特許第6086246号(P6086246)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6086246複合粒子、その製造方法、二次電池用電極材料及び二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6086246
(24)【登録日】2017年2月10日
(45)【発行日】2017年3月1日
(54)【発明の名称】複合粒子、その製造方法、二次電池用電極材料及び二次電池
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/45 20060101AFI20170220BHJP
   C01B 32/152 20170101ALI20170220BHJP
   C01B 32/158 20170101ALI20170220BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20170220BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20170220BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20170220BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20170220BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20170220BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20170220BHJP
【FI】
   C01B25/45 Z
   C01B25/45 M
   C01B31/02 101F
   H01M4/58
   H01M4/36 C
   H01M4/136
   H01M4/62 Z
   H01M10/0566
   H01M10/052
【請求項の数】12
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2013-544290(P2013-544290)
(86)(22)【出願日】2012年11月14日
(86)【国際出願番号】JP2012079484
(87)【国際公開番号】WO2013073562
(87)【国際公開日】20130523
【審査請求日】2015年11月6日
(31)【優先権主張番号】特願2011-250184(P2011-250184)
(32)【優先日】2011年11月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】502318560
【氏名又は名称】エス・イー・アイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】川崎 卓
(72)【発明者】
【氏名】吉野 信行
(72)【発明者】
【氏名】村田 弘
(72)【発明者】
【氏名】澤井 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 愼治
(72)【発明者】
【氏名】浦尾 和憲
【審査官】 小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−100592(JP,A)
【文献】 特表2011−515813(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/034823(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/112977(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/047334(WO,A1)
【文献】 特開2007−022894(JP,A)
【文献】 特開2007−250417(JP,A)
【文献】 BHUVANESWARI,M. et al,Synthesis and characterization of Carbon Nano Fiber/LiFePO4 composites for Li-ion batteries,J Power Sources,2008年 5月15日,Vol.180, No.1,p.553-560
【文献】 DENG,F. et al,Synthesis and electrochemical analyses of vapor-grown carbon fiber/pyrolytic carbon-coated LiFePO4 c,J Mater Sci,2011年 9月,Vol.46, No.18,p.5896-5902
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/45
C01B 31/02
H01M 4/136
H01M 4/36
H01M 4/58
H01M 4/62
H01M 10/052
H01M 10/0566
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)繊維状炭素材料、(ii)鎖状炭素材料、および(iii)繊維状炭素材料と鎖状炭素材料とが相互に連結してなる炭素材料からなる群より選ばれた1種以上の炭素材料を酸化処理、界面活性剤又は高分子分散剤を用いた処理により表面処理する第一の工程と、溶媒に、リチウムイオン(Li)、リン酸イオン(PO3−)及びリチウム以外の金属イオン並びに加熱により分解して炭素を生成する物質を溶解させてなる溶液に、表面処理した前記の群より選ばれた1種以上の炭素材料を分散させて混合する第二の工程と、この混合物を溶液のままで加熱する第三の工程と、乾燥して更に加熱することにより、リチウム含有リン酸塩粒子が、前記の群より選ばれた1種以上の炭素材料を含有する炭素膜で被覆されてなる複合粒子を形成する第四の工程を含む、
