特許第6087451号(P6087451)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6087451乳酸生産が向上した微生物及びこれを用いて乳酸を生産する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6087451
(24)【登録日】2017年2月10日
(45)【発行日】2017年3月1日
(54)【発明の名称】乳酸生産が向上した微生物及びこれを用いて乳酸を生産する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/19 20060101AFI20170220BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20170220BHJP
   C12P 7/56 20060101ALI20170220BHJP
【FI】
   C12N1/19ZNA
   C12N15/00 A
   C12P7/56
【請求項の数】5
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-563134(P2015-563134)
(86)(22)【出願日】2015年5月8日
(65)【公表番号】特表2016-521115(P2016-521115A)
(43)【公表日】2016年7月21日
(86)【国際出願番号】KR2015004600
(87)【国際公開番号】WO2015170914
(87)【国際公開日】20151112
【審査請求日】2015年10月22日
(31)【優先権主張番号】10-2014-0055865
(32)【優先日】2014年5月9日
(33)【優先権主張国】KR
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514158497
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダン コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126354
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ユン ビン
(72)【発明者】
【氏名】リー,テ ヒ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ソン ヘ
(72)【発明者】
【氏名】ソン,ギュ ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】ハ,チョル ウーン
(72)【発明者】
【氏名】ナ,キョン ス
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ヨン リョル
(72)【発明者】
【氏名】カン,ミン スン
(72)【発明者】
【氏名】リー,ヒョ ヒョン
【審査官】 西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−521619(JP,A)
【文献】 特表2003−500062(JP,A)
【文献】 特表2001−516584(JP,A)
【文献】 TOKUHIRO, K. et al.,"Double mutation of the PDC1 and ADH1 genes improves lactate production in the yeast Saccharomyces cerevisiae expressing the bovine lactate dehydrogenase gene",Appl. Microbiol. Biotechnol.,2009年,Vol. 82,pp. 883-890
【文献】 ISHIDA, N. et al.,"The effect of pyruvate decarboxylase gene knockout in Saccharomyces cerevisiae on L-lactic acid production",Biosci. Biotechnol. Biochem.,2006年,Vol. 70,pp. 1148-1153
【文献】 ISHIDA, N. et al.,"D-lactic acid production by metabolically engineered Saccharomyces cerevisiae",J. Biosci. Bioeng.,2006年,Vol. 101,pp. 172-177
【文献】 ADACHI, E. et al.,"Modification of metabolic pathways of Saccharomyces cerevisiae by the expression of lactate dehydrogenase and deletion of pyruvate decarboxylase genes for the lactic acid fermentation at low pH value",J. Ferment. Bioeng.,1998年,Vol. 86,pp. 284-289
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00−7/08
C12N 15/00−15/90
C12P 1/00−41/00
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ピルベート脱炭酸酵素(pyruvate decarboxylase、PDC)の活性が非変異乳酸生産菌株よりも弱化し、但し、PDCの前記活性は、i)PDC1の活性を不活性化し、PDC5の活性を弱化するか、又はii)PDC1の活性を弱化し、PDC5の活性を不活性化することにより、弱化されるものであり、及び
(b)アルデヒド脱水素酵素(aldehyde dehydrogenase、ALD)及びアセチル-CoA合成酵素(acetyl-CoA synthetase、ACS)の活性が非変異乳酸生産菌株よりも増進するように改変された、及び
(c)乳酸脱水素酵素(lactate dehydrogenase、LDH)が導入された、
乳酸生産が向上したサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)微生物。
【請求項2】
前記アルデヒド脱水素酵素が、ALD2及びALD3からなる群から選択された1つ以上のものであり、前記アセチル-CoA合成酵素がACS1である、請求項1に記載の乳酸生産が向上したサッカロミセス・セレビシエ微生物。
【請求項3】
アルコール脱水素酵素(alcohol dehydrogenase、ADH)がさらに不活性化された、請求項1に記載の乳酸生産が向上したサッカロミセス・セレビシエ微生物。
