear Medcine,vol.30,1989,pp.1838−1842に記載されるような
62Zn/
62Cuジェネレーターにより得ることができる。
64Cuイオンは例えば、McCarthyらの方法(Nuclear Medicine and Biology,vol.24(1),1997,pp.35‐43)、又は、Obataらの方法(Nuclear Medicine and Biology,vol.30(5),2003,pp.535‐539)により得ることができる。
67Cuイオンは例えば、
68Zn(p,2p)
67Cu反応から
67Cuを生成した後、イオンクロマトグラフィー等を用いてターゲットから化学的に分離することにより得ることができる。
【0021】
その後、上記ジチオセミカルバゾン誘導体をジメチルスルホキシド(DMSO)溶液として、上記放射性銅イオンを含む溶液と接触させることにより、上記一般式(1)で表される放射性ジチオセミカルバゾン銅錯体を得ることができる。
62Cu‐ジチオセミカルバゾン銅錯体の製造方法としては、例えば、特許文献1記載の方法が挙げられる。また、
61Cu‐ATSMの製造方法としては、例えば、Jalilianらの方法(Acta Pharmaceutica,59(1),2009,pp.45−55)が挙げられる。
62Cu‐ATSMの製造方法としては、例えば、「PET用放射性薬剤の製造および品質管理―合成と臨床使用へのてびき」(PET化学ワークショップ編)第4版(平成23年改定版)記載の方法が挙げられる。
64Cu‐ATSMの製造方法としては、例えば、Tanakaらの方法(Nuclear Medicine and Biology,vol.33,2006,pp.743‐50)が挙げられる。
【0022】
このようにして製造された放射性ジチオセミカルバゾン銅錯体は、水性溶剤あるいは油性溶剤に溶解、懸濁また乳化し、必要に応じて分散剤、保存剤、等張化剤、溶解補助剤、懸濁化剤、緩衝化剤、安定剤、無痛化剤、防腐剤等の添加物を添加することで、注射剤として製剤化することができる。
【0023】
本発明の放射性医薬は、後述するキレート剤と併用投与して用いられる。本発明において「併用投与」とは、放射性ジチオセミカルバゾン銅錯体と、キレート剤に含有される多座配位子とが生体内で共存するように投与されればよい。キレート剤の投与後多座配位子が代謝又は排泄する前に放射性医薬を投与されてもよいし、放射性医薬の投与後放射性ジチオセミカルバゾン銅錯体の放射能が消失する前にキレート剤が投与されてもよい。また、放射性医薬とキレート剤とを同時に投与してもよい。本発明の放射性医薬を腫瘍の画像化剤又は治療剤として用いる場合は、キレート剤は、放射性医薬の投与後に投与されることが好ましく、生体内における放射能分布が平衡に到達にしたときに投与されることがより好ましい。こうすることで、肝臓からの腫瘍に対する放射能集積を維持しつつ、肝臓への放射能集積を低減することができる。
【0024】
また、本発明の放射性医薬は、後述するように、キレート剤とともに浣腸剤が併用されてもよい。これにより、肝臓からの放射能排出を促進しつつ、大腸への放射能集積を抑制し、尿又は糞による放射能排泄を促進することができる。
【0025】
[キレート剤]
本発明においてキレート剤は、最大配座数が2座以上4座以下の多座配位子を含有するものであるが、最大配座数が2座又は3座の多座配位子を含有するキレート剤がより好ましい。最大配座数とは、1分子で金属イオンに配位できる最大の数をいう。
【0026】
本発明のキレート剤に含まれる多座配位子としては、分子中に窒素原子又は硫黄原子を含むことが好ましく、少なくとも硫黄原子を含むものがより好ましく、窒素原子と硫黄原子とを含むものが更に好ましい。また、この多座配位子は、芳香族多座配位子であってもよいし、脂肪族多座配位子であってもよいが、脂肪族多座配位子が好ましい。また、この多座配位子は、環状多座配位子であってもよいし、鎖状多座配位子であってもよいが、鎖状多座配位子が好ましい。