リチウム含有リン酸塩粒子が、(i)繊維状炭素材料、(ii)鎖状炭素材料、および(iii)繊維状炭素材料と鎖状炭素材料とが相互に連結してなる炭素材料からなる群より選ばれた1種以上の炭素材料及び炭素源の熱分解により生成する炭素を含有する炭素膜で被覆されており、SEMで観察した複合粒子の表面画像における、複合粒子1つあたりに観察される炭素膜中の炭素材料若しくはその一部の個数が5〜50個である複合粒子の製造方法。
【請求項2】
(i)繊維状炭素材料、(ii)鎖状炭素材料、および(iii)繊維状炭素材料と鎖状炭素材料とが相互に連結してなる炭素材料からなる群より選ばれた1種以上の炭素材料を酸化処理、界面活性剤又は高分子分散剤を用いた処理により表面処理する第一の工程と、溶媒にリチウムイオン(Li)、リン酸イオン(PO3−)及びリチウム以外の金属イオンを溶解させてなる溶液を、溶液のままで加熱してリチウム含有リン酸塩粒子及び/又はその前駆体粒子を形成する第二の工程と、第一の工程で表面処理を行った前記の群より選ばれた1種以上の炭素材料、第二の工程で得られた粒子、及び加熱により分解して炭素を生成する物質とを混合する第三の工程と、この混合物を加熱することにより、リチウム含有リン酸塩粒子が前記の群より選ばれた1種以上の炭素材料を含有する炭素膜で被覆されてなる複合粒子を形成する第四の工程を含む、
リチウム含有リン酸塩粒子が、(i)繊維状炭素材料、(ii)鎖状炭素材料、および(iii)繊維状炭素材料と鎖状炭素材料とが相互に連結してなる炭素材料からなる群より選ばれた1種以上の炭素材料及び炭素源の熱分解により生成する炭素を含有する炭素膜で被覆されており、SEMで観察した複合粒子の表面画像における、複合粒子1つあたりに観察される炭素膜中の炭素材料若しくはその一部の個数が5〜50個である複合粒子の製造方法。
【請求項3】
溶媒が、水、アルコール又は水とアルコールの混合溶媒である、請求項1又は請求項2に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項4】
請求項における第三の工程又は請求項における第二の工程が、加圧・加熱溶媒を用いて行う方法である、請求項請求項3のいずれか一項に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項5】
(i)繊維状炭素材料、(ii)鎖状炭素材料、および(iii)繊維状炭素材料と鎖状炭素材料とが相互に連結してなる炭素材料からなる群より選ばれた1種以上の炭素材料を酸化処理、界面活性剤又は高分子分散剤を用いた処理により表面処理する第一の工程と、表面処理した前記炭素材料、リチウム含有リン酸塩粒子及び加熱により分解して炭素を生成する物質とを混合する第二の工程と、この混合物を加熱することにより、リチウム含有リン酸塩粒子が前記の群より選ばれた1種以上の炭素材料を含有する炭素膜で被覆されてなる複合粒子を形成する第三の工程を含む、
リチウム含有リン酸塩粒子が、(i)繊維状炭素材料、(ii)鎖状炭素材料、および(iii)繊維状炭素材料と鎖状炭素材料とが相互に連結してなる炭素材料からなる群より選ばれた1種以上の炭素材料及び炭素源の熱分解により生成する炭素を含有する炭素膜で被覆されており、SEMで観察した複合粒子の表面画像における、複合粒子1つあたりに観察される炭素膜中の炭素材料若しくはその一部の個数が5〜50個である複合粒子の製造方法。
【請求項6】
(i)繊維状炭素材料、(ii)鎖状炭素材料、および(iii)繊維状炭素材料と鎖状炭素材料とが相互に連結してなる炭素材料からなる群より選ばれた1種以上の炭素材料の表面処理の方法が酸化処理である、請求項請求項5のいずれか一項に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項7】
(i)繊維状炭素材料、(ii)鎖状炭素材料、および(iii)繊維状炭素材料と鎖状炭素材料とが相互に連結してなる炭素材料からなる群より選ばれた1種以上の炭素材料の表面処理の方法が界面活性剤を用いた方法である、請求項〜請求項のいずれか一項に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項8】
(i)繊維状炭素材料、(ii)鎖状炭素材料、および(iii)繊維状炭素材料と鎖状炭素材料とが相互に連結してなる炭素材料からなる群より選ばれた1種以上の炭素材料の表面処理の方法が高分子分散剤を用いた方法である、請求項〜請求項のいずれか一項に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項9】
繊維状炭素材料が、平均繊維径が5〜200nmのカーボンナノチューブである請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
鎖状炭素材料が、平均粒径10〜100nmの一次粒子が鎖状に結合してなるカーボンブラックである請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
リチウム含有リン酸塩が、LiFePO、LiMnPO、LiMnFe(1−X)PO、LiCoPO又はLi(POである請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
