特許第6087115号(P6087115)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6087115乾燥麦焼酎粕を担子菌培養に用いることによるオルニチン含有食品素材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6087115
(24)【登録日】2017年2月10日
(45)【発行日】2017年3月1日
(54)【発明の名称】乾燥麦焼酎粕を担子菌培養に用いることによるオルニチン含有食品素材
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/175 20160101AFI20170220BHJP
   C12P 13/10 20060101ALI20170220BHJP
   A23L 19/00 20160101ALI20170220BHJP
   A01G 1/04 20060101ALN20170220BHJP
【FI】
   A23L33/175
   C12P13/10 C
   A23L19/00 101
   !A01G1/04 A
【請求項の数】11
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-255543(P2012-255543)
(22)【出願日】2012年11月21日
(65)【公開番号】特開2014-100112(P2014-100112A)
(43)【公開日】2014年6月5日
【審査請求日】2015年11月20日
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-784
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-787
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-786
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-788
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(73)【特許権者】
【識別番号】502128442
【氏名又は名称】株式会社鎌田工業
(73)【特許権者】
【識別番号】505008888
【氏名又は名称】東洋ツール工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100170221
【弁理士】
【氏名又は名称】小瀬村 暁子
(72)【発明者】
【氏名】山内 正仁
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 政人
(72)【発明者】
【氏名】三谷 紘明
(72)【発明者】
【氏名】是枝 清上
【審査官】 松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−017703(JP,A)
【文献】 特開2006−129767(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/175
A23L 19/00
C12P 13/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥麦焼酎粕を配合した菌床培地において食用担子菌を培養し、産生された遊離型アルギニンを含む子実体又は菌床を採取し、乳酸菌を播種して培養することを含む、オルニチンを含有する食品組成物を製造する方法。
【請求項2】
菌床培地がアルギニン高含有食品を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アルギニン高含有食品が豆類、種実類、又は穀類由来食品である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
乳酸菌を播種する菌床が、子実体原基形成から3日後までの菌床である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
食用担子菌が、ハラタケ目に属する食用担子菌である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
食用担子菌が、ヒラタケ属又はエノキタケ属である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
食用担子菌が、ヒラタケ又はエノキタケである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
乳酸菌が、ラクトバチルス属又はペディオコッカス属である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
乳酸菌が、ラクトバチルス・ファーメンタム又はペディオコッカス・ペントサセウスである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
乳酸菌が、ラクトバチルス・ファーメンタム キリシマ1R(NITE P−784)株又はペディオコッカス・ペントサセウス キリシマ1C(NITE P-787)株である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
