(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記傾斜角推定部は、前記加速度検知手段の検出信号に基づいて推定加速度を算出する加速度推定部と、前記推定加速度を補正する加速度補正部とを有する、請求項1又は請求項2に記載の電動パーキングブレーキ装置。
前記補正傾斜角算出部は、前記傾斜角推定部により車両の接地面が下りであると判断される場合に、前記推定傾斜角を前記補正定数により補正する、請求項1に記載の電動パーキングブレーキ装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述した電動パーキングブレーキ装置では、推定される車両の接地面の傾斜角をフィルタ処理により補正していることから、推定された車両の接地面の傾斜角に基づいて算出されるアクチュエータの目標荷重に誤差が生じる。そして、算出された目標荷重が必要とされる荷重よりも小さくなるような誤差が生じた場合には、車両の動き出しが生じるおそれがある。
このため、算出されたアクチュエータの目標荷重に対して補正値を設定しておくことが考えられるが、必要な荷重が車両の接地面の傾斜角により異なることから、目標荷重に対して個々の補正値を設定することは困難である。
また、荷台が架装されるトラックでは、装架された荷台により車体が傾斜して、接地面の実際の傾斜角と推定傾斜角とに誤差が生じるおそれがある。このような車両に電動パーキングブレーキ装置が用いられる場合、収束判定条件成立後であっても、アクチュエータの荷重目標値が不足してしまうことがある。このような荷重目標値の不足を補うために、荷重目標値に対して補正値を設定することが考えられるが、必要な荷重は荷台の大きさや重量、車両の種類によって異なるため、荷重目標値をそれぞれ個別に設定することは困難である。
【0007】
本発明の課題は、電動パーキングブレーキにおいて、車両の接地面の傾斜角を推定するとともに、アクチュエータの荷重目標値を適切な値に設定することを可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下に、課題を解決するための手段として複数の態様を説明する。これら態様は、必要に応じて任意に組み合せることができる。
本発明の一見地による電動パーキングブレーキ装置は、パーキングブレーキと、アクチュエータと、制御部と、加速度検知手段とを備えている。パーキングブレーキは、車両の車輪を制動する。アクチュエータは、パーキングブレーキを作動・解除させる。制御部が、アクチュエータを制御する。加速度検知手段は、車両の加速度に基づく検出信号を制御部へ出力する。
制御部は、荷重算出部と、傾斜角推定部と、収束判定部と、補正傾斜角算出部とを備えている。
荷重算出部は、アクチュエータの荷重目標値を算出する。傾斜角推定部は、加速度検知手段の検出信号に基づいて車両の接地面の推定傾斜角を算出する。収束判定部は、傾斜角推定部により算出された車両の接地面の推定傾斜角が所定の収束判定条件を満たすか否かを判定する。補正傾斜角算出部は、傾斜角推定部により算出された推定傾斜角を予め設定された補正定数により補正することにより補正傾斜角を算出する。
さらに電動パーキングブレーキ装置は、収束判定部により推定傾斜角が収束判定条件を満たすと判定される前には、補正傾斜角算出部により算出された補正傾斜角に基づいて、荷重算出部により荷重目標値を算出することを特徴としている。
【0009】
このような構成とすることにより、電動パーキングブレーキ装置は、加速度検知手段の検出信号に基づいて算出される推定傾斜角を用いて、アクチュエータの荷重目標値を算出し、推定傾斜角が所定の収束条件を満たす前は、補正傾斜角算出部により算出された補正傾斜角を用いて、アクチュエータの荷重目標値を算出するようにしている。したがって、アクチュエータの荷重目標値を迅速に算出することが可能であるとともに、フィルタ処理により誤差をなくして、荷重目標値の不足を防止できる。
【0010】
本発明の他の見地による電動パーキングブレーキ装置は、パーキングブレーキと、アクチュエータと、制御部と、加速度検知手段とを備えている。パーキングブレーキは、車両の車輪を制動する。アクチュエータは、パーキングブレーキを作動・解除させる。制御部は、アクチュエータを制御する。加速度検知手段は、車両の加速度に基づく検出信号を制御部へ出力する。
