【実施例】
【0058】
以下、本発明に係るポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの製造方法の実施例を比較例と共に説明する。
〔実施例1〕
先ず、ポリエーテルエーテルケトン樹脂を160℃に加熱した排気口付きの熱風オーブン中に24時間静置して乾燥させ、
図1に示すポリエーテルエーテルケトン樹脂を幅900mmのTダイスを備えたφ40mmの単軸溶融押出成形機(アイ・ケー・ジー社製)に投入して溶融混練し、溶融混練したポリエーテルエーテルケトン樹脂を単軸溶融押出成形機のTダイスから連続的に押し出し、薄膜のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを帯形に成形した。
【0059】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂の乾燥時の含水率を測定したところ、138ppmであった。このポリエーテルエーテルケトン樹脂の含水率は、微量水分測定装置(三菱化学社製:商品名CA−100型)を用い、カールフィッシャー滴定法により測定した。また、単軸溶融押出成形機は、L/D=25、圧縮比:2.5、スクリュー:フルフライトスクリュータイプとした。単軸溶融押出成形機の温度は380〜420℃、Tダイスの温度は400℃、これら単軸溶融押出成形機とTダイスとを連結する連結管の温度は400℃に調整した。
【0060】
単軸溶融押出成形機にポリエーテルエーテルケトン樹脂を投入する際、単軸溶融押出成形機に窒素ガスを520L/分供給した。また、溶融したポリエーテルエーテルケトン樹脂の温度に関し、Tダイス入口のポリエーテルエーテルケトン樹脂の温度を測定したところ、398℃であった。Tダイスの先端部から金属ロールにポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムが接触する接触始点までの距離は、70mmに調整した。また、金属ロールのポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムとの接触点と金属ロールの中心線とを結ぶ直線lが鉛直線と形成する角度θは、15°に調整した。
【0061】
薄膜のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを帯形に成形したら、ポリエーテルエーテルケトン樹脂の真のせん断粘度と伸長粘度とをそれぞれ測定し、その結果を表1にまとめた。
【0062】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂の真のせん断粘度については、ツインキャピラリーレオメーターR6000(IMATEK社製:商品名)を使用して測定した。具体的には、キャピラリーダイ:φ1.0mm×16mm(ロングダイ)、φ1.0mm×0.25mm(ショートダイ)、バレル径:15mm、温度:390℃において、ポリエーテルエーテルケトン樹脂をバレル内に40g投入し、ロングダイ側:0.9MPa、ショートダイ側:0.3MPaになるまでピストンを50mm/minの速度で押し込み、圧力が所定値の圧力となったら、そのままの状態で6分間保持した。
【0063】
その後、再び、ロングダイ側:0.9MPa、ショートダイ側:0.3MPaになるまでピストンを50mm/minの速度で押し込み、圧力が所定値の圧力となったら、所定の見かけのせん断速度(10、30、50、80、100、300、500、800、1000s
−1)を与えて測定し、真のせん断速度と真のせん断粘度とを求めた。真のせん断速度と真のせん断粘度とを求めたら、真のせん断粘度を縦軸、真のせん断速度の値を横軸にプロットし、真のせん断粘度−真のせん断速度曲線を作成し、この曲線より真のせん断速度が100s
−1の時の真のせん断粘度を読み取った。
【0064】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂の伸長粘度についても、ツインキャピラリーレオメーターR6000(IMATEK社製:商品名)を使用して測定した。具体的には、キャピラリーダイ:φ1.0mm×16mm(ロングダイ)、φ1.0mm×0.25mm(ショートダイ)、バレル径:15mm、温度:390℃において、ポリエーテルエーテルケトン樹脂をバレル内に40g投入し、ロングダイ側:0.9MPa、ショートダイ側:0.3MPaになるまでピストンを50mm/minの速度で押し込み、圧力が所定値の圧力となったら、そのままの状態で6分間保持した。
【0065】
その後、再び、ロングダイ側:0.9MPa、ショートダイ側:0.3MPaになるまでピストンを50mm/minの速度で押し込み、圧力が所定値の圧力となったら、所定の見かけのせん断速度(10、30、50、80、100、300、500、800、1000s
−1)を与えて測定し、真のせん断速度と真のせん断粘度とを求めた。真のせん断速度と真のせん断粘度とを求めたら、真のせん断粘度を縦軸、真のせん断速度の値を横軸にプロットし、真のせん断粘度−真のせん断速度曲線を作成し、伸長速度2〜20s
−1の範囲の時の伸長粘度が7.0×10
4〜7.0×10
5Pa・sの範囲内であった場合を○、外れた場合を×とした。
【0066】
薄膜のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを帯形に成形したら、薄膜のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを、シリコーンゴム製の一対の圧着ロール、140℃に加熱した金属ロール、テンションロール、巻取機の6インチの巻取管に順次巻架し、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの両側部をスリット刃でそれぞれ裁断し、その後、巻取機の巻取管に順次巻き取ることにより、長さ2000m、幅660mmのフィルムを製造した。この際、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの厚さを測定し、その平均値とフィルム厚公差とをそれぞれ求め、その結果を表1にまとめた。
【0067】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの厚さについては、接触式の厚さ計である電子マイクロメータ ミロトン1240(Mahr社製:商品名)を使用して測定した。測定に際しては、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの押出方向と幅方向(押出方向の直角方向)が交わる所定位置の厚みを100箇所測定し、その平均値をフィルム厚とした。押出方向の測定箇所は、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの先端部から100mm間隔で100mm、200mm、300mm、400mm、500mmの位置とした。
