(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6086303
(24)【登録日】2017年2月10日
(45)【発行日】2017年3月1日
(54)【発明の名称】セラミック構造体の製造方法及びその製造方法で製造されたセラミック構造体
(51)【国際特許分類】
E01F 9/524 20160101AFI20170220BHJP
【FI】
E01F9/524
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-287884(P2012-287884)
(22)【出願日】2012年12月28日
(65)【公開番号】特開2014-129683(P2014-129683A)
(43)【公開日】2014年7月10日
【審査請求日】2015年12月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】599012684
【氏名又は名称】唐沢 伸
(73)【特許権者】
【識別番号】594086967
【氏名又は名称】株式会社廣部硬器
(74)【代理人】
【識別番号】100109553
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 一郎
(72)【発明者】
【氏名】井上 巧
(72)【発明者】
【氏名】廣部 耕一
【審査官】
神尾 寧
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭63−112511(JP,U)
【文献】
特開2004−332369(JP,A)
【文献】
特開2006−267460(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3161644(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01F 9/00−11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック基板を準備する基板準備ステップと、
準備されたセラミック基板上に第一融点のガラス粒を配置するガラス粒配置ステップと、
第一融点よりも低い第二融点のガラス粉でガラス粒とガラス粒の隙間を満たすガラス粉配置ステップと、
第二融点以上第一融点以下の温度にてガラス粒とガラス粉が配置されたセラミック基板を焼成するガラス粉焼成ステップと、
焼成後セラミック基板に第二融点よりも低温の焼成温度である低温焼成温度にて焼成可能な蓄光材料含有セラミック原材料粉を配置する蓄光材料含有セラミック原材料配置ステップと、
蓄光材料含有セラミック原材料が配置されたセラミック基板を前記低温焼成温度にて焼成する蓄光材料焼成ステップと、
を有するセラミック構造体の製造方法。
【請求項2】
前記セラミック基板は凹部を有するセラミック基板であり、
ガラス粉配置ステップは、ガラス粉を前記凹部に配置するガラス粉配置サブステップを含み、
蓄光材料含有セラミック原材料配置ステップは、
焼成後セラミック基板の凹部を取り囲む領域に前記蓄光材料含有セラミック原材料粉を配置する蓄光材料含有セラミック原材料配置サブステップを含む、
請求項1に記載のセラミック構造体の製造方法。
【請求項3】
凹部を取り囲む領域に配置された蓄光材料含有セラミックの蓄光材料が発光することで、
凹部に配置されたガラス粒に対してその発光による光線が入射し、ガラス粒が発光する、
請求項2に記載のセラミック構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、蓄光機能と反射機能とを有する路面配置型誘導タイルに関する。
【背景技術】
【0002】
路面に敷設された歩車分離用等の路側帯には、溶融式の路面標示用塗料が多く採用されている。色は白や黄色の明色が一般的であり、これにより夜間等における視認性を確保している。近年においては、これに加え暗所でも十分に視認性を確保できる自発光式の道路鋲や、蓄光性の材料を用いた誘導標識などが採用されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−94371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には下記のような技術が開示されている。該技術は、表面から順に熱硬化性樹脂中に蓄光剤が密に存在する蓄光層と、熱硬化性樹脂中に蓄光剤が蓄光層に比べ少なく存在する中間層と、熱硬化性樹脂中に蓄光材がほとんど存在せずに、白色顔料が存在する白色反射層と、を積層一体的に形成する製法で製造された蓄光標識ラインである。該技術によると、電力の供給の必要がなく、かつ夜間における十分な発光を確保できるとしている。
