【実施例1】
【0009】
以下に、本発明の実施例1に係る熱界面材料(TIM)10及びその製造方法について、
図1乃至
図7を参照しつつ説明する。
【0010】
図1A−C及び
図6に実施例1のTIMの製造方法の斜視図を示し、
図2にグラファイト結晶の分子構造を示す。まず、グラファイトシート(GrafTech International株式会社製、GRAFOIL(登録商標)Grade−GTA、厚さ0.635mm)11を用意する。グラファイトシート11は、主面と平行な方向、すなわち
図2に示すグラファイト結晶のa軸及びb軸に平行な方向(面内方向)における熱伝導率が約140W/(m・K)、主面と垂直な方向すなわち結晶のc軸方向(厚み方向)の熱伝導率が約5W/(m・K)となっている。
【0011】
次に、
図1Aに示すように、グラファイトシート11の上面に粘着シート13(例えば、セロファンテープ、ビニールテープ等)を貼り付ける。その後、
図1Bに示すように、粘着シート13をグラファイトシート11から引き剥がす。
図2に示すように、グラファイトシート11を構成するグラファイト結晶は、層状の構造を有しており、層毎のa軸及びb軸に平行な面内においては強い共有結合で炭素同士が結合しているが、層と層の間(面間)において、すなわちc軸方向においては、炭素からなる層同士が弱いファンデルワールス力で結合している。それゆえに、グラファイトシート11は、表面においてグラファイト結晶のc軸方向に引っ張りを受けると表面が層状に剥離する性質を有している。従って、
図1Bに示すように、グラファイトシート11の表面から粘着シート13を引きはがす(引っ張り剥離)ことによって、グラファイトシート11の表面から部分的に剥離し、断面がカールしたフレア状に形成されている薄膜構造15を形成できる。その後、まだ薄膜構造15を形成していない領域についても、テープの貼り付け及び引きはがしを行い、
図1Cに示すようにグラファイトシート11の主面に平行な上面及び下面全体に薄膜構造15を形成する。以下、このグラファイトシート表面上に薄膜構造15を形成する加工を毛羽立て加工と称する。
【0012】
図3に
図1Cの3−3線に沿った断面を、
図4に
図3の領域Aの部分拡大図を示す。
図3及び
図4に示すように、フレア状に形成されている薄膜構造15は、グラファイトシート11の上面及び下面上に密に形成されており、一次薄膜構造15a、二次薄膜構造15b(第二の薄膜構造)及び三次薄膜構造15c(第三の薄膜構造)からなっている。一次薄膜構造15aは、グラファイトシート11の表面から断面がカールしたフレア状に形成されている薄膜の構造体である。一次薄膜構造15aの1つの長辺Lの長さは0.5mm〜1mm程度以下であり、幅は0.5mmから1mm程度である。一次薄膜構造15aの厚さは、最小で単分子層分の厚さであり、概ね数十μm以下である。
【0013】
一次薄膜構造15aの表面には、一次薄膜構造15aの表面がさらに剥離することによって、一次薄膜構造15aの表面から断面がカールしたフレア状に形成されている二次薄膜構造が形成されている。二次薄膜構造15bは、一次薄膜構造15aの表面に密に配されている。さらに、二次薄膜構造15bの表面には、二次薄膜構造15bの表面がさらに剥離することによって、二次薄膜構造15bの表面から断面がカールしたフレア状に形成されている三次薄膜構造15cが形成されている。三次薄膜構造15cは、二次薄膜構造15aの表面に密に配されている。
図5に、毛羽立て加工後のグラファイトシート11の表面の微分干渉顕微鏡像(約30倍)を示す。実際にグラファイトシート11上に薄膜構造15が密に配されている様子は、
図5に示すSEM拡大画像からわかる。
【0014】
次に
図6に示すように、カッター等の薄手の刃を有する刃物17で薄膜構造15をグラファイトシート表面から刮ぎ落とすようにまたは剥ぎ取るように剥離して分離し、
図7の断面図に示すような個別の薄膜片フィラー19を形成する。
