特許第6087266号(P6087266)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6087266
(24)【登録日】2017年2月10日
(45)【発行日】2017年3月1日
(54)【発明の名称】蒸発燃料処理装置
(51)【国際特許分類】
   F02M 25/08 20060101AFI20170220BHJP
【FI】
   F02M25/08 D
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-252871(P2013-252871)
(22)【出願日】2013年12月6日
(65)【公開番号】特開2015-110913(P2015-110913A)
(43)【公開日】2015年6月18日
【審査請求日】2016年3月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000116574
【氏名又は名称】愛三工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田川 直行
(72)【発明者】
【氏名】秋田 実
(72)【発明者】
【氏名】宮部 善和
【審査官】 小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−256778(JP,A)
【文献】 特開2011−144848(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0211687(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 47/00−47/06、49/00
F02M 25/00−25/14、37/00−37/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンク内で発生した蒸発燃料を吸着する吸着材を備えるキャニスタと、前記キャニスタと前記燃料タンクとをつなぐベーパ通路に設けられている封鎖弁と、前記キャニスタとエンジンの吸気通路とをつなぐパージ通路とを備える蒸発燃料処理装置であって、
前記封鎖弁は、弁座に対する弁可動部の軸方向距離であるストローク量が零から所定範囲内にあるときが閉弁状態で前記燃料タンクを密閉状態に保持可能であり、前記ストローク量を開弁方向に変化させて前記燃料タンクの内圧が所定値以上低下したときの前記ストローク量に基づいて開弁開始位置を学習できるように構成されており、
前記燃料タンクの内圧がその燃料タンクの内圧を検出する圧力センサの測定範囲を超えている場合には、前記開弁開始位置の学習を禁止し、前記燃料タンクの内圧が前記圧力センサの測定範囲に納まるまで、前記封鎖弁の前記ストローク量を開弁方向に徐々に変化させて学習前圧抜き制御を行なうことを特徴とする蒸発燃料処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載された蒸発燃料処理装置であって、
前記キャニスタとエンジンの吸気通路とをつなぐパージ通路が閉じられているときは、前記封鎖弁が閉弁状態に保持されて前記学習前圧抜き制御が行なわれないことを特徴とする蒸発燃料処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載された蒸発燃料処理装置であって、
前記学習前圧抜き制御の途中で、前記パージ通路が閉じられて、前記学習前圧抜き制御が中断される場合には、前記封鎖弁が閉じられる前のストローク量を記憶し、前記パージ通路が再び開かれたときに、前記封鎖弁が閉じられる前に記憶した記憶ストローク量まで前記封鎖弁を速やかに動作させ、その後、前記学習前圧抜き制御が再開されることを特徴とする蒸発燃料処理装置。
【請求項4】
請求項2に記載された蒸発燃料処理装置であって、
前記学習前圧抜き制御の途中で、前記パージ通路が閉じられて、前記学習前圧抜き制御が中断される場合には、前記封鎖弁が閉じられる前のストローク量を記憶し、前記パージ通路が再び開かれた場合に、前記封鎖弁が閉じられる前に記憶した記憶ストローク量を前記学習前圧抜き制御の中断時間に基づいて補正した補正ストローク量まで前記封鎖弁を速やかに動作させ、その後、前記学習前圧抜き制御が再開されることを特徴とする蒸発燃料処理装置。
【請求項5】
請求項4に記載された蒸発燃料処理装置であって、
前記学習前圧抜き制御の中断時間が長くなるにつれて補正ストローク量は閉弁状態のストローク量に近づくことを特徴とする蒸発燃料処理装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載された蒸発燃料処理装置であって、
