(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
A.一実施形態
1.構成
[1−1.全体構成]
図1は、本発明の一実施形態に係る物体検出装置12を搭載した車両10(以下「自車10」ともいう。)の構成を示すブロック図である。車両10は、物体検出装置12に加え、車両挙動安定システム14、電動パワーステアリングシステム16(以下「EPSシステム16」という。)及び車速センサ18を有する。
【0021】
物体検出装置12は、自車10の周囲に現れる各種の物体(例えば、別の車両、ヒト、壁)を検出する。そして、物体検出装置12は、自車10から検出した物体100(以下「検出物体100」という。)までの距離Lを検出する。
【0022】
車両挙動安定システム14の電子制御装置20(以下「車両挙動安定ECU20」という。)は、車両挙動安定化制御を実行するものであり、図示しないブレーキシステム等の制御を介してカーブ路の旋回時等における車両10の挙動を安定化させる。
【0023】
EPSシステム16の電子制御装置22(以下「EPS ECU22」という。)は、操舵アシスト制御を実行するものであり、電動パワーステアリング装置の構成要素{電動モータ、トルクセンサ及び舵角センサ(いずれも図示せず)等}の制御を介して運転者による操舵をアシストする。
【0024】
車速センサ18は、車両10の車速V[km/h]を検出して物体検出装置12に出力する。
【0025】
[1−2.物体検出装置12]
図1に示すように、物体検出装置12は、超音波センサ30、フィルタ32及び物体検出電子制御装置34(以下「物体検出ECU34」又は「ECU34」という。)を有する。
【0026】
(1−2−1.超音波センサ30)
超音波センサ30は、超音波である合成送信波Wt(以下「送信波Wt」ともいう。)を車両10の外部に出力する送信機40と、送信波Wtのうち検出物体100(例えば、他車)に反射して戻って来る反射波Wrを受信する受信機42とを含む。
【0027】
送信機40は、ECU34からの制御信号Sc(駆動信号)に基づいて送信波Wtを出力する。送信波Wtは、近距離領域用の第1送信波W1と遠距離領域用の第2送信波W2を合成したものである。後述するように、送信波Wtはパルス波60の束からなるバースト波である(
図4参照)。本実施形態の送信機40は、送信波Wtの出力方向を固定している。但し、送信波Wtの出力方向を変化させること(例えば、送信波Wtをスキャンさせること)も可能である。
【0028】
受信機42は、受信した反射波Wr(受信波)に対応する電圧を出力信号(以下「反射波信号Sr」という。)としてECU34に出力する。
【0029】
超音波センサ30は、車両10の前側(例えば、フロントバンパ44及び/又はフロントグリル)に配置される。前側に加えて又は前側に代えて、車両10の後ろ側(例えば、リアバンパ及び/又はリアグリル)又は側方(例えば、フロントバンパ44の側方)に配置してもよい。
【0030】
また、
図1では、1つの超音波センサ30を示しているが、車両10は、複数の超音波センサ30を有してもよい。この場合、例えば、車両10の前側において左右対称に配置することができる。
【0031】
なお、
図1では、送信機40及び受信機42を別体として記載しているが、送信機40の振動子及び受信機42の振動子は同一又は共通のものである。送信機40の振動子及び受信機42の振動子を異なるものとしてもよい。
【0032】
また、後述するように、超音波センサ30の代わりに、ミリ波レーダ、レーザレーダ等のセンサを用いることもできる。
【0033】
(1−2−2.フィルタ32)
フィルタ32は、受信機42の出力信号(反射波信号Sr)に対して距離検出用のフィルタ処理を行ってフィルタ信号SfとしてECU34に出力する。距離検出用のフィルタ処理とは、ECU34において自車10から検出物体100までの距離Lを算出するのに適した信号となるように反射波信号Srに対して行う処理である。具体的には、本実施形態のフィルタ32は、バンドパスフィルタ処理及びエンベロープ処理を行う(それぞれ詳細は後述する。)。
【0034】
フィルタ信号Sfはアナログ信号であるが、ECU34内に設けられた図示しないアナログ/デジタル変換器によりデジタル信号に変換されてECU34内で用いられる。
【0035】
(1−2−3.物体検出ECU34)
(1−2−3−1.物体検出ECU34の全体構成)
物体検出ECU34は、ハードウェアの構成として入出力部、演算部及び記憶部(いずれも図示せず)を含む。前記入出力部には、前記アナログ/デジタル変換器が含まれる。また、前記記憶部には、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)が含まれる。
