(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリペプチド多量体が1つ又は2つの第3の抗原結合活性を有するポリペプチドを含み、工程(a)が当該第3の抗原結合活性を有するポリペプチドをコードするDNAを発現させることを含む、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
ポリペプチド多量体が第4の抗原結合活性を有するポリペプチドをさらに含み、工程(a)が当該第4の抗原結合活性を有するポリペプチドをコードするDNAを発現させることを含む、請求項5又は6に記載の方法。
第1の抗原結合活性を有するポリペプチドが抗体軽鎖可変領域と抗体重鎖定常領域のアミノ酸配列を含み、第2の抗原結合活性を有するポリペプチドが抗体重鎖のアミノ酸配列を含み、第3の抗原結合活性を有するポリペプチドが抗体重鎖可変領域と抗体軽鎖定常領域のアミノ酸配列を含み、第4の抗原結合活性を有するポリペプチドが抗体軽鎖のアミノ酸配列を含む、請求項7に記載の方法。
第1の抗原結合活性を有するポリペプチドと第2の抗原結合活性を有しないポリペプチドを有し、第1の抗原結合活性を有するポリペプチドが受容体の抗原結合ドメイン及び抗体Fc領域のアミノ酸配列を含み、第2の抗原結合活性を有しないポリペプチドが抗体Fc領域のアミノ酸配列を含む、請求項1または2に記載の方法。
ポリペプチド多量体が1つ又は2つの第3の抗原結合活性を有するポリペプチドを含み、工程(a)が当該第3の抗原結合活性を有するポリペプチドをコードするDNAを発現させることを含む、請求項13から16のいずれかに記載の方法。
ポリペプチド多量体が第4の抗原結合活性を有するポリペプチドをさらに含み、工程(a)が当該第4の抗原結合活性を有するポリペプチドをコードするDNAを発現させることを含む、請求項17又は18に記載の方法。
第1の抗原結合活性を有するポリペプチドが抗体軽鎖可変領域と抗体重鎖定常領域のアミノ酸配列を含み、第2の抗原結合活性を有するポリペプチドが抗体重鎖のアミノ酸配列を含み、第3の抗原結合活性を有するポリペプチドが抗体重鎖可変領域と抗体軽鎖定常領域のアミノ酸配列を含み、第4の抗原結合活性を有するポリペプチドが抗体軽鎖のアミノ酸配列を含む、請求項19に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、第1の抗原結合活性を有するポリペプチド及び第2の抗原結合活性を有する又は抗原結合活性を有しないポリペプチドを含むポリペプチド多量体の製造方法を提供する。本発明のポリペプチド多量体の製造方法は、
(a)第1の抗原結合活性を有するポリペプチドをコードするDNA及び第2の抗原結合活性を有する又は抗原結合活性を有しないポリペプチドをコードするDNAを発現させる工程、及び
(b)工程(a)の発現産物を回収する工程、
を含み、
第1の抗原結合活性を有するポリペプチド及び第2の抗原結合活性を有する又は抗原結合活性を有しないポリペプチドのプロテインAへの結合力に差がつくように、第1の抗原結合活性を有するポリペプチド及び第2の抗原結合活性を有する又は抗原結合活性を有しないポリペプチドの両方又はいずれか一方において1又は複数のアミノ酸残基が改変されていることを特徴とする方法である。
本発明のポリペプチド多量体の製造方法は、プロテインAへの結合力が改変されたポリペプチド多量体の製造方法と表現することも出来る。
また本発明において「第1の抗原結合活性を有するポリペプチド」は「抗原結合活性を有する第1のポリペプチド」と表現することが出来る。「第2の抗原結合活性を有する又は抗原結合活性を有しないポリペプチド」は、「抗原結合活性を有する又は抗原結合活性を有しない第2のポリペプチド」と表現することが出来る。後述する「第3の抗原結合活性を有するポリペプチド」、「第4の抗原結合活性を有するポリペプチド」も同様に表現することが出来る。
本発明において「含む」は、「含む」、「からなる」のいずれも意味する。
【0015】
また本発明は、第1の抗原結合活性を有するポリペプチド及び第2の抗原結合活性を有する又は抗原結合活性を有しないポリペプチドを含むポリペプチド多量体の精製方法を提供する。本発明のポリペプチド多量体の精製方法は、
(a)第1の抗原結合活性を有するポリペプチドをコードするDNA及び第2の抗原結合活性を有する又は抗原結合活性を有しないポリペプチドをコードするDNAを発現させる工程、及び
(b)工程(a)の発現産物をプロテインAアフィニティクロマトグラフィーにより回収する工程、
を含み、
第1の抗原結合活性を有するポリペプチド及び第2の抗原結合活性を有する又は抗原結合活性を有しないポリペプチドのプロテインAへの結合力に差がつくように、第1の抗原結合活性を有するポリペプチド及び第2の抗原結合活性を有する又は抗原結合活性を有しないポリペプチドの両方又はいずれか一方において1又は複数のアミノ酸残基が改変されていることを特徴とする方法である。
【0016】
1又は複数のアミノ酸残基が改変された抗原結合活性を有するポリペプチドは、抗原結合活性を有する又は抗原結合活性を有しないポリペプチドをコードするDNAを調製し、当該DNAの1又は複数の塩基を改変し、これを当業者に周知の細胞に導入し、当該細胞を培養してこれらのDNAを発現させ、発現産物を回収することにより取得することが出来る。
【0017】
従って本発明のポリペプチド多量体の製造方法は以下(a)から(d)の工程を含む方法と表現することも出来る。
(a)第1の抗原結合活性を有するポリペプチドをコードするDNA及び第2の抗原結合活性を有する又は抗原結合活性を有しないポリペプチドをコードするDNAを提供する工程、
(b)第1の抗原結合活性を有するポリペプチド及び第2の抗原結合活性を有する又は抗原結合活性を有しないポリペプチドのプロテインAへの結合力に差がつくように、工程の(a)の第1のポリペプチドをコードするDNA及び第2のポリペプチドをコードするDNAの両方又はいずれか一方において、1又は複数の塩基を改変する工程、
(c)工程(b)のDNAを宿主細胞に導入し、DNAが発現するように宿主細胞を培養する工程、及び
(d)工程(c)の発現産物を宿主細胞培養物から回収する工程。
【0018】
また本発明のポリペプチド多量体の精製方法は、以下(a)から(d)の工程を含む方法と表現することも出来る。
(a)第1の抗原結合活性を有するポリペプチドをコードするDNA及び第2の抗原結合活性を有する又は抗原結合活性を有しないポリペプチドをコードするDNAを提供する工程、
(b)第1の抗原結合活性を有するポリペプチド及び第2の抗原結合活性を有する又は抗原結合活性を有しないポリペプチドのプロテインAへの結合力に差がつくように、工程の(a)の第1のポリペプチドをコードするDNA及び第2のポリペプチドをコードするDNAの両方又はいずれか一方において、1又は複数の塩基を改変する工程、
(c)工程(b)のDNAを宿主細胞に導入し、DNAが発現するように宿主細胞を培養する工程、及び
(d)工程(c)の発現産物を宿主細胞培養物からプロテインAアフィニティクロマトグラフィーにより回収する工程。
【0019】
本発明においてポリペプチド多量体とは、第1のポリペプチドと第2のポリペプチドを含むヘテロ多量体を意味する。第1のポリペプチドと第2のポリペプチドは、互いに異なる抗原に対して結合活性を示すことが好ましい。互いに異なる抗原結合活性を示す第1のポリペプチドと第2のポリペプチドは、一方のポリペプチドが他方のポリペプチドとは異なる抗原結合部位(アミノ酸配列)を有している限り何ら限定されない。例えば、後述の
図4に示されるように、一方のポリペプチドは、他方のポリペプチドとは異なる抗原結合活性部位と融合されていてもよい。あるいは、後述の
図4、
図6や
図9に示されるように、一方のポリペプチドは、他方のポリペプチドが有する抗原結合活性部位を有していない1価で抗原に結合するポリペプチドでもよい。このような第1のポリペプチド及び第2のポリペプチドを含むポリペプチド多量体も本発明のポリペプチド多量体に含まれる。
多量体としては2量体、3量体、4量体等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0020】
また本発明の第1のポリペプチド及び/又は第2のポリペプチドは、1又は2つの第3のポリペプチドと多量体を形成することが出来る。
従って本発明は、第1の抗原結合活性を有するポリペプチド、第2の抗原結合活性を有する又は抗原結合活性を有しないポリペプチド、及び1つ又は2つの第3の抗原結合活性を有するポリペプチドを含むポリペプチド多量体の製造方法であって、
(a)第1の抗原結合活性を有するポリペプチドをコードするDNA、第2の抗原結合活性を有するポリペプチドをコードするDNA、及び2つの第3の抗原結合活性を有するポリペプチドをコードするDNAを発現させる工程、及び
(b)工程(a)の発現産物を回収する工程、
あるいは、
(a)第1の抗原結合活性を有するポリペプチドをコードするDNA、第2の抗原結合活性を有しないポリペプチドをコードするDNA、及び1つの第3の抗原結合活性を有するポリペプチドをコードするDNAを発現させる工程、及び
(b)工程(a)の発現産物を回収する工程、
を含み、
第1の抗原結合活性を有するポリペプチド及び第2の抗原結合活性を有する又は抗原結合活性を有しないポリペプチドのプロテインAへの結合力に差がつくように、第1の抗原結合活性を有するポリペプチド及び第2の抗原結合活性を有する又は抗原結合活性を有しないポリペプチドの両方又はいずれか一方において1又は複数のアミノ酸残基が改変されている方法を提供する。
【0021】
上記方法は以下(a)から(d)の工程を含む方法と表現することも出来る。
(a)第1の抗原結合活性を有するポリペプチドをコードするDNA、第2の抗原結合活性を有するポリペプチドをコードするDNA、及び2つの第3の抗原結合活性を有するポリペプチドをコードするDNAを提供する工程、
(b)第1の抗原結合活性を有するポリペプチド及び第2の抗原結合活性を有するポリペプチドのプロテインAへの結合力に差がつくように、工程の(a)の第1及び第2のポリペプチドをコードするDNAの両方又はいずれか一方において、1又は複数の塩基を改変する工程、
(c)第1、第2、及び2つの第3のポリペプチドをコードするDNAを宿主細胞に導入し、DNAが発現するように宿主細胞を培養する工程、及び
(d)工程(c)の発現産物を宿主細胞培養物から回収する工程。
あるいは、
(a)第1の抗原結合活性を有するポリペプチドをコードするDNA、第2の抗原結合活性を有しないポリペプチドをコードするDNA、及び1つの第3の抗原結合活性を有するポリペプチドをコードするDNAを提供する工程、
(b)第1の抗原結合活性を有するポリペプチド及び第2の抗原結合活性を有しないポリペプチドのプロテインAへの結合力に差がつくように、工程の(a)の第1及び第2のポリペプチドをコードするDNAの両方又はいずれか一方において、1又は複数の塩基を改変する工程、
(c)第1、第2、及び第3のポリペプチドをコードするDNAを宿主細胞に導入し、DNAが発現するように宿主細胞を培養する工程、及び
(d)工程(c)の発現産物を宿主細胞培養物から回収する工程。
また本発明の第1のポリペプチド及び第2のポリペプチドは、第3のポリペプチド及び第4のポリペプチドと多量体を形成することが出来る。
従って本発明は、第1の抗原結合活性を有するポリペプチド、第2の抗原結合活性を有するポリペプチド、第3の抗原結合活性を有するポリペプチド及び第4の抗原結合活性を有するポリペプチドを含むポリペプチド多量体の製造方法であって、
(a)第1の抗原結合活性を有するポリペプチドをコードするDNA、第2の抗原結合活性を有するポリペプチドをコードするDNA、第3の抗原結合活性を有するポリペプチド及び第4の抗原結合活性を有するポリペプチドをコードするDNAを発現させる工程、及び
(b)工程(a)の発現産物を回収する工程、
を含み、
第1の抗原結合活性を有するポリペプチド及び第2の抗原結合活性を有するポリペプチドのプロテインAへの結合力に差がつくように、第1の抗原結合活性を有するポリペプチド及び第2の抗原結合活性を有するポリペプチドの両方又はいずれか一方において1又は複数のアミノ酸残基が改変されている方法を提供する。
上記方法は以下(a)から(d)の工程を含む方法と表現することも出来る。
(a)第1の抗原結合活性を有するポリペプチドをコードするDNA、第2の抗原結合活性を有するポリペプチドをコードするDNA、第3の抗原結合活性を有するポリペプチド及び第4の抗原結合活性を有するポリペプチドをコードするDNAを提供する工程、
(b)第1の抗原結合活性を有するポリペプチド及び第2の抗原結合活性を有するポリペプチドのプロテインAへの結合力に差がつくように、工程の(a)の第1及び第2のポリペプチドをコードするDNAの両方又はいずれか一方において、1又は複数の塩基を改変する工程、
(c)第1、第2、第3のポリペプチドおよび第4のポリペプチドをコードするDNAを宿主細胞に導入し、DNAが発現するように宿主細胞を培養する工程、及び
(d)工程(c)の発現産物を宿主細胞培養物から回収する工程。
【0022】
本発明は、第1の抗原結合活性を有するポリペプチド、第2の抗原結合活性を有する又は抗原結合活性を有しないポリペプチド、及び1つ又は2つの第3の抗原結合活性を有するポリペプチドを含むポリペプチド多量体の精製方法であって、
(a)第1の抗原結合活性を有するポリペプチドをコードするDNA、第2の抗原結合活性を有するポリペプチドをコードするDNA、及び2つの第3の抗原結合活性を有するポリペプチドをコードするDNAを発現させる工程、及び
(b)工程(a)の発現産物を回収する工程、
あるいは、
(a)第1の抗原結合活性を有するポリペプチドをコードするDNA、第2の抗原結合活性を有しないポリペプチドをコードするDNA、及び1つの第3の抗原結合活性を有するポリペプチドをコードするDNAを発現させる工程、及び
(b)工程(a)の発現産物を回収する工程、
を含み、
第1の抗原結合活性を有するポリペプチド及び第2の抗原結合活性を有する又は抗原結合活性を有しないポリペプチドのプロテインAへの結合力に差がつくように、第1の抗原結合活性を有するポリペプチド及び第2の抗原結合活性を有する又は抗原結合活性を有しないポリペプチドの両方又はいずれか一方において1又は複数のアミノ酸残基が改変されている方法を提供する。
上記方法は以下(a)から(d)の工程を含む方法と表現することも出来る。
(a)第1の抗原結合活性を有するポリペプチドをコードするDNA、第2の抗原結合活性を有する又は抗原結合活性を有しないポリペプチドをコードするDNA、及び2つの第3の抗原結合活性を有するポリペプチドをコードするDNAを提供する工程、
(b)第1の抗原結合活性を有するポリペプチド及び第2の抗原結合活性を有するポリペプチドのプロテインAへの結合力に差がつくように、工程の(a)の第1及び第2のポリペプチドをコードするDNAの両方又はいずれか一方において、1又は複数の塩基を改変する工程、
(c)第1、第2、及び2つの第3のポリペプチドをコードするDNAを宿主細胞に導入し、DNAが発現するように宿主細胞を培養する工程、及び
(d)工程(c)の発現産物を宿主細胞培養物から回収する工程。
あるいは、
(a)第1の抗原結合活性を有するポリペプチドをコードするDNA、第2の抗原結合活性を有しないポリペプチドをコードするDNA、及び1つの第3の抗原結合活性を有するポリペプチドをコードするDNAを提供する工程、
(b)第1の抗原結合活性を有するポリペプチド及び第2の抗原結合活性を有しないポリペプチドのプロテインAへの結合力に差がつくように、工程の(a)の第1及び第2のポリペプチドをコードするDNAの両方又はいずれか一方において、1又は複数の塩基を改変する工程、
(c)第1、第2、及び第3のポリペプチドをコードするDNAを宿主細胞に導入し、DNAが発現するように宿主細胞を培養する工程、及び
(d)工程(c)の発現産物を宿主細胞培養物から回収する工程。
また本発明は、第1の抗原結合活性を有するポリペプチド、第2の抗原結合活性を有するポリペプチド、第3の抗原結合活性を有するポリペプチド、及び第4の抗原結合活性を有するポリペプチドを含むポリペプチド多量体の精製方法であって、
(a)第1の抗原結合活性を有するポリペプチドをコードするDNA、第2の抗原結合活性を有するポリペプチドをコードするDNA、第3の抗原結合活性を有するポリペプチドをコードするDNA、及び第4の抗原結合活性を有するポリペプチドをコードするDNAを発現させる工程、及び
(b)工程(a)の発現産物をプロテインAアフィニティクロマトグラフィーにより回収する工程、
を含み、
第1の抗原結合活性を有するポリペプチド及び第2の抗原結合活性を有するポリペプチドのプロテインAへの結合力に差がつくように、第1の抗原結合活性を有するポリペプチド及び第2の抗原結合活性を有するポリペプチドの両方又はいずれか一方において1又は複数のアミノ酸残基が改変されている方法を提供する。
【0023】
上記方法は以下(a)から(d)の工程を含む方法と表現することも出来る。
(a)第1の抗原結合活性を有するポリペプチドをコードするDNA、第2の抗原結合活性を有するポリペプチドをコードするDNA、第3の抗原結合活性を有するポリペプチドをコードするDNA、及び第4の抗原結合活性を有するポリペプチドをコードするDNAを提供する工程、
(b)第1の抗原結合活性を有するポリペプチド及び第2の抗原結合活性を有するポリペプチドのプロテインAへの結合力に差がつくように、工程の(a)の第1のポリペプチドをコードするDNA及び第2のポリペプチドをコードするDNAの両方又はいずれか一方において、1又は複数の塩基を改変する工程、
(c)第1、第2、第3及び第4のポリペプチドをコードするDNAを宿主細胞に導入し、DNAが発現するように宿主細胞を培養する工程、及び
(d)工程(c)の発現産物を宿主細胞培養物からプロテインAアフィニティクロマトグラフィーにより回収する工程。
【0024】
本発明の第1のポリペプチド、第2のポリペプチド、及び1つ又は2つの第3のポリペプチドを含むポリペプチド多量体において、第1のポリペプチド及び第2のポリペプチドはそれぞれ、第3のポリペプチドと多量体(2量体)を形成することが出来る。また形成された2量体同士が多量体を形成することが出来る。2つの第3のポリペプチドは完全に同一のアミノ酸配列を有していてもよい(同じ抗原に対して結合活性を有していてもよい)。あるいは同一のアミノ酸配列でありながら、2以上の活性があってもよい(例えば、2以上の異なる抗原に対して結合活性を有していてもよい)。また、第3のポリペプチドが1つの場合は、第3のポリペプチドは、第1のポリペプチドあるいは第2のポリペプチドのいずれか一方と2量体を形成し、ポリペプチド多量体を形成することが出来る。
本発明のポリペプチド多量体において、第1のポリペプチドと第2のポリペプチドは異なる抗原に対して結合活性を有することが好ましい。一方第3のポリペプチドは、第1のポリペプチドや第2のポリペプチドのいずれか又は両方と同じ抗原に対して結合活性を有するポリペプチドであってもよい。あるいは、第1のポリペプチドや第2のポリペプチドとは異なる抗原に対して結合活性を有するポリペプチドであってもよい。
あるいは本発明のポリペプチド多量体は、第1のポリペプチド、第2のポリペプチド、第3のポリペプチド、及び第4のポリペプチドを含むポリペプチド多量体とすることも出来る。このようなポリペプチド多量体において、第1のポリペプチド及び第2のポリペプチドはそれぞれ、第3のポリペプチド及び第4のポリペプチドと多量体(2量体)を形成することが出来る。例えば、第1のポリペプチドと第3のポリペプチド、第2のポリペプチドと第4のポリペプチドの間でジスルフィド結合を形成することにより、2量体を形成することができる。
本発明ポリペプチド多量体においては、第1のポリペプチドと第2のポリペプチドは異なる抗原に対して結合活性を有することが好ましい。一方第3のポリペプチドは、第1のポリペプチドや第2のポリペプチドのいずれか又は両方と同じ抗原に対して結合活性を有するポリペプチドであってもよい。あるいは、第1のポリペプチドや第2のポリペプチドとは異なる抗原に対して結合活性を有するポリペプチドであってもよい。また第4のポリペプチドは、第1のポリペプチドや第2のポリペプチドのいずれかと同じ抗原に対して結合活性を有するポリペプチドであってもよい。あるいは、第1のポリペプチドや第2のポリペプチドとは異なる抗原に対して結合活性を有するポリペプチドであってもよい。
具体的には、例えば、第1のポリペプチドと第2のポリペプチドがそれぞれ抗原Aに対する抗体重鎖のアミノ酸配列を含むポリペプチド、抗原Bに対する抗体重鎖のアミノ酸配列を含むポリペプチドである場合、第3のポリペプチドを抗原Aに対する抗体軽鎖のアミノ酸配列を含むポリペプチド、第4のポリペプチドを抗原Bに対する抗体軽鎖のアミノ酸配列を含むポリペプチドとすることができる。本発明のポリペプチド多量体がそれぞれ異なる2種類の抗体軽鎖のアミノ酸配を含む第3のポリペプチド及び第4のポリペプチドを有する場合、第1のポリペプチドと第2のポリペプチドのプロテインAへの結合力の差に加えて、第3のポリペプチドと第4のポリペプチドのpI値を後述に記載の方法に従って異なる値とする、あるいは、protein Lへの結合力に差をつけることによって、目的のポリペプチド多量体をより高純度に且つ効率的に精製あるいは製造することが可能である。
