(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記触媒金属は、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mo、Ru、Sn、W、Re、Pb、Biから選択される1種または2種以上の金属をさらに含む請求項1に記載の電気化学還元装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
トルエン等の芳香族炭化水素化合物を電気化学的に核水素化する例として、ガス状に気化させたトルエンを還元電極側に送り込み、水電解に類似の構成で、水素ガスの状態を経由せずに核水素化体であるメチルシクロヘキサンを得る手法も報告されているが(非特許文献1参照)、電極面積・時間あたりに転化できる物質量(電流密度)は大きくなく、装置体積あたりに処理できる物質量を増やすためには、電極構造、とりわけ還元極側の電極について改良の余地があった。
【0007】
芳香族炭化水素化合物を電気化学的に還元しようとする場合に、還元極においては対極(酸素発生極)から輸送されるプロトンまたは、対極へ輸送されるヒドロキシイオン、電子、および原料となる芳香族炭化水素化合物の供給と、生成される核水素化体の排出を同時に行わなければならない。これらのプロトンまたはヒドロキシイオン、電子、物質移動の中で、効率的に反応界面を形成し、例えばベンゼンであれば6電子還元によりシクロヘキサン、ナフタレンであれば10電子還元によりデカリンを得るためには、高い電極触媒の活性が必要であると共に、反応界面形成のための3次元的な構造も重要である。また、芳香族炭化水素化合物の核水素化体の総生成量を増大させるためには、核水素化反応の持続性を向上させることが課題となっている。
【0008】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、芳香族炭化水素化合物または含窒素複素環式芳香族化合物を電気化学的に核水素化する反応の持続性を向上させることができる技術の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある態様は、電気化学還元装置である。当該電気化学還元装置は、イオン伝導性を有する電解質膜と、前記電解質膜の一方の側に設けられ、芳香族炭化水素化合物または含窒素複素環式芳香族化合物を核水素化反応を促進させる金属としての触媒金属と、前記触媒金属を担持する多孔性の導電性化合物とを還元触媒として含む還元電極と、前記電解質膜の他方の側に設けられた酸素発生用電極と、を備え、前記触媒金属は、Pt、Pdの少なくとも一方を含み、導電性化合物は、Ti、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wより選択される1種または2種以上の金属の酸化物、窒化物、炭化物、酸窒化物、炭窒化物、あるいは炭窒化物の部分酸化物を含むことを特徴とする。ここで、「イオン伝導性」とは、「プロトン伝導性、またはヒドロキシイオン伝導性」を意味する。なお、芳香族炭化水素化合物の核水素化において、水素化されるベンゼン環の数は1に限られず、2以上であってもよい。
【0010】
上記態様の電気化学還元装置において、前記触媒金属は、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mo、Ru、Sn、W、Re、Pb、Biから選択される1種または2種以上の金属をさらに含んでもよい。前記導電性材料が1.0×10
−2S/cm以上の電気伝導度を有してもよい。前記還元電極がイオン伝導体を含んでもよい。前記イオン伝導体がイオン伝導性ポリマーであってもよい。また、前記還元触媒が、前記イオン伝導体で部分的に被覆されていてもよい。
【0011】
本発明の他の態様は、芳香族炭化水素化合物または含窒素複素環式芳香族化合物の水素化体の製造方法である。当該芳香族炭化水素化合物または含窒素複素環式芳香族化合物の水素化体の製造方法は、上述したいずれかの態様の電気化学還元装置の還元電極側に芳香族炭化水素化合物または含窒素複素環式芳香族化合物を導入し、酸素発生用電極側に水または加湿したガスを流通させ、還元電極が卑な電位、酸素発生用電極が貴な電位となるよう外部から電場を印加することで、還元電極側に導入された芳香族炭化水素化合物または含窒素複素環式芳香族化合物を核水素化することを特徴とする。
