特許第6087316号(P6087316)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6087316
(24)【登録日】2017年2月10日
(45)【発行日】2017年3月1日
(54)【発明の名称】飼料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23K 10/12 20160101AFI20170220BHJP
   A23K 10/37 20160101ALI20170220BHJP
【FI】
   A23K10/12
   A23K10/37
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-100114(P2014-100114)
(22)【出願日】2014年5月14日
(65)【公開番号】特開2015-216847(P2015-216847A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2015年8月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】591124927
【氏名又は名称】川口精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092680
【弁理士】
【氏名又は名称】入江 一郎
(72)【発明者】
【氏名】大 澤 宏 典
(72)【発明者】
【氏名】鈴 木 敬 司
【審査官】 大熊 靖夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−081814(JP,A)
【文献】 特開2004−189718(JP,A)
【文献】 特開昭56−160949(JP,A)
【文献】 特開2004−073050(JP,A)
【文献】 特開2002−218914(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0177916(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0166913(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 10/00−40/35,50/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柑橘類の廃棄物を、常温・常圧に置かれた非通気性の密閉容器内で、前記廃棄物に付着している嫌気性発酵菌により、嫌気条件下で発酵処理する
ことを特徴とする飼料の製造方法。
【請求項2】
柑橘類の廃棄物は、ミカンの皮で、前記ミカンの皮を50mm以下に破砕されている
ことを特徴とする請求項1記載の飼料の製造方法。
【請求項3】
ミカンの皮の廃棄物を、50mm以下に破砕した後、該廃棄物を、常温・常圧下においた非通気性の袋内に入れ、前記袋を上方から押圧して前記袋内の空気を前記袋外に追い出し、前記袋を密封し、前記廃棄物に付着している嫌気性発酵菌により、嫌気条件下で発酵処理する
ことを特徴とする飼料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飼料の製造方法に係り、特に、これまで堆肥や肥料とするか、そのまま廃棄されていたミカン等柑橘類の皮あるいは痛みの多いミカン等柑橘類そのものを原料とし、高い栄養価を備えた飼料を低コストで製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ミカンの皮等の果皮は、粉砕、乾燥によって堆肥や肥料として利用されている(特許文献1参照)。
また、ミカンに関しては、果実は缶詰として大量に利用されるが、皮は残渣として、産業廃棄物、つまり、「ごみ」として扱われているのが実情でもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−226662
