特許第6087196号(P6087196)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ レール・リキード−ソシエテ・アノニム・プール・レテュード・エ・レクスプロワタシオン・デ・プロセデ・ジョルジュ・クロードの特許一覧

特許6087196低温圧縮ガスまたは液化ガスの製造装置および製造方法
<>
  • 特許6087196-低温圧縮ガスまたは液化ガスの製造装置および製造方法 図000003
  • 特許6087196-低温圧縮ガスまたは液化ガスの製造装置および製造方法 図000004
  • 特許6087196-低温圧縮ガスまたは液化ガスの製造装置および製造方法 図000005
  • 特許6087196-低温圧縮ガスまたは液化ガスの製造装置および製造方法 図000006
  • 特許6087196-低温圧縮ガスまたは液化ガスの製造装置および製造方法 図000007
  • 特許6087196-低温圧縮ガスまたは液化ガスの製造装置および製造方法 図000008
  • 特許6087196-低温圧縮ガスまたは液化ガスの製造装置および製造方法 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6087196
(24)【登録日】2017年2月10日
(45)【発行日】2017年3月1日
(54)【発明の名称】低温圧縮ガスまたは液化ガスの製造装置および製造方法
(51)【国際特許分類】
   F25J 1/00 20060101AFI20170220BHJP
   F25B 27/00 20060101ALI20170220BHJP
【FI】
   F25J1/00 D
   F25B27/00 Q
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-85114(P2013-85114)
(22)【出願日】2013年4月15日
(65)【公開番号】特開2014-142161(P2014-142161A)
(43)【公開日】2014年8月7日
【審査請求日】2015年11月26日
(31)【優先権主張番号】特願2012-288262(P2012-288262)
(32)【優先日】2012年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591036572
【氏名又は名称】レール・リキード−ソシエテ・アノニム・プール・レテュード・エ・レクスプロワタシオン・デ・プロセデ・ジョルジュ・クロード
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】富田 伸二
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 献児
【審査官】 神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−045050(JP,A)
【文献】 米国特許第03183677(US,A)
【文献】 米国特許第02937504(US,A)
【文献】 特表2009−540238(JP,A)
【文献】 特開昭55−146372(JP,A)
【文献】 特開昭48−038887(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25J 1/00−5/00
F25B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱媒体が断熱圧縮される第1圧縮手段と、断熱圧縮された該熱媒体が定圧加熱される第1熱交換器と、加熱された該熱媒体が断熱膨張される膨張手段と、断熱膨張された該熱媒体が定圧冷却される第2熱交換器と、該第2熱交換器から導出された熱媒体が前記第1圧縮手段に導かれる流路と、を備えたランキンサイクルを有し、前記膨張手段とリンクされた少なくとも1つの第2圧縮手段を有するとともに、
低温液化状態の液化天然ガスが、前記第2熱交換器に導入され、その寒冷を熱媒体に伝達して導出され、
給送された原料ガスが、前記第1熱交換器に導入され、熱媒体によって冷却された後、前記第2圧縮手段に導入され、低温の圧縮されたガスとして取り出されることを特徴とする低温圧縮ガスの製造装置。
【請求項2】
