(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記エネルギー線重合性化合物(B)が、エネルギー線重合性基を有する単官能モノマーおよび多官能のモノマーならびにこれらのモノマーのオリゴマーからなる群から選ばれる一種または二種以上からなる低分子量化合物を含有する請求項1または2に記載のダイシングシート。
前記粘着剤組成物は架橋剤(D)をさらに含有し、前記重合体(A)は前記架橋剤(D)と架橋反応しうる架橋性官能基を有する請求項1から6のいずれか一項に記載のダイシングシート。
前記ダイシングシートは、粘着剤層における基材に対向する側と反対側の露出面を測定対象面、半導体パッケージの樹脂封止面を被着面として、JIS Z0237:2000に準拠して180°引き剥がし試験を行ったときに測定される粘着力について、エネルギー線照射前の状態における粘着力のエネルギー線照射後の状態における粘着力に対する比が3以上20以下である請求項1から8のいずれか一項に記載のダイシングシート。
前記粘着剤層の前記基材と反対側の面を、半導体チップを樹脂封止した半導体パッケージの樹脂封止面に貼付する請求項1から9のいずれか一項に記載のダイシングシート。
請求項1から10のいずれか一項に記載されるダイシングシートの前記粘着剤層側の面を、半導体チップを樹脂封止してなる半導体パッケージの一方の面に貼付し、前記ダイシングシート上の前記半導体パッケージを切断して個片化し、複数のモールドチップを得る、モールドチップの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について説明する。
1.ダイシングシート
図1に示されるように、本発明の一実施形態に係るダイシングシート1は、基材2および粘着剤層3を備える。
【0030】
(1)基材
本実施形態に係るダイシングシート1が備える基材2は、エキスパンド工程やピックアップ工程において破断しない限り、その構成材料は、特に限定はされず、重合体を主材とする樹脂系材料からなるフィルムが例示される。そのようなフィルムの具体例として、低密度ポリエチレン(LDPE)フィルム、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)フィルム、高密度ポリエチレン(HDPE)フィルム等のポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、エチレン−ノルボルネン共重合体フィルム、ノルボルネン樹脂フィルム等のポリオレフィン系フィルム;ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム等のポリ塩化ビニル系フィルム;ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム等のポリエステル系フィルム;ポリウレタンフィルム;ポリイミドフィルム;アイオノマー樹脂フィルム;エチレン−酢酸ビニル共重合体フィルム、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム等のエチレン系共重合フィルム;ポリビニルアルコールフィルム、セロファン等の水酸基含有樹脂フィルム;ポリ乳酸;ポリスチレンフィルム;ポリカーボネートフィルム;フッ素樹脂フィルム;ならびにこれらの樹脂の水素添加物および変性物を主材とするフィルムなどが挙げられる。上記の基材2を構成するフィルムは1種単独でもよいし、さらにこれらを2種類以上組み合わせた積層フィルムであってもよい。後述する破断伸度などの要請を満たすことが容易となる観点から、基材2は、ポリオレフィン系フィルム、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体フィルムおよびアイオノマー樹脂フィルムから選ばれる1種または2種以上を備えることが好ましい。なお、本明細書における「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸およびメタクリル酸の両方を意味する。他の類似用語についても同様である。
【0031】
本実施形態に係る基材2は、上記の樹脂系材料を主材とするフィルム内に、顔料、難燃剤、可塑剤、帯電防止剤、滑剤、フィラー等の各種添加剤が含まれていてもよい。顔料としては、例えば、二酸化チタン、カーボンブラック等が挙げられる。また、フィラーとして、メラミン樹脂のような有機系材料、ヒュームドシリカのような無機系材料およびニッケル粒子のような金属系材料が例示される。こうした添加剤の含有量は特に限定されないが、基材2が所望の機能を発揮し、所望の平滑性や柔軟性を失わない範囲に留めるべきである。
【0032】
粘着剤層3を構成する材料(すなわち、エネルギー線重合性化合物(B))を重合させるために照射するエネルギー線として紫外線を用いる場合には、基材2は紫外線に対して透過性を有することが好ましい。なお、エネルギー線として電子線を用いる場合には電子線に対して透過性を有していることが好ましい。
【0033】
後述する粘着剤層3を形成するための粘着剤組成物が架橋剤(D)を含有し、基材2における粘着剤層3に対向する側の面(本明細書において「被粘着処理面」ともいう。)にその架橋剤(D)が接しうる場合には、その架橋剤(D)と接する前の状態の被粘着処理面には、その架橋剤(D)と架橋反応しうる官能基(本明細書において「架橋性官能基」ともいう。)が存在することが好ましい。かかる架橋性官能基の種類は架橋剤(D)が有する架橋反応を行う官能基(本明細書において「架橋反応基」ともいう。)の種類によって適宜設定すればよい。例えば、後述するように架橋剤(D)が有する架橋反応基がイソシアネート基である場合には、架橋性官能基として、水酸基、カルボキシル基、アミノ基などが例示される。
【0034】
架橋剤(D)の架橋反応基と、被粘着処理面に存在する架橋性官能基とが反応することによって、基材2と粘着剤層3との界面部(本明細書において、「界面部」とは、基材2と粘着剤層3との界面、基材2における当該界面の近傍の領域、および粘着剤層3における当該界面の近傍の領域を意味する。)粘着剤層3内の架橋反応基と基材2が有する架橋性官能基とが関与する相互作用が生じる可能性が高まり、この相互作用により基材2と粘着剤層3との密着性が高まる(キーイングの向上)。そのような相互作用の例として、架橋反応基と架橋性官能基とが反応してなる結合構造が形成されるといった化学的な相互作用が挙げられる。このような結合構造が形成されると、基材2と粘着剤層3とは強固に結合される。それゆえ、被粘着処理面に架橋性官能基が存在する場合には、基材2と粘着剤層3との界面での剥離がより生じにくくなる。
【0035】
架橋性官能基を被粘着処理面に存在させる方法は特に限定されない。例えば、基材2自体が主鎖、側鎖、または末端に架橋性官能基を有する重合体を含む樹脂系材料からなるフィルムを備え、そのフィルムの面が被粘着処理面をなすことで、架橋性官能基が被粘着処理面に存在していてもよい。基材2がかかる構成であることで、表面処理により被粘着処理面に架橋性官能基を存在させる方法と比べて、被粘着処理面に架橋性官能基を安定的に存在させることができ、本実施形態に係るダイシングシート1は基材2と粘着剤層3との界面での剥離が特に生じにくくなる。架橋性官能基がカルボキシル基や水酸基からなる場合には、架橋性官能基を有する重合体を含む樹脂系材料からなるフィルムの具体例として、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、ポリ乳酸フィルム等のカルボキシル基を含有する樹脂を用いたフィルムや水酸基含有樹脂フィルム等が挙げられる。なお、アイオノマー樹脂フィルムは、カルボキシル基を有する重合体のカルボキシル基を金属架橋してなる樹脂を用いたフィルムであるが、金属イオンとイオン結合しているカルボキシル基は通常一部であるため、カルボキシル基は残存している。これらのフィルムの中でも、上述のとおり基材の破断伸度等を調整しやすいという観点から、基材2は、アイオノマー樹脂フィルムおよびエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体フィルムからなる群から選ばれる1種または2種以上を備えることが好ましい。エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体フィルムを用いる場合には、(メタ)アクリル酸の共重合比は、当該共重合体を形成するために用いられる単量体の全質量中、5質量%以上25質量%以下程度の範囲とすることが好ましい。