【0036】
また、ECU34は、機能的な構成要素(前記演算部が実現する機能)として、送信機制御部50及び距離検出部52を有する。
【0037】
(1−2−3−2.送信機制御部50)
送信機制御部50は、送信機40に対して制御信号Scを送信して送信機40の出力を制御する。送信機制御部50は、パルス信号(バースト信号)である制御信号Scを所定周期で出力する(詳細は
図3及び
図4を参照して後述する。)。
【0038】
(1−2−3−3.距離検出部52)
距離検出部52は、フィルタ信号Sfに基づいて自車10から検出物体100までの距離Lを検出する。本実施形態の距離検出部52は、相互相関処理を用いて距離Lを算出する(詳細は後述する。)。
【0039】
2.制御
[2−1.物体検出装置12の全体的な処理]
図2は、物体検出装置12の全体的な処理を示すと共にその際に出力される複数の信号の例を概略的に示すフローチャートである。ステップS1において、物体検出装置12は、送信機40から合成送信波Wtを出力する。合成送信波Wtは、近距離領域用の第1送信波W1と遠距離領域用の第2送信波W2とを合成したものである。出力された合成送信波Wtは、超音波センサ30の検出領域内に現れた物体(検出物体100(例えば、他車))で反射して反射波Wrとして物体検出装置12に戻って来る。ここにいう検出領域は、近距離領域及び遠距離領域を含む。なお、近距離領域は、例えば、0mを上回り且つ4m以下の領域を指し、遠距離領域は、例えば、4mを上回り且つ10m以下の領域を指す。
【0040】
ステップS2において、物体検出装置12は、反射波Wrを受信機42で受信し、当該反射波Wrに対応する反射波信号Srを受信機42からフィルタ32に出力する。後述するように、反射波信号Srには、残響等のノイズが含まれる。
【0041】
ステップS3において、フィルタ32は、反射波信号Srに対して距離検出用のフィルタ処理を実行してフィルタ信号Sfを出力する。
【0042】
ステップS4において、距離検出部52は、フィルタ信号Sfに基づいて遠距離領域用距離検出処理を実行する。遠距離領域用距離検出処理は、自車10から遠距離領域の検出物体100までの距離Lを検出する処理であり、詳細は、
図11等を参照して後述する。
【0043】
ステップS5において、距離検出部52は、フィルタ信号Sfに基づいて近距離領域用距離検出処理を実行する。近距離領域用距離検出処理は、自車10から近距離領域の検出物体100までの距離Lを検出する処理であり、詳細は、
図14等を参照して後述する。
【0044】
ステップS6において、物体検出装置12は、遠距離領域用及び近距離領域用距離検出処理(S4、S5)の結果、すなわち、距離検出部52で検出した距離Lを車両挙動安定システム14及びEPSシステム16に出力する。車両挙動安定システム14及びEPSシステム16では当該結果を用いた処理を行う。
【0045】
なお、本実施形態での遠距離領域用及び近距離領域用距離検出処理では、後述する相互相関値Cを用いる。相互相関値Cは、車両10の車速Vが高い場合、反射波Wrにおけるドップラー効果の影響が大きくなり、精度が低下するおそれがある。
【0046】
そこで、本実施形態では、
図2の処理を実行するか否かを判定する車速閾値THvを設定する。そして、車速センサ18が検出した車速Vが車速閾値THvを下回る場合、
図2の処理を実行し、車速Vが車速閾値THvを上回る場合、
図2の処理を中止する。車速閾値THvとしては、例えば、5〜30km/hのいずれかの値とすることができる。
【0047】
[2−2.送信波Wtの出力(
図2のS1)]
(2−2−1.概要)
図3は、物体検出ECU34から送信機40に出力される制御信号Scの一例を示す図である。
図4は、制御信号Scを説明するための図である。
図4に示すように、制御信号Sc(駆動信号)は、幅がWpであり且つ振幅がApである複数のパルス波60が連続して出力されるパルス束62(バースト波)として出力される。なお、以下では、パルス束62におけるパルス波60の周期を「パルス波周期Cp」といい、パルス束62の周期を「パルス束周期Cb」という。パルス束62に含まれるパルス波60の数をNpとするとき、パルス束62の幅(以下「幅Wb」という。)はCp×Np−(Cp−Wp)となる。
【0048】
制御信号Scが入力された送信機40の振動子(例えば、圧電素子)は、パルス波60に応じて振動して超音波としての送信波Wtを出力する。
【0049】
