【実施例】
【0038】
図2は、本発明の一実施例を説明する流れ図である。ここでは、被覆体は木材であり、層状粘土鉱物はバーミキュライトであり、溶媒はアルコールである場合を取り上げる。コーティングの原料としては、バーミキュライト、溶媒(エタノール)、常温硬化ガラスの三点である。バーミキュライトとしては、福島県産の粒状(粒子径1〜5mm)のものと南アフリカ産のバーミキュライトを機械的に粉砕した粉末状のもの(粒子径10μm〜1mm)を用いており、両者は外観、耐火性に関して同様の結果を示している。
【0039】
バーミキュライトの前処理として塩化カリウム(KCl)の水溶液にバーミキュライトを入れ、温度80℃で、例えば24時間以上静置する(S200)。この処理によってバーミキュライトの層間にカリウムイオンが侵入し、層間の結合が弱くなる。同様な効果は塩化ナトリウム(NaCl)水溶液でも確かめられた。
【0040】
室温まで冷却後、超音波振動を付与することによってバーミキュライト粒子を薄片化処理する(S202)。はく離したバーミキュライトは容器の上部に上澄み液の状態で浮遊するのでその部分を吸出して分離した。分離液をさらに長時間静置すると薄片化したバーミキュライトは沈殿するので、透明な上澄み液を分離し、底部に沈殿した薄片バーミキュライトを蒸留水で希釈する。
この操作を最低3回繰り返してKClを除去後、紙フィルターを通す、あるいは乾燥処理によって薄片バーミキュライトの凝集体を得る(S204)。
【0041】
次に薄片バーミキュライトと溶媒のエタノールを所定の割合(バーミキュライト1gに対してエタノール10mL)で混合し、下塗り用の塗布液を調製する(S206)。試験片に対してまず下塗り用の塗布液を刷毛を用いて塗布し、溶媒であるアルコールが蒸発して乾燥した状態にさせる(S208)。
【0042】
次に、常温硬化ガラス原料液を刷毛で塗布する(S210)。常温硬化ガラスとしては、例えば前述の特許公報に記載された技術に基づく、市販の二液混合型の製品を用いるとよい。当該二液混合型の製品では主剤と触媒を用いている。主剤の組成は、メタノール1〜10%、イソプロピルアルコール1〜10%を含むと共に、ケイ酸化アルカリと金属アルコキシドを含有している。触媒は、メタノール40〜50%、イソプロピルアルコール1〜10%を含むと共に、トリアルコキシボランとハロゲンイオンを含有している。ここでは、主剤9に対し触媒1の割合で混合している。
【0043】
常温硬化ガラス原料液を試験片に二度塗りする場合には、常温硬化ガラスが固化後に、バーミキュライト、常温硬化ガラスの塗布を繰り返す。
常温硬化性ガラスで被覆した試験片は、乾燥した状態の室温で一週間程度乾燥させる(S212)。そして、完成した試験片(防燃材)に対して、電気炉内での5分間の燃焼実験を行った。燃焼実験の温度は500℃と600℃の2通りである。
【0044】
表1は木片上にバーミキュライト液を塗布乾燥、常温硬化ガラスを塗布・乾燥のプロセスを2回繰り返した際の重量増(1m
2当たり)の記録である。6個の試験片について測定を行った結果、最初のバーミキュライト層は1m
2当たり20〜40mg、その後に塗布した常温硬化ガラスはおよそ100mg付着・浸透した。2回目のバーミキュライト層はおよそ20mg、その後の常温硬化ガラスは僅か10〜20mgの増加であった。2回目の常温硬化ガラスの塗布時には第一層がすでに緻密な相を形成しているために、ガラス原料液の木材内部への浸透がほとんどなく、そのために付着量が格段に低下したと考えられる。常温硬化ガラスの塗布後、完全にガラス化するまでには数日かかるといわれており、今回は、最低でも三日間室温で放置後に燃焼試験に供した。
【0045】
【表1】
【0046】
