【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
1.使用材料
試験に用いた各種材料を表1に示す。また、試験に用いたフライアッシュ(FA)の特性を表2に示す。なお、表2中のFA1〜5は、前記(1)〜(4)の条件を全て満たすが、FA6〜10は前記(1)〜(4)の条件のいずれかを満たさない。
また、フライアッシュ中の石英の格子体積を求める際に用いたX線回折分析(XRD)の測定条件とリートベルト解析の条件は、以下のとおりである。
(a)X線回折分析の測定条件
X線回折分析は、Bruker社製のX線回折装置(D8 Advance)を用いて、ターゲットCuKα、管電圧35kV、管電流350mA、走査範囲10〜60°(2θ)、ステップ幅0.0234°、およびスキャンスピード0.13°/sの条件で測定した。
(b)リートベルト解析条件
リートベルト解析は、Bruker社製の解析ソフト(Topas ver. 2.1)を用いた。また、結晶構造データ(ICDD number)は331161(Quartz)を用いた。
また、表2中のFA2〜4の締め固め密度は、前記の締め固め密度の測定方法を用いて測定した。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
2.高温環境用セメント組成物の製造
フライアッシュ(FA)、セメント(C)、任意成分である高炉スラグ粉末(BS)および石膏粉末(GG)を、表3に示すセメント組成物の配合に従い混合して、セメント組成物を製造した。
なお、表3において、
(i)実施例1〜16は、前記(1)〜(4)の条件を全て満たすフライアッシュ(FA1〜5)とポルトランドセメントの合計を100質量%として、前記フライアッシュの含有率が15〜55質量%の範囲にある、本発明の高温環境用セメント組成物である。
(ii)比較例1、2、および10は、フライアッシュを含まないセメント組成物である。
(iii)比較例3〜9は、前記(1)〜(4)の条件のいずれかを満たさないFA6〜10を含むセメント組成物である。
(iV)比較例11、12は、フライアッシュの含有率が前記15〜55質量%の範囲を外れたセメント組成物である。
【0029】
【表3】
【0030】
2.コンクリートの配合
試験に用いたコンクリートの配合を表4に示す。
【0031】
【表4】
【0032】
3.試験方法
表5に示す各種の試験を、表5に示すJIS等の試験方法に準拠して行った。
【0033】
【表5】
【0034】
4.コンクリートのフレッシュ性状の試験
(1)試験方法
コンクリートの混練は、環境温度をシンガポールの試験基準である27℃に調整した試験室内で、公称容積55Lの強制パン型ミキサに、粗骨材、細骨材、および表3に記載のセメント組成物を投入した。次に、20秒間空練りをした後、水、減水剤、および空気量調整剤を投入し、60秒間練り混ぜた。そして、ミキサ内のコンクリートを掻き落とした後、再度60秒間練り混ぜて、コンクリートを排出した後、直ちにコンクリートのスランプ、空気量、および(フレッシュ)コンクリートの温度を測定した。代表例として、実施例1〜4、実施例6〜9、および比較例1、2のセメント組成物を用いたコンクリートNo.1〜5の試験結果を、表6に示す。
【0035】
【表6】
【0036】
(2)試験結果の評価
表6に示すように、本発明の高温環境用セメント組成物(実施例1〜4、および実施例6〜9)を用いた本発明の高温環境用コンクリートの各種のフレッシュ性状は、フライアッシュを含まない従来コンクリート(比較例1、2)のフレッシュ性状とほとんど差がなく、コンクリートの施工性が同等であった。
一方、超遅延性減水剤(R1)を含まないコンクリート(No.3)は、スランプが3.0cmと小さく、施工性が劣っていた。
【0037】
5.自己収縮ひずみ、簡易断熱温度上昇量、および圧縮強度の試験
(1)試験方法
簡易断熱温度上昇量の試験に用いた簡易断熱試験用容器は、
図1に示すように、厚さが200mmの発泡スチロール製断熱材と、試験後に脱型が容易なように厚さ12mmのコンクリートパネルを用いて、縦400mm、横400mm、および高さ400mmの大きさの内部空間を形成してなる容器である。
そして、
図2(a)に示す測温機能付き埋込型ひずみ計を取り付けた支持鋼材を、
図2(b)に示すように、該内部空間の中心に立てて設置した。次に、前記混練した実施例および比較例のコンクリートを3層に分け、1層毎にバイブレータをかけて打設した後、コンクリートパネルおよび発泡スチロール製断熱材を用いて容器に蓋をした後、環境温度が27℃で、材齢28日のコンクリートの自己収縮ひずみと簡易断熱温度上昇量を測定した。
