特許第6087113号(P6087113)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6087113
(24)【登録日】2017年2月10日
(45)【発行日】2017年3月1日
(54)【発明の名称】金属もしくは半導体細線の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21C 23/00 20060101AFI20170220BHJP
【FI】
   B21C23/00 A
【請求項の数】14
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-253396(P2012-253396)
(22)【出願日】2012年11月19日
(65)【公開番号】特開2014-100722(P2014-100722A)
(43)【公開日】2014年6月5日
【審査請求日】2015年10月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】591243103
【氏名又は名称】公益財団法人神奈川科学技術アカデミー
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】益田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】近藤 敏彰
(72)【発明者】
【氏名】高木 悠衣
【審査官】 坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭49−135820(JP,A)
【文献】 特開2012−052188(JP,A)
【文献】 特公昭49−033248(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21C 1/00,23/00
C25D 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属を陽極酸化することにより形成された多孔性材料に選択的なエッチング処理を施すことで形成されたスルーホールポーラスメンブレンを、細孔を有する口金とし、該口金の吐出側の面に開口を有する台座を用い、金属もしくは半導体を少なくとも融点以上の温度に加熱して溶融状態とし、溶融した金属もしくは半導体を加圧することで前記口金の細孔から吐出し、吐出後に凝固させることにより、金属もしくは半導体の細線を形成することを特徴とする、金属もしくは半導体細線の製造方法。
【請求項2】
前記多孔性材料を、Al、Ti、Ta、Zn、In、もしくはMg、またはそれらの合金からなる金属基材を陽極酸化処理することで形成する、請求項1に記載の金属もしくは半導体細線の製造方法。
【請求項3】
前記多孔性材料として、定電圧で長時間陽極酸化を施した後、一旦酸化皮膜を溶解除去し、再び同一条件下で陽極酸化を施すことで作製された陽極酸化ポーラスアルミナを用いることを特徴とする、請求項2に記載の金属もしくは半導体細線の製造方法。
【請求項4】
前記細孔の開口直径が0.1μm〜100μmの範囲にある、請求項1〜のいずれかに記載の金属もしくは半導体細線の製造方法。
【請求項5】
前記細孔の密度が1×10個/cm〜1×1014個/cmの範囲にある、請求項1〜のいずれかに記載の金属もしくは半導体細線の製造方法。
【請求項6】
前記金属もしくは半導体細線のアスペクト比が1以上である、請求項1〜のいずれかに記載の金属もしくは半導体細線の製造方法。
【請求項7】
前記金属もしくは半導体細線のアスペクト比が10以上である、請求項に記載の金属もしくは半導体細線の製造方法。
【請求項8】
前記金属もしくは半導体細線のアスペクト比が100以上である、請求項に記載の金属もしくは半導体細線の製造方法。
【請求項9】
前記溶融した金属が少なくともSn、Al、Zn、Bi、Te、Pb、In、Au、Ag、Cd、もしくはLi、Naのいずれか、またはそれらの合金からなる、請求項1〜のいずれかに記載の金属もしくは半導体細線の製造方法。
【請求項10】
前記半導体が少なくともSi、Geのいずれか、またはそれらの合金からなる、請求項1〜のいずれかに記載の金属もしくは半導体細線の製造方法。
【請求項11】