本発明の多座配位子は、好ましくは、分子中に窒素原子又は硫黄原子を含む鎖状脂肪族多座配位子であり、より好ましくは分子中に少なくとも硫黄原子を含む鎖状脂肪族多座配位子であり、分子中に少なくとも硫黄原子及び窒素原子を含む鎖状脂肪族多座配位子が更に好ましい。
【0027】
本発明のキレート剤に含まれる多座配位子としては、エチレンジアミン(最大配座数2)、ジメルカプロール(最大配座数2)、ペニシラミン(最大配座数3)、トリエンチン(最大配位数4)及びこれらの塩から選択される1種又は2種以上が好ましく、ペニシラミン、ジメルカプロール、トリエンチン及びこれらの塩から選択される1種又は2種以上であることがより好ましく、ペニシラミン、ジメルカプロール及びこれらの塩から選択される1種又は2種以上がより好ましく、ペニシラミン又はその塩が更に好ましい。ペニシラミンはD体のものが好ましい。これらの多座配位子が塩を形成する場合、塩は薬学的に許容しうるものであればよい。
【0028】
本発明においてキレート剤は、医薬品として承認販売されているものを使用することができ、例えば、メタルカプターゼ(登録商標、製造販売:大正製薬(株))、バル(登録商標、製造販売:第一三共(株))、メタライト(登録商標、製造販売:(株)ツムラ)が挙げられる。
【0029】
本発明においてキレート剤は、上記の多座配位子をそのまま、あるいは薬理学的に許容され得る担体、希釈剤、若しくは賦形剤とともに製剤化されていればよく、経口投与又は非経口投与のいずれに適する剤形であってもよい。例えば錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤等の経口剤、注射剤、外用剤、坐剤、ペレット、点滴剤、徐放性製剤等の非経口剤が挙げられる。経口剤又は注射剤が好ましく、より好ましく経口剤である。また、2種以上の剤形を組み合わせてもよく、例えば、経口剤と注射剤とを併用して投与してもよい。
【0030】
このキレート剤は、放射性医薬の投与前若しくは投与後に単回投与されてもよいし、複数回投与されてもよい。また、放射性投与前後の両方において投与されてもよい。好ましくは放射性医薬の投与後、より好ましくは生体内において放射能分布が平衡に達したときに、キレート剤を投与することが望ましく、放射性医薬の投与後に所定の時間間隔をおいて複数回キレート剤を投与することもできる。また、後述するように、本発明においてキレート剤は、浣腸剤と併用されてもよい。
【0031】
[医薬キット]
本発明の医薬キットは、上記の放射性医薬と、上記のキレート剤とを有するものであるが、放射性Cu‐ATSMを含有する放射性医薬と、最大配座数が2座以上4座以下の多座配位子を含有する上記のキレート剤とを有するものが好ましく、放射性Cu‐ATSMを含有する放射性医薬と、D−ペニシラミン、ジメルカプロール及びこれらの塩から選択される1種又は2種以上の多座配位子を含有するキレート剤との組み合わせがより好ましく、放射性Cu‐ATSMを含有する放射性医薬と、D−ペニシラミン又はその塩を含有するキレート剤との組み合わせが更に好ましい。
【0032】
また、本発明の医薬キットは、上記の放射性医薬の投与した後に投与することを記載した添付文書を含むことが好ましい。この添付文書には、上記の放射性医薬の投与後、当該放射性医薬の体内分布が平衡に達したときに上記のキレート剤を投与することが記載されていることがより好ましい。
【0033】
また、本発明の医薬キットは、更に浣腸剤を備えることもできる。キレート剤に加え、浣腸剤を併用することで、肝臓からの放射能排出を促進しつつ、大腸における放射能集積を減らし、尿又は糞による放射能排泄を促進することができる。浣腸剤としては、グリセリン、ソルビート等の多価アルコール、クエン酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等のナトリウム塩、及び、ビサゴジルから選択される一以上を含むものを用いることができるが、少なくともグリセリンを含むものがより好ましい。
【0034】
[医薬キットの使用方法]
