特許第6087237号(P6087237)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6087237
(24)【登録日】2017年2月10日
(45)【発行日】2017年3月1日
(54)【発明の名称】タイヤ加硫金型の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/02 20060101AFI20170220BHJP
   B29C 33/10 20060101ALI20170220BHJP
   B29C 35/02 20060101ALI20170220BHJP
【FI】
   B29C33/02
   B29C33/10
   B29C35/02
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-153444(P2013-153444)
(22)【出願日】2013年7月24日
(65)【公開番号】特開2015-24501(P2015-24501A)
(43)【公開日】2015年2月5日
【審査請求日】2016年3月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小原 将明
【審査官】 辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭53−056274(JP,A)
【文献】 特開平02−214616(JP,A)
【文献】 特開平04−117474(JP,A)
【文献】 特開2013−059908(JP,A)
【文献】 特開2002−234033(JP,A)
【文献】 米国特許第06817848(US,B1)
【文献】 特開昭60−099618(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C33/00−33/76
B29C59/00−59/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビティにセットされたタイヤの外表面に接する成形面に排気孔を設ける第1の工程と、前記排気孔にベントプラグを装着する第2の工程とを含むタイヤ加硫金型の製造方法において、
前記ベントプラグが、排気路を内部に有する筒状のハウジングと、前記ハウジングに挿入され、前記排気路を開閉する弁体となるステムと、前記排気路を開放するように前記ステムを前記キャビティに向けて付勢する付勢部材とを備え、
前記第1の工程では、前記ハウジングの外径よりも孔径が0.04〜0.1mm大きく、且つ、その孔径を途中で小さくした段部が形成されている前記排気孔を設け、
前記第2の工程では、前記排気孔に前記ベントプラグを挿入して前記段部により前記ハウジングの下端部を支持し、前記ハウジングと前記排気孔との間に、それらの径差に応じた隙間を形成した後、嫌気性接着剤を前記成形面側から前記隙間に垂らして注入し、毛細管現象により前記嫌気性接着剤を前記隙間内に行き渡らせて充填し、前記嫌気性接着剤の硬化により前記ベントプラグを前記成形面に固定することを特徴とするタイヤ加硫金型の製造方法。
【請求項2】
内面の算術平均粗さRaが0.8μm以上である前記排気孔をドリル加工により設け、その後にリーマ加工を行わずに、前記嫌気性接着剤を前記隙間に充填する請求項1に記載のタイヤ加硫金型の製造方法。
【請求項3】
前記排気孔の内面の一部に前記ハウジングを接触させることで環状でない前記隙間を形成する請求項1又は2に記載のタイヤ加硫金型の製造方法。
【請求項4】
前記接着剤に伝熱性付与材を混入してある請求項1〜3いずれか1項に記載のタイヤ加硫金型の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤの外表面に接する成形面の排気孔にベントプラグを装着したタイヤ加硫金型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤの加硫成形に用いられるタイヤ加硫金型では、タイヤの外表面に接する成形面に多数の排気孔が設けられ、タイヤと成形面との間の余分な空気を外部に排出するようにしている。また、スピューと呼ばれるゴム突起の形成を低減するために、排気孔に装着されるベントプラグが公知である。特許文献1〜3には、筒状のハウジングに挿入されたステムをスプリングが付勢することで開状態となり、そのステムをタイヤの外表面が押し下げることで閉状態となるベントプラグが開示されている。
