特許第6087221号(P6087221)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6087221
(24)【登録日】2017年2月10日
(45)【発行日】2017年3月1日
(54)【発明の名称】車両用換気装置
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/26 20060101AFI20170220BHJP
【FI】
   B60H1/26 611A
   B60H1/26 611Z
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-131184(P2013-131184)
(22)【出願日】2013年6月21日
(65)【公開番号】特開2015-3677(P2015-3677A)
(43)【公開日】2015年1月8日
【審査請求日】2016年3月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100101627
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 宜延
(72)【発明者】
【氏名】丹下 勝博
【審査官】 田中 一正
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−034224(JP,A)
【文献】 実開昭59−037115(JP,U)
【文献】 特開2005−067587(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0192978(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室内空気を車外へ放出させる換気口(30)が形成された筒部(3)を有して車体パネル(P)に取着される枠本体(2)と、前記換気口(30)に蓋をし、車室内圧力の高まりに応じて弁主部(51)が車外側に向けて開くようにして前記枠本体(2)に取付けたシート状弁体(5)と、を具備する車両用換気装置において、
前記枠本体(2)を、筒部内が棚板部(35)で段状に仕切られ、換気口(30)が上下に複数個設けられる多段枠本体(2A)とし、
さらに、前記筒部(3)の車外側に筒部開口(3N)に対向して設けられた外板部(7)と、この上縁と両側縁から起立させた上板部(81)と両側板部(82)とで形成するコ字状囲い部(8)と、を備え、該囲い部(8)の先端周縁が、上板部(81)側を上方にして、前記複数個在る換気口(30)の外周部を取り囲んで多段枠本体(2A)の車外部分に当接することにより、下面側を開口(60)させた車外ダクト部(6A)を形成し、且つ、上から数えて二番目換気口(30S)から最下換気口(30L)までの各換気口(30)に対し、該各換気口(30)の上縁(30a)から上下方向中間地点(30b)までの高さ域に対向する前記外板部(7)の高さ部位に、スリット(70)がそれぞれ形成された車外ダクト部材(6)を、具備することを特徴とする車両用換気装置。
【請求項2】
前記スリット(70)の上辺(70a)側を形成する外板部(7)から車外側に向けて下降傾斜する庇(72)が、該外板部(7)に一体成形で設けられる請求項1記載の車両用換気装置。
【請求項3】
前記筒部(3)の外周縁から鍔部(4)が外方へ延設されると共に、前記車外ダクト部材(6)に係る囲い部(8)の先端周縁から外方へフランジ部(9)が延設され、該フランジ部(9)を前記鍔部(4)に当接して、該車外ダクト部材(6)が前記多段枠本体(2A)に取付け一体化されてなる請求項1又は2に記載の車両用換気装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車室内の空気圧が高まった時に、車室外へ空気を逃す車両用換気装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車等の車両後部に在るバンパー裏には、ドア開閉時の車室内圧力の開放や走行中の車室内の空気置換を図る換気装置Gが取付けられている(図6の円内拡大図)。この換気装置Gには車室内からの空気が通過する換気口30が設けられており、シート状弁体5は該換気口30に蓋をし、車外側に向けてしか開かないようになっている。車室前部から空気が入り込むと、車室内圧力の高まりに応じて前記弁体5が開き、換気口30から集中的に車外へ放出する。ところが、弁体5が開くと、車外のロードノイズ,パターンノイズ,ブレーキ音等の騒音が換気口30を通じて、車室内に透過音として流入する不具合が生じる。