【0005】
しかしながら、第一に、特許文献1の発明では、主に蓄光材による発光による誘導を主としているため、暗時においては発光により誘導が可能であるが、ラインが車両のライトで照らされたような場合においては、視認性が不十分な場合がある。特に遠方の視界においては蓄光剤のみの発光では視認性が限られてしまう。このため、遠方の視認性を確保するため別途反射機能を有する道路鋲などを採用する必要が生ずるといった問題がある。
【0006】
第二に、特許文献1の発明では、素材に熱硬化性樹脂を採用している。標識ラインの上には車両や人が通過するので、摩擦や圧力、衝撃に対して頑健で必要がある。耐久性の面において熱硬化樹脂はセラミックやガラスに対して劣るため、路面に敷設するには不適切である。
【0007】
そこで、本発明の解決すべき課題は、第一に、別途反射機能を有する標識を導入する必要がなく、かつ遠方の視認性を向上するための構造体とその製造方法を提供することにある。第二に、車両や人の通過による衝撃や圧力、摩耗に強いセラミック構造体とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するため、第一の発明は、セラミック基板を準備する基板準備ステップと、準備されたセラミック基板上に第一融点のガラス粒を配置するガラス粒配置ステップと、第一融点よりも低い第二融点のガラス粉でガラス粒とガラス粒の隙間を満たすガラス粉配置ステップと、第二融点以上第一融点以下の温度にてガラス粒とガラス粉が配置されたセラミック基板を焼成するガラス粉焼成ステップと、焼成後セラミック基板に第二融点よりも低温の焼成温度である低温焼成温度にて焼成可能な蓄光材料含有セラミック原材料粉を配置する蓄光材料含有セラミック原材料配置ステップと、蓄光材料含有セラミック原材料が配置されたセラミック基板を前記低温焼成温度にて焼成する蓄光材料焼成ステップと、を有するセラミック構造体の製造方法を提供する。
【0009】
また、第二の発明は、第一の発明を基本として、前記セラミック基板は凹部を有するセラミック基板であり、ガラス粒配置ステップは、ガラス粒を前記凹部に配置するガラス粒配置サブステップを含みガラス粉配置ステップは、ガラス粉を前記凹部に配置するガラス粉配置サブステップを含み、蓄光材料含有セラミック原材料配置ステップは、焼成後セラミック基板の凹部を取り囲む領域に前記蓄光材料含有セラミック原材料粉を配置する蓄光材料含有セラミック原材料配置サブステップを含む、セラミック構造体の製造方法を提供する。
【0010】
第三の発明は、第一および第二の発明を基本として、凹部を取り囲む領域に配置された蓄光材料含有セラミックの蓄光材料が発光することで、凹部に配置されたガラス粒に対してその発光による光線が入射し、ガラス粒が発光する、セラミック構造体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
上記第一の発明により、セラミック基板上に反射機能を有するガラス粒と、蓄光機能を有する蓄光材料含有セラミックとを配置することができる。これにより、暗所における発光と、ライトに照らされた場合などの反射とを一つのセラミック構造体で同時にこれらの機能を発揮させることができる。さらに、第二の発明によりセラミック基板に用意された凹部にガラス粒を充填し、蓄光性材料でこれを取り囲むことによって、より反射機能と発光機能を効果的に提供することができる。第三の発明により、ガラス粒に蓄光材の発光による光線が入射し、反射する。これによりガラス粒と蓄光材との相乗効果による、より視認性の高い発光が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1の製造方法にて製造されたセラミック構造体の一例を示す斜視図
【
図2】実施例1の製造方法の一例を示すフローチャート
【
図3】実施例2の製造方法にて製造されたセラミック構造体の一例を示す斜視図
【
図4】実施例2の製造方法の一例を示すフローチャート
【
図5】実施例3の製造方法にて製造されたセラミック構造体の作用を示す概念図
【符号の説明】
【0013】
0101 セラミック基板
0102 ガラス粒と溶融したガラス粉
0103 蓄光材料含有セラミック
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施例を説明する。なお、本発明はこの実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施しうる。
【実施例1】
【0015】
<概要>
【0016】
本実施例のセラミック構造体の製造方法は、ガラス粒をセラミック基板に配置し、ガラス粒の間隙にガラス粉を配置し焼成する。その後、これらガラス粒やガラス粉よりも低音で焼成可能な蓄光材料含有セラミック原材料粉をセラミック基板に配置し焼成する点に特徴を有する。
