【実施例】
【0106】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0107】
(実施例1)
所定の組成となるように原材料を調合、熔解し、得られたフツリン酸塩系の熔融ガラスを、白金合金製の流出パイプより一定スピードで連続的に流下して、流下したガラスをガラス塊成形用の成形型を用いて次々と受けて、ガラス塊を連続的に成形した。ガラスの温度がガラス転移温度以下に下がった時点でガラス塊を成形型から取り出し、ガラス塊を作製した。
【0108】
次に、再加熱工程で用いる再加熱用装置の軟化用受け皿50に離型剤を塗布した。
【0109】
その後、得られたガラス塊(直径約25mm、厚さ約5mm、重さ約15g)を、バレル研磨等の予備工程を施すことなく(すなわち、ガラス塊の表面状態を維持しつつ)、離型剤(窒化ホウ素)が塗布された受け皿50上に供給した。受け皿50上に供給されたガラス塊を、受け皿50とともに500〜750℃に設定された加熱炉に投入し、大気雰囲気下で再加熱した。再加熱されたガラス素材は約10
5dPa・sの粘度に軟化した。
【0110】
次いで、再加熱により軟化したガラス塊をプレス成形用の成形型で大気雰囲気下においてプレス成形して、両面凸形状のレンズブランクA(直径40mm、厚さ3mm、重さ15g)を100個作製した。
【0111】
なお、成形型の成形面には予め離型剤を塗布しておき、500℃の温度に加熱した成形型を用いて、8〜8.5MPa(81〜87kgf/cm
2)のプレス荷重でプレス成形した。
【0112】
また、成形型としては、成形面にコーティング剤(シリカを主成分とする酸化物セラミック)を成膜したものを用いた。このときの、成形型の成形面の表面粗さ(Rz)は、13〜20μmであり、これにより得られたレンズブランクAの表面粗さ(Rz)は、12〜30μmであった。なお、成形面の表面粗さ(Rz)は、繰り返しプレス工程を行なったことに伴って、成形面の表面の凹凸が徐々に摩耗したことによりばらつきを生じている。
【0113】
ここで、各表面粗さ(Rz)の測定は、ミツトヨ社製フォームトレーサーCS3000を使用し、JIS規格B0601に基づいて行なった。また、各表面粗さは、所定数量(100個)のレンズブランクを作製していく中で生じる、ばらつきを含む数値範囲である。
【0114】
(比較例1)
比較例1では、実施例1と同様の方法にて成形されたガラス塊(直径約25mm、厚さ約6mm、重さ約18g)にバレル研磨を施して、ガラス塊の表面を荒らして離型剤を塗布し易くするとともに目的とするレンズブランクの重量に等しくなるよう重量調整を行なった。なお、この工程中、アニール処理が十分施されたガラスは破損することはなかった。また、このような予備工程(バレル研磨)を経たガラス塊の表面は粗ずり面であった。
【0115】
ここで、バレル研磨は、研磨容器の中に、ガラス塊とともに粒子状の研磨剤とコンパウンドと水を入れて、研磨容器を回転・上下運動させることにより研磨を行なう方法であり、周知のバレル研磨法により行なわれた。
【0116】
次いで、バレル研磨が施されたガラス塊の表面に、粉末状の離型剤(窒化ホウ素)を塗して、軟化用受け皿50上に配置し、加熱炉で再加熱した。この再加熱工程以降は、実施例1と同様の方法により、レンズブランクBを100個作製した。
【0117】
比較例1では、実施例1と同様の方法にて熔解された熔融ガラスを白金合金製の流出パイプから一方の側面が開口した鋳型に連続的に供給し、冷却して一定の幅および厚みを有する板状ガラスを成形した。この成形の過程で板状ガラスは、熔融ガラスの転移温度(Tg)もしくはTgよりやや高温のアニール炉内を通してアニール処理された。
【0118】
次に、アニール処理されたガラス板を一定のサイズ(15mm×15mm×15mm、重さ23g)に切断してカットピースと呼ばれるガラス片を100個得た。さらに、カットピースにバレル研磨を施してエッジを丸めるとともに、目的とするレンズブランクの重量に等しくなるよう重量調整を行なった。この工程中、アニール処理が十分施されたガラスは破損することはなかった。なお、バレル研磨の条件は、上述のガラス塊に対するバレル研磨と同じである。