前記加熱の温度を前記金属もしくは半導体の融点の110%以上の温度(℃)とする、請求項1〜10のいずれかに記載の金属もしくは半導体細線の製造方法。
【請求項12】
前記口金の台座の開口直径が0.1mm〜5mmの範囲にある、請求項1〜11のいずれかに記載の金属もしくは半導体細線の製造方法。
【請求項13】
前記加熱により溶融した金属もしくは半導体を収容するチャンバーを構成する素材として、ステンレス、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニアやアルミナなどの耐熱性材料を用いる、請求項1〜12のいずれかに記載の金属もしくは半導体細線の製造方法。
【請求項14】
溶融状態となった前記金属もしくは半導体素材を、0.5気圧〜300気圧の圧力にて前記口金の細孔から吐出する、請求項1〜13のいずれかに記載の金属もしくは半導体細線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融紡糸法による金属もしくは半導体細線の製造方法および、その方法により作製された金属もしくは半導体細線に関する。
【背景技術】
【0002】
微細な直径を有する金属、半導体細線は、電極材料、触媒、防音材、センサ、電子・光学デバイス等への適用が期待されている。微細な直径を有する金属もしくは半導体細線の製造方法としては、一般に、素材を延伸する線引き法が一般に用いられている。このほか、めっき法、CVD(Chemical vapor deposition)法、レーザーアブレーション法などが用いられている。
【0003】
めっき法では、ポーラス構造体を鋳型として細孔中に金属、半導体を電析によって充填し、その後、適切な方法でポーラス構造体を除去することで、細線が得られる。またCVD法では、シリコン基板等の表面の金ナノ微粒子等を核として金属もしくは半導体細線、および半導体細線が得られる。レーザーアブレーション法では、レーザーをバルク材等に集光照射することで、金属および半導体細線が得られる。
【0004】
このほか、機械的な手法に基づく金属ナノ細線の製造手法も挙げられる(例えば、特許文献1)。この方法では、直行する細孔を有する多孔質体を口金とし、軟化点温度以上融点以下に加熱した金属を連続的に押し出すことで金属細線が得られる。このほか、溶融金属を微細なノズルから吐出し、冷却・凝固させることにより金属細線を得る手法に溶融紡糸法も知られている(例えば、特許文献2、3)。
【0005】
上記の金属もしくは半導体細線の形成手法において、形成可能な金属材料の種類、形成可能な形状は、それぞれの製造方法に応じて限定される。延伸による製造法では、得られる細線の直径は、通常20μm程度であり、これよりも直径の小さな細線の作製は困難とされる。様々な細孔を有する素材を鋳型とし、これらの細孔に金属、半導体を充填し、その後鋳型を溶解除去することにより細線を得る手法においては、得られる細線の長さは、鋳型の細孔の深さに限定されるほか、鋳型は使い捨てであり、細線の作製効率が悪い。更には、鋳型を選択的に溶解除去可能なエッチャントが必要であり、細線を形成可能な素材が限定される。
【0006】
CVD、レーザーアブレーショ等のドライプロセスにもとづく手法では、鋳型構造を必要としないが、得られる細線の直径、長さ等の形状を制御することは困難であり、長尺の細線を得ることは一般に困難である。
【0007】
また、特許文献1の手法は、テンプレート材の溶解を必要としないことから、様々な金属を用いた細線形成に適用可能であるが、この手法は、細線形成プロセスが軟化点温度以上融点以下に加熱した金属の機械的な変形に基づいていることから、細線を高スループットで形成することは困難であり、長尺の細線を形成することは困難である。
【0008】
従来のノズルを用いた溶融紡糸法に基づけば、金属もしくは半導体細線を高スループットで形成することが可能であるが、形成可能な細線直径は、50μm以上に限定される。これは、主として溶融紡糸に用いられるノズル素材に要求される加工精度と耐熱特性、更には機械強度の限界によるものであった。すなわち、溶融紡糸法には、直行する微細な細孔を有するノズルを耐熱性、機械強度を有し、なおかつ溶融金属に対し溶解しない素材で作製する必要がある。代表的なノズル素材としては、窒化ケイ素が用いられているが、微細な直行細孔の加工精度は、50μm以上に限定されていた。また、溶融金属の表面に溶融ガラスをコートしノズルから吐出し、冷却・凝固させ、最後にガラス部分を溶解除去することで、より微細な金属細線を得る手法も報告されている(例えば、非特許文献1)。しかしながら、この手法は装置が複雑であるとともに、プロセスが煩雑であり、適用可能な金属も限定される。