また、例えば、第1のポリペプチドを抗原Aに対する抗体重鎖のアミノ酸配列を含むポリペプチド、第2のポリペプチドを抗原Bに対する抗体軽鎖可変領域のアミノ酸配列と抗体重鎖定常領域のアミノ酸配列を含むポリペプチドとし、第3のポリペプチドを抗原Aに対する抗体軽鎖のアミノ酸配列を含むポリペプチド、第4のポリペプチドを抗原Bに対する抗体重鎖可変領域のアミノ酸配列と抗体軽鎖定常領域のアミノ酸配列を含むポリペプチドとする場合も、本発明を利用することによって、目的の第1〜第4のポリペプチドを有するポリペプチド多量体をより高純度に且つ効率的に精製又は製造することができる。この場合、後述の実施例12に記載のように、ポリペプチドのpI値を改変するアミノ酸変異、目的のポリペプチドの会合を促進するアミノ酸変異(WO2006/106905)を、本発明のプロテインAへの結合力に差のついたポリペプチドに導入することによって、目的の第1〜第4のポリペプチドを有するポリペプチド多量体をより高純度に且つ効率的に精製あるいは製造することが可能である。ポリペプチドの会合を促進するために導入されるアミノ酸変異としては、Protein Eng. 1996 Jul;9(7):617-21.、Protein Eng Des Sel. 2010 Apr;23(4):195-202.、J Biol Chem. 2010 Jun 18;285(25):19637-46.、WO2009080254等に記載された重鎖定常領域のCH3ドメインの改変により2種類に重鎖定常領域を含むポリペプチドをヘテロ会合化する方法、および、WO2009080251、WO2009080252、WO2009080253等に記載された重鎖と軽鎖の特定の組み合わせの会合化を促進する方法等を用いることも可能である。
【0025】
本発明において「抗原結合活性を有するポリペプチド」とは、抗体重鎖あるいは軽鎖の可変領域、レセプター、レセプターとFc領域の融合ペプチド、Scaffold及びこれらの断片など、抗原、リガンドなどのタンパク質やペプチドに対して結合可能なドメイン(領域)を有する5アミノ酸以上の長さを有するペプチド及びタンパク質を指す。すなわち抗原結合活性を有するポリペプチドは、抗体可変領域、レセプター、レセプターとFc領域の融合ペプチド、Scaffold、又はこれらの断片のアミノ酸配列を含むことが出来る。
scaffoldとしては、少なくとも1つの抗原に結合することができる立体構造的に安定なポリペプチドであれば、どのようなポリペプチドであっても用いることができる。そのようなポリペプチドとしては、例えば、抗体可変領域断片、フィブロネクチン、Protein Aドメイン、LDL受容体Aドメイン、リポカリン等のほか、Nygrenら(Current Opinion in Structural Biology, 7:463-469(1997)、Journal of Immunol Methods, 290:3-28(2004))、Binzら(Nature Biotech 23:1257-1266(2005))、Hosseら(Protein Science 15:14-27(2006))に記載の分子が挙げられるがこれらに限定されない。
抗体の可変領域、レセプター、レセプターとFc領域の融合ペプチド、Scaffold及びこれらの断片の取得方法は当業者に周知である。
【0026】
当該抗原結合活性を有するポリペプチドは、生物由来のもの、人工的に設計されたもののいずれであってもよい。また、天然のタンパク質由来、合成されたタンパク質由来、組換えタンパク質由来等のいずれであってもよい。さらに、抗原に対する結合能を有していれば、抗原、リガンドなどのタンパク質やペプチドに対して結合可能なドメイン(領域)を有する10アミノ酸以上の長さを有するペプチド及びタンパク質の断片であっても良く、また抗原(リガンドも含む)に対して結合可能な領域を複数含んでも良い。
抗原結合活性を有するポリペプチドは、抗原結合タンパク質ドメインを有するポリペプチドと表現することも出来る。
本発明において「抗原結合活性を有しないポリペプチド」とは、抗原結合活性を有していない抗体の断片、Fc領域、Scaffold及びこれらの断片など5アミノ酸以上の長さを有するペプチド及びタンパク質を指す。すなわち抗原結合活性を有しないポリペプチドは、抗体定常領域、Fc領域、Scaffold、又はこれらの断片のアミノ酸配列を含むことが出来るがこれらに限定されない。抗原結合活性を有しないポリペプチドと抗原結合活性を有するポリペプチドを組み合わせることで、抗原に対して1価で結合するポリペプチド多量体を製造することも可能である。
【0027】
また本発明の第1の抗原結合活性を有するポリペプチド及び第2の抗原結合活性を有する又は抗原結合活性を有しないポリペプチドは、抗体重鎖定常領域のアミノ酸配列あるいは抗体Fc領域のアミノ酸配列を含むことが出来る。抗体Fc領域又は抗体重鎖定常領域のアミノ酸配列としては、ヒトIgGタイプの定常領域あるいはFc領域のアミノ酸配列が挙げられるがこれらに限定されない。IgGタイプの定常領域あるいはFc領域としては、天然型IgG1、IgG2、IgG3、IgG4のアイソタイプのいずれであってもよい。あるいはこれらの改変体であってもよい。
また本発明の第3の抗原結合活性を有するポリペプチド及び第4の抗原結合活性を有するポリペプチドは、抗体軽鎖定常領域のアミノ酸配列を含むことが出来る。抗体軽鎖定常領域のアミノ酸配列としては、ヒトkappa、ヒトlambdaタイプの定常領域のアミノ酸配列が挙げることが出来るがこれに限定されない。あるいはこれらの改変体であってもよい。
また本発明の抗原結合活性を有するポリペプチドは、抗体可変領域のアミノ酸配列(例えばCDR1、CDR2、CDR3、FR1、FR2、FR3、FR4のアミノ酸配列)を含むことが出来る。
【0028】
また本発明の抗原結合活性を有するポリペプチドは、抗体重鎖のアミノ酸配列又は抗体軽鎖のアミノ酸配列を含むことが出来る。より具体的には、第1の抗原結合活性を有するポリペプチド及び第2の抗原結合活性を有する又は抗原結合活性を有しないポリペプチドは、抗体重鎖のアミノ酸配列を含むことが出来る、また第3の抗原結合活性を有するポリペプチド及び第4の抗原結合活性を有するポリペプチドは、抗体軽鎖のアミノ酸配列を含むことが出来る。
また、目的のポリペプチド多量体が、第1のポリペプチドと第3のポリペプチドで2量体を形成し、第2のポリペプチドと第4のポリペプチドで2量体を形成し、さらにこれら2量体同士が多量体を形成するような4量体である場合には、本発明のポリペプチド多量体として、例えば、第1と第2の抗原結合活性を有するポリペプチドが抗体重鎖のアミノ酸配列を含むポリペプチド、第3と第4の抗原結合活性を有するポリペプチドが抗体軽鎖のアミノ酸配列を含むポリペプチドを用いることもできるし、第1の抗原結合活性を有するポリペプチドが抗体重鎖のアミノ酸配列を含むポリペプチド、第2の抗原結合活性を有するポリペプチドが抗体軽鎖可変領域のアミノ酸配列と抗体重鎖定常領域のアミノ酸配列を含むポリペプチド、第3の抗原結合活性を有するポリペプチドが抗体軽鎖のアミノ酸配列を含むポリペプチド、第4の抗原結合活性を有するポリペプチドが抗体重鎖可変領域のアミノ酸配列と抗体軽鎖定常領域のアミノ酸配列を含むポリペプチドを用いることも出来る。
【0029】
すなわち本発明のポリペプチド多量体は、多重特異性抗体であることが出来る。
本発明において「多重特異性抗体」とは、少なくとも2種類の異なる抗原に対して特異的に結合することが可能な抗体を意味する。
本発明において「異なる抗原」には、抗原分子自体が異なることに加え、抗原分子が同一であって抗原決定基が異なることも含まれる。従って、例えば、単一分子内の異なる抗原決定基は本発明の「異なる抗原」に含まれる。また、このような単一分子内の異なる抗原決定基を各々認識する抗体は、本発明において「異なる抗原対して特異的に結合することが可能な抗体」として扱われる。
【0030】
本発明における多重特異性抗体として、2種類の抗原に対して特異的に結合することができる二重特異性抗体を挙げることができるがこれに限定されない。本発明の好ましい二重特異性抗体として、ヒトIgG定常領域を有するH2L2タイプ(2種類のH鎖及び2種類のL鎖からなる)のIgG抗体が挙げられる。より具体的には、例えばIgGタイプのキメラ抗体、ヒト化抗体又はヒト抗体などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0031】
また抗原結合活性を有するポリペプチドは、例えば、重鎖可変領域、軽鎖可変領域、重鎖定常領域、軽鎖定常領域のうち少なくとも2つが1本鎖として連結した構造の分子であってもよい。あるいは重鎖可変領域、軽鎖可変領域、Fc領域(CH1ドメインを欠いた定常領域)、軽鎖定常領域のうち少なくとも2つが1本鎖として連結した構造の抗体であってもよい。
【0032】
本発明において「抗原結合活性を有するポリペプチドのプロテインAへの結合力に差がつく」とは、抗原結合活性を有するポリペプチドの表面アミノ酸の改変を行うことにより、2種類以上のポリペプチドの間で、プロテインAへの結合力が等しくならない(異なる)ことをいう。より具体的には例えば、第1の抗原結合活性を有するポリペプチドのプロテインAへの結合力と第2の抗原結合活性を有するポリペプチドのプロテインAへの結合力が異なることを意味する。プロテインAへの結合力の差は、例えば、プロテインAアフィニティクロマトグラフィーを用いることにより確認することができる。
抗原結合活性を有するポリペプチドのプロテインAへの結合力の強さは、溶出に用いる溶媒のpHと相関し、ポリペプチドのプロテインAへの結合力が強くなるほど、溶出のための溶媒のpHが低くなる。従って「抗原結合活性を有するポリペプチドのプロテインAへの結合力に差がつく」とは、「抗原結合活性を有する2種以上のポリペプチドをプロテインAアフィニティークロマトグラフィーを用いて溶出する際に、それぞれのポリペプチドの間で溶出溶媒のpHが異なる」と表現することも出来る。溶出溶媒のpHの差としては、0.1以上、好ましくは0.5以上、さらに好ましくは1.0以上が挙げられるがこれらに限定されない。
また本発明においては、当該抗原結合活性を有するポリペプチドの他の活性(例えば血漿中滞留性)を低下させずにプロテインAへの結合力を改変することが好ましい。
【0033】
第1の抗原結合活性を有するポリペプチドと第2の抗原結合活性を有する又は抗原結合活性を有しないポリペプチドのプロテインAに対する結合力の差を利用し、プロテインAアフィニティクロマトグラフィーを用いて目的の第1の抗原結合活性を有するポリペプチドと第2の抗原結合活性を有する又は抗原結合活性を有しないポリペプチドを含むポリペプチド多量体を製造又は精製することが可能である。具体的には、例えば本発明のポリペプチド多量体がL鎖を共通化させた(第3のポリペプチドと第4のポリペプチドが同一のアミノ酸配列を有する)二重特異性抗体である場合、以下の方法によりポリペプチド多量体を製造又は精製することが出来る。まず、抗体重鎖定常領域のアミノ酸配列におけるEUナンバリング435位のアミノ酸がアルギニン(R)である第1の抗原結合活性を有するポリペプチド(より具体的には第1の抗体重鎖)をコードする核酸と、435位のアミノ酸がヒスチジン(H)である第2の抗原結合活性を有するポリペプチド(より具体的には第2の抗体重鎖)をコードする核酸、第3の抗原結合活性を有するポリペプチド(共通L鎖)をコードする核酸を宿主細胞に導入し、当該細胞を培養してDNAを一過性に発現させる。次に、得られた発現産物をプロテインAカラムに負荷し、洗浄後、pHの高い溶出液からpHの低い溶出液の順で溶出する。2本の第1の抗体重鎖及び2本の共通L鎖からなるホモ抗体には、重鎖定常領域にプロテインAの結合部位が存在しない。第1の抗体重鎖、第2の抗体重鎖、及び2本の共通L鎖からなる二重特異性抗体には重鎖定常領域にプロテインAの結合部位が1つ存在する。2本の第2の抗体重鎖及び2本の共通L鎖からなるホモ抗体には重鎖定常領域にプロテインAの結合部位が2つ存在する。上述のように、ポリペプチドのプロテインAの結合力は、プロテインAアフィニティクロマトグラフィーにおいてポリペプチドが溶出する溶媒のpHと相関し、プロテインAとの結合力が強いほど溶出溶媒pHは低くなる。そのため、pHの高い溶出液からpHの低い溶出液の順で溶出すると、次の順に抗体が溶出する。
・ 2本の第1の抗体重鎖及び2本の共通L鎖からなるホモ抗体、
・ 第1の抗体重鎖、第2の抗体重鎖、及び2本の共通L鎖からなる二重特異性抗体、
・ 2本の第2の抗体重鎖及び2本の共通L鎖からなるホモ抗体
これにより、目的のポリペプチド多量体(二重特異性抗体)を製造又は精製することが可能となる。
【0034】
本発明の製造方法又は精製方法によって得られるポリペプチド多量体は、少なくとも95%以上(例えば96%、97%、98%、99%以上)の純度を有する。
【0035】
第1の抗原結合活性を有するポリペプチドと第2の抗原結合活性を有する又は抗原結合活性を有しないポリペプチドのプロテインAへの結合力に差がつくようなアミノ酸残基の改変としては、
(1)第1の抗原結合活性を有するポリペプチド又は第2の抗原結合活性を有する若しくは抗原結合活性を有しないポリペプチドのいずれか一方のポリペプチドのプロテインAへの結合力が増加するように、当該いずれか一方のポリペプチドのアミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸残基を改変すること、
(2)第1の抗原結合活性を有するポリペプチド又は第2の抗原結合活性を有する若しくは抗原結合活性を有しないポリペプチドのいずれか一方のポリペプチドのプロテインAへの結合力が低下するように、当該いずれか一方のポリペプチドのアミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸残基を改変すること、
(3)第1の抗原結合活性を有するポリペプチド又は第2の抗原結合活性を有する若しくは抗原結合活性を有しないポリペプチドのいずれか一方のポリペプチドのプロテインAへの結合力が増加し、他方のポリペプチドのプロテインAへの結合力が低下するように、第1の抗原結合活性を有するポリペプチド及び第2の抗原結合活性を有する又は抗原結合活性を有しないポリペプチドにおいて1又は複数のアミノ酸残基を改変すること、
が挙げられるがこれらに限定されない。
【0036】
本発明においては、抗原結合活性を有する又は抗原結合活性を有しないポリペプチドの表面にあるアミノ酸を改変することが好ましい。また改変によるポリペプチドの他の活性に対する影響を少なくするよう考慮することが好ましい。
従って本発明においては、例えば、抗体のFc領域又は重鎖定常領域におけるEUナンバリング250-255位のTLMISR、308-317位のVLHQDWLNGK、430-436位のEALHNHY、
好ましくは250-254位のTLMIS、309-312位のLHQD、314-315位のLN、430位のE、432-436LHNHY、
さらに好ましくは251-254位のLMIS、309-311位のLHQ、314位のL、432-435位のLHNH、
特に252-254位のMIS、309位のL、311位のQ、434-436位のNHYのアミノ酸残基を改変することが好ましい。
抗体の重鎖可変領域のアミノ酸の改変に関しては、FR1、CDR2、FR3が好ましい改変位置として挙げられる。より好ましい改変位置としては、例えば、EUナンバリング H15-H23, H56-H59, H63-H72, H79-H83を挙げることができる。
これらのアミノ酸の改変として、FcRnへの結合を低下させない改変、ヒトFcRnトランスジェニックマウスにおける血漿中滞留性を悪化させない改変がより好ましい。
【0037】
より具体的には、ポリペプチドのプロテインAへの結合力が増加するような改変として、抗体Fc領域又は抗体重鎖定常領域のアミノ酸配列におけるEUナンバリング435位のアミノ酸残基のヒスチジン(His)への改変が挙げられるがこれに限定されない。
またポリペプチドのプロテインAへの結合力が低下するような改変として、抗体Fc領域又は抗体重鎖定常領域のアミノ酸配列におけるEUナンバリング435位のアミノ酸残基のアルギニンへの改変が挙げられるがこれらに限定されない。
また、抗体の重鎖可変領域においては、VH3サブクラスの重鎖可変領域はプロテインAへの結合性を有することから、プロテインAへの結合力を高くするためには、上述の改変位置のアミノ酸配列がVH3サブクラスの重鎖可変領域配列と同一であることが好ましく、プロテインAへの結合力を低くするためには、その他のサブクラスの重鎖可変領域配列と同一であることが好ましい。
アミノ酸残基の改変は、後述のようにポリペプチドをコードするDNAにおいて1又は複数の塩基を改変し、当該DNAを宿主細胞で発現させることによって行うことが出来る。当業者であれば、改変後のアミノ酸残基の種類に応じて、改変すべき塩基の数や位置、種類を容易に決定することが出来る。
本発明において改変とは、置換、欠損、付加、挿入のいずれか、又はそれらの組み合わせを意味する。
【0038】
また抗原結合活性を有するポリペプチドは、上述のアミノ酸配列の改変に加え、更に付加的な改変を含むことができる。付加的な改変は、たとえば、アミノ酸の置換、欠損、及び修飾のいずれか、あるいはそれらの組み合わせから選択することができる。具体的には、そのアミノ酸配列に次のような改変を含むポリペプチドは、いずれも本発明に含まれる。
・二重特異性抗体の2種類のH鎖のヘテロ会合率を高めるためのアミノ酸の改変
・第1の抗原結合活性を有するポリペプチドと第2の抗原結合活性を有する又は抗原結合活性を有しないポリペプチド間のジスルフィド結合を安定化させるためのアミノ酸改変
・抗体の血漿中滞留性を改善するためのアミノ酸改変
・酸性条件下における安定性向上のための改変
・ヘテロジェニティー低減のための改変
・脱アミド化反応抑制のための改変
・2種類のポリペプチド間に等電点の差異を導入するための改変
・Fcγレセプターへの結合性を変化させるための改変
以下にこれらのアミノ酸の改変に関して述べる。
【0039】
二重特異性抗体の2種類のH鎖のヘテロ会合率を高めるためのアミノ酸の改変
本発明のアミノ酸の改変とWO2006106905に記載のアミノ酸の改変を組合わせることが可能である。改変箇所としては、2つの抗原結合活性を有するポリペプチド内の界面を形成するアミノ酸であれば限定されない。具体的には、例えば重鎖定常領域を改変する場合、第1の抗原結合活性を有するポリペプチドの重鎖定常領域のアミノ酸配列におけるEUナンバリング356位と439位、357位と370位、及び、399位と409位の組み合わせのうち、少なくとも1つの組み合わせを同一の電荷を有するアミノ酸に改変すること、第2の抗原結合活性を有する又は抗原結合活性を有しないポリペプチドの重鎖定常領域のEUナンバリング356位と439位、357位と370位、及び、399位と409位の組合わせのうち、少なくとも1つの組合せを第1の抗原結合活性を有するポリペプチドとは反対の電荷を有するアミノ酸に改変することが挙げられる。より具体的には、例えば、第1の抗原結合活性を有するポリペプチドと第2の抗原結合活性を有するポリペプチドの重鎖定常領域のアミノ酸配列において、いずれか一方のポリペプチドにEUナンバリング356番目のGluをLysに置換する変異を導入し、他方のポリペプチドにEUナンバリング439番目のLysをGluに置換する変異を導入することが挙げられる。このような改変を本発明の改変と組み合わせることによって、目的のポリペプチドを、プロテインAを用いた精製のみによって、更に高純度で得ることが可能である。
また、第1の抗原結合活性を有するポリペプチドの重鎖可変領域のKabatナンバリング39番目および/または重鎖定常領域のEUナンバリング213番目と、第2の抗原結合活性を有する又は抗原結合活性を有しないポリペプチドの重鎖可変領域のKabatナンバリング39番目および/または重鎖定常領域のEUナンバリング213番目とを、それぞれ反対の電荷を有するアミノ酸に改変し、第3の抗原結合活性を有するポリペプチドの軽鎖可変領域のKabatナンバリング38番目および/またはEUナンバリング123番目と、第4の抗原結合活性を有するポリペプチドの軽鎖可変領域のKabatナンバリング38番目および/またはEUナンバリング123番目とを、それぞれ反対の電荷を有するアミノ酸に改変することで、第1〜第4の抗原結合活性を有するポリペプチドを含む目的のポリペプチド多量体をより高純度に且つ効率的に精製又は製造することも可能である。
【0040】
第1の抗原結合活性を有するポリペプチドと第2の抗原結合活性を有する又は抗原結合活性を有しないポリペプチド間のジスルフィド結合を安定化させるためのアミノ酸改変
公知の文献(Mol. Immunol. 1993, 30, 105-108及びMol. Immunol. 2001, 38, 1-8)に記載の通り、IgG4重鎖定常領域のアミノ酸配列におけるEUナンバリング228番目のSerをProに置換することでIgG4のヘテロジェニティーが解消され安定な構造の維持が可能である。
【0041】
抗体の血漿中滞留性を改善するためのアミノ酸改変
