(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6086482
(24)【登録日】2017年2月10日
(45)【発行日】2017年3月1日
(54)【発明の名称】関節拘縮、固縮または痙縮のシミュレータ
(51)【国際特許分類】
G09B 9/00 20060101AFI20170220BHJP
【FI】
G09B9/00 Z
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-80011(P2013-80011)
(22)【出願日】2013年4月5日
(65)【公開番号】特開2014-202970(P2014-202970A)
(43)【公開日】2014年10月27日
【審査請求日】2016年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】505246789
【氏名又は名称】学校法人自治医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】513083015
【氏名又は名称】株式会社井上製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100109508
【弁理士】
【氏名又は名称】菊間 忠之
(72)【発明者】
【氏名】宇城 令
(72)【発明者】
【氏名】川上 勝
(72)【発明者】
【氏名】高山 詩穂
(72)【発明者】
【氏名】淺田 義和
(72)【発明者】
【氏名】井上 義孝
【審査官】
柴田 和雄
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−287289(JP,A)
【文献】
特開2007−52207(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3101007(JP,U)
【文献】
特開2007−185246(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/33391(US,A1)
【文献】
実開平4−108578(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 9/00
A61F 5/37
A63B 69/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人の少なくとも一方の上肢帯の前から後ろにかけて宛がうように湾曲した形を成す肩パッドを有するジャケット、
上端が前記ジャケットの肩パッドに取り付けられていて、人の肩関節、肘関節および橈骨手根関節の位置に対応する部分においてそれぞれ屈曲して、人の肩、上腕、肘、前腕、および手に沿って配することができる上肢用棒状体、および
人の上腕、前腕および手指を上肢用棒状体に締め付けることができる手段 を有する、上肢拘束装具と、
人の少なくとも一方の下肢帯側部の前から後ろにかけて宛がうように湾曲した形を成す腰芯を有するウェストバンド、
上端が前記ウェストバンドの腰芯に取り付けられていて、人の下肢帯側部、大腿外側、膝外側および下腿外側に沿って配することができる下肢用棒状体、および
人の大腿および下腿を下肢用棒状体に締め付けることができる手段 を有する、下肢拘束装具と
からなる関節拘縮、固縮または痙縮のシミュレータ。
【請求項2】
人の少なくとも一方の上肢帯の前から後ろにかけて宛がうように湾曲した形を成す肩パッドを有するジャケット、
上端が前記ジャケットの肩パッドに取り付けられていて、人の肩関節、肘関節および橈骨手根関節の位置に対応する部分においてそれぞれ屈曲して、人の肩、上腕、肘、前腕、および手に沿って配することができる上肢用棒状体、および
人の上腕、前腕および手指を上肢用棒状体に締め付けることができる手段
を有する、上肢拘束装具。
【請求項3】
上肢用棒状体は二本の棒からなり、該二本の棒は肩関節対応部および橈骨手骨関節対応部における間隔が肘関節対応部における間隔よりも狭く、肘関節対応部における二本の棒の間に人の肘関節を収めることができる、請求項2に記載の上肢拘束装具。
【請求項4】
人の肘を囲むことができる肘当てをさらに有し、該肘当ては二本の棒の間を跨いで渡されている、請求項3に記載の上肢拘束装具。
【請求項5】
人の少なくとも一方の下肢帯側部の前から後ろにかけて宛がうように湾曲した形を成す腰芯を有するウェストバンド、
