【文献】
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【文献】
隅山健太、川上浩一,Tol2トランスポゾンを用いた画期的なトランスジェニックマウス作製法,実験医学,2010年10月,Vol. 28, No. 16,p. 2653-2660,第2653頁右欄第8-14行、第2654頁左欄第10-12行
【文献】
YAGITA, Kazuhiro et al.,Real-time monitoring of circadian clock oscillations in primary cultures of mammalian cells using To,BMC Biotechnol.,2010年 1月,Vol. 10,p. 1-7
【文献】
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【文献】
URASAKI, Akihiro et al.,Functional dissection of the Tol2 transposable element identified the minimal cis-sequence and a hig,Genetics,2006年,Vol. 174, No. 2,p. 639-649
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
目的タンパク質をコードするDNAおよび減弱化した選択マーカー遺伝子を含む遺伝子断片を含み、且つ該遺伝子断片の両端に一対のトランスポゾン配列を含む発現ベクターを無血清培養で生存および増殖可能な浮遊性のCHO細胞に導入し、一対のトランスポゾン配列の間に挿入された遺伝子断片を該CHO細胞の染色体に組込み、該目的タンパク質を生産する浮遊性のCHO細胞を得て、且つ該CHO細胞を浮遊培養して該目的タンパク質を生産する方法であって、
該減弱化した選択マーカー遺伝子が、改変前の選択マーカー遺伝子と同一のアミノ酸配列をコードし、かつ該CHO細胞内で使用頻度の低いコドンを含む、該CHO細胞内における発現量が減少するように改変された選択マーカー遺伝子であり、
該一対のトランスポゾン配列が、配列番号2で表わされる塩基配列および配列番号3で表わされる塩基配列である一対のTol2由来の塩基配列である方法。
以下の(A)および(B)の工程を含むことを特徴とする、目的タンパク質の生産方法であって、(A)以下のベクター(a)および(b)を同時に無血清培養で生存および増殖可能な浮遊性のCHO細胞に導入し、一過性に発現させたトランスポゼースにより、一対のトランスポゾン配列の間に挿入された遺伝子断片を該CHO細胞の染色体に組込み、目的タンパク質を発現する無血清培養で生存および増殖可能な浮遊性のCHO細胞を得る工程、
(a)目的タンパク質をコードするDNAおよび減弱化した選択マーカー遺伝子を含む遺伝子断片を含み、且つ該遺伝子断片の両端に一対のトランスポゾン配列を含む発現ベクター、
(b)前記トランスポゾン配列を認識し、かつ一対のトランスポゾン配列の間に挿入された遺伝子断片を染色体に転移させる活性を有するトランスポゼースをコードするDNAを含むベクター、
(B)前記目的タンパク質を発現する無血清培養で生存および増殖可能な浮遊性のCHO細胞を浮遊培養して、目的タンパク質を生産させる工程、
該減弱化した選択マーカー遺伝子が、改変前の選択マーカー遺伝子と同一のアミノ酸配列をコードし、かつ該CHO細胞内で使用頻度の低いコドンを含む、該CHO細胞内における発現量が減少するように改変された選択マーカー遺伝子であり、
該一対のトランスポゾン配列が、配列番号2で表わされる塩基配列および配列番号3で表わされる塩基配列である一対のTol2由来の塩基配列である方法。
CHO細胞がCHO−K1、CHO−K1SV、DUKXB11、CHO/DG44、Pro−3およびCHO−Sから選ばれるいずれか1つの細胞である請求項1または2に記載の方法。
CHO細胞内における発現量が減少するように改変された選択マーカー遺伝子が、改変前の選択マーカー遺伝子をコードする塩基配列の10%以上が改変された遺伝子である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
CHO細胞内における発現量が減少するように改変された選択マーカー遺伝子が、当該遺伝子に含まれるロイシン残基に対応するコドンのうち、70%以上のロイシン残基に対応するコドンがTTAであるように改変された選択マーカー遺伝子である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
CHO細胞内における発現量が減少するように改変された選択マーカー遺伝子が、当該遺伝子に含まれるアラニン残基に対応するコドンのうち、70%以上のアラニン残基に対応するコドンがGCGであるように改変された選択マーカー遺伝子である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
CHO細胞内における発現量が減少するように改変された選択マーカー遺伝子が、当該遺伝子に含まれるロイシン残基に対応するコドンが全てTTAであるように、またはアラニン残基に対応するコドンが全てGCGであるように改変された選択マーカー遺伝子である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
選択マーカー遺伝子が、ネオマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子およびブラストサイジン耐性遺伝子からなる群より選ばれる1の選択マーカー遺伝子である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
目的タンパク質をコードするDNAおよび減弱化した選択マーカー遺伝子を含む遺伝子断片を含み、且つ該遺伝子断片の両端にトランスポゾン配列を含む発現ベクターが導入され、一対のトランスポゾン配列の間に挿入された遺伝子断片が染色体に組込まれ、かつ目的タンパク質を生産する無血清培養で生存および増殖可能な浮遊性のCHO細胞であって、
該減弱化した選択マーカー遺伝子が、改変前の選択マーカー遺伝子と同一のアミノ酸配列をコードし、かつ該CHO細胞内で使用頻度の低いコドンを含む、該CHO細胞内における発現量が減少するように改変された選択マーカー遺伝子であり、
該一対のトランスポゾン配列が、配列番号2で表わされる塩基配列および配列番号3で表わされる塩基配列である一対のTol2由来の塩基配列であるCHO細胞。
以下のベクター(a)および(b)を同時に導入されることで、一対のトランスポゾン配列の間に挿入された遺伝子断片が染色体に組込まれ、かつ目的タンパク質を生産する無血清培養で生存および増殖可能な浮遊性のCHO細胞であって、
(a)目的タンパク質をコードするDNAと減弱化した選択マーカー遺伝子を含む遺伝子断片を含み、且つ該遺伝子断片の両端に一対のトランスポゾン配列を含むタンパク質発現ベクター、
(b)該トランスポゾン配列を認識し、かつ一対のトランスポゾン配列の間に挿入された遺伝子断片を染色体に転移させる活性を有するトランスポゼース(転移酵素)をコードするDNAを含むベクター、
該減弱化した選択マーカー遺伝子が、改変前の選択マーカー遺伝子と同一のアミノ酸配列をコードし、かつ該CHO細胞内で使用頻度の低いコドンを含む、該CHO細胞内における発現量が減少するように改変された選択マーカー遺伝子であり、
該一対のトランスポゾン配列が、配列番号2で表わされる塩基配列および配列番号3で表わされる塩基配列である一対のTol2由来の塩基配列であるCHO細胞。
CHO細胞が、CHO−K1、CHO−K1SV、DUKXB11、CHO/DG44、Pro−3およびCHO−Sから選ばれるいずれか1つの細胞である請求項9または10に記載のCHO細胞。
該CHO細胞内における発現量が減少するように改変された選択マーカー遺伝子が、改変前の選択マーカー遺伝子をコードする塩基配列の10%以上が改変された遺伝子である、請求項9〜11のいずれか1項に記載のCHO細胞。
該CHO細胞内における発現量が減少するように改変された選択マーカー遺伝子が、当該遺伝子に含まれるロイシン残基に対応するコドンのうち、70%以上のロイシン残基に対応するコドンがTTAであるように改変された選択マーカー遺伝子である、請求項9〜12のいずれか1項に記載のCHO細胞。
該CHO細胞内における発現量が減少するように改変された選択マーカー遺伝子が、当該遺伝子に含まれるアラニン残基に対応するコドンのうち、70%以上のアラニン残基に対応するコドンがGCGであるように改変された選択マーカー遺伝子である、請求項9〜13のいずれか1項に記載のCHO細胞。
該CHO細胞内における発現量が減少するように改変された選択マーカー遺伝子が、当該遺伝子に含まれるロイシン残基に対応するコドンが全てTTAであるように、もしくはアラニン残基に対応するコドンが全てGCGであるように改変された選択マーカー遺伝子である、請求項9〜14のいずれか1項に記載のCHO細胞。
選択マーカー遺伝子が、ネオマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子およびブラストサイジン耐性遺伝子からなる群より選ばれる1の選択マーカー遺伝子である、請求項9〜15のいずれか1項に記載のCHO細胞。
目的タンパク質をコードするDNAおよび減弱化した選択マーカー遺伝子を含む遺伝子断片を含み、且つ該遺伝子断片の両端に一対のトランスポゾン配列を含む、タンパク質生産に用いる発現ベクターであって、
該減弱化した選択マーカー遺伝子が、改変前の選択マーカー遺伝子と同一のアミノ酸配列をコードし、かつ該CHO細胞内で使用頻度の低いコドンを含む、該CHO細胞内における発現量が減少するように改変された選択マーカー遺伝子であり、
該一対のトランスポゾン配列が、配列番号2で表わされる塩基配列および配列番号3で表わされる塩基配列である一対のTol2由来の塩基配列である発現ベクター。
CHO細胞内における発現量が減少するように改変された選択マーカー遺伝子が、改変前の選択マーカー遺伝子をコードする塩基配列の10%以上が改変された遺伝子である、請求項17に記載のベクター。