前記学習前圧抜き制御が行なわれて、前記燃料タンクの内圧が前記圧力センサの測定範囲に納まった後、前記封鎖弁の開弁開始位置の学習が行なわれることを特徴とする蒸発燃料処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料タンク内で発生した蒸発燃料を吸着する吸着材を備えるキャニスタと、前記キャニスタと前記燃料タンクとをつなぐベーパ通路に設けられている封鎖弁と、前記キャニスタとエンジンの吸気通路とをつなぐパージ通路とを備える蒸発燃料処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
これに関連する従来の蒸発燃料処理装置が特許文献1に記載されている。
特許文献1の蒸発燃料処理装置は、キャニスタと燃料タンクとをつなぐベーパ通路に封鎖弁(制御バルブ)を備えている。前記封鎖弁は、蒸発燃料を遮断する不感帯領域(閉弁領域)と、蒸発燃料を通過させる導通領域(開弁領域)とを備えており、閉弁状態で燃料タンクを密閉状態に保持し、開弁状態で燃料タンクの蒸発燃料をキャニスタ側に逃がし、燃料タンクの内圧を低下させられるように構成されている。
特許文献1の蒸発燃料処理装置は、封鎖弁の開度を閉弁位置から所定速度で開方向に変化させて、燃料タンクの内圧が低下し始めたときに、封鎖弁の開度を開弁開始位置として記憶する学習制御を行なっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−256778号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、例えば、燃料タンクの実際の内圧がその燃料タンクの内圧を検出する圧力センサの測定範囲を超えている場合に、封鎖弁(制御バルブ)の開弁開始位置の学習を実施すると、燃料タンクの内圧が低下し始めたタイミングを圧力センサで正確に検出することはできない。このため、封鎖弁(制御バルブ)の開弁開始位置を誤って学習するようになり、封鎖弁(制御バルブ)を使用して燃料タンクの圧力制御を行う際に、制御が不安定になる。
【0005】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、圧力センサの動作不良による封鎖弁の開弁開始位置の誤学習を防止できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題は、各請求項の発明によって解決される。
請求項1の発明は、燃料タンク内で発生した蒸発燃料を吸着する吸着材を備えるキャニスタと、前記キャニスタと前記燃料タンクとをつなぐベーパ通路に設けられている封鎖弁と、前記キャニスタとエンジンの吸気通路とをつなぐパージ通路とを備える蒸発燃料処理装置であって、前記封鎖弁は、弁座に対する弁可動部の軸方向距離であるストローク量が零から所定範囲内にあるときが閉弁状態で前記燃料タンクを密閉状態に保持可能であり、前記ストローク量を開弁方向に変化させて前記燃料タンクの内圧が所定値以上低下したときの前記ストローク量に基づいて開弁開始位置を学習できるように構成されており、前記燃料タンクの内圧がその燃料タンクの内圧を検出する圧力センサの測定範囲を超えている場合には、前記開弁開始位置の学習を禁止し、前記燃料タンクの内圧が前記圧力センサの測定範囲に納まるまで、前記封鎖弁の前記ストローク量を開弁方向に徐々に変化させて学習前圧抜き制御を行なうことを特徴とする。
【0007】
本発明によると、燃料タンクの内圧が圧力センサの測定範囲を超えている場合には封鎖弁の開弁開始位置の学習が禁止されるため、圧力センサの動作不良による誤学習を防止できる。
また、燃料タンクの内圧が圧力センサの測定範囲に納まるまで、封鎖弁のストローク量を開弁方向に徐々に変化させて学習前圧抜き制御を行なうため、燃料タンクの内圧が急激に低下することがない。このため、燃料タンクの内圧が圧力センサの測定範囲に納まった後、封鎖弁の開弁開始位置の学習を正常に行なえるようになる。
【0008】
請求項2の発明によると、キャニスタとエンジンの吸気通路とをつなぐパージ通路が閉じられているときは、封鎖弁が閉弁状態に保持されて学習前圧抜き制御が行なわれないことを特徴とする。
このため、燃料タンクからベーパ通路を介してキャニスタ内に流入した蒸発燃料がキャニスタ内に充満し、キャニスタから大気に漏れ出るようなことがない。
【0009】