【0119】
このような予備工程(バレル研磨)を経たカットピースの表面は粗ずり面であった。次いで、このカットピースの表面に粉末状の離型剤(窒化ホウ素)を塗して、軟化用受け皿50上に配置し、加熱炉で再加熱した。この再加熱工程以降は、実施例1と同様の方法により、レンズブランクCを100個作製した。
【0120】
次に、得られたレンズブランクA〜Cについて以下の評価を行なった。
(評価1;欠陥含有層の存在領域の確認)
以下の方法により、レンズブランクA〜Cの主表面における欠陥含有層の存在を確認した。
まず、得られたレンズブランクA〜Cをそれぞれ25個ずつ準備し、各レンズブランクの主表面から深さ50μm、80μmおよび100μmまで、レンズブランクの表面を研磨した。
【0121】
評価1で行った研磨は、レンズブランクの主表面における欠陥含有層の厚みを確認するための研磨である。したがって、最終レンズ形状を無視して、レンズブランクの表面を研磨加工のみで段階的に研磨している。なお、後述する評価2における研削・研磨は、光学レンズの形状を作り出す研削・研磨であり、本評価における研磨処理とは異なる。
【0122】
レンズブランクの主表面から所定の深さまで研磨加工した、表面加工済みレンズブランク(各25点)に対し、アルゴンランプを照射し、輝点観察を行なった。結果を
図6に示す。
【0123】
図6は、実施例に係る輝点観察の結果を示す図である。通常、欠陥含有層の厚みは、レンズブランク毎に多少のばらつきがある。そのため、複数のレンズブランクについて、主表面から同じ深さまで研磨加工すると、欠陥含有層の厚みが比較的厚いレンズブランクにおいては欠陥含有層が十分に除去しきれず、研磨後のレンズに欠陥含有層が残る場合がある。このような加工後のレンズに残存する欠陥含有層は、光を散乱させるため、輝点の原因となる。したがって、加工後のレンズにおいて輝点が観察されないものを良品とし、レンズブランクの良品率を算出した。本実施例においては、良品率100%を良好とした。結果を表1に示す。
【0124】
【表1】
【0125】
表1に示されるように、本発明に係るレンズブランクAは、表面加工量がレンズブランクの主表面から深さ50μmで、既に、良品率100%となった。そのため、レンズブランクの主表面から深さ80μmおよび100μmの表面加工量での研磨は行なわなかった。
【0126】
表1および
図6(a)に示されるように、本発明に係るレンズブランクAでは、表面加工量50μmの研磨により、既に、良品率100%であり、輝点が観察された試料はなかった。すなわち、本発明に係るレンズブランクAは、レンズブランクの主表面から少なくとも深さ50μm研磨することで、その表面から欠陥含有層をすべて取り除くことができる。
【0127】
このような結果から、レンズブランクAは、レンズブランク毎のばらつきを含めてもなお、レンズブランクの主表面に形成される欠陥含有層の厚みは、50μm以下であることが確認された。
【0128】
一方、
図6(b)に示されるように、本発明の比較例に相当するレンズブランクBでは、表面加工量50μmの研磨では、良品率0%で、すべての試料で輝点が円内の領域に集中して観察された。すなわち、レンズブランクBは、レンズブランクの主表面から深さ50μm程度の研磨では、その表面から欠陥含有層をすべて取り除くことができない。
【0129】
このような結果から、レンズブランクBは、レンズブランク毎のばらつきを含めてもなお、レンズブランクの主表面に形成される欠陥含有層の厚みは、少なくとも50μmを超えることが確認された。
【0130】
なお、レンズブランクBについては、その主表面から深さ80μm、さらには100μmと研磨すると、良品率が向上することが確認された。
【0131】
また、本発明の比較例に相当するレンズブランクCについても、レンズブランクBと同様の傾向が確認された。
【0132】
(評価2;取り代量の確認)
レンズブランクA〜Cについて、以下の方法により、取り代量の確認を行なった。
まず、得られたレンズブランクA〜Cをそれぞれ20個ずつ準備し、各レンズブランクの中心部における取り代量を50μm、80μm、100μm、150μm、200μm、300μmおよび500μmとして研削・研磨した。
