(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
本実施形態の表面処理鋼材は、鋼材の表面にアルミニウム・亜鉛合金めっき層(以下、単に「めっき層」と称する)を少なくとも含む下地層が形成され、上地層として塗料組成物を用いた塗膜が形成されている。鋼材としては、薄鋼板、厚鋼板、型鋼、鋼管、鋼線等の種々の部材が挙げられる。すなわち、鋼材の形状は特に制限されない。また、本実施形態では、めっき層とこのめっき層の上にクロメートフリー化成処理を施した化成処理層とにより下地層を構成している。この化成処理層については、特に内容を限定しない。
【0022】
めっき層は、溶融めっき処理により形成され、構成元素としてAl、Zn、Si、Cr及びMgを含む。めっき層の全体を100質量%としたとき、Mgの含有量は0.1〜10質量%である。このため、Alによって特にめっき層の表面の耐食性が向上すると共に、Znによる犠牲防食作用によって特に表面処理鋼材の切断端面におけるエッジクリープが抑制されて、表面処理鋼材の耐食性が高められる。更に、Siによってめっき層中のAlと鋼材との間の過度の合金化が抑制され、めっき層と鋼材との間に介在する合金層(後述)が表面処理鋼材の加工性を損なうことが抑制される。更に、めっき層がZnよりも卑な金属であるMgを適度に含有することで、めっき層の犠牲防食作用が強化され、表面処理鋼材の耐食性が更に向上する。
【0023】
めっき層の全体を100体積%としたとき、めっき層にはSi―Mg相が0.2〜15体積%含まれる。Si―Mg相はSiとMgとの金属間化合物で構成される相であり、めっき層中に分散して存在する。めっき層中のSi―Mg相の体積割合が高いほど、めっき層におけるしわの発生が抑制される。これは、表面処理鋼材の製造時に溶融めっき金属が冷却されることで凝固してめっき層が形成されるプロセスにおいて、溶融めっき金属が完全に凝固する前にSi―Mg相が溶融めっき金属中で析出し、このSi―Mg相が溶融めっき金属の流動を抑制するためと考えられる。
【0024】
めっき層の全体を100体積%としたとき、Si―Mg相の体積割合は0.2〜15体積%であり、好ましくは0.2〜10体積%であり、より好ましくは0.4〜5体積%である。
【0025】
めっき層におけるSi―Mg相の体積割合は、めっき層をその厚み方向に切断した場合の切断面におけるSi―Mg相の面積割合と等しい。めっき層の切断面におけるSi−Mg相は、電子顕微鏡観察により明瞭に確認することができる。このため、切断面におけるSi−Mg相の面積割合を測定することで、めっき層におけるSi―Mg相の体積割合を間接的に測定することができる。
【0026】
めっき層はSi―Mg相と、それ以外のZnとAlを含有する相により構成される。ZnとAlを含有する相は、主としてα−Al相(デンドライト組織)及びZn−Al−Mg共晶相(インターデンドライト組織)で構成される。ZnとAlを含有する相は、めっき層の組成に応じて更にMg−Zn
2から構成される相(Mg−Zn
2相)、Siから構成される相(Si相)、Fe−Al金属間化合物から構成される相(Fe−Al相)等、各種の相を含み得る。従って、めっき層におけるZnとAlを含有する相の体積割合は99.8〜85体積%であり、好ましくは99.8〜90体積%であり、より好ましくは99.6〜95体積%である。
【0027】
めっき層中のMg全量に対するSi−Mg相中のMgの質量比率は、3質量%以上である。Si−Mg相に含まれないMgは、ZnとAlを含有する相中に含まれる。ZnとAlを含有する相においては、Mgはα−Al相中、Zn−Al−Mg共晶相中、Mg−Zn
2相中、めっき表面に形成されるMg含有酸化物皮膜中等に含まれる。Mgがα−Al相中に含まれる場合には、α−Al相中にMgが固溶する。
【0028】
めっき層中のMg全量に対するSi−Mg相中のMgの質量比率は、Si−Mg相がMg
2Siの化学量論組成を有しているとみなされた上で算出され得る。尚、実際にはSi−Mg相はSi及びMg以外のAl、Zn、Cr、Fe等の元素を少量含む可能性が有り、Si−Mg相中のSiとMgとの組成比も化学量論組成から若干変動している可能性があるが、これらを考慮してSi−Mg相中のMg量を厳密に決定することは非常に困難である。このため、本発明においては、めっき層中のMg全量に対するSi−Mg相中のMgの質量比率が決定される際には、前記の通り、Si−Mg相がMg
2Siの化学量論組成を有しているとみなされる。
【0029】
めっき層中のMg全量に対するSi−Mg相中のMgの質量比率は、次の式(1)により算出され得る。
【0030】
R=A/(M×CMG/100)×100 …(1)
Rはめっき層中のMg全量に対するSi−Mg相中のMgの質量比率(質量%)を示す。Aはめっき層の平面視単位面積当たりの、めっき層中のSi−Mg相に含まれるMg含有量(g/m
2)を示す。Mはめっき層の平面視単位面積当たりの、めっき層の質量(g/m
2)を示す。CMGはめっき層中の全Mgの含有量(質量%)を示す。
【0031】
Aは、次の式(2)から算出され得る。
【0032】
A=V
2×ρ
2×α …(2)
V
2はめっき層の平面視単位面積当たりの、めっき層中のSi−Mg相の体積(m
3/m
2)を示す。ρ
2はSi−Mg相の密度を示し、その値は1.94×10
6(g/m
3)である。αはSi−Mg相中のMgの含有質量比率を示し、その値は0.63である。
【0033】
V
2は、次の式(3)から算出され得る。
【0034】
V
2=V
1×R
2/100 …(3)
V
1はめっき層の平面視単位面積あたりの、めっき層の全体体積(m
3/m
2)を示す。R
2はめっき層中のSi−Mg相の体積比率(体積%)を示す。
【0035】
V
1は、次の式(4)から算出され得る。
【0036】
V
1=M/ρ
1 …(4)
ρ
1は、めっき層全体の密度(g/m
3)を示す。ρ
1の値は、めっき層の組成に基づいてめっき層の構成元素の常温での密度を加重平均することで算出され得る。
【0037】
本実施形態では、めっき層中のMgが上記のように高い比率でSi−Mg相中に含まれる。このため、めっき層の表層に存在するMg量が少なくなり、これによりめっき層の表層におけるMg系酸化皮膜の形成が抑制される。従って、Mg系酸化皮膜に起因するめっき層のしわが、抑制される。Mg全量に対するSi−Mg相中のMgの割合が多いほど、しわの発生が抑制される。この割合は5質量%以上であればより好ましく、20質量%以上であれば更に好ましく、50質量%以上であれば特に好ましい。Si−Mg相中のMgの、Mg全量に対する割合の上限は特に制限されず、この割合が100質量%であってもよい。
【0038】
めっき層における50nm深さの最外層内では、大きさが直径4mm、深さ50nmとなるいかなる領域においても、Mg含有量が60質量%未満であることが好ましい。このめっき層の最外層におけるMg含有量は、グロー放電発光分光分析(GD-OES:Glow Discharge - Optical Emission Spectroscopy)により測定することができる。精度の良い定量濃度分析値を得ることが困難である場合、めっき層に含まれる複数の各元素の濃度曲線を比較することで、MgO単独の酸化皮膜がめっき層の最外層に認められないことを確かめればよい。
【0039】
めっき層の最外層でのMg含有量が少ないほど、Mg系酸化皮膜に起因するしわが抑制される。このMg含有量は、40質量未満であればより好ましく、20質量%未満であれば更に好ましく、10質量%未満であれば特に好ましい。特にめっき層の厚み50nmの最外層内に、Mg含有量が60質量%以上となる部分が存在しなくなることが好ましく、更にMg含有量が40質量%以上となる部分が存在しないことが好ましく、Mg含有量が20質量%以上となる部分が存在しなければ更に好ましい。
【0040】
Mg含有量の物理的意味について説明する。化学量論組成のMgO酸化物中のMg含有量は約60質量%である。すなわち、Mg含有量が60質量%未満ということは、化学量論組成のMgO(MgO単独の酸化皮膜)が、めっき層の最外層に存在せず、或いはこの化学量論組成のMgOの形成が著しく抑制されていることを意味する。本実施形態ではめっき層の最外層におけるMgの過剰な酸化が抑制されることにより、MgO単独の酸化皮膜の形成が抑制される。めっき層の最外層ではAl、Zn、Sr等のMg以外の元素の酸化物を少量もしくは多量に含有する複合酸化物が形成され、このため相対的にめっき層の表層におけるMgの含有量が低下していると考えられる。
【0041】
めっき層の表面でのSi―Mg相の面積比率が30%以下であることが好ましい。めっき層中にSi−Mg相が存在すると、めっき層の表面ではSi―Mg相が薄く網目状に形成されやすくなり、このSi―Mg相の面積比率が大きいとめっき層の外観が変化する。Si−Mg相のめっき表面分布状態が不均一な場合は、目視によってめっき層の外観に光沢のムラが観察される。この光沢のムラは、タレと呼ばれる外観不良である。めっき層の表面でのSi―Mg相の面積比率が30%以下であれば、タレが抑制され、めっき層の外観が向上する。更に、めっき層の表面にSi−Mg相が少ないことは、めっき層の耐食性が長期に亘って維持されるためにも有効である。めっき層の表面へのSi−Mg相の析出を抑制すると、相対的にはめっき層内部へのSi−Mg相の析出量が増大する。そのため、めっき層内部のMg量が多くなり、これによりめっき層においてMgの犠牲防食作用が長期に亘って発揮されるようになり、これによりめっき層の高い耐食性が長期に亘って維持されるようになる。めっき層の外観向上及びめっき層の耐食性の維持のためには、めっき層の表面でのSi―Mg相の面積比率は、20%以下であればより好ましく、10%以下であれば更に好ましく、5%以下であれば特に好ましい。
【0042】
めっき層におけるMgの含有量は上記の通り0.1〜10質量%の範囲である。Mgの含有量が0.1質量%未満であるとめっき層の耐食性が充分に確保されなくなってしまう。この含有量が10質量%より多くなると耐食性が低下し、めっき鋼材の製造時に溶融めっき浴中にドロスが発生しやすくなってしまう。このMgの含有量は更に0.5質量%以上であることが好ましく、更に1.0質量%以上であることが好ましい。またこのMgの含有量は特に5.0質量%以下であることが好ましく、更に3.0質量%以下であることが好ましい。Mgの含有量が1.0〜3.0質量%の範囲であれば特に好ましい。
【0043】
めっき層におけるAlの含有量は25〜75質量%の範囲であることが好ましい。この含有量が25質量%以上であればめっき層中のZn含有量が過剰とならず、めっき層の表面における耐食性が充分に確保される。この含有量が75質量%以下であればZnによる犠牲防食効果が充分に発揮されると共にめっき層の硬質化が抑制されて表面処理鋼材の折り曲げ加工性が高くなる。更に、めっき鋼材の製造時に溶融めっき金属の流動性が過度に低くならないようにすることでめっき層のしわを更に抑制する観点からも、Alの含有量は75質量%以下であることが好ましい。このAlの含有量は特に45質量%以上であることが好ましい。またこのAlの含有量は特に65質量%以下であることが好ましい。Alの含有量が45〜65質量%の範囲であれば特に好ましい。
【0044】
めっき層におけるSiの含有量は、Alの含有量に対して0.5〜10質量%の範囲であることが好ましい。SiのAlに対する含有量が0.5質量%以上であるとめっき層中のAlと鋼材との過度の合金化が充分に抑制される。この含有量が10質量%より多くなるとSiによる作用が飽和するだけでなくめっき鋼材の製造時に溶融めっき浴中にドロスが発生しやすくなってしまう。このSiの含有量は特に1.0質量%以上であることが好ましい。またこのSiの含有量は特に5.0質量%以下であることが好ましい。Siの含有量が1.0〜5.0質量%の範囲であれば特に好ましい。
【0045】
