(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項3に記載のポリイミド前駆体溶液組成物を用いて得られたポリイミド、又は請求項4に記載のポリイミドによって形成されたことを特徴とするポリイミドフィルム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであり、テトラカルボン酸成分として脂環式テトラカルボン酸二無水物、ジアミン成分としてアミド結合及び脂環を有する芳香族ジアミンを用いた半脂環式ポリイミドにおいて、耐熱性及び透過率を改良することを目的とする。
【0008】
すなわち、本発明は、高耐熱性などの優れた特性を有し、さらに極めて高い透明性を併せ有するポリイミド前駆体及びポリイミドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の各項に関する。
1. 下記化学式(1)で表される繰り返し単位を含んで構成されたことを特徴とするポリイミド前駆体。
【0010】
【化1】
ここで、Aは、化学構造中に二つ以上のアミド結合と一つ以上の脂環を有する2価の基であり、Bは、化学構造中に少なくとも一つの脂肪族6員環を有し芳香族環を有さない4価の基である。X
1、X
2はそれぞれ独立に水素、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数3〜9のアルキルシリル基のいずれかである。
【0011】
2. Aが、下記化学式(2)〜(5)からなる群から選択される2価の基であることを特徴とする前記項1に記載のポリイミド前駆体。
【0012】
【化2】
ここで、R
1、R
3は、それぞれ独立に、炭素数が6〜18の芳香族環を有する2価の基であり、R
2は炭素数3−18の脂環を有する2価の基、そしてn1は、1〜10の整数である。
【0013】
【化3】
ここで、R
4、R
6は、それぞれ独立に、炭素数が6〜18の芳香族環を有する2価の基であり、R
5は炭素数3−18の脂環を有する2価の基、そしてn2は、1〜10の整数である。
【0014】
【化4】
ここで、R
7、R
9は、それぞれ独立に、炭素数が6〜18の芳香族環を有する2価の基であり、R
8は炭素数3−18の脂環を有する2価の基、そしてn3は、1〜10の整数である。
【0015】
【化5】
ここで、R
10、R
12は、それぞれ独立に、炭素数が6〜18の芳香族環を有する2価の基であり、R
11は炭素数3−18の脂環を有する2価の基、そしてn4は、1〜10の整数である。
【0016】
3. Bが、下記化学式(6)〜(9)からなる群から選択される4価の基であることを特徴とする前記項1に記載のポリイミド前駆体。
【0017】
【化6】
【0018】
【化7】
ここで、R
13は直接結合、CH
2基、C(CH
3)
2基、SO
2基、Si(CH
3)
2基、C(CF
3)
2基、酸素原子、硫黄原子のいずれかである。
【0019】
【化8】
ここで、R
14は、CH
2基、CH
2CH
2基、酸素原子、硫黄原子のいずれかである。
【0020】
【化9】
ここで、R
15、R
16は、いずれも独立に、CH
2基、CH
2CH
2基、酸素原子、硫黄原子のいずれかである。
【0021】
4. 前記項1〜3のいずれかに記載のポリイミド前駆体が有機溶媒中に均一に溶解していることを特徴とするポリイミド前駆体溶液組成物。
【0022】
5. 下記化学式(10)で表される繰り返し単位を含んで構成されたことを特徴とするポリイミド。
【0023】
【化10】
ここで、Aは、化学構造中に二つ以上のアミド結合と一つ以上の脂環を有する2価の基であり、Bは、化学構造中に少なくとも一つの脂肪族6員環を有し芳香族環を有さない4価の基である。
【0024】
6. Aが、下記化学式(11)〜(14)からなる群から選択される2価の基であることを特徴とする前記項5に記載のポリイミド。
【0025】
【化11】
ここで、R
17、R
19は、それぞれ独立に、炭素数が6〜18の芳香族環を有する2価の基であり、R
18は炭素数3−18の脂環を有する2価の基、そしてn5は、1〜10の整数である。
【0026】
【化12】
ここで、R
20、R
22は、それぞれ独立に、炭素数が6〜18の芳香族環を有する2価の基であり、R
21は炭素数3−18の脂環を有する2価の基、そしてn6は、1〜10の整数である。
【0027】
【化13】
ここで、R
23、R
25は、それぞれ独立に、炭素数が6〜18の芳香族環を有する2価の基であり、R
24は炭素数3−18の脂環を有する2価の基、そしてn7は、1〜10の整数である。
【0028】
【化14】
ここで、R
26、R
28は、それぞれ独立に、炭素数が6〜18の芳香族環を有する2価の基であり、R
27は炭素数3−18の脂環を有する2価の基、そしてn8は、1〜10の整数である。
【0029】
7. Bが、下記化学式(15)〜(18)からなる群から選択される4価の基であることを特徴とする前記項5に記載のポリイミド。
【0030】
【化15】
【0031】
【化16】
ここで、R
29は直接結合、CH
2基、C(CH
3)
2基、SO
2基、Si(CH
3)
2基、C(CF
3)
2基、酸素原子、硫黄原子のいずれかである。
【0032】
【化17】
ここで、R
30は、CH
2基、CH
2CH
2基、酸素原子、硫黄原子のいずれかである。
【0033】
【化18】
ここで、R
31、R
32は、いずれも独立に、CH
2基、CH
2CH
2基、酸素原子、硫黄原子のいずれかである。
【0034】
8. 前記項4に記載のポリイミド前駆体溶液組成物を用いて得られたポリイミド、又は前記項5〜7に記載のポリイミドによって形成されたことを特徴とするポリイミドフィルム。
【0035】
下記化学式(19)で表される構成であることを特徴とするジアミン。
【0036】
【化19】
ここで、R
33は、炭素数3−18の脂環を有する2価の基である。脂環とは、単環、多環、スピロ環、架橋環のいずれかである。
【発明の効果】
【0037】