【0133】
また、本評価における取り代量とは、レンズブランクから光学レンズを作製する際に、研削・研磨の全工程において損失するレンズブランク表面の削り代量を意味する。なお、取り代量の観測点は、レンズブランク(研磨後の光学レンズ)の中心部とした。
【0134】
また、評価2で行なう研削・研磨は、光学レンズの形状を作り出す研削・研磨であるため、レンズブランクの表面形状に追従するように研磨を行なう評価1とは、条件が異なる。
【0135】
レンズブランクを所定の取り代量となるように加工して得た光学レンズ(各20個)に対し、アルゴンランプを照射し、輝点観察を行なった。欠陥含有層が残存している箇所は、光が散乱し、輝点となる。このような輝点は、光学レンズとしては不良となるため、輝点がないものを良品とし、良品率を算出した。本実施例においては、良品率100%を良好とした。結果を表2に示す。
【0136】
【表2】
【0137】
上記評価1で確認されているように、本発明に係るレンズブランクAは、主表面に形成される欠陥含有層の厚みが50μm以下と非常に薄い。そのため、このようなレンズブランクAを用いて光学レンズを作製すれば、レンズ形状を形成しつつ、欠陥含有層を取り除くために設定される取り代量を大幅に低減させることができる。
【0138】
表2に示されるように、本発明に係るレンズブランクAを用いて光学レンズを作製した場合には、レンズブランクの中心部における取り代量を150μmに設定した場合であっても、レンズ全面において欠陥含有層を十分に取り除くことができ、良品率が100%となることが確認された。
【0139】
一方、本発明の比較例に相当するレンズブランクBおよびレンズブランクCは、主表面に形成される欠陥含有層の厚みが50μmを超える(評価1参照)。そのため、このようなレンズブランクBおよびCを用いて光学レンズを作製した場合には、欠陥含有層を完全に取り除くために、取り代量を大きく設定する必要がある。
【0140】
すなわち、表2に示されるように、本発明の比較例に相当するレンズブランクBおよびレンズブランクCを用いて光学レンズを作製した場合に、レンズブランク毎のばらつきを踏まえた上で、レンズ全面の欠陥含有層を完全に取り除くため、取り代量を500μm以上に設定する必要があることが確認された。
【0141】
なお、本発明に係るレンズブランクAは、取り代量50μmの場合、良品率が50%である。これは、レンズブランクAを取り代量50μmで加工しても50%の試料で、未だ欠陥含有層を除去しきれていないことを意味している。しかし、このことをもって、欠陥含有層の厚みが50μmを超えているとの評価ができるものではなく、評価1との間での矛盾もない。
【0142】
すなわち、評価1における加工量と、評価2における取り代量とでは、評価している範囲が異なる。すなわち、評価1における加工量は、レンズブランクの主表面における欠陥含有層の厚みそのものを評価しているのに対し、評価2では、光学レンズを作製する際の取り代の量を評価している。
【0143】
したがって、評価2の取り代量では、単にレンズブランクの主表面に形成される欠陥含有層の厚さによってのみ決まるのではなく、レンズブランク表面のうねり等の他の要因の影響も考慮する必要があるのである。
【0144】
(評価3;研削・研磨の条件の確認)
レンズブランクA〜Cについて、光学レンズを作製するまでのレンズブランクの研削・研磨の条件の確認を行なった。具体的には、光学レンズを作製するまでの研削・研磨として、CG加工(球面研削)、SM加工(スムージング加工。なお、必要に応じて複数段回)およびPO加工(研磨加工)を行なう際の各工程の最適な加工条件を確認した。結果を表3に示す。
【0145】
【表3】
【0146】
各工程で用いた工具、各工程の加工量および加工時間は、表3のとおりである。
【0147】
本発明に係るレンズブランクAは、主表面に形成される欠陥含有層の厚みが50μm以下と薄いため、これを用いて光学レンズを作製する場合には、欠陥含有層を除去するのに必要な取り代量を大幅に低減させることができる(評価2参照)。
【0148】