こうした不具合に対し、改善を図る発明が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−172927号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかるに、特許文献1は以下のような問題を抱えている。まず、騒音対策に必要な1000〜2000Hzの帯域に対しては、吸音材の厚さをかなり厚くしないと、騒音低減効果が得られず、最終的にコスト高になってしまう問題がある。また、吸音材を使用しているため、雨天時,梅雨などの湿気が多い時期での吸水や、低温で凍結する季節などでは、十分な吸音性能が得られないといった問題もある。さらに、車室内側にカバーを設置するスペースが必要になるが、そのスペース確保が難しく、結果的に吸音材厚みが制限されてしまい、必要な騒音低減効果が得られないという虞もある。
【0005】
本発明は、上記問題を解決するもので、換気性能を維持しながら、低温時の凍結や雨天時等の湿気、吸水に左右されず、また車室側に新たなスペースを要求せずして、騒音低減に威力を発揮する車両用換気装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成すべく、請求項1に記載の発明の要旨は、
車室内空気を車外へ放出させる換気口(30)が形成された筒部(3)を有して車体パネル(P)に取着される枠本体(2)と、前記換気口(30)に蓋をし、車室内圧力の高まりに応じて弁主部(51)が車外側に向けて開くようにして前記枠本体(2)に取付けたシート状弁体(5)と、を具備する車両用換気装置において、前記枠本体(2)を、筒部内が棚板部(35)で段状に仕切られ、換気口(30)が上下に複数個設けられる多段枠本体(2A)とし、さらに、前記筒部(3)の車外側に筒部開口(3N)に対向して設けられた外板部(7)と、この上縁と両側縁から起立させた上板部(81)と両側板部(82)とで形成するコ字状囲い部(8)と、を備え、該囲い部(8)の先端周縁が、上板部(81)側を上方にして、前記複数個在る換気口(30)の外周部を取り囲んで多段枠本体(2A)の車外部分に当接することにより、下面側を開口(60)させた車外ダクト部(6A)を形成し、且つ、上から数えて二番目換気口(30S)から最下換気口(30L)までの各換気口(30)に対し、該各換気口(30)の上縁(30a)から上下方向中間地点(30b)までの高さ域に対向する前記外板部(7)の高さ部位に、スリット(70)がそれぞれ形成された車外ダクト部材(6)を、具備することを特徴とする車両用換気装置にある。
請求項2の発明たる車両用換気装置は、請求項1で、スリット(70)の上辺(70a)側を形成する外板部(7)から車外側に向けて下降傾斜する庇(72)が、該外板部(7)に一体成形で設けられることを特徴とする。請求項3の発明たる車両用換気装置は、請求項1又は2で、筒部(3)の外周縁から鍔部(4)が外方へ延設されると共に、前記車外ダクト部材(6)に係る囲い部(8)の先端周縁から外方へフランジ部(9)が延設され、該フランジ部(9)を前記鍔部(4)に当接して、該車外ダクト部材(6)が前記多段枠本体(2A)に取付け一体化されてなることを特徴とする。
【0007】