更に、めっき層中のSi:Mgの質量比が100:50〜100:300の範囲であることが好ましい。この場合、めっき層中のSi−Mg層の形成が特に促進され、めっき層におけるしわの発生が更に抑制される。このSi:Mgの質量比は更に100:70〜100:250であることが好ましく、更に100:100〜100:200であることが好ましい。
【0046】
上述した通り、めっき層は、構成元素としてCrを含有している。この場合、Crによってめっき層中のSi−Mg相の成長が促進され、めっき層中のSi−Mg相の体積割合が高くなると共に、めっき層中のMg全量に対するSi−Mg相中のMgの割合が高くなる。これにより、めっき層のしわが更に抑制される。めっき層におけるCrの含有量は0.02〜1.0質量%の範囲である。めっき層におけるCrの含有量が0.02%未満であれば、めっき層の耐食性が充分に確保され難くなると共にめっき層のしわやタレが充分に抑制され難くなる。めっき層におけるCrの含有量が1.0質量%より多くなると前記作用が飽和するだけでなく、めっき鋼材の製造時に溶融めっき浴中にドロスが発生しやすくなり、塗装後の塗膜平滑性が低下する。このCrの含有量は0.05質量%以上であることが好ましい。またこのCrの含有量は0.5質量%以下であることが好ましい。このCrの含有量は、特に0.07〜0.2質量%の範囲であることが好ましい。
【0047】
めっき層における50nm深さの最外層内でのCrの含有量は、100〜500質量ppmであることが好ましい。この場合、めっき層の耐食性が更に向上する。これは、最外層にCrが存在するとめっき層に不働態皮膜が形成され、このためにめっき層のアノード溶解が抑制されるためと考えられる。このCrの含有量は更に150〜450質量ppmであることが好ましく、更に200〜400質量ppmであることが好ましい。
【0048】
めっき層と鋼材との間にはAlとCrとを含有する合金層が介在することが好ましい。本発明では、合金層はめっき層とは異なる層とみなされる。合金層は、構成元素として、AlとCr以外に、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Sn等の種々の金属元素を含有してもよい。このような合金層が存在すると、合金層中のCrによってめっき層中のSi−Mg相の成長が促進され、めっき層中のSi−Mg相の体積割合が高くなると共に、めっき層中のMg全量に対するSi−Mg相中のMgの割合が高くなる。これにより、めっき層のしわやタレが更に抑制される。特に、合金層中のCrの含有割合(質量割合)の、めっき層内のCrの含有割合(質量割合)に対する比が、2〜50の範囲であることが好ましい。この場合、めっき層内の合金層付近においてSi−Mg相の成長が促進されることで、めっき層の表面でのSi―Mg相の面積比率が低くなり、このためタレが更に抑制されると共にめっき層の耐食性が更に長期に亘って維持される。合金層中のCrの含有割合の、めっき層内のCrの含有割合に対する比は、更に3〜40であることが好ましく、更に4〜25であることが好ましい。合金層中のCr量は、めっき層の断面をエネルギー分散型X線分析装置(EDS)を用いて測定することで導出することができる。
【0049】
合金層の厚みは0.05〜5μmの範囲であることが好ましい。この厚みが0.05μm以上であれば、合金層による上記作用が効果的に発揮される。この厚みが5μm以下であれば、合金層によって表面処理鋼材の加工性が損なわれにくくなる。
【0050】
めっき層がCrを含有すると、めっき層の折り曲げ加工変形後の耐食性も向上する。その理由は次の通りであると考えられる。めっき層が厳しい折り曲げ加工変形を受けると、めっき層及びめっき層上の塗膜にクラックが生じる場合がある。その際、クラックを通じてめっき層内に水や酸素が浸入してしまい、めっき層内の合金が直接腐食因子に晒されてしまう。しかし、めっき層の特に表層に存在するCr並びに合金層に存在するCrはめっき層の腐食反応を抑制し、これによりクラックを起点とした腐食の拡大が抑制される。めっき層の折り曲げ加工変形後の耐食性が特に向上するためには、めっき層における50nm深さの最外層内でのCrの含有量が300質量ppm以上であることが好ましく、特に200〜400質量ppmの範囲であることが好ましい。また、めっき層の折り曲げ加工変形後の耐食性が特に向上するためには、合金層中のCrの含有割合(質量割合)の、めっき層内のCrの含有割合(質量割合)に対する比が20以上であることが好ましく、特に20〜30の範囲であることが好ましい。
【0051】
めっき層は構成元素として更にSrを含有することが好ましい。この場合、Srによってめっき層中のSi−Mg層の形成が特に促進される。更に、Srによって、めっき層の表層におけるMg系酸化皮膜の形成が抑制される。これは、Mg系酸化皮膜よりもSrの酸化膜の方が優先的に形成されやすくなることで、Mg系酸化皮膜の形成が阻害されるためであると考えられる。これにより、めっき層におけるしわの発生が更に抑制される。めっき層中のSrの含有量は1〜1000質量ppmの範囲であることが好ましい。このSrの含有量が1質量ppm未満であると上述の作用が発揮されなくなり、この含有量が1000質量ppmより多くなるとSrの作用が飽和してしまうだけでなく、めっき鋼板の製造時に溶融めっき浴中にドロスが発生しやすくなってしまう。このSrの含有量は特に5質量ppm以上であることが好ましい。またこのSrの含有量は特に500質量ppm以下であることが好ましく、更に300質量ppm以下であることが好ましい。このSrの含有量は、更に20〜50質量ppmの範囲であることが好ましい。
【0052】
めっき層は構成元素として更にFeを含有することが好ましい。この場合、Feによってめっき層中のSi−Mg層の形成が特に促進される。更に、Feはめっき層のミクロ組織及びスパングル組織の微細化にも寄与し、これによりめっき層の外観及び加工性が向上する。めっき層におけるFeの含有量は0.1〜1.0質量%の範囲であることが好ましい。このFeの含有量が0.1質量%未満であるとめっき層のミクロ組織及びスパングル組織が粗大化してめっき層の外観が悪化すると共に加工性が悪化してしまう。この含有量が1.0質量%より多くなるとめっき層のスパングルがあまりにも微細化し、或いは消失してしまってスパングルによる外観向上がなされなくなると共に、表面処理鋼材の製造時に溶融めっき浴中にドロスが発生しやすくなってめっき層の外観が更に悪化してしまう。このFeの含有量は特に0.2質量%以上であることが好ましい。またこのFeの含有量は特に0.5質量%以下であることが好ましい。Feの含有量が0.2〜0.5質量%の範囲であれば特に好ましい。
【0053】
めっき層は、構成元素として更にアルカリ土類元素、Sc、Y、ランタノイド元素、Ti及びBから選択される元素を含有してもよい。
【0054】
アルカリ土類元素(Be、Ca、Ba、Ra)、Sc、Y、及びランタノイド元素(La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu等)は、Srと同様の作用を発揮する。めっき層におけるこれらの成分の含有量の総量は、質量比率で1.0質量%以下であることが好ましい。
【0055】
Ti及びBのうち少なくとも一方をめっき層が含有すると、めっき層のα−Al相(デンドライト組織)が微細化することでスパングルが微細化し、このため、スパングルによるめっき層の外観が向上する。更に、Ti及びBのうち少なくとも一方によりめっき層でのしわの発生が更に抑制される。これは、Ti及びBの作用によりSi−Mg相も微細化し、この微細化したSi−Mg相が、溶融めっき金属が凝固してめっき層が形成されるプロセスにおいて溶融めっき金属の流動を効果的に抑制するためと考えられる。更に、このようなめっき組織の微細化によって曲げ加工時のめっき層内の応力の集中が緩和されて大きなクラックの発生等が抑制され、めっき層の曲げ加工性が更に向上する。前記作用が発揮されるためには、溶融めっき浴2中のTi及び/又はBの含有量の合計が、質量比率で0.0005〜0.1質量%の範囲であることが好ましい。このTi及び/又はBの含有量の合計は特に0.001質量%以上であることが好ましい。またこのTi及び/又はBの含有量の合計は特に0.05質量%以下であることが好ましい。Ti及び/又はBの含有量の合計が0.001〜0.05質量%の範囲であれば特に好ましい。
【0056】
Znは、めっき層の構成元素全体のうち、Zn以外の構成元素を除いた残部を占める。
【0057】
めっき層は構成元素として上記以外の元素を含まないことが好ましい。特にめっき層は、Al、Zn、Si、Mg、Cr、Sr、及びFeのみを構成元素として含有すること、或いは、これらの元素、並びにアルカリ土類元素、Sc、Y、ランタノイド元素、Ti及びBから選択される元素のみを構成元素として含有することが、好ましい。
【0058】
但し、言うまでもないが、めっき層は、Pb、Cd、Cu、Mn等の不可避的不純物を含有してもよい。この不可避的不純物の含有量はできるだけ少ない方が好ましく、特にこの不可避的不純物の含有量の合計がめっき層に対して質量比率で1質量%以下であることが好ましい。
【0059】
[めっき層の製造方法]
好ましい実施形態では、鋼材をめっき層の構成元素の組成と一致する組成を有する溶融めっき浴に浸漬することにより実施される。溶融めっき処理により鋼材とめっき層との間に合金層が形成されるが、それによる組成の変動は無視し得るほどに小さい。
【0060】
本実施形態では、例えば25〜75質量%のAl、0.5〜10質量%のMg、0.02〜1.0質量%のCr、Alに対して0.5〜10質量%のSi、1〜1000質量ppmのSr、0.1〜1.0質量%のFe、及びZnを含有する溶融めっき浴が準備される。溶融めっき浴中のSi:Mgの質量比は、100:50〜100:300の範囲であることが好ましい。
【0061】
また、別の実施形態では、例えばAlを25〜75質量%、Crを0.02〜1.0質量%、SiをAlに対して0.5〜10質量%、Mgを0.1〜0.5質量%、Feを0.1〜0.6質量%、Srを1〜500質量ppmの範囲で含有させ、或いは更にアルカリ土類元素、ランタノイド元素、Ti及びBから選択される成分を含有させ、残部をZnとした溶融めっき浴を準備することができる。
【0062】
溶融めっき処理により形成されるめっき層には、しわが発生しにくくなる。従来、Mgを含有する溶融した金属(溶融めっき金属)が溶融めっき処理によって鋼材に付着すると、この溶融めっき金属の表層でMgが濃化しやすくなり、このためにMg系酸化皮膜が形成され、このMg系酸化皮膜に起因してめっき層にしわが発生しやすかった。しかしながら、上記組成を有する溶融めっき浴が用いられることでめっき層が形成されると、鋼材に付着した溶融めっき金属の表層におけるMgの濃化が抑制され、溶融めっき金属が流動してもめっき層の表面にしわが発生しにくくなる。更にこの溶融めっき金属内部の流動性が低減されて、溶融めっき金属の流動自体が抑制され、このため前記しわが更に発生しにくくなる。
【0063】
前記のようなMgの濃化及び溶融めっき金属の流動の抑制は、次の様な機序によりなされると考えられる。
【0064】
鋼材の表面上に付着した溶融めっき金属が冷却されて凝固する過程で、まずα−Al相が初晶として析出し、デンドライト状に成長する。このようにAlリッチなα−Al相の凝固が進行すると、残部の溶融めっき金属中(すなわち、溶融めっき金属の未だ凝固していない成分中)のMgとSi濃度が除々に高くなる。次に鋼材が冷却されてその温度が更に低下すると、残部の溶融めっき金属の中からSiを含有するSi含有相(Si−Mg相)が凝固析出する。このSi−Mg相は、上述の通りMgとSiとの合金で構成される相である。このSi−Mg相の析出・成長がCr、Fe及びSrによって促進される。このSi−Mg相に溶融めっき金属中のMgが取り込まれることで、溶融めっき金属の表層へのMgの移動が阻害され、この溶融めっき金属の表層でのMgの濃化が抑制される。
【0065】
更に、溶融めっき金属中のSrもMgの濃化抑制に寄与する。これは溶融めっき金属中でSrはMgと同様に酸化しやすい元素であることから、SrがMgと競争的にめっき表面で酸化膜を形成し、結果としてMg系酸化皮膜の形成が抑制されるためであると考えられる。