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1記載の乾燥は、例えば、熱源を利用した乾燥機で行わなければならず、乾燥機が必要であると共に、重油等燃料の消費も大きく、乾燥に要するコストは膨大である。
また、家畜等の飼料も、できるだけ低コストで賄わねばならないという実情もある。
加えて、「ごみ」として扱われているミカンの皮も、有価資源として有効に使用したいという要求も考慮する必要がある。
【0005】
本発明は、以上のような各種の問題を悉く解決するためになされたものであり、これまで廃棄物とされていたミカン等柑橘類の皮や、痛みがあり商品とならないミカン等柑橘類そのものを有効利用し、家畜の飼料を低コストで製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の飼料の製造方法は、柑橘類の廃棄物を、常温・常圧に置かれた非通気性の容器内に閉じ込めて密封し、前記廃棄物に付着している嫌気性発酵菌(通性嫌気性菌)の作用により、嫌気条件下で発酵処理するものである。
【0007】
また、請求項2記載の飼料の製造方法は、請求項1記載の飼料の製造方法において、柑橘類の廃棄物は、ミカンの皮で、前記ミカンの皮を50mm以下に破砕されているものである。
【0008】
また、請求項3記載の飼料の製造方法は、ミカンの皮の廃棄物を、50mm以下に破砕した後、該廃棄物を、常温・常圧下においた非通気性の袋内に入れ、前記袋を上方から押圧して前記袋内の空気を前記袋外に追い出し、前記袋を密封し、前記廃棄物に付着している嫌気性発酵菌により、嫌気条件下で発酵処理するものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の飼料の製造方法によれば、「ミカンの皮等の果皮を、粉砕、乾燥によって堆肥や肥料として利用した」従来の方法に比べ、柑橘類の廃棄物を非通気性の袋等の容器内に閉じ込めて密封すれば、前記廃棄物に付着している嫌気性発酵菌(通性嫌気性菌)の作用により、該廃棄物が嫌気条件下で発酵処理されるため、乾燥機等の設備を要しないばかりか、該設備に要する重油等の燃料のコストもかからない。
【0011】
しかも、通常は廃棄されているミカンの皮はもとより、痛みの多い柑橘類には、周知の通り、果糖やミネラル類(ビタミン類)が多種多量に含まれており、これらの果糖やミネラル類が、柑橘類の廃棄物に本来付着している嫌気性発酵菌の栄養分となり、該菌の発酵活動を促進するのみならず、この発酵処理により果糖やミネラル分が低分子化し、家畜等にとっては、より良好に利用され易い形態となる。
【0012】
以上要するに、本発明によれば、極めて低コストで、従来廃棄されていた柑橘類の廃棄物を、栄養価の高い飼料原料として利用でき、柑橘類の廃棄物の有効利用を図ることができる。
【0013】
また、請求項2記載の飼料の製造方法によれば、前述した請求項1記載の発明の効果に加え、非通気性の袋等の容器内に閉じ込められたミカンの皮の廃棄物は、50mm以下に破砕されているため、減容され、該容器内に廃棄物をより多く収納することができるだけでなく、破砕された廃棄物の自重により廃棄物が該容器内底部に移行し、この移行に伴って廃棄物間に滞留している空気はもとより、該容器内の空気が自然に脱気され、該容器内が嫌気条件となり、嫌気性発酵菌の発酵活動を促進させることができる。
【0014】
また、請求項3記載の飼料の製造方法によれば、「ミカンの皮等の果皮を、粉砕、乾燥によって堆肥や肥料として利用した」従来の方法に比べ、ミカンの皮の廃棄物を、破砕し、破砕後、前記廃棄物を常温・常圧下に置いた非通気性の袋内に入れ、その後、前記廃棄物を上から押圧して前記袋内の空気を外に追い出し、追い出し後、前記袋を閉じて密封すれば、前記廃棄物に付着している嫌気性発酵菌の作用により、嫌気条件下で発酵処理されるため、乾燥機等の設備を要しないばかりか、重油等燃料のコストもかからず、しかも、これまで廃棄していた栄養価の高いミカンの皮を飼料原料として利用でき、柑橘類の廃棄物の有効利用を図ることができる。更に、袋内の破砕された廃棄物は上から押圧して廃棄物間に滞留している空気はもとより袋内の空気をも外に追い出すため、袋内に柑橘類の廃棄物をより多く収納するだけでなく、袋内の押圧だけで脱気できるため、嫌気条件の確保が容易である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の飼料の製造方法を詳細に説明する。