請求項1記載の低温圧縮ガスの製造装置を用い、前記第2圧縮手段から導出された前記低温圧縮ガスが前記第1熱交換器に導かれる流路または第2熱交換器に導かれる流路と、該第1熱交換器または第2熱交換器から導出された液化成分を含む低温圧縮ガスの圧力調整を行う調整弁と、該調整弁を介して前記低温圧縮ガスが導入され、前記液化成分が気液分離される気液分離部と、を有し、該気液分離部から導出された低温の液化成分を取り出すことを特徴とする液化ガスの製造装置。
【請求項3】
第3熱交換器が、前記第1熱交換器から導出された熱媒体が前記膨張手段に導かれる流路に設けられ、該第3熱交換器において、該熱媒体と、前記第2熱交換器から導出された液化天然ガスと、前記第2圧縮手段から導出された低温圧縮ガスと、が熱交換されることを特徴とする請求項2記載の液化ガスの製造装置。
【請求項4】
前記気液分離部から導出された液化成分が導かれる流路に、第4熱交換器および第3分岐流路が設けられるとともに、
前記気液分離部から導出された気体成分が、前記第1熱交換器または第2熱交換器を介して第1分岐流路に導かれる流路と、前記第3分岐流路で分岐された前記液化成分が、前記第4熱交換器および前記第1熱交換器または第2熱交換器を介して第2分岐流路に導かれる流路と、を有し、
前記原料ガスが前記第1熱交換器に導かれる流路に、第1昇圧手段,前記第1分岐流路からの合流部,第2昇圧手段および前記第2分岐流路からの合流部が設けられ、
前記気液分離部から導出された前記液化成分が、前記第4熱交換器を介して取り出されことを特徴とする請求項2または3記載の液化ガスの製造装置。
【請求項5】
前記ランキンサイクルが、沸点あるいは熱容量の異なる複数の熱媒体を用いた複数のランキンサイクルで構成されるとともに、
前記第1熱交換器から導出された前記原料ガスが、低い沸点あるいは小さな熱容量の熱媒体を用いた1のランキンサイクルに係る膨張手段とリンクされた第2圧縮手段によって圧縮されて前記第1熱交換器に導入された後、
前記第1熱交換器から導出された前記原料ガスが、高い沸点あるいは大きな熱容量の熱媒体を用いた他のランキンサイクルに係る膨張手段とリンクされた第2圧縮手段によって圧縮されて前記第1熱交換器に導入されることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の液化ガスの製造装置。
【請求項6】
第1圧縮手段によって断熱圧縮された熱媒体が、第1熱交換器において定圧加熱された後、膨張手段によって断熱膨張され、さらに第2熱交換器において定圧冷却される、ランキンサイクルを形成するとともに、
低温液化状態の液化天然ガスが、前記第2熱交換器に導入され、その寒冷を熱媒体に伝達し、
給送された原料ガスが、前記第1熱交換器に導入され、熱媒体によって冷却された後、前記膨張手段とリンクされた少なくとも1つの第2圧縮手段に導入され、低温の圧縮されたガスとして取り出されることを特徴とする低温圧縮ガスの製造方法。
【請求項7】
請求項6記載の低温圧縮ガスの製造方法を用い、前記第2圧縮手段から導出された前記低温圧縮ガスが、前記第1熱交換器または第2熱交換器において冷却され、調整弁によって圧力調整され、気液分離部において液化成分が気液分離されるとともに、該気液分離部から低温の液化成分として取り出されることを特徴とする液化ガスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化天然ガス(以下「LNG」ということがある)の寒冷を利用した低温圧縮ガスまたは液化ガスの製造装置および製造方法に関し、特に空気分離装置などによって製造される窒素ガスの液化技術として有用である。
【背景技術】
【0002】
天然ガス(NG)は、輸送や貯蔵の利便性などのため、液化天然ガス(LNG)として貯蔵され、これを気化した後に、主として火力発電用や都市ガス用として用いられる。このため、LNGの寒冷を有効利用する技術が開発されている。一般に、LNGの寒冷を利用して窒素ガス等を液化する設備としては、窒素ガスを圧縮機でLNGとの熱交換で液化可能な圧力まで圧縮し、次いで熱交換器でLNGと熱交換させてLNGを昇温気化させるとともに、窒素ガスを液化するプロセスが用いられている。
【0003】