【0009】
なお、本発明に関連して、金属を適当な溶解性を有する電解液を用い陽極酸化することにより、微細な細孔を有する多孔性の酸化物が得られることが知られている(例えば、非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2012−52188号公報
【特許文献2】特開昭59−82411号公報
【特許文献3】WO2003/008690号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】後藤,「金属」,Vol.50,p.49(1980)
【非特許文献2】益田他,「機能材料」,Vol.27,p.6(2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、上記のような現状に鑑み、従来、製造が困難であった微細な直径を有する比較的長い金属もしくは半導体細線を、煩雑な工程を経ることなく高スループットで製造する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明に係る金属もしくは半導体細線の製造方法は、金属の溶融紡糸に適用可能な、微細な細孔を有し、尚且つ十分な耐熱性、機械強度を有する素材をノズルに用いることを特徴とする方法からなる。このような要求を満たす素材を鋭意探索した結果、金属を陽極酸化することにより形成される多孔性酸化物がこのような要求を満たすという結論に至った。前述の如く、金属を適当な溶解性を有する電解液を用い陽極酸化することにより微細な細孔を有する多孔性の酸化物を得ることができることは知られている(例えば、前述の非特許文献2)。これらの多孔性素材は、細孔が形成される機構に由来して独立した直行細孔を有し、金属酸化物からなることから十分な耐熱性を有するほか、高い機械強度を有する。
【0014】
すなわち、本発明に係る金属もしくは半導体細線の製造方法は、金属を陽極酸化することにより形成された多孔性材料に選択的なエッチング処理を施すことで形成されたスルーホールポーラスメンブレンを、細孔を有する口金とし、該口金の吐出側の面に開口を有する台座を用い、金属もしくは半導体を少なくとも融点以上の温度に加熱して溶融状態とし、溶融した金属もしくは半導体を加圧することで前記口金の細孔から吐出し、吐出後に凝固させることにより、金属もしくは半導体の細線を形成することを特徴とする方法からなる。
【0015】
この本発明に係る金属もしくは半導体細線の製造方法では、微細な細孔を有する多孔性材料を口金として用い、金属もしくは半導体を少なくとも融点以上の温度に加熱して溶融状態とし、溶融した金属もしくは半導体を加圧することにより口金の細孔から連続的に吐出し(つまり、特許文献1のように機械的な変形に基づくことなく、溶融状態にて連続的に吐出し)、吐出後に凝固させることにより、連続的に延びる金属もしくは半導体の細線を形成するのである。したがって、微細な直径を有する比較的長い金属もしくは半導体細線を、煩雑な工程を経ることなく高スループットで製造することが可能になる。
【0016】
上記多孔性材料としては、例えば、Al、Ti、Ta、Zn、In、もしくはMg、またはそれらの合金からなる金属基材を陽極酸化処理することで形成することができる。このような陽極酸化による形成されるポーラス素材の代表的なものとして、特に、陽極酸化ポーラスアルミナが挙げられる。陽極酸化ポーラスアルミナは、アルミニウムを酸性電解液中で陽極酸化することにより得られる直行・独立細孔を有する多孔性の素材であるが、作製条件により細孔直径、細孔間隔、細孔深さを制御できるという特徴をもつ。
【0017】
すなわち、細孔径は、5〜800nm、細孔間隔は、20nm〜1,000nm周期、細孔深さは、1〜5,000μmの範囲のものが得られる。また、アルミナ素材からなることから、2000℃を超える耐熱性と十分な機械強度を有している。このほか、陽極酸化ポーラスアルミナに適当な手法によりマスキングを施した後、エッチングを施すことで、細孔径0.5〜50μm、細孔間隔1μm〜500μmのポーラス素材を得ることもできる。
