特許第6086976号(P6086976)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6086976水素供給システムの運転方法、水素供給設備及び水素供給システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6086976
(24)【登録日】2017年2月10日
(45)【発行日】2017年3月1日
(54)【発明の名称】水素供給システムの運転方法、水素供給設備及び水素供給システム
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/26 20060101AFI20170220BHJP
   H01M 8/0606 20160101ALI20170220BHJP
   H01M 8/04225 20160101ALI20170220BHJP
   H01M 8/04302 20160101ALI20170220BHJP
   H01M 8/04228 20160101ALI20170220BHJP
   H01M 8/04303 20160101ALI20170220BHJP
   B60L 11/18 20060101ALN20170220BHJP
【FI】
   C01B3/26
   H01M8/06 R
   H01M8/04 X
   H01M8/04 Y
   !B60L11/18 G
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-508509(P2015-508509)
(86)(22)【出願日】2014年3月25日
(86)【国際出願番号】JP2014058177
(87)【国際公開番号】WO2014157133
(87)【国際公開日】20141002
【審査請求日】2015年7月17日
(31)【優先権主張番号】特願2013-61941(P2013-61941)
(32)【優先日】2013年3月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】JXエネルギー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100161425
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】小畠 菜々子
(72)【発明者】
【氏名】古田 智史
(72)【発明者】
【氏名】小林 幸雄
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−211845(JP,A)
【文献】 特開2010−006652(JP,A)
【文献】 特開2006−326521(JP,A)
【文献】 特開2005−179082(JP,A)
【文献】 特開2007−284265(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/00−3/58
H01M 8/04225
H01M 8/04228
H01M 8/04302
H01M 8/04303
H01M 8/0606
B60L 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に脱水素触媒が収容された反応器を有し、該反応器へ有機化合物の水素化物を含む原料を供給して前記脱水素触媒により脱水素反応させることによって水素を得る水素供給システムの運転方法であって、
前記反応器への原料の供給を開始する脱水素反応開始ステップと、
前記反応器への原料の供給を停止する脱水素反応終了ステップと、
を備え、
前記脱水素反応開始ステップの前及び前記脱水素反応終了ステップの後の少なくとも一方において、前記反応器へ水素を供給して前記反応器の内部を水素で充填する水素供給ステップをさらに備え、
前記脱水素反応終了ステップの後及び前記脱水素反応開始ステップの前において、前記反応器は大気開放されない水素供給システムの運転方法。
【請求項2】
内部に脱水素触媒が収容された反応器を有し、該反応器へ有機化合物の水素化物を含む原料を供給して前記脱水素触媒により脱水素反応させることによって水素を得る水素供給システムの運転方法であって、
前記反応器への原料の供給を開始する脱水素反応開始ステップと、
前記反応器への原料の供給を停止する脱水素反応終了ステップと、
を備え、
前記脱水素反応開始ステップの前及び前記脱水素反応終了ステップの後の少なくとも一方において、前記反応器へ水素を供給して前記反応器の内部を水素で充填する水素供給ステップをさらに備え、
前記脱水素触媒は、表面に細孔が形成されており、
前記水素供給ステップでは、前記反応器の内部に存在する水素の体積を前記細孔の容積で除算した値が0.9以上となるように、前記反応器へ水素を供給する水素供給システムの運転方法。
【請求項3】
内部に脱水素触媒が収容された反応器を有し、該反応器へ有機化合物の水素化物を含む原料を供給して前記脱水素触媒により脱水素反応させることによって水素を得る水素供給システムの運転方法であって、
前記反応器への原料の供給を開始する脱水素反応開始ステップと、
前記反応器への原料の供給を停止する脱水素反応終了ステップと、
を備え、