制御部は、荷重算出部と傾斜角推定部と補正傾斜角算出部を備えている。
荷重算出部は、アクチュエータの荷重目標値を算出する。傾斜角推定部は、加速度検知手段の検出信号に基づいて車両の接地面の推定傾斜角を算出する。補正傾斜角算出部は、傾斜角推定手段により算出された推定傾斜角を予め設定された第1補正定数及び第2補正定数により補正することにより補正傾斜角を算出する。
さらに、電動パーキングブレーキ装置は、推定傾斜角が所定の値以上の場合には、補正傾斜角算出部により第1補正定数を用いて補正された第1補正傾斜角に基づいて荷重算出部により荷重目標値が算出され、推定傾斜角が所定の値より小さい場合には、補正傾斜角算出部により第2補正定数を用いて補正された第2補正傾斜角に基づいて、荷重算出部により荷重目標値が算出されることを特徴としている。
【0011】
このような構成とすることにより、推定傾斜角算出手段による推定傾斜角が所定の値以上であるかどうかにより補正定数として第1補正定数または第2補正定数を用いて、アクチュエータの荷重目標値を算出することで、車両接地面の実際の傾斜角と推定傾斜角とに誤差が生じる様な場合であったとしても、アクチュエータ荷重目標値を適切な値とすることができる。
【0012】
傾斜角推定部は、加速度検知手段の検出信号に基づいて推定加速度を算出する加速度推定部と、推定加速度を補正する加速度補正部とを有することができる。
加速度推定部は、例えば、無限インパルス応答フィルタ処理を行うことにより、所定周期毎に入力される加速度検知手段の検出信号に基づいて推定加速度を算出できる。加速度補正部は、所定の条件に基づいて、加速度推定部により算出された推定加速度か、あるいは1つ前の周期で算出された推定加速度をそのまま維持して、補正加速度として出力する。傾斜角推定部は、加速度補正部により出力される補正加速度に基づいて、車両の接地面の傾斜角を算出する。このことにより、推定傾斜角の算出を迅速に行うとともに、推定傾斜角の算出に誤差を少なくして、正確な荷重目標値を決定することができる。
【0013】
補正傾斜角算出部は、傾斜角推定部により車両の接地面が下りであると判断される場合に、推定傾斜角を補正定数により補正することができる。
この場合、所定の収束条件を満たす前の推定傾斜角を補正することで、荷重目標値の不足を補って、適切な値とすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の構成によれば、車両の接地面の傾斜角を推定するとともに、アクチュエータの荷重目標値を適切な値に設定できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(1)概略構成
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0017】
図1は、電動パーキングブレーキが搭載される車両の概略構成図である。
車両1は、電動パーキングブレーキ装置2と、車輪3とを含む。
電動パーキングブレーキ装置2は、パーキングブレーキ4と、アクチュエータ5と、ケーブル6と、加速度センサ7と、車速センサ8と、操作スイッチ9と、制御部10とを有している。
【0018】
パーキングブレーキ4は、車輪3のうち左右の後輪に取り付けられ、車輪3を制動する。パーキングブレーキ4は、例えば、車輪3に固定されたブレーキドラム(図示せず)と、ブレーキドラムの内周面に接触可能に配置されたブレーキシュー(図示せず)とを有するブレーキ装置を用いることができ、これ以外の機構のものも採用可能である。
【0019】
アクチュエータ5は、パーキングブレーキ4を作動又は解除する。アクチュエータ5は、ケーブル6を介してパーキングブレーキ4に荷重を供給する。アクチュエータ5は、例えば、モータ(図示せず)の回転に応じてケーブル6を引っ張ることによって、パーキングブレーキ4に荷重を供給し、ブレーキシューがブレーキドラムの内周面に押圧されて、車輪3を制動状態とする。
【0020】