上端が前記ウェストバンドの腰芯に取り付けられていて、人の下肢帯側部、大腿外側、膝外側および下腿外側に沿って配することができる下肢用棒状体、および
人の大腿および下腿を下肢用棒状体に締め付けることができる手段
を有する、下肢拘束装具。
【請求項6】
人の大腿内側、膝内側および下腿内側に沿って配することができる補助用棒状体をさらに有し、
下肢用棒状体に締め付けることができる手段で、人の大腿および下腿を補助用棒状体に締め付けることができる、請求項5に記載の下肢拘束装具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、関節拘縮、固縮または痙縮(以下、関節拘縮等ということがある。)のシミュレータに関する。より詳細に、本発明は、上肢および下肢の関節拘縮等を生じた身体の不自由さを体験することができ、且つ該関節拘縮等を生じた人への看護または介護の訓練に使用することができる、装着が容易で軽量な関節拘縮等のシミュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
高齢になったときの身体的機能の低下や心理的変化を疑似的に体験するための器具が種々提案されている。
例えば、特許文献1には、手首までの袖と足首までの裾を有する一繋がりのスーツであって、手首部及び足首部に各々設けられて重りを収容しうる重りポケットと、関節部分の両側に跨って設けられて、その関節の伸長方向に棒を収容し固定しうる棒ポケットと、一端が上半身部の要所に、他端が下半身部の要所に固定され、腰より上部の伸長を拘束する範囲で長さを調節しうるベルトとを備えることを特徴とする身体的障害体験スーツが開示されている。
特許文献2には、身体の部分的又は全身的な機能の低下又は障害を擬似的に再現するための身体機能低下体験装具において、弾性体の弾性力により脊椎を前方に湾曲させるような荷重を加える脊椎加重装具を備えることを特徴とする身体機能低下体験装具が開示されている。
【0003】
特許文献3には、高齢による身体的機能の低下を疑似的に再現するために人体に装着して使用される高齢者疑似体験用キットであって、樹脂製の一対の耳栓と、透視面と黄色系フィルタとグレー系フィルムとを積層させた眼鏡と、上着本体の前面に重りを収納してなる荷重用上着と、肘近傍および肘関節を被覆する肘当て部材と該肘当て部材に接続された紐状部材とを有する一対の肘固定具と、環状に設けられたバンド本体内に重りを収納してなる一対の手首荷重用バンド部材と、手全体を被覆する樹脂製の第1の手袋と該第1の手袋全体を被覆する布製の第2の手袋と指の第2関節までを被覆するように前記第2の手袋を被覆する伸縮性をもつ第3の手袋とを積層させた一対の手袋と、膝近傍および膝関節を被覆する膝当て部材と該膝当て部材に接続された紐状部材とを有する一対の膝固定具と、環状に設けられたバンド本体内に重りを収納してなる一対の足首荷重用バンド部材と、足首近傍および足首関節を被覆する足首当て部材と該足首当て部材に接続された紐状部材とを有する一対の足首半固定具と、屈折自在の複数の関節を有した杖具とを備えたことを特徴とする高齢者疑似体験用キットが開示されている。
【0004】
前記特許文献などに開示される体験器具は、健常者が、高齢者や身体障害者の気持ちをよりよく理解するとともに、現在の生活環境における問題点をより明確に見極められるようにするものである。このような体験器具は、身体の動きを拘束させるために、上肢や下肢の周りに重く太い器具を巻き付けたり、腕を胸部に貼り付けたり、腹部と大腿部との間に拘束テープを張り渡したりなどしている。また、従来の体験器具は、膝や肘の関節を拘束できるが、肩や腰の関節を拘束する機能に劣っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002− 20909号公報
【特許文献2】特開平10−149088号公報
【特許文献3】特開平8−137379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、看護または介護の現場では、関節拘縮、固縮または痙縮を生じた人を抱きかかえたり、服を着換えさせたり、入浴させたりなどの看護または介護が行われているが、前記の特許文献に記載の体験器具では、装着した器具が邪魔をして、抱きかかえ、服の着換え、入浴などの看護または介護の体験をすることができない。