【0012】
上記態様の芳香族炭化水素化合物または含窒素複素環式芳香族化合物の水素化体の製造方法において、還元電極側へ導入する芳香族炭化水素化合物または含窒素複素環式芳香族化合物を反応温度において液体の状態で導入してもよい。
【0013】
なお、上述した各要素を適宜組み合わせたものも、本件特許出願によって特許による保護を求める発明の範囲に含まれうる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、芳香族炭化水素化合物または含窒素複素環式芳香族化合物を電気化学的に核水素化する反応の持続性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0017】
図1は、実施の形態に係る電気化学還元装置の概略構成を示す模式図である。
図2は、実施の形態に係る電気化学還元装置が有する電解セルの概略構成を示す図である。
図1に示すように、電気化学還元装置10は、電解セル100、電力制御部20、有機物貯蔵槽30、水貯蔵槽40および気水分離部50を備える。
【0018】
電力制御部20は、たとえば、電力源の出力電圧を所定の電圧に変換するDC/DCコンバータである。電力制御部20の正極出力端子は、電解セル100の正極に接続されている。電力制御部20の負極出力端子は、電解セル100の負極に接続されている。これにより、電解セル100の酸素発生用電極(正極)130と還元電極(負極)120との間に所定の電圧が印加される。なお、電力制御部20の参照極入力端子は、後述する電解質膜110に設けられた参照電極112と接続されており、参照電極112の電位を基準として、正極出力端子の電位および負極出力端子の電位が定められる。なお、電力源としては、太陽光や風力などの自然エネルギー由来の電力を用いることができる。
【0019】
有機物貯蔵槽30には、芳香族化合物が貯蔵されている。本実施の形態で用いられる芳香族化合物は、少なくとも1つの芳香環を含む芳香族炭化水素化合物、または含窒素複素環式芳香族化合物であり、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ジフェニルエタン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、キノリン、イソキノリン、N−アルキルピロール(N-alkylpyrrole)、N−アルキルインドール(N-alkylindole)、N−アルキルジベンゾピロール(N-alkyldibenzopyrrole)などが挙げられる。また、上述の芳香族炭化水素および含窒素複素環式芳香族化合物の芳香環の1乃至4の水素原子がアルキル基で置換されていてもよい。ただし、上記芳香族化合物中の「アルキル」は、炭素数1〜6の直鎖アルキル基または分岐アルキル基である。例えばアルキルベンゼンとしては、トルエン、エチルベンゼンなど,ジアルキルベンゼンとしてキシレン,ジエチルベンゼンなど,トリアルキルベンゼンとしてメシチレンなどが挙げられる。アルキルナフタレンとしては、メチルナフタレンが挙げられる。また、上述の芳香族炭化水素および含窒素複素環式芳香族化合物の芳香環は1乃至3の置換基を有してもよい。なお、以下の説明で、本発明で用いられる芳香族炭化水素化合物および含窒素複素環式芳香族化合物を「芳香族化合物」と呼ぶ場合がある。芳香族化合物は、常温で液体であることが好ましい。これによれば、加熱や加圧などの処理を行うことなく、液体の状態で芳香族化合物を電解セル100に供給することができるため、電気化学還元装置10の構成の簡便化を図ることができる。液体の状態の芳香族化合物の濃度は、0.1%以上、好ましくは0.3%以上、より好ましくは0.5%以上である。
【0020】
有機物貯蔵槽30に貯蔵された芳香族化合物は、第1液体供給装置32によって電解セル100の還元電極120に供給される。第1液体供給装置32は、例えば、ギアポンプまたはシリンダーポンプ等の各種ポンプ、あるいは自然流下式装置等を用いることができる。有機物貯蔵槽30と電解セル100の還元電極との間に循環経路が設けられており、電解セル100によって核水素化された芳香族化合物および未反応の芳香族化合物は、循環経路を経て有機物貯蔵槽30に貯蔵される。電解セル100の還元電極120で進行する主反応ではガスは発生しないが、水素が副生する場合には循環経路の途中に気液分離手段を設けてもよい。