本発明は、高耐熱性の優れた特性を有し、さらに極めて高い透明性を併せ有するポリイミド前駆体及びポリイミドを提供することを目的とする。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明のポリイミド前駆体は、前記化学式(1)で表される繰り返し単位を含んで構成されたポリイミド前駆体である。
換言すれば、本発明のポリイミド前駆体は、化学構造中に少なくとも一つの脂肪族6員環を有し芳香族環を有さない脂環式テトラカルボン酸成分と、化学構造中に二つ以上のアミド結合と一つ以上の脂環を有する芳香族ジアミン成分から得られる半脂環式ポリイミド前駆体である。
【0039】
本発明において、ジアミン成分は、化学構造中に二つ以上のアミド結合と一つ以上の脂環を有する芳香族ジアミン成分である。
本発明のポリイミド前駆体は、ジアミン成分によってアミド結合がその化学構造中に導入される。アミド結合が導入されたポリイミド前駆体から得られるポリイミドは、アミド結合によって分子間相互作用が増大されるので、耐溶剤性などが改良されると考えられる。したがって、ジアミン成分は、化学構造中に二つ以上のアミド結合を有することが好適である。なお、ジアミン成分中のアミド結合が多過ぎると、ポリイミド前駆体の溶解性が低下することがある。また、脂環構造を有することで、分子内外での共役や電荷移動相互作用が妨げられ、透明性が高まる。
【0040】
前記化学式(2)〜(5)、(11)〜(14)の化学構造を導入するジアミン成分は、例えば特定の反応性基を有するニトロ化合物と、特定の反応性基を有する化合物を反応した後、ニトロ基の還元によって得られる。
【0041】
n1〜8は1〜10の整数を示し、好ましくは1〜5の整数である。化合物(2)、(3)、(11)、(12)の合成方法としては、例えばジ酸クロライド基を有する脂環化合物と、ニトロ基を有するアミン化合物を溶媒中、塩基性存在下で反応させた後、その反応生成物のニトロ基をアミノ基に還元させる方法が挙げられる。
【0042】
化合物(4)、(5)、(13)、(14)の合成方法としては、例えばジアミンを有する脂環化合物と、酸クロライドを有するニトロ化合物を溶媒中、塩基性存在下で反応させた後、反応生成物のニトロ基をアミノ基に還元させる方法が挙げられる。
【0043】
還元には、パラジウム−炭素、白金−炭素、ラネーニッケル、ロジウム−アルミナ、鉄などを触媒とし、水素ガス、塩酸、ヒドラジンなどによって還元を行うことができる。
【0044】
還元反応に用いる溶媒としては、例えば、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、、N−メチル−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド等の原料に対する溶解性の高い溶媒が好ましいが、溶媒が原料または生成物と反応を起こさなければどんな種類の溶媒であっても問題なく使用ができるので、特にその構造には限定されない。
【0045】
前記化学式(2)〜(5)、(11)〜(14)のR
2、R
5、R
8、R
11、R
18、R
21、R
24、R
27が炭素数3−18の脂環を有する2価の基である。脂環とは、単環、多環、スピロ環、架橋環のいずれかである。その一例として下記化学式(20)〜(25)からなる群から選択される2価の基が挙げられる。特に下記化学式(20)が好ましい。
【0047】
【化21】
ここで、n9は1〜16の整数である。(n9が1の場合は3員環、n9が1の場合は4員環を示す。)
【0048】
【化22】
ここで、n10、n11は、それぞれ独立に、1〜15の整数である。
【0049】
【化23】
ここで、n12、n13はそれぞれ独立に、1〜14の整数である。
【0050】
【化24】
ここで、R
34、R
35、R
36はCH
3基、C(CH
3)
3基、Si(CH
3)
3基、CF
3基、OH基、OCH
3基のいずれか、またはCH
2CH基で連結した基である。
【0051】
【化25】
ここで、R
37は、CH
2基、CH
2CH
2基、酸素原子、硫黄原子のいずれかである。
【0052】
前記化学式(2)〜(5)、(11)〜(14)のR
1、R
3、R
4、R
6、R
7、R
9、R
10、R
12、R
17、R
19、R
20、R
22、R
23、R
25、R
26、R
28が、下記化学式(26)〜(29)からなる群から選択される2価の基のいずれかである。
【0055】
【化28】
ここで、R
38はCH
3基、C(CH
3)
3基、Si(CH
3)
3基、CF
3基、OH基、OCH
3基のいずれかである。
【0056】
【化29】
ここで、R
39は直接結合、CH
2基、C(CH
3)
2基、SO
2基、Si(CH
3)
2基、C(CF
3)
2基、酸素原子、硫黄原子のいずれかである。
【0057】
ジ酸クロライドを有する脂環式化合物としては、例えば1,2−シクロプロパンジカルボン酸ジクロライド、1,2−シクロブタンジカルボン酸ジクロライド、1,3−シクロブタンジカルボン酸ジクロライド、1,2−シクロペンタンジカルボン酸ジクロライド、1,3−シクロペンタンジカルボン酸ジクロライド、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジクロライド、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジクロライド、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジクロライド、1,4−(2−ノルボルネン)ジカルボン酸ジクロライド、1,4−ビシクロ[2.2.2]オクタンジカルボン酸ジクロライド、4,4’−スピロビシクロヘキサンジカルボン酸ジクロライド、1,3−アダマンタンジカルボン酸ジクロライドなどの脂環式ジカルボン酸ジクロライドが挙げられる。これらのうち、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジクロライド、1,3−アダマンタンジカルボン酸ジクロライドが好ましい。
