特許第6086861号(P6086861)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6086861複合容器の製造方法、及び複合容器の製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6086861
(24)【登録日】2017年2月10日
(45)【発行日】2017年3月1日
(54)【発明の名称】複合容器の製造方法、及び複合容器の製造装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/16 20060101AFI20170220BHJP
   F17C 1/06 20060101ALI20170220BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20170220BHJP
   B29L 22/00 20060101ALN20170220BHJP
【FI】
   B29C67/14 A
   F17C1/06
   B29K105:08
   B29L22:00
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-253513(P2013-253513)
(22)【出願日】2013年12月6日
(65)【公開番号】特開2015-110304(P2015-110304A)
(43)【公開日】2015年6月18日
【審査請求日】2015年12月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】JXエネルギー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】蓑田 愛
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 順二
【審査官】 内藤 康彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−179638(JP,A)
【文献】 特開2006−300194(JP,A)
【文献】 特開2008−143029(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C41/00−67/18
F16J12/00−13/24
F17C1/00−13/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化層を備えた複合容器の製造方法であって、
硬化性樹脂が含浸された繊維束をライナの外周側に巻き付けることで繊維束層を形成すると共に、当該繊維束層を複数積層させる巻き付け工程を備え、
前記巻き付け工程においては、
所定の巻き付けパターンで前記繊維束を巻き付けた前記繊維束層を複数積層させることで一のパターン層を形成すると共に、当該パターン層を複数積層させ、
前記繊維束の巻きつけと同時に、積層された前記繊維束層内の前記硬化性樹脂をゲル化させており、
一の前記パターン層を形成しているとき、当該形成中のパターン層よりも内周側の他のパターン層における前記繊維束層の前記硬化性樹脂をゲル化させ、
且つ、新たに前記繊維束が巻き付けられる箇所では、
少なくとも巻き付けに係る前記繊維束と当接する第1繊維束層内の前記硬化性樹脂をゲル化させず、且つ、前記巻き付けに係る前記繊維束が前記形成中のパターン層における内周側から3番目の前記繊維束層を形成するときから最外周の前記繊維束層を形成するときの間の何れかのタイミングにおいて、前記形成中のパターン層における前記第1繊維束層よりも内周側の何れかの前記繊維束層内の前記硬化性樹脂をゲル化させる、複合容器の製造方法。
【請求項2】
前記巻き付け工程においては、前記繊維束の巻き付けに要する時間と前記硬化性樹脂のゲル化に要する時間との関係性を調整することによって、前記繊維束の巻きつけと同時に、積層された前記繊維束層内の前記硬化性樹脂をゲル化させる、請求項1に記載の複合容器の製造方法。
【請求項3】
前記巻き付け工程では、前記ライナへ巻き付ける前記繊維束を繊維束供給部から供給し、
前記繊維束供給部では前記繊維束を冷却手段によって冷却する、請求項1又は2に記載の複合容器の製造方法。
【請求項4】
前記巻き付け工程では、前記繊維束供給部において前記繊維束が巻かれているボビンを前記冷却手段で冷却することによって、前記硬化性樹脂のゲル化に要する時間を調整する、請求項3に記載の複合容器の製造方法。
【請求項5】
前記巻き付け工程では、前記繊維束を加熱することによって前記硬化性樹脂のゲル化に要する時間を調整する、請求項1〜4の何れか一項に記載の複合容器の製造方法。
【請求項6】
強化層を備えた複合容器の製造装置であって、
硬化性樹脂が含浸された繊維束をライナの外周側に巻き付けることで繊維束層を形成すると共に、当該繊維束層を複数積層させる巻き付け部と、
前記ライナへ巻き付ける前記繊維束を供給する繊維束供給部と、を備え、
前記繊維束供給部には、前記繊維束を冷却する冷却手段が設けられ、