請求項1の発明のごとく、下面側を開口(60)させた車外ダクト部(6A)を形成し、且つ、上から数えて二番目換気口(30S)から最下換気口(30L)までの各換気口(30)に対し、各換気口(30)の上縁(30a)から上下方向中間地点(30b)までの高さ域に対向する外板部(7)の高さ部位に、スリット(70)がそれぞれ形成された車外ダクト部材(6)を備えると、車室内空気の高まりに応じて、弁体が傘部の下縁を支点に開くので、車室内空気をスリットや車外ダクト部がつくる下面開口から円滑に車外へ流出させることができる。最上換気口に入り込む車室内空気は、その後、弁体によって車外側に向け下降傾斜して、二番目換気口と対向する箇所に設けたスリットから車外へスムーズに排出される。順次、その下の二番目換気口に入り込む車室内空気は三番目換気口と対向する箇所に設けたスリットから車外へ円滑排出される。最下換気口に入り込む車室内空気は下面側開口から円滑排出される。したがって、枠本体に車外ダクト部材が取着されても、通風抵抗は小さく保たれるので、換気装置としての動作,通風役割を十分果たすことができる。
その一方で、枠本体の車外側が車外ダクト部材で覆われているので、弁体が開いて車外のロードノイズ等の騒音が透過音として、入り込み難くなっている。スリットからの車外騒音は、スリットの配設位置が各換気口(30)の上縁(30a)から上下方向中間地点(30b)までの高さ域に対向する外板部(7)の高さ部位に在るので、スリットを掻い潜っても、弁体と棚板部等のフレームによって受け止められ、車室内へ到達できない。また、下面開口からの車外騒音の入射波は、囲い部の上板部で反射する反射波が逆位相になるようにして減衰させることができる。こうして、車外ダクト部材が枠本体に取付け一体化されると、通風性能が良好で、透過音の遮断効果の大きい車両用換気装置になる。
請求項2の発明のごとく、スリット(70)の上辺(70a)側を形成する外板部(7)から車外側に向けて下降傾斜する庇(72)が、該外板部(7)に一体成形で設けられると、車室内空気がスリット通過して車外に流出する流れに乱れを起さないようにできるので、通風抵抗をより一層小さくできる。請求項3のごとく、筒部(3)の外周縁から鍔部(4)が外方へ延設され、また囲い部(8)の先端周縁から外方へフランジ部(9)が延設されると、多段枠本体への車外ダクト部材(6)の取付け一体化が容易になる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の車両用換気装置は、低温時の凍結や雨天時等の湿気、吸水に左右されず、また車室側に新たなスペースを要求しないのは勿論、通風抵抗を抑えて車外騒音の車室内侵入を阻止するというともすれば相反する課題を両立させ、良好な通風性能を保つと同時に車室内への車外騒音の侵入を効果的に阻止でき、優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の換気装置の一形態で、その分解斜視図である。
図2図1の車外ダクト部材の斜視図で、(イ)は表側から見た図、(ロ)は裏側から見た図である。
図3図1の換気装置を車体パネルに取付けた説明縦断面図である。
図4図3の換気装置への車外からの騒音伝播を示す説明断面である。
図5図4の車外ダクト部材にスリットを設けない場合の説明断面図である。
図6】騒音低減性能を調べる試験装置の概略説明断面図である。
図7】(イ)は比較品2に取付けたルーバ具の正面図、(ロ)は(イ)のVII-VII線矢視図、(ハ)は比較品1にルーバ具を取着した比較品2の縦断面図である。
図8】騒音低減性能の比較図である。
図9】圧力損失の比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る車両用換気装置(以下、単に「換気装置」ともいう。)について詳述する。図1図9は本発明の換気装置の一形態で、図1はその分解斜視図、図2図1の車外ダクト部材の斜視図、図3図1の換気装置を車体パネルに取付けた縦断面図、図4図3の換気装置への車外からの騒音伝播を示す断面図、図5図4の車外ダクト部材にスリットを設けない場合の断面図、図6は騒音低減性能を調べる試験装置の説明断面図、図7(イ)は比較品2に取付けたルーバ具の正面図、(ロ)は(イ)のVII-VII線矢視図、(ハ)は比較品1にルーバ具を取着した比較品2の縦断面図である。図8は騒音低減性能比較図、図9は圧力損失比較図を示す。尚、図面を判り易くするため、枠本体2,車外ダクト部材6の厚みを厚く描き、また枠本体2や弁体5の断面を表すハッチングを一部省く。
