特許第6087046号(P6087046)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6087046薄膜素子の転写方法及び回路基板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6087046
(24)【登録日】2017年2月10日
(45)【発行日】2017年3月1日
(54)【発明の名称】薄膜素子の転写方法及び回路基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/02 20060101AFI20170220BHJP
   H01L 27/12 20060101ALI20170220BHJP
   B23K 20/00 20060101ALI20170220BHJP
【FI】
   H01L27/12 B
   H01L21/02 B
   B23K20/00 350
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-44551(P2011-44551)
(22)【出願日】2011年3月1日
(65)【公開番号】特開2012-182331(P2012-182331A)
(43)【公開日】2012年9月20日
【審査請求日】2014年2月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090413
【弁理士】
【氏名又は名称】梶原 康稔
(72)【発明者】
【氏名】近藤 龍一
(72)【発明者】
【氏名】太田 謙一
【審査官】 右田 勝則
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−247229(JP,A)
【文献】 特開2004−337927(JP,A)
【文献】 特開2002−171009(JP,A)
【文献】 特開2004−221570(JP,A)
【文献】 特開2003−162231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02
B23K 20/00
H01G 4/33
H01L 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MIM構造を有する薄膜素子を、支持基板側から転写基板側に転写する薄膜素子の転写方法であって、
支持基板上に層間絶縁層を介して形成されたMIM構造膜の表面に、絶縁膜を形成する工程と、
前記支持基板側の前記絶縁膜の表面と、前記転写基板側の表面の少なくとも一方の表面に、金属とSiからなる密着層を、10−6〜10−7Paオーダーの超高真空中で形成する工程と、
前記支持基板の前記MIM構造膜が形成された側の表面と、前記転写基板側の表面を、前記密着層を挟むように接触させ、荷重を掛けて接合する工程と、
前記支持基板と転写基板を離し、支持基板側から転写基板側へ前記MIM構造膜を転写する工程と、
を含んでおり、
前記密着層による密着力をFとし、前記支持基板上の前記層間絶縁層と前記MIM構造膜との界面の密着力をFとしたときに、前記密着層を形成するイオンビームの照射条件を変更して金属の量を増やすことで、前記Fを増大してF>Fとすることで、前記剥離・転写を可能としたことを特徴とする薄膜素子の転写方法。
【請求項2】
前記転写基板側にも密着層を形成する場合には、前記転写基板上にSi膜を形成した後に、該Si膜上に前記密着層を形成することを特徴とする請求項1記載の薄膜素子の転写方法。
【請求項3】
前記支持基板が耐熱性基板であり、
前記転写基板が非耐熱性基板であるとともに、
前記MIM構造膜が、高誘電率の誘電体薄膜を上部電極と下部電極で挟んだ構造であることを特徴とする請求項1又は2記載の薄膜素子の転写方法。
【請求項4】
前記支持基板上の前記層間絶縁層がBST膜であり、
水素プラズマ処理もしくは水素インプランテーション処理を行うことで、前記BST膜と前記MIM構造膜との密着力Fを低下させる工程を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の薄膜素子の転写方法。
【請求項5】