前記巻き付け部は、前記繊維束の巻き付けと同時に、積層された前記繊維束層内の前記硬化性樹脂をゲル化させる、複合容器の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合容器の製造方法、及び複合容器の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に記載されているように、強化層を備えた複合容器を製造する製造方法が知られている。このような製造方法では、熱硬化性樹脂が含浸された繊維束をライナに積層するように巻き付けてから加熱し、繊維束の熱硬化性樹脂を硬化させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−300194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上述したような複合容器の製造方法においては、繊維束の硬化性樹脂同士の馴染みを良くするために硬化性樹脂の粘度が低く設定する場合がある。しかしながら、硬化性樹脂の粘度が低い場合、繊維束を巻き付けて繊維束層を積層させていくと、内周側の繊維束層の繊維束に緩みや蛇行が発生する場合があった。また、これによって複合容器の強度が低下する場合があった。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、複合容器の強度を向上させることができる複合容器の製造方法、及び複合容器の製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る複合容器の製造方法は、強化層を備えた複合容器の製造方法であって、硬化性樹脂が含浸された繊維束をライナの外周側に巻き付けることで繊維束層を形成すると共に、当該繊維束層を複数積層させる巻き付け工程を備え、巻き付け工程においては、繊維束の巻きつけと同時に、積層された繊維束層内の硬化性樹脂をゲル化させており、新たに繊維束が巻き付けられる箇所では、少なくとも巻き付けに係る繊維束と当接する第1繊維束層内の硬化性樹脂をゲル化させず、且つ、第1繊維束層よりも内周側の何れかの繊維束層内の硬化性樹脂をゲル化させる。
【0007】
本発明に係る複合容器の製造方法では、巻き付け工程において、繊維束の巻きつけと同時に、積層された繊維束層内の硬化性樹脂をゲル化させている。従って、新たな繊維束が巻き付けられても、内周側の繊維束層の硬化性樹脂がゲル化しているため当該繊維束層中の繊維束をゲル化した硬化性樹脂で支持することができる。また、新たに繊維束が巻き付けられる箇所では、少なくとも巻き付けに係る繊維束と当接する第1繊維束層内の硬化性樹脂をゲル化させず、且つ、第1繊維束層よりも内周側の何れかの繊維束層内の硬化性樹脂をゲル化させている。従って、新たな繊維束の硬化性樹脂と第1繊維束層内の硬化性樹脂とを十分に馴染ませることができる一方、第1繊維束層より内周側の繊維束層では、締付力による繊維束の緩みや蛇行を抑制することができる。以上により、複合容器の強度を向上させることができる。
【0008】
また、本発明に係る複合容器の製造方法において、巻き付け工程では、所定の巻き付けパターンで繊維束を巻き付けた繊維束層を複数積層させることで一のパターン層を形成すると共に、当該パターン層を複数積層させ、一のパターン層を形成しているとき、同一のパターン層における何れかの繊維束層内の硬化性樹脂をゲル化させてよい。このように、既に積層させた繊維束層内の硬化性樹脂を速やかにゲル化させることにより、締付力による繊維束の緩みや蛇行を更に抑制することができる。
【0009】
本発明に係る複合容器の製造方法では、巻き付け工程においては、繊維束の巻き付けに要する時間と硬化性樹脂のゲル化に要する時間との関係性を調整することによって、繊維束の巻きつけと同時に、積層された繊維束層内の硬化性樹脂をゲル化させてよい。例えば、硬化性樹脂のゲル化に要する時間に対して、巻き付けに要する時間を調整することによって、上述のような繊維束の巻き付けが可能となる。あるいは、例えば、巻き付けに要する時間に対して、硬化性樹脂の選定等によってゲル化に要する時間を調整することで、上述のような繊維束の巻き付けが可能となる。
【0010】
また、本発明に係る複合容器の製造方法において、巻き付け工程では、ライナへ巻き付ける繊維束を繊維束供給部から供給し、繊維束供給部では繊維束を冷却手段によって冷却してよい。繊維束供給部において供給される前の繊維束の硬化性樹脂は、冷却手段で冷却されることにより、粘度の上昇が抑えられる。従って、ゲル化へ向かって硬化性樹脂の粘度が上昇し始めるタイミングを調整することができる。
【0011】
また、本発明に係る複合容器の製造方法において、巻き付け工程では、繊維束供給部において繊維束が巻かれているボビンを冷却手段で冷却することによって、硬化性樹脂のゲル化に要する時間を調整してよい。このような冷却によって、容易に硬化性樹脂のゲル化に要する時間が長くなるように調整することができる。
【0012】
また、本発明に係る複合容器の製造方法において、巻き付け工程では、繊維束を加熱することによって硬化性樹脂のゲル化に要する時間を調整してよい。このような加熱によって、容易に硬化性樹脂のゲル化に要する時間が短くなるように調整することができる。
【0013】
また、本発明に係る複合容器の製造装置は、強化層を備えた複合容器の製造装置であって、硬化性樹脂が含浸された繊維束をライナの外周側に巻き付けることで繊維束層を形成すると共に、当該繊維束層を複数積層させる巻き付け部と、ライナへ巻き付ける繊維束を供給する繊維束供給部と、を備え、繊維束供給部には、繊維束を冷却する冷却手段が設けられ、巻き付け部は、繊維束の巻き付けと同時に、積層された繊維束層内の硬化性樹脂をゲル化させる。