血漿中滞留性を制御するために、本発明のアミノ酸の改変と抗体のpI値を改変させるためのアミノ酸の改変を組み合わせることが可能である。定常領域の改変については、例えば、公知の文献(J. Immunol. 2006, 176(1):346-356やNat. Biotechnol. 1997 15(7):637-640等)に記載のEUナンバリング250位や428位等のアミノ酸の改変が挙げられる。また、可変領域の改変としてWO2007/114319やWO2009/041643に記載のアミノ酸の改変が挙げられる。改変されるアミノ酸は、抗原結合活性を有するポリペプチドの表面に露出しているアミノ酸が好ましい。例えば、重鎖定常領域のアミノ酸配列におけるEUナンバリング196位のアミノ酸の置換が挙げられる。重鎖定常領域がIgG4の場合、例えば196番目のリジンをグルタミンに置換することでpI値を低くし、血漿中滞留性を高めることが可能である。
また、血漿中滞留性はFcRnに対する結合力を改変することによっても制御可能である。FcRnに対する結合力改変のためのアミノ酸改変としては、例えば、公知の文献(The Journal of Biological Chemistry vol.276, No.9 6591-6604, 2001やMolecular Cell, Vol.7, 867-877, 2001や
Curr Opin Biotechnol. 2009, 20(6):685-91.)に記載の抗体重鎖定常領域のアミノ酸の置換が挙げられる。例えば、EUナンバリング233位、238位、253位、254位、255位、256位、258位、265位、272位、276位、280位、285位、288位、290位、292位、293位、295位、296位、297位、298位、301位、303位、305位、307位、309位、311位、312位、315位、317位、329位、331位、338位、360位、362位、376位、378位、380位、382位、415位、424位、433位、434位、435位、436位等の位置のアミノ酸の置換が挙げられる。
【0042】
酸性条件下における安定性向上のための改変
重鎖定常領域としてIgG4を利用した場合は、酸性条件下におけるIgG4のhalf-molecule化を抑え安定な4鎖構造(H2L2構造)を維持させることが好ましい。そのため、4鎖構造の維持に重要な役割を果たしているEUナンバリング409位のアミノ酸であるアルギニン(Immunology 2002, 105, 9-19)を、酸性条件下においても安定な4鎖構造を維持するIgG1タイプのリジンに置換することが好ましい。また、IgG2の酸安定性を向上させるためにEUナンバリング397位のアミノ酸であるメチオニンをバリンに置換することも可能である。このような改変を本発明のアミノ酸の改変と組合わせて用いることができる。
【0043】
ヘテロジェニティー低減のための改変
本発明のアミノ酸の改変とWO2009041613に記載の方法を組合わせることが可能である。具体的には、例えばIgG1重鎖定常領域のC末端の2アミノ酸、すなわちEUナンバリング446番目のグリシン及び447番目のリジンを欠損させる改変を本発明の実施例に基づくアミノ酸の改変と組み合わせることが可能である。
【0044】
脱アミド化反応抑制のための改変
本発明のアミノ酸の改変と脱アミド化反応の抑制のためのアミノ酸の改変を組合わせることが可能である。脱アミド化反応は、特にアスパラギン(N)とグリシン(G)が隣接した部位(・・・NG・・・)において起こりやすいことが報告されている(Geigerら J. Bio. Chem. 1987; 262:785-794)。本発明のポリペプチド多量体(多重特異性抗体)にアスパラギンとグリシンが隣接した部位が存在する場合には、当該アミノ酸配列を改変することにより脱アミド化反応を抑制することができる。具体的には例えば、アスパラギンとグリシンどちらか一方若しくは両方のアミノ酸を他のアミノ酸に置換する。より具体的には例えば、アスパラギンをアスパラギン酸に置換することが挙げられる。
【0045】
2種類のポリペプチド間に等電点の差異を導入するための改変
本発明のアミノ酸の改変と等電点の差異を導入するためのアミノ酸の改変を組合わせることが可能である。具体的な方法は、例えばWO2007/114325に記載されている。本発明の改変に加えて、第1の抗原結合活性を有するポリペプチドと第2の抗原結合活性を有する又は抗原結合活性を有しないポリペプチドのアミノ酸配列を改変し、これらポリペプチドの等電点の値に差をつけることにより、目的のポリペプチドをより高純度にかつ効率的に精製又は製造することが可能である。また、第3の抗原結合活性を有するポリペプチドと第4の抗原結合活性を有するポリペプチドの等電点に差をつけることで、第1〜第4のポリペプチドを含む目的のポリペプチド多量体をより高純度にかつ効率的に精製又は製造することも可能である。具体的な改変位置としては、第1のポリペプチド及び第2のポリペプチドが抗体重鎖のアミノ酸配列を含むポリペプチドの場合、例えば、Kabatナンバリングにおける1, 3, 5, 8, 10, 12, 13, 15, 16, 19, 23, 25, 26, 39, 42, 43, 44, 46, 68, 71, 72, 73, 75, 76, 81, 82b, 83, 85, 86, 105, 108, 110, 112位が挙げられる。第3のポリペプチド及び第4のポリペプチドが抗体軽鎖のアミノ酸配列を含むポリペプチドの場合、例えば、Kabatナンバリングにおける1, 3, 7, 8, 9, 11, 12, 16, 17, 18, 20, 22, 38, 39, 41, 42, 43, 45, 46, 49, 57, 60, 63, 65, 66, 68, 69, 70, 74, 76, 77, 79, 80, 81, 85, 100, 103, 105, 106, 107, 108位が挙げられる。一方のポリペプチド中の上記の位置の少なくとも1つのアミノ酸残基を電荷を有するアミノ酸とし、他方のポリペプチド中の上記の位置の少なくとも1つのアミノ酸残基を当該電荷と反対の電荷を有するアミノ酸残基若しくは電荷を有しないアミノ酸残基とすることにより等電点に差をつけることが可能である。
【0046】
Fcγレセプターへの結合性を変化させるための改変
本発明のアミノ酸改変とFcγレセプターへの結合性を変化させる(増加させる、あるいは、低減させる)ためのアミノ酸の改変を組合わせることが可能である。Fcγレセプターへの結合性を変化せる改変としてはCurr Opin Biotechnol. 2009, 20(6):685-91.に記された改変が挙げられるが、これに限定されない。具体的な方法は、例えば、本発明の改変と、IgG1重鎖定常領域のEUナンバリング234番目および235番目のロイシン、および、272番目のアスパラギンを他のアミノ酸に置換する改変とを組合わせることによって、Fcγレセプターへの結合性を変化させることが可能である。置換後のアミノ酸としてはアラニンが挙げられるがこれに限定されない。
【0047】
以下、抗原結合活性を有するポリペプチドをコードするDNAの調製、1又は複数の塩基の改変、DNAの発現、発現産物の回収について説明する。
【0048】
抗原結合活性を有するポリペプチドをコードするDNAの調製
本発明において、抗原結合活性を有するポリペプチドをコードするDNA又は抗原結合活性を有しないポリペプチドをコードするDNAは、既知の配列(天然に存在する配列、存在しない配列)の全長もしくは一部、又はそれらの組み合わせを用いることが可能である。このようなDNAは当業者に公知の方法で取得することができる。例えば、抗体ライブラリーから取得することが可能であるし、モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマから抗体をコードする遺伝子をクローニングして取得することも可能である。
【0049】
抗体ライブラリーについては既に多くのものが公知であり、又、抗体ライブラリーの作製方法も公知であるので、当業者は適宜抗体ライブラリーを入手することが可能である。例えば、抗体ファージライブラリーについては、Clackson et al., Nature 1991, 352: 624-8、Marks et al., J. Mol. Biol. 1991, 222: 581-97、Waterhouses et al., Nucleic Acids Res. 1993, 21: 2265-6、Griffiths et al., EMBO J. 1994, 13: 3245-60、Vaughan et al., Nature Biotechnology 1996, 14: 309-14、又は特表平20−504970号公報等の文献を参照することができる。その他、真核細胞をライブラリーとする方法(WO95/15393号パンフレット)やリボソーム提示法等の公知の方法を用いることが可能である。さらに、ヒト抗体ライブラリーを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、抗原に結合するファージを選択することができる。選択されたファージの遺伝子を解析すれば、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列を元に適当な発現ベクターを作製し、ヒト抗体を取得することができる。これらの方法は既に周知であり、WO92/01047、WO92/20791、WO93/06213、WO93/11236、WO93/19172、WO95/01438、WO95/15388を参考にすることができる。
【0050】
ハイブリドーマから抗体をコードする遺伝子を取得する方法は、基本的には公知技術を使用することが出来る。具体的には、所望の抗原又は所望の抗原を発現する細胞を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫する。得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合し、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞(ハイブリドーマ)をスクリーニングする。得られたハイブリドーマのmRNAを、逆転写酵素を用いて逆転写することにより、抗体の可変領域(V領域)のcDNAを取得することが出来る。これを所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAと連結することにより、抗体をコードする遺伝子を取得することができる。
【0051】
より具体的には、以下の方法を例示できるかこれに限定されない。
抗体重鎖及び軽鎖をコードする抗体遺伝子を得るための感作抗原は、免疫原性を有する完全抗原と、免疫原性を示さないハプテン等を含む不完全抗原の両方を含む。例えば、目的タンパク質の全長タンパク質、又は部分ペプチドなどを用いることができる。その他、多糖類、核酸、脂質等から構成される物質が抗原となり得ることが知られており、本発明において抗原は特に限定されるものではない。抗原の調製は、当業者に公知の方法により行うことができ、例えば、バキュロウィルスを用いた方法(例えば、WO98/46777など)などに準じて行うことができる。ハイブリドーマの作製は、たとえば、ミルステインらの方法(G. Kohler and C. Milstein, Methods Enzymol. 1981, 73: 3-46)等に準じて行うことができる。抗原の免疫原性が低い場合には、アルブミン等の免疫原性を有する巨大分子と結合させ、免疫を行えばよい。また、必要に応じ抗原を他の分子と結合させることにより可溶性抗原とすることもできる。受容体のような膜貫通分子を抗原として用いる場合、受容体の細胞外領域部分を断片として用いたり、膜貫通分子を細胞表面上に発現する細胞を免疫原として使用することも可能である。
【0052】
抗体産生細胞は、上述の適当な感作抗原を用いて動物を免疫化することにより得ることができる。又は、抗体を産生し得るリンパ球をin vitroで免疫化して抗体産生細胞とすることもできる。免疫化する動物としては、各種哺乳動物を使用できるが、ゲッ歯目、ウサギ目、霊長目の動物が一般的に用いられる。マウス、ラット、ハムスター等のゲッ歯目、ウサギ等のウサギ目、カニクイザル、アカゲザル、マントヒヒ、チンパンジー等のサル等の霊長目の動物を例示することができる。その他、ヒト抗体遺伝子のレパートリーを有するトランスジェニック動物も知られており、このような動物を使用することによりヒト抗体を得ることもできる(WO96/34096; Mendez et al., Nat. Genet. 1997, 15: 146-56参照)。このようなトランスジェニック動物の使用に代えて、例えば、ヒトリンパ球をin vitroで所望の抗原又は所望の抗原を発現する細胞で感作し、感作リンパ球をヒトミエローマ細胞、例えばU266と融合させることにより、抗原への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公平1-59878号公報参照)。また、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物を所望の抗原で免疫することで所望のヒト抗体を取得することができる(WO93/12227、WO92/03918、WO94/02602、WO96/34096、WO96/33735参照)。
【0053】
動物の免疫化は、例えば、感作抗原をPhosphate-Buffered Saline(PBS)又は生理食塩水等で適宜希釈、懸濁し、必要に応じてアジュバントを混合して乳化した後、動物の腹腔内又は皮下に注射することにより行われる。その後、好ましくは、フロイント不完全アジュバントに混合した感作抗原を4〜21日毎に数回投与する。抗体の産生の確認は、動物の血清中の目的とする抗体力価を慣用の方法により測定することにより行われ得る。
【0054】
ハイブリドーマは、所望の抗原で免疫化した動物又はリンパ球より得られた抗体産生細胞を、慣用の融合剤(例えば、ポリエチレングリコール)を使用してミエローマ細胞と融合して作成することができる(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, Academic Press, 1986, 59-103)。必要に応じハイブリドーマ細胞を培養・増殖し、免疫沈降、放射免疫分析(RIA)、酵素結合免疫吸着分析(ELISA)等の公知の分析法により該ハイブリドーマより産生される抗体の結合特異性を測定する。その後、必要に応じ、目的とする特異性、親和性又は活性が測定された抗体を産生するハイブリドーマを限界希釈法等の手法によりサブクローニングすることもできる。
【0055】
続いて、選択された抗体をコードする遺伝子をハイブリドーマ又は抗体産生細胞(感作リンパ球等)から、抗体に特異的に結合し得るプローブ(例えば、抗体定常領域をコードする配列に相補的なオリゴヌクレオチド等)を用いてクローニングすることができる。また、mRNAからRT-PCRによりクローニングすることも可能である。免疫グロブリンは、IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMの5つの異なるクラスに分類される。さらに、これらのクラスは幾つかのサブクラス(アイソタイプ)(例えば、IgG-1、IgG-2、IgG-3、及びIgG-4;IgA-1及びIgA-2等)に分けられる。本発明において抗体の製造に使用する重鎖及び軽鎖は、これらいずれのクラス及びサブクラスに属する抗体に由来するものであってもよく、特に限定されないが、IgGは特に好ましいものである。
【0056】
ここで、重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子を遺伝子工学的手法により改変することも可能である。例えば、マウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ハムスター抗体、ヒツジ抗体、ラクダ抗体等の抗体について、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体等を適宜作製することができる。キメラ抗体は、ヒト以外の哺乳動物、例えば、マウス抗体の重鎖、軽鎖の可変領域とヒト抗体の重鎖、軽鎖の定常領域からなる抗体であり、マウス抗体の可変領域をコードするDNAをヒト抗体の定常領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得ることができる。ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称され、ヒト以外の哺乳動物、たとえばマウス抗体の相補性決定領域(CDR; complementary determining region) を連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成する。得られたDNAをヒト抗体定常領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得られる(EP239400; WO96/02576参照)。CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域のフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい(K. Sato et al., Cancer Res. 1993, 53: 851-856)。本発明のモノクローナル抗体には、このようなヒト化抗体やキメラ抗体が含まれる。
【0057】
本発明における抗体がキメラ抗体又はヒト化抗体である場合には、これらの抗体の定常領域は,好ましくはヒト抗体由来のものが使用される。例えば重鎖では、Cγ1、Cγ2、Cγ3、Cγ4を、軽鎖ではCκ、Cλを使用することができる。また、抗体又はその産生の安定性を改善するために、ヒト抗体定常領域を必要に応じ修飾してもよい。本発明におけるキメラ抗体は、好ましくはヒト以外の哺乳動物由来抗体の可変領域とヒト抗体由来の定常領域とからなる。一方、ヒト化抗体は、好ましくはヒト以外の哺乳動物由来抗体のCDRと、ヒト抗体由来のFR及びC領域とからなる。ヒト抗体由来の定常領域は、IgG(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、IgM、IgA、IgD及びIgE等のアイソタイプごとに固有のアミノ酸配列を有する。本発明におけるヒト化抗体に用いられる定常領域は、どのアイソタイプに属する抗体の定常領域であってもよい。好ましくは、ヒトIgGの定常領域が用いられるが、これに限定されるものではない。また、ヒト化抗体に利用されるヒト抗体由来のFRも特に限定されず、どのアイソタイプに属する抗体のものであってもよい。
【0058】
本発明におけるキメラ抗体及びヒト化抗体の可変領域及び定常領域は、元の抗体の結合特異性を示す限り、欠失、置換、挿入及び/又は付加等により改変されていてもよい。
【0059】
ヒト由来の配列を利用したキメラ抗体及びヒト化抗体は、ヒト体内における抗原性が低下しているため、治療目的などでヒトに投与する場合に有用と考えられる。
【0060】
本発明においては、抗体の生物学的特性を改変するためにアミノ酸が改変されていてもよい。
【0061】
また、低分子化抗体は、体内動態の性質の面からも、大腸菌、植物細胞等を用いて低コストで製造できる点からも抗体として有用である。
【0062】
抗体断片は低分子化抗体の一種である。また、低分子化抗体は、抗体断片をその構造の一部とする抗体も含む。本発明における低分子化抗体は、抗原への結合能を有していれば特にその構造、製造法等は限定されない。低分子化抗体の中には、全長抗体よりも高い活性を有する抗体も存在する(Orita et al., Blood(2005) 105: 562-566)。本明細書において「抗体断片」とは、全長抗体(whole antibody、例えばwhole IgG等)の一部分であれば特に限定されないが、重鎖可変領域(VH)又は軽鎖可変領域(VL)を含んでいることが好ましい。好ましい抗体断片の例としては、例えば、Fab、F(ab')2、Fab'、Fvなどを挙げることができる。抗体断片中の重鎖可変領域(VH)又は軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列は、置換、欠失、付加及び/又は挿入により改変されていてもよい。さらに抗原への結合能を保持する限り、重鎖可変領域(VH)又は軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列の一部を欠損させてもよい。例えば、前述の抗体断片のうち「Fv」は、完全な抗原認識部位と結合部位を含む最小の抗体断片である。「Fv」は、1つの重鎖可変領域(VH)及び1つの軽鎖可変領域(VL)が非共有結合により強く結合したダイマー(VH-VLダイマー)である。各可変領域の3つの相補鎖決定領域(complementarity determining region;CDR)によって、VH-VLダイマーの表面に抗原結合部位を形成する。6つのCDRが抗体に抗原結合部位を付与している。しかしながら、1つの可変領域(又は、抗原に特異的な3つのCDRのみを含むFvの半分)であっても、全結合部位よりも親和性は低いが、抗原を認識し、結合する能力を有する。従って、このようなFvより小さい分子も本発明における抗体断片に含まれる。又、抗体断片の可変領域はキメラ化やヒト化されていてもよい。