本発明の課題は、上肢および下肢の関節拘縮、固縮または痙縮を生じた身体の不自由さを体験することができ、且つ該関節拘縮、固縮または痙縮を生じた人への看護または介護の訓練に使用することができる、装着が容易で軽量な関節拘縮、固縮または痙縮のシミュレータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記の形態を包含する本発明を完成するに至った。
【0008】
〔1〕 人の少なくとも一方の上肢帯の前から後ろにかけて宛がうように湾曲した形を成す肩パッドを有するジャケット、
上端が前記ジャケットの肩パッドに取り付けられていて、人の肩関節、肘関節および橈骨手根関節の位置に対応する部分においてそれぞれ屈曲して、人の肩、上腕、肘、前腕、および手に沿って配することができる上肢用棒状体、および
人の上腕、前腕および手指を上肢用棒状体に締め付けることができる手段 を有する、上肢拘束装具と、
人の少なくとも一方の下肢帯側部の前から後ろにかけて宛がうように湾曲した形を成す腰芯を有するウェストバンド、
上端が前記ウェストバンドの腰芯に取り付けられていて、人の下肢帯側部、大腿外側、膝外側および下腿外側に沿って配することができる下肢用棒状体、および
人の大腿および下腿を下肢用棒状体に締め付けることができる手段 を有する、下肢拘束装具と
からなる関節拘縮、固縮または痙縮のシミュレータ。
【0009】
〔2〕 人の少なくとも一方の上肢帯の前から後ろにかけて宛がうように湾曲した形を成す肩パッドを有するジャケット、
上端が前記ジャケットの肩パッドに取り付けられていて、人の肩関節、肘関節および橈骨手根関節の位置に対応する部分においてそれぞれ屈曲して、人の肩、上腕、肘、前腕、および手に沿って配することができる上肢用棒状体、および
人の上腕、前腕および手指を棒状体に締め付けることができる手段
を有する、上肢拘束装具。
【0010】
〔3〕 上肢用棒状体は二本の棒からなり、該二本の棒は肩関節対応部および橈骨手骨関節対応部における間隔が肘関節対応部における間隔よりも狭く、肘関節対応部における二本の棒の間に人の肘関節を収めることができる、〔2〕に記載の上肢拘束装具。
〔4〕 人の肘を囲むことができる肘当てをさらに有し、該肘当ては二本の棒の間を跨いで渡されている、〔3〕に記載の上肢拘束装具。
〔5〕 人の肩関節、肘関節および手関節の可動域を狭めることができる、〔2〕〜〔4〕のいずれかひとつに記載の上肢拘束装具。
【0011】
〔6〕 人の少なくとも一方の下肢帯側部の前から後ろにかけて宛がうように湾曲した形を成す腰芯を有するウェストバンド、
上端が前記ウェストバンドの腰芯に取り付けられていて、人の下肢帯側部、大腿外側、膝外側および下腿外側に沿って配することができる下肢用棒状体、および
人の大腿および下腿を下肢用棒状体に締め付けることができる手段
を有する、下肢拘束装具。
〔7〕 人の大腿内側、膝内側および下腿内側に沿って配することができる補助用棒状体をさらに有し、
下肢用棒状体に締め付けることができる手段で、人の大腿および下腿を補助用棒状体に締め付けることができる、〔6〕に記載の下肢拘束装具。
〔8〕 人の股関節および膝関節の可動域を狭めることができる、〔6〕または〔7〕に記載の下肢拘束装具。
【発明の効果】
【0012】
本発明の関節拘縮、固縮または痙縮のシミュレータは、装着が容易で軽量であり、肘または膝の関節拘縮等だけでなく、肘と肩の関節拘縮等または膝と腰の関節拘縮等を体験することができる。装着した状態において、シミュレータが看護または介護の作業の邪魔にならず、抱きかかえ、着換え、入浴などの看護または介護の訓練を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る上肢拘束装具を装着した状態の正面を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る上肢拘束装具を装着した状態の右側面を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る上肢拘束装具を装着した状態の後面を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る上肢拘束装具を外した状態を示す図である。
【
図5】上肢拘束装具に用いられるジャケットを展開した状態を示す図である。
【
図6】上肢拘束装具に用いられる肘当てを展開した状態を示す図である。
【