図7に示すように、薄膜片フィラー19は一次薄膜構造15aの断面がカールした形状をそのまま保持しており、表面には毛羽立て加工時に形成された二次薄膜構造15b及び三次薄膜構造15cがそのまま残され、グラファイトシート11からの剥離によってさらに二次薄膜構造15b及び三次薄膜構造15cが形成されている。その後、刮ぎ落として分離した薄膜片フィラー19を網目が約3mm角のふるいにかけて、比較的大きな薄膜片フィラー19を取り除き、水平投影面積(薄膜片フィラー19を主面に垂直な方向(グラファイト結晶のc軸方向)から見たときの面積)が約10mm
2以下のサイズの薄膜片フィラー19を得る。薄膜片フィラー19は断面がカールしている薄膜のフレア状の構造である故に、僅かな外力により簡単に変形する。なお、若干の弾性を有する。また、薄膜片フィラー19は、長さ方向がグラファイト結晶のa軸及びb軸に平行な面に沿っているため、長さ方向、すなわち図中矢印で示した方向においてに非常に良好な熱伝導率(上記した140W/m・K)を有している。
【0015】
その後、薄膜片フィラー19を、マトリックス材であるシリコーングリース(信越化学工業株式会社製 HIVAC−G)と混ぜ合わせて実施例1のTIMを調整する。この際、例えば、薄膜片フィラー19とグリースを3(嵩高体積):1の体積比で混ぜ合わせることとする。なお、実施例1のTIM内に包含されている薄膜片フィラー19は、TIM中で薄膜片状の形態を保持していることが確認された。
【0016】
上記製造方法によって形成されたTIMは、グラファイト結晶のa軸及びb軸を包含する面を主面とする薄膜片と、当該薄膜片を包含しているマトリクス材と、からなり、当該薄膜片の表面に、当該グラファイト結晶のa軸及びb軸を包含する面を主面とするフレア状の薄膜構造が形成されているTIMとなっている。
【実施例4】
【0019】
以下に、実施例4に係るTIMについて説明する。実施例4のTIMは、薄膜片フィラー19を得るまでは、実施例2及び実施例3のTIMと同様の手順で生成する。実施例4のTIMの生成においては、マトリックスとしてシリコーン樹脂(信越化学工業株式会社製のダイアタッチシリコーン樹脂)を用い、分離及びふるい掛けによって得られた水平投影面積が約1mm
2以下のサイズの薄膜片フィラー19を当該シリコーン樹脂と混ぜ合わせることでTIMを生成する。この際、例えば、薄膜片フィラー19とグリースを2(嵩高体積):1で混ぜ合わせることとする。
【0020】
[TIMの評価]
上記実施例1乃至4に記載したTIMの性能を、
図8に示すパーソナルコンピュータ(以下、パソコンという)のCPU装置21を用いて評価(領域Bにて)した。CPU装置21は、発熱体としてのCPU23、CPU23上に配されている放熱体としてのヒートシンク25、及びヒートシンク上に配されているクーリングファン27からなっている。CPU23のヒートシンク25と対向している表面領域にはヒートスプレッダ23aが形成されている。ヒートスプレッダ23aとヒートシンク25との間には、TIM29が配されている。
【0021】
CPU23は、Intel(登録商標)社製Pentium(登録商標)4であり、CPUダイのサイズ112mm
2、熱設計電力(TDP:Thermal Design Power)89Wである。CPUヒートスプレッダ23aはCuからなり、表面には耐食メッキが施されている。CPUヒートスプレッダ23aのサイズは、縦31mm×横31mm×厚さが2mmである
ヒートシンク25は、アルミ合金からなり、縦68mm×横83mm×高さ37mmである。クーリングファン27は、ファンの直径dが68mmである。なお、ヒートシンク25とクーリングファン27は、前記CPU21に付属のIntel(登録商標)社製のリテールパッケージ品を用いた。このCPU装置21において、CPU23において発生した熱は、TIM29を介してヒートシンク23に伝導し、ヒートシンク25から大気中に放散される。
【0022】
TIMの評価においては、TIM29に、実施例1乃至4のTIM及び以下に説明する比較例1及び2のTIMの各々を用い、それぞれのTIMの性能を評価した。