【0017】
図1(A)及び(B)は、本実施例のセラミック構造体の製造方法にて製造されたセラミック構造体の一例を示す斜視図である。本図に示すように、ベースとなるセラミック基板(0101、0104)上に、ガラス粒とその間隙にガラス粉が溶融して充填された部分(0102、0105)と、蓄光材料を含有したセラミックが焼成された部分(0103、0106)とがある。このように、反射材としてのガラス粒と蓄光材としてのセラミックとがセラミック基板に共に配置された態様を呈する。これにより、反射機能と蓄光機能との両方を本構造体は有することとなる。
【0018】
<構成>
【0019】
本実施例のセラミック構造体の製造方法は、基板準備ステップと、ガラス粒配置ステップと、ガラス粉配置ステップと、ガラス粉焼成ステップと、蓄光材料含有セラミック原材料配置ステップと、蓄光材料焼成ステップと、からなる。
【0020】
基板準備ステップでは、セラミック基板を準備する。セラミック基板は、耐熱温度が基板上にガラス粒とガラス粉を配置して焼成させる温度以上のものであれば如何様なものでも採用することができる。
【0021】
ガラス粒配置ステップでは、準備されたセラミック基板上に第一融点のガラス粒を配置する。第一融点は後述の第二融点よりも高い必要がある。具体的には、ホウケイ酸ガラスなどの融点(軟化点)が800℃以上のものを採用することができる。ガラス粒については、いわゆるガラスビーズを採用することができる。粒径や形状、素材、屈折率などは問わないが、構造体を路面に設置した場合にも十分に反射光が得られるものが望ましい。また、構造体は路面に敷設するため、踏みつけの圧力に耐えられる強度のものを採用することが望ましいが、この点において、本発明はガラスを採用しているため、樹脂製のものよりも耐久性を高く保つことができる。具体的には、略100〜略1000μmの粒径のものが採用できる。
【0022】
ガラス粉配置ステップでは、第一融点よりも低い第二融点のガラス粉でガラス粒とガラス粒の隙間を満たす。ガラス粉の融点(軟化点)はガラス粒の融点である第一融点よりも低いものを採用する必要がある。ソーダ石灰ガラスは軟化点が650℃から730℃でありこれを採用することができる。ガラス粉は、配置したガラス粒をセラミック基板に固定するために用いられるので、ガラスとセラミック間の接着力が十分なものが望ましい。
【0023】
ガラス粉焼成ステップでは、第二融点以上第一融点以下の温度にてガラス粒とガラス粉が配置されたセラミック基板を焼成する。
【0024】
蓄光材料含有セラミック原材料配置ステップでは、焼成後セラミック基板に第二融点よりも低温の焼成温度である低温焼成温度にて焼成可能な蓄光材料含有セラミック原材料粉を配置する。蓄光材料には粉体の蓄光顔料を採用してもよい。発光色については青、緑、黄色など暗闇でも視認しやすいものが望ましい。具体的には、アルミン酸ストロンチウムを母結晶とし、これにケイ素、リン、カルシウム、セリウム、ユーロピウム、ディスプロシウムなどを添加したものが高輝度での発光を長時間保つことができるので好適である。そのほか、硫化亜鉛系のものも採用することが出来る。
【0025】
蓄光材料焼成ステップでは、蓄光材料含有セラミック原材料が配置されたセラミック基板を前記低温焼成温度にて焼成する。低温焼成温度とは、蓄光材料の耐熱温度以下の温度を指す。具体的には、前述のアルミン酸ストロンチウムを母結晶とした蓄光材料であれば、約1000℃以上で溶融するものが多く存在するので、少なくともそれ以下の温度で焼成可能なセラミックを採用することが必要である。この点を考慮すると、800℃前後で焼成可能なセラミックを採用することができる。また、ガラス粉焼成ステップにおいて焼成されたガラス粉が軟化点を越えて溶け出してこないように、第二融点以下の温度で焼成する必要がある点をさらに考慮に入れると、例えば、アルミナとホウケイ酸ガラスからなるセラミックであって650℃以下で焼成可能なものなどを採用することが出来る。
【0026】
<処理の流れ>
【0027】
図2は、本実施例のセラミック構造体における、製造方法の流れを示すフローチャートである。この図に示すように、まず、セラミック基板を準備する(ステップS0201)。次に、準備されたセラミック基板上に第一融点のガラス粒を配置する(ステップS0202)。その後、第一融点よりも低い第二融点のガラス粉でガラス粒とガラス粒の隙間を満たす(ステップS0203)。次に、第二融点以上第一融点以下の温度にてガラス粒とガラス粉が配置されたセラミック基板を焼成する(ステップS0204)、焼成後セラミック基板に第二融点よりも低温の焼成温度である低温焼成温度にて焼成可能な蓄光材料含有セラミック原材料粉を配置する(ステップS0205)し、蓄光材料含有セラミック原材料が配置されたセラミック基板を前記低温焼成温度にて焼成する(ステップS0206)。
