特許第6086985号(P6086985)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6086985単離されたマイコバクテリアを用いる心的外傷後ストレス障害の治療
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6086985
(24)【登録日】2017年2月10日
(45)【発行日】2017年3月1日
(54)【発明の名称】単離されたマイコバクテリアを用いる心的外傷後ストレス障害の治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/74 20150101AFI20170220BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20170220BHJP
【FI】
   A61K35/74 A
   A61P25/00
【請求項の数】18
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-532500(P2015-532500)
(86)(22)【出願日】2013年9月17日
(65)【公表番号】特表2015-532921(P2015-532921A)
(43)【公表日】2015年11月16日
(86)【国際出願番号】GB2013052430
(87)【国際公開番号】WO2014045023
(87)【国際公開日】20140327
【審査請求日】2015年5月20日
(31)【優先権主張番号】1216800.1
(32)【優先日】2012年9月20日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】514135498
【氏名又は名称】イモデュロン セラピューティクス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(74)【代理人】
【識別番号】100151596
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 俊明
(72)【発明者】
【氏名】アクル,チャールズ
(72)【発明者】
【氏名】グランジ,ジョン
【審査官】 平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−531859(JP,A)
【文献】 Neuroscience, 2007, 146(2), p.756-72
【文献】 International Journal of Psychiatry in Clinical Practice, 2009, Vol. 13, No. SUPPL. 1, pp. 7. Abstract Number: SO 0201
【文献】 Journal of Child and Adolescent Psychopharmacology, 2011, 21(5), p.469-77
【文献】 European Neuropsychopharmacology, 2006, 16(5), p.340-349
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00−35/768
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイコバクテリアを含む組成物であって、心的外傷後ストレス障害(PTSD)およびそのような障害に伴う症状の予防のための組成物
【請求項2】
前記マイコバクテリアが、ホールセルマイコバクテリアを含む、請求項1に記載の組成物
【請求項3】
前記マイコバクテリアが、非病原性加熱死滅マイコバクテリアを含む、請求項1または請求項2に記載の組成物
【請求項4】
前記非病原性加熱死滅マイコバクテリアが、M.バッカエ(M. vaccae)、M.オブエンセ(M. obuense)、M.パラホルツイツム(M. parafortuitum)、M.アウルム(M. aurum)、M.インディクスプラニ(M. indicus pranii)、およびこれらの組み合わせから選択される、請求項3に記載の組成物
【請求項5】
前記非病原性加熱死滅マイコバクテリアが、M.バッカエまたはM.オブエンセである、請求項4に記載の組成物
【請求項6】
前記マイコバクテリアが、ラフ型変異体である、請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物
【請求項7】
所望に応じてアジュバントを含んでいてよいワクチン組成物の形態である、請求項1から6のいずれか一項に記載の組成物
【請求項8】
軍人に投与するためである、請求項1から7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
復用量で投与される、請求項1から8のいずれか一項に記載の組成物
【請求項10】
前記マイコバクテリアが、107から109個の細胞である非病原性加熱死滅マイコバクテリアの有効量を含む単位用量中に存在する、請求項1から9のいずれか一項に記載の組成物
【請求項11】
非経口、経口、舌下、経鼻、または経肺経路を介しての投与用である、請求項1から10のいずれか一項に記載の組成物
【請求項12】
前記マイコバクテリアが、経口経路を介しての投与用である、請求項11に記載の組成物
【請求項13】
前記非経口経路が、皮下、皮内、真皮下、腹腔内、静脈内、または小胞内注射から選択される、請求項11に記載の組成物
【請求項14】
心的外傷後ストレス障害の少なくとも1つの徴候または症状を予防するものであり、ここで、前記徴候または症状は、混乱または動揺した行動、痛みの知覚および痛みの許容度の問題、頭痛、入眠または睡眠維持の困難、心的外傷の側面を表現する遊びの繰り返し、はっきりとした内容のない恐ろしい夢、および心的外傷特異的なことの再演から選択される、請求項1から13のいずれか一項に記載の組成物
【請求項15】
心的外傷後ストレス障害の少なくとも1つの症状クラスターを予防するものであり、ここで、前記症状クラスターは、再体験/侵入、回避/麻痺、および過覚醒から選択される、請求項1から14のいずれか一項に記載の組成物
【請求項16】
マイコバクテリアを含む組成物であって、対象に投与して、前記対象のIL‐6のレベルが、心的外傷イベントへの暴露後に上昇することを予防するためのものである、組成物
【請求項17】
前記心的外傷イベントが、軍隊の戦闘、テロリストによる事件、身体的暴行、性的暴行、自動車事故、および自然災害から選択される、請求項16に記載の組成物
【請求項18】
前記対象が、軍人である、請求項15または16に記載の組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の予防に関する。特に、本発明は、PTSD、およびそのような障害に伴う症状の予防に使用するための単離されたマイコバクテリアに関する。また、治療有効量の単離されたマイコバクテリアを投与することによる、対象のリジリエンスを改善する方法も提供される。
【背景技術】
【0002】
