【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ▲1▼平成24年9月5日 第61回高分子討論会 予稿集61巻2号の9/21(金)ポスター一覧の第7頁、及び同予稿集の第2561頁 公益社団法人高分子学会に発表 ▲2▼平成24年9月21日 第61回高分子討論会 公益社団法人高分子学会 名古屋工業大学 52号館ポスター会場ブース5221においてポスターにて発表
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
光学活性な低分子化合物が、2−フェニルグリシノール、1−シクロヘキシルエチルアミン、1−(1−ナフチル)エチルアミン、1−(2−ナフチル)エチルアミン、sec−ブチルアミン、1−フェニル−2−(p−トリル)エチルアミン、1−(p−トリル)エチルアミン、1−(4−メトキシフェニル)エチルアミン、1−フェニルエチルアミン、β−メチルフェネチルアミン、2−アミノ−1−ブタノール、2−アミノ−1,2−ジフェニルエタノール、1−アミノ−2−インダノール、2−アミノ−1−フェニル−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−1−プロパノール、ロイシノール、フェニルアラニノール、バリノール、ノルエフェドリン、メチオニノール、アミノ酸、カルボキシ基を保護したアミノ酸、3−アミノピロリジン、1−ベンジル−3−アミノピロリジン、1,2−ジフェニルエチレンジアミン、1,2−シクロヘキサンジアミン、2−(メトキシメチル)ピロリジン、1−メチル−2−(1−ピペリジノメチル)ピロリジン及び1−(2−ピロリジノメチル)ピロリジンからなる群より選択される化合物の光学活性体である、請求項12又は13に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の詳細を説明する。
(定義)
【0017】
本明細書中、「ハロゲン原子」とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を意味する。
【0018】
本明細書中、「アルキル(基)」とは、直鎖状または分岐鎖状の炭素原子数1以上のアルキル基を意味し、特に炭素数範囲の限定がない場合には、好ましくは、C
1−20アルキル基であり、中でも、C
1−12アルキル基がより好ましく、C
1−6アルキル基が特に好ましい。
【0019】
本明細書中、「C
1−20アルキル(基)」とは、直鎖又は分岐鎖の炭素原子数1〜20のアルキル基を意味し、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、1−エチルプロピル、ヘキシル、イソヘキシル、1,1−ジメチルブチル、2,2−ジメチルブチル、3,3−ジメチルブチル、2−エチルブチル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、エイコシル等が挙げられる。
【0020】
本明細書中、「C
1−12アルキル(基)」とは、直鎖又は分岐鎖の炭素原子数1〜12のアルキル基を意味し、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、1−エチルプロピル、ヘキシル、イソヘキシル、1,1−ジメチルブチル、2,2−ジメチルブチル、3,3−ジメチルブチル、2−エチルブチル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル等が挙げられる。
【0021】
本明細書中、「C
1−6アルキル(基)」とは、直鎖又は分岐鎖の炭素原子数1〜6のアルキル基を意味し、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、1−エチルプロピル、ヘキシル、イソヘキシル、1,1−ジメチルブチル、2,2−ジメチルブチル、3,3−ジメチルブチル、2−エチルブチル等が挙げられる。
【0022】
本明細書中、「シクロアルキル(基)」とは、環状アルキル基を意味し、特に炭素数範囲の限定がない場合には、好ましくは、C
3−8シクロアルキル基である。
【0023】
本明細書中、「C
3−8シクロアルキル(基)」とは、炭素原子数3〜8の環状アルキル基を意味し、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル等が挙げられる。中でも、C
3−6シクロアルキル基が好ましい。
【0024】
本明細書中、「アルコキシ(基)」とは、直鎖または分岐鎖のアルキル基が酸素原子と結合した基を意味し、特に炭素数範囲は限定されないが、好ましくは、C
1−6アルコキシ基である。
【0025】
本明細書中、「C
1−6アルコキシ(基)」とは、直鎖又は分岐鎖の炭素原子数1〜6のアルコキシ基を意味し、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、ペンチルオキシ、イソペンチルオキシ、ネオペンチルオキシ、ヘキシルオキシ等が挙げられる。中でも、C
1−4アルコキシ基が好ましい。
【0026】
本明細書中、「アルキルチオ(基)」とは、直鎖または分岐鎖のアルキル基が硫黄原子と結合した基を意味し、特に炭素数範囲は限定されないが、好ましくは、C
1−6アルキルチオ基である。
【0027】
本明細書中、「C
1−6アルキルチオ(基)」とは、直鎖又は分岐鎖の炭素原子数1〜6のアルキルチオ基を意味し、例えば、メチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ、イソプロピルチオ、ブチルチオ、イソブチルチオ、sec−ブチルチオ、tert−ブチルチオ、ペンチルチオ、イソペンチルチオ、ネオペンチルチオ、ヘキシルチオ等が挙げられる。中でも、C
1−4アルキルチオ基が好ましい。
【0028】
本明細書中、「アルキルスルホニル(基)」とは、直鎖または分岐鎖のアルキル基がスルホニル基に結合した基を意味し、特に炭素数範囲は限定されないが、好ましくは、C
1−6アルキルスルホニル基である。
【0029】
本明細書中、「C
1−6アルキルスルホニル(基)」とは、直鎖又は分岐鎖の炭素原子数1〜6のアルキル基がスルホニル基に結合した基を意味し、例えば、メチルスルホニル、エチルスルホニル、プロピルスルホニル、イソプロピルスルホニル、ブチルスルホニル、イソブチルスルホニル、sec−ブチルスルホニル、tert−ブチルスルホニル、ペンチルスルホニル、イソペンチルスルホニル、ネオペンチルスルホニル、1−エチルプロピルスルホニル、ヘキシルスルホニル、イソヘキシルスルホニル、1,1−ジメチルブチルスルホニル、2,2−ジメチルブチルスルホニル、3,3−ジメチルブチルスルホニル、2−エチルブチルスルホニル等が挙げられる。
【0030】
本明細書中、「アリールスルホニル(基)」とは、アリール基がスルホニル基に結合した基を意味し、特に炭素数範囲は限定されないが、好ましくは、C
6−10アリールスルホニル基である。
【0031】
本明細書中、「C
6−10アリールスルホニル基」とは、「C
6−10アリール基」がスルホニル基に結合した基を意味し、例えば、フェニルスルホニル、1−ナフチルスルホニル、2−ナフチルスルホニル等が挙げられる。
【0032】
本明細書中、「アルキルスルホニルオキシ(基)」とは、アルキルスルホニル基が酸素原子に結合した基を意味し、特に炭素数範囲は限定されないが、好ましくは、C
1−6アルキルスルホニルオキシ基である。
【0033】
本明細書中、「C
1−6アルキルスルホニルオキシ(基)」とは、C
1−6アルキルスルホニル基が酸素原子に結合した基を意味し、例えば、メチルスルホニルオキシ、エチルスルホニルオキシ、プロピルスルホニルオキシ、イソプロピルスルホニルオキシ、ブチルスルホニルオキシ等が挙げられる。
【0034】
本明細書中、「アリールスルホニルオキシ(基)」とは、アリールスルホニル基が酸素原子に結合した基を意味し、特に炭素数範囲は限定されないが、好ましくは、C
6−10アリールスルホニルオキシ基である。
【0035】
本明細書中、「C
6−10アリールスルホニルオキシ(基)」とは、C
6−10アリールスルホニル基が酸素原子に結合した基を意味し、例えば、フェニルスルホニルオキシ、1−ナフチルスルホニルオキシ、2−ナフチルスルホニルオキシ等が挙げられる。
【0036】
本明細書中、「アシル(基)」とは、アルカノイル又はアロイルを意味し、特に炭素数範囲は限定されないが、好ましくは、C
1−7アルカノイル基又はC
7−11アロイルである。
【0037】
本明細書中、「C