また、コンクリートの圧縮強度は、表5に記載のとおり、JIS A 1108「コンクリートの圧縮強度試験方法」に準拠して測定した。
これらの試験結果を表7に示す。
【0038】
【表7】
【0039】
(2)試験結果の評価
(i)自己収縮ひずみについて
コンクリートの自己収縮ひずみについて、表7から、以下のことが云える。すなわち、
(a)(Na
2O+0.658K
2O)/(MgO+SO
3+TiO
2+P
2O
5+MnO)の質量比が1.78と大きなFA10を含む比較例7を用いたコンクリート(試験例10)では−208×10
−6と大きいのに対し、本発明の高温環境用セメント組成物(実施例1〜5)を用いた本発明の高温環境用コンクリート(試験例1〜5)では−105〜−155×10
−6と小さい。また、同様に、
(b)コンクリート(試験例17)では−292×10
−6と大きいのに対し、本発明の高温環境用コンクリート(試験例11〜15)では−230〜−268×10
−6と小さい。
(c)コンクリート(試験例26)では−250×10
−6と大きいのに対し、本発明の高温環境用コンクリート(試験例20〜24)では−135〜−180×10
−6と小さい。
(d)コンクリート(試験例33)では−392×10
−6と大きいのに対し、本発明の高温環境用コンクリート(試験例27〜31)では−330〜−366×10
−6と小さい。
また、これらの結果は、水/セメント組成物(W/B)比に影響されない。
これらに対し、高炉スラグを含むがフライアッシュを含まないセメント組成物(比較例1および2)を用いた従来コンクリート(試験例18および19)の自己収縮ひずみは、それぞれ−300×10
−6および−350×10
−6と、前記試験例1〜5および11〜15の自己収縮ひずみと比べ大きい。
【0040】
(ii)簡易断熱温度上昇量について
コンクリートの簡易断熱温度上昇量について、表7から、以下のことが云える。すなわち、
(a)(Na
2O+0.658×K
2O)/(MgO+SO
3+TiO
2+P
2O
5+MnO)の質量比が1.78と大きなFA10を含む比較例7を用いたコンクリート(試験例10)では43℃と高いのに対し、本発明の高温環境用セメント組成物(実施例1〜5)を用いた本発明の高温環境用コンクリート(試験例1〜5)では31〜35℃と低い。また、同様に、
(b)コンクリート(試験例17)では40℃と高いのに対し、本発明の高温環境用コンクリート(試験例11〜15)では28〜33℃と低い。
(c)コンクリート(試験例26)では38℃と高いのに対し、本発明の高温環境用コンクリート(試験例20〜24)では28〜32℃と低い。
(d)コンクリート(試験例33)では36℃と高いのに対し、本発明の高温環境用コンクリート(試験例27〜31)では24〜29℃と低い。
また、これらの結果は、水/セメント組成物比に影響されない。
【0041】
(ii)圧縮強度について
コンクリートの圧縮強度について、表7から、以下のことが云える。すなわち、
(a)ブレーン比表面積が2500cm
2/gより小さいFA6を含む比較例3を用いたコンクリート(試験例6)、質量減少率が5質量%より大きいFA7を含む比較例4を用いたコンクリート(試験例7)、SiO
2の含有率が50質量%より小さいFA8を含む比較例5を用いたコンクリート(試験例8)、および(Na
2O+0.658×K
2O)/(MgO+SO
3+TiO
2+P
2O
5+MnO)の質量比が0.2より小さなFA9を含む比較例6を用いたコンクリート(試験例9)では、材齢28日、56日、および91日の圧縮強度は、それぞれ48〜50MPa、54〜56MPa、および65〜67MPaと低いのに対し、本発明の高温環境用セメント組成物(実施例1〜5)を用いた本発明の高温環境用コンクリート(試験例1〜5)では、材齢28日、56日、および91日の圧縮強度は、それぞれ56〜58MPa、62〜63MPa、および70〜72MPaと高い。また、同様に、
(b)コンクリート(試験例16)では、材齢28日、56日、および91日の圧縮強度は、それぞれ52MPa、58MPa、および68MPaと低いのに対し、本発明の高温環境用コンクリート(試験例11〜15)では、材齢28日、56日、および91日の圧縮強度は、それぞれ63〜66MPa、67〜71MPa、および73〜78MPaと高い。