CHO細胞内における発現量が減少するように改変された選択マーカー遺伝子が、当該遺伝子に含まれるロイシン残基に対応するコドンのうち、70%以上のロイシン残基に対応するコドンがTTAであるように改変された選択マーカー遺伝子である、請求項17または18に記載のベクター。
CHO細胞内における発現量が減少するように改変された選択マーカー遺伝子が、当該遺伝子に含まれるアラニン残基に対応するコドンのうち、70%以上のアラニン残基に対応するコドンがGCGであるように改変された選択マーカー遺伝子である、請求項17〜19のいずれか1項に記載のベクター。
CHO細胞内における発現量が減少するように改変された選択マーカー遺伝子が、当該遺伝子に含まれるロイシン残基に対応するコドンがTTAであるように、またはアラニン残基に対応するコドンが全てGCGであるように改変された選択マーカー遺伝子である、請求項17〜20のいずれか1項に記載のベクター。
選択マーカー遺伝子が、ネオマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子およびブラストサイジン耐性遺伝子からなる群より選ばれる1の選択マーカー遺伝子である、請求項17〜21のいずれか1項に記載のベクター。
【背景技術】
【0002】
遺伝子組換え技術による外来タンパク質の生産は、医薬品および食品業界など様々な産業に利用されている。多くの場合、組換えタンパク質の生産は、目的タンパク質をコードする塩基配列を含む発現ベクターを、大腸菌、酵母、昆虫細胞、植物細胞および動物細胞などの宿主に導入し、該発現ベクターが染色体へ組み込まれた形質転換株を選択し、さらに該形質転換株を適切な培養条件で培養して目的タンパク質を発現させることにより行われている。
【0003】
しかし、外来タンパク質を効率よく生産できる宿主を開発するためには、目的とするタンパク質ごとに生産性の良い宿主細胞を選定することが必要であり、個々の宿主における外来タンパク質生産技術においてさらなる技術革新が望まれている。
【0004】
大腸菌などの細菌または酵母の系では、動物細胞とは異なり糖鎖修飾など翻訳後修飾が困難であることが多く、活性を有するタンパク質を生産する上での問題となる。
【0005】
昆虫細胞の系は、生産されたタンパク質が、リン酸化および糖鎖の付加など翻訳後修飾を受け、本来の生理活性を保持したまま発現させることができるというメリットをもつが、分泌タンパク質の糖鎖構造は哺乳類由来の細胞のものとは異なることから、医薬品用途とするには抗原性などが問題となる。
【0006】
また、本系は外来遺伝子の導入に組換えウイルスを用いることから、安全性の点から、その不活性化または封じ込めが必要であるという課題がある。
【0007】
動物細胞の系では、ヒトをはじめとする高等動物由来のタンパク質に対し、リン酸化、糖鎖付加、フォールディングなどの翻訳後修飾をより生体でつくられるものと同じように施すことが可能である。この正確な翻訳後修飾は、タンパク質の本来有する生理活性を組換えタンパク質で再現するために必要なものであり、そのような生理活性が必要とされる医薬品などには、哺乳動物細胞を宿主としたタンパク質生産系がよく用いられている。
【0008】
しかしながら、動物細胞を宿主としたタンパク質発現系の生産性は一般に低く、導入遺伝子の安定性にも問題がある場合が多い。哺乳動物培養細胞を宿主としたタンパク質の生産性向上は、治療用医薬品または診断薬などの製造において非常に重要であるばかりでなく、それらの開発研究にも多いに寄与している。そのため、哺乳動物培養細胞、特にチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)を宿主として、容易に高生産株の獲得を可能にする遺伝子発現系の開発が急務とされている。
【0009】
トランスポゾンは、染色体のひとつの遺伝子座から別の遺伝子座へ移動しうる転位性遺伝要素である。トランスポゾンは、分子生物学または遺伝学の研究において強力なツールであり、昆虫または線虫(例えば、Drosophila melanogasterまたはCaenorhabditis elegans)および植物において、変異導入、遺伝子トラッピング、トランスジェニック個体の作製などの目的として利用されているが、このような技術は哺乳動物細胞を含む脊椎動物では開発が遅れていた。
【0010】
ところが近年、脊椎動物においても活性のあるトランスポゾンが報告され、そのいくつかがマウスまたはヒトなどの哺乳動物細胞でも活性をもつことが確認された。代表的なものに、メダカからクローニングされたトランスポゾンTol1(特許文献1)、Tol2(非特許文献1)、サケ科魚類ゲノムに存在していた非自立性のトランスポゾンから再構築されたSleeping Beauty(非特許文献2)、カエル由来の人工トランスポゾンFrog prince(非特許文献3)、昆虫由来のトランスポゾンpiggyBac(非特許文献4)が挙げられる。
【0011】
これらのDNAトランスポゾンは、哺乳動物細胞のゲノムに新たな表現系を持ち込むための遺伝子導入ツールとして、変異導入、遺伝子トラッピング、トランスジェニック個体の作製、薬剤耐性タンパク質を発現させることなどに利用されるようになった(非特許文献5〜12)。
【0012】
昆虫においては、鱗翅目昆虫由来のトランスポゾンpiggyBacを用いて、外来遺伝子をカイコ染色体へ導入し、その外来遺伝子がコードするタンパクを発現させる方法が研究され、その技術を用いたタンパク質生産方法が開示されている(特許文献2)。
【0013】
しかし、発現させた目的タンパクの発現量が十分ではなく、かつ、カイコ全身に生産されるため、大量の夾雑タンパク質が存在する体液から発現させた外来タンパク質を高純度な形で回収するためには、高度な精製技術を必要とすることから、経済的に問題があった。
【0014】
また、メダカ由来Tol2トランスポゾンを用いて、哺乳動物細胞にG418耐性に関わるタンパク質を発現させた例が知られている(非特許文献12)。
【0015】
高発現細胞を効率よくスクリーニングする方法の1つとして、選択マーカー遺伝子の減弱化が知られている。減弱化の方法としては、ネオマイシン耐性遺伝子におけるアミノ酸改変(非特許文献13、非特許文献14)、およびdhfr遺伝子における不安定化配列の結合(非特許文献15)などが知られている。または、減弱化した選択マーカー遺伝子を利用することにより高発現細胞の取得が可能であることも示されている。
【0016】
しかし、一方で、減弱化により薬剤耐性細胞数が大幅に減ることも示されており、結果として、薬剤耐性細胞が全く得られない可能性もあり、効率的に高発現細胞をスクリーニングする方法の創出が依然として期待されている。
【0017】
タンパク質をコードする遺伝子において、生物種により使用されるコドンに偏りがあることが知られており、このコドンの偏りを最適化することによってCHO細胞でのヒトエリスロポイエチンの発現が向上することが知られている(非特許文献16)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
目的タンパク質を生産、解析するためには、哺乳動物由来の培養細胞を用いて目的タンパク質を安定的に高発現する細胞株を選択しなければならないが、目的タンパク質を生産する細胞の作製および培養には、多大な労力と時間を要する。
【0021】
また、これまでに、トランスポゾン配列を用いて哺乳動物細胞でタンパク質の発現を行うことは知られていたが、トランスポゾン配列を用いることで、タンパク質の生産系として利用できるようなタンパク質高発現細胞を作製すること、トランスポゾン配列を含んだ高生産細胞および該細胞を用いたタンパク質の生産方法については何ら知られてない。また、コドンを改変して薬剤耐性遺伝子の発現(翻訳)を抑制し、高発現細胞を得た例は知られていない。
【0022】
上記のように哺乳動物培養細胞を用いて目的タンパク質を高発現するタンパク質生産系を効率的かつ且つ短期間に作製し、目的のタンパク質を高生産することが従来求められていた。加えて、遺伝子導入から生産株の樹立まで一貫して、動物由来の成分を一切用いることのない生産細胞の樹立が求められていた。
【0023】
従って、本発明は、効率的に作製し得る目的タンパク質を高発現する細胞および該細胞を用いて目的タンパク質を生産する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者らは、上述した課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、目的タンパク質をコードするDNAおよび減弱化した選択マーカー遺伝子を含む遺伝子断片を含み、且つ該遺伝子断片の両端に一対のトランスポゾン配列を含む発現ベクターを浮遊性の哺乳動物細胞に導入し、一対のトランスポゾン配列の間に挿入された遺伝子断片を浮遊性の哺乳動物細胞の染色体に組込むことにより、目的タンパク質を高発現する生産細胞を効率的に作製できること、さらに、これによって、目的タンパク質の高発現細胞株の作製期間を大幅に短縮できることを見出し、本発明を完成させるに至った。従って、本発明の目的は、外来遺伝子を高発現する生産細胞を効率的に作製し得る新規な生産細胞作製法および組換えタンパク質の生産法を提供することである。
【0025】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
1.目的タンパク質をコードするDNAおよび減弱化した選択マーカー遺伝子を含む遺伝子断片を含み、且つ該遺伝子断片の両端に一対のトランスポゾン配列を含む発現ベクターを浮遊性の哺乳動物細胞に導入し、一対のトランスポゾン配列の間に挿入された遺伝子断片を該哺乳動物細胞の染色体に組込み、該目的タンパク質を生産する浮遊性の哺乳動物細胞を得て、且つ該哺乳動物細胞を浮遊培養して該目的タンパク質を生産する方法。
2.以下の(A)および(B)の工程を含むことを特徴とする、目的タンパク質の生産方法。