前記脱水素反応開始ステップの前及び前記脱水素反応終了ステップの後の少なくとも一方において、前記反応器へ水素を供給して前記反応器の内部を水素で充填する水素供給ステップをさらに備え、
記反応器の内部の圧力は、常に少なくとも大気圧より高い圧力である水素供給システムの運転方法。
【請求項4】
前記水素供給ステップでは、前記反応器にて脱水素反応させることによって得られた水素を用いる請求項1〜3の何れか一項に記載の水素供給システムの運転方法。
【請求項5】
前記脱水素反応開始ステップ及び前記脱水素反応終了ステップが繰り返し実行され、
前記脱水素反応開始ステップの前に前記水素供給ステップを実行する場合には、前記脱水素反応終了ステップが少なくとも1回実行されている請求項1〜4の何れか一項に記載の水素供給システムの運転方法。
【請求項6】
水素の供給を行う水素供給システムであって、
内部に脱水素触媒が収容され、有機化合物の水素化物を含む原料を脱水素反応させることによって水素を生成する反応器と、
前記反応器へ原料を供給する原料供給部と、
前記反応器によって生成された水素を前記反応器へ供給する水素供給部と、
前記原料供給部及び前記水素供給部の動作を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記原料供給部を動作させて前記反応器への原料の供給を開始させる前、及び、前記原料供給部を動作させて前記反応器への原料の供給を停止する後の少なくとも一方において、前記水素供給部を動作させて前記反応器へ水素を供給して前記反応器の内部を水素で充填し、
前記反応器への原料の供給を停止した後及び前記反応器への原料の供給を開始させる前において、前記反応器は大気開放されない、水素供給システム。
【請求項7】
水素の供給を行う水素供給システムであって、
内部に脱水素触媒が収容され、有機化合物の水素化物を含む原料を脱水素反応させることによって水素を生成する反応器と、
前記反応器へ原料を供給する原料供給部と、
前記反応器によって生成された水素を前記反応器へ供給する水素供給部と、
前記原料供給部及び前記水素供給部の動作を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記原料供給部を動作させて前記反応器への原料の供給を開始させる前、及び、前記原料供給部を動作させて前記反応器への原料の供給を停止する後の少なくとも一方において、前記水素供給部を動作させて前記反応器へ水素を供給して前記反応器の内部を水素で充填し、
前記脱水素触媒は、表面に細孔が形成されており、
前記反応器の内部を水素で充填する際に前記水素供給部は、前記反応器の内部に存在する水素の体積を前記細孔の容積で除算した値が0.9以上となるように、前記反応器へ水素を供給する、水素供給システム。
【請求項8】
水素の供給を行う水素供給システムであって、
内部に脱水素触媒が収容され、有機化合物の水素化物を含む原料を脱水素反応させることによって水素を生成する反応器と、
前記反応器へ原料を供給する原料供給部と、
前記反応器によって生成された水素を前記反応器へ供給する水素供給部と、
前記原料供給部及び前記水素供給部の動作を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記原料供給部を動作させて前記反応器への原料の供給を開始させる前、及び、前記原料供給部を動作させて前記反応器への原料の供給を停止する後の少なくとも一方において、前記水素供給部を動作させて前記反応器へ水素を供給して前記反応器の内部を水素で充填し、
記反応器の内部の圧力は、常に少なくとも大気圧より高い圧力である、水素供給システム。
【請求項9】
請求項6〜8の何れか一項に記載の水素供給システムを備える水素供給設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の種々の側面及び実施形態は、水素供給システムの運転方法、水素供給設備及び水素供給システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の水素供給システムとして、触媒反応によって原料から水素を生成して供給するシステムが知られている(例えば特許文献1参照。)。特許文献1の水素供給システムは、原料の芳香族炭化水素の水素化物を貯蔵するタンク、当該タンクから供給された原料を脱水素触媒へ供給し脱水素反応させることによって水素を得る反応器を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−232607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載のガス処理システムのように、脱水素触媒を用いて水素を得るシステムにあっては、脱水素触媒が劣化すると原料から水素への転化率が低下するため、脱水素触媒の劣化を防止することが重要となる。これに対して、脱水素反応処理前後において、反応器の内部を窒素ガス等の不活性ガスによって充填し、脱水素触媒を外気に晒すことなく保持することも考えられるが、脱水素触媒の劣化を適切に防止するためには改善の余地がある。本技術分野では、脱水素触媒の劣化を抑制することができる水素供給システムの運転方法、水素供給設備及び水素供給システムが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、脱水素反応処理時に生じた有機化合物が、脱水素反応処理後においても反応器内部に残存することによって脱水素触媒を劣化させることを見出し、本発明をするに至った。
