特許第6085871号(P6085871)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6085871刃先交換型切削インサート、切削インサートホルダ、切削工具、旋削装置および旋削方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6085871
(24)【登録日】2017年2月10日
(45)【発行日】2017年3月1日
(54)【発明の名称】刃先交換型切削インサート、切削インサートホルダ、切削工具、旋削装置および旋削方法
(51)【国際特許分類】
   B23D 43/06 20060101AFI20170220BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20170220BHJP
   B23B 27/16 20060101ALI20170220BHJP
   B23D 37/14 20060101ALI20170220BHJP
【FI】
   B23D43/06
   B23B27/14 C
   B23B27/16 Z
   B23D37/14
【請求項の数】14
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-529365(P2014-529365)
(86)(22)【出願日】2013年4月26日
(65)【公表番号】特表2016-520434(P2016-520434A)
(43)【公表日】2016年7月14日
(86)【国際出願番号】JP2013002836
(87)【国際公開番号】WO2014174555
(87)【国際公開日】20141030
【審査請求日】2015年12月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ツァイナー, クリシュトフ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィドマン, アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】森 良克
(72)【発明者】
【氏名】阿部 誠
【審査官】 小川 真
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−187411(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0245531(US,A1)
【文献】 特開昭55−11708(JP,A)
【文献】 特開平1−103218(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23D 43/06
B23B 27/14
B23B 27/16
B23D 37/14
B23C 5/20
B23B 51/00
B23B 1/00
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
刃先交換型切削インサートであって、
略平行四辺形の形状と複数の側面とを有する逃げ面を含み、前記逃げ面は、複数の縁部によって囲まれ、各縁部は、前記逃げ面を側面のうち1つの側面に接合させ、
前記複数の縁部は、第1切れ刃と第2切れ刃とを含み、
前記第1切れ刃は、第1湾曲曲線の一部に相当する形状を有し、前記第2切れ刃は、第2湾曲曲線の一部に相当する形状を有し、前記第2湾曲曲線は、前記第1湾曲曲線を前記切削インサートの幅方向に沿って平行移動することによって得られ、
前記切削インサートは、前記幅方向に垂直である対称軸に関して2回回転対称性を有し、前記切削インサートの長手方向は、前記幅方向と前記対称軸とに垂直であり、
前記切削インサートの前記逃げ面に設けられ、前記切削インサートの長手方向と交差する前記縁部に達するように前記長手方向に沿って延在する溝をさらに含み、前記溝は、前記第1切れ刃と前記第2切れ刃との間に配置される、切削インサート。
【請求項2】
前記長手方向における前記切削インサートの延在量が、前記幅方向における前記切削インサートの延在量よりも大きい、請求項1に記載の切削インサート。
【請求項3】
前記側面の各々は、前記対称軸に平行である、請求項1から請求項2のいずれか1項に記載の切削インサート。
【請求項4】
前記第1切れ刃の前記形状は、第1円弧であり、前記第2切れ刃の前記形状は、前記第1円弧と同じ半径を有する第2円弧である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の切削インサート。
【請求項5】
前記第1切れ刃と前記第2切れ刃との各々は、凸状に湾曲されている、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の切削インサート。
【請求項6】
前記第1切れ刃は、垂直座標軸に沿って前記第1切れ刃上の他の点よりも大きな座標値を有する最高点を有し、前記垂直座標軸は、前記対称軸に平行でかつ前記切削インサート
の底面から前記逃げ面に指向してあり、前記底面は、前記逃げ面と反対側にあり、
前記第2切れ刃は、前記垂直座標軸に沿って前記第2切れ刃上の他の点よりも大きな座標値を有する最高点を有し、
前記第1切れ刃の前記最高点は、前記第1切れ刃の中心まで距離を有し、前記第2切れ刃の前記最高点は、前記第2切れ刃の中心まで距離を有する、請求項1から請求項のいずれか1項に記載の切削インサート。
【請求項7】
請求項に記載の刃先交換型切削インサートのための切削インサートホルダであって、
上面を有する切削インサート受け部と、
前記切削インサートを受入れるように構成されたインサートポケットとを含み、
前記インサートポケットは、前記切削インサート受け部の前記上面の中心線に対して直角ではない角度で傾斜する長手方向と、前記インサートポケットの前記長手方向と前記インサートポケットの前記長手方向に垂直である前記インサートポケットの幅方向との両方において前記インサートポケットに隣接する前記上面の一部に対して傾斜する底面とを有する、切削インサートホルダ。
【請求項8】
切削工具であって、
請求項に記載の切削インサートホルダと、
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の切削インサートとを含み、
前記切削インサートホルダは、前記切削インサートを受入れるように構成されたインサートポケットを備える、切削工具。
【請求項9】
旋削装置であって、