【0021】
水貯蔵槽40には、イオン交換水、純水等(以下、単に「水」という)が貯蔵されている。水貯蔵槽40に貯蔵された水は、第2液体供給装置42によって電解セル100の酸素発生用電極130に供給される。第2液体供給装置42は、第1液体供給装置32と同様に、例えば、ギアポンプあるいはシリンダーポンプ等の各種ポンプ、または自然流下式装置等を用いることができる。水貯蔵槽40と電解セル100の酸素発生用電極との間に循環経路が設けられており、電解セル100において未反応の水は、循環経路を経て水貯蔵槽40に貯蔵される。なお、未反応の水を電解セル100から水貯蔵槽40へ送り返す経路の途中に気水分離部50が設けられている。気水分離部50によって、電解セル100における水の電気分解によって生じた酸素が水から分離されて系外に排出される。
【0022】
図2に示すように、電解セル100は、電解質膜110、還元電極120、酸素発生用電極130、液体拡散層140a、140b、およびセパレータ150a、150bを有する。
【0023】
電解質膜110は、イオン伝導性、すなわち、プロトン伝導性またはヒドロキシイオン伝導性を有する材料(イオノマー)で形成されており、プロトンまたはヒドロキシイオンを選択的に伝導する一方で、還元電極120と酸素発生用電極130との間で物質が混合したり拡散することを抑制することが求められる。電解質膜110の厚さは、5〜300μmが好ましく、10〜150μmがより好ましく、20〜100μmが最も好ましい。電解質膜110の厚さが5μm未満であると、電解質膜110のバリア性が低下し、クロスリーク量が増大する虞がある。また、電解質膜110の厚さが300μmより厚くなると、イオン移動抵抗が過大になるため好ましくない。
【0024】
電解質膜110の面積抵抗、即ち幾何面積当たりのイオン移動抵抗は、2000mΩ・cm
2以下が好ましく、1000mΩ・cm
2以下がより好ましく、500mΩ・cm
2以下が最も好ましい。電解質膜110の接触抵抗が2000mΩ・cm
2より高いと、プロトン伝導性が不足する。電解質としてプロトン伝導性を有する材料(カチオン交換型のイオノマー)を用いる場合には、ナフィオン(登録商標)、フレミオン(登録商標)などのパーフルオロスルホン酸ポリマーが挙げられる。カチオン交換型のイオノマーのイオン交換容量(IEC)は、0.7〜2meq/gが好ましく、1〜1.2meq/gがより好ましい。カチオン交換型のイオノマーのイオン交換容量が0.7meq/g未満の場合には、イオン伝導性が不十分となる。一方、カチオン交換型のイオノマーのイオン交換容量が2meq/gより高い場合には、イオノマーの水への溶解度が増大するため、電解質膜110の強度が不十分になる。
【0025】
還元電極120は、電解質膜110の一方の側に設けられている。還元電極120は、芳香族化合物を核水素化反応を促進させる金属としての触媒金属を含む還元極触媒層である。還元電極120は、触媒金属および導電性化合物を還元触媒として含む。
【0026】
還元電極120に用いられる還元触媒は、Pt、Pdの少なくとも一方を第1の触媒金属(貴金属)として含む。また、還元電極120に用いられる還元触媒は、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mo、Ru、Sn、W、Re、Pb、Biから選択される1種または2種以上の第2の触媒金属を含んでもよい。還元電極120に用いられる還元触媒が第2の触媒金属を含む場合には、当該還元触媒の形態は、第1の触媒金属と第2の触媒金属との合金、あるいは、第1の触媒金属と第2の触媒金属からなる金属間化合物である。第1の触媒金属と第2の触媒金属の総質量に対する第1の触媒金属の割合は、10wt%以上が好ましく、20wt%以上がより好ましく、25wt%以上が最も好ましい。第1の触媒金属の割合が10wt%より低いと、耐溶解性などの点から耐久性の低下を招くおそれがある。以下の説明で、第1の触媒金属と第2の触媒金属とをまとめて「触媒金属」と呼ぶ場合がある。
【0027】