【0014】
本発明に係る複合容器の製造装置において、巻き付け部は、繊維束の巻き付けと同時に、積層された繊維束層内の硬化性樹脂をゲル化させる。従って、新たな繊維束が巻き付けられても、内周側の繊維束層の硬化性樹脂がゲル化しているため当該繊維束層中の繊維束をゲル化した硬化性樹脂で支持することができる。従って、締付力による繊維束の緩みや蛇行を抑制することができる。繊維束供給部において供給される前の繊維束の硬化性樹脂は、冷却手段で冷却されることにより、粘度の上昇が抑えられる。従って、ゲル化へ向かって硬化性樹脂の粘度が上昇し始めるタイミングを調整することができ、繊維束層内の硬化性樹脂をより確実にゲル化させることができる。以上により、複合容器の強度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、複合容器の強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態に係る複合容器を示す一部断面図である。
図2】ヘリカル層とフープ層を説明するための概念図である。
図3】実施形態に係る複合容器の製造装置を示す模式的な概念図である。
図4】ゲル化の様子を示す模式的な概念図である。
図5】ゲル化の様子を示す模式的な概念図である。
図6】時間と硬化性樹脂の粘度との関係を概念的に示すグラフである。
図7】変形例に係る複合容器の製造装置を示す模式的な概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0018】
図1は、実施形態に係る製造方法及び製造装置により製造される複合容器を示す一部断面図である。図1に示すように、複合容器1は、水素や天然ガス等の燃料ガスを高圧で貯蔵するための容器である。この複合容器1は、例えば、全長が2〜4m、直径が400〜600mm程度に設定され、使用時には、20〜90MPa程度の圧力に耐えることが可能とされている。複合容器1は、その用途が限定されるものではなく、種々の用途で用いることができる。また、複合容器1は、据置き型として用いられてもよく、移動体に搭載されて用いられてもよい。
【0019】
この複合容器1は、円筒状のライナ2と、ライナ2の外面側(外周面側)を覆うように設けられた強化層3と、を備えている。ライナ2の両端部2aはドーム状に形成されており、当該両端部2aの先端には、口金4が取り付けられている。ここでの口金4における取付け高さ(突出高さ)は、強化層3の厚みと同等とされているが、それ以上であってもよく、口金4が強化層3から出っ張る高さとされてもよい。
【0020】
ライナ2の材料は特に限定されるものではないが、用途によっては、樹脂製又は金属製が選択される。樹脂製のライナ2としては、高密度ポリエチレン等の熱可塑性樹脂を回転成形やブロー成形にて容器形状に賦形したものに、金属製の口金4を付けたものが挙げられる。金属製のライナ2としては、例えば、アルミニウム合金製や鋼鉄製等からなるパイプ形状や板形状をスピニング加工等にて容器形状に形成したものに、口金4の形状を形成したものが挙げられる。
【0021】
強化層3は、硬化性樹脂が含浸された繊維束10をライナ2の外面側に積層するように巻き付け、所定の処理を行った後に、当該繊維束10を積層して成る複数層の繊維束層5(図4及び図5参照)を加熱し硬化させることによって形成される。繊維束10がライナ2の外周側に巻き付けられることによって繊維束層5が形成され、当該繊維束層5を複数積層させることにより強化層3が形成される。また、所定の巻き付けパターンで繊維束10を巻き付けた繊維束層5を複数積層させることで一のパターン層30が形成されると共に、当該パターン層30を複数積層させることにより強化層3が形成される。パターン層30として、フープ層31及びヘリカル層32が形成される。フープ層31とヘリカル層32は、交互に形成される。
【0022】
また、繊維束10としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、ポリエチレン繊維、スチール繊維、ザイロン繊維又はビニロン繊維等を用いることができ、ここでは、高強度で高弾性率且つ軽量な炭素繊維を用いている。また、本実施形態の繊維束10の繊維数(フィラメント)は、特に制限されるものではないが、1000〜50000フィラメント、好ましくは3000〜30000フィラメントの範囲とされ、ここでは、24000フィラメントとされている。
【0023】
図2(a)に示すように、フープ層31は、ライナ2に対して繊維束10を周方向に巻き付けることによって形成される層である。このとき、フープ層31の繊維は、ライナ2の径方向から見たときに、ライナ2の軸線CLと略垂直となるように巻き付けられる。なお、フープ層31を形成するときは、繊維束10で容器(又はヘリカル層32)の外周面を覆うことで繊維束層5を形成した後、その上に繊維束10を巻き付けて更に繊維束層5を形成する。このような繊維束層5を複数層形成することによって、フープ層31が形成される。フープ層31内の繊維束層5の数は、1〜10程度に設定される。フープ層31は、主にライナ2を径方向に支持する機能を有する。
【0024】