【0068】
これに対し、幅方向の測定箇所は、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの左端部から25mm、次いで30mm間隔で55mm、85mm、115mm、145mm、175mm、205mm、235mm、265mm、295mm、325mm、355mm、385mm、415mm、445mm、475mm、505mm、535mm、565mm、595mmの箇所とした。
【0069】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムのフィルム厚公差については、以下の式から求めた。
フィルム厚公差[%]={(MAXまたはMIN)−(AVE)}/(AVE)×100
ここで、MAX:フィルム厚の最大値
MIN:フィルム厚の最小値
AVE:フィルム厚の平均値
求めたフィルム厚公差が±5%以内の場合を◎、±5〜10%以内の場合を○、±10%を越える場合を×とした。
【0070】
〔実施例2〕
ポリエーテルエーテルケトン樹脂を160℃に加熱した排気口付きの熱風オーブン中に24時間静置して乾燥させ、基本的には実施例1と同様にして薄膜のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを帯形に成形し、ポリエーテルエーテルケトン樹脂の真のせん断粘度と伸長粘度とをそれぞれ測定してその結果を表1にまとめた。
【0071】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂の乾燥時の含水率は、156ppmであった。また、溶融したポリエーテルエーテルケトン樹脂の温度に関し、Tダイス入口のポリエーテルエーテルケトン樹脂の温度を測定したところ、396℃であった。Tダイスの先端部から金属ロールにポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムが接触する接触始点までの距離は、30mmに調整した。また、金属ロールのポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムとの接触点と金属ロールの中心線とを結ぶ直線が鉛直線と形成する角度θは、20°に調整した。
【0072】
〔実施例3〕
基本的には実施例1と同様にして薄膜のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを帯形に成形し、ポリエーテルエーテルケトン樹脂の真のせん断粘度と伸長粘度とをそれぞれ測定してその結果を表1にまとめた。
【0073】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂の乾燥時の含水率は、137ppmであった。また、溶融したポリエーテルエーテルケトン樹脂の温度に関し、Tダイス入口のポリエーテルエーテルケトン樹脂の温度を測定した結果、393℃であった。Tダイスの先端部から金属ロールにポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムが接触する接触始点までの距離は、10mmに変更した。また、金属ロールのポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムとの接触点と金属ロールの中心線とを結ぶ直線が鉛直線と形成する角度θは、30°に変更した。
【0074】
〔実施例4〕
先ず、実施例1で使用したポリエーテルエーテルケトン樹脂80質量%とポリフェニルサルホン樹脂20質量%とを樹脂容器に投入し、この樹脂容器に蓋を取り付けてタンブラーミキサーに装着し、このタンブラーミキサーを23℃、1時間の条件で回転させることにより、ポリエーテルエーテルケトン樹脂とポリフェニルサルホン樹脂とを攪拌混合して攪拌混合物を調製した。
【0075】
次いで、攪拌混合物を真空ポンプ付きの高速二軸溶融押出機(池貝社製:商品名PCM30、L/D=35)に供給して減圧下で溶融混練し、高速二軸溶融押出機先端部のダイスから棒形に吐き出させてストランドを形成させた。この際の溶融混練条件は、シリンダー温度:350〜390℃、アダプター温度:390℃、ダイス温度:390℃とした。
【0076】
ストランドを形成したら、このストランドを水冷してペレタイザによりカットし、長さ2〜3mm、直径1〜2mmの成形材料をペレット形に調製し、この成形材料を160℃に加熱した排気口付きの熱風オーブン中に24時間静置して乾燥させるとともに、含水率を175ppmに調整し、成形材料の真のせん断粘度と伸長粘度とをそれぞれ測定してその結果を表1にまとめた。成形材料の含水率は、実施例1と同様の方法により測定した。
【0077】
以下、実施例1と同様にして薄膜のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを帯形に成形した。この際、Tダイスの先端部から金属ロールにポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムが接触する接触始点までの距離は、30mmに変更した。また、金属ロールのポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムとの接触点と金属ロールの中心線とを結ぶ直線が鉛直線と形成する角度θは、20°に変更した。
【0078】
【表1】
【0079】
〔比較例1〕
ポリエーテルエーテルケトン樹脂を160℃に加熱した排気口付きの熱風オーブン中に24時間静置して乾燥させ、基本的には実施例1と同様にして薄膜のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを帯形に成形しようとし、ポリエーテルエーテルケトン樹脂の真のせん断粘度と伸長粘度とをそれぞれ測定してその結果を表2にまとめた。
【0080】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂の乾燥時の含水率は、129ppmであった。また、溶融したポリエーテルエーテルケトン樹脂の温度に関し、Tダイス入口のポリエーテルエーテルケトン樹脂の温度を測定した結果、394℃であった。Tダイスの先端部から金属ロールにポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムが接触する接触始点までの距離は、50mmとした。また、金属ロールのポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムとの接触点と金属ロールの中心線とを結ぶ直線が鉛直線と形成する角度θは、15°とした。