【0028】
このように、ガラス粒と、ガラス粒の融点以下のガラス粉とを焼成して、ガラス粒の隙間に溶融したガラス粉を充填することが可能である。これにより、本構造体は反射板としての機能を有する。また、ガラス粉の融点以下の蓄光材料セラミック原材料を使用して焼成することによって、蓄光板としての機能をも有することとなる。
【実施例2】
【0029】
<概要>
【0030】
本実施例のセラミック構造体の製造方法は、ガラス粒及びガラス粉を、セラミック基板が有する凹部に配置し焼成する。蓄光性含有セラミック原材料粉はその凹部を取り囲むようにして配置され焼成される点に特徴を有する。
【0031】
図3(A)は、本実施例のセラミック構造体の製造方法にて製造されたセラミック構造体の一例を示す斜視図である。本図に示すように、凹部を有するセラミック基板(0301)上に、ガラス粒とその間隙にガラス粉が溶融して充填された部分(0302)と、凹部を取り囲むように蓄光材料を含有したセラミックが焼成された部分(0303)とがある。
図3(B)は
図3(A)の構造体をX、Yを結ぶ平面により生成される断面図である。本図に示すように、セラミック基板(0301)は凹部を有する。その凹部にガラス粒が配置されガラス粒の間隙を融解したガラス粉が満たしている(0302)。この周囲を取り囲むように蓄光材料含有のセラミックが焼成されている(0303)。
【0032】
このように反射材としてのガラス粒の周囲を蓄光材としてのセラミックが取り囲むようにすることで、より明瞭に視認が可能となる。具体的には、当該構造体を連続的に敷設することで、車両のライトで遠方より照らした場合には、ガラス粒による反射効果による点線が視界に映し出されるため、効果的な誘導が可能となる。また徒歩による場合など、ライト等で構造体が照らし出されない場合には、蓄光材が発光して生成される直線が効果的な誘導をすることができる。
<構成>
【0033】
本実施例のセラミック構造体の製造方法は、基板準備ステップと、ガラス粉焼成ステップと、蓄光材料含有セラミック原材料配置サブステップと、蓄光材料焼成ステップと、からなる。これら以上のステップについては実施例1で記載済みであるので記載は省略する。本実施例におけるセラミック構造体の製造方法の特徴は、ガラス粒配置サブステップと、ガラス粉配置サブステップと、を新たに有する点である。
【0034】
ガラス粒配置サブステップでは、セラミック基板が有する凹部にガラス粒を配置する。また、ガラス粉配置サブステップでは、セラミック基板が有する凹部にガラス粉を配置する。
【0035】
<処理の流れ>
【0036】
図4は、本実施例のセラミック構造体の製造方法の流れを示すフローチャートである。この図に示すように、まず、凹部を有するセラミック基板を準備する(ステップS0401)。次に、第一融点のガラス粒を凹部に配置する(ステップS0402)。その後、第一融点よりも低い第二融点のガラス粉で凹部のガラス粒とガラス粒の隙間を満たす(ステップS0403)。次に、第二融点以上第一融点以下の温度にてガラス粒とガラス粉が配置されたセラミック基板を焼成する(ステップS0404)、焼成後セラミック基板に第二融点よりも低温の焼成温度である低温焼成温度にて焼成可能な蓄光材料含有セラミック原材料粉を、凹部を取り囲む領域に配置する(ステップS0405)し、蓄光材料含有セラミック原材料が配置されたセラミック基板を前記低温焼成温度にて焼成する(ステップS0406)。
【実施例3】
【0037】
図5は、本実施例のセラミック構造体の製造方法にて製造されたセラミック構造体の一例を示す断面図である。本図は
図3(A)のセラミック構造体をX、Yを結ぶ平面により生成される断面図である。本図に示すように、セラミック基板(0501)は凹部を有する。その凹部にガラス粒が配置されガラス粒の間隙を融解したガラス粉が満たしている(0502)。この周囲を取り囲むように蓄光材料含有のセラミックが焼成されている(0503)。
【0038】
上記のような構造体において、蓄光材料含有のセラミックが発光することにより、ガラス粒に光線が入射する(0504)。そうすると、ガラス粒により光が反射、拡散される(0505)ことで、ガラス粒自体が発光しているように視覚に映る。このため、車両のライトに照射された場合にはライトの光をガラス粒が反射し、遠方からも容易に認識が可能である。その一方で、歩行者等から見た場合のように、暗所においては、蓄光材料のみならず、蓄光材料が発する光を反射して、ガラス粒が発光しているように見えるため、明瞭に認識することができる。