【0003】
通常、排気孔の孔径はハウジングの外径よりも僅かに小さく設定され、その排気孔にハウジングを圧入することによりベントプラグが成形面に固定される。このような締まり嵌めによる装着では、ハウジングを圧入した排気孔の孔径が塑性変形を伴って拡大する。このため、ベントプラグを交換する必要が生じた場合には、ハウジングを取り外した後の排気孔に同じサイズのハウジングを圧入し難く、その排気孔の補修が必要になるなど、施工が煩雑になる傾向にあった。
【0004】
また、締まり嵌めによる装着では、排気孔の孔径が大きいと、ハウジングが排気孔から抜け出たり、ハウジングの外周に不要な空間を形成してゴムがはみ出たりすることがある。その一方で、排気孔の孔径が小さいと、ハウジングを圧入するときの抵抗が大きくなるために作業性が悪化したり、圧入に伴ってハウジングが変形したりすることがある。このため、締まり嵌めを利用してベントプラグを装着するうえでは、排気孔の孔径を高精度に加工する必要があった。
【0005】
上述のような開閉式のベントプラグでは、圧入に伴ってハウジングが僅かでも変形すると、ステムが動作不良を引き起こして排気性能に支障を来たすことがあり、それ故、排気孔の孔径に要求される加工精度がシビアであった。例えば、外径が3.00mmのハウジングを圧入する排気孔の孔径は2.98mmに設定され、その加工のレンジは0.02mmであった。かかる場合には、ドリル加工により設けた排気孔にリーマ通しを施して内面を鏡面に仕上げるなど、煩雑な施工が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−214616号公報
【特許文献2】特開平9−141660号公報
【特許文献3】特開2011−116012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、開閉式のベントプラグの動作不良による排気性能の低下を防ぎつつ、排気孔の孔径に要求される加工精度を緩和し、しかもベントプラグの交換が簡便なタイヤ加硫金型の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、下記の如き本発明により達成することができる。即ち、本発明により製造されるタイヤ加硫金型は、キャビティにセットされたタイヤの外表面に接する成形面と、前記成形面で開口する排気孔に装着されたベントプラグとを備えるタイヤ加硫金型において、前記ベントプラグが、排気路を内部に有する筒状のハウジングと、前記ハウジングに挿入され、前記排気路を開閉する弁体となるステムと、前記排気路を開放するように前記ステムを前記キャビティに向けて付勢する付勢部材とを備え、前記排気孔の孔径が前記ハウジングの外径よりも大きく、前記排気孔と前記ハウジングとの間の隙間に充填された接着剤によって前記ベントプラグが前記成形面に固定されているものである。
【0009】
かかる構成によれば、上記の如く隙間嵌めを利用することによりハウジングの変形を生じることがなく、開閉式のベントプラグの動作不良による排気性能の低下を防止できる。また、排気孔とハウジングとの間の隙間に接着剤が充填されることから、排気孔の孔径が多少ばらついても大勢に影響がなく、排気孔の孔径に要求される加工精度を緩和できる。しかも、ベントプラグの装着によって排気孔の孔径が拡大するものではなく、ベントプラグの交換が簡便である。
【0010】
前記ハウジングの下端部を支持する段部が前記排気孔に設けられているものが好ましい。このような段部を設けることにより、ベントプラグを排気孔に装着する際に、排気孔に隙間嵌めされたハウジングの脱落を防止できるとともに、そのハウジングの軸方向位置を定めることができる。したがって、隙間嵌めを利用してベントプラグを装着するうえで、非常に有用である。
【0011】
前記接着剤が嫌気性接着剤であるものが好ましい。かかる構成によれば、排気孔とハウジングとの間の隙間に嫌気性接着剤を流し込むだけでよいため、施工性に優れる。
【0012】
前記排気孔の孔径と前記ハウジングの外径との差が0.04〜0.1mmであるものが好ましい。これにより、排気孔とハウジングとの間の隙間に流し込んだ接着剤が毛細管現象によって周方向や軸方向に行き渡りやすくなるため、施工性が向上する。