ケーブル6は、例えば、中空のスリーブと、スリーブの中空内を摺動するワイヤとを備えたボーデンケーブルとすることができ、アクチュエータ5による荷重をパーキングブレーキ4に伝達する。
【0021】
加速度センサ7は、加速度検知手段の一例であり、加速度検知手段は、加速度センサ7を含むセンサユニット(図示なし)として構成されている。加速度センサ7は、車両1に作用する重力加速度を計測することにより、車両1が位置する車両の接地面の傾斜角を検出する。ここで、車両の接地面とは、車両が接地している面であって、駐車場など道路以外で電動パーキングブレーキを作動させる場所における傾斜角を推定する場合も含む。
【0022】
車速センサ8は、車両1の速度を検出するものであり、例えば、車軸(図示せず)の回転に応じてパルス信号を生成するエンコーダを用いることができる。なお、前後左右の車輪3のそれぞれに個別に車速センサ8を設け、各車速センサ8の検出信号に基づいて、車速を決定することもできる。
【0023】
操作スイッチ9は、パーキングブレーキ4の作動又は解除を指示する操作を受け付ける。操作スイッチ9は、ドライバーによる操作が容易なダッシュボード又はその周辺に設けられ、ON位置又はOFF位置を指示可能なレバー、又は押しボタンスイッチなどで構成される。
【0024】
制御部10は、電動パーキングブレーキ装置2の動作を制御する。制御部10は、CPU、ROM、RAMなどを含むマイクロプロセッサで構成されており、操作スイッチ9の入力信号、加速度センサ7及び車速センサ8の検出信号が入力されるとともに、アクチュエータ5に制御信号を出力する。
【0025】
図2は、電動パーキングブレーキ装置2の概略構成を示すブロック図である。
アクチュエータ5は、モータ11と、モータ回転センサ12を有している。モータ11は、回転駆動により、ケーブル6を引っ張ることでパーキングブレーキ4に荷重を供給して車輪3を制動し、ケーブル6を押し出すことでパーキングブレーキ4による制動を解除する。
モータ回転センサ12は、モータ11の回転数を検出するエンコーダで構成されており、検出信号を制御部10に入力する。
【0026】
電動パーキングブレーキ装置2は、さらに、荷重センサ13を備えている。
荷重センサ13は、ケーブル6に加えられる引っ張り力の大きさを検出するものであり、検出信号を制御部10に入力する。
【0027】
加速度センサ7、車速センサ8は、車両CAN制御通信バス14を介して、制御部10に接続されている。車両CAN制御通信バス14は、装置間のデータ転送及び制御信号の転送を行うものである。
作動ランプ15は、LEDランプなどで構成され、パーキングブレーキ4の状態に応じて点灯あるいは消灯する。
【0028】
(2)機能構成
図3は、制御部の機能ブロック図である。
制御部10は、荷重算出部21、傾斜角推定部22、収束判定部23、補正傾斜角算出部24を備えている。
【0029】
荷重算出部21は、アクチュエータ5の荷重目標値を算出する。傾斜角推定部22は、加速度センサ7の検出信号に基づいて車両1の接地面の推定傾斜角を算出する。収束判定部23は、傾斜角推定部22により算出された車両1の接地面の推定傾斜角が所定の収束判定条件を満たすか否かを判定する。補正傾斜角算出部24は、傾斜角推定部22により算出された推定傾斜角を予め設定された補正定数により補正することにより補正傾斜角を算出する。
【0030】
傾斜角推定部22は、加速度センサ7からの情報を基に加速度センサからの信号が収束する前に傾斜角を推定することができるものであれば良く、本実施形態においては、加速度推定部31と、加速度補正部32とを有している。加速度推定部31は、加速度センサ7の検出信号に基づいて推定加速度を算出する。例えば、加速度推定部31は、例えば、無限インパルス応答フィルタ処理を行うIIR(Infinite Impulse Response)処理部で構成できる。加速度補正部32は、所定の条件に基づいて、加速度推定部31により算出された推定加速度、又は1つ前の周期で算出された推定加速度を、補正加速度として出力する。
このようにした電動パーキングブレーキ装置2では、収束判定部23により推定傾斜角が収束判定条件を満たすと判定される前には、補正傾斜角算出部24により算出された補正傾斜角に基づいて、荷重算出部21により荷重目標値を算出する。