【0058】
ニトロ基を有するアミノ化合物としては、o−ニトロアニリン、m−ニトロアニリン、p−ニトロアニリン、4−アミノ−4’−ニトロビフェニル、3−アミノ−4’−ニトロビフェニル、4−アミノ−3’−ニトロビフェニル、1−アミノ−4−ニトロナフタレン、1−アミノ−5−ニトロナフタレンなどが挙げられる。これらのうちp−ニトロアニリン、4−アミノ−4’−ニトロビフェニルが好ましい。
【0059】
ジアミンを有する脂環式化合物としては、例えば1,2−ジアミノシクロプロパン、1,2−ジアミノシクロブタン、1,3−ジアミノシクロブタン、1,2−ジアミノシクロペンタン、1,3−ジアミノシクロペンタン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノ(2−ノルボルネン)、1,4−ジアミノビシクロ[2.2.2]オクタン、4,4’−ジアミノスピロビシクロヘキサン、1,3−ジアミノアダマンタンなどの脂環式ジアミンが挙げられる。これらのうち、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノアダマンタンが好ましい。
【0060】
酸クロライドを有するニトロ化合物としては、2−ニトロベンゾイルクロライド、3−ニトロベンゾイルクロライド、4−ニトロベンゾイルクロライド、4’−ニトロ−1,1’−ビフェニル−4−カルボン酸クロライド、3’−ニトロ−1,1’−ビフェニル−4−カルボン酸クロライド、4’−ニトロ−1,1’−ビフェニル−3−カルボン酸クロライド、4−ニトロ−1−ナフタレンカルボン酸クロライド、5−ニトロ−1−ナフタレンカルボン酸クロライド、などが挙げられる。これらのうち4−ニトロベンゾイルクロライド、4’−ニトロ−1,1’−ビフェニル−4−カルボン酸クロライドが好ましい。
【0061】
本発明のジアミン成分は、前記化学式(20)〜(25)の脂環と前記化学式(26)〜(29)の芳香族における組合わせによるものである。このため、ジアミン成分としては、例えば、N,N’−(1,4−ビシクロ[2.2.2]オクタンジイル)ビス(4−アミノベンズアミド)、N,N’−(1,4−ビシクロ[2.2.1]ヘプタンジイル)ビス(4−アミノベンズアミド)、N,N’−(1,3−アダマンタンジイル)ビス(4−アミノベンズアミド)、N,N’−(1,4−シクロヘキサンジイル)ビス(4−アミノベンズアミド)、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−1,4−シクロヘキサンジカルボアミド、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−1,4−ビシクロ[2.2.2]オクタンジカルボアミド、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−1,4−ビシクロ[2.2.1]ヘプタンジカルボアミド、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−1,3−アダマンタンジカルボアミドなどが挙げられる。これらのうちN,N’−(1,3−アダマンタンジイル)ビス(4−アミノベンズアミド)、N,N’−(1,4−シクロヘキサンジイル)ビス(4−アミノベンズアミド)が好ましい。
【0062】
本発明のジアミン成分は、複数組み合わせて使用することもでき、また一般的にポリイミドで使用される他のジアミン成分を本発明のポリイミドの特性が発現できる範囲で少量(好ましくは30モル%未満、より好ましくは10モル%未満)併用することもできる。
【0063】
本発明において、テトラカルボン酸成分は、化学構造中に少なくとも一つの脂肪族6員環を有し芳香族環を有さない脂環式テトラカルボン酸成分であり、従って6員環は複数であってよく、複数の6員環が二つ以上の共通の炭素原子によって構成されていても構わない。また、6員環は環を構成する(6員環の内部の)炭素原子同士が化学結合によって更に環を形成した架橋環型であっても構わない。
テトラカルボン酸成分は、非対称性ではなく、対称性が高い6員環構造を有するものが、高分子鎖の密なパッキングが可能となり、ポリイミドの耐溶剤性、耐熱性、機械強度に優れるため好ましい。さらに、テトラカルボン酸成分は、複数の6員環が二つ以上の共通の炭素原子によって構成された多脂環型、及び6員環が環を構成する炭素原子同士が化学結合によって更に環を形成した架橋環型であることが、ポリイミドの良好な耐熱性、耐溶剤性、低線膨張性を達成し易いのでより好ましい。
【0064】
前記化学式(6)、(7)、(15)、(16)の化学構造を導入するテトラカルボン酸成分としては、例えばシクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸、[1,1’−ビ(シクロヘキサン)]−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸、[1,1’−ビ(シクロヘキサン)]−2,3,3’,4’−テトラカルボン酸、[1,1’−ビ(シクロヘキサン)]−2,2’,3,3’−テトラカルボン酸、4,4’−メチレンビス(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)、4,4’−(プロパン−2,2−ジイル)ビス(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)、4,4’−オキシビス(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)、4,4’−チオビス(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)、4,4’−スルホニルビス(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)、4,4’−(ジメチルシランジイル)ビス(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)、4,4’−(テトラフルオロプロパン−2,2−ジイル)ビス(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)等の誘導体やこれらの酸二無水物が挙げられる。これらのうちでは、シクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸、[1,1’−ビ(シクロヘキサン)]−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸、[1,1’−ビ(シクロヘキサン)]−2,3,3’,4’−テトラカルボン酸、[1,1’−ビ(シクロヘキサン)]−2,2’,3,3’−テトラカルボン酸の誘導体やこれらの酸二無水物が好ましい。