【0013】
前記接着剤に伝熱性付与材を混入してあるものが好ましい。これにより、ベントプラグとその周囲の成形面との温度差を低減し、ベントプラグの近傍での加硫ムラを防止できる。また、排気路に未加硫ゴムが流入した場合に、その未加硫ゴムに熱量を速やかに伝えて加硫を促し、ゴムバリの成長を抑制できる。
【0014】
本発明に係るタイヤ加硫金型の製造方法は、キャビティにセットされたタイヤの外表面に接する成形面に排気孔を設ける第1の工程と、前記排気孔にベントプラグを装着する第2の工程とを含むタイヤ加硫金型の製造方法において、前記ベントプラグが、排気路を内部に有する筒状のハウジングと、前記ハウジングに挿入され、前記排気路を開閉する弁体となるステムと、前記排気路を開放するように前記ステムを前記キャビティに向けて付勢する付勢部材とを備え、前記第1の工程では、前記ハウジングの外径よりも孔径が0.04〜0.1mm大きく、且つ、その孔径を途中で小さくした段部が形成されている前記排気孔を設け、前記第2の工程では、前記排気孔に前記ベントプラグを挿入して前記段部により前記ハウジングの下端部を支持し、前記ハウジングと前記排気孔との間に、それらの径差に応じた隙間を形成した後、嫌気性接着剤を前記成形面側から前記隙間に垂らして注入し、毛細管現象により前記嫌気性接着剤を前記隙間内に行き渡らせて充填し、前記嫌気性接着剤の硬化により前記ベントプラグを前記成形面に固定するものである。
【0015】
この製造方法によれば、上記の如く隙間嵌めを利用することによりハウジングの変形を生じることがなく、開閉式のベントプラグの動作不良による排気性能の低下を防止できる。また、排気孔とハウジングとの間の隙間に接着剤を充填するため、排気孔の孔径が多少ばらついても大勢に影響がなく、排気孔の孔径に要求される加工精度を緩和できる。しかも、ベントプラグの装着によって排気孔の孔径が拡大するものではなく、ベントプラグの交換が簡便である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明により製造されるタイヤ加硫金型の一例を概略的に示す縦断面図
図2】ベントプラグの断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、タイヤ子午線断面に沿ったタイヤ加硫金型10の断面を示しており、図2は、その要部を拡大して示している。
【0018】
図1に示すように、タイヤ加硫金型10は、キャビティ15にセットされたタイヤTの外表面に接する成形面1を備える。成形面1には、加硫成形時にタイヤと成形面1との間の余分な空気を排出するために、金型10の内部(キャビティ15)と外部とを連通させる多数の排気孔16が設けられている。図2に拡大して示すように、その成形面1で開口する排気孔16にベントプラグ2が装着されている。
【0019】
成形面1の素材としては、アルミニウム材が例示される。このアルミニウム材は、純アルミ系の素材のみならずアルミニウム合金を含む概念であり、例えばAl−Cu系、Al−Mg系、Al−Mg−Si系、Al−Zn−Mg系、Al−Mn系、Al−Si系が挙げられる。後述するハウジング3とステム4は、それぞれステンレスやS45Cに代表される鋼材からなることが好ましく、これらは同種金属でもよいが異種金属でも構わない。
【0020】
本実施形態の金型10は、タイヤのトレッド部を成形するトレッド型部11と、タイヤのサイドウォール部を成形するサイド型部12,13と、タイヤのビード部が嵌合されるビードリング14とを備える。図示を省略しているが、トレッド型部11の内面には、タイヤのトレッド面に溝を形成するための凸状の骨部が設けられている。図1では、トレッド型部11の内面で開口する1つの排気孔16と、サイド型部13の内面で開口する1つの排気孔16を描いているが、実際には、トレッド型部11やサイド型部12,13の内面で開口する多数の排気孔16が設けられている。
【0021】
図2に示すように、ベントプラグ2は、排気路21を内部に有する筒状のハウジング3と、ハウジング3に挿入され、排気路21を開閉する弁体となるステム4と、排気路21を開放するようにステム4をキャビティ15に向けて付勢する付勢部材5とを備える。ハウジング3の開口部31の頂面31aは、キャビティ15に面する。開口部31の頂面31aと頭部42の頂面42aとは、それぞれ平面により形成されている。排気孔16の奥側に配置されるハウジング3の下端部32には、貫通孔32aと、内鍔状の支持部32bとが形成されている。