前記支持基板上に絶縁層を形成するとともに、この絶縁層の表面をフッ素プラズマ処理して低誘電率の層間絶縁層を形成し、その上に前記MIM構造膜を形成することで、前記層間絶縁層と前記MIM構造膜との界面の密着力Fを低下させる工程を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の薄膜素子の転写方法。
【請求項6】
前記MIM構造膜と前記層間絶縁層の界面に、機械的な剥離起点を形成することで、前記層間絶縁層と前記MIM構造膜の密着力Fを低下させる工程を含むことを特徴とする請求項5記載の薄膜素子の転写方法。
【請求項7】
前記MIM構造膜の形成後かつ前記絶縁膜の形成前,あるいは、前記MIM構造膜の転写基板側への転写後に、前記MIM構造膜を加工してMIMキャパシタ構造を形成する工程,
を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の薄膜素子の転写方法。
【請求項8】
転写基板上に、請求項1〜7のいずれかの方法によって、前記密着層を介して薄膜素子を転写する工程を含むことを特徴とする回路基板の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持基板上に形成された薄膜キャパシタなどを転写基板側へ転写する薄膜素子の転写方法と、転写された薄膜素子を備えた回路基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
IC及びキャパシタやインダクタなどから構成される複合モジュールや受動素子は、携帯電話などに代表される移動体通信機器等に用いるために、低背化が求められている。モジュールの低背化のため、例えば、プリント基板や樹脂基板上へ高容量な薄膜キャパシタを形成する手法が求められている。ポリイミドやTSVを有するSiインターポーザなどの非耐熱性基板上に薄膜キャパシタ素子を形成するためには、基板の耐熱温度以下の温度で薄膜キャパシタを形成する必要があり、低温で高誘電率な薄膜キャパシタを形成する手法が検討されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1の薄膜誘電体とそれを用いた多層配線板とその製造方法には、誘電率が25以上で膜厚が1.5μm以下であることを特徴とし、有機樹脂に無機充填剤が分散してなることを特徴とする薄膜誘電体が開示されている。また、下記特許文献2の(Ba,Sr)TiO薄膜コンデンサおよびその製造方法には、(Ba,Sr)TiO主成分に対し、0.1〜10mol%のSi成分からなる組成の有機金属化合物溶液を基板に塗布し、400℃程度の低温でも焼結性の高い薄膜コンデンサを製造できることが開示されている。しかしながら、特許文献1及び2のいずれの技術においても、キャパシタの成膜温度に制限があるために、高容量な薄膜キャパシタを形成することはできない。
【0004】
一方、高容量な薄膜キャパシタを形成するには、Si基板などの耐熱性基板を用いて、600℃以上の成膜温度,熱処理工程によって誘電体薄膜を形成する方法もある。このような高温成膜手法は、ポリイミドやエポキシ樹脂,TSV(Si貫通電極)基板などの非耐熱性基板では、上記熱処理により基板へのダメージが残るため適用が困難であった。そこで、Si基板などの耐熱性基板に形成した高誘電材料からなる薄膜キャパシタを、低温プロセスで異種基板上に転写する様々な方法が検討されている。例えば、Si基板上に形成した薄膜キャパシタを機械的に剥離して、樹脂などの介在層(接着層)を用いて異種基板上へ転写する試みがなされている。
【0005】
例えば、下記特許文献3には、誘電体膜を形成する耐熱性基板上の下地電極にあらかじめ剥離性の高い積層構造SiO/Ptの界面構造(通常SiO/Pt界面では密着性を得るためにTiあるいはTiOを有する構造)を導入しておいて転写することにより、低コストで高誘電率を有し、しかも所要の場所に無駄なく形成することのできる誘電体構造体及びその製造方法を提供することが開示されている。また、下記特許文献4の機能性薄膜の転写方法には、金属窒化物層を含む分離層を用いた基板を用いることで、機能性薄膜構造と分離層の界面で容易かつ完全に剥離させ、欠陥の少ない機能性薄膜を得る方法が開示されている。更に、下記特許文献5には、レーザーリフトオフ工程を利用した転写工程を改善することによって、薄膜キャパシタのための誘電体膜の損傷を最少化することができる薄膜キャパシタの内蔵型配線基板を提供することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−111400号公報