【0036】
あるいは、例えば、基材2はポリオレフィン系フィルムのように基材自体としては架橋性官能基を有さない材料のフィルムを備える場合であって、粘着剤層3が積層される前にあらかじめコロナ処理等の表面処理が被粘着処理面に施されることにより、当該被粘着処理面に架橋性官能基(架橋剤(D)が架橋反応基としてイソシアネート基を有する場合には、カルボキシル基、水酸基などが 架橋性官能基の具体例として挙げられる。)が存在するようにされていてもよい。また、被粘着処理面は、上記の架橋性官能基を有する重合体を含む樹脂系材料からなるフィルム以外の架橋性官能基を有する材料から形成されていてもよい。具体的には、プライマー層が上記のフィルムの粘着剤層3側の面に設けられ、被粘着処理面はこのプライマー層の面であり、このプライマー層に基づき架橋性官能基が被粘着処理面に存在するようにされていてもよい。なお、基材2の被粘着処理面と反対側の面には各種の塗膜が設けられていてもよい。
【0037】
本実施形態に係る基材2の厚さはダイシングシート1が前述の各工程において適切に機能できる限り、限定されない。好ましくは20〜450μm、より好ましくは25〜200μm、特に好ましくは50〜150μmの範囲にある。
【0038】
本実施形態における基材2の破断伸度は、23℃、相対湿度50%のときに測定した値として100%以上であることが好ましく、特に200%以上1000%以下であることが好ましい。上記の破断伸度が100%以上である基材2は、エキスパンド工程の際に破断しにくく、半導体パッケージを切断して形成したモールドチップを離間し易いものとなる。なお、破断伸度はJIS K7161:1994(ISO 527−1:1993)に準拠した引張り試験における、試験片破壊時の試験片の長さの元の長さに対する伸び率である。
【0039】
また、本実施形態における基材2のJIS K7162:1994(ISO 527−2:1993)に準拠した試験により測定される破断応力は10MPa以上であることが好ましく、15MPa以上50MPa以下であることがより好ましく、20MPa以上40MPa以下であることがさらに好ましい。破断応力が10MPa未満であると、ダイシングシート1に半導体パッケージを貼着した後、リングフレームに固定した際、基材2が柔らかいために弛みが発生し、搬送エラーの原因となることがある。
【0040】
(2)粘着剤層
本実施形態に係るダイシングシート1は、基材2の一方の面に積層された粘着剤層3を備える。この粘着剤層3は、次に説明する成分を含有する粘着剤組成物から形成されたものである。
【0041】
(2−1)粘着剤組成物
粘着剤組成物は、重合体(A)、エネルギー線重合性化合物(B)および粘着付与樹脂(C)を含有し、必要に応じ架橋剤(D)などその他の成分を含有してもよい。
【0042】
(2−1−1)重合体(A)
本実施形態に係るダイシングシート1が備える粘着剤層3を形成するための粘着剤組成物は重合体(A)を含有する。重合体(A)の種類は特に限定されない。アクリル系化合物に基づく構成単位をその骨格を構成する単位として含むアクリル系重合体、エステル結合を骨格を構成する結合として含むポリエステル系重合体などが例示される。重合体(A)は、1種類のモノマーが重合してなる単独重合体であってもよいし、複数種類のモノマーが重合してなる共重合体であってもよい。重合体の物理的特性や化学的特性を制御しやすい観点から、重合体(A)は共重合体であることが好ましい。
【0043】
重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、1万〜200万であることが好ましく、10万〜150万であることがより好ましい。また、重合体(A)のガラス転移温度Tgは、好ましくは−70〜30℃、さらに好ましくは−60〜20℃の範囲にある。なお、本明細書における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定したポリスチレン換算の値である。
【0044】
後述するように、粘着剤層3を形成するための粘着剤組成物が架橋剤(D)を含有する場合には、重合体(A)は架橋性官能基を有する。架橋性官能基の種類は架橋剤(D)が有する架橋反応基の種類によって適宜設定される。以下、粘着剤層3を形成するための粘着剤組成物が架橋剤(D)を含有し、重合体(A)がアクリル系重合体であって架橋性官能基として水酸基を有する場合を具体例として、重合体(A)を形成するためのモノマーについて説明する。
【0045】
上記のような水酸基を有するアクリル系重合体を形成するための原料となりうるモノマー(本明細書において「原料モノマー」ともいう。)として、水酸基を有するアクリル系モノマー(本明細書において「ヒドロキシアクリル系モノマー」という。)、水酸基を有する非アクリル系モノマー、水酸基を有しないアクリル系モノマーおよび水酸基を有しない非アクリル系モノマーが挙げられる。水酸基を有するアクリル系重合体は、上記の原料モノマーのうち、当該重合体がアクリル系重合体となるように、ヒドロキシアクリル系モノマーおよび水酸基を有しないアクリル系モノマーの少なくとも一種に由来する構成単位を含むとともに、当該重合体が水酸基を有するように、ヒドロキシアクリル系モノマーおよび水酸基を有する非アクリル系モノマーの少なくとも一種に由来する構成単位を含む。
【0046】
ヒドロキシアクリル系モノマーの具体的例として、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどの水酸基を有する(メタ)アクリレートなどが挙げられる。また、水酸基を有する非アクリル系モノマーの具体例として、N−メチロールアクリルアミドなどが挙げられる。取り扱い性を高める観点や粘着剤層3の物性の調整を容易とする観点から、水酸基を有するアクリル系重合体は、ヒドロキシアクリル系モノマーに由来する構成単位を含むものが好ましい。
【0047】
上記の原料モノマーのうち、水酸基を有しないアクリル系モノマーの具体的例として、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、(メタ)アクリル酸エステル、その誘導体(アクリロニトリルなど)が具体例として挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルについてさらに具体例を示せば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の鎖状骨格を有する(メタ)アクリレート;シクロアルキル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イミドアクリレート等の環状骨格を有する(メタ)アクリレート;グリシジル(メタ)アクリレート、N−メチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の水酸基以外の反応性官能基を有する(メタ)アクリレートが挙げられる。なお、水酸基を有しないアクリル系モノマーがアルキル(メタ)アクリレートである場合には、そのアルキル基の炭素数は1から18の範囲であることが好ましい。また、水酸基を有しない非アクリル系モノマーとしては、エチレン、ノルボルネン等のオレフィン、酢酸ビニル、スチレンなどが例示される。