【0066】
更に、前記のように初晶であるα−Al相以外の残部の溶融めっき金属中でSi−Mg相が凝固成長することで、溶融めっき金属が固液混相状態となり、このため溶融めっき金属自体の流動性が低下し、その結果としてめっき層表面のしわの発生が抑制される。
【0067】
Feはめっき層のミクロ組織やスパングルを制御する上で重要である。Feがめっき層の組織に影響を与える理由は、現時点では必ずしも明確ではないが、Feは溶融めっき金属中でSiと合金化し、この合金が溶融めっき金属の凝固時に凝固核となるためであると考えられる。
【0068】
更に、SrはMgと同様に卑な元素であることから、Srによってめっき層の犠牲防食作用が更に強化され、表面処理鋼材の耐食性が更に向上する。SrはSi相及びSi−Mg相の析出形態の針状化を抑制する作用も発揮し、このためSi相及びSi−Mg相が球状化して、めっき層におけるクラックの発生が抑制される。
【0069】
溶融めっき処理時には、めっき層と鋼材との間に、溶融めっき金属中のAlの一部を含有する合金層も形成される。例えば鋼材にプレめっきが施されていない場合には、めっき浴中のAlと鋼材中のFeとを主体とするFe−Al系の合金層が形成される。鋼材にプレめっきが施されている場合には、めっき浴中のAlとプレめっきの構成元素の一部或いは全部とを含み、或いは更に鋼材中のFeを含む合金層が形成される。
【0070】
めっき浴がCrを含有する場合、合金層は構成元素としてAlと共に更にCrを含む。合金層は、めっき浴の組成、プレめっきの有無、鋼材1の組成などに応じて、構成元素として、AlとCr以外に、Si、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Sn等の種々の金属元素を含有し得る。
【0071】
合金層中には、溶融めっき金属中のCrの一部がめっき層中よりも高い濃度で含有されるようになる。このような合金層が形成されると、合金層中のCrによってめっき層中のSi−Mg相の成長が促進され、めっき層中のSi−Mg相の体積割合が高くなると共に、めっき層中のMg全量に対するSi−Mg相中のMgの割合が高くなる。これにより効果は、上述したので説明を繰り返さない。
【0072】
合金層の厚みが過大であると表面処理鋼材の加工性は低下するが、溶融めっき浴中のSiの作用によって前記合金層の過剰な成長が抑制され、このため、表面処理鋼材の良好な加工性が確保される。合金層の厚みは0.05〜5μmの範囲であることが好ましい。合金層の厚みが前記範囲であると、表面処理鋼材の耐食性が充分に向上すると共に、加工性も充分に向上する。
【0073】
更に、めっき層内では、その表面付近でCrの濃度が一定範囲に保たれ、それに伴ってめっき層の耐食性が更に向上する。この理由は、明確ではないが、Crが酸素と結合することでめっき層の表面付近に複合酸化膜が形成されるためであると推測される。このようなめっき層の耐食性向上のためには、めっき層における50nm深さの最外層内でのCrの含有量が100〜500質量ppmとなることが好ましい。
【0074】
溶融めっき浴がCrを含有すると、めっき層の折り曲げ加工変形後の耐食性も向上する。その理由は次の通りであると考えられる。厳しい折り曲げ加工変形を受けると、めっき層及びめっき層上の塗装皮膜にクラックが生じる場合がある。その際、クラックを通じてめっき層内に水や酸素が浸入してしまい、めっき層内の合金が直接腐食因子に晒されてしまう。しかし、めっき層の特に表層に存在するCr並びに合金層に存在するCrはめっき層の腐食反応を抑制し、これによりクラックを起点とした腐食の拡大が抑制される。
【0075】
上記好ましい実施形態で扱われる溶融めっき金属は、七成分以上の元素を含む多元系溶融金属であり、その凝固過程は極めて複雑であって理論的に予測することは困難であるが、本発明者らは実験での観察等を通じて、上記重要な知見を得るに至った。
【0076】
溶融めっき浴の組成が上記のように調整されることで、上記の通りめっき層におけるしわやタレの抑制、並びに表面処理鋼材の耐食性と加工性の確保が、達成され得る。
【0077】
溶融めっき浴が特にCaを含有する場合には、溶融めっき浴におけるドロスの発生が著しく抑制される。溶融めっき浴がMgを含有する場合には、Mgの含有量が10質量%以下であってもある程度のドロスの発生は避けがたく、表面処理鋼材の良好な外観が確保されるためにはめっき浴からのドロスの除去が必要となるが、溶融めっき浴が更にCaを含有すると、Mgに起因するドロスの発生が著しく抑制される。これにより、表面処理鋼材の外観がドロスにより悪化することが更に抑制されると共に、溶融めっき浴からドロスを除去するために要する手間が軽減される。溶融めっき浴中のCaの含有量は100〜5000質量ppmの範囲であることが好ましい。この含有量が100質量ppm以上であることで、溶融めっき浴中のドロスの発生が効果的に抑制される。Caの含有量が過剰であるとこのCaに起因するドロスが発生するおそれがあるが、Caの含有量が5000質量ppm以下であることで、Caに起因するドロスが抑制される。この含有量は更に200〜1000質量ppmの範囲であることが好ましい。
【0078】
上記のようにめっき層の表面のしわが抑制されることによって、特にめっき層の表面に、高さが200μmより大きいと共に急峻度が1.0よりも大きい隆起が存在しなくなることが好ましい。急峻度とは、(隆起の高さ(μm))÷(隆起の底面の幅(μm))で規定される値である。隆起の底面は、隆起の周囲の平坦面を含む仮想的な平面と隆起とが交わる箇所のことである。隆起の高さとは隆起の底面から隆起の先端までの高さである。急峻度が低い場合、めっき層の外観が更に向上する。更に、めっき層に重ねて後述するように塗膜が形成される場合に、隆起が前記塗膜を突き破ることが防止されると共に、前記塗膜の厚みが容易に均一化され得るようになる。これにより、塗膜が形成された表面処理鋼材の外観が向上すると共に、塗膜によって表面処理鋼材が更に優れた耐食性等を発揮し得るようになる。
【0079】
このようなMgの濃化の程度、Si―Mg相の状態、合金層の厚み及びめっき層の表面の隆起の急峻度の調整は、鋼材に上記組成の溶融めっき浴を用いて溶融めっき処理を施すことで達成され得る。
【0080】
溶融めっき処理にあたっては、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Snから選択される少なくとも一種の成分を含有するプレめっき層が形成されている鋼材に、めっき層形成のための溶融めっき処理が施されてもよい。前記溶融めっき処理を施す前の鋼材にプレめっき処理が施されることで、この鋼材の表面上にプレめっき層が形成される。このプレめっき層によって、溶融めっき処理時の鋼材と溶融めっき金属との濡れ性が向上し、鋼材とめっき層との間の密着性が改善する。
【0081】
プレめっき層は、プレめっき層を構成する金属の種類に依存するが、めっき層の表面外観や耐食性の更なる向上にも寄与する。例えばCrを含有するプレめっき層が形成される場合、鋼材とめっき層との間でCrを含有する合金層の形成が促進され、表面処理鋼材の耐食性が更に向上する。例えばFeやNiを含有するプレめっき層が形成される場合、鋼材と溶融めっき金属との濡れ性が向上してめっき層の密着性が大きく改善し、更にSi―Mg相の析出が促進され、めっき層の表面外観が更に向上する。Si―Mg相の析出の促進は、プレめっき層と溶融めっき金属との反応に起因して生じると考えられる。
【0082】
プレめっき層の付着量は特に限定されないが、鋼材の片面上での付着量が0.1〜3g/m
2の範囲であることが好ましい。この付着量が0.1g/m
2未満であれば、プレめっき層による鋼材表面の被覆が困難であり、プレめっきによる改善効果が十分に発揮されない。またこの付着量が3g/m
2を超える場合は、改善効果が飽和するばかりでなく製造コスト高となる。
【0083】
以下に、鋼材に対して溶融めっき処理を施すための溶融めっき処理装置の概要、並びに溶融めっき処理の好適な処理条件について
図1等を参照しながら説明する。
図1は、溶融めっき処理装置の一例を示す概略図である。
【0084】
処理対象である鋼材1は炭素鋼、合金鋼、ステンレス鋼、ニッケルクロム鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼、クロム鋼、クロムモリブデン鋼、マンガン鋼などの鉄鋼から形成されている部材である。鋼材1としては、薄鋼板、厚鋼板、型鋼、鋼管、鋼線等の種々の部材が挙げられる。すなわち、鋼材1の形状は特に制限されない。
【0085】
鋼材1には、溶融めっき処理の前にフラックス処理が施されていてもよい。このフラックス処理により、鋼材1の溶融めっき浴2との濡れ性及び密着性が改善され得る。鋼材1には、溶融めっき浴2に浸漬される前に加熱焼鈍・還元処理が施されてもよいし、この処理が省略されてもよい。上記の通り鋼材1には溶融めっき処理の前にプレめっき処理が施されてもよい。
【0086】
以下では、鋼材1として板材(鋼板1a)が採用される場合、すなわち溶融めっき鋼板が製造される場合の、溶融めっき鋼板の製造工程について説明する。
【0087】
図1に示される溶融めっき処理装置は、鋼板1aを連続的に搬送する搬送装置を備える。この搬送装置は、繰出機3、巻取機12、及び複数の搬送ロール15で構成されている。この搬送装置では、長尺な鋼板1aのコイル13(第一のコイル13)を繰出機3が保持される。この第一のコイル13が繰出機3で巻き解かれ、鋼板1aが搬送ロール15で支えられながら巻取機12まで搬送される。更にこの鋼板1aを巻取機12が巻回し、この巻取機12が鋼板1aのコイル12(第二のコイル12)を保持する。
【0088】
この溶融めっき処理装置では、前記搬送装置による鋼板1aの搬送経路の上流側から順に、加熱炉4、焼鈍・冷却部5、スナウト6、ポット7、噴射ノズル9、冷却装置10、調質圧延・形状矯正装置11が順次設けられている。加熱炉4は鋼板1aを加熱する。この加熱炉4は無酸化炉等で構成される。焼鈍・冷却部5は鋼板1aを加熱焼鈍し、それに続いて冷却する。この焼鈍・冷却部5は加熱炉4に連結されており、上流側に焼鈍炉が、下流側に冷却帯(冷却機)がそれぞれ設けられている。この焼鈍・冷却部5内は還元性雰囲気に保持されている。スナウト6はその内部で鋼板1aが搬送される筒状の部材であり、その一端が前記焼鈍・冷却部5に連結され、他端がポット7内の溶融めっき浴2内に配置される。スナウト6内は焼鈍・冷却部5内と同様に還元性雰囲気に保持される。ポット7は溶融めっき浴2を貯留する容器であり、その内部にはシンクロール8が配置されている。噴射ノズル9は鋼板1aに向けてガスを噴射する。噴射ノズル9はポット7の上方に配置される。この噴射ノズル9は、ポット7から引き上げられた鋼板1aの両面に向けてガスを噴射できる位置に配置される。冷却装置10は鋼板に付着している溶融めっき金属を冷却する。この冷却装置10としては、空冷機、ミスト冷却機等が設けられ、この冷却装置10で鋼板1aが冷却される。調質圧延・形状矯正装置11は、めっき層が形成された鋼板1aの調質圧延及び形状矯正をおこなう。この調質圧延・形状矯正装置11は、鋼板1aに対して調質圧延をおこなうためのスキンパスミル等や、調質圧延後の鋼板1aに対して形状矯正をおこなうためのテンションレベラー等を備える。
【0089】
この溶融めっき処理装置を用いた溶融めっき処理では、まず繰出機3から鋼板1aが巻き解かれて連続的に繰り出される。この鋼板1aが加熱炉4で加熱された後、還元性雰囲気の焼鈍・冷却部5に搬送され、焼鈍炉で焼き鈍されると同時に、鋼板1aの表面に付着している圧延油等の除去や酸化膜の還元除去などの表面の清浄化がなされた後、冷却帯で冷却される。次に、鋼板1aはスナウト6を通過し、更にポット7に侵入してこのポット7内の溶融めっき浴2中に浸漬される。鋼板1aはポット7内でシンクロール8に支えられることでその搬送方向が上方へ転換され、溶融めっき浴2から引き出される。これにより鋼板1aに溶融めっき金属が付着する。
【0090】