オルニチンを含有する食品組成物が乳酸菌を含有する、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オルニチンを高含有する食品組成物及びその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
担子菌が形成する子実体(きのこ)は、β−グルカンやプロテアーゼ等の有用な二次代謝物を非常に多く産生することが知られている(非特許文献1、非特許文献2)。β−グルカンや乳酸菌は免疫賦活作用を有し、NK細胞やキラーT細胞などの細胞を刺激し、癌細胞を攻撃することも報告されている。
【0003】
菌床栽培においてエノキタケ、ブナシメジ、エリンギ等の子実体を凍結することでオルニチンやγ−アミノ酪酸を含むアミノ酸が増加することが報告されている(特許文献1及び2)。オルニチンには肝機能の亢進効果や運動性の向上効果、γ-アミノ酪酸には高血圧症に対する改善効果があることが報告されている。
【0004】
しかしながら、きのこの菌床栽培において得られる子実体中の遊離型アミノ酸(オルニチン等)は、安価に且つ多量に遊離型アミノ酸を製造するには少なすぎる量である。オルニチン産生能を有する菌を用いて液体培養でオルニチンを製造する方法が知られているが、食品として適さない成分を含む培地を使用することから、そのままでは食品組成物として利用できず、安全性を担保するためには培養物からオルニチンを精製する必要がある(特許文献1、2、3、非特許文献3)。その場合、精製工程にコストを要するため、オルニチンの製造原価が上昇してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−53924号公報
【特許文献2】特開2007−274904号公報
【特許文献3】特開2005−102559号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】山田 豊、中山恵美子他、担子菌類の酵素プロファイルとそのバガス分解プロセス、Grassland Science 、2000年、第46号、p.265
【非特許文献2】平瀬 進、中井 幸子、担子菌カワラタケの抗腫瘍性多糖の化学構造に関する研究、YAKUGAKUZASSHI、1976年、第96巻、p.419
【非特許文献3】榊原 正樹、スピルナの乳酸発酵によるγ-アミノ酪酸(GABA)の高含有化及び血圧降下作用、DIC Technical Review、 2006年、第12号、p.13
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、オルニチンを高含有する食品組成物の効率的な製造法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、乾燥麦焼酎粕を配合した培地を用いた菌床栽培で得られた子実体又はその子実体原基形成直後の菌床に遊離型アルギニンが大量に蓄積されること、当該子実体又は菌床に乳酸菌を播種し培養することによって、遊離型アルギニンから変換されたオルニチンを高含有する食品組成物を得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1] 乾燥麦焼酎粕を配合した菌床培地において食用担子菌を培養し、産生された遊離型アルギニンを含む子実体又は菌床を採取し、乳酸菌を播種して培養することを含む、オルニチンを含有する食品組成物を製造する方法。
この方法において、菌床培地はアルギニン高含有食品を含むことが好ましい。アルギニン高含有食品の好適な例は、豆類、種実類、又は穀類由来食品である。
この方法において乳酸菌を播種する菌床は、子実体原基形成から3日後までの菌床であることが好ましい。
この方法で用いる食用担子菌は、ハラタケ目に属する食用担子菌であることがより好ましく、例えばヒラタケ属又はエノキタケ属である。例えば、食用担子菌は、ヒラタケ又はエノキタケであってよい。
この方法で用いる乳酸菌は、ラクトバチルス属又はペディオコッカス属であることがより好ましい。この乳酸菌は、ラクトバチルス・ファーメンタム又はペディオコッカス・ペントサセウスであることが特に好ましい。好ましい一実施形態では、乳酸菌は、ラクトバチルス・ファーメンタム キリシマ1R(NITE P−784)株又はペディオコッカス・ペントサセウス キリシマ1C(NITE P-787)株である。
この方法で得られる、オルニチンを含有する食品組成物は、乳酸菌を含有することも好ましい。
[2] 上記[1]に記載の方法により得られる、オルニチンを含有する食品組成物。