【0023】
[比較例1]
比較例1は、上記実施例で用いたグラファイトシート11に薄膜化加工を施したTIMである。具体的には、グラファイトシート11の片面をロータリー式のグラインダーを用いて削り膜厚を0.3mmとして形成したTIMである。なお、当初から0.3mmの厚さを有している市販品のグラファイトシートを用いてもよい。
【0024】
[比較例2]
比較例2は、薄膜化した比較例1のグラファイトシートにさらに平坦化加工、毛羽立て加工を施したTIMである。比較例2のTIMは以下のように生成した。まず、上記比較例1のTIMの生成と同様に、グラファイトシート11の片面をロータリー式のグラインダーを用いて削り膜厚を0.3mmとした。
【0025】
その後、
図9Aに示すように、グラファイトシート11を厚さ1mmの柔らかいシリコーンシート(図示せず)上に載せ、表面に1mm間隔で細かな突起(円錐状突起)を有するローラー31を用いて、グラファイトシートの表側と裏側から2〜3回ローラー掛けをしてシートにディンプル状の窪み構造33を形成する。この際、グラファイトシート11が破断しない程度の押圧力でローラー掛けをする。次に、
図9Bに示すように、平坦なガラス板(図示せず)の上にグラファイトシート11を載せ、表面が平坦なローラー35を用い、シートの表側と裏側から数回ローラー掛けをしてシート表面を平坦化した。
【0026】
その後、上記実施例1のTIMの製造方法と同様に、グラファイトシート11の表面に粘着シートを貼り付けて引き剥がす毛羽立て加工を行うことによって、薄膜構造を形成し比較例2のTIMが完成する。
【0027】
[TIM塗布または配置態様]
実施例1乃至4のTIM、並びに比較例1及び比較例2のTIMをCPU装置21のTIM29に用い、実際にCPUを稼働させて熱放散能について評価を行った。なお、実施例1のTIMについては、CPU23とヒートシンク25の組み付け時に0.4mmの厚さとなるように塗ったもの(以下、実施例1(厚塗り)とも示す)と0.1mm以下の厚さとなるように塗ったもの(以下、実施例1(薄塗り)とも示す)を用い、実施例2乃至4のTIMについては、CPU23とヒートシンク25の組み付け時に0.1mm以下の厚さとなるように塗ったものを用いた。
【0028】
実施例1及び2のTIMの塗りつけ及びCPU23とヒートシンク25との組み付けは以下の様に行った。まず、CPU23のヒートスプレッダ23aの表面の全面に、TIMを0.1mm強の厚み(実施例1(厚塗り)の場合は0.4mm強の厚み)で塗布した。次に、ヒートシンク25を、TIMが塗布されているヒートスプレッダ23aの表面に一定の力で押さえつけることのできるバネで固定した。この作業によりTIMの厚みは略0.1mm以下(実施例1(厚塗り)の場合は0.4mm)になる。
【0029】
実施例3のTIMの塗りつけ及びCPU23とヒートシンク25との組み付けは以下の様に行った。まず、薄膜片フィラー19は、TIMのオイル中で沈殿しているので、TIMを攪拌して薄膜片フィラー19とオイルを混ぜる。次に、TIMのオイル中で再度薄膜片フィラー19が沈殿しないうちにTIMをスポイトで吸い取り、必要量をCPU23のヒートスプレッダ23aの表面に滴下塗布する。しばらく待って薄膜片フィラー19がヒートスプレッダ23aの表面に沈降したら、吸油布でヒートスプレッダ23aの全面を押さえて余分なオイルを除去する。次に、ヒートシンク25を、TIMが塗布されているヒートスプレッダ23aの表面に一定の力で押さえつけることのできるバネで固定した。この際、TIMの滴下量を調整することで、余分なオイル除去後のTIMの厚みを0.1mm以下とした。
【0030】
