(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した表面処理ステンレス材をキッチン天板として使用する場合、調理の作業の過程で水や調味料等が付着し、それをふきん等で拭き取る作業が発生する。また、それらが付着した箇所によっては汚れとして固着するため、ふきんや、ステンレスのたわし等を用いて擦って除去する作業も発生し得る。このような作業の繰り返しにより、キッチン天板の表面に多くの細かな擦り傷が発生してしまう。
【0006】
またキッチン天板はキッチンの使用者の目にとまりやすい場所であるため、こうして発生した擦り傷は目立ち、キッチン天板の外観を損なう原因となっていた。
【0007】
一方シンクの中においては、水や調味料が付着しても流水によって洗い流すことができ、また常に水が流れる場所であるため、そもそも汚れの固着といった現象があまり発生し得ない。細かな擦り傷に耐えうる性能はキッチン天板にこそ必要である。
【0008】
また、こうした擦り傷の発生を防止するため各種コーティングを用いることが考えられるが、この場合コーティングに透明感が無いとステンレス材の意匠性を損なうことになるため、透明度の高いコーティングを採用する必要がある。
【0009】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、高い硬度と透明度とを有するコーティング層を備えることで、キッチン天板に用いた場合でも良好な外観を維持しつつ擦り傷の発生を効果的に防止することのできる表面処理ステンレス材及びこれを用いたキッチン天板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上述した課題を解決するために、高い硬度と透明度とを有するコーティング層を備えることで、キッチン天板に用いた場合でも良好な外観を維持しつつ擦り傷の発生を効果的に防止することのできる表面処理ステンレス材及びこれを用いたキッチン天板を発明した。
【0011】
第1発明に係る表面処理ステンレス材は、ステンレス層の表面にコーティング層が形成された表面処理ステンレス材であって、前記コーティング層は、前記ステンレス層の表面に形成されたSi
とZrとを含む第1層と、前記第1層の表面に形成された、SiをSiO
2換算で1〜20質量部の割合で含む水溶液を塗布
することにより、表面にOH基を生成するための第2層と、により構成され、
第1層及び第2層におけるSiO2/ZrO2が8.49以上12.89以下であり、膜厚が0.68μm以上1.10μm以下であることを特徴とする。
【0012】
第2発明に係る表面処理ステンレス材は、第1発明に係る表面処理ステンレス材において、
前記第2層はさらにLi及びNaを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
上述した構成からなる本発明によれば、高い硬度と透明度とを有するコーティング層を備えた表面処理ステンレス材とすることで、キッチン天板に用いた場合でも良好な外観を維持しつつ擦り傷の発生を効果的に防止することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態としての表面処理ステンレス材について詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る表面処理ステンレス材1を示す断面図である。
図2は、
図1の表面処理ステンレス材の化学構成を示す模式図である。
【0019】
本実施形態に係る表面処理ステンレス材1は、ステンレス層2と、ステンレス層2の表面に形成されたコーティング層としてステンレス層2の表面に直接形成された第1層3及び第1層3の表面に形成された第2層4とにより構成されている。
【0020】
ステンレス層2は、SUS304等のステンレス製の板状の部材で構成されている。このステンレス層2として、本実施形態に係る表面処理ステンレス材1では表面に何ら処理を施していないステンレス層2が想定されている。しかし、本発明はこれに限らず、エンボス加工や、冷間圧延後に砥粒の研磨ベルトによる研磨等を行ったステンレス層2を用いてもよい。
【0021】
ステンレス層2の表面にエンボス加工等を施すことにより、コーティング層により生じる虹色の光沢を目立たなくし、ステンレス素材の質感を強調することができる。
【0022】
第1層3は、ZrとSiとが混合された溶液を塗布することで形成されている。この第1層3は、ステンレス層2と第2層4とを結びつける作用を奏する。
【0023】
第2層4は、SiをSiO
2換算で1〜20質量部含むとともに、LiおよびNaを含むアルカリ水溶液を塗布して形成される、表面に−SiO
2基を有する親水性の皮膜である。
【0024】
こうした水溶液として、オルトケイ酸及びその縮合酸並びに二酸化ケイ素(SiO
2)及びその水和物のいずれかを含む。また、副成分としてZrO
2、TiO
2、Al
2O
3、B
2O
3、CaO、ZnO、MgO、Na
2O、K
2O等の無機成分を含有している。また、無機バインダーとして公知であるコロイダルシリカやケイ酸エチルを含有していてもよい。
【0025】