不安障害は、最も一般的に発生する精神病の障害であり、多大な経済的負荷をもたらしている。一般化された不安障害に加えて、それには、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、パニック障害、強迫性障害、ならびに社会恐怖症およびその他の恐怖症が包含される。
【0003】
PTSDは、重篤で、慢性的となる可能性があり、いくつかの研究により、生涯有病率は、一般集団の1.3%から7.8%であると示唆されている。PTSDには、約770万人の米国の成人が罹患しているが、それは、小児を含むいかなる年齢でも発生し得る。女性は、男性よりもPTSDを発症する可能性が高く、この障害への罹患し易さは、家族内で遺伝し得るとするいくつかの証拠が存在する。PTSDは、鬱病、物質乱用、またはその他の不安障害の1つ以上を伴うことが多い。PTSDは、通常、精神的苦痛を伴う心的外傷イベントに続いて発生する。このようなイベントとしては、例えば、軍隊の戦闘、テロリストによる事件、身体的暴行、性的暴行、自動車事故、および自然災害などが挙げられ得る。イベントに対する反応としては、強い恐怖、無力感、または戦慄を挙げることができる。ほとんどの人は、時間と共に心的外傷イベントから回復し、正常な生活に戻る。対照的に、PTSDの罹患者の場合、症状が存続し、時間と共に悪化する場合もあり、正常な生活へ戻ることができない。PTSDの研究から、ベースライン時および抗原刺激後の両方における炎症性サイトカインのレベルの上昇を含む免疫系での炎症活性の増加の証拠が報告されている。このような炎症活性のレベルの上昇は、HPAアクシス機能異常、ならびにセロトニン作動性およびノルアドレナリン作動性代謝の変化と関連付けられている。慢性的に活性化される炎症応答は、多くの身体系に有害な反応を引き起こすことが示されている。具体的には、インターロイキン‐6(IL‐6)の上昇は、PTSDと関連付けられている慢性疼痛、関節炎、糖尿病、循環器疾患、およびその他の医学的病状の報告と関連付けられている。実際、慢性PTSDを持つ患者は、著しく上昇したレベルのIL‐1β、IL‐6、IL‐8、TNF‐アルファ、およびMCP‐1を有するが、場合によっては、低下したC‐反応性タンパク質および低下した可溶性CD‐40を有することが示されている。
【0004】
心理療法は、現時点でのPTSD治療のバックボーンである。方法としては、認知行動療法、エクスポージャー療法、および眼球運動による脱感作と再処理法が挙げられる。薬物療法は、心理療法の効果を高めることができる。セルトラリン(Zoloft(登録商標))およびパロキセチン(Paxil(登録商標))などの選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)は、米国食品医薬品局によってPTSD治療用として承認されている唯一の医薬品である。SSRIの使用は、多くの望ましくない副作用を伴う。これらとしては、薬物相互作用の問題、胃腸管系への副作用、性機能副作用、自殺念慮、急性不安惹起作用、および作用発現の遅延が挙げられる。いくつかの三環系抗鬱剤(TCA)およびモノアミンオキシダーゼ阻害剤(MAOI)は、ある程度の有効性は有すると思われるが、副作用の発生率が高いことから、患者許容度が低い。MAOIは、食事制限の必要性があり、高血圧性イベントと関連付けられている。TCAは、抗コリン性および循環器系の副作用を有する。ナトリウムチャネル遮断剤であるラモトリギンは、小スケールのプラ
セボコントロール研究において、PTSDの治療にある程度の有効性を有していた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
安全で効果的であるPTSDのための治療または予防的治療法の開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一の態様では、PTSDおよびそのような障害に伴う症状の予防に用いるための単離されたマイコバクテリアが存在する。
【0007】
本発明の第二の態様では、心的外傷イベントへの暴露後に、例えばIL‐6を含む炎症性マーカーの対象のレベルが上昇することを予防するために、またはセロトニン作動性およびノルアドレナリン作動性代謝の変化を予防するために、対象へ投与するための単離されたマイコバクテリアが存在する。
【0008】
本発明は、PTSDを予防するための安全で、許容度がより良好であり、効果的な方法を提供することにより、先行技術の欠点を克服するものである。驚くべきことに、本発明によって、バランスの良い免疫調節性の向上効果が、不適切な炎症性応答の低減と共に得られる。このような多面的な作用プロファイルは、単一の経路の介入によっては達成することができないものであり、従って、先行技術と比較して、より制御された、有効な応答が得られる。
【0009】
本発明について、以下の図面を参照して記載する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、集団飼育の過程における、進取的行動(proactive behaviour)および総支配性インデックス(total dominance index)に対するM.バッカエ(M.vaccae)による治療の効果を示す。
図2図2は、M.バッカエによる治療が、SPAT試験において、CSCの誘発による社会的選好性の欠落を予防することを示す。
図3図3は、M.バッカエによる治療が、EPM試験において、抗不安特性(anti anxiolytic properties)を有することを示す。
図4図4は、DSS誘発性大腸炎のCSC誘発性増悪に対する、M.バッカエ予備免疫の効果を示す。
図5図5は、CSC飼育によって引き起こされる組織学的損傷への予備免疫の効果、ならびに炎症性サイトカインの制御性サイトカインに対する比率への効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、PTSDの治療または予防のために、マイコバクテリアを用いる。
【0012】
本明細書で用いられる場合、「患者」および/または「対象」の用語は、交換可能に用いられ得る。不確定性を回避するために、本発明は、好ましくは、ヒトでの使用を意図するが、ヒト以外の脊椎動物(獣医学的使用)も、治療的または予防的治療法の対象であってよい。例えば、ウマおよびイヌは、軍隊もしくは警察の活動、ならびに競走場などのその他の状況で用いられることが多く、そこで心的外傷状態を受けることになる可能性がある。本発明の治療法は、従って、そのような動物の能力を回復させるために有用であり得る。
【0013】
本明細書で用いられる場合、「予防する」の用語は、疾患もしくは障害の少なくとも1
つの徴候、症状、または症状クラスターが、有益に変化され、それによって、疾患もしくは障害の症状、または付随する症状の発症の予防または遅延、進行の阻害、再発の予防、または寛解が行われるいかなる方法をも意味する。例えば、PTSDにおいて、障害の予防は、特定の実施形態では、PTSDの徴候、症状、および症状クラスターのうちの少なくとも1つの発症を予防することができる。
【0014】
本発明はまた、対象におけるPTSDの治療、またはPTSDの1つ以上の症状の治療にも関する。治療により、進行の阻害、再発の予防、またはPTSD、もしくはこの障害の1つ以上の症状の寛解を行うことができる。
【0015】