図2(b)に示すように、ヘリカル層32は、ライナ2に対して繊維束10を傾斜させた状態で周方向に取り囲むように巻き付けることによって形成される層である。このとき、ヘリカル層32の繊維は、ライナ2の径方向から見たときに、ライナ2の軸線CLに対して傾斜するように巻き付けられる。軸線CLに対する傾斜角は、10〜80°程度に設定される。ヘリカル層32においては、繊維束10がライナ2の一方のドーム状の端部2aから他方のドーム状の端部2aにて、たすきがけ状に巻き付けられる。なお、ヘリカル層32を形成するときは、繊維束10で容器(又はフープ層31)の外周面を覆うことで繊維束層5を形成した後、その繊維束層5の上に繊維束10を巻き付けて更に繊維束層5を形成する。このような繊維束層5を複数層形成することによって、ヘリカル層32が形成される。ヘリカル層32内の繊維束層5の数は、2〜20程度に設定される。ヘリカル層32は、主にライナ2を軸方向に支持する機能を有する。
【0025】
次に、上述のように構成された複合容器1を製造する製造方法について説明する。
【0026】
まず、繊維束10をライナ2の外周側に巻き付けることで一の繊維束層5を形成すると共に、当該繊維束層5を複数積層させ、これにより、容器中間体を形成する巻き付け工程が行われる。
【0027】
なお、容器中間体とは、製造過程における複合容器1を意図しており、ここでは、繊維束10の硬化性樹脂が熱硬化する前の状態のものを意図している(以下、同じ)。また、全ての繊維束10を巻き付け終えていない巻き付け途中のものを容器中間体と呼ぶこともある。また、巻き付け工程における巻き付け方法は特に限定されないが、例えば、FW(フィラメントワインディング)法を採用することができる。
【0028】
ここで、図3を参照して、本実施形態における上記巻き付け工程の例について詳説する。
【0029】
図3は予め硬化性樹脂が含浸された繊維束(トウプリプレグ)を用いて巻き付け工程を行う、いわゆるDry法で用いられる製造装置100の模式的な概念図である。ここで、「トウプリプレグ」とは、繊維束に樹脂が含浸しているものである。
【0030】
図3に示すように、本実施形態の製造装置100は、上記複合容器1を製造するものであって、上記巻き付け工程で用いられる。この製造装置100は、硬化性樹脂を予め含浸させた繊維束10を巻廻した複数のボビン101を備えている。さらに、製造装置100は、巻き付けられる複数の繊維束10の通過位置を調整する巻付束通過位置調整部102と、巻き付けられる複数の繊維束10をライナ2の軸方向に沿って移動させる移動部103と、繊維束10をライナ2で巻き取るように当該ライナ2を回転する回転機構(不図示)と、を備えている。このうち、ボビン101、巻付束通過位置調整部102、及び移動部103は、ライナ2へ巻き付ける繊維束10を供給する繊維束供給部150として構成される。また、ライナ2を配置する機構及び回転機構は、繊維束10をライナ2の外周側に巻き付けることで一の繊維束層5を形成すると共に、当該繊維束層5を複数積層させる巻き付け部160として構成される。この製造装置100による製造方法では、ボビン101から繊維束10が供給され、これら繊維束10は、巻付束通過位置調整部102によって巻き付け時の束通過位置が調整されながら、移動部103及び回転機構の協働によってライナ2の外面側に巻き付けられ、これにより、ライナ2を覆うように繊維束層5が形成される。
【0031】
巻き付け工程においては、所定の巻き付けパターンで繊維束10を巻き付けた繊維束層5を複数積層させることで一のパターン層30を形成すると共に、当該パターン層30を複数積層させる。なお、繊維束層5とは、パターン層30を形成するために繰り返し実行される巻き付けパターンのうち、一回の巻き付けパターンによって形成される繊維束10の層であり、容器中間体(またはライナ2)の外周面の略全域を覆う繊維束10の層である。具体的には、フープ層31の巻き付けパターンで繊維束10を巻き付けた繊維束層5を複数積層させることで一のフープ層31を形成する。フープ層31を形成する場合、図3に示すように、ライナ2の一方の端部2aから繊維束10の巻き付けを開始し、繊維束10をライナ2に巻き付けながら移動部103を方向D1側へ徐々に移動させ、ライナ2の他方の端部2bに達するまで巻き付けを行う。これによって、容器中間体(またはライナ2)の外周面の略全域を覆う一の繊維束層5が形成される。次に、移動部103の方向転換をし、ライナ2の他方の端部2bから繊維束10の巻き付けを開始し、繊維束10をライナ2に巻き付けながら移動部103を方向D2側へ徐々に移動させ、ライナ2の一方の端部2aに達するまで巻き付けを行う。これによって、容器中間体(またはライナ2)の外周面の略全域を覆う一の繊維束層5が形成される。当該パターンを繰り返すことによって複数の繊維束層5が形成され、一のフープ層31が形成される。フープ層31の場合、複合容器1の大きさにもよるが、一の繊維束層5を形成するのに5〜20分程度の時間がかかる。一のフープ層31を形成する時間は、繊維束層5の層数によって定まる。ヘリカル層32を形成する場合、移動部103を移動させることで繊維束10をライナ2に斜めに巻き付けを行う。このような斜めの巻き付けがライナ2の一方の端部2a側から他方の端部2b側へ向かって徐々に行われるように移動部103を移動させる。次に、斜めの巻き付けをライナ2の他方の端部2b側から一方の端部2a側へ向かって徐々に行われるように移動部103を移動させる。これによって、容器中間体(またはライナ2)の外周面の略全域を覆う一の繊維束層5が形成される。当該パターンを繰り返すことによって複数の繊維束層5が形成され、一のヘリカル層32が形成される。ヘリカル層32の場合、複合容器1の大きさにもよるが、一の繊維束層5を形成するのに10〜30分程度の時間がかかる。一のヘリカル層32を形成する時間は、繊維束層5の層数によって定まる。また、一のフープ層31(またはヘリカル層32)の形成工程が完了し、ヘリカル層32(またはフープ層31)の形成工程へ移行する場合は、繊維束10の切断や調整等の作業が行われる。