【0011】
換気装置1は枠本体2と弁体5と車外ダクト部材6とを具備する(図1,図3)。
枠本体2は、車室側および車外側に開口する筒部3内に車室内空気を車外へ放出させる換気口30を形成し、車外側筒部開口3Nの外周縁から鍔部4を外方へ延設して、車体パネルPに取着される樹脂成形体である。車室内空気を車外へ放出させる換気口30を形成した筒部3と、該筒部3の外周縁を外方へ延設して車体パネルPの外側に配される鍔部4と、が一体成形される。符号41は鍔部4の車外側の表面に一体成形で隆起する軸状ピンを示す。
枠本体2には、上壁部31と両側壁部32と下壁部33とで短筒状の筒部3が形成され、換気口30を形成する筒孔が水平横方向に配される。筒部3は、図1のごとく上壁部31と両側壁部32とで正面視コ字形にし、下壁部33を湾曲させた正面視円弧形とする。そして、筒部3内を棚板部35で段状に仕切り、換気口30が上下に複数個設けられる多段枠本体2Aとする。本実施形態は、図3のごとく、二つの棚板部35が水平配設されて、筒部3内を三つに仕切り、上下方向に換気口30を三個設ける三段枠本体2になっている。
【0012】
前記筒部3の外壁面には図3のような爪39が一体成形されている。車両後部に在るバンパー裏の車体パネルPに設けたパネル開口POへ、車外側から枠本体2を挿入し、パネル開口POを弾発力で潜り抜けた爪39が鍔部4とで車体パネルPを挟着することによって、車体パネルPに枠本体2が取付け固定される。ここで、本発明でいう「車外側」とは、枠本体2が車体パネルPに取着された図3の状態下で、紙面左方を指し、「車室側」は紙面右方を指し、また「下方」は図3の紙面下方を指す。
【0013】
水平配設された各棚板部35には、車室側の端で下方へ屈曲して垂直部分35hが設けられ、さらに、その屈曲部位に弁体5の吊足部52が通る通孔350が設けられる。同じように、上壁部31にも、車室側の端で下方へ屈曲して垂直部分31hが設けられ、その屈曲部位に弁体5の吊足部52が通る通孔310が設けられる。
また、両側壁部32の筒内壁面には、前記屈曲部位から車外側へ向けて下降傾斜する内鍔37が設けられ(図4)、該内鍔37の先端が棚板部35の車外側先端縁351とつながる。下壁部33には段差面331が形成されており、内鍔37の先端が該段差面331とつながる。符号36は縦桟で、内鍔37と同じ角度で車外側へ向け下降傾斜して、棚板部35の車外側先端縁351や段差面331とつながる。内鍔37と縦桟36が支えになって、弁体5で換気口30に安定して蓋ができる。
【0014】
弁体5は、換気口30に蓋をし、車室内圧力の高まりに応じて弁主部51が車外側に向けて開くようにして、前記枠本体2に取付けられる薄板状体である。ここでの弁体5は、図1,図3や特開平7-179118号公報に示すごとくのフラップ形状で、弁主部51の上縁部分に括れ部になる吊足部52を二箇所突設し、該吊足部52の先に傘部53を延設したゴム製シート状板とする。換気口30に蓋ができるよう、上二つの換気口30に取付けられる弁主部51は四角形で、最下の換気口30に取付けられる弁主部51は下半部が略半円形になっている。傘部53を車外側筒部3内から通孔310,350に丸めて押し込み、通過させると、該傘部53がゴムのもつ弾性復元力によって元に戻って、該通孔から抜脱不能となる。吊足部52は通孔310,350の長さよりも短く、傘部53が通孔周りの前記屈曲部位に載った状態で、シート状弁体5が吊設される。車両停止時には弁体5が自重で垂れ下がり、弁主部51で換気口30に蓋をする(図3の鎖線)。図3の鎖線図示の弁体5は、図面を判り易くするため棚板部35の先端縁351との間に隙があるが、実際は該先端縁351に当接する。一方、走行等で車室内圧力が車外圧よりも高くなると、傘部53の下縁を支点に弁体5が傾動して換気口30から離れ、車室内の通風が行えるようになっている(図3の実線)。