本発明の放射性医薬及びキレート剤の投与対象は、例えば哺乳動物であり、好ましくはヒトである。本発明の放射性医薬及びキレート剤の投与量は、投与対象となる被検体又は患者の種別、年齢、性別、体重、症状、投与法などによって異なり特に限定されないが、放射性医薬の投与量としては、一般の放射性医薬品において通常採用されている範囲を採用することができる。また、キレート剤の投与量としては、一般の金属排泄剤において通常採用されている範囲を採用することができる。浣腸剤を使用する場合は、浣腸剤として通常使用されている範囲の投与量を採用することができる。
【0035】
本発明の医薬キットを画像診断に用いる場合は、好ましくは放射性医薬を投与した後、放射能の体内分布が平衡に到達したときにキレート剤を投与し、その後、陽電子断層撮影(PET)により非侵襲的に放射線を検出して生体の一部又は全部を画像化する。放射性ジチオセミカルバゾン銅錯体は、低酸素領域に集積するので、放射線検出の高い部位を検出することで、虚血や腫瘍の診断をすることができ、中でも放射性Cu‐ATSMは、がん幹細胞の検出に優れている。また、本発明では、特定のキレート剤を投与することにより、肝臓からの放射能排出を促進できるため、放射性ジチオセミカルバゾン銅錯体の投与量を高めて、鮮明な画像を得つつ、肝臓への被曝を低減することができる。また、肝臓及びその周辺において、正常組織と病変とのコントラストがより鮮明な画像を得ることができ、肝臓及びその周辺臓器における病変診断がより簡便になる。また、放射性医薬の投与後、生体内における放射能分布が平衡に達したときにキレート剤を投与することにより、腫瘍集積を維持しつつ、肝臓からの放射能排出を促進できるため、投与量を制御して、よりいっそう鮮明な腫瘍画像を得ることが可能になる。
【0036】
本発明の医薬キットを腫瘍の治療に用いる場合は、好ましくは放射性医薬を投与した後、放射能の体内分布が平衡に到達したときにキレート剤を投与する。治療効果を確実に得る観点から、放射性医薬の単独投与、又は、放射性医薬とキレート剤との併用投与を複数回繰り返してもよい。これにより、肝臓への被曝を防ぎつつ腫瘍の増殖若しくは転移の抑制、がんの再発の予防若しくは抑制などの治療効果を得ることができる。中でも、Cu‐ATSMはがん幹細胞に集積するので、放射性Cu‐ATSMの投与により、がん幹細胞の殺傷効果を得ることが可能になる。
【0037】
キレート剤とともに浣腸剤を併用する場合、浣腸剤は、キレート剤の投与前に投与されてもよいし、キレート剤の投与後に投与されてもよいが、キレート剤の投与後に投与されることがより好ましい。また、浣腸剤は、放射性医薬の投与前に投与されてもよいし、放射性医薬の投与後に投与されてもよいが、放射性医薬の投与後に投与されることがより好ましく、放射性医薬及びキレート剤の投与後に投与されることが更に好ましい。また、浣腸剤は単回投与であってもよいし、所定の時間間隔をおいて複数回投与してもよい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を記載して本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。
【実施例1】
【0039】
64Cu‐ATSM、及び、各種キレート剤溶液の調製
(ATSMの合成)
ジアセチル−ビス(N4−メチルチオセミカルバゾン)(ATSM)の合成は、Tanakaらの方法(Nuclear Medicine and Biology,vol.33,2006,pp.743−50)に準じた。
【0040】
(
64Cu‐ATSMの合成)
64CuはMcCarthyらの方法(Nuclear medicine and biology,vol.24,1997,pp.35−43)及びObataらの方法(Nuclear medicine and biology,vol.30,2003,pp.535−539)に準じて製造・精製した。ATSMと
64Cuを用い、Tanakaらの方法(上掲)に準じて