請求項3の発明によると、学習前圧抜き制御の途中で、パージ通路が閉じられて、学習前圧抜き制御が中断される場合には、前記封鎖弁が閉じられる前のストローク量を記憶し、前記パージ通路が再び開かれたときに、前記封鎖弁が閉じられる前に記憶した記憶ストローク量まで前記封鎖弁を速やかに動作させ、その後、前記学習前圧抜き制御が再開されることを特徴とする。
このため、前記学習前圧抜き制御が再開された場合に、封鎖弁を閉弁状態のストローク量から徐々に開弁方向に動作させる場合と比較して、早く燃料タンクの圧抜きを行なえるようになる。
【0010】
請求項4の発明によると、学習前圧抜き制御の途中で、パージ通路が閉じられて、学習前圧抜き制御が中断される場合には、前記封鎖弁が閉じられる前のストローク量を記憶し、前記パージ通路が再び開かれた場合に、前記封鎖弁が閉じられる前に記憶した記憶ストローク量を前記学習前圧抜き制御の中断時間に基づいて補正した補正ストローク量まで前記封鎖弁を速やかに動作させ、その後、前記学習前圧抜き制御が再開されることを特徴とする。
請求項5の発明によると、学習前圧抜き制御の中断時間が長くなるにつれて補正ストローク量は閉弁状態のストローク量に近づくことを特徴とする。
このため、学習前圧抜き制御の中断時間が長い場合には、学習前圧抜き制御が再開される際の封鎖弁の補正ストローク量は記憶ストローク量よりも小さくなる。このため、燃料タンク内で発生した蒸発燃料が学習前圧抜き制御の再開により、急激にキャニスタ内に流入することがなくなる。このため、キャニスタに流入した蒸発燃料がパージ通路を介して急激にエンジンに流入することがなく、急な空燃比の変動を抑えることができる。
【0011】
請求項6の発明によると、学習前圧抜き制御が行なわれて、前記燃料タンクの内圧が前記圧力センサの測定範囲に納まった後、前記封鎖弁の開弁開始位置の学習が行なわれることを特徴とする。
このため、封鎖弁の開弁開始位置の学習を正確に行なえるようになる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、圧力センサの動作不良による封鎖弁の開弁開始位置の誤学習を防止できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態1に係る蒸発燃料処理装置の全体構成図である。
図2】前記蒸発燃料処理装置で使用される封鎖弁のイニシャライズ状態を表す縦断面図である。
図3】前記封鎖弁の閉弁状態を表す縦断面図である。
図4】前記封鎖弁の開弁状態を表す縦断面図である。
図5】学習前圧抜き制御を表すグラフである。
図6】学習前圧抜き制御のスローチャートである。
図7】変更例1に係る学習前圧抜き制御を表すグラフである。
図8】変更例1に係る学習前圧抜き制御のフローチャートである。
図9】変更例2に係る学習前圧抜き制御を表すグラフである。
図10】変更例2に係る学習前圧抜き制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[実施形態1]
以下、図1から図10に基づいて本発明の実施形態1に係る蒸発燃料処理装置20の説明を行なう。本実施形態の蒸発燃料処理装置20は、図1に示すように、車両のエンジンシステム10に備えられており、車両の燃料タンク15で発生した蒸発燃料が外部に漏れ出ないようにするための装置である。
【0015】
<蒸発燃料処理装置20の構造概要について>
蒸発燃料処理装置20は、図1に示すように、キャニスタ22と、そのキャニスタ22に接続されたベーパ通路24、パージ通路26、及び大気通路28とを備えている。
キャニスタ22内には、吸着材としての活性炭(図示省略)が装填されており、燃料タンク15内の蒸発燃料を前記吸着材により吸着できるように構成されている。
ベーパ通路24の一端部(上流側端部)は、燃料タンク15内の気層部と連通されており、ベーパ通路24の他端部(下流側端部)がキャニスタ22内と連通されている。そして、ベーパ通路24の途中にはベーパ通路24を連通・遮断する封鎖弁40(後記する)が介装されている。
また、パージ通路26の一端部(上流側端部)は、キャニスタ22内と連通されており、パージ通路26の他端部(下流側端部)がエンジン14の吸気通路16におけるスロットルバルブ17よりも下流側通路部と連通されている。そして、パージ通路26の途中にはパージ通路26を連通・遮断するパージ弁26vが介装されている。
さらに、キャニスタ22は故障検出に使用されるOBD用部品28vを介して大気通路28が連通されている。大気通路28の途中にはエアフィルタ28aが介装されており、大気通路28の他端部は大気に開放されている。
前記封鎖弁40、パージ弁26v及びOBD用部品28vは、ECU19からの信号に基づいて制御される。
さらに、ECU19には、燃料タンク15内の圧力を検出するタンク内圧センサ15p等の信号が入力される。