実施例4のTIMの塗りつけ及びCPU23とヒートシンク25との組み付けは以下の様に行った。まず、CPUのヒートスプレッダ23aの中央に、TIMを適切量を滴下する。次に、ヒートシンク25をヒートスプレッダ23aの表面にTIMを延ばしながら押さえつけ、その後、一定の力で押さえつけることのできるバネでヒートシンク25とCPU23とを固定した。この作業により、TIMはヒートスプレッダ23aの表面全体に広がり、厚みは略0.1mm以下になる。なお、マトリックスに中粘度のシリコーン樹脂を用いると、薄膜片フィラーはマトリックス中に均一に分散保持されるので、塗布工程が簡便になる。
【0031】
比較例1及び2のTIMの配置及びCPU23とヒートシンク25との組み付けは以下の様に行った。まず、TIMをCPU23のヒートスプレッダ23aの上面と同じ大きさに裁断した。その後、TIMをヒートスプレッダ23a上に配置して、その上にヒートシンク25を配置し、一定の力で押さえつけることのできるバネでヒートシンク25とCPU23とを固定した。
【0032】
[評価結果]
【0033】
【表1】
【0034】
当該評価におけるTIMの評価表を表1に示す。表1にはTIMのマトリックス、加工・処理、厚み、及び評価値として、CPU最大負荷時の発熱とヒートシンクの放熱がバランスした際の、CPUジャンクション温度(CPU Tj)及びヒートシンク放熱面(CPUと接している面と反対側の面)温度(Tsink)を示している。さらに、CPUジャンクション温度とヒートシンク表面温度との差異(Tj−Tsink)、ヒートシンク表面温度と大気温度との差異(Tsink−Tair)、及びCPUが89W(TDP値)で発熱した際のCPUジャンクションとヒートシンク表面間の熱抵抗(Rth(CPU−sink))、ヒートシンク表面と大気間の熱抵抗(Rth(sink−air))も示している。
【0035】
上記評価値は、CPU装置21をパソコンに組み込んで測定した。また、評価する際のパソコンのOS(Operating system)は、Microsoft(登録商標)社のWindows(登録商標)XPをとし、評価値の測定には、CPUに負荷を掛けるためにベンチマークソフトとしてCrystal Mark 2004 R3を用い、CPUのジャンクション温度(CPU Tj)を測定するために、Open Hardware Monitor 0.54Bを用いた。ヒートシンク放熱面温度は熱電対で測定した。評価値の測定時の大気温度Tairは、22℃で一定としている。また、評価値の測定時のクーリングファン27の回転数は、2400rpmで一定とした。
【0036】
また、
図10には、実施例及び比較例の各々のCPUジャンクション温度(CPU Tj)をプロットしたグラフを示している。CPUジャンクションとヒートシンクとの間にTIMが挿入されるので、上記評価値において重要なのは、CPUジャンクション温度(CPU Tj)、及びCPUジャンクションとヒートシンク表面間の熱抵抗(Rth(CPU−sink))となる。
【0037】
なお、CPUのヒートスプレッダの表面温度(Tcase)が67℃(メーカー公開値)を超えると、CPUの保護のためにCPU稼働率を抑え、発熱量を低下させてCPUジャンクション温度(Tj)上昇を抑制する機能(以下、過熱保護機能という)が働く。
【0038】
上記表に示すように、実施例1のTIMを0.4mmの厚さで塗って用いた場合(表中、実施例1(厚塗り))、CPUジャンクション温度(CPU Tj)は65.5℃、ヒートシンク放熱面温度(Tsink)は51℃であった。この時のTj−Tsinkは14.5℃、Tsink−Tairは29℃であり、Rth(CPU−sink)は0.163℃/W、Rth(sink−air)は0.326℃/Wとなる。
【0039】
実施例1のTIMを0.1mm以下の厚さで塗って用いた場合(表中、実施例1(薄塗り))、CPUジャンクション温度(CPU Tj)は60.3℃、ヒートシンク放熱面温度(Tsink)は51℃であった。この時のTj−Tsinkは9.3℃、Tsink−Tairは29℃であり、Rth(CPU−sink)は0.104℃/W、Rth(sink−air)は0.326℃/Wとなる。
【0040】