【0006】
すなわち、本発明の一側面に係る運転方法は、水素供給システムの運転方法である。該水素供給システムは、内部に触媒が収容された反応器を有し、該反応器へ有機化合物の水素化物を含む原料を供給して脱水素触媒により脱水素反応させることによって水素を得る。該方法は、脱水素反応開始ステップ及び脱水素反応終了ステップを備える。脱水素反応開始ステップでは、反応器への原料の供給を開始する。脱水素反応終了ステップでは、反応器への原料の供給を停止する。ここで、該方法は、脱水素反応開始ステップの前及び脱水素反応終了ステップの後の少なくとも一方において、反応器へ水素を供給する水素供給ステップをさらに備える。
【0007】
反応器を用いて脱水素反応処理を行った場合には、脱水素反応処理時に生じた有機化合物が脱水素反応処理後においても反応器内部に残存する場合がある。この場合、残存した有機化合物が脱水素触媒と反応し、脱水素触媒の表面にコークが析出して、脱水素触媒が劣化するおそれがある。この水素供給システムの運転方法では、原料を供給して行う脱水素反応処理の前後の少なくとも一方において、反応器に水素が供給される。このため、反応器の内部は、脱水素反応処理の前後の少なくとも一方において水素が充填された状態となる。従って、脱水素反応処理後に有機化合物が反応器内に残存した場合であっても、供給された水素と残存した有機化合物とが反応し有機化合物から炭素が生成されることを抑制するため、コークが脱水素触媒の表面に析出することを回避することができる。よって、脱水素触媒の劣化を抑制することが可能となる。
【0008】
一実施形態において、水素供給ステップでは、反応器にて脱水素反応させることによって得られた水素を用いてもよい。このように構成することで、水素の供給源を別途設ける必要がなく、さらには、反応器のパージガスとして例えば窒素等の別途のガスを用意する必要がないため、簡易な構成で脱水素触媒の劣化を抑制することができる。
【0009】
一実施形態では、脱水素反応開始ステップ及び脱水素反応終了ステップが繰り返し実行されてもよい。そして、脱水素反応開始ステップの前に水素供給ステップを実行する場合には、脱水素反応終了ステップが少なくとも1回実行されていてもよい。このような場合であっても、脱水素触媒の劣化を抑制することができる。
【0010】
一実施形態では、脱水素反応終了ステップの後及び脱水素反応開始ステップの前において、反応器は大気開放されなくてもよい。
【0011】
一実施形態では、脱水素触媒は、表面に細孔が形成されており、水素供給ステップでは、反応器の内部に存在する水素の体積を細孔の容積で除算した値が0.9以上となるように、反応器へ水素を供給してもよい。上記値となるように水素を供給することで、必要最低限の水素量で脱水素触媒の劣化を抑制することができる。
【0012】
一実施形態では、反応器の内部の圧力は、大気圧より高い圧力であってもよい。このように構成することで、反応器の起動を迅速に行うことができる。
【0013】
本発明の他の側面に係る水素供給設備は、上述した水素供給システムの運転方法を用いた水素供給設備である。この水素供給設備は、上述した運転方法と同様の効果を奏する。
【0014】
本発明の他の側面に係る水素供給システムは、水素の供給を行う。該水素供給システムは、反応器、原料供給部、水素供給部及び制御部を備える。反応器は、内部に脱水素触媒が収容され、有機化合物の水素化物を含む原料を脱水素反応させることによって水素を生成する。原料供給部は、反応器へ原料を供給する。水素供給部は、反応器によって生成された水素を反応器へ供給する。制御部は、原料供給部及び水素供給部の動作を制御する。そして、制御部は、原料供給部を動作させて反応器への原料の供給を開始させる前、及び、原料供給部を動作させて反応器への原料の供給を停止する後の少なくとも一方において、水素供給部を動作させて反応器へ水素を供給する。
【0015】
この水素供給システムは、上述した運転方法を実行する制御部を備えるため、上述した運転方法と同様の効果を奏する。
【0016】
本発明の他の側面に係る水素供給設備は、上述した水素供給システムを備える水素供給設備である。この水素供給設備は、上述した運転方法と同様の効果を奏する。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明の種々の側面及び実施形態によれば、脱水素触媒の劣化を抑制することができる水素供給システムの運転方法及び水素供給システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】一実施形態に係る水素供給システムの構成を示すブロック図である。
図2】一実施形態に係る水素供給システムの動作を示すフローチャートである。
図3】一実施形態に係る水素供給システムにおける反応器の温度プロファイルである。
図4】実施例及び比較例におけるMCH転化率の繰り返し回数依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、実施形態について詳細に説明する。
【0020】
