【実施例1】
【0019】
本発明の実施例1を
図1〜
図12を用いて説明する。まず、本実施例1の空気調和機の構成を
図1〜
図7により説明する。
【0020】
図1は本実施例1の空気調和機を構成する室外機の概略斜視図である。
【0021】
図1において、室外機40の内部には、冷凍サイクルを構成する熱交換器30及び圧縮機50等が設置されている。また、前記室外機40の内部には前記熱交換器30に通風するための送風ファンが設置されており、この送風ファン60は軸流ファン(プロペラファン)で構成されている。
【0022】
前記熱交換器30は、平行で且つ垂直方向に設置された左右一対で中空の2つの冷媒ヘッダ31,32と、これらの冷媒ヘッダ31と32の間に設けられ、冷媒ヘッダ31と32を連通させるように接続された複数の扁平管33などにより構成されている。前記冷媒ヘッダ31,32及び扁平管33は何れもアルミニウムで製作されている。
【0023】
複数の前記扁平管33は、それぞれ上下方向(重力方向)に積層されると共に、それぞれの扁平管33は水平方向に配置されている。また、上下方向に隣り合う前記扁平管33の間には、所定の間隔(間隙)でアルミニウム製のフィン34が多数設けられている。前記冷媒ヘッダ31,32、前記扁平管33及び前記フィン34は、一括して組み立てられた状態で炉に入れられ、ロウ付けされて一体化されている。なお、本実施例の空気調和機を構成する冷凍サイクルには、冷媒として、地球温暖化係数(GWP)の低い微燃性のR32を使用している。但し、本発明は、冷媒に関してはR32に限るものではない。
【0024】
上記熱交換器30に使用されているフィン34の構成を
図2により説明する。
図2は
図1に示す熱交換器に使用されるフィン形状を説明する図で、短冊状ストレートフィンを採用した場合の熱交換器の正面図(a)と側面図(b)である。
【0025】
この
図2に示すように、本実施例では、熱交換器30に使用されているフィン34が短冊状ストレートフィンで構成されている。このフィン34は、アルミニウム製の短冊状ストレートフィンで構成され、このフィン34には、(b)図に示すように、矩形のプレート状の素材に、前記扁平管33を挟み込むように挿入するためのスリット部34aと、このスリット部34a間に形成され熱交換性能を向上させるための凹凸部34bが設けられている。そして、このフィン34は所定間隔を隔てて多数積層されるように並設され、これら多数のフィン34の前記スリット部34aに、複数の前記扁平管33が挿入されて構成されている。
【0026】
本実施例では、上記フィン34を短冊状ストレートフィンで構成している例で説明したが、このフィン34は短冊状ストレートフィンに限られるものではなく、
図3に示すようなコルゲート状フィン35で構成しても良い。
【0027】
即ち、
図3は、
図1に示す熱交換器1に使用される他のフィン形状を説明する図で、コルゲート状フィンを採用した場合の熱交換器の正面図(a)と側面図(b)である。この
図3に示す例では、薄いアルミニウム板を波板状(コルゲート状)に折り曲げたフィン35を扁平管33の間に挿入配置して、ロウ付けして構成されている。また、このコルゲート状フィン35には、(b)図に示すように、微細なスリット35aが形成されており、熱交換性能を向上させている。
【0028】
このように、本実施例において、熱交換器30を構成するフィンについては、
図2に示す短冊状ストレートフィンや
図3に示すコルゲート状フィンなど種々のフィン形状のものを採用することが可能である。なお、上記
図2及び
図3では、
図1に示す冷媒ヘッダ31,32については省略して図示している。
【0029】
図1に示す熱交換器30を冷凍サイクル(図示せず)における凝縮器として作用させる場合は、冷凍サイクルの冷媒ガス配管からガス状の冷媒が前記冷媒ヘッダ31内に流入する。扁平管33内で空気との熱交換で順次凝縮し、最終的に液化して冷媒ヘッダ32に接続した冷凍サイクルの冷媒液配管へ流出する。