【特許文献2】特開平9−148538号公報
【特許文献3】特開2008−4572号公報
【特許文献4】特開2002−305334号公報
【特許文献5】特開2008−166757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した背景技術には次のような不都合がある。まず、前記特許文献3に記載の技術では、剥離する界面(SiO/Pt)の密着性を制御するために、下部Pt電極を厚膜化する必要があるとされており、作製コストの増大を引き起こすという不都合がある。また、前記特許文献4に記載の技術では、金属窒化物層を除去する工程において、素子へのダメージが懸念される。また、特許文献5では、レーザー照射により基板と薄膜層を分離するため、基板が、レーザーを透過する材料に限定され、従来のSi基板に形成するプロセスが適用できないという不都合がある。
【0008】
本発明は、以上のような点に着目したもので、支持基板上に形成されたMIM構造(下部電極/誘電体層/上部電極)膜を、均一かつ低ダメージで剥離して、転写基板へ転写する薄膜素子の転写方法と、該方法によって転写された薄膜素子を基板上に有する回路基板の製造方法を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、MIM構造を有する薄膜素子を、支持基板から転写基板に転写する薄膜素子の転写方法であって、支持基板上に層間絶縁層を介して形成されたMIM構造膜の表面に、絶縁膜を形成する工程と、前記支持基板側の前記絶縁膜の表面と、前記転写基板側の表面の少なくとも一方の表面に、金属とSiからなる密着層を、10−6〜10−7Paオーダーの超高真空中で形成する工程と、前記支持基板の前記MIM構造膜が形成された側の表面と、前記転写基板の表面を、前記密着層を挟むように接触させ、荷重を掛けて接合する工程と、前記支持基板と転写基板を離し、支持基板側から転写基板側へ前記MIM構造膜を転写する工程と、を含んでおり、前記密着層による密着力をFとし、前記支持基板上の前記層間絶縁層と前記MIM構造の界面の密着力をFとしたときに、前記密着層を形成するイオンビームの照射条件を変更して金属の量を増やすことで、前記Fを増大してF>Fとすることで、前記剥離・転写を可能としたことを特徴とする。
【0010】
主要な形態の一つは、前記転写基板側にも密着層を形成する場合には、前記転写基板上にSi膜を形成した後に、該Si膜上に前記密着層を形成することを特徴とする。他の形態は、前記支持基板が耐熱性基板であり、前記転写基板が非耐熱性基板であるとともに、前記MIM構造膜が、高誘電率の誘電体薄膜を上部電極と下部電極で挟んだ構造であることを特徴とする。更に他の形態は、前記支持基板上の前記層間絶縁層がBST膜であり、水素プラズマ処理もしくは水素インプランテーション処理を行うことで、前記BST膜と前記MIM構造膜との密着力Fを低下させる工程,もしくは、前記支持基板上に絶縁層を形成するとともに、この絶縁層の表面をフッ素プラズマ処理して低誘電率の層間絶縁層を形成し、その上に前記MIM構造膜を形成することで、前記層間絶縁層と前記MIM構造膜との界面の密着力Fを低下させる工程,あるいは、前記MIM構造膜と前記層間絶縁層の界面に、機械的な剥離起点を形成することで、前記層間絶縁層と前記MIM構造膜の密着力Fを低下させる工程を含むことを特徴とする。更に他の形態は、前記MIM構造膜の形成後かつ前記絶縁膜の形成前,あるいは、前記MIM構造膜の転写基板への転写後に、前記MIM構造膜を加工してMIMキャパシタ構造を形成する工程,を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明の回路基板の製造方法は、前記いずれかに記載の方法によって、前記転写基板上に、前記密着層を介して薄膜素子を転写する工程を含むことを特徴とする。本発明の前記及び他の目的,特徴,利点は、以下の詳細な説明及び添付図面から明瞭になろう。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、支持基板上に層間絶縁層を介して形成されたMIM構造膜側の絶縁膜の表面と、転写基板側の表面の少なくとも一方の表面に、超高真空中で金属とSiからなる密着層を形成し、前記支持基板の前記MIM構造膜が形成された側の表面と前記転写基板側の表面とを、前記密着層を挟んで接触させ、荷重を掛けて接合し、前記支持基板側から転写基板側へ、前記MIM構造膜を剥離・転写する。