【0016】
<蒸発燃料処理装置20の動作概要について>
次に、蒸発燃料処理装置20の基本的動作について説明する。
車両の駐車中は、封鎖弁40が閉弁状態に維持される。このため、燃料タンク15の蒸発燃料がキャニスタ22内に流入することはない。そして、駐車中に車両のイグニッションスイッチがオンされると、封鎖弁40の開弁開始位置を学習する学習制御が行われる(後記する)。
また、車両の駐車中は、パージ弁26vは閉弁状態に維持されてパージ通路26は遮断状態となり、大気通路28は連通状態に維持される。
車両の走行中は、所定のパージ条件が成立する場合に、ECU19がキャニスタ22に吸着されている蒸発燃料をパージさせる制御を実行する。この制御では、キャニスタ22を大気通路28により大気に連通させたまま、パージ弁26vが開閉制御される。パージ弁26vが開弁されると、エンジン14の吸気負圧がパージ通路26を介してキャニスタ22内に作用する。これにより、キャニスタ22内に大気通路28から空気が流入するようになる。さらに、パージ弁26vが開弁されると、封鎖弁40が開弁方向に動作して燃料タンク15の圧抜き制御が行なわれる。これにより、キャニスタ22内にベーパ通路24から燃料タンク15内の気体が流入するようになる。この結果、キャニスタ22内の吸着材がキャニスタ22に流入する空気等によりパージされ、前記吸着材から離脱した蒸発燃料が空気と共にエンジン14の吸気通路16に導かれて、エンジン14内で燃焼される。
【0017】
<封鎖弁40の基本構造について>
封鎖弁40は、閉弁状態でベーパ通路24を封鎖し、開弁状態でベーパ通路24を流れる気体の流量を制御する流量制御弁であり、図2に示すように、バルブケーシング42とステッピングモータ50とバルブガイド60とバルブ体70とを備えている。
バルブケーシング42には、弁室44、流入路45及び流出路46により、一連状をなす逆L字状の流体通路47が構成されている。また、弁室44の下面すなわち流入路45の上端開口部の口縁部には、弁座48が同心状に形成されている。
前記ステッピングモータ50は、前記バルブケーシング42の上部に設置されている。前記ステッピングモータ50は、モータ本体52と、そのモータ本体52の下面から突出し、正逆回転可能に構成された出力軸54を有している。出力軸54は、バルブケーシング42の弁室44内に同心状に配置されており、その出力軸54の外周面に雄ネジ部54nが形成されている。
【0018】
バルブガイド60は、円筒状の筒壁部62と筒壁部62の上端開口部を閉鎖する上壁部64とから有天円筒状に形成されている。上壁部64の中央部には筒軸部66が同心状に形成されており、その筒軸部66の内周面に雌ネジ部66wが形成されている。前記バルブガイド60は、前記バルブケーシング42に対して、回り止め手段(図示省略)により軸回り方向に回り止めされた状態で軸方向(上下方向)に移動可能に配置されている。
バルブガイド60の筒軸部66の雌ネジ部66wには、前記ステッピングモータ50の出力軸54の雄ネジ部54nが螺合されており、ステッピングモータ50の出力軸54の正逆回転に基いて、バルブガイド60が上下方向(軸方向)に昇降移動可能に構成されている。
前記バルブガイド60の周囲には、そのバルブガイド60を上方へ付勢する補助スプリング68が介装されている。
【0019】
前記バルブ体70は、円筒状の筒壁部72と筒壁部72の下端開口部を閉鎖する下壁部74とから有底円筒状に形成されている。下壁部74の下面には、例えば、円板状のゴム状弾性材からなるシール部材76が装着されている。
前記バルブ体70は、前記バルブガイド60内に同心状に配置されており、そのバルブ体70のシール部材76がバルブケーシング42の弁座48の上面に対して当接可能に配置されている。バルブ体70の筒壁部72の上端外周面には、円周方向に複数個の連結凸部72tが形成されている。そして、バルブ体70の連結凸部72tがバルブガイド60の筒壁部62の内周面に形成された縦溝状の連結凹部62mと一定寸法だけ上下方向に相対移動可能な状態で嵌合している。そして、バルブガイド60の連結凹部62mの底壁部62bがバルブ体70の連結凸部72tに対して下方から当接した状態で、バルブガイド60とバルブ体70とが一体で上方(開弁方向)に移動可能となる。
また、前記バルブガイド60の上壁部64と前記バルブ体70の下壁部74との間には、バルブガイド60に対してバルブ体70を常に下方、即ち、閉弁方向へ付勢するバルブスプリング77が同心状に介装されている。
【0020】
<封鎖弁40の基本動作について>
次に、封鎖弁40の基本動作について説明する。