そのため、レンズブランクAを用いる場合には、レンズブランクの研削量を低減できるため、比較的目の細かい#600(平均粒度が約30μm)の砥石でCG加工を行なっても、研削時間の著しい延長を招くことがない。また、このように目の細かな砥石を用いて研削を行なうことにより、研削に伴いレンズ表面に生じる微小クラックの深さ方向への進行(研削による加工ダメージ層の広がり)を効果的に防止でき、CG加工後のレンズ表面を比較的良好に維持することができる。
【0149】
その結果、本発明に係るレンズブランクAを用いる場合には、CG加工後のレンズ表面にある研削による加工ダメージ層が少ないため、続いて行なうSM加工で、#2500の樹脂製研磨具(レジンボンド砥石。たとえば、アルファーダイヤモンド工業株式会社製)を用いても、十分に研削による加工ダメージ層を除去することができる。その結果、さらなるSM加工を行なうことなく、最終工程である研磨加工(PO加工)に移行することができる。さらに、目の細かい#2500(平均粒度が約8μm)のレジンボンド砥石を用いているため、SM加工後の表面状態が良好に保たれており、PO加工の加工時間を大幅に低減することが可能となる。
【0150】
一方、本発明の比較例に係るレンズブランクBおよびCは、主表面に形成される欠陥含有層の厚みが50μmを超えて厚く、これらを用いて光学レンズを作製する場合には、欠陥含有層を完全に除去し、良品率を高めるために必要な取り代量を大きく設定する必要がある(評価2参照)。
【0151】
そのため、取り代量を多く設定する必要があるレンズブランクBおよびCでは、研削時間の著しい延長を招くとともに、目詰まりにより研削ができなくなるため、目の細かい#600の砥石でCG加工を行なうことは困難である。そのため、加工時間あたりの研削量を増やすためにも、#230(平均粒度が約70μm)のような目の粗い砥石から、CG加工を開始する必要がある。しかし、目の粗い砥石を用いるため、研削に伴いレンズ表面に生じる微小クラックの深さ方向への進行が免れず、研削による欠陥層が大きくなる傾向にある。
【0152】
このような研削による加工ダメージ層を、その後の工程で除去していくためには、続くSM加工においても、研削量を増やす必要があり、複数回のSM加工が必要になる。さらに、加工時間の著しい延長を招くことから、レンズブランクAで用いたような目の細かいレジンボンド砥石(#2500)によるSM加工からの開始することも困難である。
【0153】
そのため、SM加工でも、急激に粒度の細かい砥石の使用はできず、本発明に係るレンズブランクAを用いた場合に比べて、SM加工後のレンズ表面の状態は劣る。そのため、最終工程である研磨加工においても、本発明に係るレンズブランクAを用いた場合よりも加工量および加工時間を長く設定する必要がある。
【0154】
以上説明したように、本発明に係るレンズブランクAと、本発明の比較例に相当するレンズブランクBおよびCとでは、レンズの形成工程において、好適な工具、加工量および加工時間に違いが生じることが確認された。特に表3に示されるように、本発明に係るレンズブランクAを用いる場合には、研削・研磨の全工程を通して、加工量および加工時間が、レンズブランクBおよびCを用いた場合に比べて、大幅に低減されることが確認された。
【0155】
(総合評価)
以上説明したように、本発明に係るレンズブランクAは、主表面に形成される欠陥含有層の厚みが50μm以下である。このようなレンズブランクAを用いて光学ガラスを作製する場合には、取り代量を大幅に低減した場合であっても、高い良品率を達成することが可能となる。さらに、取り代量を大幅に低減することができるため、CG加工にて比較的目の細かい砥石(#600)を用いることができる。その結果、続くSM加工は、目の細かいレジンボンド砥石(#2500)で十分な加工を行なうことができ、最終工程の加工量および加工時間を低減することもできる。特に、本発明に係るレンズブランクAを用いた場合には、研削・研磨の全工程を通して、加工量および加工時間を大幅に低減することができることから、生産コストを向上することができる。
【0156】
(実施例2)