【0048】
水酸基を有するアクリル系重合体を形成するための原料モノマーの構成比率は特に限定されない。アクリル系重合体としての性質が得られることを安定的に実現する観点から、アクリル系モノマーの質量の合計、すなわち、ヒドロキシアクリル系モノマーの質量および水酸基を有しないアクリル系モノマー質量の合計の、水酸基を有するアクリル系重合体を形成するための原料モノマーの全質量に対する割合は、30〜100質量%であることが好ましく、50〜99質量%であることがより好ましい。
【0049】
(2−1−2)エネルギー線重合性化合物(B)
本実施形態に係るダイシングシート1が備える粘着剤層3を形成するための粘着剤組成物が含有するエネルギー線重合性化合物(B)は、エネルギー線重合性基を有し、紫外線、電子線等のエネルギー線の照射を受けて重合反応することができる限り、具体的な構成は特に限定されない。エネルギー線重合性化合物(B)が重合することによって粘着剤層3の貯蔵弾性率は上昇し、その結果、粘着剤層3のモールドチップに対する粘着性が低下してピックアップ工程の作業性が向上する。
【0050】
本実施形態において、エネルギー線重合性化合物(B)が有するエネルギー線重合基の当該化合物の単位質量あたりの量(本明細書において「重合基含有率」ともいう。)は、3×10
−4mol/g以上5×10
−3mol/g以下である。粘着付与樹脂(C)が後述する種類の材料であることを前提として、重合基含有率が上記の範囲にあることにより、エネルギー線照射後の粘着剤層3の粘着性を適切な範囲に設定することが容易となり、また、たとえばエネルギー線照射を行ってからエキスパンドするような場合であっても、チップ脱落が発生する可能性を安定的に低減させることができる。さらに、ピックアップ不良の発生の可能性を低減させることができる。チップ脱落が発生する可能性を安定的に低減させる観点から、重合基含有率は2×10
−3mol/g以下とすることが好ましく、1×10
−3mol/g以下とすることがより好ましい。ピックアップ不良の発生の可能性をより安定的に低減させる観点から、重合基含有率は6×10
−4mol/g以上とすることが好ましく、8×10
−4mol/g以上とすることがより好ましい。
【0051】
エネルギー線重合性化合物(B)が有するエネルギー線重合性基の種類は特に限定されない。その具体例として、ビニル基、(メタ)アクリロイル基等のエチレン性不飽和結合を有する官能基などが挙げられる。これらの中でもエネルギー線が照射されたときの反応性の高さの観点から(メタ)アクリロイル基がより好ましい。
【0052】
エネルギー線重合性化合物(B)は、エネルギー線重合性基を有する単官能モノマーおよび多官能のモノマーならびにこれらのモノマーのオリゴマーからなる群から選ばれる一種または二種以上からなる低分子量化合物(本明細書において、「低分子量化合物」と略記する。)(B1)と、主鎖または側鎖にエネルギー線重合性基を有する重合体からなるエネルギー線重合性ポリマー(B2)とに大別することができる。
【0053】
i)低分子量化合物(B1)
エネルギー線重合性化合物(B)が低分子量化合物(B1)を含有する場合には、低分子量化合物(B1)が後述する粘着付与樹脂(C)と同様に、粘着剤層3の可塑化を促進するため、粘着剤層3の粘着性を向上させることが容易となる。低分子量化合物(B1)の分子量は重量平均分子量(Mw)として100以上30,000以下であることが好ましい。その分子量が過度に小さい場合には、製造過程において揮発することが懸念され、このとき粘着剤層3の組成の安定性が低下する。製造過程において揮発する可能性を低減させることと粘着剤層3を可塑化する機能を高めることとをより安定的に両立させる観点から、低分子量化合物(B1)の分子量は、重量平均分子量(Mw)として200以上20,000以下とすることが好ましく、300以上10,000以下程度とすることがより好ましい。
【0054】
低分子量化合物(B1)の具体的な組成は特に限定されない。具体例として、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,4−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレートなどの鎖状骨格を有するアルキル(メタ)アクリレート;ジシクロペンタジエンジメトキシジ(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートなどの環状骨格を有するアルキル(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、オリゴエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ変性(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、イタコン酸オリゴマー等のアクリレート系化合物などが挙げられる。これらの中でも、粘着剤層3を形成するための粘着剤組成物に含有される重合体(A)がアクリル系重合体である場合には、この重合体への相溶性の高さの観点からアクリレート系化合物が好ましい。
【0055】
低分子量化合物(B1)が一分子中に有するエネルギー線重合基は5個以下であることが好ましい。この個数(以下、「重合基数」ともいう。)が6以上となると、エネルギー線の照射により低分子量化合物(B1)が重合した際に生じる粘着剤層3の硬化が顕著となって、粘着性が過度に低下して、エキスパンド工程においてチップ脱落が発生する可能性が高まる場合がある。この可能性をより安定的に低減させる観点から、重合基数は4以下とすることが好ましい。一方、重合基数が2以下の場合には、エネルギー線の照射に基づく粘着性の低下が少なくなって、ピックアップ不良が生じる可能性が高まる場合がある。したがって、重合基数は3以上とすることが好ましい。
【0056】
本実施形態に係る粘着剤層3における低分子量化合物(B1)の含有量は特に限定されない。かかる含有量が過度に少ない場合には、粘着剤層3内のエネルギー線重合性基の量が過度に少なくなるため、エネルギー線を照射しても粘着剤層3のモールドチップに対する粘着性が適切に低下せず、ピックアップ工程において不具合が生じる可能性が高まることが懸念される。一方、その含有量が過度に多い場合には、低分子量化合物(B1)の種類によっては、他の成分との相溶性が低下することが懸念される。したがって、前述の3工程のいずれにおいても不具合が生じる可能性を低減させる観点から、粘着剤層3を形成するための粘着剤組成物における低分子量化合物(B1)の含有量は、重合体(A)100質量部に対して50質量部以上150質量部以下とすることが好ましく、75質量部以上125質量部以下とすることがより好ましい。
【0057】
ii)エネルギー線重合性ポリマー(B2)