図7】上肢拘束装具に用いられる甲当てを展開した状態を示す図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る関節拘縮等のシミュレータ(上肢拘束装具と下肢拘束装具)を装着した状態の右側面を示す図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係る関節拘縮等のシミュレータ(上肢拘束装具と下肢拘束装具)を装着した状態の正面を示す図である。
【
図10】本発明の一実施形態に係る下肢拘束装具を外した状態を示す図である。
【
図11】下肢拘束装具に用いられる膝当てを展開した状態を示す図である。
【
図12】下肢拘束装具に用いられるウェストバンドを展開した状態を示す図である。
【
図13】腰芯の台座に棒状体を取り付けた状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面を参酌しながら、本発明の一実施形態に係る関節拘縮、固縮または痙縮のシミュレータを説明する。但し、本発明の技術的範囲は本実施形態に限定されるものではない。本発明の主旨の範囲において構成部材を変更、追加および/または省略した実施形態も本発明の技術的範囲に包含される。
【0015】
本発明の一実施形態に係る関節拘縮等のシミュレータは上肢拘束装具と下肢拘束装具とからなる。
【0016】
本発明の一実施形態に係る上肢拘束装具は、肩パッド3を有するジャケット2、上肢用棒状体1、および締め付け手段を有する。本発明の一実施形態に係る上肢拘束装具を人の上肢に装着することによって、人の肩関節、肘関節および手関節の可動域を狭めることができる。
【0017】
ジャケットは、人の上体に着用できるものであれば、その形状は特に限定されない。図に示すジャケット2はボレロ風の形をしている。すなわち、
図5に示すジャケット2は、左前肩部(左の鎖骨周辺)、左肩、背中(左右の肩甲骨周辺)、右肩および右前肩部(右の鎖骨周辺)を覆う生地で形成されていて、背中側から両脇の下を通って胸の前で繋ぐことができる線条体20、21が設けられている。ジャケットに使用される生地は、特に限定されない。例えば、片面または両面がジャージで内部にスポンジを入れた生地であることができる。線条体20、21は、その太さによって特に制限されず、例えば、紐状のもの、帯状のものであることができる。図示した線条体はバックルにて結ぶことができる帯である。また、図示した線条体に替えて、ボタン、スナップ、ジップファスナー、面ファスナーなどでジャケットを上体にしっかりと着用できるようにしてもよい。三角環22によって線条体を支持してもよい。
【0018】
図示したジャケットは、右の肩部に、肩パッド3を収納できるように、例えば、ポケットが設けられている。該肩パッド3は上肢帯の前から後ろにかけて宛がうように湾曲した形を成した部分31と台座32とから構成されている(
図5中の点線)。肩パッドは、例えば、アルミニウムや繊維強化樹脂などの剛直な材料で作製することができる。本実施形態においては、肩パッドの湾曲部のほぼ頂部(肩峰付近に対応する部分)に棒状体取り付け台座32が設置されている。該台座は
図5に示すように棒状体が斜め後ろに、すなわち、肩峰付近から肩甲骨側に延出するように(
図5中では右下がりに)設置されている。肩パットの大きさは肩関節の可動域を制限するに十分な大きさであれば図示したものに特に制限されない。例えば、上肢帯の前から後ろにかけて宛がうように湾曲した形を成した部分31が、右肩からさらに頸の後ろを経て左肩の辺りまで広がる大きさのものであってもよい。
【0019】
上肢用棒状体は、その上端が前記肩パットに取り付けられている。本実施形態では、上肢用棒状体は、前述した台座と抑え具との間に挟み、螺子で締めて、取り付けられているが、溶接、ピン止め、螺子止めなどの他の手段によって取り付けられていてもよい。螺子止めなどの取り外し可能な手段を上肢用棒状体の取り付けに採用すると、上肢用棒状体の長さを被験者の体格に合わせて調整することができる。図に示す上肢用棒状体1は二本の棒からなる。二本の棒は
図13のごとく両端がU文字状に繋がっていてもよい。該棒は軽量化のために管であることが好ましい。管は、例えば、アルミニウム、繊維強化樹脂などの剛直な材料で作製することができる。二本の棒で構成することによって、捩れに対しての抗力を増大させること、台座の長手方向にスライドさせて長さを調整することなどができる。
【0020】
