【実施例】
【0012】
以下に、本発明の一実施形態に係るチェーン緩衝装置100について、
図1〜7に基づいて説明する。
【0013】
チェーン緩衝装置100は、
図1に示すように、エンジンルーム内に設置されたタイミングシステムに組み込まれるものであり、スプロケットS1、S2間を走行するチェーンCHの軌道を構成するとともに、チェーンCHの縦伸び振動を緩衝するものである。
【0014】
チェーン緩衝装置100は、チェーンCHの張り側に設置され、チェーンCHの緩み側には、固定ガイドGが設置されている。また、スプロケットS1は、エンジンの駆動軸(入力軸、クランク軸)SH1に固定された駆動側スプロケットであり、スプロケットS2は、被駆動軸(出力軸、カム軸)SH2に固定された被駆動側スプロケットである。
【0015】
チェーン緩衝装置100は、
図1に示すように、所定の回転軸151を中心として自由回転可能に配置されるアイドルスプロケット110と、所定の回転軸151を中心として自由回転可能に配置される慣性部材120と、アイドルスプロケット110と慣性部材120との間に取り付けられ、アイドルスプロケット110と慣性部材120との間の相対的な回転を一方向に制限するワンウェイクラッチ130と、アイドルスプロケット110および慣性部材120の間の相対的な回転に応じて、アイドルスプロケット110および慣性部材120の間の相対的な回転に回転抵抗を与える回転ダンパ140とを備えている。
【0016】
アイドルスプロケット110は、
図2や
図3に示すように、エンジンブロック170に固定された取付軸150に対して、ベアリング160を介して回動可能に取り付けられている。アイドルスプロケット110は、チェーンCHと噛み合うためのスプロケット歯111をその外周に有している。
【0017】
慣性部材120は、
図3に示すように、挿通孔を中心部に有し、挿通孔に取付軸150を遊嵌させた状態で取付軸150の周囲に取り付けられる。なお、慣性部材120の設置態様は上記に限定されず、回転軸151を中心として自由回転可能に配置されていればよく、例えば、慣性部材120をベアリングを介して取付軸150の周囲に取り付けてもよい。
【0018】
ワンウェイクラッチ130は、
図2や
図3に示すように、アイドルスプロケット110に固定される内輪131と、慣性部材120に固定される外輪132と、内輪131および外輪132の相対的な回転を一方向に制限するクラッチ部133とを有している。内輪131および外輪132は、取付軸150の外周に遊びを有した状態で、回転軸151を中心として自由回転可能に取り付けられている。クラッチ部133は、ベアリング(図示しない)やカム(図示しない)やスプリング(図示しない)等によって構成される。本実施形態では、ワンウェイクラッチ130は、チェーン走行方向と逆向きの回転加速度がアイドルスプロケット110に生じた場合に、アイドルスプロケット110と慣性部材120との間のロックを解除し、アイドルスプロケット110と慣性部材120との間を自由回転させるように構成されている。なお、ワンウェイクラッチ130による回転の制限の方向を上記とは反対に構成してもよい。
【0019】
回転ダンパ140は、
図2に示すように、アイドルスプロケット110および慣性部材120との間に取り付けられたオイル式ダンパである。回転ダンパ140は、エンジン内に既設されたオイル供給源に接続され、供給されたエンジンオイルを利用してアイドルスプロケット110および慣性部材120の間に抵抗を生じさせる。このように、回転ダンパ140を外部からオイルの供給を受ける開放構造で構成した場合、回転ダンパ140を所定の隙間にオイルを封入した密閉構造で回転ダンパ140を構成した場合よりも、回転ダンパ140を低コストで構成することができる。
【0020】
次に、本発明のチェーン緩衝装置100の緩衝効果を確認するために実施した解析の結果について、以下に説明する。
【0021】
まず、解析においては、
図4に示すように、アイドルスプロケット110に慣性部材120を固定した場合の第1解析モデル、アイドルスプロケット110と慣性部材120との間に回転ダンパ140のみを設けた場合の第2解析モデル、および、アイドルスプロケット110と慣性部材120との間に回転ダンパ140およびワンウェイクラッチ130の両方を設けた場合の第3解析モデルを用いた。
【0022】
また、各解析モデルごとに、駆動軸SH1の回転速度と
図1のA部分におけるチェーン張力との関係、チェーン共振が生じる3000r/min付近の駆動軸SH1および被駆動軸SH2の回転速度、および、駆動軸SH1の回転速度と回転ダンパ140によるエネルギー消費率との関係をそれぞれ測定した。また、第2解析モデルおよび第3解析モデルにおいては、駆動軸SH1および被駆動軸SH2の間のダンピング係数とチェーン張力の最大値との関係についても測定した。
【0023】
また、解析においては、駆動軸SH1(スプロケットS1)および被駆動軸SH2(スプロケットS2)をそれぞれ1つずつ設置した構成でタイミングシステムのモデルを構築した。また、駆動軸SH1の1回転に対して被駆動軸SH2が2周期の正弦波変動を生じるものとして設定した。
【0024】
そして、以上のように実施した解析の結果から、以下のことが分かった。
【0025】
まず、
図5に示すように、第1解析モデルにおいては、チェーン共振が生じる駆動軸回転速度:3000r/min付近において、チェーン張力、および、駆動軸SH1および被駆動軸SH2の回転速度に大きな変動が見られる。これに対して、
図6および
図7に示すように、回転ダンパ140を設けた第2解析モデルおよび第3解析モデルにおいては、駆動軸回転速度:3000r/min付近において、チェーン張力、および、駆動軸SH1および被駆動軸SH2の回転速度の変動が抑えられているのが分かる。
【0026】
また、
図6に示すように、回転ダンパ140が両回転方向において作用する第2解析モデルにおいては、駆動軸回転速度:3000r/min付近以外においても、回転ダンパ140によるエネルギーロスが生じることが分かった。これに対して、
図7に示すように、ワンウェイクラッチ130を設けた第3解析モデルにおいては、駆動軸回転速度:3000r/min付近においてのみ、回転ダンパ140によるエネルギーロスが生じることが分かる。
【0027】
なお、上述した実施形態では、本発明のチェーン緩衝装置がタイミングシステムに組み込まれて用いられるものとして説明したが、本発明のチェーン緩衝装置の用途はタイミングシステムに限定されない。
また、慣性部材の具体的態様については、所定の回転軸を中心として自由回転可能に配置され、所定の慣性モーメントを有するものであれば、如何なるものでもよい。
また、回転ダンパの具体的態様については、アイドルスプロケットおよび慣性部材の間の相対的な回転に応じて、アイドルスプロケットおよび慣性部材の間の相対的な回転に回転抵抗を与えるものであれば、オイルや液体の粘性抵抗を利用したもの、摩擦抵抗を利用したもの、塑性変形抵抗を利用したもの等、如何なるものでもよい。
また、ワンウェイクラッチの具体的態様については、アイドルスプロケットと慣性部材との間に取り付けられ、アイドルスプロケットと慣性部材との間の相対的な回転を一方向に制限するものであれば、カム式、スプラグ式、ローラ式、コイルバネ式、ラチェット式等、如何なるものでもよい。また、ワンウェイクラッチは必ずしも設けなくてもよい。