エネルギー線重合性ポリマー(B2)はエネルギー線重合性基を有する重合体である。エネルギー線重合性ポリマー(B2)の具体的な構造は限定されないが、エネルギー線重合型ポリマー(B2)は重合体(A)の性質を有することができる。好ましい一例では、エネルギー線重合性ポリマー(B2)はエネルギー線重合性基のみならず架橋性官能基をも有し、粘着剤層3を形成するための粘着剤組成物に含有される架橋剤(D)と反応してエネルギー線重合性ポリマー(B2)の架橋物を形成する。このようにエネルギー線重合性ポリマー(B2)が重合体(A)としての性質を有する場合には、粘着剤層3の製造工程が簡素化される、粘着剤層3内に存在するエネルギー線重合性基の量を制御しやすいなどの利点を有する。また、この場合は、粘着剤層3を形成するための粘着剤組成物はエネルギー線重合性ポリマー(B2)以外の重合体(A)を含有していなくてもよい。なお、このようにエネルギー線重合性ポリマー(B2)が重合体(A)としての性質を有する場合には、「重合体(A)100質量部」とは、重合体(A)および重合体(A)としての性質を有するエネルギー線重合性ポリマー(B2)の総含有量100質量部を意味する。
【0058】
エネルギー線重合性ポリマー(B2)の分子量は、重量平均分子量(Mw)として30,000程度よりも大きい。かかるエネルギー線重合性ポリマー(B2)は、重合体(A)同様に粘着剤主剤の一般的な機能である粘着剤層3の凝集性を維持する効果を生じさせるものであり、このような効果は分子量が高いほど、より発揮される。一方で、エネルギー線重合性ポリマー(B2)の分子量が過度に大きい場合には、粘着剤層3を製造するにあたり薄層化することが困難となるなどの問題が生じる可能性が高まる。したがって、エネルギー線重合性ポリマー(B2)の重量平均分子量(Mw)は、10万超200万以下程度であることが好ましく、20万以上150万以下程度であることがより好ましい。
【0059】
エネルギー線重合性ポリマー(B2)が(メタ)アクリレートに基づく構成単位を骨格に有するものである場合には、例えば次のような方法で調製することができる。水酸基、カルボキシル基、アミノ基、置換アミノ基、エポキシ基等の官能基を含有する(メタ)アクリレートに基づく構成単位およびアルキル(メタ)アクリレートに基づく構成単位を有するアクリル系重合体と、上記の官能基と反応しうる置換基およびエネルギー線重合性基を1分子毎に1〜5個を有する化合物とを反応させることにより、上記のアクリル系重合体にエネルギー線重合性基を付加させることができる。
【0060】
エネルギー線重合性化合物(B)を重合させるためのエネルギー線としては、電離放射線、すなわち、X線、紫外線、電子線などが挙げられる。これらのうちでも、比較的照射設備の導入の容易な紫外線が好ましい。
【0061】
電離放射線として紫外線を用いる場合には、取り扱いのしやすさから波長200〜380nm程度の紫外線を含む近紫外線を用いればよい。紫外線量としては、エネルギー線重合性化合物(B)の種類や粘着剤層3の厚さに応じて適宜選択すればよく、通常50〜500mJ/cm
2程度であり、100〜450mJ/cm
2が好ましく、200〜400mJ/cm
2がより好ましい。また、紫外線照度は、通常50〜500mW/cm
2程度であり、100〜450mW/cm
2が好ましく、200〜400mW/cm
2がより好ましい。紫外線源としては特に制限はなく、例えば高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、発光ダイオードなどが用いられる。
【0062】
電離放射線として電子線を用いる場合には、その加速電圧については、エネルギー線重合性化合物(B)の種類や粘着剤層3の厚さに応じて適宜選定すればよく、通常加速電圧10〜1000kV程度であることが好ましい。また、照射線量は、エネルギー線重合性化合物(B)が適切に硬化する範囲に設定すればよく、通常10〜1000kradの範囲で選定される。電子線源としては、特に制限はなく、例えばコックロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、あるいは直線型、ダイナミトロン型、高周波型などの各種電子線加速器を用いることができる。
【0063】
(2−1−3)粘着付与樹脂(C)
本実施形態に係る粘着剤層3を形成するための粘着剤組成物は分子量が数百から数千のオリゴマーからなる粘着付与樹脂(C)を含有する。この粘着剤組成物から形成される粘着剤層3が粘着付与樹脂(C)を含有することにより、通常、粘着剤層3の粘弾性測定により求められる損失正接が極大値を示す温度は高まる一方、この温度よりも高い温度における貯蔵弾性率は低下して、粘着剤層3の粘着性が増加する。
【0064】
本実施形態に係る粘着剤層3に含有される粘着付与樹脂(C)は水添樹脂を含有し、好ましい一例では粘着付与樹脂(C)は水添樹脂からなる。水添樹脂からなる粘着付与樹脂とは、ロジン、およびその誘導体(具体例として重合化ロジン、エステル化ロジン、重合ロジンエステル、および不均化ロジン等が挙げられる。)等のロジン系粘着付与樹脂;αピネン樹脂、βピネン樹脂、テルペンフェノール樹脂、テルペンとスチレンとの共重合体等のテルペン系粘着付与樹脂;C
5系石油樹脂、C
9系石油樹脂、およびC
5/C
9系石油樹脂等の石油系樹脂などの、エチレン性不飽和結合を有する粘着付与樹脂について、そのエチレン性不飽和結合を水素の添加によって飽和させた樹脂を意味する。
【0065】
このような樹脂からなる粘着付与樹脂(C)は、エネルギー線が照射されても、エネルギー線重合性化合物(B)の重合反応を阻害しにくい。具体的には、粘着付与樹脂(C)がエチレン性不飽和結合を有している場合には、エネルギー線重合性化合物(B)のエネルギー線重合基が粘着付与樹脂(C)のエチレン性不飽和結合と反応してしまい、粘着剤層3の貯蔵弾性率の増加をもたらすエネルギー線重合性化合物(B)同士の付加重合反応が十分に進行しない場合がある。また、照射されたエネルギー線が粘着付与樹脂(C)同士の付加反応に使用され、エネルギー線重合性化合物(B)の重合に必要なエネルギー線が、エネルギー線重合性化合物(B)や必要に応じて含有される重合開始剤に照射されない場合もある。さらに、照射されたエネルギー線が粘着付与樹脂(C)の付加反応を進行させると、粘着付与樹脂(C)の平均分子量が変化し、粘着付与樹脂としての性質が変化して、粘着剤層3の粘着性が大きく変動(多くの場合には著しい低下)をもたらす場合もある。
【0066】
粘着付与樹脂(C)は、クマロン樹脂、アルキルフェノール樹脂、キシレン樹脂といった、水添樹脂ではなく、かつエチレン性不飽和結合を含有しない粘着付与樹脂を含有してもよい。ただし、これらの樹脂は樹脂内に占める芳香環の質量比率が高いため、重合体(A)に対する溶解度が低くなる場合があり、この場合には粘着付与樹脂としての機能が低下し、粘着剤層3の粘着性が向上しにくい。この傾向は、重合体(A)に係る重合体が、アルキル(メタ)アクリレートなど脂肪族系(メタ)アクリレートからなるアクリル系化合物に基づく構成単位を骨格の主たる構成単位として有するアクリル系重合体である場合に顕著となりやすい。したがって、この場合には、上記の粘着付与樹脂の含有量は、粘着付与樹脂(C)全体の質量に占める割合として20質量%以下とすることが好ましい。
【0067】
粘着付与樹脂(C)の含有量は、粘着剤層3に求められる粘着性、貯蔵弾性率などに応じて適宜設定される。基本的な傾向として、粘着付与樹脂(C)の含有量が過度に少ない場合には粘着性を高めることが困難となり、逆に含有量が過度に多い場合には粘着性にばらつきが生じたり、エネルギー線照射前の貯蔵弾性率(本明細書において「硬化前貯蔵弾性率」ともいう。)G’
pが過度に低くなったりする。粘着性および硬化前貯蔵弾性率G’