1−7アルカノイル(基)」とは、炭素原子数1〜7の直鎖又は分枝鎖状のホルミル又はアルキルカルボニルであり、例えば、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、ペンタノイル、ヘキサノイル、ヘプタノイル等が挙げられる。
【0038】
本明細書中、「C
7−11アロイル(基)」とは、炭素原子数7〜11のアリールカルボニルであり、ベンゾイル等が挙げられる。
【0039】
本明細書中、「アシルオキシ(基)」とは、アルカノイル基又はアロイル基が酸素原子と結合した基を意味し、特に炭素数範囲は限定されないが、好ましくは、C
1−7アルカノイルオキシ基又はC
7−11アロイルオキシ基である。
【0040】
本明細書中、「C
1−7アルカノイルオキシ(基)」としては、例えば、ホルミルオキシ、アセトキシ、エチルカルボニルオキシ、プロピルカルボニルオキシ、イソプロピルカルボニルオキシ、ブチルカルボニルオキシ、イソブチルカルボニルオキシ、sec−ブチルカルボニルオキシ、tert−ブチルカルボニルオキシ、ペンチルカルボニルオキシ、イソペンチルカルボニルオキシ、ネオペンチルカルボニルオキシ、ヘキシルカルボニルオキシ等が挙げられる。
【0041】
本明細書中、「C
7−11アロイルオキシ(基)」としては、例えば、ベンゾイルオキシ、1−ナフトイルオキシ、2−ナフトイルオキシ等が挙げられる。
【0042】
本明細書中、「アリール(基)」とは、芳香族性を示す単環式あるいは多環式(縮合)の炭化水素基を意味し、具体的には、例えば、フェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、ビフェニリル、2−アンスリル等のC
6−14アリール基を示す。中でもC
6−10アリール基が好ましい。
【0043】
本明細書中、「C
6−10アリール(基)」とは、例えば、フェニル、1−ナフチル、2−ナフチルを示し、フェニルが特に好ましい。
【0044】
本明細書中、「アラルキル(基)」とは、アルキル基にアリール基が置換した基を意味し、特に炭素数範囲は限定されないが、好ましくは、C
7−14アラルキルである。
【0045】
本明細書中、「C
7−14アラルキル(基)」とは、「C
1−4アルキル基」に「C
6−10アリール基」が置換した基を意味し、例えば、ベンジル、1−フェニルエチル、2−フェニルエチル、(ナフチル−1−イル)メチル、(ナフチル−2−イル)メチル、1−(ナフチル−1−イル)エチル、1−(ナフチル−2−イル)エチル、2−(ナフチル−1−イル)エチル、2−(ナフチル−2−イル)エチル、ビフェニリルメチル等が挙げられる。
【0046】
本明細書中、「トリ置換シリル(基)」とは、同一又は異なる3個の置換基(例、C
1−6アルキル基、C
6−10アリール基等)により置換されたシリル基を意味し、当該基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基等のトリアルキルシリル基(好ましくは、トリC
1−6アルキルシリル基)、tert−ブチルジフェニルシリル基、トリフェニルシリル基等が好ましい。
【0047】
本明細書中、「トリ置換シロキシ(基)」とは、トリ置換シリル基が酸素原子と結合した基を意味する。当該基としては、トリメチルシロキシ基、トリエチルシロキシ基、トリイソプロピルシロキシ基、tert−ブチルジメチルシロキシ基等のトリアルキルシロキシ基(好ましくは、トリC
1−6アルキルシロキシ基)が好ましい。
【0048】
本明細書中、「保護されたアミノ基」とは、「保護基」で保護されたアミノ基を意味する。当該「保護基」としては、例えば、Protective Groups in Organic Synthesis,John Wiley and Sons刊(1980)に記載のアミノ基の保護基を使用し得、例えば、C
1−6アルキル基、C
7−14アラルキル基、C
6−10アリール基、C
1−7アルカノイル基、C
7−14アラルキル−カルボニル基、トリC
1−6アルキルシリル基等の保護基が挙げられる。上記の保護基は、ハロゲン原子、C
1−6アルキル基、C
1−6アルコキシ基又はニトロ基により更に置換されていてもよい。当該アミノ基の保護基の具体例としては、メチル、アセチル、トリフルオロアセチル、ピバロイル、tert−ブトキシカルボニル、ベンジルオキシカルボニル等が挙げられる。
【0049】
本明細書中、「置換されていてもよい」とは、1個以上の置換基を有していてもよいことを意味し、該「置換基」としては、(1)ハロゲン原子、(2)ニトロ、(3)シアノ、(4)C
1−6アルキル、(5)C
3−8シクロアルキル、(6)C
1−6アルコキシ、(7)C
6−10アリール、(8)C
7−14アラルキル、(9)C
1−7アルカノイルオキシ、(10)C
7−11アロイルオキシ、(11)C
1−7アルカノイル、(12)C
7−11アロイル、(13)アジド、(14)C
1−6アルキルチオ、(15)C
6−10アリールチオ、(16)C
1−6アルキル基で置換されていてもよいカルバモイル、(17)C
1−6アルキルスルホニルオキシ基、(18)C
6−10アリールスルホニルオキシ基、(19)トリC
1−6アルキルシリル基、(20)トリC
1−6アルキルシロキシ基、(21)保護されたアミノ基等が挙げられる。R
1、R
1’、R
2、R
2’、R
3、R
3’、R
4及びR
4’の基における「置換されていてもよい」置換基としては、好ましくは、ハロゲン原子、C
1−6アルキル、C
3−8シクロアルキル、C
1−6アルコキシ、C
6−10アリール、C
7−14アラルキル、C
1−6アルキルチオ、トリC
1−6アルキルシリル、トリC
1−6アルキルシロキシ等であり、より好ましくは、ハロゲン原子、C
1−6アルキル、C
1−6アルコキシ、トリC
1−6アルキルシリル、トリC
1−6アルキルシロキシ等であり、特に好ましくは、ハロゲン原子である。また、R
5、R
6、R
7、R
7’及びR
8の基における「置換されていてもよい」置換基としては、上記いずれの置換基を有していてもよいが、好ましくは、ハロゲン原子、C
1−6アルキル、C
1−6アルコキシ、アセチル、ホルミル、カルバモイル、アジド、トリC
1−6アルキルシリル、トリC
1−6アルキルシロキシ、ジメチルアミノ、アセチルアミノ、tert−ブトキシカルボニルアミノ、ベンジルオキシカルボニルアミノ等である。
また、複数の置換基が存在する場合、各置換基は、同一でも異なっていてもよい。
【0050】
上記置換基は、さらに上記置換基で置換されていてもよい。置換基の数は、置換可能な数であれば特に限定されないが、好ましくは1乃至5個、より好ましくは1乃至3個である。複数の置換基が存在する場合、各置換基は、同一でも異なっていてもよい。
【0051】
本明細書中、「一方向巻きのらせん構造」とは、右巻き又は左巻きのいずれかに片寄ったらせん構造であればよく、好ましくは完全に右巻き又は左巻きのらせん構造である。「一方向巻きのらせん構造」を有する化合物は、光学活性な化合物である。
【0052】
本明細書中、「光学活性な」とは、光の平面偏光を回転させる性質、すなわち、旋光能を有する状態を意味する。好ましくは、光学的に純粋な状態である。
【0053】
本明細書中、「光学活性な低分子化合物」とは、光の平面偏光を回転させる性質、すなわち、旋光能を有する低分子化合物であり、分子量が1000以下の有機化合物を意味し、特に限定されるものではない。好ましくは、光学的に純粋な不斉炭素原子を1つ有する化合物であり、例えば、光学的に純粋な両エナンチオマーが市販品として入手可能な2−フェニルグリシノール、1−シクロヘキシルエチルアミン、1−(1−ナフチル)エチルアミン、1−(2−ナフチル)エチルアミン、sec−ブチルアミン、1−フェニル−2−(p−トリル)エチルアミン、1−(p−トリル)エチルアミン、1−(4−メトキシフェニル)エチルアミン、1−フェニルエチルアミン、β−メチルフェネチルアミン、2−アミノ−1−ブタノール、2−アミノ−1,2−ジフェニルエタノール、1−アミノ−2−インダノール、2−アミノ−1−フェニル−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−1−プロパノール、ロイシノール、フェニルアラニノール、バリノール、ノルエフェドリン、メチオニノール、アミノ酸、カルボキシ基を保護したアミノ酸、3−アミノピロリジン、1−ベンジル−3−アミノピロリジン、1,2−ジフェニルエチレンジアミン、1,2−シクロヘキサンジアミン、2−(メトキシメチル)ピロリジン、1−メチル−2−(1−ピペリジノメチル)ピロリジン、1−(2−ピロリジノメチル)ピロリジン等のキラル化合物の光学活性体が挙げられる。中でも、(R)−(−)−2−フェニルグリシノール、(S)−(+)−2−フェニルグリシノール、(R)−(+)−1−フェニルエチルアミン又は(S)−(−)−1−フェニルエチルアミンが特に好ましい。該光学活性な低分子化合物としては、上記の通り、光学的に純粋な化合物を使用するのが好ましいが、後述するように、低い光学純度の化合物を用いた場合にも、正の非線形現象(いわゆる、「不斉増幅現象」)が確認され、光学的に純粋な化合物を用いた場合と同程度の光学純度でらせんのキラリティーを誘起することができる。従って、「光学活性な低分子化合物」には、光学的に純粋な化合物だけでなく、光学純度の低い化合物も包含される。該低分子化合物は、液体でも固体でもよく、好ましくは、液体である。