本実施形態では、送信波Wtの波長を遠距離領域用と近距離領域用とで変化させる。すなわち、遠距離領域用のパルス波60のパルス波周期Cpは、送信機40の振動子の共振周波数f1を実現するように設定する。また、近距離領域用のパルス波60のパルス波周期Cpは、共振周波数f1よりも低い周波数f2を実現するように設定する。換言すると、バースト波としての第2送信波W2の周波数(バースト周波数)を共振周波数f1と等しくし、第1送信波W1の周波数(バースト周波数)を周波数f2と等しくする。
【0050】
図3に示すように、パルス束62の幅Wbは、遠距離領域用と近距離領域用とで変化させる。すなわち、遠距離領域用の第2送信波W2では幅Wbを広くし(出力時間を長くし)、近距離領域用の第1送信波W1では幅Wbを狭くする(出力時間を短くする)。幅Wbは、遠距離領域用と近距離領域用とで同一としてもよい。
【0051】
パルス束周期Cbは、検出物体100の有無に応じて可変とする。すなわち、検出物体100が存在する場合と比較して、検出物体100が存在しない場合、近距離領域用の第1送信波W1のパルス束周期Cb(以下「周期Cw1」という。)を長くすると共に遠距離領域用の第2送信波W2のパルス束周期Cb(以下「周期Cw2」という。)を短くする。
【0052】
なお、パルス波60の幅Wp、パルス波周期Cp、パルス束62の幅Wb及びパルス束周期Cbは、いずれも物体検出ECU34の送信機制御部50が設定する。
【0053】
また、送信機制御部50は、第1送信波W1及び第2送信波W2それぞれのパターンPw1、Pw2を示す第1及び第2送信波パターン信号Sp1、Sp2を距離検出部52に出力する。第1及び第2送信波パターン信号Sp1、Sp2は、距離検出部52における距離検出(相互相関処理)に用いられる。本実施形態において、第1送信波W1及び第2送信波W2のパターンPw1、Pw2は、例えば、パルス束62の幅Wb及びパルス束周期Cbを示す2値化データ(換言すると、制御信号Scのエンベロープ(包絡線)を示すパターン)である。或いは、第1送信波W1及び第2送信波W2のパターンPw1、Pw2は、制御信号Scが示すパターンと同じとしてもよい。
【0054】
(2−2−2.パルス波60の幅Wp及びパルス波周期Cp)
図5は、第1送信波W1及び第2送信波W2を合成する際に検討すべき問題点について説明するための図である。
図5の例では、時点t1〜t2まで、送信機40からパルス束62の幅Wbが比較的広い送信波(例えば、第2送信波W2)を出力し、時点t2〜t3まで残響が生じている。また、時点t1〜t4までの間が、近距離領域からの反射波Wrが取り得る範囲である。
図5では、近距離領域からの反射波Wrが取り得る範囲の半分程度が第2送信波W2の影響を受けている。このため、近距離領域における距離Lの検出を精度良く行うことができない。
【0055】
そこで、本実施形態では、超音波センサ30の出力特性を考慮してパルス波60のパルス波周期Cpを設定する。
【0056】
図6は、超音波センサ30の送信周波数(パルス波周期Cp)及び受信周波数と、超音波センサ30の送信感度及び受信感度との関係の一例を示す図である。
図6に示すように、超音波センサ30の送信感度及び受信感度は、超音波センサ30の送信周波数及び受信周波数が共振周波数f1であるとき最も高い。また、超音波センサ30の送信周波数及び受信周波数が共振周波数f1から離れるに連れて、送信感度及び受信感度が低くなる。
【0057】
そこで、本実施形態では、遠距離領域用のパルス波60のパルス波周期Cpは、送信機40の振動子の共振周波数f1を実現するように設定する。これにより、第2送信波W2の出力(振幅)を相対的に大きくし、遠距離領域からの反射波Wrであっても、距離Lの検出に使用できるようにする。
【0058】
また、近距離領域用のパルス波60のパルス波周期Cpは、共振周波数f1よりも低い周波数f2を実現するように設定する。これにより、第1送信波W1の出力(振幅)を相対的に小さくし、近距離領域からの反射波Wrであっても、距離Lの検出に使用できるようにする。
【0059】
加えて、本実施形態では、近距離領域用のパルス波60の幅Wpと比較して、遠距離領域用のパルス波60の幅Wpを相対的に広く設定する。
【0060】
(2−2−3.パルス束周期Cbの設定)
図7は、パルス束周期Cbを設定するフローチャートである。ステップS11において、送信機制御部50は、近距離領域又は遠距離領域に検出物体100が存在するか否かを判定する。当該判定は、距離検出部52からの信号(物体存否信号So)に基づいて判定する。
【0061】
近距離領域及び遠距離領域のいずれにも検出物体100が存在しない場合(S11:NO)、ステップS12において、送信機制御部50は、遠距離領域用の第2送信波W2のパルス束周期Cb(周期Cw2)を最も短くし、近距離領域用の第1送信波W1のパルス束周期Cb(周期Cw1)を最も長くする。換言すると、第2送信波W2の数を最も増やし、第1送信波W1の数を最も減らす。