【請求項4】
D-乳酸脱水素酵素(d-lactate dehydrogenase、DLD)がさらに不活性化された、請求項1に記載の乳酸生産が向上したサッカロミセス・セレビシエ微生物。
【請求項5】
(a)培養液において請求項1〜のいずれか1項に記載の微生物を培養する工程、及び
(b)前記工程(a)の培養液から乳酸を回収する工程を含む乳酸生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸を生産する組換えサッカロミセス属(Saccharomyces sp.)微生物及び前記微生物を培養し、その培養液から乳酸を生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸は、一般に、食品保存剤、香料又は酸味剤などの食品添加物として使用されるだけでなく、化粧品、化学、金属、電子、織物、染色、製薬など産業的に広範囲に利用される重要な有機酸である。それだけでなく、乳酸は、生分解性プラスチックの一種であるポリ乳酸の原料物質としても使用されるため、乳酸の需要が大いに増加する傾向にある。乳酸は、ポリ乳酸だけでなく、アセトアルデヒド(acetaldehyde)、ポリプロピレングリコール(polypropylene glycol)、アクリル酸(acrylic acid)、2,3-ペンタジオン(2,3-pentathione)などの化合物を製造するための重要な原料物質としても用いられる。特に、D型の乳酸は、高耐熱性の(PLA)の生産に必要な光学異性体であり、いわゆるステレオコンプレックスポリ乳酸(Streocomplex PLA)を生産するのに必要な原料である。
【0003】
具体的には、乳酸を生産する方法としては、伝統的な化学合成法と生物学的発酵法がある。化学合成法を用いて乳酸を生産する場合、D型乳酸とL型乳酸が50%ずつ混合されているラセミ混合物(racemic mixture)の形態で生成され、組成比の調節が不可能であり、ポリ乳酸を製造する場合、溶融点が低いアモルファスのポリマーになってしまい、用途開発時にも制限が多い。一方、微生物を用いた生物学的発酵法の場合、使用する菌株に応じてD型又はL型の乳酸のみを選択的に生産することができ、商業的には、特定のアイソフォーム(isoform)の乳酸を生成することができる後者の生物学的発酵法が好まれる。
【0004】
一方、D型乳酸変換酵素の遺伝子を導入することにより、D型乳酸生産能が付与されたサッカロミセス属微生物をベースに、様々な遺伝子操作により乳酸の生産率を高める試みがあった。具体的には、ピルベート脱炭酸酵素(pyruvate decarboxylase、PDC)、アルデヒド脱水素酵素(aldehyde dehydrogenase、ALD)、及び/又はアセチル-CoA合成酵素(acetyl-CoA synthetase、ACS)を欠損させ、乳酸脱水素酵素(lactate dehydrogenase、LDH)を強化して乳酸の生産を高める試みがなされてきた(特許文献1、特許文献2、特許文献3)。しかし、前記乳酸生産菌株は、細胞の成長が遅くなることにより、全体的な発酵生産性は低かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国公開特許第2012-02142号
【特許文献2】米国公開特許第2010-024823号
【特許文献3】米国公開特許第2006-014805号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Appl Microbiol Biotechnol.2009,82(5):883-90
【非特許文献2】J Bacteriol.1990、172(2):678-685
【非特許文献3】Biosci Biotechnol Biochem.2006,70(5 ):1148-1153
【非特許文献4】Curr Genet.2003, 43(3 ):139-160
【非特許文献5】J. Microbiol. Biotechnol. (2006), 16(6), 979-982
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、PDC力価を下げながらも、細胞の成長は円滑に行われ、乳酸生産能が改善された微生物を得るために努力した結果、PDCアイソタイプ(isotype)の活性を調節し、アルデヒド脱水素酵素(ALD)、及びアセチル-CoA合成酵素(ACS)の活性を増進させた菌株において乳酸の生産収率が向上し、菌体の成長が円滑に起こり、全体的な乳酸発酵生産性が改善されることを確認することにより、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下を提供する。
[1](a)ピルベート脱炭酸酵素(pyruvate decarboxylase、PDC)の活性が非変異乳酸生産菌株よりも弱化し、及び
(b)アルデヒド脱水素酵素(aldehyde dehydrogenase、ALD)及びアセチル-CoA合成酵素(acetyl-CoA synthetase、ACS)の活性が非変異乳酸生産菌株よりも増進するように改変された、乳酸生産が向上したサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)微生物。
[2]上記ピルベート脱炭酸酵素が、PDC1、PDC5及びPDC6からなる群から選択された1つ以上のものである、上記[1]に記載の乳酸生産が向上したサッカロミセス・セレビシエ微生物。
[3]上記微生物が、
i)PDC1の活性を不活性化し、PDC5の活性を弱化するか、又は
ii)PDC1の活性を弱化し、PDC5の活性を不活性化する、上記[2]に記載の乳酸生産が向上したサッカロミセス・セレビシエ微生物。
[4]上記アルデヒド脱水素酵素が、ALD2及びALD3からなる群から選択された1つ以上のものであり、上記アセチル-CoA合成酵素がACS1である、上記[1]に記載の乳酸生産が向上したサッカロミセス・セレビシエ微生物。
[5]アルコール脱水素酵素(alcohol dehydrogenase、ADH)がさらに不活性化された、上記[1]に記載の乳酸生産が向上したサッカロミセス・セレビシエ微生物。
[6]D-乳酸脱水素酵素(d-lactate dehydrogenase、DLD)がさらに不活性化された、上記[1]に記載の乳酸生産が向上したサッカロミセス・セレビシエ微生物。
[7](a)培養液において上記[1]〜[6]のいずれか1項に記載の微生物を培養する工程、及び
(b)上記工程(a)の培養液から乳酸を回収する工程を含む乳酸生産方法。