【0015】
車外ダクト部材6は、車外側に前記車外側筒部開口3Nに対向して設けられ、前記筒部3の横幅に板面横幅W7を合わせた矩形外板部7と、この上縁と両側縁から起立させた上板部81と両側板部82とで形成するコ字状囲い部8と、を備えるダクト材である(図2)。上板部81と両側板部82とで囲い部8が図2(ロ)のごとく裏面視コ字状になる。車外ダクト部材6は、囲い部8のコ字状先端周縁89が、上板部81側を上方にして、複数個在る換気口30の外周部を取り囲んで多段枠本体2Aの車外部分に当接することにより、図5ごとくの下面側を開口60させた車外ダクト部6Aを形成する。図示を省略するが、枠本体2に係る車外側の面には、鍔部4の内周縁沿いに筒部3の正面視形状のままで鍔部4の車外面よりも数ミリ高くした内周隆起部分が一体成形で設けられている。車外ダクト部材6が、複数個在る換気口30全てをカバーして該内周隆起部分に嵌合する形で、多段枠本体2Aの車外面側に当接し、下面側開口60が流出口になるダクト流路uを形成する。
【0016】
そして、車外ダクト部材6には、上から数えて二番目の二番目換気口30Sから最下の最下換気口30Lまでの各換気口30に対し、各換気口30の上縁30aから上下方向中間地点30bまでの高さ域に対向する前記外板部7の高さ部位に、スリット70がそれぞれ形成される。スリット70を設けるのは、二番目換気口30Sから最下換気口30Lまでに取付けられる弁体5の開度が抑えられるのを防止するためである。仮に、スリット70のない車外ダクト部6Aのままだと、例えば最上換気口30Fたる一番目換気口30を通り抜けて車外に放出される空気が、図5のごとく下面側開口60に向かい車外へ流出する際、同図矢印のごとく下方の二番目換気口30や三番目換気口30等に係る弁体5の開度を抑えたりバタつかせたりして、車室内空気の車外への流出が損なわれる。
【0017】
本実施形態は、三個の換気口30を有しており、二番目換気口30Sと最下換気口30Lたる三番目換気口30について、両換気口30の上縁30aからそれぞれの上下方向中間地点30bまでの高さ域に対向する外板部7の高さ部位に、スリット70が形成される。両側板部82間をスリット長さとする水平横長のスリット70が外板部7に形成され、該スリット70の横長さは換気口30の横幅(又は横幅以上)になっている。二番目換気口30Sの上縁30aに対向する外板部7に最上換気口30F用のスリット70Fに係る上辺70aが位置し、二番目換気口30Sの中間地点30bに対向する外板部7に最上換気口30F用のスリット70Fに係る下辺70bが位置する。ここで、最上換気口30F用のスリット70Fは、最上換気口30Fから放出される車室内空気を車外に円滑流出させるためのスリット70である。スリット70は一つでもよいが、複数形成される場合、例えば最上換気口30F用のスリット70Fが図3のごとく外板部7に三つ形成される場合、スリット70Fに係る上辺は、それらのうちで最も上方に在るスリット70の上辺70aをいい、スリット70に係る下辺はそれらのうちで最も下方に在るスリット70の下辺70bをいう。
最下換気口30Lたる三番目換気口30も二番目換気口30Sと同様で、三番目換気口30の上縁30aに対向する外板部7に二番目換気口30S用のスリット70Sに係る上辺70aが位置し、三番目換気口30の中間地点30bに対向する外板部7に二番目換気口30S用のスリット70Sに係る下辺70bが位置する。最下換気口30L用にはスリット70が設けられず、下面側開口60が利用される。
【0018】
詳しくは、車室内空気が最上換気口30たる一番目換気口30Fを通り抜けて車外に放出される場合、図3のごとく一番目換気口30Fを通り抜けた車室内空気は、白抜き矢印のごとく二番目換気口30Sと対向する最上換気口30F用のスリット70Fから車外へ流出する。車室内空気の高まりに応じて、傘部53の下縁を支点に弁体5が開くので、一番目換気口30Fに入り込んだ車室内空気は、弁体5によって車外側に向け下降傾斜して、図示のごとく二番目換気口30Sと対向する最上換気口用スリット70Fから車外へスムーズに放出される。二番目換気口30Sを通り抜けた車室内空気は、中黒矢印のごとく三番目換気口30Lと対向する二番目換気口用スリット70Sから車外へ流出する。最下換気口30たる三番目換気口30Lを通り抜けた車室内空気は、白抜き矢印のごとく下面側開口60から車外へ流出する。