さらに、荷重算出部21により算出された荷重目標値がアクチュエータ5に入力され、アクチュエータ5によりパーキングブレーキ4の制動動作が行われる。
ここで、荷重目標値は、アクチュエータを作動させる荷重の目標値であればよく、目標とするケーブル6の引っ張り荷重であってもよく、目標とするケーブル6のストロークであってもよい。
【0031】
制御部10は、この他に、低域通過フィルタ処理部(図示せず)、車速判定部(図示せず)、モータ制御部(図示せず)などを備えることができる。低域通過フィルタ処理部は、加速度センサ7の出力値を処理して、ノイズなどの高周波成分を除去する。車速判定部は、車速センサ8の出力値に基づいて、車両1が停止状態であるか否かを判定する。モータ制御部は、荷重算出部21により算出された荷重目標値に基づいて、アクチュエータ5に制御信号を送信する。
また、制御部10には、レジスタ又はRAM(Random Access Memory)などの記憶部(図示せず)を備えており、各種データを一時的に記憶可能となっている。
【0032】
(3)制御動作
図4は、電動パーキングブレーキ装置のフローチャートである。
ここでは、ドライバーが操作スイッチ9を操作した後の電動パーキングブレーキ装置2動作を説明する。
ステップS401において、制御部10は、車速センサ8の出力値を取得する。具体的には、制御部10は、車両CAN制御通信バス14を介して入力される車速センサ8の出力値を取得する。
ステップS402において、制御部10は、車速センサ8の出力値に基づいて、車速が所定値以下であるか否かを判別する。所定値は、車両1が十分に減速したと判断できる速度が設定されるものであって、例えば、2km/hとすることができる。制御部10は、車速が2km/h以下であると判断した場合にはステップS403に移行し、車速が2km/hを超えると判断した場合にはステップS407に移行する。
【0033】
ステップS403において、制御部10は、加速度センサ7の出力値Gを取得する。具体的に、制御部10は、車両CAN制御通信バス14を介して入力される加速度センサ7の出力信号を受信し、低域通過フィルタ処理によりノイズ除去処理を行った後、記憶部の所定領域に記憶する。
【0034】
ステップS404において、制御部10は、加速度センサ7の出力値Gに対して加速度推定部31によるIIRフィルタ処理を行って、推定加速度GFを算出する。
ステップS405において、制御部10は、車両1の停止状態が継続しているか否かを判定する。具体的に、制御部10は、車速が0km/hである状態の継続時間を計測し、所定時間以上継続していると判断した場合には、ステップS408に移行し、継続時間が所定時間未満であると判断した場合には、ステップS406に移行する。
ここで、制御部10は、車速センサ8の出力値が所定値未満である場合に、車速が0km/hであると判断する。車両1の停止状態の継続時間は、車両の大きさや重量又は加速度センサの搭載位置によって変わるものであり、例えば、1000msとすることができ、制御部10は、1000msを超えて車速が0km/hである状態が継続する場合に、ステップS408に移行し、そうでない場合にはステップS406に移行する。
【0035】
図5は、車両が停止した際の加速度センサの出力値の遷移を示す説明図である。
図5において、車速センサ8の出力値の遷移を車速センサ出力Aで示し、低域通過フィルタ処理後の加速度センサ7の出力値の遷移を加速度センサ出力Bで示す。
図5に示す例では、時刻(t1)において、車速センサ8の出力値が0になり、制御部10は車両1が停止したと判断できる。車速がゼロになった時点で車両1は進行を停止するが、慣性により前のめりの姿勢になる。その後、車両1は、停止位置における前後に揺れる状態をしばらく継続する。
したがって、
図5に示すように、加速度センサ出力Bは、停止した時刻(t1)から車両1の揺れに応じて、接地面の傾斜角に対応する値Uを中心に変動し、車両1の停止状態が継続すれば、車両1の揺れの収束とともに、加速度センサ出力Bも収束する。
【0036】