本発明の一つの目的は、乳酸の生産が向上したサッカロミセス属(Saccharomyces sp.)微生物を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、前記サッカロミセス属微生物を用いて乳酸を生産する方法を提供することにある。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、PDCアイソタイプの活性を調節し、アルデヒド脱水素酵素(ALD)及びアセチル-CoA合成酵素(ACS)の活性を増進させて乳酸発酵生産能が改善された微生物を利用することに関するもので、乳酸発酵生産の分野において広く活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】サッカロミセス属微生物の乳酸生産経路、アルコール発酵経路及びアセチル-CoA生産経路間の関係を図式化した図面である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
上述した本発明の目的を達成するための一態様として、本発明は、(a)ピルベート脱炭酸酵素(pyruvate decarboxylase、PDC)の活性が非変異乳酸生産菌株よりも弱化し 、及び(b)アルデヒド脱水素酵素(aldehyde dehydrogenase、ALD)及びアセチル-CoA合成酵素(acetyl-CoA synthetase、ACS)の活性が非変異乳酸生産菌株よりも増進した、乳酸生産が向上したサッカロミセス属(Saccharomyces sp.)微生物を提供する。
【0013】
一般に、乳酸を生産するサッカロミセス属微生物は、ピルベートを基質とした乳酸脱水素酵素(LDH)により生産する。ピルベートを共通基質とする他の経路、代表的なものとしては、アルコール発酵経路(Ethanol ethanol fermentation pathway)とアセチル-CoA生成経路を遮断した。しかし、PDC活性を弱化させることが乳酸の生産と収量の向上には役立つが、一定のレベルをを超えると、細胞質ゾルアセチル-CoA (cytosolic acetyl-CoA)の確保が困難で、細胞の成長が不可能となり、正常な発酵が行われない。そこで、本発明者らは、最小限のアセチル-CoA生成経路を維持する方法によって乳酸の生産性収率を向上させるとともに菌体の生長率を維持し、全体的な乳酸発酵の生産性を改善することにより、乳酸の生産性が向上したサッカロミセス属微生物を開発した。
【0014】
本発明の用語、「ピルベート脱炭酸酵素(pyruvate decarboxylase、PDC)」とは、ピルベートに作用して炭酸とアセトアルデヒドを生成する反応を媒介する活性を有するタンパク質を意味し、本発明では、前記活性を有するものであれば、由来や亜型(isotype)に限定されない。前記タンパク質は、アルコール発酵の一つの段階に関与することが知られており、酵母や植物に主に存在することが知られている。本発明のピルベート脱炭酸酵素は、サッカロミセス属微生物に内在的に存在するものであってもよく、PDC1、PDC5及び/又はPDC6であってもよく、具体的には、サッカロミセス・セレビシエのPDC1、PDC5及び/又はPDC6であってもよいが、それに限定されない。前記タンパク質と生物学的に同一であるか、又は相応する活性を有するものであれば、その変異体又は類似体などをいずれも含むことができる。前記タンパク質の配列は、公知のデータベースなどから得ることができ、その例としてNCBIのGenBankなどであってもよいが、それに限定されない。具体的には、前記PDC1は配列番号71のアミノ酸配列、PDC5は配列番号72のアミノ酸配列、PDC6は配列番号73のアミノ酸配列からなるものであってもよく、前記それぞれ羅列された配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列、具体的には、80%以上の相同性、より具体的には、90%以上の相同性、さらにより一具体的には、95%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含む。また、遺伝コードの縮退(genetic code degeneracy)に起因し、同一アミノ酸配列をコードする前記塩基配列の変異体も本発明に含まれる。
【0015】
本発明の用語、「相同性」とは、多数の塩基配列又は多数のアミノ酸配列間の類似度を示すためのもので、本発明のアミノ酸配列又は塩基配列と前記のような確率以上の同じ配列を有する配列を表す単位である。このような相同性は、両配列を肉眼で比較して決定することもできるが、比較対象となる配列を並べて相同性の程度を分析する、容易に利用可能な配列比較プログラムを使用して測定することができる。当業界において容易に利用可能な配列比較プログラムは、FASTP、BLAST、BLAST2、PSIBLASTとCLUSTAL Wを含むソフトウェアなどがある。
【0016】
実際、最も主な力価を示すPDC1を欠損して乳酸を生産する例は多く報告されている(非特許文献1)。この場合、PDC6はほとんど発現されないと考えられるため、実際にPDC活性を有する酵素は、PDC5遺伝子の発現によるものと見なすことができる。報告によると、野生型菌株の場合でもPDC1のみの単独の遺伝子欠損だけでは細胞生長に対する阻害がなく、野生型と比較し約60〜70%のPDCの力価を維持しているため、菌株の表現型での大きな変化はないとされている(非特許文献2)。
【0017】
PDC活性を弱化させる他の方法として、酵母において主なPDC力価を担当するPDC1、PDC5遺伝子が同時欠損した二重欠損菌株を作製してもよい。この場合には、酢酸やエタノールの補助基質なしでも、ブドウ糖などの糖源により乳酸発酵が可能であるが、PDC力価の急激な減少により菌体の成長速度が遅くなるに従って、発酵生産性が低下することが確認された(非特許文献3)。
【0018】
一方、ピルベートにおいてPDCと競合するLDHの経路で乳酸の生産を最大化するために、PDC1、PDC5、PDC6を同時欠損した三重欠損菌株を作製 することができる。この場合、乳酸発酵収率を最大化することができるが、ブドウ糖の存在時に誘発される基質制限効果(catabolite repression)によりエタノールと酢酸などの代謝能がさらに制限され、細胞の成長が阻害されて(非特許文献4)、結局は、発酵生産性が低下することが分かる。
【0019】
具体的には、本発明のピルベート脱炭酸酵素(PDC)の弱化は、i)PDC1の活性を不活性化し、PDC5の活性を弱化し、;又はii)PDC1の活性を弱化し、PDC5の活性を不活性化することであってもよい。
【0020】
本発明の具体的な一実施例では、PDC1を不活性化した基盤サッカロミセス・セレビシエ菌株を用いて、PDC5遺伝子のプロモーターを置換してPDC5の活性を弱化する菌株、PDC1の活性を回復させてPDC5を欠損させた菌株、PDC1及びPDC5を二重欠損させた菌株及びPDC1、PDC5及びPDC6を三重欠損させた菌株を製造した。このうち、前記三重欠損菌株は、菌体生長がほとんどなされていないことが確認された。
【0021】
本発明の用語、「アルデヒド脱水素酵素(aldehyde dehydrogenase、ALD)」とは、アルデヒドを酸化してカルボン酸又はアシル基を生成する活性を有するタンパク質であり、主にアセトアルデヒドから酢酸を生成する活性を有するタンパク質を意味し、本発明では、前記活性を有するものであれば、由来や亜型(isotype)に限定されない。本発明のアルデヒド脱水素酵素は、サッカロミセス属微生物に由来したものであってもよく、ALD2及び/又はALD3であってもよい。具体的には、サッカロミセス・セレビシエのALD2及び/又はALD3であってもよいが、それに限定されず、 前記タンパク質と生物学的に同一であるか又は相応する活性を有するものであれば、その変異体又は類似体などをいずれも含むことができる。前記タンパク質の配列は、公知のデータベースなどから得ることができ、その例としてNCBIのGenBankなどであってもよいが、それに限定されない。具体的には、前記ALD2は配列番号74のアミノ酸配列、ALD3は配列番号75のアミノ酸配列からなるものであってもよく、前記それぞれ羅列された配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列、具体的には、80%以上の相同性、より具体的には、90%以上の相同性、さらにより具体的には、95%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含む。また、遺伝コードの縮退に起因し、同一アミノ酸配列をコードする前記塩基配列の変異体も本発明に含まれる。
【0022】
本発明の用語、「アセチル-CoA合成酵素(acetyl-CoA synthetase、ACS)」とは、ATP分解反応と共役して酢酸とCoAのチオエステル化反応を触媒する活性を有するタンパク質を意味し、本発明では、前記活性を有するものであれば、由来や亜型(isotype)に限定されない。微生物、植物及び動物などにも存在することが知られている。本発明のアルデヒド脱水素酵素は、サッカロミセス属微生物に由来するものであってもよく、ACS1であってもよい。具体的には、特に、サッカロミセス・セレビシエのACS1であってもよいが、それに限定されず、 前記タンパク質と生物学的に同一であるか又は相応する活性を有するものであれば、その変異体又は類似体などをいずれも含むことができる。前記タンパク質の配列は、公知のデータベースなどから得ることができ、その例としてNCBIのGenBankなどであってもよいが、それに限定されない。前記ACS1は、配列番号76のアミノ酸配列からなるものであってもよく、前記配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列、具体的には、80%以上の相同性、より具体的には、90%以上の相同性、さらにより具体的には、95%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含む。また、遺伝コードの縮退に起因し、同一アミノ酸配列をコードする前記塩基配列の変異体も本発明に含まれる。
【0023】
本発明の具体的な一実施例では、前記PDC活性を非変異微生物より弱化させた菌株をベースに、前記ALD2又はALD3の活性を増進させ、ACSの活性を増進させた菌株を作製した。具体的には、PDC1を欠損により不活性化させ、PDC5遺伝子のプロモーターを発現能の低いプロモーターに置換してPDC5の活性を弱化させた菌株をベースにALD及びACSの活性を増進させた菌株を作製した。より具体的には、PDC1の活性を不活性化し、PDC5の活性を弱化させ、ALD2及びALD3からなる群から選択された一つ又は複数の活性を増進させ、ACS1の活性を増進させたサッカロミセス属微生物を作製した。これにより、生長速度、D-乳酸生産量及び収率が相当改善されることを確認した。
【0024】
本発明において酵素活性の「不活性化」とは、当該酵素の活性を不活性化させる方法であり、当該酵素が発現されないようにしたり、本来の活性を発揮することができない酵素が発現されるようにするあらゆる方法を含む。前記方法は、相同性組換えによる遺伝子の一部もしくは全体の欠失、当該遺伝子の内部に外部由来の遺伝子の挿入による酵素発現抑制、当該酵素遺伝子のプロモーター配列を置換又は改変することによる発現抑制であるか、又は当該酵素の置換又は改変による本来の機能を失った不活性酵素への変異などがあるが、それに限定されない。
【0025】
本発明において酵素活性の「弱化」とは、酵素の活性を弱化する方法であり、当該酵素の発現量を減少させたり、発現される酵素の活性を減少させるあらゆる方法を含む。前記方法は、当該酵素遺伝子のプロモーター配列を置換又は改変することにより発現が減少するか、又は、当該酵素置換又は改変により活性が減少した酵素への変異などであってもよいが、それに限定されない。
【0026】
本発明において、酵素活性の「増進」とは、当該酵素の遺伝子を有するプラスミドを導入したり、染色体上で当該酵素をコードしている遺伝子のコピー数を増加させたり、当該酵素の遺伝子のプロモーター配列を置換又は改変したり、又は、突然変異による酵素活性の増進などであってもよいが、それに限定されない。
【0027】
本発明の用語、「酵母微生物」とは、発芽により増殖する真菌類に属する微生物であり、本発明の乳酸の生産経路、アルコールの生産経路及び/又はアセチル-CoA生産経路を含むものであれば、 限定されない。酵母微生物は、型によって「サッカロミセス属」、「ピキア属」、「カンジダ属」及び「サッカロミコプシス属」などに分けられ、具体的には、本発明では、様々な種が含む「サッカロミセス属」微生物を活用することができる。具体的には、前記サッカロミセス属微生物は、サッカロミセス・バヤヌス(Saccharomyces bayanus)、サッカロミセス・ブラウディ(Saccharomyces boulardii)、サッカロミセス・ブルデリ(Saccharomyces bulderi)、サッカロミセス・カリオカヌス(Saccharomyces cariocanus)、サッカロミセス・カリオカス(Saccharomyces cariocus)、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロミセス・チェバリエリ(Saccharomyces chevalieri)、サッカロミセス・ダイレネンシス(Saccharomyces dairenensis)、サッカロミセス・エリプソイデウス(Saccharomyces ellipsoideus)、サッカロミセス・ユーバヤヌス (Saccharomyces eubayanus)、サッカロミセス・エクシグース(Saccharomyces exiguus)、サッカロミセス・フロレンチヌス(Saccharomyces florentinus)、サッカロミセス・クルイベリ(Saccharomyces kluyveri)、サッカロミセス・マルチニエ(Saccharomyces martiniae)、サッカロミセス・モナセンシス(Saccharomyces monacensis)、サッカロミセス・ノルベンシス(Saccharomyces norbensis)、サッカロミセス・パラドキサス(Saccharomyces paradoxus)、サッカロミセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)、サッカロミセス・スペンセロラム(Saccharomyces spencerorum)、サッカロミセス・ツリセンシス(Saccharomyces turicensis)、サッカロミセス・ユニスポラス (Saccharomyces unisporus)、サッカロミセス・ウバルム(Saccharomyces uvarum)、及びサッカロミセス・ゾナトウス(Saccharomyces zonatus)からなる群から選択されたものであってもよく、より具体的には、サッカロミセス・セレビシエであってもよい。
【0028】
本発明者らは、サッカロミセス属微生物の代表的な例としてサッカロミセス・セレビシエでPDCの活性弱化とALD及びACS活性が増進された微生物を製造した結果、乳酸の生産が大幅に増加したことを確認した。
【0029】
本発明の微生物は、アルコール脱水素酵素(alcohol dehydrogenase、ADH)がさらに不活性化されたものであってもよい。
【0030】
本発明の用語、「アルコール脱水素酵素(alcohol dehydrogenase)」とは、アルコールから水素を離脱させてアルデヒド又はケトンを生成する反応を可逆的に触媒する活性を有するタンパク質を意味し、本発明では、前記活性を有するものであれば、由来や亜型(isotype)に限定されない。本発明のアルコール脱水素酵素は、サッカロミセス属微生物に由来するものであってもよく、ADH1であってもよい。具体的には、サッカロミセス・セレビシエのADH1であってもよいが、それに限定されず、 前記タンパク質と生物学的に同一であるか又は相応する活性を有するものであれば、その変異体類似体などをすべて含むことができる。前記タンパク質の配列は、公知のデータベースなどから得ることができ、その例としてNCBIのGenBankなどであってもよいが、それに限定されない。前記ADH1は、配列番号77のアミノ酸配列からなるものであってもよく、前記配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列、具体的には、80%以上の相同性、より具体的には、90%以上の相同性、さらにより具体的には、95%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含む。また、遺伝コードの縮退に起因し、同一アミノ酸配列をコードする前記塩基配列の変異体も本発明に含まれる。
【0031】
本発明の微生物は、D-乳酸脱水素酵素(d-lactate dehydrogenase、DLD)がさらに不活性化されたものであってもよい。
【0032】
本発明の用語、「D-乳酸脱水素酵素(d-lactate dehydrogenase)」とは、D-乳酸を脱水素化してピルベートを生成する活性を有するタンパク質を意味し、本発明では、前記活性を有するものであれば、由来や亜型(isotype)に限定されない。本発明のD-乳酸脱水素酵素は、サッカロミセス属微生物に由来したものであってもよい。具体的には、サッカロミセス・セレビシエのDLD1であってもよいが、それに限定されず、前記タンパク質と生物学的に同一であるか又は相応する活性を有するものであれば、その変異体類似体などをすべて含むことができる。前記タンパク質の配列は、公知のデータベースなどから得ることができ、その例としてNCBIのGenBankなどであってもよいが、それに限定されない。前記DLD1は、配列番号78のアミノ酸配列からなるものであってもよく、前記配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列、具体的には、80%以上の相同性、より具体的には、90%以上の相同性、さらにより具体的には、95%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含む。また、遺伝コードの縮退に起因し、同一アミノ酸配列をコードする前記塩基配列の変異体も本発明に含まれる。
【0033】
本発明では、さらにピルベートから生成されたアルデヒドを基質として活用するアルコール発酵経路に作用するADH1を欠損させ、生成されたD-乳酸を分解する酵素であるDLD1を欠損させた菌株を用いており、これは、酢酸の生成経路の調節による乳酸発酵生成能の変化を明確に測定するためである。本発明の具体的な実施例で製造されたPDCとALD及びACSの活性を調節した本発明の菌株は、大幅に増進された乳酸発酵生産能を示した(表12)。
【0034】
本発明のまた他の一態様は、前記本発明の微生物を用いて乳酸を生産する方法を提供する。
【0035】
具体的には、本発明の具体的な例として培養液で本発明の微生物を培養する工程、及び前記工程の培養液から乳酸を回収する工程を含む乳酸の生産法方を提供する。
【0036】
本発明の前記培養過程は、当業界において公知の適当な培地と培養条件に応じて行われる。このような培養過程は、当業者であれば、選択された菌株に応じて容易に調整して使用することができる。前記培養方法の例には、回分式、連続式及び流加式培養が含まれるが、それに限定されない。培養に使用される培地は、特定の菌株の要求条件を適切に満たさなければならない。
【0037】
本発明で使用される培地は、スクロース又はグルコースを主炭素源として使用し、スクロースを多量に含む糖蜜も炭素源として利用することができ、その他の炭素源を 適正量で様々に利用することができる。用いられる窒素源の例としては、ペプトン、酵母抽出物、肉汁、麦芽抽出物、トウモロコシ浸漬液、及び大豆のような有機窒素源及び尿素、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、及び硝酸アンモニウムのような無機窒素源が含まれてもよい。これらの窒素源は、単独又は組み合わせて使用することができる。前記培地にはリン源としてリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム及び対応するナトリウム-含有塩が含まれてもよい。また、硫酸マグネシウム又は硫酸鉄のような金属塩を含むことができる。その他にアミノ酸、ビタミン及び適切な前駆体などが含まれてもよい。これらの培地又は前駆体は、培養物に回分式又は連続式で添加することができる。