【0054】
本明細書中、「ee」とは、鏡像体過剰率(enantiomeric excess)の略称であり、キラルな化合物の光学純度を表す。「ee」は、多い方の鏡像体の物質量から少ない方の鏡像体の物質量を引き、全体の物質量で割った値に100を掛けて算出され、「%ee」で表される。
【0055】
本明細書中、「光学的に純粋な」とは、99%ee以上の光学純度を示す状態を表す。
【0056】
本明細書中、「鏡像異性体」とは、光学活性な低分子化合物中の全ての不斉炭素原子の立体配置が異なっている光学的対掌体を意味し、光学活性な低分子化合物と互いに右手と左手との関係にある1対の光学異性体を構成している。具体的には、例えば、光学活性な低分子化合物が(R)−(−)−2−フェニルグリシノールである場合の鏡像異性体は(S)−(+)−2−フェニルグリシノールである。
【0057】
本明細書中、「らせんの巻き方向を反転させる」とは、一方向巻きのらせんを、それとは逆方向巻きのらせんに反転させることを意味し、具体的には、例えば、右巻きのらせん構造を左巻きのらせん構造へと反転させることである。なお、らせんの巻き方向を完全に反転させることが望ましいが、「らせんの巻き方向を反転させる」とは、必ずしもらせんの巻き方向を完全に反転させる態様のみを意味するのではなく、逆方向巻きに片寄ったらせん構造(逆の符号の比旋光度を有する化合物へと変換されていればよい。)へと変換させる態様も含まれる。
【0058】
本明細書中、「キラル化合物」とは、中心性キラリティー、軸性キラリティー又は面性キラリティーを持つ化合物を意味し、例えば、中心性キラリティー(不斉中心、すなわち、不斉炭素原子)を持つ化合物が挙げられる。
【0059】
本明細書中、「ラセミ(体)」又は「ラセミ(化)」とは、キラル化合物の2種類の鏡像異性体(エナンチオマー)が等量存在することにより旋光性を示さなくなった状態の化合物又はそのような状態に変化することを意味する。
【0060】
本明細書中、「光学異性体分離剤」とは、低分子化合物の光学異性体の混合物を分離させる能力を有する物質であればよく、特に限定されない。
【0061】
本発明の光学異性体分離剤を用いて、光学活性化合物を光学分割する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、超臨界クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、キャピラリー電気泳動等のクロマトグラフィー法及び膜分離による光学異性体分離等が挙げられる。
【0062】
本発明の光学異性体分離剤を、例えば、高速液体クロマトグラフィー用のカラム充填剤の固定相として使用する場合、溶離液としては、本発明の分離剤を溶解又はこれと反応する液体を除いて特に限定するものではなく、ヘキサン−2−プロパノール等を用いる順相系、アルコール−水等を用いる逆相系のいずれにおいても応用可能である。
【0063】
本発明において、光学活性な化合物(I)自体を光学異性体分離剤として使用することもできるが、分離剤の耐圧能力の向上、溶媒置換による膨潤、収縮の防止、理論段数の向上等の目的のため、何らかの担体に担持させることが好ましい。
【0064】
本発明に用いられる担体としては、多孔質有機担体又は多孔質無機担体が挙げられ、好ましくは多孔質無機担体である。多孔質有機担体として適当なものは、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリアクリレート等からなる高分子物質であり、多孔質無機担体として適当なものは、シリカゲル、アルミナ、マグネシア、ガラス、カオリン、酸化チタン、ケイ酸塩、ヒドロキシアパタイトなどである。特に好ましい担体はシリカゲルである。
【0065】
本発明の化合物(I)を担体に担持させる方法としては、物理的方法でも化学的方法でもよく、特に限定されない。物理的方法としては、化合物(I)と多孔質無機担体又は多孔質有機担体を接触させる方法が例示される。また、化学的方法としては、化合物(I)の製造時にそのポリマーの末端に官能基を付与し、多孔質無機担体又は多孔質有機担体の表面上の官能基と化学的に結合させる方法が挙げられる。
【0066】
本発明の化合物(I)の担持量としては、用いる担体の種類、物性により異なり、特に限定されるものではないが、担体の重量に対して、通常1〜1000重量%の範囲である。
【0067】
本発明の充填剤は、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、超臨界クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、キャピラリー電気泳動などのクロマトグラフィー法及び膜分離による光学異性体分離に用いるのが一般的であるが、特に液体クロマトグラフィー法に応用するのが好ましい。
【0068】
更に本発明の充填剤は、主として光学純度測定を目的に使用される高速液体クロマトグラフィーの分析用キラルカラム、数mg〜数kgの光学活性体取得を目的とする単カラム方式の液体クロマトグラフィーの分取用キラルカラム、擬似移動床方式に代表される連続式液体クロマトグラフィーの分取用キラルカラム等に好ましく使用される。
【0069】
本発明の光学異性体分離剤は、上記した液体クロマトグラフィーの充填剤用途のみに限らず、核磁気共鳴スペクトル(NMR)のシフト試薬等としても利用可能である。
【0070】
本発明の光学異性体分離剤、又は該光学異性体分離剤を担持させてなる充填剤をキラル固定相として用いるキラルカラムにより分離することができる光学異性体の混合物としては、特に限定されないが、分子量が500以下の広範な低分子化合物の光学異性体分離に好適に使用することができる。該低分子化合物としては、特に限定されないが、例えば、trans−スチルベンオキシド、トレガー塩基(Troeger’s base)、2−フェニルシクロヘキサノン、置換されていてもよいビナフトール、ビナフトールのアルキルエーテル、置換シクロプロパン類、1−フェニルエチルアルコール、金属アセチルアセトナート錯体(コバルト、クロム、ルテニウム等)、モノ置換[2.2]パラシクロファン等が挙げられる。
【0071】
(本発明の化合物(I))
本発明の化合物(I)は、下記式(I):
【0073】
[式中、
R
1、R
1’、R
2、R
2’、R
3、R
3’、R
4及びR
4’は、独立してそれぞれ水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいシクロアルキル基、置換されていてもよいアルコキシ基、置換されていてもよいアルキルチオ基、トリ置換シリル基、トリ置換シロキシ基又は置換されていてもよいアシルオキシ基を示し;
X及びX’は、独立してそれぞれアミド化又はエステル化されていてもよいカルボキシ基を示し;並びに
nは、10以上の整数を示す。]
で表されるポリ(ジフェニルアセチレン)化合物であり、特に、一方向巻きのらせん構造を有する化合物(すなわち、光学活性な化合物(I))である。
【0074】
本発明の化合物(I)の塩とは、例えば、無機酸との塩、有機酸との塩、無機塩基との塩、有機塩基との塩、アミノ酸との塩等が挙げられる。
【0075】
無機酸との塩として、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、臭化水素酸等との塩が挙げられる。
有機酸との塩として、例えば、シュウ酸、マレイン酸、クエン酸、フマル酸、乳酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、グルコン酸、アスコルビン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等との塩が挙げられる。
無機塩基との塩として、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