被加工物を受入れ、第1回転軸を中心にして前記被加工物の回転主切削運動を提供するように構成された被加工物駆動部と、
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の刃先交換型切削インサートと、
切削インサートホルダと前記切削インサートとを備える切削工具とを含み、前記切削インサートホルダは、前記切削インサートを受入れるように構成されたインサートポケットを備え、
第2回転軸を中心にして前記切削工具の回転送り運動を提供するように構成された工具送り部を含み、前記第2回転軸は、前記第1回転軸に平行であり、前記送り運動の回転速度は、前記被加工物の前記主切削運動の回転速度よりも遅く、
前記切削インサートホルダは、前記主切削運動と前記送り運動とが提供されるとき、前記第1切れ刃と前記第2切れ刃とのうち有効切れ刃である一方が前記被加工物と相互作用するように、切削インサートを前記インサートポケットにおいて作業位置に固定するように構成され、
前記作業位置は、前記切削工具が前記有効切れ刃の前記中心が前記第1回転軸および前記第2回転軸と同一平面に位置している位置に位置するとき、前記切削インサートが作業面に対して傾斜するように構成され、前記作業面は、前記第1回転軸および前記第2回転軸に平行であり、前記同一平面に垂直であり、かつ、前記有効切れ刃の前記中心を通り、前記切削インサートは、前記作業面の法線が前記幅方向および前記長手方向の両方において前記切削インサートの前記対称軸に対して傾斜するように、前記作業面に対して傾斜する、旋削装置。
【請求項10】
前記作業位置は、前記切削工具が前記有効切れ刃の前記中心が前記同一平面内に位置している位置に位置するとき、前記有効切れ刃の前記中心以外の前記有効切れ刃の任意点が前記第2回転軸とともに前記作業面の同側に位置するように、構成される、請求項に記載の旋削装置。
【請求項11】
前記作業位置は、前記切削工具が前記有効切れ刃の前記中心が前記同一平面内に位置し
ている位置に位置するとき、前記第1切れ刃と前記第2切れ刃とのうち、前記有効切れ刃以外の他方の無効切れ刃が前記第2回転軸とともに前記作業面の同側に位置しかつ前記無効切れ刃の任意点が前記作業面まで距離を有するように、構成される、請求項10に記載の旋削装置。
【請求項12】
前記切削インサートは、請求項4に記載の切削インサートであり、
前記第1円弧および前記第2円弧の前記半径は、半径および傾斜角を有する螺旋の曲率半径に相当し、
前記螺旋の前記半径は、前記第2回転軸と前記有効切れ刃の前記中心との間の距離に等しく、
前記螺旋の前記傾斜角は、前記切削インサートの前記長手方向と前記第2回転軸との間の、ゼロではない前記角度に等しい、請求項1から請求項1のいずれか1項に記載の旋削装置。
【請求項13】
前記切削インサートは、請求項に記載の特徴を含み、
前記切削インサートホルダは、請求項に記載の切削インサートホルダであり、
前記切削インサートホルダは、前記切削インサートホルダの前記切削インサート受け部の前記中心線が前記第2回転軸に垂直であるように、配置される、請求項から請求項1のいずれか1項に記載の旋削装置。
【請求項14】
旋削方法であって、
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の切削インサートを提供する工程と、
前記切削インサートを切削インサートホルダに取付ける工程と、
被加工物を第1回転軸を中心にして回転させる工程と、
前記被加工物の回転速度より遅い回転速度で切削インサートホルダを第2回転軸を中心にして回転させる工程とを含み、
前記第2回転軸は、前記第1回転軸に平行であり、
前記切削インサートは、前記被加工物と前記切削インサートホルダとが回転されるとき、前記第1切れ刃と前記第2切れ刃とのうち、有効切れ刃である一方が前記被加工物と相互作用するように、前記切削インサートホルダに固定され、
前記切削インサートホルダが前記有効切れ刃の中心が前記第1回転軸および前記第2回転軸と同一平面に位置している位置に位置するとき、前記切削インサートは、前記作業面の法線が前記幅方向および前記長手方向の両方において前記切削インサートの前記対称軸に対して傾斜するように、前記第1回転軸および前記第2回転軸に平行であり、かつ、前記同一平面に垂直である作業面に対して傾斜する、旋削方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刃先交換型切削インサート、切削インサート用ホルダ、旋削装置および旋削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
DE102004026675C5は、被加工物の回転対称面を機械加工するための方法および装置を開示している。被加工物は、切削運動を発生させるように回転駆動される。ブレードを有する少なくとも1つの工具は、切削方法に従って被加工物に接触する。ブレードは、ブレードと被加工物との間の有効部位がブレードに沿って移動するように、被加工物に対して前進させられる。ブレードは、工具回転軸を中心にして、切削運動よりも実質的に遅い円弧状前進運動をするように移動させられる。ブレードは、ブロックの回転軸に対して同軸螺旋の形状を有する。
【0003】
ブレードが前進させられるときに、ブレードは、螺旋状のブレードが延在する円弧角に相当する円弧角だけ旋回させられる。ブレードの円弧状旋回運動が与えられると、有効部位は、旋回運動中に、ブレードの軸方向の全幅をわたって、軸方向に沿って移動する。ブレードが有効部位の限られた領域のみに接触するため、より広幅のブレードの場合においても、比較的小さい切削力が発生する。
【0004】
DE102004026675C5に開示された方法および装置は、被加工物の回転対称面の機械加工を可能にし、被加工物のねじれと呼ばれる螺旋状表面構造の形成を回避することができる。このようなねじれは、たとえばガスケットを径方向に固定することによって、モータ、駆動装置および他の機械のシャフト出口を表面の領域内に封入する場合に、不利であり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】DE102004026675C5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
旋削技術分野において、刃先交換型切削インサートの使用は有利であり得る。刃先交換型切削インサートは、工具の全体的な幾何学的形状を乱さずに回転または反転させられることができる。刃先交換型切削インサートを使用すれば、新しい切削インサートを用意することなく、より多くの被加工物を機械加工することに寄与することができる。