また、圧縮機を駆動するための電力は、昼間の料金に比べて夜間が安く設定されているため、上記LNGの供給量の変動と電力料金の差を勘案して、効率よくガスを液化するためのガス液化プロセスが提案されている。例えば、図7に示すように、1台以上のガス用圧縮機101と、1台以上のガス用膨張タービン103と、ガスと液化天然ガスとを熱交換させる熱交換器102とを備えた液化プロセスにより、前記液化天然ガスの寒冷を利用して前記ガスを液化する方法において、供給される液化天然ガスの増量時には前記膨張タービン103を停止又は減量運転し、供給される液化天然ガスの減量時には前記膨張タービン103を稼働又は増量運転することを特徴とする液化天然ガスの寒冷を利用したガスの液化方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−45050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のような低温の液化ガス等の製造装置では、以下のような種々の課題が生じることがあった。
(i)ガス液化プロセスに供給されるLNG量は、一般に火力発電や都市ガス等の需要変動によって変動することがあり、利用できる寒冷量も変動することがある。従って、供給されるLNGが減少した場合においても、液化ガス等の生産量に対して影響を受けないように、LNGの寒冷を効率よく利用できる装置や方法が要求されている。
(ii)圧縮ガスの製造プロセスにおいて、常温常圧のガスを加圧するのは、大きなエネルギーを付加すると同時に、圧縮に伴うガス温上昇を抑える寒冷が必要とされる。例えば窒素ガスのように、大量に消費される汎用的な圧縮ガスの製造には、寒冷の効率的な利用と合せて、総合的なエネルギーの低減が大きな課題となっていた。
(iii)常圧ガスの液化開始温度は、LNGが約−80℃、窒素が約−120℃である。例えばLNGを寒冷として用いた窒素ガスの常圧による液化プロセスにおいては、窒素の液化が開始された状態において、これと熱交換が行われるLNGは、依然として大きな潜熱を有する液体状態であり、当該プロセスだけから見れば、LNGの寒冷が十分に利用させているとはいえない。また、残存するLNGの寒冷を他の用途に転用することは、必ずしも容易ではなく、LNGの寒冷を含めたエネルギーの効率的な利用は、こうした液化プロセスにおいて重要な課題となっていた。
【0006】
本発明の目的は、LNGの寒冷を効率よく利用できるとともに、低温圧縮ガスや液化ガスの作製に必要となるエネルギーの削減を図ることができる低温圧縮ガスまたは液化ガスの製造装置および製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、以下に示す低温圧縮ガスまたは液化ガスの製造装置および製造方法によって上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0008】
本発明の低温圧縮ガスの製造装置は、熱媒体が断熱圧縮される第1圧縮手段と、断熱圧縮された該熱媒体が定圧加熱される第1熱交換器と、加熱された該熱媒体が断熱膨張される膨張手段と、断熱膨張された該熱媒体が定圧冷却される第2熱交換器と、該第2熱交換器から導出された熱媒体が前記第1圧縮手段に導かれる流路と、を備えたランキンサイクルを有し、前記膨張手段とリンクされた少なくとも1つの第2圧縮手段を有するとともに、低温液化状態の液化天然ガスが、前記第2熱交換器に導入され、その寒冷を熱媒体に伝達して導出され、給送された原料ガスが、前記第1熱交換器に導入され、熱媒体によって冷却された後、前記第2圧縮手段に導入され、低温の圧縮されたガスとして取り出されることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の低温圧縮ガスの製造方法は、第1圧縮手段によって断熱圧縮された熱媒体が、第1熱交換器において定圧加熱された後、膨張手段によって断熱膨張され、さらに第2熱交換器において定圧冷却される、ランキンサイクルを形成するとともに、低温液化状態の液化天然ガスが、前記第2熱交換器に導入され、その寒冷を熱媒体に伝達し、給送された原料ガスが、前記第1熱交換器に導入され、熱媒体によって冷却された後、前記膨張手段とリンクされた少なくとも1つの第2圧縮手段に導入され、低温の圧縮されたガスとして取り出されることを特徴とする。
【0010】
こうした構成によって、低温圧縮ガスの作製において、LNGの寒冷を効率よく利用できるとともに、必要となるエネルギーの削減を図ることができる。具体的には、本発明の検証過程において、従前のLNGの寒冷を用いた常圧条件下での低温ガスの作製に要する寒冷に比べて、圧縮ガスとの熱交換によって効率よく熱伝達が行われ、低温ガスを作製した場合に要する寒冷が非常に少ないことを見出した。本発明は、こうした知見を基に、低温ガスの作製において、圧縮ガスとの熱交換を有効に利用することができるランキンサイクル(以下「RC」ということがある)を適用したもので、高圧のLNGの寒冷を効率よくRCの熱媒体を介して伝達し、断熱圧縮された熱媒体から常圧の原料ガスに冷熱が伝達されることによって、非常に効率よくLNGの寒冷を利用できるとともに、寒冷の伝達に必要なエネルギーを大幅に削減することが可能となった。