(A)以下のベクター(a)および(b)を同時に浮遊性の哺乳動物細胞に導入し、一過性に発現させたトランスポゼースにより、一対のトランスポゾン配列の間に挿入された遺伝子断片を該哺乳動物細胞の染色体に組込み、目的タンパク質を発現する浮遊性の哺乳動物細胞を得る工程
(a)目的タンパク質をコードするDNAおよび減弱化した選択マーカー遺伝子を含む遺伝子断片を含み、且つ該遺伝子断片の両端に一対のトランスポゾン配列を含む発現ベクター
(b)前記トランスポゾン配列を認識し、かつ一対のトランスポゾン配列の間に挿入された遺伝子断片を染色体に転移させる活性を有するトランスポゼースをコードするDNAを含むベクター
(B)前記目的タンパク質を発現する浮遊性の哺乳動物細胞を浮遊培養して、目的タンパク質を生産させる工程
3.浮遊性の哺乳動物細胞が、無血清培養で生存および増殖可能な浮遊性の哺乳動物細胞である、前項1または2に記載の方法。
4.浮遊性の哺乳動物細胞が、CHO細胞を浮遊培養に馴化した浮遊性のCHO細胞、PER.C6細胞、ラットミエローマ細胞YB2/3HL.P2.G11.16Ag.20(またはYB2/0ともいう)および浮遊培養に馴化した浮遊性のマウスミエローマ細胞NS0から選ばれるいずれか1つの細胞である前項1〜3のいずれか1に記載の方法。
5.CHO細胞がCHO−K1、CHO−K1SV、DUKXB11、CHO/DG44、Pro−3およびCHO−Sから選ばれるいずれか1つの細胞である前項4に記載の方法。
6.減弱化した選択マーカー遺伝子が、哺乳動物細胞内における発現量が減少するように改変された選択マーカー遺伝子である、前項1〜5のいずれか1に記載の方法。
7.哺乳動物細胞内における発現量が減少するように改変された選択マーカー遺伝子が、改変前の選択マーカー遺伝子と同一のアミノ酸配列をコードし、かつ当該哺乳動物細胞内で使用頻度の低いコドンを含むように改変された遺伝子である、前項6に記載の方法。
8.哺乳動物細胞内における発現量が減少するように改変された選択マーカー遺伝子が、改変前の選択マーカー遺伝子をコードする塩基配列の10%以上を改変された遺伝子である、前項6または7に記載の方法。
9.哺乳動物細胞内における発現量が減少するように改変された選択マーカー遺伝子が、当該遺伝子遺伝子に含まれるロイシン残基に対応するコドンのうち、70%以上のロイシン残基に対応するコドンがTTAであるように改変された選択マーカー遺伝子である、前項6〜8のいずれか1に記載の方法。
10.哺乳動物細胞内における発現量が減少するように改変された選択マーカー遺伝子が、当該遺伝子遺伝子に含まれるアラニン残基に対応するコドンのうち、70%以上のアラニン残基に対応するコドンがGCGであるように改変された選択マーカー遺伝子である、前項6〜9のいずれか1に記載の方法。
11.哺乳動物細胞内における発現量が減少するように改変された選択マーカー遺伝子が、当該遺伝子遺伝子に含まれるロイシン残基に対応するコドンが全てTTAであるように、またはアラニン残基に対応するコドンが全てGCGであるように改変された選択マーカー遺伝子である、前項6〜10のいずれか1に記載の方法。
12.選択マーカー遺伝子が、ネオマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子およびブラストサイジン耐性遺伝子からなる群より選ばれる1の選択マーカー遺伝子である、前項1〜11のいずれか1に記載の方法。
13.一対のトランスポゾン配列が哺乳動物細胞で機能する一対のトランスポゾン由来の塩基配列である前項1〜12のいずれか1に記載の方法。
14.一対のトランスポゾン由来の塩基配列が、一対のTol2由来の塩基配列である前項13に記載の方法。
15.一対のTol2由来の塩基配列が、配列番号2で表される塩基配列および配列番号3で表される塩基配列である前項14に記載の方法。
16.一対のトランスポゾン由来の塩基配列が、配列番号35で表される塩基配列および配列番号36で表される塩基配列である前項13に記載の方法。
17.目的タンパク質をコードするDNAおよび減弱化した選択マーカー遺伝子を含む遺伝子断片を含み、且つ該遺伝子断片の両端にトランスポゾン配列を含む発現ベクターが導入され、一対のトランスポゾン配列の間に挿入された遺伝子断片が染色体に組込まれ、かつ目的タンパク質を生産する浮遊性の哺乳動物細胞。
18.以下のベクター(a)および(b)を同時に導入されることで、一対のトランスポゾン配列の間に挿入された遺伝子断片が染色体に組込まれ、かつ目的タンパク質を生産する浮遊性の哺乳動物細胞。
(a)目的タンパク質をコードするDNAと減弱化した選択マーカー遺伝子を含む遺伝子断片を含み、且つ該遺伝子断片の両端に一対のトランスポゾン配列を含むタンパク質発現ベクター
(b)該トランスポゾン配列を認識し、かつ一対のトランスポゾン配列の間に挿入された遺伝子断片を染色体に転移させる活性を有するトランスポゼース(転移酵素)をコードするDNAを含むベクター
19.無血清培養で生存および増殖可能な浮遊性の哺乳動物細胞である、前項17または18に記載の哺乳動物細胞。
20.CHO細胞を浮遊培養に馴化した浮遊性のCHO細胞、PER.C6細胞、ラットミエローマ細胞YB2/3HL.P2.G11.16Ag.20(またはYB2/0ともいう)および浮遊培養に馴化した浮遊性のマウスミエローマ細胞NS0から選ばれるいずれか1つの細胞である前項17〜19のいずれか1に記載の哺乳動物細胞。
21.CHO細胞が、CHO−K1、CHO−K1SV、DUKXB11、CHO/DG44、Pro−3およびCHO−Sから選ばれるいずれか1つの細胞である前項20に記載の哺乳動物細胞。
22.減弱化した選択マーカー遺伝子が、哺乳動物細胞内における発現量が減少するように改変された選択マーカー遺伝子である、前項17〜21のいずれか1に記載の哺乳動物細胞。
23.哺乳動物細胞内における発現量が減少するように改変された選択マーカー遺伝子が、改変前の選択マーカー遺伝子と同一のアミノ酸配列をコードし、かつ当該哺乳動物細胞内で使用頻度の低いコドンを含むように改変された遺伝子である、前項22記載の哺乳動物細胞。
24.哺乳動物細胞内における発現量が減少するように改変された選択マーカー遺伝子が、改変前の選択マーカー遺伝子をコードする塩基配列の10%以上を改変された遺伝子である、前項22または23に記載の哺乳動物細胞。
25.哺乳動物細胞内における発現量が減少するように改変された選択マーカー遺伝子が、当該遺伝子遺伝子に含まれるロイシン残基に対応するコドンのうち、70%以上のロイシン残基に対応するコドンがTTAであるように改変された選択マーカー遺伝子である、前項22〜24のいずれか1に記載の哺乳動物細胞。
26.哺乳動物細胞内における発現量が減少するように改変された選択マーカー遺伝子が、当該遺伝子遺伝子に含まれるアラニン残基に対応するコドンのうち、70%以上のアラニン残基に対応するコドンがGCGであるように改変された選択マーカー遺伝子である、前項22〜25のいずれか1に記載の哺乳動物細胞。
27.哺乳動物細胞内における発現量が減少するように改変された選択マーカー遺伝子が、当該遺伝子遺伝子に含まれるロイシン残基に対応するコドンが全てTTAであるように、もしくはアラニン残基に対応するコドンが全てGCGであるように改変された選択マーカー遺伝子である、前項22〜26のいずれか1に記載の哺乳動物細胞。
28.選択マーカー遺伝子が、ネオマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子およびブラストサイジン耐性遺伝子からなる群より選ばれる1の選択マーカー遺伝子である、前項17〜27のいずれか1に記載の哺乳動物細胞。
29.一対のトランスポゾン配列が哺乳動物細胞で機能する一対のトランスポゾン由来の塩基配列である前項17〜28のいずれか1に記載の哺乳動物細胞。
30.一対のトランスポゾン由来の塩基配列が、一対のTol2由来の塩基配列である前項29に記載の哺乳動物細胞。
31.一対のTol2由来の塩基配列が、配列番号2で表される塩基配列および配列番号3で表される塩基配列である前項30に記載の哺乳動物細胞。
32.一対のトランスポゾン由来の塩基配列が、配列番号35で表される塩基配列および配列番号36で表される塩基配列である前項29に記載の哺乳動物細胞。
33.目的タンパク質をコードするDNAおよび減弱化した選択マーカー遺伝子を含む遺伝子断片を含み、且つ該遺伝子断片の両端に一対のトランスポゾン配列を含む発現ベクター。
34.一対のトランスポゾン配列が一対のTol2由来の塩基配列である前項33に記載の発現ベクター。
35.一対のTol2由来の塩基配列が、配列番号2で表される塩基配列および配列番号3で表される塩基配列である前項34に記載の発現ベクター。
36.減弱化した選択マーカー遺伝子が、哺乳動物細胞内における発現量が減少するように改変された選択マーカー遺伝子である、前項33〜35のいずれか1に記載のベクター。
37.哺乳動物細胞内における発現量が減少するように改変された選択マーカー遺伝子が、改変前の選択マーカー遺伝子と同一のアミノ酸配列をコードし、かつ当該哺乳動物細胞内で使用頻度の低いコドンを含むように改変された遺伝子である、前項36に記載のベクター。
38.哺乳動物細胞内における発現量が減少するように改変された選択マーカー遺伝子が、改変前の選択マーカー遺伝子をコードする塩基配列の10%以上を改変された遺伝子である、前項36または37に記載のベクター。
39.哺乳動物細胞内における発現量が減少するように改変された選択マーカー遺伝子が、当該遺伝子遺伝子に含まれるロイシン残基に対応するコドンのうち、70%以上のロイシン残基に対応するコドンがTTAであるように改変された選択マーカー遺伝子である、前項36〜38のいずれか1に記載のベクター。
40.哺乳動物細胞内における発現量が減少するように改変された選択マーカー遺伝子が、当該遺伝子遺伝子に含まれるアラニン残基に対応するコドンのうち、70%以上のアラニン残基に対応するコドンがGCGであるように改変された選択マーカー遺伝子である、前項36〜39のいずれか1に記載のベクター。