【0032】
本実施形態では、巻き付け工程において、繊維束10の巻きつけと同時に、積層された繊維束層5内の硬化性樹脂をゲル化させている。なお、図4及び図5においては、形成途中の繊維束層5を繊維束層5Aとし、巻き付けに係る繊維束10A(ここでは既に巻き付けられた繊維束10と区別するため、巻き付けに係る繊維束を10Aとする)と当接する繊維束層5、すなわち当該繊維束層5Aに内周側で隣接する繊維束層5を繊維束層(第1繊維束層)5Bとし、当該繊維束層5Bと内周側で隣接する繊維束層5を繊維束層5Cとする。なお、図4及び図5においては、繊維束層5A,5B,5C及び当該層を構成する繊維束10を示しているが、繊維束層5Cよりも内周側の繊維束層5については図示を省略している。また、図4及び図5においては、硬化性樹脂がゲル化した部分にグレースケールを付して示している。
【0033】
ここで、「繊維束層内の硬化性樹脂をゲル化させる」とは、硬化性樹脂をゲル化の状態に到達させることを意味する。例えば、図6に示すように、横軸を時間とし、縦軸を粘度とした場合、所定の温度条件下では、硬化性樹脂の粘度は時間の経過と共に増加する。そして、粘度が所定の値(ここでは、閾値TL1とする)まで到達することで、硬化性樹脂は流動性を失った「ゲル化」した状態となる。以降の説明のため、閾値TL1より粘度が低い領域をゲル化へ向かって粘度が上昇する領域である「ゲル化進行領域E1」とする。また、粘度が閾値TL1以上の領域を、ゲル化が完了した「ゲル化完了領域E2」とする。図6に示す例では、繊維束層5内の硬化性樹脂の粘度を閾値TL1へ到達させることが「繊維束層内の硬化性樹脂をゲル化させる」ことに該当する。従って、繊維束層5内の硬化性樹脂の粘度がゲル化進行領域E1内で上昇している状態は、「繊維束層内の硬化性樹脂をゲル化させる」状態には該当しない。なお、硬化性樹脂がゲル化したことを示す閾値TL1は、貯蔵弾性率と損失弾性率が一致するときの粘度等に設定することができる。従って、繊維束10の巻きつけと同時に、積層された繊維束層5内の硬化性樹脂をゲル化させるとは、繊維束10の巻き付けが行われているのと同時に、既に形成された繊維束層5の何れかにおいては、硬化性樹脂の粘度が閾値TL1へ到達してゲル化することである。
【0034】
図4及び図5に示すように、新たに繊維束10Aが巻き付けられる箇所では、少なくとも巻き付けに係る繊維束10Aと当接する繊維束層(第1繊維束層)5B内の硬化性樹脂をゲル化させず、且つ、繊維束層5Bよりも内周側の何れかの繊維束層5内の硬化性樹脂をゲル化させる。例えば、図4(a)に示す例では、新たな繊維束10Aを巻き付ける箇所では、繊維束10Aが巻き付けられる繊維束層5Bはゲル化しておらず、その一段内周側の繊維束層5C及びそれより内周側の各繊維束層5はゲル化している。
【0035】
図4(b)に示す例では、一のパターン層30B(ここでは、既に形成されたパターン層30と区別するため、形成中のパターン層を30Bとする)を形成しているとき、同一のパターン層30Bにおける何れかの繊維束層5内の硬化性樹脂をゲル化させている。すなわち、新たに形成中のパターン層30Bでは、新たに繊維束10Aを巻き付けているときに、既に形成された内周側の繊維束層5の何れかの部分の硬化性樹脂がゲル化している。この場合、パターン層30Bの最も外周側の繊維束層5を形成しているときに、少なくともパターン層30Bの最も内周側の繊維束層5がゲル化していればよい。このように、既に積層させた繊維束層5内の硬化性樹脂を速やかにゲル化させることにより、締付力による繊維束10の緩みや蛇行を更に抑制することができる。
【0036】
図5(a)に示す例では、一のパターン層30Bを形成しているとき、内周側の他のパターン層30における繊維束層5内の硬化性樹脂をゲル化させている。例えば、形成中のパターン層30Bが複合容器1中の最も外周側の最外パターン層30であり、繊維束層5Aが当該最外パターン層30の中の最も外周側の繊維束層5である場合に、ライナ2の外周面と繊維束層5Aとの間の周方向の寸法をR1とし、ゲル化している部分の周方向の寸法をR2とした場合、寸法R2は、寸法R1の30%以上であってよく、50%以上であってよい。当該範囲とすることで、内周側の繊維束層5の緩みを効果的に抑制することができる。ただし、このような数値範囲に限定されず、少なくとも繊維束10Aの巻き付けが行われているいずれかの時点で、繊維束層5の何れかにおいて硬化性樹脂がゲル化していればよい。例えば、図5(b)に示すように、繊維束層5Aが最外パターン層30の中の最も外周側の繊維束層5である時点において、最も内周側のパターン層30A(ライナ2に当接しているパターン層)の一部の繊維束層5(少なくとも最も内周側のライナ2に当接している繊維束層5)がゲル化していればよい。
【0037】