pを適切な範囲にすることを容易にする観点から、粘着付与樹脂(C)の含有量は、重合体(A)100質量部に対して15質量部以上200質量部以下であることが好ましく、30質量部以上150質量部以下であることがより好ましく、50質量部以上100質量部以下であることが特に好ましい。
【0068】
粘着剤層3がエネルギー線重合性基を有する低分子量化合物(B1)を含有する場合には、当該化合物が粘着付与樹脂と同様の機能(粘着剤層3の可塑化)を発揮する場合があるため、エネルギー線重合性基を有する低分子量化合物(B1)の含有量と粘着付与樹脂(C)の含有量との総和を、重合体(A)100質量部に対して100質量部以上とすることが好ましく、120質量部以上300質量部以下とすることがより好ましく、150質量部以上250質量部以下とすることがさらに好ましい。
【0069】
(2−1−4)その他の成分
本実施形態に係るダイシングシート1が備える粘着剤層3を形成するための粘着剤組成物は、上記の成分に加えて、架橋剤(D)、架橋促進剤、光重合開始剤、染料や顔料などの着色材料、難燃剤、フィラー等の各種添加剤を含有してもよい。
【0070】
本実施形態に係る粘着剤層3を形成するための粘着剤組成物が架橋剤(D)を含有する場合において、その架橋剤(D)の種類は特に限定されない。例えば、エポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、金属キレート系化合物、アジリジン系化合物等のポリイミン化合物、メラミン樹脂、尿素樹脂、ジアルデヒド類、メチロールポリマー、金属アルコキシド、金属塩等が挙げられる。これらの中でも、架橋反応の進行の程度を制御しやすいこと、およびエネルギー線重合性化合物(B)が有するエネルギー線重合基の好ましい一例であるエチレン性不飽和結合を有する官能基との反応性を低くすることが容易であることなどの理由により、架橋剤(D)はポリイソシアネート化合物であることが好ましい。
【0071】
ポリイソシアネート化合物は1分子当たりイソシアネート基を2個以上有する化合物であって、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどの芳香族ポリイソシアネート;ジシクロヘキシルメタン−4,4'−ジイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネート、シクロペンチレンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネートなどの脂環式イソシアネート化合物;ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどの非環式脂肪族イソシアネートが挙げられる。
【0072】
また、これらの化合物の、ビウレット体、イソシアヌレート体や、これらの化合物と、エチレングリコール、トリメチロールプロパン、ヒマシ油等の非芳香族性低分子活性水素含有化合物との反応物であるアダクト体などの変性体も架橋剤(D)として用いることができる。架橋剤(D)を構成する上記のポリイソシアネート化合物は一種類であってもよいし、複数種類であってもよい。
【0073】
粘着剤層3を形成するための粘着剤組成物に架橋剤(D)を含有させる場合において、その含有量は特に限定されない。架橋剤(D)の含有量は、重合体(A)が有する架橋性官能基の種類およびその含有率(この含有量は重合体(A)を形成するための原料モノマーの構成比率に基づき設定される。)、架橋剤(D)が有する架橋反応基の種類およびその含有率、粘着剤組成物から粘着剤層3を形成する際の製造条件などとともに、粘着剤層3に含まれる架橋構造の存在密度(架橋密度)など粘着剤層3の構造的特徴を決定する因子の一つであり、したがって、粘着剤層3を形成するための粘着剤組成物に含有される架橋剤(D)の含有量は、粘着剤層3の粘着性、硬化前貯蔵弾性率G’
pなどの特性に影響を与える。後述する粘着力比や硬化前貯蔵弾性率G’
pを適切な範囲に制御することを容易にする観点から、粘着剤層3を形成するための粘着剤組成物が架橋剤(D)を含有する場合には、架橋剤(D)の含有量は、重合体(A)100質量部に対して1質量部以上30質量部以下とすることが好ましく、5質量部以上15質量部以下とすることがより好ましい。
【0074】
粘着剤層3を形成するための粘着剤組成物が架橋剤(D)を含有する場合には、その架橋剤(D)に係る架橋反応に応じて、適切な架橋促進剤を含有することが好ましい。例えば、架橋剤(D)がポリイソシアネート化合物である場合には、粘着剤層3を形成するための粘着剤組成物は有機スズ化合物などの有機金属化合物系の架橋促進剤を含有することが好ましい。
【0075】
エネルギー線重合性化合物(B)を重合させるエネルギー線として紫外線を用いる場合には、粘着剤層3を形成するための粘着剤組成物が光重合開始剤を含有することにより照射時間、照射量を少なくすることができる。この光重合開始剤の具体例としては、ベンゾイン化合物、アセトフェノン化合物、アシルフォスフィンオキサイド化合物、チタノセン化合物、チオキサントン化合物、パーオキサイド化合物等の光開始剤、アミンやキノン等の光増感剤などが挙げられ、具体的には、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンジルジフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ジベンジル、ジアセチル、β−クロールアンスラキノン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイドなどが挙げられる。
【0076】
(2−2)粘着剤層の物性等
上記の粘着剤組成物から形成された粘着剤層3は、上記の粘着剤組成物に含有される粘着付与樹脂(C)などに基づきエネルギー線照射前の粘着性が高く、エネルギー線重合性化合物(B)に基づきエネルギー線照射後の粘着性が低い。ここで、本実施形態に係る粘着剤層3に含まれる粘着付与樹脂(C)が水添樹脂を含有し、好ましい一例では粘着付与樹脂(C)が水添樹脂からなるため、エネルギー線重合性化合物(B)がエネルギー線照射により重合する際に、粘着付与樹脂(C)によってその重合反応が阻害されて粘着剤層3の粘着性の低下が不十分となってしまうという問題が生じにくい。
以下、粘着剤層3の物性や形状の特徴について詳説する。なお、粘着剤組成物から粘着剤層3を形成する方法については後述する。
【0077】
(2−2−1)照射前貯蔵弾性率
本実施形態に係るダイシングシート1が備える粘着剤層3は、照射前貯蔵弾性率G’
pが0.01MPa以上であることが好ましい。照射前貯蔵弾性率G’
pがこの範囲を満たすことによって、粘着剤層3が過度に軟質となってダイシング工程中にモールドチップが飛散はしないもののずれが生じてしまうなどの問題が生じる可能性を安定的に低減させることができる。上記の問題が生じる可能性をより安定的に低減させる観点から、照射前貯蔵弾性率G’
pは0.03MPa以上であることが好ましい。照射前貯蔵弾性率G’
pの上限は特に限定されないが、照射前貯蔵弾性率G’
pが過度に高い場合には、粘着性、特にエネルギー線照射前の粘着性が低くなり、結果的に次に説明する粘着力比の要請を満たすことが困難となる。粘着力比を下記の範囲に制御することを安定的に実現する観点から、照射前貯蔵弾性率G’
pは0.12MPa以下とすることが好ましく、0.09MPa以下とすることがより好ましい。なお、上記の照射前貯蔵弾性率は、例えば、公知の粘弾性測定装置(ティー・エイ・インスツルメント社製、ARESなど)を用いて測定することができる。また、その測定にあたっては、実施例において後述するように、粘着剤層3を構成する材料からなる厚さ1mm程度の層状体を被測定物とすることが、測定結果のばらつきを少なくする観点から好ましい。