なお、還元電極120に第2の触媒金属を含有させ、第1の触媒金属と第2の触媒金属とからなる合金や金属間化合物を形成することで、芳香族化合物が触媒金属の活性点に特異的に吸着することが抑制される。これにより、還元電極120の電極活性の向上を図ることができ、ひいては、芳香族化合物の核水素化を効率的に実施することができる。
【0028】
上述した触媒金属は導電性化合物(担体)に担持されていることが好ましい。導電性化合物の電気伝導度は、1.0×10
−2S/cm以上が好ましく、3.0×10
−2S/cm以上がより好ましく、1.0×10
−1S/cm以上が最も好ましい。導電性材料の電気伝導度が1.0×10
−2S/cm未満の場合には、十分な導電性を付与することができない。当該導電性化合物は、本実施の形態の電気化学還元装置の電極触媒層の構成要素として用いられるが、導電性が低いと、電極触媒層内の抵抗成分が増え、その部分でのエネルギー(電圧)ロスによりトータルのエネルギー変換効率を低下させるばかりでなく、電極電位の制御にあたって、抵抗成分を加味して真の電極電位を算出する場合に、その補正値(見かけの電位との乖離)が大きくなり、制御性という観点からも好ましくない。例えば、還元極側の電極触媒層厚みが30μmの場合、導電性化合物の体積導電率が1.0×10
−2S/cmより低い、即ち、体積抵抗率として100Ω・cmより大きい場合、電極1cm
2当たりの面積抵抗率は3×10
−1Ω・cm
2となり、例えば0.4A/cm
2の電流密度で電解反応を行った場合には、120mVの電圧ロスが発生することになり、このような多大な電圧降下は許容できない。当該導電性化合物として、Ti、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wより選択される1種または2種以上の金属の酸化物、窒化物、炭化物、酸窒化物、炭窒化物、あるいは炭窒化物の部分酸化物を含む多孔性の導電性材料が挙げられる。窒素吸着法で測定した導電性化合物のBET比表面積は、1m
2/g以上が好ましく、3m
2/g以上がより好ましく、10m
2/g以上が最も好ましい。導電性化合物のBET比表面積が1m
2/gより小さいと、触媒金属を均一に担持させることが難しくなる。このため、触媒金属表面の利用率が低下し、触媒性能の低下を招く。本実施の形態に用いられる導電性化合物は、触媒活性金属PtあるいはPdの担体としての機能を有しており、BET比表面積が1m
2/g未満の導電性化合物では、触媒調製時に金属分散が困難であるばかりでなく、一旦分散担持された活性金属が、凝集やシンターリング等の劣化が起きやすいことも知られている。
【0029】
第1の触媒金属と第2の触媒金属と担体とを合わせた総質量に対して第1の触媒金属と第2の触媒金属とからなる組成物が占める割合、言い換えると担持率は、1〜90wt%が好ましく、3〜75wt%がより好ましく、5〜50wt%が最も好ましい。担持率が1wt%より低いと、還元電極120において体積あたりの活性が不十分となる。一方、担持率が90wt%より高いと、触媒金属を高分散させることが困難になり、凝集が生じやすくなる。また、貴金属の量が増えるため、還元電極120の製造コストが高くなる。
【0030】
触媒金属を担体上に担持する方法は、第1の触媒金属、第2の触媒金属の種類や組成にもよるが、第1の触媒金属と第2の触媒金属を同時に担体に含浸させる同時含浸法や第1の触媒金属を担体に含浸させた後、第2の触媒金属を担体に含浸させる逐次含浸法を採用することができる。逐次含浸法の場合には、第1の触媒金属を担体に担持した後に一旦熱処理等を加えてから、第2の触媒金属を担体に担持させてもよい。第1の触媒金属および第2の触媒金属の両方の含浸が完了した後、熱処理工程によって第1の触媒金属と第2の触媒金属との合金化や第1の触媒金属と第2の触媒金属とからなる金属間化合物の形成が行われる。
【0031】
還元電極120には,前述の導電性酸化物やカーボンブラックなどの導電性を有する材料を、触媒金属を担持した導電性化合物とは別に添加してもよい。これによって、還元触媒粒子間の電子伝導経路を増やすことができ、還元触媒層の幾何面積当たりの抵抗を下げることが出来る場合もある。なお、触媒金属担体でない添加物として用いる場合には、カーボンブラックなどの耐腐食性の低い材料も好ましく用いられる。
【0032】
