【実施例】
【0035】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)ヒラタケ及びエノキタケ菌床におけるアルギニン産生及び蓄積量の解析
表1の処方に従って菌床培地(乾燥麦焼酎粕配合培地)を調製した。培地のpHは貝化石(微粉末)によりpH5.5前後に調整された。表1に示す原料を、記載した割合に従って混合し、水分量65%(総重量比)になるように水を加え、攪拌混合した。これを滅菌釜に入れ、121℃で3時間加熱することにより滅菌処理を行った。菌床培地の温度を20℃以下まで冷却させた後、ヒラタケ種菌を培地に接種した。これを温度20〜23℃、相対湿度65〜75%、暗黒条件下で30〜35日間培養した。続いて、相対湿度90〜95%、温度10〜20℃(適温15℃)で約2週間さらに培養し、子実体を得た。
【0037】
【表1】
【0038】
同様に、表1に示す処方の菌床培地を用いてエノキタケの培養を行った。表1に示す原料を記載した割合に従って混合し、水分量65%(総重量比)になるように水を加え、攪拌混合した。これを滅菌釜に入れ、121℃で3時間加熱することにより滅菌処理を行った。菌床培地の温度を20℃以下まで冷却させた後、エノキタケ種菌を培地に接種した。最初の15日間(初期)は温度18℃、相対湿度80%で、続く20日間(後期)は温度20℃、相対湿度70%で、いずれも暗黒条件下で培養した。その後、子実体原基形成直前まで温度16℃を維持した。子実体原基形成後は、相対湿度90〜95%、温度10〜20℃(適温15℃)で約2週間さらに培養し、子実体を得た。
【0039】
培養中、菌糸が培地にまわった(蔓延した)後、子実体が形成されるまで、ヒラタケ菌床及びエノキタケ菌床を経時的に採取して菌床中のアルギニン濃度を測定した。まず、採取した菌床を粉砕し、一定量の粉砕物を採取し、pH2.2に調整後、ホモジナイザーで微粉砕し、アミノ酸の抽出を行った。次いで抽出物を遠心分離(4,000rpmで8分間)し、上清を採り、メンブランろ過後、アミノ酸分析(島津高速液体クロマトグラフLC−VP)を行った。
【0040】
アルギニン濃度測定結果の概要を表2に示す。表2に示すとおり、ヒラタケ菌、エノキタケ菌はいずれも、上記乾燥麦焼酎粕配合菌床培地において、菌床中に多量のアルギニンを産生及び分泌した。また菌床中の遊離型アルギニン濃度は子実体原基形成直後が最大となることが示された。
【0041】
【表2】
【0042】
担子菌菌糸中のプロテアーゼは、タンパク質を分解し、遊離型アミノ酸を産生する。表2に示すように菌床中の遊離型アルギニン濃度が子実体原基形成直後に最大になったことから、菌糸中のプロテアーゼによりタンパク質から産生される遊離型アルギニンは、子実体形成開始後に子実体に移行し蓄積されることが示された。また、乳酸菌培養により菌床中のアルギニンをオルニチンに変換する場合、オルニチン濃度を最大化するためには、子実体原基形成直後の菌床を用いることが特に有利であることが示された。
【0043】
(実施例2)ヒラタケ子実体での遊離型アルギニン濃度、及び子実体を用いた乳酸菌培養後のオルニチン濃度の測定
表3に示す各培地の処方に従って菌床培地を調製した。各培地の原料を、記載した割合に従って混合し、水分量65%(総重量比)になるように水を加え、攪拌混合した。これを滅菌釜に入れ、121℃で3時間加熱することにより滅菌処理を行った。菌床培地の温度を20℃以下まで冷却させた後、ヒラタケ種菌を培地に接種した。これを温度20〜23℃、相対湿度65〜75%、暗黒条件下で30〜35日間培養した。続いて、相対湿度90〜95%、温度10〜20℃(適温15℃)で約2週間さらに培養し、子実体を得た。
【0044】