実施例2は、レンズ用ガラス材料として、フツリン酸塩系ガラスに換えてホウ酸ランタン系ガラスを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法でレンズブランクDを準備した。なお、ホウ酸ランタン系ガラスは、フツリン酸系ガラスに比べて、ガラス質として硬い材料である。
(比較例3)
比較例3は、レンズ用ガラス材料として、フツリン酸塩系ガラスに換えてホウ酸ランタン系ガラスを用いたこと以外は、比較例1と同様の方法でレンズブランクEを準備した。なお、ホウ酸ランタン系ガラスは、フツリン酸系ガラスに比べて、ガラス質として硬い材料である。
(比較例4)
比較例4は、レンズ用ガラス材料として、フツリン酸塩系ガラスに換えてホウ酸ランタン系ガラスを用いたこと以外は、比較例2と同様の方法でレンズブランクFを準備した。なお、ホウ酸ランタン系ガラスは、フツリン酸系ガラスに比べて、ガラス質として硬い材料である。
【0157】
得られたレンズブランクD〜Fについて、実施例1と同様に評価1〜3を行なった。特に、評価2(取り代量の確認)の結果を表4に示す。なお各評価は20個のレンズブランクを用いて、良品率を求めた。
【0158】
【表4】
【0159】
レンズブランクD〜Fについて評価1〜3を行なった結果、ガラス組成(ひいては、ガラスの硬さ等の性質)の違いによらず、同様の結果となることが確認された。
【0160】
すなわち、本発明に係るレンズブランクDは、主表面に形成される欠陥含有層の厚みが50μm以下であり、このようなレンズブランクDを用いて光学ガラスを作製する場合には、取り代量を大幅に低減した場合であっても、高い良品率を達成することが可能となる。
【0161】
さらに、取り代量を大幅に低減することができるため、CG加工にて比較的目の細かい砥石(たとえば、#400〜#800)を用いることができる。その結果、続くSM加工は、目の細かいレジンボンド砥石(たとえば、#1500〜#2500)で十分な加工を行なうことができ、最終工程の加工量および加工時間を低減することもできる。特に、本発明に係るレンズブランクDを用いた場合には、研削・研磨の全工程を通して、加工量および加工時間を大幅に低減することができることから、生産コストを向上することができる。
【0162】
(実施例3〜5)
実施例3〜5では、レンズブランクを構成する硝材と、光学レンズを作製するまでのレンズブランクの研削・研磨の条件を、表5に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法にてそれぞれのレンズブランクを作製し、評価3(研削・研磨の条件の確認)を行なった。
【0163】
なお、実施例3で用いた成形型の成形面の表面粗さ(Rz)は、20〜30μmであり、得られたレンズブランクの表面粗さ(Rz)は、17〜38μmであった。また、実施例4および5で用いた成形型の成形面の表面粗さ(Rz)は、それぞれ15〜25μmであり、得られたレンズブランクの表面粗さ(Rz)は、それぞれ11〜30μmであった。表面粗さ(Rz)の測定は上記と同様の方法により行なった。
【0164】
また、実施例3のレンズブランクを作製する際のプレス工程におけるプレス荷重は、8.5〜9MPa(87〜92kgf/cm
2)であり、実施例4および5におけるプレス荷重は、15〜16MPa(152〜163kgf/cm
2)であった。
【表5】
【0165】
本発明に係るレンズブランクによれば、硝材によらず、また、光学レンズを作製するまでのレンズブランクの研削の条件をさまざまに変更(たとえば、SM加工の段回数を変更)しても、先に記載した比較例1および2に比べて、全体の加工量および加工時間を大幅に低減できることが確認された。特に、いずれもPO加工での加工量を大幅に削減できることが確認された。
【0166】
(実施例6および7)
実施例6および7は、レンズブランクを構成する硝材と、光学レンズを作製するまでのレンズブランクの研削・研磨の条件を、表6に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法にてそれぞれのレンズブランクを作製し、評価3(研削・研磨の条件の確認)を行なった。具体的には、実施例6および7では、CG加工を行なうことなく、スムージング加工と研磨加工を行なって光学レンズを作製した。結果を表6に示す。
