特許第6085952号(P6085952)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許60859522−オキソプロパンスルトン化合物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6085952
(24)【登録日】2017年2月10日
(45)【発行日】2017年3月1日
(54)【発明の名称】2−オキソプロパンスルトン化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 327/04 20060101AFI20170220BHJP
【FI】
   C07D327/04
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-249953(P2012-249953)
(22)【出願日】2012年11月14日
(65)【公開番号】特開2014-97946(P2014-97946A)
(43)【公開日】2014年5月29日
【審査請求日】2015年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(72)【発明者】
【氏名】敷田 庄司
(72)【発明者】
【氏名】藤野 達雄
【審査官】 東 裕子
(56)【参考文献】
【文献】 西独国特許出願公開第02431734(DE,A)
【文献】 Stachel, Hans Dietrich; Drasch, Gustav,Preparation and properties of β-oxopropanesultones and -sultams,Archiv der Pharmazie (Weinheim, Germany) ,1985年,Vol.318(4),pp.304-311
【文献】 日本化学会,実験化学講座,日本,丸善,2000年,第4版,1巻,pp.180-184
【文献】 日本化学会,実験化学講座,日本,丸善,1985年,第3版,1巻,pp.295-296
【文献】 山本嘉則,有機化学 基礎の基礎−100のコンセプト,日本,化学同人,1997年,第1版,pp.221-224
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)で表されるエステル化合物と、3級アルコールのアルコキシドである塩基をエーテル系溶媒中またはエステル系溶媒中で反応させ、生成する2−オキソプロパンスルトン化合物の金属塩を下記(1)または(2)に記載の方法にて分離し、中和することを特徴とする2−オキソプロパンスルトン化合物(II)の製造方法。
(1)前記エステル化合物(I)と前記塩基を反応させた後の反応液に水を添加し、必要に応じて有機溶媒を添加、分液することで、水層を分取する方法。
(2)前記エステル化合物(I)と塩基を反応させた後に生成する金属塩を濾過する方法。
【化1】
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示し、R〜Rは独立に水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素数6〜12のアリール基を示す。)
【化2】
(式中、〜Rは独立に水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素数6〜12のアリール基を示す。
【請求項2】
前記製造方法において、前記2−オキソプロパンスルトン化合物の金属塩を生成する工程の反応温度が5℃以上30℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の2−オキソプロパンスルトン化合物(II)の製造方法。
【請求項3】
前記エーテル系溶媒またはエステル系溶媒の使用量が、一般式(I)で表されるエステル化合物1質量部に対して2質量部以上20質量部以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の2−オキソプロパンスルトン化合物(II)の製造方法。
【請求項4】
前記一般式(II)のR〜Rは独立に水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、またはフェニル基である請求項1〜3のいずれか1項に記載の2−オキソプロパンスルトン化合物(II)の製造方法。
【請求項5】
前記一般式(II)で表される化合物が、5,5−ジメチル−1,2−オキサチオラン−4−オン 2,2−ジオキシド、3,5,5−トリメチル−1,2−オキサチオラン−4−オン 2,2−ジオキシド、5−メチル−1,2−オキサチオラン−4−オン 2,2−ジオキシド、又は5,5−ジメチル−3−フェニル−1,2−オキサチオラン−4−オン 2,2−ジオキシドのいずれかである請求項1〜4のいずれか1項に記載の2−オキソプロパンスルトン化合物(II)の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