【表3】
【0045】
続いて子実体中のアルギニン濃度を測定した。まず、採取した子実体を粉砕し、一定量の粉砕物を採取し、pH2.2に調整後、ホモジナイザーで微粉砕し、アミノ酸の抽出を行った。次いで抽出物を遠心分離(4,000rpmで8分間)し、上清を採り、メンブランろ過後、アミノ酸分析(島津高速液体クロマトグラフLC−VP)を行った。アルギニン濃度測定結果は表4に示す。
【0046】
さらに、得られたヒラタケ子実体をミキサーで破砕し、ペースト状にした。これに乳酸菌ラクトバチルス・ファーメンタム キリシマ1Rを10
6 cfu/g以上になるように添加(播種)した。均一に撹拌混合後、35℃で20時間培養した。培養後、培養物を45℃で送風乾燥し、微粉砕した。一定量の粉砕物を採取し、pH2.2に調整後、ホモジナイザーで微粉砕し、アミノ酸の抽出を行った。次いで抽出物を遠心分離(4,000rpmで8分間)し、上清を採り、メンブランろ過後、アミノ酸分析(島津高速液体クロマトグラフLC−VP)を行ってオルニチン濃度を測定した(表4)。
【0047】
また、乳酸菌培養後の培養物から生理食塩水にて乳酸菌を抽出し、その菌数濃度をMRS培地を用いて寒天希釈平板法により測定した(表4)。
【0048】
【表4】
【0049】
表4に示すように、被験培地H1(乾燥麦焼酎粕50重量%配合)で培養した子実体中のアルギニン濃度は2,934 mg/100g、乳酸菌培養後のオルニチン濃度は2,760 mg/100gであり、標準培地H5(米糠50重量%配合)の場合と比較してそれぞれ5〜6倍以上に増加した。被験培地H2(乾燥麦焼酎粕25重量%配合)、被験培地H3(乾燥麦焼酎粕10重量%配合)で培養した子実体中のアルギニン濃度はそれぞれ2,354 mg/100g、2,067 mg/100gであり、乳酸菌培養後のオルニチン濃度はそれぞれ2,188 mg/100g、1,888 mg/100gであり、標準培地H5(米糠50重量%配合)の場合と比較して4倍以上に増加した。これに対して比較培地H4(乾燥甘藷焼酎粕50重量%配合)で培養した子実体中のアルギニン濃度は1,220 mg/100g、乳酸菌培養後のオルニチン濃度は1,043 mg/100gであり、標準培地H5(米糠50重量%配合)の場合と比較して2倍程度の増加に留まった。麦焼酎粕配合培地で培養したヒラタケ子実体の乳酸菌培養後の培養物の乾燥粉砕物は、高濃度のオルニチンを含んでおり、有用アミノ酸含有食品組成物(食品素材)として用いることができる。
【0050】
子実体を用いた乳酸菌培養後の乳酸菌はいずれも10
9 cfu/gのオーダーであり、非常に高い菌数濃度であった。
【0051】
(実施例3)ヒラタケ菌床中の遊離型アルギニン濃度、及び菌床を用いた乳酸菌培養後のオルニチン濃度の測定
表3に示す各培地の処方に従って菌床培地を調製した。各培地の原料を、記載した割合に従って混合し、水分量65%(総重量比)になるように水を加え、攪拌混合した。これを滅菌釜に入れ、121℃で3時間加熱することにより滅菌処理を行った。菌床培地の温度を20℃以下まで冷却させた後、ヒラタケ種菌を培地に接種した。これを温度20〜23℃、相対湿度65〜75%、暗黒条件下で30〜35日間培養した。続いて、子実体原基形成直前まで、相対湿度90〜95%、温度10〜20℃(適温15℃)で培養し、原基形成直後の時点で培養完了とした。
【0052】
続いて培養完了後の菌床(ヒラタケ菌床)中のアルギニン濃度を測定した。まず、採取した菌床を粉砕し、一定量の粉砕物を採取し、pH2.2に調整後、ホモジナイザーで微粉砕し、アミノ酸の抽出を行った。次いで抽出物を遠心分離(4,000rpmで8分間)し、上清を採り、メンブランろ過後、アミノ酸分析(島津高速液体クロマトグラフLC−VP)を行った。アルギニン濃度測定結果は表5に示す。
