(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施例について説明する。
【0010】
図1は、本発明の実施例に係る建設機械用油圧システムが搭載されるショベルの構成例を示す図である。
図1において、建設機械としてのショベル1は、クローラ式の下部走行体2の上に、旋回機構を介して、上部旋回体3をX軸周りに旋回自在に搭載している。
【0011】
また、上部旋回体3は、前方中央部に掘削アタッチメントを備える。掘削アタッチメントは、ブーム4、アーム5、及びバケット6を含み、且つ、油圧アクチュエータとしてのブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9を含む。
【0012】
図2は、本発明の実施例に係る建設機械用油圧システムの回路図である。建設機械用油圧システム100は、エンジン、電動モータ等の駆動源によって駆動される油圧ポンプ10L、10R(以下では、集合的に「油圧ポンプ10」と称する場合もある。左右一対で構成される他の構成要素についても同様である。)を有する。油圧ポンプ10Lは、一回転当たりの吐出量(cc/rev)を可変とする可変容量型ポンプである。また、油圧ポンプ10Lは、流量制御弁11L、12L、13L、及び15Lを連通するセンターバイパス管路30Lを経て作動油タンク22まで作動油を循環させる。同様に、油圧ポンプ10Rは、流量制御弁12R、13R、14R、及び15Rを連通するセンターバイパス管路30Rを経て作動油タンク22まで作動油を循環させる。
【0013】
流量制御弁11Lは、油圧ポンプ10Lが吐出する作動油を走行用油圧モータ42Lに供給するために作動油の流れを切り換えるスプール弁である。
【0014】
流量制御弁12Lは、油圧ポンプ10Lが吐出する作動油を旋回用油圧モータ44に供給するために作動油の流れを切り換えるスプール弁である。流量制御弁12Rは、油圧ポンプ10Rが吐出する作動油を走行用油圧モータ42Rに供給するために作動油の流れを切り換えるスプール弁である。
【0015】
流量制御弁13L、13Rはそれぞれ、油圧ポンプ10L、10Rが吐出する作動油をブームシリンダ7へ供給し、また、ブームシリンダ7内の作動油を作動油タンク22へ排出するために作動油の流れを切り換えるスプール弁である。流量制御弁13Rは、操作装置としてのブーム操作レバーが操作された場合に、油圧ポンプ10Rが吐出する作動油をブームシリンダ7に供給するスプール弁である。また、流量制御弁13Lは、ブーム操作レバーが所定のレバー操作量以上で操作された場合に、油圧ポンプ10Lが吐出する作動油を追加的にブームシリンダ7に供給するスプール弁である。
【0016】
流量制御弁14Rは、油圧ポンプ10Rが吐出する作動油をバケットシリンダ9へ供給し、また、バケットシリンダ9内の作動油を作動油タンク22へ排出するためのスプール弁である。
【0017】
また、流量制御弁15L、15Rはそれぞれ、油圧ポンプ10L、10Rが吐出する作動油をアームシリンダ8へ供給し、また、アームシリンダ8内の作動油を作動油タンク22へ排出するために作動油の流れを切り換えるスプール弁である。流量制御弁15Lは、操作装置としてのアーム操作レバーが操作された場合に、油圧ポンプ10Lが吐出する作動油をアームシリンダ8に供給するスプール弁である。また、流量制御弁15Rは、アーム操作レバーが所定のレバー操作量以上で操作された場合に、油圧ポンプ10Rが吐出する作動油を追加的にアームシリンダ8に供給するスプール弁である。
【0018】
センターバイパス管路30L、30Rは、それぞれ、最も下流にある流量制御弁15L、15Rと作動油タンク22との間にネガコン絞り20L、20Rを備える。ネガコン絞り20L、20Rは、油圧ポンプ10L、10Rが吐出する作動油の流れを制限することにより、ネガコン絞り20L、20Rの上流でネガコン圧を発生させる。
【0019】
圧力センサS1、S2は、ネガコン絞り20L、20Rの上流で発生したネガコン圧を検出し、検出した値を電気的なネガコン圧信号としてコントローラ54に対して出力する。圧力センサS3、S4は、油圧ポンプ10L、10Rの吐出圧を検出し、検出した値を電気的な吐出圧信号としてコントローラ54に対して出力する。
【0020】
コントローラ54は、油圧システム100を制御する機能要素であり、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、NVRAM(Non Volatile RAM)等を備えたコンピュータである。
【0021】
本実施例では、コントローラ54は、アーム操作レバー、ブーム操作レバー等の各種操作装置を操作した場合に発生するパイロット圧を測定するレバー操作量検出部としてのパイロット圧センサの出力に基づいて各種操作装置のレバー操作量を電気的に検出する。但し、レバー操作量検出部は、各種操作レバーの傾きを検出する傾きセンサ等、パイロット圧センサ以外のセンサを用いて構成されてもよい。
【0022】
また、コントローラ54は、後述の位相補償部540等の各種機能要素に対応するプログラムをROMに記憶しながら、各種機能要素に対応する処理をCPUに実行させる。
