特許第6087302号(P6087302)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6087302
(24)【登録日】2017年2月10日
(45)【発行日】2017年3月1日
(54)【発明の名称】チェーン緩衝装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 7/06 20060101AFI20170220BHJP
   F16H 7/12 20060101ALI20170220BHJP
   F16F 15/31 20060101ALI20170220BHJP
   F16F 15/12 20060101ALI20170220BHJP
【FI】
   F16H7/06
   F16H7/12 B
   F16F15/31 Z
   F16F15/12 L
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-31620(P2014-31620)
(22)【出願日】2014年2月21日
(65)【公開番号】特開2015-155742(P2015-155742A)
(43)【公開日】2015年8月27日
【審査請求日】2016年3月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003355
【氏名又は名称】株式会社椿本チエイン
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(74)【代理人】
【識別番号】100092200
【弁理士】
【氏名又は名称】大城 重信
(74)【代理人】
【識別番号】100110515
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 益男
(74)【代理人】
【識別番号】100189083
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 圭介
(72)【発明者】
【氏名】中野 義和
(72)【発明者】
【氏名】國松 幸平
【審査官】 岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭60−191752(JP,U)
【文献】 特開2003−036007(JP,A)
【文献】 特開2006−170398(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 7/06
F16F 15/12
F16F 15/31
F16H 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チェーン縦伸び振動を抑制するチェーン緩衝装置であって、
所定の回転軸を中心として自由回転可能に配置されるアイドルスプロケットと、
前記所定の回転軸を中心として自由回転可能に配置される慣性部材と、
前記アイドルスプロケットおよび前記慣性部材の間の相対的な回転に応じて、前記アイドルスプロケットおよび前記慣性部材の間の相対的な回転に回転抵抗を与える回転ダンパと、
を備えることを特徴とするチェーン緩衝装置。
【請求項2】
前記アイドルスプロケットと前記慣性部材との間に取り付けられ、前記アイドルスプロケットと前記慣性部材との間の相対的な回転を一方向に制限するワンウェイクラッチを更に備えることを特徴とする請求項1に記載のチェーン緩衝装置。
【請求項3】
前記チェーン緩衝装置は、タイミングシステムに組み込まれるものであり、
前記回転ダンパは、オイルの粘性を利用したオイル式ダンパであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のチェーン緩衝装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チェーン縦伸び振動を抑制するチェーン緩衝装置に関し、特に、タイミングシステムに組み込まれるチェーン緩衝装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイミングシステム等のチェーン伝動装置においては、チェーンの経時的な摩耗伸びやエンジンブロックの熱膨張・収縮等に伴うスプロケット軸間変動によるチェーン軌道の変化に対応して適度なチェーン張力を与えるために、緩み側の区間に揺動式レバーと油圧によるダンピング特性を有する直動プランジャ式のテンショナが用いられることが知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−89428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1に記載されるような揺動式レバー機構では、チェーンの経時的な摩耗伸び等への追従だけでなく、カム軸の負荷トルク変動に起因するチェーンの張力変動にも呼応して揺動を発生するため、それが新たな振動や騒音等の不具合現象を誘発するという問題が生じる。そして、このような不具合現象を解決するには、揺動式レバーに押付け力を与えるテンショナのバネやダンピングの調整を行うのが一般的ではあるが、本質的な解決には至らない。
【0005】
また、上記の理由から揺動式レバー機構を使わず、短周期のチェーン張力変動には応答せずに長周期のチェーンの経時的な摩耗伸び等への追従を行う機構も考案されているが、その場合にはチェーン弾性とシステム固有振動数により発生するチェーン縦伸び振動(チェーン張力の変動による張力方向における伸縮振動)に対する緩衝手段が課題となっていた。
【0006】