制御部10は、車速がゼロになった時刻(t1)から1000msを経過していないと判断すると、ステップS406に移行する。
ステップS406において、制御部10は、補正加速度GRを推定加速度GFで更新する。傾斜角推定部22の加速度補正部32は、加速度推定部31により算出された推定加速度GFと、1つ前の周期における補正加速度GRのいずれかを出力する。ここでは、加速度推定部31により算出され推定加速度GFにより、補正加速度GRを上書きして所定の記憶領域に記憶させる。
【0037】
ステップS407において、制御部10は、荷重目標値を最大値に設定して、アクチュエータ5に出力する制御信号を生成する。
ここでは、制御部10は、車速がゼロになった後、所定時間経過していないことから、加速度センサ7の出力値Gが変動をしている可能性が高く、車両1の接地面の傾斜角を推定すること難しいと判断する。したがって、制御部10は、荷重算出部21により算出されるアクチュエータ5の荷重目標値が最大になるようにして、パーキングブレーキ4を最大の制動状態とする。
【0038】
図5の時刻(t1)以前には、車速がゼロになっていない状態であり、加速度センサ7による接地面の傾斜角を推定することが困難である。したがって、制御部10は、ステップS402において、車速が所定値以下でないと判断された場合は、推定加速度及び推定傾斜角の算出を行うことなく、ステップS407において、荷重目標値を最大値に設定する。ステップS407の後、制御部10は処理を終了する。
【0039】
ステップS408において、制御部10は、推定傾斜角の値が収束条件を満たしたか否かを判別する。具体的に、収束判定部23が、傾斜角推定部22により算出された推定傾斜角の値が所定時間一定であれば、推定傾斜角の値が収束条件を満たしたものと判断して、ステップS412に移行する。また、収束判定部23は、推定傾斜角の値が変動しない時間が所定時間未満であると判断した場合には、ステップS409に移行する。ここで、所定時間は、加速度センサの搭載位置や車両の大きさや重量等により適宜設定される値である。
【0040】
推定傾斜角が安定した値に収束したか否については、加速度補正部32が出力する補正加速度GRが所定範囲内であるかいなかを判定することにより、間接的に推定傾斜角が収束したか否かの判定に代えることができる。
【0041】
図6は、加速度センサの出力値に基づく推定傾斜角及び荷重目標値のタイムチャートである。
ここで、制御部10は、車両CAN制御通信バス14からデータを受信する周期で、加速度センサ7の出力信号を受信して、これに基づく処理を実行する。加速度センサ7の出力値を加速度センサ出力Gとし、加速度センサ出力GをIIRフィルタ処理した加速度推定部31の出力値を推定加速度GFとする。
【0042】
収束判定部23は、車速がゼロになった時刻(t1)から、加速度補正部32が出力する補正加速度GRの値が収束するか否かの収束判定を開始する。収束判定部23は、所定周期で加速度補正部32から出力される補正加速度GRの値を、1つ前の周期における補正加速度GRの値と比較して、変動がない状態が1000msの時間継続した場合、補正加速度GRが収束条件を満たしたと判断する。
図6の例では、収束判定部23は、時刻(t3)において、補正加速度GRが収束したとみなし、推定傾斜角の値が収束条件を満たしたと推定する。
【0043】
ステップS409において、制御部10は、推定加速度GFの補正を行う。具体的に、加速度補正部32は、(GR−0.1m/s
2)<=GF<=(GR+0.1m/s
2)である場合には、1つ前の周期における補正加速度GRを維持し、(GR−0.1m/s
2)<=GF<=(GR+0.1m/s
2)でない場合には、補正加速度GR=推定加速度GFとする。
【0044】
ステップS410において、制御部10は、補正加速度GRに基づいて、車両1の接地面の推定傾斜角を、予め設定された誤差補正値を用いて補正する。具体的に、補正傾斜角算出部24は、加速度補正部32が出力する補正加速度GRと、所定の誤差補正値αを用いて、補正傾斜角θ=sin
−1((|GR|+α)/9.8)を算出する。
誤差補正値αは、例えば、補正加速度GR>0(m/s
2)である場合には、α=0(m/s
2)とし、補正加速度GR<=0(m/s