【0023】
電磁弁55L、55Rは、コントローラ54が出力する指令に応じて動作する弁である。本実施例では、電磁弁55L、55Rは、コントローラ54が出力する電流指令に応じてコントロールポンプ52からネガコン制御部61L、61Rの受圧室612L、612Rに導入される制御圧を調整する電磁減圧弁である。
【0024】
ポンプレギュレータ40Lは、油圧ポンプ10Lの吐出量を制御する駆動機構であり、主に、傾転アクチュエータ41L、スプール弁機構60L、ネガコン制御部61L、及び、フィードバックレバー62Lを含む。
【0025】
傾転アクチュエータ41Lは、油圧ポンプ10Lのポンプ容量を変化させるための斜板(ヨーク)を傾転駆動する機能要素である。具体的には、傾転アクチュエータ41Lは、一端に大径受圧部PR1を有すると共に他端に小径受圧部PR2を有する作動ピストン410Lと、大径受圧部PR1に対応する受圧室411Lと、小径受圧部PR2に対応する受圧室412Lとを含む。受圧室411Lにはスプール弁600Lを介して油圧ポンプ10Lの吐出圧が導入され、或いは、受圧室411Lからスプール弁600Lを介して作動油が排出される。また、受圧室412Lには油圧ポンプ10Lの吐出圧が導入される。作動ピストン410Lは、受圧室411Lに作動油が導入されて受圧室412L側に変位すると油圧ポンプ10Lの斜板(ヨーク)を小流量側に傾転駆動する。また、作動ピストン410Lは、受圧室411Lから作動油が排出されて受圧室411L側に変位すると油圧ポンプ10Lの斜板(ヨーク)を大流量側に傾転駆動する。
【0026】
スプール弁機構60Lは、傾転アクチュエータ41Lに作動油の給排を行うための機能要素であり、スプール弁600L及びばね601Lを含む。スプール弁600Lは、油圧ポンプ10Lの吐出圧が導入される第一ポート、作動油タンク22に連通する第二ポート、及び受圧室411Lに連通する出力ポートを有する。また、スプール弁600Lは、第一ポートと出力ポートとを連通する第一位置、第二ポートと出力ポートとを連通する第二位置、又は第一ポート及び第二ポートの何れをも出力ポートに連通しない中立位置に選択的に切り換えられる。ばね601Lは、スプール弁600Lを第二位置に変位させる方向に作用する力を付与する。
【0027】
ネガコン制御部61Lは、ネガコン制御時にスプール弁600Lを変位させるための機能要素である。具体的には、ネガコン制御部61Lは、サーボピストン610L、ばね611L、及び受圧室612Lを含む。サーボピストン610Lは、電磁弁55Lが生成する制御圧に応じて、スプール弁600Lを第一位置に変位させる方向に移動する。ばね611Lは、電磁弁55Lが生成する制御圧に抗して、サーボピストン610Lを復帰させる方向に作用する力を付与する。受圧室612Lは、サーボピストン610Lに設けられた受圧部PR3に対応し、コントロールポンプ52から電磁弁55Lを通じて作動油が導入される。
【0028】
フィードバックレバー62Lは、傾転アクチュエータ41Lの変位をスプール弁600Lにフィードバックするためのリンク機構である。具体的には、フィードバックレバー62Lは、作動ピストン410Lが移動したときにその移動量を物理的にスプール弁600Lにフィードバックしてスプール弁600Lを中立位置に復帰させるようにする。
【0029】
なお、上述の説明は、ポンプレギュレータ40Lに関するものであるが、ポンプレギュレータ40Rに対しても同様に適用される。
【0030】
以上の構成により、ポンプレギュレータ40L、40Rは、ネガコン制御部61L、61Rに導入される制御圧が大きいほど油圧ポンプ10L、10Rの吐出量を減少させる。また、ポンプレギュレータ40L、40Rは、ネガコン制御部61L、61Rに導入される制御圧が小さいほど油圧ポンプ10L、10Rの吐出量を増大させる。
【0031】
なお、
図2は、ショベル1における油圧アクチュエータが何れも利用されていない状態を示す。以下、この状態を「待機モード」と称する。待機モードでは、油圧ポンプ10L、10Rが吐出する作動油は、センターバイパス管路30L、30Rを通ってネガコン絞り20L、20Rに至り、ネガコン絞り20L、20Rの上流で発生するネガコン圧を増大させる。
【0032】
その結果、ポンプレギュレータ40L、40Rは、ネガコン圧信号に基づいてコントローラ54が生成する指令に応じて、スプール弁600L、600Rを第一位置に変位させる。スプール弁600L、600Rは、傾転アクチュエータ41L、41Rを駆動して、油圧ポンプ10L、10Rの吐出量を減少させる。その結果、油圧ポンプ10L、10Rが吐出する作動油がセンターバイパス管路30L、30Rを通過する際の圧力損失(ポンピングロス)が抑制される。
【0033】
一方、ショベル1における何れかの油圧アクチュエータが操作された場合、油圧ポンプ10L、10Rが吐出する作動油は、その油圧アクチュエータに対応する流量制御弁を介してその油圧アクチュエータに流れ込む。そのため、ネガティブコントロール絞り20L、20Rに至る量は減少或いは消滅し、ネガティブコントロール絞り20L、20Rの上流で発生するネガコン圧は低下する。