また、走行中のチェーンに発生する縦伸び振動(特にチェーン縦伸び共振)を、揺動式レバー機構を使わずに緩衝する方法として、チェーン軌道を支持・構成するアイドルスプロケットを設置し、その回転軸上に回転速度に応じた粘性負荷トルクを発生させる回転ダンパを設けることも考えられるが、回転ダンパは稼働中に常時回転抵抗を発生させることからエネルギーロスが増大するという問題がある。
【0007】
本発明は、これらの問題点を解決するものであり、エネルギーロスを低減しつつ、簡便な構造で、チェーン縦伸び振動を確実に緩衝するチェーン緩衝装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、チェーン縦伸び振動を抑制するチェーン緩衝装置であって、所定の回転軸を中心として自由回転可能に配置されるアイドルスプロケットと、前記所定の回転軸を中心として自由回転可能に配置される慣性部材と、前記アイドルスプロケットおよび前記慣性部材の間の相対的な回転に応じて、前記アイドルスプロケットおよび前記慣性部材の間の相対的な回転に回転抵抗を与える回転ダンパとを備えることにより、前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0009】
本請求項1に係る発明によれば、所定の回転軸を中心として自由回転可能に配置されるアイドルスプロケットと、所定の回転軸を中心として自由回転可能に配置される慣性部材と、アイドルスプロケットおよび慣性部材の間の相対的な回転に応じて、アイドルスプロケットおよび慣性部材の間の相対的な回転に回転抵抗を与える回転ダンパとを備えることにより、チェーン縦伸び振動の発生に起因してチェーンからアイドルスプロケットに力が加わり、アイドルスプロケットの回転速度が変動した場合に、アイドルスプロケットと慣性部材との間に回転速度の差が生じ、回転ダンパが回転抵抗を付与するため、簡便な構造で、チェーン縦伸び振動を確実に緩衝することができる。
【0010】
本請求項2に係る発明によれば、アイドルスプロケットと慣性部材との間にワンウェイクラッチを設け、アイドルスプロケットと慣性部材との間の相対的な回転を一方向に制限することにより、回転ダンパが緩衝効果を生じる時間が短縮されるため、緩衝によるエネルギーロスを低減でき、また、回転ダンパが作用する時間が短くなるため、回転ダンパの耐久性等に対する要求水準が下がり、回転ダンパを低コストで構成することができる。
本請求項3に係る発明によれば、チェーン緩衝装置がタイミングシステムに組み込まれるものであり、回転ダンパがオイルの粘性を利用したオイル式ダンパであることにより、回転ダンパ用のオイルとしてエンジンオイルを用いることが可能であるため、回転ダンパを低コストかつ簡素に構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】チェーン緩衝装置を組み込んだタイミングシステムを示す平面図。
図2】チェーン緩衝装置を示す斜視図。
図3】チェーン緩衝装置を概略的に示す断面図。
図4】各解析モデルの構成を概略的に示す説明図。
図5】第1解析モデルの解析結果を示す説明図。
図6】第2解析モデルの解析結果を示す説明図。
図7】第3解析モデルの解析結果を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0012】
以下に、本発明の一実施形態に係るチェーン緩衝装置100について、図1〜7に基づいて説明する。
【0013】
チェーン緩衝装置100は、図1に示すように、エンジンルーム内に設置されたタイミングシステムに組み込まれるものであり、スプロケットS1、S2間を走行するチェーンCHの軌道を構成するとともに、チェーンCHの縦伸び振動を緩衝するものである。
【0014】
チェーン緩衝装置100は、チェーンCHの張り側に設置され、チェーンCHの緩み側には、固定ガイドGが設置されている。また、スプロケットS1は、エンジンの駆動軸(入力軸、クランク軸)SH1に固定された駆動側スプロケットであり、スプロケットS2は、被駆動軸(出力軸、カム軸)SH2に固定された被駆動側スプロケットである。
【0015】
チェーン緩衝装置100は、図1に示すように、所定の回転軸151を中心として自由回転可能に配置されるアイドルスプロケット110と、所定の回転軸151を中心として自由回転可能に配置される慣性部材120と、アイドルスプロケット110と慣性部材120との間に取り付けられ、アイドルスプロケット110と慣性部材120との間の相対的な回転を一方向に制限するワンウェイクラッチ130と、アイドルスプロケット110および慣性部材120の間の相対的な回転に応じて、アイドルスプロケット110および慣性部材120の間の相対的な回転に回転抵抗を与える回転ダンパ140とを備えている。
【0016】
アイドルスプロケット110は、図2図3に示すように、エンジンブロック170に固定された取付軸150に対して、ベアリング160を介して回動可能に取り付けられている。アイドルスプロケット110は、チェーンCHと噛み合うためのスプロケット歯111をその外周に有している。
【0017】
慣性部材120は、図3に示すように、挿通孔を中心部に有し、挿通孔に取付軸150を遊嵌させた状態で取付軸150の周囲に取り付けられる。なお、慣性部材120の設置態様は上記に限定されず、回転軸151を中心として自由回転可能に配置されていればよく、例えば、慣性部材120をベアリングを介して取付軸150の周囲に取り付けてもよい。
【0018】