【0018】
本発明では、とくに、上記多孔性材料として、後述するような2段階陽極酸化プロセスにより形成された直行細孔を有する陽極酸化ポーラスアルミナを用いることが好ましい。また、上記口金として、本発明では、陽極酸化処理によって形成された多孔性材料に選択的なエッチング処理を施すことで形成されたスルーホールポーラスメンブレンを用いる。
【0019】
また、本発明に係る金属もしくは半導体細線の製造方法では、開口直径が0.1μmから100μmの細孔の配列を有しており、配列密度が1×10個/cm〜1×1014個/cmの範囲にある多孔性金属酸化物を口金として用い、加熱により溶解させた金属もしくは半導体素材を上記口金が有する微細開口から吐出することで金属もしくは半導体細線を形成することができる。例えば、ナノメートルからミクロンスケールの直径を有する細孔が配列した陽極酸化ポーラスアルミナからなるスルーホールメンブレンに対し、任意の金属もしくは半導体素材を供給し、金属もしくは半導体素材を加熱したのちに加圧することで、細孔中で金属を細線状に成形し、メンブレンの微細開口から吐出して凝固させることで、煩雑な工程を経ることなく簡便に、所望の金属や半導体からなる細線を連続的に製造することが可能となる。
【0020】
口金が有する細孔の開口直径の上限値は、好ましくは50μm、より好ましくは20μm、さらに好ましくは5μm、とくに好ましくは1μmである。このような微細な開口直径の細孔の配列を有する口金を用いることにより、目標とする微細な金属もしくは半導体細線の製造が可能となる。
【0021】
溶融紡糸時には、細線素材である金属や半導体の融点以上の温度条件下において前記開口から金属や半導体を吐出する。このとき、溶融紡糸装置の口金付近の温度も細線素材の金属の融点以上の温度になるように、装置を十分に加熱することが好ましい。
【0022】
なお、溶融紡糸を空気中にて行うと、金属表面の酸化反応が進行するため、溶融紡糸はアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気下、もしくは減圧環境下で行われることが好ましい。
【0023】
溶融紡糸時における溶融金属や溶融半導体への圧力の印加は、流体を使用して行う。流体には、空気、窒素、アルゴンなどの気体を用いることができる。
【0024】
溶融紡糸時における溶融金属や溶融半導体への印加圧力は、0.5気圧〜300気圧が好ましい。適切な圧力に調節することで、微細な金属もしくは半導体細線の製造が可能となる。
【0025】
金属もしくは半導体細線のアスペクト比(=長さ÷直径)は、1以上であることが好ましく、より好ましくは10以上、さらに好ましくは100以上、よりさらに好ましくは1,000以上であり、より一層好ましくは10,000以上であり、もっとも好ましくは、100,000以上である。
【0026】
また、口金が機械的強度を必要とする場合には、口金の金属や半導体が吐出される面に所定の孔(開口)を有する台座(例えば、後述の図2における口金台座5)を用いることが有効である。本発明では、口金として、自身では必要な機械的強度を保ち難いスルーホールポーラスメンブレンを用いるので、口金の吐出側の面に開口を有する台座を用い、口金としての所定の形態を保つようにしている。口金台座の開口直径の制御が重要であり、開口直径が5mm以下であることが好ましく、より好ましくは3mm以下、さらに好ましくは2mm以下である。開口直径の下限値としては0.1mm程度である。
【0027】
口金台座の素材は、耐熱性の高いステンレスなどの金属、高純度アルミナもしくはジルコニアなどのセラミックス、もしくはそれに類似するものであることが好ましい。
【0028】
これらの製造法にもとづいて、種々の金属の溶融紡糸を実施することが可能となるが、金属素材がSn、Al、Zn、Bi、Te、Pb、In、Au、Ag、Cd、もしくはLi、Naのいずれか、またはそれらの合金からなる比較的低融点を有するものであることが好ましいが、これらに限定されるものではない。また、金属以外にも、Si、Ge等の半導体素材、熱溶解性を有する高分子材料に適用することも可能である。
【0029】