【0034】
その結果、ポンプレギュレータ40L、40Rは、油圧ポンプ10L、10Rの吐出量を増大させ、各油圧アクチュエータに十分な作動油を循環させ、各アクチュエータの駆動を確かなものとする。
【0035】
上述のような構成により、油圧システム100は、待機モードにおいては、無駄なエネルギー消費を抑制できる。油圧ポンプ10L、10Rの吐出する作動油がセンターバイパス管路30L、30Rで発生させるポンピングロスを抑制できるためである。また、油圧システム100は、各種油圧アクチュエータを作動させる場合には、油圧ポンプ10L、10Rから必要十分な作動油を各種油圧アクチュエータに供給できる。
【0036】
なお、
図2は、図の明瞭化のため、油圧ポンプ10L、10Rの吸収馬力が駆動源の出力馬力を超えることがないよう油圧ポンプ10L、10Rの吐出量を吐出圧に応じて制御する全馬力制御に関する構成を省略している。
【0037】
次に、
図3を参照しながら、ネガコン圧(Pn)に応じて油圧アクチュエータの動作速度(v)が決まるまでの制御(以下、「油圧アクチュエータ速度制御」とする。)の流れについて説明する。なお、
図3は、油圧アクチュエータ速度制御の流れを示すブロック線図であり、図中の破線で囲まれた部分がネガコン制御に関する部分を表す。また、
図3の油圧アクチュエータ速度制御は、センターバイパス管路30L上のネガコン絞り20Lで発生するネガコン圧に関するものであるが、センターバイパス管路30R上のネガコン絞り20Rで発生するネガコン圧についても同様に適用される。
【0038】
最初に、ネガコン圧センサS1で検出されたネガコン圧(Pn)を表す電気信号としてのネガコン圧信号は、コントローラ54に入力される。コントローラ54は、電磁弁55Lに対する電流指令(Is)をネガコン圧(Pn)に基づいて決定する。電磁弁55Lは、電流指令(Is)に応じた制御圧(Ps)をネガコン制御部61Lの受圧室612Lで発生させる。なお、
図3では、電流指令(Is)の決定に関するブロックが省略されている。
【0039】
その後、ネガコン制御部61Lは、スプール弁機構60L及び傾転アクチュエータ41Lを介して油圧ポンプ10Lの吐出量(Qd)を制御圧(Ps)に応じた量に調整する。
図3は、制御圧(Ps)が1次遅れを表す演算要素E1を介して油圧ポンプ10Lの吐出量(Qd)に変換される様子を表す。
【0040】
その後、油圧ポンプ10Lの吐出量(Qd)の変化は、センターバイパス管路30L内の作動油の体積変化に起因する圧力を生じさせる。
図3は、油圧ポンプ10Lの吐出量(Qd)が圧縮ボリュームを表す演算要素E2を介して吐出圧(Pd)に変換される様子を表す。なお、演算要素E2において、K、V、sはそれぞれ、体積弾性率、体積、ラプラス演算子を表す。
【0041】
その後、ポンプ10Lが吐出する吐出圧(Pd)を有する作動油は、操作対象の油圧アクチュエータに対応する流量制御弁のP−T絞りを通る。
図3は、油圧ポンプ10Lの吐出圧(Pd)からネガコン圧(Pn')を差し引いた圧力が流量制御弁のP−T絞りを表す演算要素E3を介してブリード流量(Qb)に変換される様子を表す。なお、演算要素E3において、c、A、ρ、Δpはそれぞれ、流量係数、開口面積、密度、圧力変化を表す。この場合、油圧ポンプ10Lの吐出圧(Pd)はP−T絞りの上流側の圧力を表し、ネガコン圧(Pn')はP−T絞りの下流側の圧力を表す。また、ブリード流量(Qb)は、流量制御弁のP−T絞りを通過する作動油の流量を表す。
【0042】
また、流量制御弁の下流側にあるネガコン圧(Pn')を有する作動油は、ネガコン絞り20Lを通って作動油タンク22に排出される。
図3は、ネガコン圧(Pn')がネガコン絞り20Lを表す演算要素E4を介して排出流量(Qe)に変換される様子を表す。この場合、排出流量(Qe)は、ネガコン絞り20Lを通過する作動油の流量を表す。
【0043】
なお、ネガコン絞り20Lにおける流量(Qb−Qe)の変化は、作動油の体積変化に起因する圧力を生じさせる。
図3は、流量(Qb−Qe)が圧縮ボリュームを表す演算要素E5を介してネガコン圧(Pn')に変換される様子を表す。なお、ここで得られたネガコン圧(Pn')は、コントローラ54にフィードバックされる。ネガコン圧センサS1で検出されたネガコン圧(Pn)と、コントローラ54が電磁弁55Lに対して出力する電流指令(Is)に応じて演算されるネガコン圧(Pn')が等しくなるようにして制御を安定化させるためである。
【0044】
その後、センターバイパス管路30Lを流れる作動油の流量は、一部が油圧アクチュエータに流れることによって変化する。そのため、センターバイパス管路30Lを流れる作動油の流量(Qd−Qb)の変化は、作動油の体積変化に起因する圧力を生じさせる。
図3は、流量(Qd−Qb)が圧縮ボリュームを表す演算要素E2を介して吐出圧(Pd)に変換される様子を表す。
【0045】
また、ポンプ10Lが吐出する吐出圧(Pd)を有する作動油は、操作対象の油圧アクチュエータに対応する流量制御弁のP−C絞りを通る。