2)の場合には、α=0.3(m/s
2)とすることができる。誤差補正値αは、車両の大きさや重量、加速度センサの位置又は制御の処理周期により異なるものであり、補正傾斜角に基づいてアクチュエータの荷重目標値を設定する際に、パーキングブレーキの作動時におけるパーキングブレーキの荷重に不足が生じないような値であれば良い。
【0045】
ステップS411において、制御部10は、補正傾斜角θに基づいて荷重目標値を算出する。具体的に、荷重算出部21は、補正傾斜角θを用いてパーキングブレーキ4の荷重目標値を算出し、アクチュエータ5に供給する制御信号を生成する。この後、制御部10は処理を終了する。
【0046】
ステップS412において、制御部10は、補正加速度GRを推定加速度GFにより更新する。具体的に、加速度推定部31により算出された推定加速度GFにより、補正加速度GRを上書きして所定の記憶領域に記憶させる。
【0047】
ステップS413において、制御部10は、補正加速度GRに基づいて、推定傾斜角を算出する。具体的に、補正傾斜角算出部24は、加速度補正部32が出力する補正加速度GRに基づいて、推定傾斜角θ=sin
−1(|GR|/9.8)を算出する。
この後、制御部10は、ステップS411に移行して、推定傾斜角θに基づいて、荷重目標値を算出する。具体的に、荷重算出部21は、推定傾斜角θを用いてパーキングブレーキ4の荷重目標値を算出し、アクチュエータ5に供給する制御信号を生成する。この後、制御部10は処理を終了する。
【0048】
本実施形態では、加速度センサ7の出力値に基づいて、IIRフィルタ処理により加速度を推定し、車両1の接地面の傾斜角を決定している。電動パーキングブレーキ装置2の操作スイッチ9が操作された際に、推定された接地面の傾斜角に基づいて、パーキングブレーキ4に供給する荷重目標値を迅速に決定することが可能である。
加速度センサ7の出力値が収束する前は、補正傾斜角算出部24により、車両1の接地面の傾斜角を補正して、この補正傾斜角に基づいて荷重目標値を決定していることから、アクチュエータ5の制御量を適切に設定できる。
【0049】
例えば、従来であれば、下り勾配の場合には、IIRフィルタ処理により算出される推定加速度が低めになることから、荷重目標値が必要な荷重を下回ることになり、車両1の動き出しが生じるおそれがある。しかし、本実施形態では、前述したように、補正加速度GRが収束条件を満たす前(推定傾斜角が収束条件を満たす前)に、推定傾斜角を所定の誤差補正値αを用いて補正することで、適切な傾斜角により、荷重目標値を算出するが可能となる。
【0050】
(4)実施形態の特徴
電動パーキングブレーキ装置2は、パーキングブレーキ4(パーキングブレーキの一例)と、アクチュエータ5(アクチュエータの一例)と、制御部10(制御部の一例)と、加速度センサ7(加速度検知手段の一例)とを備えている。パーキングブレーキ4は、車両1(車両の一例)の車輪3を制動する。アクチュエータ5は、パーキングブレーキ4を作動・解除させる。制御部10が、アクチュエータ5を制御する。加速度センサ7は、車両1の加速度に基づく出力値G(検出信号の一例)を制御部10へ出力する。
制御部10は、荷重算出部21(荷重算出部の一例)と、傾斜角推定部22(傾斜角推定部の一例)と、収束判定部23(収束判定部の一例)と、補正傾斜角算出部24(補正傾斜角算出部の一例)とを備えている。
荷重算出部21は、アクチュエータ5の荷重目標値を算出する。傾斜角推定部22は、加速度センサ7の検出信号に基づいて車両1の接地面の推定傾斜角を算出する。収束判定部23は、傾斜角推定部22により算出された車両1の接地面の推定傾斜角が所定の収束判定条件を満たすか否かを判定する(例えば、ステップS408)。補正傾斜角算出部24は、傾斜角推定部22により算出された推定傾斜角を予め設定された誤差補正値α(補正定数の一例)により補正することにより補正傾斜角を算出する(例えば、ステップS410)。
さらに電動パーキングブレーキ装置2は、収束判定部23により推定傾斜角が収束判定条件を満たすと判定される前には(例えば、ステップS408でNo)、補正傾斜角算出部24により算出された補正傾斜角に基づいて、荷重算出部21により荷重目標値を算出する(例えば、ステップS411)。