【0063】
低分子化抗体は、重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)の両方を含んでいることが好ましい。低分子化抗体の例としては、Fab、Fab'、F(ab')2及びFv等の抗体断片、並びに、抗体断片を利用して作製され得るscFv(シングルチェインFv)(Huston et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1988) 85: 5879-83; Pluckthun「The Pharmacology of Monoclonal Antibodies」Vol.113, Resenburg 及び Moore編, Springer Verlag, New York, pp.269-315, (1994))、Diabody(Holliger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1993) 90: 6444-8; EP404097号; WO93/11161号; Johnson et al., Method in Enzymology (1991) 203: 88-98; Holliger et al., Protein Engineering (1996) 9: 299-305; Perisic et al., Structure (1994) 2: 1217-26; John et al., Protein Engineering (1999) 12(7): 597-604; Atwell et al., Mol.Immunol. (1996) 33: 1301-12)、sc(Fv)2(Hudson et al、J Immunol. Methods (1999) 231: 177-89 ; Orita et al., Blood(2005) 105: 562-566)、Triabody(Journal of Immunological Methods (1999) 231: 177-89)、及びTandem Diabody(Cancer Research (2000) 60: 4336-41)等を挙げることができる。
【0064】
抗体断片は、抗体を酵素、例えばパパイン、ペプシン等のプロテアーゼにより処理して得ることができる(Morimoto et al., J. Biochem. Biophys. Methods (1992) 24: 107-17; Brennan et al., Science (1985) 229: 81参照)。また、該抗体断片のアミノ酸配列を基に、遺伝子組換えにより製造することもできる。
【0065】
抗体断片を改変した構造を有する低分子化抗体は、酵素処理若しくは遺伝子組換えにより得られた抗体断片を利用して構築することができる。又は、低分子化抗体全体をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させることもできる(例えば、Co et al., J. Immunol. (1994) 152: 2968-76; Better and Horwitz, Methods Enzymol. (1989) 178: 476-96; Pluckthun and Skerra, Methods Enzymol. (1989) 178: 497-515; Lamoyi, Methods Enzymol. (1986) 121: 652-63; Rousseaux et al., Methods Enzymol. (1986) 121: 663-9; Bird and Walker, Trends Biotechnol. (1991) 9: 132-7参照)。
【0066】
また、上記「scFv」は、2つの可変領域を、必要に応じリンカー等を介して、結合させた一本鎖ポリペプチドである。scFvに含まれる2つの可変領域は、通常、1つのVHと1つのVLであるが、2つのVH又は2つのVLであってもよい。一般にscFvポリペプチドは、VH及びVLドメインの間にリンカーを含み、それにより抗原結合のために必要なVH及びVLの対部分が形成される。通常、同じ分子内でVH及びVLの間で対部分を形成させるために、一般に、VH及びVLを連結するリンカーを10アミノ酸以上の長さのペプチドリンカーとする。しかしながら、本発明におけるscFvのリンカーは、scFvの形成を妨げない限り、このようなペプチドリンカーに限定されるものではない。scFvの総説として、Pluckthun『The Pharmacology of Monoclonal Antibody』Vol.113(Rosenburg and Moore ed., Springer Verlag, NY, pp.269-315 (1994))を参照することができる。
【0067】
また、「ダイアボディ(diabody; Db)」は、遺伝子融合により構築された二価(bivalent)の抗体断片を指す(P.Holliger et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90: 6444-6448 (1993)、EP404,097号、WO93/11161号等)。ダイアボディは、2本のポリペプチド鎖から構成されるダイマーであり、ポリペプチド鎖は各々、同じ鎖中で軽鎖可変領域(VL)及び重鎖可変領域(VH)が、互いに結合できない位に短い、例えば、5残基程度のリンカーにより結合されている。同一ポリペプチド鎖上にコードされるVLとVHとは、その間のリンカーが短いため単鎖V領域フラグメントを形成することが出来ず二量体を形成するため、ダイアボディは2つの抗原結合部位を有することとなる。このとき2つの異なるエピトープ(a、b)に対するVLとVHをVLa-VHbとVLb-VHaの組合わせで5残基程度のリンカーで結んだものを同時に発現させると二重特異性Dbとして分泌される。
【0068】
Diabodyは、2分子のscFvを含むことから、4つの可変領域を含み、その結果、2つの抗原結合部位を持つこととなる。ダイマーを形成させないscFvの場合と異なり、Diabodyの形成を目的とする場合、通常、各scFv分子内のVH及びVL間を結ぶリンカーは、ペプチドリンカーとする場合には、5アミノ酸前後のものとする。しかしながら、Diabodyを形成するscFvのリンカーは、scFvの発現を妨げず、Diabodyの形成を妨げない限り、このようなペプチドリンカーに限定されない。
なお本発明の低分子化抗体及び抗体断片は、さらに抗体重鎖定常領域及び/又は軽鎖定常領域のアミノ酸配列を有することが好ましい。
【0069】
1又は複数の塩基の改変
本発明において「塩基の改変」とは、DNAによってコードされるポリペプチドが目的のアミノ酸残基を有するように、DNAに対して少なくとも1塩基を挿入、欠失又は置換するような遺伝子操作もしくは変異処理を行うことを意味する。即ち、元のアミノ酸残基をコードするコドンを、目的のアミノ酸残基をコードするコドンに変換することを意味する。このような塩基の改変は、部位特異的突然変異(例えば、Kunkel (1985) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82: 488参照)、PCR変異導入法、カセット変異等の方法により行うことができる。一般に、生物学的特性の改善された抗体変異体は70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%以上、97%、98%、99%等)のアミノ酸配列の相同性及び/又は類似性を元となった抗体の可変領域のアミノ酸配列に対して有する。本明細書において、配列の相同性及び/又は類似性は、配列の相同性が最大の値を取るように必要に応じ配列を整列化、及びギャップ導入した後、元となったアミノ酸残基と相同(同じ残基)又は類似(一般的なアミノ酸の側鎖の特性に基づき同じグループに分類されるアミノ酸残基)するアミノ酸残基の割合として定義される。通常、天然のアミノ酸残基は、その側鎖の性質に基づいて(1)疎水性:アラニン、イソロイシン、バリン、メチオニン及びロイシン;(2)中性親水性:アスパラギン、グルタミン、システイン、スレオニン及びセリン;(3)酸性:アスパラギン酸及びグルタミン酸;(4)塩基性:アルギニン、ヒスチジン及びリジン;(5)鎖の配向に影響する残基:グリシン及びプロリン;ならびに(6)芳香族性:チロシン、トリプトファン及びフェニルアラニンのグループに分類される。アミノ酸の改変数は、例えば10、9、8、7、6、5、4、3、2、または1アミノ酸とすることが出来るがこれらに限定されない。
【0070】
通常、重鎖及び軽鎖の可変領域中に存在する全部で6つの相補性決定領域(超可変部;CDR)が相互作用し、抗体の抗原結合部位を形成している。このうち1つの可変領域であっても全結合部位を含むものよりは低い親和性となるものの、抗原を認識し、結合する能力があることが知られている。従って、本発明の抗原結合活性を有するポリペプチドは所望の抗原との結合性を維持していればよく、抗体重鎖及び軽鎖の各々の抗原結合部位を含む断片部分をコードしていてもよい。
本発明の方法によって、上述のように、例えば、所望の、実際に活性を保持する、ポリペプチド多量体を効率的に取得することができる。
【0071】
本発明の好ましい態様において「改変」に供するアミノ酸残基としては、例えば、抗体重鎖及び軽鎖の可変領域のアミノ酸配列、抗体軽鎖及び軽鎖の可変領域のアミノ酸配列の中から適宜選択することができる。
【0072】
DNAの発現
このように改変されたポリペプチドをコードするDNAは、適当なベクターへクローニング(挿入)され、宿主細胞へ導入される。ベクターとしては、挿入した核酸を安定に保持するものであれば特に制限されず、例えば宿主に大腸菌を用いるのであれば、クローニング用ベクターが挙げられる。クローニング用ベクターとしてはpBluescriptベクター(Stratagene社製)などが好ましいが、市販の種々のベクターを利用することができる。本発明のポリペプチド多量体もしくはポリペプチドを生産する目的においてベクターを用いる場合には、特に発現ベクターが有用である。発現ベクターとしては、試験管内、大腸菌内、培養細胞内、生物個体内でポリペプチドを発現するベクターであれば特に制限されない。例えば、試験管内発現であればpBESTベクター(プロメガ社製)、大腸菌内発現であればpETベクター(Invitrogen社製)、培養細胞内発現であればpME18S-FL3ベクター(GenBank Accession No. AB009864)、生物個体内での発現であればpME18Sベクター(Mol Cell Biol. 8:466-472(1988))などが好ましい。ベクターへのDNAの挿入は、常法により、例えば、制限酵素サイトを用いたリガーゼ反応により行うことができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 11.4-11.11)。
【0073】
上記宿主細胞としては特に制限はなく、目的に応じて種々の宿主細胞が用いられる。ポリペプチドを発現させるための細胞としては、例えば、細菌細胞(例:ストレプトコッカス、スタフィロコッカス、大腸菌、ストレプトミセス、枯草菌)、真菌細胞(例:酵母、アスペルギルス)、昆虫細胞(例:ドロソフィラS2、スポドプテラSF9)、動物細胞(例:CHO、COS、HeLa、C127、3T3、BHK、HEK293、Bowes メラノーマ細胞)及び植物細胞を例示することができる。宿主細胞へのベクター導入は、例えば、リン酸カルシウム沈殿法、電気パルス穿孔法(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 9.1-9.9)、リポフェクション法、マイクロインジェクション法などの公知の方法で行うことが可能である。
【0074】
宿主細胞において発現したポリペプチドを小胞体の内腔に、細胞周辺腔に、又は細胞外の環境に分泌させるために、適当な分泌シグナルを目的のポリペプチドに組み込むことができる。これらのシグナルは目的のポリペプチドに対して内因性であっても、異種シグナルであってもよい。
なお第1から第4のポリペプチドの発現ベクターの構築においては、第1から第4のポリペプチドをコードするDNAを別個のベクターに導入し、発現ベクターとすることが出来る。あるいは、第1から第4のポリペプチドをコードするDNAのうち複数のDNA(例えば第1のポリペプチドをコードするDNAと第2のポリペプチドをコードするDNA)を1個のベクターに導入し、発現ベクターとすることが出来る。1個のベクターに複数のDNAを導入して発現ベクターとする場合、導入されるポリペプチドをコードするDNAの組み合わせは限定されない。
【0075】
発現産物の回収
発現産物の回収は、ポリペプチドが培地に分泌される場合は、培地を回収する。ポリペプチドが細胞内に産生される場合は、その細胞をまず溶解し、その後にポリペプチドを回収する。
組換え細胞培養物からポリペプチドを回収し精製するには、硫酸アンモニウム又はエタノール沈殿、酸抽出、アニオン又はカチオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー及びレクチンクロマトグラフィーを含めた公知の方法を用いることができる。
本発明においてはプロテインAアフィニティクロマトグラフィーが好ましい。
プロテインAを用いたカラムとしては、Hyper D(PALL製), POROS(Applied Biosystems製), Sepharose F. F. (GE製)、ProSep(Millipore製)等が挙げられるがこれらに限定されない。また、プロテインAアフィニティクロマトグラフィーには、プロテイン AのIgG結合能をmimicするようなリガンドを結合させた樹脂を用いることもできる。プロテイン A mimicを用いた場合も、本発明のアミノ酸改変により、その結合力に差が生じ、目的のポリペプチド多量体を分離・精製することが可能である。プロテイン A mimicとしては、例えば、mabSelect SuRE(GE Healthcare製)が挙げられるがこれに限定されない。
【0076】
また本発明は、本発明の製造方法又は精製方法によって得られるポリペプチド多量体を提供する。
さらに本発明は、第1の抗原結合活性を有するポリペプチド及び第2の抗原結合活性を有する又は抗原結合活性を有しないポリペプチドを含むポリペプチド多量体であって、第1のポリペプチドと第2のポリペプチドのプロテインAへの結合力が異なるポリペプチド多量体を提供する。
このようなポリペプチド多量体は、本明細書に記載の方法によって取得することが出来る。またこのようなポリペプチド多量体の具体的な構造や性質は上述の通りである。以下にその概要を示す。
【0077】
本発明のポリペプチド多量体は、アミノ酸改変前と比較してプロテインAへの結合力が改変されている。より具体的には、第1の抗原結合活性を有するポリペプチド及び第2の抗原結合活性を有する又は抗原結合活性を有しないポリペプチドの両方又はいずれか一方のプロテインAへの結合力が改変されている。本発明のポリペプチド多量体は、第1の抗原結合活性を有するポリペプチドのプロテインAへの結合力と第2の抗原結合活性を有する又は抗原結合活性を有しないポリペプチドのプロテインAへの結合力が異なる。そのため、アフィニティクロマトグラフィーにおいて第1のポリペプチドをプロテインAから溶出させる溶媒のpHと、第2のポリペプチドをプロテインAから溶出させる溶媒のpHが異なる。
【0078】
また第1のポリペプチド及び/又は第2のポリペプチドは、1又は2つの第3のポリペプチドと多量体を形成することが出来る。
従って本発明は、第1の抗原結合活性を有するポリペプチド、第2の抗原結合活性を有する又は抗原結合活性を有しないポリペプチド、及び1つ又は2つの第3の抗原結合活性を有するポリペプチドを含むポリペプチド多量体であって、第1のポリペプチドと第2のポリペプチドのプロテインAへの結合力が異なるポリペプチド多量体に関する。このようなポリペプチド多量体もまた、本明細書に記載の方法によって取得することが出来る。
さらに上記のポリペプチド多量体には、第4のポリペプチドが含まれていてもよい。第1のポリペプチド又は第2のポリペプチドのどちらか一方が第3のポリペプチドと多量体を形成し、他方が第4のポリペプチドと多量体を形成することが出来る。
従って本発明は、第1の抗原結合活性を有するポリペプチド、第2の抗原結合活性を有する又は抗原結合活性を有しないポリペプチド、第3の抗原結合活性を有するポリペプチド及び第4の抗原結合活性を有するポリペプチドを含むポリペプチド多量体であって、第1のポリペプチドと第2のポリペプチドのプロテインAへの結合力が異なるポリペプチド多量体に関する。このようなポリペプチド多量体もまた、本明細書に記載の方法によって取得することが出来る。
【0079】
上記第1の抗原結合活性を有するポリペプチド及び、第2の抗原結合活性を有する又は抗原結合活性を有しないポリペプチドは、抗体重鎖定常領域のアミノ酸配列又は抗体Fc領域のアミノ酸配列を含むことが出来る。抗体重鎖定常領域又は抗体Fc領域のアミノ酸配列として、ヒトIgG由来の定常領域のアミノ酸配列を挙げることが出来るがこれに限定されない。
また上記第3の抗原結合活性を有するポリペプチド及び第4の抗原結合活性を有するポリペプチドは、抗体軽鎖定常領域のアミノ酸配列を含むことが出来る。
また抗原結合活性を有するポリペプチドは、抗体可変領域(例えばCDR1、CDR2、CDR3、FR1、FR2、FR3、FR4のアミノ酸配列)のアミノ酸配列を含むことが出来る。
また上記第1の抗原結合活性を有するポリペプチド及び第2の抗原結合活性を有する又は抗原結合活性を有しないポリペプチドは、抗体重鎖のアミノ酸配列又は抗体軽鎖可変領域と抗体重鎖定常領域からなるアミノ酸配列を含むことが出来る。上記第3の抗原結合活性を有するポリペプチド及び第4の抗原結合活性を有するポリペプチドは、抗体軽鎖のアミノ酸配列又は抗体重鎖可変領域と抗体軽鎖定常領域からなるアミノ酸配列を含むことが出来る。
【0080】
本発明のポリペプチド多量体は、多重特異性抗体であることが出来る。本発明における多重特異性抗体として、2種類の抗原に対して特異的に結合することができる二重特異性抗体を挙げることができるがこれに限定されない。
【0081】
本発明のポリペプチド多量体は、第1の抗原結合活性を有するポリペプチドのプロテインAへの結合力と第2の抗原結合活性を有する又は抗原結合活性を有しないポリペプチドのプロテインAへの結合力が異なる(差がつく)ように、1又は複数のアミノ酸残基が改変されている。改変位置としては、上述の通り、例えば抗体のFc領域又は重鎖定常領域におけるEUナンバリング250-255位のTLMISR、308-317位のVLHQDWLNGK、430-436位のEALHNHY、好ましくは250-254位のTLMIS、309-312位のLHQD、314-315位のLN、430位のE、432-436LHNHY、さらに好ましくは251-254位のLMIS、309-311位のLHQ、314位のL、432-435位のLHNH、特に252-254位のMIS、309位のL、311位のQ、434-436位のNHYのアミノ酸残基が挙げられるこれらに限定されない。また抗体の重鎖可変領域のアミノ酸の改変に関しては、FR1、CDR2、FR3が好ましい改変位置として挙げられる。
【0082】
より具体的には、本発明のポリペプチド多量体として、第1の抗原結合活性を有するポリペプチド又は第2の抗原結合活性を有する若しくは抗原結合活性を有しないポリペプチドのいずれか一方のポリペプチドにおいて、抗体Fc領域又は抗体重鎖定常領域のアミノ酸配列におけるEUナンバリング435位のアミノ酸残基がヒスチジン又はアルギニンであり、
他方のポリペプチドにおいて、抗体Fc領域又は抗体重鎖定常領域のアミノ酸配列におけるEUナンバリング435位のアミノ酸残基が一方のポリペプチドとは異なるアミノ酸残基であるポリペプチド多量体を挙げることが出来るがこれに限定されない。
【0083】
また本発明のポリペプチド多量体として、第1の抗原結合活性を有するポリペプチド又は第2の抗原結合活性を有する若しくは抗原結合活性を有しないポリペプチドのいずれか一方のポリペプチドにおいて、抗体重鎖定常領域のアミノ酸配列におけるEUナンバリング435位アミノ酸残基がヒスチジンであり、
他方のポリペプチドにおいて、抗体重鎖定常領域のアミノ酸配列におけるEUナンバリングによる435位のアミノ酸残基がアルギニンであるポリペプチド多量体を挙げることが出来るがこれに限定されない。
【0084】
さらに本発明の第1のポリペプチド及び第2のポリペプチドを含むポリペプチド多量体として以下を例示できるがこれらに限定されない。
(1)ヒトIgG由来の抗体重鎖定常領域のアミノ酸配列におけるEUナンバリング435位及び436位のアミノ酸残基がそれぞれヒスチジン(His)及びチロシン(Tyr)に改変されたアミノ酸配列を含む第1のポリペプチド又は第2のポリペプチドを含むポリペプチド多量体。