これらのテトラカルボン酸成分は、特に限定されないが、分離精製等をおこない特定の立体異性体の比率を80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上にすることで、ポリイミドの耐熱性や耐溶剤性が優れる。また、そのテトラカルボン酸成分の特定の立体異性体としては、1R,2S,4S,5R−シクロヘキサンテトラカルボン酸(以下PMTA−HSと略すことがあり、更にその酸二無水物をPMDA−HSと略すことがある。)、1S,2S,4R,5R−シクロヘキサンテトラカルボン酸(以下PMTA−HHと略すことがあり、更にその酸二無水物をPMDA−HHと略すことがある。)、(1R,1’S,3R,3’S,4R,4’S)ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸(以下trans−DCTAと略すことがあり、更にその酸二無水物をtrans−DCDAと略すことがある。)、(1R,1’S,3R,3’S,4S,4’R)ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸(以下cis−DCTAと略すことがあり、更にその酸二無水物をcis−DCDAと略すことがある。)が好ましく、PMTA−HS、trans−DCTA、cis−DCTAは、酸二無水物とした場合の反応性に優れるため、より好ましい。
【0065】
前記化学式(8)、(9)、(17)、(18)の化学構造を導入する多脂環型や架橋環型のテトラカルボン酸成分としては、例えばオクタヒドロペンタレン−1,3,4,6−テトラカルボン酸、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸、6−(カルボキシメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5−トリカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクタ−5−エン−2,3,7,8−テトラカルボン酸、トリシクロ[4.2.2.02,5]デカン−3,4,7,8−テトラカルボン酸、トリシクロ[4.2.2.02,5]デカ−7−エン−3,4,9,10−テトラカルボン酸、9−オキサトリシクロ[4.2.1.02,5]ノナン−3,4,7,8−テトラカルボン酸、デカヒドロ−1,4:5,8−ジメタノナフタレン−2,3,6,7−テトラカルボン酸等の誘導体やこれらの酸二無水物が挙げられる。これらのうちでは、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸、デカヒドロ−1,4:5,8−ジメタノナフタレン−2,3,6,7−テトラカルボン酸等の誘導体やこれらの酸二無水物が、製造方法が容易であり、得られるポリイミドの耐熱性に優れることから、より好ましい。
これらのテトラカルボン酸成分は、特に限定されないが、分離精製等をおこない特定の立体異性体の比率を80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上にすることで、ポリイミドの耐熱性や耐溶剤性が優れる。また、そのテトラカルボン酸成分の特定の立体異性体としては、
1rC7−ビシクロ[2.2.2]オクタン−2t,3t,5c,6c−テトラカルボン酸−2,3:5,6−二無水物(以下cis/trans−BTTA−Hと略すことがあり、更にその酸二無水物をcis/trans−BTA−Hと略すことがある。)
1rC7−ビシクロ[2.2.2]オクタン−2c,3c,5c,6c−テトラカルボン酸−2,3:5,6−二無水物(以下cis/cis−BTTA−Hと略すことがあり、更にその酸二無水物をcis/cis−BTA−Hと略すことがある。)
(4arH,8acH)−デカヒドロ−1t,4t:5c,8c−ジメタノナフタレン−2t,3t,6c,7c−テトラカルボン酸(以下DNTAxxと略すことがあり、更にその酸二無水物をDNDAxxと略すことがある。)
(4arH,8acH)−デカヒドロ−1t,4t:5c,8c−ジメタノナフタレン−2c,3c,6c,7c−テトラカルボン酸(以下DNTAdxと略すことがあり、更にその酸二無水物をDNDAdxと略すことがある。)
が好ましく、DNDAxx、DNDAdxは、ジアミンとの反応性に優れるため、より好ましい。
【0066】
テトラカルボン酸成分は、前記のようなテトラカルボン酸成分を、単独でもよく、また複数種を組み合わせて使用することもできる。また、一般的にポリイミドで使用される他の芳香族または脂肪族テトラカルボン酸成分を本発明のポリイミドの特性が発現できる範囲内で少量(好ましくは30モル%未満、より好ましくは10モル%未満)併用することもできる。例えば、本発明で使用することができる他の芳香族または脂肪族テトラカルボン酸成分としては、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−1,2−ジカルボン酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビフェニルテトラカルボン酸、オキシジフタル酸、ビスカルボキシフェニルジメチルシラン、ビスジカルボキシフェノキシジフェニルスルフィド、スルホニルジフタル酸、シクロブタンテトラカルボン酸、イソプロピリデンジフェノキシビスフタル酸とこれらの酸二無水物が挙げられる。