【0062】
近距離領域又は遠距離領域のいずれかに検出物体100が存在する場合(S11:YES)、ステップS13において、送信機制御部50は、遠距離領域に検出物体100が存在するか否かを判定する。
【0063】
遠距離領域に検出物体100が存在する場合(S13:YES)、ステップS14において、送信機制御部50は、ステップS12よりも周期Cw2を長くし、周期Cw1を短くする。換言すると、ステップS12と比較して、ステップS14では、第2送信波W2の数を減らし、第1送信波W1の数を増やす。
【0064】
遠距離領域に検出物体100が存在しない場合(S13:NO)、検出物体100は、近距離領域に存在することとなる。この場合、ステップS15において、送信機制御部50は、周期Cw2を最も長くし、周期Cw1を最も短くする。換言すると、第2送信波W2の数を最も減らし、第1送信波W1の数を最も増やす。周期Cw2を最も長くすることには、第2送信波W2の出力を停止することを含めてもよい。
【0065】
(2−2−4.第1送信波W1と第2送信波W2の出力間隔)
図8は、第1送信波W1と第2送信波W2の出力間隔(パルス束周期Cb)を説明するための図である。
図8の例では、時点t11で第2送信波W2が出力された後、時点t13及び時点t16で第1送信波W1が送信される。さらにその後の時点t18において第2送信波W2が出力される。このように、
図8の例では、送信波Wtの1周期において1回の第2送信波W2の出力の後に2回の第1送信波W1の出力が行われ、さらに1回の第2送信波W2の出力が行われる。
【0066】
図8に示すように、時点t11において第2送信波W2が出力されると、時点t12まで残響が発生する残響時間Tr2となる。残響時間Tr2の間、距離検出部52は、距離Lを精度良く検出することができない。そこで、本実施形態では、時点t12から時点t14までを遠距離領域を対象とした距離Lの検出を行う範囲(遠距離領域用検出範囲Rf)とする。
【0067】
一方、時点t13〜t15を、近距離領域を対象とした距離Lの検出を行う範囲(近距離領域用検出範囲Rn)とする。時点t13〜t15の範囲Rnは、第2送信波W2が出力された直後の第1送信波W1(1回目の第1送信波W1)に対応する。また、時点t16〜t17を、2回目の第1送信波W1に対応する近距離領域用検出範囲Rnとする。
【0068】
図8から明らかなように、遠距離領域用検出範囲Rfと1つ目の近距離領域用検出範囲Rnは時間的に重複している。従って、遠距離領域用距離検出処理(
図11)において第1送信波W1の反射波Wrを検出し、誤検出をするおそれがある。そこで、遠距離領域用距離検出処理では、当該誤検出を避ける対応が採られる(詳細は、
図11を参照して後述する。)。
【0069】
また、
図8に示すように、第1送信波W1の出力タイミングは、第2送信波W2の残響時間Tr2を避けて設定される。換言すると、残響時間Tr2よりも長い期間経過後に第1送信波W1を出力する。
【0070】
[2−3.反射波Wrの受信(
図2のS2)]
図9は、受信機42の出力信号である反射波信号Srの一例を示す図である。上記のように、本実施形態では、送信機40の振動子と受信機42の振動子は同一又は共通のものである。このため、送信波Wtを出力する際の送信機40の振動子の振動を、受信機42の振動子が検出する。従って、受信機42の出力信号(反射波信号Sr)には、送信波Wtを出力する際の送信機40の振動子の振動が反映される。
【0071】
なお、超音波センサ30を複数設けた場合、ある超音波センサ30(第1超音波センサ)の送信機40からの送信波Wtが別の超音波センサ30(第2超音波センサ)の受信機42で受信されることもある。
【0072】
図9では、時点t21において送信機40の振動子から送信波Wt(超音波)の出力が開始され、時点t22まで送信波Wtの出力が継続される。また、時点t22において送信波Wtの出力を終了しても、時点t23を含む所定時間は反射波信号Srが十分に下がらない。これは、いわゆる残響と呼ばれる現象であり、電気信号としての制御信号Scが停止されてからも、送信機40の振動子が機械的に振動を継続することによって起こるものである。残響時間Tr1、Tr2は、送信波Wt(第1送信波W1、第2送信波W2)の出力の大きさに応じて変化する。従って、制御信号Scの設定に応じて残響時間Tr1、Tr2を推定又は設定することが可能である。
【0073】
図9の時点t24における反射波信号Srの上昇が、実際の反射波Wrによるものである。従って、送信波Wtの出力時点(時点t21)から反射波Wrの受信時点(時点t24)までの時間(以下「遅延時間Td」という。)を検出することにより、自車10から検出物体100までの距離Lを算出することができる。
