(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
道路に面する共同住宅などにおいては、バルコニー内に入り込んだ交通騒音などがバルコニー内に籠り易く、室内に大きな騒音が侵入してしまうことがある。バルコニー内で音が籠もるのを防ぐ構造としては、バルコニーの天井部に音の反射体を設けた構造がある(特許文献1参照)。前記構造では、反射体の寸法により反射できる音の周波数が決まる。
【0003】
低い周波数帯域の音に対する吸音構造としては、共鳴型吸音機構を天井の構造体(天井スラブ)の下側に設置したものが知られている(特許文献2参照)。共鳴型吸音機構はボード材を組み合わせて形成されている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に係る騒音低減構造を、添付した図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る騒音低減構造1は、バルコニー2に面する部分のうち、天井部3に設けられている。
【0015】
騒音低減構造1は、コンクリート体に形成されるものであって、本実施形態ではバルコニー2の天井部3に位置するコンクリートスラブ10(上階の床スラブ)に形成されている。騒音低減構造1は、空洞部11と貫通孔20とを備えて構成されている。
【0016】
図1および
図2に示すように、空洞部11は、コンクリートスラブ10内に形成されている。空洞部11は、バルコニー2の間口方向(
図1においては紙面垂直方向)に延在する長尺の穴にて構成されている。空洞部11は、バルコニー2の奥行き方向に間隔をあけて複数列設けられている。空洞部11の奥行き寸法(貫通孔20の延在方向に沿った奥行き寸法)は、低減すべき音の波長より短い。空洞部11の容積および列数は、コンクリートスラブ10の強度を確保できる範囲内で、バルコニー2の騒音レベルに応じて決定される。なお、本実施形態では、空洞部11は等間隔ピッチで配置されているが、道路に近いバルコニー2の先端側に多くの空洞部11を配置するようにしてもよい。
【0017】
空洞部11の寸法、形状は、低減すべき音の周波数帯域に応じて適宜選定すればよいが、本実施形態では、63Hz帯域の音を効率的に低減できるように、高さ80mm、幅50mmの寸法の長方形の断面形状を有しており、天井部3の表面から30mmの距離をあけて形成されている。なお、空洞部11の断面形状は、長方形に限定されるものではなく、断面円形、楕円形、多角形、異形など他の形状であってもよい。空洞部11は、コンクリートスラブ10の打設時に箱状の捨て型を埋設して形成する。箱状の捨型は、鋼製であってもよいし、樹脂製、その他の材質のものであってもよい。
【0018】
貫通孔20は、空洞部11と天井部3の表面とを連通させる。貫通孔20は、コンクリートスラブ10の完成後(コンクリート硬化後)に、下階のバルコニー2側からドリルなどの工具を用いて穿設して形成される。なお、予め貫通孔が形成されたハーフプレキャスト板やプレキャスト板などのコンクリート板を形成すれば、工具を用いて貫通孔を穿設しなくてもよい。本実施形態では、貫通孔20は、例えば断面円形に形成されている。貫通孔20は、空洞部11の幅よりも狭い幅(直径)を有しており、空洞部11の幅方向中間部に開口するように形成されている。貫通孔20は、一の空洞部11に対して、複数形成されている。複数の貫通孔20,20・・・は、空洞部11の長手方向に沿って配置されている。貫通孔20の寸法、形状は、低減すべき音の周波数帯域に応じて適宜選定すればよいが、本実施形態では、63Hz帯域の音を効率的に低減できるように、直径3mmの断面円形に形成され、30mmの長さを有している。貫通孔20,20・・・は、30mmピッチで形成されている。なお、貫通孔20は、断面円形に限定されるものではなく、断面多角形や断面楕円形など、他の形状であってもよい。
【0019】