【0011】
本発明に係る液化ガスの製造装置は、上記低温圧縮ガスの製造装置を用い、前記第2圧縮手段から導出された前記低温圧縮ガスが前記第1熱交換器に導かれる流路または第2熱交換器に導かれる流路と、該第1熱交換器または第2熱交換器から導出された液化成分を含む低温圧縮ガスの圧力調整を行う調整弁と、該調整弁を介して前記低温圧縮ガスが導入され、前記液化成分が気液分離される気液分離部と、を有し、該気液分離部から導出された低温の液化成分を取り出すことを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る液化ガスの製造方法は、上記低温圧縮ガスの製造方法を用い、前記第2圧縮手段から導出された前記低温圧縮ガスが、前記第1熱交換器または第2熱交換器において冷却され、調整弁によって圧力調整され、気液分離部において液化成分が気液分離されるとともに、該気液分離部から低温の液化成分として取り出されることを特徴とする。
【0013】
窒素ガスなどの液化ガスの作製において、LNGの寒冷を利用するとき、LNGの温度は−155℃前後であり、一方窒素の大気圧沸点は−196℃であるので、この間の温度レベルの差を埋める必要がある。本発明は、こうした機能を、ランキンサイクルを用いて実現するもので、ランキンサイクルに用いられた熱媒体を、LNGの寒冷を利用して約−150〜−155℃まで冷却することによって、窒素ガス等に伝達する寒冷を確保し、通常臨界圧力以上(例えば5〜6MPa)に昇圧してから、常圧または低圧に加圧された窒素ガス等に対して第1熱交換器を通じて該寒冷を伝達し、さらに高圧に圧縮された窒素ガス等に対して第2熱交換器を通じて該寒冷を伝達することによって、液化された窒素ガスを効率よく作製することができる。液化ガスの作製において、非常に効率よくLNGの寒冷を利用できるとともに、寒冷の伝達に必要なエネルギーを大幅に削減することが可能となった。
【0014】
本発明は、上記液化ガスの製造装置において、第3熱交換器が、前記第1熱交換器から導出された熱媒体が前記膨張手段に導かれる流路に設けられ、該第3熱交換器において、該熱媒体と、前記第2熱交換器から導出された液化天然ガスと、前記第2圧縮手段から導出された低温圧縮ガスと、が熱交換されることを特徴とする。
こうした構成によって、さらに効率よくLNGの寒冷を利用することができ、エネルギー効率が高い液化ガスの作製が可能となる。特に、第3熱交換器に冷却水を導入し、熱容量の大きな冷熱による熱交換ができる構成を用いた場合には、起動時や停止時の過渡的な変動等に対しても、熱媒体,液化天然ガスおよび低温圧縮ガスに対する予備的あるいは補助的な温熱の移動を図ることができ、LNGの寒冷の安定的な利用および安定したエネルギー効率を確保することが可能となる。
【0015】
本発明は、上記液化ガスの製造装置であって、前記気液分離部から導出された液化成分が導かれる流路に、第4熱交換器および第3分岐流路が設けられるとともに、前記気液分離部から導出された気体成分が、前記第1熱交換器または第2熱交換器を介して第1分岐流路に導かれる流路と、前記第3分岐流路で分岐された前記液化成分が、前記第4熱交換器および前記第1熱交換器または第2熱交換器を介して第2分岐流路に導かれる流路と、を有し、前記原料ガスが前記第1熱交換器に導かれる流路に、第1昇圧手段,前記第1分岐流路からの合流部,第2昇圧手段および前記第2分岐流路からの合流部が設けられ、前記気液分離部から導出された前記液化成分が、前記第4熱交換器を介して取り出されことを特徴とする。
原料ガスを多段階に圧縮することによって原料ガスを効率的に供給でき、こうした原料ガスが導入された熱交換器での熱交換効率が向上することが知られている。本発明は、原料ガス給送手段として、複数段の圧縮機を設けるとともに、取り出し直前の安定した条件の液化ガスを戻し、その原料ガスと混合することによって、安定的かつエネルギー効率のよい液化ガスの供給を可能とした。
【0016】