64Cu‐ATSMを合成した。また、製造後の薬剤は、薄層クロマトグラフ法(TLC法)を用いて検定し、放射化学的純度95%以上のものを以下の実験に使用した。なお、TLCを用いた
64Cu‐ATSMの分析条件は下記のとおりである。
TLCプレート:シリカゲルプレート(製品名:Silica gel60、メルク株式会社製)
展開相:酢酸エチル
検出:フルオロイメージアナライザー(形式:FLA−7000,富士フイルム株式会社製)
【0041】
(キレート剤溶液の調製)
D−ペニシラミン(東京化成株式会社製)、ジメルカプロール(和光純薬株式会社製)、塩酸トリエンチン(株式会社ツムラ製)、デフェロキサミンメシル酸塩(シグマ・アルドリッチ株式会社製)を、適宜生理食塩液に溶解し、以下の実験に使用した。
【実施例2】
【0042】
マウス血漿中における
64Cu‐ATSMとキレート剤との
64Cu錯体交換反応の確認
BALB/cヌードマウス(オス,6週齢,体重約25g,日本エス・エル・シーから入手)よりジエチルエーテル麻酔下で採取した血液を遠心分離(MX−105型高速冷却遠心分離機、トミー株式会社製、毎分3,000回転、10分間)し、血漿を得た。37℃に保温しておいたマウス血漿にD−ペニシラミン、ジメルカプロール、塩酸トリエンチン及びデフェロキサミンメシル酸塩を、最終濃度でそれぞれ10mg/mLとなるよう混和しておき、ここへ
64Cu‐ATSMを最終濃度で6μCi/mLとなるよう添加した。37℃にて5分、30分及び60分間保温の後、予め4℃に冷却しておいたメタノールを血漿と等量加えてよく混和し、遠心分離(同上)の後、上清をTLC法で分析した。
【0043】
結果を
図1に示す。a)は、対照としてマウス血漿のみと
64Cu‐ATSMとを反応させた結果を示す図であり、b)はマウス血漿中で
64Cu‐ATSMとD−ペニシラミンとを反応させた結果を示す図であり、c)は
64Cu‐ATSMとジメルカプロールとを反応させた結果を示す図であり、d)は
64Cu‐ATSMと塩酸トリエンチンとを反応させた結果を示す図であり、e)は
64Cu‐ATSMとデフェロキサミンとを反応させた結果を示す図である。D−ペニシラミン及びジメルカプロールを加えた血漿では、
64Cu‐ATSM及び未同定の代謝物又は分解産物が速やかに消失、原点成分が増加した。このことから、
64Cu‐ATSMから極性の高い錯体へと
64Cuの交換反応が速やかに進行していると考えられた。塩酸トリエンチンでも同様の結果が得られたが、その効果は比較的弱かった。デフェロキサミンメシル酸塩による錯体交換反応は確認できなかった。
【実施例3】
【0044】
HT29担がんマウスにおける、
64Cu‐ATSMの体内動態及び排泄へのD−ペニシラミンの効果の観察(その1)
ヒト大腸がん由来のHT29細胞は、ATCCより購入したものを増殖させて利用した。HT29担がんモデルは、BALB/cヌードマウス(オス,6週齢,体重約25g,日本エス・エル・シーから入手)の大腿部皮下にHT29細胞1×10
7個を移植して作成し、移植後3週後に実験に供した。担がんマウスは実験開始の16時間以上前より絶食させた。185kBq(5μCi)の
64Cu‐ATSMをHT29担がんマウスに尾静脈より投与、その10分前又は1時間後にD−ペニシラミンを500mg/kgとなるよう経口投与した。また、対照群(control)には、D−ペニシラミンに代えて生理食塩液を投与した。
64Cu‐ATSMの投与1、2、3時間後にジエチルエーテル麻酔下で心臓からの脱血によって屠殺した後、各組織を摘出し重量測定を行い、さらに放射能をオートガンマカウンター(型番:1480Wizard3、パーキンエルマー社製)で測定した。各臓器に分布した放射能は、投与した量を100%としたときのそれぞれの臓器1gあたりの放射能(%ID/g tissue)として表した。
【0045】
結果を
図2に示す。
図2Aは、肝臓の結果を示す図であり、
図2Bは、腫瘍の結果を示す図である。
図2は、マウス4匹の平均及び標準偏差で示した。