【0022】
ステム4は、ハウジング3の軸方向に延びる柱状の胴部41と、ハウジング3の開口部31の内面に接することにより排気路21を閉鎖する頭部42とを有する。頭部42は、胴部41と一体的に設けられ、胴部41のキャビティ15側の先端を径方向に膨出させてなる。本実施形態では、ステム4の頭部42が、キャビティ15に向かって拡径する円錐台状に形成され、ハウジング3の開口部31の内面が、キャビティ15に向かって拡径するテーパ面で形成されている。
【0023】
胴部41の下端には、貫通孔32aより大径のストッパー43が形成され、これによりステム4がハウジング3から抜け出ない。ストッパー43は、スリット44を閉じるように弾性変形させることで、貫通孔32aを通過できる。付勢部材5は、円柱状の胴部41を取り囲み、頭部42と支持部32bとの間に介在してステム4を付勢する。本実施形態のベントプラグ2は、所謂スプリングベントであって、コイルバネにより構成された付勢部材5を備える。但し、これに限られるものではなく、例えば皿バネや板バネなどにより付勢部材5を構成しても構わない。
【0024】
図2では排気路21が開放されており、ベントプラグ2は開状態にある。ベントプラグ2が開状態にある間は、タイヤの外表面が成形面1に接近する動作に伴って、キャビティ15内の空気が排気路21を介して金型10の外部へ排出される。排気路21は、ハウジング3の開口部31とステム4の頭部42との間、付勢部材5が取り囲むステム4の胴部41とハウジング3との間、ステム4の胴部41と貫通孔32aとの間に形成される。成形面1に接するタイヤの外表面によりステム4が押し下げられると、排気路21が閉鎖されてベントプラグ2が閉状態となる。
【0025】
円孔である排気孔16の孔径D16は、円筒状をなすハウジング3の外径D3よりも大きく、排気孔16とハウジング3との間には、それらの径差に応じた隙間6が形成される。図2の状態では、隙間6に接着剤7が充填されていて、それによりベントプラグ2が成形面1に固定されている。かかる金型10は、成形面1に排気孔16を設ける工程で、排気孔16の孔径D16をハウジング3の外径D3よりも大きく形成し、その後の排気孔16にベントプラグ2を装着する工程で、排気孔16とハウジング3との間の隙間6に接着剤7を充填して、ベントプラグ2を成形面1に固定することにより製造できる。
【0026】
このようにハウジング3を排気孔16に隙間嵌めしたうえで、それらを接着剤7で固定しているため、排気孔16への挿入に起因したハウジング3の変形を生じることがなく、スプリングベントであるベントプラグ2の動作不良を防いで、排気性能を適切に確保できる。また、接着剤7が隙間6に充填されることで、孔径D16が多少ばらついても大勢に影響がないため、孔径D16に要求される加工精度は然程にシビアでない。したがって、ハンドドリルによる穿孔のように、加工精度が比較的ルーズな手段によって施工しても問題ない。
【0027】
また、ドリル加工により設けた排気孔16にベントプラグ2を挿入した後、排気孔16に対するリーマ加工を省略し、隙間6に接着剤7を充填してベントプラグ2を固定しても構わない。かかる施工によれば、加工時間や加工コストを低減できて有益である。ドリル加工により設けた排気孔16の内面は、例えば算術平均粗さRaが0.8μm以上となる表面粗さを有する。算術平均粗さRaはJIS B0601:2001に規定され、その評価の方式及び手順はJIS B0633:2001の規定に準拠する。
【0028】
タイヤの加硫成形を繰り返す過程では、ゴミの詰まりや加硫ガスの汚れにより排気性能が低下した場合など、諸般の事情によりベントプラグ2を交換する必要が生じる。ベントプラグ2は、図2の下方から棒状の治具で突き上げることにより排気孔16から取り外すことができる。排気孔16の孔径D16はベントプラグ2の装着によって拡大するものではないため、ハウジング3を取り外した後の排気孔16に同じサイズの新しいハウジングを挿入することに支障はなく、ベントプラグ2の交換は簡便である。
【0029】