図3は、油圧ポンプ10Lの吐出圧(Pd)から油圧アクチュエータ圧(Pact)を差し引いた圧力が流量制御弁のP−C絞りを表す演算要素E6を介して油圧アクチュエータ流量(Qact)に変換される様子を表す。この場合、油圧ポンプ10Lの吐出圧(Pd)はP−C絞りの上流側の圧力を表し、油圧アクチュエータ圧(Pact)はP−C絞りの下流側の圧力を表す。また、油圧アクチュエータ流量(Qact)は、流量制御弁のP−C絞りを通過する作動油の流量を表す。なお、油圧アクチュエータ流量(Qact)は、演算要素E2にフィードバックされる。油圧ポンプ10Lの吐出圧(Pd)は、油圧ポンプ10Lの吐出量(Qd)からブリード流量(Qb)と油圧アクチュエータ流量(Qact)とを差し引いた流量の作動油の圧縮によって生成されるためである。
【0046】
その後、油圧アクチュエータ流量(Qact)の変化は、油圧アクチュエータ内の作動油の体積変化に起因する圧力を生じさせ、さらに、油圧アクチュエータを動かす力を発生させる。
図3は、油圧アクチュエータ流量(Qact)が圧縮ボリュームを表す演算要素E7を介して油圧アクチュエータ圧(Pact)に変換され、さらに、油圧アクチュエータの受圧面積を表す演算要素E8を介して力に変換される様子を表す。
【0047】
その後、油圧アクチュエータで発生させた力と外力(Fe)との合力に応じて油圧アクチュエータの動きが決定される。
図3は、その合力が演算要素E9を介して油圧アクチュエータの動作速度(v)に変換される様子を表す。なお、演算要素E9において、M、sはそれぞれ、質量、ラプラス演算子を表す。
【0048】
また、演算要素E7が出力する油圧アクチュエータ圧(Pact)は、演算要素E6にフィードバックされる。油圧アクチュエータ流量(Qact)は、油圧ポンプ10Lの吐出圧(Pd)と油圧アクチュエータ圧(Pact)との間の差圧によって生成されるためである。
【0049】
同様に、演算要素E9が出力する油圧アクチュエータの動作速度(v)は、油圧アクチュエータの受圧面積を表す演算要素E10を介して油圧アクチュエータ流量(Qact')に変換された上で、演算要素E7にフィードバックされる。
【0050】
以上、油圧アクチュエータ速度制御の流れを説明したが、ここで再び、ブリード流量(Qb)及び油圧アクチュエータ流量(Qact)の詳細について説明する。
【0051】
図4は、
図2と同じ回路図であり、図中の太丸RAは、油圧ポンプ10Lに関するブリードラインと油圧アクチュエータラインとの分流ポイントを表す。また、図中の太い実線は、油圧ポンプ10Lに関するブリードラインを表し、図中の太い点線は、油圧ポンプ10Lに関する油圧アクチュエータラインを表す。
【0052】
上述の通り、ブリード流量(Qb)は、流量制御弁のP−T絞りを通過する作動油の流量を表し、本実施例では、ブリードラインを流れる作動油の流量を表す。
【0053】
また、油圧アクチュエータ流量(Qact)は、流量制御弁のP−C絞りを通過する作動油の流量を表し、本実施例では、油圧アクチュエータラインを流れる作動油の流量を表す。
【0054】
この場合、
図3の演算要素E3における開口面積Aは、直列に接続された流量制御弁11L、12L、13L、15LのそれぞれにおけるP−T絞りの等価開口面積A
eに相当する。等価開口面積A
eは、以下の式(1)で表される。なお、A
iは、各流量制御弁のP−T絞りの開口面積を表し、nは、流量制御弁の数(本実施例では4つ)を表す。
【0055】
【数1】
流量係数を考慮した場合、
図3の演算要素E3におけるcAは、cA
eに相当し、以下の式(2)で表される。なお、C
iは、各流量制御弁の流量係数を表す。
【0056】
【数2】
なお、式(1)及び式(2)で表す関係は、
図3の演算要素E3、すなわち、ブリードラインを構成する各流量制御弁のP−T絞りに関するものである。しかしながら、式(1)及び式(2)で表す関係は、
図3の演算要素E6、すなわち、油圧アクチュエータラインを構成する各流量制御弁のP−C絞りに関しても同様に適用される。
【0057】
次に、
図5及び
図6を参照しながら、電気的ネガコン制御と油圧的ネガコン制御との違いについて説明する。なお、
図5は、ネガコン制御の流れを示すブロック線図であり、
図6は、
図5のネガコン制御における伝達関数の周波数特性を示すボード線図である。
【0058】
図5(A)は、
図3の破線で囲まれたネガコン制御に関する部分に対応するブロック線図であり、電気的ネガコン制御の流れを示す。また、
図5(B)は、比較対象として、油圧的ネガコン制御の流れを示す。なお、
図5では、説明の明瞭化のため、ネガコン圧の動特性を無視し、演算要素E4を省略している。
【0059】
電気的ネガコン制御では、
図5(A)に示すように、ネガコン圧センサS1で検出されたネガコン圧(Pn)がコントローラ54に入力されると、コントローラ54は、電磁弁55Lに対する電流指令(Is)を生成する。電流指令(Is)は、電流アンプ53により増幅されて電磁弁55Lに入力される。電磁弁55Lは、電流指令(Is)に応じた制御圧(Ps)を用いてポンプレギュレータ40Lを制御し、油圧ポンプ10Lの吐出量(Qd)を制御する。