41.哺乳動物細胞内における発現量が減少するように改変された選択マーカー遺伝子が、当該遺伝子遺伝子に含まれるロイシン残基に対応するコドンがTTAであるように、またはアラニン残基に対応するコドンが全てGCGであるように改変された選択マーカー遺伝子である、前項36〜40のいずれか1に記載のベクター。
42.選択マーカー遺伝子が、ネオマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子およびブラストサイジン耐性遺伝子からなる群より選ばれる1の選択マーカー遺伝子である、前項33〜41のいずれか1に記載のベクター。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係るタンパク質の生産方法は目的タンパク質を、哺乳動物細胞を用いて効率よく生産することができる。本発明の細胞は、遺伝子組み換えタンパク質を生産するためのタンパク質生産細胞として使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、目的タンパク質をコードするDNAおよび選択マーカー遺伝子を含む遺伝子断片を含み、且つ該遺伝子断片の両端に一対のトランスポゾン配列を含む発現ベクターを浮遊性の哺乳動物細胞に導入し、一対(二つ)のトランスポゾン配列の間に挿入された遺伝子断片を該哺乳動物細胞の染色体に組込み、目的タンパク質を生産する浮遊性の哺乳動物細胞を得て、該哺乳動物細胞を浮遊培養して該目的タンパク質を生産する方法、および目的タンパク質を生産する浮遊性の哺乳動物細胞に関する。
【0029】
本発明の目的タンパク質を生産する細胞としては、目的タンパク質をコードするDNAおよび選択マーカー遺伝子を含む遺伝子断片を含み、且つ該遺伝子断片の両端に一対のトランスポゾン配列を含む発現ベクターが導入され、一対のトランスポゾン配列の間に挿入された遺伝子断片が染色体に組込まれ、かつ目的タンパク質を生産する浮遊性の哺乳動物細胞が挙げられる。
【0030】
また、本発明の目的タンパク質を生産する細胞としては、以下の(a)および(b)のベクターを同時に導入されることで、一対のトランスポゾン配列の間に挿入された遺伝子断片が染色体に組込まれ、かつ目的タンパク質を生産する浮遊性の哺乳動物細胞が挙げられる。
(a)目的タンパク質をコードするDNAと選択マーカー遺伝子を含む遺伝子断片を含み、且つ該遺伝子断片の両端に一対のトランスポゾン配列を含む発現ベクター
(b)前記トランスポゾン配列を認識し、かつ一対のトランスポゾン配列の間に挿入された遺伝子断片を染色体に転移させる活性を有するトランスポゼースをコードするDNAを含むベクター
【0031】
本発明の目的タンパク質を生産する方法としては、
以下の(A)および(B)の工程を含むことを特徴とする、目的タンパク質の生産方法を挙げることができる。
(A)以下の発現ベクター(a)および(b)を同時に浮遊性の哺乳動物細胞に導入し、一過性に発現させたトランスポゼースにより、一対のトランスポゾン配列の間に挿入された遺伝子断片を該哺乳動物細胞の染色体に組込み、該目的タンパク質を発現する浮遊性の哺乳動物細胞を得る工程;
(a)目的タンパク質をコードするDNAと選択マーカー遺伝子を含む遺伝子断片を含み、且つ該遺伝子断片の両端に一対のトランスポゾン配列を含む発現ベクター
(b)前記トランスポゾン配列を認識し、かつ一対のトランスポゾン配列の間に挿入された遺伝子断片を染色体に転移させる活性を有するトランスポゼースをコードするDNAを含むベクター
(B)前記目的タンパク質を発現する浮遊性の哺乳動物細胞を浮遊培養して、目的タンパク質を生産させる工程
【0032】
本明細書中で使用される用語は、以下の定義を含むものとする。
【0033】
トランスポゾンとは、転位性遺伝要素であり、一定の構造を保ったまま染色体上を、または染色体から別の染色体へ転位(transposition)する遺伝子単位を意味する。
【0034】
トランスポゾンは、遺伝子単位の両端に逆向きまたは同じ向きの繰り返しのトランスポゾン配列[Inverted Repeat Sequence(IR配列)またはTerminal Inverted Repeat Sequence(TIR配列)ともいう]および、このトランスポゾン配列を認識して、トランスポゾン配列の間に存在する遺伝子を転移させるトランスポゼースをコードする塩基配列を有している。
【0035】
トランスポゾンから翻訳されたトランスポゼースは、トランスポゾンの両端のトランスポゾン配列を認識し、一対のトランスポゾン配列の間に挿入されたDNA断片を切り出し、転移先へ挿入することで、DNAの転移を行うことができる。
【0036】
トランスポゾン配列とは、トランスポゼースによって認識されるトランスポゾンの塩基配列を意味し、IR配列またはTIR配列と同義である。該配列は、トランスポゼースの作用により転移(ゲノム中のほかの位置に挿入)可能であれば、不完全な繰り返し部分を含んでいてもよく、トランスポゼースに特異的なトランスポゾン配列が存在する。
【0037】
本発明で用いるトランスポゾン配列は、トランスポゼースにより認識され哺乳動物細胞内で転位可能な天然または人工のトランスポゾン配列であればいずれのものでもよいが、例えば、メダカ由来のTol1、Tol2トランスポゾン、サケ科魚類ゲノムに存在していた非自律性のトランスポゾンから再構築されたSleeping Beauty、カエル由来の人工トランスポゾンFrog Princeおよび昆虫由来のトランスポゾンpiggyBac由来の塩基配列が挙げられる。
【0038】
これらの中でも、配列表の配列番号6で表される塩基配列からなるメダカ由来Tol2トランスポゾン由来の塩基配列が好ましい。一対のTol2トランスポゾン由来の塩基配列としては、配列表の配列番号6で表されるTol2トランスポゾンの塩基配列の1番目から2229番目の塩基配列および4148番目から4682番目の塩基配列が挙げられる。
【0039】
一対のTol2トランスポゾン由来の塩基配列としては、より好ましくは、配列表の配列番号1で表される塩基配列からなるTol2トランスポゾンの塩基配列における、1番目から200番目の塩基配列(配列番号2)(以下、Tol2−L配列と記載する)と、2285番目から2788番目の塩基配列(配列番号3)(以下、Tol2−R配列と記載する)が挙げられる。
【0040】
本発明のトランスポゾン配列として、配列表の配列番号37で表される塩基配列からなるメダカ由来Tol1トランスポゾン由来の塩基配列もまた用いることができる。一対のTol1トランスポゾン由来の塩基配列としては、配列表の配列番号37で表される塩基配列からなるTol1トランスポゾン由来の塩基配列における、1番目から157番目の塩基配列および1748番目から1855番目の塩基配列が挙げられる。
【0041】
一対のTol1トランスポゾン由来の塩基配列として、より好ましくは、配列表の配列番号37で表される塩基配列からなるTol1トランスポゾン由来の塩基配列のうち、1番目から200番目の領域(配列番号35)(以下、Tol1−L配列と記載する)と、1351番目から1855番目の領域(配列番号36)(以下、Tol1−R配列と記載する)の配列が挙げられる。
【0042】
また、本発明のトランスポゾン配列としては、上記のトランスポゾンに特異的なトランスポゾン配列の部分配列を用いること、塩基配列の長さを調節すること、および塩基配列の付加、欠失または置換による改変を行うことで、転移反応が制御されたトランスポゾン配列も含まれる。転移反応の制御とは、トランスポゼースによる認識を高めることまたは逆に低下させることによって、転移反応を促進すること、および転移反応を抑制することいずれも可能である。
【0043】
トランスポゼースとは、トランスポゾン配列を有する塩基配列を認識して、該塩基配列の間に存在する遺伝子断片を染色体上、または染色体から別の染色体へ転位させる酵素を意味する。
【0044】
トランスポゼースとしては、例えば、メダカ由来のTol1、Tol2、サケ科魚類ゲノムに存在していた非自立性のトランスポゾンから再構築されたSleeping Beauty、カエル由来の人工トランスポゾンFrog Prince、昆虫由来のトランスポゾンpiggyBac由来の酵素が挙げられる。
【0045】
トランスポゼースは、天然型の酵素を用いてもよいし、トランスポゼースと同様の転位活性を保持していれば、その一部のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または、付加されていてもよい。トランスポゼースの酵素活性を制御することで、トランスポゾン配列の間に存在するDNAの転移反応を制御することができる。
【0046】
トランスポゼースと同様の転移活性を保持するかを解析するには、日本国特開2003−235575号公報により開示されている2−コンポーネント解析システムにより測定することができる。具体的には、別々の、Tol2トランスポゼースを欠損したTol2トランスポゾン(Tol2由来非自律性トランスポゾン)を含むプラスミドとTol2トランスポゼースを含むプラスミドを用いて、トランスポゼースの作用により非自律性Tol2エレメントが哺乳動物細胞の染色体内に転移、挿入し得るかを解析することができる。
【0047】
本発明において非自律性トランスポゾンとは、トランスポゾン内に存在するトランスポゼースを欠損し、自律的には転移し得ないトランスポゾンをいう。非自律性トランスポゾンは、トランスポゼースのタンパク質、トランスポゼースのタンパク質をコードするmRNAまたはトランスポゼースのタンパク質をコードするDNAを細胞内に同時に存在させることで、非自律性トランスポゾンのトランスポゾン配列の間に挿入されたDNAを、宿主細胞の染色体内に転移させることができる。
【0048】
トランスポゼース遺伝子とは、トランスポゼースをコードした遺伝子を意味する。哺乳動物細胞での発現効率を向上させるために、該遺伝子の翻訳開始コドンATGの上流に、kozakのコンセンサス配列(Kozak,M.Nucleic Acids Res.,12,857−872,1984)、またはリボソーム結合配列であるシャイン・ダルガルノ(Shine−Dalgarno)配列と開始コドンとの間を適当な距離(例えば6〜18塩基)に調節した配列が連結されてもよい。
【0049】
本発明において、発現ベクターを宿主細胞の染色体に組み込むためには、発現ベクターに対してトランスポゼースを作用させる。トランスポゼースを細胞に作用させるためには、トランスポゼース酵素を細胞内に注入してもよいし、トランスポゼース遺伝子をコードするDNAを所望の発現ベクターに組み込み、細胞にトランスフェクションしてもよい。または、トランスポゼース遺伝子をコードするRNAを細胞内にトランスフェクションして、トランスポゼースを細胞内で発現させてもよい。
【0050】
ここで用いることができるベクターは特に限定はなく、トランスポゼース遺伝子を組み込んだベクターが導入される宿主細胞、用途などに応じて、当業者において知られている発現ベクターから適宜選択して使用することができる。
【0051】
本発明において、2以上のポリペプチドから構成されるタンパク質を生産する場合には、2以上のポリペプチドをコードするDNAを同一のまたは異なる発現ベクターに組み込み、当該発現ベクターを宿主細胞の染色体に組み込んで用いてもよい。具体的には、抗体の重鎖と軽鎖を異なる発現ベクターに組み込み、当該発現ベクターを宿主細胞の染色体に組み込んで用いることが考えられる。
【0052】
トランスポゼースは、発現ベクターに組み込まれて目的タンパク質と一緒に発現させてもよいし、発現ベクターとは別のベクターに組み込まれていてもよい。トランスポゼースは一過性に働かせてもいいし、継続的に働かせてもよいが、安定した産生細胞を作製するためにはトランスポゼースを一過性に働かせることが好ましい。
【0053】
トランスポゼースを一過性に働かせるためには、例えば、目的タンパク質を有する発現ベクターとは別の発現プラスミドにトランスポゼース遺伝子を組み込んで細胞にトランスフェクションさせることによって行うことができる。
【0054】
発現ベクターとは、目的タンパク質を発現させるために、哺乳動物細胞を形質転換させるために用いる発現ベクターを意味する。本発明で用いる発現ベクターは、発現カセットの両側に少なくとも1対のトランスポゾン配列が存在する構造を有する。
【0055】
発現カセットとは、目的タンパク質を発現させるために必要な遺伝子発現制御領域および目的タンパク質をコードする配列を有する核酸配列を意味する。遺伝子発現制御領域としては、例えば、エンハンサー、プロモーターおよびターミネーターなどが挙げられる。発現カセットには、選択マーカー遺伝子を含んでいてもよい。
【0056】
プロモーターとしては、哺乳動物細胞中で機能を発揮できるものであればいずれも用いることができ、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)のIE(immediate early)遺伝子のプロモーター、SV40の初期プロモーター、レトロウイルスのプロモーター、メタロチオネインプロモーター、ヒートショックプロモーター、SRαプロモーター、モロニーマウス白血病ウイルス(moloney murine leukemia virus)のプロモーターおよびエンハンサー等が挙げられる。また、ヒトCMVのIE遺伝子のエンハンサーをプロモーターと共に用いてもよい。
【0057】
選択マーカー遺伝子とは、プラスミドベクターが導入された細胞と該ベクターを欠く細胞とを区別するために使用することができる任意のマーカー遺伝子を意味する。選択マーカー遺伝子としては、例えば、薬剤耐性遺伝子(例えば、ネオマイシン耐性遺伝子、DHFR遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子、ブラストサイジン耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子およびハイグロマイシン耐性遺伝子)、および、蛍光または生体発光マーカー遺伝子(例えば、緑色蛍光タンパクGFPなど)などが挙げられる。
【0058】
減弱化した選択マーカー遺伝子とは、選択マーカー遺伝子にコードされるタンパク質の細胞内における活性が低くなるように改変された選択マーカー遺伝子をいう。
【0059】
細胞内における活性が低くなるように改変された選択マーカー遺伝子としては、(A)選択マーカー遺伝子にコードされるタンパク質のアミノ酸配列の改変により当該タンパク質の細胞内における活性が低くなった選択マーカー遺伝子または(B)選択マーカー遺伝子の発現を制御する塩基配列の改変もしくは選択マーカー遺伝子のORF(Open Reading Frame)内の塩基配列の改変により当該タンパク質の細胞内での発現量が低下した選択マーカー遺伝子を挙げることができる。
【0060】
選択マーカー遺伝子にコードされるタンパク質のアミノ酸配列の改変により当該タンパク質の細胞内における活性が低くなった選択マーカー遺伝子の例としては、例えば、Sauter et al.[Biotech.Bioeng.89,530−538(2005)]またはChen et al.[Journal of Immunological Methods 295,49−56(2004)]に記載のネオマイシン耐性遺伝子を挙げることができる。
【0061】
選択マーカー遺伝子の発現を制御する塩基配列を改変することにより当該タンパク質の細胞内での発現量を低下させる方法としては、例えば、選択マーカー遺伝子の発現を制御するプロモーター配列、ターミネーター配列、エンハンサー配列、kozakのコンセンサス配列またはシャイン・ダルガルノ配列の配列を改変する方法が挙げられる。
【0062】
より具体的には、例えば、選択マーカー遺伝子の発現を制御するプロモーター配列を、より弱いプロモーター配列に置換する方法が挙げられる。
【0063】
選択マーカー遺伝子のORF内の塩基配列の改変により当該タンパク質の細胞内での発現量を低下させる方法としては、当該ORF内のコドンを当該細胞内での使用頻度がより低い同義語コドンに置換する方法を挙げることができる。
【0064】
本発明の減弱化した選択マーカー遺伝子としては、上記の当該遺伝子のORF内のコドンを当該細胞内での使用頻度がより低い同義語コドンに置換された選択マーカー遺伝子を挙げることができる。
【0065】
様々な生物種の細胞内において、各同義語コドンのうち使用頻度のより低い同義語コドンは、公知の文献またはデータベースなどに基づき選択することができる。
【0066】
このような使用頻度の低い同義語コドンへの置換として具体的には、例えば、CHO細胞の場合、ロイシンのコドンをTTAに、アルギニンのコドンをCGAもしくはCGTに、アラニンのコドンをGCGに、バリンのコドンをGTAに、セリンのコドンをTCGに、イソロイシンのコドンをATAに、スレオニンのコドンをACGに、プロリンをCCGに、グルタミン酸のコドンをGAAに、チロシンのコドンをTATに、リジンのコドンをAAAに、フェニルアラニンのコドンをTTTに、ヒスチジンのコドンをCATに、グルタミンのコドンをCAAに、アスパラギンのコドンをAATに、アスパラギン酸のコドンをGATに、システインのコドンをTGTに、またはグリシンのコドンをGGTに、置換することをいう。
【0067】
減弱化した選択マーカー遺伝子において、改変前の選択マーカー遺伝子と比べて置換されるコドンの数は、タンパク質の生産細胞を効率的に取得しうる限り特に制限はないが、20個以上のアミノ酸残基に対応するコドンを置換することが好ましい。
【0068】
減弱化した選択マーカー遺伝子において、改変前の選択マーカー遺伝子と比べて改変される塩基の数は、特に制限はないが、選択マーカー遺伝子をコードする塩基配列の10%以上を改変することが好ましい。
【0069】
また、減弱化した選択マーカー遺伝子において置換するコドンのコードするアミノ酸残基は、特に制限はないが、好ましくはロイシン、アラニン、セリンおよびバリンを挙げることができる。
【0070】
減弱化した選択マーカー遺伝子において、ロイシン残基に対応するコドンを置換する場合は、特に制限はないが、選択マーカー遺伝子に含まれる全てのロイシン残基に対応するコドンのうち、70%以上のロイシン残基に対応するコドンを置換することが好ましい。また減弱化した選択マーカー遺伝子において、アラニン残基に対応するコドンを置換する場合は、特に制限はないが、選択マーカー遺伝子に含まれる全てのアラニン残基に対応するコドンのうち、70%以上のアラニン残基に対応するコドンを置換することが好ましい
【0071】
このような使用頻度の低い同義語コドンに置換することにより改変して得られる、減弱化した選択マーカー遺伝子としては、具体的には、例えば、配列番号9、11または13で表される塩基配列からなるネオマイシン耐性遺伝子、配列番号21、23または25で表される塩基配列からなるピューロマイシン耐性遺伝子、配列番号27または29で表される塩基配列からなるゼオシン耐性遺伝子、配列番号31または33で表される塩基配列からなるハイグロマイシン耐性遺伝子を挙げることができる。
【0072】
さらに、抗体生産細胞の作製において薬剤耐性細胞を選択する際の薬剤の濃度を通常用いられる濃度に比べ、著しく高くすること、または薬剤耐性遺伝子が薬剤を代謝・分解する前に追加投与することなどによっても、選択マーカー遺伝子を減弱化することが可能である。
【0073】
宿主細胞に、上記のトランスポゾン配列を含む発現ベクター、トランスポゼースを発現するプラスミドベクターまたはRNAを導入する方法としては、特に限定はなく、例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポソーム法、ジーンガン法、リポフェクション法などが挙げられるトランスポゼースを直接タンパク質として導入する場合は、例えば、マイクロインジェクション法またはエンドサイトーシスによる細胞への供給を利用する方法が挙げられる。遺伝子導入は、新遺伝子工学ハンドブック、村松正實・山本雅/編、羊土社、ISBN 9784897063737記載の方法で行うことができる。
【0074】
宿主細胞としては、継代培養が可能で安定的に目的タンパク質を発現することができる哺乳動物細胞が挙げられる。
【0075】