そして、上記のような金属もしくは半導体を加熱して溶融させる際には、加熱の温度を上記金属もしくは半導体の融点の110%以上の温度(単位は後述の実施例に示すように℃である。)とすることが好ましい。
【0030】
本発明に係る金属もしくは半導体細線の製造方法においては、前記微細細孔配列を有する口金は、金属基材に陽極酸化処理により形成された多孔性材料、あるいは、それに選択的なウエットエッチング処理を施すことによって形成されていることが好ましい。例えば、ナノメートルからミクロンスケールの直径を有する細孔が配列した陽極酸化ポーラスアルミナからなるスルーホールメンブレンに対し、任意の金属もしくは半導体素材を供給し、金属もしくは半導体素材を加熱・溶融したのちに加圧することで、細孔中で金属を細線状に成形し、メンブレンの微細開口から吐出し、凝固させることで細線とすることができる。このようにして、煩雑な工程を経ることなく簡便に、所望の金属からなる細線を高精度かつ高スループットで製造することが可能となる。
【0031】
また、上記口金は、前述したようにAl、Ti、Ta、Zn、In、もしくはMg、またはそれらの合金からなる金属基材を陽極酸化処理することによって形成可能である。すなわち、上記口金は、上記のようなバルブ金属からなる金属基材を用いて、陽極酸化処理されたポーラスアルミナメンブレンや、陽極酸化処理されたポーラスチタニアメンブレンなど、およびそれらメンブレンのレプリカとして形成することができる。
【0032】
とくに、前記微細細孔配列を有する口金として、陽極酸化処理によって形成されたポーラスアルミナメンブレンを用いることが好ましい。ポーラスアルミナは、耐熱性、耐摩耗性に優れており、高温下にさらされる溶融紡糸装置の口金の素材として適している。
【0033】
また、口金の細孔配列は、細孔が規則的に配列した規則配列であることが好ましい。細孔が規則配列したポーラスアルミナは、適切な陽極酸化条件で作製することが知られているが(例えば、前述の非特許文献2)、これらのポーラスアルミナは、良好な細孔直行性を有しており、溶融金属の吐出に適している。このような細孔が表面から底部まで規則配列し、直行したポーラスアルミナは、いわゆる2段階陽極酸化法を用いることで作製することができる。通常、陽極酸化において形成される多孔性酸化層は、陽極酸化初期に形成される部分において細孔規則性、直行性は低い。長時間陽極酸化を施した後、一旦酸化皮膜をクロム酸・リン酸混合溶液等のエッチング液により溶解・除去することで、地金アルミニウム表面には、表面に比較し高い規則性を有する細孔配列に対応した窪みが形成され、これを同一の条件で再陽極酸化することにより、最表面から高い規則性を有する陽極酸化ポーラスアルミナが得られる。このようにして得られた陽極酸化ポーラスアミナは、細孔配列の規則性が改善されるだけでなく、細孔の直行性も改善される。
【0034】
本発明の細線の製造方法においては、前記口金とヒーターを備えた耐熱性、耐圧性にすぐれたチャンバーとの組み合わせからなる溶融紡糸装置を用いることが望ましい。例えば、上記加熱により溶融した金属もしくは半導体を収容するチャンバーを構成する素材として、ステンレス、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニアやアルミナなどの耐熱性材料を用いることができる。
【0035】
また、本発明の細線の製造方法においては、溶融状態となった前記金属もしくは半導体素材を、例えば、0.5気圧〜300気圧の圧力にて口金の細孔から吐出することができる。
【0036】
本発明は、上記のような方法により製造された金属もしくは半導体細線についても提供する。製造された金属もしくは半導体細線のアスペクト比(=長さ÷直径)は、1以上であることが好ましく、より好ましくは10以上、さらに好ましくは100以上、よりさらに好ましくは1,000以上であり、より一層好ましくは10,000以上であり、もっとも好ましくは、100,000以上である。
【発明の効果】
【0037】