【0060】
また、吐出量(Qd)は、油圧アクチュエータ流量(Qact)が差し引かれた後、演算要素E2を介して吐出圧(Pd)に変換される。そして、吐出圧(Pd)は、演算要素E3を介してブリード流量(Qb)に変換され、さらに、演算要素E5を介してネガコン圧(Pn')に変換された後、コントローラ54にフィードバックされる。
【0061】
一方、油圧的ネガコン制御では、
図5(B)に示すように、ネガコン圧(Pn)が圧力のまま制御圧としてポンプレギュレータ40Lに供給される。すなわち、ポンプレギュレータ40Lは、ネガコン圧に応じて油圧ポンプ10Lの吐出量(Qd)を受動的に制御する。そのため、油圧的ネガコン制御では、電気的ネガコン制御におけるコントローラ54、電流アンプ53、及び電磁弁55Lが省略されている。
【0062】
ここで、
図6のボード線図を参照する。
図6(A)及び
図6(B)のボード線図は何れも、上段にゲイン線図を配し、下段に位相線図を配する。
【0063】
図6(A)は、電気的ネガコン制御における周波数に対するゲイン(振幅比)及び位相の推移を実線C1で表し、油圧的ネガコン制御における周波数に対するゲイン(振幅比)及び位相の推移を破線C2で表す。
【0064】
また、
図6(B)は、実線C1の推移に加え、電気的ネガコン制御における周波数に対するゲイン(振幅比)を2倍にしたときの推移を一点鎖線C3で表し、5倍にしたときの推移を二点鎖線C4で表す。なお、本実施例では、ゲインの増加は、コントローラ54が電磁弁55Lに対して出力する電流指令(Is)の値を増大させることによって実現される。
【0065】
図6(A)に示すように、電気的ネガコン制御におけるゲイン余裕は、油圧的ネガコン制御におけるゲイン余裕よりも小さく、制御安定性が低下していることがわかる。すなわち、油圧的ネガコン制御に比べ、電気的ネガコン制御ではハンチングが発生し易いことがわかる。これは、電気的ネガコン制御におけるコントローラ、電磁弁等の存在による応答性の低下に起因する。
【0066】
また、
図6(B)に示すように、電気的ネガコン制御におけるゲイン余裕は、ゲインを増加させるにつれて低下していくことがわかる。すなわち、ゲインを増加させるにつれてハンチングが発生し易くなることがわかる。
【0067】
次に、
図7を参照しながら、電気的ネガコン制御を構成する各要素のゲイン(入出力比)について説明する。なお、
図7は、電気的ネガコン制御を構成する各要素の入力と出力の関係を示す図である。
【0068】
具体的には、
図7(A)は、ネガコン絞り20Lにおける、入力としての排出流量(Qe)と、出力としてのネガコン圧(Pn)との関係を示す。ネガコン絞り20Lを通過する作動油の流量である排出流量(Qe)とネガコン圧(Pn)との関係は、以下の式(3)又は式(4)で表される。なお、cは、流量係数を表し、Aは、ネガコン絞り20Lの開口面積を表し、ρは、作動油の密度を表す。
【0070】
【数4】
このように、ネガコン絞り20Lのゲイン(入出力比)は、2次曲線(非線形)となる。その結果、
図7(A)に示すように、ネガコン圧(Pn)が高い程、ゲイン(入出力比)も高くなる。
【0071】
また、
図7(B)は、コントローラ54における、入力としてのネガコン圧(Pn)と、出力としての電流指令(Is)との関係を示す。なお、コントローラ54の入力としてのネガコン圧(Pn)は、ネガコン圧センサS1が出力する電気信号であり、コントローラ54の出力としての電流指令(Is)は、電磁弁55Lに対して出力される電気信号である。
【0072】
また、
図7(C)は、電磁弁55Lにおける、入力としての電流指令(Is)と、出力としての制御圧(Ps)との関係を示す。なお、電磁弁55Lの入力としての電流指令(Is)は、コントローラ54が出力する電気信号であり、電磁弁55Lの出力としての制御圧(Ps)は、ネガコン制御部61Lの受圧室612Lで発生する圧力である。
【0073】
また、
図7(D)は、ポンプレギュレータ40Lを含む油圧ポンプ10Lにおける、入力としての制御圧(Ps)と、出力としての吐出量(Qd)との関係を示す。なお、油圧ポンプ10Lの入力としての制御圧(Ps)は、コントロールポンプ52が吐出する作動油を利用して電磁弁55Lが発生させる圧力である。
【0074】
また、コントローラ54、電磁弁55L、及び油圧ポンプ10Lにおけるゲイン(入出力比)は、
図7(A)に示すネガコン絞り20Lのゲイン(入出力比)と異なり、
図7(B)〜
図7(D)に示すように一定である。
【0075】
したがって、電気的ネガコン制御全体としてのゲイン(入出力比)は、ネガコン絞り20Lのゲイン(入出力比)を反映して非線形となり、ネガコン圧(Pn)が高い程、ゲイン(入出力比)も高くなる。なお、電気的ネガコン制御全体としての入力は、ネガコン絞り20Lを通過する作動油の流量である排出流量(Qe)であり、電気的ネガコン制御全体としての出力は、油圧ポンプ10Lの吐出量(Qd)である。
【0076】