【0053】
さらに、採取したヒラタケ菌床に重曹を0.5%添加してpHを約6.5に調整した後、乳酸菌ラクトバチルス・ファーメンタム キリシマ1Rを10
6 cfu/g以上になるように添加(播種)した。均一に撹拌混合後、35℃で20時間培養した。培養後、培養物を45℃で送風乾燥し、微粉砕した。一定量の粉砕物を採取し、pH2.2に調整後、ホモジナイザーで微粉砕し、アミノ酸の抽出を行った。次いで抽出物を遠心分離(4,000rpmで8分間)し、上清を採り、メンブランろ過後、アミノ酸分析(島津高速液体クロマトグラフLC−VP)を行ってオルニチン濃度を測定した(表5)。
【0054】
また、乳酸菌培養後の培養物から生理食塩水にて乳酸菌を抽出し、その菌数濃度をMRS培地を用いて寒天希釈平板法により測定した(表5)。
【0055】
【表5】
【0056】
表5に示すように、被験培地H1(乾燥麦焼酎粕50重量%配合)で培養した菌床中のアルギニン濃度、乳酸菌培養後のオルニチン濃度は、標準培地H5(米糠50重量%配合)の場合と比較して6〜7倍以上に増加した。被験培地H2(乾燥麦焼酎粕25重量%配合)で培養した菌床中のアルギニン濃度、乳酸菌培養後のオルニチン濃度も、標準培地H5(米糠50重量%配合)の場合と比較して5〜6倍以上に増加した。被験培地H3(乾燥麦焼酎粕10重量%配合)で培養した菌床中のアルギニン濃度、乳酸菌培養後のオルニチン濃度も、標準培地H5(米糠50重量%配合)の場合と比較して4〜5倍以上に増加した。一方、比較培地H4(乾燥甘藷焼酎粕50重量%配合)で培養した菌床中のアルギニン濃度、乳酸菌培養後のオルニチン濃度は1,043 mg/100gであり、標準培地H5(米糠50重量%配合)の場合と比較して2倍程度の増加に留まった。麦焼酎粕配合培地でヒラタケ菌を培養したヒラタケ菌床の乳酸菌培養後の培養物の乾燥粉砕物は、高濃度のオルニチンを含んでおり、有用アミノ酸含有食品組成物(食品素材)として用いることができる。
【0057】
菌床を用いた乳酸菌培養後の乳酸菌はいずれも10
9 cfu/gのオーダーであり、非常に高い菌数濃度であった。
【0058】
(実施例4)エノキタケ子実体での遊離型アルギニン濃度、及び子実体を用いた乳酸菌培養後のオルニチン濃度の測定
表6に示す各培地の処方に従って菌床培地を調製した。各培地の原料を、記載した割合に従って混合し、水分量65%(総重量比)になるように水を加え、攪拌混合した。これを滅菌釜に入れ、121℃で3時間加熱することにより滅菌処理を行った。菌床培地の温度を20℃以下まで冷却させた後、エノキタケ種菌を培地に接種した。最初の15日間(初期)は温度18℃、相対湿度80%で、続く20日間(後期)は温度20℃、相対湿度70%で、いずれも暗黒条件下で培養した。その後、子実体原基形成直前まで温度を16℃で維持した。子実体原基形成後は、相対湿度90〜95%、温度10〜20℃(適温15℃)で約2週間さらに培養し、子実体を得た。
【0059】
【表6】
【0060】
続いて実施例2と同様にして子実体中のアルギニン濃度を測定した。アルギニン濃度測定結果は表7に示す。
【0061】
さらに、実施例2と同様の手順で、得られたエノキタケ子実体の破砕物に乳酸菌ペディオコッカス・ペントサセウス キリシマ1Cを10
6 cfu/g以上になるように添加(播種)し、乳酸菌培養を行った。培養後、培養物を50℃で送風乾燥し、微粉砕した。粉砕物について、実施例2と同様にして、アミノ酸分析(島津高速液体クロマトグラフLC−VP)を行ってオルニチン濃度を測定した(表7)。
【0062】
