(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記マイクロナノバブル発生装置が、前記培養槽から抜出ポンプあるいは還流ポンプを使用して抜き出した生物培養液に、前記酸素含有率を高めた空気から形成されたマイクロナノバブルを含有させて培養槽へ還流させるものであることを特徴とする請求項1に記載の生物反応装置。
前記培養槽と前記マイクロナノバブル発生装置との間にろ過器を配置せず、前記培養槽から抜き出した生物培養液に直接、前記マイクロナノバブルを含有させることを特徴とする、請求項1または2に記載の生物反応装置。
生物培養液を前記培養槽から抜き出すためのポンプおよび/または前記マイクロナノバブルを含有させた生物培養液を培養槽に還流するためのポンプとして、チューブポンプ、ダイアフラムポンプ、スクリューポンプ、ロータリーポンプ等の容積式ポンプを用いることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の生物反応装置。
前記酸素含有率を高めた空気が、PSA法、VSA法、深冷分離法および化学吸着法のいずれかにより生成した酸素と、空気とをラインミキサー等で混合させることにより得られたものであることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の生物反応装置。
前記培養槽に供給される培養液に、酸素含有率を高めた空気から形成されたマイクロナノバブルを含有させるマイクロナノバブル発生装置をさらに備えることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の生物反応装置。
前記培養槽中の生物培養液に、酸素含有率を高めた空気から形成されたマイクロナノバブルを含有させるマイクロナノバブル発生装置をさらに備えることを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の生物反応装置。
【背景技術】
【0002】
生物反応は、化学反応と異なり、反応自体は遅いが、多大なエネルギーや多くの化学物質を使用しないので、環境にとって温和で有意義な反応である。
しかし、生物反応は、一般的に反応が温和で遅いという問題があった。すなわち、化学反応には、1時間以内の反応で十分な場合が多いのに対して、生物反応の場合は、数時間から長い場合は数日または特に長い場合数週間以上の反応時間を要する場合もある。このため、生物反応を効率的、経済的に行うことが求められている。
【0003】
生物反応を効率化する技術として、特許文献1〜3には、微生物等の培養において、培養液中に、空気から形成されたMNBあるいはNBを存在させることにより、微生物等の活性化を促進し、生物反応の反応効率、反応時間の短縮等を図ることが開示されている。
【0004】
具体的には、特許文献1には、培養液を培養槽に供給する前段階で、培養液に空気のMNB及びNBを混合することが記載されており、また、特許文献2には、培養液を培養槽に供給する前段階で、空気のMNBを混合することが記載されている。また、特許文献3には、バッチ方式において、培養槽から培養液を抜き出し、菌体ろ過器でろ過してろ過液を得て、このろ過液に空気のMNBを混合して培養槽に還流することが記載されている。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1〜2に開示されるような、培養槽に供給する培養液に空気のMNB、NBを含有させる装置では、生物反応の初期段階においては培養槽中の培養液に適正量のMNBおよび/またはNBを含有させることができるものの、長期に渡る生物反応全体において、培養槽中の培養液のMNBおよび/またはNBの含有量を適正に保つことができないため、生物反応の反応効率、反応時間の短縮等が十分に達成できない。
【0006】
また、上記特許文献3には
図8に示すように、生物反応槽としての培養槽107から培養液を抜き出し、菌体ろ過器110でろ過してろ過液を得、このろ過液にマイクロナノバブル発生槽115で、マイクロナノバブル発生装置116により空気のMNBを発生・混合して培養槽に返送する装置が記載されているが、この装置では、培養槽中の培養液のMNB含有量を適正値に維持できるが、培養液を培養槽から抜き出す工程、培養液を菌体ろ過器でろ過する工程、ろ過液を除いた培養液を培養槽に還流する工程等において、微生物等がストレス・ダメージを受けるため、微生物等の活性が低下してしまうという問題がある。