【0030】
前記熱交換器30を蒸発器として作用させる場合は、逆に冷媒液配管から膨張弁通過後の低かわき度の気液二相冷媒が前記冷媒ヘッダ32に流入し、扁平管33内で順次蒸発してガス状になった冷媒が前記冷媒ヘッダ31から冷媒ガス配管へと流出する。
前記フィン34間に空気を流通させると共に、前記冷媒ヘッダ31または32から冷媒を前記扁平管33内の流路に流すことにより、前記空気と冷媒との間で熱交換を行わせることができる。
【0031】
前記各扁平管33の表面には、犠牲陽極層が設けられている。この犠牲陽極層は、冷媒流路(空間)部分を形成しているアルミニウム芯材よりも電位が卑な金属で形成して、犠牲防食の効果が得られるようにしている。即ち、アルミニウム製の扁平管33は、通常押し出し成形で製造されるが、この押し出し成形後のアルミニウム製扁平管の表面に、亜鉛溶射し、前述したロウ付け時の熱で拡散させて亜鉛溶射の拡散層を形成する。或いは、扁平管33に、別のアルミニウム層を後付したアルミクラッド層により形成するようにしても良い。
【0032】
本実施例では、アルミニウム製熱交換器の腐食の主要因となる塩分(塩化物イオン)の熱交換器30への付着量を推定するため、腐食診断装置が設けられている。即ち、
図1に示すように、前記室外機40の内部には、第1温度センサ10と、この第1温度センサ10と周囲環境が同じ温度となる部分に設置された第2温度センサ20が設けられている。また、前記第2温度センサ20には、この第2温度センサ20と並列に接続され且つ外気に露出して設けられた外部露出電極21が備えられている。外部露出電極21は、熱交換器を介して第1温度センサ10、第2温度センサ20と同じ温度環境に取付けられている。
【0033】
本実施例では、前記外部露出電極21は、
図1に示すように、最も腐食が進行し易い、熱交換器30の中央付近の下部に設けられている。例えば、
図2、
図3に示すように、熱交換器30の中央付近下部の扁平管33とフィン34または35で囲まれた空間に設置すると良い。
【0034】
前記外部露出電極21は、該露出電極に塩分が付着していない状態では抵抗が大きく電流が流れない構成となっており、前記露出電極に塩分が付着してその塩分が潮解すると抵抗が小さくなって電流が流れる構成となっている。前記第2温度センサ20は通常は前記第1温度センサと同じ出力値(温度測定値)を示すが、前記外部露出電極21に電流が流れると、前記第2温度センサ20の出力値(温度測定値)が変化する構成となっている。即ち、温度センサは、温度に応じて変化する抵抗値を検出することにより温度を検出するものであるが、第2温度センサ20には外部露出電極21を並列接続しているので、前記外部露出電極21に電流が流れてその抵抗値が小さくなると、前記第2温度センサ20で検出される合成抵抗値は前記第1温度センサ10で検出される抵抗値よりも小さくなる。従って、第1温度センサ10で検出される温度測定値(周囲環境の温度)と第2温度センサ20で検出される温度測定値(周囲環境の温度よりも小さな値を示す)との間に温度差(出力値の差)ΔTが生じる。
【0035】
即ち、前記外部露出電極21への塩分付着量が増加するほど、該外部露出電極21における抵抗値は小さくなるので、前記温度差ΔTは大きくなる。本実施例は、この原理を利用し、前記第1温度センサと前記第2温度センサの温度差ΔTから塩分付着量を測定するものである。
【0036】
前記第1温度センサ10と前記第2温度センサ20の出力は、他の温度センサの出力と同様に、室外側制御部70に伝達される。この室外側制御部70内に取り込まれた第1温度センサ10と第2温度センサ20からの温度測定値(抵抗値)に基づいて、前記室外制御部70では温度差ΔTを求めると共に、前記外部露出電極21に付着している塩分付着量、即ち室外機40の熱交換器30に付着している塩分付着量を推定することができる。
なお、前記第1温度センサ10と前記第2温度センサ20は、空気調和機の温度検知用に通常用いられているキャン封止タイプのサーミスタセンサを用いると良い。
【0037】
日本国内で塩害が比較的多く、高温高湿と考える沖縄で数年間、住宅のベランダに室外機40を設置して行ったフィールドモニタ試験の結果、塩化物イオンが多く付着して孔食が進行し易い部分は、熱交換器30の上下方向の下方位置であること、また熱交換器30の風速が大きくなる上下方向の中央付近及び左右方向の中央付近にも塩化物イオンは多く付着し易く、孔食が進行し易い部分であることがわかった。
従って、前述したように、外部露出電極21は、腐食が最も進行し易い熱交換器30の上下方向の下方位置、または熱交換器30の風速が大きくなる上下方向の中央付近或いは左右方向の中央付近に取付けることが好ましい。
【0038】
次に、
図4〜
図6を用いて、前記第2温度センサ20と並列に接続されている前記外部露出電極21の構造の例を説明する。
図4は
図1に示す第2温度センサ20に並列接続される外部露出電極21の一例を示す構造図である。この
図4に示すように、外部露出電極21は、絶縁基板22上に露出電極23が形成され、該露出電極23端部の接続パッド24でリード線26に接続されている。また、前記リード線26と前記接続パッド24の接続部は被覆剤25で被覆され、前記露出電極23のみが露出する構造となっている。これにより、前記露出電極23の部分に塩分が付着してその塩分が潮解すると、電気抵抗が小さくなって電流が流れる構成となっている。また、塩分付着量が多いほど電気抵抗はより小さくなるものを使用している。
【0039】
図5は
図1に示す第2温度センサ20に並列接続される外部露出電極21の別の例を示す構造図である。この例では、絶縁基板22として有機絶縁薄膜を使用したものであり、これにより、
図5に示すように、外部露出電極21を湾曲させた形状に変形させて使用することができるようにしたものである。なお、前記絶縁基板22は有機絶縁薄膜に限らず、湾曲させることができる素材や構造のものであれば良い。
外部露出電極21を湾曲させることのできる構成にすることにより、熱交換器30を構成するフィンとして、コルゲート状フィン35を採用した場合に特に有効である。即ち、コルゲート状フィン35はフィンが曲線形状に形成されているため、コルゲート状フィン間に外部露出電極21を取付ける場合、該外部露出電極21を湾曲させたり変形させることができれば、外部露出電極21の取り付けをより容易に行うことができる。
なお、他の構成は上記
図4で説明したものと同一であり、同一或いは相当する部分には同一符号を付して、それらの説明を省略する。
【0040】
図6は
図1に示す第2温度センサ20に並列接続される外部露出電極21の更に別の例を示す構造図で、(a)は平面図、(b)は側面図である。
この
図6に示す外部露出電極21は、金属板をエポキシ樹脂で封止する構成としたものである。前記エポキシ樹脂は、絶縁基板22´の役割を果たしている。23´は露出電極であり、この露出電極23´は、通常の樹脂封止半導体と同様に、モールド成形されているものである。なお、24´は接続パッドであり、25´は被覆材である。
【0041】
このように構成することにより、封止性に優れたものとすることができる。しかし、
図5で説明した有機絶縁薄膜で構成した絶縁基板22のように、薄膜化することは難しい。但し、直径数mmの寸法で製作することは可能であり、短冊状ストレートフィン34間やコルゲート状フィン35間に挿入し、接着剤等で固定する構造とすることは可能である。
【0042】
なお、フィン間に外部露出電極21を挿入できない場合には、熱交換器を構成するフィンの一部を型抜きした構造とし、この型抜きした部分に前記外部露出電極21を挿入設置するようにしても良い。また、前記露出電極23´の材料としては、塩化物イオンに耐え得る材質、例えば金、白金、チタン、カーボンなどを使用することが好ましい。
【0043】
次に、
図7〜
図12により、本実施例1における空気調和機用熱交換器の腐食診断装置の構成と原理を説明する。
図1で説明した第1温度センサ10、第2温度センサ20及び外部露出電極21は、
図7に示すように、室外制御装置70に接続されている。即ち、前記第1温度センサ10は室外制御装置70の端子71aと71bに接続され、前記第2温度センサ20と前記外部露出電極21は室外制御装置70の端子71cと71dに並列接続されている。
【0044】
前記第1温度センサ10と前記第2温度センサ20は、空気調和機の温度検知用に通常用いられているサーミスタセンサを使用している。このサーミスタセンサは温度により抵抗値が変化することを利用して温度を検出するもので、第1温度センサ10と第2温度センサ20は、それらが設置されている箇所の温度を計測する。
【0045】
前記第1温度センサ10は、例えば室外機40(
図1参照)に通常設けられている温度センサ(熱交換器の入口側或いは出口側の温度を計測する温度センサ)と兼用可能であり、周囲温度が高温になるほど抵抗値R1が小さくなるサーミスタセンサを用いており、この抵抗値の変化を検出して温度値T1として出力するものである。
【0046】
前記第2温度センサ20は前記第1温度センサ10と同じ温度環境の部分、例えば、
図1に示すように同じ箇所に設置することが不可欠である。前記外部露出電極21は、上述した
図4〜
図6で説明したような外部露出電極を使用する。
【0047】
前記第2温度センサ20には、外部露出電極21が並列に接続されているため、外部露出電極21の抵抗値R2Sが低下するに従い、第2温度センサ20の抵抗値R2と外部露出電極21の抵抗値R2Sとの合成抵抗値R2Tが低下する。即ち、前記室外側制御部70で測定される第2温度センサ20側の抵抗値が低下することになる。測定される抵抗値が小さいほど、第2温度センサ20から出力される温度値T2は高い値となるので、前記第1温度センサ10から出力される温度値T1よりも高い値を示すことになる。従って、前記外部露出電極21の抵抗値が低下するほど、第1温度センサ10から出力される温度値T1と第2温度センサ20から出力される温度値T2との温度差ΔTが大きくなる。
【0048】
前記外部露出電極21は、外部環境に露出されているため、高湿でかつ飛来海塩が多い環境に長期間置かれることで、前記外部露出電極21に付着する塩分量は増加し、この塩分が高湿度下で潮解すると、
図7に示すように、高い塩分濃度の水膜15が形成される。そして、前記水膜15の塩分濃度が高いほど、外部露出電極21の抵抗値は低下し、これに伴い前記第2温度センサ20側の合成抵抗値R2Tも低下して、第2温度センサ20から出力される温度値T2は高い値を示すようになる。この結果、前述したように、第1温度センサ10から出力される温度値T1と第2温度センサ20から出力される温度値T2との温度差ΔTが大きくなる。
【0049】
本実施例の腐食診断装置は上述した原理を利用し、以下説明するように、熱交換器への塩分付着量を推定し、これに基づいて熱交換器の腐食の進行レベルを推定するものである。
なお、熱交換器への塩分付着量の推定や熱交換器の腐食の進行レベルの推定は、前記室外制御装置70で演算して、この室外制御装置70から警報を発するように構成することができる。或いは、前記第1、第2温度センサ10,20での検出値を、ネットワーク73を介して、遠隔管理地に設置された遠隔監視装置72などに送信して、この遠隔監視装置72で熱交換器への塩分付着量の推定や熱交換器の腐食の進行レベルの推定の演算を行い、この遠隔監視装置72から警報を発するようにしても良い。
【0050】
次に、
図8〜
図12を用いて、熱交換器への塩分付着量の推定、及び熱交換器の腐食の進行レベルの推定について説明する。
図8は、上記第2温度センサ20で検出される合成抵抗値の出力結果の一例を示す線図で、この
図8により、相対湿度RHを変化させた時の第2温度センサ20と外部露出電極21の合成抵抗値R2Tの変化を説明する。
本実施例で用いているサーミスタセンサは、NTCサーミスタ(Negative Temperature Coefficient)であり、このサーミスタは高温になるほど抵抗が減少する特性を有するものである。
【0051】
図7に示す外部露出電極21にNaCl(塩分)が付着していない場合は、曲線aで示すように、相対湿度RHが変化しても前記合成抵抗値R2Tはほぼ一定値を示す。一方、前記外部露出電極21の露出電極23の部分にNaClが付着していると、曲線bや曲線cに示すように、前記合成抵抗値R2Tが低下する。前記曲線bは、露出電極23にNaClが1.5mg/cm
2付着している場合を示し、前記曲線cは、露出電極23にNaClが15mg/cm
2付着している場合を示している。なお、環境温度(第1温度センサ10で測定される温度)は29℃としている。
【0052】
第1温度センサ10の抵抗値R1や第2温度センサ20の抵抗値R2は、温度センサ自体にNaClが付着しても前記抵抗値R1,R2が変動しない構成のものを使用している。このため、第1、第2温度センサの温度測定値(R1,R2の抵抗値)は相対湿度RHには依存せず、相対湿度RHが変化しても、環境温度が一定であれば一定値を示す。しかし、前記外部露出電極21にNaClが付着し、且つ相対湿度RHが高い場合、露出電極23の抵抗値R2Sの低下により、第2温度センサ20側の合成抵抗値R2Tも低下する。この結果、第2温度センサ20側の温度出力値(温度測定値)T2は高い値を示す。
【0053】
図8に示すように、露出電極21にNaClが付着しても、相対湿度RHが低い場合には合成抵抗値R2Tの変動は小さい。飛来海塩の主成分であるNaCl(塩化ナトリウム)は、温度に依らずほぼ75%の相対湿度で潮解し、急激に水膜15(
図7参照)が形成されることが知られている。
【0054】
相対湿度75%以下では、露出電極23に付着しているNaClは潮解せず、塩粒子として存在しており、露出電極23間は絶縁状態にある。このため、第2温度センサ20側の合成抵抗値R2Tは第2温度センサの抵抗値R2と同じになり、第1温度センサ10から出力される温度値T1と第2温度センサ20側から出力される温度値T2はほぼ同じ値となる。
【0055】
相対湿度が75%以上になると、NaClが潮解し、露出電極23間に水膜15が形成されるため、露出電極23間の抵抗値R2Sは低下する。このため、第2温度センサ20側の合成抵抗値R2Tも低下し、
図8の曲線bや曲線cで示すように、相対湿度RHが高いほど、また露出電極23へのNaClの付着量が多いほど、合成抵抗値R2Tは小さくなることがわかる。
【0056】
このように、第1温度センサ10から出力される温度値T1と第2温度センサ20から出力される温度値T2との温度差ΔTは、塩分付着量(例えば塩化ナトリウムの付着量)と相関があることがわかる。
【0057】
前記外部露出電極21の電気抵抗R2Sに基づいて、塩分付着量を推定する場合、前記電気抵抗R2Sは、塩分付着量Wsと相対湿度RHの関数R2S=f(Ws,RH)となる。このため、実環境(腐食診断の対象となる実際の熱交換器が使用されている環境)でも相対湿度を求める必要がある。しかし、湿度センサは、塩分などを含む環境中の汚染物質の吸着により長期に渡って安定して測定することは困難であり、このため空気調和機には一般に湿度センサは設置されていない。
【0058】
そこで、環境中の相対湿度RHを湿度センサを用いずに、外部露出電極21の出力値を用いて推定できるように工夫した。以下、これを、
図9及び
図10を用いて説明する。
図9は第1温度センサ10と第2温度センサ20の測定温度の温度差ΔTの変化から、相対湿度が75%になった時点を検出することを説明する線図、
図10は大気環境中の気温、相対湿度、絶対湿度の関係を示す線図である。
【0059】
飛来海塩は塩化ナトリウムが主成分であり、ここでは、飛来海塩を便宜的に塩化ナトリウムとして説明する。前述したように、塩化ナトリウムは温度に依らず、ほぼ75%の相対湿度で潮解し、急激に水膜が形成されることが知られている。上述した
図8においても、相対湿度RHが75%付近から、第2温度センサ20側の合成抵抗値R2Tが急激に低下していることからも明らかである。
【0060】
そこで、
図9に示すように、実環境温度(例えば約30℃)と時間の関係で、測定温度(合成抵抗値R2Tの値が小さくなるほど測定温度は高い値となる)が急激に増大したところが、塩化ナトリウムの潮解する相対湿度RHが75%(=RHc)となった時点と見なすことができる。即ち、
図9のように、第1温度センサ10と第2温度センサ20の抵抗値(温度)が異なる値を示した時点の相対湿度は75%であるとみなすことができ、またその時点の温度は第1温度センサ10の出力値から求められた温度T1(=T1´)となる。
【0061】
次に、この温度T1´と相対湿度75%に基づいて、
図10から絶対湿度AHを求めることができる。絶対湿度AHは、一般にD. Sonntagの式(Z. Meteoro1., 70, 340(1990))で求められる。
図10は、このSontagの式を用いて算出した大気環境中の気温(℃)、相対湿度(%)、絶対湿度AHの関係を示す。ここで、対象とする30℃、75%RHでの環境は、
図10から、絶対湿度AHが23g/m
3であることがわかる。屋外環境では、通常、1日を通して絶対湿度は一定であり、気温と相対湿度が変化する。即ち、昼間は気温が高いので、相対湿度は低くなり、夜間は気温が低くなるので相対湿度は高くなる。このため、昼間から夜間に移行する時に相対湿度は高くなり、75%を超えることが多い。
図9から、相対湿度が75%を超えた時点(塩分が潮解した時点)での温度(気温)T1´と前記相対湿度(75%)から、
図10に基づき、その日の絶対湿度AHを求めることができる。絶対湿度は一定であるという条件を仮定すれば、気温の時系列データを測定することにより、Sontagの式または
図10から、逆に相対湿度の時系列データを算出することができる。
【0062】
図11は第1温度センサ10と第2温度センサ20の温度差ΔTと、
図10で算出された相対湿度RHから塩分付着量を推定するための線図である。
図11に示すように、第1温度センサ10と第2温度センサ20との温度差ΔTと、算出された前記相対湿度RHの関係から、塩分付着量Wsを推定することができる。
【0063】
相対湿度が75%以下では、塩化ナトリウムは潮解していないため、前記温度差ΔTは検知できない。相対湿度が75%以上になると、相対湿度RHと塩分付着量に応じて前記温度差ΔTが変化する。即ち、前記相対湿度RHと塩分付着量Wsが多くなるに従い、温度差ΔTも大きくなる。
【0064】
図11において、太実線は、対象とする実環境に置かれている室外機の熱交換器への塩分付着量の推定値Wsである。点線Ws1,Ws2,Ws3は、それぞれ塩付着量を変えて温度差ΔTと相対湿度RHの関係を実験室で求めたものである。温度差ΔTが安定する例えば85%RHでの温度差ΔTを線形補間すれば、実環境に置かれている熱交換器への塩分付着量Wsを推定することができる。
図11から、例えば相対湿度が85%で、温度差がΔT1であれば塩分付着量はWs1、温度差がΔT2であれば塩分付着量はWs2であることがわかる。
【0065】
図12は推定した塩分付着量と濡れ時間から、当該熱交換器の腐食レベルを診断する説明図である。
アルミニウムの大気腐食は、塩分付着量と濡れ時間(ISO9223Standard:気温>0℃、湿度>80%を満たす時間)で整理することができる。塩分付着量が多いほど、また濡れ時間も長いほど、腐食レベルは、レベル1、レベル2、レベル3と進行し、レベル3になると腐食が進行して、熱交換器に貫通穴が生じる危険性が大となっていることを示す。このように、塩分付着量と濡れ時間との関係から熱交換器における腐食の進行程度、即ち腐食レベルを予め実験などにより求めて、
図11の線図を作成しておくことにより、実際に使用中の熱交換器における腐食レベルを、塩分付着量と濡れ時間を算出することにより、算出することができる。この算出した腐食レベルを、前記室外制御装置70や遠隔監視装置72、或いは空気調和機のリモコン(図示せず)などに表示することにより、腐食レベルを知ることができる。また、レベル3など予め決めた腐食レベルに達した場合には、
図7に示すように、室外側制御部70や遠隔監視装置72などから警報を発するようにすれば、熱交換器に孔食などが発生することを未然に防止することが可能となる。
【実施例2】
【0066】
本発明の空気調和機の実施例2を
図13〜
図16を用いて説明する。
図13は本実施例2の空気調和機を構成する室外機の概略斜視図、
図14は
図13に示す第1温度センサを示す構造図、
図15は
図13に示す第2温度センサを示す構造図、
図16は
図13に示す第1温度センサと第2温度センサを一体化して構成した一体型センサの例を説明する構造図である。これらの図において、上記実施例1を説明する図面と同一符号を付した部分は同一或いは相当する部分を示しており、上記実施例1と異なる部分を中心に説明し、同一部分についてはそれらの説明を省略する。
【0067】
本実施例2では、
図13に示すように、第1温度センサ10は室外機40を構成する熱交換器30の中央下部に設けられている。また、第2温度センサ20は、前記第1温度センサ10とほぼ同じ温度となる箇所に設置されている。前記第1温度センサ10はサーミスタセンサを備えると共に、塩分が付着しても温度測定値の変化が抑制される構造となっている。また、前記第2温度センサ20は、サーミスタセンサを備えると共に、外気に露出して設けた外部露出電極21も並列に接続して一体化したもので、前記外部露出電極に塩分が付着することにより温度測定値が変化する構造のものを使用している。
【0068】
そして、本実施例2においても、上述した実施例1と同様の原理で、前記第1温度センサ10から得られた温度値T1と前記第2温度センサ20から得られた温度値T2の温度差ΔTから塩分付着量を推定すると共に、熱交換器の腐食レベル(腐食進行レベル)を診断するものである。
【0069】
なお、第1温度センサ10及び第2温度センサ20からの出力は、実施例1と同様に、室外側制御部70に送られ、この室外側制御部70内で、或いは遠隔監視装置72(
図7参照)に送信されて、第1温度センサ10と第2温度センサ20の温度差ΔTから塩分付着量などが算出されるようになっている。
【0070】
また、本実施例2を採用する場合、前記第1温度センサ10及び前記第2温度センサ20を、例えば
図14〜
図16に示すような構成とする必要がある。
【0071】
図14は
図13に示す第1温度センサ10を示す構造図である。この第1温度センサ10は、サーミスタセンサ10´がチップサーミスタで構成されており、このチップサーミスタ10´は絶縁基板22上に設置されて被覆材25により樹脂封止された構成となっている。なお、24は接続パッド、26はリード線である。このように構成することにより、第1温度センサ10は、塩分が付着しても温度測定値の変化が抑制される構造となっている。また、サーミスタセンサ10´としてチップサーミスタを採用することで、小型の温度センサを実現することが可能となる。
【0072】
図15は
図13に示す第2温度センサ20を示す構造図である。この第2温度センサ20は外部露出電極21を合体させて製作したものである。即ち、絶縁基板22の下部にはサーミスタセンサ20´として第1温度センサ10と同様のチップサーミスタが設置され、このチップサーミスタ20´は絶縁基板22に被覆材25により樹脂封止された構成となっている。また、前記絶縁基板22の上部には外部露出電極21の露出電極23が設置されている。この露出電極23と前記チップサーミスタ20´は並列に接続されており、接続パッド24の部分でリード線26に接続されている。