本発明の飼料の製造方法は、柑橘類の廃棄物を、非通気性の合成樹脂製の袋、バケツ
、箱、筒等の容器であって、好ましくは脱気操作を容易にするための逆止弁の付いた蓋を
有するものの内に閉じ込めて密封し、脱気をすることで、前記廃棄物に付着した嫌気性発
酵菌(例えば、乳酸菌)が嫌気条件下で発酵活動を開始し、前記廃棄物を発酵処理するも
のである。勿論、上記の容器内に破砕後の廃棄物を充填し、次いで該廃棄物の上に非通気
性の例えば合成樹脂製のフィルムやシートを載置して該廃棄物を該フィルムやシートで覆
うことでも嫌気条件は確保でき、この場合、脱気操作は不要となる。
【0017】
すなわち、本発明の飼料の製造方法で得られる飼料は、概略、下記のプロセスにより製造される。
出発原料として、柑橘類の廃棄物が用いられる。柑橘類の廃棄物は、例えば、ミカンの実を缶詰として利用して残った残渣であるミカンの皮や、収穫の際、あるいは保管の際や、箱詰め作業や出荷作業、あるいは運搬の際等に痛みが生じ、商品にならない柑橘類の廃棄物である。
特に、ミカンの皮は、缶詰工場でミカンの外側の皮を機械でむいたり、蒸気でミカンの皮をやわらかくして人の手でむいたりして、多量に得られる。
【0018】
次に、採取されたミカンの皮や、廃棄物となっている柑橘類の残渣中に、異物(刃物、プラスチック、木片、輪ゴム等のゴム類、紙類、グリス等の油類、その他の有機溶剤等)が混入しないように管理される。
混入するようであれば、原因を究明し、混入しないようにする。
異物が混入しないように管理されたミカンの皮は、破砕(破砕の程度は、50mm以下、好ましくは20mm以下、より好ましくは5mm〜10mm)され、破砕後、例えばフレキシブルコンテナに装着された非通気性の袋に充填される。なお、本発明では、これに限定されず、非通気性の合成樹脂やガラス製、あるいは内面が上記のような耐腐食処理が施された金属製の各種容器(これらの容器の場合は、フレキシブルコンテナは不要)に充填してもよい。
袋等容器の大きさは、特に制限しないが、各種作業性の効率を考慮して、柑橘類の廃棄物が10〜500Kg程度充填できる程度の大きさが好ましい。(袋は、例えば、直径約1m、高さ約1m〜2mである。)
なお、上記の袋等の容器は、発酵処理中、雑菌の繁殖による悪臭や腐食等諸々の弊害を排除するために、非通気性の袋その他の容器、あるいは上記の廃棄物を覆うフィルムやシートは、予め殺菌消毒をしておくことが重要である。また、該容器に充填する廃棄物にも嫌気性発酵菌以外の菌の付着があると、上記のような弊害を誘発することがあるため、できれば洗浄(水洗)しておくことが好ましい。
【0019】
充填後、非通気性の袋等容器を密封する。密封は、例えば、袋の場合はテープ、紐等で袋の開口部を閉じればよく、バケツ、箱、筒等の容器の場合は蓋を閉じ、テープ等で容器本体と蓋を密封すればよい。
なお、この操作に先立って、脱気を行うが、非通気性の容器が袋の場合は、廃棄物を充填した後、袋の上方から押圧するだけで脱気ができるが、逆止弁付き袋の場合は、例えば掃除機等で袋内の空気を吸引することで脱気してもよい。また、バケツや箱、筒の場合も同様に掃除機等で吸引しながら、蓋をしても良いし、この蓋に予め逆止弁を取り付けておけば、脱気操作が容易にかつ正確におこなうことができる。更に、バケツや箱あるいは筒等の容器を使用する場合には、廃棄物充填後に、該廃棄物を上記のフィルムやシートで覆うことで嫌気条件を確保することができ、脱気操作は省略できる。
上記のようにして、脱気、密封した後、上記の非通気性の容器を、常温・常圧下に置くのみで、上記の柑橘類の廃棄物(例えば、ミカンの皮)に付着している嫌気性発酵菌(乳酸菌等)の作用で廃棄物の発酵が進行し、上記容器に充填した廃棄物の量にもよるが、上記した量(10〜500Kg)の場合は、約20日前後で発酵が完了する。
なお、このとき上記の容器は、雑菌の繁殖を抑制するために、暗所におくことが好ましいが、容器が暗色不透明である場合には、特に暗所に置く必要はない。