このように、本発明に係る金属もしくは半導体細線の製造方法によれば、任意の金属、あるいは半導体を加熱・溶融、加圧することで、口金細孔中に導入された金属もしくは半導体を細線形状に成形することが可能となり、溶融状態の金属もしくは半導体を口金が有する微細細孔から吐出することで、細孔の形状を反映した形状を有する金属もしくは半導体細線が得られる。加圧後には、細線はポーラスアルミナメンブレン等の細孔中から吐出されるので、例えばアルミナ膜を溶解もしくは剥離除去処理を行うことなく、目標とする金属もしくは半導体細線を得ることができる。とくに、アルミナメンブレンの溶解除去の必要がないことから、両性金属やアルカリ金属等の細線が簡便に形成可能となる。また、金属は溶融状態であることから、口金の細孔より高速に吐出することも可能である。したがって、煩雑な工程を経ることなく、効率よく所望の金属もしくは半導体で構成された細線を容易に高スループットで作製可能である。
【0038】
本製造法により得られた細線は、微細な直径を有し、比表面積が大きいことから、二次電池、コンデンサ等の電極材料、触媒、防音材、センサ、電子・光学デバイス等への利用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明の一実施態様に係る金属もしくは半導体細線形成の概略プロセス(A)(B)を示す説明図である。
図2】ヒーターを備えた耐熱性、耐圧性のチャンバーを有する溶融紡糸装置を用いた金属もしくは半導体細線形成の様子を示す模式図である。
図3】ヒーターを備えた耐熱性、耐圧性のチャンバーを有する溶融紡糸装置を用いて作製したSnマイクロ細線のSEM観察像を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下に、本発明の望ましい実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、金属もしくは半導体細線形成の概略プロセス(A)、(B)を示す説明図である。口金形成用の口金素材金属1としてのアルミニウム(Al)の表面を陽極酸化することにより、Al板表面に陽極酸化ポーラスアルミナが形成され、アルミニウム部分が除去されることにより、陽極酸化ポーラスアルミナメンブレンが得られる。そして、ポーラスアルミナメンブレンをマスクプロセスにより部分的に選択溶解除去することで、ミクロンからサブミクロンオーダーの微細開口を有する口金2としてのスルーホールポーラスメンブレンが得られる。このようにして得られたポーラスメンブレンを溶融紡糸法の口金材料として用いる。金属をメンブレンに接触させ(図1(A))、前記金属の融点以上に加熱しながら溶融状態の金属を加圧してメンブレンに押し付けメンブレンの細孔に導入し、メンブレンの微細開口より吐出することで金属もしくは半導体細線3が得られる(図1(B))。Tは口金の厚さ、Dは口金の微細開口の直径、Pは口金の微細開口の配列間隔、Lは細線の長さ、dは細線の直径を、それぞれ示している。
【0041】
図2は、細線形成に用いる溶融紡糸装置の模式図である。前記口金2と加熱装置としてのヒーター6を備えた耐熱性、耐圧性に優れたチャンバー4との組み合わせで構成されている。特に、チャンバー4を構成する素材は、溶融金属に対して溶解してはならないため、耐熱性に優れていることは重要である。例えば、SUS316などの耐熱性ステンレス、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニアやアルミナなど用いることができる。加熱装置としては、通常のヒーターによる加熱に加え、高周波加熱が有効に用いることができる。加圧流体7としての高圧ガスをチャンバー4内部に導入し、溶融状態の金属もしくは半導体11を加圧することで金属もしくは半導体が口金2の微細開口より吐出される。吐出された金属もしくは半導体は空気中にて冷却されることで金属もしくは半導体の細線が得られるが、加熱条件や吐出条件などによっては水、油、液体窒素などの冷媒を用いて吐出された金属もしくは半導体を高速に冷却することで、金属もしくは半導体細線が得られる。形成される細線の直径は、基本的には、口金の細孔径に対応したものが得られるが、吐出条件によっては、細孔より小さな直径の細線が得られる。
【0042】
図3は、図2の手法を用いて得られたSnマイクロ細線(符号3で示す)のSEM観察像である。
【実施例】
【0043】
実施例1[溶融紡糸法によるSn細線の形成]