【0007】
そこで、本発明者等は、MNBを形成する気体の酸素含有率を、空気中の酸素含有率(約21%)よりも高くすることにより、
〇培養槽から抜き出す生物培養液の量を減少させ、培養槽中の生物培養液が含有するMNBの量が減少しても、MNB状態の、吸収されやすい高濃度の酸素を微生物等に供給できるため、微生物等の活性が維持できる、
〇培養槽から抜き出す生物培養液の量を減少させることにより、微生物等が受けるストレス・ダメージを軽減できると共に、生物培養液の循環に要するエネルギーを減じることができる、
〇生物培養液に含有させるMNBの量を減少することにより、MNB発生装置の駆動に要するエネルギーを減じることができる、
という大きなメリットがあることを見出し、本発明を成したものである。
【0008】
さらに、培養槽から抜き出す生物培養液の量が減少することにより伴い、生物培養液を培養槽外部に循環させるポンプとして、微生物等に与えるストレス・ダメージが比較的少ないチューブポンプ、ダイアフラムポンプ、スクリューポンプ、ロータリーポンプ等の容積式ポンプを好適に用いることができるようになり、これによっても、微生物等が受けるストレス・ダメージをより一層軽減できることも見出した。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を、添付の図面も参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0019】
まず、本発明の生物反応装置及び生物反応方法の一般的な事項について説明する。
本発明の生物反応装置及びこの生物反応装置を用いた生物反応方法は、醸造、発酵等による食品、薬品、化学品等の製造、バイオマスを利用したバイオエタノールの製造等の微生物等による反応生成物の製造のみならず、微生物等の増殖にも適用できる有用なものである。
【0020】
本発明の生物反応は、培養槽に収容した微生物等を含有する培養液中において、培養液を栄養源として、微生物等に反応生成物を生成させたり、微生物等を増殖させるものである。
【0021】
本発明における培養液としては、糖類、窒素源が含有されたものを用いる。糖類としては、通常、マルトース、スクロース、グルコース、フルクトース、これらの混合物等の糖類が用いられ、培養液における糖類の濃度は、特に限定されないものの、0.1〜10w/v%に設定するのが好ましい。また、窒素源としては、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウムまたはコーンスティープリカー、酵母エキス、肉エキス、ペプトン等が用いられ、0.1〜10w/v%に設定するのが好ましい。さらに、培養液には糖類、窒素源以外にも、必要に応じて、ビタミン、無機塩類等を添加することが好ましい。
【0022】
本発明における微生物としては、醸造、発酵等の技術分野で従来用いられている、アスペルギルス菌等の麹菌、納豆菌、酢酸菌、酵母菌、乳酸菌等の好気性および通性嫌気性の微生物のほか、遺伝子組み換え技術で創り出される各種好気性および通性嫌気性の微生物を用いることができる。また、細胞としては、例えば、抗体医薬として使用される生理活性ペプチドまたは蛋白質を製造するための動物細胞、とりわけ遺伝子組換え動物細胞等が挙げられる。
【0023】
微生物等の培養液への添加濃度は、特に限定されないものの、0.5〜10g/Lとするのが好ましく、3.0〜6.0g/Lにするのがより好ましい。
【0024】
つぎに、本発明の生物反応装置及び生物反応方法の特徴について説明する。
本発明の第1の特徴点は、前述のように、培養槽から抜き出した生物培養液に、酸素富化MNBを含有させ、この酸素富化MNBを含有させた生物培養液を前記培養槽に還流することにある。
【0025】
このように、MNBを形成する気体の酸素含有率を空気の酸素含有率(約21%)よりも高くすることにより、培養槽から抜き出す生物培養液の量を減少させ、生物培養液が含有するMNBの量を減少させても、MNB状態の、吸収されやすい高濃度の酸素を、培養槽中の微生物等に供給でき微生物等の活性を維持できる。