【0067】
本発明のポリイミド前駆体は、前記化学式(1)のX
1、X
2はそれぞれ独立に水素、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数3〜9のアルキルシリル基のいずれかである。X
1、X
2は、後述する製造方法によって、その官能基の種類及び、官能基の導入率を変化させることができる。製造方法が容易であることから、X
1、X
2は水素であることが好ましい。また、ポリイミド前駆体の保存安定性に優れることから、X
1、X
2は炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、メチル基もしくはエチル基であることがより好ましい。更にポリイミドの熱線膨張係数が小さくなることから、X
1、X
2は炭素数3〜9のアルキルシリル基が好ましく、トリメチルシリル基もしくはt−ブチルジメチルシリル基であることがより好ましい。官能基の導入率は、特に限定されないが、アルキル基もしくはアルキルシリル基を導入する場合、X
1、X
2はそれぞれ、25%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは75%以上である。
【0068】
本発明のポリイミド前駆体は、X
1及びX
2が取る化学構造に従って、1)ポリアミド酸、2)ポリアミド酸エステル、3)ポリアミド酸シリルエステルに化学構造として分類することができる。そして前記分類ごとに、以下の製造方法により容易に製造することができる。ただし、本発明のポリイミド前駆体の製造方法は、以下の製造方法に限定されるわけではない。
【0069】
1)ポリアミド酸
有機溶剤にジアミンを溶解し、この溶液に攪拌しながら、テトラカルボン酸二無水物を徐々に添加し、0〜120℃好ましくは5〜80℃の範囲で1〜72時間攪拌することで、ポリイミド前駆体が得られる。80℃以上で反応させる場合、分子量が重合時の温度履歴に依存して変動し、また熱によりイミド化が進行することから、ポリイミド前駆体を安定して製造できなくなる可能性がある。
また、テトラカルボン酸成分とジアミン成分のモル比がジアミン成分過剰である場合、必要に応じて、ジアミン成分の過剰モル数に略相当する量のカルボン酸誘導体を添加し、テトラカルボン酸成分とジアミン成分のモル比を略当量に近づけることができる。ここでのカルボン酸誘導体としては、実質的にポリイミド前駆体溶液の粘度を増加させない、つまり実質的に分子鎖延長に関与しないテトラカルボン酸、もしくは末端停止剤として機能するトリカルボン酸とその無水物、ジカルボン酸とその無水物などが好適である。
【0070】
2)ポリアミド酸エステル
テトラカルボン酸二無水物を任意のアルコールで反応させ、ジエステルジカルボン酸を得た後、塩素化試薬(チオニルクロライド、オキサリルクロライドなど)と反応させ、ジエステルジカルボン酸クロライドを得る。このジエステルジカルボン酸クロライドとジアミンを−20〜120℃好ましくは−5〜80℃の範囲で1〜72時間攪拌することで、ポリイミド前駆体が得られる。80℃以上で反応させる場合、分子量が重合時の温度履歴に依存して変動し、また熱によりイミド化が進行することから、ポリイミド前駆体を安定して製造できなくなる可能性がある。また、ジエステルジカルボン酸とジアミンを、リン系縮合剤や、カルボジイミド縮合剤などを用いて脱水縮合することでも、簡便にポリイミド前駆体が得られる。この方法で得られるポリイミド前駆体は、安定なため、水やアルコールなどの溶剤を加え再沈殿などの精製をおこなうこともできる。
【0071】
3)ポリアミド酸シリルエステル
あらかじめ、ジアミンとシリル化剤を反応させ、シリル化されたジアミンを得(必要に応じて、蒸留等によりシリル化されたジアミンの精製をおこなう。)、脱水された溶剤中にシリル化されたジアミンを溶解させておき、攪拌しながら、テトラカルボン酸二無水物を徐々に添加し、0〜120℃好ましくは5〜80℃の範囲で1〜72時間攪拌することで、ポリイミド前駆体が得られる。80℃以上で反応させる場合、分子量が重合時の温度履歴に依存して変動し、また熱によりイミド化が進行することから、ポリイミド前駆体を安定して製造できなくなる可能性がある。ここで用いるシリル化剤として、塩素を含有しないシリル化剤を用いることは、シリル化されたジアミンを精製する必要がないため、好適である。塩素原子を含まないシリル化剤としては、N,O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド、N,O-ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、ヘキサメチルジシラザンが挙げられる。フッ素原子を含まず低コストであることから、N,O-ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、ヘキサメチルジシラザンが好ましい。また、ジアミンのシリル化反応には、反応を促進するために、ピリジン、ピペリジン、トリエチルアミンなどのアミン系触媒を用いることができる。この触媒はポリイミド前駆体の重合触媒として、そのまま使用することができる。
【0072】
また、前記製造方法は、いずれも有機溶媒中で好適に行なうことができるので、その結果として、本発明のポリイミド前駆体溶液組成物を容易に得ることができる。
【0073】