実施例2のTIMを0.1mm以下の厚さで用いた場合(表中、実施例2)、CPUジャンクション温度(CPU Tj)は60.4℃、ヒートシンク放熱面温度(Tsink)は50℃であった。この時のTj−Tsinkは10.4℃、Tsink−Tairは28℃であり、Rth(CPU−sink)は0.117℃/W、Rth(sink−air)は0.315℃/Wとなる。
【0041】
実施例3のTIMを0.1mm以下の厚さで用いた場合(表中、実施例3)、CPUジャンクション温度(CPU Tj)は60.2℃、ヒートシンク放熱面温度(Tsink)は50.2℃であった。この時のTj−Tsinkは10℃、Tsink−Tairは28.2℃であり、Rth(CPU−sink)は0.112℃/W、Rth(sink−air)は0.316℃/Wとなる。
【0042】
実施例4のTIMを0.1mm以下の厚さで用いた場合(表中、実施例4)、CPUジャンクション温度(CPU Tj)、ヒートシンク放熱面温度(Tsink)は51.5℃であった。この時のTj−Tsinkは9.1℃、Tsink−Tairは29.5℃であり、Rth(CPU−sink)は0.103℃/W、Rth(sink−air)は0.332℃/Wとなる。
【0043】
比較例1のTIMを用いた場合(表中、比較例1)、TIMの熱伝導性の悪さ故にオーバーヒートし、上記した過熱保護機能が作動したためCPU Tj等は測定不能であった。
【0044】
比較例2のTIMを用いた場合(表中、比較例2)、CPUジャンクション温度(CPU Tj)は66.8℃、ヒートシンク放熱面温度(Tsink)は51℃であった。この時のTj−Tsinkは15.8℃、Tsink−Tairは29℃であり、Rth(CPU−sink)は0.177℃/W、Rth(sink−air)は0.326℃/Wとなる。
【0045】
[評価結果についての考察]
以下、
図11A、
図11B及び
図12を用いて評価結果について考察する。
図11Aは、実施例1のTIMを0.4mmの厚さで用いた(実施例1(厚塗り))場合の
図8の領域Bの拡大図である。
図11Bは、
図11Aの領域Cの拡大図である。
図12は、実施例1乃至4のTIMを0.1mmの厚さで用いた場合の
図8の領域Bの拡大図である。
図11A、
図12において、マトリクスをドット模様で表す。
【0046】
実施例1のTIMを0.4mmの厚さで用いた(実施例1(厚塗り))場合のCPU Tjは、比較例1及び比較例2のTIMを用いた場合よりも低い。これは、
図11A及び
図11Bに示すように、TIM中の、薄く柔らかい二次及び三次薄膜構造を有するグラファイト薄膜片フィラー19がヒートスプレッダ23a及びヒートシンク25の表面の凹凸に柔軟に変形しつつ入り込み、フィラーとヒートスプレッダ23a及びヒートシンク25の表面との接触面積が増加し、薄膜片フィラー同士が二次、三次薄膜構造の部分で重なり合うことによりTIM内でフィラー同士が接触し、グラファイト結晶のc軸方向(グラファイト結晶の厚み方向)ではなく、c軸方向よりも熱伝導率が高いグラファイト結晶のa軸及びb軸に平行な面内方向(例えば、薄膜片フィラー19の長さL方向)への熱伝導が多くなるためである。なお、このような効果は、グラファイトシートを単純に裁断または破砕したグラファイト薄膜片では得られない。
【0047】
実施例1のTIMを0.4mmの厚みで用いた場合(実施例1(厚塗り))に対し、実施例1乃至4のTIMを0.1mm以下の厚みで用いた場合は、いずれの場合もCPU Tj及びRth(CPU−sink)が低下した。これは、実施例1乃至4のTIMを0.1mm以下の厚みで用いた場合も、実施例1(厚塗り)関して
図11Bに示したのと同様に、グラファイト薄膜片フィラー19がヒートスプレッダ23a及びヒートシンク25の表面の凹凸に柔軟に変形しつつ入り込んでいることに加え、TIMが薄膜化したことによる。さらに、実施例1乃至4のTIMを0.1mm以下の厚みで用いた場合は、