上述のように、巻き付け工程において、繊維束10の巻きつけと同時に、積層された繊維束層5内の硬化性樹脂をゲル化させることは、硬化性樹脂としてゲル化に至るまでのゲル化時間が短い硬化性樹脂を用いることによって可能となる。すなわち、巻き付け時間やその他の作業時間等とゲル化時間との関係を考慮することにより、ライナ2に繊維束10を巻き付けているときに、積層された繊維束10内でゲル化することができる硬化性樹脂を用いる。なお、ゲル化時間は、例えば図6で示すように、硬化性樹脂の粘度の上昇が開始された時点から、粘度が閾値TL1へ至るまでに要する時間である(図6においてt1で示されている)。特に限定されないが、常温(20〜25℃)条件下におけるゲル化時間が20〜600分の硬化性樹脂を適用してよい。なお、ゲル化時間の測定方法としては動的粘弾性測定を用いることができる。このような測定を行うために、例えば、ARESレオメータ(TA Instruments社製)を用いることができる。粘度の上昇開始から、貯蔵弾性率と損失弾性率が一致するまでの時間をゲル化時間として取得することができる。
【0038】
硬化性樹脂の種類としては、フェノール樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂等を採用してよい。また、硬化性樹脂の分子構造としては、例えば、エポキシ樹脂の場合、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等を採用してよい。また、硬化性樹脂に加える硬化剤としては、例えば、エチレンジアミン等の脂肪族アミン、ジエチレントリアミン等の脂肪族ポリアミン、メタフェニレンジアミンまたはジアミノジフェニルスルフォン等の芳香族アミン、ピペリジンまたはジアザピシクロウンデセン等の第一、第三アミン、メチルテトラヒドロ無水フタル酸等の酸無水物硬化剤等を採用してよい。
【0039】
図4及び図5に示すように、外周側の繊維束層5では硬化性樹脂をゲル化させず、内周側の繊維束層5では硬化性樹脂をゲル化させる状態とすることは、外周側の繊維束層5内の硬化性樹脂のゲル化進行開始のタイミングと、内周側の繊維束層5内の硬化性樹脂のゲル化進行開始のタイミングとを調整することによって可能となる。ゲル化進行開始のタイミングとは、ゲル化へ向かって硬化性樹脂の粘度の上昇が開始するタイミングであり、図6においては「0」に該当するタイミングである。上述のように、ゲル化時間が予め設定された硬化性樹脂を用いるため、先にライナ2に巻き付ける内周側の繊維束層5の硬化性樹脂については、外周側の繊維束層5の硬化性樹脂よりも、ゲル化進行開始のタイミングを早くする。
【0040】
硬化性樹脂のゲル化進行開始のタイミングを調整する方法は、特に限定されるものではなく、あらゆる方法を採用可能である。例えば、製造装置100において、繊維束供給部150における温度条件が常温であり、巻き付け部160における温度条件も常温である場合、次のような方法を採用してよい。すなわち、繊維束供給部150にセットされる前段階においては、ボビン101は冷蔵庫などの低温環境下に貯蔵されており、セットする際に当該冷蔵庫などから取り出す。取り出し後、ボビン101が常温となり、含浸されている硬化性樹脂の粘度の上昇が開始する時点が、硬化性樹脂のゲル化進行開始のタイミングとなる。ここで、一つ(又は複数)のパターン層30を形成するには複数組のボビン101が用いられる。すなわち、図3に示すように複数個のボビン101の組が繊維束供給部150にセットされて巻き付けを開始すると、各ボビン101の繊維束10が無くなるため、次のボビン101の組をセットする。このようなボビン101の組の取り換えを複数回行うことで一つのパターン層30が形成される。従って、使用中のボビン101の組よりも早い段階で使用されたボビン101の繊維束10で形成された繊維束層5(すなわち、内周側の繊維束層5)内の硬化性樹脂を早くゲル化させることができる。
【0041】
また、繊維束供給部150で供給される繊維束10を冷却手段で冷却することによって、ゲル化進行開始のタイミングを調整してもよい。例えば、図3に示すように、繊維束供給部150のうち、ボビン101の配置部を冷却領域170としてよい。例えば、外部へ繊維束10を供給可能な機構を備えた冷蔵庫を用い、当該冷蔵庫の内部を冷却領域170としてよい。冷却領域170内に配置されている状態では、繊維束10内の硬化性樹脂の粘度の上昇は起こらず、繊維束10がボビン101から引き出されて冷却領域170の外部へ出たとき(外部へ出て、硬化性樹脂の温度が所定の温度まで上昇したとき)が、硬化性樹脂のゲル化進行開始のタイミングとなる。従って、内周側の繊維束層5は、早い段階で冷却領域170の外へ出てライナ2に巻き付けられた繊維束10によって形成されているため、外周側の繊維束層5よりも早くゲル化させることができる。冷却手段によって、繊維束10を−25〜10℃に冷却してよい。以上のように、繊維束供給部150において供給される前の繊維束10の硬化性樹脂は、冷却手段で冷却されることにより、粘度の上昇が抑えられる。従って、ゲル化へ向かって硬化性樹脂の粘度が上昇し始めるタイミングを調整することができる。
【0042】