2−オキソプロパンスルトン化合物の製造方法において、エステル化合物を塩基と反応させ、2−オキソプロパンスルトン化合物の金属塩(以下金属塩と略す)として分離した後に、中和することを特徴とする2−オキソプロパンスルトン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スルトン化合物は、ヘテロ環化合物の中間体として幅広く使用されており、その化学特性、産業上の応用性、生化学特性に関して興味をもたれている化合物である。
従来、2−オキソプロパンスルトン化合物の製造方法としては、対応するエステル化合物を塩基で環化させ、中和する方法(特許文献1、2)、シアノヒドリンメシレートを塩基で環化させ、中和する方法(非特許文献1〜3)が知られている。しかし、エステル化合物を塩基と反応させた後に、金属塩として分離した後に中和するという製造方法については何ら開示されていない。
【0003】
【特許文献1】独国特許出願公開第2431734号公報
【特許文献2】独国特許出願公開第19924668号公報
【0004】
【非特許文献1】Journal of Organic Chemistry, 1997, 62, 7021
【非特許文献2】Tetrahedron, 1997, 53, 17795
【非特許文献3】Chemistry A European Journal, 2008, 14, 9620
【0005】
上記のようにエステル化合物を出発原料とする特許文献1の製造方法では、工程が煩雑で収率が低いという問題があり、特許文献2に記載の製造方法では、水素化ナトリウムを塩基として使用するため、製造過程において爆発の恐れがある水素ガスが大量に発生する問題があった。非特許文献1〜3に記載されている、シアノヒドリンメシレートを出発原料とする製造工程では、原料となるシアノヒドリンメシレートを製造する際に使用するシアノヒドリン化合物から、猛毒の青酸ガスが発生するという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、エステル化合物を出発原料とし、塩基と反応させ、金属塩として分離した後に、中和することで、安全に、かつ高収率で高純度の2−オキソプロパンスルトン化合物を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、2−オキソプロパンスルトン化合物の製造方法において種々検討した結果、エステル化合物と塩基を反応させた後に、生成した金属塩を金属塩の水溶液もしくは金属塩単独として分離し、分離した金属塩を中和することで、安全に、かつ高収率で高純度の2−オキソプロパンスルトン化合物を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記の(1)及び(2)を提供するものである。
(1)一般式(I)で表されるエステル化合物と、塩基を反応させ、生成する金属塩を分離し、中和することを特徴とする2−オキソプロパンスルトン化合物(II)の製造方法。
【0009】
【化1】
(式中、Rはハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2〜4のアルケニル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数3〜4のアルキニル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数6〜12のアリール基を示し、R〜Rは独立に水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2〜4のアルケニル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2〜4のアルキニル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数6〜12のアリール基を示す。)
【0010】
【化2】
(式中、R〜Rは前記一般式(I)と同義である。)
【0011】
(2)一般式(III)で表される2−オキソプロパンスルトン化合物のナトリウム塩。
【0012】
【化3】
(式中、R〜R前記と同義である。)
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、安全に、かつ高収率で高純度の2−オキソプロパンスルトン化合物を製造できるため、工業的に優れた製法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、一般式(I)で表されるエステル化合物と、塩基を反応させ、生成する金属塩を分離し、中和することで一般式(II)の2−オキソプロパンスルトン化合物を得る方法に関する。
【0015】
【化4】