図12に示すように、1つの薄膜片フィラー19がヒートスプレッダ23aとヒートシンク25との間を直接接続することで、熱が樹脂等のマトリックスを介さず、また複数の薄膜片フィラー19を介さずに、1つの薄膜片フィラー19のグラファイト結晶のa軸及びb軸に平行な面内方向に沿った熱伝導率の低い経路のみを通ってより直接的に伝達される故に、CPU Tj及びRth(CPU−sink)が低下した。
【0048】
実施例2乃至4のTIMを0.1mm以下の厚みで用いた場合、これらの間でCPU Tj及びRth(CPU−sink)の差はあまりなかった。このことから、本願の薄膜片フィラーを用いるTIMは、マトリックス材料に影響を受けないという特長を有していることがわかる。すなわち、マトリックス材料に粘度の高いグリース、粘度の低いオイル、中粘度の熱硬化性の樹脂等の高分子化合物によって熱伝導性に影響を受けない。またマトリックス材料の化学的成分によっても影響を受けない。換言すれば、目的に応じてTIMのマトリックス材を選択できる。
【0049】
例えば、TIMを厚く塗布したい場合には、マトリックス材として粘度の高いグリースを用いTIMをパテ状にすればよく、塗布後にマトリックス材を取り除きたい場合は、マトリックス材としてオイルを用いればよく、簡便に塗布したい場合には、マトリックス材として中粘度の樹脂を用いればよい。また、発熱体(CPU)と放熱体(ヒートシンク)を組み付け後に分離解体することがある場合は、マトリックス材としてチクソ性の樹脂を使用すればよく、発熱体(CPU)と放熱体(ヒートシンク)をしっかり固定したい場合は、マトリックス材熱硬化性樹脂を使用すればよい。また、マトリックス材の変質を防止したい場合はフッ素系樹脂を用いることも可能である。
【0050】
なお、TIM内の薄片化フィラーが余りに小さすぎるとフィラー同士の接触界面が増加すること等によりTIMの熱抵抗が大きくなる。発明者は、良好な低い熱抵抗値を得るために、TIM内のグラファイト薄膜片フィラーの水平投影面積が10000μm
2以上であるのが好ましく、90000μm
2以上であるのがさらに好ましいことを確認している。なお、水平投影面積が10000μm
2未満のグラファイト薄膜片が30%以下程度混ざっていても問題ないこともわかっている。
【0051】
また、反面、薄膜片フィラーが大きすぎると、TIMを薄く塗布することが困難になるので、グラファイト薄膜片フィラーは、水平投影面積が約10mm
2以下であるのが好ましく、良好なフィラー分散性や塗布性を得るために水平投影面積が1mm
2以下であるのが好ましい。
【0052】
上記実施例においては、毛羽立て加工において、薄膜構造が三次薄膜構造まで形成されるとしたが、三次薄膜構造の表面に四次薄膜構造が形成されていてもよく。さらに高次の薄膜構造が形成されていてもよい。また、少なくとも二次薄膜構造が形成されていればよく、三次以上の薄膜片は必ず形成されなくともよい。
【0053】
また、上記実施例においては、グラファイトシートに粘着テープを貼り付けてそれを剥がす毛羽立て加工によって薄膜構造を形成して、当該薄膜構造を、刃物を用いてグラファイトシートから分離して薄膜片フィラーを形成することとしたが、薄膜片フィラーはこれ以外の方法で形成してもよい。例えば、グラファイトシート表面に形成された薄膜構造を空気吸引器(例えば、掃除機のようなもの)で吸引することで、薄膜片フィラーとして分離回収することとしてもよい。また、毛羽立て加工を行った後の粘着テープには、グラファイトシートから剥がれた、薄膜フィラーと同様の構造体が張り付いているので、グラファイトを溶解させずに粘着テープのみを溶解させる溶解液により粘着テープを溶解させることで、残った薄膜フィラーと同様の構造体を回収することとしてもよい。
【0054】
また、薄膜片フィラー19は、全体としてカールしている必要はなく、少なくとも薄膜片フィラー19の二次薄膜構造15b及び三次薄膜構造15cが断面がカールしたフレア構造を有していればよい。
【0055】
上述した実施例における種々の数値、寸法、材料等は、例示に過ぎず、用途に応じて、適宜選択することができる。