ワンウェイクラッチ130は、図2図3に示すように、アイドルスプロケット110に固定される内輪131と、慣性部材120に固定される外輪132と、内輪131および外輪132の相対的な回転を一方向に制限するクラッチ部133とを有している。内輪131および外輪132は、取付軸150の外周に遊びを有した状態で、回転軸151を中心として自由回転可能に取り付けられている。クラッチ部133は、ベアリング(図示しない)やカム(図示しない)やスプリング(図示しない)等によって構成される。本実施形態では、ワンウェイクラッチ130は、チェーン走行方向と逆向きの回転加速度がアイドルスプロケット110に生じた場合に、アイドルスプロケット110と慣性部材120との間のロックを解除し、アイドルスプロケット110と慣性部材120との間を自由回転させるように構成されている。なお、ワンウェイクラッチ130による回転の制限の方向を上記とは反対に構成してもよい。
【0019】
回転ダンパ140は、図2に示すように、アイドルスプロケット110および慣性部材120との間に取り付けられたオイル式ダンパである。回転ダンパ140は、エンジン内に既設されたオイル供給源に接続され、供給されたエンジンオイルを利用してアイドルスプロケット110および慣性部材120の間に抵抗を生じさせる。このように、回転ダンパ140を外部からオイルの供給を受ける開放構造で構成した場合、回転ダンパ140を所定の隙間にオイルを封入した密閉構造で回転ダンパ140を構成した場合よりも、回転ダンパ140を低コストで構成することができる。
【0020】
次に、本発明のチェーン緩衝装置100の緩衝効果を確認するために実施した解析の結果について、以下に説明する。
【0021】
まず、解析においては、図4に示すように、アイドルスプロケット110に慣性部材120を固定した場合の第1解析モデル、アイドルスプロケット110と慣性部材120との間に回転ダンパ140のみを設けた場合の第2解析モデル、および、アイドルスプロケット110と慣性部材120との間に回転ダンパ140およびワンウェイクラッチ130の両方を設けた場合の第3解析モデルを用いた。
【0022】
また、各解析モデルごとに、駆動軸SH1の回転速度と図1のA部分におけるチェーン張力との関係、チェーン共振が生じる3000r/min付近の駆動軸SH1および被駆動軸SH2の回転速度、および、駆動軸SH1の回転速度と回転ダンパ140によるエネルギー消費率との関係をそれぞれ測定した。また、第2解析モデルおよび第3解析モデルにおいては、駆動軸SH1および被駆動軸SH2の間のダンピング係数とチェーン張力の最大値との関係についても測定した。
【0023】
また、解析においては、駆動軸SH1(スプロケットS1)および被駆動軸SH2(スプロケットS2)をそれぞれ1つずつ設置した構成でタイミングシステムのモデルを構築した。また、駆動軸SH1の1回転に対して被駆動軸SH2が2周期の正弦波変動を生じるものとして設定した。
【0024】
そして、以上のように実施した解析の結果から、以下のことが分かった。
【0025】
まず、図5に示すように、第1解析モデルにおいては、チェーン共振が生じる駆動軸回転速度:3000r/min付近において、チェーン張力、および、駆動軸SH1および被駆動軸SH2の回転速度に大きな変動が見られる。これに対して、図6および図7に示すように、回転ダンパ140を設けた第2解析モデルおよび第3解析モデルにおいては、駆動軸回転速度:3000r/min付近において、チェーン張力、および、駆動軸SH1および被駆動軸SH2の回転速度の変動が抑えられているのが分かる。
【0026】
また、図6に示すように、回転ダンパ140が両回転方向において作用する第2解析モデルにおいては、駆動軸回転速度:3000r/min付近以外においても、回転ダンパ140によるエネルギーロスが生じることが分かった。これに対して、図7に示すように、ワンウェイクラッチ130を設けた第3解析モデルにおいては、駆動軸回転速度:3000r/min付近においてのみ、回転ダンパ140によるエネルギーロスが生じることが分かる。
【0027】
なお、上述した実施形態では、本発明のチェーン緩衝装置がタイミングシステムに組み込まれて用いられるものとして説明したが、本発明のチェーン緩衝装置の用途はタイミングシステムに限定されない。
また、慣性部材の具体的態様については、所定の回転軸を中心として自由回転可能に配置され、所定の慣性モーメントを有するものであれば、如何なるものでもよい。
また、回転ダンパの具体的態様については、アイドルスプロケットおよび慣性部材の間の相対的な回転に応じて、アイドルスプロケットおよび慣性部材の間の相対的な回転に回転抵抗を与えるものであれば、オイルや液体の粘性抵抗を利用したもの、摩擦抵抗を利用したもの、塑性変形抵抗を利用したもの等、如何なるものでもよい。
また、ワンウェイクラッチの具体的態様については、アイドルスプロケットと慣性部材との間に取り付けられ、アイドルスプロケットと慣性部材との間の相対的な回転を一方向に制限するものであれば、カム式、スプラグ式、ローラ式、コイルバネ式、ラチェット式等、如何なるものでもよい。また、ワンウェイクラッチは必ずしも設けなくてもよい。
【符号の説明】
【0028】
100 ・・・ チェーン緩衝装置
110 ・・・ アイドルスプロケット
111 ・・・ スプロケット歯
120 ・・・ 慣性部材
130 ・・・ ワンウェイクラッチ
131 ・・・ 内輪
132 ・・・ 外輪
140 ・・・ 回転ダンパ
150 ・・・ 取付軸
151 ・・・ 回転軸
160 ・・・ ベアリング
170 ・・・ エンジンブロック
180 ・・・ ベアリング
CH ・・・ チェーン
G ・・・ 固定ガイド
S1、S2 ・・・ スプロケット
SH1 ・・・ 駆動軸(入力軸)
SH2 ・・・ 被駆動軸(出力軸)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7