本明細書で用いられる場合、「心的外傷後ストレス障害(PTSD)を持つと診断される」の表現は、心的外傷イベントによって引き起こされる精神障害であるPTSDを示す徴候、症状、または症状クラスターを持つことを意味する。そのような心的外傷イベントの限定されない例としては、軍隊の戦闘、テロリストによる事件、身体的暴行、性的暴行、自動車事故、および自然災害が挙げられる。
【0016】
精神障害の分類および基準がリストとして記載されるメンタルヘルスの専門家のためのハンドブックである精神障害の診断・統計マニュアル‐IV‐テキスト新訂版(DSM‐IV‐TR)は、PTSDを不安障害として分類している。DSM‐IV‐TRによると、以下の場合にPTSDとして診断され得る:
(1)実際のもしくは切迫した死または重症に関わるイベントを、1度もしくは数度、または自分もしくは他人の身体の保全に対する脅威を、その患者が体験、目撃、または直面し、その反応が、強い恐怖、無力感、または戦慄を含むものである;(2)心的外傷イベントの結果として、患者が、少なくとも1つの再体験的/侵入的症状、3つの回避的/麻痺的症状、および2つの過覚醒的症状を体験し、症状の持続期間が、1か月を超えるものである;ならびに(3)症状が、臨床的に著しい苦痛、または社会的、職業的、もしくはその他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
【0017】
特定の実施形態では、患者の障害が、DSM‐IV‐TRの基準を満たす場合、患者は、PTSDを持つと診断される。特定の実施形態では、患者が、PTSDの少なくとも1つの徴候、症状、または症状クラスターを持つ場合、患者は、その障害を持つと診断される。特定の実施形態では、PTSDの徴候、症状、または症状クラスターを測定するための尺度が用いられ、障害は、その尺度を用いた測定に基づいて診断される。特定の実施形態では、尺度の「スコア」を用いて、PTSDの徴候、症状、もしくは症状クラスターの診断または評価が行われる。特定の実施形態では、「スコア」は、PTSDの徴候、症状、もしくは症状クラスターの頻度、強度、または重篤度のうちの少なくとも1つを測定することができる。
【0018】
本明細書で用いられる場合、「症状」および「複数の症状」の用語は、障害を特徴付ける主観的な徴候を意味する。PTSDの症状は、以下に限定されないが、例えば、反復的で侵入的な心的外傷の想起、心的外傷イベントの反復的で苦痛な夢、心的外傷イベントが再び起こっているかのように行動したり感じたりすること、心的外傷を思い出させるきっかけに暴露された場合の苦痛、心的外傷を思い出させるきっかけに暴露された場合の生理学的反応性、心的外傷と関連した思考または感情を回避しようとする努力、活動または状況を回避しようとする努力、心的外傷または心的外傷の側面の想起不能、重要な活動への関心の著しい減退、他の人から孤立している、または疎遠になっているという感覚、感情の範囲の縮小、未来が短縮した感覚、社会的不安、不慣れな環境での不安、入眠または睡眠維持の困難、いらだたしさまたは怒りの爆発、集中困難、過度の警戒心、痛みの知覚の問題、痛みの許容度、および過剰な驚愕反応を意味し得る。特定の実施形態では、脅威となり得る刺激が、過覚醒または不安を引き起こし得る。特定の実施形態では、生理学的反
応性は、異常な呼吸、異常な心拍数、異常な血圧、特殊感覚の異常な機能、および感覚器官の異常な機能のうちの少なくとも1つに現れる。特定の実施形態では、感情もしくは感情の表現の範囲もしくは強さの減退または縮小を特徴とする感情の範囲の縮小(restricted range of effect)が起こる可能性があり、未来が短縮した感覚は、仕事、結婚、子供、または正常な寿命を持つことがないという思考に現れ得る。特定の実施形態では、子供および青年の場合、以下に限定されないが、例えば、混乱または動揺した行動、心的外傷の側面を表現する遊びの繰り返し、はっきりとした内容のない恐ろしい夢、および心的外傷特異的なことの再演などのPTSDの症状を有する場合がある。特定の実施形態では、症状は、記憶の想起に伴うストレスであり得る。
【0019】
本明細書で用いられる場合、「症状クラスター」の用語は、一連の徴候、症状、または一連の徴候と症状を意味し、それらは、互いの関連性または同時発生性により、一緒にグループ化される。例えば、特定の実施形態では、PTSDは、3つの症状クラスター:再体験/侵入、回避/麻痺、および過覚醒、を特徴とする。
【0020】
本明細書で用いられる場合、「再体験/侵入」の用語は、反復的で侵入的な心的外傷の想起、心的外傷イベントの反復的で苦痛な夢、心的外傷イベントが再び起こっているかのように行動したり感じたりすること、心的外傷を思い出させるきっかけに暴露された場合の苦痛、および心的外傷を思い出させるきっかけに暴露された場合の生理学的反応性のうちの少なくとも1つを意味する。特定の実施形態では、生理学的反応性は、異常な呼吸、異常な心拍数、異常な血圧、特殊感覚の異常な機能、および感覚器官の異常な機能のうちの少なくとも1つに現れる。
【0021】
本明細書で用いられる場合、「回避/麻痺」の用語は、心的外傷と関連した思考または感情を回避しようとする努力、活動または状況を回避しようとする努力、心的外傷または心的外傷の側面の想起不能、重要な活動への関心の著しい減退、他の人から孤立している、または疎遠になっているという感覚、感情の範囲の縮小、および未来が短縮した感覚のうちの少なくとも1つを意味する。感情もしくは感情の表現の範囲もしくは強さの減退または縮小を特徴とする感情の範囲の縮小が起こり得る。未来が短縮した感覚は、仕事、結婚、子供、または正常な寿命を持つことがないという思考に現れ得る。回避/麻痺は、社会的不安および不慣れな環境での不安にも現れ得る。
【0022】
本明細書で用いられる場合、「過覚醒」の用語は、入眠または睡眠維持の困難、いらだたしさまたは怒りの爆発、集中困難、過度の警戒心、および過剰な驚愕反応のうちの少なくとも1つを意味する。脅威となり得る刺激が、過覚醒または不安を引き起こし得る。
【0023】
本明細書で用いられる場合、「有意に」の用語は、非常に密接に相関しているために偶然に帰することができない一式の観察または発生を意味する。例えば、特定の実施形態では、「有意に変化する」、「有意に減少する」、および「有意に増加する」とは、偶然に帰するものである可能性が低い改変または効果を意味する。特定の実施形態では、統計的な方法を用いて、観察が「有意に」変化、減少、増加、または改変されたと称され得るかどうかを判断することができる。
【0024】
PTSDを持つと診断された患者は、「警戒している」、落ち着かない、および強い不安という感情を持ち得る。PTSDは、多くの場合、鬱、不安、パニック発作、および双極性障害を伴う。アルコールおよび薬物乱用も一般的である。特定の実施形態では、PTSDと同時に罹患する障害としては、以下に限定されないが、例えば、鬱病、アルコールおよび薬物乱用を挙げることができる。
【0025】
本明細書で用いられる場合、「リジリエンスを改善する」の表現は、PTSDに罹患す
ることなく、またはイベント後の総体的症状もしくは日常生活の正常活動の混乱をより少なく抑えて心的外傷イベントを経験することができる患者の能力を高めることを意味する。特定の実施形態では、リジリエンスを改善することにより、特定の実施形態では、PTSDの徴候、症状、または症状クラスターのうちの少なくとも1つを低減することができる。