(式中、Rはハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2〜4のアルケニル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2〜4のアルキニル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数6〜12のアリール基を示し、R〜Rは独立に水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2〜4のアルケニル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2〜4のアルキニル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数6〜12のアリール基を示す。)
【0016】
【化5】
(式中、R〜Rは前記一般式(I)と同義である。)
【0017】
一般式(I)で表されるエステル化合物において、Rの具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基等の直鎖のアルキル基、iso−プロピル基,sec−ブチル基、tert−ブチル基等の分枝鎖のアルキル基、シクロプロピル基、シクロブチル基等のシクロアルキル基、フルオロメチル基、クロロメチル基、トリフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基等の水素原子の一部がハロゲン原子で置換されたアルキル基、ビニル基、2−プロペン−1−イル基、2−ブテンー1−イル基、3−ブテン−1−イル基等の直鎖のアルケニル基、2−プロペン−2−イル基、3−ブテン−2−イル基、2−メチル−1−プロペン−1−イル基、2−メチル−2−プロペン−1−イル基等の分枝鎖のアルケニル基、エチニル基、2−プロピン−1−イル基、2−ブチン−1−イル基、3−ブチン−1−イル基等の直鎖のアルキニル基、3−ブチン−2−イル基等の分枝鎖のアルキニル基、またはフェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、4−tert-ブチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、2−フルオロフェニル基、3−フルオロフェニル基、4−フルオロフェニル基、2,4−ジフルオロフェニル基、2,6−ジフルオロフェニル基、3,4−ジフルオロフェニル基、2,4,6−トリフルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、2−トリフルオロメチル基、4−トリフルオロメチルフェニル基等のアリール基が好適に挙げられ、中でも、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、ビニル基、2−プロペン−1−イル基、エチニル基、2−プロピン−1−イル基、2−ブチン−1−イル基、フェニル基、4−メチルフェニル基、または4−フルオロフェニル基が好ましく、メチル基、エチル基、またはn−プロピル基が更に好ましい。R〜Rの具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基等の直鎖のアルキル基、iso−プロピル基,sec−ブチル基、tert−ブチル基等の分枝鎖のアルキル基、シクロプロピル基、シクロブチル基等のシクロアルキル基、フルオロメチル基、クロロメチル基、トリフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基等の水素原子の一部がハロゲン原子で置換されたアルキル基、ビニル基、2−プロペン−1−イル基、2−ブテンー1−イル基、3−ブテン−1−イル基等の直鎖のアルケニル基、2−プロペン−2−イル基、3−ブテン−2−イル基、2−メチル−1−プロペン−1−イル基、2−メチル−2−プロペン−1−イル基等の分枝鎖のアルケニル基、エチニル基、2−プロピン−1−イル基、2−ブチン−1−イル基、3−ブチン−1−イル基等の直鎖のアルキニル基、3−ブチン−2−イル基等の分枝鎖のアルキニル基、またはフェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、4−tert-ブチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、2−フルオロフェニル基、3−フルオロフェニル基、4−フルオロフェニル基、2,4−ジフルオロフェニル基、2,6−ジフルオロフェニル基、3,4−ジフルオロフェニル基、2,4,6−トリフルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、2−トリフルオロメチル基、4−トリフルオロメチルフェニル基等のアリール基が好適に挙げられ、中でも、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、ビニル基、2−プロペン−1−イル基、エチニル基、2−プロピン−1−イル基、2−ブチン−1−イル基、フェニル基、4−メチルフェニル基、または4−フルオロフェニル基がより好ましく、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、またはフェニル基が更に好ましい。