このようなポリペプチド多量体として、例えば、配列番号:9、11、13又は15に記載のアミノ酸配列を含む第1のポリペプチド又は第2のポリペプチドを含むポリペプチド多量体が挙げられるがこれらに限定されない。
(2)ヒトIgG由来の抗体重鎖定常領域のアミノ酸配列におけるEUナンバリング435位及び436位のアミノ酸残基がそれぞれアルギニン(Arg)及びフェニルアラニン(Phe)に改変されたアミノ酸配列を含む第1のポリペプチド又は第2のポリペプチドを含むポリペプチド多量体。
このようなポリペプチド多量体として、例えば、配列番号:10又は12に記載のアミノ酸配列を含む第1のポリペプチド又は第2のポリペプチドを含むポリペプチド多量体が挙げられるがこれらに限定されない。
(3)ヒトIgG由来の抗体重鎖定常領域のアミノ酸配列におけるEUナンバリング435位及び436位のアミノ酸残基がそれぞれアルギニン(Arg)及びチロシン(Tyr)に改変されたアミノ酸配列を含む第1のポリペプチド又は第2のポリペプチドを含むポリペプチド多量体。
このようなポリペプチド多量体として、例えば、配列番号:14に記載のアミノ酸配列を含む第1のポリペプチド又は第2のポリペプチドを含むポリペプチド多量体が挙げられるがこれらに限定されない。
(4)第1のポリペプチド又は第2のポリペプチドのいずれか一方のポリペプチドにおいて、ヒトIgG由来の抗体重鎖定常領域のアミノ酸配列におけるEUナンバリング435位及び436位のアミノ酸残基がそれぞれヒスチジン(His)及びチロシン(Tyr)に改変されたアミノ酸配列を含むポリペプチド及び、他方のポリペプチドにおいて抗体重鎖定常領域のアミノ酸配列におけるEUナンバリング435位及び436位のアミノ酸残基がそれぞれアルギニン(Arg)及びフェニルアラニン(Phe)に改変されたアミノ酸配列を含む第ポリペプチドを含むポリペプチド多量体。
このようなポリペプチド多量体として、例えば、配列番号:9、11、13又は15に記載のアミノ酸配列を含む第1のポリペプチド及び、配列番号:10又は12に記載のアミノ酸配列を含む第2のポリペプチドを含むポリペプチド多量体が挙げられるがこれらに限定されない。
(5)第1のポリペプチド又は第2のポリペプチドのいずれか一方のポリペプチドにおいて、ヒトIgG由来の抗体重鎖定常領域のアミノ酸配列におけるEUナンバリング435位及び436位のアミノ酸残基がそれぞれヒスチジン(His)及びチロシン(Tyr)に改変されたアミノ酸配列を含むポリペプチド及び、他方のポリペプチドにおいて抗体重鎖定常領域のアミノ酸配列におけるEUナンバリング435位及び436位のアミノ酸残基がそれぞれアルギニン(Arg)及びチロシン(Tyr)に改変されたアミノ酸配列を含むポリペプチドを含むポリペプチド多量体。
このようなポリペプチド多量体として、例えば、配列番号:9、11、13又は15に記載のアミノ酸配列を含む第1のポリペプチド及び、配列番号:14に記載のアミノ酸配列を含む第2のポリペプチドを含むポリペプチド多量体が挙げられるがこれらに限定されない。
(6)第1のポリペプチド又は第2のポリペプチドのいずれか一方のポリペプチドにおいて、ヒトIgG由来の抗体重鎖定常領域のアミノ酸配列におけるEUナンバリング435位及び436位のアミノ酸残基がそれぞれアルギニン(Arg)及びフェニルアラニン(Phe)に改変されたアミノ酸配列を含むポリペプチド、及び他方のポリペプチドにおいて抗体重鎖定常領域のアミノ酸配列におけるEUナンバリング435位及び436位のアミノ酸残基がそれぞれアルギニン(Arg)及びチロシン(Tyr)に改変されたアミノ酸配列を含むポリペプチドを含むポリペプチド多量体。
このようなポリペプチド多量体として、例えば、配列番号:10又は12に記載のアミノ酸配列を含む第1のポリペプチド及び、配列番号:14に記載のアミノ酸配列を含む第2のポリペプチドを含むポリペプチド多量体が挙げられるがこれらに限定されない。
上記第1のポリペプチド及び第2のポリペプチドは、更に抗体重鎖可変領域を含むことが出来る。また上記(1)から(6)のポリペプチド多量体は、第3のポリペプチド及び/又は第4のポリペプチドを有していてもよい。
また本発明は、EUナンバリング435位及び436位のアミノ酸残基のいずれか一方に変異を有するポリペプチドを含むポリペプチド変異体を提供する。このようなポリペプチド変異体として、実施例に挙げられているポリペプチドを含むポリペプチド変異体が挙げられるがこれらに限定されない。
【0085】
また本発明は、本発明のポリペプチド多量体を構成するポリペプチド(抗原結合活性を有するポリペプチド)をコードする核酸を提供する。さらに該核酸を担持するベクターを提供する。
【0086】
さらに本発明は、上記核酸又はベクターを含む宿主細胞を提供する。該宿主細胞は、特に制限されず、例えば、大腸菌や種々の植物細胞、動物細胞などを挙げることができる。宿主細胞は、例えば、本発明のポリペプチド多量体もしくはポリペプチドの製造や発現のための産生系として使用することができる。ポリペプチド多量体もしくはポリペプチド製造のための産生系には、in vitro及びin vivoの産生系がある。in vitroの産生系としては、真核細胞を使用する産生系及び原核細胞を使用する産生系が挙げられる。
【0087】
宿主細胞として使用できる真核細胞として、例えば、動物細胞、植物細胞、真菌細胞が挙げられる。動物細胞としては、哺乳類細胞、例えば、CHO(J. Exp. Med. (1995) 108: 945)、COS、HEK293、3T3、ミエローマ、BHK(baby hamster kidney)、HeLa、Vero等、両生類細胞、例えばアフリカツメガエル卵母細胞(Valle et al., Nature (1981) 291: 338-340)、及び昆虫細胞、例えば、Sf9、Sf21、Tn5が例示される。本発明のポリペプチド多量体もしくはポリペプチドの発現においては、CHO-DG44、CHO-DX11B、COS7細胞、HEK293細胞、BHK細胞が好適に用いられる。動物細胞において、大量発現を目的とする場合には特にCHO細胞が好ましい。宿主細胞へのベクターの導入は、例えば、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、カチオニックリボソームDOTAP(Boehringer Mannheim製)を用いた方法、エレクトロポレーション法、リポフェクションなどの方法で行うことが可能である。
【0088】
植物細胞としては、例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)由来の細胞及びウキクサ(Lemna minor)が蛋白質生産系として知られており、この細胞をカルス培養する方法により本発明のポリペプチド多量体もしくはポリペプチドを産生させることができる。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属の細胞(サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロミセス・ポンベ(Saccharomyces pombe)等)、及び糸状菌、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属の細胞(アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)等)を用いた蛋白質発現系が公知であり、本発明のポリペプチド多量体もしくはポリペプチド産生の宿主として利用できる。
【0089】
原核細胞を使用する場合、細菌細胞を用いる産生系がある。細菌細胞としては、上述の大腸菌(E. coli)に加えて、枯草菌を用いた産生系が知られており、本発明のポリペプチド多量体もしくはポリペプチド産生に利用できる。
【0090】
本発明の宿主細胞を用いてポリペプチド多量体もしくはポリペプチドを産生する場合、本発明のポリペプチド多量体もしくはポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターにより形質転換された宿主細胞の培養を行い、ポリヌクレオチドを発現させればよい。培養は、公知の方法に従って行うことができる。例えば、動物細胞を宿主とした場合、培養液として、例えば、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDMを使用することができる。その際、FBS、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用しても、無血清培養により細胞を培養してもよい。培養時のpHは、約6〜8とするのが好ましい。培養は、通常、約30〜40℃で約15〜200時間行い、必要に応じて培地の交換、通気、攪拌を加える。
【0091】
一方、in vivoでポリペプチドを産生させる系としては、例えば、動物を使用する産生系や植物を使用する産生系が挙げられる。これらの動物又は植物に目的とするポリヌクレオチドを導入し、動物又は植物の体内でポリペプチドを産生させ、回収する。本発明における「宿主」とは、これらの動物、植物を包含する。
【0092】
動物を使用する場合、哺乳類動物、昆虫を用いる産生系がある。哺乳類動物としては、ヤギ、ブタ、ヒツジ、マウス、ウシ等を用いることができる(Vicki Glaser, SPECTRUM Biotechnology Applications (1993))。また、哺乳類動物を用いる場合、トランスジェニック動物を用いることができる。
【0093】
例えば、本発明のポリペプチド多量体もしくはポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、ヤギβカゼインのような乳汁中に固有に産生されるポリペプチドをコードする遺伝子との融合遺伝子として調製する。次いで、この融合遺伝子を含むポリヌクレオチド断片をヤギの胚へ注入し、この胚を雌のヤギへ移植する。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ又はその子孫が産生する乳汁から、目的の抗体を得ることができる。トランスジェニックヤギから産生される抗体を含む乳汁量を増加させるために、適宜ホルモンをトランスジェニックヤギに投与してもよい(Ebert et al., Bio/Technology (1994) 12: 699-702)。
【0094】
また、本発明のポリペプチド多量体もしくはポリペプチドを産生させる昆虫としては、例えばカイコを用いることができる。カイコを用いる場合、目的のポリペプチド多量体もしくはポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを挿入したバキュロウィルスをカイコに感染させることにより、このカイコの体液から目的のポリペプチド多量体もしくはポリペプチドを得ることができる(Susumu et al., Nature (1985) 315: 592-4)。
【0095】
さらに、植物を本発明のポリペプチド多量体もしくはポリペプチド産生に使用する場合、例えばタバコを用いることができる。タバコを用いる場合、目的とするポリペプチド多量体もしくはポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを植物発現用ベクター、例えばpMON 530に挿入し、このベクターをアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)のようなバクテリアに導入する。このバクテリアをタバコ、例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)に感染させ、本タバコの葉より所望のポリペプチド多量体もしくはポリペプチドを得ることができる(Ma et al., Eur. J. Immunol. (1994) 24: 131-8)。また、同様のバクテリアをウキクサ(Lemna minor)に感染させ、クローン化した後にウキクサの細胞より所望のポリペプチド多量体もしくはポリペプチドを得ることができる(Cox KM et al. Nat. Biotechnol. 2006 Dec;24(12):1591-1597)。
【0096】
このようにして得られたポリペプチド多量体もしくはポリペプチドは、宿主細胞内又は細胞外(培地、乳汁など)から単離し、実質的に純粋で均一なポリペプチド多量体もしくはポリペプチドとして精製することができる。ポリペプチド多量体もしくはポリペプチドの分離、精製は、通常のポリペプチドの精製で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。例えば、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透析、再結晶等を適宜選択、組み合わせて抗体を分離、精製することができる。
【0097】
クロマトグラフィーとしては、例えばアフィニティクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が挙げられる(Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual. Ed Daniel R. Marshak et al.(1996) Cold Spring Harbor Laboratory Press)。これらのクロマトグラフィーは、液相クロマトグラフィー、例えばHPLC、FPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。アフィニティクロマトグラフィーに用いるカラムとしては、プロテインAカラム、プロテインGカラムが挙げられる。例えば、プロテインAを用いたカラムとして、Hyper D, POROS, Sepharose F. F. (Pharmacia製)等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0098】
必要に応じ、ポリペプチド多量体もしくはポリペプチドの精製前又は精製後に適当なタンパク質修飾酵素を作用させることにより、任意に修飾を加えたり部分的にペプチドを除去することもできる。タンパク質修飾酵素としては、例えば、トリプシン、キモトリプシン、リシルエンドペプチダーゼ、プロテインキナーゼ、グルコシダーゼなどが用いられる。
【0099】
上述のように本発明の宿主細胞を培養し、該細胞培養物からポリペプチドを回収する工程を含む、本発明のポリペプチド多量体もしくはポリペプチドの製造方法もまた、本発明の好ましい態様の一つである。
【0100】
また本発明は、本発明のポリペプチド多量体もしくはポリペプチド、及び医薬的に許容される担体を含む医薬組成物(薬剤)に関する。本発明において医薬組成物とは、通常、疾患の治療もしくは予防、あるいは検査・診断のための薬剤を言う。
【0101】
本発明の医薬組成物は、当業者に公知の方法で製剤化することが可能である。例えば、水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形で非経口的に使用できる。例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤などと適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することが考えられる。これら製剤における有効成分量は、指示された範囲の適当な容量が得られるように設定する。
【0102】
注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。
【0103】
注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬(例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム)を含む等張液が挙げられる。適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80(TM)、HCO-50等)を併用してもよい。
【0104】
油性液としてはゴマ油、大豆油があげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル及び/又はベンジルアルコールを併用してもよい。また、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液及び酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩酸プロカイン)、安定剤(例えば、ベンジルアルコール及びフェノール)、酸化防止剤と配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填する。
【0105】
本発明の医薬組成物は、好ましくは非経口投与により投与される。例えば、注射剤型、経鼻投与剤型、経肺投与剤型、経皮投与型の組成物とすることができる。例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などにより全身又は局部的に投与することができる。
投与方法は、患者の年齢、症状により適宜選択することができる。ポリペプチド多量体もしくはポリペプチド、又はそれらをコードするポリヌクレオチドを含有する医薬組成物の投与量は、例えば、一回につき体重1kgあたり0.0001mgから1000mgの範囲に設定することが可能である。又は、例えば、患者あたり0.001〜100000mgの投与量とすることもできるが、本発明はこれらの数値に必ずしも制限されるものではない。投与量及び投与方法は、患者の体重、年齢、症状などにより変動するが、当業者であればそれらの条件を考慮し適当な投与量及び投与方法を設定することが可能である。
また、必要に応じ本発明の多重特異性抗体を、その他の医薬成分と組み合わせて製剤化することもできる。
なお本明細書において引用されたすべての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0106】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕抗体遺伝子発現ベクターの作製と各抗体の発現
抗体H鎖可変領域として、次のものが使用された。Q153(抗ヒトF.IX抗体のH鎖可変領域、配列番号:1)、Q407(抗ヒトF.IX抗体のH鎖可変領域、配列番号:2)、J142(抗ヒトF.X抗体のH鎖可変領域、配列番号:3)、J300(抗ヒトF.X抗体のH鎖可変領域、配列番号:4)、MRA-VH(抗ヒトインターロイキン-6受容体抗体のH鎖可変領域、配列番号:5)。
抗体L鎖として、次のものが使用された。L180-k(抗ヒトF.IX抗体/抗ヒトF.X抗体共通L鎖、配列番号:6)、L210-k(抗ヒトF.IX抗体/抗ヒトF.X抗体共通L鎖、配列番号:7)、MRA-k(抗ヒトインターロイキン-6受容体抗体のL鎖、配列番号:8)。
抗体H鎖定常領域として、次のものが使用された。IgG4にEUナンバリング228番目のSerをProに置換する変異を導入してC末端のGly及びLysを除去したG4d(配列番号:9)、G4dにEUナンバリング435番目のHisをArgに置換する変異、EUナンバリング436番目のTyrをPheに置換する変異及びEUナンバリング445番目のLeuをProに置換する変異を導入したz72(配列番号:10)、G4dにEUナンバリング356番目のGluをLysに置換する変異を導入したz7(配列番号:11)、z72にEUナンバリング439番目のLysをGluに置換する変異を導入したz73(配列番号:12)、z7にEUナンバリング196番目のLysをGlnに置換する変異、EUナンバリング296番目のPheをTyrに置換する変異及びEUナンバリング409番目のArgをLysに置換する変異を導入したz106(配列番号:13)、z73にEUナンバリング196番目のLysをGlnに置換する変異、EUナンバリング296番目のPheをTyrに置換する変異、EUナンバリング409番目のArgをLysに置換する変異およびEUナンバリング436番目のPheをTyrに置換する変異を導入したz107(配列番号:14)、IgG1のC末端のGly及びLysを除去したG1d(配列番号:15)。EUナンバリング356番目のGluをLysに置換する変異及びEUナンバリング439番目のLysをGluに置換する変異は、ヘテロ抗体を産生する際に、各H鎖のヘテロ分子を効率的に形成させるためである((WO 2006/106905) PROCESS FOR PRODUCTION OF POLYPEPTIDE BY REGULATION OF ASSEMBLY)。
【0107】
Q153の下流にG4dあるいはz7を連結することで、抗ヒトF.IX抗体H鎖遺伝子Q153-G4dあるいはQ153-z7が作製された。Q407の下流にz106を連結することで、抗ヒトF.IX抗体H鎖遺伝子Q407-z106が作製された。J142の下流にG4d、z72あるいはz73を連結することで、抗ヒトF. X抗体H鎖遺伝子J142-G4d、J142-z72あるいはJ142-z73が作製された。J300の下流にz107を連結することで、抗ヒトF. X抗体H鎖遺伝子J300-z107が作製された。MRA-VHの下流にG1d、z106あるいはz107を連結することで、抗ヒトインターロイキン-6受容体抗体H鎖遺伝子MRA-G1d、MRA-z106あるいはMRA-z107が作製された。