【0074】
すなわち、空気中を伝わる超音波の速度(音速c)を一定値と仮定するとき、距離Lは以下の式(1)で算出することができる。
距離L=c×遅延時間Td/2 ・・・(1)
【0075】
なお、図示しない温度センサを設け、外気温に応じて音速cを補正してもよい。
【0076】
[2−4.フィルタ処理(
図2のS3)]
(2−4−1.フィルタ処理の概要)
フィルタ処理は、フィルタ32が、反射波信号Srに対して行う距離検出用の信号処理である。本実施形態のフィルタ32は、フィルタ処理としてバンドパスフィルタ処理及びエンベロープ処理を行う。
【0077】
(2−4−2.バンドパスフィルタ処理)
バンドパスフィルタ処理(以下「BPF処理」ともいう。)は、反射波信号Srのうち送信波Wtの周波数(以下「送信波周波数ft」という。)及びその近傍値のみを通過させるフィルタ処理である。バンドパスフィルタ処理後の信号を「バンドパスフィルタ信号Sbpf」又は「BPF信号Sbpf」という。
【0078】
上記のように、本実施形態では、送信波周波数ftを共振周波数f1とそれよりも低い周波数f2とで切り替えて用いる。また、上記にいう近傍値とは、送信波周波数ftよりも大きい値及び小さい値の両方を含むことが好ましい。しかしながら、送信波周波数ftよりも大きい値又は小さい値のいずれか一方のみであってもよい。或いは、BPF処理は、送信波周波数ftのみを通過させてもよい。
【0079】
上記のように、本実施形態では、車両10が比較的低速であるとき、
図2の処理を実行し、車両10が比較的高速であるとき、
図2の処理を中止する。このため、BPF処理での通過周波数領域を送信波周波数ft及びその近傍値としても距離Lの検出に十分活用可能となる。
【0080】
上記のようなBPF処理を行うことで、反射波信号Srのうち送信波周波数ft及びその近傍値以外に含まれるノイズを除去し、距離検出の精度を向上することが可能となる。
【0081】
(2−4−3.エンベロープ処理)
エンベロープ処理は、BPF信号Sbpfに基づいてエンベロープ(包絡線)を生成するフィルタ処理である。エンベロープ処理後の信号は、フィルタ32からの出力信号(フィルタ信号Sf)となる。
【0082】
図10は、フィルタ32の出力信号であるフィルタ信号Sfの一例を示す図である。
図9の反射波信号Srに関連して説明したのと同様、
図10の時点t31が送信波Wtの出力開始時点に対応する。また、送信波Wtは時点t32まで出力が継続される。時点t32〜t33の間には残響が存在する。時点t24は反射波Wrの受信時点に対応する。
【0083】
従って、時点t31〜t34までが遅延時間Tdであり、遅延時間Tdに基づいて自車10から検出物体100までの距離Lを算出することが可能となる(但し、本実施形態では相互相関値Cを用いる。)。
【0084】
[2−5.遠距離領域用距離検出処理(
図2のS4)]
図11は、遠距離領域用距離検出処理のフローチャート(
図2のS4の詳細)である。ステップS21において、距離検出部52は、送信機制御部50から第1送信波W1及び第2送信波W2それぞれのパターンPw1、Pw2(第1及び第2送信波パターン信号Sp1、Sp2)を取得する。本実施形態では、第1送信波W1及び第2送信波W2それぞれのパターンPw1、Pw2は、パルス束62の幅Wb及びパルス束周期Cbを示す2値化データである。例えば、パルス束62(バースト波)が出力されている期間(すなわち、幅Wb)を「1」とし、パルス束62が出力されていない期間を「0」とする。
【0085】
ステップS22において、距離検出部52は、反射波Wrを示すフィルタ信号Sfをその値(振幅)に応じて2値化する。すなわち、
図10に示すように、フィルタ信号Sfの値(振幅)についての閾値THsfを設定し、値が閾値THsfを上回る場合、「1」とし、値が閾値THsfを下回る場合、「0」とする。なお、ここでは閾値THsfが固定値であることを前提としているが、特許文献1の段落[0016]及び
図4に示されるように、閾値THsfを可変値としてもよい。
【0086】
ステップS23において、距離検出部52は、フィルタ信号Sfの2値化データから第1送信波W1の直接入力分及び残響分を除外する。
【0087】
図12は、第1送信波W1の直接入力分及び残響分を除外する様子を説明する図である。
図11のステップS23では、フィルタ信号Sfの2値化データから第1送信波W1の影響を除外する。これに対し、
図12では、理解の容易化のため、フィルタ信号Sfの2値化データではなく、フィルタ信号Sf自体から第1送信波W1の影響を除外する様子が示されていることに留意されたい。なお、
図12のように、フィルタ信号Sf自体から第1送信波W1の影響を除外してもよい。