【0026】
特定の実施形態では、再体験/侵入は、反復的で侵入的な心的外傷の想起、心的外傷イベントの反復的で苦痛な夢、心的外傷イベントが再び起こっているかのように行動したり感じたりすること、心的外傷を思い出させるきっかけに暴露された場合の苦痛、および心的外傷を思い出させるきっかけに暴露された場合の生理学的反応性のうちの少なくとも1つを含む。
【0027】
特定の実施形態では、生理学的反応性は、異常な呼吸、異常な心拍数、異常な血圧、少なくとも1つの特殊感覚の異常な機能、および少なくとも1つの感覚器官の異常な機能のうちの少なくとも1つを含む。
【0028】
特定の実施形態では、少なくとも1つの特殊感覚は、視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚、および感覚から選択される。特定の実施形態では、少なくとも1つの感覚器官は、眼、耳、皮膚、鼻、舌、および咽頭から選択される。
【0029】
特定の実施形態では、回避/麻痺は、心的外傷と関連した思考または感情を回避しようとする努力、活動または状況を回避しようとする努力、心的外傷または心的外傷の側面の想起不能、重要な活動への関心の著しい減退、他の人から孤立している、または疎遠になっているという感覚、感情の範囲の縮小、未来が短縮した感覚、社会的不安、および不慣れな環境に伴う不安のうちの少なくとも1つを含む。
【0030】
特定の実施形態では、過覚醒は、入眠または睡眠維持の困難、いらだたしさまたは怒りの爆発、集中困難、過度の警戒心、過剰な驚愕反応、および脅威となり得る刺激からの不安のうちの少なくとも1つを含む。
【0031】
特定の実施形態では、単離されたマイコバクテリアは、脅威となり得る刺激に対して適切に、および迅速に反応する患者の身体的能力を低下させない。
【0032】
特定の実施形態では、単離されたマイコバクテリアは、記憶の想起および夢に伴うストレスを低減することにより、睡眠維持の困難を軽減する。
【0033】
特定の実施形態では、患者は、小児または青年である。
【0034】
特定の実施形態では、単離されたマイコバクテリアは、患者におけるPTSDの少なくとも1つの徴候または症状を予防するものであり、ここで、徴候または症状は、混乱または動揺した行動、痛みの知覚および痛みの許容度の問題、頭痛、入眠または睡眠維持の困難、心的外傷の側面を表現する遊びの繰り返し、はっきりとした内容のない恐ろしい夢、および心的外傷特異的なことの再演から選択される。
【0035】
特定の実施形態では、単離されたマイコバクテリアは、患者における、薬物乱用、アルコール乱用、および鬱病から選択されるPTSDと同時に罹患する少なくとも1つの障害の発生を低減する。
【0036】
特定の実施形態では、単離されたマイコバクテリアは、心的外傷イベントの前、または直後に患者に投与される。
【0037】
特定の実施形態では、単離されたマイコバクテリアは、PTSD臨床診断面接尺度(CAPS)、PTSD臨床診断面接尺度パート2(CAPS‐2)、児童思春期用PTSD臨床診断面接尺度(CAPS‐CA)、出来事インパクト尺度(IES)、改訂出来事インパクト尺度(IES‐R)、臨床全般印象尺度(CGI)、臨床全般印象疾患重症度尺度(CGI‐S)、臨床全般印象改善度尺度(CGI‐I)、PTSD用デューク全般評価尺度(DGRP)、PTSD用デューク全般評価改善度尺度(DGRP‐I)、ハミルトン不安尺度(HAM‐A)、PTSD用構造化面接法(SI‐PTSD)、PTSD面接法(PTSD‐I)、PTSD症状尺度(PSS‐I)、精神疾患簡易構造化面接法(MINI)、モンゴメリー‐アスベルグ鬱病評価尺度(MADRS)、ベック鬱病調査票(BDI)、ハミルトン鬱病尺度(HAM‐D)、改訂ハミルトン鬱病評価尺度(RHRSD)、大鬱病調査票(MDI)、老年期鬱病尺度(GDS‐30)、および小児用鬱病指標(CDI)のうちの少なくとも1つによって診断または評価される少なくとも1つのPTSDの徴候、症状、または症状クラスターのうちの少なくとも1つの発生を低減する。
【0038】
特定の実施形態では、単離されたマイコバクテリアは、CAPS、CAPS‐2、CAPS‐CA、IES、IES‐R、CGI、CGI‐S、CGI‐I、DGRP、DGRP‐I、HAM‐A、SI‐PTSD、PTSD‐I、PSS‐I、MADRS、BDI、HAM‐D、RHRSD、MDI、GDS‐30、およびCDIのうちの少なくとも1つに対するスコアを有意に変化、または減少させる。
【0039】
特定の実施形態では、単離されたマイコバクテリアは、CAPS、CAPS‐2、IES、IES‐R、およびHAMAのうちの少なくとも1つに対して、ベースラインスコアと比較して終点スコアを有意に減少させる。特定の実施形態では、単離されたマイコバクテリアは、1(非常に良く改善した)および2(良く改善した)のうちの少なくとも1つのCGI‐Iスコアを有するCGI‐Iに対する応答者の割合を有意に増加させる。特定の実施形態では、単離されたマイコバクテリアは、1(非常に良く改善した)および2(良く改善した)のうちの少なくとも1つのDGRP‐Iスコアを有するDGRP‐Iに対する応答者の割合を増加させる。
【0040】
特定の実施形態では、CAPSおよびCAPS‐2のうちの少なくとも1つに対する全体スコアが65以下である場合、PTSDの予防を示す。
【0041】
特定の実施形態では、HAM‐Aに対する全体スコアが18以下である場合、不安障害の予防を示す。
【0042】
特定の実施形態では、CGI‐IおよびDGRP‐Iのうちの少なくとも1つに対するスコアが3以下である場合、PTSDの予防を示す。
【0043】
さらなる実施形態では、単離されたマイコバクテリアは、PTSDに付随する低度の炎症を予防および/または低減する。そのような低度の炎症は、3mg/リットルを超えるなどのC反応性タンパク質の血清中レベルの上昇によって示され得る。
【0044】
なおさらなる実施形態では、単離されたマイコバクテリアは、結腸または胃腸管のその他の部分など、PTSDおよび/または付随する炎症に伴う組織学的損傷の発生を予防および/または低減する。
【0045】
1つの実施形態では、本明細書で定める投与は、複数のアリコートおよび/または用量および/または別々の機会での単離されたマイコバクテリアの投与を含む。好ましくは、
単離されたマイコバクテリアは、心的外傷イベントが発生する前に投与され、その後も、継続して患者に投与される。より好ましくは、単離されたマイコバクテリアは、心的外傷イベントが発生した後に、継続して投与される。
【0046】