還元電極120には、添加剤としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系樹脂を含んでもよい。
【0033】
還元電極120は、イオン伝導性、すなわち、プロトン伝導性またはヒドロキシイオン伝導性を有するイオノマーを含んでもよい。還元電極120には,上述の電解質膜110と同一または類似の構造を有するイオン伝導性物質(イオノマー)を所定の重量比で含んでいることが好ましい。これによれば、還元電極120におけるイオン伝導性を向上させることができる。特に、触媒金属が多孔性の場合において還元電極120がプロトン伝導性またはヒドロキシイオン伝導性を有するイオノマーを含有することにより、イオン伝導性の向上に大きく寄与する。イオノマーとして、プロトン伝導性を有するイオノマー(カチオン交換型のイオノマー)を用いる場合には、ナフィオン(登録商標)、フレミオン(登録商標)などのパーフルオロスルホン酸ポリマーが挙げられる。カチオン交換型のイオノマーのイオン交換容量(IEC)は、0.7〜3meq/gが好ましく、1〜2.5meq/gがより好ましく、1.2〜2meq/gが最も好ましい。カチオン交換型のイオノマー(I)/多孔性の導電性化合物(担体(C))の質量比I/Cは、0.1〜2が好ましく、0.2〜1.5がより好ましく、0.3〜1.1が最も好ましい。質量比I/Cが0.1より低いと、十分なイオン伝導性を得ることが困難になる。一方、質量比I/Cが2より大きいと、触媒金属に対するイオノマーの被覆厚みが増えることにより、反応物質である芳香族化合物の触媒活性点に触媒金属が接触することが阻害されたり、電子伝導性が低下することにより電極活性が低下する。
【0034】
なお、還元電極120に含まれるイオノマーは、電解質膜110に用いられるイオノマーと同一または類似の材料であってもよい。また、還元電極120に含まれるイオノマーは、還元触媒を部分的に被覆していることが好ましい。これによれば、還元電極120における電気化学反応に必要な3要素(芳香族化合物、プロトン、電子)を効率的に反応場に供給することができる。
【0035】
液体拡散層140aは、電解質膜110と反対側の還元電極120の面に積層されている。液体拡散層140aは、後述するセパレータ150aから供給された液状の芳香族化合物を還元電極120に均一に拡散させる機能を担う。液体拡散層140aとして、たとえば、カーボンペーパ、カーボンクロスが用いられる。
【0036】
セパレータ150aは、電解質膜110と反対側の液体拡散層140aの面に積層されている。セパレータ150aは、カーボン樹脂、Cr−Ni−Fe系、Cr−Ni−Mo−Fe系、Cr−Mo−Nb−Ni系、Cr−Mo−Fe−W−Ni系などの耐食性合金で形成される。セパレータ150aの液体拡散層140a側の面には、単数または複数の溝状の流路152aが併設されている。流路152aには、有機物貯蔵槽30から供給された液状の芳香族化合物が流通しており、液状の芳香族化合物は流路152aから液体拡散層140aに染み込む。流路152aの形態は、特に限定されないが、たとえば、直線状流路、サーペンタイン流路を採用しうる。また、金属材料をセパレータ150aに用いる場合には、セパレータ150aは球状やペレット状の金属微粉末を焼結した構造体であってもよい。
【0037】
酸素発生用電極130は、電解質膜110の他方の側に設けられている。酸素発生用電極130は、RuO
2、IrO
2などの貴金属酸化物系の触媒を含むものが好ましく用いられる。これらの触媒は、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Nb、Mo、Ta、Wなどの金属あるいはそれらを主成分とする合金などの金属ワイヤ、メッシュなどの金属基材に分散担持またはコーティングされていてもよい。特に、IrO
2は高価であるため、IrO
2を触媒として用いる場合には、金属基材に薄膜コーティングすることにより、製造コストを低減することができる。
【0038】
液体拡散層140bは、電解質膜110と反対側の酸素発生用電極130の面に積層されている。液体拡散層140bは、後述するセパレータ150bから供給された水を酸素発生用電極130に均一に拡散させる機能を担う。液体拡散層140bとして、たとえば、カーボンペーパ、カーボンクロスが用いられる。