この食品組成物は、好適な一実施形態では、乾燥重量比で100g当たり500mg以上のオルニチンを含有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法を用いれば、オルニチンを高含有する食品組成物を効率的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明に係る方法では、乾燥麦焼酎粕を配合した菌床培地において、食用担子菌を培養する。本発明において「乾燥麦焼酎粕」とは、麦を原料とする焼酎の製造過程で生成される焼酎蒸留粕から分離される固形画分(例えば、固液分離により得られるもの)を乾燥させた物質をいう。乾燥麦焼酎粕の水分率は、特に限定するものではないが、典型的には15%以下、例えば5〜10%である。乾燥麦焼酎粕は、限定するものではないが、乾燥重量比で例えば5重量%(wt%)以上、好ましくは10重量%以上、より好ましくは20重量%以上、さらに好ましくは30重量%以上、特に好ましくは50重量%以上の量で菌床培地に含まれることが好ましい。担子菌菌糸において産生されるプロテアーゼにより、培地中のタンパク質は分解され、タンパク質に含まれる結合型アルギニンから遊離型アルギニンが産生され、培地中に放出される。本発明の方法では、乾燥麦焼酎粕を配合した菌床培地を用いることにより、担子菌による遊離型アルギニンの産生を顕著に促進することができる。ここで「結合型アルギニン」とは、2個以上のアミノ酸残基から構成されるポリペプチド鎖に含まれている状態のアルギニン残基であり、「遊離型アルギニン」とはそのようなポリペプチド鎖に含まれずに単独で存在しているアルギニンである。
【0013】
本発明の一実施形態では、乾燥麦焼酎粕を配合した菌床培地が、アルギニン高含有食品をさらに含むことも好ましい。アルギニン高含有食品とは、当該食品のタンパク質組成におけるアルギニン含有率が高い食品を意味し、例えば乾燥重量比で300mg/100g以上、より好ましくは500mg/100g以上、さらに好ましくは1000mg/100g以上、特に好ましくは2000mg/100g以上のアルギニン(主に結合型アルギニン)を含有する食品である。例えば、豆類、種実類、一部の野菜、及び穀類、並びに肉類やゼラチンはそのタンパク質組成中にアルギニンを多く含むことが知られている。本発明において用いるアルギニン高含有食品として、豆類、種実類、及び穀類由来食品は特に好ましい。豆類由来食品には、ダイズ、ソラマメ、リョクトウ、アズキ、ササゲ、及びエンドウ等の種子(豆類)又はその加工食品が含まれる。その加工食品としては、以下に限定するものではないが、例えば、きな粉、大豆粉、小豆粉などの豆粉、脱脂大豆、高野豆腐、味噌、おから(乾燥おから等)、湯葉等が挙げられる。種実類由来食品には、ラッカセイ、ゴマ、アーモンド、カシューナッツ、マカデミアナッツ、へーゼルナッツ等のナッツ類の種子、松の実、銀杏、ひまわり種子、カボチャ種子等の種実類又はそれらの加工食品が含まれる。その加工食品としては、以下に限定するものではないが、例えば、種皮及び殻を取り除いて乾燥させた乾燥物や、その粉砕物が挙げられる。穀類由来食品には、コムギ、オオムギ、ライムギ、カラスムギ等の麦類、トウモロコシ、コメ、ソバ、アマランサス等の穀類又はそれらの加工食品が含まれる。その加工食品としては、以下に限定するものではないが、例えば、小麦粉、ソバ粉等の穀類の粉砕粉、小麦胚芽、米糠、フスマ、玄米、精白米、パン粉等が挙げられる。別の好ましいアルギニン高含有食品としては、ゼラチンも挙げられる。さらに別の好ましいアルギニン高含有食品としては、ニンニク、乾燥シイタケ、かんぴょう及びその加工食品も挙げられる。菌床培地は、1種又は2種以上のアルギニン高含有食品を総重量比で例えば5〜40重量%含み得る。アルギニン高含有食品を含む菌床培地を用いることにより、担子菌のプロテアーゼ活性を介して遊離型アルギニンをさらに高濃度に産生させることができる。本発明はこのような菌床培地も提供する。
【0014】
上記菌床培地には、坦子菌の増殖を促進するため、コーンコブ、芋デンプン粕等の繊維性植物材料、貝化石微粉末、牡蠣殻粉末等、重曹、麦芽エキス、酵母エキス、グルコース等を含有させてもよい。但し上記菌床培地に添加する成分は、通常、可食性のものである。上記菌床培地のpHは、用いる担子菌が増殖可能な範囲であればよいが、通常はpH5〜7である。
【0015】
本発明で用いる「食用担子菌」は、担子菌のうち、子実体を形成し、その子実体が食用とされているものを意味する。「食用担子菌」は、シロキクラゲ目、キクラゲ目、ヒダナシタケ目、ハラタケ目等であってよく、好ましくはハラタケ目である。「食用担子菌」は、例えば、ヒラタケ科、ハラタケ科、シメジ科、キシメジ科、サルノコシカケ科、ハナビラタケ科であってよく、さらに、ヒラタケ属、ハラタケ属、シメジ属、エノキタケ属、シイタケ属、マイタケ属、ハナビラタケ属等であってよい。「食用担子菌」の好適な具体例としては、以下に限定するものではないが、エノキタケ(エノキタケ属)、ブナシメジ(シメジ属)、エリンギ(ヒラタケ属)、ヒメマツタケ(ハラタケ属)、マイタケ(マイタケ属)、ヒラタケ(ヒラタケ属)、ハナビラタケ(ハナビラタケ属)等の、安全性が高く古来広く食用とされているものが挙げられる。
【0016】
上記菌床培地は、培地原料に、菌床培地の水分量が総重量比で一般的には50〜70重量%、典型的には約65重量%になる量の水を添加して混合(好ましくは均一に混合)した後、容器(瓶、袋等)に充填し、滅菌処理することにより、作製することができる。滅菌処理は、例えば加温又は加温加圧滅菌法により実施することができ、例えば100℃超(121℃など)で数時間(3時間など)処理することにより、実施することができる。このようにして作成された菌床培地は固体状であり、冷却後、担子菌を植えつけることができる。
【0017】
好ましくは20℃以下まで冷却された上記菌床培地に、上述した食用担子菌を接種し、培養すればよい。担子菌の培養は、個々の担子菌に適した培養条件(温度、湿度、光条件等)で行えばよい。培養日数は、温度、培地組成、担子菌の種類の条件等によって異なるが、少なくとも、菌糸が生育しプロテアーゼが十分に産生されることが必要である。一般的には、子実体原基形成時点又は子実体形成完了時点までの培養期間は、培養開始から20〜90日程度である。