次に、この鋼板1aの両面に噴射ノズル9からガスが噴射されることで、鋼板1aに付着した溶融めっき金属の付着量が調整される。このようなガスの噴射による付着量の調整方法をガスワイピング法という。この溶融めっき金属の付着量は鋼板1aの両面を併せて40〜200g/m
2の範囲に調整されることが好ましい。
【0091】
ガスワイピング法において鋼板1aへ噴射されるガス(ワイピングガス)の種類として、大気、窒素、アルゴン、ヘリウム、水蒸気等が挙げられる。これらのワイピングガスは予備加熱されてから鋼板1aへ噴射されてもよい。本実施形態では特定組成の溶融めっき浴2が用いられることで、溶融めっき金属中のMgの表面酸化濃化(溶融めっき金属の表層におけるMgの酸化並びにMg濃度の上昇)が本質的に抑制される。このため、たとえワイピングガス中に酸素が含まれ、若しくはワイピングガスの噴射に随伴する気流中に酸素が含まれていても、発明の効果を損なうことなくめっき付着量(鋼板1a上に付着している溶融めっき金属の量)の調整が可能となる。
【0092】
めっき付着量の調整方法は、勿論前記ガスワイピング法に限られず、種々の付着量制御法を適用することができる。ガスワイピング法以外の付着量制御法としては、例えば溶融めっき浴2の浴面直上に配置された一対のロール間に鋼板1aを通過させるロール絞り法、溶融めっき浴2から引き出された鋼板1aに近接して遮蔽板を配置してこの遮蔽板で溶融めっき金属を払拭する方法、鋼板1aに付着している溶融めっき金属に対して電磁力を用いて下方へ移動する力を加える電磁力ワイピング法、外的な力を加えず自然重力落下を利用してめっき付着量を調整する方法等が挙げられる。二種以上のめっき付着量の調整方法が組み合わされてもよい。
【0093】
次にこの鋼板1aは噴射ノズル9の配置位置よりも更に上方に搬送された後、二つの搬送ロール15に支えられることで下方へ折り返すように搬送される。すなわち鋼板1aは逆U字状の経路を搬送される。この逆U字状の経路において、鋼板1aが冷却装置10で空冷やミスト冷却等により冷却される。これにより、鋼板1aの表面上に付着した溶融めっき金属が凝固し、めっき層が形成される。
【0094】
冷却装置10によって冷却されることにより溶融めっき金属の凝固が完全に終了するためには、鋼板1a上が冷却装置10により、溶融めっき金属(或いはめっき層)の表面温度が300℃以下になるまで冷却されることが好ましい。溶融めっき金属の表面温度は、例えば放射温度計などで測定される。このようにめっき層が形成されるためには、この鋼板1aがめっき浴2より引き出されてから鋼板1a上の溶融めっき金属の表面が300℃に冷却されるまでの間の冷却速度が5〜100℃/secの範囲であることが好ましい。鋼板1aの冷却速度を制御するために、冷却装置10が、鋼板1aの温度をその搬送方向及び板幅方向に沿って調節するための温度制御機能を備えることが好ましい。冷却装置10は、鋼板1aの搬送方向に沿って複数に分割されていてもよい。
図1では、噴射ノズル9の配置位置よりも更に上方に搬送される経路において鋼板1aを冷却する一次冷却装置101と、一次冷却装置101よりも下流側で鋼板1aを冷却する二次冷却装置102とが設けられている。一次冷却装置101と二次冷却装置102とが更に複数に分割されていてもよい。この場合、例えば一次冷却装置101で鋼板1aを溶融めっき金属の表面が300℃或いはそれ以下の温度になるまで冷却し、更に二次冷却装置102で鋼板1aを、調質圧延・形状矯正装置11へ導入される際の温度が100℃以下となるように冷却することができる。
【0095】
鋼板1aが冷却される過程では、鋼板1a上の溶融めっき金属の表面温度が500℃以上である間の溶融めっき金属の表面の冷却速度が50℃/sec以下であることが好ましい。この場合、めっき層の表面におけるSi−Mg相の析出が特に抑制され、このためタレの発生が抑制される。この温度域での冷却速度がSi−Mg相の析出挙動に影響する理由は現時点で必ずしも明確ではないが、この温度域での冷却速度が速いと溶融めっき金属における厚み方向の温度勾配が大きくなり、このため温度がより低い溶融めっき金属の表面で優先的にMg−Si層の析出が促進されてしまい、その結果、めっき最表面でのSi−Mg相の析出量が多くなってしまうと考えられる。この温度域での冷却速度は、40℃/sec以下であれば更に好ましく、35℃/sec以下であれば特に好ましい。
【0096】
冷却後の鋼板1aには調質圧延・形状矯正装置11で調質圧延が施された後、形状矯正が施される。調質圧延による圧下率は0.3〜3%の範囲であることが好ましい。形状矯正による鋼板1aの伸び率は3%以下であることが好ましい。
【0097】
続いて、鋼板1aは巻取機12で巻き取られ、この巻取機12で鋼板1aのコイル14が保持される。
【0098】
このような溶融めっき処理時においては、ポット7内の溶融めっき浴2の温度は、この溶融めっき浴2の凝固開始温度より高く且つ前記凝固開始温度よりも40℃高い温度以下の温度であることが好ましい。ポット7内の溶融めっき浴2の温度が溶融めっき浴2の凝固開始温度より高く且つ前記凝固開始温度よりも25℃高い温度以下の温度であれば更に好ましい。このように溶融めっき浴2の温度の上限が制限されると、鋼板1aが溶融めっき浴2から引き出されてから、この鋼板1aに付着した溶融めっき金属が凝固するまでに要する時間が短縮される。その結果、鋼板1aに付着している溶融めっき金属が流動可能な状態にある時間も短縮され、このためめっき層にしわが更に発生しにくくなる。前記溶融めっき浴2の温度が、溶融めっき浴2の凝固開始温度よりも20℃高い温度以下であれば、めっき層におけるしわの発生が特に著しく抑制される。
【0099】
鋼板1aが溶融めっき浴2から引き出される際には、非酸化性雰囲気又は低酸化性雰囲気中へ引き出されてもよく、更にこの非酸化性雰囲気又は低酸化性雰囲気中で鋼板1aに対してガスワイピング法による溶融めっき金属の付着量の調整が施されてもよい。そのためには、例えば
図2に示すように、溶融めっき浴2から引き出された鋼材1の、溶融めっき浴2よりも上流側の搬送経路(溶融めっき浴2から上方へと向かう搬送経路)が、中空の部材22で囲まれると共に、この中空の部材22の内部が窒素ガスなどの非酸化性ガス又は低酸化性ガスで満たされることが好ましい。非酸化性ガス又は低酸化性ガスとは、大気に比較して酸素濃度が低いガスを意味する。非酸化性ガス又は低酸化性ガスの酸素濃度は1000ppm以下であることが好ましい。非酸化性ガス又は低酸化性ガスで満たされた雰囲気が非酸化性雰囲気又は低酸化性雰囲気であり、この雰囲気中では酸化反応が抑制される。噴射ノズル9は中空の部材22の内側に配置される。中空の部材22は、溶融めっき浴2内(溶融めっき浴2の上部)からこの溶融めっき浴2の上方に亘って、鋼材1の搬送経路を囲むように設けられている。更に、噴射ノズル9から噴射されるガスも、窒素ガスなどの非酸化性ガス又は低酸化性ガスであることが好ましい。この場合、溶融めっき浴2から引き出された鋼板1aは非酸化性雰囲気又は低酸化性雰囲気に曝されるため、鋼板1aに付着した溶融めっき金属の酸化が抑制され、この溶融めっき金属の表層にMg系酸化皮膜が更に形成されにくくなる。このため、めっき層におけるしわの発生が更に抑制される。中空の部材22が使用される代わりに、鋼板1aの搬送経路を含む溶融めっき処理装置の一部、或いは溶融めっき処理装置の全部が、非酸化性雰囲気又は低酸化性雰囲気中に配置されてもよい。
【0100】
溶融めっき処理後の鋼板1aに対して、更に過時効処理が施されることも好ましい。この場合、表面処理鋼材の加工性が更に向上する。過時効処理は、鋼板1aを一定温度範囲内に一定時間保持することで施される。
【0101】
図3は、過時効処理に用いられる装置を示し、このうち
図3(a)は加熱装置を、
図3(b)は保温容器20をそれぞれ示す。加熱装置は、溶融めっき処理後の鋼板1aが連続的に搬送される搬送装置を備える。この搬送装置は、溶融めっき処理装置における搬送装置と同様に繰出機16、巻取機17、及び複数の搬送ロール21で構成されている。この搬送装置による鋼板1aの搬送経路には、誘導加熱炉等の加熱炉18が設けられている。保温容器20は、内部に鋼板1aのコイル19が保持可能であり、且つ断熱性を有する容器であれば、特に制限されない。保温容器20は大型の容器(保温室)であってもよい。
【0102】
鋼板1aに過時効処理が施される場合には、まず溶融めっき処理後の鋼板1aのコイル14が溶融めっき処理装置の巻取機12からクレーンや台車等で運搬され、加熱装置の繰出機16に保持される。加熱装置ではまず繰出機16から鋼板1aが巻き解かれて連続的に繰り出される。この鋼板1aは加熱炉18で過時効処理に適した温度まで加熱されてから、巻取機17で巻き取られ、この巻取機17で鋼板1aのコイル19が保持される。
【0103】
続いて、鋼板1aのコイル19が巻取機17からクレーンや台車等で運搬されて、保温容器20内に保持される。この保温容器20内に前記鋼板1aのコイル19が一定時間保持されることで、鋼板1aに対して過時効処理が施される。
【0104】
本実施形態により鋼板1aの表面上に形成されるめっき層はMgを含有し、めっき層の表面には僅かながらMg系酸化皮膜が存在することから、過時効処理時に鋼板1aのコイルにおいてめっき層同士が重ねられていても、めっき層間で焼き付きや溶着が生じにくい。このため、たとえ過時効処理時の保温時間が長時間であり、或いは保温温度が高温であっても、焼き付きが生じにくくなり、鋼板1aに充分な過時効処理が施され得る。これにより溶融めっき鋼板の加工性を大きく向上すると共に過時効処理の効率が向上する。
【0105】
過時効処理にあたっては、特に加熱装置による加熱後の鋼板1aの温度が180〜220℃の範囲であること、すなわち鋼板1aの温度が前記範囲内である状態で鋼板が保温容器外から保温容器内へ移されることが好ましい。保温容器内での鋼板1aの保持時間y(hr)は、下記式(1)を充足することが好ましい。
【0106】
5.0×10
22×t
−10.0≦y≦7.0×10
24×t
−10.0 …(1)
(但し、150≦t≦250)
式(1)中のt(℃)は、前記保持時間y(hr)中における鋼板1aの温度(保持温度)であり、鋼板1aに温度変動が生じる場合にはその最低温度である。
【0107】
尚、本実施形態では、溶融めっき処理装置及び加熱装置が別個の装置であるが、溶融めっき処理装置が加熱炉21を備えることで溶融めっき処理装置が加熱装置を兼ねてもよい。これらの装置においては、必要に応じて種々の要素が追加、除去、置換等されることで適宜設計変更されてもよい。本実施形態による溶融めっき処理装置及び加熱装置は、鋼材1が鋼板1aである場合に適するが、溶融めっき処理装置、加熱装置等の構成は鋼材1の形状等に応じて種々設計変更が可能である。鋼材1に対してめっき前処理が施される場合には、このめっき前処理も、鋼材1の種類、形状等に応じて種々変更可能である。
【0108】
このように溶融めっき処理が施され、或いは更に過時効処理が施された鋼材1には、めっき層に重ねてクロメートフリー化成処理がなされ、その上に塗料組成物を用いた塗膜が形成される。本発明の塗料組成物は、塗膜形成性樹脂(a)と、架橋剤(b)と、バナジン酸アルカリ土類金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種のバナジウム化合物(c)と、第三リン酸マグネシウム(d)とを含有する。また、必要に応じて、密着性向上成分、体質顔料等の添加剤が含有されていてもよい。塗膜の上にトップコートとして別の塗料を塗布することもできる。
【0109】
(塗膜形成性樹脂(a)について)