その際に、前記MIM構造膜と転写基板側との密着力Fを制御し、あるいは、必要に応じて、前記MIM構造膜と支持基板側との密着力Fも制御して、F>Fとすることとしたので、均一かつ低ダメージでMIM構造を有する薄膜素子を下地基板側から剥離し、転写基板側へ転写することができる。また、転写基板上に前記転写手法によって転写された薄膜素子を備えることで、回路基板の低背化も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】(A)は、本発明の実施例1の回路基板の積層構造を示す断面図,(B)は薄膜素子と支持基板の剥離界面と、薄膜素子と転写基板の接着界面を示す断面図である。
図2】前記実施例1による転写工程を示す断面図である。
図3】本発明の実施例2の転写工程を示す断面図である。
図4】前記実施例2におけるFeの表面組成と密着強度の関係を示す図である。
図5】本発明の実施例3の転写工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を、実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0015】
最初に、図1及び図2を参照しながら本発明の実施例1を説明する。図1(A)は、本実施例の回路基板の積層構造を示す断面図,図1(B)は薄膜素子と支持基板の剥離界面と、薄膜素子と転写基板の接着界面を示す断面図である。図2は、本実施例による薄膜素子の転写工程を示す断面図である。図1(A)に示すように、本実施例の回路基板10は、転写基板40上に、Si膜42及び密着層46を介して薄膜キャパシタ30が設けられた構造となっている。前記転写基板40は、例えば、ポリイミドなどの樹脂基板やTSVのような非耐熱性基板であり、密着層46としては、例えば、FeSiなどのように、金属とSiからなるものが用いられる。また、前記薄膜キャパシタ30は、電極層20,24の間に、高誘電率の誘電体層22が挟まれたMIM構造となっている。前記電極層20,24の材料としては、例えば、Ptや導電性薄膜(RuOやIrOなど)が用いられ、誘電体層22の材料としては、例えば、BaSrTiO,BaTiO,SrTiOなどが用いられる。また、図示の例では、前記薄膜キャパシタ30の表面は、絶縁性の保護膜48により覆われている。該保護膜48としては、例えば、SiO,SiN,Alなどが用いられる。前記薄膜キャパシタ30は、耐熱性を有する支持基板上に高温プロセスにより形成され、その後、前記転写基板40上に転写される。
【0016】
次に、図2(A)〜(G)を参照しながら、本実施例の転写工程を説明する。まず、図2(A)に示すように、支持基板12としてSi下地基板を用意し、該Si下地基板上に、熱酸化などによりSiO膜14を形成する。該SiO膜14は、支持基板12からの絶縁を得られる膜厚(例えば、200nm程度)が必要であるが、SiO膜14の表面の粗さが、後の工程で形成するMIM膜26の密着性に与える影響を考慮すると、表面粗さは小さいほうが望ましい。次に、前記SiO膜14上に、TiO層15,電極層16,層間絶縁層18,電極層20,誘電体層22,電極層24の順で積層するように、スパッタリングにより各層を成膜する。前記電極層20,誘電体層22,電極層24により、MIM膜26が形成されている。本実施例では、前記電極層16,20,2としては、例えば、Ptが用いられ、層間絶縁層18としては、例えば、BSTが用いられ、誘電体層22としては、例えば、Mn−BSTが用いられる。更に、前記MIM膜26上に、絶縁層28として、SiN膜をCVDなどによって形成する。
【0017】
そして、前記絶縁層28の表面側から、水素プラズマ処理を行うか、あるいは、支持基板12の裏面側から水素インプランテーション(水素注入)処理を行うことで、図2(C)に矢印で示すPt/BST界面,すなわち、層間絶縁層18と電極層20の界面の密着性を低下させる。これは、本実施例において層間絶縁18として用いるBSTが水素に弱い性質を有することを利用したものであり、上記処理以外にも支持基板12側とMIM膜26側の界面の密着性を低下させることができる手法であれば、利用可能である。前記処理を施した後の図2(C)に示す構造に対して、テープ剥離試験を実施し、剥離後の支持基板12側の表面をXPSにより組成分析したところ、BST膜(層間絶縁18)表面であることが確認された。