図3はコーティング層の形成過程の模式図である。最初にバーミキュライト薄片をアルコールに分散させた溶液を木材表面に塗り、それを乾燥させると薄片の長手方向が木材表面にほぼ平行に配列した層ができる。その後、その上から常温硬化ガラスを塗ると常温硬化ガラスはバーミキュライト薄片間の間隙に浸透し、さらには木材内部にも浸透する。このことにより、バーミキュライト薄片相互が強固に結合し、さらにはこのようにして形成したコーティング層が基材である木材とも強固に結合する。また、高温ではガラスが液状となることによって酸素の透過を阻止する。
【0047】
薄片バーミキュライトは層状に積層されるが、その間には空隙が残存しており、また指でこすると簡単に剥がれるほどの密着性しかない。常温硬化ガラスはバーミキュライト間の空隙に浸透するだけでなく、その下の木材にも浸透し、固化後には薄片バーミキュライト粒子間、さらにはコーティング層と木材の間に強固な結合を形成する。
【0048】
図4に示す燃焼実験用の木片は檜材であり、その大きさはおよそ9mm×9mm×14mmで、重量は約450mgである。ここで左端から「木材」と記載された試料は、木片単体を示している。「V1」を付した試料には、バーミキュライトが1層塗布されている。「G1」を付した試料には、常温硬化ガラスのみが1層塗布されている。「V1+G1」を付した試料には、バーミキュライト1層の上に常温硬化ガラス1層が塗布されている。(V1+G1)x2を付した試料は、バーミキュライト1層の上に常温硬化ガラスを1層塗る工程を2回繰り返したことを表している。V1以外の試料は木材の木目が透けて見えており、基材の色彩や質感が維持されていることが分かる。
【0049】
図5はバーミキュライトを塗布後に常温硬化ガラスを塗布したコーティング材の断面の角部の光学顕微鏡写真である。厚さが約50μmの保護膜が平面部、角部ともに均一に形成されていることが分かる。
【0050】
次に、これらの燃焼試験用の木片に、被膜形成処理を施して燃焼実験を行った。被膜形成処理した燃焼試験用の木片は、無塗装の試験片、角柱状の木片にバーミキュライトを塗布した試験片、常温硬化ガラスを塗布した試験片、バーミキュライトを塗布した後ガラスコーティングした試験片、表1に示すようなバーミキュライトとガラスを順次2回繰り返し塗布した試験片の5種類がある。実験温度は500℃および600℃とし電気炉内を所定の温度に保持した状態で、ステンレス皿にいれた試験片を皿ごと炉内に入れ、5分経った後取り出し残存物の重量を測定した。
【0051】
図6は500℃における燃焼実験後に残存した木質部の重量で、無塗装の試験片、バーミキュライトを塗布した試験片V1、ガラスコーティングを1回した試験片G1、バーミキュライトを塗った後ガラスコーティングを各1回施した試験片V1+G1と、各2回施した試験片(V1+G1)x2を500℃の電気炉内に5分間いれる燃焼実験を行った後の残った木質部の重量を示している。
無処理の試験片はほとんど完全に燃焼して何も残らなかったが、バーミキュライトやガラス被膜のみの試験片の場合、内部はほとんど空洞化したがコーティング層のみは元の形状を保った外殻の形態で残った。バーミキュライトとガラスを塗布した試験片では、内部に炭化した木材が残った。炭化した木材の重量は、全体の重量から熱処理後の塗膜の重量(バーミキュライトからの水の脱離によって約15%重量減する)を差し引いて算出した。単層よりも2回塗布した方が効果は大きいことも示されている。
【0052】
図7は600℃における試験結果で、500℃の場合と同様に、無塗装の試験片、バーミキュライトを塗布した試験片、ガラスコーティングを1回した試験片、バーミキュライトを塗った後ガラスコーティングを各1回施した試験片、各2回施した試験片を600℃の電気炉内に5分間いれる燃焼実験を行った後の残った木質部の重量を示す。バーミキュライト、ガラス単独ではほとんど効果がないが、両者を複合化することによって残存重量が増加している。
【0053】
図8は500℃の燃焼実験後の塗膜断面の電子顕微鏡像である。木材は炭化しているが、その上にバーミキュライトが層になった状態が維持されている。この層の働きによって内部の木材の燃焼が阻止・遅延されたものと推測される。