【0039】
セパレータ150bは、電解質膜110と反対側の液体拡散層140bの面に積層されている。セパレータ150bは、Cr/Ni/Fe系,Cr/Ni/Mo/Fe系、Cr/Mo/Nb/Ni系、Cr/Mo/Fe/W/Ni系などの耐食性合金、または、これらの金属表面が酸化物皮膜で被覆された材料で形成される。セパレータ150bの液体拡散層140b側の面には、単数または複数の溝状の流路152bが併設されている。流路152bには、水貯蔵槽40から供給された水が流通しており、水は流路152bから液体拡散層140bに染み込む。流路152bの形態は、特に限定されないが、たとえば、直線状流路、サーペンタイン流路を採用しうる。また、金属材料をセパレータ150bに用いる場合には、セパレータ150bは球状やペレット状の金属微粉末を焼結した構造体であってもよい。
【0040】
本実施の形態では、酸素発生用電極130に液体の水が供給されるが、液体の水に代えて、加湿されたガス(たとえば、空気)を用いてもよい。この場合、加湿ガスの露点温度は、室温〜100℃が好ましく、50〜100℃がより好ましい。
【0041】
芳香族化合物としてトルエンを用いた場合の電解セル100における反応は以下のとおりである。
<酸素発生用電極での電極反応>
3H
2O→1.5O
2+6H
++6e
−:E
0=1.23V
<還元電極での電極反応>
トルエン+6H
++6e
−→メチルシクロヘキサン:E
0=0.153V(vs RHE)
すなわち、酸素発生用電極での電極反応と、還元電極での電極反応とが並行して進行し、酸素発生用電極での電極反応によって、水の電気分解により生じたプロトンが電解質膜110を介して還元電極に供給され、還元電極での電極反応において、芳香族化合物の核水素化に利用される。
より詳しくは、還元電極120での電極電位を原料として用いる芳香族化合物の標準酸化還元電位E
0以下にし、酸素発生用電極130の電極電位を酸素発生電位より高くすることで、電気化学反応を両極で進行させる。従って、本反応を進行させるのに必要な外部電場の電圧は、この電位差に、反応に要する過電圧、物質移動拡散の過電圧、電解質膜110の抵抗により生じる抵抗損失(オーミックロス)を足した電圧である。外部電場の電圧は、1.2〜2.4Vが好ましく、1.3〜2.0Vがより好ましく、1.35〜1.6Vが最も好ましい。外部電場の電圧が1.2Vより低いと、理論上、電極反応が進行しないため、芳香族化合物の核水素化を工業的に実施することが困難になる。また、外部電場の電圧が2.4Vより高い場合には、外部電場から与える電気エネルギーが過剰に必要になるため、エネルギー効率の観点から好ましくない。また、還元電極120側の電位が低下し過ぎることにより、芳香族化合物の核水素化以外の副反応(たとえば、水素発生)が進行する。一方、酸素発生用電極130側の電位が高くなり過ぎることにより、酸素発生用電極130に用いられる触媒の腐食が進行しやすくなる。
【0042】
この他、電気化学還元装置10を用いた芳香族化合物の核水素化は、以下の反応条件が好ましく用いられる。電解セル100の温度は、室温〜100℃が好ましく、40〜80℃がより好ましい。電解セル100の温度が室温より低いと、電解反応の進行が遅くなる虞れ、あるいは本反応の進行に伴い発生する熱の除去に多大なエネルギーを要するため好ましくない。一方、電解セル100の温度が100℃より高いと、酸素発生用電極130においては水の沸騰が生じ、還元電極120においては有機物の蒸気圧が高くなるため、両極とも液相で反応を行う電気化学還元装置10としては好ましくない。還元電極120の電位は、−100〜150mV(vs RHE)が好ましく、−50〜100mV(vs RHE)がより好ましく、−25〜50mV(vs RHE)が最も好ましい。還元電極120の電位が−10mV(vs RHE)より低いと、水素発生反応との競争になり,有機物還元の選択性が低下するため好ましくない。一方、還元電極120の電位が150mV(vs RHE)より高いと、実用上十分な反応速度(電流密度)が得られないため好ましくない。
【0043】
電気化学還元装置10で得られる核水素化体は、原則的に、原料とな
る芳香族化合物の完全還元体であり、上述のように、芳香族化合物としてトルエンを用いる場合には、得られる核水素化体はメチルシクロヘキサンである。この他、たとえば、芳香族化合物としてナフタレンを用いる場合には、得られる核水素化体はデカリンである。