【0078】
(2−2−2)粘着力比
本明細書において、粘着力比とは、本実施形態に係るダイシングシート1が備える粘着剤層3における基材2に対向する側と反対側の露出面を測定対象面、半導体パッケージの樹脂封止面を被着面として、JIS Z0237:2009(ISO 29862−29864:2007)に準拠して、180°引き剥がし試験を行ったときに測定されるダイシングシート1の粘着力について、エネルギー線照射前の状態における粘着力(以下、「照射前粘着力」ともいう。)の、エネルギー線照射後の状態における粘着力(以下、「照射後粘着力」ともいう。)に対する比(前/後)を意味する。本実施形態に係るダイシングシート1の粘着力比は3以上であることが好ましい。粘着力比がかかる範囲であることにより、ダイシング工程においてモールドチップが飛散する可能性を低減させつつ、ピックアップ工程においてピックアップ不良が生じる可能性を低減させることが実現される。粘着力比が3未満の場合には、照射前粘着力を高く維持することが困難となってダイシング工程においてモールドチップが飛散しやすくなったり、照射後粘着力を低く維持することが困難となるためにピックアップ不良が発生しやすくなったりする。一方、粘着力比が過度に高い場合には、照射前粘着力や照射後粘着力を後述する好ましい範囲内に調整することが困難となる。また、粘着剤層3のエネルギー線照射による重合の際に生じる体積収縮の程度が粘着力比と正の相関関係にあるため、モールドチップが粘着剤層3のこの重合時に移動する不具合が発生することが懸念される。したがって、粘着力比は20以下とすることが好ましく、13以下とすることがより好ましく、10以下とすることが特に好ましい。
【0079】
照射前粘着力および照射後粘着力のそれぞれの好適範囲は、ダイシング工程、エキスパンド工程およびピックアップ工程の具体的条件や、被着体である半導体パッケージの被着面である樹脂封止面の材質や表面状態(凹凸の程度など)に応じて適宜設定される。ダイシング工程中にモールドチップが飛散する可能性より安定的に低減させる観点から、照射前粘着力は800mN/25mm以上であることが好ましく、1000mN/25mm以上であることがより好ましい。また、照射後粘着力はエキスパンド工程等におけるチップ脱落の発生を抑制するという効果をより高く発現させるという観点から、100mN/25mm以上500mN/25mm以下であることが好ましく、200mN/25mm以上400mN/25mm以下であることがより好ましい。
【0080】
(2−2−3)厚さ
本実施形態に係るダイシングシート1が備える粘着剤層3の厚さは特に限定されない。過度に薄い場合には粘着性にばらつきが発生しやすくなり、過度に厚い場合には粘着性が過度に高まって粘着力比を前述の範囲に制御することが困難となったり、ピックアップ時に粘着剤層3内部で凝集破壊が生じる可能性が高まったりすることが懸念される。こうした問題が生じる可能性を安定的に低減させる観点から、粘着剤層3の厚さは、2μm以上50μm以下とすることが好ましく、5μm以上35μm以下とすることがより好ましく、5μm以上20μm以下とすることが特に好ましい。
【0081】
(3)剥離シート
本実施形態に係るダイシングシート1は、粘着剤層3を被着体である半導体パッケージに貼付するまでの間において粘着剤層3を保護する目的で、粘着剤層3の被粘着処理面に対向する側と反対側の面に、剥離シートの剥離面が貼合されていてもよい。剥離シートの構成は任意であり、プラスチックフィルムに剥離剤を塗布したものが例示される。プラスチックフィルムの具体例として、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルフィルム、およびポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィンフィルムが挙げられる。剥離剤としては、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル系などを用いることができるが、これらの中で、安価で安定した性能が得られるシリコーン系が好ましい。上記の剥離シートのプラスチックフィルムに代えて、グラシン紙、コート紙、上質紙などの紙基材または紙基材にポリエチレンなどの熱可塑性樹脂をラミネートしたラミネート紙を用いてもよい。該剥離シートの厚さについては特に制限はないが、通常20μm以上250μm以下程度である。
【0082】
2.ダイシングシートの製造方法
ダイシングシート1は、一例として、基材2の被粘着処理面に、粘着剤層3を形成するための粘着剤組成物を含む塗工用組成物を塗布し、得られた塗膜を乾燥することによって製造することができる。
【0083】
塗工用組成物の組成は、粘着剤層3を形成するための粘着剤組成物を含む限り特に限定されない。一例を挙げれば、塗工用組成物は、粘着剤層3を形成するための粘着剤組成物を含有し、塗布工程のハンドリング性や塗膜のレべリング性を向上させる観点からさらに溶媒を含有する。塗工用組成物が溶媒を含む場合における溶媒の種類は特に限定されないが、粘着剤層3を形成するための粘着剤組成物が架橋剤(D)を含有する場合には、溶媒を構成する材料は、その架橋剤(D)が有する架橋反応基に対する反応性が高い基を有さない有機物質からなることが好ましい。具体的に示せば、架橋反応基がイソシアネート基である場合には、溶媒を構成する材料は、水酸基、アミノ基などを有さない有機物質からなることが好ましい。また、塗工用組成物は、粘着剤層3を形成するための粘着剤組成物が分散媒中に分散した、いわゆるエマルジョン系の塗工用組成物であってもよい。
【0084】
上記の塗工用組成物を、基材2の被粘着処理面上に、ロッドコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーター、スリットコーター、ナイフコーター等により塗布し、得られた被粘着処理面上の塗膜を乾燥させることにより、粘着剤層3を形成することができる。粘着剤層3を形成するための粘着剤組成物が架橋剤(D)を含有する場合には、上記の乾燥条件(温度、時間など)を調整することにより、または別途架橋のための加熱処理を設けることにより、粘着剤層3内の架橋剤(D)と重合体(A)との反応を進ませることができる。この反応を十分に進行させるために、上記の方法などによって基材2に粘着剤層3を積層させた後、得られたダイシングシート1を、例えば23℃、相対湿度50%の環境下に数日間静置するといった養生を行ってもよい。
【0085】
あるいは、上記の剥離シートの剥離面上に塗工用組成物を塗布して塗膜を形成し、これを乾燥させて粘着剤層3と剥離シートとからなる積層体を形成し、この積層体の粘着剤層3における剥離シートに対向する側と反対側の面を基材2の被粘着処理面に貼付して、ダイシングシート1と剥離シートとの積層体を得てもよい。この積層体における剥離シートは工程材料として剥離してもよいし、半導体パッケージに貼付するまでの間粘着剤層3を保護していてもよい。
【0086】
3.モールドチップの製造方法
続いて、本実施形態に係るダイシングシート1を用いて、半導体パッケージからモールドチップを製造する方法について説明する。
本実施形態に係るダイシングシート1は、使用にあたり、粘着剤層3側の面(かかる面に剥離シートが貼付されている場合には、剥離シートを剥離することによりこれを表出させる。)を半導体パッケージの樹脂封止面に貼付する。ダイシングシート1の外周部は、通常その部分に設けられた粘着剤層3により、リングフレームと呼ばれる搬送や装置への固定のための環状の冶具に貼付される。粘着剤層3が粘着付与樹脂(C)などを含有するため、ダイシングシート1の照射前粘着力は高められている。それゆえ、ダイシングシート1に貼付された半導体パッケージをダイシング工程に供しても、半導体パッケージが個片化されてなるモールドチップが加工中に飛散する可能性を低減しうる。