電気的ネガコン制御は、ネガコン圧(Pn)が低ければ油圧ポンプ10Lの吐出量(Qd)を増大させ、ネガコン圧(Pn)が高ければ油圧ポンプ10Lの吐出量(Qd)を減少させる。また、ハンチングが生じ易いのは、油圧アクチュエータを低速で微操作する場合、すなわち、ネガコン圧(Pn)が高い場合であり、電気的ネガコン制御全体としてのゲイン(入出力比)が高い状態のときである。
【0077】
以上の関係から、位相補償部をコントローラ54内に内包させることによって、制御安定性の向上を図ることが考えられる。具体的には、ネガコン圧(Pn)が高く、油圧ポンプ10Lの吐出量(Qd)が少ない場合のネガコン制御全体としてのゲイン(入出力比)が低くなるようにして、制御安定性の向上を図ることが考えられる。しかしながら、ネガコン制御全体としてのゲイン(入出力比)が一律に低くなるように位相補償を行った場合には、ネガコン圧(Pn)が低い場合の速応性を確保できない。
【0078】
そこで、コントローラ54の位相補償部540は、ネガコン圧(Pn)に応じてコントローラ54における位相補償の設定を調整することによって、電気的ネガコン制御の安定性を向上させる。電気的ネガコン制御における他の構成要素と異なり、コントローラ54における位相補償は、自由な設定が可能なためである。
【0079】
ここで、
図8を参照して、コントローラ54の動作について説明する。なお、
図8は、コントローラ54の動作の流れを示すブロック線図である。
【0080】
図8に示すように、コントローラ54は、主に、参照テーブルTB1、TB2、TB3、及び位相補償部540を含む。
【0081】
位相補償部540は、入力信号に対して位相進み遅れ補償を行う機能要素であり、位相進み補償部541及び位相遅れ補償部542を含む。本実施例では、位相補償部540は、ネガコン圧(Pn)に応じて位相進み補償部541及び位相遅れ補償部542のそれぞれの設定を調整しながら、ポンプ流量(Qp')に対して位相進み遅れ補償を行う。なお、ポンプ流量(Qp')は、油圧ポンプ10の1回転当たりの吐出量(押し退け容積)の操作量(指令値)である。
【0082】
具体的には、位相補償部540は、ネガコン圧(Pn)が高い場合には制御安定性を重視し、ネガコン圧(Pn)が低い場合には速応性を重視しながら、ポンプ流量(Qp')に対して位相進み遅れ補償を行う。より具体的には、位相補償部540は、ネガコン圧(Pn)が高い場合の位相遅れの程度を、ネガコン圧が低い場合の位相遅れの程度より大きくする。また、位相補償部540は、ネガコン圧が高い場合の位相進みの程度を、ネガコン圧が低い場合の位相進みの程度より小さくする。
【0083】
参照テーブルTB1は、ネガコン圧(Pn)とポンプ流量(Qp')との対応関係を表す参照テーブルである。また、参照テーブルTB2は、ネガコン圧(Pn)と位相補償係数(α
1、α
2)との対応関係を表す参照テーブルである。また、参照テーブルTB3は、ポンプ流量(Qp")と電流指令(Is)との対応関係を表す参照テーブルである。なお、ポンプ流量(Qp")は、ポンプ流量(Qp')の位相補償後の値である。また、参照テーブルTB1、TB2、TB3は、ROM、NVRAM等に予め登録されている。
【0084】
位相補償係数α
1は、位相進み補償部541における位相進み補償のための演算で用いられる位相進み補償係数であり、1より大きい値である。また、位相進み補償部541において、T
1、sはそれぞれ、時定数、ラプラス演算子を表す。
【0085】
位相補償係数α
2は、位相遅れ補償部542における位相遅れ補償のための演算で用いられる位相遅れ補償係数であり、1より小さい値である。また、位相遅れ補償部542において、T
2、sはそれぞれ、時定数、ラプラス演算子を表す。なお、本実施例では、位相補償係数α
1は、位相補償係数α
2の逆数となるように設定される。
【0086】
コントローラ54は、ネガコン圧(Pn)に基づいてポンプ流量(Qp')、位相進み補償係数α
1、位相遅れ補償係数α
2を決定する。そして、コントローラ54は、決定したポンプ流量(Qp')に対して位相進み遅れ補償を行う。その後、コントローラ54は、位相補償後のポンプ流量(Qp")に基づいて電流指令(Is)を決定し、決定した電流指令(Is)を電磁弁55に対して出力する。
【0087】
次に、
図9を参照して、コントローラ54がネガコン圧(Pn)に応じた電流指令(Is)を出力する処理(以下、「電流指令出力処理」とする。)について説明する。なお、
図9は、電流指令出力処理の流れを示すフローチャートであり、コントローラ54は、所定の制御周期で繰り返しこの電流指令出力処理を実行する。
【0088】
最初に、コントローラ54は、ネガコン圧(Pn)を検出する(ステップST1)。本実施例では、コントローラ54は、ネガコン圧センサS1が出力するネガコン圧信号に基づいてネガコン圧(Pn)を検出する。
【0089】
その後、コントローラ54は、ポンプ流量(Qp')を導き出す(ステップST2)。本実施例では、コントローラ54は、参照テーブルTB1を参照して、検出したネガコン圧(Pn)の値に対応するポンプ流量(Qp')を導き出す。
【0090】
その後、コントローラ54は、位相補償係数(α
1、α