【0019】
ここで、各換気口30の上縁30aから上下方向中間地点30bは、換気口30の高さに応じた中間地点であり、例えば二番目換気口30Sであれば、その高さh1の上半部の下点に相当する。図3は最上換気口30F用スリット70Fに係る一番上のスリットの上辺70aから一番下のスリットの下辺70bまでの高さを、二番目換気口30の高さh1の1/2にぴったり合わせているが、一番上のスリットの上辺70aと一番下のスリットの下辺70bを、二番目換気口30の高さh1に係る上半部の領域内に収まるように設けてあればよい。すなわち、本発明でいう「各換気口30の上縁30aから上下方向中間地点30bまでの高さ域に対向する外板部7の高さ部位に、スリット70がそれぞれ形成される」は、該高さ部位の一部領域に、スリット70がそれぞれ形成されていれば足りる。図3のごとく各換気口30の上縁30aから上下方向中間地点30bまでの高さ域に対向する外板部7の高さ部位の領域全てに、スリット70をそれぞれ形成するのが、スリット70から車外へ車室内空気を円滑流出させることができ、より好ましいが、該外板部7の高さ部位の領域のうち一部にスリット70が形成される車外ダクト部材6でもよい。当該高さ部位の領域のうち一部にスリット70を設けるだけでも、一番目換気口30を通り抜けた空気で、二番目以降の換気口30に取着された弁体5の開度を抑えてしまう等の前記不具合を軽減できるからである。
【0020】
本実施形態の車外ダクト部材6には、図2のごとく各スリット70の上辺70a側を形成する外板部7から車外側に向けて下降傾斜する庇72が、該外板部7に一体成形で設けられる。庇72を設けることで、図3に示す車室内から車外へ放出される空気の流れを良好にできる。換気口30から車室内空気を車外へ円滑流出させるべく、庇72の俯角を45°〜60°とし、庇72は外板部7とで30°〜45°の角度を保って、車外側に向け下降傾斜するのが好ましい。ここでは、庇72の俯角を45°にする。符号73は補強部分で、スリット70から車室内空気が放出される際、その付近で乱れないようにもする。
【0021】
また、車外ダクト部材6には、囲い部8の先端周縁89から外方へ延在するフランジ部9が設けられる。該フランジ部9を前記鍔部4に当接させて、車外ダクト部材6が多段枠本体2Aに取付け一体化される車両用換気装置になっている。具体的には、前記多段枠本体2Aの鍔部4に設けた軸状ピン41に対向するフランジ部9の部位に透孔90が形成され、図1のごとく該透孔90に軸状ピン41を挿通させてフランジ部9と鍔部4とを当接させる。その後、図3のごとくフランジ部9から突出た軸状ピン41の先端部に熱カシメ41kを施すことによって、車外ダクト部材6を多段枠本体2Aに取付け一体化している。
車外ダクト部材6と多段枠本体2Aとの取付け一体化はこれに限らない。例えば多段枠本体2Aの鍔部4に通孔を形成する一方、通孔に対向する車外ダクト部材6のフランジ部9に突起を先端に形成した突出部を立設し、通孔を貫通した突起が鍔部4の車室側の面に係止できるようにして、車外ダクト部材6を多段枠本体2Aに取付け一体化する構成でもよい。しかし、軸状ピン41,透孔90,熱カシメ41kによるのが、低コストで簡便且つ確実に取付け一体化できるのでより好ましい。
【0022】
次に、本発明品と従来品等との性能比較試験について述べる。
(1)騒音低減性能比較
図6のような評価試験装置を用いて、騒音低減性能を測定した。床面FL上に鉄板で遮音したボックスBXを形成し、その一立壁面WLに性能比較する換気装置の取付け用開口部WOを設け、該開口部に本発明品や従来品等の換気装置を取着して測定した。測定方法はスピーカSPから開口部(鍔部4)までの距離L1を200mmとし、換気装置に係る換気口30の中央から車室内側にあたる後方側へ距離L2分、離した地点にマイクMCを設置した後、100dB(A)の音を流して音圧レベルを測定した。距離L2は100mmとし、各弁体5は強制的に15°開いた状態でセットしている。