【0018】
各種担子菌の培養条件等については、例えば、「きのこ栽培全科」(大森清寿、小出博 編、2001年9月30日刊行、社団法人農村漁村文化協会)、「きのこハンドブック」(衣川堅二郎、小川真 編、(2000) 朝倉書店)等のキノコ栽培に関する教科書を参照することができる。一定期間にわたる担子菌培養後、子実体発生処理として菌掻き、注水等を行ってもよい。
【0019】
一例として、食用担子菌としてヒラタケを用いる場合、培養温度20〜23℃、相対湿度65〜75%で極力暗黒条件下で30〜35日間培養し、その後、子実体形成のため、温度10〜20℃(適温:15℃)、相対湿度90〜95%で10〜18日間培養することにより、子実体を得ることができる。
【0020】
また別の例として、食用担子菌としてエノキタケを用いる場合、培養温度17〜19℃(好ましくは18℃)、相対湿度75〜85%で極力暗黒条件下で10〜20日間(例えば15日間)培養した後、培養温度19〜21℃(好ましくは20℃)、相対湿度65〜75%で極力暗黒条件下で18〜22日間培養し、その後、培養温度を15〜17℃(好ましくは16℃)に下げ、子実体原基形成後は、温度10〜20℃(適温:15℃)、相対湿度90〜95%で10〜18日間培養することにより、子実体を得ることができる。
【0021】
上記菌床培地で食用担子菌を上記のように培養することにより、まず子実体原基が形成され、その原基が子実体へと成長する(子実体形成)。このような菌床栽培により子実体(きのこ)を取得することができる。こうして得られた子実体には、担子菌菌糸が産生したプロテアーゼにより培地中のタンパク質(例えば、乾燥麦焼酎粕及び/又はアルギニン高含有食品由来のもの)が分解されて産生した遊離型アルギニンが大量に取り込まれ、蓄積されている。本発明の方法の一実施形態では、この収穫(採取)した子実体を乳酸菌培養に供し、遊離型アルギニンをオルニチンに変換することができる。乳酸菌培養に供する子実体としては、好ましくは菌傘がある程度以上(通常60%以上、好ましくは80%以上)開いた後に収穫したものを用いることがより好ましい。
【0022】
また、上記の子実体原基形成前後の菌床も、産生された遊離型アルギニンを大量に含有する。菌床中の遊離型アルギニン濃度は子実体原基形成時まで経時的に増加するが、子実体原基が子実体へと成長するにつれて、遊離型アルギニンは子実体に移行し、菌体中の遊離型アルギニン濃度は低下する。このため、子実体をまだ発生することなく菌糸は十分に蔓延した段階にある子実体原基形成直後の菌床は、遊離型アルギニンを最も高濃度に含有している。そこで、本発明の方法の別の実施形態では、子実体原基形成前後の菌床を採取し、これを乳酸菌培養に供し、遊離型アルギニンをオルニチンに変換することができる。乳酸菌培養に供する菌床は、子実体原基形成の7日前〜7日後の菌床が好ましく、子実体原基形成から3日後までの菌床がより好ましく、子実体原基形成直後(目視観察により認められる子実体原基形成から1日後まで)の菌床がさらに好ましい。
【0023】
好適な例として、食用担子菌としてヒラタケを用いる場合には、培養温度20〜23℃、相対湿度65〜75℃で極力暗黒条件下で30〜35日間培養し、その後、温度10〜20℃(適温:15℃)、相対湿度90〜95%で子実体原基形成直前まで培養することにより、乳酸菌培養に供する菌床を調製することができる。
【0024】
好適な別の例として、食用担子菌としてエノキタケを用いる場合には、培養温度17〜19℃(好ましくは18℃)、相対湿度75〜85%で極力暗黒条件下で10〜20日間(例えば15日間)培養した後、培養温度19〜24℃(好ましくは23℃)、相対湿度65〜75%で極力暗黒条件下で18〜22日間(例えば20日間)培養し、その後、培養温度を14〜17℃(好ましくは15〜16℃)に下げて子実体原基形成直前まで培養することにより、乳酸菌培養に供する菌床を調製することができる。
【0025】
上記のようにして得た、遊離型アルギニンを高濃度に含む子実体又は菌床は、乳酸菌培養に供する際に、pH6〜7であることが好ましい。子実体のpHは通常6程度であり、pH調整を行わなくても乳酸菌培養に供することができるが、pH調整を行ってもよい。担子菌培養後の菌床は、通常pHが低下しているため、pHを6〜7に調整することが好ましい。pHの調整は、常法により行うことができるが、重曹を適量添加することにより行うことが好ましい。
【0026】
子実体を用いる場合、子実体をミキサー等でペースト状にするか又は粉砕するなどして得た破砕物に乳酸菌を添加し、混合し(好ましくは均一に攪拌混合し)、培養することが好ましい。菌床を用いる場合には、必要であれば菌床を破砕した後、菌床に重曹を適量(例えば0.5%)添加してpHを調整した後、乳酸菌を添加し、混合し(好ましくは均一に攪拌混合し)、固体培養することが好ましい。
【0027】