有機塩基との塩として、例えば、メチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン、グアニジン、ピリジン、ピコリン、コリン、シンコニン、メグルミン等との塩が挙げられる。
アミノ酸との塩として、例えば、リジン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸等との塩が挙げられる。
本発明の化合物(I)の塩は、好ましくは、無機塩基または有機塩基との塩である。
【0076】
本発明の化合物(I)又はその塩の溶媒和物とは、本発明の化合物(I)又はその塩に、溶媒の分子が配位したものであり、水和物も包含される。例えば、本発明の化合物(I)またはその塩の水和物、エタノール和物、ジメチルスルホキシド和物等が挙げられる。
【0077】
以下、本発明の化合物(I)の各基について説明する。
【0078】
R
1、R
1’、R
2、R
2’、R
3、R
3’、R
4及びR
4’は、独立してそれぞれ水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいシクロアルキル基、置換されていてもよいアルコキシ基、置換されていてもよいアルキルチオ基、トリ置換シリル基、トリ置換シロキシ基又は置換されていてもよいアシルオキシ基を表す。
【0079】
R
1、R
1’、R
2、R
2’、R
3、R
3’、R
4及びR
4’は、好ましくは、独立してそれぞれ水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアルコキシ基、トリアルキルシリル基又はトリアルキルシロキシ基であり、より好ましくは、独立してそれぞれ水素原子、ハロゲン原子、ハロゲン原子により置換されていてもよいC
1−6アルキル基、ハロゲン原子により置換されていてもよいC
1−6アルコキシ基、トリC
1−6アルキルシリル基又はトリC
1−6アルキルシロキシ基であり、中でも、水素原子又はハロゲン原子が特に好ましい。
【0080】
R
1、R
1’、R
2、R
2’、R
3、R
3’、R
4及びR
4’は、好ましくは、R
1とR
1’、R
2とR
2’、R
3とR
3’及びR
4とR
4’が、それぞれ同一の基である。R
1、R
1’、R
2、R
2’、R
3、R
3’、R
4及びR
4’の全てが同一の基であってもよい。
【0081】
X及びX’は、独立してそれぞれアミド化又はエステル化されていてもよいカルボキシ基を表す。
【0082】
X及びX’は、好ましくは、独立してそれぞれカルボキシ基又はCON(R
5)(R
6)(式中、R
5は、水素原子又はC
1−6アルキル基であり、R
6は、置換されていてもよいC
1−20アルキル基又は置換されていてもよいアリール基である。)である。
【0083】
X及びX’は、より好ましくは、独立してそれぞれCON(R
5)(R
6)(式中、R
5は、水素原子であり、R
6は、置換されていてもよいC
6−10アリール基である。)である。
【0084】
X及びX’は、特に好ましくは、独立してそれぞれCON(R
5)(R
6)(式中、R
5は、水素原子であり、R
6は、置換されていてもよいフェニル基(例、フェニル基)である。)である。
【0085】
X及びX’は、好ましくは同一の基である。
【0086】
nは、10以上の整数であり、好ましくは、100以上10000以下の整数である。
【0087】
本発明の化合物(I)としては、以下の化合物が好適である。
[化合物(IA)]
R
1、R
1’、R
2、R
2’、R
3、R
3’、R
4及びR
4’は、独立してそれぞれ水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアルコキシ基、トリアルキルシリル基又はトリアルキルシロキシ基であり、且つR
1とR
1’、R
2とR
2’、R
3とR
3’及びR
4とR
4’が、それぞれ同一の基であり;
X及びX’は、同一であって、カルボキシ基又はCON(R
5)(R
6)(式中、R
5は、水素原子又はC
1−6アルキル基であり、R
6は、置換されていてもよいC
1−20アルキル基又は置換されていてもよいアリール基である。)であり;並びに
nが、10以上の整数である、化合物(I)。
【0088】
より好適な化合物(I)は、以下の化合物である。
[化合物(IB)]
R
1、R
1’、R
2、R
2’、R
3、R
3’、R
4及びR
4’は、独立してそれぞれ水素原子、ハロゲン原子、ハロゲン原子により置換されていてもよいC
1−6アルキル基、ハロゲン原子により置換されていてもよいC
1−6アルコキシ基、トリC
1−6アルキルシリル基又はトリC
1−6アルキルシロキシ基であり、且つR
1とR
1’、R
2とR
2’、R
3とR
3’及びR
4とR
4’が、それぞれ同一の基であり;
X及びX’は、同一であり、且つCON(R
5)(R
6)(式中、R
5は、水素原子又はC
1−6アルキル基であり、R
6は、置換されていてもよいC
6−10アリール基である。)であり;並びに
nが、10以上10000以下の整数である、化合物(I)。
【0089】
更に好適な化合物(I)は、以下の化合物である。
[化合物(IC)]
R
1、R
1’、R
2、R
2’、R
3、R
3’、R
4及びR
4’は、独立してそれぞれ水素原子又はハロゲン原子であり、且つR
1とR
1’、R
2とR
2’、R
3とR
3’及びR
4とR
4’が、それぞれ同一の基であり;
X及びX’は、同一であり、且つCON(R
5)(R
6)(式中、R
5は、水素原子であり、R
6は、置換されていてもよいフェニル基である。)であり;並びに
nが、100以上10000以下の整数である、化合物(I)。
【0090】
特に好適な化合物(I)は、上記した化合物(IA)、化合物(IB)及び化合物(IC)であって、且つ一方向巻きのらせん構造を有する当該化合物(すなわち、光学活性な化合物(IA)、光学活性な化合物(IB)及び光学活性な化合物(IC))である。
【0091】
本発明の化合物(I)の数平均重合度(1分子中に含まれるジフェニルエチレン単位の平均数)は、10以上、好ましくは100以上であり、特に上限はないが、10000以下であることが取り扱いの容易さの点で望ましい。
【0092】
また、本発明の化合物(I)は、同位元素(例えば、
3H、
2H(D)、
14C、
35S等)で標識されていてもよい。
【0093】
(本発明の化合物(I)の合成)
本発明の化合物(I)の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、以下のような反応を経て合成することができる。
【0094】
原料化合物は、特に述べない限り、市販品として容易に入手できるか、あるいは、自体公知の方法またはこれらに準ずる方法に従って製造することができる。
【0095】
なお、以下の反応式中の各工程で得られた化合物は、反応液のままか粗生成物として次の反応に用いることもできる。あるいは、該化合物は常法に従って反応混合物から単離することもでき、再結晶、蒸留、クロマトグラフィーなどの通常の分離手段により容易に精製することができる。
【0096】
本発明の化合物(I)は、例えば、以下の工程により製造することができる。
【0098】
[式中、Y及びY’は、ハロゲン原子、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基等の脱離基を示し、R
7及びR
7’は、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアラルキル基を示し、R
8は、R
7及びR
7’と同義であり、他の記号は、前記と同義である。]
【0099】
工程1
当該工程は、化合物1をエステル化して、化合物2を製造する工程である。
当該反応は、自体公知の方法(例えば、酸ハライドへと変換後、アルコール(R
7OH)と反応させる方法、縮合剤及び塩基存在下でアルコール(R
7OH)と反応させる方法等)により行われる。
【0100】
酸ハライドへの変換に使用するハロゲン化剤としては、例えば、塩化チオニル、塩化オキサリル等が挙げられる。
溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素類等あるいはそれらの混合物が挙げられる。
反応温度は、通常−10℃〜30℃、好ましくは0℃〜20℃であり、反応時間は、通常1〜30時間である。
【0101】