図2Aで示されるように、肝臓への放射能取り込みは、D−ペニシラミンの経口投与により顕著に減少した。この結果は、D−ペニシラミンの経口投与が
64Cu‐ATSM投与の前と後とで差は認められなかった。また、
図2Bで示されるように、
64Cu‐ATSMの投与の前にD−ペニシラミンを経口投与すると腫瘍への放射能取り込みは減少したが、
64Cu‐ATSMの投与の1時間後にD−ペニシラミンを経口投与すると
64Cu‐ATSMの腫瘍への取り込みは影響を受けない事が確認された。この結果から、
64Cu‐ATSMの腫瘍への取り込みに影響を与えずに肝臓への集積を減少させるためには、
64Cu‐ATSMの投与の後にD−ペニシラミンを経口投与するのがよいと考えられた。
【実施例4】
【0046】
HT29担がんマウスにおける、
64Cu‐ATSMの体内動態及び排泄へのD−ペニシラミンの効果の観察(その2)
実施例3と同様の方法で作製した担がんマウスに185kBq(5μCi)の
64Cu‐ATSMをHT29担がんマウスに尾静脈より投与、その1時間後にD−ペニシラミンを100、300又は500mg/kgとなるよう経口投与した。また、対照群(control)には、D−ペニシラミンに代えて生理食塩液を投与した。
64Cu‐ATSMの投与2、4、6、16、24時間後にジエチルエーテル麻酔下で心臓からの脱血によって屠殺した後、各組織を摘出し重量測定を行い、さらに放射能を測定した。排泄された尿及び糞を回収し、同様に放射能を測定した。各臓器に分布した放射能はID/g tissueとして表した。尿及び糞への放射能の排泄は、投与した量を100%としたときのそれぞれの放射能(%ID)として表した。
【0047】
結果を
図3,4に示す。
図3Aは、肝臓の結果を示す図であり、
図3Bは、腫瘍の結果を示す図であり、
図4Aは尿排泄の結果を示す図であり、
図4Bは糞排泄の結果を示す図である。
図3,4は、投与6時間まではマウス4匹の、投与16時間以降は3匹の、それぞれ平均及び標準偏差で示した。
図3Aで示されるように、肝臓への放射能取り込みは、D−ペニシラミンの経口投与により用量依存的に減少し、統計学的に有意であった。また、
図3Bで示されるように、腫瘍への放射能取り込みは、D−ペニシラミンの経口投与により統計学的に有意な影響は受けない事が確認された。また、
図4Aで示すように、
64Cu‐ATSMの投与後の尿中への放射能排泄は、D−ペニシラミンの経口投与により統計学的に有意に促進される事が確認された。また、
図4Bで示すように、糞中への放射能排泄へのD−ペニシラミンの影響は小さかった。この結果から、D−ペニシラミンの経口投与により、
64Cu‐ATSMの肝臓への取り込みが減少し、速やかに主として尿へと排泄される事、一方で
64Cu‐ATSMの腫瘍への取り込みは影響を受けないことが示された。
【実施例5】
【0048】
HT29担がんマウスにおける、
64Cu‐ATSMの体内動態及び排泄へのD−ペニシラミンの効果の観察(その3)
実施例3と同様な方法で作製した担がんマウスに185kBq(5μCi)の
64Cu‐ATSMを尾静脈より投与し、その1時間後にD−ペニシラミンを100mg/kgとなるよう経口投与、その後1時間又は2時間間隔で2回、D−ペニシラミンを100mg/kgとなるよう経口投与した。また、対照群(control)には、D−ペニシラミンに代えて生理食塩液を投与した。その後、実施例4と同様に各臓器及び尿、糞中の放射能を測定、各臓器に分布した放射能は%ID/g tissueとして、尿及び糞への放射能の排泄は%IDとして表した。
【0049】
結果を
図5,6に示す。
図5Aは肝臓の結果を示す図であり、
図5Bは、腫瘍の結果を示す図であり、
図6Aは尿排泄の結果を示す図であり、
図6Bは糞排泄の結果を示す図である。
図5,6は、投与6時間まではマウス4匹の、投与16時間以降は3匹の、それぞれ平均及び標準偏差で示した。
図5Aで示されるように、肝臓への放射能取り込みは、D−ペニシラミンの経口反復投与により、1時間間隔及び2時間間隔のいずれでも減少した。また、