【0087】
なお、半導体パッケージは上述のとおり基台の集合体の各基台上に半導体チップを搭載し、これらの半導体チップを一括して樹脂封止した電子部品集合体であるが、通常基板面と樹脂封止面を有し、その厚さは200〜2000μm程度である。樹脂封止面は表面の算術平均粗さRaが0.5〜10μm程度と粗く、また、封止装置の型からの取り出しを容易とするため、封止材料が離型成分を含有していることがあるために、ダイシングシートの粘着剤層を樹脂封止面に貼付しても、十分な固定性能が発揮されない傾向がある。また、ダイシング工程により形成されるモールドチップのサイズは通常10mm×10mm以下であり、近年は5mm×5mm以下、さらには1mm×1mm程度とされる場合もあるが、本実施形態に係るダイシングシート1は粘着剤層3が粘着付与樹脂(C)を含有することに基づき粘着性に優れるため、そのようなファインピッチのダイシングにも十分に対応することができる。
【0088】
ダイシング工程終了後、ダイシングシート1上に近接配置された複数のモールドチップをピックアップしやすいように、通常は、ダイシングシート1を主面内方向に伸長するエキスパンド工程が行われる。伸長の程度は、隣接するモールドチップが有すべき間隔、基材2の引張強度などを考慮して適宜設定すればよい。
【0089】
エキスパンド工程の実施により隣接配置されたモールドチップ同士が適切に離間したら、吸引コレット等の汎用手段により、粘着剤層3上のモールドチップのピックアップを行う。このピックアップ工程の実施までに、本実施形態に係るダイシングシート1の基材2側からエネルギー線照射を行えば、ダイシングシート1が備える粘着剤層3は、これに含有されるエネルギー線重合性化合物(B)の重合反応が進行して粘着性が減少する。本実施形態に係るダイシングシート1は、粘着剤層3に含有されるエネルギー線重合性化合物(B)の重合基含有率が3×10
−4mol/g以上5×10
−3mol/g以下とされているため、ピックアップ不良が発生する可能性は低減される。
【0090】
このエネルギー線照射の実施時期は、ダイシング工程の終了後、ピックアップ工程の開始前であれば特に限定されない。エキスパンド工程時にモールドチップの飛散を生じにくくする観点からはエキスパンド工程後に実施することが好ましいが、エネルギー線照射による粘着剤層3が硬化することに伴って当該層は若干収縮するため、この収縮に基づく位置ずれが問題となる場合などは、エキスパンド工程の実施前にエネルギー線照射を実施してもよい。このような場合であっても、重合基含有率を2×10
−3mol/g以下とすれば、エキスパンド工程などにおいてチップ脱落が発生する可能性を安定的に低減させることが実現される。
【0091】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例】
【0092】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0093】
〔実施例1〕
(1)塗工用組成物の調製
次の組成を有する粘着剤組成物が、トルエンを主成分とする溶媒に溶解した、固形分濃度40質量%の塗工用組成物を調製した。
i)重合体に基づく成分(A)に係る重合体として、100質量部のブチルアクリレートと2質量部のアクリル酸と0.5質量部の2−ヒドロキシエチルアクリレートとを共重合して得た共重合体(重量平均分子量60万、固形分濃度40質量%)を固形分として100質量部、
ii)エネルギー線重合性化合物(B)として、3官能ウレタンアクリレートオリゴマー(重量平均分子量5000、固形分濃度60質量%)からなるアクリレート系化合物を固形分として100重量部、
iii)粘着付与樹脂(C)として、水添テルペンフェノール系粘着付与樹脂(ヤスハラケミカル社製クリアロンM105、固形分濃度100質量%)を固形分として62.5質量部、および
iv)イソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン製コロネートL、固形分濃度70重量%)を固形分として5質量部
なお、上記のエネルギー線重合性化合物(B)の重合基含有率は6×10
−4mol/gであった(測定方法は後述。)。
【0094】
(2)ダイシングシートの作製
厚さ38μmのポリエチレンテレフタレート製基材フィルムの一方の主面上に厚さ0.1μmのシリコーン系の剥離剤層が形成されてなる剥離シート(リンテック社製SP−PET382120、幅長1000mm)を用意した。この剥離シートの剥離面上に、前述の塗工用組成物を、ロッドコーターにて、最終的に得られる粘着剤層の厚さが10μmとなるように塗布した。得られた塗液層を剥離シートごと80℃のオーブン内に1分間静置することにより塗液層を乾燥させて、剥離シートと粘着剤層(厚さ10μm)とからなる積層体を得た。
厚さ140μmのエチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)フィルム(メタクリル酸の共重合比は、用いた単量体の全質量を基準として9質量%であり、最大引張応力は26MPa、破断伸度は525%であった。)からなる基材の一方の面を被粘着処理面として、その面に、上記の積層体の粘着剤層側の面を貼付して、
図1に示されるような基材と粘着剤層とからなるダイシングシートを、粘着剤層側の面に剥離シートがさらに積層された状態で得た。
【0095】
〔実施例2〕
実施例1において、塗工用組成物に含有される粘着付与樹脂(C)の含有量を固形分として25質量部に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、ダイシングシートを得た。
【0096】
〔実施例3〕
実施例1において、塗工用組成物に含有される粘着付与樹脂(C)の種類を水添ロジン系粘着付与樹脂(荒川化学社製ハイペールCH、固形分濃度100質量%)に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、ダイシングシートを得た。
【0097】
〔実施例4〕
実施例1において、塗工用組成物に含有されるエネルギー線重合性化合物(B)の種類を、6官能ウレタンアクリレートオリゴマー(大日精化社製14−29B、重量平均分子量2000、固形分濃度80質量%)からなるアクリレート系化合物に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、ダイシングシートを得た。なお、上記のエネルギー線重合性化合物(B)の重合基含有率は3×10
−3mol/gであった。
【0098】
〔比較例1〕
実施例1において、塗工用組成物に含有されるエネルギー線重合性化合物(B)の種類を、2官能ウレタンアクリレートオリゴマー(重量平均分子量8000、固形分濃度40質量%)からなるアクリレート系化合物に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、ダイシングシートを得た。なお、上記のエネルギー線重合性化合物(B)の重合基含有率は2.5×10
−4mol/gであった。
【0099】
〔比較例2〕
実施例1において、塗工用組成物に含有されるエネルギー線重合性化合物(B)の種類を、6官能ウレタンアクリレートオリゴマー(新中村化学社製A−DPH、重量平均分子量578、固形分濃度100質量%)からなるアクリレート系化合物に変更し、その含有量を固形分として37.5質量部とした以外は、実施例1と同様の操作を行い、ダイシングシートを得た。なお、上記のエネルギー線重合性化合物(B)の重合基含有率は10×10