純度99.99%のAl板を、過塩素酸/エタノール浴を用い電解研磨を施した後、0.3Mシュウ酸溶液を電解液として、浴温16℃、弱攪拌条件下、40Vの定電圧条件下にて陽極酸化を16時間行うことで、Al板表面に細孔配列を有するポーラスアルミナを形成した。次に、直径35μmの細孔が500μm間隔で規則配列した構造を有するネオプレン薄膜層をポーラスアルミナメンブレン上に形成し、10wt%リン酸水溶液、浴温30℃に2時間30分間浸漬することで、ネオプレン薄膜の開口部に対応した位置のポーラスアルミナを溶解除去した。陽極酸化されていないAl部分をヨウドメタノールにより溶解除去することで、貫通孔の規則配列構造を有するポーラスアルミナメンブレンを得た。
【0044】
本スルーホールメンブレンを口金として使用した。ヒーターによって加熱可能なチャンバーと高圧ガスによる加圧機構を備えた溶融紡糸装置を用いてSn細線の作製を行った。装置の先端部分に細孔周期500μm、細孔径35μmの前記口金を設置し、溶融紡糸装置の内部にSnを配置した。ヒーターを用いてチャンバー部分を300℃に加熱しながら、チャンバー内部に窒素ガスを導入してチャンバー内部の圧力を3気圧まで昇圧させることで、アルミナメンブレンの細孔中にSnを導入し、メンブレンの微細開口から溶融状態のSnを空気中に吐出することで、直径20μm〜30μm、長さ30cm〜1mのSn細線を得た。
【0045】
実施例2[Sn細線の形状制御]
実施例1と同様の方法で得られた細孔周期500μm、細孔径20μmのポーラスアルミナからなる口金を装置の先端部分に設置し、その上にSnを配置して、300℃に加熱しながら、窒素ガスを用いて約3気圧にて加圧することで、メンブレンのマイクロ細孔中にSnを導入し、アルミナメンブレンの微細開口から溶融状態のSnを空気中に押し出すことで、直径が15μm〜20μm、長さ30cmのSn細線を作製した。
【0046】
実施例3[異なる圧力でのSn細線の形成]
実施例1と同様の方法で得られた細孔周期30μm、細孔径5μmのポーラスアルミナからなる口金を装置の先端部分に設置し、その上にSnを配置して、300℃に加熱しながら、窒素ガスを用いて約10気圧にて加圧することで、メンブレンのマイクロ細孔中にSnを導入し、アルミナメンブレンの微細開口から溶融状態のSnを空気中に押し出すことで、直径が0.8μm〜5μm、長さ5cmのSn細線を作製した。窒素ガスによる印加圧力を小さくし、約2気圧にて加圧することで、メンブレンのマイクロ細孔中にSnを導入し、アルミナメンブレンの微細開口から溶融状態のSnを空気中に押し出すことで、直径約1μm〜30μmのSn微粒子を得た。
【0047】
実施例4[Al細線の形成]
実施例1と同様の方法で得られた細孔周期500μm、細孔径35μmのポーラスアルミナからなる口金を装置の先端部分に設置し、その上にAlを配置して、700℃に加熱しながら、窒素ガスを用いて約7気圧にて加圧することで、メンブレンのマイクロ細孔中にAlを導入し、アルミナメンブレンの微細開口から溶融状態のAlを押し出すことで、直径30μm〜35μm、長さ10cmのAl細線を得た。
【0048】
実施例5[Bi-Pb-Sn-Cd合金細線の形成]
実施例1と同様の方法で得られた細孔周期500μm、細孔径35μmのポーラスアルミナからなる口金を装置の先端部分に設置し、その上にBi-Pb-Sn-Cd合金を配置して、70℃に加熱しながら、窒素ガスを用いて約3気圧にて加圧することで、メンブレンのマイクロ細孔中にBi-Pb-Sn-Cd合金を導入し、アルミナメンブレンの微細開口から溶融状態のBi-Pb-Sn-Cd合金を押し出すことで、直径約30μm〜35μm、長さ5cmのBi-Pb-Sn-Cd合金細線を得た。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明に係る金属もしくは半導体細線の製造方法は、これまで作製の困難であった材料での細線の高スループット形成を可能にする。さらには、本発明に係る方法により製造される微細細線は、電池およびコンデンサの電極材料触媒、センサ、電子・光学デバイス等に応用可能な素材として、広範な用途への適用が期待される。
【符号の説明】
【0050】
1 金属
2 微細開口を有する口金
3 細線
4 チャンバー
5 口金台座
6 ヒーター
7 加圧流体
11 溶融状態の金属もしくは半導体
T 口金の厚さ
D 口金の微細開口の直径
P 口金の微細開口の配列間隔
L 細線の長さ
d 細線の直径
図1
図2
図3