封鎖弁40は、ECU19からの出力信号に基づいてステッピングモータ50を開弁方向、あるいは閉弁方向に予め決められたステップ数だけ回転させる。そして、ステッピングモータ50が予め決められたステップ数だけ回転することで、ステッピングモータ50の出力軸54の雄ネジ部54nとバルブガイド60の筒軸部66の雌ネジ部66wとの螺合作用により、バルブガイド60が上下方向に予め決められたストローク量だけ移動するようになる。
前記封鎖弁40では、例えば、全開位置においてステップ数が約200Step、ストローク量が約5mmとなるように設定されている。
封鎖弁40のイニシャライズ状態(初期状態)では、図2に示すように、バルブガイド60が下限位置に保持されて、そのバルブガイド60の筒壁部62の下端面がバルブケーシング42の弁座48の上面に対して当接している。また、この状態で、バルブ体70の連結凸部72tは、バルブガイド60の連結凹部62mの底壁部62bに対して上方に位置しており、バルブ体70のシール部材76はバルブスプリング77のバネ力により、バルブケーシング42の弁座48の上面に押付けられている。即ち、封鎖弁40は全閉状態に保持されている。そして、このときのステッピングモータ50のステップ数が0Stepであり、バルブガイド60の軸方向(上方向)の移動量、即ち、開弁方向のストローク量が0mmとなる。
また、車両の駐車中等では、封鎖弁40のステッピングモータ50がイニシャライズ状態から開弁方向に、例えば、4Step回転する。これにより、ステッピングモータ50の出力軸54の雄ネジ部54nとバルブガイド60の筒軸部66の雌ネジ部66wとの螺合作用でバルブガイド60が約0.1mm上方に移動し、バルブケーシング42の弁座48から浮いた状態に保持される。これにより、気温等の環境変化で封鎖弁40のバルブガイド60とバルブケーシング42の弁座48間に無理な力が加わり難くなる。
なお、この状態で、バルブ体70のシール部材76はバルブスプリング77のバネ力により、バルブケーシング42の弁座48の上面に押付けられている。
【0021】
ステッピングモータ50が4Step回転した位置からさらに開弁方向に回転すると、前記雄ネジ部54nと雌ネジ部66wとの螺合作用でバルブガイド60が上方に移動し、図3に示すように、バルブガイド60の連結凹部62mの底壁部62bがバルブ体70の連結凸部72tに下方から当接する。そして、バルブガイド60がさらに上方に移動することで、図4に示すように、バルブ体70がバルブガイド60と共に上方に移動し、バルブ体70のシール部材76がバルブケーシング42の弁座48から離れるようになる。これにより、封鎖弁40が開弁される。
ここで、封鎖弁40の開弁開始位置は、バルブ体70に形成された連結凸部72tの位置公差、バルブガイド60の連結凹部62mに形成された底壁部62bの位置公差等により、封鎖弁40毎に異なるため、正確に開弁開始位置を学習する必要がある。この学習を行なうのが学習制御であり、封鎖弁40のステッピングモータ50を開弁方向に回転(ステップ数を増加)させながら燃料タンク15の内圧が所定値以上低下したタイミングに基づいて開弁開始位置のステップ数を検出する。
このように、封鎖弁40が閉弁状態のときはバルブガイド60が本発明の弁可動部に相当し、封鎖弁40が開弁状態のときはバルブガイド60とバルブ体70とが本発明の弁可動部に相当する。
また、ステッピングモータ50のステップ数の変化は、バルブガイド60、及びバルブ体70のストローク量(軸方向の移動量)を表しているため、以後、ステップ数とストローク量とは同意語として使用する。
【0022】
<封鎖弁40の学習前圧抜き制御について>
次に、図5から図10に基づいて、封鎖弁40の学習前圧抜き制御について説明する。
上記したように、封鎖弁40の開弁開始位置の学習は、封鎖弁40のステッピングモータ50を開弁方向に回転(ステップ数を増加)させ、燃料タンク15の内圧の低下を監視しながら行なう。そして、燃料タンク15の内圧が所定値以上低下したタイミングにおける封鎖弁40のステップ数に基づいて開弁開始位置のステップ数(ストローク量)が求められる。このため、封鎖弁40の開弁開始位置の学習を正確に行なうためには、タンク内圧センサ15pが燃料タンク15の内圧(タンク内圧)を正確に検出し、その検出信号をECU19に入力することが前提となる。
しかし、例えば、燃料タンク15の内圧(タンク内圧)が高く、タンク内圧センサ15pの測定範囲を超えている場合も考えられる。この状態では、封鎖弁40の開弁が開始されて、タンク内圧が所定値以上低下したとしても、タンク内圧センサ15pがタンク内圧の低下を検出できず、正確に封鎖弁40の開弁開始位置の学習を行なうことはできない。