ポリイミド前駆体を調製する際に使用する溶媒は、例えばN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホオキシド等の非プロトン性溶媒が好ましいが、原料モノマー成分と生成するポリイミド前駆体が溶解すれば、どんな種類の溶媒であっても問題なく使用できるので、特にその構造には限定されない。N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド溶媒、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、α−メチル−γ−ブチロラクトン等の環状エステル溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート溶媒、トリエチレングリコール等のグリコール系溶媒、m−クレゾール、p−クレゾール、3−クロロフェノール、4−クロロフェノール等のフェノール系溶媒、アセトフェノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン、ジメチルスルホキシドなどが好ましく採用される。さらに、その他の一般的な有機溶剤、即ちフェノール、0−クレゾール、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル、プロピレングリコールメチルアセテート、エチルセロソルブ、プチルセロソルブ、2−メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロへキサノン、メチルエチルケトン、アセトン、ブタノール、エタノール、キシレン、トルエン、クロルベンゼン、ターペン、ミネラルスピリット、石油ナフサ系溶媒なども使用できる。
【0074】
ポリイミド前駆体を調製する際に使用する溶媒及び、後記のポリイミド前駆体溶液組成物に用いる溶媒(以降、これらを併せて使用される有機溶剤と記すことがある。)は、下記の純度に関わる特性、即ち、(a)光透過率、(b)加熱還流処理後の光透過率、(c)ガスクロマトグラフィー分析による純度、(d)ガスクロマトグラフィー分析による不純物ピークの割合、(e)不揮発成分の量、および(f)金属成分の含有率からなる特性の少なくとも1つに関して、下に規定される条件を満たすことが好ましく、通常、より多くの条件を満たすことがより好ましい。
【0075】
(a)使用される有機溶剤として、光路長1cm、400nmにおける光透過率が89%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは91%以上である有機溶剤
(b)使用される有機溶剤として、窒素中で3時間加熱還流した後の光路長1cm、400nmにおける光透過率が20%以上、より好ましくは40%以上、特に好ましくは80%以上である有機溶剤
(c)使用される有機溶剤として、ガスクロマトグラフィー分析より求められた純度が99.8%以上、より好ましくは99.9%以上、さらに好ましくは99.99%以上である有機溶剤
(d)使用される有機溶剤として、ガスクロマトグラフィー分析で求められる主成分ピークの保持時間に対し、長時間側に現れる不純物ピークの総量が、0.2%未満、より好ましくは0.1%以下であり、特に好ましくは0.05%以下である有機溶剤
(e)使用される有機溶剤の250℃での不揮発成分が0.1%以下、より好ましくは0.05%以下がより好ましく、特に好ましくは0.01%以下であること
(f)使用される有機溶剤の金属成分(例えば、Li,Na,Mg,Ca,Al,K,Ca,Ti,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Mo,Cd)の含有率が、10ppm以下が好ましく、1ppm以下がより好ましく、特に500ppb以下、より特に好ましくは300ppb以下であること
【0076】
また、これらの特性における条件は、使用される有機溶剤の総和に基づくものである。即ち、使用される有機溶剤は、1種類に限らず、2種類以上であってもよい。使用される有機溶剤が2種類以上とは、特定の工程において混合溶剤が使用される場合と、例えば重合溶媒と添加剤の希釈溶剤が異なる場合のように工程により異なる溶剤を使用する場合のどちらも意味する。使用される有機溶剤が2種類以上のときは(以下、混合溶剤という)、混合溶剤全体に対して純度に関わる各特性の条件が適用され、複数の工程で有機溶剤が使用される場合には、最終的にワニス中に含まれることになる全ての有機溶剤を混合した混合溶剤に対して、純度に関わる各特性の条件が適用される。実際に有機溶剤を混合して、各特性を測定してもよいし、個別の有機溶剤について特性を求め、計算により混合物全体の特性を求めてもよい。例えば、純度100%の溶剤Aを70部、純度90%の溶剤Bを30部使用したとき、使用される有機溶剤の純度は、97%と計算される。
【0077】
本発明のポリイミド前駆体溶液組成物に用いる溶媒としては、ポリイミド前駆体が溶解すれば問題はなく、特にその構造は限定されない。N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド溶媒、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、α−メチル−γ−ブチロラクトン等の環状エステル溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート溶媒、トリエチレングリコール等のグリコール系溶媒、m−クレゾール、p−クレゾール、3−クロロフェノール、4−クロロフェノール等のフェノール系溶媒、アセトフェノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン、ジメチルスルホキシドなどが好ましく採用される。さらに、その他の一般的な有機溶剤、即ちフェノール、0−クレゾール、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル、プロピレングリコールメチルアセテート、エチルセロソルブ、プチルセロソルブ、2−メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロへキサノン、メチルエチルケトン、アセトン、ブタノール、エタノール、キシレン、トルエン、クロルベンゼン、ターペン、ミネラルスピリット、石油ナフサ系溶媒なども使用できる。また、これらを複数組み合わせて使用できる。
【0078】