本発明は、上記液化ガスの製造装置であって、前記ランキンサイクルが、沸点あるいは熱容量の異なる複数の熱媒体を用いた複数のランキンサイクルで構成されるとともに、前記第1熱交換器から導出された前記原料ガスが、低い沸点あるいは小さな熱容量の熱媒体を用いた1のランキンサイクルに係る膨張手段とリンクされた第2圧縮手段によって圧縮されて前記第1熱交換器に導入された後、前記第1熱交換器から導出された前記原料ガスが、高い沸点あるいは大きな熱容量の熱媒体を用いた他のランキンサイクルに係る膨張手段とリンクされた第2圧縮手段によって圧縮されて前記第1熱交換器に導入されることを特徴とする。
液化ガスの製造装置は、半導体製造設備等においては、インラインに用いられることが多く、連続的なガスの供給が要求される場合とともに、その供給量や供給圧力等が大きく変動することがある。また、既述のように、LNGの安定供給が必ずしも確保できない場合がある。本発明は、LNGの寒冷の伝達を担う熱媒体について沸点あるいは熱容量の異なる複数の熱媒体を用いて複数のランキンサイクルで構成し、こうした場合の変動要素を、各ランキンサイクルにおける熱媒体の流量や圧力といった制御が容易な制御要素を調整することによって、安定的かつエネルギー効率のよい液化ガスの供給を可能とした。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る低温圧縮ガスの製造装置の基本構成例を示す概略図
図2】本発明に係る液化ガスの製造装置の第1構成例の1の態様を例示する概略図
図3】本発明に係る液化ガスの製造装置の第1構成例の他の態様を例示する概略図
図4】本発明に係る液化ガスの製造装置の第2構成例を示す概略図
図5】本発明に係る液化ガスの製造装置の第3構成例を示す概略図
図6】本発明に係る液化ガスの製造装置の第4構成例を示す概略図
図7】従来技術に係るガス液化プロセスの構成例を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0018】
<低温圧縮ガスの製造装置の構成>
本発明に係る低温圧縮ガスの製造装置(以下「本装置」という)は、熱媒体が断熱圧縮される第1圧縮手段と、断熱圧縮された熱媒体が定圧加熱される第1熱交換器と、加熱された熱媒体が断熱膨張される膨張手段と、断熱膨張された熱媒体が定圧冷却される第2熱交換器と、第2熱交換器から導出された熱媒体が第1圧縮手段に導かれる流路と、を備えたランキンサイクル(RC)を有し、膨張手段とリンクされた少なくとも1つの第2圧縮手段を有するとともに、低温液化状態の液化天然ガス(LNG)が、第2熱交換器に導入され、その寒冷を熱媒体に伝達して導出され、給送された原料ガスが、第1熱交換器に導入され、熱媒体によって冷却された後、第2圧縮手段に導入され、低温の圧縮されたガスとして取り出されることを特徴とする。以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本実施形態では、液化するガスとして窒素ガスの場合を例示することがあるが、本発明は、他のガス、例えば空気やアルゴン等の液化にも同様にして適用することができる。また、各部の温度、圧力、流量などの条件は、ガスの種類や流量等、その他の条件に応じて適宜変更することができる。
【0019】
〔本装置の基本構成〕
本装置の基本構成の概要を、図1に例示する。本装置は、熱媒体が循環するランキンサイクル(RC)を有する。熱媒体は、順に、第1圧縮手段である圧縮ポンプ1によって断熱圧縮され、第1熱交換器2において原料ガスによって定圧冷却され、膨張手段であるタービン3によって断熱膨張され、第2熱交換器4においてLNGの寒冷によって定圧冷却され、再度圧縮ポンプ1に吸引される循環系を形成する。こうした構成によって、LNGの寒冷を安定的にかつ効率的に原料ガスに伝達することができる。ここで、「熱媒体」としては、炭化水素や液化アンモニア,液化塩素あるいは水等種々の物質を挙げることができる。また、常温常圧下において液体のみならず気体を含み、特に熱容量の大きい気体、例えば二酸化炭素等を適用することができる。炭化水素としてメタン,エタン,プロパンあるいはブタン等単体で使用する場合以外に、複数の化合物の混合物を使用することによって、最適な沸点あるいは熱容量の設計を行うことができる。特に、後述するような複数のRCを用いた場合には、例えば1のRCに「メタン+エタン+プロパン」の混合物を用い、他のRCに「エタン+プロパン+ブタン」の混合物を用いることによって、LNGの冷熱を複数の温度帯で熱伝達させることができる。
【0020】