上肢用棒状体1は、人の肩関節、肘関節および橈骨手根関節の位置に対応する部分においてそれぞれ屈曲している。図に示す棒状体は肩関節対応部においては内向き(肩峰に対して下向き)に、肘関節対応部においては内向き(腕を折り曲げる方向)に、橈骨手根関節対応部においては外向き(手の甲側)に、それぞれ屈曲しているが、屈曲の態様はこれに限られない。上肢用棒状体は、人の肩、上腕、肘、前腕、および手に沿って配することができ、好ましくは肩峰から上腕三頭筋、肘、総指伸筋および指に沿って配することができる。
【0021】
締め付け手段7、9、10、11は、上腕、前腕、手首および手指を上肢用棒状体に締め付けることができるものである。図示した締め付け手段は面ファスナー(ヴェルクロ)を取り付けたテープであるが、前腕、上腕、手首および手指を上肢用棒状体に締め付けることができるものであればこれに限定されない。
【0022】
本発明の一実施形態に係る上肢拘束装具は、肘当て8または/および甲当て12をさらに有することが好ましい。肘当て8は人の肘(腕を折り曲げたときに外側となる部分)を囲むことができるものであり、甲当て12は人の手の甲を囲むことができるものである。肘当ておよび甲当てに使用される生地は、特に限定されない。例えば、片面または両面がジャージで内部にスポンジを入れた生地であることができる。
【0023】
甲当てと肘当てとは物理的に分離したものであってもよいし、肘、前腕および甲までを囲むことができる一体もの、すなわち、手っ甲(甲掛け)様の形を成したものであってもよい。
図6に示す肘当て8の筒状部分81および82に上肢用棒状体1が通され、肘当ての生地が二本の棒の間を跨いで渡される。肘当ての中央部83は筒状になっておらず、その部分では上肢用棒状体が外側に露出し、肘当て中央部83は上肢用棒状体に対して前後左右に位置を移動できるようになっている。また、甲当て12の袋部分121に上肢用棒状体1が収まる。二本の棒が
図13のごとく端がU文字状に繋がっている棒状体を用いた場合は棒状体端部の角で袋部分121を突き破るなどの不具合を低減できる。
【0024】
上肢用棒状体が前述のような二本の棒からなる場合、肩関節対応部および橈骨手骨関節対応部における二本の棒の間隔が肘関節対応部における二本の棒の間隔よりも狭く、肘関節対応部における二本の棒の間に人の肘関節を収めることができるようになっていることが好ましい。そして、肘当ておよび甲当ては、二本の棒の間を跨ぐように渡すことが好ましい。このような構成にすると、二本の棒の間に収まった肘を肘当ての中央部83で受け止めることができる。このような構成にすると、肘当ての伸縮および締め付け手段による締め付け具合の調整によって、一つのサイズの上肢拘束装具によって様々な体格の被験者にある程度対応することができる。
【0025】
本発明の別の一実施形態に係る下肢拘束装具は、腰芯を有するウェストバンド16、下肢用棒状体18および締め付け手段を有する。本発明の一実施形態に係る下肢拘束装具を下肢に装着することによって、人の股関節および膝関節の可動域を狭めることができる。
【0026】
ウェストバンド16は、人の下肢帯に巻き付けて着用できるものであれば、その形状は特に制限されない。図に示すウェストバンドはガードル様の形を成している。ウェストバンドは面ファスナー、ボタン、フック、スナップなどで下肢帯に着用可能になっている(17)が、これに限定されない。例えば、ウェストバンドは、パンツ式の形状を成していてもよい。ウェストバンドに使用される生地は、特に限定されない。例えば、片面または両面がジャージで内部にスポンジを入れた生地であることができる。
【0027】
図示したウェストバンドは、被験者の右側部に、腰芯19が収納できるように、例えば、ポケットが設けられている。該腰芯19は下肢帯側部の前から後ろにかけて宛がうように湾曲した形を成している。腰芯19は、例えば、
図13に示すような形をした板であってもよい。該腰芯は、例えば、アルミニウムや繊維強化樹脂などの剛直な材料で作製することができる。腰芯の湾曲部のほぼ頂部(寛骨の側端付近に対応する部分)に棒状体取り付け台座20が設置されている。該台座20は棒状体18がほぼ真っ直ぐ下に、すなわち、寛骨の側端付近から大転子に延出するように設置されている。腰芯の大きさは股関節の可動域を制限するに十分な大きさであれば特に制限されない。
【0028】