本発明のポリイミド前駆体溶液組成物は、必要に応じて、化学イミド化剤(無水酢酸などの酸無水物や、ピリジン、イソキノリンなどのアミン化合物)、酸化防止剤、フィラー、染料、顔料、シランカップリング剤などのカップリング剤、プライマー、難燃材、消泡剤、レベリング剤、レオロジーコントロール剤(流動補助剤)、剥離剤などを添加することができる。
【0079】
本発明のポリイミドは、前記化学式(10)で表される繰り返し単位を含んで構成されたことを特徴とするが、本発明のポリイミド前駆体を脱水閉環反応(イミド化反応)することで好適に製造することができる。イミド化の方法は特に限定されず、公知の熱イミド化、化学イミド化の方法を好適に適用することができる。得られるポリイミドの形態は、フィルム、ポリイミドフィルムと他の基材との積層体、コーティング膜、粉末、ビーズ、成型体、発泡体およびワニスなどを好適に挙げることができる。
【0080】
本発明のポリイミドは、膜厚10μmのフィルムにしたとき、400nmにおける光透過率が65%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上であり、特に好ましくは80%以上であり、優れた透明性を有する。
【0081】
さらに、本発明のポリイミドは、フィルムにしたときの5%重量減少の温度が420℃以上、好ましくは450℃以上、より好ましくは477℃以上であり、優れた耐熱性を有する。
【0082】
なお、本発明のポリイミドからなるフィルムは、用途にもよるが、フィルムの厚みとしては、好ましくは1μm〜250μm程度、さらに好ましくは1μm〜150μm程度である。
【0083】
本発明のポリイミドは、高耐熱性の優れた特性を有し、さらに極めて高い透明性を併せ有することから、ディスプレイ用透明基板、タッチパネル用透明基板、或いは太陽電池用基板の用途において、好適に用いることができる。
【0084】
以下では、本発明のポリイミド前駆体を用いた、ポリイミドフィルム/基材積層体、もしくはポリイミドフィルムの製造方法の一例について述べる。ただし、以下の方法に限定されるものではない。
例えばセラミック(ガラス、シリコン、アルミナ)、金属(銅、アルミニウム、ステンレス)、耐熱プラスチックフィルム(ポリイミド)などの基材に、本発明のポリイミド前駆体溶液組成物を流延し、真空中、窒素等の不活性ガス中、或いは空気中で、熱風もしくは赤外線を用いて、20〜180℃、好ましくは20〜150℃の温度範囲で乾燥する。次いで得られたポリイミド前駆体フィルムを基材上で、もしくはポリイミド前駆体フィルムを基材上から剥離し、そのフィルムの端部を固定した状態で、真空中、窒素等の不活性ガス中、或いは空気中で、熱風もしくは赤外線を用い、200〜500℃、より好ましくは250〜450℃程度の温度で加熱イミド化することでポリイミドフィルム/基材積層体、もしくはポリイミドフィルムを製造することができる。なお、得られるポリイミドフィルムが酸化劣化するのを防ぐため、加熱イミド化は、真空中、或いは不活性ガス中で行うことが望ましい。加熱イミド化の温度が高すぎなければ空気中で行なっても差し支えない。ここでのポリイミドフィルム(ポリイミドフィルム/基材積層体の場合は、ポリイミドフィルム層)の厚さは、以後の工程の搬送性のため、好ましくは1〜250μm、より好ましくは1〜150μmである。
【0085】
またポリイミド前駆体のイミド化反応は、前記のような加熱処理による加熱イミド化に代えて、ポリイミド前駆体をピリジンやトリエチルアミン等の3級アミン存在下、無水酢酸等の脱水環化試薬を含有する溶液に浸漬するなどの化学的処理によって行うことも可能である。また、これらの脱水環化試薬をあらかじめ、ポリイミド前駆体溶液組成物中に投入・攪拌し、それを基材上に流延・乾燥することで、部分的にイミド化したポリイミド前駆体を作製することもでき、これを更に前記のような加熱処理することで、ポリイミドフィルム/基材積層体、もしくはポリイミドフィルムを得ることができる。
【0086】
この様にして得られたポリイミドフィルム/基材積層体、もしくはポリイミドフィルムは、その片面もしくは両面に導電性層を形成することによって、フレキシブルな導電性基板を得ることができる。
【0087】
フレキシブルな導電性基板は、例えば次の方法によって得ることができる。すなわち、第一の方法としては、ポリイミドフィルム/基材積層体を基材からポリイミドフィルムを剥離せずに、そのポリイミドフィルム表面に、スパッタ蒸着、印刷などによって、導電性物質(金属もしくは金属酸化物、導電性有機物、導電性炭素など)の導電層を形成させ、導電性層/ポリイミドフィルム/基材の導電性積層体を製造する。その後必要に応じて、基材より電気導電層/ポリイミドフィルム積層体を剥離することによって、導電性層/ポリイミドフィルム積層体からなる透明でフレキシブルな導電性基板を得ることができる。
第二の方法としては、ポリイミドフィルム/基材積層体の基材からポリイミドフィルムを剥離して、ポリイミドフィルムを得、そのポリイミドフィルム表面に、導電性物質(金属もしくは金属酸化物、導電性有機物、導電性炭素など)の導電層を、第一の方法と同様にして形成させ、導電性層/ポリイミドフィルム積層体からなる透明でフレキシブルな導電性基板を得ることができる。
なお、第一、第二の方法において、必要に応じて、ポリイミドフィルムの表面に導電層を形成する前に、スパッタ蒸着やゲル−ゾル法などによって、水蒸気、酸素などのガスバリヤ層、光調整層などの無機層を形成しても構わない。
また、導電層は、フォトリソグラフィ法や各種印刷法、インクジェット法などの方法によって、回路が好適に形成される。
【0088】
本発明の基板は、本発明のポリイミドによって構成されたポリイミドフィルムの表面に、必要に応じてガスバリヤ層や無機層を介し、導電層の回路を有するものである。この基板は、フレキシブルであり、透明性、折り曲げ性、耐熱性が優れ、さらに極めて低い熱線膨張係数や耐溶剤性を併せ有するので微細な回路の形成が容易である。したがって、この基板は、ディスプレイ用、タッチパネル用、または太陽電池用の基板として好適に用いることができる。