これを防止するため、タンク内圧がタンク内圧センサ15pの測定範囲を超えている場合には、学習前圧抜き制御が行なわれる。
【0023】
学習前圧抜き制御は、図5、及び図6のフローチャートに示す手順に基づいて実施される。
ここで、図6のフローチャートに示す処理は、ECU19の記憶装置に格納されたプログラムに基づいて所定時間毎に繰り返し実行される。
先ず、図6のステップS101で、タンク内圧がタンク内圧センサ15pの測定範囲を超えているか否か、即ち、タンク内圧センサ15pの出力信号が上限値を超えているか否かが判定される。タンク内圧がタンク内圧センサ15pの測定範囲を超えているか否かは、センサ値張り付きフラグのオン、オフにより確認する。
現時点が、例えば、図5のタイミングT1であると考えると、実際のタンク内圧がタンク内圧センサ15pの測定範囲を超えているため(図6 ステップS101 YES)、ステップS102でタンク内圧センサ15pの値が圧抜き終了レベルPsに達しているか否かが判定される。
ここで、センサ値張り付きフラグがオンすると、タンク内圧が圧抜き終了レベルPsに到達するまで、センサ値張り付きフラグのオン状態が保持される。また、抜き終了レベルPsとは、タンク内圧センサ15pの測定範囲内に納まるタンク内圧であり、タンク内圧センサ15pの上限値よりも一定量小さな値である。
タイミングT1では、タンク内圧センサ15pの値が圧抜き終了レベルPsよりも十分高いため(ステップS102 NO)、ステップS103でパージ実行フラグがオンしているか否かが判定される。
ここで、パージ実行フラグとは、キャニスタ22の所定のパージ条件が成立する場合にオンするフラグであり、パージ実行フラグがオンしているときにECU19がパージ弁26vを開弁してキャニスタ22とエンジン14の吸気通路16とを連通させるパージ通路26を開放する。また、パージ実行フラグがオフのときには、パージ弁26vが閉弁してパージ通路26が閉鎖されている。
タイミングT1では、パージ実行フラグがオフであるため(ステップS103 NO)、封鎖弁40は閉弁状態に保持される(ステップS105)。この状態では、ベーパ通路24が閉鎖されて、燃料タンク15の圧抜きは行なわれない。したがって、燃料タンク15の蒸発燃料がベーパ通路24を通ってキャニスタ22内に流入することはない。
このようにして、図6のステップS101〜S103、S105の処理が繰り返されて閉弁処理が実行されているときに、図5のタイミングT2でパージ実行フラグがオンすると(ステップS103 YES)、封鎖弁40の開弁処理が実行される(ステップS104)。
【0024】
封鎖弁40の開弁処理では、図5に示すように、ステッピングモータ50がAStep(例えば、1Step)だけ開弁方向に回転して一定時間TA(例えば、TA=1sec)維持する工程が繰り返し実行される。これにより、封鎖弁40のストローク量が閉弁状態から開弁方向に徐々に変化して、燃料タンク15の圧抜きが行われる。即ち、燃料タンク15内の気体がベーパ通路24、封鎖弁40を通ってキャニスタ22側に逃がされ、タンク内圧が徐々に低下するようになる。そして、燃料タンク15の圧抜きにより、ベーパ通路24を通ってキャニスタ22内に導かれた蒸発燃料はパージ通路26を通ってエンジン14の吸気通路16に導かれる。
このようにして、図6のステップS101〜S104の処理が繰り返し実行されで燃料タンク15の圧抜きが行なわれているときに(開弁処理中に)、図5のタイミングT3に示すように、パージ実行フラグがオフすると(ステップS103 NO)、封鎖弁40の閉弁処理が実行される(ステップS105)。これにより、ベーパ通路24が閉鎖されて、燃料タンク15の圧抜きが中断される。
【0025】
そして、ステップS101〜S103、S105の処理が繰り返し実行されて、封鎖弁40が閉弁状態のときに、図5のタイミングT4でパージ実行フラグがオンすると(ステップS103 YES)、封鎖弁40の開弁処理が再開される(ステップS104)。即ち、上記したように、ステッピングモータ50がAStep(例えば、1Step)だけ開弁方向に回転して一定時間TA(例えば、TA=1sec)維持する工程が繰り返し実行され、燃料タンク15の圧抜きが行なわれる。
そして、燃料タンク15の圧抜きにより、タンク内圧が徐々に低下してタンク内圧センサ15pの値が圧抜き終了レベルPsに達すると(図5タイミングT5、図6ステップS102 YES)、封鎖弁40の閉弁処理が実行される(ステップS105)。この状態で、学習前圧抜き制御が終了する。そして、この後、封鎖弁40の開弁開始位置の学習制御が行なわれる。