【0007】
しかしながら、DE102004026675C5の方法および装置に使用されたブレードが螺旋状であるため、それらの中に使用するための刃先交換型切削インサート、特に費用上効率的に製造することができる刃先交換型切削インサートの提供は、課題である。
【0008】
本発明の目的は、刃先交換型切削インサートおよび切削インサートホルダ、ならびに刃先交換型切削インサートが使用されるときに被加工物の実質的にねじれのない回転対称面を製造するための旋削装置および旋削方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る刃先交換型切削インサートは、略平行四辺形の形状と複数の側面とを有する逃げ面を含む。逃げ面は、複数の縁部によって囲まれる。各縁部は、逃げ面を側面のうち1つの側面に接合させる。複数の縁部は、第1切れ刃と第2切れ刃とを含む。第1切れ刃は、第1湾曲曲線の一部に相当する形状を有し、第2切れ刃は、第2湾曲曲線の一部に相当する形状を有する。第2湾曲曲線は、第1湾曲曲線を切削インサートの幅方向に沿って平行移動することによって得られる。切削インサートは、幅方向に垂直である対称軸に関して2回回転対称性を有する。切削インサートの長手方向は、幅方向と対称軸とに垂直である。
【0010】
切削インサートは、2回回転対称性を有するため、2つの異なる向きで旋削装置の切削インサートホルダのインサートポケットに挿入することができ、これにより、第1切れ刃または第2切れ刃のいずれか一方を旋削作業において被加工物と相互作用する有効切れ刃として使用することを可能にする。第1切れ刃および第2切れ刃の湾曲曲線形状は、刃先交換型切削インサートを使用してねじれのない表面を製造することを可能にする。第1および第2切れ刃がそれぞれ第1および第2湾曲曲線の一部と相当する形状を有し、かつ、第2湾曲曲線が第1湾曲曲線を切削インサートの幅方向に沿って平行移動することによって得られるため、たとえば研磨ディスクのような研磨工具を切削インサートの長手方向に沿って移動させることによって簡便な方法で切削インサートを製造することができる。この場合、研磨ディスクは、切削インサートの幅方向に実質的に平行であるように整列される軸を中心にして回転する。したがって、簡便な方法で、両方の切れ刃を同時に研磨することができる。
【0011】
実施形態において、長手方向における切削インサートの延在量が、幅方向における切削インサートの延在量よりも大きく、幅方向における切削インサートの延在量よりも2倍以上大きくおよび/または幅方向における切削インサートの延在量よりも4倍以上大きい。
【0012】
切削インサートが長手方向に比較的大きな延在量を有するため、被加工物の軸方向における刃先交換型切削インサートの運動を必要とすることなく、被加工物の回転軸に平行な回転軸を中心にして切削インサートを旋回させることによって、被加工物の軸方向において比較的大きな延在量を有する被加工物の回転対称面の機械加工を可能にする。
【0013】
実施形態において、側面の各々は、対称軸に平行である。第1切れ刃の形状は、第1円弧であってもよく、第2切れ刃の形状は、第1円弧と同じ半径を有する第2円弧であってもよい。第1および第2切れ刃の各々は、凸状に湾曲されてもよい。
【0014】
第1および第2切れ刃を凸状に湾曲した形状に形成すること、たとえば第1および第2切れ刃を円弧形状に形成することは、ねじれのない被加工物の回転対称面を製造するために有利である。その理由は、このようにすることで、第1および第2切れ刃のうち有効切れ刃が被加工物と相互作用する有効部位を、被加工物の回転軸に対して実質的に一定の距離を有するように形成することができるからである。
【0015】
実施形態において、切削インサートは、切削インサートの逃げ面に設けられた溝をさらに含む。この溝は、第1切れ刃と第2切れ刃との間に配置される。溝を設けることで、切削インサートの製造を簡素化することができる。その理由は、このようにすることで、切れ刃と溝の縁部との間の逃げ面の一部のみを研磨する必要があるため、逃げ面の全体を研磨する実施形態に比べて研磨する必要のある表面積が低減されるからである。
【0016】
実施形態において、第1切れ刃は、垂直座標軸に沿って第1切れ刃上の他の点よりも大きな座標値を有する最高点を有する。垂直座標軸は、対称軸平行でかつ切削インサートの底面から逃げ面に向かう方向に指向してある。底面は、逃げ面と反対側にある。第2切れ刃は、垂直座標軸に沿って第2切れ刃上の他の点よりも大きな座標値を有する最高点を有する。第1切れ刃の最高点は、第1切れ刃の中心まで距離を有し、第2切れ刃の最高点は、第2切れ刃の中心まで距離を有する。
【0017】
実施形態において、切削インサートは、逃げ面と反対側の平坦底面を有する。底面は、対称軸に垂直である。切削インサートが平坦底面を有するため、切削インサートを旋削装置における切削インサートホルダのインサートポケットの平坦底面上に配置することによって切削インサートを向かわせることができるので、回転している被加工物に対して切削インサートの2つの可能な向きで切削インサートを適切に向かわせる便利な方法を与えることができる。
【0018】
上記で説明したように、本発明に係った、逃げ面と反対側にありかつ対称軸に垂直である平坦底面を有する切削インサートのための切削インサートホルダは、切削インサート受け部とインサートポケットとを含む。切削インサート受け部は、上面を有する。インサートポケットは、切削インサートを受入れるように構成される。インサートポケットは、切削インサート受け部の上面の中心線に対して直角ではない角度で傾斜する長手方向と、インサートポケットの長手方向とインサートポケットの長手方向に垂直であるインサートポケットの幅方向との両方においてインサートポケットに隣接する上面の一部に対して傾斜する底面とを有する。
【0019】