また、アルミニウム材などの軽金属からなる成形面にハウジングを圧入した場合には、加硫成形時の加熱状態(例えば150〜200℃)において、熱膨張差による圧縮応力がハウジングに作用し、それに起因してベントプラグが動作不良を起こすことがあった。これに対し、本実施形態の金型10では、そのような熱膨張差により隙間6の変化があれども、ハウジング3よりも軟質な接着剤7が隙間6に充填されていて、その接着剤7の充填部にて応力を緩和しうるため、ベントプラグ2の動作不良を防ぐことができる。
【0030】
排気孔16には、ハウジング3の下端部32を支持する段部17が設けられている。段部17は、排気孔16の孔径を途中で小さくすることにより形成され、下端部32の底面を受け止め可能な段付き形状を有している。このような段部17を設けることにより、ベントプラグ2を排気孔16に装着する際に、排気孔16に隙間嵌めされたハウジング3の脱落を防止できるとともに、ハウジング3の軸方向位置を定めることができる。
【0031】
接着剤7は、隙間6に充填されてベントプラグ2を成形面1に固定しうる限り、特に限定されないものの、施工性を高めるうえで嫌気性接着剤であることが好ましい。ベントプラグ2を排気孔16に装着する際において、成形面1側から隙間6に垂らして注入された嫌気性接着剤は、毛細管現象により隙間6内に行き渡るとともに、金属との接触によって硬化し、ベントプラグ2を成形面1に固定する。嫌気性接着剤は、低粘度であることが好ましく、例えば25℃における粘度がB型粘度計で測定して300mPa・s以下のものが好ましい。
【0032】
加硫成形前の非加熱状態(例えば25℃)において、孔径D16と外径D3との差(D16−D3)は、0.04〜0.1mmであることが好ましい。これにより、ベントプラグ2を排気孔16に装着する際、隙間6に流し込んだ接着剤7が毛細管現象によって周方向や軸方向に行き渡りやすくなり、施工性が向上する。本実施形態では、排気孔16に対してハウジング3が同心的に配置され、隙間6が環状に形成されているが、これに限定されず、排気孔16の内面の一部にハウジング3が接触することで、環状でない隙間6が形成されても構わない。
【0033】
また、上述した差(D16−D3)が0.1mm以下であれば、金型10の成形面1からベントプラグ2への熱伝導を確保しやすくなり、ベントプラグ2の周辺部分での加硫ムラの発生を良好に抑制できる。更に、この差(D16−D3)が0.04mm以上であれば、既述したような熱膨張差に起因してハウジング3に作用する圧縮応力が抑えられるため、ベントプラグ2の動作不良を良好に防止できる。
【0034】
接着性を有する樹脂などは一般的に熱伝導率が低いため、接着剤7に伝熱性付与材を混入して熱伝導率を高めることが好ましい。これにより、ベントプラグ2とその周囲の成形面1との温度差を低減し、ベントプラグ2の近傍での加硫ムラを防止できる。また、排気路21に未加硫ゴムが流入した場合に、その未加硫ゴムに熱量を速やかに伝えて加硫を促し、ゴムバリの成長を抑制できる。伝熱性付与材としては、銀、銅、アルミニウムなどの熱伝導率の高い金属やカーボンの粉末が例示される。その他、アルミナ、窒化アルミニウム、炭化珪素、グラファイトなどの熱伝導率の高いセラミックスの粉末でもよい。
【0035】
この金型10を用いたタイヤの製造方法は、金型10のキャビティ15に未加硫タイヤをセットし、その未加硫タイヤに加熱加圧を施して加硫を行う工程を含む。タイヤは、ブラダーと呼ばれるゴムバッグの膨張によって拡張変形し、その外表面が成形面1に押し当たる。その過程で、タイヤと成形面1との間の空気は、ベントプラグ2の排気路21を通じて外部に排出される。このとき、排気孔16内の空間を吸引機により吸引し、排気性能を高めてもよい。
【0036】
上述したタイヤ加硫金型は、成形面に対してベントプラグを上記の如く装着固定したこと以外は、通常のタイヤ加硫金型と同等であり、従来公知の形状や材質、機構などが何れも本発明に採用することができる。
【0037】
本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。前述の実施形態では、トレッド型部と一対のサイド型部とを備えた金型構造であったが、本発明は、これに限定されず、例えばトレッド型部の中央部で上下に二分割された金型構造にも適用できる。
【符号の説明】
【0038】
1 成形面
2 ベントプラグ
3 ハウジング
4 ステム
5 付勢部材
6 隙間
7 接着剤
10 タイヤ加硫金型
15 キャビティ
16 排気孔
17 段部
21 排気路
図1
図2