(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ビニル共重合体(成分C)を構成する単量体単位が、(メタ)アクリルモノマーを10〜90重量%含み、スチレン又はスチレン誘導体を10〜90重量%含むものである請求項1又は2記載の熱可塑性エラストマー組成物。
ハードセグメントを構成するブロック及びソフトセグメントを構成するブロックのガラス転移温度が、それぞれ20〜200℃及び-100〜19℃の重合体ブロックである、請求項1又は2記載の熱可塑性エラストマー組成物。
熱可塑性エラストマー組成物を2種類の温度、温度L〔((成分Bの融点)-20℃)±5℃以内〕又は温度H〔((成分Bの融点)+10℃)±5℃以内〕に設定された熱プレス機により5分間加熱して得られる成形体が、いずれの温度における成形体についても、
連続相と分散相とからなる相分離構造を有し、電子顕微鏡により観察される分散相の最大粒子径が5μm以下である、請求項1又は2記載の熱可塑性エラストマー組成物。
熱可塑性エラストマー組成物を2種類の温度、温度L〔((成分Bの融点)-20℃)±5℃以内〕又は温度H〔((成分Bの融点)+10℃)±5℃以内〕に設定された熱プレス機により5分間加熱して得られる成形体が、いずれの温度における成形体についても、
A硬さが20〜90である、請求項1又は2記載の熱可塑性エラストマー組成物。
熱可塑性エラストマー組成物を2種類の温度、温度L〔((成分Bの融点)-20℃)±5℃以内〕又は温度H〔((成分Bの融点)+10℃)±5℃以内〕に設定された熱プレス機により5分間加熱して得られる成形体について、
A硬さの比(温度Lで加熱して得られた成形体のA硬さ/温度Hで加熱して得られた成形体のA硬さ)が、0.6〜1.3である、請求項1又は2記載の熱可塑性エラストマー組成物。
熱可塑性エラストマー組成物を温度H〔((成分Bの融点)+10℃)±5℃以内〕に設定された熱プレス機により5分間加熱して得られる成形体の流動開始温度が180〜350℃である、請求項1又は2記載の熱可塑性エラストマー組成物。
熱可塑性エラストマー組成物を温度H〔((成分Bの融点)+10℃)±5℃以内〕に設定された熱プレス機により5分間加熱して得られる成形体の引張破断伸び率が100%以上である、請求項1又は2記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、
(メタ)アクリルエラストマー(成分A)、
融点が180〜350℃であり、エポキシ基と反応可能な官能基を有する熱可塑性樹脂(成分B)、及び
テトラヒドロフランに対して溶解性を有し、1分子中に平均2個以上のエポキシ基を有するビニル共重合体であって、特定の単量体単位から構成されるビニル共重合体(成分C)
を、特定の割合で含有するものである。本発明の熱可塑性エラストマー組成物において、成分Aが連続相を形成し、成分Bが分散相を形成する。成分Cは、連続相を形成する成分A中での成分B(分散相)のサイズ(粒子径)を安定化させる相溶化剤として機能するものであり、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、柔軟性及び耐熱性が優れる成形体を与えることができ、該成形体が優れた柔軟性及び耐熱性を発揮するための成形温度依存性が小さく、成形体への加工に際しても、成形条件の制限が小さいという特徴を有する。
【0013】
(メタ)アクリルエラストマー(成分A)は、2種以上の(メタ)アクリルモノマー、及び必要に応じてその他共重合可能なビニルモノマーを構成成分とすることが好ましく、重合反応で高分子量化することにより得られる。
【0014】
(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル等が挙げられる。なお、本明細書において、(メタ)アクリルと示される場合、メタクリル及びアクリルの両者を意味する。
【0015】
(メタ)アクリルモノマーの量は、構成成分中、20モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、80モル%以上がさらに好ましい。
【0016】
その他共重合可能なビニルモノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン、酢酸ビニル、エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレン、無水マレイン酸等が挙げられ、これらの中では、スチレン、α−メチルスチレン及びエチレンが好ましい。
【0017】
(メタ)アクリルエラストマーを得るためのモノマーの重合方法として、例えば、ラジカル重合法、リビングアニオン重合法、リビングラジカル重合法等が挙げられる。また、重合の形態として、例えば、溶液重合法、エマルジョン重合法、懸濁重合法、塊状重合法等が挙げられる。
【0018】
成分Aは、ハードセグメントを構成するブロック2個以上、及びソフトセグメントを構成するブロック1個以上を備えるブロック共重合体であることが好ましい。
【0019】
連続相を形成する成分Aが熱可塑性エラストマーとしての特性を発現するためには、室温以上のガラス転移温度を有するハードセグメントを有していることが好ましい。
【0020】
ハードセグメントを構成するビニル単量体としては、メタアクリル酸メチルが好ましく、本発明の目的を損なわない範囲(好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下)で、アクリロニトリルやスチレン、α-メチルスチレン等を用いることができる。
【0021】
ハードセグメントを構成するブロックのガラス転移温度は、20〜200℃が好ましく、30〜180℃がより好ましく、50〜150℃がさらに好ましい。ハードセグメントを構成するブロックのガラス転移温度が低すぎると得られる組成物が耐熱性の不足するものとなる場合があり、ガラス転移温度が200℃を超えるブロックは原料の入手が難しい。
【0022】
ソフトセグメントを構成するビニル単量体としては、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル等が挙げられる。
【0023】
ソフトセグメントを構成するブロックのガラス転移温度は、-100〜19℃が好ましく、-80〜10℃がより好ましく、-70〜0℃がさらに好ましい。ソフトセグメントを構成するブロックのガラス転移温度が高すぎると得られる組成物が柔軟性の不足するものとなる場合があり、ガラス転移温度が-100℃より低いブロックは原料の入手が難しい。
【0024】
成分Aにおけるハードセグメントとソフトセグメントの重量比(ハードセグメント/ソフトセグメント)は、成分Aに適度な柔軟性を付与する観点から、10/90〜70/30が好ましく、15/85〜50/50がより好ましい。
【0025】
成分Aとして利用可能な市販品としては、(株)クラレ製のクラリティ、アルケマ製のナノストレングス、(株)カネカ製のナブスター等が挙げられる。
【0026】
成分Aの重量平均分子量は、引張強度等の機械的物性の観点から、5万以上が好ましく、7万以上がより好ましく、10万以上がさらに好ましい。また、取り扱いが容易であり、射出成形等の成形体の製造にも適した溶融粘度を維持する観点から、100万以下が好ましく、80万以下がより好ましく、70万以下がさらに好ましい。これらの観点から、成分Aの重量平均分子量は、5万〜100万が好ましく、7万〜80万がより好ましく、10万〜70万がさらに好ましい。本発明において、成分Aは、エステル交換触媒やラジカル重合開始剤等により、原料段階の成分Aの重合平均分子量よりも高分子量化されたものであってもよい。その場合の重量平均分子量の分布は幅広いものや多峰性(2個以上のピークを有する)の分布となるが、上記重量平均分子量は、全体を平均した分子量とする。