また、乳酸菌培養後の培養物について、実施例2と同様にして乳酸菌の菌数濃度を測定した(表7)。
【0063】
【表7】
【0064】
表7に示すように、被験培地E1(乾燥麦焼酎粕30重量%配合)で培養した子実体中のアルギニン濃度、乳酸菌培養後のオルニチン濃度は、標準培地E4(米糠30重量%配合)の場合と比較してそれぞれ5倍以上に増加した。被験培地E2(乾燥麦焼酎粕10重量%配合)で培養した子実体中のアルギニン濃度、乳酸菌培養後のオルニチン濃度は、標準培地E4(米糠30重量%配合)の場合と比較して3〜4倍以上に増加した。一方、比較培地E3(乾燥甘藷焼酎粕30重量%配合)で培養した子実体中のアルギニン濃度、乳酸菌培養後のオルニチン濃度は、標準培地E4(米糠30重量%配合)の場合と比較して2倍程度の増加に留まった。麦焼酎粕配合培地で培養したエノキタケ子実体の乳酸菌培養後の培養物の乾燥粉砕物は、高濃度のオルニチンを含んでおり、有用アミノ酸含有食品組成物(食品素材)として用いることができる。
【0065】
子実体を用いた乳酸菌培養後の乳酸菌はいずれも10
9 cfu/gのオーダーであり、非常に高い菌数濃度であった。
【0066】
(実施例5)エノキタケ菌床中の遊離型アルギニン濃度、及び菌床を用いた乳酸菌培養後のオルニチン濃度の測定
表6に示す各培地の処方に従って菌床培地を調製した。各培地の原料を、記載した割合に従って混合し、水分量65%(総重量比)になるように水を加え、攪拌混合した。これを滅菌釜に入れ、121℃で3時間加熱することにより滅菌処理を行った。菌床培地の温度を20℃以下まで冷却させた後、エノキタケ種菌を培地に接種した。最初の15日間(初期)は温度18℃、相対湿度80%で、続く20日間(後期)は温度23℃、相対湿度70%で、いずれも暗黒条件下で培養した。その後、子実体原基形成直前まで温度を15℃に維持した。原基形成直後の時点で培養完了とした。
【0067】
続いて、実施例3と同様にして培養完了後の菌床(エノキタケ菌床)中のアルギニン濃度を測定した。アルギニン濃度測定結果は表8に示す。
【0068】
さらに、実施例3と同様にして、得られたエノキタケ菌床に重曹を0.5%添加してpHを約6.5に調整した後、乳酸菌ペディオコッカス・ペントサセウス キリシマ1Cを10
6 cfu/g以上になるように添加(播種)し、乳酸菌培養を行った。培養後、培養物を45℃で送風乾燥し、微粉砕した。得られた粉砕物について、実施例3と同様にして、アミノ酸分析(島津高速液体クロマトグラフLC−VP)によりオルニチン濃度を測定した(表8)。また、乳酸菌培養後の培養物について、実施例3と同様にして乳酸菌の菌数濃度を測定した(表8)。
【0069】
【表8】
【0070】
表8に示すように、被験培地E1(乾燥麦焼酎粕30重量%配合)で培養した菌床中のアルギニン濃度、乳酸菌培養後のオルニチン濃度は、標準培地E4(米糠30重量%配合)の場合と比較して8〜9倍以上に増加した。被験培地E2(乾燥麦焼酎粕10重量%配合)で培養した菌床中のアルギニン濃度、乳酸菌培養後のオルニチン濃度は、標準培地E4(米糠30重量%配合)の場合と比較して6倍以上に増加した。一方、比較培地E3(乾燥甘藷焼酎粕30重量%配合)で培養した子実体中のアルギニン濃度、乳酸菌培養後のオルニチン濃度は、標準培地E4(米糠30重量%配合)の場合と比較して2倍程度の増加に留まった。焼酎粕配合培地でエノキタケ菌を培養したエノキタケ菌床の乳酸菌培養後の培養物の乾燥粉砕物は、高濃度のオルニチンを含んでおり、有用アミノ酸含有食品組成物(食品素材)として用いることができる。
【0071】
子実体を用いた乳酸菌培養後の乳酸菌はいずれも10
9 cfu/gのオーダーであり、非常に高い菌数濃度であった。