【0018】
一方、前記支持基板12側とは別に、転写基板(例えば、Si基板,ガラス基板,サファイア基板)40上に、あらかじめスパッタなどによりSi膜42を形成しておき、該Si膜42表面と、前記支持基板12側の絶縁層28の表面のそれぞれに、図2(D)に示すように、密着層46A,46Bを形成する。これら密着層46A,46Bは、例えば、10−6〜10−7Paオーダーの超高真空中で、イオンビームを照射してFeSiのナノ密着層を形成することにより形成される。該密着層46A,46Bは、MIM膜26と転写基板40との密着性が高い状態を形成するためのもので、イオンビームの照射条件により、MIM膜26側の絶縁層28と、転写基板40側のSi膜42の密着力F図1(B)参照)の制御が可能である。例えば、前記支持基板12側の層間絶縁18と電極層20(ないしMIM膜26)との界面の密着力をF図1(B)参照)としたときに、F>Fとなるように、イオンビームの照射条件を変更することにより、支持基板12側からMIM膜26が剥離し、転写基板40側へ転写される。
【0019】
次に、図2(E)に示すように、支持基板12側の密着層46Bと、転写基板40側の密着層46Aが接触するように、両基板を合わせて、真空中で荷重を掛けて接合する。上述したように、F>Fを満たすように層間の密着力が制御されているため、転写基板40と支持基板12を離すと、MIM膜26は、支持基板12から剥離し、転写基板40側へ転写される(図2(F))。図2(F)は、図2(E)までと上下を反転して示している。転写後の転写基板40とMIM膜26は、Si化合物/Si層(中間層であるSi膜42と密着層46)で接合されていると考えられる。このとき、剥離されたMIM膜26の電極層20上に、層間絶縁層18が残っている場合には、必要に応じて適宜手段で除去する。そして、前記MIM膜26の電極層20(上部電極),誘電体層22,電極層24(下部電極)を、例えば、RIEなどのドライエッチングにより加工することによって、図2(G)に示すようなMIMキャパシタ30が形成される。該MIMキャパシタ30は、転写基板40上に、Si膜42及び密着層46を介して接合された状態である。そして、必要に応じてMIMキャパシタ30の上部に図示しない配線を形成して回路と接続し、前記保護膜48を適宜形成することで、本実施例の回路基板10が得られる。
【0020】
このように、実施例1によれば、支持基板12のMIM膜26上の絶縁層28の表面と、転写基板40上に形成されたSi膜42の表面のそれぞれに、超高真空中で金属とSiからなる密着層46A、46Bを形成し、前記支持基板12と転写基板40とを、それぞれの密着層46A,46Bを接触させて荷重を掛けて接合し、前記支持基板12側から転写基板40側へ、前記MIM膜26を剥離・転写する。その際、あらかじめ前記MIM膜26と転写基板側との密着力Fを制御するとともに、前記MIM膜26と支持基板12側との密着力Fを低下させる処理を行うことで、F>Fを満たすこととしたため、次のような効果が得られる。
(1)均一かつ低ダメージで、転写基板40へMIM構造を有する薄膜素子(薄膜キャパシタ30)を転写することができる。
(2)非耐熱性基板である転写基板40上に、高温プロセスを用いることなく、高容量な薄膜キャパシタ30を転写することができるため、回路の小型化,低背化を図ることができる。
(3)支持基板12上に形成された素子の特性を保持したまま、非耐熱性基板である転写基板40上へMIM膜26を転写できる。
(4)MIM膜26を剥離した後の支持基板12の再利用が可能となるため、省資源化及び低コスト化につながる。
【実施例2】
【0021】
次に、図3及び図4を参照しながら本発明の実施例2を説明する。図3は、本実施例の転写工程を示す断面図,図4は、本実施例におけるFeの表面組成と密着強度の関係を示す図である。なお、上述した実施例1と同一ないし対応する構成要素には同一の符号を用いることとする(以下の実施例についても同様)。本実施例の回路基板50は、図3(G)に示すように、前記実施例1の回路基板10と構造は同じであり、転写工程のみが異なっている。上述した実施例1では、MIM膜26と転写基板40側との密着力Fと、MIM膜26と下地基板12側との密着力Fの双方を制御することで、MIM膜26の剥離及び転写を均一かつ低ダメージで行うこととしたが、本実施例は、主に、前記密着力Fの制御によりMIM膜26の剥離・転写を行うこととした例である。