【0027】
成分AのA硬さは、組成物の柔軟性の観点から、5〜90が好ましく、10〜80がより好ましい。
【0028】
成分Aの流動開始温度は、組成物の耐熱性の観点から、80℃以上が好ましく、組成物の熱可塑性(流動性)の観点から、220℃以下が好ましい。これらの観点から、成分Aの流動開始温度は、80〜220℃が好ましく、100〜200℃がより好ましい。
【0029】
成分Bは、エポキシ基と反応可能な官能基を有する熱可塑性樹脂である。本発明の組成物に耐熱性を付与する観点から、融点が高い結晶性の熱可塑性樹脂であることが好ましい。これらの観点から、熱可塑性樹脂の融点は、180℃以上であり、好ましくは190℃以上、より好ましくは200℃以上である。また、350℃以下であり、好ましくは330℃以下、より好ましくは300℃以下である。熱可塑性樹脂の融点は、180〜350℃であり、好ましくは190〜330℃、より好ましくは200〜300℃である。融点が350℃を超えると、(メタ)アクリルエラストマーの熱分解が発生し、実質的に本発明の組成物を製造することができない。結晶性の熱可塑性樹脂とは、示差走査熱量分析計(DSC)において融点が観測される熱可塑性樹脂のことをいう。
【0030】
エポキシ基と反応可能な官能基としては、水酸基、カルボキシル基、酸無水物基、アミド基、アミノ基等が挙げられ、成分Bとしての熱可塑性樹脂は、これらの官能基の1種又は2種以上を熱可塑性樹脂の主鎖又は側鎖に有する。
【0031】
エポキシ基と反応可能な官能基を有していない熱可塑性樹脂は、相溶化剤である成分Cと反応しないため、成分Aへの分散が悪く、柔軟性及び耐熱性が良好な熱可塑性エラストマーを得ることができない。
【0032】
融点が180℃以上であり、エポキシ基と反応可能な官能基を有する熱可塑性樹脂としては、耐熱性(高い融点)及び成分Aとの非相溶性の観点から、芳香族ポリエステル及び/又はポリアミドが好ましい。芳香族ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等が挙げられる。ポリアミドとしては、ナイロン6、ナイロン66等が挙げられる。
【0033】
比較的耐熱性が小さいエラストマーである成分Aに、比較的耐熱性が大きい熱可塑性樹脂である成分Bを分散させて、得られる熱可塑性エラストマー組成物の耐熱性を成分Aより大きいものにするという観点から、成分Bの融点は、成分Aの流動開始温度より20℃以上高いことが好ましく、30℃以上高いことがより好ましく、40℃以上高いことがさらに好ましい。
【0034】
成分Bが成分Aとの相溶性が乏しいことも重要であり、両成分の相溶性が良好であると組成物の柔軟性が悪くなり、エラストマーの特徴が損なわれる場合がある。
【0035】
溶融粘度は、各樹脂について同じモノマー組成であれば分子量の指標とすることができる。本発明において、成分Bの溶融粘度としては、各々の樹脂の融点+15℃、せん断速度1216sec
-1において、耐熱性の観点から、50Pa・s〜2000Pa・sが好ましい。
【0036】
ポリエステルの分子末端の官能基は、水酸基とカルボキシル基が存在する。本発明において成分Bとして用いられるポリエステルの分子末端の水酸基、及びカルボキシル基のそれぞれの存在量は特に限定されるものではなく一般的なものを用いることができるが、例えば、成分Bがポリエステルである場合、カルボキシル基の量の指標である酸価は、0.1〜100ミリ等量/kgが好ましい。より具体的には、酸価は、0.1ミリ等量/kg以上が好ましく、1ミリ等量/kg以上がより好ましく、3ミリ等量/kg以上がさらに好ましく、5ミリ等量/kg以上がさらに好ましい。また、100ミリ等量/kg以下が好ましく、80ミリ等量/kg以下がより好ましく、70ミリ等量/kg以下がさらに好ましく、60ミリ等量/kg以下がさらに好ましい。なお、ポリエステル樹脂の酸価は、十分に乾燥させた試料200mgを熱ベンジルアルコール10mlに溶解させ、溶液を冷却後、クロロホルム10ml及びフェノールレッドを加えて、1/25規定の酒精カリ溶液(KOHのメタノール溶液)で滴定して測定する。また、ポリエステル樹脂の水酸基価は、ポリエステルのヒドロキシル末端基とカルボキシル末端基の和である末端基濃度を測定し、そこから酸価(カルボキシル末端基濃度)を差し引くことによって算出する。末端基濃度は、ポリエステルのヒドロキシル末端にコハク酸を結合させ、コハク酸由来のカルボキシル末端基とポリエステル自体が持つカルボキシル基の総和(=全酸価)として測定する。水酸基価=全酸価−酸価により算出する。
【0037】
また、ポリアミドの分子末端官能基は、一般的にカルボキシル基とアミノ基である。本発明において成分Bとして用いられるポリアミドの分子末端のカルボキシル基とアミノ基のそれぞれの存在量は特に限定されるものではなく一般的なものを用いることができるが、成分Bがポリアミドである場合、末端アミノ基濃度は、10〜200μmol/gが好ましい。より具体的には、末端アミノ基濃度は、10μmol/g以上が好ましく、15μmol/g以上がより好ましく、20μmol/g以上がさらに好ましく、30μmol/g以上がさらに好ましい。また、200μmol/g以下が好ましく、190μmol/g以下がより好ましく、180μmol/g以下がさらに好ましく、170μmol/g以下がさらに好ましい。なお、末端アミノ基濃度及び末端カルボキシル基濃度は、
1H-NMRにより、各末端基に対応する特性シグナルの積分値から求める。
【0038】
成分Cを構成する単量体単位には、2つの態様、即ち
第一の態様:SP値が17.5〜25.0である単量体単位(単量体単位c1)を50重量%以上含む単量体単位、及び
第二の態様:(メタ)アクリルモノマー、スチレン及びスチレン誘導体からなる群より選ばれた少なくとも1種の単量体単位(単量体単位c2)を50重量%以上含む単量体単位
があり、単量体単位c1とc2は成分Aとの親和性が良好である点で共通している。なお、第一の態様と第二の態様は、便宜上区分したものであり、両者に共通した単量体もある。即ち、SP値が17.5〜25.0である、(メタ)アクリルモノマー、スチレン及びスチレン誘導体はいずれの態様にも該当する。
【0039】
成分C中のエポキシ基と成分B中のエポキシ基と反応性を有する官能基との反応により、成分Cと成分Bとの共重合体(ブロック状、グラフト状、スター状又はこれらの混在)が形成され、成分Cを構成する単量体単位c1又は単量体単位c2と連続相を形成する成分Aとの親和性により成分Bが微小かつ均一な分散相を形成することができる。
【0040】
第一の態様において、単量体単位c1を特定するためのSP値は、Solubility Parameterとして広く知られている。本発明におけるSP値(δ)は以下の推算式により求める。
【0041】
Van Krevelenの推算式
[Van Krevelen] Solubility parameter : δ
δ = (Ecoh / V)
0.5
Ecoh =Σ Ecoh, i
単位 : (J/cm
3)
0.5
推算に必要な物性値
V : 構成繰り返し単位(CRU)のモル体積 [cm
3/mol]
原子団寄与法で計算される物理量
Ecoh : Hoftyzer & Van Krevelenのモル凝集エネルギー [J/mol]
原子団パラメータ
Ecoh, i :i番目のモル凝集エネルギーに対する原子団パラメータ [J/mol]
【0042】
SP値が17.5〜25.0である単量体単位(カッコ内数値はSP値)としては、スチレン(18.82)、α−メチルスチレン(19.55)、メタクリル酸メチル(18.54)、アクリル酸n−ブチル(18.12)、アクリル酸エチル(18.83)、アクリル酸メチル(19.13)、アクリル酸メトキシエチル(19.43)、酢酸ビニル(19.13)等が挙げられる。
【0043】
なお、例えば、エチレンやプロピレン等のSP値が17.5未満のオレフィンは、本発明における成分Cの主要な単量体単位としてはふさわしくないものである。SP値が17.5未満のオレフィン(カッコ内数値はSP値)としては、エチレン(16.00)、プロピレン(17.04)等が挙げられる。
【0044】
単量体単位c1のSP値は、成分Aとの親和性の観点から、17.5以上であり、好ましくは17.8以上、より好ましくは18.0以上である。また、25.0以下であり、好ましくは23.0以下、より好ましくは22.0以下であり、さらに好ましくは21.0以下であり、さらに好ましくは20.0以下である。これらの観点から、単量体単位c1のSP値は、17.5〜25.0であり、好ましくは17.8〜23.0であり、より好ましくは18.0〜22.0であり、さらに好ましくは18.0〜21.0であり、さらに好ましくは18.0〜20.0である。
【0045】
単量体単位c1の割合が、成分Cの単量体単位中、50重量%未満であると、成分Aとの親和性が不足し、成分A中に成分Bを良好に分散させることができない。単量体単位c1の割合は60重量%以上がより好ましく、70重量%以上がさらに好ましく、80重量%以上がより好ましい。
【0046】
本発明においては、SP値の特定が難しい単量体単位でも、(メタ)アクリルモノマー、スチレン及びスチレン誘導体であれば、成分Cの主要な単量体単位として使用可能である。
【0047】
そこで、成分Cの単量体単位の第二の態様は、(メタ)アクリルモノマー、スチレン及びスチレン誘導体からなる群より選ばれた少なくとも1種の単量体単位(単量体単位c2)を含むものである。
【0048】
単量体単位c2として好適な(メタ)アクリルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル等が例示され、これらのなかでは、成分Aとの親和性の観点から、(メタ)アクリル酸のアルキル(炭素数1〜6)エステル及び(メタ)アクリル酸グリシジルが好ましい。(メタ)アクリル酸グリシジル等は水素結合が強いためSP値の特定が難しいが、成分Aとの親和性が大きく、単量体単位c2として好ましいものである。
【0049】
スチレン誘導体とは、スチレンのアルファ位、オルト位、メタ位又はパラ位が炭素数1〜4の低級アルキル基、炭素数1〜4の低級アルコキシ基、カルボキシル基、ハロゲン原子等の置換基で置換された化合物を意味する。該置換基の分子量(原子量)は60以下が好ましく、50以下がより好ましく、40以下がさらに好ましい。スチレン誘導体の具体例としては、α−メチルスチレン、p−クロロスチレン等が挙げられる。
【0050】
ただし、SP値が特定される単量体単位c2、即ち(メタ)アクリルモノマー、スチレン及びスチレン誘導体のなかで、SP値が、第一の態様の単量体単位c1に求められるSP値を外れるもの、即ちSP値が17.5未満のもの及び25.0を超えるものは、成分Aとの親和性が小さく、第二の態様においても、単量体単位c2から除かれる。例えば、単量体単位のSP値が17.5未満であるものとしては、炭素数が8以上のアルキル基を有する(メタ)アクリルモノマーのアルキルエステル等が挙げられる。
【0051】
以降、本明細書において、成分Cとは、特に記載のない限り、単量体単位c1を含む第一の態様の成分C及び単量体単位c2を含む第二の態様の成分Cの両者に該当する。
【0052】
ビニル共重合体(成分C)を構成する単量体単位は、(メタ)アクリルモノマーを10〜90重量%含み、スチレン又はスチレン誘導体を10〜90重量%含むものであることが好ましい。(メタ)アクリルモノマーを15〜80重量%(さらに好ましくは20〜70重量%)含み、スチレン又はスチレン誘導体を20〜85重量%(さらに好ましくは30〜80重量%)含むものであることがより好ましい。このような成分Cは、成分Aとの親和性が大きい(メタ)アクリルモノマーと、成分Bとの親和性が大きいスチレン又はスチレン誘導体とを構成単位として有するので、AB両成分の相溶化剤として効果的に作用できるため好ましい。
【0053】
成分Cは、テトラヒドロフラン(THF)への溶解性を有することが必要である。THFへの溶解性を有しないビニル共重合体(例えばアクリルゲル)は、成分Aとの親和性が不足し、成分A中に成分Bを良好に分散させることができない。THFへの溶解性を有するとは、25℃におけるTHFへの溶解度が2重量%以上であることを意味する。該溶解度が5重量%以上であることがより好ましく、10重量%以上であることがさらに好ましい。
【0054】
成分Cは、1分子中に平均2個以上、好ましくは2.5〜20個、より好ましくは3〜10個のエポキシ基を有する。平均エポキシ基数が2個未満であると、成分Bとの反応性が低くなり相溶化剤しての機能を果たさない。その結果、成分Bの分散安定性が低下し、課題を解決できない。すなわち、柔軟性及び耐熱性が優れる成形体を与えることができ、かつ、該成形体が優れた柔軟性及び耐熱性を発揮するための成形温度依存性が小さい組成物が得られない。
【0055】
成分Cのエポキシ価は、相溶化剤としての効果の観点から、0.5〜5meq/gが好ましく、0.7〜3meq/gがより好ましい。
【0056】
成分Cとして利用可能な市販品としては、東亞合成(株)製のアルフォンUGシリーズ、日油(株)製のマープルーフGシリーズ、BASF製のジョンクリルADRシリーズ等が挙げられる。
【0057】
成分Cは、成分Aや成分Bへの適度の親和性を保つ必要があるが、ビニル共重合体(成分C)の重量平均分子量が10万を超えると、成分Aへの分散性又は相溶性が低下し、成分Bの分散安定化が損なわれる。また、1000未満であると、成分Aへの分散性又は相溶性が高くなりすぎるため、成分Bとの反応効率が低下し、その結果、成分Bの分散安定化が損なわれる。これらの観点から、成分Cの重量平均分子量は、1000以上が好ましく、3000以上がより好ましく、5000以上がさらに好ましい。また、10万以下が好ましく、8万以下がより好ましく、6万以下がさらに好ましい。成分Cの重量平均分子量は、1000〜10万が好ましく、3000〜8万がより好ましく、5000〜6万がさらに好ましい。
【0058】
成分Cの数平均分子量は、上記と同様に成分A中への成分Bの分散安定性の観点から、500〜5万が好ましく、1000〜4万がより好ましく、2000〜3万がさらに好ましい。
【0059】
本発明の組成物における成分A、成分B及び成分Cの割合(成分Aと成分Bの合計を100重量部とする)は、以下のとおりである。
【0060】
成分Aが40重量部未満であると、樹脂組成物の柔軟性が損なわれる。また、95重量部を超えると、成分Bによる耐熱性付与の効果が得られず、流動開始温度が低いものになる。これらの観点から、成分Aの割合は、40重量部以上であり、好ましくは45重量部以上、より好ましくは50重量部以上である。また、95重量部以下であり、好ましくは90重量部以下、より好ましくは85重量部以下である。成分Aの割合は、40〜95重量部であり、好ましくは45〜90重量部、より好ましくは50〜85重量部である。
【0061】
成分Bが5重量部未満であると、樹脂組成物の耐熱性が損なわれる。また、60重量部を超えると、組成物の柔軟性が損なわれる。これらの観点から、成分Bの割合は、5重量部以上であり、好ましくは10重量部以上、より好ましくは15重量部以上である。また、60重量部以下であり、好ましくは55重量部以下、より好ましくは50重量部以下である。成分Bの割合は、5〜60重量部であり、好ましくは10〜55重量部、より好ましくは15〜50重量部である。
【0062】
なお、成分Aと成分Bの合計量は、熱可塑性エラストマー組成物中、10.0重量%以上が好ましく、30.0重量%以上がより好ましく、50.0重量%以上がさらに好ましく、70.0重量%以上がさらに好ましい。また、99.9重量%以下が好ましく、99.0重量%以下がより好ましく、98.0重量%以下がさらに好ましい。これらの観点から、成分Aと成分Bの合計量は、熱可塑性エラストマー組成物中、10.0〜99.9重量%が好ましく、30.0〜99.0重量%がより好ましく、50.0〜98.0重量%がさらに好ましく、70.0〜98.0重量%がさらに好ましい。
【0063】
成分Cが0.1重量部未満であると、成分Bの分散径のサイズが成形温度条件によって大きく変化し、組成物を成形して得られる成形体の硬さ(柔軟性)及び流動開始温度(耐熱性)にばらつきが生じる。条件によっては得られる成形体が、流動開始温度が180℃を下回るような耐熱性の悪いものとなる場合がある。また、30重量部を超えると、組成物や成形体が柔軟性と耐熱性のバランスが悪いものとなる。これらの観点から、成分Cの割合は、0.1重量部以上であり、好ましくは0.2重量部以上、より好ましくは0.3重量部以上である。また、30重量部以下であり、好ましくは20重量部以下、より好ましくは15重量部以下、さらに好ましくは10重量部以下である。成分Cの割合は、0.1〜30重量部であり、好ましくは0.2〜20重量部、より好ましくは0.2〜15重量部、さらに好ましくは0.3〜10重量部である。あるいは、射出成形時の成形性の観点から、0.1〜15重量部が好ましい。
【0064】
本発明の組成物において、成分Bの官能基と成分Cのエポキシ基との反応速度が遅いと、例えば、本発明の組成物を押出機等で製造する場合に、反応の程度が不足し、成分Bの分散径の安定性が損なわれることがある。そこで、本発明の組成物は、成分Bの官能基と成分Cのエポキシ基との反応を促進させるための触媒として、脂肪族カルボン酸金属塩(成分D)を含有していることが好ましい。成分Dが添加されることにより、成分Bが効果的に分散され、分散安定性がより良好な組成物が得られる。例えば、組成物が成分Bの融点を超えるような温度条件下に置かれたときでも、成分Bの良好な分散をより長時間維持することができる。このような効果を奏する理由は、成分Dにより成分Bと成分Cとの反応が円滑になり、成分Cが相溶化剤としてより効果的に機能するためと推測される。
【0065】
脂肪族カルボン酸金属塩としては、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛等のステアリン酸金属塩、12-ヒドロキシステアリン酸ナトリウム、12-ヒドロキシステアリン酸カルシウム等の12-ヒドロキシステアリン酸金属塩等が挙げられる。
【0066】
脂肪族カルボン酸金属塩(成分D)の含有量は、成分Aと成分Bの合計量100重量部に対して、0.001重量以上が好ましく、0.005重量部以上がより好ましい。また、10重量部以下が好ましく、5重量部以下がより好ましい。脂肪族カルボン酸金属塩(成分D)の含有量は、成分Aと成分Bの合計量100重量部に対して、0.001〜10重量部が好ましく、0.005〜5重量部がより好ましい。
【0067】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、さらに、エステル交換触媒(成分E)を含有していることが好ましい。成分Eを添加することにより、得られる組成物の引張破断強度等が向上する。具体的には、引張試験において抗張積(強度と伸び率の積)が大きく、強度と伸びのバランスがより良好となる。このような効果を奏する理由は、成分Eにより、成分Aの分子量を大きくさせることができ、場合によっては、部分架橋が形成される。成分Eが架橋剤として作用し、組成物の主成分である成分Aの高分子量化により、組成物がより強靭なものになるものと推測される。
【0068】
成分Aの高分子量化及び部分架橋のための反応触媒としてエステル化触媒としては、一般的なポリエステル重合触媒を使用することができる。かかる触媒としては、例えば、三酸化アンチモン等のアンチモン系触媒、ブチル錫、オクチル錫、スタノキサン等の錫系触媒、チタン系アミネート、チタンアルコキシド等のチタン系触媒、ジルコニウム系アセチルアセトネート、ジルコニウムアルコキシド等のジルコニウム系触媒が挙げられ。これらの中では、チタン系触媒及びジルコニウム系触媒が好ましく、チタン系触媒がより好ましい。
【0069】
エステル交換触媒(成分E)の含有量は成分Aと成分Bの合計量100重量部に対して、0.01重量以上が好ましく、0.1重量部以上がより好ましい。また、10重量部以下が好ましく、5重量部以下がより好ましい。エステル交換触媒(成分E)の含有量は成分Aと成分Bの合計量100重量部に対して、0.01〜10重量部が好ましく、0.1〜5重量部がより好ましい。エステル交換触媒(成分E)の含有量は、成分Aの架橋により得られる組成物の熱可塑性が低下するのを抑制する観点から、10重量部以下が好ましい。
【0070】
本発明の組成物は、成分Aの高分子量化の観点から、ラジカル重合開始剤(成分F)を含有していてもよい。
【0071】
ラジカル重合開始剤としては、ジアルキルパーオキサイド等の有機過酸化物、アゾビスブチロニトリル等のアゾ系化合物等が挙げられる。
【0072】
ラジカル重合開始剤(成分F)の含有量は、成分Aと成分Bの合計量100重量部に対して、0.01〜15重量部が好ましく、0.1〜5重量部がより好ましい。
【0073】
成分E及び成分Fはいずれも成分Aの高分子量化を目的とした成分であり、いずれかの成分が使用されても、両成分が併用されてもよい。
【0074】
成分E及び成分Fはいずれも、成分Aの分子量が比較的小さい場合に使用することが効果的であり、成分Aの分子量が大きい場合には高分子量化した成分Aの分子量が過大とならないように注意する。高分子量化した成分Aが重量平均分子量100万を超えないようにすることが好ましく、成分Aが架橋する等、熱可塑性を失うことは避けなければならない。
【0075】
さらに、加熱条件下での本発明の組成物の特性の変化が抑制される観点から、本発明の組成物は、熱安定剤を含有していることが好ましい。
【0076】
熱安定剤としては、リン含有化合物、ヒドラジド化合物、有機イオウ系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤等が挙げられるが、その他エステル重合触媒(成分E)とキレート形成する等して該触媒の活性を低減させる化合物も利用可能である。本発明では、熱可塑性エラストマーの熱老化に対する耐性が格段に向上するため、使用条件の自由度がより大きくなる観点から、リン含有化合物及びヒドラジド化合物が好ましい。これらは、併用されていてもよい。なお、熱老化は主に2つの現象を含み、1つ目は熱分解で生成する低分子量成分の割合増大に起因する強度の低下であり、2つ目は熱分解で生成するフリーラジカル等の活性点の架橋形成に起因する伸び率の低下である。
【0077】
リン含有化合物としては、ホスファイト系化合物、ポリホスファイト系化合物、リン酸エステル系化合物、ポリリン酸エステル系化合物等が挙げられる。
【0078】
ホスファイト系化合物としては、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリイソデシルホスファイト、トリ-2-エチルへキシルホスファイト、ジフェニルノニルフェニルホスファイト、トリノニルフェニルホスファイト、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナント-10-オキシド、10-デシロキシ-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファナントレン、O−シクロヘキシルホスファイト、トリラウリルトリチオホスファイト、トリオクタデシルホスファイト等が挙げられる。
【0079】
ポリホスファイト系化合物としては、ジイソデシルペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジノニルフェニルペンタエリスリトールジホスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト、4,4’-イソブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェニル-ジトリデシルホスファイト)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト(ペンタエリスリトール骨格構造を有するホスファイト)等が挙げられる。
【0080】
リン酸エステル系化合物としては、トリメチルリン酸エステル、トリエチルリン酸エステル、ジブチルリン酸エステル、トリブチルリン酸エステル、ジオクチルリン酸エステル、トリオクチルリン酸エステルの他、式(I):
【0082】
(式中、R
1は炭素数1〜10のアルキレン基、mは1〜10の整数を示す)
で表されるリン酸エステル化合物、式(II):
【0084】
(式中、R
2は炭素数1〜20のアルキル基、nは1又は2を示す)
で表されるリン酸エステル化合物等が挙げられる。
【0085】
式(I)で表されるリン酸エステル化合物としては、トリ(ヒドロキシエトキシ)ホスフェート、トリ(ヒドロキシエトキシエトキシ)ホスフェート等が挙げられる。
【0086】
式(II)で表されるリン酸エステル化合物としては、モノ−ステアリルアシッドホスフェート、ジ−ステアリルアシッドホスフェート等が挙げられる。
【0087】
ヒドラジド化合物は酸とヒドラジンが縮合した酸ヒドラジドであり、鎖状ヒドラジド、環状ヒドラジド等が挙げられる。
【0088】
鎖状ヒドラジドとしては、式(IIIa)又は(IIIb):
【0090】
(式中、R
3、R
4、R
5及びR
7は各々独立に芳香族1価カルボン酸残基を、R
6は脂肪族2価カルボン酸残基又は芳香族2価カルボン酸残基を表す。)
で表される化合物が挙げられる。
【0091】
R
3、R
4、R
5及びR
7で表される芳香族1価カルボン酸残基としては、安息香酸、4-ブチル安息香酸、サリチル酸、ナフチル酸、3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、フェノキシプロピオン酸等の芳香族カルボン酸の残基が挙げられ、R
6で表される脂肪族2価カルボン酸残基としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等炭素数2〜20の脂肪族ジカルボン酸の残基が挙げられる。芳香族2価カルボン酸残基としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸の残基が挙げられる。
【0094】
(式中、R
8及びR
9は水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、炭素原子数1〜18のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、シクロアルキル基、又はアリール基を表す。)
で表される化合物等が挙げられる。式(IV)で表される化合物の具体例としては、フタル酸ヒドラジド等が挙げられる。
【0095】
(メタ)アクリルエラストマー(成分A)の高分子量化剤としてラジカル重合開始剤(成分F)が使用された場合には、ラジカル捕捉剤、ラジカル重合禁止剤も熱安定剤として有効である。
【0096】
熱安定剤の含有量は、成分Aと成分Bの合計量100重量部に対して、0.01〜15重量部が好ましく、0.05〜10重量部がより好ましい。
【0097】
その他添加剤としては、重金属不活性化剤、脂肪酸エステル等の滑剤;ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾエート化合物やヒンダードフェノール系化合物等の光安定剤;カルボジイミド化合物やオキサゾリン化合物等の加水分解防止剤;フタル酸エステル系化合物、ポリエステル化合物、(メタ)アクリルオリゴマー、プロセスオイル等の可塑剤;重炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム等の無機系発泡剤;ニトロ化合物、アゾ化合物、スルホニルヒドラジド等の有機系発泡剤;カーボンブラック、炭酸カルシウム、タルク、ガラス繊維等の充填剤;テトラブロモフェノール、ポリリン酸アンモニウム、メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウム等の難燃剤;シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤や酸変性ポリオレフィン樹脂等の相溶化剤;そのほか顔料や染料等が挙げられる。
【0098】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、少なくとも(メタ)アクリルエラストマー(成分A)、熱可塑性樹脂(成分B)及びビニル共重合体(成分C)、さらに必要に応じて、脂肪族カルボン酸金属塩(成分D)、エステル化触媒(成分E)、ラジカル重合開始剤(成分F)等を含有する原料成分を、押出機又はニーダーにより加熱混練する方法により得ることが好ましい。
【0099】
エステル化触媒(成分E)又はラジカル重合開始剤(成分F)を使用して(メタ)アクリルエラストマー(成分A)の高分子量化を図る場合、熱安定剤を併用して組成物の特性がより安定化されたものとすることが好ましいが、熱安定剤の添加時期は、成分Aの高分子量化がなされた後(例えば180〜350℃の混練温度において、熱安定剤以外の原料が0.5〜30分程度混練された後)とすることが好ましい。熱安定剤の添加時期が早すぎると成分Aの高分子量化が不十分となる場合がある。
【0100】
加熱混練の温度は、成分Bの融点未満では、成分Bを微細に分散させることができず、その結果、得られる組成物の耐熱性が不足する。また、350℃を超えると、成分Aの(メタ)アクリル成分が熱分解し、得られる組成物の機械的物性が低下する。これらの観点から、加熱混練の好ましい温度は、成分Bの融点以上350℃以下である。加熱混練のより好ましい下限温度は(成分Bの融点+10℃)、さらに好ましい下限温度は(成分Bの融点+20℃)である。加熱混練のより好ましい上限温度は320℃、さらに好ましい上限温度は300℃である。
【0101】
押出機としては、例えば、単軸押出機、平行スクリュー二軸押出機、コニカルスクリュー二軸押出機等が挙げられる。本発明では、混合能力が優れる(得られる混合物が分散性の良好なものとなる)観点から、二軸押出機が好ましく、同方向回転二軸押出機がより好ましい。
【0102】
押出機の吐出部分に装着されるダイは、任意のものを選択できるが、例えば、ペレットの生産に適するストランドダイ、シートやフィルムの生産に適するTダイ等のほか、パイプダイ、異形押出ダイ等が挙げられる。
【0103】
また、押出機は、空気開放部分や減圧装置につながるガス抜き用のベントを備えていてもよいし、複数の原料投入口を供えていてもよい。
【0104】
ニーダーとは、温度制御が可能なバッチ式ミキサーを意味し、バンバリーミキサー、ブラベンダー等が挙げられる。
【0105】
各成分は、押出機又はニーダーに、一括で投入しても、別々に投入しても、また、分割して投入してもよい。ただし、熱安定剤の投入については前記のとおりである。
【0106】
加熱混練時間は、加熱温度や各成分の種類、濃度等に依存するため、一概には決定できないが、得られる熱可塑性エラストマー組成物の品質のバラツキの制御と生産性を考慮して適宜決定することが好ましい。押出機を用いる場合の代表的な加熱混合時間は、例えば、0.5〜20分間、好ましくは0.7〜15分間、より好ましくは1〜10分間である。
【0107】
かくして得られる本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、連続相と分散相とからなる相分離構造を有する。連続相は(メタ)アクリルエラストマー(成分A)に由来する成分を含み、分散相は熱可塑性樹脂(成分B)に由来する成分を含む。本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、分散相が連続相中に微細に分散しており、柔軟性及び耐熱性に優れた成形体を与えることができ、該成形体が優れた柔軟性及び耐熱性を発揮するための成形温度依存性が小さく(成形温度の許容範囲が広く)、成形体への加工において、成形条件の制限が小さい。
すなわち、成形するために十分な流動性を得られる温度(後述する温度H)で加熱成形したときにも、連続相を形成する成分Aは流動するが分散相を形成する成分Bは溶融しない温度(後述する温度L)で加熱成形したときと比べて柔軟性及び耐熱性が大きく変化しない(特に耐熱性がほとんど低下しない)という効果を奏する。
【0108】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の流動開始温度は、耐熱性の観点から下限は180℃であり、加工性の観点から上限は350℃である。すわなち、180〜350℃であり、190〜320℃が好ましく、200〜300℃がより好ましい。
調製された組成物が、ペレット、粉末、不定形塊状物等のように直接流動開始温度を測定する試料として使用できない形状である場合は、熱可塑性樹脂(成分B)の融点より20℃低い温度付近(±5℃)で短時間(5分間)の熱プレスによりシート状の成形体を作製し、組成物の物性値測定用の試料を得る。このような低い温度で短時間の熱履歴がかかっても、本発明の組成物の物性値に大きな変化が生じることはなく、上記成形体の物性値を組成物の物性値とみなすことができる。流動開始温度だけでなく、A硬さ、粒子径等も同様に扱われる。熱プレスで組成物の物性値測定用の試料を得る際には、組成物を塊状物として調製すると気泡等のない試料を得やすい。
【0109】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を2種類の温度、温度L〔((成分Bの融点)-20℃)±5℃以内〕又は温度H〔((成分Bの融点)+10℃)±5℃以内〕に設定された熱プレス機により5分間加熱して得られる成形体は、いずれの温度における成形体についても、連続相と分散相とからなる相分離構造を有していることが好ましい。また、いずれの温度における成形体についても、電子顕微鏡により観察される分散相の最大粒子径は、成形体の耐熱性の観点から、5μm以下が好ましく、3μm以下がより好ましく、2μm以下がさらに好ましい。なお、本発明において、分散相の径は、真円状の場合は直径であり、楕円状の場合は長径である。
【0110】
以降、温度L〔((成分Bの融点)-20℃)±5℃以内〕に設定された熱プレス機により5分間加熱して得られる成形体を成形体L、温度H〔((成分Bの融点)+10℃)±5℃以内〕に設定された熱プレス機により5分間加熱して得られる成形体を成形体Hとする。
【0111】
成形体L及び成形体Hにおいて、電子顕微鏡により観察される分散相の平均粒子径の比(成形体Lの平均粒子径/成形体Hの平均粒子径)は、組成物を成形して得られる成形体が優れた柔軟性及び耐熱性を発揮するための成形温度依存性を小さく(成形温度の許容範囲を広く)できるという観点から、0.6以上が好ましく、0.6〜1.3がより好ましく、0.7〜1.2がさらに好ましい。
【0112】
成形体L及び成形体HのA硬さが、いずれも、20〜90(より好ましくは30〜85)となるような組成物は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物として好ましいものである。
【0113】
成形体L及び成形体Hについて、A硬さの比(成形体LのA硬さ/成形体HのA硬さ)が、0.6〜1.3(より好ましくは0.7〜1.25、さらに好ましくは0.8〜1.2)となるような組成物は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物として好ましいものである。
【0114】
成形体Hの流動開始温度が180〜350℃(より好ましくは190〜320℃、さらに好ましくは200〜300℃)となるような組成物は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物として好ましいものである。
特に、成形体L及び成形体Hの流動開始温度がいずれも、180〜350℃(より好ましくは190〜320℃、さらに好ましくは200〜300℃)となるような組成物は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物として好ましいものである。
【0115】
成形体Hの引張破断伸び率が、100%以上(好ましくは150〜1000%、さらに好ましくは200〜800%)となるような組成物は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物として好ましいものである。
【0116】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は特に耐熱性と耐薬品性に優れており、熱可塑性エラストマー材料分野においては、熱可塑性ポリエステル系や熱可塑性ポリアミド系エラストマーと同様の用途分野に用いることができる。
【0117】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の用途としては、例えば、以下のものが挙げられる。
【0118】
〔自動車分野のブーツ・カバー類、エンジン回りのホース・カバー類〕
・車体回り
ドアーラッチ、コントロールケーブルカバー、ブーツ、エンブレム、シャーシ・ステアリング周り、フューエルホース、
等速ジョイントブーツ、ピニオン&ラックブーツ、ストラットサスペンションブーツ、ボールジョイント用ブッシュ、ダストシール、ブレーキホース、
【0119】
・エンジン回り
エアーダクトホース、エアーダクト、エアーインテークホース、エンジンコントロール系バキュームホース、インタークーラーホース、フューエルラインカバー、各種防振・制振材、ラジエータホース、ヒーターホース、オイルクーラーホース、パワーステアリングホース、各種ガスケット類、エンジンアンダーフード、エンジンルームカバー等の各種カバー・ケース類
【0120】
〔電線・ケーブルの被覆材〕
・電子・民生機器用電線
コンピュータ・OA機器・テレビ・VTRなどの電線被覆
・通信ケーブル
通信用電線・光ファイバー用被覆材料
・絶縁電線・通信ケーブル・機器用電線・自動車用ワイヤハーネス
【0121】
〔ホース・チューブ・ベルト・防音防振シート等の工業用品〕
空・油圧ホース(チューブ)、高圧ホース(チューブ)、燃料ホース(チューブ)、コンベアベルト、V・丸ベルト、タイミングベルト、クッショングリップ、フレックスハンマー、消音ギア、フレキシブルカップリング、ガソリンタンクシート、ガスケット、パッキン、シール材、Oリング、ダイヤフラム、カールコード、アキュムレータ内装、搬送ローラ、圧縮スプリング、マンドレル、牽引ロープジャケット
【0122】
〔スポーツ用品〕
ゴルフボール表皮、スキー靴・登山靴カフ、スポーツシューズ本底
【0123】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を、常法に従って、適宜加熱成形することにより、成形体が得られる。本発明の熱可塑性エラストマーを加熱成形して得られる成形体の用途は、特に限定されるものではなく一般的なスチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、アクリル系エラストマーやポリエステル系エラストマー等が用いられる分野に用いることができる。
【0124】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を成形して得られる成形体は、耐熱性が優れるため、例えば100℃以上(設計によっては120℃以上、150℃以上等)の耐熱性を必要とする用途にも好適に使用することができる。
【0125】
加熱成形時の温度は、組成物の流動性及びそれに起因する成形加工性の観点から、180℃以上が好ましく、組成物中の成分Aの(メタ)アクリル成分の熱分解を防止する観点から、350℃以下が好ましい。これらの観点から、加熱成形時の温度は、180〜350℃が好ましく、200〜320℃がより好ましい。
【0126】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を用いた成形体の製造に用いられる装置には、組成物を溶融成形することができる任意の成形機を用いることができる。例えば、ニーダー、押出成形機、射出成形機、プレス成形機、ブロー成形機、ミキシングロール等が挙げられる。
【0127】
本発明の成形体は、上記熱可塑性エラストマー組成物を180〜350℃で加熱成形して得られるが、耐熱性の指標となる流動開始温度が180〜350℃である成形体が好ましく、190〜320℃である成形体がより好ましく、200〜300℃である成形体がさらに好ましい成形体である。流動開始温度が180℃未満である成形体は耐熱性が不足する場合がある。成形体の流動開始温度の上限は特にないが、本発明の組成物からは350℃を超える成形体は得られにくい。
【0128】
本発明の成形体は、上記熱可塑性エラストマー組成物を180〜350℃で加熱成形して得られるが、成形体の引張破断伸び率は、エラストマーに要求される基本的な特性として、100%以上が好ましく、150〜1000%がより好ましく、200〜800%がさらに好ましい。同様に、引張破断強度は、2〜20MPaが好ましく、4〜15MPaがより好ましい。
【0129】
本発明の成形体は、上記熱可塑性エラストマー組成物を180〜350℃で加熱成形して得られるが、柔軟性の指標となる成形体のA硬さは20〜90が好ましく、30〜85がより好ましい。成形体のA硬さが90を超えると柔軟性が不足する場合がある。成形体のA硬さの下限は特にないが、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を成形して得られる成形体は20未満のA硬さにはなりにくい。
【実施例】
【0130】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によってなんら限定されるものではない。
【0131】
〔共重合体C3の製造〕
オイルジャケットを備えた容量1リットルの加圧式攪拌槽型反応器のオイルジャケット温度を200℃に保った。一方、スチレン74重量部、グリシジルメタクリレート20重量部、アクリル酸n−ブチル6重量部、キシレン15重量部及び重合開始剤としてジターシャリーブチルパーオキサイド(DTBP)0.5重量部からなる単量体混合液を原料タンクに仕込んだ。一定の供給速度(48g/分、滞留時間:12分)で原料タンクから反応器に連続供給し、反応器の内容液重量が約580gで一定になるように反応液を反応器の出口から連続的に抜き出した。その時の反応器内温は、約210℃に保たれた。
反応器内部の温度が安定してから36分経過した後から、抜き出した反応液を減圧度30kPa、温度250℃に保った薄膜蒸発機により連続的に揮発成分除去処理して、揮発成分をほとんど含まない共重合体C3を回収した。180分かけて約7kgの共重合体C3を回収した。
【0132】
〔共重合体C1、C2及び比較用共重合体C’5の製造〕
表3−1に示す組成の単量体、キシレン15重量部、及びDTBP 0.3重量部からなる単量体混合液を用いた以外は、共重合体C3と同じ方法にて、共重合体C1、C2及び比較用共重合体C’5を製造した。
【0133】
実施例1〜30及び比較例1〜10
260℃に加熱されたバッチ式ニーダー(ブラベンダー社製プラストグラフEC50型)に表6〜9に示す組成比(重量部)で原料成分を合計で54g投入し、60r/mの回転数で原料を溶融混練した。混練時間10分で、溶融状態の混練物を全量取り出し、室温で冷却して、組成物を得た。
【0134】
使用した樹脂原料の詳細を表1〜5に示す。
【0135】
【表1】
【0136】
【表2】
【0137】
【表3】
【0138】
【表4】
【0139】
【表5】
【0140】
なお、表1〜4に記載の各原料成分の物性は以下の方法により測定した。原料のシート作製は、後述の組成物のプレスシート作製と同様の方法で行った。ただしプレス温度は原料に応じて加減した(予め少量の原料を昇温して目視で流動を認めた温度を把握した)。
【0141】
〔A硬さ〕
プレスシートを恒温恒湿室(温度23℃、相対湿度50%)に24時間以上静置し、プレスシートの状態を安定させる。
2mm厚さのプレスシートを3枚重ね、JIS K7215「プラスチックのデュロメータ硬さ試験法」に準じて測定する。
【0142】
〔流動開始温度〕
プレスシートより幅12mm×長さ30mmの短冊状のテストピースを裁断し、動的粘弾性測定装置(TAインスツルメント社 RSA-II型)のトーションモード(10gf負荷)、周波数 10Hz、昇温速度 5℃/min、温度 0〜280℃の設定で各サンプルの粘弾性特性を測定する。
得られた貯蔵弾性率の変曲点、もしくは測定不能になる温度を流動開始温度とする。なお、ガラス転移温度付近においても貯蔵弾性率の変曲点は現れるが、流動はしないため、流動開始温度には相当しない。
【0143】
〔融点〕
試料約10mgをアルミパンに入れてアルミ蓋を圧着する。アルミパンを示差走査熱量分析計(パーキンエルマー社 DSC8000)の装置測定部に設置し、空気中・昇温速度20℃/分の条件で測定する。
【0144】
〔溶融粘度(JIS K7199, ISO 11443)〕
表2に記載の熱可塑性樹脂を120℃の乾燥機内で4時間乾燥させる。
内径1mm×長さ10mmのキャピラリーダイを有するキャピラリーレオメータ(東洋精機(株)製、キャピログラフ1D)を用い、温度設定240℃のシリンダーに乾燥させた試料片を充填し、充填完了から5分間滞留させた後、せん断速度1216sec
-1の条件で試料片の溶融粘度を測定する。
【0145】
〔重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)〕
ゲルパーミエーションクロマトグラフ(以下、GPCともいう)より、溶剤としてTHFを使用し、ポリスチレン換算から求める。
【0146】
〔1分子当たりの平均エポキシ基数(Fn)〕
下記の式から算出する。
平均エポキシ基の個数(Fn)=a×b/100c
上記の式においてa、b及びcはそれぞれ以下のとおりである。
a:共重合体に含まれるエポキシ基を有するビニル単量体単位の割合(重量%)
b:共重合体の数平均分子量
c:エポキシ基を有するビニル単量体の分子量
【0147】
〔エポキシ価〕
試料1g中に含まれるエポキシ基のミリ当量数(試料1kg中に含まれるエポキシ基の当量数)であり、JIS K7236のエポキシ指数に相当するものである。
【0148】
実施例及び比較例で得られた組成物を、200℃又は230℃に加熱した熱プレス機(東邦(株)製 50t熱プレス)にて2mm厚×10cm×10cmの型枠を用いて、5分間加熱プレス、次いで5分間冷却プレスを施し、加熱条件の異なる2種類のプレスシート、200℃プレスシートと230℃プレスシートを作製した。
【0149】
なお、後述に示す実施例の組成物の流動開始温度は208〜231℃であり、該組成物の物性測定を行うためのプレスシート成形温度(200℃)は、かかる流動開始温度より低いが、熱プレスにより、気泡等の明らかな欠陥のないシート状の成形体を得ることができる程度には流動する。
【0150】
ただし、比較例6の組成物のみについては、上記加熱条件(200℃又は230℃)を250℃又は280℃に変更した。
【0151】
比較例6以外の実施例及び比較例について、200℃は温度L〔((成分Bの融点)-20℃)±5℃以内〕に相当する温度であり、230℃は温度H〔((成分Bの融点)+10℃)±5℃以内〕に相当する温度である。
比較例6について、250℃は温度L〔((成分Bの融点)-20℃)±5℃以内〕に相当する温度であり、280℃は温度H〔((成分Bの融点)+10℃)±5℃以内〕に相当する温度である。
【0152】
プレスシートを用い、A硬さ、分散相の平均粒子径、最大粒径、引張強度及び流動開始温度を測定、評価した。結果を表6〜9に示す。
温度L及び温度Hのいずれの温度で熱プレスして得られるプレスシートも本発明の成形体に該当するが、温度Lで熱プレスして得られるプレスシートの物性値は前記の通り、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の物性値にも該当するとして扱う。
【0153】
〔A硬さ〕
プレスシートを恒温恒湿室(温度23℃、相対湿度50%)に24時間以上静置し、シートの状態を安定させる。
2mm厚さのプレスシートを3枚重ね、JIS K7215「プラスチックのデュロメータ硬さ試験法」に準じて測定する。
【0154】
〔分散相の平均粒子径及び最大粒子径〕
プレスシートをカッターナイフで切断し、その断面を走査型電子顕微鏡(キーエンス社製 電子顕微鏡VB-9800)を用いて1000倍〜5000倍の倍率で表面写真を撮影する。
得られた写真について、画像解析ソフト「ImageJ」を用いて、観察できる粒子の大小合計10点の粒子サイズを測定し、平均粒子径を算出する。また、観察できる粒子のなかで最大の粒子の粒径を測定する。
【0155】
測定において、粒子を認識しにくいときは、成分Aを溶解しやすく成分Bを溶解しにくい溶剤A、又は成分Aを溶解しにくく成分Bを溶解しやすい溶剤Bで試料の表面を処理することにより、鮮明な画像を得られることもあり、好ましい方法である。溶剤Aでの処理条件を調整すると連続相を形成する成分Aが浸食されて、分散相(分散粒子)である成分Bの存在が明瞭になる。連続相を形成する成分Aをほぼすべて溶解し、溶液中に分散状態で遊離する成分Bからなる粒子の粒子径を測定することもできる。また逆に、溶剤Bでの処理条件を調整すると分散相(分散粒子)である成分Bが浸食されて、分散粒子の粒子径を推認させる窪みの存在が明瞭になる。
このような溶剤A又は溶剤Bは、予め原料である成分A及び成分Bについて代表的溶剤への溶解性をチェックして選択することができる。溶剤Aの例としてはアセトン、メタノール等を挙げることができる。
【0156】
実施例1、4、比較例1、3で得られた組成物の200℃プレスシート及び/又は230℃プレスシート断面の電子顕微鏡写真を
図1〜6に示す。なお、分散相の状態を確認する電子顕微鏡としては、走査型電子顕微鏡(SEM)及び透過型電子顕微鏡(TEM)のいずれを用いてもよく、試料に応じて明瞭に観察できる方式を選択すればよい。
【0157】
〔流動開始温度〕
プレスシートより幅12mm×長さ30mmの短冊状のテストピースを裁断し、動的粘弾性測定装置(TAインスツルメント社 RSA-II型)のトーションモード(10gf負荷)、周波数 10Hz、昇温速度 5℃/min、温度 0〜280℃の設定で各サンプルの粘弾性特性を測定する。
得られた貯蔵弾性率の変曲点、もしくは測定不能になる温度を流動開始温度とする。なお、ガラス転移温度付近においても貯蔵弾性率の変曲点は現れるが、流動はしないため、流動開始温度には相当しない。
【0158】
〔引張特性(引張破断強度及び引張破断伸び率)〕
プレスシートから、型抜機を用いてJIS K7113に記載の3号試験片を作製し、(株)島津製作所製引張試験機(オートグラフ AG-50kND型)を用いて、23℃の温度環境下、200mm/minの速度で試験片を引っ張る。試験片破断時の応力と伸び率をそれぞれ破断強度、破断伸び率として記録する。
【0159】
【表6】
【0160】
【表7】
【0161】
【表8】
【0162】
【表9】
【0163】
以上の結果より、成分Aを配合していない比較例10、成分Bを配合していない比較例6、成分Cを配合していない1〜5、7〜9の組成物に比べて、実施例1〜20の組成物は、A硬さ、分散相の分散状態及び流動開始温度が、200℃(温度L)プレスシートと230℃(温度H)プレスシート間で大きな差がなく、優れた引張特性(引張強度及び伸び率)を有することが分かる。
【0164】
実施例24、25の組成物とポリエステルエラストマーの市販品について、以下の方法により、熱老化性、耐酸性及び耐油性を試験、評価した。結果を表10に示す。
【0165】
〔熱老化性(JIS K 7212)〕
引張特性の試験と同じ試験片を作製し、150℃に温度設定されたギヤーオーブン(東洋精機(株)製、S45型)に試験片を吊す。試験開始から1000時間後に試験片を取り出し、23℃の恒温室内にて1日放置し、試験片の温度調整を行った後、引張試験を実施する。
【0166】
〔耐酸性(JIS K 7114, ISO 175)〕
引張特性の試験と同じ試験片を作製し、35%塩酸(和光純薬(株)製、特級試薬)に試験片を浸漬し、23℃の恒温室で静置する。浸漬開始から168時間後に試験片を取り出し、引張試験を実施する。
【0167】
〔耐油性(JIS K 7114, ISO 175)〕
引張特性の試験と同じ試験片を作製し、ゴム耐液性試験油(日本サン石油(株)製、IRM903)に試験片を浸漬し、23℃の恒温室で静置する。浸漬開始から168時間後に試験片を取り出し、引張試験を実施する。
【0168】
【表10】
【0169】
以上の結果より、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、従来市販されているポリエステルエラストマーと対比して、熱老化性に優れ、また耐酸性及び耐油性も良好であることから、耐薬品性にも優れていることが分かる。