ここで、学習前圧抜き制御が終了した時点では、封鎖弁40は、例えば、スタンバイ位置に保持される。スタンバイ位置とは、過去の学習制御で求められた封鎖弁40の開弁開始位置の学習値(Step数)からステッピングモータ50が閉弁方向に8Step回転した位置である。このため、封鎖弁40がスタンバイ位置で開弁方向の信号を受ければ速やかに開弁が可能となる。
即ち、前記タンク内圧センサ15pが本発明の圧力センサに相当する。
【0026】
<本実施形態に係る蒸発燃料処理装置20の長所>
本実施形態に係る蒸発燃料処理装置20によると、燃料タンク15の内圧がタンク内圧センサ15pの測定範囲を超えている場合には封鎖弁40の開弁開始位置の学習が禁止されるため、タンク内圧センサ15pの動作不良による誤学習を防止できる。
また、燃料タンク15の内圧がタンク内圧センサ15pの測定範囲に納まるまで、封鎖弁40のストローク量を開弁方向に徐々に変化させて学習前圧抜き制御を行なうため、燃料タンク15の内圧が急激に低下することがない。このため、燃料タンク15の内圧がタンク内圧センサ15pの測定範囲に納まった後、封鎖弁40の開弁開始位置の学習を正常に行なえるようになる。
また、キャニスタ22とエンジン14の吸気通路16とをつなぐパージ通路26が閉じられているときは、封鎖弁40が閉弁状態に保持されて学習前圧抜き制御が行なわれないため、燃料タンク15からベーパ通路24を介してキャニスタ22内に流入した蒸発燃料がキャニスタ22内に充満し、キャニスタ22から大気に漏れ出るようなことがない。
【0027】
<変更例1>
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更が可能である。例えば、本実施形態では、図5等に示すように、パージ実行フラグがオフして(図5 タイミングT3)、燃料タンク15の学習前圧抜き制御が中断された後、再び、圧抜き制御が行なわれるときに(タイミングT4)、ステッピングモータ50をAStep(例えば、1Step)だけ開弁方向に回転して一定時間TA(例えば、TA=1sec)維持する工程を繰り返しながら封鎖弁40のストローク量を閉弁状態から開弁方向に徐々に変化させる例を示した。しかし、燃料タンク15の圧抜き制御の中断時間が短い場合に、封鎖弁40のストローク量を閉弁状態から開弁方向に徐々に変化させる方法では、封鎖弁40を閉弁前のストローク量まで動作させるのに時間が掛かる。このため、燃料タンク15の学習前圧抜き制御に時間が掛かる。
変更例1に係る学習前圧抜き制御は、この点を改善したもので、図7、及び図8のフローチャートに示す手順に基づいて実施される。
即ち、変更例1に係る学習前圧抜き制御では、図7のタイミングT1に示すように、パージ実行フラグがオフすると(図8 ステップS203 NO)、図8のステップS207で前回の処理のときのパージ実行フラグが確認される。前回の処理のタイミングをT0とすると、図7のタイミングT0でパージ実行フラグがオンのため(ステップS207 YES)、ステップS208でタイミングT0のときの封鎖弁40のストローク量(ステップ数)を記憶する。そして、この後、封鎖弁40の閉弁処理が実行される(ステップS209)。これにより、ベーパ通路24が閉鎖されて、燃料タンク15の圧抜きが中断される。
【0028】
次に、図7のタイミングT2(タイミングT1の次の処理)では、タンク内圧が抜き終了レベルPsに達しておらず(ステップS202 NO)、パージ実行フラグがオフであり(ステップS203 NO)、さらに前回(タイミングT1)のパージ実行フラグがオフであるため(ステップS207 NO)、閉弁処理が継続して行なわれる(ステップS209)。
そして、図8のステップS201〜S203、S207、S209の処理が繰り返し実行されて、図7のタイミングT3でパージ実行フラグがオンすると(ステップS203 YES)、ステップS204で前回のパージ実行フラグがオンであるかが判定される。前回の処理では、パージ実行フラグがオフであるため(ステップS204 NO)、記憶されたタイミングT0のときの封鎖弁40のストローク量(ステップ数)に基づいて開弁再開処理が行なわれる(ステップS206)。即ち、封鎖弁40は、その封鎖弁40が閉じられる前に記憶した記憶ストローク量(タイミングT0におけるステップ数)まで速やかに開弁する。次に、図8のステップS201〜S205までの処理が繰り返し実行されて開弁処理が実行される。即ち、封鎖弁40がタイミングT0におけるステップ数まで速やかに開弁した後、封鎖弁40のストローク量を開弁方向に徐々に変化させる開弁処理(AStep回転、TA維持)が実行される。