各抗体遺伝子(Q153-G4d、Q153-z7、Q407-z106、J142-G4d、J142-z72、J142-z73、J300-z106、MRA-G1d、MRA-z106、MRA-z107、L180-k、L210-k、MRA-k)は、動物細胞発現ベクターに組み込まれた。
作製した発現ベクターを用いて、以下の抗体をFreeStyle293細胞(invitrogen)へのトランスフェクションにより、一過性に発現させた。以下の通り、トランスフェクションする複数の抗体遺伝子を並べたものを抗体名として表記した。
MRA-G1d/MRA-k
MRA-z106/MRA-z107/MRA-k
Q153-G4d/J142-G4d/L180-k
Q153-G4d/J142-z72/L180-k
Q153-z7/J142-z73/L180-k
Q407-z106/J300-z107/L210-k
【0108】
〔実施例2〕プロテインAアフィニティクロマトグラフィーの溶出条件の検討
Q153-G4d/J142-G4d/L180-k及びQ153-G4d/J142-z72/L180-kを一過性に発現させ得られたFreeStyle293細胞培養液(以下CMと略す)を試料として、プロテインAアフィニティクロマトグラフィーの溶出条件を検討した。D-PBSで平衡化したrProtein A Sepharose Fast Flowカラム(GE Healthcare)に、φ0.22μmフィルターで濾過したCMを負荷し、表1に示す洗浄1、2、溶出1〜5を段階的に実施した。カラムに負荷する抗体量が20 mg/mL resineになるようにCMの負荷量を調節した。各条件の溶出画分を分取し、陽イオン交換クロマトグラフィー分析により、各溶出画分に含まれている成分を同定した。コントロールには各CMをrProtein G Sepharose Fast Flow樹脂 (GE Healthcare)に負荷し、バッチで溶出することにより精製した試料を用いた。プロテインGは抗体のFab部分に結合するため、プロテインGを用いることで、プロテインAへの親和性とは無関係に、CM中に存在する全ての抗体(目的の2種類のH鎖がヘテロ会合化した二重特異性抗体(ヘテロ抗体)、及び、不純物の1種類のH鎖がホモ会合化した単特異性のホモ抗体)を精製することが可能である。
【0109】
【表1】
【0110】
Q153-G4d/J142-G4d/L180-k及びQ153-G4d/J142-z72/L180-kを発現させたCMのプロテインAカラムの各溶出画分(溶出1〜5)の陽イオン交換クロマトグラフィー分析を行った。 Q153-G4d/J142-G4d/L180-kは、溶出1画分から溶出5画分になるにつれて、つまり溶出に用いた溶媒のpHが下がるにつれて、各画分に含まれる抗体成分が、ホモ抗体J142-G4d/L180-kからヘテロ抗体Q153-G4d/J142-G4d/L180-k、そしてホモ抗体Q153-G4d/L180-kの順に変化していることが判明した。溶出の順番はプロテインAへの結合力の強さに準じていると考えられる。つまり、高pHで溶出したホモ体J142-G4d/L180-k(FXに対するホモ抗体)よりも低pHになるまで結合したままだったホモ抗体Q153-G4d/L180-kの方がプロテインAに対する結合力が強いということになる。可変領域J142はプロテインAに結合しない配列であることが分かっている。つまり、ホモ体J142-G4d/L180-k(FXに対するホモ抗体)はプロテインAへの結合部位が2ヶ所、ヘテロ抗体Q153-G4d/J142-G4d/L180-kは3ヶ所、ホモ抗体Q153-G4d/L180-k(FIXに対するホモ抗体)は4ヶ所となっている。よって、プロテインAへの結合部位数が多いほど、プロテインAに強く結合し、溶出させるために必要なpHが低くなるということが判明した。
一方Q153-G4d/J142-z72/L180-kでは、溶出1画分から溶出5画分になるにつれて、各画分に含まれる抗体成分が、ヘテロ抗体Q153-G4d/J142-z72/L180-k次いでホモ抗体Q153-G4d/L180-kの順に変化していることが判明した。ホモ抗体J142-z72/L180-k(FXに対するホモ抗体)は各溶出画分においてほとんど検出されなかったため、プロテインAに対する結合が欠失していることが示唆された。J142-z72に導入されているEUナンバリング435番目のHisをArgに置換する変異により、プロテインAに結合しなくなると考えられる。ホモ抗体J142-z72/L180-k(FXに対するホモ抗体)はプロテインAへの結合部位がなく、ヘテロ抗体Q153-G4d/J142-z72/L180-kは2ヶ所、ホモ抗体Q153-G4d/L180-k(FIXに対するホモ抗体)は4ヶ所となる。ホモ抗体J142-z72/L180-k(FXに対するホモ抗体)はプロテインAに結合せず素通りするため、各溶出画分で検出されなかった。また、Q153-G4d/J142-G4d/L180-k及びQ153-G4d/J142-z72/L180-kともに、pH3.6とそれ以下のpHでヘテロ抗体とホモ抗体Q153-G4d /L180-k(FIXに対するホモ抗体)を分離できる可能性が示唆された。
【0111】
〔実施例3〕プロテインAクロマトグラフィーによるヘテロ抗体の分離精製
下記に示す抗体のCMを試料として用いた。
・Q153-G4d/J142-G4d/L180-k
・Q153-G4d/J142-z72/L180-k
・Q153-z7/J142-z73/L180-k
・Q407-z106/J300-z107/L210-k
D-PBSで平衡化したrProtein A Sepharose Fast Flowカラム (GE Healthcare)にφ0.22μmフィルターで濾過したCMを負荷し、表2に示す洗浄1、2、溶出1、2を実施した(Q407-z106/J300-z107/L210-k は溶出1のみの実施)。溶出条件は実施例2の結果を参考にした。負荷する抗体量が20 mg/mL resineになるようにCMの負荷量を調節した。各条件の溶出画分を分取し、陽イオン交換クロマトグラフィー分析により、各溶出画分に含まれている成分を同定した。コントロールには実施例2と同様に、各CMをrProtein G Sepharose Fast Flow樹脂 (GE Healthcare)に負荷し、バッチで溶出することにより精製した試料を用いた。
【0112】
【表2】
【0113】
各溶出画分の陽イオン交換クロマトグラフィー分析の結果を以下の表3に示した。値は溶出ピークの面積をパーセントで表記した。Q153-G4d/J142-G4d/L180-k以外の抗体ではFXに対するホモ抗体がいずれの溶出画分にもほとんど検出されなかった。実施例2で示したホモ抗体J142-z72(FXに対するホモ抗体)だけでなく、ホモ抗体J142-z73及びJ300-z107(FXに対するホモ抗体)もプロテインAに結合しなくなっているということが判明した。これは、FXに対する抗体のH鎖定常領域に導入されているEUナンバリング435番目のHisをArgに置換する変異によりFXに対するホモ抗体においてプロテインAに対する結合性が失われているためと考えられた。目的の二重特異性抗体であるヘテロ抗体は大部分が溶出1画分で検出され、FIXに対するホモ抗体は溶出1画分にもわずかに検出されたが、大部分が溶出2で溶出していた。Q153-G4d/J142-z72/L180-kと比較して、Q153-z7/J142-z73/L180-k及びQ407-z106/J300-z107/L210-kにおいて、pH3.6溶出画分の目的の二重特異性抗体であるヘテロ抗体の割合が大幅に向上した。EUナンバリング435番目のHisをArgに置換する変異に加えて、各H鎖のヘテロ分子を効率的に形成させるためのEUナンバリング356番目のGluをLysに置換する変異およびEUナンバリング439番目のLysをGluに置換する変異を導入することで、プロテインA精製工程のみにより、目的の二重特異性抗体であるヘテロ抗体を98%以上の純度で精製可能であることが明らかになった。
以上より、ホモ抗体とヘテロ抗体のプロテインA結合部位の数の差を利用し、プロテインAクロマトグラフィー工程のみを用いることで、ヘテロ抗体を高純度にかつ効率的に分離精製することが可能であることを見出した。
【0114】
【表3】
【0115】
【表4】
【0116】
【表5】
【0117】
【表6】
【0118】
〔実施例4〕ヒトFcRnトランスジェニックマウスにおける薬物動態評価
実施例3の検討により、二重特異性抗体の各H鎖定常領域にz106(配列番号:13)及びz107(配列番号:14)を用いることで、目的の二重特異性抗体であるヘテロ抗体をプロテインA工程のみにより98%以上の純度で精製可能であることが見出された。一方、プロテインAとヒトFcRnはIgG抗体の同一箇所を認識するため(J Immunol. 2000 164(10):5313-8.)、プロテインAへの結合性を失わせることによって、ヒトFcRnへの結合性も失われる可能性が高い。実際、プロテインAを用いて95%の純度まで二重特異性抗体を精製する方法として報告されているラットIgG2bのH鎖(プロテインAに結合しない)を用いる方法が報告されているが、この方法を用いて精製された二重特異性抗体であるCatumaxomabは、ヒトにおける半減期が約2.1日であり、通常のヒトIgG1の半減期は2〜3週間と比較して極めて短い(非特許文献2)。そこで、実施例3に用いたz106(配列番号:13)とz107(配列番号:14)を定常領域として有する抗体の薬物動態の評価を行った。
ヒトにおける半減期を予測する薬物動態試験として、ヒト FcRnトランスジェニックマウス(B6.mFcRn-/-.hFcRn Tg line 276 +/+ マウス、Jackson Laboratories)を用いた薬物動態の評価は以下の通り行った。IgG1を定常領域として有するMRA-G1d/MRA-k(以下MRA-IgG1)及びz106/z107を定常領域として有するMRA-z106/MRA-z107/MRA-k(以下MRA-z106/z107)をそれぞれマウスに1 mg/kgの投与量で静脈内に単回投与し適時採血を行った。採取した血液は直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離し、血漿を得た。分離した血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存した。血漿中濃度はELISA法を用いて測定した。
MRA-IgG1及びMRA-z106/z107kのヒトFcRnトランスジェニックマウスにおける血漿中滞留性の評価を行った結果、
図1に示すとおり、MRA-z106/z107はMRA-IgG1と比較して同等以上の血漿中滞留性を示した。これにより、ヘテロ抗体をプロテインA精製工程のみにより高純度にかつ効率的に精製又は製造できる定常領域であるz106/z107は、ヒトIgG1と同等以上の血漿中滞留性を有することが見出された。
【0119】
〔実施例5〕抗体遺伝子発現ベクターの作製と各抗体の発現
抗体H鎖可変領域として、次のものが使用された。
・Q499(抗ヒトF.IX抗体のH鎖可変領域、配列番号:16)
・J339(抗ヒトF.X抗体のH鎖可変領域、配列番号:17)。
抗体L鎖として、次のものが使用された。
・L377-k(抗ヒトF.IX抗体/抗ヒトF.X抗体共通L鎖、配列番号:18)。
抗体H鎖定常領域として、次のものが使用された。
・実施例1に記載のz106にEUナンバリング405番目のLeuをPheに置換する変異を導入したz118(配列番号:19)
・z118にEUナンバリング435番目のHisをArgに置換する変異を導入したz121(配列番号:20)
・z118にEUナンバリング356番目のLysをGluに置換する変異及びEUナンバリング439番目のGluをLysに置換する変異を導入したz119(配列番号:21)
Q499の下流にz118あるいはz121を連結することで、抗ヒトF.IX抗体H鎖遺伝子Q499-z118あるいはQ499-z121が作製された。J339の下流にz119を連結することで、抗ヒトF. X抗体H鎖遺伝子J339-z119が作製された。
各抗体遺伝子(Q499-z118、Q499-z121、J339-z119、L377-k)は、動物細胞発現ベクターに組み込まれた。
作製した発現ベクターを用いて、以下の抗体をFreeStyle293細胞(invitrogen)へのトランスフェクションにより、一過性に発現させた。以下の通り、トランスフェクションする複数の抗体遺伝子を並べたものを抗体名として表記した。
Q499-z118/J339-z119/L377-k
Q499-z121/J339-z119/L377-k
上記2つの抗体は、抗ヒトF.IX抗体H鎖のEUナンバリング435番目のアミノ酸が違うだけである。z118は435番目がHisであり、プロテインAに対する結合能を有しているが、z121は435番目がArgであり、実施例2よりプロテインAに対する結合はなくなると考えられる。Q499はその配列からプロテインAには結合することが予想されるため、Q499-z118/J339-z119/L377-kのホモ体J339-z119/L377-k(FXに対するホモ抗体)はプロテインAへの結合部位が2ヶ所、ヘテロ抗体Q499-z118/J339-z119/L377-kは3ヶ所、ホモ抗体Q499-z118 /L377-k(FIXに対するホモ抗体)は4ヶ所となっている。一方、プロテインA非結合改変が導入されたQ499-z121/J339-z119/L377-kのホモ体J339-z119/L377-kはプロテインAへの結合部位が2ヶ所、ヘテロ抗体Q499-z121/J339-z119/L377-kは2ヶ所、ホモ抗体Q499-z121 /L377-kは2ヶ所となっている。つまり、プロテインA非結合改変(例えばEUナンバリング435番目のアミノ酸をArgに置換する改変)は、可変領域でプロテインAに結合するH鎖にのみ導入しても、プロテインA精製工程のみでヘテロ抗体を高純度かつ効率的に分離精製する効果は得られない。しかし、Q499に結合しない改変プロテインAであるMabSelct SuRe (GE Healthcare)を用いることで、プロテインA非結合改変の効果を出すことができる。MabSelect SuReは工業的要求を満たすために開発された抗体精製用のクロマトグラフィー担体で、リガンドは遺伝子工学的にアルカリ耐性を保持させた組換えプロテインAである。高いpH安定性をもつため、低価格かつ効率的なNaOH による洗浄が可能である。また、Q499などのVH3サブクラスの重鎖可変領域に結合しないという特徴を持っている。Q499-z118/J339-z119/L377-kのホモ体J339-z119/L377-kはMabSelect SuReへの結合部位が2ヶ所、ヘテロ抗体Q499-z118/J339-z119/L377-kは2ヶ所、ホモ抗体Q499-z118 /L377-kは2ヶ所となっている。一方、Q499-z121/J339-z119/L377-kのホモ体J339-z119/L377-kはMabSelect SuReへの結合部位が2ヶ所、ヘテロ抗体Q499-z121/J339-z119/L377-kは1ヶ所、ホモ抗体Q499-z121 /L377-kは0ヶ所となっている。すなわち、MabSelect SuReなど、抗体可変領域に結合しない改変プロテインAと、プロテインA非結合改変を組み合わせることで、重鎖可変領域のプロテインA結合能に関係なく、プロテインA精製工程のみでヘテロ抗体を高純度かつ効率的に分離精製することができると考えられる。
【0120】
〔実施例6〕改変プロテインAアフィニティクロマトグラフィーによるヘテロ抗体の分離精製
Q499-z118/J339-z119/L377-kおよびQ499-z121/J339-z119/L377-kを発現させたCMの改変プロテインAアフィニティクロマトグラフィーを行った。D-PBSで平衡化したMab Select SuRe カラム(GE Healthcare)にφ0.22 μmフィルターで濾過したCMを負荷し、表7に示す洗浄1、2、溶出を実施した。Mab Select SuReは、組換えプロテインAのIgG結合能を持つ5つのドメイン(A〜E)の内、Bドメインに対して遺伝子工学が施され、その改変Bドメインをテトラマー化した構造から成る。Mab Select SuReは、抗体の可変領域への結合能が欠失しており、それにより通常の組換えプロテインAよりも温和な条件で抗体を溶出することができる、という特徴を持っている。さらに、アルカリ耐性が増強しており、0.1〜0.5 M NaOHでの定置洗浄が可能であるため、生産により適した樹脂である。本実施例では、実施例3のようなpH3.6及びpH2.7の段階的溶出ではなく、表7に示すとおり50 mM Acetic acid(pH未調整、実測pH3.0付近)を採用した。溶出画分を分取し、陽イオン交換クロマトグラフィー分析により各溶出画分に含まれている成分を同定した。コントロールには実施例2と同様に、各CMをrProtein G Sepharose Fast Flow樹脂 (GE Healthcare)に負荷し、バッチで溶出することにより精製した試料を用いた。
【0121】
プロテインA溶出画分は、次いでイオン交換クロマトグラフィーを行った。平衡化バッファー(20 mM NaPhosphate buffer, pH6.0)で平衡化したSP Sepharose High Performanceカラム(GE Healthcare)に、1.5 M Tris-HCl,pH7.4による中和後、平衡化バッファーで3倍希釈したプロテインA溶出画分を負荷した。25 column volume(CV)で50 mMから350 mMのNaCl濃度グラディエント勾配をかけることで、カラムに結合した抗体を溶出させた。ヘテロ抗体が溶出した画分は、superdex200によるゲル濾過クロマトグラフィー精製に供し、モノマー画分を分取した。これを実施例7に記すヒトFcRnトランスジェニックマウスにおける薬物動態評価に用いた。
【0122】
【表7】
【0123】
各溶出画分の陽イオン交換クロマトグラフィー分析の結果を表8および表9に示した。Q499-z118/J339-z119/L377-kでは、表8に示すとおり、溶出画分に含まれる各成分の比率がコントロールと比較してあまり変化しなかった。これは、J339-z119/L377-k(F.Xに対するホモ抗体)、Q499-z118/L377-k(F.IXに対するホモ抗体)、Q499-z118/J339-z119/L377-k(ヘテロ抗体)の3種全ての改変プロテインAに対する結合部位が2ヶ所であるため、プロテインA精製工程中の結合や解離に差が生じなかったためと考えられた。
一方、Q499-z121/J339-z119/L377-kは、表9に示すとおり、溶出画分に含まれるQ499-z121/L377-k(F.IXに対するホモ抗体)の比率が、コントロールと比較して著しく減少した。これに対し、J339-z119/L377-k(F.Xに対するホモ抗体)及びQ499-z121/J339-z119/L377-k(ヘテロ抗体)の溶出画分の比率は、Q499-z121/L377-kが減少したことに伴い、コントロールと比較し相対的に増加する結果となった。これは、改変プロテインAに対する結合部位が、J339-z119/L377-k(F.Xに対するホモ抗体)が2ヶ所、Q499-z121/J339-z119/L377-k(ヘテロ抗体)が1ヶ所、Q499-z121/L377-k(F.IXに対するホモ抗体)が0ヶ所であり、ほとんどのQ499-z121/L377-kが改変プロテインAに結合せずパスしたためと考えられた。
以上より、プロテインA結合能を有する可変領域を持つ抗体においても、プロテインA非結合改変と改変プロテインAを組み合わせることで、プロテインA精製工程のみで一方のホモ抗体を著しく減少させ、ヘテロ抗体の純度を高めることができることを見出した。
【0124】
【表8】
【0125】
【表9】
【0126】
〔実施例7〕ヒトFcRnトランスジェニックマウスにおける薬物動態評価
実施例6で調製されたQ499-z118/J339-z119/L377-kとQ499-z121/J339-z119/L377-kの薬物動態評価を行った。
図2のように、プロテインAとヒトFcRnはIgG抗体の同一箇所を認識するため(J Immunol. 2000 164(10):5313-8.)、ヒトFcRnへの結合を保持したままプロテインAへの結合活性を調整することは困難であると予想される。ヒトFcRnへの結合力の保持は、IgGタイプの抗体の特徴であるヒトにおける長い血漿中滞留性(長い半減期)に極めて重要である。そこで、実施例6で調製されたQ499-z118/J339-z119/L377-kとQ499-z121/J339-z119/L377-kの薬物動態を比較した。