−3mol/gであった。
【0100】
〔比較例3〕
実施例1において、塗工用組成物に含有される粘着付与樹脂(C)の種類を重合ロジン系粘着付与樹脂(荒川化学社製ペンセルD-125、固形分濃度100質量%)に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、ダイシングシートを得た。
【0101】
〔比較例4〕
実施例1において、塗工用組成物に粘着付与樹脂(C)を含有させなかった以外は、実施例1と同様の操作を行い、ダイシングシートを得た。
【0102】
〔比較例5〕
実施例1において、塗工用組成物にエネルギー線重合性化合物(B)を含有させなかった以外は、実施例1と同様の操作を行い、ダイシングシートを得た。
【0103】
〔比較例6〕
実施例1において、塗工用組成物に含有される粘着付与樹脂(C)の種類をキシレン樹脂からなる粘着付与樹脂(フド―社製ニカノールY−1000、固形分濃度100質量%)に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、ダイシングシートを得た。
【0104】
実施例および比較例に係る塗工用組成物の組成等を表1に示す。
【0105】
【表1】
【0106】
〔測定例1〕<エネルギー線重合性化合物(B)の重量平均分子量の測定>
実施例および比較例のそれぞれに係るエネルギー線重合性化合物(B)の重量平均分子量(Mw)をGPCを用いて測定した(ポリスチレン換算値)。
〔測定例2〕<重合基含有率の測定>
実施例および比較例のそれぞれに係るエネルギー線重合性化合物(B)のよう素価を、JIS K0070−1992に準拠し測定し、重合基含有率とした。
【0107】
〔測定例3〕<照射前粘着力、照射後粘着力および粘着力比の測定>
上記の実施例および比較例により製造したダイシングシートに、23℃、相対湿度50%の環境下に7日間静置することによる養生を行った後、それぞれを切断して長さ200mm幅25mmの粘着力測定用シートを得た。半導体パッケージ用樹脂(京セラケミカル社製KE−G1250)を用いて、厚さが600μm、一方の主面の算術平均粗さRaが2μmのシート状の部材を製造した。上記の粘着力測定用シートのそれぞれについて、その粘着剤層側の面をこのシート状部材の上記の一方の主面に貼付して、シート状部材と粘着力測定用シートとからなる積層体を得た。得られた積層体を23℃、相対湿度50%の雰囲気下に20分間放置した。放置後の積層体について、万能型引張試験機(株式会社オリエンテック製、TENSILON/UTM−4−100)を用いて、JIS Z0237:2009に準拠して、180°引き剥がし試験(粘着力測定用シートを引き剥がされる側の部材とした。)を行い、照射前粘着力を測定した(単位:mN/25mm)。照射前粘着力の測定結果を表2に示す。
【0108】
上記のシート状部材と粘着力測定用シートとからなる積層体をもう一組作製し、23℃、相対湿度50%の雰囲気下に20分間放置した。その後、紫外線照射装置(リンテック社製、RAD−2000m/12)を用い、窒素雰囲気下にてダイシングシート側から紫外線照射(照度230mW/cm
2、光量190mJ/cm
2)して、上記の積層体における粘着剤層に含有されるエネルギー線重合性化合物(B)を重合させた。この紫外線照射後の積層体について、上記の照射前粘着力を測定するための引き剥がし試験と同一の条件での引き剥がし試験を行い、照射後粘着力を測定した(単位:mN/25mm)。
こうして得られた照射前粘着力および照射後粘着力から、粘着力比を求めた。得られた照射前粘着力、照射後粘着力および粘着力比を表2に示す。
【0109】
〔測定例4〕<チップ脱落評価およびピックアップ試験>
半導体基板の代わりとしてガラスエポキシ板(ガラス繊維にエポキシ樹脂を含浸させ、硬化させたもの)を用い、この上に、半導体パッケージ用樹脂(京セラケミカル製:KE−G1250)を下記条件にてトランスファー成型して、サイズ:50mm×50mm、厚さ:600μmの封止樹脂を形成し、半導体パッケージを模した部材(以下、「試験部材」という。)を得た。
<トランスファー成型条件>
封止装置:アピックヤマダ社製、MPC−06M Trial Press
注入樹脂温度:180℃
樹脂注入圧:6.9MPa
樹脂注入時間:120秒
得られた試験部材の封止樹脂側の面の算術平均粗さRaは2μmであった。
【0110】
試験部材の封止樹脂側の面に、実施例および比較例にて作製したダイシングシートに、23℃、相対湿度50%の環境下に7日間静置することによる養生を行った後、それぞれをテープマウンター(リンテック社製:Adwill RAD2500)を用いて貼付し、得られた試験部材とダイシングシートとの積層体における試験部材側の面の周縁部(ダイシングシートの粘着剤層側の面が露出している部分)に、ダイシング用リングフレーム(ディスコ社製:2−6−1)を付着させた。次いで、試験部材を下記の条件でダイシングして、2mm角のモールドチップを模したチップ状部材(個数:625)を得た。
<ダイシング条件>
・ダイシング装置 :ディスコ社製 DFD−651
・ブレード :ディスコ社製 ZBT−5074(Z111OLS3)
・刃の厚さ :0.17mm
・刃先出し量 :3.3mm
・ブレード回転数 :30000rpm
・切削速度 :50mm/分
・基材切り込み深さ:50μm
・切削水量 :1.0L/分
・切削水温度 :20℃
【0111】
このダイシングシートの粘着剤層側の面にチップ状部材に対して、紫外線照射装置(リンテック社製RAD−2000m/12)を用い、窒素雰囲気下にてダイシングシート側から紫外線照射(照度230mW/cm
2、光量190mJ/cm
2)を行って、ダイシングシートが備える粘着剤層に含有されるエネルギー線重合性化合物(B)を重合させた。なお、比較例5に係るダイシングシートが備える粘着剤層はエネルギー線重合性化合物(B)を含有しないが、上記の条件での紫外線照射を行った。
紫外線照射後の上記のダイシングシートの粘着剤層側の面にチップ状部材が付着してなる部材におけるダイシングシートを、エキスパンド装置(ジェイシーエム社製ME−300Bタイプ)を用いて、速度300mm/分で当該シートの主面内方向に20mm伸張させるエキスパンド工程を実施した。この際に、ダイシングシート上から脱落して元の位置になかったモールドチップの数を数え、チップ脱落を評価した。
【0112】
続いて、脱落しなかったチップ状部材のうち、ダイシングシートの主面の中心近傍上に位置する100個のチップ状部材についてピックアップ試験を行った。すなわち、装置としてデジタル・プッシュプルゲージ(アイコーエンジニアリング社製 MODEL−RE)にニードル(5号)をセットしたものを用い、ダイシングシートにおけるピックアップ対象とするチップ状部材に接する部分を、基材側からニードルで1.5mm突き上げ、突出したチップ状部材のダイシングシートに対向する側と反対側の面に真空コレットを付着させ、真空コレットに付着したチップ状部材を持ち上げた。このとき、真空コレットによりピックアップできたチップ状部材の個数を測定し、その個数を試験個数(100)で除してピックアップ率(単位:%)を求めた。その結果を表2に示す。
【0113】
【表2】
【0114】
表2から分かるように、本発明の条件を満たす実施例のダイシングシートは、ダイシング工程およびピックアップ工程のいずれにおいても不具合が発生しにくいといえるものであった。