【0023】
比較品1は実施形態で述べた多段枠本体2Aに弁体5を取付けただけの従来型換気装置Gである。図6の円内拡大図にある車外ダクト部材6なしの換気装置Gを比較品1とする。比較品2は比較品1の換気装置に図7(イ),(ロ)に示すルーバ具LVを取着したものである。比較品1の鍔部4に、図7(ハ)のごとくルーバ具LVの弾性支持体BLを接着固定している。ルーバ具LVは以下のようにして造った覆い体である。まず、透明樹脂板を外周縁が鍔部4の外周縁に沿う大きさに切断した薄板体Fとする。次いで、該薄板体Fに鍔部4と対向する外周部nを除いて、筒部3の筒孔と対向する面積部分に、羽板形成用の水平切り込みk1と垂直切込みk2を入れる。その後、図7(ロ)のごとく各切り込み板部の基縁部分を30°の角度で折り曲げて、隙間εを設けた羽板mが13枚在るルーバ具LVにした。各羽板mは上下方向の板幅は10mmで、横長さは換気口30の横幅と同じく約50mmにしている。外周部nに環状の弾性支持体BLを一体化し、図7(ハ)のごとく該弾性支持体BLを介して薄板体Fが比較品1の換気装置Gの車外側換気口30側を覆っている。本発明品は実施形態で説明した図1,図3の換気装置である。
これらの換気装置について測定した結果を図8に示す。
【0024】
騒音低減性能を調べた図8の測定結果によれば、本発明品が従来品たる比較品1だけでなく、ルーバ具LVを取着した換気装置たる比較品2に対しても優れているのが判る。本発明品は、比較品1,2に対し、1.25kHz以上の領域で騒音が低くなっている。ルーバ具LVを取着しても騒音低減効果は少ない。本発明は騒音低減対策に重要とされる1000〜2000Hzの帯域に対し、優れた効果を発揮する。
【0025】
(2)通気抵抗比較
次に、本発明品と、前記騒音低減性能比較で用いた従来型換気装置Gである比較品1と、車外ダクト部材6に代えて図5で示すスリット70のない車外ダクト部6Aを該従来型換気装置Gに取着した比較品3とについて、通気抵抗を測定した。
評価試験装置は、特開7-179118号公報等で公知であり図示を省略するが、図6のスピーカSP,マイクMCをなしにして、開口部WOに対向する立壁面WL1に開口を設け、該開口にファンを装着したものである。ファンを作動させると、ボックスBX内に空気を送り込む。前記騒音低減性能比較で用いた試験装置の場合と異なり、ボックスBX内の側が車室側になるようにして、本発明品、比較品1,3が開口部WOに取着される。ファンによって空気がボックスBX内に送り込まれると、ボックス内圧力に応じて弁体5がボックスBXの外方へ開いて、空気をボックス外(車室外)へ流出させる。ファンの風量を記録し、この時のボックス内外の静圧差を圧損として計測した。
ファンの風量調整を行って、三つのケースについて実測し、図9のような換気装置の風量に対する通気抵抗の圧損値を得た。
【0026】
スリット70がない車外ダクト部6Aを用いた比較品3であると、従来型換気装置Gである比較品1に比べ、図9のごとく圧損が悪化する。しかるに、車外ダクト部6Aにスリット70を設けた車外ダクト部材6を用いた本発明品は、圧損の悪化が見られず、従来型換気装置Gたる比較品1と殆ど変わらない。本発明品は車外ダクト部材6付き換気装置になっているが、従来型換気装置たる比較品1と比べて、殆ど差がない。本発明品は、車外ダクト部材6を付加していても通風抵抗が極めて小さく、換気性能がそのまま維持されるのが判る。
【0027】
このように構成した車両用換気装置は、従来型換気装置Gに車外ダクト部材6を一体化させたものであるが、ダクト流路u,下面側開口60の確保だけでなく、外板部7の所定部位へのスリット70の形成によって、車室内圧力の高まりに応じて、車室内空気を図3の白抜き矢印,中黒矢印のごとく車室外へスムーズに流出させることができる。車外ダクト部材6が枠本体2に取付け一体化されていても、図9からも明らかなように換気性能をそのまま維持できる。