また、繊維束10に含浸される硬化性樹脂として、常温では粘度が上昇せず(あるいは、上昇するとしても緩やかに上昇する)、常温よりも高い所定の温度条件下におけるゲル化時間が短いものを採用すると共に、巻き付け部160に加熱手段(不図示)を設けることによって、ゲル化進行開始のタイミングを調整してもよい。すなわち、繊維束供給部150では繊維束10内の硬化性樹脂の粘度の上昇は起こらず、巻き付け部160でライナ2に巻き付けられて、硬化性樹脂が所定の温度となったときが、硬化性樹脂のゲル化進行開始のタイミングとなる。従って、内周側の繊維束層5は、早い段階で巻き付け部160で高い温度となった繊維束10によって形成されているため、外周側の繊維束層5よりも早くゲル化させることができる。加熱手段として、ライナ2内部に温風を通過させる機構や、ライナ2の外周側から熱を供給する機構を採用してよい。加熱手段によって、繊維束10の硬化性樹脂を40〜60℃に加熱してよい。なお、このような巻き付け部160側に加熱手段を設ける一方、繊維束供給部150に上述のような冷却手段を設けてもよい。
【0043】
次に、本実施形態に係る複合容器1の製造方法、及び製造装置100の作用・効果について説明する。
【0044】
まず、複合容器の製造方法においては、繊維束の硬化性樹脂同士の馴染みを良くするために硬化性樹脂の粘度を低く設定する場合がある。しかしながら、従来の製造方法においては、硬化性樹脂の粘度が低い場合、繊維束を巻き付けて繊維束層を積層させていくと、締付力の影響によって内周側の繊維束層の繊維束に緩みや蛇行が発生する場合があった。これにより、複合容器の強度が低下する場合があった。
【0045】
一方、本実施形態に係る複合容器1の製造方法では、巻き付け工程において、繊維束10の巻きつけと同時に、積層された繊維束層5内の硬化性樹脂をゲル化させている。従って、新たな繊維束10Aが巻き付けられても、内周側の繊維束層5の硬化性樹脂がゲル化しているため当該繊維束層5中の繊維束10をゲル化した硬化性樹脂で支持することができる。また、新たに繊維束10Aが巻き付けられる箇所では、少なくとも巻き付けに係る繊維束と当接する繊維束層5B内の硬化性樹脂をゲル化させず、且つ、繊維束層5Bよりも内周側の何れかの繊維束層5内の硬化性樹脂をゲル化させている。従って、新たな繊維束10Aの硬化性樹脂と繊維束層5B内の硬化性樹脂とを十分に馴染ませることができる一方、繊維束層5Bより内周側の繊維束層5では、締付力による繊維束10の緩みや蛇行を抑制することができる。以上により、複合容器1の強度を向上させることができる。
【0046】
また、本実施形態に係る複合容器の製造装置100において、巻き付け部160は、繊維束10の巻き付けと同時に、積層された繊維束層5内の硬化性樹脂をゲル化させる。従って、新たな繊維束10Aが巻き付けられても、内周側の繊維束層5の硬化性樹脂がゲル化しているため当該繊維束層5中の繊維束10をゲル化した硬化性樹脂で支持することができる。従って、締付力による繊維束10の緩みや蛇行を抑制することができる。繊維束供給部150において供給される前の繊維束10の硬化性樹脂は、冷却手段で冷却されることにより、粘度の上昇が抑えられる。従って、ゲル化へ向かって硬化性樹脂の粘度が上昇し始めるゲル化進行開始のタイミングを調整することができ、繊維束層5内の硬化性樹脂をより確実にゲル化させることができる。以上により、複合容器1の強度を向上させることができる。
【0047】
本実施形態に係る複合容器の製造方法では、巻き付け工程においては、繊維束10の巻き付けに要する時間と硬化性樹脂のゲル化に要する時間との関係性を調整することによって、繊維束10の巻きつけと同時に、積層された繊維束層5内の硬化性樹脂をゲル化させている。例えば、硬化性樹脂のゲル化に要する時間に対して、繊維束10の巻き付けに要する時間をコントロールすることで、使用する硬化性樹脂がゲル化するのに要する時間に見合った製造時間をコントロールすることが可能となる。または、繊維束10の巻き付けに要する時間を鑑みて、硬化性樹脂の選定を行うことによって、ゲル化に要する時間を調整してもよい。このように、巻き付けに要する時間と硬化性樹脂のゲル化に要する時間との関係性を調整することで、新たに繊維束10Aが巻き付けられる箇所では、少なくとも巻き付けに係る繊維束と当接する繊維束層5B内の硬化性樹脂をゲル化させず、且つ、繊維束層5Bよりも内周側の何れかの繊維束層5内の硬化性樹脂をゲル化させることが可能となる。また、硬化性樹脂のゲル化が早く、巻き付けに要する時間をコントロールするだけでは上述のようなゲル化を行うことが困難な場合などは、繊維束供給部250において繊維束10が巻かれているボビン101を冷却手段で冷却することによって硬化性樹脂のゲル化に要する時間を調整してもよい。なお、ボビン101を冷却する方法は、トウプリプレグを用いたDry法に限定されるものではなく、レジンバスを用いたWet法に適用してもよい。ただし、Wet法においてボビン101を冷却する場合、レジンバスも合わせて冷却することが好ましい。また、硬化性樹脂のゲル化が遅く、巻き付けに要する時間をコントロールするだけでは上述のようなゲル化を行うことが困難な場合などは、繊維束10を加熱することによって硬化性樹脂のゲル化に要する時間を調整してもよい。これらによって、硬化性樹脂のゲル化に要する時間を容易に調整することが可能となる。
【0048】
なお、比較例に係る製造方法として、例えば、一のパターン層30を形成したら巻き付け部160を停止し、常温放置や加熱等を行うことで硬化性樹脂をゲル化させ、その後に次のパターン層30を形成するために巻き付け部160を起動させる方法が挙げられる。このような製造方法では、巻き付けと同時に硬化性樹脂をゲル化させる本実施形態に係る製造方法に比して、製造時間が長くなる。