縮合剤としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、N−エチル−N’−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]カルボジイミドおよびその塩酸塩(EDC・HCl)、ヘキサフルオロリン酸(ベンゾトリアゾール−1−イルオキシ)トリピロリジノホスホニウム(PyBop)、O−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウム テトラフルオロボレート(TBTU)、1−[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]−5−クロロ−1H−ベンゾトリアゾリウム3−オキシド ヘキサフルオロホスフェート(HCTU)、O−ベンゾトリアゾール−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウム ヘキサフルオロボレート(HBTU)等が挙げられる。
縮合剤の使用量は、化合物1(1当量)に対して、1〜10当量使用することができ、好ましくは1〜5モルである。
溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素類等あるいはそれらの混合物が挙げられ、中でも、トルエン、テトラヒドロフラン等が好ましい。
反応温度は、通常−10℃〜30℃、好ましくは0℃〜20℃であり、反応時間は、通常1〜30時間である。
【0102】
工程2
当該工程は、化合物2の脱離基Y(好ましくは、ヨウ素)を薗頭カップリング条件下でトリメチルシリルエチニル基に置換して、化合物3へと変換する工程である。
当該反応は、反応に影響を及ぼさない溶媒中、塩基存在下、金属触媒を用いて行われる。
【0103】
金属触媒としては、例えば、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(Pd(PPh
3)
4)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(Pd
2(dba)
3)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)(Pd(PPh
3)
2Cl
2)、ジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム(II)((CH
3CN)
2PdCl
2)等のパラジウム化合物が挙げられ、中でも、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)が好ましい。
該金属触媒の使用量は、化合物2(1当量)に対して、通常0.001〜1当量である。
【0104】
塩基としては、例えば、トリエチルアミン等の有機塩基やアンモニア等の無機塩基が挙げられ、中でもトリエチルアミンが好ましい。
該塩基は、溶媒として使用することもでき、該塩基の使用量は、化合物2(1当量)に対して、通常10〜1000当量である。
【0105】
当該工程においては、必要に応じてヨウ化銅や臭化銅等の銅化合物、2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,4’,6’−トリイソプロピルビフェニル等のホスフィン化合物等の添加物を添加してもよい。
【0106】
溶媒としては、例えば、テトラヒドロフランや1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒、アセトニトリルやジメチルホルムアミド等の極性溶媒、又はベンゼン等の炭化水素溶媒が挙げられ、中でも、テトラヒドロフランが好ましい。
【0107】
反応温度は、通常−10℃〜100℃、好ましくは0℃〜50℃である。
反応時間は、通常0.5〜24時間である。
【0108】
工程3
当該工程は、化合物3のトリメチルシリル基を除去することにより、化合物4へと変換する工程である。
当該反応は、反応に影響を及ぼさない溶媒中、塩基又はフッ化テトラ−n−ブチルアンモニウム等のフッ化物イオン源を用いて行われる。
【0109】
塩基としては、例えば、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸ナトリウム等の無機塩基が挙げられ、中でも、炭酸カリウムが好ましい。
該塩基の使用量は、化合物3(1当量)に対して、通常1〜10当量である。
【0110】
溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、エチレングリコール−ジメチルエーテル(DME)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム(diglyme))等のエーテル系溶媒、メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒、テトラヒドロフランとメタノール、DMEとメタノールのような混合溶媒等が挙げられ、中でもテトラヒドロフランとメタノールの混合溶媒が好ましい。
【0111】
反応温度は、通常−20℃〜100℃、好ましくは−10℃〜40℃である。
反応時間は、通常0.5〜24時間である。
【0112】
工程4
当該工程は、化合物2’の脱離基Y’(好ましくは、ヨウ素)を薗頭カップリング条件下で化合物4とカップリング反応を行い、化合物5へと変換する工程である。
【0113】
当該カップリング反応は、工程2と同様の反応形態及び反応条件により行うことができる。
【0114】
工程5
当該工程は、化合物5を重合させることにより、化合物6へと変換する工程である。
当該反応は、反応に影響を及ぼさない溶媒中、窒素雰囲気下、金属触媒を用いて行われる。
【0115】
金属触媒としては、塩化タングステン(VI)及びテトラフェニルすず(IV)の混合触媒が好ましい。
該金属触媒の使用量は、化合物5(1当量)に対して、通常0.0001〜0.2当量、好ましくは、0.001〜0.1当量である。
【0116】
溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類等あるいはそれらの混合物が挙げられ、中でも、トルエン等が好ましい。
【0117】
当該工程で使用される溶媒の量は、例えば、化合物5が0.001〜1M程度の濃度となる量が好ましい。特に0.1〜0.5M程度の濃度となる量が好ましい。
【0118】
反応温度は、通常−10℃〜200℃、好ましくは10℃〜120℃である。
反応時間は、通常0.5〜30時間である。
【0119】
工程6
当該工程は、化合物6のエステルを加水分解して、化合物(II)に変換する工程である。
当該反応は、反応に影響を及ぼさない溶媒中、塩基を用いて行われる。
【0120】
塩基としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の無機塩基が挙げられ、中でも、水酸化カリウムが好ましい。
該塩基の使用量は、化合物6(1当量)に対して、通常1〜100当量である。
【0121】
溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、エチレングリコール−ジメチルエーテル(DME)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム(diglyme))等のエーテル系溶媒と水の混合溶媒等が挙げられ、中でもテトラヒドロフランと水の混合溶媒が好ましい。
【0122】
反応温度は、通常0℃〜100℃、好ましくは10℃〜80℃である。
反応時間は、通常0.5〜30時間である。
【0123】
工程7
当該工程は、光学不活性な化合物(II)に対し、一方向巻きのらせんキラリティーを誘起する工程(工程7−1)、続く光学活性な低分子化合物の除去により一方向巻きのらせんキラリティーを記憶させる工程(工程7−2)により光学活性な化合物(I−1)(X=X’=CO
2H)に変換する工程である。
【0124】
工程7−1は、反応に影響を及ぼさない溶媒中、光学活性な低分子化合物と混合することにより行われる。
【0125】
光学活性な低分子化合物としては、前記例示した化合物が挙げられ、中でも、(R)−(−)−2−フェニルグリシノール、(S)−(+)−2−フェニルグリシノール、(R)−(−)−1−フェニルエチルアルコール、(S)−(+)−1−フェニルエチルアルコール等が好適に使用される。当該光学活性な低分子化合物としては、光学的に純粋な化合物(99%ee以上)を使用するのが好ましいが、後述するように、低い光学純度(80%ee以上)の化合物を用いても、正の非線形現象(いわゆる、「不斉増幅現象」)が確認され、光学的に純粋な化合物を用いた場合と同程度の光学純度でらせんのキラリティーを誘起することができるので、光学純度の低い化合物を使用することもできる。当該低分子化合物は、液体でも固体でもよく、好ましくは、液体である。
光学活性な低分子化合物の使用量は、化合物(II)(1当量)に対して、通常1〜10当量である。