ヒトにおける半減期を予測する薬物動態試験として、ヒト FcRnトランスジェニックマウス(B6.mFcRn-/-.hFcRn Tg line 276 +/+ マウス、Jackson Laboratories)を用いた薬物動態の評価は以下の通り行った。Q499-z118/J339-z119/L377-k及びQ499-z121/J339-z119/L377-kをそれぞれマウスに5 mg/kgの投与量で静脈内に単回投与し適時採血を行った。採取した血液は直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離し、血漿を得た。分離した血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存した。血漿中濃度はELISA法を用いて測定した。
【0127】
その結果、
図3に示すとおり、Q499-z118/J339-z119/L377-kとQ499-z121/J339-z119/L377-kは同程度の血漿中滞留性を示した。これにより、片方のH鎖にProtein A非結合改変が導入された定常領域であるz121/z119は、プロテインA非結合改変が導入されていないz118/z119と同等の血漿中滞留性を有することが見出された。よって、可変領域によらずプロテインA精製工程のみでヘテロ抗体を高純度かつ効率的に分離精製することができ、薬物動態にも影響を与えない、プロテインA非結合改変(例えばEUナンバリング435番目のアミノ酸をArgに置換する改変)を見出すことができた。
【0128】
〔実施例8〕GC33-IgG1-CD3-scFvのCH3ドメインへの変異導入によるプロテインA精製工程のみを用いた目的分子の調製
プロテインAによるGC33-IgG1-CD3-scFv分子の精製のための変異導入
抗GPC3 IgG抗体の2つのH鎖のうち、片側のH鎖のみに抗CD3 scFv抗体を付与した分子(
図4)の作製を検討した。本分子は、癌特異的抗原であるglypican-3(GPC3)に2価で結合し、T細胞抗原であるCD3に1価で結合することで、癌細胞にT細胞をリクルートし癌細胞を殺傷することが可能であると考えられた。CD3に1価で結合するためには、2つのH鎖のうち、片側のH鎖のみに抗CD3 scFv抗体が付加されている必要があるため、これら2種類のH鎖のヘテロ会合化した分子の精製が必要である。
そこで、実施例3と同様の手法を用いて、一方のH鎖にEUナンバリング435番目のHisをArgに置換する変異を導入し、さらに、2種類のH鎖のヘテロ会合化を促進する改変として WO 2006/106905 (PROCESS FOR PRODUCTION OF POLYPEPTIDE BY REGULATION OF ASSEMBLY)に記載された変異(一方のH鎖のEUナンバリング356番目のAspをLysに置換し、もう一方のH鎖のEUナンバリング439番目のLysをGluに置換する)を組み合わせることで、プロテインAクロマトグラフィーのみにより、目的とする分子を精製することが可能かどうかを検証した。
【0129】
抗体遺伝子発現ベクターの作製と各抗体の発現
抗体H鎖可変領域として、GPC3(抗ヒトGlypican-3抗体 H鎖可変領域、配列番号:22)をコードする遺伝子を当業者に公知の方法により作製した。抗体L鎖として、GC33-k0(抗ヒトGlypican-3抗体L鎖、配列番号:23)をコードする遺伝子を当業者に公知の方法により作製した。抗体H鎖定常領域として、以下に示す遺伝子を当業者に公知の方法により作製した。
・IgG1にEUナンバリング234番目および235番目のLeuをAlaに置換し、297番目のAsnをAlaに置換する変異を導入して、C末端のGly及びLysを除去したLALA-G1d(配列番号:24)
・LALA -G1dにCD3のscFv(抗ヒトCD3抗体H鎖可変領域及び抗ヒトCD3抗体L鎖可変領域をポリペプチドリンカーで結合したもの)をC末端に結合したLALA-G1d-CD3(配列番号:25)
・LALA-G1dにEUナンバリング435番目のHisをArgに置換する変異及びEUナンバリング439番目のLysをGluに置換する変異を導入したLALA-G3S3E-G1d(配列番号:26)、LALA-G1d-CD3にEUナンバリング356番目のAspをLysに置換する変異を導入したLALA-S3K-G1d-CD3(配列番号:27)。
抗ヒトGlypican-3抗体のH鎖可変領域GPC3の下流に、H鎖定常領域に抗CD3 scFv抗体を付与したLALA-G1d-CD3あるいはH鎖定常領域であるLALA-G1dを連結することで、抗ヒトGPC3抗体H鎖遺伝子NTA1LあるいはNTA1Rが作製された。さらに、GPC3の下流にH鎖定常領域に抗CD3 scFv抗体を付与し、且つ、EUナンバリング356番目のAspをLysに置換する変異を導入したLALA-S3K-G1d-CD3あるいはEUナンバリング435番目のHisをArgに置換する変異及びEUナンバリング439番目のLysをGluに置換する変異を導入したLALA-G3S3E-G1dを連結することで、抗ヒトGPC3抗体H鎖遺伝子NTA2LあるいはNTA2Rが作製された。作製した遺伝子は以下の通りである。
H鎖
・NTA1L:GPC3-LALA-G1d-CD3
・NTA1R:GPC3-LALA-G1d
・NTA2L:GPC3-LALA-S3K-G1d-CD3
・NTA2R:GPC3-LALA-G3S3E-G1d
L鎖
・GC33-k0
各抗体遺伝子(H鎖;NTA1L, NTA1R, NTA2L, NTA2R, L鎖;GC33-k0)は、動物細胞発現ベクターに組み込まれた。作製した発現ベクターを用いて、以下の抗体を当業者に公知の方法でFreeStyle293細胞(invitrogen)へトランスフェクションし、一過性に発現させた。以下の通り、トランスフェクションする複数の抗体遺伝子を並べたものを抗体名として表記した(第一のH鎖/第二のH鎖/L鎖)。
・NTA1L/NTA1R/GC33-k0
・NTA2L/NTA2R/GC33-k0
【0130】
発現サンプルのプロテイン精製とヘテロダイマー収率の評価
下記に示す抗体のFreeStyle293細胞の培養上清(CM)を試料として用いた。
・NTA1L/NTA1R/GC33-k0
・NTA2L/NTA2R/GC33-k0
D-PBSで平衡化したrProtein A Sepharose Fast Flowカラム (GE Healthcare)にφ0.22μmフィルターで濾過したCMを負荷し、表10に示す洗浄1、2、溶出1を実施した。負荷する抗体量が20 mg/mL resineになるようにCMの負荷量を調節した。溶出画分を分取し、サイズ排除クロマトグラフィー分析により、溶出画分に含まれている成分を同定した。
【0131】
【表10】
【0132】
各溶出画分のサイズ排除クロマトグラフィー分析の結果を以下の
図5及び表11に示した。値は溶出ピークの面積をパーセントで表記した。NTA1L/NTA1R/GC33-k0及びNTA2L/NTA2R/GC33-k0は両鎖に抗CD3 scFv抗体を有するホモ抗体(NTA1Lホモ抗体及びNTA2Lホモ抗体)がほとんど検出されなかった。これは一般にscFv分子の発現量が低いことから、抗CD3 scFv抗体を含むH鎖の発現が極めて低いことに起因すると考えられた。両鎖に抗CD3 scFv抗体を有さないホモ抗体に関しては、NTA1L/NTA1R/GC33-k0においてはNTA1Rホモ抗体が76%程度検出されたのに対して、NTA2Rホモ抗体がNTA2L/NTA2R/GC33-k0においては2%程度しか検出されなかった。すなわち、EUナンバリング435番目のHisをArgに置換する変異に加えて、各H鎖のヘテロ分子を効率的に形成させるためのEUナンバリング356番目のGluをLysに置換する変異およびEUナンバリング439番目のLysをGluに置換する変異を導入することで、プロテインA精製工程のみにより、目的とする分子形のヘテロ抗体を98%以上の純度で効率的に精製可能であることが明らかになった。
【0133】
【表11】
【0134】
〔実施例9〕Monovalent type抗体のCH3ドメインへの変異導入によるプロテインA精製工程のみを用いた目的分子の調製
プロテインAによるmonovalent type抗体分子の精製のための変異導入
通常の抗GPC3 IgG抗体は2つのH鎖により癌特異的抗原であるglypican-3(GPC3)に2価で結合する。本実施例では、1価でglypican-3に結合する抗GPC3 IgG抗体分子(
図6)の作製を検討した。本分子は、癌特異的抗原であるglypican-3(GPC3)に1価で結合することで、通常の2価の抗体と比較してavidityではなくaffinityで結合し、さらに抗原をクロスリンクすることなく結合することが可能であると考えられた。Glypican-3(GPC3)に1価で結合するためには、2つのH鎖のうち、片側のH鎖は通常のH鎖であり、もう片方のH鎖は可変領域とCH1ドメインを欠損させたヒンジFcドメインのH鎖である必要があるため、これら2種類のH鎖のヘテロ会合化した分子の精製が必要である。
そこで、実施例3と同様の手法を用いて、一方のH鎖にEUナンバリング435番目のHisをArgに置換する変異を導入し、さらに、2種類のH鎖のヘテロ会合化を促進する改変として WO 2006/106905 (PROCESS FOR PRODUCTION OF POLYPEPTIDE BY REGULATION OF ASSEMBLY)に記載された変異(一方のH鎖のEUナンバリング356番目のAspをLysに置換し、もう一方のH鎖のEUナンバリング439番目のLysをGluに置換する)を組み合わせることで、プロテインAクロマトグラフィーのみにより、目的とする分子を精製することが可能かどうかを検証した。
【0135】
抗体遺伝子発現ベクターの作製と各抗体の発現
抗体H鎖可変領域として、次のものが使用された。GPC3(抗ヒトGlypican-3抗体 H鎖可変領域、配列番号:22)。
抗体L鎖として、次のものが使用された。GC33-k0(抗ヒトGlypican-3抗体のL鎖、配列番号:23)。
抗体H鎖定常領域として、次のものが使用された。
・IgG1にEUナンバリング234番目および235番目のLeuをAlaに置換し、297番目のAsnをAlaに置換する変異を導入して、C末端のGly及びLysを除去したLALA-G1d(配列番号:24)
・LALA-G1dにEUナンバリング435番目のHisをArgに置換する変異を導入したLALA-G3-G1d(配列番号:28)
・LALA-G3-G1dにEUナンバリング439番目のLysをGluに置換する変異を導入したLALA-G3S3E-G1d(配列番号:26)
・LALA-G1dのEUナンバリング1番目から215番目までを欠損させたLALA-G1Fc(配列番号:29)、G1FcにEUナンバリング356番目のAspをLysに置換する変異を導入したLALA-G1Fc-S3K(配列番号:30)。
抗ヒトGlypican-3抗体のH鎖可変領域GPC3の下流にH鎖定常領域であるLALA-G1d、EUナンバリング435番目のHisをArgに置換する変異を導入したLALA-G3-G1dあるいはEUナンバリング435番目のHisをArgに置換する変異とEUナンバリング439番目のLysをGluに置換する変異を導入したLALA-G3S3E-G1dを連結することで、抗ヒトGPC3抗体H鎖遺伝子NTA4L-cont、NTL4L-G3あるいはNTA4Lが作製された。さらに抗ヒトヒンジFcドメインであるLALA-G1FcあるいはEUナンバリング356番目のAspをLysに置換する変異を導入したヒンジFcドメインであるLALA-G1Fc-S3Kとして、Fc遺伝子NTA4R-contあるいはNTA4Rが作製された。作製した遺伝子は以下の通りである。
H鎖
・NTA4L-cont:GPC3-LALA-G1d
・NTA4L-G3:GPC3-LALA-G3-G1d
・NTA4L:GPC3-LALA-G3S3E-G1d
・NTA4R-cont: LALA-G1Fc
・NTA4R: LALA-G1Fc-S3K
L鎖
・GC33-k0
各抗体遺伝子(NTA4L、NTA4L-cont、NTA4L-G3、NTA4R、NTA4R-cont、GC33-k0)は、動物細胞発現ベクターに組み込まれた。
作製した発現ベクターを用いて、以下の抗体をFreeStyle293細胞(invitrogen)へのトランスフェクションにより、一過性に発現させた。以下の通り、トランスフェクションする複数の抗体遺伝子を並べたものを抗体名として表記した。
・NTA4L-cont/NTA4R-cont/GC33-k0
・NTA4L-G3/NTA4R-cont/GC33-k0
・NTA4L/NTA4R/GC33-k0
【0136】
発現サンプルのプロテイン精製とヘテロダイマー収率の評価
下記に示す抗体のCMを試料として用いた。
・NTA4L-cont/NTA4R-cont/GC33-k0
・NTA4L-G3/NTA4R-cont/GC33-k0
・NTA4L/NTA4R/GC33-k0
D-PBSで平衡化したrProtein A Sepharose Fast Flowカラム (GE Healthcare)にφ0.22μmフィルターで濾過したCMを負荷し、表12に示す洗浄1、2、溶出1を実施した。負荷する抗体量が20 mg/mL resineになるようにCMの負荷量を調節した。溶出画分を分取し、サイズ排除クロマトグラフィー分析により、溶出画分に含まれている成分を同定した。
【0137】
【表12】
【0138】
各溶出画分のサイズ排除クロマトグラフィー分析の結果を以下の
図7および表13に示した。値は溶出ピークの面積をパーセントで表記した。
NTA4L-cont/NTA4R-cont/GC33-k0はGPC3に対して2価で結合するホモ抗体(NTA4L-contホモ抗体)及びGPC3結合部位を有さないホモ分子(NTA4R-contホモ抗体)が溶出され、目的とするNTA4L-cont/NTA4R-contヘテロ抗体はわずか46.5%であった。
NTA4L-G3/NTA4R-cont/GC33-k0においては、GPC3に対して2価で結合するホモ抗体(NTA4L-G3ホモ抗体)がほとんど検出されなかったが、GPC3結合部位を有さないホモ分子(NTA4R-contホモ抗体)は多く含まれており、目的とするNTA4L-G3/NTA4R-contヘテロ抗体は66.7%であった。NTA4L/NTA4R/GC33-k0においては、GPC3に対して2価で結合するホモ抗体(NTA4Lホモ抗体)がほとんど検出されず、さらにGPC3結合部位を有さないホモ分子(NTA4R)の割合が大幅に低減し、目的とするNTA4L/NTA4Rヘテロ抗体の割合は93.0%まで大幅に向上した。すなわち、EUナンバリング435番目のHisをArgに置換する変異に加えて、各H鎖のヘテロ分子を効率的に形成させるためのEUナンバリング356番目のAspをLysに置換する変異およびEUナンバリング439番目のLysをGluに置換する変異を導入することで、プロテインA精製工程のみにより、目的とする分子形のヘテロ抗体を93%以上の純度で効率的に精製可能であることが明らかになった。
【0139】
【表13】
【0140】
〔実施例10〕pHグラジェント溶出によるプロテインAカラムクロマトグラフィー精製工程を用いたヘテロ抗体の調製
実施例9に記したように片腕のみ可変領域を有する抗体は、EUナンバリング435番目のHisをArgに置換する変異、WO 2006/106905 (PROCESS FOR PRODUCTION OF POLYPEPTIDE BY REGULATION OF ASSEMBLY)に記載された変異(一方のH鎖もしくはFcのEUナンバリング356番目のAspをLysに置換し、もう一方のH鎖のEUナンバリング439番目のLysをGluに置換する)を組み合わせることで、プロテインA精製工程のみで効率よくヘテロ抗体を精製できることが見出された。しかし、溶出液1(2 mM HCl, pH2.7)で溶出するだけでは、ヘテロ抗体の純度は十分に高いとは言えず、更なる精製工程を必要とする。
そこで本実施例では、プロテインAに対する結合部位数が多いほどプロテインAに強く結合し、溶出させるために必要なpHが低くなることを利用したpHグラジェント溶出によるプロテインAカラムクロマトグラフィー精製により、より高純度にヘテロ抗体を分離精製可能かどうかを検証した。pHグラジェント溶出により、ヘテロ抗体の純度を100%近くまで高めることができれば、精製工程のコストダウンと効率化を達成することができる。
下記に示す抗体のCMを試料として用いた。
・NTA4L-cont/NTA4R-cont/GC33-k0
・NTA4L-G3/NTA4R-cont/GC33-k0
・NTA4L/NTA4R/GC33-k0
D-PBSで平衡化したHiTrap protein A HPカラム(GE Healthcare)に、φ0.22μmフィルターで濾過したCMを負荷し、表14に示す洗浄1、2、溶出A・Bを用いたpHグラジェント溶出を順に実施した。pHグラジェント溶出は、溶出A:溶出B(100:0)→(30:70)35分の直線勾配として実施した。溶出画分を分取し、サイズ排除クロマトグラフィー分析により、各溶出画分に含まれている成分を同定した。
【0141】
【表14】
【0142】
NTA4L-cont/NTA4R-cont/GC33-k0とNTA4L-G3/NTA4R-cont/GC33-k0とNTA4L/NTA4R/GC33-k0のpHグラジェント溶出条件によるプロテインAカラムクロマトグラフィー精製のクロマトグラムを
図8に示した。NTA4L-cont/NTA4R-cont/GC33-k0はブロードなピークが1つ溶出した。NTA4L-G3/NTA4R-cont/GC33-k0はpHグラジェント溶出により、2つの溶出ピークが確認され、高pH側のピークを溶出1、低pH側のピークを溶出2とした。NTA4L/NTA4R/GC33-k0はNTA4L-G3/NTA4R-cont/GC33-k0と概ね同様の結果となったが、溶出2のピーク面積が小さかった。
各溶出ピークのサイズ排除クロマトグラフィー分析結果を表15に示した。NTA4L-cont/NTA4R-cont/GC33-k0は、溶出する順番に、GPC3に対して2価で結合するホモ抗体(NTA4L-contホモ抗体)、GPC3に対して1価で結合するヘテロ抗体(NTA4L-cont/NTA4R-concヘテロ抗体)、GPC3結合部位を有さないホモ分子(NTA4R-contホモ抗体)の3成分が検出された。各成分のプロテインAに対する結合部位数が同じ(2つ)であるため、pHグラジェント溶出で3成分を分離することができなかったと考えられる。NTA4L-G3/NTA4R-cont/GC33-k0の溶出1は、GPC3に対して2価で結合するホモ抗体(NTA4L-G3ホモ抗体)及びGPC3結合部位を有さないホモ分子(NTA4R-contホモ抗体)が検出限界以下であり、GPC3に対して1価で結合するヘテロ抗体(NTA4L-G3/NTA4R-concヘテロ抗体)が99.6%であることが判明した。溶出2では、98.8%がGPC3結合部位を有さないホモ分子(NTA4R-contホモ抗体)であることが判明した。NTA4L-G3ホモ抗体はEUナンバリング435番目のHisをArgに置換する変異により、プロテインAに結合できないため、プロテインAカラムを素通りする。また、プロテインAに対する結合部位数はNTA4L-G3/NTA4R-concヘテロ抗体が1つ、NTA4R-contホモ抗体は2つであり、結合部位数が多いほどプロテインAに強く結合し溶出させるために必要なpHが低くなるため、NTA4R-contホモ抗体がNTA4L-G3/NTA4R-concヘテロ抗体よりも低pHで溶出したと考えられる。NTA4L/NTA4R/GC33-k0に関しても概ね同様の結果となった。サイズ排除クロマトグラフィー分析結果は、NTA4L-G3/NTA4R-cont/GC33-k0とほぼ同じ成分比だったが、プロテインAのクロマトグラムには差異があり、NTA4L/NTA4R/GC33-k0の方が溶出1に対する溶出2のピーク面積が小さかった。これはNTA4L-G3/NTA4R-concヘテロ抗体を効率的に形成されるための変異が導入されているため、溶出2のメイン成分であるNTA4R-contホモ抗体の発現比率が低下したためである。上記アミノ酸変異により、pHグラジェント溶出によるプロテインAカラムクロマトグラフィー精製のヘテロ抗体の精製の収率および堅牢性が向上することができた。
以上より、pHグラジェント溶出によるプロテインAカラムクロマトグラフィー精製工程のみによって、ヘテロ抗体を高純度かつ効率的に分離精製することが可能であることを見出した。
【0143】
【表15】
【0144】
〔実施例11〕Monovalent FcalphaレセプターFc融合タンパク質のCH3ドメインへの変異導入によるプロテインA精製工程のみを用いた目的分子の調製
CH3ドメインへの変異導入によりプロテインA精製工程によるMonovalent FcalphaレセプターFc融合タンパク質の調製
EternerceptやAbataceptをはじめとする通常のFcレセプターFc融合タンパク質はホモダイマーであり、リガンドに対して2価で結合することができる。本実施例では、リガンドであるIgAに対して1価で結合するFcalphaレセプターFc融合(
図9)の作製を検討した。FcalphaレセプターがIgAに1価で結合するためには、2つのFcレセプターFc融合H鎖のうち、片側のH鎖は全長であり、ヒンジFcドメインのH鎖である必要があるため、これら2種類のH鎖のヘテロ会合化した分子の精製が必要である。