【0038】
培養中に水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、アンモニア、リン酸及び硫酸のような化合物を培養物に適切な方法で添加し、培養物のpHを調整することができる。また、培養中に脂肪酸ポリグリコールエステルのような消泡剤を使用して気泡の生成を抑制することができる。また、培養物の好気状態を維持するために、培養物内に酸素又は酸素含有気体を注入したり、嫌気及び微好気の状態を維持するために気体を注入しないか、若しくは窒素、水素又は二酸化炭素ガスを注入することができる。
【0039】
培養物の温度は、通常20℃〜40℃、具体的には、25℃〜35℃、より具体的には、30℃であり得る。培養期間は、所望の有用物質の生成量に到達するまで継続することができ、具体的には10〜100時間であり得る。
【0040】
本発明の前記培養工程で生産された乳酸は、培養方法、例えば、回分式、連続式又は流加式培養方法等に応じて当該分野に公知となった適切な方法を用いて培養液から回収することができる。
【0041】
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明する。しかし、これらの実施例は、本発明を例示的に説明するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0042】
実施例1:乳酸生産菌株の作製
本発明の乳酸生産菌株を作製するために、EUROSCARFから分譲された野生型酵母のうち、代表的なサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae )CEN.PK2-1Dに一連の遺伝子操作を加えた。
【0043】
具体的には、アルコール合成経路へのピルベートの離脱を最小限に抑えるために、アルコール脱水素酵素1(alcohol dehydrogenase1; ADH1)及びピルベート脱炭酸酵素1(pyruvate decarboxylase1; PDC1)を欠損させ、D型乳酸の分解経路の遮断のために、D-乳酸脱水素酵素1(d-lactate dehydrogenase1; DLD1)が欠損した菌株を、本発明のベース菌株として使用した。
【0044】
DLD1は、生長の改善に直接的な影響を与える要因ではないが、D型乳酸の脱水素酵素としてNAD+を用いてピルベートに転換させる主な酵素として知られている。したがって、本発明で作製しようとするD型乳酸生産酵母の完全な発酵生産性の比較のために、生産された乳酸を消耗する酵素であるDLD1遺伝子を欠損した菌株をベースに後続の菌株を作製し、発酵生産性を比較した。
【0045】
本発明の遺伝子操作は、一般的な分子クローニング法(molecular cloning)を用いた。
【0046】
まず、酵母のADH1及びPDC1遺伝子欠損に関する実験は、Lee TH, et al.(非特許文献5)の論文に開示された内容を参考にしてpWAL100及びpWBR100プラスミドを用いた。ベクターに挿入した各インサート(insert)は、それぞれ該当するプライマー(配列番号1〜配列番号8)を用いてPCRによって製造した。また、DLD1の遺伝子欠損のためにHIS3マーカー遺伝子をダブルクロスオーバー(double crossover)によって導入して欠損させた。これに使用されたDNA断片は、配列番号9及び配列番号10のプライマーを用いて製造した。
【0047】
前記遺伝子の操作に使用したプライマーは、表1に示す通りである。
【0048】
【表1】
【0049】
前記のように、3つの遺伝子を欠損させた菌株をベースにして乳酸生産のための遺伝子であるD-乳酸脱水素酵素(d-lactate dehydrogenase、D-LDH)を導入した。サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)由来のTEF1プロモーターとCYC1ターミネーターとの間にラクトバチルス・プランタラム(Lb. plantarum)由来のldhD遺伝子を含有するように、それぞれ5 '、3'の末端にXhoIとSpeIの制限酵素サイトを有するp413TEF1ベクターにクローニングし、ここで、SacI/PvuIIの二重切断でインサートを準備した。そして、ベクターは、p-δ-neoでBamHI/NotIで二重切断されたDNA切片からマングビーンヌクレアーゼ(Mungbean nuclease)で平滑断片(blunt end)を作製した後、さらにSacIで処理してSacI粘着末端(sticky end)とBamHI由来の平滑断片を有するベクター部分を作製した。
【0050】
前記過程で得たベクターとインサートをライゲーション(ligation)してpTL573ベクターを完成した。pTL573プラスミドは、ラクトバチルス・プランタラム由来のldhD遺伝子を含んでおり、サッカロミセス・セレビシエCEN.PK2-1Dpdc1Δadh1Δdld1Δ菌株のretrotransposable要素中の一部の領域であるδ-sequenceにランダムに多数のコピーが挿入されるように設計された。該当遺伝子の多重挿入のために、プラスミドpTL573をSalI制限酵素で切断してδ-sequence上にシングルクロスオーバーを誘導するDNA断片を作製した。これを形質転換により母菌株内に導入し、最大5 mg/mL G418濃度のYPD(1%酵母抽出物、2%バクトペプトン、2%グルコース)培地で多数のコロニーを得た。このようにして得られた菌株は、最終的にD型乳酸生産能の付与のためにラクトバチルス・プランタラム由来のD-LDHが複数で挿入されていることを確認し、これをCC02-0064菌株と命名した。
【0051】
実施例2:PDC5弱化変異菌株の製造
実施例1で製造したCC02-0064菌株をベースにPDC5のプロモーターを置換した変異菌株を製造した。この過程で、カセットの作製及び菌株選別過程は Lee T. H. et al. (Development of reusable split URA3-marked knockout vectors for budding yeast, Saccharomyces cerevisiae. 特許文献5)に記載の方法を用いた。
【0052】
具体的には、CC02-0064菌株のPDC5のプロモーターをSCO1、SCO2、ACS1、IDP2、FBA1プロモーターに置換した計5つの新規菌株を作製し、これに配列番号11〜配列番号36のプライマーを用いてプロモーター置換カセットを作製した。
【0053】
前記プロモーター置換に使用したプライマーは、表2に示す通りである。
【0054】
【表2】