【0054】
続いて、本発明の第2の実施の形態を説明する。
図9は、本発明の第2の防燃性コーティング剤を用いた表面被覆方法を説明する流れ図である。まず、粒子径が10μm〜5mmの範囲内の層状粘土鉱物を準備する。このような層状粘土鉱物は、例えば福島産バーミキュライト粉砕粉や南アフリカ産バーミキュライト粉として入手できる。
【0055】
次に、水溶液中の金属イオンを層状粘土鉱物に浸潤させて、層状粘土鉱物の層間結合を緩和し、超音波振動などによって層間を剥離して粘土鉱物粒子を薄片化する(S300)。具体的には、バーミキュライトの前処理として塩化カリウム(KCl)の水溶液にバーミキュライトを入れ、温度80℃で24時間以上静置する。このようにして、バーミキュライトの層間結合を緩和する。続いて、室温まで冷却後、超音波振動を付与することによってバーミキュライト粒子を薄片化する。この薄片化処理は、S202と同様であり、詳細な説明を省略する。そして、この操作を最低3回繰り返してKClを除去する。
【0056】
続いて、薄片化処理した粘土鉱物を分散した懸濁液を分離し、薄片化した粘土鉱物を懸濁液から分離乾燥する(S302)。即ち、薄片化処理した粘土鉱物からKClを除去した後、紙フィルターを通す、あるいは乾燥処理によって薄片バーミキュライトの凝集体を得る(S304)。
【0057】
次に、分離乾燥した薄片粘土鉱物と常温硬化性ガラス原料液を含有する塗布液を調整する(S306)。具体的には、薄片化した層状粘土鉱物と常温硬化性ガラス原料液を混和する。常温硬化性ガラスが二液型の場合には、主剤と触媒に溶媒と同様の成分が含まれている関係で、常温硬化性ガラスの主剤と触媒を混和した原料液に、層状粘土鉱物の薄片化物を混ぜればよい。なお、常温硬化性ガラス原料液には、溶媒として脂肪族の低級アルコールや水が含有されているが、塗布液の粘度や膜厚との関係で、希釈液としての溶媒を追加してもよい。
【0058】
次に、この混和した層状粘土鉱物と常温硬化性ガラス原料液を含む塗布液で、被覆体の表面を被覆して、固化後の層状粘土鉱物と常温硬化性ガラスの被覆膜を形成する(S308)。固化後の層状粘土鉱物と常温硬化性ガラスの被覆膜の膜厚は、例えば10μm〜300μmの範囲内で形成される。
【0059】
層状粘土鉱物と常温硬化性ガラスで被覆した試験片は、乾燥した状態の室温で一週間程度乾燥させる(S310)。このようにして、防燃材が完成する。完成した試験片(防燃材)に対して、電気炉内での5分間の燃焼実験を行ったところ、第1の実施形態とほぼ同等の結果が得られた。第1の施工形態ではバーミキュライト層が乾燥後に常温硬化ガラスを浸透させるのに対して、第2の施工形態では両者を混合させた塗布液を一回塗布する。後者の方が施工の手間数は少ないが、常温硬化ガラスの硬化反応が進んで粘土が上昇する前に施工しなくてはならないという時間的制約がある。両者は、対象物のサイズや施工にもちいる器具等の特性に応じて選択すれば良い。
【0060】
続いて、本発明の第3と第4の実施形態について説明する。これらの実施形態では、バーミキュライト粉末は機械的な粉砕処理したものである。
図12は、本発明の第3の防燃性コーティング剤を用いた表面被覆方法を説明する流れ図である。まず層状粘土鉱物としてのバーミキュライトを準備する(S400)。層状粘土鉱物は、例えば、粒子径が10μm〜5mmの範囲内のものである。続いて、バーミキュライトを被覆膜として適切な程度に粉砕する(S402)。粉砕する粒子径としては、被覆膜の膜厚よりも小さくするのが望ましく、例えば被覆膜の膜厚が10μmの場合は10μm程度、200μmの場合は100μm程度に定める。粉砕には、例えば試験研究目的では乳棒と乳鉢を用いても良いが、量産化段階では粉砕用機械を用いると良い。
【0061】