以上のような空洞部11と貫通孔20によって、ヘルムホルツ型共鳴器が形成されることになるが、ヘルムホルツ型共鳴器の吸音特性は、空洞部11の容積と貫通孔20の断面積および長さに応じて決まる。
【0020】
具体的には、ヘルムホルツ型共鳴器の共振周波数(固有振動数)は、下記(式1)にて表される。
f=c/2π・(G/V)
0.5 ・・・(式1)
(f:共振周波数、c:音速、G:孔の部分の空気の動きやすさ、V:空洞部の容積)
なお、(式1)において、Gは、下記(式2)にて表される。
G=s/l ・・・(式2)
(s:貫通孔の断面積、l:貫通孔の実効長さ)
となる。つまり、空洞部11の容積が大きくなると共振周波数は低くなり、貫通孔20の断面積が大きくなると共振周波数は高くなり、貫通孔20の長さが長くなると共振周波数は低くなる。したがって、共振周波数を低くしたい場合は、貫通孔20の配置ピッチを大きくして、一の貫通孔20当たりの空洞部11の容積を大きくすればよい。
【0021】
なお、前記寸法の空洞部11と貫通孔20では、63Hz帯域を対象としたヘルムホルツ型共鳴器となる。本実施形態において、バルコニー2の天井部に63Hzを対象としたヘルムホルツ型共鳴器を形成したのは、以下の理由による。
【0022】
バルコニー2内では、天井高が音の波長の1/2または1/1と一致する周波数において外部からの騒音を特に増幅させてしまう。一般的な住宅のバルコニーは天井高が2.5〜3mであるので、63Hzや125Hz帯域の音を増幅させやすい。つまり、63Hzや125Hzの低い周波数の場合は、波長が長いため、音波は直接には天井にぶつからないが、バルコニーの天井高さ寸法と波長が合う(1/2または1/1)と、バルコニー内で共鳴する。このような共鳴が生じる場合、バルコニーの天井および床付近において音圧が高くなる。したがって、天井および床付近で吸音を行えば、バルコニー内の音圧を下げることができる。
【0023】
また、本発明者らは、道路に隣接する位置(道路から1m、高さ5mの地点)において、道路交通騒音を測定したところ、
図3のグラフに示すように、63Hz付近および125Hz付近の騒音が大きく、63Hzを頂点として、周波数が高くなるにしたがって音圧レベルが徐々に低下していくが、1kHz付近で周囲の周波数(500Hz)と比較して僅かに大きくなっている。
【0024】
したがって、本実施形態では、もっとも音圧レベルが大きくなる63Hz帯域をヘルムホルツ型共鳴器の吸音対象としている。125Hz帯域においても、前述の通り共鳴しやすいため、ヘルムホルツ型共鳴器の吸音対象を125Hz帯域とする場合もある。さらに、共振周波数が63Hz、125Hz、1kHzの三種になるように、貫通孔20の配置ピッチを変えるようにしてもよい。1kHzのように高い周波数帯域を吸音対象とする場合には、天井は、道路からの騒音を窓側に反射させるため、天井付近で吸音することによるバルコニー内の音圧低減効果は大きい。
【0025】
なお、
図2では、空洞部11の長手方向がバルコニー2の間口方向に沿っているが、空洞部11の延在方向は限定されるものではない。
図4に示すように、空洞部11の長手方向をバルコニー2の奥行き方向に沿わせてもよい。この場合、空洞部11は、間口方向に間隔をあけて複数設けられることになる。
【0026】
さらに、
図2および
図4では、空洞部11はバルコニー2の間口方向あるいは奥行き方向に延在する長尺の穴にて構成されて、一の空洞部11に複数の貫通孔20が形成されているが、これに限定されるものではない。
図5に示すように、空洞部11を短く形成し、一の空洞部11に対して貫通孔20を一つずつ形成するようにしてもよい。なお、
図5において、空洞部11は、バルコニー2の奥行き方向に延在しているが、間口方向に延在していてもよい。
【0027】
以上のような構成の騒音低減構造1によれば、空洞部11と貫通孔20でヘルムホルツ共鳴器が構成されるので、固有周波数と同じ周波数成分を含む音が貫通孔20に入射したときに、共鳴が生じて音が吸音される。本実施形態では、ヘルムホルツ共鳴器の共振周波数を、道路交通騒音に含まれる低い周波数帯域(63Hz付近)に設定しているので、道路交通騒音を効果的に吸音できる。
【0028】
さらに、空洞部11と貫通孔20を、道路からの騒音の共鳴によって音圧が高くなるバルコニー2の天井部に形成しているので、バルコニー2内全体の音圧を効率的に低減することができる。これによって、室内に伝わる騒音レベルを小さくすることができる。
【0029】
また、空洞部11と貫通孔20はコンクリートスラブ10に形成されているので、雨がかかる屋外で使用しても問題ない。さらに貫通孔20は天井部の表面で下側に向かって開口しているので、内部に雨水が浸入し難く、大雨の際でもヘルムホルツ型共鳴器の機能を発揮することができる。
【0030】
また、空洞部11は長尺に形成されており、一の空洞部11に対して複数の貫通孔20を形成しているので、貫通孔の位置を変更するだけで、吸音対象となる音の周波数帯域(ヘルムホルツ型共鳴器の共振周波数)を容易に変更することができる。
【0031】
さらに、騒音低減構造1は、内部に空洞部11が予め形成されたコンクリートスラブ(コンクリート体)に、その表面から空洞部11に連通する貫通孔20を穿設することで構築されているので、ヘルムホルツ共鳴器を容易に形成することができ、ボード材を組み合わせてヘルムホルツ型共鳴器を形成していた従来技術と比較して、施工が大幅に簡素化される。
【0032】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は前記実施の形態に限定する趣旨ではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。例えば、前記第一実施形態では、空洞部11を、コンクリートスラブ10の打設時に箱状の捨て型を埋設して形成しているが、これに限定されるものではない。
図6に示すように、押し出し型の中空ボイドスラブ15をコンクリートスラブ10として用いれば、予め内部に空洞部11が形成されているので、箱状の捨型を埋め込む必要がない。そして、中空ボイドスラブ15に貫通孔20を穿設するだけで、ヘルムホルツ型共鳴器が形成される。
【0033】
さらに他の構成として、
図7に示すようなコンクリートスラブ30としてもよい。コンクリートスラブ30は、表面に複数の溝31が形成されたプレキャストコンクリート板32の表面に平板状プレキャストコンクリート板33を貼り付けて構成されている。このような構成によって、コンクリートスラブ30内には、溝31と平板状プレキャストコンクリート板33によって区画される空洞部34が形成される。このコンクリートスラブ30をバルコニー2の天井部3に設置した後に、平板状プレキャストコンクリート板33に、空洞部34に繋がる貫通孔35を穿設することで、ヘルムホルツ型共鳴器が形成される。なお、貫通孔35は、バルコニー2の天井部3に設置する前に形成しておいてもよい。
【0034】
また、前記実施形態では、
図1に示すように、空洞部11と貫通孔20は、バルコニー2の天井部3に形成しているが、形成位置は天井部3に限定されるものではない。バルコニー2の内部に面する外壁部4、バルコニー2の床部5、バルコニー2の立上り壁の内面部6などの、バルコニー2の内側に面するコンクリート体に、空洞部と貫通孔を形成してもよい。壁に貫通孔を形成する場合は、表面側が下側で空洞部側が上側になるように傾斜して形成すれば、空洞部の内部に雨水が浸入しにくくなる。
【0035】
さらに、空洞部と貫通孔は、バルコニーに面する壁に限定されるものではなく、建築物の外壁、トンネルの内壁や高速道路の側壁などの道路に面する壁面に形成してもよい。このような構成によれば、バルコニー以外の場所であっても、低い周波数帯域の音を集中して吸収できるので、道路交通騒音を効果的に低減できる。