【0028】
それでいて、本発明の換気装置1は図8のごとく騒音低減に優れた効果を発揮する。図7のルーバ具LVを用いた比較品2の効果が小さいのは、車外騒音の音波が羽板m間の隙間εを掻い潜った後、簡単に開いた弁体5を通って車室内(試験ではマイクMC)に到達するからだと考えられる。
一方、本換気装置1は、最上換気口30Fと対向する外板部7の対向部位、さらに弁体5が開いて換気口30の導通部分になった箇所と対向する外板部7の部位は、外板部7の主部板面71で閉ざされ、スリット70を設けていない。そのため、これらの高さ部位の車外騒音は外板部7の板面で遮られ、車室内へ入り込むことがない。
また、図4の波形矢印で示すように、車外騒音たる音波Sの波がスリット70を掻い潜って枠本体2内に侵入し、換気口30を通り抜けようとしても、弁体5や棚板部35等の枠本体2のフレームによって遮られ、車室内へ侵入することができない。スリット70は、既述のごとく各換気口30の上縁30aから上下方向中間地点30bまでの高さ域に対向する外板部7の高さ部位に形成される。弁体5は換気口30を大きく開けても図4の位置にとどまる。該弁体5の動作構造とスリット70の配置構造がうまく関係し合うことによって、車外騒音の音波Sが外板部7のスリット70を掻い潜っても、換気口30の手前で弁体5,棚板部35等にぶつかって阻止され、車室内へたどり着けない構造になっている。尚、図4の通孔310,350は、判り易く大きく描くが、吊足部52が挿通するだけ細孔であり、車外からの騒音通過に大きな影響を与えない。
【0029】
また、本換気装置1では、車外ダクト部材6がつくる下面側開口60から騒音が侵入することが考えられる。
しかし、図4で、白抜き矢印で示す該騒音の入力波SWinは、上板部81による反射波SWoutが逆位相となって打ち消し合うようにできる。上板部81が両側板部82とでコ字状囲い部8になっているので、図4のごとく反射波SWoutが入射波SWinと相対向して衝突する。車外ダクト部材6を設けることによる下面側開口60から侵入する騒音の入射波SWinは、上板部81で反射した反射波SWoutで減衰させることができる。実際、本発明品は図8のごとく良好な騒音低減効果が得られた換気装置になっている。
かくのごとく、本発明品は通風性能と騒音低減性能が両立する所望の換気装置に仕上がっている。
【0030】
しかも、本換気装置1は、特許文献1のような吸音材を使用しないため、低温時の凍結や雨天時等の湿気、吸水に左右されない。また、吸音材を使わないので、低コストで、経時劣化や、環境における性能低下もなく、透過音遮断効果の大きな性能を長期に亘って安定維持できる。さらに、特許文献1のように、車室内側にカバーを設置するスペースを必要としないので、設置箇所を選ばず、車体側に設計変更等を要求しない。取付け性に優れる。本換気装置1は枠本体2の車外側に車外ダクト部材6が取着されるが、バンパー裏の車体パネルPに取付けられるので、バンパーと枠本体2との間には車外ダクト部材6用の空間が十分あり、何の問題もない。
このように、車室内側にスペースがなく、特許文献1等のごとく構成部品が付けられない状況でもこれを回避し、低騒音で通風性能が良好な本換気装置を提供でき、極めて有益である。
【0031】
尚、本発明においては前記実施形態に示すものに限られず、目的,用途に応じて本発明の範囲で種々変更できる。枠本体2,多段枠本体2A,弁体5,車外ダクト部材6等の形状,大きさ,個数,材質等は用途に合わせて適宜選択できる。
【符号の説明】
【0032】
2 枠本体
3 筒部
3N 筒部開口
30 換気口
30a 上縁
30b 中間地点
4 鍔部
5 弁体
51 弁主部
6 車外ダクト部材
6A 車外ダクト部
60 下面開口
7 外板部
70 スリット
72 庇
8 囲い部
81 上板部
82 側板部
9 フランジ部
P 車体パネル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9