上記アルカリ水溶液は、上述したようにSiをSiO
2換算で1〜20質量部含んでいる。これにより、第2層4の表面にOH基が生成され、親水性を呈する。この親水性は、接触角が20°以下となる程度の親水性であることが望ましい。なお、SiがSiO
2換算で20質量部を超えるとざらざらとした外観の表面となりやすく、1部未満であると親水性被膜が消失しやすくなる。
【0026】
次に、上述した構成を有する表面処理ステンレス材1の製造方法について説明する。
【0027】
まず、ステンレス層2について、表面の脱脂処理等が行われる。
【0028】
次に、第1層3として、ZrとSiとが混合された溶液の塗布が行われる。この塗布は、スプレー、刷毛塗り、ディッピング等により行われる。
【0029】
次に、第1層3の塗布後、自然乾燥が行われ、更に200度以上の高温で20分以上加熱処理する第1加熱工程が行われる。
【0030】
次に、第2層4として、SiをSiO2換算で1〜20質量部含むとともに、LiおよびNaを含む水溶液の塗布が行われる。この塗布も、スプレー、刷毛塗り、ディッピング等により行われる。
【0031】
なお、Si(SiO2換算)、Na(NaO2換算)及びLi(Li2O換算)の各成分の測定は、いずれもJIS K 0400−52−30(水質−誘導結合プラズマ発光分光分析)に準拠して行われた。
【0032】
次に、第2層4の塗布後、自然乾燥が行われ、更に200度以上の高温で20分以上加熱処理する第2加熱工程が行われる。
【0033】
なお、第1層3及び第2層4の塗布において、各溶液の粒子径は、可視光に対して透明となることが重要である。つまり、可視光の波長より小さいナノ粒子による散乱はリレー散乱が主となり、可視光波長、すなわち380nm〜780nmの1/4以下の粒径の場合には高い透明性を得ることができる。
【0034】
そのため、第1層3及び第2層4の塗布において、各溶液の粒子径は、可視光波長の1/4以下の粒径である、95nm以下となるように行われている。
【0035】
こうして製造される表面処理ステンレス1の実施例について、以下に説明する。
【0037】
表1は、上述した製造方法により製造された表面処理ステンレス材1であって、第1層3と第2層4の塗布量を変化させることで膜厚(μm)、ZrO
2量(mg/m2)及びSiO
2量(mg/m2)を変化させた5つの試験体について、それぞれ傷付き性評価試験、表面の意匠性評価試験、表面の滑らかさ評価試験及び耐衝撃性評価試験を行った結果を示している。
【0038】
膜厚(μm)は、コーティング層としての第1層3と第2層4を合わせた膜厚であり、加熱工程後のものを示している。この膜厚の測定は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて行われた。
【0039】
ZrO
2量(mg/m2)及びSiO
2量(mg/m2)の測定も、SEMを用いた元素分析により行われた。
【0040】
傷付き性評価試験は、市販のステンレスたわしに3kgの荷重をかけて表面処理ステンレス材1の表面を100回、円状に擦った後目視確認することで行われた。
【0041】
表面の意匠性評価試験は、目視確認により表面処理ステンレス材1の表面の異常を確認することで行われた。
【0042】
表面の滑らかさ評価試験は、実験者が表面処理ステンレス材1の表面を手で触ることで行われた。
【0043】
耐衝撃性評価試験は、1kgの重りを1mの高さから表面処理ステンレス材1に落下させることで行われた。
【0044】
上記各試験を行った結果、傷付き性評価試験では試験体1について傷の発生が見受けられた。
【0045】
また、表面の意匠性評価試験では、試験体5について、コーティング層の白濁が見受けられた。
【0046】
また、表面の滑らかさ評価試験でも、試験体5について、表面にざらつきの発生が見受けられた。
また、耐衝撃性評価試験についても、試験体5について、コーティング層の割れの発生が見受けられた。
【0047】
以上の結果から、コーティング層の膜厚が0.68μm以上1.10μm以下の範囲にあれば、傷付き性評価試験、表面の意匠性評価試験、表面の滑らかさ評価試験及び耐衝撃性評価試験の全てにおいて良好な結果を得ることができることが判明した。
【0048】
また、この結果及び更なる試験の結果に基づき、上記膜厚のコーティング層に含まれるSiO
2量(mg/m2)は、1000≦SiO2≦2000の範囲、好ましくは1071.3≦SiO2≦1357.0の範囲となる場合、上記各試験において良好な結果を得られることが判明した。
【0049】
また、上述した試験体2〜4に係る表面処理ステンレス材1のコーティング層は、いずれも接触角が20°以下となっていた。
【0050】
上述した実施形態に係る表面処理ステンレス材1によると、キッチン天板に用いた場合でも細かな擦り傷の発生を防止することのできる硬度と高い透明度を有するコーティング層を備えているため、擦り傷と虹色の発生を防止し、良好な外観を維持することが可能となる。
【0051】
なお、上述した表面処理ステンレス材1は、キッチン天板の他、洗面台や浴室の壁面等に対しても用いることができ、これらに用いた場合でも、同様の効果を奏することができる。