本発明の1つの態様では、単離されたマイコバクテリアは、加熱死滅マイコバクテリアを含む。本発明での使用に好ましいマイコバクテリア種としては、M.バッカエ(M. vaccae)、M.テルモレジスティビレ(M. thermoresistibile)、M.フラベセンス(M. flavescens)、M.デュバリ(M. duvalii)、M.フレイ(M. phlei)、M.オブエンセ(M. obuense)、M.パラホルツイツム(M. parafortuitum)、M.スファグニ(M. sphagni)、M.アイチエンセ(M. aichiense)、M.ロデシアエ(M. rhodesiae)、M.ネオアウルム(M. neoaurum)、M.チュブエンセ(M. chubuense)、M.トカイエンセ(M. tokaiense)、M.コモセンセ(M. komossense)、M.アウルム(M. aurum)、M.インディクスプラニ(M. indicus pranii)、M.ツベルクロシス(M. tuberculosis)、M.ミクロチ(M. microti);M.アフリカヌム(M. africanum);M.カンサシ(M. kansasii)、M.マリヌム(M. marinum);M.シミアエ(M. simiae);M.ガストリ(M. gastri);M.ノンクロモゲニクム(M. nonchromogenicum);M.テラエ(M. terrae);M.トリビアレ(M. triviale);M.ゴルドナエ(M. gordonae);M.スクロフラセウム(M. scrofulaceum);M.パラフィニクム(M. paraffinicum);M.イントラセルラレ(M. intracellulare);M.アビウム(M. avium);M.ゼノピ(M. xenopi);M.ウルセランス(M. ulcerans);M.ジエルンホフェリ(M. diernhoferi);M.スメグマチス(M. smegmatis);M.タムノフェオス(M. thamnopheos);M.フラベセンス(M. flavescens);M.ホルツイツム(M. fortuitum);M.ペレグリヌム(M. peregrinum);M.チェロネイ(M. chelonei);M.パラツベルクロシス(M. paratuberculosis);M.レプラエ(M. leprae);M.レプラエムリウム(M. lepraemurium)、およびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0047】
好ましくは、加熱死滅マイコバクテリアは、非病原性である。非病原性加熱死滅マイコバクテリアは、好ましくは、M.バッカエ、M.オブエンセ、M.パラホルツイツム、M.アウルム、M.インディクスプラニ、M.フレイ、およびこれらの組み合わせから選択される。より好ましくは、非病原性加熱死滅マイコバクテリアは、ラフ型変異体である。患者に投与される単離されたマイコバクテリアの量は、患者におけるPTSDの少なくとも1つの徴候または症状が予防されるように、患者での保護免疫応答を引き起こすのに充分な量であり、ここで、徴候または症状は、混乱または動揺した行動、痛みの知覚および痛みの許容度の問題、頭痛、入眠または睡眠維持の困難、心的外傷の側面を表現する遊びの繰り返し、はっきりとした内容のない恐ろしい夢、および心的外傷特異的なことの再演から選択される。好ましくは、単離されたマイコバクテリアの有効量の投与は、患者におけるPTSDの少なくとも1つの症状クラスターを予防するものであり、ここで、症状クラスターは、再体験/侵入、回避/麻痺、および過覚醒から選択される。
【0048】
本発明の特定の実施形態では、単離されたマイコバクテリアの特定の用量が対象に投与されることが好ましい。従って、本発明の特定の実施形態では、本発明での使用のための有効量の加熱死滅マイコバクテリアを含む封入手段が提供され、それは、通常、単位用量あたり、103から1011個の生物、好ましくは、104から1010個の生物、より好ましくは、106から1010個の生物、さらにより好ましくは、106から109個の生物であってよい。本発明での使用のための加熱死滅マイコバクテリアの有効量は、103から1011個の生物、好ましくは、104から1010個の生物、より好ましくは、106から1010個の生物、さらにより好ましくは、106から109個の生物であってよい。最も好ましくは、本発明での使用のための加熱死滅マイコバクテリアの量は、107から109個の細胞または生物である。通常、本発明に従う組成物は、ヒトおよび動物への使用の場合、108から109個の細胞の用量で投与されてよい。別の選択肢として、用量は、懸濁液また
は乾燥製剤として提供される0.01mgから1mg、または0.1mgから1mgの生物である。
【0049】
1つの実施形態では、心的外傷イベントへの暴露後において、IL‐6などの炎症性サイトカインの患者レベルの上昇を軽減するために患者に投与するための単離されたマイコバクテリアが提供される。
【0050】
別の実施形態では、IL‐6、またはIL‐1β、またはIL‐8、またはTNF‐アルファ、またはMCP‐1などの炎症性サイトカインの患者レベルが心的外傷イベントへの暴露後に上昇することを予防するために患者に投与するための単離されたマイコバクテリアが提供される。マイコバクテリアは、心的外傷イベントへの暴露後におけるIL‐6、またはIL‐1β、またはIL‐8、TNF‐アルファ、またはMCP‐1の患者レベルの上昇を低減する。
【0051】
別の実施形態では、C‐反応性タンパク質および可溶性CD‐40の患者レベルが心的外傷イベントへの暴露後に低下することを予防するために患者に投与するための単離されたマイコバクテリアが提供される。
【0052】
さらなる実施形態では、単離されたマイコバクテリアは、免疫調節効果をもたらし、ここで、対象の血漿中に存在する炎症性サイトカインの制御性サイトカインに対する比率は、それぞれ約1未満に維持される。そのような炎症性サイトカインとしては、IL‐6、TNF、およびインターフェロン‐ガンマなどが挙げられ、一方制御性サイトカインとしては、IL‐10およびTGF‐ベータなどが挙げられる。
【0053】
本明細書全体を通して用いられる場合の「組み合わせ」の用語は、同じまたは別々の医薬製剤による、および同時または異なる時間における治療剤の投与を包含することを意図している。従って、単離されたマイコバクテリアおよび医薬剤は、同時にまたは異なる時間に投与するために、別々の医薬品として提供されてよい。好ましくは、単離されたマイコバクテリアおよび医薬剤は、異なる時間に投与するために、別々の医薬品として提供される。異なる時間に、別々に投与される場合、単離されたマイコバクテリアまたは医薬剤のいずれが先に投与されてもよいが;単離されたマイコバクテリアが投与され、続いて医薬剤が投与されることが好ましい。加えて、両方の薬物が、同じ日または異なる日に投与されてよく、治療サイクルの間、同じスケジュールまたは異なるスケジュールを用いて投与されてよい。
【0054】
好ましくは、単離されたマイコバクテリアは、予期されるいかなる心的外傷イベントよりも前に患者に投与される。
【0055】
個々の患者の治療に対する許容度に応じて、投与の遅延および/または投与の減少、ならびにスケジュールの調整が必要に応じて実施される。
【0056】
予期されるいかなる心的外傷イベントよりも前に、マイコバクテリアの有効量が、複数の(反復)用量で投与されてよく、例えば、約2週間、または約4週間、または約8週間の間隔での、2回以上、3回以上、4回以上、5回以上、10回以上、または20回以上の反復用量である。
【0057】
単離されたマイコバクテリアは、非経口、経口、舌下、経鼻、または経肺経路を介して患者に投与されてよい。好ましい実施形態では、単離されたマイコバクテリアは、皮下、皮内、真皮下、腹腔内、静脈内、および小胞内注射から選択される非経口経路を介して投与される。より好ましくは、非経口経路による投与は、マイコバクテリア細胞壁抽出物の