旋削作業において、回転している被加工物の回転軸に平行な回転軸を中心にして、切削インサートホルダの回転送り運動を提供することができる。このようにすることで、切削インサート受け部の上面は、被加工物の表面の近傍で移動することができる。インサートポケットの幅方向においてインサートポケットに隣接する上面の一部に対してサートポケットの底面を傾斜させることによって、インサートポケットに設けられた切削インサートの第1および第2切れ刃のうち有効切れ刃である一方が、第1および第2切れ刃のうち無効切れ刃である他方よりも大きい延在量で切削インサート受け部の上面から突出することができる。したがって、有効切れ刃のみが被加工物と相互作用することを保証することができる。インサートポケットの長手方向においてインサートポケットに隣接する上面の一部に対して底面を傾斜させることによって、切削インサートホルダの、有効切れ刃の中心が被加工物の回転軸および切削インサートホルダの回転軸と同一平面に位置する位置において、有効切れ刃の中心が有効切れ刃の他の任意点よりも被加工物の回転軸に近い距離にあるということを達成することができる。これにより、旋削作業が対称に進むことができ、実質的にねじれのない被加工物表面を得ることができる。
【0020】
本発明に係る旋削装置は、被加工物駆動部と、上述した刃先交換型切削インサートと、切削工具と、工具送り部とを含む。被加工物駆動部は、被加工物を受入れ、第1回転軸を中心にして被加工物の回転主切削運動を提供するように構成されている。切削工具は、切削インサートホルダと切削インサートとを備える。切削インサートホルダは、切削インサートを受入れるように構成されたインサートポケットを備える。工具送り部は、第2回転軸を中心にして切削工具の回転送り運動を提供するように構成されている。第2回転軸は、第1回転軸に平行である。送り運動の回転速度は、被加工物の主切削運動の回転速度よりも遅い。切削インサートホルダは、主切削運動と送り運動とが与えられるとき、第1切れ刃と第2切れ刃とのうち、有効切れ刃である一方が被加工物と相互作用するように、切削インサートをインサートポケットにおいて作業位置に固定するように構成される。作業位置は、切削工具が有効切れ刃の中心が第1回転軸および第2回転軸と同一平面に位置している位置に位置するとき、切削インサートが作業面に対して傾斜するように構成されている。作業面は、第1回転軸および第2回転軸に平行であり、同一平面に垂直であり、かつ、有効切れ刃の中心を通る。切削インサートは、作業面の法線が幅方向および長手方向の両方において切削インサートの対称軸に対して傾斜するように、作業面に対して傾斜する。
【0021】
幅方向において切削インサートの対称軸を作業面の法線に対して傾斜させることにより、主切削運動および送り運動が与えられる場合に有効切れ刃のみが被加工物と相互作用することを保証することができる。切削インサートの長手方向において切削インサートの対称軸をさらに傾斜させることにより、上述のように、被加工物に対する有効切れ刃の配置を得ることができ、被加工物の実質的にねじれのない回転対称面の製造を可能にする。
【0022】
実施形態において、作業位置は、切削工具が有効切れ刃の中心が同一平面内に位置している位置に位置するとき、有効切れ刃の中心以外の有効切れ刃の任意点が第2回転軸とともに作業面の同側に位置するように構成される。このような切削インサートの向きは、被加工物の実質的にねじれのない回転対称面を得るために特に有利であり得る。
【0023】
実施形態において、作業位置は、切削工具が有効切れ刃の中心が同一平面内に位置している位置に位置するとき、第1切れ刃と第2切れ刃とのうち、有効切れ刃以外の無効切れ刃である他方が第2回転軸とともに作業面の同側に位置しかつ無効切れ刃の任意点が作業面まで距離を有するように構成される。これにより、無効切れ刃と被加工物との相互作用を回避することができる。
【0024】
実施形態において、切削インサートは、第1切れ刃の形状が第1円弧であり、第2切れ刃の形状が第1円弧と同じ半径の第2円弧であるような切削インサートであってもよい。ここで、第1および第2円弧の半径は、半径および傾斜角を有する螺旋の曲率半径に相当する。螺旋の半径は、第2回転軸と有効切れ刃の中心との間の距離に等しく、螺旋の傾斜角は、切削インサートの長手方向と第2回転軸との間の、ゼロではない角度に等しい。
【0025】
したがって、第2回転軸に対する有効切れ刃の構成は、第2回転軸を中心にした螺旋の形状に実質的に相当しまたは少なくとも概ね相当する。このことは、実質的にねじれのない回転対称の被加工物表面を得るために特に有利である。
【0026】
実施形態において、切削インサートは、逃げ面と反対側の平坦底面を含むことができる。底面は、対称軸に垂直である。切削インサートホルダは、上記の特徴を有することができる。切削インサートホルダは、切削インサートホルダの切削インサート受け部の中心線が第2回転軸に垂直であるように配置されることができる。したがって、被加工物の実質的にねじれのない回転対称面を得るための切削インサートの配置は、便利な方法で形成することができる。
【0027】
本発明に係る旋削方法は、上述した切削インサートを提供する工程を含む。切削インサートは、切削インサートホルダに取付けられる。被加工物は、第1回転軸を中心にして回転させられる。切削インサートホルダは、被加工物の回転速度より遅い回転速度で第2回転軸を中心にして回転させられる。第2回転軸は、第1回転軸に平行である。切削インサートは、被加工物と切削インサートホルダとが回転されるとき、第1切れ刃と第2切れ刃とのうち、有効切れ刃である一方が被加工物と相互作用するように、切削インサートホルダに固定される。切削インサートホルダは有効切れ刃の中心が第1および第2回転軸と同一平面内に位置している位置に位置するとき、切削インサートは、作業面に対して傾斜する。作業面は、第1および第2回転軸に平行であり、同一平面に垂直である。作業面の法線は、切削インサートの幅方向および長手方向の両方において切削インサートの対称軸に対して傾斜する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1A】一実施形態に係る切削インサートを示す概略斜視図である。
図1B】一実施形態に係る切削インサートを示す概略側面図である。
図1C】一実施形態に係る切削インサートを示す概略上面図である。
図1D図1Bの視線方向に実質的に垂直である視線方向から見た一実施形態に係る切削インサートを示す概略側面図である。
図2】一実施形態に係る旋削装置を示す概略側面図である。
図3A】一実施形態に係る切削インサートホルダを示す概略側面図である。
図3B】一実施形態に係る切削インサートホルダを示す概略上面図である。
図3C】一実施形態に係る切削インサートホルダの切削インサート受け部およびその中に挿入された切削インサートを示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
実施形態の説明