具体的な宿主細胞としては、例えば、PER.C6細胞、ヒト白血病細胞Namalwa細胞、サル細胞COS細胞、ラットミエローマ細胞YB2/3HL.P2.G11.16Ag.20(またはYB2/0ともいう)、マウスミエローマ細胞NS0、マウスミエローマ細胞SP2/0−Ag14、シリアンハムスター細胞BHK、HBT5637(日本国特開昭63−000299号公報)チャイニーズハムスター卵巣細胞CHO細胞[Journal of Experimental Medicine,108,945(1958);Proc.Natl.Acad.Sci.USA,60,1275(1968);Genetics,55,513(1968);Chromosoma,41,129(1973);Methodsin Cell Science,18,115(1996);RadiationResearch,148,260(1997); Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77,4216(1980);Proc.Natl.Acad.Sci.,60,1275(1968);Cell,6,121(1975);Molecular Cell Genetics,Appendix I,II(pp.883−900)]、CHO/DG44(ATCC CRL−9096)、CHO−K1(ATCC CCL−61)、DUKXB11 (ATCC CCL−9096)、Pro−5(ATCC CCL−1781)、CHO−S(Life Technologies,Cat # 11619)、Pro−3、およびCHO細胞の亜株を挙げることができる。
【0076】
また、上記の宿主細胞は、染色体DNAの改変および外来性遺伝子の導入等により、タンパク質の生産に適するように改変して、本発明のタンパク質の生産方法に用いることもできる。
【0077】
更に、本発明において、生産する目的タンパク質に結合した糖鎖構造を制御するために、レクチン耐性を獲得したLec13[Somatic Cell and Molecular genetics,12,55(1986)]またはα1,6−フコース転移酵素遺伝子が欠損したCHO細胞(国際公開第05/35586号、国際公開第02/31140号)を、本発明の目的タンパク質を生産する宿主細胞として用いることもできる。
【0078】
本発明において生産する目的タンパク質は、本発明の非自立性トランスポゾンを用いたタンパク質の生産方法を用いて発現可能であれば、いかなるタンパク質でもよい。具体的には、例えば、ヒト血清タンパク質、ペプチドホルモン、増殖因子、サイトカイン、血液凝固因子、線溶系タンパク質、抗体および各種タンパク質の部分断片などが挙げられる。
【0079】
本発明において生産する目的タンパク質として、好ましくはキメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体などのモノクローナル抗体、Fc融合タンパク質、アルブミン結合タンパク質および該部分断片などを挙げることができる。
【0080】
本発明において生産されるモノクローナル抗体のエフェクター活性は、種々の方法で制御することができる。例えば、抗体のFc領域の297番目のアスパラギン(Asn)に結合するN結合複合型糖鎖の還元末端に存在するN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)にα−1,6結合するフコース(コアフコースともいう)の量を制御する方法(国際公開第05/035586号、国際公開第02/31140号、国際公開第00/61739号)、または抗体のFc領域のアミノ酸残基を改変することで制御する方法などが知られている。本発明において生産されるモノクローナル抗体にはいずれの方法を用いても、エフェクター活性を制御することができる。
【0081】
エフェクター活性とは、抗体のFc領域を介して引き起こされる抗体依存性の活性をいい、抗体依存性細胞傷害活性(ADCC活性)、補体依存性傷害活性(CDC活性)、およびマクロファージまたは樹状細胞などの食細胞による抗体依存性ファゴサイトーシス(Antibody−dependent phagocytosis、ADP活性)などが知られている。
【0082】
また、本発明において生産されるモノクローナル抗体のFcのN結合複合型糖鎖のコアフコースの含量を制御することで、抗体のエフェクター活性を増加または低下させることができる。抗体のFcに結合しているN結合複合型糖鎖に結合するフコースの含量を低下させる方法としては、α1,6−フコース転移酵素遺伝子が欠損したCHO細胞を用いて抗体を発現することで、フコースが結合していない抗体を取得することができる。
【0083】
フコースが結合していない抗体は高いADCC活性を有する。一方、抗体のFcに結合しているN結合複合型糖鎖に結合するフコースの含量を増加させる方法としては、α1,6−フコース転移酵素遺伝子を導入した宿主細胞を用いて抗体を発現させることで、フコースが結合している抗体を取得できる。フコースが結合している抗体は、フコースが結合していない抗体よりも低いADCC活性を有する。
【0084】
また、抗体のFc領域のアミノ酸残基を改変することでADCC活性またはCDC活性を増加または低下させることができる。例えば、米国特許出願公開第2007/0148165号明細書に記載のFc領域のアミノ酸配列を用いることで、抗体のCDC活性を増加させることができる。また、米国特許第6,737,056号明細書、米国特許第7,297,775号明細書、または米国特許第7,317,091号明細書に記載のアミノ酸改変を行うことで、ADCC活性またはCDC活性を、増加させることも低下させることもできる。
【0085】
本発明で用いられる浮遊性の哺乳動物細胞とは、マイクロビーズまたは組織培養用培養器(組織培養または接着培養容器などともいう)などの、培養細胞が接着し易くコーティングされた細胞培養支持体に接着せずに、培養液中に浮遊して生存および増殖できる細胞のことをいう。細胞培養支持体に細胞が接着しなければ、培養液中において1つの細胞の状態で生存、増殖してもよく、または細胞同士が複数凝集した細胞塊の状態で生存、増殖していても、いずれの状態でもよい。
【0086】
更に本発明で用いられる浮遊性の哺乳動物細胞としては、ウシ胎児血清(fetal calf serum、以下FCSと記す)などが含まれていない無血清培地中で、細胞培養支持体に接着せず培養液中に浮遊して生存および増殖できる細胞が好ましく、より好ましくはタンパク質が含まれていない無タンパク質培地中で、浮遊して生存および増殖できる哺乳動物細胞が挙げられる。
【0087】
組織培養用培養器としては、接着培養用のコーティングがなされているフラスコ、シャーレ等であればいかなる培養器でもよく、具体的には、市販されている組織培養フラスコ(グライナー社製)、接着培養フラスコ(住友ベークライト社製)などを用いることで、浮遊性の哺乳動物細胞であることが確認できる。
【0088】
本発明で用いられる浮遊性の哺乳動物細胞としては、元来浮遊性の性質を有する浮遊培養に馴化された細胞でもよいし、接着性の哺乳動物細胞を浮遊性の培養条件に馴化させた浮遊性の哺乳動物細胞いずれのものでもよい。元来浮遊性の性質を有する哺乳動物細胞としては、例えば、PER.C6細胞、ラットミエローマ細胞YB2/3HL.P2.G11.16Ag.20(またはYB2/0ともいう)およびCHO−S細胞(Invitrogen社製)などが挙げられる。
【0089】
本発明において、接着性の哺乳動物細胞を浮遊性の培養条件に馴化させた浮遊性の哺乳動物細胞は、Mol.Biotechnol.2000,15(3),249−57記載の方法、または以下に示す方法などで作製することができ、浮遊培養馴化前と同様、またはそれより優れた増殖、生存した細胞を確立することで作製することができる(J.Biotechnol.2007,130(3),282−90)。
【0090】
浮遊培養馴化前と同等とは、浮遊培養に馴化された細胞の生存率、増殖速度(倍化時間)などが、浮遊培養馴化前の細胞と比べて、実質的に同じであることを意味する。
【0091】
本発明において接着性の哺乳動物細胞を浮遊性の培養条件に馴化させる方法としては、例えば、血清含有の培地の血清含量を1/10に減らし、比較的高い細胞濃度で継代培養を繰り返し、哺乳動物細胞が生存、増殖できるようになった時点で、更に血清含量を斬減して、継代培養を繰り返すことで、非血清下で生存、増殖可能な浮遊性の哺乳動物細胞を作製する方法を挙げることができる。
【0092】
また、培養液中に適当な非イオン性界面活性剤Pluronic−F68などを添加して培養することでも、浮遊性の哺乳動物細胞を作製することができる。接着性の哺乳動物細胞を浮遊性の培養条件に馴化させた浮遊性の哺乳動物細胞としては、例えば、マウスミエローマ細胞NS0またはCHO細胞などが挙げられる。
【0093】
本発明において、浮遊性のCHO細胞は、細胞を2×10
5細胞/mLで浮遊培養を行った場合、3〜4日間後の培養終了時の細胞密度が、5×10
5細胞/mL以上、好ましくは8×10
5細胞/mL以上、より好ましくは1×10
6細胞/mL以上、最も好ましくは1.5×10
6細胞/mL以上になる性質を有することが好ましい。また、本発明の浮遊性のCHO細胞の倍化時間としては、好ましくは48時間以下、より好ましくは24時間以下、更に好ましくは18時間以下、最も好ましくは11時間以下である。
【0094】
浮遊培地としては、例えば、CD OptiCHO培地(Invitrogen社)、EX−CELL 325−PF培地(SAFC Biosciences社)、SFM4CHO培地(HyClone社)など市販の培地が挙げられる。また、例えば、CHO細胞培養に必要な糖類、アミノ酸類、ビタミン類および金属塩類などを配合し、調製することによっても得られる。
【0095】
浮遊培養は、浮遊培養が可能な培養容器を用いて、浮遊培養が可能な培養条件によって行うことができる。培養容器としては、例えば、細胞培養用の96穴プレート(コーニング社)、T−フラスコ(ベクトン・ディッキンソン社)および三角フラスコ(コーニング社)などが挙げられる。
【0096】
培養条件としては、例えば、5% CO