【0022】
まず、図3(A)に示すように、支持基板12として下地Si基板を用意し、該Si下地基板上に、熱酸化などにより、絶縁層14としてSiO膜を形成するまでは、前記実施例1と同様である。次に、図3(B)に示すように、前記絶縁層14の表面を、フッ素系プラズマによって処理することで、絶縁層14の表面に、SiO膜よりも低誘電率なSiOF層(層間絶縁層52)を形成する。条件によっては、前記フッ素系プラズマでは、SiOがエッチングされるため、化学的に活性なラジカル種を形成できるプラズマ処理条件とする。なお、本実施例は、上述した通り、主に密着力Fの制御を行うものであるが、前記フッ素系プラズマ処理は、支持基板12とMIM膜26との剥離をしやすくする処理も兼ねている。次に、図3(C)に示すように、前記層間絶縁層52上に、電極層20,誘電体層22,電極層24を、スパッタリングなどによって形成する。更に、前記電極層24上に、絶縁層28として、SiN膜をCVDなどによって形成する。
【0023】
そして、あらかじめSi膜42を形成しておいた転写基板40側の表面と、前記支持基板12側の絶縁層28の上面に、イオンビームを照射して、FeSiの密着層46A,46Bを形成し(図3(D))、両基板表面の密着性が高い状態を形成する。次に、図3(E)に示すように、前記密着層46A,46Bが接触するように、支持基板12と転写基板40を合わせ、荷重を掛けて接合する。ここで、MIM膜26側の絶縁層28と転写基板40側のSi膜42との密着力Fが、MIM膜26と層間絶縁層52との密着力Fよりも高い状態が形成されていると、後述する図3(F)の工程において、MIM膜26が転写基板40側へ転写可能となる。この密着力Fの制御は、前記図3(D)に示した工程で行う。
【0024】
Si−SiN基板(Si基板と、該Si基板上に形成したSiN膜(絶縁層28))の密着力(ないし結合力)については、支持基板12側に形成する密着層46Aの組成,結合状態によって制御することができる。なお、本実施例では、転写基板40側にも密着層46Bを設けることとした。図4には、XPSによるSi表面(表面から約5mm程度の深さの部分)のFeの表面組成と密着強度の関係が示されている。同図において、横軸は、Feのシグナル強度,縦軸は、結合エネルギー(J/m)を表している。同図に示すように、表面でのFeの存在量が多くなるにつれて、密着強度が高くなることから、Si−SiN間の密着性の向上が期待できる。すなわち、Feの存在量の調整により、前記密着力Fの調整が可能となる。
【0025】
接合後、支持基板12と転写基板40を離すと、前記MIM膜26は、F>Fにより支持基板12側から剥離し、転写基板40側へ転写されている。図3(F)には、転写後の反転状態が示されている。次に、図3(G)に示すように、電極層20,誘電体層22,電極層24を、RIEなどのドライエッチングにより加工し、MIMキャパシタ30を転写基板40上に形成する。また、必要に応じて、素子上部に配線を形成し、回路と接続することで、図3(G)に示す本実施例の回路基板50が形成される。本実施例によれば、支持基板12側の表面をフッ素系プラズマ処理し、低誘電率層(層間絶縁層52)を形成することで、支持基板12側と電極材料(電極層20)との鏡像係合力を高められるほかは、上述した実施例1と同様の効果が得られる。
【実施例3】
【0026】
次に、図5を参照しながら本発明の実施例3を説明する。本実施例は、上述した実施例2の変形例であって、転写基板40側へMIM膜26を転写する前に、MIMキャパシタ30を形成する例である。図5(A)〜(H)は、本実施例の転写工程の一例を示す図である。まず、上述した実施例2の図3(A)及び(B)と同様の手順により、下地Si基板上に絶縁層14を形成し、更に、SiOF層(層間絶縁層52)を形成する。次に、前記図5(A)に示すように、前記層間絶縁層52上に、電極層20,誘電体層22,電極層24を、スパッタリングなどによって形成し、これら電極層20及び24と誘電体層24をエッチングなどにより加工し、図5(B)に示すMIM構造のMIMキャパシタ30を得る。この上に、図5(C)に示すように、パッシベーション膜62として、SiN膜を形成する。