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0030】
図1Aは、一実施形態に係る切削インサート100を示す概略斜視図である。以下、切削インサート100の部分構成を説明するため、第1座標軸122と第2座標軸123と第3座標軸124とを含む座標系を参照する。便宜上、座標軸122および123は、水平座標軸と表記され、座標軸124は、垂直座標軸と表記される。座標軸122および123を水平座標軸とし、座標軸124を垂直座標軸とする表記は、切削インサート100の底面125が座標軸122および123に平行な平面に配置されている水平面上に位置している構成に相当する。以下に詳述するように、切削インサート100は、旋削装置に使用される場合、水平方向および垂直方向に対して異なって配置されてもよい。
【0031】
切削インサート100のさらなる図示が図1B、1Cおよび1Dに示されている。図1Bは、第2水平座標軸123に沿った視線方向から見た切削インサート100の概略側面図を示している。図1Cは、垂直座標軸と反対する視線方向から見た概略上面図を示している。図1Dは、第1水平座標軸122に沿った視線方向から見た概略側面図を示している。
【0032】
切削インサート100は、逃げ面101と、側面102、103、104および105とを有する。さらに、切削インサート100は、逃げ面101の反対側にある底面125を有する。側面の各々は、底面125に垂直である。図1Aおよび1Bに示された切削インサート100の構成では、側面103および105は、座標軸122および124の平面に平行であり、底面125は、水平座標軸122および123の平面内に位置する。
【0033】
側面102および104は、垂直座標軸124に平行であり、底面125と水平座標軸122および123の平面とに垂直である。しかしながら、側面102および104は、水平座標軸122と、水平座標軸122に平行な側面103および105とに対して直角ではない角度で配置されている。切削インサート100の側面102および104は互いに平行であり、側面103および105も互いに平行である。
【0034】
特に図1Cの上面図から分かるように、切削インサート100の逃げ面101は、略平行四辺形の形状を有する。以下に詳述するように、逃げ面の曲率および逃げ面に溝120が存在するため、用語「略平行四辺形の形状」は、理想的な平行四辺形の形状からの偏差を含むものとして理解されるべきである。
【0035】
逃げ面101が略平行四辺形の形状を有するため、逃げ面101の角部129および131において、角部129および131に隣接する側面は、鈍角で交差する。具体的には、角部129において、側面102と103とは、鈍角で交差し、角部131において、側面104と105とは、同じ角度の鈍角で交差する。角部132において、側面102と105とは、鋭角で交差し、角部130において、側面103と104とは、同じ角度の鋭角で交差する。
【0036】
参照番号114は、切削インサート100の長手方向を示し、参照番号112は、切削インサート100の幅方向を示す。長手方向114は、第1水平座標122ならびに側面103および105に平行である。幅方向112は、長手方向114に垂直であり、水平座標軸122および123の各々に平行である。
【0037】
特に図1Cの上面図から分かるように、幅方向112における切削インサート100の延在量116が、水平座標軸122および123の平面内に位置する他の任意の水平方向における切削インサート100の任意の延在量よりも小さい。幅方向112における切削インサート100の延在量116は、切削インサート100の側面103と105との間の距離に相当する。長手方向114における切削インサート100の延在量115が、幅方向112における延在量116よりも大きく、幅方向112における延在量116よりも2倍以上大きくおよび/または幅方向112における延在量116よりも4倍以上大きくすることができる。したがって、切削インサート100は、細長い形状を有することができる。
【0038】
切削インサート100は、逃げ面101を側面102、103、104、105に接合させる縁部106、107、108、109を有する。具体的には、縁部106は側面102を逃げ面101に接合させ、縁部107は側面103を逃げ面101に接合させ、縁部108は側面104を逃げ面101に接合させ、縁部109は側面105を逃げ面101に接合させる。以下に詳述するように、縁部107と109とは、切削インサート100が旋削に使用されるときに、被加工物と相互作用する切削インサート100の切れ刃である。以下では、縁部107を第1切れ刃として表記し、縁部109を第2切れ刃として表記する。
【0039】
切れ刃107および109は、切削インサート100の逃げ面101の略平行四辺形の形状の長辺に沿って延在する。
【0040】
第1切れ刃107は、第1湾曲曲線110の一部に相当する形状を有している。特に図1Bの側面図から分かるように、湾曲曲線110は、半径117を有する円形であってもよく、第1切れ刃107は、この半径117を有する円弧であってもよい。
【0041】
第2切れ刃109は、第2湾曲曲線111の一部に相当する形状を有している。第2湾曲曲線111は、円形であってもよい。よって、第2切れ刃109は、円弧の形状を有する。第1湾曲曲線110の半径を第2湾曲曲線111の半径に等しくすることができる。よって、切れ刃107と109との両方は、同じ半径117を有する円弧形状を有する。
【0042】
第2切れ刃109の形状を規定する第2湾曲曲線111は、第1切れ刃107の形状を規定する第1湾曲曲線110を切削インサート100の幅方向112に沿って平行移動することによって得られる。したがって、幅方向112に平行な第2水平座標軸123に沿った視線方向で見た図1Bの側面図において、湾曲曲線110と111とが重なる。
【0043】
切れ刃107、109が円弧形状を有する実施形態において、切れ刃107、109に隣接する逃げ面101の部分が実質的に円筒形の形状を有してもよい。そのうち、第1切れ刃107に隣接する逃げ面101の部分と第2切れ刃109に隣接する逃げ面101の部分とは、湾曲曲線110、111の半径117を有する同一の円形円筒の部分に相当し、円形円筒の軸が幅方向112に平行である。
【0044】