【0018】
上記エステル化合物の具体例としては、以下の化合物が挙げられる。
【0019】
メチル 2−メチル−2−((メタンスルホニル)オキシ)プロパノエート、エチル 2−メチル−2−((メタンスルホニル)オキシ)プロパノエート、メチル 2−((エタンスルホニル)オキシ)−2−メチルプロパノエート、メチル 2−((メタンスルホニル)オキシ)プロパノエート、メチル 2−((ベンゼンスルホニル)オキシ)−2−メチルプロパノエート等が好適に挙げられる。
【0020】
一般式(II)で表される2−オキソプロパンスルトン化合物において、R〜Rの具体例としては一般式(I)の場合と同義である、
一般式(II)の化合物で表される2−オキソプロパンスルトン化合物としては、以下の化合物が挙げられる。
【0021】
5,5−ジメチル−1,2−オキサチオラン−4−オン 2,2−ジオキシド、3,5,5−トリメチル−1,2−オキサチオラン−4−オン 2,2−ジオキシド、5−メチル−1,2−オキサチオラン−4−オン 2,2−ジオキシド、5,5−ジメチル−3−フェニル−1,2−オキサチオラン−4−オン 2,2−ジオキシド等が好適に挙げられる。
【0022】
上記塩基としては、金属アルコキシドが使用され、好ましくはカリウムアルコキシド、ナトリウムアルコキシドが使用される。カリウムアルコキシド、ナトリウムアルコキシドは単独で使用してもよく、2種類を混合しても用いることも出来る。ナトリウムアルコキシド及びカリウムアルコキシドの具体例としては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムn−プロポキシド、ナトリウムiso−プロポキシド、ナトリウムtert−ブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムn−プロポキシド、カリウムiso−プロポキシド、またはカリウムtert−ブトキシド等が好適に挙げられ、これらの中でもナトリウムiso−プロポキシド、ナトリウムtert−ブトキシド、カリウムiso−プロポキシド、及びカリウムtert−ブトキシドから選ばれる1種以上が好ましく、ナトリウムtert−ブトキシド、カリウムtert−ブトキシドがより好ましく、ナトリウムtert−ブトキシドが更に好ましい。
【0023】
上記理由としては、1級アルコールのアルコキシドは、求核剤として作用し副反応を起こすため収率がするが、3級アルコールのアルコキシドであるナトリウムtert−ブトキシドやカリウムtert−ブトキシドは嵩高く、求核剤として作用せず収率が低下しないためである。
【0024】
上記、金属アルコキシドの使用量としては、下限は、モル数の合計が一般式(I)で表されるエステル化合物に対して化学量論量で0.7モル以上であることが好ましく、0.8モル以上であることが更に好ましく、0.9モル以上であることが特に好ましい。0.7モル未満では反応が十分に進行せず、収率が低下するためである。上限としては、2モル以下であることが好ましく、1.5モル以下であることがより好ましく、1.3モル以下であることが更に好ましい。2モルより多いと副反応が進行し、収率が低下するためである。
【0025】
本発明では、溶媒の存在下、非存在下でも反応することができるが、攪拌性を向上させるためには、溶媒の存在下で反応させることが好ましい。具体的な溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒、ベンゼン、トルエン等の芳香族系溶媒、アセトニトリル等のニトリル系溶媒、ジメチルスルホキシド等のスルホン系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒を用いることができる。これらの溶媒の中でも、スルホン系溶媒、アミド系溶媒、エーテル系、またはエステル系溶媒が好ましく、エーテル系溶媒、エステル系溶媒が更に好ましい。溶媒の使用量において上限としては、一般式(I)で表されるエステル化合物1質量部に対して20質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、5質量部以下が更に好ましい。下限としては、2質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましい。
【0026】
上記エステル化合物と塩基を反応させた後に、生成した金属塩を分離する方法として、(1)金属塩を水溶液として分離する方法と(2)金属塩を濾過し金属塩単独として分離する方法が挙げられる。
【0027】