【0073】
この
図15に示すように第2温度センサ20を構成することにより、第1温度センサ10と同様に、サーミスタセンサ20´としてチップサーミスタを採用しているので温度センサ部を小型化することができ、また、外部露出電極21も一体化しているので、第2温度センサ20側の取付けも容易になる。
【0074】
この
図15に示すように第2温度センサ20を構成することにより、第1温度センサ10と同様に、サーミスタセンサ20´としてチップサーミスタを採用しているので温度センサ部を小型化することができ、また、外部露出電極21も一体化しているので、第2温度センサ20側の取付けも容易になる。
【0075】
図16は
図13に示す第1温度センサ10と第2温度センサ20を一体化した一体型温度センサ27とした例を示す構造図である。
図16に示すように、絶縁基板22の下部には、第1温度センサ10を構成するサーミスタセンサ(チップサーミスタ)10´が設置されると共に、第2温度センサ20を構成するサーミスタセンサ(チップサーミスタ)20´も設置されている。これらサーミスタセンサ10´,20´は
図14や
図15に示すものと同様に、被覆材により樹脂封止された構成にすることが好ましい。前記サーミスタセンサ10´は接続パッド24の部分でリード線26に接続されている。
【0076】
また、前記絶縁基板22の上部には外部露出電極21の露出電極23が設置されている。この露出電極23と前記チップサーミスタ20´は並列に接続されており、接続パッド24の部分でリード線26に接続されている。露出電極23は
図6に示した露出電極23´を用いてもよい。
【0077】
このように、第1温度センサ10と第2温度センサ20を一体化した一体型温度センサ27とすることにより、腐食診断装置の構成を更に小型化することができ、短冊状ストレートフィンを採用した熱交換器だけではなく、コルゲート状フィンを採用した熱交換器にも容易に取り付けることが可能となる。
【0078】
以上説明した本実施例2によれば、フィールド試験で腐食の進行が特に速いことがわかった室外機40の熱交換器30における中央下部の温度を直接、前記第1、第2の温度センサ10,20により測定することができる。このため、前述した実施例1に比べてより精度の高い腐食診断装置を得ることができる。
【0079】
以上述べた本発明の各実施例によれば、空気調和機を構成するアルミニウム製熱交換器、特にパラレルフロー型熱交換器の腐食レベルを推定することが可能となり、腐食による冷媒漏れを事前に回避することが可能な空気調和機及び空気調和機用熱交換器の腐食診断装置を得ることができる。また、通常、室外機に元々設置されている温度センサを腐食診断装置の第1温度センサとして利用できるため、低コストで腐食診断装置を実現できる効果もある。
【0080】
なお、本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。また、上記した実施例は本発明で分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。例えば、外部露出電極21や実施例2における第1、第2温度センサ10,20は、必ずしも熱交換器30の中央下部に設置することには限定されず、第1温度センサ10、第2温度センサ20、外部露出電極21が同じ温度環境であれば、熱交換器の他の箇所や、室外機40の内部や外部に設置するようにしても良い。また、上記実施例では、第1、第2温度センサ10,20からの出力値を温度値に変換して温度差を求め、この温度差に基づいて塩分付着量を推定するようにしているが、必ずしも出力値を温度値に変換する必要はなく、出力値(例えば検出された抵抗値)そのものを用いて出力値の差を求め、この差に基づいて塩分付着量を推定するようにしても良い。
更に、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。