【0088】
フィルタ信号Sfの2値化データから第1送信波W1の直接入力分及び残響分を除外する方法としては、例えば、第1送信波W1が出力されているタイミング及びその後の残響時間Tr1についてはフィルタ信号Sfの2値化データを強制的に0とすることができる。この場合、第1送信波W1が出力されているタイミングは、第1送信波W1のパターンPw1(第1送信波パターン信号Sp1)に基づいて知ることができる。また、その後の残響時間Tr1については予め実測値又はシミュレーション値を取得しておき、第1送信波W1の出力が終了してから残響時間Tr1の間、フィルタ信号Sfの2値化データを0にすればよい。
【0089】
或いは、第1送信波W1が出力されているタイミング及びその後の残響時間Tr1に対応するシフト数lについては、上記式(2)の演算を行わないことも可能である。
【0090】
ステップS24において、距離検出部52は、第2送信波W2のパターンPw2(2値化データ)と反射波Wr(フィルタ信号Sf)の2値化データとに基づいて遠距離領域用の相互相関値C(以下、「相互相関値C2」ともいう。)を算出する。近距離領域及び遠距離領域いずれの場合も、相互相関値Cは、以下の式(2)を用いて算出する。
【0092】
式(2)において、T(k)は、送信波Wtの2値化データの値である。すなわち、ステップS24において第2送信波W2との比較を行う場合、2値化データとしてのパターンPw2である。後述する
図14のステップS33において第1送信波W1との比較を行う場合、2値化データとしてのパターンPw1である。R(k+l)は、反射波Wr(フィルタ信号Sf)の2値化データの値である。lは、反射波信号Sr(フィルタ信号Sf)のシフト数(第1送信波W1又は第2送信波W2の出力開始時点からのずれ)、すなわち、遅延時間Tdを示す。或いは、lは、自車10から検出物体100までの距離Lを示すものとしてもよい。Ndは、相互相関値Cの1演算周期分のサンプリング数である。
【0093】
相互相関値Cの算出の更なる詳細については、例えば、特許文献1を参照されたい。
【0094】
図11のステップS25において、距離検出部52は、ステップS24で算出した遠距離領域用の相互相関値C2に基づいて検出物体100までの距離Lを算出する。例えば、式(2)のlが遅延時間Tdを示すものとして設定した場合、距離検出部52は、相互相関値C2が最大値となるシフト数l(以下「シフト数lmax」という。)を特定し、シフト数lmaxを遅延時間Tdに置換する。
【0095】
また、遅延時間Tdへの置換をするため、距離検出部52は、1シフトに対応する時間を予め設定しておく。そして、ここで求めた遅延時間Tdを上記式(1)に代入して距離Lを算出する。
【0096】
なお、上記式(1)において右辺の変数が遅延時間Tdのみであるとすると、シフト数lmaxが特定された段階で距離Lは一義的に決まる。そこで、距離検出部52は、1シフトに対応する時間を予め設定しておく代わりに、1シフトに対応する距離Lを予め設定しておいてもよい。
【0097】
図13は、遅延時間Td及び距離Lと相互相関値Cとの関係の一例を示す図である。
図13では、遅延時間TdがTd1のとき(距離LがL1のとき)の相互相関値Cが最も大きい。このため、距離検出部52は、遅延時間TdをTd1と判定する又は距離LをL1と判定する。
【0098】
[2−6.近距離領域用距離検出処理(
図2のS5)]
図14は、近距離領域用距離検出処理のフローチャート(
図2のS5の詳細)である。ステップS31において、距離検出部52は、送信機制御部50から第1送信波W1のパターンPw1(第1送信波パターン信号Sp1)を取得する。本実施形態では、第1送信波W1のパターンPw1は、パルス束62の幅Wb及びパルス束周期Cbを示す2値化データである。例えば、パルス束62が出力されている期間(すなわち、幅Wb)を「1」とし、パルス束62が出力されていない期間を「0」とする。
【0099】
ステップS32において、
図11のステップS22と同様、距離検出部52は、反射波Wrを示すフィルタ信号Sfをその値(振幅)に応じて2値化する。ステップS22の演算結果をそのまま用いてもよい。
【0100】
ステップS33において、距離検出部52は、第1送信波W1のパターンPw1(2値化データ)と反射波Wr(フィルタ信号Sf)の2値化データとに基づいて近距離領域用の相互相関値C(以下、「相互相関値C1」ともいう。)を算出する。相互相関値C1の算出に際しては、上記式(2)を用いる。
【0101】
図14のステップS34において、距離検出部52は、ステップS33で算出した近距離領域用の相互相関値C1に基づいて検出物体100までの距離Lを算出する。ステップS34は、