図5Bで示されるように、腫瘍への放射能取り込みは、D−ペニシラミンの経口反復投与により統計学的に有意な影響は受けない事が確認された。また、
図6Aで示すように、
64Cu‐ATSMの投与後の尿中への放射能排泄は、D−ペニシラミンの経口反復投与により統計学的に有意に促進される事が確認された。また、
図6Bで示すように、糞中への放射能排泄へのD−ペニシラミンの影響は小さかった。この結果から、D−ペニシラミンの経口反復投与により、1回投与と同様、
64Cu‐ATSMの肝臓への取り込みが減少し、速やかに主として尿へと排泄される事、一方で
64Cu‐ATSMの腫瘍への取り込みは影響を受けないことが示された。
【実施例6】
【0050】
HT29担がんマウスにおける、
64Cu‐ATSMのPETイメージングへのD−ペニシラミンの効果の観察
実施例3と同様な方法で作製した担がんマウスに37MBq(1mCi)の
64Cu‐ATSMを尾静脈より投与し、その1時間後にD−ペニシラミンを300mg/kgとなるよう経口投与した。
64Cu‐ATSMの投与後30分、2、3、4、5、6、7、8及び24時間後に、放射能分布を小動物専用PET装置(インヴィオン,シーメンス・メディカル・システムズ社製)を用いて画像化した。各時間点より5分間の画像収集を行い、インヴィオン・アクィジョン・ワークプレース・ソフトウェア(シーメンス・メディカル・システムズ社製)を用いて3次元最大事後確率法(3D−MAP法)により画像を再構成した。対照として、D−ペニシラミンに代えて生理食塩液を投与したマウスでも同様にPET撮像を行った。
【0051】
得られたPET/CT画像を、
図7,8に示す。
図7AはD−ペニシラミンを投与したマウスの、
図7Bは対照として生理食塩液を投与したマウスの、それぞれ
64Cu‐ATSMの投与後30分、2時間及び3時間後の全身画像を示す。
図8AはD−ペニシラミンを投与したマウスの、
図8Bは対照として生理食塩液を投与したマウスの、それぞれ
64Cu‐ATSMの投与後30分(
図8中0.5h)、2時間(
図8中2h)及び3時間(
図8中3h)後の腫瘍を含む断面の画像を示す。図示するように、
64Cu‐ATSM投与マウスでは、一旦は肝臓への放射能集積が見られるものの、D−ペニシラミンの投与により、肝臓への放射能の集積減少と膀胱への放射能集積の増加が確認された。また、腫瘍への放射能集積はD−ペニシラミンの投与により影響を受けない事が確認された。
【実施例7】
【0052】
HT29担がんマウスにおける、
64Cu‐ATSMの体内動態及び排泄への塩酸トリエンチンの効果の観察
実施例3と同様な方法で作製した担がんマウスに185kBq(5μCi)の
64Cu‐ATSMを尾静脈より投与し、その1時間後に塩酸トリエンチンを500mg/kgとなるよう経口投与した。また、対照群(control)には、塩酸トリエンチンに代えて生理食塩液を投与した。その後、実施例4と同様に各臓器及び尿、糞中の放射能を測定、各臓器に分布した放射能は%ID/g tissueとして、尿及び糞への放射能の排泄は%IDとして表した。
【0053】
結果を
図9,10に示す。
図9Aは、肝臓の結果を示す図であり、
図9Bは、腫瘍の結果を示す図であり、
図10Aは尿排泄の結果を示す図であり、
図10Bは糞排泄の結果を示す図である。
図9,10は、投与6時間まではマウス4匹の、投与16時間以降は3匹の、それぞれ平均及び標準偏差で示した。
図9Aで示されるように、肝臓への放射能取り込みは、塩酸トリエンチンの経口投与により減少傾向を示した。また、
図9Bで示されるように、腫瘍への放射能取り込みは、塩酸トリエンチンの経口投与により統計学的に有意な影響は受けない事が確認された。また、
図10Aで示すように、
64Cu‐ATSMの投与後の尿中への放射能排泄は、塩酸トリエンチンの経口投与により統計学的に有意に促進される事が確認された。また、
図10Bで示すように、糞中への放射能排泄への塩酸トリエンチンの影響は小さかった。この結果から、塩酸トリエンチンにもD−ペニシラミンと同様、尿への排泄促進効果が確認されたが、D−ペニシラミンと比較して肝臓への影響は弱いことが示された。