【0167】
なお、実施例6で用いた成形型の成形面の表面粗さ(Rz)は、12〜25μmであり、得られたレンズブランクの表面粗さ(Rz)は、8〜27μmであった。また、実施例7で用いた成形型の成形面の表面粗さ(Rz)は、15〜25μmであり、得られたレンズブランクの表面粗さ(Rz)は、13〜25μmであった。表面粗さ(Rz)の測定は上記と同様の方法により行なった。
【0168】
また実施例6のレンズブランクを作製する際のプレス工程におけるプレス荷重は、8〜8.5MPa(81〜87kgf/cm
2)であり、実施例7におけるプレス荷重は、14〜15MPa(142〜153kgf/cm
2)であった。
【0169】
【表6】
【0170】
実施例6および7において、CG加工を省略し、SM1加工でメタルボンド砥石(#800)を用い、その後のSM2加工およびSM3加工ではレジンボンド砥石(#1500、#2500)を用いて加工した。
【0171】
本発明に係るレンズブランクによれば、主表面(特に中央部)の欠陥含有層の厚みが薄く、すなわち50μm以下であるため、CG加工を省略しても、SM加工以降の処理だけで、表面欠陥を十分に除去することができる。そのため、表6に示すように、本発明に係るレンズブランクによれば、比較例1および2に比べて、全体の加工量および加工時間を大幅に低減できることが確認された。
【0172】
(砥石の粒度と微小クラックの関係について)
一般的に、加工時間を短縮するために、CG加工やSM加工で使用する砥石の粒度を粗くして加工効率を高めることがある。しかしながら、粒度が粗い砥石を用いると、加工によって発生する微小クラックが大きくなる傾向にある。そこで、CG加工用の砥石と、研削によってレンズ表面に発生する微小クラックとの関係を、ガラス組成ごとに検証した。
【0173】
具体的には、ガラス組成の異なるレンズブランクAおよびDについて、メタルボンド砥石のダイヤモンド粒度を表7のように変化させてCG加工を行ない、それぞれの砥石で研削した加工面について、直接研磨を行ない、表面欠陥がなくなるまでの研磨量(μm)を確認した。結果を表7に示す。
【0174】
【表7】
【0175】
表7に示されるように、CG加工用の砥石のダイヤモンド粒度を微小化することで加工ダメージ層(表面欠陥)が大幅に縮小することが確認された。また、CG加工用の砥石のダイヤモンド粒度が大きいほど、加工ダメージ層がレンズ表面から深いところまで及ぶことが確認された。
【0176】
なお、CG加工によって発生した加工ダメージ層は、その後のSM加工で除去する必要がある。SM1加工で、#1200のメタルボンド砥石を用いると、70μm単位で研削できる。SM2加工として、#1500のレジンボンド砥石を用いると、10μm単位で研削できる。したがって、たとえば、レンズブランクAについて、#230の砥石を用いてCG加工した場合、加工ダメージ層を除去するために必要となる研削量は90μmである。この場合、その後の工程として、#1200のメタルボンド砥石でSM1加工を1単位行った後、#1500のレジンボンド砥石でSM2加工を2単位行なうことで、#230の砥石を用いてCG加工を行なった際の加工ダメージ層を取り除くことができる。
【0177】
次に、SM加工用の砥石と、研削によってレンズ表面に発生する微小クラックとの関係を、ガラス組成ごとに検証した。具体的には、ガラス組成の異なるレンズブランクAおよびDについて、レジンボンド砥石の表面粗さを表8のように変化させてSM加工を行ない、それぞれの砥石で研削した加工面について、直接研磨を行ない、表面欠陥がなくなるまでの研磨量(μm)を確認した。結果を表8に示す。
【0178】
【表8】
【0179】
表8に示されるように、レジンボンド砥石による加工ダメージ層の形成量は、該砥石の表面粗さに比例するが、ガラス組成の違いによる大きな差はなかった。そのため、前工程(CG加工等)の加工ダメージ層が厚くなければ、組成によらず、レジンボンド砥石による表面粗さに由来する加工ダメージ層のみ、研磨工程(PO工程)で除去すれば足り程度であることが確認された。