播種する乳酸菌は、遊離型アルギニンをオルニチンに変換する能力を有する任意の乳酸菌であってよい。そのような乳酸菌は多くの種類が報告されており、その変換能力は乳酸菌に広く認められる。播種するそのような乳酸菌は、例えばラクトバチルス(Lactobacillus)属、ラクトコッカス(Lacococcus)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属、ロイコノストックス(Lueconostoc)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属及びエンテロコッカス(Enterococcus)属等でありうるが、これらの属および種に限定されるものではない。ラクトバチルス属としては、ラクトバチルス・ファーメンタム、ラクトバチルス・プランタム、ラクトバチルス・ブレビス、スラクトバチルス・デルブルッキー、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・ペントーサス等が挙げられる。ラクトコッカス属としては、ラクトコッカスおよびラクチスクレモリス等が挙げられる。ペディオコッカス属としては、ペディオコッカス・ペントサセウス、ペディオコッカス・アシディラクティシ、ペディオコッカス・ヘパリナス等が挙げられる。ロイコノストックス属としては、ロイコノストックス・ラクティス、ロイコノストック・メセンテロイデス等が挙げられる。ストレプトコッカス属としてはストレプトコッカス・サーモフィラスが挙げられる。エンテロコッカス属としてはエンテロコッカス・フェカリス、エンテロコッカス・フェシウム等を挙げることができる。本発明の方法に用いる乳酸菌は、食用可能なものが好ましい。本発明の方法に用いる乳酸菌として、ラクトバチルス属又はペディオコッカス属がより好ましく、例えばラクトバチルス・ファーメンタム、ペディオコッカス・ペントサセウス、ペディオコッカス・アシディラクティシが好ましい。
【0028】
以下に限定するものではないが、好適に使用できる乳酸菌の例として、ラクトバチルス・ファーメンタム キリシマ1R(NITE P−784)株、ペディオコッカス・ペントサセウス キリシマ1C(NITE P-787)株、ラクトバチルス・ファーメンタム キリシマ3R(NITE P-786)株、ペディオコッカス・アシディラクティシ キリシマ2C(NITE P-788)株などが挙げられる。これらの例示した乳酸菌株(NITE P−784、NITE P-787、NITE P-786、及びNITE P-788)は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に2009年7月23日付で寄託されている。
【0029】
乳酸菌は、子実体又は菌体に対し、限定するものではないが、1.0 x10 cfu/g以上(総重量比)、例えば1.0〜9.0x10cfu/gとなる量で添加することが好ましい。
【0030】
乳酸菌培養は、用いる乳酸菌に適した培養条件で行えばよい。好適な例としては、乳酸菌を子実体又は菌体と均一に攪拌混合した後、30〜40℃(例えば35℃)で15〜96時間(例えば18〜30時間)培養すればよい。一般的には、本発明の方法により、子実体又は菌体に含まれる遊離型アルギニンをオルニチンに変換する場合、乳酸菌培養は20時間程度で完了させることができる。典型的な例では、培養後のpHは約5.0、乳酸菌の菌数濃度は1.0 x10 cfu/g以上となる。
【0031】
このようにして得られる乳酸菌培養後の培養物から、オルニチンを含有する食品組成物(食品素材)を調製することができる。その培養物は、そのまま食品組成物として用いることもできるし、食品加工処理を施して所望の形態の食品組成物とすることもできる。本発明は、そのような食品組成物も提供する。例えば、乳酸菌培養後の培養物を乾燥させてもよい。その乾燥工程は、熱風乾燥、送風乾燥、低温乾燥、真空乾燥、噴霧乾燥、凍結乾燥等の任意の乾燥技術を用いて実施することができる。具体例では、例えば、乳酸菌培養後の培養物を40〜50℃で送風乾燥してもよい。乳酸菌培養後の培養物又はその乾燥物を、粉砕(例えばミル粉砕)、濃縮、ペースト化、希釈、打錠又はカプセル封入等により加工してもよい。必要に応じて、菌床培地に含まれていた比較的硬い素材(コーンコブなど)を、乳酸菌培養後の培養物から(篩などにより)除去した後、食品加工処理を施すことも好ましい。本発明に係る食品組成物は、以下に限定するものではないが、粉末、顆粒、固形材料、溶液、懸濁液、ゲル、錠剤、カプセル剤等の任意の形態であってよい。本発明に係る食品組成物は、オルニチンを高濃度で含有し、例えば乾燥重量比で食品組成物100g当たり、500mg以上、好ましくは900mg以上、より好ましくは1000mg以上、さらに好ましくは1500mg以上、特に好ましくは2000mg以上のオルニチンを含む。オルニチンには肝機能の保護・改善、運動性の向上等の効果が知られていることから、本発明に係る食品組成物は機能性食品としても用いることができる。
【0032】
本発明に係る食品組成物は、オルニチンに加えて、乳酸菌培養に使用した乳酸菌(生菌体及び死菌体)とその破砕物も含有することが好ましい。乳酸菌死菌体又はその破砕物も免疫賦活効果が知られており、それらを含む食品組成物にも免疫賦活等の機能性を期待することができる。食品組成物に含まれる乳酸菌菌体の量は、施した食品加工処理によっても変動するが、基本的には培養後の菌数濃度に比例する。本発明に係る食品組成物は、オルニチン及び乳酸菌に加えて、菌床培養の際にアルギニンと共に産生した他の遊離アミノ酸、及び産生したβ−グルカン等の他の成分もより高濃度で含有し得る。本発明に係る食品組成物は、菌床培養の際に産生した遊離型アルギニンのうちオルニチンに変換されなかったものも含有する。