本発明は、湾曲曲線110および111が円形である実施形態に限定されるものではない。他の実施形態において、湾曲曲線110および111は、たとえば楕円のような非円形曲線であってもよく、湾曲曲線111は、湾曲曲線110を切削インサート100の幅方向112に沿って平行移動することによって得られる。このような実施形態において、切れ刃107、109に隣接する逃げ面101の部分は、幅方向112に平行な円筒軸を有する非円形円筒の表面部分に相当してもよい。
【0045】
第1切れ刃107と第2切れ刃109との間において、溝120を切削インサート100の逃げ面101に設けることができる。溝120は、切削インサート100の長手方向114に沿って延在する。図1Cの上面図から分かるように、切削インサート100の中央に位置する溝120の幅は、側面102および104近傍に位置する溝120の幅より大きくすることができる。
【0046】
上述したように、湾曲曲線110および111によって規定された切れ刃107および109の形状によって、切れ刃107および109は、研磨工具を用いて切削インサート100の逃げ面101を研磨することによって形成されてもよい。この研磨工具は、切削インサート100の幅方向112に平行する軸を中心にして回転され、かつ、切削インサート100の長手方向114に沿って逃げ面101をわたって移動される研磨ディスクを含んでもよい。これにより、研磨ディスクを湾曲経路に沿って移動することができ、湾曲曲線110および111によって規定された切れ刃107および109の形状を得ることができる。このように、逃げ面101および切れ刃107、109は、便利な方法で形成することができる。
【0047】
切れ刃107と109との間に溝120を設けることにより、切れ刃107および109の形成に研磨する必要のある切削インサート100の表面積を低減することができる。その理由は、切れ刃107、109と溝120との間の逃げ面101の一部のみを研磨する必要があるが、溝120の底面を研磨する必要がないのである。
【0048】
参照番号113は、切削インサート100の対称軸を示している。切削インサート100は、対称軸113に関して2回回転対称性を有する。したがって、対称軸113を中心にして180°回転させた後に切削インサートの形状が同じであるように見える。
【0049】
逃げ面101が略平行四辺形の形状でり、側面102、103、104および105が垂直座標軸124に平行な構成を有し、かつ、底面125が垂直座標軸124に垂直な構成を有するため、対称軸113は、垂直座標軸124に平行である。対称軸113は、幅方向112と、長手方向114と、水平座標軸122および123とに垂直である。
【0050】
切削インサート100が回転対称性を有するため、切削インサート100を2つの異なる向きで旋削に使用することができる。切削インサート100の向きに応じて、第1切れ刃107または第2切れ刃109のいずれかが、被加工物と相互作用する。第1切れ刃が被加工物と相互作用する旋削作業を行なった後、対称軸113を中心にして切削インサートを180°回転させると、第2切れ刃109は、回転前に切れ刃107が被加工物と相互作用したと同様に、被加工物と相互作用する。したがって、切削インサート100は、刃先交換型切削インサートである。
【0051】
切削インサート100の側面102、103、104および105が垂直座標軸124に平行であり、かつ、対称軸113が垂直座標軸124に平行であるため、側面102〜105の各々は、対称軸113に平行である。さらに、切削インサート100の平坦底面125は、対称軸113に対して垂直である。
【0052】
参照番号127は、第1切れ刃107の端部における逃げ面101の角部129および130の各々と等しい距離を有する第1切れ刃107の中心を示す。参照番号128は、第2切れ刃109の端部に配置されている逃げ面101の角部131および132の各々と等しい距離を有する第2切れ刃109の中心を示す。
【0053】
参照番号121は、垂直座標軸124に沿って第1切れ刃107上の他の点より最大の座標値を有する第1切れ刃107の最高点を示す。切削インサート100の底面125が垂直座標軸124に垂直であるため、第1切れ刃107の最高点121は、底面125と最大距離を有する第1切れ刃107の点である。
【0054】
参照番号126は、垂直座標軸124に沿って第2切れ刃109上の他の点よりも大きな座標値と底面125まで長い距離とを有する第2切れ刃109の最高点を示す。
【0055】
上記で詳述したように、第1切れ刃107と第2切れ刃109との形状は、それぞれ、第1湾曲曲線110の一部と第2湾曲曲線111の一部とに相当する。第2湾曲曲線111は、切削インサート100の幅方向112、すなわち側面図1Bの視線方向に平行する方向に沿って、湾曲曲線110を平行移動することによって得られる。したがって、図1Bの側面図において、切れ刃107の最高点121と切れ刃109の最高点126とは重なる。
【0056】
しかしながら、逃げ面101が略平行四辺形の形状であるため、図1Bの側面図において、第1切れ刃107の中心127と第2切れ刃109の中心128とは重ならない。1B。逆に、図1Bの側面図において、第1切れ刃107の中心127は、最高点121、126の右側にあり、第2切れ刃109の中心128は、最高点121、126の左側にある。第1切れ刃107の最高点121は、角部129まで距離133を有し、角部130まで距離134を有する。第2切れ刃109の最高点126は、角部131まで距離133を有し、角部132まで距離133を有する。距離133は、距離134よりも小さい。
【0057】
したがって、切れ刃107、109の中心127、128は、最高点121、126よりも切削インサート100の底面125に近い。
【0058】
切削インサート100は、異なる材料から形成される部分135、136を含むことができる。たとえば、逃げ面を含むを切削インサート100の上方部分136は、立方晶窒化ホウ素を含んでもよく、底面125を含む下方部分135は、たとえば炭化タングステンのような異なる材料を含んでもよい。
【0059】
図2は、本発明に係る旋削装置200の概略側面図を示す。明瞭化のために、旋削装置の一部の特徴が省略される。また、旋削装置200の一部の特徴がDE102004026675C5に記載の旋削装置の特徴に相当することができ、その詳細な説明は省略される。
【0060】
参照番号201は、被加工物を示す。被加工物201は、図2の紙面に垂直である第1回転軸203を中心にして回転させることができる。被加工物201の回転は、旋削作業において、被加工物201の主切削運動を規定する。回転203の第1軸を中心にする被加工物201の主切削運動の方向は、矢印202によって模式的に示される。