【0180】
(実施例8〜10)
実施例8〜10は、レンズブランクを構成する硝材と、光学レンズを作製するまでのレンズブランクの研削・研磨の条件を、表9に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法にてそれぞれのレンズブランクを作製し、評価3(研削・研磨の条件の確認)を行なった。
【0181】
なお、実施例8で用いた成形型の成形面の表面粗さ(Rz)は、17〜27μmであり、得られたレンズブランクの表面粗さ(Rz)は、20〜40μmであった。実施例9および10で用いた成形型の成形面の表面粗さ(Rz)は、16〜28μmであり、得られたレンズブランクの表面粗さ(Rz)は、14〜37μmであった。表面粗さ(Rz)の測定は上記と同様の方法により行なった。
【0182】
また、実施例8のレンズブランクを作製する際のプレス工程におけるプレス荷重は、9.5〜10MPa(96〜102kgf/cm
2)であり、実施例9および10におけるプレス荷重は、13〜14.5MPa(132〜148kgf/cm
2)であった。
【0183】
【表9】
【0184】
実施例8〜10において、粒度表示が#400〜#800の砥石を用いてCG加工を行なった場合でも、本発明に係るレンズブランクを用いることで、研削・研磨の全工程を通して、加工量および加工時間を大幅に低減することができた。
【0185】
実施例8において、SM加工の一段回あたりの加工量を30μm以下とした。実施例8では、SM加工(SM1)の初期の段階で、加工後のレンズブランクの曲率が所定値から外れる傾向にあったため、レジンボンド砥石(#1500)の形状修正を1回行った。それ以降のSM加工ではレンズブランクの曲率が安定したため砥石の修正は不要であった。また、SM加工により形状精度が安定したレンズブランクが得られたため、その後のPO加工では研磨皿の修正は不要であった。
【0186】
実施例8において、CG加工、SM加工、PO加工全体の加工量は、最大でも250μmであり、表3に記載した比較例1および2に比べて加工量が大幅に低減できた。さらに、CG加工、SM加工、PO加工全体の加工時間は、砥石の修正に要する時間も含めていずれも最大でも600秒であり、表3に記載した比較例1および2に比べて短時間で光学レンズを加工することができた。なお、比較例1および2では、それぞれ100個の光学レンズを加工する際、光学レンズの形状精度を所望の範囲にするために、SM加工1,2において共に5回以上のレジンボンド砥石の形状修正を行ない、さらにPO加工においてそれぞれ5回以上の研磨皿の修正を行なった。
【0187】
さらに、実施例9および10においても、SM加工(SM1)で用いたレジンボンド砥石の形状修正を1回行ったものの、レジンボンド砥石や研磨皿の修正は不要であった。そして、比較例1および2に比べて合計加工量(最大でも190μm)が少なく、短時間(最大でも680秒)で光学レンズを加工することができた。
【0188】
実施例8〜10の結果から判るように、本発明に係るレンズブランクを用いることで、1段回あたりのSM加工の加工量を所定量以下に抑えられ、SM加工における砥石への負荷が軽減され、砥石自身の形状の変化が抑止されることが確認された。したがって、数百回以上連続で加工しても、砥石の修正を必要最小限に抑えることができ、全体の加工時間を効果的に短縮することができる。加えて、光学レンズの形状精度を高めることもできる。また、実施例1〜5においても同様に、SM加工の加工量を30μm以下であり、SM加工における砥石の修正の回数が最小限で済み、全体の加工時間を大幅に短縮することができることを確認した。
【0189】
最後に、本実施形態を図等を用いて総括する。
本実施形態である研磨用ガラスレンズブランク2は、
図1Aおよび
図1Bに示すように、少なくとも主表面がプレス成形面であって、主表面に形成される欠陥含有層2aの厚みが50μm以下である。
【0190】
好ましくは、本実施形態である研磨用ガラスレンズブランク2は、上記主表面(2A、2B)の表面粗さ(Rz)が、8μm以上である。
【0191】