平均一次粒子径が0.02〜20μmである請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン二次電池用電極材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオンの吸蔵、放出が可能な材料を用いて負極を形成したリチウムイオン二次電池は、金属リチウムを用いて負極を形成したリチウム二次電池に比べてデンドライドの析出を抑制することができる。そのため、電池の短絡を防止して安全性を高めた上で高容量なエネルギー密度の高い電池を提供できるという利点を有している。
【0003】
近年ではこのリチウムイオン二次電池のさらなる高容量化が求められる一方、パワー系用途の電池として電池抵抗の低減による大電流充放電性能の向上が求められている。この点で従来では電池反応物質であるリチウム金属酸化物正極材や炭素系負極材自体の高容量化、またはこれら反応物質粒子の小粒径化、粒子比表面積や電池設計による電極面積の増加、さらにはセパレータの薄形化による液拡散抵抗の低減等の工夫がなされてきた。しかし、一方では小粒径化や比表面積の増加によりバインダーの増加を招き、結果として高容量化に逆行したり、さらには正・負極材が集電体である金属箔から剥離・脱落して電池内部短絡を生じ、電池の電圧低下や発熱暴走などによりリチウムイオン二次電池の安全性が損なわれることがあった。そこで箔との結着性を増加させるためにバインダー種類を変更する検討がなされた(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、バインダー種類の変更によっては、容量は増大できるものの抵抗低減による大電流充放電特性の改善という点では不十分であり、ニカド電池やニッケル水素電池等の二次電池と比較して、リチウムイオン二次電池の大きな性能障壁であった大電流充放電が長期にわたり必要とされる電動工具やハイブリッドカー用途への展開は困難であった。
【0005】
また、リチウムイオン二次電池の大電流充放電化に対しては電極抵抗の低減を目的にカーボン導電材を用いて工夫するものがあった(特許文献2〜4)。しかし、大電流による充放電サイクルを繰り返すと正・負極材の膨張収縮により正・負極間粒子の導電パスが損なわれ、結果として早期に大電流が流せなくなってしまう問題があった。
【0006】
一方、近年リチウムイオン二次電池用の正極活物質として、従来のLiCoO、LiNiO、LiMnO又はLiCoNiMn(x+y+z=1)等の金属酸化物に対して、LiFePO、LiMnPO、LiMnFe(1−x)PO、LiCoPO又はLi(PO等のリチウム含有リン酸塩が注目されている。
【0007】
リチウム含有リン酸塩の第一の特徴は、負イオンが酸化物イオン(O2−)よりも安定なポリアニオン(リン酸イオン:PO3−)であり、金属酸化物と異なり分解しても支燃性物質である酸素(O)を発生することがないことである。このため正極活物質として用いた場合にリチウムイオン二次電池の安全性を高めることができる。
【0008】
リチウム含有リン酸塩の第二の特徴は、材料自体の抵抗が大きい点である。このため高導電化が大きな課題であり(特許文献5、6)、対策としてリチウム含有リン酸塩粒子の表面に導電材料である炭素を被覆して正極材とする、或いはリチウム含有リン酸塩と炭素を複合化する等、各種の検討がなされてきた(特許文献7〜13)。かかる検討によって、リン酸塩を用いた正極材の性能は向上してきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−226004号公報
【特許文献2】特開2005−19399号公報
【特許文献3】特開2001−126733号公報
【特許文献4】特開2003−168429号公報
【特許文献5】特表2000−509193号公報
【特許文献6】特開平9−134724号公報
【特許文献7】特開2002−75364号公報
【特許文献8】特開2002−110162号公報
【特許文献9】特開2004−63386号公報
【特許文献10】特開2005−123107号公報
【特許文献11】特開2006−302671号公報
【特許文献12】特開2007−80652号公報
【特許文献13】特開2010−108889号公報
【特許文献14】特表2009−503182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記の正極活物質の炭素被覆は、電子伝導性は向上させるものの、充放電サイクルに伴い正極活物質が収縮、膨張を繰り返すうちに、正極材内部において、炭素被覆と周囲の導電補助材と電気的な接触が次第に劣化し、長期間のサイクルにおいて電池の電圧降下や容量低下などの問題が生じやすくなり、長期サイクル特性を根本的に改善するには至っていなかった。従来のリチウム含有リン酸塩と炭素の複合化技術によっても上記問題を解消するには至っていなかった。
【0011】
本発明は、かかるリチウムイオン二次電池用正極材が有する課題に対処するためになされたものであり、安定した充放電特性を電池の寿命中の長きに渡って維持できるリチウムイオン二次電池用の正極材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は上記の課題を解決するために、下記(1)の手段を採用する。
(1)リチウム含有リン酸塩粒子が、(i)繊維状炭素材料、(ii)鎖状炭素材料、および(iii)繊維状炭素材料と鎖状炭素材料とが相互に連結してなる炭素材料からなる群より選ばれた1種以上の炭素材料を含有する炭素膜で被覆されてなる複合粒子。
また、好ましくは、以下の手段を採用する。
(2)繊維状炭素材料は、平均繊維径が5〜200nmのカーボンナノチューブである、前記(1)に記載の複合粒子。
(3)鎖状炭素材料は、平均粒径10〜100nmの一次粒子が鎖状に結合してなるカーボンブラックである、前記(1)又は(2)に記載の複合粒子。
(4)リチウム含有リン酸塩は、LiFePO、LiMnPO、LiMnFe(1−X)PO、LiCoPO又はLi(POである前記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の複合粒子。