注射を含まない。
【0058】
別の好ましい実施形態では、単離されたマイコバクテリアは、経口投与され、懸濁液、錠剤などによる投与を含む。液体製剤は、凍結乾燥またはエアロゾル化されたマイクロカプセルの吸入によって投与することも可能である。追加の医薬媒体を用いて、製剤の作用継続時間を制御することも可能である。それらは、コロイド薬物送達系(例えば、リポソーム、アルブミンマイクロカプセル、マイクロエマルジョン、ナノ粒子、およびナノカプセル)において、コアセルベーション技術により、もしくは界面重合(ヒドロキシメチルセルロース、またはゼラチンマイクロカプセル)により作製されたマイクロカプセル中に、またはマイクロエマルジョン中に封入することが可能である。賦形剤、例えば、塩、種々の増量剤、追加の緩衝剤、キレート化剤、抗酸化剤、共溶媒などが、最終製剤中に含まれてよい。
【0059】
本実施形態に従う適切な投与スケジュールは、単離されたマイコバクテリアの投与、それに続く2週間後の前記単離されたマイコバクテリアのさらなる投与、および続けて2週間毎の投与をさらに3回、続いて治療を行わない4週間を含む。その後、患者は、最初の投与を受けてから12ヶ月間まで、またはそれより長い期間にわたって、4週間毎に単離されたマイコバクテリアを受けてよい。別の選択肢として、投与は、予備刺激または最初の用量に続く毎週の投与を含んでもよい。
【0060】
予期される心的外傷イベントに暴露されることになる患者は、本発明によると、単離されたマイコバクテリアの投与と同時に、別々に、または順次に暴露されてよい。好ましくは、単離されたマイコバクテリアは、予期される心的外傷イベントの前に患者に投与される。より具体的には、単離されたマイコバクテリアは、何らかの予期される心的外傷イベントの約4週間から1週間前に、患者に投与されてよい。好ましくは、単離されたマイコバクテリアは、各々が単離されたマイコバクテリアの有効量を含有する1つ以上のアリコートとして投与されてよく、それらは、何らかの予期される心的外傷イベントの4週間から1週間前に、1回以上の間隔を空けて投与されてよい。さらにより好ましくは、単離されたマイコバクテリアは、何らかの予期される心的外傷イベントの4週間から1週間前に1回以上の間隔を空けて投与されてよい、各々が単離されたマイコバクテリアの有効量を含有する1つ以上のアリコートとして投与されてよく、ならびに/または単離されたマイコバクテリアの投与は、何らかの予期される心的外傷イベントの前および/もしくは後に行われ、少なくとも約2、4、6、8、10、12、15、20、もしくはそれ以上の回数繰り返されてよい。
【0061】
本発明の1つの実施形態では、単離されたマイコバクテリアは、実施例で示される通りの剤形および/またはスケジュールで患者に投与される医薬の形態であってよい。
【0062】
本発明の態様では、単離されたマイコバクテリアの有効量は、単一の用量として投与されてよい。別の選択肢として、単離されたマイコバクテリアの有効量は、複数の(反復)用量として投与されてもよく、例えば、2回以上、3回以上、4回以上、5回以上、10回以上、または20回以上の反復用量である。好ましくは、単離されたマイコバクテリアは、予期される心的外傷イベントの約4週間から1日前に投与され、より好ましくは、約4週間から1週間、または約3週間から1週間、または約3週間から2週間前である。投与は、単一または複数の用量で与えられてよい。
【0063】
特定の状況では、本発明に従う容器は、バイアル、アンプル、シリンジ、カプセル、錠剤、またはチューブであってよい。ある場合では、単離されたマイコバクテリアは、凍結乾燥され、投与前に再懸濁されるように製剤されてよい。しかし、他の場合では、マイコバクテリアは、ある体積の薬理学的に許容される液体中に懸濁される。最も好ましい実施
形態のいくつかでは、薬理学的に許容されるキャリア中に懸濁されたマイコバクテリアの単一の単位用量を含む容器が提供され、ここで、単位用量は、約1×106から約1×1010個のマイコバクテリアを含む。いくつかの非常に具体的な実施形態では、懸濁されたマイコバクテリアを含む液体は、約0.1mLから10mL、または約0.5mLから2mLの体積で提供される。特定の状況では、封入手段によってマイコバクテリアを含む組成物は、凍結される(すなわち、約摂氏0℃未満に維持される)こともさらに理解される。前述の組成物は、本明細書で述べる用途にとって理想的である単位を提供する。
【0064】
本発明の方法および/または組成物に関連して考察する実施形態は、本明細書で述べるその他のいずれの方法または組成物に対して用いられてもよい。従って、1つの方法または組成物に関する実施形態は、本発明のその他の方法および組成物にも適用されてよい。
【0065】
ある場合では、弱毒化マイコバクテリアは、対象上または対象中の特定の部位に投与される。例えば、本発明に従うマイコバクテリア組成物は、リンパ節に隣接して投与されてよい。従って、特定の状況では、マイコバクテリア組成物の投与部位は、後頚部、扁桃腺、腋窩、鼠径部、前頚部、顎下、頤下、または鎖骨上(superclavicular)リンパ節の近くであってよい。そのような投与部位は、身体の右側、左側、または両側であってよい。特定の非常に具体的な実施形態では、マイコバクテリア組成物は、腋窩、頚部、および/または鼠径部リンパ節の近くに送達される。例えば、マイコバクテリアの用量は、右および左腋窩リンパ節、ならびに右および左鼠径部リンパ節に隣接する組織中に分配されてよい。
【0066】
非常に具体的な実施形態では、マイコバクテリアの用量は、皮内注射によって対象に投与され、ここで、用量は、身体の両側の腋窩および鼠径部に分配され、およびここで、各部位において2回の注射が行われる(すなわち、2つの注射跡(wheals))。
【0067】
本発明のさらなるある実施形態では、本発明の方法は、1日以上の期間を置いた2、3、4、5、6、7、8、9、10、またはそれ以上の回数のマイコバクテリアの用量の投与を含む。特定の好ましい実施形態では、そのような別々の用量は、数日間、1週間、2週間、1ヶ月間、またはそれ以上の間隔が空けられる。例えば、本発明に従う方法は、3週間以上にわたる1から5回のマイコバクテリアの用量の投与を含んでよい。なおさらなる実施形態では、本発明の方法は、約3週間の期間にわたる1から5回、1から4回、1から3回、1から2回、または2回のマイコバクテリアの用量の投与を含んでよい。投与される各用量は、それまでの、またはその後の用量の投与と比較して、同一の、または異なる用量であってよい。例えば、特定の場合では、マイコバクテリアの用量は、それまでに投与されたいずれの用量よりも低いことが好ましい。従って、ある具体的な場合では、マイコバクテリアの用量は、それまでのいずれの治療で投与された用量に対しても約半分で投与される。そのような方法は、マイコバクテリアに対する対象の免疫応答が、それに続く治療法の間において高められている特定の状況で好ましい場合がある。従って、特定の場合では、単離されたマイコバクテリアは、最小限の回数で投与されてよく、例えば、10、9、8、7、6、5、4、3回未満、またはそれより少ない回数の別々の用量の投与である。ある場合では、マイコバクテリア組成物は、2回投与される。