【0033】
本発明に係る食品組成物は、さらに、飲食品に慣用的に使用されるような各種添加物を含んでもよい。添加物としては、以下に限定するものではないが、着色料(クチナシ色素、赤102等)、香料(オレンジ香料等)、甘味料(ショ糖、ステビア、アステルパーム等)、保存料(ソルビン酸等)、乳化剤(プロピレングリコール脂肪酸エステル等)、酸化防止剤(ビタミンC等)、pH調整剤(クエン酸等)、増粘剤(キサンタンガム等)、膨張剤(炭酸カルシウム等)、消泡剤(リン酸カルシウム)等、結着剤(ポリリン酸ナトリウム等)、栄養強化剤(カルシウム強化剤、ビタミンA等)、賦形剤(水溶性デキストリン等)等が挙げられる。
【0034】
本発明に係る食品組成物は、ヒトの食品に用いるものであってよいが、家畜(ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ラクダ、ニワトリ、カモ等)やペット・実験動物(ラット、マウス、スナネズミ、ハムスター、及びモルモット等のげっ歯類、フェレット、ウサギ、イヌ、ネコ、ミニブタ、サル等)のような非ヒト動物の飼料に用いるものであってもよい。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)ヒラタケ及びエノキタケ菌床におけるアルギニン産生及び蓄積量の解析
表1の処方に従って菌床培地(乾燥麦焼酎粕配合培地)を調製した。培地のpHは貝化石(微粉末)によりpH5.5前後に調整された。表1に示す原料を、記載した割合に従って混合し、水分量65%(総重量比)になるように水を加え、攪拌混合した。これを滅菌釜に入れ、121℃で3時間加熱することにより滅菌処理を行った。菌床培地の温度を20℃以下まで冷却させた後、ヒラタケ種菌を培地に接種した。これを温度20〜23℃、相対湿度65〜75%、暗黒条件下で30〜35日間培養した。続いて、相対湿度90〜95%、温度10〜20℃(適温15℃)で約2週間さらに培養し、子実体を得た。
【0037】
【表1】
【0038】
同様に、表1に示す処方の菌床培地を用いてエノキタケの培養を行った。表1に示す原料を記載した割合に従って混合し、水分量65%(総重量比)になるように水を加え、攪拌混合した。これを滅菌釜に入れ、121℃で3時間加熱することにより滅菌処理を行った。菌床培地の温度を20℃以下まで冷却させた後、エノキタケ種菌を培地に接種した。最初の15日間(初期)は温度18℃、相対湿度80%で、続く20日間(後期)は温度20℃、相対湿度70%で、いずれも暗黒条件下で培養した。その後、子実体原基形成直前まで温度16℃を維持した。子実体原基形成後は、相対湿度90〜95%、温度10〜20℃(適温15℃)で約2週間さらに培養し、子実体を得た。
【0039】
培養中、菌糸が培地にまわった(蔓延した)後、子実体が形成されるまで、ヒラタケ菌床及びエノキタケ菌床を経時的に採取して菌床中のアルギニン濃度を測定した。まず、採取した菌床を粉砕し、一定量の粉砕物を採取し、pH2.2に調整後、ホモジナイザーで微粉砕し、アミノ酸の抽出を行った。次いで抽出物を遠心分離(4,000rpmで8分間)し、上清を採り、メンブランろ過後、アミノ酸分析(島津高速液体クロマトグラフLC−VP)を行った。
【0040】
アルギニン濃度測定結果の概要を表2に示す。表2に示すとおり、ヒラタケ菌、エノキタケ菌はいずれも、上記乾燥麦焼酎粕配合菌床培地において、菌床中に多量のアルギニンを産生及び分泌した。また菌床中の遊離型アルギニン濃度は子実体原基形成直後が最大となることが示された。
【0041】
【表2】
【0042】
担子菌菌糸中のプロテアーゼは、タンパク質を分解し、遊離型アミノ酸を産生する。表2に示すように菌床中の遊離型アルギニン濃度が子実体原基形成直後に最大になったことから、菌糸中のプロテアーゼによりタンパク質から産生される遊離型アルギニンは、子実体形成開始後に子実体に移行し蓄積されることが示された。また、乳酸菌培養により菌床中のアルギニンをオルニチンに変換する場合、オルニチン濃度を最大化するためには、子実体原基形成直後の菌床を用いることが特に有利であることが示された。
【0043】
(実施例2)ヒラタケ子実体での遊離型アルギニン濃度、及び子実体を用いた乳酸菌培養後のオルニチン濃度の測定
表3に示す各培地の処方に従って菌床培地を調製した。各培地の原料を、記載した割合に従って混合し、水分量65%(総重量比)になるように水を加え、攪拌混合した。これを滅菌釜に入れ、121℃で3時間加熱することにより滅菌処理を行った。菌床培地の温度を20℃以下まで冷却させた後、ヒラタケ種菌を培地に接種した。これを温度20〜23℃、相対湿度65〜75%、暗黒条件下で30〜35日間培養した。続いて、相対湿度90〜95%、温度10〜20℃(適温15℃)で約2週間さらに培養し、子実体を得た。
【0044】
【表3】
【0045】
続いて子実体中のアルギニン濃度を測定した。まず、採取した子実体を粉砕し、一定量の粉砕物を採取し、pH2.2に調整後、ホモジナイザーで微粉砕し、アミノ酸の抽出を行った。次いで抽出物を遠心分離(4,000rpmで8分間)し、上清を採り、メンブランろ過後、アミノ酸分析(島津高速液体クロマトグラフLC−VP)を行った。アルギニン濃度測定結果は表4に示す。
【0046】