(5)平均一次粒子径が0.02〜20μmである、前記(1)〜(4)のいずれか一項に記載の複合粒子。
(6)(i)繊維状炭素材料、(ii)鎖状炭素材料、および(iii)繊維状炭素材料と鎖状炭素材料とが相互に連結してなる炭素材料からなる群より選ばれた1種以上の炭素材料を表面処理する第一の工程と、溶媒に、リチウムイオン(Li)、リン酸イオン(PO3−)及びリチウム以外の金属イオン並びに加熱により分解して炭素を生成する物質を溶解させてなる溶液に、表面処理した前記の群より選ばれた1種以上の炭素材料を分散させて混合する第二の工程と、この混合物を溶液のままで加熱する第三の工程と、乾燥して更に加熱することにより、リチウム含有リン酸塩粒子が、前記の群より選ばれた1種以上の炭素材料を含有する炭素膜で被覆されてなる複合粒子を形成する第四の工程を含む、前記(1)〜(5)のいずれか一項に記載の複合粒子の製造方法。
(7)(i)繊維状炭素材料、(ii)鎖状炭素材料、および(iii)繊維状炭素材料と鎖状炭素材料とが相互に連結してなる炭素材料からなる群より選ばれた1種以上の炭素材料を表面処理する第一の工程と、溶媒にリチウムイオン(Li)、リン酸イオン(PO3−)及びリチウム以外の金属イオンを溶解させてなる溶液を、溶液のままで加熱してリチウム含有リン酸塩粒子及び/又はその前駆体粒子を形成する第二の工程と、第一の工程で表面処理を行った前記の群より選ばれた1種以上の炭素材料、第二の工程で得られた粒子、及び加熱により分解して炭素を生成する物質とを混合する第三の工程と、この混合物を加熱することにより、リチウム含有リン酸塩粒子が前記の群より選ばれた1種以上の炭素材料を含有する炭素膜で被覆されてなる複合粒子を形成する第四の工程を含む、前記(1)〜(5)のいずれか一項に記載の複合粒子の製造方法。
(8)溶媒が、水、アルコール又は水とアルコールの混合溶媒である、前記(6)又は(7)に記載の複合粒子の製造方法。
(9)前記(6)における第三の工程又は前記(7)における第二の工程が、加圧・加熱溶媒を用いて行う方法である、前記(6)〜(8)のいずれか一項に記載の複合粒子の製造方法。
(10)(i)繊維状炭素材料、(ii)鎖状炭素材料、および(iii)繊維状炭素材料と鎖状炭素材料とが相互に連結してなる炭素材料からなる群より選ばれた1種以上の炭素材料を表面処理する第一の工程と、表面処理した前記の群より選ばれた1種以上の炭素材料、リチウム含有リン酸塩粒子及び加熱により分解して炭素を生成する物質とを混合する第二の工程と、この混合物を加熱することにより、リチウム含有リン酸塩粒子が前記の群より選ばれた1種以上の炭素材料を含有する炭素膜で被覆されてなる複合粒子を形成する第三の工程を含む、前記(1)〜(5)のいずれか一項に記載の複合粒子の製造方法。
(11)(i)繊維状炭素材料、(ii)鎖状炭素材料、および(iii)繊維状炭素材料と鎖状炭素材料とが相互に連結してなる炭素材料からなる群より選ばれた1種以上の炭素材料の表面処理の方法が酸化処理である、前記(6)〜(10)のいずれか一項に記載の複合粒子の製造方法。
(12)(i)繊維状炭素材料、(ii)鎖状炭素材料、および(iii)繊維状炭素材料と鎖状炭素材料とが相互に連結してなる炭素材料からなる群より選ばれた1種以上の炭素材料の表面処理の方法が界面活性剤を用いた方法である、前記(6)〜(10)のいずれか一項に記載の複合粒子の製造方法。
(13)(i)繊維状炭素材料、(ii)鎖状炭素材料、および(iii)繊維状炭素材料と鎖状炭素材料とが相互に連結してなる炭素材料からなる群より選ばれた1種以上の炭素材料の表面処理の方法が高分子分散剤を用いた方法である、前記(6)〜(10)のいずれか一項に記載の複合粒子の製造方法。
(14)前記(1)〜(5)のいずれか一項に記載の複合粒子を60質量%以上95質量%以下含有し、残部は導電補助材及びバインダーからなるリチウムイオン二次電池用電極材料。
(15)前記(14)に記載の電極材料を用いて形成された正極と、負極と、電解液と、前記正極と前記負極とを電気的に絶縁して前記電解液を保持するセパレータとを有するリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0013】
本発明のリチウムイオン二次電池用電極材料を用いることにより、第一の効果として正極活物質粒子に含まれる(i)繊維状炭素材料、(ii)鎖状炭素材料、および(iii)繊維状炭素材料と鎖状炭素材料とが相互に連結してなる炭素材料からなる群より選ばれた1種以上の炭素材料によって電子伝導ネットワークが向上し、リチウム含有リン酸塩粒子と導電補助材の間における電子の授受が円滑に行われる。さらに第二の効果として前記の群より選ばれた1種以上の炭素材料が正極活物質であるリチウム含有リン酸塩粒子を被覆する炭素膜に含有されることによって、前記の群より選ばれた1種以上の炭素材料と正極活物質の電気的な接触が保持され、充放電サイクルに伴う正極活物質の収縮、膨張の反復によっても接触が劣化することがない。これら二つの効果によって電池のサイクル特性が向上し、安定した充放電特性を電池の寿命中の長きに渡って維持することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
本発明の一実施形態において複合粒子は、リチウム含有リン酸塩粒子が、(i)繊維状炭素材料、(ii)鎖状炭素材料、および(iii)繊維状炭素材料と鎖状炭素材料とが相互に連結してなる炭素材料からなる群より選ばれた1種以上の炭素材料を含有する炭素膜で被覆されてなる複合粒子である。
本発明の一実施形態において炭素材料とは(i)繊維状炭素材料、(ii)鎖状炭素材料、(iii)繊維状炭素材料と鎖状炭素材料とが相互に連結してなる炭素材料、又はこれらの混合物である。