【0081】
Tダイスからポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを押出成形しようとしたが、Tダイスと金属ロールとの間でポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムが破断し、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを製造することができなかった。
【0082】
〔比較例2〕
ポリエーテルエーテルケトン樹脂を160℃に加熱した排気口付きの熱風オーブン中に24時間静置して乾燥させ、基本的には実施例1と同様にして薄膜のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを帯形に成形しようとし、ポリエーテルエーテルケトン樹脂の真のせん断粘度と伸長粘度とをそれぞれ測定してその結果を表2にまとめた。
【0083】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂の乾燥時の含水率は、157ppmであった。また、溶融したポリエーテルエーテルケトン樹脂の温度に関し、Tダイス入口のポリエーテルエーテルケトン樹脂の温度を測定したところ、394℃であった。Tダイスの先端部から金属ロールにポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムが接触する接触始点までの距離は、30mmに変更した。また、金属ロールのポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムとの接触点と金属ロールの中心線とを結ぶ直線が鉛直線と形成する角度θは、20°に変更した。
【0084】
比較例1同様、Tダイスと金属ロールとの間でポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムが破断し、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを製造することができなかった。
【0085】
〔比較例3〕
基本的には実施例1と同様にして薄膜のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを帯形に成形しようとし、ポリエーテルエーテルケトン樹脂の真のせん断粘度と伸長粘度とをそれぞれ測定してその結果を表2にまとめた。
【0086】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂の乾燥時の含水率は、測定の結果、158ppmであった。また、単軸溶融押出成形機の温度は400〜425℃、Tダイスの温度は400℃、これら単軸溶融押出成形機とTダイスとを連結する連結管の温度は420℃に変更した。
【0087】
溶融したポリエーテルエーテルケトン樹脂の温度に関し、Tダイス入口のポリエーテルエーテルケトン樹脂の温度を測定したところ、413℃であった。Tダイスの先端部から金属ロールにポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムが接触する接触始点までの距離は、30mmに変更した。また、金属ロールのポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムとの接触点と金属ロールの中心線とを結ぶ直線が鉛直線と形成する角度θは、20°とした。
【0088】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂の溶融粘度が著しく高いため、Tダイス全面より溶融したポリエーテルエーテルケトン樹脂を押し出すことができず、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを製造できなかった。
【0089】
〔比較例4〕
基本的には実施例1と同様にして薄膜のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを帯形に成形し、ポリエーテルエーテルケトン樹脂の真のせん断粘度と伸長粘度とをそれぞれ測定してその結果を表2にまとめた。
ポリエーテルエーテルケトン樹脂の乾燥時の含水率は、129ppmであった。また、溶融したポリエーテルエーテルケトン樹脂の温度に関し、Tダイス入口のポリエーテルエーテルケトン樹脂の温度を測定したところ、394℃であった。
【0090】
Tダイスの先端部から金属ロールにポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムが接触する接触始点までの距離は、120mmとした。また、金属ロールのポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムとの接触点と金属ロールの中心線とを結ぶ直線が鉛直線と形成する角度θは、30°とした。
【0091】
【表2】
【0092】
実施例1、2、3、4の場合には、厚さが5μm以下であり、しかも、フィルム厚公差が±10%以内のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを高品質に製造することができた。
【0093】
これに対し、比較例1の場合には、伸長粘度が本発明の範囲外なので、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを製造することができなかった。また、比較例2、3の場合には、真のせん断粘度が本発明の範囲外なので、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを製造できなかった。
【0094】
比較例4の場合、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを製造することができたものの、Tダイスの先端部から金属ロールにポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムが接触する接触始点までの距離が100mmを越えるので、フィルム厚公差が±10%を越えてしまった。したがって、高品質のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを得ることができなかった。