2)を導き出す(ステップST3)。本実施例では、コントローラ54は、参照テーブルTB2を参照して、検出したネガコン圧(Pn)の値に対応する位相補償係数(α
1、α
2)を導き出す。具体的には、コントローラ54は、位相進み補償係数α
1と位相遅れ補償係数α
2とを個別に導き出す。
【0091】
なお、ステップST2の処理とステップST3の処理とは順不同であり、ステップST3の処理がステップST2の処理の前に実行されてもよく、2つの処理が同時に実行されてもよい。
【0092】
その後、コントローラ54は、ポンプ流量(Qp')に対して位相進み補償を実行する(ステップST4)。本実施例では、コントローラ54は、ステップST3で導き出した位相進み補償係数α
1を用いながら、ステップST2で導き出したポンプ流量(Qp')に対して位相進み補償を実行する。
【0093】
その後、コントローラ54は、位相進み補償が施されたポンプ流量(Qp')に対して位相遅れ補償を実行する(ステップST5)。本実施例では、コントローラ54は、ステップST3で導き出した位相遅れ補償係数α
2を用いながら、位相進み補償後のポンプ流量(Qp')に対して位相遅れ補償を実行する。
【0094】
なお、ステップST4の処理とステップST5の処理とは順不同であり、ステップST5の処理がステップST4の処理の前に実行されてもよい。
【0095】
その後、コントローラ54は、電流指令(Is)を導き出す(ステップST6)。本実施例では、コントローラ54は、参照テーブルTB3を参照して、位相進み遅れ補償後のポンプ流量(Qp")の値に対応する電流指令(Is)の値を導き出す。そして、コントローラ54は、導き出した電流指令(Is)を電磁弁55に対して出力する。
【0096】
なお、上述の実施例において、位相補償部540は、位相進み補償部541及び位相遅れ補償部542を含み、コントローラ54は、位相進み補償係数α
1、位相遅れ補償係数α
2を決定する。しかしながら、本発明はこの構成に限定されるものではない。例えば、位相補償部540は、位相進み補償と位相遅れ補償を同時に行う位相進み遅れ補償部を含んでいてもよい。この場合、コントローラ54は、ネガコン圧と位相進み遅れ補償係数との対応関係を表す参照テーブルを参照し、検出したネガコン圧に対応する位相遅れ進み補償係数を導き出す。
【0097】
次に、
図10を参照して、コントローラ54が作動油温に応じて位相補償係数を補正する処理(以下、「位相補償係数補正処理」とする。)について説明する。なお、
図10は、位相補償係数補正処理の流れを示すフローチャートであり、コントローラ54は、所定の制御周期で繰り返しこの位相補償係数補正処理を実行する。
【0098】
最初に、コントローラ54は、作動油温を検出する(ステップST11)。本実施例では、コントローラ54は、作動油温センサ(図示せず。)が出力する作動油温信号に基づいて作動油温を検出する。
【0099】
その後、コントローラ54は、検出した作動油温が所定温度以上であるか否かを判定する(ステップST12)。
【0100】
作動油温が所定温度以上であると判定した場合(ステップST12のYES)、コントローラ54は、所定の常温係数を用いて位相補償係数を補正する(ステップST13)。本実施例では、コントローラ54は、ネガコン圧(Pn)と位相補償係数(α
1、α
2)との対応関係を表す参照テーブルTB2における位相補償係数(α
1、α
2)のそれぞれに常温係数を乗算して位相補償係数(α
1、α
2)のそれぞれを補正する。具体的には、コントローラ54は、参照テーブルTB2における位相進み補償係数α
1のそれぞれに位相進み補償用常温係数を乗算して位相進み補償係数α
1のそれぞれを補正する。また、コントローラ54は、参照テーブルTB2における位相遅れ補償係数α
2のそれぞれに位相遅れ補償用常温係数を乗算して位相遅れ補償係数α
2のそれぞれを補正する。或いは、コントローラ54は、位相進み遅れ補償係数のそれぞれに位相進み遅れ補償用常温係数を乗算して位相進み遅れ補償係数のそれぞれを補正する。
【0101】
一方、作動油温が所定温度未満であると判定した場合(ステップST12のNO)、コントローラ54は、所定の低温係数を用いて位相補償係数を補正する(ステップST13)。本実施例では、コントローラ54は、参照テーブルTB2における位相補償係数(α
1、α
2)のそれぞれに低温係数を乗算して位相補償係数のそれぞれを補正する。具体的には、コントローラ54は、参照テーブルTB2における位相進み補償係数α
1のそれぞれに位相進み補償用低温係数を乗算して位相進み補償係数α
1のそれぞれを補正する。また、コントローラ54は、参照テーブルTB2における位相遅れ補償係数α
2のそれぞれに位相遅れ補償用低温係数を乗算して位相遅れ補償係数α
2のそれぞれを補正する。或いは、コントローラ54は、位相進み遅れ補償係数のそれぞれに位相進み遅れ補償用低温係数を乗算して位相進み遅れ補償係数のそれぞれを補正する。
【0102】