所定流量のLNGが第2熱交換器4に供給され、所定量の寒冷が確保されるとともに、LNGの供給流量を制御することによって、原料ガスに伝達される寒冷を容易に調整することができる。所望流量の原料ガスが給送ポンプ5によって第1熱交換器2に供給され、所定量の寒冷が伝達され所望の温度に冷却されるとともに、さらに第2圧縮手段であるコンプレッサー6に導入され、所望圧力に圧縮され、所望の低温圧縮ガスとして取り出される。こうした構成によって、安定的に所望の低温圧縮ガスを製造することができる。また、エネルギー効率について、LNGの寒冷と原料ガスを直接熱交換する従前の装置に比較して、大幅に向上させることができる。
【0021】
以上のように、低温圧縮ガスは、ランキンサイクル(RC)が形成された本装置において、低温液化状態の液化天然ガスが、第2熱交換器4に導入され、その寒冷を熱媒体に伝達し、給送ポンプ5によって給送された原料ガスが、第1熱交換器2に導入され、熱媒体によって冷却された後、膨張手段(タービン)3とリンクされた少なくとも1つの第2圧縮手段(コンプレッサー)6に導入され、低温の圧縮されたガスとして取り出される。
【0022】
具体的には、例えばRCの熱媒体としてエタンとプロパンが等モル配合された主成分からなる混合物を用い、約6MPaのLNGが第2熱交換器4に導入され、原料ガスとして窒素ガスが給送された場合を例に挙げると、約0.05MPaで第2熱交換器4に導入された熱媒体が約−115℃に冷却されて導出され、さらに圧縮ポンプ1によって約1.8MPaに断熱圧縮され、第1熱交換器2に導入され、原料ガスと熱交換され加熱されて導出され、タービン3によって断熱膨張され、約−45℃,約0.05MPaで第2熱交換器4に導入される。約2.1MPaで第1熱交換器2に導入された窒素ガスは、約−90℃に冷却されて導出され、タービン3とリンクしたコンプレッサー6によって、約5MPaに圧縮され、約−90℃,約5MPaの低温圧縮窒素ガスとして取り出される。
【0023】
〔実証結果について〕
本装置を用いて低温圧縮窒素ガスを作製した場合を、従前の方法を用いて作製した場合と比較して、そのエネルギー効率を実証した。以下の通り、本装置を用いることによって、約50%以上の向上を図ることができた。
(i)従前の方法を用いて低温圧縮窒素ガスを作製した場合
LNGが1ton/hで供給され、コンプレッサーが15.7kWhの電力で作動した場合を想定すると、例えば677Nm/hの窒素ガスが、20barから37barまで加圧することができる。この際、コンプレッサーの入り口温度は40℃、出口温度は111℃となる。
(ii)本方法を用いて低温圧縮窒素ガスを作製した場合
同様の低温圧縮窒素ガスを得るため、つまり677Nm/hの窒素ガスを20barから37barまで加圧するのに必要なLNGは、0.485ton/hで十分であった。
(iii)両者を対比すると、下式1から
(1−0.485)×15.7=8.09[kWh]
8.09/15.7=0.52 ・・式1
電力として約8kWh、つまり約52%を低減することができた。
【0024】
<本装置を用いた液化ガスの製造装置>
本装置を用いた液化ガスの製造装置(以下「本液化装置」という)の基本構成例(第1構成例)の概要を、図2に示す。以下、本装置と共通する要素は、説明を省略することがあるとともに、共通の名称および符号で示す。本液化装置は、本装置と同様のランキンサイクル(RC)を有するとともに、第2圧縮手段6から導出された低温圧縮ガスが第1熱交換器2または第2熱交換器4に導かれる流路(第1構成例では第2熱交換器4に導入)と、第1熱交換器2または第2熱交換器4から導出(第1構成例では第2熱交換器4から導出)された液化成分を含む低温圧縮ガスの圧力調整を行う調整弁7と、調整弁7を介して低温圧縮ガスが導入され、液化成分が気液分離される気液分離部8と、を有し、気液分離部8から導出された低温の液化成分を取り出すことを特徴とする。上記本装置における機能に加え、供給させるLNGの温度と原料ガスの沸点との差異による熱伝達の困難性を、RCを活用することによって解消することができる。つまり、LNGの寒冷を、さらに圧縮された低温ガスに伝達することによって、効率よく該低温ガスを液化される寒冷として利用することができる。こうした構成によって、液化ガスを安定的にかつ効率的に作製することができる。
【0025】