本発明の塗料組成物に用いられる塗膜形成性樹脂(a)は、熱硬化性樹脂である。熱硬化性樹脂としては、後述する架橋剤(b)と反応しうる官能基を有し、かつ塗膜形成能を有する樹脂である限り特に制限されず、例えば、エポキシ樹脂およびその変性物(アクリル変性エポキシ樹脂等);ポリエステル樹脂およびその変性物(ウレタン変性ポリエステル樹脂、エポキシ変性ポリエステル樹脂、シリコーン変性ポリエステル樹脂等);アクリル樹脂およびその変性物(シリコーン変性アクリル樹脂等);ウレタン樹脂およびその変性物(エポキシ変性ウレタン樹脂等);フェノール樹脂およびその変性物(アクリル変性フェノール樹脂、エポキシ変性フェノール樹脂等);フェノキシ樹脂;アルキド樹脂およびその変性物(ウレタン変性アルキド樹脂、アクリル変性アルキド樹脂等);フッ素樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリアミドイミド樹脂;ポリエーテルイミド樹脂等の樹脂を挙げることができる。これらの樹脂は1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0110】
上記のなかでも、塗膜形成性樹脂(a)としては、得られる塗膜の折り曲げ加工性や得られる塗膜の耐湿性、耐食性および耐候性のバランスの観点から、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂またはこれらの変性物等の熱硬化性樹脂を用いることが可能であって、これらから選択される1種以上を用いることができる。好ましくは、熱硬化性樹脂として、水酸基含有エポキシ樹脂、水酸基含有ポリエステル樹脂および水酸基を含有するこれらの変性物から選択される1種以上が用いられる。エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂およびこれらの変性物が水酸基を有していると、架橋剤(b)として、各種アミノ樹脂、各種イソシアネート化合物を選択することができる。その結果、種々の架橋剤(b)の中から、所望の性質を有する架橋剤(b)を選択することによって、塗膜に多様な物性を付与することができるようになるため、特に好ましい。
【0111】
上記水酸基含有エポキシ樹脂(水酸基含有エポキシ樹脂変性物を含む)の数平均分子量(Mn)は、1,400〜15,000であることが好ましく、2,000〜10,000であることがより好ましく、2,000〜4,000であることが特に好ましい。上記水酸基含有エポキシ樹脂のガラス転移温度(Tg)は60〜120℃であることが好ましく、60〜85℃であることがより好ましい。また、上記水酸基含有ポリエステル樹脂(水酸基含有ポリエステル樹脂変性物を含む)の数平均分子量(Mn)は、1,800〜40,000であることが好ましく、2,000〜30,000であることがより好ましく、10,000〜20,000であることが特に好ましい。上記水酸基含有ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は0〜80℃であることが好ましく、10〜40℃であることがより好ましい。使用する水酸基含有エポキシ樹脂および/または酸基含有ポリエステル樹脂の数平均分子量(Mn)が上記範囲内であることにより、後述する架橋剤(b)との架橋反応が十分に進行し、塗膜の耐湿性が十分となり、それに伴い耐食性を確保できるとともに、得られる塗料組成物が適切な粘度になって取り扱い性が良好となる。また、塗膜中に含まれるバナジウム化合物、第三リン酸マグネシウムの溶出が適切となり、酸性環境条件下における耐食性が良好となり、好ましい。また、使用する水酸基含有エポキシ樹脂および/または水酸基含有ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)が上記範囲内であることにより、塗膜の透湿性が過度に高くなることなく、塗膜の耐湿性が十分となり、耐食性も良好となる。
【0112】
上記水酸基含有エポキシ樹脂(水酸基含有エポキシ樹脂変性物を含む)としては、例えば、三菱化学製の商品名「jER1004」、「jER1007」、「E1255HX30」(ビスフェノールA骨格)、「YX8100BH30」等を挙げることができる(ここで、「jER」は登録商標である)。また、水酸基含有ポリエステル樹脂(水酸基含有ポリエステル樹脂変性物を含む)としては、例えば、DIC製の商品名「ベッコライト47−335」、東洋紡製の商品名「バイロン220」、「バイロンUR3500」、「バイロンUR5537」、「バイロンUR8300」等を挙げることができる(ここで、「バイロン」は登録商標である)。
【0113】
なお、本明細書中において、数平均分子量(Mn)とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定したクロマトグラムから標準ポリスチレンの分子量を基準にして算出した値である。また、本明細書中において、ガラス転移温度(Tg)とは、熱分析装置(セイコーインスツル製の商品名「TMA100/SSC5020」)を用いて測定した値である。
【0114】
本発明の塗料組成物における塗膜形成性樹脂(a)の含有量は、通常、全固形分中10〜80質量%であり、20〜70質量%であることが好ましい。10質量%以上であることにより、折り曲げ加工性、塗装作業性、塗膜強度が良好となる。また、塗膜形成性樹脂(a)の含有量が80質量%以下であることにより、十分な耐食性を得ることができる。
【0115】
本発明の塗料組成物は、塗膜形成性樹脂(a)以外の樹脂として、熱可塑性樹脂(j)を含有させてもよい。熱可塑性樹脂(j)としては、例えば、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等の塩素化オレフィン系樹脂;塩化ビニル、酢酸ビニル、塩化ビニリデン等をモノマー成分とする単独重合体または共重合体;セルロース系樹脂;アセタール樹脂;アルキド樹脂;塩化ゴム系樹脂;変性ポリプロピレン樹脂(酸無水物変性ポリプロピレン樹脂等);フッ素樹脂(例えばフッ化ビニリデン樹脂、フッ化ビニル樹脂、フッ素化オレフィンとビニルエーテルとの共重合体、フッ素化オレフィンとビニルエステルとの共重合体)等を挙げることができる。熱可塑性樹脂(j)は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。熱可塑性樹脂(j)を併用することで、塗膜物性を所望の性質に調製することができる。
【0116】
(架橋剤(b)について)
架橋剤(b)は、熱硬化性樹脂と反応して硬化塗膜を形成するものである。架橋剤(b)としては、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基を活性水素含有化合物でブロックしたブロックポリイソシアネート化合物(f)、アミノ樹脂(g)、フェノール樹脂等を挙げることができ、なかでも、ブロックポリイソシアネート化合物(f)およびメチロール基若しくはイミノ基を1分子中に平均して1つ以上有するアミノ樹脂(g)からなる群から選択される1種以上を用いることが好ましい。
【0117】
上記ポリイソシアネート化合物および上記ブロックポリイソシアネート化合物(f)を構成するポリイソシアネート化合物としては特に制限されず、従来公知のものを用いることができる。例えば、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、1,12−ドデカメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,3−または1,4−ジイソシアネート、1−イソシアナト−3−イソシアナトメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン(別名イソホロンジイソシアネート;IPDI)、ジシクロヘキシルメタン−4,4'−ジイソシアネート(別名:水添MDI)、2−または4−イソシアナトシクロヘキシル−2'−イソシアナトシクロヘキシルメタン、1,3−または1,4−ビス−(イソシアナトメチル)−シクロヘキサン、ビス−(4−イソシアナト−3−メチルシクロヘキシル)メタン、1,3−または1,4−α,α,α'α'−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、2,4−または2,6−ジイソシアナトトルエン、2,2'−、2,4'−または4,4'−ジイソシアナトジフェニルメタン(MDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート、p−またはm−フェニレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジフェニル−4,4'−ジイソシアネート等である。また、各ジイソシアネート同士の環化重合体(イソシアヌレート型)、さらにはイソシアネート・ビウレット体(ビウレット型)、アダクト型を使用してもよい。ポリイソシアネート化合物は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。イソシアヌレート型のポリイソシアネート化合物は、本発明において好ましく用いられるものの1つである。
【0118】
上記のなかでも、ポリイソシアネート化合物としては、分子内に1以上の芳香族官能基を含有する芳香族ポリイソシアネート化合物を用いることが好ましい。芳香族ポリイソシアネート化合物を用いることにより、塗膜の耐湿性を向上させることができるとともに、塗膜強度を向上させることができる。好ましく用いられる芳香族ポリイソシアネート化合物としては、2,4−または2,6−ジイソシアナトトルエン(TDI)、2,2'−、2,4'−または4,4'−ジイソシアナトジフェニルメタン(MDI)、キシレンジイソシアネート(XDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)等を挙げることができる。
【0119】
ブロックポリイソシアネート化合物(f)を構成するポリイソシアネート化合物の、JIS K 7301−1995に準拠して測定されるイソシアネート基含有率は、ポリイソシアネート化合物の固形分中、通常3〜20%であり、好ましくは5〜15%である。イソシアネート基含有率が上記好ましい範囲の下限値以上であることにより、塗膜の硬化性が十分となり好ましい。一方、イソシアネート基含有率が上記好ましい範囲の上限値以下であることにより、得られる塗膜の架橋密度が適切となって耐食性が良好となり好ましい。
【0120】
上記ブロックポリイソシアネート化合物(f)に用いられる活性水素含有化合物(ブロック化剤)としては特に制限されず、−OH基(アルコール類、フェノール類等)、=N−OH基(オキシム類等)、=N−H基(アミン類、アミド類、イミド類、ラクタム類等)を有する化合物や、−CH
2−基(活性メチレン基)を有する化合物、アゾール類を挙げることができる。例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、ε−カプロラクタム、σ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタム、メタノール、エタノール、n−、i−、またはt−ブチルアルコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ベンジルアルコール、ホルムアミドオキシム、アセトアルドキシム、アセトキシム、メチルエチルケドキシム、ジアセチルモノオキシム、ベンゾフェノンオキシム、シクロヘキサンオキシム、マロン酸ジメチル、アセト酢酸エチル、アセチルアセトン、ピラゾール等である。活性水素含有化合物は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0121】
ブロックポリイソシアネート化合物(f)の熱による解離温度は、これを構成するポリイソシアネート化合物および活性水素含有化合物の種類や触媒の有無およびその量に依存するが、本発明においては、熱による解離温度(無触媒状態)が120〜180℃であるブロックポリイソシアネート化合物(f)が好ましく用いられる。この範囲内に解離温度を示すブロックポリイソシアネート化合物(f)を用いることにより、塗料の安定性を向上させることができ、また、塗膜形成性樹脂(a)との架橋反応性に優れているため、耐湿性が良好な塗膜を得ることができる。解離温度が120〜180℃であるブロックポリイソシアネート化合物(f)としては、例えば、住化バイエルウレタン製の商品名「デスモジュールBL3175」、「デスモサーム2170」等を挙げることができる(ここで、「デスモジュール」、「DESMOTHERM」は登録商標である)。