上記、(1)金属塩を水溶液として分離する方法とは、上記エステル化合物と塩基を反応させた後の反応液に水を添加し、必要に応じて有機溶媒を添加、分液することで、水層を分取する方法である。有機溶媒としては、反応溶媒として使用する溶媒以外で、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン等の芳香族系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒が挙げられ、1種又は2種以上を混合して用いることが出来る。これらの有機溶媒の中でも、分液性が良くなるため、ヘキサンやヘプタン等の炭化水素系溶媒がより好ましい。
【0028】
上記、水の使用量としては、下限として、一般式(I)で表されるエステル化合物1質量部に対して1.3質量部以上が好ましく、1.5質量部以上がより好ましい。反応で生成する塩の水への溶解度の観点から、2質量部以上が更に好ましい。上限としては、一般式(I)で表されるエステル化合物1質量部に対して5質量部以下が好ましく、4質量部以下がより好ましく、3質量部以下が特に好ましい。
【0029】
上記有機溶媒の使用量としては、下限として、一般式(I)で表されるエステル化合物1質量部に対して0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましいく、分液性の観点から、2質量部以上が更に好ましい。上限としては、一般式(I)で表されるエステル化合物1質量部に対して5質量部以下が好ましく、4質量部以下がより好ましく、3.0質量部以下が特に好ましい。
【0030】
上記、(2)金属塩を濾過して金属塩単独で分離する方法は、上記エステル化合物と塩基を反応させた後に生成する金属塩を濾過する方法である。濾過時に有機溶媒を用いて、金属塩を洗浄してもよい。洗浄に使用する有機溶媒としては、反応溶媒に使用する溶媒を用いてもよく、反応溶媒以外の有機溶媒を用いても良い。反応溶媒以外の有機溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン等の芳香族系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒が挙げられ、1種又は2種以上を混合して用いることが出来る。これらの有機溶媒の中でも、不純物の除去効果が高いため、酢酸エチルがより好ましい。
【0031】
上記、洗浄に使用する有機溶媒の使用量としては、下限として、一般式(I)で表されるエステル化合物1質量部に対して0.1質量部以上が好ましく、0.3質量部以上がより好ましい。不純物の除去の観点から、0.5質量部以上が更に好ましい。上限としては、一般式(I)で表されるエステル化合物1質量部に対して5質量部以下が好ましく、3質量部以下がより好ましく、2質量部以下が更に好ましい。
【0032】
上記、一般式(I)で表されるエステル化合物と塩基との反応において、反応温度の上限としては、50℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましく、20℃以下が特に好ましい。反応温度が50℃より高い場合、副反応が進行しやすくなるためである。下限としては、0℃以上が好ましく、5℃以上がより好ましく、10℃以上が特に好ましい。反応温度が0℃より低い場合、反応速度が大幅に低下するためである。
【0033】
上記反応において、最初に反応容器に溶媒と塩基を添加し、攪拌しながら一般式(I)で表されるエステル化合物を添加すると、反応温度を制御しやすく、副反応も抑制できるため好ましい。
【0034】
上記の方法で分離した金属塩は、酸を用いた一般的な中和方法により、2−オキソプロパンスルトン化合物へと変換できる。具体的な酸としては、酢酸、メタンスルホン酸等の有機酸の他に塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸が挙げられるが、酢酸、塩酸が好適に挙げられ、中でも塩酸が好ましい。
【0035】
上記の中和方法により取得した2−オキソプロパンスルトン化合物は、一般の精製法である、シリカゲルカラムや蒸留、晶析により更に純度を向上させることができる。
【0036】
また、本発明の反応は、窒素やアルゴンのような不活性ガス雰囲気下で行う。
【0037】
一般式(III)で表される2−オキソプロパンスルトン化合物のナトリウム塩。
【0038】
【化6】
(式中、R〜R前記と同義である。)
【0039】
一般式(III)の化合物で表される2−オキソプロパンスルトン化合物のナトリウム塩としては、以下の化合物が挙げられる。
【0040】
5,5−ジメチル−5H−1,2−オキサチオール−4−オレート 2,2−ジオキシド ナトリウム塩、3,5,5−トリメチル−5H−1,2−オキサチオール−4−オレート 2,2−ジオキシド ナトリウム塩、5−メチル−5H−1,2−オキサチオール−4−オレート 2,2−ジオキシド ナトリウム塩、5,5−ジメチル−3−フェニル−5H−1,2−オキサチオール−4−オレート 2,2−ジオキシド ナトリウム塩等が好適に挙げられる。