図1は、一実施形態に係る水素供給システムの構成を示すブロック図である。一実施形態に係る水素供給システム100は、有機化合物の水素化物を原料とするものである。有機化合物の水素化物は、例えば常温で液体である。有機化合物の水素化物として、例えば、有機ハイドライドが挙げられる。有機ハイドライドは、触媒反応を介して水素を可逆的に放出する有機化合物、例えばシクロヘキサンやデカリンなどの飽和縮合環炭化水素であって、例えば製油所で大量に生産されている水素を芳香族炭化水素と反応させた水素化物である。有機ハイドライドは、芳香族の水素化化合物に限られず、2−プロパノール系であってもよい。この場合、水素とアセトンが生成される。有機ハイドライドは、ガソリン等と同様に液体燃料としてタンクローリーなどによって水素供給システム100へ輸送することができる。本実施形態では有機ハイドライドとして、メチルシクロヘキサン(以下、MCHと称する)を用いる。その他、有機ハイドライドとしてシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン、メチルデカリン、ジメチルデカリン、エチルデカリンなど芳香物炭化水素の水素化物を適用することができる。水素供給システム100は、燃料電池自動車や水素エンジン車に水素を供給することができる。水素精製の過程では、原料である有機化合物の水素化物を脱水素した、脱水素生成物が除去される。脱水素生成物は、例えば、常温で液体の有機化合物である。なお、以下では、本実施形態では、原料としてMCHを採用し、水素精製の過程で除去される脱水素生成物がトルエンである場合を一例として説明する。また、脱水素生成物は、トルエンのみならず、未反応のMCHと少量の副生成物も含み得るが、トルエンに混じって当該トルエンと同じ挙動を示す。従って、以下の説明において、「トルエン」と称して説明するものには、未反応のMCHや副生成物も含むものとする。
【0021】
図1に示すように、本実施形態に係る水素供給システム100は、MCHタンク1、気化器2、昇温器3、脱水素反応器(反応器)4、気液分離器5、トルエンタンク(原料供給部)6、冷凍機7、水素精製器(水素供給部)8及び制御部11を備えている。また、水素供給システム100は、搬送ラインPL1〜PL11及びポンプ9を備えている。
【0022】
搬送ラインPL1〜PL11は、MCH、トルエン、水素含有ガス、または高純度の精製水素ガスが通過するラインである。搬送ラインPL1は、MCHタンク1と気化器2とを接続する。搬送ラインPL2は、気化器2と昇温器3とを接続する。搬送ラインPL3は、昇温器3と脱水素反応器4とを接続する。搬送ラインPL4は、脱水素反応器4と気液分離器5とを接続する。搬送ラインPL9は、気液分離器5とトルエンタンク6とを接続する。搬送ラインPL10,PL11は、気液分離器5と冷凍機7とを接続する。搬送ラインPL5,PL6は、気液分離器5と水素精製器8とを接続する。搬送ラインPL7は、水素精製器8と外部の水素消費装置または水素供給装置(不図示)とを接続する。搬送ラインPL8は、水素精製器8と気化器2とを接続する。搬送ラインPL1には、ポンプ9が設けられている。搬送ラインPL8には、水素精製器8から気化器2へ水素を循環させるためのポンプ12が設けられている。なお、ポンプ12は、搬送ラインPL1と搬送ラインPL8との接続部分と、気化器2と、の間に設けられていてもよい。
【0023】
MCHタンク1は、原料となるMCHを貯留するタンクである。外部からタンクローリーなどで輸送されたMCHは、MCHタンク1にて貯留される。MCHタンク1に貯留されているMCHは、ポンプ9によって搬送ラインPL1を介して気化器2へ供給される。
【0024】
気化器2は、液体を気化する機器である。気化器2には、インジェクタなどを介してMCHタンク1から液体のMCHが供給される。また、気化器2には、必要に応じて水素精製器8から搬送ラインPL8を介して液体又は気体の水素が供給され得る。気化器2へのMCH及び水素の供給は、搬送ラインPL1及び搬送ラインPL8に設けられた電磁バルブ(不図示)等により制御され得る。なお、供給制御の詳細については後述する。気化器2には、MCHのみが供給される場合、MCH及び水素が供給される場合、水素のみが供給される場合がある。例えばMCH及び水素が気化器2へ供給された場合には、気化されたMCH及び水素が、搬送ラインPL2を介して昇温器3へ供給される。
【0025】
昇温器3は、搬送ラインPL2を通過する気体に熱を与え、気体の温度を上昇させる機器である。昇温器3によって昇温された気体が搬送ラインPL3を介して脱水素反応器4へ供給される。
【0026】