繊維状炭素材料とは、例えばカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、気相成長炭素繊維、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維又はピッチ系炭素繊維などである。中でも平均繊維径が5〜200nmのカーボンナノチューブが好ましい。
鎖状炭素材料とは、例えばアセチレンブラック(電気化学工業社製デンカブラック等)又はファーネスブラック(ティムカル・グラファイト・アンド・カーボン社製SUPER −P、ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製ケッチェンブラック等)などのカーボンブラックである。中でも一次粒子の平均径が10〜100nmのカーボンブラックが好ましく、カーボンブラックの中でもアセチレンブラックが特に好ましい。
繊維状炭素材料と鎖状炭素材料との連結の方法は特に限定されないが、例えば、炭化水素熱分解中に繊維状炭素材料を導入し、発生するカーボンブラックと連結する方法、アセチレンガスの熱分解中及び/又はアセチレンガスを熱分解させた状態で、繊維状炭素化触媒を含む炭化水素を供給し、連結する方法(特許文献14)、繊維状炭素とカーボンブラックを炭化水素やアルコールなどの炭素化原料液中に分散させて、炭素化原料液を液状またはガス化した状態で加熱等の操作により炭素化する方法、繊維状炭素化触媒とカーボンブラックを予め混合した後に繊維状炭素の原料ガスに接触させて、繊維状炭素を発生させると同時にカーボンブラックと連結する方法、繊維状炭素及びカーボンブラックを、固体媒体を用いたメカノケミカル的手法によって連結する方法、などである。メカノケミカル的手法による連結とは、例えばビーズミル、振動ミル又はボールミル等の媒体撹拌型混合機を用いた連結である。繊維状炭素材料の平均繊維径、及び鎖状炭素材料の一次粒子の平均粒子径は、例えば、SEM像観察により求めることができ、それぞれ数平均繊維径、数平均粒子径であってもよい。平均繊維径は、例えば、5、10、15、20、30、50、100、150、又は200nmであってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。鎖状炭素材料の一次粒子の平均粒子径は、例えば、10、20、30、40、50、60、70、80、90、又は100nmであってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。
【0015】
本発明の一実施形態においてリチウム含有リン酸塩は、リチウムイオンの吸蔵、放出が可能なリン酸塩であり、具体的には、LiFePO、LiMnPO、LiMnFe(1−X)PO、LiCoPO又はLi(POなどである。特にLiFePO、LiMnFe(1−X)POが好ましい。
【0016】
本発明の一実施形態において複合粒子の平均一次粒子径は、0.02〜20μm、さらに好ましくは0.05〜5μmである。粒径がこれよりも小さいと、粒子が小さすぎるため前記炭素材料を含む炭素膜でリチウム含有リン酸塩粒子を被覆することが困難になる。粒径がこれよりも大きいと、正極材に含まれる粒子数が減少し、正極活物質粒子と導電補助材の接点数も減少するため、段落(0011)に記した本発明の効果が充分に得られなくなる。なお平均粒子径は、例えば、0.02、0.05、0.1、0.5、1、2、3、4、5、10、15、又は20μmであってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。この平均粒子径は、例えば、SEM像観察により求めることができ、数平均粒子径であってもよい。本発明の一実施形態において被覆とは、被覆する粒子の表面全体が覆われている状態を含む。この被覆は、例えば、粒子表面の90、95、98、99、99.5、99.9、又は100%を炭素膜で覆っていてもよい。この割合は、ここで例示した2つの値の範囲内であってもよい。粒子が被覆されていることはSEMで観察できる。
【0017】
リチウム含有リン酸塩粒子が、前記炭素材料を含有する炭素膜で被覆されてなる複合粒子は、(a)前記表面処理した炭素材料、リチウム含有リン酸塩の原料物質及び加熱により分解して炭素を生成する物質と混合、加熱する方法、(b)前記表面処理した炭素材料、リチウム含有リン酸塩の原料物質を加熱して得たリチウム含有リン酸塩粒子及び/又はその前駆体粒子並びに加熱により分解して炭素を生成する物質と混合、加熱する方法、(c)前記表面処理した炭素材料、リチウム含有リン酸塩粒子及び加熱により分解して炭素を生成する物質を混合、加熱する方法の何れかによって製造することができる。なお(c)の方法においては、市販のリチウム含有リン酸塩粒子(炭素被覆が形成済みのものを含む)を使用することも可能である。
【0018】
前記炭素材料の表面処理を行う方法は、例えば酸化処理、界面活性剤又は高分子分散剤を用いた処理などである。表面処理を行わない炭素材料は、炭素膜形成時に膜中に取り込まれにくいため、本発明には適さない。酸化処理とは、前記炭素材料の表面に酸化性物質を作用させることによって、水酸基(−OH)、カルボニル基(>C=O)、カルボキシル基(−COOH)、エーテル結合又はエステル結合を含む官能基を導入することである。酸化処理の具体的な方法は例えば前記炭素材料を、(i)酸素を含む雰囲気内で加熱する(気相酸化)、(ii)オゾンを含む雰囲気又は溶液内で保持する(オゾン酸化)、(iii)酸化力を有する化合物(硫酸、硝酸、過塩素酸、過酸化水素、過マンガン酸カリウム、オスミウム酸など)を含む溶液の中で加熱する(iv)水、水酸基(−OH)若しくはカルボニル基(>C=O)などの官能基を有する有機溶剤(例えばエタノール、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)又はこれらの混合溶液中で湿式ジェットミル処理を行う方法などである。湿式ジェットミル処理装置は、例えばスギノマシン製スターバースト、常光製ナノジェットパル、アドバンスト・ナノ・テクノロジィ製ナノメーカー、パウレック製マイクロフルイダイザーなどが好適である。なお炭素膜中の炭素材料の存在はSEMで確認できる。SEMで観察した複合粒子の表面画像において、複合粒子1つあたりに、炭素膜中の炭素材料若しくはその一部が、例えば、5、10、20、30、又は50個観察されてもよい。この個数は、ここに例示した値以上、又はいずれか2つの値の範囲内であってもよい。