【0122】
上記アミノ樹脂(g)としては、メラミン樹脂、尿素樹脂等を挙げることができ、なかでもメラミン樹脂が好ましく用いられる。「メラミン樹脂」とは、一般的に、メラミンとアルデヒドから合成される熱硬化性の樹脂を意味し、トリアジン核1分子中に3つの反応性官能基−NX
1X
2を有している。メラミン樹脂としては、反応性官能基として−N−(CH
2OR)
2〔Rはアルキル基、以下同じ〕を含む完全アルキル型;反応性官能基として−N−(CH
2OR)(CH
2OH)を含むメチロール基型;反応性官能基として−N−(CH
2OR)(H)を含むイミノ基型;反応性官能基として、−N−(CH
2OR)(CH
2OH)と−N−(CH
2OR)(H)とを含む、あるいは−N−(CH
2OH)(H)を含むメチロール/イミノ基型の4種類を例示することができる。
【0123】
本発明においては、上記メラミン樹脂のなかでも、メチロール基またはイミノ基をトリアジン核に平均して1つ以上有するメラミン樹脂(以下、メラミン樹脂(g1)という)、すなわち、メチロール基型、イミノ基型あるいはメチロール/イミノ基型メラミン樹脂またはこれらの混合物を用いることが好ましい。メラミン樹脂(g1)は、無触媒下においても塗膜形成性樹脂(a)との架橋反応性に優れており、耐湿性が良好な塗膜を得ることができる。メラミン樹脂(g1)としては、例えば、日本サイテックインダストリーズ製の商品名「マイコート715」等を挙げることができる。
【0124】
本発明の塗料組成物における架橋剤(b)の含有量は、塗膜形成性樹脂(a)の固形分100質量%に対して、好ましくは、固形分で10〜80質量%であり、より好ましくは20〜70質量%である。架橋剤(b)の含有量(固形分換算)が、塗膜形成性樹脂(a)の固形分100質量%に対して10質量%以上であることにより、塗膜形成性樹脂(a)との架橋反応が十分に進行し、塗膜の透湿性が適切となって、塗膜の耐湿性が良好となり、耐食性が良好となる。また、架橋剤(b)の含有量(固形分換算)が、塗膜形成性樹脂(a)の固形分100質量%に対して80質量%以下であることにより、塗膜中の防錆顔料の溶出が十分となり耐食性が良好となる。
【0125】
(バナジウム化合物(c)について)
防錆顔料であるバナジウム化合物(c)は、バナジン酸アルカリ土類金属塩及びバナジン酸マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種のからなるバナジン酸金属塩である。バナジウム化合物(c)は、特定の電導度を有するものであり、具体的には、その1質量%水溶液の電導度が温度25℃において200μS/cm〜2,000μS/cmである。この範囲内の電導度を有するバナジウム化合物(c)を所定量用いることにより、耐食性と耐湿性とがともに向上された塗膜を得ることができる。また、この範囲内の電導度を有するバナジウム化合物(c)は、適度な溶解性を示すことから、被塗物(鋼板等)の塗装面だけでなく、端面部の腐食を効果的に防止することができる。電導度が200μS/cm未満であると、塗膜から被塗物(鋼板等)へのバナジウム化合物の溶出が少なくなる結果、耐食性が低下する。また、電導度が2,000μS/cmを超えると、塗膜の透湿性が過度に高くなって(塗膜に水が過度に浸入しやすくなって)、塗膜の耐湿性が低下し、それに伴い耐食性も低下する。バナジウム化合物(c)の1質量%水溶液の電導度は、好ましくは200〜1,000μS/cmである。なお、バナジン酸金属塩におけるバナジウムの原子価は3、4、5のいずれかであり、バナジン酸とは、オルトバナジン酸と、メタバナジン酸、ピロバナジン酸等の縮合バナジン酸のいずれも包含するものである。バナジン酸アルカリ土類金属塩としては、バナジン酸カルシウムが好ましい。
【0126】
本明細書中において、「1質量%水溶液」とは、イオン交換水99gに対して試料(例えば、バナジウム化合物(c))1gを加え、室温にて4時間攪拌して得られる溶液をいう。ただし、添加した試料の水への溶解度が1質量%未満の場合は、添加した試料のすべてがイオン交換水に溶解していなくてもよい。上記電導度は、温度25℃においてこの1質量%水溶液の電導度を、電気伝導度計(例えば、東亜ディーケーケー製電導度計「CM−30ET」)を用いて測定したときの値である。
【0127】
上記バナジン酸カルシウムは、その1質量%水溶液のpHが6.5〜11.0であることが好ましく、7.0〜10.0であることがより好ましい。pHがこの範囲内にあることにより、本発明の表面処理鋼材の耐食性を顕著に高めることができる。バナジン酸カルシウムの1質量%水溶液のpHが上記範囲外である場合には、鉄や亜鉛やアルミニウムなどの基材の腐食が生じやすくなるおそれがある。
【0128】
なお、ここでいう「1質量%水溶液」は上記と同じ意味であり、上記pHは、1質量%水溶液のpHを、pHメータ(堀場製作所製「F−54」)を用いて測定したときの値である。
【0129】
本発明において、上記バナジウム化合物(c)の含有量は、後述する塗膜形成性樹脂(a)の固形分および架橋剤(b)の固形分の合計100質量%に対して50質量%を超え150質量%以下であり、好ましくは60〜100質量%である。バナジウム化合物(c)の含有量が、塗膜形成性樹脂(a)および架橋剤(b)の合計固形分100質量%に対して50質量%以下であると、塗膜から鋼材1へのバナジウム化合物(c)の溶出が少なくなる結果、耐食性が低下する。また、バナジウム化合物(c)の含有量が150質量%を超えると、塗膜の透湿性が過度に高くなって塗膜に水が過度に浸入しやすくなり、塗膜の耐湿性が低下し、耐湿性の低下に伴い耐食性も低下する。このように、本発明においては、防錆顔料である特定のバナジウム化合物(c)と塗膜形成性樹脂(a)と架橋剤(b)とからなる樹脂固形分との比率を、適正な範囲に調整することにより、耐湿性と耐食性を高位で両立することが可能となっている。
【0130】
本発明で用いられるバナジウム化合物(c)の調製方法は特に制限されず、いかなる方法が用いられてもよい。例えば、バナジウム化合物(c)がバナジン酸カルシウムである場合、カルシウム化合物とバナジン酸塩および/または五酸化バナジウムとを水中で混合し、反応させることによって得ることができる。当該反応によって得られた固体(通常、白色固体)は、必要に応じて水洗、脱水、乾燥、粉砕等の処理に供されてもよい。
【0131】
バナジン酸カルシウムを調製するためのカルシウム化合物としては、例えば、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウムおよび硫酸カルシウムが例示される。さらに、ギ酸カルシウム等の有機酸のカルシウム化合物もまた好適に用いられる。バナジン酸塩としては、バナジン酸カリウム、バナジン酸ナトリウム、バナジン酸アンモニウムが例示されるが、これらに限定されない。
【0132】
カルシウム化合物とバナジン酸塩とを反応させてバナジン酸カルシウムを調製する場合には、カルシウム化合物とバナジン酸塩および/または五酸化バナジウムとの使用比率を調整することによって、所望の電導度を示すバナジン酸カルシウムを得ることができる。また、電導度を上記範囲内に調整するために、異なる電導度を示す2種以上のバナジン酸カルシウムを均一に混合してもよい。
【0133】
同様にして、バナジウム化合物(c)がバナジン酸マグネシウムである場合は、マグネシウム化合物とバナジン酸塩および/または五酸化バナジウムとを水中で混合し、反応させることによって得ることができる。当該反応によって得られた固体(通常、白色固体)は、必要に応じて水洗、脱水、乾燥、粉砕等の処理に供されてもよい。
【0134】
バナジン酸マグネシウムを調製するためのマグネシウム化合物としては、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウムおよび硫酸マグネシウムが例示される。さらに、ギ酸マグネシウム等の有機酸のマグネシウム化合物もまた好適に用いられる。バナジン酸塩としては、バナジン酸カリウム、バナジン酸ナトリウム、バナジン酸アンモニウムが例示されるが、これらに限定されない。
【0135】
マグネシウム化合物とバナジン酸塩および/または五酸化バナジウムとを反応させてバナジン酸マグネシウムを調製する場合も、マグネシウム化合物とバナジン酸塩および/または五酸化バナジウムとの使用比率を調整することによって、所望の電導度を示すバナジン酸マグネシウムを得ることができる。また、電導度を上記範囲内に調整するために、異なる電導度を示す2種以上のバナジン酸マグネシウムを均一に混合してもよい。
【0136】
(第三リン酸マグネシウム(d)について)
第三リン酸マグネシウム(d)は、一般に「Mg
3(PO
4)
2・8H
2O」からなる、8水和物として市販されている。また、第三リン酸マグネシウム(d)は、酸性領域における高いpH緩衝能力を有し、例えば、
図4に示すように、上記バナジウム化合物(c)と併用することで、酸性領域におけるpH緩衝能力が、上記バナジウム化合物(c)のみに比べ、格段に高くなり、その結果、第三リン酸マグネシウム(d)を上記バナジウム化合物(c)と併用することで、酸性環境条件における塗膜の耐食性が向上するという効果を発揮する。ここで、
図4には、バナジウム化合物(c)として0.7質量%のバナジン酸カルシウムと0.3質量%の第三リン酸マグネシウム(d)からなる水溶液と、バナジウム化合物(c)として1.0質量%のバナジン酸カルシウムの水溶液の、酸性領域におけるpH緩衝作用について示されている。
図4に示すpH緩衝作用の実験方法は、以下のとおりである。
[実験方法]:
1.塩酸または水酸化ナトリウムを用いて、水溶液の初期pHを調整する。
2.初期pHが調整された水溶液に、防錆顔料を1質量%添加して撹拌する。
3.上記「2.」にて調製された防錆顔料1質量%の水溶液の24時間後にpHを測定する。
【0137】
図4において、水溶液調製後24時間のpHが一点鎖線で示した6.5〜11の範囲にある防錆顔料を用いることにより、冷延鋼板や亜鉛またはアルミニウムを含むめっき鋼板である場合において、高い耐食性を示す塗膜が得られる。したがって、
図4に示すように、バナジン酸カルシウム単独より、バナジン酸カルシウムに第三リン酸マグネシウムを併用した場合には、pHが3付近の酸性領域での緩衝作用が高いことから、バナジン酸カルシウムと第三リン酸マグネシウムとを含む塗膜組成物を用いた塗膜を有する塗装鋼板は、酸性環境条件下における耐食性が向上すると推察される。
【0138】
第三リン酸マグネシウム(d)の含有量は、上記8水和物を用いた場合においても「Mg
3(PO
4)
2」の質量に基づいて換算し、塗膜形成性樹脂(a)の固形分および架橋剤(b)の固形分の合計100質量%に対して1〜150質量%である。1質量%未満では、塗膜から鋼材1への第三リン酸マグネシウム(d)の溶出が少なくなる結果、pH緩衝能力が低くなり、酸性環境条件下における耐食性が低下する。また、第三リン酸マグネシウム(d)の含有量が150質量%を超えると、塗膜の透湿性が過度に高くなって塗膜に水が過度に浸入しやすくなり、塗膜の耐湿性が低下し、耐湿性の低下に伴い酸性環境条件下における耐食性も低下する。
【0139】
本発明では、酸性領域におけるpH緩衝能力を考慮して、第三リン酸マグネシウム(d)を用いている。ここで、第三リン酸アルカリ土類金属塩である、第三リン酸カルシウムは、第三リン酸マグネシウムに比べ、塗膜から鋼材1への溶出が少ないことから、同量添加しても酸性領域におけるpHの緩衝能力が不十分であり、その結果、酸性環境条件での腐食性が低下する。また、第三リン酸アルカリ金属塩である、第三リン酸リチウムおよび第三リン酸ナトリウムは、塗膜の透湿性が過度に高くなって塗膜に水が過度に浸入しやすくなることから、塗膜の耐湿性が低下し、耐湿性の低下に伴い耐食性も低下する。また、リン酸マグネシウムの中でも、第一リン酸マグネシウム(Mg(H
2PO
4)
2・4H
2O)および第二リン酸マグネシウム(MgHPO