【0051】
電動パーキングブレーキ装置2は、加速度センサ7の出力値Gに基づいて、傾斜角推定部22が推定加速度GFを算出し(例えば、ステップS404)、この推定加速度GFを補正加速度GRに補正する(例えば、ステップS409)ことで、傾斜角の推定を迅速に行うとともに、正確な傾斜角の推定を確実にする。
また、電動パーキングブレーキ装置2は、補正加速度GRの値に基づいて、推定傾斜角の値が収束するか否かを判定し(例えば、ステップS408)、推定傾斜角の値が収束する前には(例えば、ステップS408でNo)、推定傾斜角を予め設定された誤差補正値αで補正することにより、推定傾斜角を補正して(例えば、ステップS410)、荷重目標値を適切な値に設定できる(例えば、ステップS411)。
【0052】
(5)第2実施形態
荷台が架装されるトラックに電動パーキングブレーキ装置が用いられる場合、荷台により車体が車両の接地面に対して傾斜し、接地面の実際の傾斜角と推定傾斜角とに誤差が生じて、アクチュエータの荷重目標値が不足してしまうことがある。このような荷重目標値の不足を補うために、本発明の第2実施形態として、推定傾斜角が所定値以上であるかどうかにより、第1補正定数又は第2補正定数により補正傾斜角を算出し、この補正傾斜角を用いて荷重目標値を算出する電動パーキングブレーキ装置を開示する。
【0053】
荷台が架装されるトラックにおいて、推定傾斜角と接地面の実際の傾斜角との間の誤差は荷台の重量や大きさにより異なる。
このことから、接地面の実際の傾斜角がゼロである時に、荷台を架装して算出される推定傾斜角の誤差の最大値と最小値を求め、この誤差の最大値と最小値との間の値を所定の値として設定し、所定の値を閾値として、第1補正定数と第2補正定数のうちいずれを用いるかを判断することができる。なお、本実施形態では、架装による誤差の最大値を所定の値として設定している。
また、第2実施形態では、実際の傾斜角がゼロである場合の誤差の最小値aを第1補正定数aとし、実際の傾斜角がゼロである場合の誤差の最大値bを第2補正定数bとしているが、補正傾斜角θが実際の傾斜角より小さくなる場合には、これに応じて補正傾斜角θが実際の傾斜角以上となるような第1補正定数、第2補正定数、及び所定の値を設定できる。このような第1補正定数及び第2補正定数を用いて推定傾斜角を補正することによって、アクチュエータの荷重値の不足を防止できる。
【0054】
次に、
図7を用いて第2実施形態の具体的な説明を行う。
図7は、第2実施形態における補正加速度と実際の傾斜角との関係を示す説明図である。
図7では、横軸を接地面の実際の傾斜角、縦軸を補正加速度GRとし、(a)は補正定数として一定の値を用いて補正した場合を示し、(b)は補正定数として第1補正定数a及び第2補正定数bを用いた場合を示す。
図7に示すように、架装により実際の傾斜角と補正加速度GRとの間に最小値a、最大値bの誤差が生じるものとする。例えば、誤差の最大値bは、0.3m/s
2、誤差の最小値aは、0m/s
2であるとする。なお、補正加速度GRの誤差が最小値の0m/s
2である場合は、誤差が無い場合と等しい値となるが、理解しやすくするために図面上では0m/s
2とは異なる位置を最小値aとして示している。
図7(a)では、架装による誤差を無くすために、誤差の最大値b(=0.3m/s
2)を補正定数βとし、この補正定数βにより補正加速度GRを一律に補正している。具体的には、補正加速度GRから補正定数βを減算することにより、補正加速度GRを補正する。
このことにより、架装による誤差の最大値と最小値との間に挟まれた領域は、
図7(a)の縦線領域Aにシフトされる。
この場合、補正後の補正加速度GRが0以上の場合には、接地面の実際の傾斜角より補正傾斜角が小さくなってしまう場合がある。このようにして算出された補正傾斜角に基づいて、アクチュエータの荷重目標値を算出した場合には、接地面の実際の傾斜角に必要なアクチュエータの荷重目標値よりも小さくなるおそれがある。なお、ここでのアクチュエータの荷重目標値は、補正定数βを用いて補正傾斜角θ=sin