【0061】
旋削装置200は、切削工具204をさらに備える。切削工具204は、切削インサートホルダ205と、図1A〜1Dを参照して上述した切削インサート100とを含む。切削インサートホルダ205のさらなる詳細は、以下でより詳細に説明する図3A〜3Cに示される。切削インサートホルダ205は、切削インサート100を受入れるように構成されたインサートポケット206を備える。切削インサート100がインサートポケット206において切削インサート100の作業位置に固定されるように、切削インサート100を切削インサートホルダ205に取付ける。
【0062】
切削インサートホルダ205は、第2回転軸208を中心にして回転させられることができる。第2回転軸208は、第1回転軸203に平行であり、図2の紙面に垂直である。第2回転軸208を中心にする切削インサートホルダ205の回転は、切削工具204の送り運動を規定する。図2において、切削工具204の回転送り運動の方向は、矢印207によって模式的に示される。送り運動207の回転速度は、被加工物201の主切削運動202の回転速度よりも実質的に遅い。したがって、被加工物201の加工は、切削工具204と被加工物201との相対運動が主に被加工物201の回転主切削運動202によって規定される旋削作業である。
【0063】
切削インサートホルダ205は、第1切れ刃107と第2切れ刃109とのうち、有効切れ刃である一方が被加工物201と相互作用するように、切削インサート100をインサートポケット206において作業位置に固定するように構成されている。以下、切削インサート100の第2切れ刃109が有効切れ刃である実施例を説明する。しかしながら、切削インサート100の対称軸113を中心にして図2図3A、3Bおよび3Cに示された向きに対して180°回転させられた向きで、切削インサート100を切削インサートホルダ205内に挿入した場合、第1切れ刃107を有効切れ刃として使用することもできる。
【0064】
第1切れ刃107と第2切れ刃109とのうち、有効切れ刃以外の他方の切れ刃は、旋削作業において被加工物201と相互作用しないため、無効切れ刃である。しかしながら、切削インサートの対称軸113を中心にして180°回転させられた向きで、切削インサート100を切削インサートホルダ205のインサートポケット206内に挿入した場合、他方の切れ刃は、被加工物と相互作用する有効切れ刃になる。したがって、切れ刃107および109は、被加工物を機械加工するため、順番に使用することができる。
【0065】
図2の概略側面図に示されたように、旋削装置200と切削工具204とは、有効切れ刃109の中心128が第1回転軸203および第2回転軸208と同一平面209に位置するように配置される。旋削作業中、切削工具204は、有効切れ刃109の中心128が平面209の上方にある初期位置から有効切れ刃109の中心128が平面209の下方にある終了位置まで、第2回転軸208を中心にして回転させられる。有効切れ刃109の中心128は、有効な切れ刃109の中心128から第2回転軸208まで距離220を有する円の一部に沿って移動する。
【0066】
図2に示めされた切削工具204の位置において、有効切れ刃109の中心128は、被加工物201と相互作用し、よって被加工物201の回転対称面が得られる。被加工物201の回転対称面の半径212は、第1回転軸203と第2回転軸208との間の距離と、有効切れ刃109の中心128と第2回転軸208との間の距離220との差に相当する。被加工物201が機械加工される前に、被加工物201の初期半径は、半径212よりも大きい。
【0067】
参照番号210は、作業面を示している。作業面210は、第1回転軸203および第2回転軸208を含む平面209に垂直である。また、切削工具204が図2に示す位置に位置するとき、作業面210は、有効切れ刃109の中心128を通る。したがって、図2に示めされた切削工具204の位置において、有効切れ刃109の中心128と被加工物201との間の相互作用は、作業面210内に位置している箇所で発生する。
【0068】
参照符号211は、作業面210の法線ベクトルを示している。この法線ベクトルは、作業面210に垂直である。切削工具204が図2に示された位置に位置するとき、切削インサート100の対称軸113は、切削インサート100の長手方向112とともに、作業面210の法線211に対して傾斜する。その位置において、作業面210の法線211は、切削インサート100の幅方向112および長手方向114の両方において切削インサート100の対称軸113に対して傾斜する。
【0069】
図3A、3Bおよび3Cは、切削インサート100がインサートポケット206に挿入されるときの切削インサートホルダ205を図示している。
【0070】
図3Aは、切削インサートホルダ205の概略側面図を示し、図3Bは、切削インサートホルダ205の概略上面図を示している。図3Cは、切削インサート100の長手方向114を含む平面に沿ってインサートポケット206が形成されている切削インサートホルダ205の切削インサート受け部301の概略断面図を示している。図3Aおよび3Cにおいては、作業面210と、図2に示された切削工具204の位置に位置する作業面210の法線211とが示されている。
【0071】
切削インサート受け部301は、旋削作業中被加工物201に面する上面302を有する。切削インサート受け部301の上面302が被加工物201まで距離を有しているときに、有効な刃先109が被加工物201と相互作用することができるように、切削インサート100の逃げ面101または有効切れ刃109を含む逃げ面101の一部は、上面302から突出している。
【0072】
切削インサート受け部301は、旋削作業中切削インサートホルダ205の回転中心とする第2回転軸208に対して垂直に配置されている側面305、306を有している。切削インサート受け部301の側面305と306との間に、概念線としての切削インサートホルダ205の中心線303が側面の各々と等しい距離を有するように配置されている。
【0073】
切削インサートホルダ205は、切削インサート受け部301に加えて、さらなる構成要素を含むことができる。これらの構成要素は、切削インサート受け部301よりも第2回転軸208に近い距離に設けられた略円筒状の部分を含むことができる。
【0074】