【0126】
溶媒としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等が挙げられ、中でも水が好ましい。
【0127】
反応温度は、通常0℃〜120℃、好ましくは室温〜100℃、より好ましくは80℃〜100℃である。
反応時間は、通常0.5〜30時間である。
【0128】
工程7−2は、一方向巻きのらせんキラリティーが誘起された(光学活性な)化合物(I)を含む混合液から光学活性な低分子化合物を除去することにより、一方向巻きのらせん構造が記憶された化合物(I)を得る工程である。具体的には、工程7−1の反応液に塩基を加え、有機溶媒により光学活性な低分子化合物を洗浄除去後、水相を減圧濃縮し、沈殿物を水に溶解させて、酸の添加により生じた沈殿物を水洗することにより光学活性な化合物(I−1)(X=X’=CO
2H)を得る工程である。
【0129】
塩基としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の無機塩基が挙げられ、中でも、水酸化ナトリウムが好ましい。
該塩基の使用量は、化合物(II)(1当量)に対して、通常1〜3当量である。
【0130】
光学活性な低分子化合物の洗浄除去に使用する有機溶媒としては、クロロホルム、ジクロロメタン、ジエチルエーテル、酢酸エチル、トルエン、ベンゼン等が挙げられるが、中でも、クロロホルムが特に好ましい。
【0131】
酸としては、例えば、塩酸、リン酸、硫酸等が挙げられ、中でも、塩酸が好ましい。
【0132】
化合物(I)に一方向巻きのらせんキラリティーが誘起されたか否か、及び当該キラリティーが記憶されたか否かは、CD及びUVスペクトルを測定することにより確認することができる。
【0133】
化合物(I)にどの程度の光学純度で一方向巻きのらせんキラリティーが誘起されたかどうか(らせんキラリティーの片寄りの程度)は、CDスペクトルのピーク強度(Δε)を測定することにより確認することができる。すなわち、ピーク強度が大きいほど、らせんの巻き方向が一方向に片寄っていることを示す。
【0134】
工程8
当該工程は、工程7で得られる光学活性な化合物(I−1)(X=X’=CO
2H)のアミド化又はエステル化により化合物(I−2)(X=X’=CON(R
5)(R
6)又はCO
2R
8)へと変換する工程である。
【0135】
当該エステル化反応は、工程1と同様の反応形態及び反応条件により行うことができる。
【0136】
当該アミド化反応は、自体公知の方法(例えば、縮合剤存在下でアミン((R
5)(R
6)NH)と反応させる方法等)により行われる。
当該反応は、反応に影響を及ぼさない溶媒中、必要に応じて縮合添加剤存在下、縮合剤を用いて行われる。
【0137】
縮合添加剤としては、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、1−ヒドロキシ−1H−1,2,3−トリアゾール−5−カルボン酸エチルエステル(HOCt)、1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾール(HOAt)等が挙げられる。
縮合添加剤の使用量は、光学活性な化合物(I−1)1当量に対して、好ましくは0.05〜1.5当量である。
【0138】
縮合剤としては、4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリド(DMT−MM)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、N−エチル−N’−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]カルボジイミドおよびその塩酸塩(EDC・HCl)、ヘキサフルオロリン酸(ベンゾトリアゾール−1−イルオキシ)トリピロリジノホスホニウム(PyBop)、O−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウム テトラフルオロボレート(TBTU)、1−[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]−5−クロロ−1H−ベンゾトリアゾリウム3−オキシド ヘキサフルオロホスフェート(HCTU)、O−ベンゾトリアゾール−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウム ヘキサフルオロボレート(HBTU)等が挙げられるが、水系溶媒中でも使用可能なDMT−MMが特に好適である。
縮合剤の使用量は、光学活性な化合物(I−1)1当量に対して、1〜10当量使用することができ、好ましくは1〜5当量である。
溶媒としては、例えば、水;ジメチルスルホキシド(DMSO);トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素類等あるいはそれらの混合物が挙げられ、中でも、水とDMSOの混合溶媒等が好ましい。
反応温度は、通常0℃〜40℃、好ましくは0℃〜室温であり、反応時間は、通常1〜30時間である。
【0139】
工程8のアミド化又はエステル化は、らせんキラリティーを誘起する前、すなわち、工程7の前、に行うことも可能である。しかし、化合物(I)のらせんキラリティー誘起後の側鎖の官能基変換の際にラセミ化しないことが確認できたことから、分離対象化合物に適した所望のキラル固定相を効率良く製造するという意味においては、工程7の後に行うことが好ましい。
【0140】
光学活性な化合物(I)のらせんの巻き方向を反転させることも可能である。
【0141】
具体的には、前記一方向巻きのらせんキラリティーの誘起方法における光学不活性な化合物(II)に換えて、光学活性な化合物(I−1)を用い、また、光学活性な低分子化合物に換えて、該光学活性な低分子化合物の鏡像異性体又は該光学活性な低分子化合物とは異なる種類の光学活性な低分子化合物(好ましくは、該光学活性な低分子化合物の鏡像異性体)を用いて行うことにより、逆の符号の比旋光度を示す光学活性な化合物(I−1)へと変換することができる。
【0142】
らせんの巻き方向の反転の際に使用する該光学活性な低分子化合物の鏡像異性体、又は該光学活性な低分子化合物とは異なる種類の光学活性な低分子化合物としては、光学的に純粋な化合物(99%ee以上)を使用するのが好ましいが、上記と同様に、低い光学純度の化合物を用いても、正の非線形現象(いわゆる、「不斉増幅現象」)が確認され、光学的に純粋な化合物を用いた場合と同程度の光学純度でらせんの巻き方向を反転させることも可能である。従って、該光学活性な低分子化合物の鏡像異性体、又は該光学活性な低分子化合物として、光学純度の低い化合物を使用することもできる。
【0143】
本発明の化合物(I)のらせんの巻き方向が反転されたか否かは、CDスペクトルを測定することにより確認することができる。
【0144】
光学活性な化合物(I)のらせんの巻き方向の反転の程度(光学純度)は、反転処理後の化合物(I)のCDスペクトルのピーク強度(Δε)を測定することにより確認することができる。すなわち、ピーク強度が大きいほど、らせんの巻き方向の反転の程度(逆方向巻きのらせんへのシフト率)が高いことを示す。
【0145】
(光学活性な化合物(I)を担持してなるキラルカラム用充填剤、及び該充填剤が充填された高速液体クロマトグラフィー用キラルカラムの製造方法)
光学活性な化合物(I)は、それ自体を光学異性体分離剤として使用することもできるが、通常、多孔質有機担体又は多孔質無機担体等の担体に担持させることが好ましい。
【0146】
本発明に用いられる最も好ましい担体はシリカゲルであり、シリカゲルの粒径は0.1μm〜300μm、好ましくは1μm〜10μmであり、平均孔径は10Å〜100μm、好ましくは50Å〜50000Åである。
【0147】
光学活性な化合物(I)のシリカゲルへの担持方法としては、最も簡便には、本発明の化合物(I)をDMSO、DMF又はクロロホルム/トリフルオロエタノール混合溶媒に溶解し、シリカゲルにコーティングして担持させる方法が挙げられる。
【0148】
光学活性な化合物(I)のシリカゲルへの担持量は、熱重量分析を用いて確認することができる。
【0149】
光学活性な化合物(I)が担持されたシリカゲルをスラリー法(溶媒としては、ヘキサン/2−プロパノール混合溶媒又はメタノールが好ましい。)によりカラムに充填することによりキラルカラムを調製することができる。
【実施例】
【0150】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらより何ら限定されるものではない。