【0019】
界面活性剤を用いた処理とは、前記炭素材料と界面活性剤を水又はアルコールなどの極性溶媒中で混合する方法である。界面活性剤は、例えばドデシル硫酸ナトリウム(SDS)などのアニオン系界面活性剤、塩化ドデシルトリメチルアンモニウム(C12TAC)若しくは臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(C16TAB)などのカチオン系界面活性剤、コカミドプロピルベタイン若しくはコカミドプロピルヒドロキシスルタインなどの両性界面活性剤、又はポリビニルアルコール、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(商品名:Triton X−100)などの非イオン系界面活性剤などである。なお、特許文献10(特開2005−123107号公報)の、段落(0015)及び(0028)に界面活性剤としてアセトンの例示があるが、アセトンは界面活性剤として使用した場合、揮発しやすく本発明の目的を達成することができないため、本発明の界面活性剤からは除外する。
【0020】
高分子分散剤を用いた処理とは、前記炭素材料と高分子分散剤を、水又は有機溶媒中で混合する方法である。高分子分散剤は、例えばポリビニルピロリドン(PVP)、ポリアリルアミン塩酸塩(PAH)などである。
【0021】
リチウム含有リン酸塩の原料物質は、例えば、炭酸リチウム(LiCO)、水酸化リチウム一水和物(LiOH・HO)、硫酸リチウム一水和物(LiSO・HO)、ギ酸リチウム一水和物(Li(HCOO)・HO)及び/若しくは硝酸リチウム(LiNO)、リン酸第二鉄二水和物(FePO・2HO)、シュウ酸第一鉄二水和物(FeC・2HO)、硫酸第二鉄七水和物(FeSO・7HO)及び/若しくは塩化第一鉄四水和物(FeCl・4HO)並びにリン酸(HPO)、リン酸二水素アンモニウム((NH)HPO)又は、リン酸一水素アンモニウム((NHHPO)及び/若しくはリン酸アンモニウム((NHPO)などである。
【0022】
リン酸マンガンリチウム(LiMnPO)を製造する場合の原料物質は、前記リン酸鉄リチウムの場合におけるシュウ酸第一鉄二水和物、リン酸第二鉄二水和物、硫酸第二鉄七水和物及び/又は塩化第一鉄四水和物などの鉄化合物の代わりに、例えば、炭酸マンガン(MnCO)、二酸化マンガン(MnO)、硫酸マンガン一水和物(MnSO・HO)、硝酸マンガン四水和物(Mn(NO・4HO)及び/又は酢酸マンガン四水和物((CHCOO)Mn・4HO)などが用いられる。リン酸鉄マンガンリチウム(LiMnFe(1−X)PO)を製造する場合は、前記リン酸鉄リチウムの原料とリン酸マンガンリチウムの原料が同時に用いられる。
【0023】
リン酸コバルトリチウム(LiCoPO)を製造する場合の原料物質は、前記リン酸鉄リチウムの場合における鉄化合物の代わりに、例えば、硫酸コバルト七水和物(CoSO・7HO)などが用いられる。リン酸バナジウムリチウム(Li(PO)を製造する場合の原料物質は、前記リン酸鉄リチウムの場合における鉄化合物の代わりに、例えば、五酸化二バナジウム(V)及び/又は酸化硫酸バナジウム水和物(VOSO・xHO)(x=3〜4)などが用いられる。
【0024】
本発明の一実施形態において加熱により分解して炭素を生成する物質とは、例えばグルコース(C6126)、ショ糖(C122211)、デキストリン((C612)、アスコルビン酸(C)、カルボキシメチルセルロース、石炭ピッチなどである。
【0025】
本発明の一実施形態において混合には、混合機として回転翼撹拌槽、超音波液体混合装置、ホモジナイザーなどを用いることができる。この場合の溶媒としては、水、アルコール又は水とアルコールの混合溶媒が好適である。なお、表面処理を界面活性剤又は高分子分散剤を用いて行う場合は、原料との混合前に予め処理しても良いし、原料混合と同時に処理しても良い。
【0026】
本発明の一実施形態においてリチウムイオン(Li)、リン酸イオン(PO3−)及びリチウム以外の金属イオン、加熱により分解して炭素を生成する物質などを溶解させてなる溶液を、溶液のままで加熱する方法は、回転翼撹拌槽などを用い撹拌しながら行うことが好ましい。加熱温度は60〜100℃が好適であるが、反応速度を向上させたい場合には100〜250℃の加圧・加熱溶媒を用いて行う方法(水熱合成法/hydrothermal synthesis method)が好ましい。この場合の加熱はオートクレーブなどの耐圧容器を用いて行う。加熱温度は、例えば、60、80、100、150、200、又は250℃であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。この場合、リチウムイオン(Li)、リン酸イオン(PO3−)及びリチウム以外の金属イオン、加熱により分解して炭素を生成する物質などを溶解させてなる溶液に、必要に応じてアンモニア(NH)、リン酸(HPO)又は硫酸(HSO)などのpH調整剤を添加しても良い。
【0027】