【実施例】
【0041】
〔実施例1〕5,5−ジメチル−1,2−オキサチオラン−4−オン 2,2−ジオキシドの合成
メチル 2−メチル−2−((メタンスルホニル)オキシ)プロパノエート10.0g(0.051mol)を、ナトリウムtert−ブトキシド4.9g(0.051mol)、テトラヒドロフラン40.0gの混合溶液に15℃で5分かけて滴下し、さらに30分ほど同温度で攪拌した。原料の消失をGCにて確認した後、水25g、ヘキサン25gを添加し、15分ほど攪拌した後、分液操作により、水層を取得した。分取した水層に酢酸エチル25gを加え、塩酸を加えてpH4とした後、有機層を分取、減圧濃縮し、濃縮残渣6.4gを得た。濃縮残渣を高速液体クロマトグラフで分析した結果、5,5−ジメチル−1,2−オキサチオラン−4−オン 2,2−ジオキシドの純度は94%であり、収率は72%であった。
【0042】
〔実施例2〕5,5−ジメチル−1,2−オキサチオラン−4−オン 2,2−ジオキシドの合成
メチル 2−メチル−2−((メタンスルホニル)オキシ)プロパノエート10.0g(0.051mol)を、ナトリウムtert−ブトキシド4.9g(0.051mol)、テトラヒドロフラン40.0gの混合溶液に15℃で5分かけて滴下し、さらに30分ほど同温度で攪拌した。原料の消失をGCにて確認した後、生じた金属塩を濾別し、酢酸エチル10.0gを用い、金属塩を洗浄した。濾別した金属塩に、水25g、酢酸エチル25gを加え、さらに塩酸を加えてpH4とした後、有機層を分取、減圧濃縮し、濃縮残渣6.4gを得た。濃縮残渣を高速液体クロマトグラフで分析した結果、5,5−ジメチル−1,2−オキサチオラン−4−オン 2,2−ジオキシドの純度は97%、収率は74%であった。
【0043】
〔実施例3〕5,5−ジメチル−1,2−オキサチオラン−4−オン 2,2−ジオキシドの合成
エチル 2−メチル−2−((メタンスルホニル)オキシ)プロパノエート10.0g(0.048mol)を、ナトリウムtert−ブトキシド4.6g(0.048mol)、テトラヒドロフラン40.0gの混合溶液に15℃で5分かけて滴下し、さらに30分ほど同温度で攪拌した。原料の消失をGCにて確認した後、水25g、ヘキサン25gを添加し、15分ほど攪拌した後、分液操作により、水層を取得した。分取した水層に酢酸エチル25gを加え、塩酸を加えてpH4とした後、有機層を分取、減圧濃縮し、濃縮残渣5.8gを得た。濃濃縮残渣を高速液体クロマトグラフで分析した結果、5,5−ジメチル−1,2−オキサチオラン−4−オン 2,2−ジオキシドの純度は94%、収率は70%であった。
【0044】
〔実施例4〕5−メチル−1,2−オキサチオラン−4−オン 2,2−ジオキシドの合成
メチル 2−((メタンスルホニル)オキシ)プロパノエート10.0g(0.055mol)を、ナトリウムtert−ブトキシド5.3g(0.055mol)、テトラヒドロフラン40.0gの混合溶液に15℃で5分かけて滴下し、さらに30分ほど同温度で攪拌した。原料の消失をGCにて確認した後、水25g、ヘキサン25gを添加し、15分ほど攪拌した後、分液操作により、水層を取得した。分取した水層に酢酸エチル25gを加え、塩酸を加えてpH4とした後、有機層を分取、減圧濃縮し、濃縮残渣5.1gを得た。濃縮残渣を高速液体クロマトグラフで分析した結果、5−メチル−1,2−オキサチオラン−4−オン 2,2−ジオキシドの純度は93%、収率は58%であった。
【0045】
〔実施例5〕5−メチル−1,2−オキサチオラン−4−オン 2,2−ジオキシドの合成
メチル 2−((メタンスルホニル)オキシ)プロパノエート10.0g(0.055mol)を、ナトリウムtert−ブトキシド5.3g(0.055mol)、テトラヒドロフラン40.0gの混合溶液に15℃で5分かけて滴下し、さらに30分ほど同温度で攪拌した。原料の消失をGCにて確認した後、生じた金属塩を濾別し、酢酸エチル10.0gを用い、金属塩を洗浄した。濾別した金属塩に、水25g、酢酸エチル25gを加え、さらに塩酸を加えてpH4とした後、有機層を分取、減圧濃縮し、濃縮残渣5.2gを得た。濃縮残渣を高速液体クロマトグラフで分析した結果、5−メチル−1,2−オキサチオラン−4−オン 2,2−ジオキシドの純度は97%、収率は61%であった。
【0046】
〔実施例6〕5,5−ジメチル−1,2−オキサチオラン−4−オン 2,2−ジオキシドの合成
メチル 2−メチル−2−((メタンスルホニル)オキシ)プロパノエート10.0g(0.051mol)を、ナトリウムtert−ブトキシド4.9g(0.051mol)、酢酸エチル40.0gの混合溶液に15℃で5分かけて滴下し、さらに30分ほど同温度で攪拌した。原料の消失をGCにて確認した後、水35gを添加し、15分ほど攪拌した後、分液操作により、水層を取得した。分取した水層に酢酸エチル25gを加え、塩酸を加えてpH4とした後、有機層を分取、減圧濃縮し、濃縮残渣6.7gを得た。濃縮残渣を高速液体クロマトグラフで分析した結果、5,5−ジメチル−1,2−オキサチオラン−4−オン 2,2−ジオキシドの純度は93%、収率は74%であった。