【0049】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
【0050】
例えば、上記実施形態では、巻き付け工程をトウプリプレグを用いたDry法で行ったが、レジンバスを用いたWet法で行ってもよい。図7は、変形例に係る複合容器の製造装置200の模式的な概念図である。この製造装置200は、繊維束を硬化性樹脂に含浸させながら供給して巻き付け工程を行う、いわゆるWet法のうちレジンバス法で用いられる。図7に示すように、製造装置200は、繊維束10を供給する繊維束供給部250と、繊維束10を巻き付けるための巻き付け部260と、を備えている。製造装置200の繊維束供給部250は、硬化性樹脂202を含浸させる前の原糸としての繊維束を巻廻した複数のボビン101と、硬化性樹脂202を収容したレジンバス203と、レジンバス203内で回転して繊維束に硬化性樹脂を含浸する回転ロール204と、樹脂含有量を調整する樹脂含有量調ロール206と、移動部207と、を備えている。この製造装置200による製造方法では、ボビン101から原糸としての繊維束が供給され、これら繊維束は、レジンバス203内へと案内され、該レジンバス203内にて回転可能に設けられた回転ロール204の周縁を案内されながら硬化性樹脂202が含浸される。その後、樹脂含有量調ロール206によって余剰の硬化性樹脂202が搾り取られて樹脂含有量の調整がなされ、繊維束10として後段へ供給され、ライナ2へ巻き付けられる。この製造装置200の繊維束供給部250には、繊維束10を冷却する冷却手段が設けられている。具体的には、冷却手段として、レジンバス203に取り付けられたチラー270等が採用される。以上のように、繊維束供給部250において供給される前の繊維束10の硬化性樹脂は、冷却手段で冷却されることにより、粘度の上昇が抑えられる。従って、ゲル化へ向かって硬化性樹脂の粘度が上昇し始めるタイミングを調整することができる。なお、レジンバスを用いたWet法による製造方法の場合も、ゲル化進行開始のタイミングを調整する方法は、冷却手段を用いた方法に限らない。例えば、レジンバス203に入れる硬化性樹脂を冷蔵庫などに保存しておき、一つのパターン層30(又は複数のパターン層30)を形成する間に新たな硬化性樹脂を冷蔵庫から取り出してレジンバス203に追加することで、各繊維束層のゲル化進行開始のタイミングを調整してもよい。また、上述のDry法で説明したように巻き付け部260側で加熱することでゲル化進行開始のタイミングを調整してもよい。
【実施例】
【0051】
以下に実施例を説明する。ただし、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0052】
[比較例]
繊維束に含浸させる硬化性樹脂として、ゲル化時間が10000分以上のものを用いた。なお、ゲル化時間の測定方法としては動的粘弾性測定を用いた。このような測定を行うために、ARESレオメータ(TA Instruments社製)を用いた。具体的には、硬化性樹脂の種類としてエポキシ樹脂を採用し、硬化性樹脂の分子構造としてビスフェノールA型エポキシを採用し、硬化性樹脂に加える硬化剤としてアミン系化合物を採用した。また、トウプリプレグを用いたDry法によって繊維束の巻き付けを行った。繊維束供給部及び巻き付け部のいずれにおいても常温とした。全長1500mm、直径350mmのライナを用い、パターン層(ヘリカル層とフープ層を交互に設ける)の層数は100であり、一のヘリカル層内の繊維束層の層数は2〜8であり、一のフープ層内の繊維束層の層数は1〜6であった。パターン層を一つ形成するのに、ボビンの入れ替えや繊維束の付け替え等も考慮して10〜20分程度の時間を要した。この場合、最も外周側のパターン層における最も外周側の繊維束層を形成する時点で、内周側のいずれの繊維束層内の硬化性樹脂もゲル化していなかった。
[実施例]
繊維束に含浸させる硬化性樹脂として、ゲル化時間が410分のものを用いた。具体的には、硬化性樹脂の種類としてエポキシ樹脂を採用し、硬化性樹脂の分子構造としてビスフェノールA型エポキシを採用し、硬化性樹脂に加える硬化剤としてアミン系化合物を採用した。また、トウプリプレグを用いたDry法によって繊維束の巻き付けを行った。繊維束供給部及び巻き付け部のいずれにおいても常温とした。ライナの大きさやパターン層の層数等は比較例と同じ条件とした。この場合、最も外周側のパターン層における最も外周側の繊維束層を形成する時点で、内周側の半分の繊維束層内の硬化性樹脂がゲル化していた。
【0053】
[評価結果]
比較例及び実施例に係る製造方法で製造した複合容器について、破裂試験を行った。破裂試験は水圧破壊試験で行い、設計強度に対する強度発現率を算出し強度の評価を行った。当該試験実施例に係る複合容器の強度相対値を100とした場合、比較例に係る複合容器の強度相対値は97となった。このことより、実施例に係る複合容器の方が強度が高いことが理解される。
【符号の説明】
【0054】
1…複合容器、2…ライナ、3…強化層、5…繊維束層、10…繊維束、30…パターン層、31…フープ層、32…ヘリカル層、100,200…製造装置、150,250…繊維束供給部、160,260…巻き付け部、170…冷却領域(冷却手段)、270…チラー(冷却手段)。
図1
図2
図3
図6
図7
図4
図5