図11のステップS25と同様である。
【0102】
3.本実施形態の効果
以上のように、本実施形態によれば、遠距離領域に存在する検出物体100までの距離Lを求める際、第1送信波W1が送信されたタイミングで受信機42が検出した値を除外する(
図11のS23、
図12)。これにより、反射波Wrではなく、送信機40から受信機42に直接到達した近距離領域用の第1送信波W1(直接波)に基づく受信機42の出力(反射波信号Sr)を除外することが可能となる。従って、遠距離領域に存在する物体100までの距離Lを求める際、直接波としての第1送信波W1に基づく誤検出を防止することが可能となる。
【0103】
本実施形態において、送信機40は、第2送信波W2の出力の大きさに応じて決定する残響時間Tr2よりも長い期間経過後に第1送信波W1を送信する(
図8)。これにより、遠距離領域用の第2送信波W2の残響により近距離領域からの反射波Wrが埋もれることで近距離領域に存在する物体100を検出できなくなることを防ぐことが可能となる。
【0104】
送信機40は、第1送信波W1の出力時間(パルス束62の幅Wb)よりも第2送信波W2の出力時間を長くする(
図8)。これにより、近距離領域用の第1送信波W1を出力する際に、送信機40から受信機42に第1送信波W1が直接到達しても、第1送信波W1の出力時間及びその後の残響時間Tr1が短くなる。このため、受信機42において、遠距離領域に存在する物体100の反射波Wrが第1送信波W1に埋もれてしまうことを防止することが可能となる。
【0105】
本実施形態において、距離検出部52は、送信機40を制御する送信機制御部50から出力され且つ第1送信波W1のパターンPw1を示す第1送信波パターン信号Sp1と受信機42からの出力信号(フィルタ信号Sf)とに基づく近距離領域用相互相関値C1を算出し(
図14のS33)、算出した相互相関値C1に基づき近距離領域に存在する物体100までの距離Lを算出する(S34)。また、距離検出部52は、送信機制御部50から出力され且つ第2送信波W2のパターンPw2を示す第2送信波パターン信号Sp2と受信機42からの出力信号(フィルタ信号Sf)とに基づく遠距離領域用相互相関値C2を算出し(
図11のS24)、算出した相互相関値C2に基づき遠距離領域に存在する物体100までの距離Lを算出する(S25)。
【0106】
これにより、近距離領域用及び遠距離領域用相互相関値C1、C2を用いることで、反射波Wrに入り込んだノイズの影響を軽減することが可能となる。また、第1送信波W1の出力時間よりも第2送信波W2の出力時間を長くすることと合わせて、相互相関値C2を用いることで、反射波Wrが第1送信波W1又は第2送信波W2のいずれに基づくものであるのかを判別することが可能となる。すなわち、相互相関値C2の算出に際し、例えば、反射波Wrの振幅に基づく2値化データを用いる場合、振幅が所定の振幅閾値を上回ることを示す「1」が続く時間が所定の時間閾値を超えるか否かを判定することが可能となる。そのため、相互相関値C2を算出する際、第1送信波W1に基づく反射波Wrを除外することが可能となる。
【0107】
本実施形態において、物体検出装置12は、物体検出装置12が搭載された車両10(移動体)の車速V(移動速度)を検出する車速センサ18(速度検出部)を備え、距離検出部52は、距離Lの検出を行うか否かを判定する車速閾値THvを設定し、車速Vが車速閾値THvを下回るとき、距離Lの検出を実行し、車速Vが車速閾値THvを上回るとき、距離Lの検出を中止する。
【0108】
車両10のような移動体において相互相関値Cを用いて距離Lを検出する場合、移動体の移動に伴うドップラー効果より相互相関値Cに誤差が生じる可能性がある。本実施形態によれば、車速Vが車速閾値THvを下回るとき、すなわち、車速Vが相対的に低いとき、相互相関値Cを用いて物体100までの距離Lの検出を行う。このため、車両10において相互相関値Cを用いる場合でも、距離Lの検出の精度を比較的高く保つことが可能となる。
【0109】
一方、車速Vが車速閾値THvを上回るとき、すなわち、車速Vが相対的に高いとき、相互相関値Cを用いての距離Lの検出を中止する。このため、相互相関値Cの精度が担保されない場合には、距離Lの検出を中止することが可能となる。
【0110】
B.変形例
なお、本発明は、上記実施形態に限らず、本明細書の記載内容に基づき、種々の構成を採り得ることはもちろんである。例えば、以下の構成を採用することができる。
【0111】
1.適用対象
上記実施形態では、物体検出装置12を車両10に適用したが、これに限らず、別の対象に適用してもよい。例えば、物体検出装置12を船舶や航空機等の移動体に用いることもできる。或いは、物体検出装置12を、ロボット、セキュリティ用監視装置又は家電製品に適用してもよい。