脱水素反応器4は、MCHを脱水素反応させることによって水素を得る機器である。脱水素反応器4は、内部に空間を画成しており、該空間内に脱水素触媒を収容する。脱水素反応器4は、当該脱水素触媒を用いた脱水素反応によってMCHから水素を取り出す機器である。なお、脱水素反応器4のガスの入口及び出口にはバルブ等が配置され、密閉可能に構成されている。脱水素触媒としては、例えば白金、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、スズ、レニウム又はゲルマニウム等が、アルミナ等の細孔が形成された多孔質担体に担持されたものが用いられる。脱水素触媒は、プレート型触媒であってもよいし、円柱型ペレット触媒であってもよい。脱水素触媒は、使用に応じてコーキングが発生して性能が低下する場合があるが、酸素存在下で焼成することにより当初の性能へ戻す回復処理を行うことで、繰り返し使用可能である。有機ハイドライドの反応は可逆反応であり、化学平衡の制約を受けるため、温度又は圧力等の反応条件によって反応の方向が変わる。一方、脱水素反応は、常に吸熱反応で分子数が増える反応である。従って、高温、低圧の条件が有利である。よって、脱水素反応器4を高圧とするための圧縮機が不要となっている。脱水素反応は吸熱反応であるため、脱水素反応器4は図示しない熱源から加熱用高温ガスを介して熱を供給される。脱水素反応器4は、脱水素触媒中を流れるMCHと熱源からの加熱用高温ガスとの間で熱交換可能な機構を有している。脱水素反応器4で取り出された水素含有ガスは、搬送ラインPL4を介して気液分離器5へ供給される。搬送ラインPL4を流通する水素含有ガスは、液体であるトルエンを混合物として含んだ状態で、気液分離器5へ供給される。
【0027】
気液分離器5は、水素含有ガスからトルエンを分離するタンクである。気液分離器5は、混合物としてトルエンを含む水素含有ガスを貯留する。水素含有ガスは、搬送ラインPL11、冷凍機7及びPL10の順に搬送され、冷凍機7を循環することで冷却され、気液分離器5内で気体である水素と液体であるトルエンとに気液分離される。気液分離器5で分離されたトルエンは、搬送ラインPL9を介してトルエンタンク6へ供給される。トルエンタンク6は、気液分離器5で分離された液体のトルエンを貯留するタンクである。トルエンタンク6に貯留されたトルエンは、回収して利用することが可能である。気液分離器5で分離された水素含有ガスは、搬送ラインPL5を介して水素精製器8へ供給される。
【0028】
水素精製器8は、気液分離器5で気液分離された水素含有ガスから、脱水素生成物であるトルエンを膜分離によって除去する。これによって、水素精製器8は、当該水素含有ガスを精製して高純度の精製水素ガスを得る。水素精製器8は、所定温度に加熱された膜に、所定圧力に加圧された水素含有ガスを透過させることによって、脱水素生成物を除去し、高純度の精製水素ガスを得ることができる。膜分離による水素精製器8の水素回収率は、85〜95%である。水素精製器8で用いられる膜の「水素/トルエン」の分離係数は、1000以上であることが好ましく、10000以上であることがより好ましい。なお、「水素/トルエン」の分離係数が10000以上の場合、膜の「水素/メタン」の分離係数は、1000以上となる。膜を透過することによって得られた高純度水素のガスは、搬送ラインPL7へ供給される。
【0029】
水素精製器8に適用される膜の種類は特に限定されず、多孔質膜又は非多孔質膜を適用することができる。多孔質膜は、例えば分子流によって分離するもの、表面拡散流によって分離するもの、毛管凝縮作用によって分離するもの、分子ふるい作用によって分離するもの等であってもよい。水素精製器8に適用される膜として、例えば、金属膜、ゼオライト膜、無機膜、又は高分子膜を採用することができる。金属膜としては、例えばPbAg系、PdCu系又はNb系等の金属が用いられる。無機膜としては、例えばシリカ膜又はカーボン膜が用いられる。高分子膜としては、例えばポリイミド膜が用いられる。
【0030】
水素精製器8の膜を透過したガス(精製水素ガス)の圧力は低下し、膜を透過しなかった非透過ガスの圧力は低下しない。水素精製器8の膜を透過しなかった非透過ガスは、水素及び脱水素生成物を含むオフガスとして、搬送ラインPL8または搬送ラインPL6へ供給される。脱水素反応器4にて必要とされる水素の量に応じて、搬送ラインPL8は、水素精製器8のオフガスの一部または全部を、気化器2及び昇温器3を介して脱水素反応器4へ供給する。オフガスの全部を脱水素反応器4へ供給する場合、搬送ラインPL6へはオフガスは流れない。一方、オフガスの一部を脱水素反応器4へ供給する場合、余りのオフガスは、搬送ラインPL6によって気液分離器5へ供給される。
【0031】
水素供給システム100は、必要に応じて調圧弁等の調圧手段、及び流量制御弁等の流量制御手段を備える。この場合、脱水素反応器4の反応圧と水素精製器8の膜の圧力コントロールが可能となる。例えば、水素精製器8と気化器2又は脱水素反応器4との間に調圧手段及び流量制御手段を設けてもよい。例えば、搬送ラインPL8上に設けてもよい。これにより、水素精製器8、脱水素反応器4の圧力、オフガスの流量を最適化、安定化することができる。
【0032】
制御部11は、CPU、メモリ、記憶媒体、表示装置等を含む一般的なコンピュータユニットであって、上述した水素供給システム100の構成要素に接続され、各構成要素を制御可能に構成されている。
【0033】
次に、本実施形態に係る水素供給システム100の動作について説明する。図2は、本実施形態に係る水素供給システム100の動作を示すフローチャートである。図2に示す制御処理は、制御部11によって実行され得る。なお、ここでは、システム起動及びシステム停止を繰り返す運転で水素供給システム100が運用されている場合を一例として説明する。また、説明理解の容易性を考慮し、図3に示す脱水素反応器4の温度プロファイルを参照しつつ、水素供給システム100の動作を説明する。図3において、横軸は図2に示すフローチャートの開始タイミングを基準(0min)とした経過時間であり、縦軸は脱水素反応器4の温度である。