【0027】
次に、支持基板12上に形成されたMIMキャパシタ30の上部から、イオンビームを照射することで、SiO−SiOF層(絶縁層14−層間絶縁層52)と電極層20の界面をエッチングすることで、図5(D)に矢印Pで示す剥離起点を機械的に形成する。これと同時に、前記パッシベーション膜62上に、転写基板40と密着性のよい接合中間層であるFeSiの密着層46Bを形成する。そして、図5(E)に示すように、あらかじめSi膜42を形成しておいた転写基板40側の表面に、イオンビームを照射して、FeSiの密着層46Aを形成し、支持基板12上のMIMキャパシタ30側と密着性の高い状態を作成する。次に、図5(F)に示すように、支持基板12側の接合中間層(密着層46B)と、転写基板40側の密着層46Aを接触させて密着させ、Si膜42,密着層46A及び46Bが接合するように荷重を掛ける。
【0028】
前記図5(D)で示した工程により、層間絶縁層52と電極層20の界面に剥離起点を設けているため、これらの界面における密着力Fは、密着層46の密着力Fよりも小さくなるため、下地基板12と転写基板40を離すと、MIMキャパシタ30が下地基板12側から剥離し、転写基板40側へ転写される。その状態が、図5(G)に反転状態で示されている。次に、図5(H)に示すように、転写基板40側の加工を行うことで、前記MIMキャパシタ30の電極層24と接続する導体66をビアホール64に充填することで、本実施例の回路基板60が形成される。本実施例によれば、イオンビーム照射によって、電極材料と支持基板12側に剥離が容易になるような物理的な起点を形成しているため、MIMキャパシタ30の剥離・転写をスムーズに行うことができる。他の基本的な効果は、上述した実施例1と同様である。
【0029】
なお、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることができる。例えば、以下のものも含まれる。
(1)前記実施例で示した形状,寸法は一例であり、必要に応じて適宜変更してよい。
(2)前記実施例で示した材質も一例であり、同様の効果を奏する範囲内であれば、適宜変更可能である。例えば、前記実施例では、密着層46としてFeSiを用いたが、AuSiやAlSiなどのように、基板の性質に応じて使用する金属を変更してよい。
(3)前記実施例3で示したビアホール接続も一例であり、公知の各種の接続方法を適用してよい。
(4)前記実施例1では、真空中で基板同士の接合を行うこととしたが、真空度は使用材料によって変更してよく、大気中での接合も可能である。
(5)前記実施例では、転写基板40上にSi膜42を形成することとしたが、Si膜42は、転写基板40や転写するMIM膜26の材料によって、必要に応じて設ければよい。
(6)前記実施例では、MIM構造を有するMIMキャパシタを例に挙げて説明したが、本発明は、MIM構造を有する他の公知の各種の薄膜素子の転写技術全般に適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明によれば、支持基板上に形成されたMIM構造膜側の表面と、転写基板側の表面の少なくとも一方の表面に、超高真空中で金属とSiからなる密着層を形成し、前記支持基板の前記MIM構造膜が形成された側の表面と前記転写基板側の表面とを、前記密着層を挟んで接触させ、荷重を掛けて接合し、前記支持基板側から転写基板側へ、前記MIM構造膜を剥離・転写するにあたり、前記MIM構造膜と転写基板側との密着力Fを制御し、あるいは、必要に応じて、前記MIM構造膜と支持基板側との密着力Fも制御して、F>Fとすることで、均一かつ低ダメージでの剥離・転写を可能とした。このため、薄膜素子の転写技術全般や、該薄膜素子を備えた回路基板の用途に適用できる。

【符号の説明】
【0031】
10:回路基板
12:支持基板
14:絶縁層(SiO膜)
15:TiOx層
16,20,24:電極層(Pt膜)
18:層間絶縁層(BST膜)
22:誘電体層(Mn−BST膜)
26:MIM膜
28:絶縁層(SiN膜)
30:MIMキャパシタ
40:転写基板
42:Si膜
46,46A,46B:密着層
48:保護膜
50:回路基板
52:層間絶縁層(SiOF膜)
60:回路基板
62:パッシベーション膜(SiN膜)
64:ビアホール
66:導体
図1
図2
図3
図4
図5