すなわち、この基板に、蒸着、各種印刷法、或いはインクジェット法などによって、さらにトランジスタ(無機トランジスタ、有機トランジスタ)が形成されてフレキシブル薄膜トランジスタが製造され、そして、表示デバイス用の液晶素子、EL素子、光電素子として好適に用いられる。
【実施例】
【0089】
以下、実施例及び比較例によって本発明を更に説明する。尚、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0090】
以下の各例において評価は次の方法で行った。
【0091】
ポリイミドフィルムの評価
[光透過率]
大塚電子製MCPD−300を用いて、膜厚10μmのポリイミド膜の400nmにおける光透過率を測定した。
[5%重量減少温度]
膜厚10μmのポリイミドフィルムを試験片とし、エスアイアイ・ナノテクノロジー製 熱量計測定装置(Q−5000)を用い、窒素気流中、昇温速度10℃/minで25℃から600℃まで昇温した。得られた重量曲線から、5%重量減少温度を求めた。
【0092】
以下の各例で使用した原材料の略称、純度は、次のとおりである。
NAABA: N,N’−(1,3−アダマンタンジイル)ビス(4−アミノベンズアミド)純度 99.3%(LC分析)
NCHABA: N,N’−(1,4−シクロヘキサンジイル)ビス(4−アミノベンズアミド)純度 99.2%(LC分析)
4−APTP: N,N’−ビス(4−アミノフェニル)テレフタルアミド 純度 99.95%(GC分析)
PMDA−HS: 1R,2S,4S,5R−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物 純度 92.7%(GC分析),水素化ピロメリット酸二無水物としての純度99.9%(GC分析)
BTA−H: ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3:5,6−テトラカルボン酸二無水物 純度 99.9%(GC分析)
DNDAxx:(4arH,8acH)−デカヒドロ-1t,4t:5c,8c−ジメタノナフタレン−2t,3t,6c,7c−テトラカルボン酸二無水物 純度 99.2%(NMR分析)
【0093】
〔合成例1〕
p−ニトロ安息香酸クロリド16.1gとピリジン10.3gをジメチルホルムアミド80gに溶解させた後、1,3−ジアミノアダマンタン7.2gとN,N−ジメチルホルムアミド20gを徐々に滴下し、25℃で5時間反応させた。続いて、反応液を炭酸水素ナトリウム溶液で3回洗浄した後、溶媒を除去した。その後、クロロホルムとN,N−ジメチルホルムアミドより再結晶を行い、淡黄色結晶のジニトロ化合物を得た。
【0094】
〔合成例2〕
合成例1で得られたジニトロ化合物4gと10%Pd/C400mgを1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン25gに溶解させた後、水素を吹き込み3MPaの圧をかけた。次いで、70℃で7時間反応を行い、室温まで冷却した後、圧抜きを行った。その後、セライトろ過により10%Pd/Cを除去した後、超純水もしくは貧溶媒を加え、NAABAを得た。(収率82%、純度99.3%)
【0095】
〔合成例3〕
合成例1において、1,3−ジアミノアダマンタンの代わりに1,4−ジアミノシクロヘキサンを用いた以外は、合成例1と同様にしてジニトロ体を得、合成例2と同様の還元反応を行い、NCHABAを得た。
【0096】
表1に実施例、比較例で使用したテトラカルボン酸成分、ジアミン成分の構造式を記す。
【0097】
【表1】
【0098】
〔実施例1〕
窒素ガスで置換した反応容器中にNAABA0.60g(1.5ミリモル)を入れ、モレキュラーシーブを用いて脱水したN,N−ジメチルアセトアミドを、仕込みモノマー総質量(ジアミン成分とカルボン酸成分の総和)が20質量%となる量を加え、25℃で2時間攪拌した。
この溶液にBTA−H 0.37g(1.5ミリモル)を徐々に加えた。80℃で6時間撹拌し、均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液を得た。
【0099】
PTFE製メンブレンフィルターでろ過したポリイミド前駆体溶液をガラス基板に塗布し、窒素雰囲気下(酸素濃度200ppm以下)そのままガラス基板上で120℃で1時間、150℃で30分間、200℃で30分間、350℃まで昇温して5分間、加熱して熱的にイミド化を行い、無色透明なポリイミドフィルム/ガラス積層体を得た。次いで、得られたポリイミドフィルム/ガラス積層体を水に浸漬した後剥離し、膜厚が10μmのポリイミドフィルムを得た。
このポリイミドフィルムの特性を測定した結果を表2に示す。
【0100】
〔実施例2〜4、比較例1、2〕
ジアミン成分、カルボン酸成分を表2に記載した化学組成とし、実施例1と同様にして、ポリイミド前駆体溶液、ポリイミドフィルムを得た。
このポリイミドフィルムの特性を測定した結果を表2に示す。
【0101】
【表2】
【0102】
表2に示した結果から、本発明のアミド結合及び脂環を有するジアミンを用いたポリイミド前駆体から得られたポリイミドは、芳香環のジアミンを用いたポリイミド前駆体から得られたポリイミドより高い透過率を示すことが分かる。また、芳香環は脂環より耐熱性が高いことが知られているが、本発明の脂環を有するジアミンを用いたポリイミド前駆体から得られたポリイミドにおいては、芳香環のジアミンを用いたポリイミド前駆体から得られたポリイミドと同等の耐熱性を示すことが分かる。
さらに、実施例2、4のジアミン成分の比較から、アダマンタン骨格のジアミンを用いたポリイミド前駆体から得られたポリイミドは、シクロヘキサン骨格のジアミンを用いたポリイミド前駆体から得られたポリイミドよりも高耐熱性、高透過率を示すことが分かる。
前記のとおり、本発明のポリイミド前駆体から得られたポリイミドは、優れた光透過性を有すると伴に、高耐熱性を有しており、本発明のポリイミドフィルムは、ディスプレイ用途などの無色透明で微細な回路形成可能な透明基板として好適に用いることができる。