【0047】
〔実施例67〕5,5−ジメチル−1,2−オキサチオラン−4−オン 2,2−ジオキシドの合成
メチル 2−メチル−2−((メタンスルホニル)オキシ)プロパノエート10.0g(0.051mol)を、ナトリウムt−ブトキシド4.9g(0.051mol)、酢酸エチル40.0gの混合溶液に25℃で5分かけて滴下し、さらに30分ほど同温度で攪拌した。原料の消失をGCにて確認した後、生じた金属塩を濾別し、酢酸エチル10.0gを用い、金属塩を洗浄した。分取した金属塩に水25g、酢酸エチル25gを加え、さらに塩酸を加えてpH4とした後、有機層を分取、減圧濃縮し、濃縮残渣6.4gを得た。濃縮残渣を高速液体クロマトグラフで分析した結果、5,5−ジメチル−1,2−オキサチオラン−4−オン 2,2−ジオキシドの純度は98%、収率は75%であった。
【0048】
〔実施例8〕5,5−ジメチル−1,2−オキサチオラン−4−オン 2,2−ジオキシドの合成
メチル 2−メチル−2−((メタンスルホニル)オキシ)プロパノエート10.0g(0.051mol)を、ナトリウムtert−ブトキシド6.3g(0.066mol)、酢酸エチル40.0gの混合溶液に15℃で5分かけて滴下し、さらに30分ほど同温度で攪拌した。原料の消失をGCにて確認した後生じた金属塩を濾別し、酢酸エチル10.0gを用い、金属塩を洗浄した。分取した金属塩に水25g、酢酸エチル25gを加え、さらに塩酸を加えてpH4とした後、有機層を分取、減圧濃縮し、濃縮残渣6.0gを得た。濃縮残渣を高速液体クロマトグラフで分析した結果、5,5−ジメチル−1,2−オキサチオラン−4−オン 2,2−ジオキシドの純度は97%、収率は70%であった。
【0049】
〔実施例9〕5,5−ジメチル−1,2−オキサチオラン−4−オン 2,2−ジオキシドの合成
メチル 2−メチル−2−((メタンスルホニル)オキシ)プロパノエート10.0g(0.051mol)を、カリウムtert−ブトキシド5.7g(0.051mol)、酢酸エチル40.0gの混合溶液に15℃で5分かけて滴下し、さらに30分ほど同温度で攪拌した。原料の消失をGCにて確認した後、水35gを添加し、15分ほど攪拌した後、分液操作により、水層を取得した。分取した水層に酢酸エチル25gを加え、塩酸を加えてpH4とした後、有機層を分取、減圧濃縮し、濃縮残渣6.5gを得た。濃縮残渣を高速液体クロマトグラフで分析した結果、5,5−ジメチル−1,2−オキサチオラン−4−オン 2,2−ジオキシドの純度は92%、収率は71%であった。
【0050】
〔比較例1〕5,5−ジメチル−1,2−オキサチオラン−4−オン 2,2−ジオキシドの合成
メチル 2−メチル−2−((メタンスルホニル)オキシ)プロパノエート10.0g(0.051mol)を、ナトリウムtert−ブトキシド4.9g(0.051mol)、テトラヒドロフラン40.0gの混合溶液に15℃で5分かけて滴下し、さらに30分ほど同温度で攪拌した。原料の消失をGCにて確認した後、塩酸を加えてpH4とした後、酢酸エチル25gを加え、有機層を分取、減圧濃縮し、濃縮残渣6.4gを得た。濃縮残渣を高速液体クロマトグラフで分析した結果、5,5−ジメチル−1,2−オキサチオラン−4−オン 2,2−ジオキシドの純度は81%、収率は62%であった。
【0051】
〔実施例10〕5,5−ジメチル−5H−1,2−オキサチオール−4−オレート 2,2−ジオキシド ナトリウム塩の合成
メチル 2−メチル−2−((メタンスルホニル)オキシ)プロパノエート5.0g(0.025mol)を、ナトリウムtert−ブトキシド2.4g(0.025mol)、酢酸エチル20.0gの混合溶液に15℃で5分かけて滴下し、さらに30分ほど同温度で攪拌した。原料の消失をGCにて確認した後、生じた金属塩を濾別し、酢酸エチル10.0gを用い、金属塩を洗浄した。得られた、金属塩を減圧乾燥し、5,5−ジメチル−5H−1,2−オキサチオール−4−オレート 2,2−ジオキシド ナトリウム塩4.3gを得た(収率90%)。得られた5,5−ジメチル−5H−1,2−オキサチオール−4−オレート 2,2−ジオキシド ナトリウム塩について、1H−NMRの測定を行い、その構造を確認した。
結果を以下に示す。
1H−NMR(300MHz,CDCl3):δ=4.12(s,1H),1.29(s,6H)
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、エステル化合物を出発原料とし、塩基と反応させ、塩として分離した後に、中和することで、安全に、かつ高収率で2−オキソプロパンスルトン化合物を製造することが出来る