(c)コンクリート(試験例25)では、材齢28日、56日、および91日の圧縮強度は、それぞれ33MPa、41MPa、および46MPaと低いのに対し、本発明の高温環境用コンクリート(試験例20〜24)では、材齢28日、56日、および91日の圧縮強度は、それぞれ39〜42MPa、45〜48MPa、および50〜54MPaと高い。
(d)コンクリート(試験例32)では、材齢28日、56日、および91日の圧縮強度は、それぞれ36MPa、44MPa、および49MPaと低いのに対し、本発明の高温環境用コンクリート(試験例27〜31)では、材齢28日、56日、および91日の圧縮強度は、それぞれ47〜50MPa、53〜57MPa、および57〜61MPaと高い。
また、これらの結果は、水/セメント組成物比に影響されない。
【0042】
6.フライアッシュの含有率とコンクリート特性の関係
フライアッシュ(FA2)とポルトランドセメントの合計を100質量%として、フライアッシュ(FA2)の含有率が0質量%(比較例10)、10質量%(比較例11)、25質量%(実施例11)、45質量%(実施例12)、および60質量%(比較例12)のセメント組成物を用いたコンクリート(試験例41〜45)を、前記コンクリートのフレッシュ性状の試験方法と同様に混練して、前記と同様にコンクリートの自己収縮ひずみ、簡易断熱温度上昇量、および圧縮強度を測定した。その結果を、前記試験例2(セメント組成物中のフライアッシュ(FA2)の含有率は30.5質量%)、18および19の結果とともに表8に示す。
【0043】
【表8】
【0044】
自己収縮ひずみは、フライアッシュの含有率が0質量%、および10質量%と少ない試験例43および44では、それぞれ−210×10
−6および−185×10
−6と大きいのに対し、該含有率が25〜45質量%の本発明の高温環境用セメント組成物(実施例11、2および12)を用いたコンクリート(試験例41、2および42)では、−100〜−120×10
−6と小さい。
また、従来コンクリート(試験例18および19)と比べても、コンクリート(試験例41、2および42)の自己収縮ひずみは小さく、圧縮強度は同程度である。
【0045】
7.高炉スラグ粉末の含有率とコンクリートの圧縮強度の関係
フライアッシュ(FA2)、ポルトランドセメント、および高炉スラグ粉末の合計を100質量%として、高炉スラグ粉末の含有率が38.3質量%(実施例13)、43.1質量%(実施例14)、47.8質量%(実施例15)、および57.4質量%(実施例16)の本発明の高温環境用セメント組成物を用いたコンクリート(試験例46〜49)を、前記コンクリートのフレッシュ性状の試験方法と同様に混練して、前記と同様にコンクリートの圧縮強度を測定した。その結果を、前記試験例2(セメント組成物中の高炉スラグ粉末の含有率は0質量%)、12(セメント組成物中の高炉スラグ粉末の含有率は28.7質量%)、18および19の結果とともに表9に示す。
【0046】
【表9】
【0047】
表9に示すように、適量の高炉スラグ粉末と石膏を含む本発明の高温環境用セメント組成物を用いたコンクリート(試験例12、46〜49)は、強度発現性、特に材齢28日の強度発現性が向上することが分かる。
【0048】
(参考例)
前記FA2を含むセメント組成物(実施例2)を用いたNo.6のコンクリート(試験例50)と、前記FA10を含むセメント組成物(比較例7)を用いたNo.6のコンクリート(試験例51)の、環境温度が20℃における自己収縮ひずみ、簡易断熱温度上昇、および圧縮強度を、20℃に調整した試験室内でコンクリートの混練等を行った以外は、前記と同様にして測定した。その結果を表10に示す。
なお、前記コンクリートのスランプおよび空気量は、それぞれ、試験例50で10.6cmおよび1.4%、試験例51で10.3cmおよび空気量1.4%であった。
【0049】
【表10】
【0050】
環境温度が20℃では、表10に示すように、実施例2のセメント組成物を用いたコンクリート(試験例50)と、比較例7のセメント組成物を用いたコンクリート(試験例51)では、自己収縮ひずみ、簡易断熱温度上昇、および圧縮強度に差はない。
しかし、環境温度が27℃と高温になると、表7に示すように、試験例50および試験例51にそれぞれ対応する、実施例2のセメント組成物を用いた本発明の高温環境用コンクリート(試験例21)と、比較例7のセメント組成物を用いたコンクリート(試験例26)では、自己収縮ひずみ、および簡易断熱温度上昇に大きな差が生じ、試験例21は試験例26と比べ、自己収縮ひずみと簡易断熱温度上昇がいずれも低い。
したがって、本発明によれば、コンクリート分野で広く用いられている材料を使用して、自己収縮ひずみ、および温度上昇が低い高温環境用コンクリートを提供できる。