好ましくは、本実施形態である研磨用ガラスレンズブランク2は、
図3および
図5に示すように、ノズル40から供給される熔融ガラス20をガラス塊成形用の成形型30で受けて成形してガラス塊を得る工程と、ガラス塊20を再加熱し、レンズブランク成形用の成形型70で大気雰囲気下においてプレス成形する工程とを有する方法により得られる。
【0192】
さらに、好ましくは、本実施形態である研磨用ガラスレンズブランク2は、
図2Aに示すように、ガラス塊を得てからプレス成形するまでの工程(S1〜S4)において、ガラス塊の表面を粗面化処理する工程を有さない。
【0193】
また、好ましくは、本実施形態である研磨用ガラスレンズブランク2は、
図2Aに示すように、ガラス塊を得てからプレス成形するまでの工程(S1〜S4)において、ガラス塊を研削または研磨する工程を有さない。
【0194】
本発明の別の観点に係る研磨用ガラスレンズブランク2の製造方法は、
図2A,
図3、
図4、
図5に示すように、ノズル40から供給される熔融ガラスをガラス塊成形用の成形型30で受けて成形してガラス塊を得る工程(S1)と、ガラス塊20の表面状態を維持しつつ、ガラス塊20に離型剤を塗布する離型剤塗布工程(S2)と、離型剤塗布工程(S2)で離型剤が塗布されたガラス塊(20)を、大気雰囲気下で10
4〜10
6dPa・sの粘度に再加熱する再加熱工程(S3)と、再加熱工程(S3)で再加熱したガラス塊20をプレス成形用の成形型(70)で大気雰囲気下においてプレス成形して、少なくとも主表面にプレス成形面を有するガラス成形品(2)を得るプレス工程(S4)とを備え、プレス成形工程(S4)によって得られたガラス成形品2の主表面に形成される欠陥含有層2aの厚みが50μm以下である。
【0195】
好ましくは、再加熱工程前のガラス塊の表面、および再加熱工程の際にガラス塊を配置する保持用凹部の少なくともいずれか一方に、離型剤を付着させる離型剤付着工程をさらに有する。
【0196】
好ましくは、
図4に示すように、離型剤付着工程(S2)において、ガラス塊20を配置する保持用凹部52に離型剤を付着させた後、保持用凹部52にガラス塊20を配置し、さらにガラス塊20に離型剤を付着させる。
【0197】
好ましくは、研磨用ガラスレンズブランク2の製造方法のプレス工程のプレス荷重は5〜17MPaである。
【0198】
また、本発明の別の観点では、研磨用ガラスレンズブランク2から光学レンズを製造する方法は、球面研削加工(CG加工)、スムージング加工(SM加工)および研磨加工(PO加工)を行ない、スムージング加工では、金属ボンドの砥石を用いることなく樹脂ボンド砥石(レジンボンド砥石)を用いる加工を行なう。
【0199】
好ましくは、球面研削工程は、粒度表示で#400〜#800の研削工具を用いて行なわれ、研削量が200μm以下である。
【0200】
さらに好ましくは、球面研削加工(S10)を経た研磨用ガラスレンズブランクに対して、スムージング加工(S11)は1段回または複数段回行なわれ、各段回のスムージング加工(S11)の加工量は30μm以下である。
【0201】
また、本発明の別の観点では、研磨用ガラスレンズブランク2から光学レンズを製造する方法は、球面研削加工(S10)を行なうことなく、スムージング加工(S11)および研磨加工(S12)を行ない、スムージング加工(S11)では、金属ボンドの砥石および樹脂ボンドの砥石を用いる。
【0202】
さらに、別の観点で光学素子の製造方法は、好ましくは、研磨用ガラスレンズブランクを研削する工程と、研削工程を経た研磨用ガラスレンズブランクを研磨する工程とを含む光学レンズの製造方法であって、研削工程は、研磨用ガラスレンズブランクを球面加工する球面研削工程と、球面研削工程を経た研磨用ガラスレンズブランクに対して、1段回または複数回のスムージング加工を行なう工程を含み、レンズ球面研削工程は、粒度表示で#400〜#800の研削工具を用いて行なわれ、研削量が200μm以下であり、スムージング加工は、1段回あたりの加工量が30μm以下である。
【0203】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。