つまり、第2圧縮手段6から導出された低温圧縮ガスが、第2熱交換器4において冷却され、調整弁7によって圧力調整され、気液分離部8において液化成分が気液分離され、気液分離部8から低温の液化成分として取り出される。このとき、原料ガスが、窒素や酸素よりも比較的沸点が高い、例えばエタンやプロパン等の場合には、図3に例示するように、低温圧縮ガスを第1熱交換器2に導入することによって液化することができる。LNGの寒冷との温度差が小さく、第1熱交換器2から導出され、圧縮された状態で再度に第1熱交換器2に導入することによって、液化に十分なLNGの寒冷を、熱媒体を介して伝達することができるためである。また、LNGの圧力>原料ガスの圧力(例えば約50bar)の場合、LNGが原料ガスサイドにリークする可能性があり、こうした構成によって、そのリスクを回避することができる。
【0026】
上記本装置における具体例と同様、例えばRCの熱媒体としてエタンとプロパンが等モル配合された主成分からなる混合物を用い、約6MPaのLNGが第2熱交換器4に導入され、原料ガスとして窒素ガスが給送された場合を具体例に挙げると、約2.1MPaで第1熱交換器2に導入された原料ガスは、コンプレッサー6を介して約−90℃,約5MPaの低温圧縮窒素ガスとなる。この低温圧縮窒素ガスは、さらに第2熱交換器4に導入されて約−153℃に冷却され、調整弁7を介して膨張して約−179℃に冷却され、液化成分を主とする液化窒素ガスが気液分離部8に導入される。気液分離部8において気液分離された液体成分は、約−179℃,約0.05MPaの液化窒素ガスとして取り出される。
【0027】
〔実証結果について〕
上記本装置における実証試験と同様、本液化装置を用いて液化窒素ガスを作製した場合を、従前の方法を用いて液化窒素ガスを作製した場合と比較して、そのエネルギー効率を実証した。以下の通り、本装置を用いることによって、約25%以上の向上を図ることができた。
(i)従前の方法を用いて液化窒素ガスを作製した場合
LNGが1ton/hで供給され、約0.05MPaの液化窒素ガスを作製するのに、0.28kWh/Nmのエネルギーを必要とした。
(ii)本方法を用いて液化窒素ガスを作製した場合
上記本液化装置における具体例の条件によって、約0.05MPaの液化窒素ガスを作製するのに、0.21kWh/Nmのエネルギーで十分であった。
(iii)両者を対比すると、下式1から
(0.28−0.21)/0.28=0.25 ・・式1
電力として約25%を低減することができた。
【0028】
〔本液化装置の他の構成例(第2構成例)〕
本液化装置の他の1の構成例(第2構成例)の概要を、図4に示す。第2構成例に係る本液化装置は、第1構成例と同様、ランキンサイクル(RC)と、調整弁7と、気液分離部8と、を有するとともに、第3熱交換器9が、第1熱交換器2から導出された熱媒体が膨張手段(タービン)3に導かれる流路に設けられ、第3熱交換器9において、該熱媒体と、第2熱交換器4から導出された液化天然ガスと、第2圧縮手段(コンプレッサー)6から導出された低温圧縮ガスと、が熱交換されることを特徴とする。第1構成例における機能に加え、さらに効率よくLNGの寒冷を利用することができ、エネルギー効率が高い液化ガスの作製が可能となる。なお、第1構成例同様、低温圧縮ガスを第1熱交換器2に導入することによって液化することができる構成を適用することができる。
【0029】
つまり、第3熱交換器9において、LNGの残存する寒冷を、第1熱交換器2において加熱された熱媒体と、圧縮され熱量が増加した低温圧縮ガスの冷却に利用することによって、さらに効率よくLNGの寒冷を利用することができる。また、ここでは、第3熱交換器9として、これに冷却水を導入した構成を例示する。熱容量の大きな冷熱による熱交換ができ、熱媒体,液化天然ガスおよび低温圧縮ガスに対して迅速な温熱の移動を図ることができる。起動時や停止時の過渡的な変動等に対しても、熱媒体,液化天然ガスおよび低温圧縮ガスに対する予備的あるいは補助的な温熱の移動を図ることができ、LNGの寒冷の安定的な利用および安定したエネルギー効率を確保することができる。
【0030】
〔本液化装置の第3構成例〕
本液化装置の第3構成例の概要を、図5に示す。第3構成例に係る本液化装置は、第2構成例に加え、原料ガスが第1熱交換器2に導かれる流路5に、第1昇圧手段(給送ポンプ)5,第1分岐流路S1,第2昇圧手段10および第2分岐流路S2が設けられ、気液分離部8から導出された液化成分が導かれる流路8に、第4熱交換器11および第3分岐流路S3が設けられるとともに、気液分離部8から導出された気体成分が、第2熱交換器4を介して第1分岐流路S1に導かれる流路11と、第3分岐流路S3で分岐された液化成分が、第4熱交換器11および第2熱交換器4を介して第2分岐流路S2に導かれる流路12と、を有し、気液分離部8から導出された液化成分が、第4熱交換器11を介して取り出されることを特徴とする。原料ガス給送手段として、複数段の圧縮機を設けるとともに、取り出し直前の安定した条件の液化ガスを戻し、その原料ガスと混合することによって、安定的かつエネルギー効率のよい液化ガスの供給を可能とした。