2雰囲気中、培養温度37℃で静置培養などによって行うことができる。浮遊培養専用の培養設備であるWaveバイオリアクター(GEヘルスケアバイオサイエンス社)などの振とう培養装置などを用いることもできる。
【0097】
Waveバイオリアクター装置を用いたCHO細胞の浮遊培養条件についてはGEヘルスケアバイオサイエンス社ホームページhttp://www.gelifesciences.co.jp/tech_support/manual/pdf/cellcult/wave_03_16.pdfに記載の方法で行うことができる。
【0098】
振とう培養の他、バイオリアクターなどの旋回撹拌装置による培養も可能である。バイオリアクターでの培養は、Cytotechnology(2006)52:199−207に記載の方法などで行うことができる。
【0099】
本発明において浮遊性のCHO細胞以外の細胞株を選択した場合、上述のような浮遊培養に馴化させた細胞株であり、かつ本発明のタンパク質生産方法を用いることができ、いずれの細胞株も応用可能である。
【0100】
培養細胞で生産したタンパク質の精製はタンパク質を含む培養液または細胞破砕液から目的タンパク質と目的外の不純物を分離することによって行う。分離の方法としては、例えば、遠心、透析、硫安沈殿、カラムクロマトグラフィーまたはフィルターなどが挙げられ、目的タンパク質と不純物の物理化学的性質の違いまたはカラム単体への結合力の違いによって行うことができる。
【0101】
タンパク質精製の方法は、タンパク質実験ノート(上)抽出・分離と組換えタンパク質の発現(羊土社、岡田雅人・宮崎香/編、ISBN 9784897069180)に記載の方法によって行うことができる。
【0102】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0103】
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。したがって、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、請求の範囲によってのみ限定される。
【0104】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。
【0105】
以降に記述するクローニング等、遺伝子組換えに関する各種実験技術については、J.Sambrook,E.F.Frisch,T.Maniatis著;モレキュラー クローニング第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、及びFrederick M.Ausubelら編、Current Protocols発行、Current Protocols in Molecular Biology等に記載の遺伝子工学的方法に準じて行った。
【実施例】
【0106】
[実施例1]ネオマイシン耐性遺伝子および抗ヒトCD98抗体を発現するトランスポゾンベクターの作製
(1)野生型ネオマイシン耐性遺伝子および抗ヒトCD98抗体を発現するトランスポゾンベクターの作製
タンパク質発現用プラスミドベクターには、一対のTol2由来の塩基配列の間に挿入された任意のヒト抗体遺伝子および薬剤耐性マーカー遺伝子を含む、哺乳動物細胞用遺伝子発現カセットを含むプラスミドを用いた。
【0107】
用いた遺伝子のDNAは既知の塩基配列をもとに、人工的に化学合成するか、またはその両端配列のプライマーを作製し、適当なDNAソースを鋳型としてPCRを行うことにより取得した。プライマーの端には後の遺伝子操作のために制限酵素切断部位を付加した。
トランスポゾン配列は、日本国特開2003−235575号公報により開示されている非自律性Tol2トランスポゾンの塩基配列(配列番号1)のうち、1番目から200番目の塩基配列(Tol2−L配列)(配列番号2)と、2285番目から2788番目の塩基配列(Tol2−R配列)(配列番号3)の塩基配列を用いた。
【0108】
Tol2−R配列またはTol2−L配列を含むDNA断片をそれぞれ合成して用いた。
【0109】
抗体重鎖遺伝子発現カセットとして、抗ヒトCD98抗体N5KG1−Val C2IgG1NS/I117Lベクター(日本国特許第4324637号公報)をもとに増幅した、CMVプロモーター制御下に抗体H鎖をコードする塩基配列(配列番号15)を含むDNA断片を、抗体軽鎖遺伝子発現カセットとして抗ヒトCD98抗体N5KG1−Val C2IgG1NS/I117Lベクターをもとに増幅した、SV40プロモーター制御下に抗体軽鎖をコードする塩基配列(配列番号17)を含むDNA断片を調製した。
【0110】
ネオマイシン耐性遺伝子発現カセットとしては、SV40プロモーター制御下にネオマイシン耐性遺伝子をコードする塩基配列からなるDNA(配列番号7および、Genbank Accession No. U47120.2で表される塩基配列からなるネオマイシンホスホトランスフェラーゼをコードするDNA)を有するDNA断片を調製した。
【0111】
上記の抗体重鎖遺伝子発現カセット、抗体軽鎖遺伝子発現カセットおよびネオマイシン耐性遺伝子発現カセットを連結し、さらにその両端にTol2−R配列を含むDNA断片およびTol2−L配列を含むDNA断片を連結し、抗ヒトCD98抗体発現ベクターAを作製した(
図1)。
【0112】
(2)改変型ネオマイシン耐性遺伝子1を有する抗ヒトCD98抗体発現トランスポゾンベクターの作製
(1)で得られた野生型ネオマイシン耐性遺伝子を有する抗ヒトCD98抗体発現トランスポゾンベクターAのネオマイシン耐性遺伝子を、配列番号9で表される塩基配列からなる改変型ネオマイシン耐性遺伝子1に置換した抗ヒトCD98抗体発現トランスポゾンベクターBを作製した。
【0113】
改変型ネオマイシン耐性遺伝子1は、野生型ネオマイシン耐性遺伝子と同一のアミノ酸配列をコードし、かつ全体の22%にあたる167塩基を改変した。具体的には、全32個のロイシン残基のうち、25個のロイシン残基に対応するコドンをT
TAとなるように改変した。
【0114】
(3)改変型ネオマイシン耐性遺伝子2を有する抗ヒトCD98抗体発現トランスポゾンベクターの作製
(1)で得られた野生型ネオマイシン耐性遺伝子を有する抗ヒトCD98抗体発現トランスポゾンベクターAのネオマイシン耐性遺伝子を、配列番号11で表される塩基配列からなる改変型ネオマイシン耐性遺伝子2に置換した抗ヒトCD98抗体発現トランスポゾンベクターCを作製した。
【0115】
改変型ネオマイシン耐性遺伝子2は、野生型ネオマイシン耐性遺伝子と同一のアミノ酸配列をコードし、かつ全体の23%にあたる180塩基を改変した。具体的には、全32個のロイシン残基のうち、28個のロイシン残基に対応するコドンをT
TAとなるように改変している。
【0116】
(4)改変型ネオマイシン耐性遺伝子3を有する抗ヒトCD98抗体発現トランスポゾンベクターの作製
(1)で得られた野生型ネオマイシン耐性遺伝子を有する抗ヒトCD98抗体発現トランスポゾンベクターAのネオマイシン耐性遺伝子を、配列番号13で表される塩基配列からなる改変型ネオマイシン耐性遺伝子3に置換した抗ヒトCD98抗体発現トランスポゾンベクターDを作製した。
【0117】
改変型ネオマイシン耐性遺伝子3は、野生型ネオマイシン耐性遺伝子と同一のアミノ酸配列をコードし、かつ全体の26%にあたる203塩基を改変している。具体的には、全32個のロイシン残基のうち、30個のロイシン残基に対応するコドンをT
TAとなるように改変している。
【0118】
[実施例2]改変型ネオマイシン耐性遺伝子を発現する抗体生産CHO細胞による抗体生産
実施例1(1)〜(4)で作製した抗ヒトCD98抗体発現トランスポゾンベクターA〜Dを、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるTol2トランスポゼースを発現するベクターpCAGGS−T2TP(Kawakami K&Noda T.Genetics.166, 895−899(2004))とともに浮遊化CHO−K1細胞にそれぞれ導入し、抗体生産細胞A〜Dを作製した。
【0119】
浮遊CHO細胞へのベクターの導入は、CHO細胞(4×10
6個)を400μLのPBSバッファーに懸濁し、環状DNAのままの抗ヒトCD98抗体発現トランスポゾンベクター(10μg)およびTol2トランスポゼース発現ベクターpCAGGS−T2TP(20μg)を、エレクトロポレーション法により共導入することにより行った。
【0120】
ここで、Tol2トランスポゼース発現ベクターもまた、Tol2トランスポゼースを一過性に発現させるため、環状DNAのまま導入した。
【0121】
また、Tol2トランスポゼースを用いないコントロールとして、実施例1(4)の抗ヒトCD98抗体発現トランスポゾンベクターD(10μg)を、制限酵素PciI(タカラバイオ社)により直鎖状にした後、エレクトロポレーション法により、浮遊化CHO−K1細胞に導入した。
【0122】
エレクトロポレーションは、エレクトロポレーター[Gene Pulser XceII system(Bio−Rad社製)]を用い、電圧300V、静電容量500μF、室温の条件で、gap幅4mmのキュベット(Bio−Rad社製)を使用して行った。
【0123】
エレクトロポレーションによる遺伝子導入後、各々のキュベットの細胞は、1枚の96穴プレートに播種し、5%大豆加水分解物を加えたCD OptiCHO培地(Invitrogen社)を用いて、CO
2インキュベータ内で3日間培養した。
【0124】
次に、遺伝子導入4日後の培地交換から、最終濃度500μg/mLになるようにG418(Geneticin
(R)、Invitrogen社)を加え、G418存在下で培養し、1週間毎に培地交換を行いながら、3週間培養した。
【0125】
培養後、抗体の発現を、FRET(蛍光共鳴エネルギー移動)を利用したサンドイッチ法により、LANCE
(R)アッセイ(パーキンエルマー社)で定量した。その結果を表1に示す。
【0126】
【表1】
【0127】
表1に示すとおり、改変型ネオマイシン耐性遺伝子を発現する細胞B〜Dでは、野生型ネオマイシン耐性遺伝子を発現する細胞Aに比べ、抗ヒトCD98抗体の発現量が高かった。