【0055】
前記のように作製した新規菌株をCC02-0167、CC02-0168、CC02-0169、CC02-0170、CC02-0174と命名した。その菌株と遺伝形質は、表3に示す通りである。
【0056】
【表3】
【0057】
実施例3:PDC5弱化変異菌株の乳酸発酵評価
実施例2で作製したPDC5プロモーター変異菌株に対して乳酸発酵評価を行った。そのために乳酸発酵評価用培地を作製した。
【0058】
具体的には、酵母用制限培地であるSC media(Synthetic Complex media)を作製するために、0.67%酵母ニトロゲンベース(アミノ酸不含) をベースに、これに、アミノ酸 dropout mix(Sigma)をメーカーのプロトコルにより混合し、必要に応じて、除外されたアミノ酸を添加した。ロイシン(leucine)は380mg/L、ウラシル、トリプトファン及びヒスチジンは、76mg/Lになるように添加し、炭素源としてブドウ糖8%と中和剤として1%のCaCO3を添加した。このように製造した培地を、酵母菌株乳酸発酵の評価に用いた。
【0059】
実施例2で作製したPDC5プロモーター変異菌株の中で、本来PDC5プロモーターより弱いプロモーターで変異された菌株は成長せず、強いプロモーターで変異された菌株は、より良く成長した。具体的には、本来PDC5プロモーターより弱いプロモーターであるSCO1、SCO2、IDP2又はACS1プロモーターで置換した菌株は成長しておらず、FBA1プロモーターで交換した菌株のみが生長して評価が可能であった。前記測定が可能なCC02-0064とCC02-0174菌株の乳酸発酵評価した結果は、表4に示す通りである。
【0060】
【表4】
【0061】
前記乳酸発酵評価で確認できるように、アセチル-CoAの生成を促進する経路中、PDCを野生型のPDC5プロモーターでFBA1プロモーターに交換した菌株CC02-0174でも本来菌株(CC02-0064)より菌体生長速度及び乳酸生産性が向上することを確認した。しかし、これは、試料を採取した24時間及び48時間における結果を比較してみると、アセチル-CoA生成経路の中で下位ALDとACSの強化なしに、単にPDCの単独力価の強化だけでは、時間の経過とともに菌体生長速度及び乳酸生産性の向上が持続的に減少することが確認できた。本実施例においてPDCの力価強化によるブドウ糖消耗能の向上は10.3%であり、最大乳酸生産濃度は47.3 g/lであった。結果的に、このときの最終的な乳酸生産性の向上は約13.7%であった。
【0062】
実施例4:PDC5欠損菌株の作製
前記実施例2で作製したPDC1を欠損させ、PDC5を弱化させた菌株の他に、逆にPDC5を欠損させ、PDC1を弱化させた菌株を作製し、該当菌株でもPDC経路が弱化するか否かについて調べた。
【0063】
具体的には、CC02-0064菌株をベースにしてPDC5遺伝子の欠損のために、配列番号37〜40のプライマーを用いてPDC5欠損カセットを作製し、欠損菌株は、実施例1で明示された文献と同様の方法で作製した。これを使用したプライマーは、表5に示す通りである。
【0064】
【表5】
【0065】
このように作製したPDC5欠損菌株は、CC02-0450(CC02-0064、pdc5Δ)と命名した。
【0066】
実施例5:PDC5欠損菌株ベースPDC1プロモーター変異菌株の作製
実施例4で作製したCC02-0450菌株をベースにしてPDC1プロモーターを置換した菌株を作製した。このために、PDC1欠損を回復させた比較群の菌株であるCC02-0451(CC02-0450、PDC1p-PDC1)を作製し、実験群としてPDC1弱化菌株であるCC02-0452(CC02-0450、IDP1p-PDC1)を作製した。
【0067】
各菌株は、酵母における複製原点がないpRS406ベクターに目的遺伝子がカセットをクローニングしたpRS406-PDC1p-PDC1-CYC1tとpRS406-IDP2p-PDC1-CYC1tベクターを挿入した形で作製された。
【0068】
具体的には、酵母の染色体DNAを鋳型にして、配列番号41、42のプライマーを用いてPCRを行ってPDC1遺伝子を含む産物を得、これを配列番号43、44を用いてCYC1ターミネーターの配列を得た。これらのそれぞれを鋳型としたPCRをさらに配列番号41、44プライマーで行ってPDC1とCYC1ターミネーターが連結されたDNA断片を得た。PDC1-CYC1ターミネーターのDNA断片とpRS406ベクターをpRS406とSpeI、XhoI制限酵素を処理した後、これらをライゲーションしたpRS406-PDC1-CYC1tプラスミドを得た。一方、得られたプラスミドにプロモーター領域を導入するためにPDC1プロモーターとIDP2プロモーターをそれぞれ配列番号45、46のプライマーと配列番号47、48のプライマーの組み合わせで酵母染色体DNAを鋳型として使用したPCRを行って得た。各プロモーターを含む遺伝子断片とプラスミドpRS406-PDC1-CYC1tをSacIとSpeIで切断し、これらをライゲーションしてPDC1プロモーター及びIDP2プロモーターによりPDC1遺伝子の発現が調節されるように設計された酵母の染色体挿入用プラスミドであるpRS406-PDC1p-PDC1 -CYC1t及びpRS406-IDP2p-PDC1-CYC1tをそれぞれ作製した。
【0069】
前記過程で使用されたプライマーは、表6に示す通りである。
【0070】
【表6】
【0071】
前記作製された二つのプラスミドをStuIでそれぞれ切断し、これをすぐに菌株に導入し、完成した菌株は、CC02-0451(CC02-0450、PDC1p-PDC1)とCC02-0452(CC02-0450、IDP2p-PDC1)とそれぞれ命名した。作製した菌株と遺伝形質は、表7に示す通りである。
【0072】
【表7】
【0073】
実施例6:PDC二重欠損又は三重欠損菌株の作製
PDCファミリー遺伝子において、PDC1が単独欠損した菌株、PDC1及びPDC5が二重欠損した菌株、並びにPDC1、PDC5及びPDC6が三重欠損した菌株の作製を試みた。PDC1単独欠損菌株としては、実施例1で作製したベース菌株CC02-0064を用いた。配列番号49〜配列番号56のプライマーを用いてPDC5欠損カセットを作製し、CC02-0064に導入してPDC1及びPDC5二重欠損菌株を作製し、これをCC02-0256と命名した。また、前記PDC1及びPDC5二重欠損菌株であるCC02-0256をベースとして配列番号57〜配列番号64を用いてPDC1、PDC5及びPDC6三重欠損菌株を作製し、これをCC02-0257と命名した。
【0074】
前記欠損カセットの作製及び菌株の選別過程は、実施例1で明示された文献と同様の方法で作製した。これに用いたプライマーは、表8のとおりである。