【0151】
反応は、Merck 60 F254 シリカゲルプレート(厚さ0.25mm)を用いて、薄層クロマトグラフィーによりモニターした。
1H及び
13C−NMRスペクトルは、JEOL ECA500を用い、重クロロホルム、重ジメチルスルホキシド及び重水を溶媒として測定した。
1H−NMRについてのデータは、化学シフト(δppm)、多重度(s=シングレット、d=ダブレット、t=トリプレット、q=カルテット、quint=クインテット、m=マルチプレット、dd=ダブルダブレット、dt=ダブルトリプレット、brs=ブロードシングレット)、カップリング定数(Hz)、積分及び割当てとして報告する。
フラッシュクロマトグラフィーは、関東化学株式会社(日本、東京)のシリカゲル60Nを用いて行った。
平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(日本分光製高速液体クロマトグラフィーポンプ PU−2080、日本分光製紫外可視検出器 UV−970、日本分光製カラムオーブン CO−1560、Shodex製カラム KF−805L)によりポリスチレン換算で算出した。
調製した本発明の化合物(I)の分離能の測定には日本分光製高速液体クロマトグラフィーポンプPU−2080、日本分光製紫外可視検出器 MD−910、日本分光製旋光検出器 OR−990を用いた。円二色性(CD)測定は日本分光製円二色性分散計 J−725、紫外可視吸収測定は日本分光製紫外可視分光光度計 V−570、赤外吸収測定は、日本分光製赤外分光光度計 FT/IR−460を用いて行った。
以下の実施例中の「室温」は通常約10℃ないし約25℃を示す。混合溶媒において示した比は、特に断らない限り容量比を示す。%は、特に断らない限り重量%を示す。
【0152】
実施例1
化合物(IIa)の合成
【0153】
(1)4−ヨード安息香酸ヘプチル(2a)の合成
【0154】
【化6】
【0155】
窒素雰囲気下、4−ヨード安息香酸(1a)(10.6g,42.9mmol)を脱水ジクロロメタン(140mL)に溶解し、脱水N,N−ジメチルホルムアミドを数滴加えた。その後、0℃で塩化オキサリル(4.50mL,42.4mmol)を加え室温で10時間撹拌した。溶媒除去した後、脱水ピリジン(70mL)とn−ヘプタノール(7.0mL,49.4mmol)を加え、70℃で5時間撹拌した。反応溶媒を除去した後、酢酸エチルで希釈し、蒸留水と飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水した。溶媒を減圧除去し、残渣をカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:19)で精製することにより、4−ヨード安息香酸ヘプチル(2a)(14.5g、収率97%)を油状液体として得た。
【0156】
(2)4−[(トリメチルシリル)エチニル]安息香酸ヘプチル(3a)の合成
【0157】
【化7】
【0158】
窒素雰囲気下、4−ヨード安息香酸ヘプチル(2a)(10.1g,29.3mmol)を脱水トリエチルアミン(50mL)に溶解し、Pd(PPh
3)
2Cl
2(0.0820g,0.117mmol)、トリフェニルホスフィン(0.126g,0.480mmol)、ヨウ化銅(I)(0.135g,0.192mmol)、トリメチルシリルアセチレン(TMSA)(4.30mL,31.7mmol)を加え、室温で20時間撹拌した。反応溶液をセライトろ過した後、溶媒を減圧除去し、残渣をカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:30)で精製することにより、4−[(トリメチルシリル)エチニル]安息香酸ヘプチル(3a)(9.23g、収率98%)を油状液体として得た。
【0159】
(3)4−エチニル安息香酸ヘプチル(4a)の合成
【0160】
【化8】
【0161】
4−[(トリメチルシリル)エチニル]安息香酸ヘプチル(3a)(10.4g,32.8mmol)をテトラヒドロフラン/メタノール(3/1,v/v)(400mL)に溶解し、炭酸カリウム(1.00g,7.24mmol)を加え、−10℃で1時間撹拌した。反応溶媒を濃縮した後、酢酸エチルで希釈し、1N塩酸、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水した。溶媒を減圧除去し、残渣をカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:25)で精製することにより、4−エチニル安息香酸ヘプチル(4a)(6.58g、収率82%)を油状液体として得た。
【0162】
(4)ビス[4−(へプチロキシカルボニル)フェニル]アセチレン(5a)の合成
【0163】
【化9】
【0164】
窒素雰囲気下、4−ヨード安息香酸ヘプチル(2a)(3.64g,10.5mmol)を脱水トリエチルアミン(8.6mL)に溶解し、脱水テトラヒドロフラン(4.0mL)、トリフェニルホスフィン(39.3mg,0.150mmol)、ヨウ化銅(I)(43.8mg,0.230mmol)、Pd(PPh
3)
2Cl
2(27.9mg,0.0397mmol)を加えた。その後、4−エチニル安息香酸ヘプチル(4a)(2.64g,10.8mmol)を脱水テトラヒドロフラン(2.0mL)に溶かした溶液をゆっくり滴下し、室温で3時間撹拌した。反応溶液をセライトろ過し、減圧除去した後、酢酸エチルで希釈し、水、飽和食塩水で洗浄し、有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水した。溶媒を減圧除去し、残渣をカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:10)で精製した。続いてメタノール/エタノール(5:1,v/v)で再結晶を行い、ビス[4−(へプチロキシカルボニル)フェニル]アセチレン(5a)(4.64g、収率95%)を白色固体として得た。
mp:61.3−62.4℃;
IR(KBr,cm
−1):1943(C≡C),1707(C=O);
1H NMR(500MHz,CDCl
3,rt):δ8.04(d,J=8.6Hz,4H,Ar−H),7.60(d,J=8.0Hz,4H,Ar−H),4.33(t,J=6.6Hz,4H,2OCH
2CH
2),1.76(quint,J=6.6Hz,4H,2OCH
2CH
2),1.25−1.47(m,16H,8CH
2),0.90(t,J=6.9Hz,6H,2CH
3);
13C NMR(125MHz,CDCl
3,rt):δ166.19,131.76,130.46,129.68,127.38,91.49,65.56,31.88,29.11,28.85,26.15,22.75,14.23;
元素分析:Calcd for C
30H
38O
4:C,77.89;H,8.28.Found:C,77.60;H,8.37.
【0165】
(5)化合物(5a)の重合による化合物(6a)の合成
【0166】
【化10】
【0167】
窒素雰囲気下、シュレンク管にビス[4−(へプチロキシカルボニル)フェニル)]アセチレン(5a)(600mg,1.30mmol)、塩化タングステン(VI)(51.6mg,0.130mmol)、テトラフェニルすず(IV)(55.5mg,0.130mmol)を入れ、真空蒸留した脱水トルエン(2.6mL)を加えた。その後、110℃で24時間撹拌した。室温まで冷却後、大量のメタノールに再沈殿させ、遠心分離により黄土色固体を得た。続いて、少量のトルエンに溶解させ、大量のテトラヒドロフラン/メタノール(3:1,v/v)混合溶媒に再沈殿させ、遠心分離によりポリ(ジフェニルアセチレン)へプチルエステル(化合物(6a))(404mg、収率67%)を黄土色固体として回収した。ゲル浸透クロマトグラフィー測定により求めた化合物(6a)のポリスチレン換算の数平均分子量M
nは1.46×10
4であり分散度M
w/M
nは1.58であった。
IR(KBr,cm
−1):1721(C=O);
1H NMR(500MHz,CDCl
3,50℃):δ7.16−7.28(br,4H,Ar−H),6.41−6.71(br,2H,Ar−H),5.92−6.15(br,2H,Ar−H),4.03−4.48(br,4H,2OCH
2CH
2),1.60−1.93(br,4H,2OCH
2CH
2),1.25−1.47(br,16H,8CH
2),0.79−1.04(br,6H,2CH
3);
元素分析:Calcd for C
30H
38O
4:C,77.89;H,8.28.Found:C,77.40;H,8.42.