【0112】
2.物体検出装置12の構成
[2−1.全体]
上記実施形態では、物体検出装置12の出力としての距離Lを車両挙動安定ECU20及びEPS ECU22で用いたが、それ以外の用途で用いることも可能である。例えば、車両10の駐車支援又は誤発進防止にも用いることができる。
【0113】
上記実施形態では、超音波である送信波Wt及び反射波Wrを使用する超音波センサ30を用いたが、例えば、遠距離領域用距離検出処理において、第1送信波W1が送信されたタイミングで受信機42が検出した値を除外するとの観点からすれば、ミリ波レーダ、レーザレーダ等のセンサを用いることもできる。
【0114】
[2−2.フィルタ32及び物体検出ECU34の構成]
上記実施形態では、フィルタ32をアナログ回路で構成し、送信機制御部50及び距離検出部52をデジタル回路で構成することを前提に説明した。しかしながら、フィルタ32をデジタル回路で構成してもよい。また、送信機制御部50及び距離検出部52の一部についてはアナログ回路で構成してもよい。
【0115】
[2−3.物体検出ECU34の制御]
上記実施形態では、第2送信波W2の周波数(バースト周波数)を共振周波数f1と等しくし、第1送信波W1の周波数(バースト周波数)を、共振周波数f1よりも低い周波数f2と等しくした(
図3)。しかしながら、その他の観点(例えば、遠距離領域用距離検出処理において、第1送信波W1が送信されたタイミングで受信機42が検出した値を除外するとの観点)からすれば、第1送信波W1及び第2送信波W2の周波数(バースト周波数)は等しくしてもよい。
【0116】
上記実施形態では、近距離領域用の第1送信波W1よりも、遠距離領域用の第2送信波W2の方がパルス束62の幅Wbを広くした(
図3)。しかしながら、その他の観点(例えば、遠距離領域用距離検出処理において、第1送信波W1が送信されたタイミングで受信機42が検出した値を除外するとの観点)からすれば、第1送信波W1及び第2送信波W2の幅Wbは同一としてもよい。
【0117】
上記実施形態では、遠距離領域用及び近距離領域用距離検出処理において相互相関値C1、C2を算出したが、例えば、遠距離領域用距離検出処理において、第1送信波W1が送信されたタイミングで受信機42で検出された値を除外するとの観点からすれば、これに限らない。例えば、両距離検出処理において、フィルタ信号Sfの振幅が振幅閾値を超えている間を遅延時間Tdとして算出することも可能である。この場合、相互相関処理を目的とする送信機制御部50から距離検出部52への第1及び第2送信波パターン信号Sp1、Sp2の送信は不要となる。但し、遠距離領域用距離検出処理において第1送信波W1の出力タイミングを知るため、第1送信波パターン信号Sp1の出力は必要である。
【0118】
上記実施形態では、遠距離領域用及び近距離領域用距離検出処理においてエンベロープ処理を行ったが、例えば、距離Lを検出する観点からすれば、エンベロープ処理を行わない構成も可能である。この場合、相互相関値Cを算出するためには、送信機制御部50から距離検出部52へ送信される第1及び第2送信波パターン信号Sp1、Sp2は、例えば、制御信号Scそのものを用いることも可能である。
【0119】
上記実施形態では、車速Vが車速閾値THvを上回る場合、遠距離領域用及び近距離領域用距離検出処理を中止したが、車速Vが車速閾値THvを上回る場合に、各距離検出処理を行ってもよい。この場合、ドップラー効果を補正する処理を車速Vに応じて行うこともできる。なお、そのような補正をする場合、車速閾値THvを設けず、車速Vに応じて補正する構成も可能である。
【0120】
上記実施形態において、送信機40は、第2送信波W2の出力の大きさに応じて決定する残響時間Tr2よりも長い期間経過後に第1送信波W1を送信した(
図8)。しかしながら、例えば、残響時間Tr2の影響を避ける観点からすれば、これに限らない。
【0121】
例えば、送信機40は、第2送信波W2の出力の大きさに応じて決定する残響時間Tr2の終端(
図8のt12)にて第1送信波W1を出力してもよい。これにより、残響時間Tr2の中で第1送信波W1を出力したとしても、受信機42が第1送信波W1を受信する時には第2送信波W2の残響が終わっていることとなる。このため、遠距離領域用の第2送信波W2の残響により近距離領域からの反射波Wrが埋もれることで近距離領域に存在する物体100を検出できなくなることを防ぐことが可能となる。また、上記によれば、残響時間Tr2中に第1送信波W1を出力する。このため、残響時間Tr2よりも長い期間経過後に第1送信波W1を出力する場合と比較して、第1送信波を早期に出力することが可能となる。