4・3H
2O)に比べ、水溶液中のpHがアルカリ性になる「第三リン酸マグネシウム」は、酸性領域でのpH緩衝作用が高いことから、第三リン酸マグネシウムを含む塗装組成物を用いた塗膜を有する鋼材1の酸性環境条件下における耐食性が向上する。
【0140】
第三リン酸マグネシウム(d)とバナジウム化合物(c)との総含有量は、バナジウム化合物(c)の質量と第三リン酸マグネシウム(d)の「Mg
3(PO
4)
2」の質量との合計質量として、塗膜形成性樹脂(a)の固形分および架橋剤(b)の固形分の合計100質量%に対して51〜210質量%である。第三リン酸マグネシウム(d)とバナジウム化合物(c)との総含有量を上記範囲内にすることにより、バナジウム化合物(c)および第三リン酸マグネシウム(d)が塗膜から鋼材1へ適量溶出するため耐食性が維持され、かつ、塗膜の耐湿性も維持される。
【0141】
バナジウム化合物(c)と第三リン酸マグネシウム(d)との質量比は、第三リン酸マグネシウム(d)を「Mg
3(PO
4)
2」として換算して、60:150〜150:1であり、好ましくは60:50〜150:50であり、より好ましくは60:25である。バナジウム化合物(c)と第三リン酸マグネシウム(d)との質量比が、第三リン酸マグネシウム(d)を「Mg
3(PO
4)
2」として換算して、60:150〜150:1であることにより、酸性条件での耐食性と通常の中性条件での耐食性のどちらも良好にすることができる。
【0142】
(密着性向上成分について)
本発明の塗料組成物は、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤およびジルコニウム系カップリング剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である密着性向上成分をさらに含有していてもよい。密着性向上成分の添加により、被塗物との密着性を向上させることができ、塗膜の耐湿性をさらに向上させることができる。
【0143】
上記密着性向上成分としては特に制限されず、従来公知のものを使用することができる。好適に用いられる密着性向上成分の具体例を挙げれば、東レ・ダウコーニング製の商品名「DOW CORNING TORAY Z−6011」、「DOW CORNING TORAY Z−6040」等のシラン系カップリング剤(ここで、「DOW CORNING」は登録商標である);マツモトファインケミカル製の商品名「オルガチックスTC−401」、「オルガチックスTC−750」等のチタン系カップリング剤;マツモトファインケミカル製の商品名「オルガチックスZC−580」、「オルガチックスZC−700」等のジルコニウム系カップリング剤、なかでも、シラン系カップリング剤が好ましく用いられる。
【0144】
密着性向上成分の含有量は、塗膜形成性樹脂(a)および架橋剤(b)の合計固形分100質量%に対して0.1〜20質量%であることが好ましい。密着性向上成分の含有量が0.1質量%以上であることにより、耐湿性向上効果が得られる。また、密着性向上成分の含有量が20質量%以下であることにより、塗料組成物の貯蔵安定性が良好となる。
【0145】
(体質顔料について)
本発明の塗料組成物は、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルク、マイカ、シリカ、アルミナおよびベントナイト等の体質顔料をさらに含有していてもよい。体質顔料の添加により、塗膜強度を向上させることができるとともに、塗膜表面に凹凸が生じ、上塗り塗膜との密着性が向上する等の理由により、耐湿性が良好となる。体質顔料の含有量は、塗膜形成性樹脂(a)および架橋剤(b)の合計固形分100質量%に対して1〜40質量%であることが好ましい。体質顔料の含有量が1質量%以上であることにより、耐湿性向上効果が得られる。また、体質顔料の含有量が40質量%以下であることにより、塗膜の透湿性が適切となって、塗膜の耐湿性が良好となり、耐食性が良好となる。
【0146】
(硬化触媒について)
架橋剤(b)としてブロックポリイソシアネート化合物(f)および/またはポリイソシアネート化合物を用いる場合、本発明の塗料組成物は、硬化触媒を含有してもよい。硬化触媒としては、例えば、スズ触媒、アミン触媒、鉛触媒等を挙げることができ、なかでも有機スズ化合物が好ましく用いられる。有機スズ化合物としては、例えば、ジブチルスズジラウレート(DBTL)、ジブチルスズオキサイド、テトラ−n−ブチル−1,3−ジアセトキシスタノキサン等を用いることができる。
【0147】
また、架橋剤(b)として、メラミン樹脂(g1)を用いる場合にも、本発明の塗料組成物は、硬化触媒を含有してもよい。この場合の硬化触媒としては、例えば、カルボン酸、スルホン酸のような酸触媒等を挙げることができ、なかでもドデシルベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等が好ましく用いられる。
【0148】
上記硬化触媒の含有量は、塗膜形成性樹脂(a)および架橋剤(b)の合計固形分100質量%に対して、通常0.1〜10質量%であり、0.1〜1質量%であることが好ましい。硬化触媒の含有量が0.1〜10質量%であることにより、塗料組成物の貯蔵安定性が良好となる。
【0149】
(その他の添加剤について)
本発明の塗料組成物は、必要に応じて、上記以外のその他の添加剤を含有してもよい。その他の添加剤としては、例えば、上記バナジウム化合物(c)以外の防錆顔料;上記体質顔料以外の体質顔料;着色顔料、染料等の着色剤;光輝性顔料;溶剤;紫外線吸収剤(ベンゾフェノン系紫外線吸収剤等);酸化防止剤(フェノール系、スルフォイド系、ヒンダードアミン系酸化防止剤等);可塑剤;表面調整剤(シリコーン、有機高分子等);タレ止め剤;増粘剤;ワックス等の滑剤;顔料分散剤;顔料湿潤剤;レベリング剤;色分かれ防止剤;沈殿防止剤;消泡剤;防腐剤;凍結防止剤;乳化剤;防かび剤;抗菌剤;安定剤等がある。これらの添加剤は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0150】
上記バナジウム化合物(c)以外の防錆顔料としては、非クロム系防錆顔料を用いることができ、例えば、五酸化バナジウム、モリブデン酸塩顔料(モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸ストロンチウム等)、リンモリブデン酸塩顔料(リンモリブデン酸アルミニウム系顔料等)、カルシウムシリカ系顔料、トリポリリン酸塩等のリン酸塩系防錆顔料、ケイ酸塩系防錆顔料等の非クロム系防錆顔料が挙げられる。これらは、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。本発明の塗料組成物は、所定の電導度およびpHを有するバナジウム化合物(c)を所定量含有することから、十分に高い耐食性を示すが、必要に応じて、得られる塗膜の耐湿性、耐食性、耐薬品性等を損なわない範囲で上記のようなバナジウム化合物(c)以外の防錆顔料が使用されてもよい。
【0151】
上記着色顔料としては、例えば、二酸化チタン、カーボンブラック、グラファイト、酸化鉄、コールダスト等の無機着色顔料;フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、キナクリドン、ペリレン、アンスラピリミジン、カルバゾールバイオレット、アントラピリジン、アゾオレンジ、フラバンスロンイエロー、イソインドリンイエロー、アゾイエロー、インダスロンブルー、ジブロムアンザスロンレッド、ペリレンレッド、アゾレッド、アントラキノンレッド等の有機着色顔料;アルミニウム粉、アルミナ粉、ブロンズ粉、銅粉、スズ粉、亜鉛粉、リン化鉄、微粒化チタン等を挙げることができる。これらは、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0152】
上記光輝性顔料としては、例えば、アルミ箔、ブロンズ箔、スズ箔、金箔、銀箔、チタン金属箔、ステンレススチール箔、ニッケル・銅等の合金箔、箔状フタロシアニンブルー等の箔顔料を挙げることができる。これらは、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0153】
上記溶剤としては、例えば、水;エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコール系有機溶剤;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系有機溶剤;ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系有機溶剤;3−メトキシブチルアセテート、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等のエステル系有機溶媒;メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系有機溶剤;ならびに、N−メチル−2−ピロリドン、トルエン、ペンタン、iso−ペンタン、ヘキサン、iso−ヘキサン、シクロヘキサン、ソルベントナフサ、ミネラルスピリット、ソルベッソ100、ソルベッソ150(いずれも芳香族炭化水素系溶剤)等を挙げることができる。これらは、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。本発明の塗料組成物は、水系塗料であってもよく、有機溶剤系の塗料であってもよい。
【0154】
本発明の塗料組成物は、例えば、塗膜形成性樹脂(a)、架橋剤(b)およびバナジウム化合物(c)、体質顔料、密着性向上成分、硬化触媒およびその他の添加剤を、ローラーミル、ボールミル、ビーズミル、ペブルミル、サンドグラインドミル、ポットミル、ペイントシェーカー、ディスパー等の混合機を用いて混合することにより、調製することができる。あるいは、本発明の塗料組成物は、塗膜形成性樹脂(a)およびバナジウム化合物(c)を含む主剤成分と、架橋剤(b)を含む架橋剤成分とからなる2液型塗料であってもよい。
【0155】
本発明の塗料組成物は、プライマーとも呼ばれる下塗り塗料として適用することができる。この場合、上塗り塗料には、ポリエステル樹脂系塗料、フッ素樹脂系塗料等公知の材料を用いることができる。
【0156】
[2.塗膜および塗装鋼板]
本発明の塗料組成物による塗膜は、上述した通り、鋼材の所定のめっき層(要するに、Al、Zn、Si、Cr及びMgを含み、且つMg含有量が0.1〜10質量%、Crの含有量が0.02〜1.0質量%、Si―Mg相が0.2〜15体積%、前記Si−Mg相中のMgの、Mg全量に対する質量比率が3%以上であるアルミニウム・亜鉛合金めっき層)の上に形成される。これにより、従来のクロメート処理と同等以上に耐食性(特に端部耐食性)が高められた表面処理鋼板を得ることができる。
【0157】
本発明の塗料組成物の塗布方法としては、ロールコーター、エアレススプレー、静電スプレー、カーテンフローコーター等従来公知の方法を採用することができる。本発明の塗料組成物を用いて形成された本発明の塗膜は、塗料組成物を鋼材1のめっき層に塗布した後、被塗物を加熱する焼付け処理を行なうことによって形成することができる。これによって、本発明の表面処理鋼材が得られる。なお、焼付け温度は、通常180〜250℃であり、焼付け時間は、通常10〜200秒である。
【0158】
本発明の塗料組成物を用いて得られる塗膜(本発明の塗膜)の膜厚(乾燥膜厚)は、通常1〜30μmであり、好ましくは1〜10μmである。
【0159】
本発明の塗膜は、これを形成する塗料組成物が所定の電導度を有するバナジウム化合物(c)を所定量含有することから、通常、10
5〜10
12Ω・cm
2の湿潤抵抗値を示す。塗料組成物に用いる樹脂や架橋剤の種類、含有させる添加剤の種類と量、焼付条件等で塗膜の湿潤抵抗値は変動するが、概ね、塗膜の湿潤抵抗値が上記範囲内であることは、塗膜が適度な透湿性を有している一方で、良好な耐湿性を示すことを意味している。すなわち、湿潤抵抗値が10