【0168】
(6)化合物(6a)の加水分解による化合物(IIa)の合成
【0169】
【化11】
【0170】
化合物(6a)(400mg)をテトラヒドロフラン(15mL)に溶解し、4N水酸化カリウム水溶液(35mL)を加え、80℃で2時間撹拌した。その後、テトラヒドロフランを留去し、4N水酸化カリウム水溶液(30mL)を加え、80℃で24時間撹拌した。反応溶液に蒸留水を加えた後、ジエチルエーテル、クロロホルムで洗浄した。水層に1N塩酸を加えて酸性にし、析出した固体を遠心分離により回収し、その後、蒸留水で洗浄することによりポリ(ジフェニルアセチレン)カルボン酸(光学不活性体)(化合物(IIa))(180mg、収率78%)を褐色固体として得た。
IR(KBr,cm
−1):1701(C=O);
1H NMR(500MHz,d
6−DMSO/D
2O(1:1,v/v),80℃):δ7.19−6.88(br,4H,Ar−H),6.53−6.31(br,2H,Ar−H),6.12−5.82(br,2H,Ar−H);
元素分析:Calcd for (C
16H
10O
4・2.1H
2O)
n:C,63.20;H,4.71.Found:C,63.04;H,4.55.
【0171】
実施例2
光学不活性な化合物(IIa)への一方向巻きのらせんキラリティーの誘起と記憶
【0172】
【化12】
【0173】
(1)化合物(IIa)へのらせんキラリティーの誘起
化合物(IIa)(200mg,0.751mmol)を水(75mL)に溶解し、光学的に純粋な(S)−(+)−2−フェニルグリシノール(823mg,6.00mmol)を加え、95℃で2時間撹拌後、25℃で24時間静置し、当該溶液のCDスペクトルを測定した(セル長:0.1cm、測定温度:25℃)(
図1の(a))。その結果、主鎖の吸収領域に明確なコットン効果が観測され、これにより化合物(IIa)に一方向巻きのらせん構造が誘起され、光学活性な化合物(Ia)が生成したことが示唆された。
【0174】
(2)化合物(Ia)のらせんキラリティーの記憶
前記処理により一方向巻きのらせん構造が誘起された光学活性な化合物(Ia)の水溶液に、水酸化ナトリウム(33mg,0.83mmol)を加え、クロロホルムで洗浄した後、水層を減圧濃縮した。その後、大量のアセトンに再沈殿し、遠心分離により化合物(Ia)のナトリウム塩を回収した。化合物(Ia)のナトリウム塩を少量の水に溶解し、1N塩酸を加えて酸性にして析出した固体を遠心分離により回収し、蒸留水で洗浄することにより化合物(Ia)(184mg、収率92%)を褐色固体として得た。得られた化合物(Ia)をジメチルスルホキシドに溶解させ、CDを測定したところ、化合物(Ia)と(S)−(+)−2−フェニルグリシノールとの混合溶液時と同様の誘起CDが観測された(
図1の(b))。これにより、化合物(Ia)が有する一方向巻きのらせん構造は、光学的に純粋な(S)−(+)−2−フェニルグリシノールの除去後も記憶として化合物(Ia)に保持されることが確認された。
【0175】
実施例3
一方向巻きのらせん構造を有する光学活性な化合物(Ia)の側鎖カルボキシ基のアミド化反応による光学活性な化合物(Ib)の合成
【0176】
【化13】
【0177】
光学活性な化合物(Ia)(170mg,0.638mmol)をジメチルスルホキシド/水(5:1,v/v)(30mL)に溶解し、アニリン(238mg,2.55mmol)、4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリド(DMT−MM)(706mg,2.55mmol)を加え、室温で5時間撹拌した。析出した固体を遠心分離により回収した後、少量のテトラヒドロフランに溶解し大量の水/メタノール(5:1,v/v)混合溶媒に再沈殿し、遠心分離により回収し、メタノールで洗浄することにより化合物(Ib)(186mg、収率70%)を暗赤色固体として得た。得られた化合物(Ib)をジメチルスルホキシドに溶解させ、CDを測定したところ、一方向巻きのらせん構造を有する化合物(Ia)と同様の誘起CDが観測された(
図1の(c))。これにより、化合物(Ia)に誘起・記憶された一方向巻きのらせん構造は、化学修飾(アミド化)後も記憶として化合物(Ib)に保持されることが確認できた。
【0178】
実施例4
カラムの調製と不斉識別能評価
【0179】
(1)光学活性な化合物(Ib)を担持させた光学分割用キラルカラムの調製
光学活性な化合物(Ib)(120mg)をクロロホルム/トリフルオロエタノール(5:1,v/v)(4.8mL)に溶解し、HPLC用のシリカゲル(ダイソー製:粒径7μm)に担持した。得られたポリマー担持ゲルをスラリー法(溶媒:ヘキサン/2−プロパノール(9:1,v/v))により長さ25cm、内径0.20cmのステンレスカラムに充填した。
【0180】
(2)キラルカラムを用いた3,3’−ジフェニル−1,1’−ビ−2−ナフトールの光学分割
上記(1)の操作で調製されたキラルカラムを用いて、3,3’−ジフェニル−1,1’−ビ−2−ナフトールの光学分割をHPLCにより行った(室温:約20℃)(
図2)。溶離液にはヘキサン/2−プロパノール=90/10(v/v)を用いて、流速は0.1mL/分とした。また、溶離液がカラムを素通りする時間t
0は1,3,5−トリ−tert−ブチルベンゼンの溶出時間から求めた。その結果、k
1=1.57、α=1.51と見積もられた(表1)。
【0181】
(3)HPLCによるキラルカラムの不斉識別能の確認
上記(1)の操作で調製されたキラルカラムを用いて、様々な化合物のラセミ体の光学分割をHPLC(流速は、0.1mL/分(ヘキサン/2−プロパノール=90/10、50/50)または0.2mL/分(ヘキサン/2−プロパノール=99/1)により行った。その分離条件と結果を表1に示した。
【0182】
【表1】
【0183】
ここで保持係数k
1とは、最初に溶出するエナンチオマーが充填剤とどの程度強く相互作用しているかどうかを表す指標であり、具体的には、式:k
1=(t
1−t
0)/t
0(式中、t
1:最初に溶出するエナンチオマーの溶出時間、t
0:充填剤と全く相互作用しない物質(1,3,5−トリ−tert−ブチルベンゼン)が溶出してくる時間)で表される式により算出される。また、分離係数αとは、両エナンチオマーの保持係数の比を意味し、具体的には、式:α=k
2/k
1(式中、k
1:先に溶出するエナンチオマーの保持係数、k
2:後から溶出するエナンチオマーの保持係数)で表される式により算出される。一般には、αが1の場合、溶出時間が全く同じで分離されないことを意味し、α>1であれば、両エナンチオマーが分離可能であることを示し、一般にαが1.2以上であれば、ピークの裾まで完全に分離可能であることを示す。
【0184】
表1によれば、光学活性な化合物(Ib)を担持させたキラルカラムは、エーテル、ケトン、アミン、フェノール、アルコール、金属錯体等の広範なキラル化合物のラセミ体を極めて効率良く分離できることが確認された。
【0185】
実施例5
低い光学純度の低分子化合物を用いる一方向巻きのらせんキラリティーの誘起(非線形効果の確認)
【0186】
(1)光学不活性な化合物(IIa)(2mg/mL,5mL)の水溶液に(S)−(−)−1−フェニルエチルアミンの20%ee、40%ee、60%ee、80%ee又は100%ee水溶液を加え、1.9mMの化合物(IIa)の水溶液を調整した([1−フェニルエチルアミン]/[化合物(IIa)]=50)。95℃で2時間撹拌後、25℃で24時間静置した後、生成した光学活性な化合物(Ia)のCDおよびUVスペクトルを25℃下で測定した。
【0187】
その結果、
図3に示されるように、化合物(IIa)へのらせんキラリティーの誘起(光学活性な化合物(Ia)への変換)の際に、光学純度が80%ee以上の(S)−(−)−1−フェニルエチルアミンを使用することにより、光学的に純粋な(S)−(−)−1−フェニルエチルアミンを使用した場合と同程度のCDスペクトルにおけるピーク強度(Δε)が観測された。このことから、化合物(IIa)へのらせんキラリティーの誘起において、正の非線形現象(いわゆる、「不斉増幅現象」)を確認することができた。