次に粉砕したバーミキュライトと溶媒のエタノールを所定の割合(バーミキュライト1gに対してエタノール10mL)で混合し、下塗り用の塗布液を調製する(S404)。試験片に対して、バーミキュライトの塗布液を刷毛を用いて塗布し、溶媒であるアルコールが蒸発して乾燥した状態にさせる(S406)。
続いて、常温硬化ガラス原料液を刷毛で塗布する(S408)。常温硬化性ガラスで被覆した試験片は、乾燥した状態の室温で一週間程度乾燥させる(S212)。
そして、完成した試験片(防燃材)に対して、電気炉内での5分間の燃焼実験を行った。燃焼実験の温度は500℃である。
【0062】
図10は、試験片外観の図面代用写真で、バーミキュライト粉末を用いる場合を示している。図において、試料番号29は、福島産バーミキュライト粉砕粉を使用している。試料番号30は、南アフリカ産バーミキュライト粉を使用している。試料番号29、30は、各粉末をエタノールで分散後塗布、乾燥後に常温硬化ガラスを1回塗布したものである。
上記のバーミキュライト粉末は、乳鉢と乳棒ですりつぶしたものである。薄片化処理した層状粘土鉱物と比較すると、粒子径が粗いために外観の均質性にはバラツキがある(
図4参照)。
【0063】
図11は
図10の試料に対する500℃における試験後の残存重量(木材部推定値)である。この耐火試験の結果によると、上記のバーミキュライト粉末は、薄片化処理したバーミキュライトと常温硬化ガラス原料液を2回繰り返して塗布したもの(V1+G1)x2の防燃性と同等であった。しかし、コーティングの重量は、29(福島産)が200mg/m
2、30(南ア産)が340mg/m
2と薄片化バーミキュライトを用いた場合の2倍以上となっている。バーミキュライトのような粘土鉱物は層状の結晶構造をしており、コーティング原料としてもちいるには、薄片状の粒子を用いた方が効率的に対象物の表面を覆う事ができる。しかし、工業的な観点、特にコストを考えると、バーミキュライト粉末は機械的な粉砕処理で製造できるため、薄片化処理した層状粘土鉱物に対して優位性を有している。
【0064】
図13は、本発明の第4の防燃性コーティング剤を用いた表面被覆方法を説明する流れ図である。
まず層状粘土鉱物としてのバーミキュライトを準備する(S500)。次に、バーミキュライトを被覆膜として適切な程度に粉砕する(S502)。そして、粉砕処理した層状粘土鉱物と常温硬化性ガラス原料液を混和する(S504)。続いて、この混和した層状粘土鉱物と常温硬化性ガラスを含む塗布液で、被覆体の表面を塗布し(S506)、乾燥させる。常温硬化性ガラスで被覆した被覆体は、乾燥した状態の室温で一週間程度乾燥させる(S212)。ここで、固化後の層状粘土鉱物と常温硬化性ガラスの被覆膜の膜厚は、例えば10μm〜300μmの範囲内であるように形成する。
【0065】
そして、完成した試験片(防燃材)に対して、電気炉内での5分間の燃焼実験を行ったところ、第1、第2、第3の実施形態と同様の結果が得られた。即ち、層状粘土鉱物を薄片化処理した場合と粉砕した場合、並びに層状粘土鉱物で被覆層を形成した後に常温硬化ガラス原料液を塗布する場合、常温硬化ガラス原料液と層状粘土鉱物とを混合した塗布液を作成して被覆体を被覆する場合とで、これら4通りの表面被覆方法について、耐燃焼性における顕著な相違は存在しない。
【0066】
なお、上記の実施の形態においては、対象物として木材を対象として実験を行っているが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の防燃性コーティング剤を用いた表面被覆方法は木材以外の可燃物に対しても、塗布材を付着させることで、耐火性能の向上が期待できる。
【0067】
また、上記の実施の形態においては、まずバーミキュライトを塗布し乾燥後に常温硬化ガラスを塗布している。これは、後者が一定時間後に硬化するためであるが、施工状況によっては予め両者を混合した塗布液を準備して塗布してもよい。さらに、コーティングの施工法として刷毛塗りを行ったが、他にスプレーガンによる吹き付け等の施工法も適用可能なことは、言うまでもない。