【0034】
図2に示すように、最初に水素供給システム100の起動を開始する(S10)。S10の処理では、制御部11が、脱水素処理の前処理として、動作が可能な状態となるように各構成要素の起動処理を行う。例えば、図示しない熱源から加熱用高温ガスを介して熱を脱水素反応器4へ供給することを開始する。このため、例えば図3に示すように、脱水素反応器4の温度が上昇し始める。S10の処理が終了すると、判定処理へ移行する(S12)。
【0035】
S12の処理では、制御部11が、水素供給システム100の起動が最初の起動であるか否かを判定する。最初の起動とは、脱水素触媒を新規で導入したタイミングでの起動又は脱水素触媒の回復処理をした直後のタイミングでの起動のことをいう。S12の処理において、最初の起動でないと判定した場合には、水素供給処理へ移行する(S14)。
【0036】
S14の処理では、制御部11が、脱水素反応器4へ水素を供給する(水素供給ステップ)。なお、このタイミングではシステムが完全に起動していないため、水素含有ガスを水素精製器8から供給することができないことから、精製水素を貯留するタンク(不図示)や別途取り付けた水素ボンベ等を原料供給部とし、脱水素反応器4へ水素を供給する。これにより、脱水素反応処理を一度でも行った後の脱水素反応器4の起動時において、脱水素反応器4の内部を水素で充填することができる。システム起動時において、MCHが脱水素反応器4へ供給されておらず、かつ、トルエンが脱水素反応器4内に残存した状態で、脱水素反応器4の温度が上昇すると、トルエンからコークが発生して触媒表面を覆う場合があり、脱水素触媒が劣化するおそれがある。脱水素反応器4へ水素を供給することで、トルエンと水素とを反応させることができるため、コークの発生を抑制し、脱水素触媒の劣化を防止することができる。S14の処理終了後において、温度や圧力等の所定のシステム起動条件を満たした時点でシステム起動を終了する(S16)。例えば、図3の温度プロファイルにおいて、目標温度(350℃)となった場合に、システム起動を終了と判断する。S16の処理が終了すると、定常運転の開始処理へ移行する(S18)。
【0037】
一方、S12の処理において、最初の起動であると判定した場合には、脱水素反応器4内にトルエンが残存していないため、温度や圧力等の所定のシステム起動条件を満たした時点でシステム起動を終了する(S16)。S16の処理が終了すると、定常運転の開始処理へ移行する(S18)。
【0038】
S18の処理では、制御部11が、水素供給システム100を制御して脱水素処理の定常運転を開始する(脱水素反応開始ステップ)。定常運転は、脱水素反応器4へMCHが供給されたタイミングから開始される。定常運転時には、MCHが、MCHタンク1から気化器2及び昇温器3を介して脱水素反応器4へ供給される。そして、脱水素反応器4から得られた水素含有ガスが、気液分離器5において分離され、水素精製器8で精製される。このように、定常運転時において目的の精製水素が得られる。さらに、脱水素反応器4へ精製水素を貯留するタンク(不図示)や別途取り付けた水素ボンベ等を原料供給部として、水素が供給される。あるいは、水素精製器8の水素を含有するオフガスが脱水素反応器4へ戻される。このように、定常運転時において、脱水素反応器4内へMCH及び水素を供給しながら脱水素反応を行う。図3ではMCH及び水素の供給を矢印で示している。
【0039】
そして、所定期間経過後、あるいは目標量の水素を得た後に、制御部11は、定常運転を終了する(S20:脱水素反応終了ステップ)。定常運転は、脱水素反応器4へのMCHの供給を停止したタイミングで終了する。このとき、脱水素反応器4への水素の供給も停止する(図3参照)。
【0040】
制御部11は、定常運転が終了すると、システムを停止する処理を開始する(S22)。ここでは、脱水素反応器4の温度を所定の温度(例えば常温)まで低下させる処理を開始する。例えば、図示しない熱源から熱を脱水素反応器4へ供給することを停止する。
【0041】
その後、制御部11は、図3に示すように、脱水素反応器4へ水素を供給して脱圧する(S24:水素供給ステップ)。水素は、水素精製器8に残存するオフガスを供給してもよいし、精製水素を貯留するタンク(不図示)や別途取り付けた水素ボンベ等を原料供給部とし、脱水素反応器4へ水素を供給してもよい。その後、脱水素反応器4のガスの出入口のバルブを閉として密閉する。これにより、脱水素反応器4が水素で充填される。すなわち、次回のシステム起動まで脱水素反応器4は大気開放されない状態となる。脱水素反応器4の温度が所定の温度(例えば常温)まで低下すると、システム停止が終了する(S26)。
【0042】