5Ω・cm
2未満であることは、塗膜の透湿性が過度に高く、耐湿性が低いことを意味しており、従って、フクレや剥がれ等が生じやすい傾向にある。また、湿潤抵抗値が10
12Ω・cm
2を超えることは、塗膜の透湿性が過度に低いことを意味しており、塗膜中の防錆顔料の溶出が阻害されて耐食性が低下する傾向にある。本発明の塗膜の湿潤抵抗値は、好ましくは10
6〜10
11Ω・cm
2である。なお、塗膜の湿潤抵抗値とは、乾燥塗膜厚15μmの塗膜を5%食塩水(NaCl水溶液)で35℃にて1時間湿潤させた後に印加電圧の波高±0.5Vで測定した直流抵抗値を意味する。塗膜の湿潤抵抗値測定の詳細条件については、後述の実施例で述べる。
【実施例】
【0160】
本発明者は、本発明に係るめっき層と塗膜とを組み合わせることによって、従来のクロメート処理と同等以上の耐食性(特に端部耐食性)が得られることを知見し、本発明を創作するに至った。実施例及び比較例を示して、その効果について具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。下記実施例中、「部」および「%」は、特に断りのない限り質量基準である。
【0161】
(めっき層について)
鋼板を溶融金属に浸漬させることによりめっき層を形成した。実施例1〜2、実施例5〜17、比較例4〜13及び参考例1では、55%Al−2%Mg−1.6%Si−0.03%Cr−亜鉛合金めっき鋼板が得られるように溶融金属の成分を調整した。実施例3では、55%Al−0.5%Mg−1.6%Si−0.03%Cr−亜鉛合金めっき鋼板が得られるように溶融金属の成分を調整した。実施例4では、55%Al−5%Mg−1.6%Si−0.03%Cr−亜鉛合金めっき鋼板が得られるように溶融金属の成分を調整した。比較例1では、55%Al−11%Mg−1.6%Si−0.03%Cr−亜鉛合金めっき鋼板が得られるように溶融金属の成分を調整した。比較例14では、55%Al−2%Mg−1.6%Si−0.01%Cr−亜鉛合金めっき鋼板が得られるように溶融金属の成分を調整した。比較例15では、55%Al−2%Mg−1.6%Si−1.1%Cr−亜鉛合金めっき鋼板が得られるように溶融金属の成分を調整した。比較例2及び参考例2では、55%Al−1.6%Si−亜鉛合金めっき鋼
板が得られるように溶融金属の成分を調整した。比較例3では、溶融亜鉛めっき鋼板が得られるように溶融金属の成分を調整した。
【0162】
(塗料組成層について)
(1)バナジン酸アルカリ土類金属塩の調製
バナジン酸アルカリ土類金属塩としてバナジン酸カルシウムを使用した。バナジン酸カルシウムは以下のように調整した。
炭酸カルシウム(CaCO
3)622gと、五酸化バナジウム(V
2O
5)378gを水10Lに添加し、60℃に昇温後、同温度で2時間攪拌した。得られた反応生成物(白色固体)を水洗後脱水し、100℃にて乾燥した後、粉砕することにより、バナジン酸カルシウムを得た。
【0163】
(電導度およびpHの測定手順)
〔i〕イオン交換水で洗浄したポリエチレン製細口瓶に、イオン交換水99gおよび試料1gを添加する。
〔ii〕イオン交換水で洗浄したスターラーチップを投入して、室温下で4時間撹拌する。
〔iii〕撹拌後、電気伝導度計(東亜ディーケーケー製電導度計「CM−30ET」)およびpHメータ(堀場製作所製「F−54」)を用いて、電導度およびpHを測定する。
【0164】
バナジン酸カルシウム以外の他の防錆顔料の詳細は次のとおりである。
1.「メタバナジン酸ナトリウム」:市販試薬
2.「五酸化バナジウム」:市販試薬
3.「シールデックスC303」:グレースジャパン製、カルシウムイオン交換シリカ微粒子
4.「第三リン酸マグネシウム」:市販試薬
5.「第一リン酸マグネシウム」:市販試薬
6.「第二リン酸マグネシウム」:市販試薬
7.「第三リン酸カルシウム」 :市販試薬
8.「バナジン酸マグネシウム」:市販試薬
9.「クロム酸ストロンチウム」:ストロンチウムクロメート:キクチカラー社製
【0165】
(2)塗料組成物の調製
表1〜表2に示される配合組成に従い、塗料組成物を調製した。
【0166】
表1〜表2に示される各種配合成分の詳細は次のとおりである。
(1)「沈降性硫酸バリウムB−55」:堺化学工業製、沈降性硫酸バリウム。
(2)「クレー1号」:丸尾カルシウム製、クレー。
(3)「ユニグロス1000」丸尾カルシウム製、炭酸カルシウム
(4)「タルクSSS」日本タルク製、タルク
(5)「GASIL HP260」INEOS SILICAS製、シリカ粉(v)「DBTL」:日東化成製、「TVS Tin Lau」〔ジブチルスズジラウレート、不揮発分:100%〕。
【0167】
(3)塗装鋼板の作製
厚さ0.35mmのアルミニウム亜鉛めっき鋼板をアルカリ脱脂した後、日本ペイント・サーフケミカルズ製の有機無機複合処理剤「サーフコートEC2310」を、鋼板表面および裏面に塗布することにより、クロメートフリー化成処理を施し、乾燥した。ついで、得られた鋼板の裏面に上記で得られた塗料組成物を、乾燥塗膜が7μmとなるように塗布し、最高到達温度180℃にて30秒間焼き付けを行なって、裏面塗膜を形成した。次に、鋼板の表面に実施例1〜17、比較例1〜13のいずれかの塗料組成物を、乾燥塗膜が5μmとなるように塗布し、最高到達温度200℃にて30秒間焼き付けを行なって、表面下塗り塗膜を形成した。さらに、上記下塗り塗膜上に日本ペイント・インダストリアルコーティングス製のポリエステル系上塗り塗料「NSC300HQ」を、乾燥塗膜が10μmとなるように塗布し、最高到達温度210℃にて40秒間焼き付けを行なって、表面上塗り塗膜を形成し、塗装鋼板を得た。また参考例1,2については化成処理として日本ペイント・サーフケミカルズ製の「NRC300」を用いてクロメート処理を施し、クロム酸ストロンチウムを含有する該当の下塗り塗料、および上塗り塗料を同条件で塗布、焼付乾燥を行った。
【0168】
(4)評価について
次に示す項目<1>〜<8>について、表面処理鋼板の評価試験を行なった。結果を表1〜表2に併せて示す。
【表1】
【表2】
【0169】
<1>耐沸騰水性試験
上記で得られた各表面処理鋼板を5cm×10cmに切断し、得られた試験片を、95℃以上の沸騰水中に5時間浸漬した後、引き上げて表面側の塗装外観を、ASTM D714−56に従って評価した(平面部フクレ評価)。ASTM D714−56は、各フクレの大きさ(平均径)と密度について、標準判定写真と対比して評価し、等級記号を示すものである。フクレの大きさと密度は各々4段階で級別されており、以下の表3における組合せで5点満点の点数で評価を実施した。
【表3】
異常なし:5
【0170】
また、95℃以上の沸騰水中に5時間浸漬した後の試験片について、碁盤目テープ付着試験(碁盤目密着性試験)を行ない、評価した。碁盤目テープ付着試験は、JIS K−5400 8.5.2(1990)碁盤目テープ法に準じて、切り傷の隙間間隔を1mmとし、碁盤目を100個作り、その表面にセロハン粘着テープを密着させ、急激に剥がしたときの塗面に残存する碁盤目の数を調べた。
【0171】
<2>耐薬品性試験
上記で得られた各表面処理鋼板を5cm×10cmに切断し、得られた試験片を、5%濃度の苛性ソーダ水溶液に24時間浸漬した後、引き上げて水道水で洗浄し、表面側の塗装外観を、ASTM D714−56に従って平面部フクレの評価を行った。この評価について耐沸騰水性試験に用いた上記の表3に照らし合わせて5点満点で採点を行った。
【0172】
<3>塩水噴霧試験
各実施例及び比較例のサンプルについて、横7cm、縦15cmの寸法で裁断した。この際、表面からの切断と裏面からの切断とを交互に行い、各試験片の断面が上バリ(裏面より切断)、下バリ(表面より切断)の両方を有するように試験片を作成し、塗装鋼板の上端および下端部をポリエステルテープにてシールした。この試験サンプルに対してJIS K 5400 9.1に定める試験方法によって塩水噴霧試験を1000時間行い、平面部の塗膜及びカット部について白錆、ブリスターの発生状況を観察した。平面部の錆・フクレについてはASTM D714−56に従って評価をおこなうとともに、耐沸騰水試験に用いた上記の表3に照らし合わせて5点満点で採点をおこない、端部の錆・フクレについては任意の5点でその劣化幅を計測し、平均値を以下の基準で採点した。
(基準)
◎: 2mm以下、○: 4mm以下、△: 6mm以下、×: 6mm超
各実施例及び比較例のサンプルについて、2T加工(鋼板を二枚挟んで各サンプルを万力で180度折り曲げる加工)を行い、上述の塩水噴霧試験を実施することで、折曲げ部分における白錆の発生状況を観察し、上記の表3に照らし合わせて5点満点で採点をおこなった。
【0173】
表2の比較例2に示すように、本願発明の塗料組成物を溶融55%アルミ−1.6%シリコン−亜鉛合金めっき鋼板に塗布した場合、平面部におけるフクレ評価は参考例1及び2と同様に高い評価となったが、端部耐食性の評価は×になった。また、比較例3に示すように、本願発明の塗料組成物を溶融亜鉛めっき鋼板に塗布した場合、平面部におけるフクレ評価は参考例1及び2と同様に高い評価となったが、端部耐食性の評価は△になった。一方、本願発明の実施例では、平面部におけるフクレ評価のみならず端部耐食性までもが参考例1及び2と同様の高い評価となった。つまり、メカニズムは不明であるが、本願発明の表面処理鋼板はクロメート処理を施しためっき鋼板と同等以上の高い端部耐食性を備えていることがわかった。なお、比較例15は、実施例と同様の高い耐食性を備えているが、塗膜の平滑性が失われたため、本発明の範囲外とした。これは、Crの過剰添加により、浴中にドロスが発生したためと考えられる。
【0174】
<4>鉛筆硬度試験
上記で得られた各表面処理鋼板を5cm×10cmに切断し、得られた試験片について鉛筆硬度を測定することにより、耐傷つき性を評価した。JIS−K 5400の8.4.1(1993)の方法に準じて、塗膜の引っかき抵抗性を鉛筆の芯の硬さを変えたときの塗膜のやぶれで調べ、塗膜にやぶれが認められない最高の硬さをその塗膜の鉛筆硬度とした。
【0175】
<5>加工密着性試験
JIS G3322:2012の14.2.2曲げ試験に定められた方法に準拠して180度密着曲げを施した後に、加工部にセロハン粘着テープを用いて塗膜表面に圧着させてテープを引き離し、塗膜の剥離状態を観察した。塗膜の剥離が認められた場合は密着曲げ時に同じ板厚のめっき鋼板をはさんで再度180度曲げをおこない、テープ剥離評価を繰り返して塗膜剥離が生じないはさみ板の枚数を評価点とした(例えば、2枚の場合2TTと表記)。
【0176】
<6>耐衝撃性試験
JIS G3322:2012の14.2.4衝撃試験に定められた方法に準拠して50cmの高さから試験面に500gのおもりを落下させ、その後セロハン粘着テープを用いて塗膜表面に圧着させて鉛直方向に引っ張り、塗膜の剥離面積を目視で観察して、以下の基準で5点満点で採点した。
(基準)
5:剥離なし 4:10%以下 3:20%以下 2:50%以下 1:50%を超える剥離
【0177】
<7>基盤目密着性試験
JIS G3322:2012の14.2.5碁盤目試験に定められた方法に準拠して1mm幅のカットで100マス目を作成し、セロハン粘着テープを用いて塗膜表面に圧着させて鉛直方向に引っ張り、剥離が生じなかったマス目を数えて評価とした。
【解決手段】鋼材の表面にめっき層を介して塗膜を形成した表面処理鋼材であって、めっき層はMgを含むガリバリウム浴に鋼材を浸漬することによって得られる。塗膜は、塗膜形成性樹脂と、架橋剤と、所定のバナジウム化合物と、第三リン酸マグネシウムとを含有する塗料組成物を用いて形成され、バナジウム化合物は所定の電導度を満足する化合物であり、かつバナジウム化合物の含有量は塗膜形成性樹脂の固形分および架橋剤の固形分の合計100質量%に対して所定量に制限され、バナジウム化合物は、所定のpHを満足しており、第三リン酸マグネシウムの含有量は塗膜形成性樹脂の固形分および架橋剤の固形分の合計100質量%に対して所定量であることを特徴とする表面処理鋼材。