【0044】
上述したように、還元電極120に用いられる触媒金属(Pt、Pd)とTi、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wより選択される1種または2種以上の金属の酸化物、窒化物、炭化物、酸窒化物、炭窒化物、あるいは炭窒化物の部分酸化物を含む多孔性の導電性化合物とを組み合わせることにより、芳香族化合物の核水素化反応の持続性を向上させることができる。その結果、芳香族化合物の核水素化体の総生成量を増大させることが可能になる。
【0045】
(導電性化合物と電流密度との関係)
還元電極に用いられる触媒金属がPtであって、担体となる導電性化合物の種類が異なる実施例1〜8および比較例1、2の電解セルを用いて、トルエンの核水素化反応を行った場合の電流密度の経時変化を評価した。表1に実施例1〜8および比較例1、2の電解セルに用いた構成および成分を示す。
【表1】
核水素化反応の条件は以下のとおりである。
還元触媒金属の全質量:0.5mg/cm
2
還元電極の電位:0mV(vs RHE)
イオノマー比(質量比I/C):1
図3は、実施例1および2、比較例1および2の電解セルにおける電流密度の経時変化を示すグラフである。なお、
図3では、電流密度の初期値を1とした。
図3に示すように、実施例1、2の電解セルは、100時間経過後においても、0.85以上の相対電流密度を示しており、芳香族化合物の核水素化体の生成反応の持続性に優れていることが確認された。これに対して、担体として導電性を有するケッチェンブラックを用いた比較例1、および担体として非導電性のSnO
2を用いた比較例2では、時間が経過するに伴って相対電流値が徐々に減少した。
【0046】
図4は、核水素化反応の時間経過に伴う相対電流密度の変化を示す。具体的には、
図4は、
実施例1〜8、比較例1および2の各電解セルを用いて核水素化反応を100時間、あるいは相対電流密度が0.2を下回るまで各水素反応を行った場合の電流密度の変化を示すグラフである。なお、
図4では、実施形態1〜8、比較例1および2の各電流密度の初期値をそれぞれ1とした。
図4に示すように、実施例1、2、および7の電解セルは、100時間経過後においても0.85以上、実施形態3〜6、および8は0.8以上の相対電流密度を示しており、芳香族化合物の核水素化体の生成反応の持続性に優れていることが確認された。これに対して、担体として導電性を有するケッチェンブラックを用いた比較例1は0.6以下、および担体として非導電性のSnO
2を用いた比較例2では、100時間を経過する前に0.2以下まで減少したため、100時間経過を待たずに各水素化反応を停止した。
【0047】
還元電極に用いられる触媒金属がPdであって、担体となる導電性化合物の種類が異なる実施例9〜12、および比較例3、4の電解セルを用いて、トルエンの核水素化反応を行った場合の電流密度の経時変化を評価した。表2に実施例9〜12および比較例3、4の電解セルに用いた構成および成分を示す。
【表2】
核水素化反応の条件は以下のとおりである。
還元触媒金属の全質量:0.5mg/cm
2
還元電極の電位:0mV(vs RHE)
イオノマー比(質量比I/C):1
【0048】
図5は、核水素化反応の時間経過に伴う相対電流密度の変化を示す。具体的には、
図5は、実施形態9〜12、比較例3および4の各電解セルを用いて核水素化反応を100時間、あるいは相対電流密度が0.2を下回るまで各水素反応を行った場合の電流密度の変化を示すグラフである。なお、
図5では、実施形態9〜12、比較例3および4の各電流密度の初期値をそれぞれ1とした。
図5に示すように、実施例9〜12の電解セルは、100時間経過後においても、0.8以上の相対電流密度を示しており、芳香族化合物の核水素化体の生成反応の持続性に優れていることが確認された。これに対して、担体として導電性を有するケッチェンブラックを用いた比較例3は0.2以下、および担体として非導電性のSnO
2を用いた比較例4では0.1以下に減少した。
【0049】
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうるものである。