(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6087112
(24)【登録日】2017年2月10日
(45)【発行日】2017年3月1日
(54)【発明の名称】飲食品の甘味の味質改善方法
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20170220BHJP
A23L 27/30 20160101ALI20170220BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
A23L27/30 C
A23L27/30 Z
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-247772(P2012-247772)
(22)【出願日】2012年11月9日
(65)【公開番号】特開2014-93981(P2014-93981A)
(43)【公開日】2014年5月22日
【審査請求日】2015年10月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】505144588
【氏名又は名称】MCフードスペシャリティーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100143971
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 宏行
(72)【発明者】
【氏名】藤 田 陽 平
(72)【発明者】
【氏名】井 上 裕
(72)【発明者】
【氏名】鈴 木 理 恵
【審査官】
長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/057084(WO,A1)
【文献】
特開2000−270804(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/139946(WO,A1)
【文献】
特開昭52−122676(JP,A)
【文献】
特表2010−509232(JP,A)
【文献】
化学と生物,1974年,Vol.12, No.3,pp.189-196
【文献】
生物工学会誌,2011年,Vol.89, No.11,pp.679-682
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA/FROSTI/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
D−アミノ酸またはその塩を含有させることを特徴とする、高甘味度甘味料または高甘味度甘味料を含有する飲食品の甘味の味質改善方法であって、該D−アミノ酸が、D−グルタミン酸、D−プロリン、およびD−アスパラギン酸からなる群から選択される1種または2種以上であり、該甘味の味質改善が甘味の持続性向上および後味の苦味の低減である、味質改善方法。
【請求項2】
高甘味度甘味料が、アセスルファムカリウム、アスパルテーム、またはスクラロースである、請求項1に記載の味質改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食品の甘味の味質改善方法、さらに詳細には、D−アミノ酸またはその塩を含有させることを特徴とする飲食品の甘味の味質改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飲食品に甘味を付与するために、甘味料(特に、高甘味度甘味料)を用いた場合には、後味に苦味が生じる場合があることが知られている。例えば、高甘味度甘味料は、カロリーが低く、また抗う蝕等の機能を有することから有用な甘味料の一つであるが、前述のように飲食品に添加した場合に後味の苦味が生じる場合があることから、このような甘味料の使用が制限される場合があった。従って、甘味の味質を改善する、特に後味の苦味を低減する方法が強く求められている。
【0003】
また、甘味は飲食品の味を構成する重要な要素であり、飲食品によっては、甘味の持続性がその飲食品の味に大きな影響を及ぼす場合がある。例えば、佃煮や甘露煮などの飲食品では、甘味の持続性がそれらの味に大きな影響を及ぼすことが知られているため、これまでは、甘味の持続性という特徴で甘味料を選択せざるを得ず、甘味料の選択の幅が狭くなる場合があった。一方で、例えば、飲食品の甘味の持続性が十分に達成できれば、甘味の持続性の観点のみにとらわれず、抗う蝕性などの他の観点から訴求性のある機能を有する甘味料等を選択することができるようになり、甘味を有する飲食品の付加価値を高めることがより容易になる。従って、飲食品の甘味の味質を改善する、特に飲食品の甘味の持続性を向上させる方法が強く求められている。
【0004】
一方で、甘味の味質を改善する技術として、これまでに次のような技術が開示されている。例えば、特開昭53−3571号公報(特許文献1)には、アセスルファムカリウムおよびアスパルテームからなるショ糖類似の味を有する甘味料混合物等が開示されている。また、特開2002−51723号公報(特許文献2)には、トレハロース、エリスリトール、アセスルファムカリウム、およびアスパルテームを含むショ糖類似の味を有する甘味料混合物が開示されている。さらに、特開2003−210147号公報(特許文献3)には、スクラロースにリンゴ酸などの有機酸を添加して甘味の後引きの改善を行う方法が開示されている。また、特開2012−130336号公報(特許文献4)には、スクラロースなどの高甘味度甘味料に特定のデキストリンを添加して甘味の後引き感及び苦味などを改善する方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、特開昭53−3571号公報および特開2002−51723号公報(特許文献1および2)には、1種類の甘味料を用いる場合や、これらの文献に記載されていない甘味料の組合せを用いる場合の甘味の味質を改善する方法については何ら開示されていない。また、特開2003−210147号公報および特開2012−130336号公報(特許文献3および4)に記載の方法では、甘味の立ち上がりや、甘味の持続性の改善効果が十分ではなく、さらに特開2003−210147号公報(特許文献3)では、さらに酸味などの異味が付与されるとの問題があった。
【0006】
そのため、飲食品の甘味の味質を改善できる技術の開発は依然として求められているといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭53−3571号公報
【特許文献2】特開2002−51723号公報
【特許文献3】特開2003−210147号公報
【特許文献4】特開2012−130336号公報
【発明の概要】
【0008】
本発明は、飲食品の甘味の味質改善方法、甘味の味質が改善された飲食品の製造方法、および甘味製剤を提供することを一つの目的とする。
【0009】
本発明は、以下の(1)〜(10)の発明に関する。
(1)D−アミノ酸またはその塩を含有させることを特徴とする、飲食品の甘味の味質改善方法。
(2)飲食品が甘味料または甘味料を含有する飲食品である、(1)に記載の味質改善方法。
(3)甘味料が高甘味度甘味料である、(2)に記載の味質改善方法。
(4)D−アミノ酸が、D−グルタミン酸、D−プロリン、およびD−アスパラギン酸からなる群から選択される1種または2種以上である、(1)〜(3)のいずれかに記載の味質改善方法。
(5)甘味の味質改善が、甘味の持続性向上および/または後味の苦味の低減である、(1)〜(4)のいずれかに記載の味質改善方法。
(6)D−アミノ酸またはその塩を、甘味を有する飲食品に含有させる工程を含む、甘味の味質が改善された飲食品の製造方法。
(7)甘味料と、D−アミノ酸またはその塩とを含有させてなる、甘味料製剤。
(8)甘味料が高甘味度甘味料である、(7)に記載の甘味料製剤。
(9)D−アミノ酸またはその塩を含有させてなる、甘味を有する飲食品。
(10)(7)または(8)に記載の甘味料製剤を含有させてなる、飲食品。
【0010】
本発明によれば、飲食品の甘味の味質改善方法、特に甘味の持続性向上および/または後味の苦味を低減する方法、甘味の味質が改善された飲食品の製造方法、および甘味料製剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、TI法により、アセスルファムカリウム(ACK)での甘味を評価した評価結果を表す。
【
図2】
図2は、TI法により、アスパルテーム(APM)での甘味を評価した評価結果を表す。
【
図3】
図3は、TI法により、スクラロース(SUC)での甘味を評価した評価結果を表す。
【
図4】
図4は、TI法により、ショ糖での甘味を評価した評価結果を表す。
【0012】
甘味の味質改善方法
本発明の甘味の味質改善方法は、D−アミノ酸またはその塩を含有させることを特徴とする、飲食品の甘味の味質改善方法である。
【0013】
本発明の味質改善方法において、飲食品に含有させるD−アミノ酸は、飲食品の甘味の味質改善効果があればいずれも用いることができるが、例えば、D−オルニチン、D−メチオニン、D−フェニルアラニン、D−グルタミン、D−ヒスチジン、D−リジン、D−アスパラギン酸、D−トリプトファン、D−アスパラギン、D−トレオニン、D−バリン、D−プロリン、D−ロイシン、D−アラニン、D−グルタミン酸、D−アルギニン、D−システイン、D−イソロイシン、D−セリン、またはD−チロシンが挙げられ、好ましくはD−グルタミン酸、D−プロリン、またはD−アスパラギン酸が挙げられる。これらのD−アミノ酸は単独で用いても良いが、2種以上を組み合わせて用いることがより好ましい。2種以上のD−アミノ酸を組み合わせる場合には、好ましくは、D−グルタミン酸とD−プロリンとの組み合せ、D−グルタミン酸とD−アスパラギン酸との組み合せ、D−プロリンとD−アスパラギン酸との組み合せ、およびD−グルタミン酸とD−プロリンとD−アスパラギン酸との組み合せが挙げられる。
【0014】
本発明の好ましい態様によれば、D−グルタミン酸、D−プロリン、およびD−アスパラギン酸からなる群から選択される1種または2種以上のD−アミノ酸を含有させることを特徴とする飲食品の甘味の味質改善方法が提供される。
【0015】
本発明のより好ましい態様によれば、D−プロリンおよびD−アスパラギン酸を含有させることを特徴とする、甘味の持続性向上方法が提供される。
【0016】
本発明のより好ましい別の態様によれば、D−プロリンおよびD−アスパラギン酸(好ましくは、D−アスパラギン酸)を含有させることを特徴とする、後味の苦味の低減方法が提供される。
【0017】
D−アミノ酸の塩は、飲食品への添加が許容される塩であれば特に制限はなく、例えば、酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩、アミノ酸付加塩等が挙げられる。
【0018】
酸付加塩としては、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、リンゴ酸塩、乳酸塩、α−ケトグルタル酸塩、グルコン酸塩、カプリル酸塩等の有機酸塩が挙げられる。金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、亜鉛塩等が挙げられる。アンモニウム塩としては、アンモニウム、テトラメチルアンモニウム等の塩が挙げられる。有機アミン付加塩としては、モルホリン、ピペリジン等の塩が挙げられる。アミノ酸付加塩としては、グリシン、フェニルアラニン、リジン、アスパラギン酸、グルタミン酸等の塩が挙げられる。
【0019】
本発明ではD−アミノ酸またはその塩を単独で用いてもよいが、二種以上を組み合わせて用いてもよい。二種以上を組み合わせて用いる場合は、各D−アミノ酸またはその塩をどのように組み合わせてもよい。D−アミノ酸の組み合わせに含まれるアミノ酸の一または二以上をそのアミノ酸の塩と置き換えて組み合わせてよく、もしくはそのアミノ酸の塩を追加してもよい。
【0020】
本発明の甘味の味質改善方法に用いられる飲食品は、甘味を有していればどのような飲食品であってもよく、例えば、甘味料を含有していない果汁、甘酒、甘味を有する油脂を含有する飲食品および甘味料を含有する飲食品が挙げられる。好ましくは、本発明の甘味の味質改善方法に用いられる飲食品は、甘味料または甘味料を含有する飲食品である。
【0021】
本発明の甘味料は、甘味を有していればどのような甘味料であってもよく、例えば、ショ糖、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、エリスリトール、トレハロース、マルチトール、キシリトール、ソルビトール、アラニン、グリシン、ステビア、ソーマチン、モネリン、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、サッカリン、ズルチン、グリチルリチン、またはネオテームが挙げられる。これらの甘味料のなかでも、高甘味度甘味料が好適に用いられる。高甘味度甘味料としては、アセスルファムカリウム、アスパルテーム、スクラロース、グリチルリチン、ネオテーム、またはステビアなどの様々なものが知られているが、アセスルファムカリウム、アスパルテーム、またはスクラロースが好ましく、より好ましくはアセスルファムカリウムである。
【0022】
飲食品中に含有させるD−アミノ酸またはその塩の含有量は、例えば、o−フタルアルデヒドとN−イソブチリル−L−システインや、N−アセチル−L−システインを用いて、飲食品中のD−およびL−アミノ酸またはその塩を、キラル誘導体化後、逆相カラムを用いて高速液体クロマトグラフィーにより、D-体およびL-体を分離定量することができる。
【0023】
D−アミノ酸またはその塩を含有させる方法としては、D−アミノ酸またはその塩そのものを添加しても良いが、所望のD−アミノ酸またはその塩を含有された素材または飲食品を添加しても良い。
【0024】
本発明の甘味の味質改善方法において含有させるD-アミノ酸またはその塩の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、飲食品中に、D−アミノ酸またはその塩として、0.0005質量%以上であり、0.0015〜1質量%であることが好ましく、0.003〜0.5質量%であることがより好ましく、0.005〜0.1質量%であることがさらに好ましく、0.015〜0.1質量%であることがさらにより好ましい。飲食品中に、D−アミノ酸またはその塩を含有させることにより、例えば、通常の飲食品に含有されうる甘味料の濃度範囲において、飲食品の甘味の味質改善(好ましくは、甘味の持続性の向上および/または後味の苦味の低減)を行うことができる。
【0025】
本発明の甘味の味質改善方法は、下記で詳述する甘味料製剤を用いてD−アミノ酸またはその塩を飲食品に含有させてもよい。該甘味料製剤を用いて、飲食品中にD−アミノ酸またはその塩を含有させた場合の飲食品中のD−アミノ酸またはその塩の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、飲食品中に、D−アミノ酸またはその塩として、0.0005質量%以上であり、好ましくは0.0015〜1質量%であり、より好ましくは0.003〜0.5質量%であり、さらに好ましくは0.005〜0.1質量%であり、特に好ましくは0.015〜0.1質量%である。飲食品中に、D−アミノ酸またはその塩として、このような濃度となるように、甘味料と、D−アミノ酸またはその塩とを含有させてなる甘味料製剤とすることができる。
【0026】
複数のD−アミノ酸またはその塩を、甘味の味質改善方法に用いる場合には、上記D−アミノ酸またはその塩の含有量は、D−アミノ酸またはその塩の合計量を表す。
【0027】
本発明の甘味の味質改善方法において、飲食品が甘味料を含有する飲食品である場合には、飲食品中の該甘味料の含有量は、特に限定されないが、例えばショ糖などの通常の甘味料の場合、和え物で2〜8質量%、しるこで25〜30質量%、甘露煮で30質量%程度など、飲食品に好適に用いられる含有量を選択すればよい。
【0028】
本発明の甘味の味質改善方法において、「D−アミノ酸またはその塩を含有させる」とは、飲食品にD−アミノ酸またはその塩を含有させる態様であればどのような態様であっても含まれるが、例えば、該D−アミノ酸またはその塩を甘味料に含有させ、その甘味料を飲食品に含有させてもよく、または該D−アミノ酸またはその塩を飲食品に直接含有させてもよい。また、本発明の甘味の味質改善方法において、「D−アミノ酸またはその塩を含有させる」とは、飲食品に該D−アミノ酸またはその塩を添加してもよく、該D−アミノ酸またはその塩に飲食品を添加してもよく、また該D−アミノ酸またはその塩が含有された素材を用いて、同様の操作を行っても良い。例えば、該D−アミノ酸またはその塩が既に存在する容器等に、飲食品を加える態様も含まれる。
【0029】
本発明の甘味の味質改善方法において、D−アミノ酸またはその塩を、飲食品に含有させる時期は、本発明の効果を奏する限り限定されるものではなく、飲食品の製造工程のいずれの時期に含有させてもよい。例えば、飲食品の原料にあらかじめD−アミノ酸またはその塩を加えて、飲食品を製造してもよいし、該飲食品の製造工程のいずれかの工程においてD−アミノ酸またはその塩を含有させてもよく、または製造後の飲食品にD−アミノ酸またはその塩を含有させてもよい。また、飲食品が甘味料または甘味料を含有する飲食品である場合には、該甘味料は上記D−アミノ酸またはその塩と同時期に加えても良いし、飲食品の製造工程のいずれかの時期に別々に加えてもよい。
【0030】
飲食品にD−アミノ酸またはその塩を含有させる方法としては、D−アミノ酸またはその塩自体を含有させる方法の他に、飲食品の製造工程中に化学的方法または酵素学的方法などでL−アミノ酸をD−アミノ酸に変換して含有させてもよく、また他のD−アミノ酸またはその塩に変換する物質を加えて飲食品に含有させてもよい。
【0031】
本発明の甘味の味質改善方法に用いられる飲食品中には、本発明の効果の妨げとならない限りどのようなものが含有されていてもよく、L体のグルタミン酸ナトリウム、グリシン、アラニン等のアミノ酸類、カリウム、マグネシウム等の無機塩、アスコルビン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、脂肪酸等のカルボン酸等の酸、イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウム等の核酸、ショ糖、ブドウ糖、乳糖等の糖類、蛋白質加水分解物等の天然調味料、畜肉エキス等のエキス類、スパイス類、ハーブ類等の香辛料、デキストリン、各種澱粉等の賦形剤等の飲食品に使用可能な添加物を含有してもよい。
【0032】
本発明の好ましい態様によれば、D−グルタミン酸、D−プロリン、およびD−アスパラギン酸からなる群から選択される1種または2種以上のD−アミノ酸を含有させることを特徴とする、高甘味度甘味料(好ましくは、アセスルファムカリウム)の甘味の味質改善方法が提供される。
【0033】
本発明のより好ましい態様によれば、D−グルタミン酸、D−プロリン、およびD−アスパラギン酸を含有させる、高甘味度甘味料(好ましくは、アセスルファムカリウム)の甘味の持続性向上方法および/または後味の苦味の低減方法が提供される。
【0034】
甘味の味質が改善された飲食品の製造方法
本発明の製造方法は、D−アミノ酸またはその塩を、甘味を有する飲食品に含有させる工程を含む、甘味の味質が改善された飲食品の製造方法である。該製造方法において含有させるD−アミノ酸またはその塩は、上記の本発明の味質改善方法に用いられるD−アミノ酸またはその塩であってよく、またD−アミノ酸またはその塩を飲食品に含有させる量は、上記の本発明の味質改善方法において含有させるD−アミノ酸またはその塩の含有量と同じ量であってよい。D−アミノ酸またはその塩を飲食品に含有させる工程とは、飲食品に該D−アミノ酸またはその塩を添加してもよく、該D−アミノ酸またはその塩に飲食品を添加してもよく、また、該D−アミノ酸またはその塩が含有された素材を用いて、同様の操作をしても良い。例えば、該D−アミノ酸またはその塩が既に存在する容器等に、飲食品を加える態様も含まれる。
【0035】
D−アミノ酸またはその塩を、飲食品に含有させる時期は、本発明の効果を奏する限り限定されるものではなく、飲食品の製造工程のいずれの時期に含有させてもよい。例えば、原料にあらかじめD−アミノ酸またはその塩を加えて、飲食品を製造してもよいし、該飲食品の製造工程のいずれかの工程においてD−アミノ酸またはその塩を含有させてもよく、また製造後の飲食品にD−アミノ酸またはその塩を含有させてもよい。また、飲食品が甘味料または甘味料を含有する飲食品である場合には、該甘味料は上記D−アミノ酸またはその塩と同時期に加えても良いし、飲食品の製造工程のいずれかの時期に別々に加えてもよい。
【0036】
飲食品にD−アミノ酸またはその塩を含有させる方法としては、D−アミノ酸またはその塩自体を含有させる方法の他に、飲食品の製造工程中に化学的方法または酵素学的方法などでL−アミノ酸をD−アミノ酸に変換して含有させてもよく、また他のD−アミノ酸に変換する物質を加えて飲食品に含有させてもよい。
【0037】
本発明の製造方法において、甘味を有する飲食品が甘味料または甘味料を含有する飲食品である場合には、本発明の飲食品にする甘味料は、上記の甘味の味質改善方法に用いられる甘味料と同じであってよい。
【0038】
また、本発明の製造方法において、飲食品が甘味料を含有する飲食品である場合には、飲食品中の該甘味料の含有量は、上記の甘味の味質改善方法に用いられる甘味料の含有量と同じ量であってよい。
【0039】
本発明の製造方法において、上記の本発明の甘味の味質改善方法に用いられる飲食品に使用可能な添加物を含有させる工程を含んでいてもよい。
【0040】
甘味料製剤
本発明の甘味料製剤は、甘味料(好ましくは、高甘味度甘味料)と、D−アミノ酸またはその塩とを含有させてなる甘味料製剤である。本発明の甘味料製剤を飲食品に加え、飲食品中にD−アミノ酸またはその塩を含有させることにより、飲食品の甘味の味質を改善することができる。好ましくは、本発明の甘味料製剤を飲食品に加えることにより、飲食品の甘味の持続性の向上および/又は後味の苦味の低減を行うことができる。
【0041】
本発明の甘味料製剤に含有させるD−アミノ酸またはその塩は、甘味の味質改善方法に用いられるD−アミノ酸またはその塩と同じであってよい。
【0042】
本発明の甘味料製剤に含有させるD−アミノ酸またはその塩の含有量は、特に限定されないが、甘味料製剤に含有する甘味料に対して、例えば1〜500質量%、好ましくは5〜200質量%、より好ましくは50〜100質量%である。
【0043】
本発明の甘味料製剤に含有させる甘味料は、上記の甘味の味質改善方法に用いられる甘味料と同じであってよい。
【0044】
本発明の甘味料製剤に含有させる甘味料の含有量は、特に限定されないが、例えば1〜99質量%、好ましくは10〜99質量%、より好ましくは50〜99質量%である。
【0045】
本発明の甘味料製剤は、飲食品に含有させて用いることができる。すなわち、本発明の好ましい態様によれば、本発明の甘味料製剤を含有する飲食品が提供される。
【0046】
本発明の甘味料製剤を含有させる飲食品は、上記の甘味の味質改善方法に用いられる飲食品と同じであってよいが、甘味を有さない飲食品であってもよい。また、該飲食品中のD−アミノ酸またはその塩の含有量は、特に限定されないが、上記の甘味の味質改善方法に用いられる飲食品に含まれるD−アミノ酸またはその塩の含有量と同じであってもよい。
【0047】
本発明の甘味料製剤中には、上記の本発明の甘味の味質改善方法に用いられる飲食品に使用可能な添加物を含有していてもよい。
【0048】
本発明の別の態様によれば、D−アミノ酸またはその塩を含有させてなる、甘味を有する飲食品が提供される。このD−アミノ酸またはその塩を含有させる飲食品は、上記の甘味の味質改善方法に用いられる飲食品と同じであってよい。
【0049】
本発明の好ましい別の態様によれば、D−グルタミン酸、D−プロリン、およびD−アスパラギン酸を含有させてなる、高甘味度甘味料を含む飲食品が提供される。
【0050】
本発明の別の態様によれば、上記の甘味料製剤を含有させてなる飲食品が提供される。
【0051】
本発明の好ましい別の態様によれば、高甘味度甘味料を含む甘味料製剤を含有させてなる飲食品が提供される。
【0052】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0053】
実施例1
アセスルファムカリウム(ACK)の0.03質量%水溶液を調製し、該水溶液にD−グルタミン酸(D−Glu)、D−プロリン(D−Pro)、およびD−アスパラギン酸(D−Asp)を各10ppm(0.001質量%)添加した水溶液(ACK+D−Mix)を調製した。これらの水溶液を29℃に調整し、TI法にてアセスルファムカリウム(ACK)の甘味を評価した。官能評価の一手法であるTI法(Time-Intensity法:新食感事典、サイエンスフォーラム、p420-421(1999))は、経時的な味の強さを評価し、味の強度を時間軸上にプロットして曲線を得て、この曲線を基に、評価するサンプルの味の経時的な変化の特性や味質改良効果を評価する手法である。
【0054】
TI法は、以下の手順で行った。(1)試料(20ml)を口に含むと同時に時間計測を始める、(2)5秒後に試料を吐き出す、(3)甘味強度を経時的に記録し、グラフにする。甘味強度の数値が大きいほど、甘味が強いことを表す。
TI法による評価は、6名のパネラーにより行った。評価結果を
図1に示す。
【0055】
図1に示すとおり、D−グルタミン酸、D−プロリン、およびD−アスパラギン酸を添加した水溶液(ACK+D−Mix)は、これらのD−アミノ酸を添加しない水溶液(ACK(Cont))と比較して、アセスルファムカリウムの甘味の持続性が改善された。また、これらのD−アミノ酸を含まない水溶液(ACK(Cont))では後味に苦味が感じられたが、これらのD−アミノ酸を含む水溶液(ACK+D−Mix)では、これらのD−アミノ酸を含まない水溶液に比べ、苦味が低減していた。
【0056】
実施例2
実施例1のアセスルファムカリウムをアスパルテーム(APM)に置き換えた以外は同条件下で、アスパルテームの甘味に対する効果をTI法により評価した。
評価結果を
図2に示す。
【0057】
図2に示すとおり、D−グルタミン酸、D−プロリン、およびD−アスパラギン酸を添加した水溶液(APM+D−Mix)は、これらのD−アミノ酸を添加しない水溶液(APM(Cont))と比較して、アスパルテームの甘味の持続性が改善された。また、これらのD−アミノ酸を含まない水溶液(APM(Cont))では後味に苦味が感じられたが、これらのD−アミノ酸を含む水溶液(APM+D−Mix)では、これらのD−アミノ酸を含まない水溶液に比べ、苦味が低減していた。
【0058】
実施例3
実施例1のアセスルファムカリウムをスクラロース(SUC)に置き換え、スクラロースの濃度を0.015質量%にした以外は同条件下で、スクラロースの甘味に対する効果をTI法により評価した。
評価結果を
図3に示す。
【0059】
図3に示すとおり、D−グルタミン酸、D−プロリン、およびD−アスパラギン酸を添加した水溶液(SUC+D−Mix)は、これらのD−アミノ酸を添加しない水溶液(SUC(Cont))と比較して、スクラロースの甘味の持続性が改善された。また、これらのD−アミノ酸を含まない水溶液(SUC(Cont))では後味に苦味が感じられたが、これらのD−アミノ酸を含む水溶液(SUC+D−Mix)では、これらのD−アミノ酸を含まない水溶液に比べ、苦味が低減していた。
【0060】
実施例4
実施例1のアセスルファムカリウムをショ糖に置き換え、ショ糖の濃度を3質量%にした以外は同条件下で、ショ糖の甘味に対する効果をTI法により評価した。
評価結果を
図4に示す。
【0061】
図4に示すとおり、D−グルタミン酸、D−プロリン、およびD−アスパラギン酸を添加した水溶液(ショ糖+D−Mix)は、これらのD−アミノ酸を添加しない水溶液(ショ糖(Cont))と比較して、ショ糖の甘味の持続性が改善された。
【0062】
実施例5
アセスルファムカリウムの0.03質量%水溶液(ACK)を調製し、該水溶液にD−グルタミン酸(D−Glu)、D−プロリン(D−Pro)、およびD−アスパラギン酸(D−Asp)を各1ppm、各5ppm、各10ppm、各50ppm、または各100ppm添加した水溶液(ACK+D−Mix)を調製した。これらの水溶液を29℃に調整し、これらの水溶液の後味の苦味低減効果および甘味の持続性効果を評価した。
【0063】
評価は、6名のパネラーにより行った。評価は、効果なし(±)、わずかに効果あり(+)、やや効果あり(++)、効果あり(+++)、高い効果あり(++++)の5段階の評価基準に基づいて行った。
【0064】
評価結果を下記表1に示す。
【表1】
表1に示すとおり、D−グルタミン酸、D−プロリン、およびD−アスパラギン酸を各5ppm以上添加した水溶液において、いずれにおいても高い効果を示した。
【0065】
実施例6
アセスルファムカリウムの0.03質量%水溶液(ACK)、該水溶液にD−アスパラギン酸(D−Asp)、D−グルタミン酸(D−Glu)、およびD−プロリン(D−Pro)を別々に50ppm添加した水溶液(D−Asp水溶液、D−Glu水溶液、D−Pro水溶液)を調製した。これらの水溶液を29℃に調整し、これらの水溶液の後味の苦味の低減効果および甘味の持続性効果を評価した。
評価は、6名のパネラーにより行い、上記実施例5の評価基準と同じ基準により評価を行った。
【0066】
評価結果を下記表2に示す。
【表2】
上記表2に示すとおり、D−アスパラギン酸水溶液、D−グルタミン酸水溶液、およびD−プロリン水溶液は、いずれも甘味の持続性を向上させた。特に、D−プロリン水溶液およびD−アスパラギン酸水溶液の甘味の持続効果が高かった。また、D−プロリン水溶液およびD−アスパラギン酸水溶液は、D−グルタミン酸水溶液と比較して、苦味の低減効果を示した。特に、D−アスパラギン酸水溶液が高い苦味の低減効果を示した。