【0054】
(比較例1)HT29担がんマウスにおける、
64Cu‐ATSMの体内動態及び排泄へのCa−DTPAの効果の観察
実施例3と同様な方法で作製した担がんマウスに185kBq(5μCi)の
64Cu‐ATSMを尾静脈より投与し、その10分後にCa−DTPAを150mg/kgとなるよう尾静脈より投与した。また、対照群(control)には、Ca−DTPAに代えて生理食塩液を投与した。その後、実施例3と同様に各臓器の放射能を測定、各臓器に分布した放射能は%ID/g tissueとして表した。
【0055】
結果を
図11に示す。Aは、
64Cu‐ATSMの投与後1時間の結果を示す図であり、Bは、
64Cu‐ATSMの投与後2時間の結果を示す図である。
図11は、マウス4匹の平均及び標準偏差を示した。
図11で示されるように、各臓器及び腫瘍への放射能取り込みは、Ca−DTPAの静脈内投与により統計学的にほとんど影響を受けない事が確認された。
【実施例8】
【0056】
HT29担がんマウスにおける、
64Cu‐ATSMの体内動態及び排泄へのD−ペニシラミンの効果の観察(その4)
実施例3と同様な方法で作製した担がんマウスに185kBq(5μCi)の
64Cu‐ATSMを尾静脈より投与し、その1時間後にD−ペニシラミンを100mg/kgとなるよう経口投与、その後2時間間隔で2回、D−ペニシラミンを100mg/kgとなるよう経口投与した。さらに、
64Cu‐ATSM投与後、5.5時間後にグリセリン浣腸液(グリセリン浣腸液50%「ヨシダ」,吉田製薬)を0.3mL直腸に投与する群も用意した。また、対照群(control)には、D−ペニシラミンに代えて生理食塩液を投与した。
64Cu‐ATSMの投与6,16,24時間後にジエチルエーテル麻酔下で心臓からの脱血によって屠殺した後、各組織を摘出し重量測定を行い、さらに放射能を測定した。排泄された尿及び糞を回収し、同様に放射能を測定した。各臓器に分布した放射能はID/gtissueとして表した。尿及び糞への放射能の排泄は、投与した量を100%としたときのそれぞれの放射能(%ID)として表した。
【0057】
結果を
図12に示す。グループIが
64Cu‐ATSMの投与後1,3,5時間後にそれぞれD−ペニシラミンを100mg/kgとなるよう経口投与した群であり、グループIIが
64Cu‐ATSMの投与後1,3,5時間後にそれぞれD−ペニシラミンを100mg/kgとなるよう経口投与した後、
64Cu‐ATSMの投与後グリセリン浣腸を行った群である。
図12Aが
64Cu‐ATSM投与6時間後の放射能分布を示し、
図12Bが
64Cu‐ATSM投与16時間後の放射能分布を示し、
図12Cが
64Cu‐ATSM投与24時間後の分布を示す。
図12は、マウス4匹の平均及び標準偏差で示した。
図12で示されるように、肝臓への放射能取り込みは、D−ペニシラミンの経口反復投与により減少したが、腫瘍への放射能取り込みは、D−ペニシラミンの経口反復投与により統計学的に有意な影響は受けない事が確認された。また、
64Cu‐ATSMの投与後の尿中への放射能排泄は、D−ペニシラミンの経口反復投与により統計学的に有意に促進される事が確認された。また、D−ペニシラミンの経口反復投与後、グリセリン浣腸を行うことにより、大腸への放射能集積が低減し、尿及び糞への放射能排泄が促進された。この結果から、D−ペニシラミンの経口投与とグリセリン浣腸とを併用することで、肝臓への放射能排出を促進させつつ、大腸への放射能集積を低減し、尿及び糞からの放射能排泄を促進できることが示された。
【0058】
以上の実施例の結果から、放射性Cu‐ATSMなどの放射性ジチオセミカルバゾン銅錯体と、D−ペニシラミン、ジメルカプロール塩酸、トリエンチンなどの最大配座数が2座以上4座以下の多座配位子を含むキレート剤とを併用投与することにより、放射性ジチオセミカルバゾン銅錯体の投与時における肝臓からの放射能排出が促進できることが示された。