【0068】
本発明に従うマイコバクテリア組成物は、通常は薬理学的に許容されるキャリア中に分散された有効量のマイコバクテリアを含む。「薬理学的にまたは薬理的に許容される」の表現は、必要に応じて例えばヒトなどの動物に投与される場合に、有害、アレルギー性、またはその他の不都合な反応を発生させることのない分子要素および組成物を意味する。マイコバクテリアを含有する医薬組成物の作製は、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th Ed. Mack Printing Company, 1990の例示に従い、本開示に照らすことで、当業者であれば分かるであろう。さらに、動物(例:ヒト)への投与の場合、非経口製剤が、
無菌性、発熱性、一般的安全性、および純度の基準を満たすべきであることは理解される。本明細書で述べる薬理的に許容されるキャリアの具体例は、ホウ酸塩バッファー、または無菌生理食塩水溶液(0.9% NaCl)である。
【0069】
本明細書で用いられる場合、「薬理学的に許容されるキャリア」とは、当業者にとって公知であるように、あらゆる溶媒、分散媒、コーティング、界面活性剤、抗酸化剤、保存剤(例:抗菌剤、抗真菌剤)、等張剤、吸収遅延剤、塩、保存剤、薬物、薬物安定化剤、ゲル、バインダー、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、甘味剤、香味剤、染料などの物質、およびこれらの組み合わせが挙げられる(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th Ed. Mack Printing Company, 1990, pp. 1289-1329を参照)。
【0070】
好ましい実施形態では、単離されたマイコバクテリアは、皮下、皮内、真皮下、腹腔内、静脈内、小胞内注射から選択される非経口経路を介して、または経口で投与される。皮内注射により、マイコバクテリア組成物の全部分を、免疫監視を利用可能であり、従って局所リンパ節での適切な免疫応答を選択することができる真皮層に送達することができる。
【0071】
本発明について、以下の限定されない実施例を参照してさらに記載する。
【実施例】
【0072】
概要
PTSDで見られる行動的症状の一部をもたらす結果となるストレス性の状況下にマウスを置く実験モデルにおいて、M.バッカエでの前処理により、反応情動的コーピング行動(reactive emotional coping behaviours)が低減される。支配的で攻撃的な雄と共に集団に配置されたマウスは、直面するストレスを反映する行動を示す。このようなマウスは、例えば、服従的な直立姿勢の増加、および回避行動の増加を示す。M.バッカエでの処理により、これらの行動が低減され、実際には、記録を取ったいずれの時間点においても、支配的マウスに対する進取的行動のパーセントが増加した。PTSDの場合でも見られるであろう有害因子に直面した場合のこのようなコーピングストラテジーの改善はまた、不安関連行動および社会不安の他の試験でも観察された。実際、M.バッカエで処理したマウスは、不安関連行動の減少を示し、このことは、媒体で処理したマウスと比較して、迷路のオープンアームで過ごす時間が増加することで示された。M.バッカエでの処理はまた、社会的嗜好性/回避性試験において、社会的嗜好性の欠如も防止した。興味深いことに、脳トリプトファンヒドロキシラーゼ2のmRNA発現は、M.バッカエで予備免疫したマウスの吻側背側縫線核(rostral dorsal raphe nucleus)において有意に増加した。これは、脳のこの領域におけるドパミン作動性ニューロンが報酬経路と関連付けられていることから、有害因子に直面した場合のコーピングストラテジーにおいて妥当である。従って、M.バッカエ処理動物で良好な効果を期待することが可能であり、従って、この偏りが、有害な結果のストレスを減少させる。
【0073】
同様に、PTSDに伴う炎症性応答をさらに悪化させるマウスモデルにおいて、M.バッカエで処理したマウスは、炎症性および抗炎症性応答の間のバランスの改善を示し、それは、DSS誘発性大腸炎の間に、媒体処理マウスと比較して、それぞれ、IL‐6のレベルの減少およびIL‐10のレベルの増加によって示された。
【0074】
物質および方法
動物
4〜5匹のマウスのグループでポリカーボネートケージ(W×L×D:27cm×15cm×42cm)中に収容したC57BL/6雄マウス(19〜22g)を、M.バッカエまたは媒体(VEH)コントロールで処理した。簡潔に述べると、マウスに、M.バッ
カエを[n=48;0.1mg ホールセル加熱死滅M.バッカエ(NCTC11659)を懸濁した10mg/mL溶液を、100μL滅菌ホウ酸塩緩衝生理食塩水(BSS)中に1mg/mLに希釈]またはVEHを(n=48;100μLのBBS)、第−21日、第−14日、および第−7日に皮下注射した。最後の注射後、マウスを、ポリカーボネートケージ(W×L×D:21cm×14cm×27cm)中に、個別に1週間収容し、その後評価を開始した。すべての実験プロトコルは、地方自治体の動物健康管理委員会(Committee on Animal Health and Care)による承認を受け、動物の倫理的使用に関する国際ガイドラインに従って実施した。
【0075】
慢性的従属集団飼育(CSC)パラダイム(Chronic subordinate colony housing (CSC)
paradigm)
既に報告されているように1,2、慢性的精神的ストレスを誘発するために、4匹の実験用CSCマウスを、より大きい1匹の支配雄(30〜35g;高不安関連行動の雌とC57BL/6の雄との交配から得た)と一緒に連続する19日間飼育した。慢性的有害因子への暴露の過程での馴化を避けるために、第8日および第15日の10:00時に、より大きい雄の各々を新たなより大きい雄に交換した。簡潔に述べると、マウスは、標準的な実験室条件下(12時間の明/暗サイクル、06:00時に点灯、22℃、湿度60%)、水道水および標準的なマウス用餌を自由に与えて飼育した。すべてのマウス(CSC M.バッカエ処理およびVEH処理、ならびに支配雄)の行動を、第1日、第8日、および第15日の午前中に1時間記録した(10:00時〜11:00時;CSC集団の形成直後)。反発行動を、進取情動的コーピング行動(proactive emotional coping behaviours)(攻撃、追跡、およびマウンティング)および反応情動的コーピング行動(逃亡、回避、防御的直立行動、攻撃を受けた、およびマウンティングを受けた)という面で分析した。
【0076】
社会的嗜好性/回避性試験(SPAT)