さらに、得られたヒラタケ子実体をミキサーで破砕し、ペースト状にした。これに乳酸菌ラクトバチルス・ファーメンタム キリシマ1Rを10 cfu/g以上になるように添加(播種)した。均一に撹拌混合後、35℃で20時間培養した。培養後、培養物を45℃で送風乾燥し、微粉砕した。一定量の粉砕物を採取し、pH2.2に調整後、ホモジナイザーで微粉砕し、アミノ酸の抽出を行った。次いで抽出物を遠心分離(4,000rpmで8分間)し、上清を採り、メンブランろ過後、アミノ酸分析(島津高速液体クロマトグラフLC−VP)を行ってオルニチン濃度を測定した(表4)。
【0047】
また、乳酸菌培養後の培養物から生理食塩水にて乳酸菌を抽出し、その菌数濃度をMRS培地を用いて寒天希釈平板法により測定した(表4)。
【0048】
【表4】
【0049】
表4に示すように、被験培地H1(乾燥麦焼酎粕50重量%配合)で培養した子実体中のアルギニン濃度は2,934 mg/100g、乳酸菌培養後のオルニチン濃度は2,760 mg/100gであり、標準培地H5(米糠50重量%配合)の場合と比較してそれぞれ5〜6倍以上に増加した。被験培地H2(乾燥麦焼酎粕25重量%配合)、被験培地H3(乾燥麦焼酎粕10重量%配合)で培養した子実体中のアルギニン濃度はそれぞれ2,354 mg/100g、2,067 mg/100gであり、乳酸菌培養後のオルニチン濃度はそれぞれ2,188 mg/100g、1,888 mg/100gであり、標準培地H5(米糠50重量%配合)の場合と比較して4倍以上に増加した。これに対して比較培地H4(乾燥甘藷焼酎粕50重量%配合)で培養した子実体中のアルギニン濃度は1,220 mg/100g、乳酸菌培養後のオルニチン濃度は1,043 mg/100gであり、標準培地H5(米糠50重量%配合)の場合と比較して2倍程度の増加に留まった。麦焼酎粕配合培地で培養したヒラタケ子実体の乳酸菌培養後の培養物の乾燥粉砕物は、高濃度のオルニチンを含んでおり、有用アミノ酸含有食品組成物(食品素材)として用いることができる。
【0050】
子実体を用いた乳酸菌培養後の乳酸菌はいずれも10 cfu/gのオーダーであり、非常に高い菌数濃度であった。
【0051】
(実施例3)ヒラタケ菌床中の遊離型アルギニン濃度、及び菌床を用いた乳酸菌培養後のオルニチン濃度の測定
表3に示す各培地の処方に従って菌床培地を調製した。各培地の原料を、記載した割合に従って混合し、水分量65%(総重量比)になるように水を加え、攪拌混合した。これを滅菌釜に入れ、121℃で3時間加熱することにより滅菌処理を行った。菌床培地の温度を20℃以下まで冷却させた後、ヒラタケ種菌を培地に接種した。これを温度20〜23℃、相対湿度65〜75%、暗黒条件下で30〜35日間培養した。続いて、子実体原基形成直前まで、相対湿度90〜95%、温度10〜20℃(適温15℃)で培養し、原基形成直後の時点で培養完了とした。
【0052】
続いて培養完了後の菌床(ヒラタケ菌床)中のアルギニン濃度を測定した。まず、採取した菌床を粉砕し、一定量の粉砕物を採取し、pH2.2に調整後、ホモジナイザーで微粉砕し、アミノ酸の抽出を行った。次いで抽出物を遠心分離(4,000rpmで8分間)し、上清を採り、メンブランろ過後、アミノ酸分析(島津高速液体クロマトグラフLC−VP)を行った。アルギニン濃度測定結果は表5に示す。
【0053】
さらに、採取したヒラタケ菌床に重曹を0.5%添加してpHを約6.5に調整した後、乳酸菌ラクトバチルス・ファーメンタム キリシマ1Rを10 cfu/g以上になるように添加(播種)した。均一に撹拌混合後、35℃で20時間培養した。培養後、培養物を45℃で送風乾燥し、微粉砕した。一定量の粉砕物を採取し、pH2.2に調整後、ホモジナイザーで微粉砕し、アミノ酸の抽出を行った。次いで抽出物を遠心分離(4,000rpmで8分間)し、上清を採り、メンブランろ過後、アミノ酸分析(島津高速液体クロマトグラフLC−VP)を行ってオルニチン濃度を測定した(表5)。
【0054】
また、乳酸菌培養後の培養物から生理食塩水にて乳酸菌を抽出し、その菌数濃度をMRS培地を用いて寒天希釈平板法により測定した(表5)。
【0055】
【表5】
【0056】
表5に示すように、被験培地H1(乾燥麦焼酎粕50重量%配合)で培養した菌床中のアルギニン濃度、乳酸菌培養後のオルニチン濃度は、標準培地H5(米糠50重量%配合)の場合と比較して6〜7倍以上に増加した。被験培地H2(乾燥麦焼酎粕25重量%配合)で培養した菌床中のアルギニン濃度、乳酸菌培養後のオルニチン濃度も、標準培地H5(米糠50重量%配合)の場合と比較して5〜6倍以上に増加した。被験培地H3(乾燥麦焼酎粕10重量%配合)で培養した菌床中のアルギニン濃度、乳酸菌培養後のオルニチン濃度も、標準培地H5(米糠50重量%配合)の場合と比較して4〜5倍以上に増加した。一方、比較培地H4(乾燥甘藷焼酎粕50重量%配合)で培養した菌床中のアルギニン濃度、乳酸菌培養後のオルニチン濃度は1,043 mg/100gであり、標準培地H5(米糠50重量%配合)の場合と比較して2倍程度の増加に留まった。麦焼酎粕配合培地でヒラタケ菌を培養したヒラタケ菌床の乳酸菌培養後の培養物の乾燥粉砕物は、高濃度のオルニチンを含んでおり、有用アミノ酸含有食品組成物(食品素材)として用いることができる。
【0057】
菌床を用いた乳酸菌培養後の乳酸菌はいずれも10 cfu/gのオーダーであり、非常に高い菌数濃度であった。
【0058】