【0075】
【表8】
【0076】
前記作製した菌株と遺伝形質は、表9に示す通りである。
【0077】
【表9】
【0078】
実施例7:ALDとACS1強化菌株の作製
ALDとACS1が過発現される菌株を作製するために、ALD2、ALD3及びACS1の過発現プラスミドを作製した。
【0079】
具体的には、配列番号65及び配列番号66のプライマーを用いてALD2のORF(Open reading frame)を、配列番号67及び配列番号68のプライマーを用いてALD3のORFを、そして配列番号69及び配列番号70のプライマーを用いてACS1のORFを作製し、SpeIとXhoI又はEcoRI制限酵素を用いてp414ADH、p415ADH及びp416ADHプラスミドベースの組換えベクターであるp415ADH-ALD2、p415ADH-ALD3、p414ADH-ACS1及びp416ADH-ACS1を作製した。これに用いたプライマーは、表10に示す通りである。
【0080】
【表10】
【0081】
このように作製された組換えプラスミドをCC02-0064、CC02-0168、CC02-0170、CC02-0256、CC02-0257、CC02-0451、CC02-0452菌株にp415ADH-ALD2、p414ADH-ACS1の組み合わせ、p415ADH-ALD3、p414ADH-ACS1の組み合わせ、p415ADH-ALD2、p416ADH-ACS1の組み合わせ、又はp415ADH-ALD3、p416ADH-ACS1の組み合わせで酵母形質転換法を用いて導入した。一方、PDC力価がない三重欠損CC02-0257菌株では、形質転換体を確保されなかった。
【0082】
前記作製した菌株と遺伝形質は、表11に示す通りである。
【0083】
【表11】
【0084】
実施例8:酵母菌株の乳酸発酵評価
前記実施例7で作製したALDとACS1強化菌株の乳酸醗酵能を評価した。
【0085】
具体的には、前記実施例3で作製した乳酸発酵評価用培地を1フラスコ当たり25mlに分注して酵母菌を接種し、30℃で71時間好気培養した後、発酵液に存在するD型乳酸の量をHPLC分析し、酢酸の量を酵素分析(Acetic acid、R-Biopharm、ドイツ)した。
【0086】
前記実験の結果は、表12に示す通りである。
【0087】
【表12】
【0088】
前記表12に示されるように、PDC5がIDP2又はSCO2プロモーターで発現され、PDC5が弱化した菌株は、そうでない菌株に比べてアセテート副産物の蓄積が顕著に減少し、ほぼ検出されないことが確認された。この場合に、ALD、ACSを強化しない菌株の最終細胞濃度は、PDC5プロモーター交換による減少傾向を示した。しかし、PDC5の発現を減少させ、ALD、ACSを強化した菌株では、逆に最終の細胞濃度が増加した。したがって、細胞生長が改善されていることが確認された。特に、PDC5のプロモーターをIDP2プロモーターに変えたCC02-0170菌株ベースでALD、ACSを強化したCC02-0277、CC02-0278菌株はALD、ACSを強化することにより生長速度、D-乳酸生産の生産濃度、収率、発酵生産性が向上することを確認した。
【0089】
要約すると、PDC5をIDP2プロモーターで弱化発現した菌株は、PDC5が正常発現される菌株よりもアセテート副産物の蓄積が減少し、最終的なODが1.3倍に増加することを確認し、さらにALD、ACSをADH1プロモーターの調節下での同時発現の際、糖消耗量と糖消耗速度が増し、最終的には収率が56%又は59%〜66%、又は67%に増加したことを確認した。
【0090】
具体的には、PDC5弱化発現に適用された2種のプロモーターを比較すると、SCO2プロモーター適用菌株とIDP2プロモーターを適用した菌株の両方で乳酸生産性が向上することが確認された。しかし、最終的な細胞濃度と糖消耗量と糖消耗速度の面でIDP2プロモーターを適用した場合の方が、より最適化された形態であることが分かった。
【0091】
実施例9:PDC1及びPDC5が二重欠損され、ALD及びACS強化された酵母菌株の乳酸発酵評価
PDC5の弱化による生長及び収率改善の効果が明確であることから、PDCをさらに欠損した菌株における乳酸生成効果について調べた。各菌株の評価方法は、実施例8の場合と同様であり、培養は74時間行った。
【0092】
前記実験の結果は、表13に示す通りである。
【0093】
【表13】
【0094】
前記表13で確認できるように、PDC1及びPDC5が二重欠損した菌株は、アセテートの減少が顕著であったが、細胞の成長及び糖消耗量の減少による乳酸生産濃度の低下が観察された。また、PDC1及びPDC5が二重欠損してPDC経路がほぼ不活性化された菌株では、ALDとACSを強化しても細胞の成長と糖消耗及び生産性が改善されていないことを確認することができた。
【0095】
実施例10:PDC経路弱化菌株のスクロースを用いた乳酸発酵評価
【0096】
PDC経路が弱化された乳酸生産酵母のスクロースを用いた発酵評価のために、実施例8及び実施例9で評価した同一の菌株を炭素源とし、ブドウ糖の代わりにスクロースに交換して乳酸生成効果について調べた。評価方法は、実施例8と同様に行った。
【0097】
前記実験の結果は、表14に示す通りである。
【0098】
【表14】
【0099】
実施例8、9の場合と同一の菌株にブドウ糖の代わりにスクロースを使用した結果、PDC経路が弱化した菌株におけるALD、ACSの強化による生長及び収率改善の効果が、実施例8のブドウ糖を使用した発酵評価の結果と同様のパターンであることが確認された。したがって、本発明で確認したPDC弱化及びALD、ACS強化による収率及び生長改善の効果が、使用された糖の種類によって制限されるものではないことを確認した。
【0100】
前記の結果をまとめると、本発明のピルベート脱炭酸酵素(PDC)の経路が弱化され、アルデヒド脱水素酵素(ALD)の活性及びアセチル-CoA合成酵素(ACS)の活性が非変異菌株より向上するように改変した菌株は、乳酸の生産収率が向上すると共に生長率も維持されることを確認した。
【0101】
以上の説明から、本発明が属する技術分野の当業者は、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく他の具体的な形で実施できることを理解するであろう。これに関連し、以上で記述した実施例は、すべての面で例示的なものであり、限定的なものではないことを理解しなければならない。本発明の範囲は、前記詳細な説明、特許請求範囲の意味及び範囲、そしてその等価概念から導出されるすべての変更又は変形された形態が本発明の範囲に含まれるものと解釈されるべきである。
図1
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]