そこで、実施例6と同様の手法を用いて、一方のH鎖にEUナンバリング435番目のHisをArgに置換する変異を導入し、さらに、2種類のH鎖のヘテロ会合化を促進する改変として WO 2006/106905 (PROCESS FOR PRODUCTION OF POLYPEPTIDE BY REGULATION OF ASSEMBLY)に記載された変異(一方のH鎖のEUナンバリング356番目のAspをLysに置換し、もう一方のH鎖のEUナンバリング439番目のLysをGluに置換する)を組み合わせることで、プロテインAクロマトグラフィーのみにより、目的とする分子を精製することが可能かどうかを検証した。
【0145】
抗体遺伝子発現ベクターの作製と各抗体の発現
FcレセプターとしてFcalphaR(ヒトIgA1レセプター、配列番号:31)を使用した。
融合H鎖定常領域として次のものが使用された。
・IgG1のEUナンバリング1番目から223番目までとC末端のGlyおよびLysを欠損させたヒトヒンジFcドメインであるG1Fc(配列番号:32)
・G1FcにEUナンバリング356番目のAspをLysに置換する変異を導入し、さらに435番目のHisをArgに置換する変異を導入したG1Fc-G3S3K(配列番号:33)
・G1FcにEUナンバリング439番目のLysをGluに置換する変異を導入したG1Fc-S3E(配列番号:34)
FcalphaRの下流にポリペプチドリンカー(配列番号35)を介して、H鎖定常領域であるG1Fc、およびEUナンバリング356番目のAspをLysに、435番目のHisをArgに置換する変異を導入したG1Fc-G3S3Kを連結することで、FcalphaR-Fc融合タンパク質IAL-contおよびIALが作製された。
さらにヒトヒンジFcドメインであるG1FcあるいはEUナンバリング439番目のLysをGluに置換する変異を導入したヒンジFcドメインであるG1Fc-S3Eとして、Fc遺伝子IAR-contあるいはIARが作製された。作製した遺伝子は以下の通りである。
H鎖
・IAL-cont:FcalphaR-G1Fc
・IAL:FcalphaR-G1Fc-G3S3K
・IAR-cont: G1Fc
・IAR:G1Fc-S3E
各抗体遺伝子(IAL-cont, IAL, IAR-cont, IAR)は、動物細胞発現ベクターに組み込まれた。
作製した発現ベクターを用いて、以下の抗体をFreeStyle293細胞(invitrogen)へのトランスフェクションにより、一過性に発現させた。以下の通り、トランスフェクションする複数の抗体遺伝子を並べたものを抗体名として表記した。
・IAL-cont/IAR-cont
・IAL/IAR
【0146】
発現サンプルのプロテイン精製とヘテロダイマー収率の評価
下記に示す抗体のCMを試料として用いた。
・IAL-cont/IAR-cont
・IAL/IAR
D-PBSで平衡化したrProtein A Sepharose Fast Flowカラム (GE Healthcare)にφ0.22μmフィルターで濾過したCMを負荷し、表16に示す洗浄1、2、溶出1を実施した。負荷する抗体量が20 mg/mL resineになるようにCMの負荷量を調節した。溶出画分を分取し、サイズ排除クロマトグラフィー分析により、溶出画分に含まれている成分を同定した。
【0147】
【表16】
【0148】
各溶出画分のサイズ排除クロマトグラフィー分析の結果を以下の
図10および表17に示した。値は溶出ピークの面積をパーセントで表記した。IAL-cont/IAR-contはIgAに対して2価で結合するホモ抗体(IAL-contホモ抗体)及びIgA結合部位を有さないホモ分子(IAR-contホモ抗体)が溶出され、目的とするIAL-cont/IAR-contヘテロ抗体はわずか30%であった。IAL/IARにおいては、IgAに対して2価で結合するホモ抗体(IALホモ抗体)が検出されず、さらにIgA結合部位を有さないホモ分子(IARホモ抗体)の割合が大幅に低減し、目的とするIAL/IARヘテロ抗体の割合はおよそ96%まで大幅に向上した。すなわち、EUナンバリング435番目のHisをArgに置換する変異に加えて、各H鎖のヘテロ分子を効率的に形成させるためのEUナンバリング356番目のAspをLysに置換する変異およびEUナンバリング439番目のLysをGluに置換する変異を導入することで、プロテインA精製工程のみにより、目的とする分子形のヘテロ抗体を95%以上の純度で効率的に精製可能であることが明らかになった。
【0149】
【表17】
【0150】
〔実施例12〕4本鎖IgG型二重特異性抗体の調製
抗体遺伝子発現ベクターの作製と各抗体の発現
実施例1で調製したヒトF.IXとヒトF.Xに対する二重特異性抗体は、それぞれの抗原を認識する2種類のH鎖と共通のL鎖から構成される。このような共通L鎖を有する二重特異性抗体は取得することが容易ではない。それは2種類の抗原を共通の配列を有するL鎖で認識することが困難であるためである。このように共通L鎖の取得が極めて困難であることから、2種類の抗原を認識する2種類のH鎖と2種類のL鎖から構成される二重特異性抗体のほうが好ましいと考えられるが、2種類のH鎖と2種類のL鎖を発現させると、これらがランダムに組み合わさることで10種類のH2L2型のIgG分子が発現されてしまう。これらの10種類のうち目的とする二重特異性抗体を精製することは極めて困難である。
本実施例では、ヒトIL-6レセプターとヒトglypican-3(GPC3)に対する2種類のH鎖と2種類のL鎖から構成される二重特異性抗体の調製を検討した。2種類のH鎖と2種類のL鎖からなる二重特異性抗体を効率的に調製するためには、同じ抗原に対するH鎖とL鎖の会合を促進し、且つ、2種類のH鎖のヘテロ会合化を促進する必要がある。さらに得られた発現産物から正しい組み合わせを有する二重特異性抗体が精製できる必要がある。
同じ抗原に対するH鎖とL鎖の会合を促進するために、抗GPC3抗体であるGC33のH鎖(GC33-VH-CH1-hinge-CH2-CH3)の可変領域(VH)とL鎖(GC33-VL-CL)の可変領域(VL)をそれぞれ交換したH鎖(GC33-VL-CH1-hinge-CH2-CH3)とL鎖(GC33-VH-CL)を作製した(VHドメインとVLドメインを交換)。GC33-VL-CH1-hinge-CH2-CH3は、GC33-VH-CLとは会合するが、抗IL-6レセプター抗体のL鎖(MRA-VL-CL)との会合はVL/VLの相互作用が不安定なため阻害される。同様にして、抗IL-6レセプター抗体のH鎖(MRA-VH-CH1-hinge-CH2-CH3)は、MRA-VL-CLとは会合するが、抗GPC3抗体のL鎖(GC33-VH-CL)はVH/VHの相互作用が不安定なため阻害される。このようにして、同じ抗原に対するH鎖とL鎖の会合を促進することが可能であるが、VH/VLの相互作用よりは不安定であるがVH/VHおよびVL/VLの相互作用も起こることから(VH/VHの報告:FEBS Lett. 2003 Nov 20;554(3):323-9.、J Mol Biol. 2003 Oct 17;333(2):355-65.、VL/VLの報告:J Struct Biol. 2002 Jun;138(3):171-86.、Proc Natl Acad Sci U S A. 1985 Jul;82(14):4592-6.)、望ましくないH鎖同士およびL鎖同士の会合も少なからず起こってしまう。そのため、VHドメインとVLドメインを交換するだけでは、目的とする二重特異性抗体の割合は向上するものの、やはり10種類程度の組み合わせの産物が発現されてしまう。
【0151】
通常、この10種類のうち目的とする二重特異性抗体を精製することは極めて困難であるが、これら10種類の成分がそれぞれ異なる等電点を有するように改変を導入することによって、イオン交換クロマトグラフィーによる10種類の成分の分離を向上させることが可能である。そこで、抗IL-6レセプター抗体のH鎖可変領域であるMRA-VHに等電点を低下させる改変を導入し、等電点を低下させたH54-VHを作製した。同様にして、抗IL-6レセプター抗体のL鎖可変領域であるMRA-VLに等電点を低下させる改変を導入し、等電点を低下させたL28-VLを作製した。さらに抗GPC3抗体のH鎖可変領域であるGC33-VHに等電点を上昇させる改変を導入し、等電点を上昇させたHu22-VHを作製した。
抗GPC3抗体のH鎖とL鎖のVHとVLを交換することで、目的とするH鎖とL鎖の組み合わせは向上したが、H54-VH/Hu22-VHおよびL28-VL/GC33-VLの相互作用が完全に抑えられないことから、望ましくないH鎖とL鎖の会合も少なからず起こってしまう。VH/VHの相互作用する際、通常の抗体配列は39番目がグルタミンであり、VH/VH界面においてグルタミン同士が水素結合すると考えられている。そこで、H54-VH/Hu22-VHの相互作用をさらに減弱させるために、Kabatナンバリング39番目のグルタミンをリジンに置換した。これによりVH/VH界面においてリジン同士が静電反発することでVH/VHの相互作用が大幅に減弱すると考えられた。そこで、H54-VHおよびHu22-VHの配列中のKabatナンバリング39番目のグルタミンをリジンに置換したH54-VH-Q39KおよびHu22-VH-Q39Kを作製した。同様にして、VL/VLの相互作用においても、通常の抗体配列は38番目がグルタミンであるため、VL/VL界面においてグルタミン同士が水素結合すると考えられている。そこで、L28-VL/GC33-VLの相互作用をさらに減弱させるために、Kabatナンバリング38番目のグルタミンをグルタミン酸に置換した。これによりVL/VL界面においてグルタミン酸同士が静電反発することでVL/VLの相互作用が大幅に減弱すると考えられた。そこで、L28-VLおよびGC33-VLの配列中のKabatナンバリング39番目のグルタミンをグルタミン酸に置換したL28-VL-Q38EおよびGC33-VL-Q38Eを作製した。
【0152】
さらに効率的に目的とする二重特異性抗体を発現・精製するために、実施例3と同様の手法を用いて、一方のH鎖にEUナンバリング435番目のHisをArgに置換する変異を導入し、さらに、2種類のH鎖のヘテロ会合化を促進する改変として WO 2006/106905 (PROCESS FOR PRODUCTION OF POLYPEPTIDE BY REGULATION OF ASSEMBLY)に記載された変異(一方のH鎖のEUナンバリング356番目のAspをLysに置換し、もう一方のH鎖のEUナンバリング439番目のLysをGluに置換する)を組み合わせることで、2種類のH鎖がヘテロ会合化した分子をプロテインAクロマトグラフィーのみにより精製できるようにした。
すなわち、抗体H鎖可変領域として、次のものが使用された。
・MRA-VH(抗ヒトインターロイキン-6受容体抗体のH鎖可変領域、配列番号:36)
・GC33-VH(抗GPC3抗体のH鎖可変領域、配列番号:37)
・MRA-VHの等電点を低下させたH54-VH(抗ヒトインターロイキン-6受容体抗体のH鎖可変領域、配列番号:38)
・GC33-VHの等電点を上昇させたHu22-VH(抗GPC3抗体のH鎖可変領域、配列番号:39)
・H54-VHの配列中のKabatナンバリング39番目のGlnがLysに置換されたH54-VH-Q39K(配列番号:40)
・Hu22-VHの配列中のKabatナンバリング39番目のGlnがLysに置換されたHu22-VH-Q39K(配列番号:41)
また、抗体H鎖定常領域として、次のものが使用された。
・IgG1のH鎖定常領域の配列において、EUナンバリング234番目および235番目のLeuがAlaに置換され、297番目のAsnがAlaに置換され、C末端のGly及びLysが除去されたIgG1-LALA-N297A-CH(配列番号:42)
・IgG1-LALA-N297A-CHの配列のN末端にSerが2つ付加されたIgG1-LALA-N297A-CHr(配列番号:43)
・IgG1-LALA-N297A-CHの配列中のEUナンバリング439番目のLysがGluへ置換されたIgG1-LALA-N297A-s3-CH(配列番号:44)
・IgG1-LALA-N297A-CHrの配列中のEUナンバリング356番目のAspがLysへ置換され、435番目のHisがArgへ置換されたIgG1-LALA-N297A-G3s3-CHr(配列番号:45)
また、抗体L鎖可変領域として、次のものが使用された。
・MRA-VL(抗ヒトインターロイキン-6受容体抗体のL鎖可変領域、配列番号:46)
・GC33-VL(抗GPC3抗体のL鎖可変領域、、配列番号:47)
・MRA-VLの等電点を低下させたL28-VL(抗ヒトインターロイキン-6受容体抗体のL鎖可変領域、配列番号:48)
・L28-VLの配列中のKabatナンバリング38番目のGlnがGluに置換されたL28-VL-Q38E(配列番号:49)
・GC33-VLの配列中のKabatナンバリング38番目のGlnがGluに置換されたGC33-VL-Q38E(配列番号:50)
また、抗体L鎖定常領域として、次のものが使用された。
・IgG1-CL(IgG1のL鎖定常領域、配列番号:51)
・IgG1-CLの配列のC末端のAla及びSerが、Arg及びThrに置換されたIgG1-CLr(配列番号:52)
【0153】
MRA-VHの下流にIgG1-LALA-N297A-CHを連結することで、遺伝子no1-Mh-Hが作製された。MRA-VLの下流にIgG1-CLを連結することで、遺伝子no1-Mh-Lが作製された。GC33-VHの下流にIgG1-LALA-N297A-CHを連結することで、遺伝子no1-Gh-Hが作製された。GC33-VLの下流にIgG1-CLを連結することで、遺伝子no1-Gh-Lが作製された。
GC33-VLの下流にIgG1-LALA-N297A-CHrを連結することで、遺伝子no2-Gh-Hが作製された。GC33-VHの下流にIgG1-CLrを連結することで、遺伝子no2-Gh-Lが作製された。
H54-VHの下流にIgG1-LALA-N297A-CHを連結することで、遺伝子no3-Ml-Hが作製された。L28-VLの下流にIgG1-CLを連結することで、遺伝子no3-Ml-Lが作製された。Hu22-VHの下流にIgG1-CLrを連結することで、遺伝子no3-Ghh-Lが作製された。
H54-VHの下流にIgG1-LALA-N297A-s3-CHを連結することで、遺伝子no5-Ml-Hが作製された。GC33-VLの下流にIgG1-LALA-N297A-G3s3-CHrを連結することで、遺伝子no5-Gh-Hが作製された。
H54-VH-Q39Kの下流にIgG1-LALA-N297A-s3-CHを連結することで、遺伝子no6-Ml-Hが作製された。L28-VL-Q38Eの下流にIgG1-CLを連結することで、遺伝子no6-Ml-Lが作製された。GC33-VL-Q38Eの下流にIgG1-LALA-N297A-G3s3-CHrを連結することで、遺伝子no6-Gh-Hが作製された。Hu22-VH-Q39Kの下流にIgG1-CLrを連結することで、遺伝子no6-Ghh-Lが作製された。
各遺伝子(no1-Mh-H、no1-Mh-L、no1-Gh-H、no1-Gh-L、no2-Gh-H、no2-Gh-L、no3-Ml-H、no3-Ml-L、no3-Ghh-L、no5-Ml-H、no5-Gh-H、no6-Ml-H、no6-Ml-L、no6-Gh-H、no6-Ghh-L)は、動物細胞発現ベクターに組み込まれた。
以下に示す組み合わせの発現ベクターがFreeStyle293-F細胞に導入され、各目的分子を一過性に発現させた。
【0154】
A.目的分子:no1(
図11)
説明:天然型抗IL-6レセプター・抗GPC3二重特異性抗体
発現ベクターに挿入されたポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド:no1-Mh-H(配列番号:53)、no1-Mh-L(配列番号:54)、no1-Gh-H(配列番号:55)、no1-Gh-L(配列番号:56)
B.目的分子:no2(
図12)
説明:no1に対して、抗GPC3抗体のVHドメインとVLドメインを交換
発現ベクターに挿入されたポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド:no1-Mh-H、no1-Mh-L、no2-Gh-H(配列番号:57)、no2-Gh-L(配列番号:58)
C.目的分子:no3(
図13)
説明:no2に対して、各鎖の等電点を改変する改変を導入
発現ベクターに挿入されたポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド:no3-Ml-H(配列番号:59)、no3-Ml-L(配列番号:60)、no2-Gh-H、no3-Ghh-L(配列番号:61)
D.目的分子:no5(
図14)
説明:no3に対して、H鎖ヘテロ会合化を促進する改変とプロテインAによりヘテロ会合化した抗体を精製するための改変を導入
発現ベクターに挿入されたポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド:no5-Ml-H(配列番号:62)、no3-Ml-L、no5-Gh-H(配列番号:63)、no3-Ghh-L
E.目的分子:no6(
図15)
説明:no5に対して、目的のH鎖と目的のL鎖の会合を促進する改変を導入
発現ベクターに挿入されたポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド:no6-Ml-H(配列番号:64)、no6-Ml-L(配列番号:65)、no6-Gh-H(配列番号:66)、no6-Ghh-L(配列番号:67)
φ0.22μmフィルターで濾過して得られた培養上清に、培地で平衡化したrProtein A Sepharose Fast Flow樹脂(GE Healthcare)が添加され、バッチで溶出することにより精製した。プロテインGは抗体のFab部分に結合するため、プロテインGを用いることで、プロテインAへの親和性とは無関係に、CM中に存在する全ての抗体を精製することが可能である。
作製した抗体(no1、no2、no3、no5、no6)の発現パターンを、陽イオン交換クロマトグラフィー (IEC) により評価した。陽イオン交換クロマトグラフィーは、分析用カラムであるProPac WCX-10カラム(Dionex)を用い、移動相Aに20 mM MES-NaOH, pH6.1、移動相Bに20 mM MES-NaOH, 250 mM NaCl, pH6.1を使用し、0.5 mL/minの流速で適切なグラジエントで実施した。各抗体のIECによる評価結果を
図16に示した。天然型抗IL-6レセプター・抗GPC3二重特異性抗体のno1では複数のピークが近接しており、いずれのピークが目的とする二重特異性抗体であるのかを判別することは不可能であった。no1に対して、抗GPC3抗体のVHドメインとVLドメインを交換したno2においても同様であった。no2に対して、各鎖の等電点を改変する改変を導入したno3においてはじめて目的とする二重特異性抗体のピークを分離することが可能となった。no3に対して、H鎖ヘテロ会合化を促進する改変とプロテインAによりヘテロ会合化した抗体を精製するための改変を導入したno5において、大幅に目的とする二重特異性抗体のピークの割合が向上した。no5に対して、目的のH鎖と目的のL鎖の会合を促進する改変を導入したno6において、さらに目的とする二重特異性抗体のピークの割合が向上した。
そこで、no6のCMを用いて精製用カラムで目的とする二重特異性抗体を高純度で精製することが可能かどうかを検討した。D-PBSで平衡化したHiTrap protein A HPカラム(GE Healthcare)に、φ0.22μmフィルターで濾過したCMを負荷し、表18に示す洗浄1、2、溶出A・Bを用いたpHグラジェント溶出を順に実施した。pHグラジェント溶出は、溶出A:溶出B(100:0)→(35:65)40分の直線勾配として実施した。
【0155】
【表18】
【0156】
No6のpHグラジェント溶出の結果を
図17に示した。プロテインAに結合しない抗GPC3抗体のH鎖のホモ抗体はプロテインAを素通りし、1番目の溶出ピークは抗GPC3抗体のH鎖と抗IL-6レセプター抗体のH鎖のヘテロ抗体であり、2番目の溶出ピークは抗IL-6レセプター抗体のH鎖のホモ抗体であることが分った。これより、EUナンバリング435番目のHisをArgに置換することで、プロテインA精製工程のみで抗GPC3抗体のH鎖と抗IL-6レセプター抗体のH鎖のヘテロ抗体を精製可能であることが確認された。
1番目の溶出画分について、20 mM 酢酸ナトリウム緩衝液、pH5.5で平衡化したHiTrap SP Sepharose HPカラム(GE Healthcare)に添加し、同液で洗浄後に0 mMから500 mMまでNaCl濃度グラジェント溶出を実施した。得られたメインピーク画分について同様の方法で陽イオン交換クロマトグラフィー分析を行った。その結果を
図18に示した。目的とする二重特異性抗体を極めて高い純度で精製できていることが示された。