(実施例4)エノキタケ子実体での遊離型アルギニン濃度、及び子実体を用いた乳酸菌培養後のオルニチン濃度の測定
表6に示す各培地の処方に従って菌床培地を調製した。各培地の原料を、記載した割合に従って混合し、水分量65%(総重量比)になるように水を加え、攪拌混合した。これを滅菌釜に入れ、121℃で3時間加熱することにより滅菌処理を行った。菌床培地の温度を20℃以下まで冷却させた後、エノキタケ種菌を培地に接種した。最初の15日間(初期)は温度18℃、相対湿度80%で、続く20日間(後期)は温度20℃、相対湿度70%で、いずれも暗黒条件下で培養した。その後、子実体原基形成直前まで温度を16℃で維持した。子実体原基形成後は、相対湿度90〜95%、温度10〜20℃(適温15℃)で約2週間さらに培養し、子実体を得た。
【0059】
【表6】
【0060】
続いて実施例2と同様にして子実体中のアルギニン濃度を測定した。アルギニン濃度測定結果は表7に示す。
【0061】
さらに、実施例2と同様の手順で、得られたエノキタケ子実体の破砕物に乳酸菌ペディオコッカス・ペントサセウス キリシマ1Cを10 cfu/g以上になるように添加(播種)し、乳酸菌培養を行った。培養後、培養物を50℃で送風乾燥し、微粉砕した。粉砕物について、実施例2と同様にして、アミノ酸分析(島津高速液体クロマトグラフLC−VP)を行ってオルニチン濃度を測定した(表7)。
【0062】
また、乳酸菌培養後の培養物について、実施例2と同様にして乳酸菌の菌数濃度を測定した(表7)。
【0063】
【表7】
【0064】
表7に示すように、被験培地E1(乾燥麦焼酎粕30重量%配合)で培養した子実体中のアルギニン濃度、乳酸菌培養後のオルニチン濃度は、標準培地E4(米糠30重量%配合)の場合と比較してそれぞれ5倍以上に増加した。被験培地E2(乾燥麦焼酎粕10重量%配合)で培養した子実体中のアルギニン濃度、乳酸菌培養後のオルニチン濃度は、標準培地E4(米糠30重量%配合)の場合と比較して3〜4倍以上に増加した。一方、比較培地E3(乾燥甘藷焼酎粕30重量%配合)で培養した子実体中のアルギニン濃度、乳酸菌培養後のオルニチン濃度は、標準培地E4(米糠30重量%配合)の場合と比較して2倍程度の増加に留まった。麦焼酎粕配合培地で培養したエノキタケ子実体の乳酸菌培養後の培養物の乾燥粉砕物は、高濃度のオルニチンを含んでおり、有用アミノ酸含有食品組成物(食品素材)として用いることができる。
【0065】
子実体を用いた乳酸菌培養後の乳酸菌はいずれも10 cfu/gのオーダーであり、非常に高い菌数濃度であった。
【0066】
(実施例5)エノキタケ菌床中の遊離型アルギニン濃度、及び菌床を用いた乳酸菌培養後のオルニチン濃度の測定
表6に示す各培地の処方に従って菌床培地を調製した。各培地の原料を、記載した割合に従って混合し、水分量65%(総重量比)になるように水を加え、攪拌混合した。これを滅菌釜に入れ、121℃で3時間加熱することにより滅菌処理を行った。菌床培地の温度を20℃以下まで冷却させた後、エノキタケ種菌を培地に接種した。最初の15日間(初期)は温度18℃、相対湿度80%で、続く20日間(後期)は温度23℃、相対湿度70%で、いずれも暗黒条件下で培養した。その後、子実体原基形成直前まで温度を15℃に維持した。原基形成直後の時点で培養完了とした。
【0067】
続いて、実施例3と同様にして培養完了後の菌床(エノキタケ菌床)中のアルギニン濃度を測定した。アルギニン濃度測定結果は表8に示す。
【0068】
さらに、実施例3と同様にして、得られたエノキタケ菌床に重曹を0.5%添加してpHを約6.5に調整した後、乳酸菌ペディオコッカス・ペントサセウス キリシマ1Cを10 cfu/g以上になるように添加(播種)し、乳酸菌培養を行った。培養後、培養物を45℃で送風乾燥し、微粉砕した。得られた粉砕物について、実施例3と同様にして、アミノ酸分析(島津高速液体クロマトグラフLC−VP)によりオルニチン濃度を測定した(表8)。また、乳酸菌培養後の培養物について、実施例3と同様にして乳酸菌の菌数濃度を測定した(表8)。
【0069】
【表8】
【0070】
表8に示すように、被験培地E1(乾燥麦焼酎粕30重量%配合)で培養した菌床中のアルギニン濃度、乳酸菌培養後のオルニチン濃度は、標準培地E4(米糠30重量%配合)の場合と比較して8〜9倍以上に増加した。被験培地E2(乾燥麦焼酎粕10重量%配合)で培養した菌床中のアルギニン濃度、乳酸菌培養後のオルニチン濃度は、標準培地E4(米糠30重量%配合)の場合と比較して6倍以上に増加した。一方、比較培地E3(乾燥甘藷焼酎粕30重量%配合)で培養した子実体中のアルギニン濃度、乳酸菌培養後のオルニチン濃度は、標準培地E4(米糠30重量%配合)の場合と比較して2倍程度の増加に留まった。焼酎粕配合培地でエノキタケ菌を培養したエノキタケ菌床の乳酸菌培養後の培養物の乾燥粉砕物は、高濃度のオルニチンを含んでおり、有用アミノ酸含有食品組成物(食品素材)として用いることができる。
【0071】
子実体を用いた乳酸菌培養後の乳酸菌はいずれも10 cfu/gのオーダーであり、非常に高い菌数濃度であった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の方法は、安全性が高く、遊離型アミノ酸等、特にオルニチンを高濃度に含む食品組成物(食品素材)を安価に製造するために用いることができる。