以上で図2に示す制御処理を終了する。図2に示す制御処理を実行することにより、定常運転の後において、すなわちMCHの脱水素反応器4への供給が停止された後に、脱水素反応器4へ水素が供給され、脱水素反応器4に残存するトルエンと反応させることができる。したがって、残存トルエンからコークが発生することを回避することが可能となる。よって、脱水素触媒を劣化させることを回避することができる。また、最初の起動以外の起動時、すなわち、脱水素反応終了ステップが少なくとも1回実行されている場合には、脱水素反応器4にトルエンが残存している可能性がある。このため、最初の起動以外では定常運転の前において、すなわちMCHの脱水素反応器4への供給の前に、脱水素反応器4へ水素が供給され、脱水素反応器4に残存するトルエンと反応させることができる。したがって、残存トルエンからコークが発生することを回避することが可能となる。よって、脱水素触媒を劣化させることを回避することができる。
【0043】
なお、制御部11は、S24の水素供給ステップにおいて、脱水素反応器4の内部に存在する水素の体積を脱水素触媒の細孔の容積で除算した値が0.9以上となるように、脱水素反応器4へ水素を供給してもよい。以下詳細を説明する。上述したように、脱水素反応器4の内部にトルエンが残存することが脱水素触媒のコーキングの原因となると考えられる。脱水素触媒の細孔容積をトルエンの体積であると仮定し、脱水素反応器4の内部空間の空隙体積を水素の体積であると仮定する。これにより、定常運転が終了した後の脱水素反応器4へ最低限供給すべき水素量と、残存しているトルエンの量との比を算出することができる。プレート型触媒(マイクロリアクター)で測定した結果、水素量/トルエン量の値は10となった。一方、円柱型ペレット触媒(固定床リアクター)で測定した結果、水素量/トルエン量の値は0.9となった。このため、脱水素反応器4の内部に存在する水素の体積を脱水素触媒の細孔の容積で除算した値が0.9以上となるように、脱水素反応器4へ水素を供給することで、最も効率的に脱水素触媒の劣化を防止することができる。
【0044】
以上、本実施形態に係る水素供給システム100及び該水素供給システム100の運転方法によれば、MCHを供給して行う脱水素反応処理の前後の少なくとも一方において、脱水素反応器4に水素が供給される。このため、脱水素反応器4の内部は、脱水素反応処理の前後の少なくとも一方において水素が充填された状態となる。従って、脱水素反応処理後に有機化合物が脱水素反応器4内に残存した場合であっても、供給された水素と残存した有機化合物とが反応し有機化合物から炭素が生成されることを抑制するため、コークが脱水素触媒の表面に析出することを回避することができる。よって、脱水素触媒の劣化を抑制することが可能となる。また、脱水素反応器4のパージは不活性ガスで行うことが一般的であるところ、本実施形態に係る水素供給システム100及び該水素供給システム100の運転方法によれば、水素供給システム100が生成した水素によってパージすることができるため、簡易な構成で脱水素触媒の劣化を抑制することができる。
【0045】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、上述した実施形態では、水素精製器8から気化器2へ搬送ラインPL8を介して水素を供給する例を説明したが、上記構成に限定されるものではなく、例えば水素ボンベ等を気化器2へ接続してもよいし、精製水素を気化器2へ供給してもよいし、水素精製器8から脱水素反応器4へ水素を直接供給してもよい。また、図2に示す制御処理では、MCHを供給して行う脱水素反応処理の前後の両方に水素を供給する例を説明したが、何れか一方であってもよい。さらに、図2に示す制御処理では、システム起動開始後かつ定常運転開始前、定常運転終了後システム停止終了前に、水素供給ステップをそれぞれ実施する例を説明したが、水素供給ステップは、脱水素反応処理の前後であればよく、例えば、システム起動開始前でもよいし、システム停止終了後でもよい。
【0046】
また、図2のS20の処理において脱水素反応器4への水素の供給を停止することは必ずしも必要ではない。例えば、S24の処理に至る前までに水素の供給を停止してもよい。あるいは、水素を供給し続けた状態とすることで、S24に示す脱圧の処理をS22に示すシステムを停止する処理と並行して行ってもよい。水素を供給し続ける場合であっても、定常運転の終了の判断は、脱水素反応器4へのMCHの供給を停止したタイミングとなる。
【0047】
また、脱水素反応器4は、S24の脱圧の処理の実行の有無に関わらず、内部の圧力が少なくとも大気圧より高い状態で維持してもよい。このように、脱水素反応器4の内部の圧力が常に少なくとも大気圧より高い状態で維持されることにより、脱水素反応器4の内部の圧力が大気圧である場合に比べて、脱水素反応器4の起動を迅速に行うことができる。脱水素反応器4の起動を迅速に行うことで、起動時に供給される水素の量を少なくすることができる。さらに、加圧及び脱圧の繰り返しを回避することができるので、配管等にかかる負荷を低減でき、結果、耐久性を向上させることができる。
【0048】
また、水素精製器8は、膜分離によって除去する装置に限定されず、種々の装置を採用することができる。例えば、水素精製方法として膜分離を用いる場合には、水素分離膜を備える水素分離装置であり、PSA(Pressure swing adsorption)法又はTSA(Temperature swing adsorption)法を用いる場合には、不純物を吸着する吸着材を格納する吸着塔を複数備えた吸着除去装置である。
【0049】