その後、コントローラ54は、補正後の位相補償係数を用いて電流指令出力処理を実行する。そのため、作動油温の低下により作動油の粘度が高くなり、電磁弁55、ポンプレギュレータ40等の応答性が低下した場合にも、コントローラ54は、電気的ネガコン制御の安定性と速応性との適切なバランスを維持できる。その結果、コントローラ54は、低速微操作時のハンチングの発生を抑制或いは防止し、且つ、高速操作時の電気的ネガコン制御の速応性の低下を抑制できる。
【0103】
なお、上述の実施例において、コントローラ54は、作動油温に応じて位相補償係数を補正する。しかしながら、本発明はこの構成に限定されるものではない。例えば、コントローラ54は、外気温に応じて位相補償係数を補正してもよく、作動油温及び外気温に基づいて位相補償係数を補正してもよい。作動油温センサの設置位置によっては、検出された作動油温が、電気的ネガコン制御に影響する作動油の粘度を適切に反映していない場合があるためである。
【0104】
次に、
図11を参照して、位相補償部540による効果について説明する。なお、
図11は、ネガコン圧センサS1で検出されるネガコン圧(Pn)から、P−T絞りの下流側の圧力として導出されるネガコン圧(Pn')(
図3参照。)までのオープンループを想定した場合の伝達関数の周波数特性のシミュレーション結果を示すボード線図である。また、
図11(A)は、位相補償部540による位相補償を実行しない場合のボード線図を表し、
図11(B)は、位相補償部540による位相補償を実行する場合のボード線図を表す。なお、
図11(A)及び
図11(B)のボード線図は何れも、上段にゲイン線図を配し、下段に位相線図を配する。また、実線で示す推移は、ネガコン圧が高い(レバー操作量が小さい)場合の推移を表し、破線で示す推移は、ネガコン圧が低い(レバー操作量が大きい)場合の推移を表す。
【0105】
図11(A)を参照すると、ネガコン圧が高い場合、位相が−180[度]の点でゲインが0[dB]付近にあり、ゲイン余裕が0[dB](位相余裕が0[度])であることが分かる。これは、レバー操作量が小さい場合、ネガコン制御が不安定であり、ハンチングを誘発し易い状態になっていることを示している。なお、位相が−180[度]の点でゲインが−10[dB]〜−20[dB]の場合、すなわち、ゲイン余裕が−10[dB]〜−20[dB]の場合(位相余裕が40[度]〜60[度]の場合)に、ネガコン制御は安定とされる。
【0106】
一方、
図11(B)を参照すると、ネガコン圧の大小にかかわらず、位相が−180[度]の点でゲインが−20[dB]付近にあることが分かる。これは、レバー操作量が小さい場合であっても、ネガコン制御が安定しており、ハンチングを誘発し難い状態になっていることを示している。
【0107】
また、ネガコン制御の速応性は、ボード線図上で0[dB]を横切る周波数の値によって評価されるが、ネガコン圧が低い場合には、
図11(A)及び
図11(B)の双方においてF1[Hz]付近となっており、同等の速応性が確保できていることが分かる。
【0108】
このようにして、コントローラ54は、ネガコン圧(Pn)が高い場合とネガコン圧(Pn)が低い場合とでポンプ流量(Qp')に対する位相補償の内容を変えながら、電流指令(Is)を出力する。その結果、コントローラ54は、ネガコン圧(Pn)が高い場合に電気的ネガコン制御の安定性を向上させることで、ハンチングの発生を抑制或いは防止できる。また、コントローラ54は、ネガコン圧(Pn)が低い場合には、電気的ネガコン制御の安定性が過度に高められてしまうのを抑制することで、電気的ネガコン制御の速応性の低下を抑制できる。
【0109】
また、コントローラ54は、作動油の粘度が高い場合と作動油の粘度が低い場合とでポンプ流量(Qp')に対する位相補償の内容を変えながら、電流指令(Is)を出力する。具体的には、コントローラ54の位相補償部540は、作動油温又は外気温が低い場合の位相遅れの程度を、作動油温又は外気温が高い場合の位相遅れの程度より大きくする。その結果、コントローラ54は、作動油の粘度が高い場合(例えば、作動油温又は外気温が低い場合)に電気的ネガコン制御の安定性を向上させ、ハンチングの発生を抑制或いは防止できる。また、コントローラ54は、作動油の粘度が低い場合(例えば、作動油温又は外気温が高い場合)には、電気的ネガコン制御の安定性が過度に高められてしまうのを抑制することで、電気的ネガコン制御の速応性の低下を抑制できる。
【0110】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。
【0111】
例えば、上述の実施例において、コントローラ54は、ポンプ流量(Qp')に対して位相進み遅れ補償を行うようにしているが、参照テーブルTB1に入力されるネガコン圧(Pn)、又は、参照テーブルTB3から出力される電流指令(Is)に対して位相進み遅れ補償を行うようにしてもよい。また、コントローラ54は、電流指令(Is)を決定する際に電磁弁55の制御圧(Ps)をパラメータとして用いる場合にはその制御圧(Ps)に対して位相進み遅れ補償を行うようにしてもよい。更に、コントローラ54は、単一の位相補償部540を備えるが、多段構成の位相補償部を備えるようにしてもよい。