M.バッカエ処理の社会的嗜好性/回避性行動に対する効果を、SPAT試験で特定した。すべての実験用マウス(VEH‐SHC;VEH‐CSC;M.バッカエ‐SHC;M.バッカエ‐CSC)を、第21日の07:00時〜12:00時の間に、既に報告されている3,4SPAT試験で試験した。簡潔に述べると、個々のマウスをSPATボックス(W×L×D:27cm×45cm×27cm;光強度:10〜40ルクス)中に30秒間配置して馴化させ、その後、小さい空のワイヤメッシュケージ(W×L×D:6.5cm×10cm×5cm)を150秒間導入した。次に、空のケージを取り出し、未知の雄マウスを入れた同一のケージをさらに150秒間導入した。移動した合計距離、およびワイヤメッシュケージ周囲の8cm幅のコンタクトゾーンで過ごした合計時間を記録した。新規の物体に暴露された間の行動から、全般的な不安の指標が得られる。未知のマウスに暴露された間の行動から、社会的回避の指標が得られる。
【0077】
高架式十字迷路(EPM)試験
SPAT試験の完了後、M.バッカエ処理の不安関連行動に対する効果を、EPM試験で評価した。すべての実験用マウス(VEH‐SHC;VEH‐CSC;M.バッカエ‐SHC;M.バッカエ‐CSC)を、既に報告されているように、オープンアームを130ルクス、クローズアームを30ルクスとした迷路により、第22日の07:00時〜12:00時の間に、EPM試験に5分間暴露した。床から130cmの高架とした迷路は、十字型形状を形成する中央プラットフォーム(6cm×6cm)から半径方向に延びる2つのオープンアームおよび2つのクローズアーム(各々6cm×30cm)から成る。個々のマウスは、各々クローズアームに向けて中央プラットフォームに配置した。オープンおよびクローズアームで過ごした時間を記録した。迷路のクローズアームに入った回数を、自発運動活性の指標とした。
【0078】
DSS大腸炎の誘発および重篤度の評価
EPM試験の終了後、既に報告されているように4,5、第22日から開始して1週間、すべての実験用マウス(VEH‐SHC;VEH‐CSC;M.バッカエ‐SHC;M.バッカエ‐CSC)に、飲料水中1%デキストラン硫酸ナトリウムを与え、第29日の08:00時〜11:00時の間に、大腸炎重篤度の評価のために屠殺した。簡潔に述べると、すべての実験用マウスの結腸を取り出し、洗浄し、組織学的損傷スコアを特定した。腸間膜リンパ節細胞を採取し、サイトカイン分泌測定のために、刺激培養した。
【0079】
M.バッカエでの処理により、有害因子に直面した場合のコーピング行動が改善される
CSCおよびSHCマウス、M.バッカエおよびVEH処理マウスにおける全般的および社会的不安に対するM.バッカエ処理の効果を特定した。M.バッカエでの処理により、服従および回避行動が低減される。特に、対比較から、第1日において、M.バッカエ処理マウスは、VEH処理マウスと比較して、有意に少ない回数の服従的直立姿勢を見せ、有意に少ない回数の攻撃を受け、および少ない回数の逃亡行動を見せることが明らかとなった(p<0.001;p<0.001;p=0.005)。さらに、対比較から、第1日(p=0.023)および第15日(p=0.011)において、M.バッカエ処理マウスは、VEH処理マウスと比較して、有意に少ない回数の回避行動を見せることが示された。対比較から、第15日において、M.バッカエ処理マウスは、VEH処理マウスと比較して、有意に少ない回数のマウンティングを受けたが(p=0.019)、第1日または第8日ではそうではなかったことが明らかとなった。進取的行動を示すM.バッカエ処理マウスのパーセントは、VEH処理マウスのパーセントと比較して、有意に高かった(83%対35%;p=0.001;図1A)。さらに、総支配性インデックスを算出すると(反応的行動から進取的行動を差し引く)、M.バッカエ処理マウスは、有意に増加した総支配性インデックスを示した(p=0.005;図1B)。
【0080】
社会的嗜好性/回避性試験(SPAT)
コンタクトゾーンで過ごした時間は、刺激(小ワイヤメッシュケージ中のマウス)の存在に有意に依存していた(p<0.001;図2)。事後分析により、非社会的コンタクトゾーン(ケージ内にマウスなし)と比較して、社会的コンタクトゾーン(ケージ内にマウスあり)で過ごした時間は、VEH‐SHC(p=0.004)およびM.バッカエ‐CSC(p=0.002)グループにおいて有意に増加しており、M.バッカエ‐SHCグループ(p=0.064)では有意差を示す傾向にあることが明らかとなった。この効果は、VEH‐CSCグループでは見られなかった。このことは、M.バッカエでの処理により、CSC誘発性の社会的嗜好性の欠落が予防されることを示している。重要なことには、総移動距離は、すべての処理グループで同等であった。
【0081】
高架式十字迷路(EPM)試験
統計分析により、M.バッカエ処理CSCマウスのオープンアームで過ごした時間のパーセントは、対応するSHCマウスと比較して、有意に増加していることが明らかとなった(p=0.002;図3)。このことは、M.バッカエでの処理が、抗不安特性を有することを示している。
【0082】
M.バッカエの予備免疫は、DSS誘発性大腸炎のCSC誘発性増悪を改善した
DSS誘発性大腸炎のCSC誘発性増悪に対するM.バッカエ予備免疫の効果を特定した(図4)。SHC暴露と比較してCSC暴露は、VEH処理マウスにおいて組織学的損傷スコアを悪化させた(p=0.041)。M.バッカエ処理により、損傷スコアの増加が予防された(図4B)。さらに、M.バッカエ処理により、炎症促進性サイトカインIFN‐γ(p=0.014;図4D)およびIL‐6(p=0.001;図4E)分泌のCSC誘発性の増加も予防された。さらに、M.バッカエ処理CSCマウスは、対応するSHCマウスと比較して、より高い濃度のIL‐10を分泌し(p=0.036;図4F
)、この効果は、VEH処理マウスでは見られなかった。
【0083】
参考文献
1.Reber SO, Birkeneder L, Veenema AH, Obermeier F, Falk W, Straub RH, Neumann ID. Adrenal insufficiency and colonic inflammation after a novel chronic psycho-social stress paradigm in mice: implications and mechanisms. Endocrinology 2007;148:670-82
2.Schmidt D, Reber SO, Botteron C, Barth T, Peterlik D, Uschold N, Mannel DN, Lechner A. Chronic psychosocial stress promotes systemic immune activation and the development of inflammatory Th cell responses. Brain, Behavior and Immunity 2010;24:1097-1104
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5.Reber SO, Obermeier F, Straub RH, Veenema AH, Neumann ID. Aggravation of DSS-induced colitis after chronic subordinate colony (CSC) housing is partially mediated by adrenal mechanisms. Stress 2008;11:225-234
図1
図2
図3
図4
図5