また、上記実施形態では、水素精製器8のオフガスの一部または全部が、気化器2及び昇温器3を介して脱水素反応器4へ供給される例を説明したが、脱水素反応器4への水素の供給手法は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、水素精製器8のオフガスの一部または全部が、図1の点線で示すように、気化器2及び昇温器3の少なくとも一方を介することなく脱水素反応器4へ供給されてもよいし、他の水素ボンベ13から水素が供給されてもよい。
【0050】
また、上述した実施形態に係る水素供給システムは、どのような用途に用いられてもよく、例えば、水素供給設備に適用してもよい。水素供給設備は、水素を供給する種々の設備であって、例えば水素ステーション等が含まれる。例えば、水素精製器よりも下流側に、水素を蓄積すると共に、外部の水素消費装置(燃料電池自動車や水素自動車など)に対して水素を供給する水素供給装置(圧縮部や冷却器や貯留タンクやディスペンサなどを含む)を接続することで、水素供給システムを水素ステーションとして利用してよい。その他、水素精製器よりも下流側に水素消費装置(電力発生装置など)を接続することで、直接的に水素消費装置に水素を供給してもよい。例えば、分散電源(例えば、家庭用電源や非常用電源など)のための水素供給システムとして利用してもよい。
【0051】
[実施例]
以下、上記効果を説明すべく本発明者が実施した実施例及び比較例について述べる。
(水素による脱水素触媒の劣化抑制効果の確認)
(実施例1)
図2で説明した運転方法で水素供給システム100を運転した。すなわち、定常運転前(MCHの供給開始前)において、脱水素反応器4へ水素を供給し、その後、定常運転を開始した。定常運転終了後(MCHの供給終了後)において脱水素反応器4へ水素を供給した。脱水素触媒は、プレート型触媒を用いた。脱水素反応器4へ供給する水素量は、脱水素触媒の細孔の容積の10倍とした。定常運転終了後から定常運転開始前までの間は、脱水素反応器4を大気開放しない状態とした。
(実施例2)
定常運転前(MCHの供給開始前)において、脱水素反応器4へ窒素を供給した。その他は実施例1と同一とした。
(実施例3)
定常運転後(MCHの供給終了後)において、脱水素反応器4へ窒素を供給した。その他は実施例1と同一とした。
(比較例1)
定常運転前(MCHの供給開始前)において、脱水素反応器4へ窒素を供給し、その後、定常運転を開始した。定常運転終了後(MCHの供給終了後)において脱水素反応器4へ窒素を供給した。定常運転終了後から定常運転開始前までの間は、脱水素反応器4を大気開放しない状態とした。
【0052】
図2に示す制御処理を1サイクルとし、該サイクルを繰り返して脱水素触媒の劣化を評価した。脱水素触媒の劣化は、MCH転化率で評価した。最初に、比較例の手法で運転、測定を6回繰り返した。その後、脱水素触媒の回復処理を行った。そして、実施例1の手法で運転、測定を6回繰り返した。その後、実施例2の手法で運転、測定を3回繰り返した。その後、実施例3の手法で運転、測定を2回繰り返した。結果を図4に示す。横軸が繰り返し回数、縦軸がMCH転化率である。図中に示す直線は、プロット点を線形フィッティングした結果である。図4に示すように、比較例1の手法の場合には、プロット点を線形フィッティングすることで得られた傾きは、−0.9237となった。一方、実施例1の手法の場合には、プロット点を線形フィッティングすることで得られた傾きは、−0.0934となった。また、実施例2の手法の場合には、プロット点を線形フィッティングすることで得られた傾きは、−0.4507となった。また、実施例3の手法の場合には、プロット点を線形フィッティングすることで得られた傾きは、−0.3019となった。このように、実施例1〜3は、比較例1に比べてMCH転化率の低下が抑制されていることが確認された。したがって、定常運転前(MCHの供給開始前)及び定常運転終了後(MCHの供給終了後)の少なくとも一方において、脱水素反応器4へ水素を供給することで、脱水素触媒の劣化が抑制されることが確認された。
【0053】
(必要水素量の確認)
(実施例4)
脱水素触媒は、円柱型ペレット触媒を用いた。脱水素反応器4へ供給する水素量は、脱水素触媒の細孔の容積の0.9倍(理論値の下限値)とした。その他の運転条件は実施例1と同一とした。
(比較例2)
脱水素触媒は、円柱型ペレット触媒を用いた。実施例4と同一の窒素量を脱水素反応器4へ供給した。その他の運転条件は比較例1と同一とした。
【0054】
実施例4及び比較例2について、図2に示す制御処理を2回行い、脱水素触媒の劣化を評価した。脱水素触媒の劣化は、評価時間3時間のMCH転化率で評価した。そして、1回目と2回目との間のMCH転化率の低下率を算出した。結果を表1に示す。
【表1】
表1に示すように、実施例4の低下率は4%であり、比較例2の低下率は21%であった。よって、脱水素反応器4へ供給する水素量を、脱水素触媒の細孔の容積の0.9倍(理論値の下限値)とした場合であっても、脱水素触媒の劣化が抑制されることが確認された。
【符号の説明】
【0055】
1…MCHタンク(原料供給部)、2…気化器、3…昇温器、4…脱水素反応器(反応器)、5…気液分離器、6…トルエンタンク、7…冷凍機、8…水素精製器(水素供給部)、9…ポンプ、11…制御部、100…水素供給システム、PL1〜PL11…搬送ライン。
図1
図2
図3
図4