【0031】
第3構成例においては、さらに、第3分岐流路S3に第2調整弁12が設けられ、第4熱交換器11から導出された液化ガスの一部が第2調整弁12を介して第4熱交換器11に再度導入される構成を例示する。低圧ではあるが、第2調整弁12によって低温の液化ガスを断熱膨張させることによって、より低温の液化ガスが作製され、第4熱交換器11における寒冷として機能させることができる。
【0032】
〔検証結果について〕
第3構成例に係る液化装置を用いて液化窒素ガスを作製した場合の、各流路におけるガスあるいは液の温度および圧力を検証した。検証結果を表1に例示する。
【0033】
【表1】
【0034】
〔本液化装置の第4構成例〕
本液化装置の第4構成例の概要を、図6に示す。第4構成例に係る本液化装置は、第3構成例に加え、ランキンサイクルが、沸点あるいは熱容量の異なる複数の熱媒体を用いた複数のランキンサイクルで構成されるとともに、第1熱交換器2から導出された原料ガスが、低い沸点あるいは小さな熱容量の熱媒体を用いた1のランキンサイクルRCaに係る膨張手段3aとリンクされた第2圧縮手段6aによって圧縮されて第1熱交換器2に導入された後、第1熱交換器2から導出された原料ガスが、高い沸点あるいはおきな熱容量の熱媒体を用いた他のランキンサイクルRCbに係る膨張手段3bとリンクされた第2圧縮手段6bによって圧縮されて第1熱交換器2に導入されることを特徴とする。LNGの寒冷の伝達を担う熱媒体について沸点あるいは熱容量の異なる複数の熱媒体を用いて複数のランキンサイクルで構成し、液化ガスの供給量や供給圧力等の変動要素を、各ランキンサイクルにおける熱媒体の流量や圧力といった制御が容易な制御要素を調整することによって、安定的かつエネルギー効率のよい液化ガスの供給を可能とした。
【0035】
ここでいう、沸点あるいは熱容量の異なる複数の熱媒体とは、物質そのものが異なる場合、混合物や化合物を構成する物質が異なる場合のみならず、複数の物質の混合物の組成が異なる場合を含む。例えば、1つの熱媒体をメタン20%とエタン40%とプロパン40%からなる混合物とし、他の熱媒体をメタン2%とエタン49%とプロパン49%からなる混合物とすることによって、異なる特性を有する2つのRCを構成することができ、その組合せによって、種々の変動要素にあった寒冷や冷熱の移動を図るとともに、膨張手段とリンクした圧縮手段に対する効率的なエネルギーの伝達を行うことができる。
【0036】
また、成分の異なる熱媒体を用いた場合には、さらに広い範囲の熱伝達機能を形成することができる。つまり、上記のように、LNGの寒冷の温度と原料ガスの沸点あるいは圧縮ガスの温度との関係から、LNGの寒冷を利用できる温度帯に制限があり、第4構成例のように、1のランキンシステムRCaと他のランキンシステムRCbを直列に配列することによって、複数の温度帯においてLNGの寒冷を利用することが可能となる。例えば1のランキンシステムRCaに「メタン+エタン+プロパン」の混合物を用い、他のランキンシステムRCbに「エタン+プロパン+ブタン」の混合物を用いることによって、LNGの冷熱を複数の温度帯で熱伝達させることができる。第4構成例のように、1のランキンシステムRCaと他のランキンシステムRCbを直列に配列し、1のランキンシステムRCaによって例えば−150〜−100℃の範囲のLNGの冷熱を利用し、他のランキンシステムRCbにおいて例えば−150〜−100℃の範囲のLNGの冷熱を利用することによって、効率的にLNGの冷熱を利用することができる。また、これを窒素ガスの圧縮エネルギーとして利用した場合には、液体窒素製造量当たりの必要エネルギー(消費電力)を大幅に低減することができる。
【0037】
以上、各構成例について、各説明図を基に説明したが、本装置あるいは本液化装置は、これらに限定されず、その構成要素の組合せあるいは関連する公知の構成要素との組合せを含む広い概念で構成されるものである。
【符号の説明】
【0038】
1 第1圧縮手段(圧縮ポンプ)
2 第1熱交換器
3 膨張手段(タービン)
4 第2熱交換器
5 給送ポンプ
6 第2圧縮手段(コンプレッサー)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7