本発明の一実施形態において炭素材料を含有する炭素膜で被覆されてなる複合粒子を形成する最終の加熱は、真空中、不活性雰囲気、還元性雰囲気又は不活性ガスと還元性ガスの混合雰囲気下で行うことが好ましい。不活性ガスはアルゴン(Ar)、ヘリウム(He)又は窒素(N)などであり、還元性ガスは水素(H)又はアンモニア(NH)などである。加熱温度は400〜900℃が好ましく、500〜800℃がさらに好ましい。この加熱温度は、例えば、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、又は900℃であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。
【0028】
本発明の一実施形態に係る複合粒子、導電補助材及びバインダーを混合することによって、リチウムイオン二次電池用電極材を形成することができる。導電補助材としては、アセチレンブラック若しくはファーネスブラックなどのカーボンブラック及び/又はカーボンナノチューブ若しくはカーボンナノファイバーなどを用いることができる。バインダーとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いることができる。本発明の一実施形態における混合割合は、例えば、複合粒子が60質量%以上95質量%以下で残部が導電補助材及びバインダーである。複合粒子が60質量%未満であるとリチウムイオン二次電池の充放電容量が小さくなってしまう。また95質量%を超えると、導電補助材が不足して正極材の電気抵抗が大きくなってしまったり、バインダーが不足して正極材の保形性が不充分になり、充放電時に正極材が集電体(主にアルミニウム製)から剥落しやすくなる等の問題が生じる。
【0029】
本発明の一実施形態において正極材は、集電体上に成形された正極電極として、リチウムイオン二次電池に使用される。リチウムイオン二次電池に使用される他の材料としては、セパレータ、電解液、負極材等が挙げられる。セパレータは、正極および負極を電気的に絶縁して電解液を保持するものであり、ポリエチレン、ポリプロピレン製等の合成樹脂製のものを使用することができる。電解液の保持性を向上させるために、多孔性フィルム状のものを用いることが好ましい。
【0030】
また本発明一実施形態の正極電極を用いたリチウム二次電池において、当該電極群が浸漬される電解液としては、リチウム塩を含む非水電解液またはイオン伝導ポリマーなどを用いることが好ましい。リチウム塩を含む非水電解液における非水電解質の非水溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)等が挙げられる。また、上記非水溶媒に溶解できるリチウム塩としては、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、ホウ四フッ化リチウム(LiBF)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiSOCF)等が挙げられる。
【0031】
負極活物質としては、正極と同様に可逆的にLiイオンを吸蔵、放出することが可能であり、電解液との反応性に乏しく、しかも酸化還元電位が正極材よりも低い材料が好ましい。例えば黒鉛、チタン酸リチウム、シリコン(Si)又はスズ(Sn)等であり、必要に応じてこれらの2種類以上を同時に用いることも可能である。これらは正極の場合と同様に、導電補助材やバインダーと共に集電体(負極の場合は主に銅など)上に成形された負極材として実用に供される。
【0032】
段落(0027)〜(0029)に記載した材料を組み合わせ、さらに外気との接触、変形、破損を防止するために、容器に封入してリチウムイオン二次電池が形成される。容器の形状や材質は、使用目的に応じて適宜選択される。例えば、軽微な充放電試験等の場合はステンレス等の金属製の円板型容器に封入するコイン型電池(コインセル)が形成される。
【0033】
産業用又は民生用として高容量・長寿命が必要な場合は正極材、セパレーター及び負極材を交互に捲回して金属製の円筒型又は角型の容器に封入する捲回型電池が形成される。両者の中間的な用途の場合は正極材、セパレーター及び負極材を交互に積層して、アルミラミネート等のパッケージに封入するラミネート型電池(アルミパウチセル)が形成される。
【実施例】
【0034】
以下、実施例及び比較例により、本発明に係る複合粒子、その製造方法、二次電池用電極材料及び二次電池を詳細に説明する。しかし、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
実施例1〜7
(炭素材料の表面処理)
処理に用いた炭素材料、処理の方法を表1〜2にまとめて示す。なお、酸化処理によって炭素材料表面に導入された有機官能基は、処理後の炭素材料を、昇温脱離装置(アジレント社製、ダブルショットパイロライザー7683B)、ガスクロマトグラフ装置(ヒューレットパッカード社製、HP6890)及び質量分析計(ヒューレットパッカード社製、5973)を用い、昇温脱離ガスクロマトグラフ/質量分析法(TDS−GC/MS法)によって測定することによって、水(質量数=18)、一酸化炭素(質量数=28)及び二酸化炭素(質量数=44)に帰属される質量スペクトルの有無によって定性的に分析した。なお、200℃以下で検出された質量スペクトルは、吸着ガスの脱離によるものと見なして無視した。また昇温脱離装置と同じ条件(真空下、200℃まで及び1000℃まで、25℃/分の昇温速度で加熱)にて炭素材料10gを電気炉で加熱して、加熱前後の質量変化を測定し、次式にて、質量減少分を算出して、有機官能基の含有量と見なした。

[有機官能基の含有量(質量%)]=[{(200℃加熱後の炭素材質量)−(1000℃加熱後の炭素材質量)}÷(200℃加熱後の炭素材質量)]×100
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