−1((GR−β)/9.8)が算出され、この補正傾斜角θを用いることにより荷重目標値が算出される。
【0055】
図7(b)に示すように、加速度補正部32により算出された補正加速度GRの値が、架装による誤差の最大値b(=0.3m/s
2)を超えない場合には、
図7(a)の場合と同様に、第2補正定数b(=0.3m/s
2)を補正定数βとして、補正加速度GRを算出している。具体的には、補正加速度GRから第2補正定数bを減算することにより、補正加速度GRを補正する。
このことにより、加速度補正部32により算出された補正加速度GRの値が、架装による誤差の最大値b(=0.3m/s
2)を超えない領域は、
図7(b)の第1縦線領域Bにシフトする。
ここで、荷重目標値は、補正定数βとして第2補正定数bを用いて傾斜角推定部22により第2補正傾斜角θ=sin
−1((GR−b)/9.8)が算出され、この補正傾斜角θを用いて荷重算出部21により荷重目標値が算出される。
【0056】
また、加速度補正部32により算出された補正加速度GRの値が、架装による誤差の最大値b(=0.3m/s
2)以上である場合には、第2補正定数a(=0m/s
2)を補正定数βとして、補正加速度GRを算出している。具体的には、補正加速度GRから第1補正定数aを減算することにより、補正加速度GRを補正する。
このことにより、加速度補正部32により算出された補正加速度GRの値が、架装による誤差の最大値b(=0.3m/s
2)以上である領域は、
図7(b)の第2縦線領域Cにシフトする。
このようにすることにより、接地面の実際の傾斜角より補正後の推定傾斜角が小さくなってしまうことが回避され、実際の傾斜角に対して必要な荷重目標値を設定することができる。ここで、荷重目標値は、補正定数βとして第1補正定数aを用いて、傾斜角推定部22により第1補正傾斜角θ=sin
−1((GR−a)/9.8)が算出され、この補正傾斜角θを用いて荷重算出部21により荷重目標値が算出される。なお、補正加速度GRの算出に関しては、前述の実施形態と同様であるため省略する。
上述より、推定傾斜角が実際の傾斜角より小さい場合には、不足分を補う補正を行うことで傾斜角に対して必要なアクチュエータの荷重目標値を設定することができる。
このような架装による誤差は、常に生じうるため、収束判定が開始されてから収束判定成立後も架装による誤差の補正を行うことが好ましい。
【0057】
(6)第2実施形態の特徴
電動パーキングブレーキ装置2は、パーキングブレーキ4(パーキングブレーキの一例)と、アクチュエータ5(アクチュエータの一例)と、制御部10(制御部の一例)と、加速度センサ7(加速度検知手段の一例)とを備えている。パーキングブレーキ4は、車両1(車両の一例)の車輪3を制動する。アクチュエータ5は、パーキングブレーキ4を作動・解除させる。制御部10が、アクチュエータ5を制御する。加速度センサ7は、車両1の加速度に基づく出力値G(検出信号の一例)を制御部10へ出力する。
制御部10は、荷重算出部21(荷重算出部の一例)と、傾斜角推定部22(傾斜角推定部の一例)と、収束判定部23(収束判定部の一例)と、補正傾斜角算出部24(補正傾斜角算出部の一例)とを備えている。
荷重算出部21は、アクチュエータ5の荷重目標値を算出する。傾斜角推定部22は、加速度センサ7の検出信号に基づいて車両1の接地面の推定傾斜角を算出する。
補正傾斜角算出部24は、傾斜角推定部22により算出された推定傾斜角を予め設定された第1補正定数a及び第2補正定数bにより補正することにより補正傾斜角を算出する。
さらに、電動パーキングブレーキ装置2は、推定傾斜角が所定の値以上の場合には、補正傾斜角算出部24により第1補正定数aを用いて補正された第1補正傾斜角に基づいて荷重算出部21により荷重目標値が算出され、推定傾斜角が所定の値より小さい場合には、補正傾斜角算出部24により第2補正定数bを用いて補正された第2補正傾斜角に基づいて、荷重算出部21により前記荷重目標値が算出する。
【0058】
(7)他の実施形態
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の実施形態及び変形例は必要に応じて任意に組み合せ可能である。