下肢用棒状体18は、その上端が前記腰芯に取り付けられている。本実施形態では、下肢用棒状体は、前述した台座と抑え具との間に挟み、螺子で締めて、取り付けているが、溶接、ピン止め、螺子止めなどの他の手段によって取り付けてもよい。螺子止めなどの取り外し可能な手段を下肢用棒状体の取り付けに採用すると、下肢用棒状体の長さを被験者の体格に合わせて調整することができる。図に示す下肢用棒状体は二本の棒からなる。二本の棒は
図13のごとく両端がU文字状に繋がっていてもよい。該棒は軽量化のために管であることが好ましい。管は、例えば、アルミニウム、繊維強化樹脂などの剛直な材料で作製することができる。二本の棒で構成することによって、捩れに対しての抗力を増大させること、台座の長手方向にスライドさせて長さ調整することなどができる。下肢用棒状体は、股関節および膝関節の位置に対応する部分において屈曲していてもよい。例えば、下肢用棒状体は、股関節対応部においては内向き(寛骨および大腿骨に対する大転子の出っ張りに対応する角度)に、膝関節対応部においては外向き(大腿骨長軸に対して脛骨長軸が5度程度外側に曲がっていることに対応する角度)に、それぞれ屈曲させることができる。このようにして、下肢用棒状体を、下肢帯側部、大腿外側、膝外側および下腿外側に沿って配することができる。
【0029】
締め付け手段13、14は、大腿および下腿を下肢用棒状体に締め付けることができるものである。図示した締め付け手段は面ファスナー(ヴェルクロ)を取り付けたテープであるが、大腿および下腿を下肢用棒状体に締め付けることができるものであればこれに限定されない。
【0030】
本発明の一実施形態に係る下肢拘束装具は、大腿内側、膝内側および下腿内側に沿って配することができる補助用棒状体218(
図11中の点線)を設けてもよい。補助用棒状体218は二本の棒からなるものであってもよい。二本の棒は
図13のごとく両端がU文字状に繋がっていてもよい。該棒は軽量化のために管であることが好ましい。管は、例えば、アルミニウム、繊維強化樹脂などの剛直な材料で作製することができる。二本の棒で構成することによって、捩れに対しての抗力を増大させることができる。補助用棒状体は、膝関節の位置に対応する部分において屈曲していてもよい。例えば、補助用棒状体は、膝関節対応部においては外向き(大腿骨長軸に対して脛骨長軸が5度程度外側に曲がっていることに対応する角度)に屈曲させることができる。このようにして、補助用棒状体を、大腿内側、膝内側および下腿内側に沿って配することができる。大腿および下腿を補助用棒状体に締め付けることによって、膝関節の可動域をより確実に狭くすることができる。締め付け手段は特に制限されず、例えば、前述の下肢用棒状体に締め付けることができる手段13、14で大腿および下腿を補助用棒状体および下肢用棒状体の両方に締め付けることができる。
【0031】
本発明の一実施形態に係る下肢拘束装具は、膝当て15をさらに有することが好ましい。膝当ては、人の膝の後ろ(ひかがみ)側から囲むことができるものであることが好ましい。膝当てに使用される生地は、特に限定されない。例えば、片面または両面がジャージで内部にスポンジを入れた生地であることができる。
図11に示す膝当ては、下肢用棒状体が上から下に左側縁に沿って収納できるように袋部分が設けられている。また、補助用棒状体が上から下に締め付け手段13と14の付根の右側縁に沿って収納できるように袋部分が設けられていてもよい。下肢用棒状体18と補助用棒状体218とは平板などの湾曲可能な部材219で結合されていることが好ましい。湾曲可能な部材219は、例えば、アルミニウム、繊維強化樹脂など材料で作製することができる。
図11に示す肘当てにおいては、それの上側の縁と下側の縁に沿って湾曲可能な部材219(
図11中の点線)が収納できるようになっている。
【0032】
本実施形態は、右側の上肢および下肢に装着できる関節拘縮等のシミュレータを示しているが、本実施形態と左右対称の構造を成す別の関節拘縮等のシミュレータが、左側の上肢および下肢に装着できることは容易に理解できる。
【0033】
また、本発明の関節拘縮等のシミュレータを装着した状態での上肢および下肢は、未装着の状態とさほど変わらないので、当該シミュレータを装着した状態において抱き抱え体験や着換え体験を容易に行うことができる。また、片面または両面がジャージで内部にスポンジを入れた生地はウェットスーツに使われている生地であり、アルミニウム製や繊維強化樹脂製の棒状体は耐水性に優れるので、本発明の関節拘縮等のシミュレータを装着した状態で、入浴体験を行うことができる。