実施例8〜10
(表面処理済みの炭素材料、リチウム含有リン酸塩の原料物質及び加熱により分解して炭素を生成する物質(炭素源物質)の混合及び加熱)
実施例1〜3で作製した表面処理済み炭素材料と原料物質及び炭素源物質を、表3に示す条件にて混合、加熱した。
【0038】
【表3】
【0039】
実施例11〜13
(リチウム含有リン酸塩粒子及び/又はその前駆体粒子の形成方法、表面処理済みの炭素材料、リチウム含有リン酸塩粒子及び/又はその前駆体粒子並びに炭素源物質の混合)
原料物質からリチウム含有リン酸塩粒子及び/又はその前駆体粒子の形成する方法、形成した粒子と、表面処理済みの炭素材料及び炭素源物質を、表4に示す条件で混合した。
【0040】
実施例14
(表面処理済みの炭素材料、リチウム含有リン酸塩粒子及び炭素源物質の混合)
実施例7で作成した表面処理済み炭素材料、リチウム含有リン酸塩粒子及び炭素源物質を、表4に示す条件で混合した。
【0041】
【表4】
【0042】
実施例15〜21
(さらに加熱)
実施例8〜14で作製した、表面処理済み炭素材料とリチウム含有リン酸塩前駆体及び/又はリチウム含有リン酸塩並びに炭素源物質の混合物を、表5に示す条件にてさらに加熱して本発明の一実施例としての複合粒子を作製した。粉末X線回折測定(リガク製のX線回折装置RU−200A、X線源:Cu−Kα、電圧:40kV、電流:30mA)にて複合粒子の結晶相を同定した。また走査型電子顕微鏡(SEM:日本電子製走査型電子顕微鏡JSM−6301F、加速電圧1kV、観察倍率1万倍〜5万倍)によって複合粒子の平均一次粒子径の測定及び粒子表面炭素膜に前記炭素材料が含有されているか否かを観察した。
【0043】
【表5】
【0044】
比較例1〜21
炭素材料の表面処理を行わずに、その他の処理は実施例1〜21と同様にして、比較例15〜21の粒子を作製した。これらの条件及び結果は、表5〜9に併せて示した。
【0045】
【表6】
【0046】
【表7】
【0047】
【表8】
【0048】
実施例22〜28
実施例15〜21の複合粒子、導電補助材としての炭素及びバインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(クレハ製、KFポリマー溶液)を表5に示す所定の割合で配合した。これに分散溶媒としてN−メチルピロリドン(シグマアルドリッチ製、品番328634)を添加し、混練した正極合剤(スラリー)を作製した。これを正極材として用い、ラミネート型電池を作製して充放電特性を評価した。正極電極およびラミネート型電池作製方法の一例を以下に示す。実施例15〜21の複合粒子を正極合剤スラリーとして、厚さ20μmのアルミニウム箔に塗布、乾燥し、その後、プレス、40mm角に裁断して、リチウム二次電池用正極電極を得た。負極には黒鉛(大阪ガス製人造黒鉛MCMB6−28)を用い、バインダーとしてのポリフッ化ビニリデンを所定の割合で混合後、正極と同様にスラリーを作製し、厚さ10μmの銅箔に塗布、乾燥し、その後、プレス、45mm角に裁断して、リチウム二次電池用負極電極を得た。これらを電気的に隔離するセパレータとして50mm角のオレフィン繊維製不織布を用いた。電解液にはEC(エチレンカーボネート、Aldrich製)、MEC(メチルエチルカーボネート、Aldrich製)を体積比で30:70 に混合した溶液中に六フッ化リン酸リチウム(LiPF、ステラケミファ製)を1mol/L 溶解したものを用いた。正極と負極に端子を接続した後、全体をアルミラミネート製パッケージに封入して60mm角ラミネート型電池を形成した。
【0049】
電池の放電性能試験としては、電池を初充電後、充放電効率が100%近傍になることを確認後、0.7mA/cmの電流密度にて定電流放電を2.1Vまで行った際の放電容量を測定し、正極活物質量で除した容量密度(mAh/g)を算出した。この容量(mAh)を1時間で充放電可能な電流値を「1C」とした。
初回充放電後、充電は4.2V(実施例25〜26、比較例25〜26のみ、4.8V)(0.2C定電流、0.05C電流時終了)、放電はサイクル毎に、0.2C、0.33C、0.5C、1C、3C(定電流、2.1V時終了)と徐々に電流値を増加させて、休止はそれぞれの間に10分間行って充放電を行い、以後は3Cのままサイクルを反復させた。初回(0.2C)の充放電容量に対する、3Cの1000サイクル目における充放電容量の比(%)をサイクル特性とした。さらに、SOC(充電深度)50%時におけるI−V特性より、電池の直流抵抗(DCR)を算出した。充電時における直流抵抗を「充電DCR」、放電時を「放電DCR」とした。これらの結果は、表5にまとめて示した。
【0050】
比較例22〜28
実施例15〜21の代わりに比較例15〜21の複合粒子を用いた他は、実施例22〜 28と同様にしてラミネート型電池を形成して電池の放電性能試験を実施し、結果を表9に示した。
【0051】
【表9】
【0052】
実施例と比較例から本発明の複合粒子を用いた電池は、放電性能試験のサイクル特性が格段に向上している。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極材は、熱的に安定で高い安全性が期待される反面、抵抗値が高いという短所を有するリチウム含有リン酸塩を正極活物質として使用しながら、短所を補って従来にない優れた電子伝導性能を有している。本発明の正極材によって、リチウム含有リン酸塩の短所が解消され、その結果、安定した充放電特性を寿命中長きに渡って維持可能で、しかも高い安全性を有するリチウムイオン二次電池が実現できる。本発明の正極材を用いたリチウムイオン二次電池は、電動工具やハイブリッドカーなど長期にわたって安定した充放電が必要とされる用途に好適に利用できる。