切削インサートホルダ205のインサートポケット206は、長手方向および幅方向を有する。切削インサート100がインサートポケット206内に挿入されるとき、切削インサート100の長手方向114がインサートポケット206の長手方向に向けられ、切削インサート100の幅方向112がインサートポケット206の幅方向に向けられる。
【0075】
切削インサート100をインサートポケット206において作業位置に固定するため、切削インサートホルダは、切削インサート固定ブロック307を含んでもよい。この切削インサート固定ブロック307は、解除できるように、たとえばねじ接続によって切削インサートホルダ205の他の部分に接続されることができる。
【0076】
図3Bの上面図から分かるように、インサートポケット206の長手方向と、インサートポケット206に挿入された結果によって切削インサート100の長手方向114とは、切削インサート受け部301の上面302の中心線303に対して、たとえば15°〜60°の範囲にある、直角ではない角度αで傾斜する。中心線303とインサートポケット206の長手方向との間の角度は、切削インサート100の長手方向114における切削インサート100の延在量115とともに、切削インサート100の側面102、103が受け部301の側面305、306から少ない延在量のみで突出するまたは実質的に側面305、306から突出しないように構成されてもよい。さらに、切削インサート100が切削インサートホルダ205のインサートポケット206に挿入されるとき、第1切れ刃107の中心121および第2切れ刃109の中心128は、切削インサートホルダ205の切削インサート受け部301の中心線303上に配置されている。
【0077】
切削インサートホルダ205のインサートポケット206は、底面304を有する。切削インサート100がインサートポケット206に挿入されるとき、切削インサート100の底面125は、インサートポケット206の底面304上に位置している。
【0078】
上記で詳述したように、切削インサート100の底面125が切削インサート100の対称軸113に垂直であるため、切削インサート100がインサートポケット206内の作業位置に挿入されるとき、切削インサート100の対称軸113は、インサートポケット206の底面304に垂直である。
【0079】
インサートポケット206の底面304は、インサートポケット206の長手方向とインサートポケット206の幅方向との両方においてインサートポケット206に隣接する受け部301の上面302の一部に対して傾斜する。
【0080】
インサートポケット206の底面304の傾斜向きは、作業面210の法線211が切削インサート100の幅方向112における対称軸113および図2に示す切削インサートホルダ205の位置における切削インサート100の長手方向114に対する傾斜を提供することができる。
【0081】
図2に示される切削インサートホルダ205の位置における作業面210および作業面210の法線211は、図3Aに示される。特に図3Aに示される切削インサート205の側面図から分かるように、作業面210の法線211が切削インサート100の幅方向112における切削インサート100の対称軸113に対して傾斜するため、有効切れ刃109は、作業面210に実質的に平行であり得るインサートポケット206に隣接する上面302の一部から無効切れ刃107よりも大きな延在量で突出する。よって、有効切れ刃109のみが被加工物201と相互作用することを保証することができる。実施形態において、切削インサート100の幅方向112における対称軸113に対する作業面210の法線211の傾斜角度は、約7°であってもよい。
【0082】
したがって、図2に示される切削インサートホルダ205の位置では、無効切れ刃107上の任意の点は、作業面210まで距離を有する。
【0083】
さらに、作業面210の法線211は、切削インサート100の長手方向114における切削インサート100の対称軸113に対して傾斜する。このことは、特に図3Cに示される切削インサート100の長手方向114に沿った受け部301の断面図から分かる。切削インサート100の長手方向114における対称軸113に対する作業面210の法線211の傾斜を形成するため、インサートポケットが(図3Cの右側ある)切削インサート受け部301の一方側により大きい深さを有するように、切削インサートホルダ205のインサートポケット206の底面304を傾斜させてもよい。
【0084】
作動面210の法線211が切削インサート100の長手方向114において傾斜しているため、図2示された切削工具204の位置における作業面210において、有効切れ刃109の中心128を設けることができ、一方、有効切れ刃109の他の部分が第2回転軸208とともに作動面210の同側に配置される。特に、有効切れ刃109の最高点126は、作業面210まで距離を有するように設けられ、第2回転軸208とともに作動面210の同側に配置されている。有効切れ刃109の端部にある角部131、132は、作業面210に実質的に等しい距離を有するように設けることができる。
【0085】
上述したように、切削インサート100の切れ刃107、109が半径117を有する円弧である実施形態において、円弧の半径117は、半径および傾斜角を有する螺旋の曲率半径に相当するように、構成されてもよい。螺旋の半径は、第2回転軸208と有効切れ刃109の中心128との間の距離220に等しい。螺旋の傾斜角は、切削インサート100の長手方向114と第2回転軸208との間の、ゼロではない角度βに等しい。角度βは、0.1°〜5°範囲内の値を有してもよい。切削インサート100の長手方向114と第2回転軸208との間の角度は、インサートポケット206の長手方向と第2回転軸208との間の角度に相当する。
【0086】
このように、インサートポケット206に設置される切削インサート100の有効切れ刃109の形状は、第2回転軸208を中心にする螺旋の形状に近似する。したがって、切削インサートホルダ205が第2回転軸208を中心にして回転させられると、第1回転軸203と第2回転軸208とを含む平面209内に位置している被加工物201と相互作用している有効切れ刃109の一部は、常に、第1回転軸203と第2回転軸208とは実質的に同じ距離を有する。よって、実質的にねじれのない被加工物201の回転対称面を得ることができる。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2
図3A
図3B
図3C