【0128】
特に、改変型ネオマイシン耐性遺伝子3を発現する抗ヒトCD98抗体生産細胞Dでは、野生型ネオマイシン耐性遺伝子を発現する抗ヒトCD98抗体生産細胞Aの10倍の発現を示す細胞株が得られた。
【0129】
また、改変型ネオマイシン耐性遺伝子3を用いても、Tol2トランスポゼース発現ベクターを共導入していないコントロール細胞では、ベクターを線状化したにも係わらず、抗ヒトCD98抗体発現細胞を得ることができなかった。
【0130】
[実施例3]ピューロマイシン耐性遺伝子および抗ヒトCD98抗体を発現するトランスポゾンベクターの作製
(1)改変型ピューロマイシン耐性遺伝子1を有する抗ヒトCD98抗体発現トランスポゾンベクターの作製
実施例1(1)で得られた野生型ネオマイシン耐性遺伝子を有する抗ヒトCD98抗体発現トランスポゾンベクターAのネオマイシン耐性遺伝子を配列番号21で表される塩基配列からなる改変型ピューロマイシン耐性遺伝子1に置換した抗ヒトCD98抗体発現トランスポゾンベクターEを作製した。
【0131】
改変型ピューロマイシン耐性遺伝子1は、配列番号19で表される塩基配列からなる野生型ピューロマイシン耐性遺伝子(ピューロマイシン−N−アセチルトランスフェラーゼ遺伝子、Genbank Accession No. U07648.1に開示される塩基配列からなる)と同一のアミノ酸配列をコードし、かつ全体の3%にあたる17塩基を改変している。
【0132】
具体的には、ピューロマイシン耐性遺伝子に含まれる全28個のアラニン残基のうち、改変により17個のアラニン残基に対応するコドンをGCGとし、野生型で既にGCGであったコドンと併せて、全てのアラニン残基に対応するコドンをGCGとした。
【0133】
(2)改変型ピューロマイシン耐性遺伝子2を有する抗ヒトCD98抗体発現トランスポゾンベクターの作製
実施例1(1)で得られた野生型ネオマイシン耐性遺伝子を有する抗ヒトCD98抗体発現トランスポゾンベクターAのネオマイシン耐性遺伝子を配列番号23で表される塩基配列からなる改変型ピューロマイシン耐性遺伝子2に置換した抗ヒトCD98抗体発現トランスポゾンベクターFを作製した。
【0134】
改変型ピューロマイシン耐性遺伝子2は、野生型ピューロマイシン耐性遺伝子と同一のアミノ酸配列をコードし、かつ全体の14%にあたる79塩基を改変した。具体的には、改変型ピューロマイシン耐性遺伝子1のアラニン残基に対応するコドンの改変に加え、ロイシン残基に対応するコドンをT
TA、バリン残基に対応するコドンをGTA、セリンのコドンをTCGとした。
【0135】
[実施例4]改変型ピューロマイシン耐性遺伝子を発現する抗体生産CHO細胞による抗体生産1
実施例3(1)の改変型ピューロマイシン耐性遺伝子1を有する抗ヒトCD98抗体発現トランスポゾンベクターE、実施例3(2)の改変型ピューロマイシン耐性遺伝子2を有する抗ヒトCD98抗体発現トランスポゾンベクターF、Tol2トランスポゼース発現ベクターpCAGGS−T2TPを浮遊化したCHO−K1細胞に導入し、抗体生産細胞EおよびFを作製した。
【0136】
浮遊性CHO細胞へのベクターの導入は、浮遊化CHO細胞(4×10
6個)を400μLのPBSバッファーに懸濁し、環状DNAのままの改変型ピューロマイシン耐性遺伝子を有する抗ヒトCD98抗体発現トランスポゾンベクター(10μg)と、pCAGGS−T2TP(20μg)を、エレクトロポレーション法により共導入することにより行った。
【0137】
ここで、Tol2トランスポゼース発現ベクターpCAGGS−T2TPもまた、Tol2トランスポゼースを一過性に発現させるため、環状DNAのまま導入した。
【0138】
エレクトロポレーションは、エレクトロポレーター(Gene Pulser XceII system(Bio−Rad社製))を用い、電圧300V、静電容量500μF、室温の条件で、gap幅4mmのキュベット(Bio−Rad社製)を使用して行った。
【0139】
エレクトロポレーションによる遺伝子導入後、各々のキュベットの細胞は、1枚の96穴プレートに播種し、5%大豆加水分解物を加えたCD OptiCHO 培地(Invitrogen社)を用いて、CO
2インキュベータ内で3日間培養した。
【0140】
次に、遺伝子導入2日後の培地交換から、最終濃度5μg/mLになるようにピューロマイシン(P9620、Sigma−Aldrich社)を加え、1週間毎にピューロマイシンを含む培地に培地交換を行いながら、4週間培養した。
【0141】
培養後、抗体の発現量を、FRET(蛍光共鳴エネルギー移動)を利用したサンドイッチ法により、LANCE
(R)アッセイ(パーキンエルマー社)で定量した。その結果を表2に示す。
【0142】
【表2】
【0143】
表2に示すとおり、改変型ピューロマイシン耐性遺伝子2を発現する抗体生産細胞Fは、改変型ピューロマイシン耐性遺伝子1を発現する抗体生産細胞Eの2倍以上の抗体生産量を示した。
【0144】
[実施例5]改変型ピューロマイシン耐性遺伝子を発現する抗体生産CHO細胞による抗体生産2
実施例4で得られた改変型ピューロマイシン耐性遺伝子2を発現する抗体生産細胞Fを三角フラスコで培養し、抗ヒトCD98抗体を生産した。
【0145】
具体的には、抗体生産細胞Fを96穴プレートから24穴プレート、次いで6穴プレートと順次拡大培養した。細胞数が十分増えた抗体生産細胞F2株(細胞株1および細胞株2)を選抜し、それぞれ2×10
5個/mlになるように、5% 大豆加水分解物を加えたCD OptiCHO 培地(Invitrogen社)35mlに懸濁し、125ml容の三角フラスコ(ベントキャップ付き、コーニング社)を用いて、37℃、5%CO
2の雰囲気中で1週間旋回培養し、抗ヒトCD98抗体を生産した。
【0146】
培養後の培地中の抗体量を、HPLC(Waters社)で定量した。その結果を表3に示す。
【0147】
【表3】
【0148】
以上の結果は、浮遊性のCHO細胞において、一対のトランスポゾン配列の間に挿入された抗体遺伝子、および、改変型薬剤耐性遺伝子が、効率よく宿主の染色体内に導入され、しかも高発現細胞の選抜に有効であることを示している。また、得られた細胞は拡大培養が可能であり、浮遊培養条件にて目的タンパク質の生産が可能であることがわかった。
【0149】
[参考例](1)浮遊化CHO細胞の作製
10%血清(FCS)を添加したα−MEM培地(Invitrogen社)で培養した接着性CHO−K1細胞EC85051005(European Collection of Cell Cultures)を、トリプシン処理により剥離、回収し、新しい10% FCS添加α−MEM培地を用いて、37℃、5% CO
2インキュベータ内で、振とう培養した。数日後、これらの細胞が増殖していることを確認したのち、5%FCS添加α−MEM培地に2×10
5個/mLの濃度で播種し、振とう培養を行った。
【0150】
さらに数日後、5%FCS添加α−MEM培地にて同様の播種作業を行った。最終的に、血清を含まないα−MEM培地を用いて継代、振とう培養を繰り返し、血清存在下での培養と同様の増殖能を有していることを確認して、浮遊培養馴化株を作製した。
【0151】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更および変形が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお、本出願は、2010年12月15日付けで出願された日本特許出願(特願2010−279850)に基づいており、その全体が引用により援用される。
【配列表フリーテキスト】
【0153】
配列番号1−人工配列の説明;非自律性Tol2トランスポゾンの塩基配列
配列番号2−人工配列の説明;Tol2−L配列
配列番号3−人工配列の説明;Tol2−R配列
配列番号7−人工配列の説明;野生型ネオマイシン耐性遺伝子の塩基配列
配列番号8−人工配列の説明;野生型ネオマイシン耐性遺伝子によりコードされるアミノ酸配列
配列番号9−人工配列の説明;改変型ネオマイシン耐性遺伝子の塩基配列
配列番号10−人工配列の説明;合成コンストラクトのアミノ酸配列
配列番号11−人工配列の説明;改変型ネオマイシン耐性遺伝子の塩基配列
配列番号12−人工配列の説明;合成コンストラクトのアミノ酸配列
配列番号13−人工配列の説明;改変型ネオマイシン耐性遺伝子の塩基配列
配列番号14−人工配列の説明;合成コンストラクトのアミノ酸配列
配列番号15−人工配列の説明;抗ヒトCD98抗体重鎖可変領域をコードする塩基配列
配列番号16−人工配列の説明;合成コンストラクトのアミノ酸配列
配列番号17−人工配列の説明;抗ヒトCD98抗体軽鎖可変領域をコードする塩基配列
配列番号18−人工配列の説明;合成コンストラクトのアミノ酸配列
配列番号19−人工配列の説明;野生型ピューロマイシン耐性遺伝子の塩基配列
配列番号20−人工配列の説明;野生型ピューロマイシン耐性遺伝子によりコードされるアミノ酸配列
配列番号21−人工配列の説明;改変型ピューロマイシン耐性遺伝子の塩基配列
配列番号22−人工配列の説明;合成コンストラクトのアミノ酸配列
配列番号23−人工配列の説明;改変型ピューロマイシン耐性遺伝子の塩基配列
配列番号24−人工配列の説明;合成コンストラクトのアミノ酸配列
配列番号25−人工配列の説明;改変型ピューロマイシン耐性遺伝子の塩基配列
配列番号26−人工配列の説明;合成コンストラクトのアミノ酸配列
配列番号27−人工配列の説明;改変型ゼオシン耐性遺伝子の塩基配列
配列番号28−人工配列の説明;合成コンストラクトのアミノ酸配列
配列番号29−人工配列の説明;改変型ゼオシン耐性遺伝子の塩基配列
配列番号30−人工配列の説明;合成コンストラクトのアミノ酸配列
配列番号31−人工配列の説明;改変型ハイグロマイシン耐性遺伝子の塩基配列
配列番号32−人工配列の説明;合成コンストラクトのアミノ酸配列
配列番号33−人工配列の説明;改変型ハイグロマイシン耐性遺伝子の塩基配列
配列番号34−人工配列の説明;合成コンストラクトのアミノ酸配列