これにより、燃料タンク15の学習前圧抜き制御の時間短縮を図ることができる。
【0029】
<変更例2>
変更例1では、図7のタイミングT3でパージ実行フラグがオンすると(図8 ステップS203 YES)、閉弁前に記憶されたタイミングT0のときのストローク量(ステップ数)に基づいて封鎖弁40の開弁再開処理が行なわれる(ステップS206)。しかし、燃料タンク15の学習前圧抜き制御の中断時間(パージオフ時間)が長い場合には、燃料タンク15内で新たに蒸発燃料が発生してこれが溜まることがある。このようなときに、閉弁前に記憶されたタイミングT0のときのストローク量(ステップ数)まで封鎖弁40が高速で開弁すると、燃料タンク15の蒸発燃料がベーパ通路24、キャニスタ22、及びパージ通路26を通ってエンジン14の吸気通路16に多量に導かれて、エンジン14の空燃比が燃料リッチになる。
変更例2では、この点を考慮し、燃料タンク15の学習前圧抜き制御の中断時間(パージオフ時間)の基づいて、閉弁前に記憶されたタイミングT0のときのストローク量(ステップ数)を補正できるようにしている。
即ち、変更例2に係る学習前圧抜き制御では、図9のタイミングT1に示すように、パージ実行フラグがオフすると(図10 ステップS303 NO)、図10のステップS309で前回の処理のときのパージ実行フラグが確認される。前回の処理のタイミングをT0とすると、タイミングT0でパージ実行フラグがオンのため(ステップS309 YES)、ステップS310でタイミングT0のときの封鎖弁40のストローク量(ステップ数)を記憶する。そして、次に、封鎖弁40の閉弁処理が実行される(ステップS311)。これにより、ベーパ通路24が閉鎖されて、燃料タンク15の圧抜きが中断される。
【0030】
そして、図9のタイミングT3でパージ実行フラグがオンすると(図10 ステップS303 YES)、ステップS304で前回のパージ実行フラグがオンであるかが判定される。前回の処理では、パージ実行フラグがオフであるため(ステップS304 NO)、ステップS306で、学習前圧抜き制御の中断時間(パージオフ時間)が算出される。そして、前記パージオフ時間に基づいて、記憶したタイミングT0のときの封鎖弁40のストローク量(ステップ数)を補正する。
ここで、パージオフ時間に基づくタイミングT0のときの封鎖弁40のストローク量(記憶ストローク量)の補正は、図9の下図に示すマップに基づいて行なわれる。例えば、パージオフ時間が5sec以内であれば、補正値は零であり、記憶ストローク量がそのまま補正後のストローク量(補正ストローク量)になる。また、パージオフ時間が、例えば、10secであれば、補正ストローク量は、記憶ストローク量−α1となる。また、パージオフ時間が、例えば、15secであれば、補正ストローク量は、記憶ストローク量−α2となる。ここで、α2>α1である。そして、パージオフ時間が20sec以上であれば、補正ストローク量は零、即ち、スタンバイ位置となる。
このようにして、補正ストローク量が求まると、この補正ストローク量が封鎖弁40の開弁再開位置となる(ステップS307)。次に、補正ストローク量に基づいて封鎖弁40の開弁再開処理が行なわれる(ステップS308)。即ち、封鎖弁40は補正ストローク量まで速やかに開弁する。
このように、燃料タンク15の学習前圧抜き制御の中断時間(パージオフ時間)の基づいて、閉弁前に記憶されたタイミングT0のときのストローク量(記憶ストローク量)が補正できるため、学習前圧抜き制御の再開時におけるエンジン14の空燃比変動を抑制できる。
【0031】
<その他の変更例>
本実施形態では、パージ実行フラグのオフ時に学習前圧抜き制御を中断する例を示したが、緊急を要する場合には、パージ実行フラグに係わらず短時間の間、圧抜き制御を行なうようにすることも可能である。
また、本実施形態では、封鎖弁40のモータにステッピングモータ50を使用する例を示したが、ステッピングモータ50の代わりにDCモータ等を使用することも可能である。
【符号の説明】
【0032】
14・・・・・エンジン
15p・・・・タンク内圧センサ(圧力センサ)
15・・・・・燃料タンク
16・・・・・吸気通路
22・・・・・キャニスタ
24・・・・・ベーパ通路
26・・・・・パージ通路
40・・・・・封鎖弁
60・・・・・バルブガイド(弁可動部)
70・・・・・バルブ体(弁可動部)
図1
図2
図3
図4
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図6
図7
図8
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図10