【0020】
本実施例の飼料の製造方法によれば、「ミカンの皮等の果皮を、粉砕、乾燥によって堆肥や肥料として利用した」従来の方法に比べ、柑橘類の廃棄物を非通気性の袋内に閉じ込めて密封すると言う極めて簡易な操作により、前記廃棄物に付着した嫌気性発酵菌の作用で、該廃棄物が嫌気条件下で発酵処理されるため、乾燥機等の設備を要しないばかりか、重油等の燃料も不要であり、低コストで、しかも、栄養価の高い柑橘類の廃棄物を飼料原料として利用でき、該廃棄物の有効利用を図ることができる。
従って、本実施例の飼料の製造方法によれば、例えば、柑橘類を処理する食品業者にあっては、従来、残渣である柑橘類の廃棄物に要した処理費用の大幅な低減化を図ることができると共に、飼料の提供を受け入れる畜産業者にあっては、飼料原料を低コストで得られるという格別の効果を有するものである。
【0021】
なお、ミカンの皮の廃棄物を破砕し、破砕後、非通気性の袋内に入れ、前記袋を閉じて密封すれば、
前記廃棄物に付着した嫌気性発酵菌(乳酸菌等)の作用により、ミカンの皮が嫌気条件下で発酵処理されるため、乾燥機等の設備を要しないばかりか、重油等燃料のコストもかからず、しかも、栄養価の高いミカンの皮を飼料原料として利用でき、これまで廃棄物としての有効利用を図ることができ、ミカンの皮を大量に収納することができ、袋内での嫌気条件下で、嫌気性発酵菌の作用による発酵処理をより良好に行うことができる。
また、ミカンの皮の廃棄物を破砕し、破砕後、非通気性の袋内に入れ、その後、前記廃棄物を該袋の上方から押圧して前記袋内の空気を外に追い出し、追い出し後、前記袋を閉じて密封すれば、
前記廃棄物に付着した嫌気性発酵菌(乳酸菌等)の作用により、ミカンの皮が嫌気条件下で発酵処理されるため、乾燥機等の設備を要しないばかりか、重油等燃料のコストもかからず、しかも、栄養価の高いミカンの皮を飼料原料として利用でき、これまで廃棄物としての有効利用を図ることができ、更に、袋内の破砕されたミカンの皮は充填後の袋の上方から押圧するだけで袋内の空気を外に追い出すことができるため、袋内の脱気が極めて容易であるとともに、ミカンの皮を大量に収納することができ、袋内での嫌気条件下で、嫌気性発酵菌の作用による発酵処理をより良好に行うことができる。
【0022】
〔実験例1〕
某ミカン缶詰工場で発生したミカンの皮の廃棄物から、異物(剃刀の刃、プラスチック片、木片、輪ゴム、砂等)を除去(ミカンの皮の重量は13kg)し、廃棄物の1辺が15mm程度になるように破砕した。
この破砕物を、米20kgが入る塩化ビニル系樹脂製の袋に充填し、該袋の上方から押圧し、合成樹脂製の荷造り紐で密閉した。
これを、工場内倉庫(暗所)に保管(常温・常圧)し、20日後に開封した結果、漬物状態であった。
また、乳牛に、そのまま与えたところ、残さず平らげていた。
【0023】
〔実験例2〕
実験例1で使用したものと同じミカンの皮の廃棄物10kgと、某農家で発生した痛みが多く市場に出荷できないミカン10kgと、同レモン10kgと、同オレンジ10kgを混合し(以下、これを柑橘類廃棄物)、異物(剃刀の刃、プラスチック片、木片、輪ゴム、砂等)の除去を行った。
異物の除去後、実験例1と同様にして破砕し、この破砕物を約40kg入り漬物桶(塩化ビニル系樹脂製)に充填し、破砕物の上面を市販のラップで覆い、漬物樽の蓋を被せ、実験例1と同様にして保管した。
保管30日後に蓋を開けた結果、実験例1と同様に、漬物状態であった。
また、実験例1とは別の乳牛3頭に均等な量で、そのまま与えたところ、3頭とも残さず平らげていた。
【0024】
〔実験例3〕
実験例2と同様の柑橘類廃棄物を、実験例2と同様に破砕し、逆止弁付きの塩化ビニル系樹脂製袋(市販の布団収納袋)に充填し、家庭用の掃除機で該袋内を吸引し、該袋の体積が最初の体積の30%程度になった時点で吸引を止め、念のため、逆止弁に栓を取り付けて密閉した。
この袋を、実験例1及び2と同様にして保管した。
保管30日後に栓・逆止弁を開けた結果、実験例1及び2と同様に、漬物状態であった。
また、実験例1及び2とは別の乳牛3頭に均等な量で、そのまま与えたところ、3頭とも残さず平らげていた。