【0026】
さらに、培養槽から抜き出す生物培養液の量を減少させることにより、微生物等が受けるストレス・ダメージを軽減できると共に、生物培養液の循環に要するエネルギーを減じることができる。
【0027】
さらに、培養液が含有するMNBの量を減少させることにより、MNB発生装置の駆動に要するエネルギーを減じることができる。
【0028】
本発明における、MNBを形成する気体の酸素含有率を空気の酸素含有率(約21%)よりも高く設定すると共に、培養槽から抜き出す生物培養液の量を低く設定するとの事項について、更に説明する。
【0029】
培養槽から抜き出した生物培養液にMNBを含有させるMNB発生装置としては、
図2にその概要を示し後で説明するような、多量のMNBを経済的に発生できる、水流を用いて駆動する方式(水流方式)のものが通常用いられるので、まず、このような水流方式のMNB発生装置を用いるケースについて説明する。
【0030】
水流方式のMNB発生装置では、培養槽から抜き出した生物培養液が圧をかけて供給され、管路の径を絞って流速を上げる等して乱流を発生させ、ここに空気等の気体を供給する等して水流によりMNBを発生させる。以下、1分間に培養槽から抜き出す生物培養液の量を「液循環量」(mL/分)という場合があり、また、培養槽に収容された生物培養液の量(mL)に対する、液循環量の割合を「液循環割合」(%)という場合がある。
【0031】
液循環割合を低下させることにより、液循環により微生物等が受けるストレス・ダメージを軽減することができるが、一方、液循環割合の低下に伴い、水流方式のMNB発生装置では、MNBを発生させる駆動源である水流が弱まるため、MNBの発生量が減少し、生物培養液の溶存酸素濃度(以下、「溶存酸素濃度」ともいう。)が低下してしまう。また、液体中に含有できるMNBの量にはおのずと限界があるため、このことからも液循環量の低下に伴い、培養槽から抜き出された生物培養液に毎時あたり供給できるMNBの量が減少し、溶存酸素濃度が低下してしまう。このように、単に、液循環割合を低下させることのみによっては、微生物等を用いた生物反応を効率的かつ経済的に行うには限界があるが、MNBの酸素含有率を高めることによってこの問題を解決することができる。
【0032】
本発明においては、水流方式のMNB発生装置を用いて生物反応を効率的かつ経済的に行うために、液循環割合を低く設定することにより、液循環により微生物等が受けるストレス・ダメージを軽減すると共に、これに伴う溶存酸素濃度の低下を、MNBの酸素含有率を高く設定することにより担保することができる。
【0033】
液循環割合の上限値としては、48%未満が好ましく、40%以下がより好ましく、30%以下がさらに好ましく、20%以下が最も好ましい。液循環割合を48%以上と大きくしすぎると、液循環により微生物等が受けるストレス・ダメージが大きくなってしまう。また、液循環割合の下限値としては、1%以上が好ましく、10%以上がより好ましい。液循環割合を1%未満と小さくしすぎると、MNBの発生量が減少し、MNBの酸素含有率を高く設定しても溶存酸素濃度の低下を担保するのが困難となる。
【0034】
また、本発明においては、水流方式以外のMNB発生装置を用いる場合においても、MNB発生装置によるMNBの発生量を減少させて微生物等が受けるストレス・ダメージを軽減すると共に、これに伴う溶存酸素濃度の低下を、MNBの酸素含有率を高く設定することにより担保することができる。
【0035】
また、本発明の第2の特徴点は、前述のように、酸素富化MNBを用いることにより、培養槽から抜き出す生物培養液の量を減少できることに伴い、生物培養液を培養槽外部に循環させるポンプとして、微生物等に与えるストレス・ダメージが比較的少ないチューブポンプ、ダイアフラムポンプ、スクリューポンプ、ロータリーポンプ等の容積式ポンプを好適に用いることにある。
【0036】
このような、容積式ポンプを使用することによっても、微生物等が受けるストレス・ダメージをより一層軽減することができる。
【0037】
本発明の「マイクロナノバブル」とは、「マイクロバブル」および/または「ナノバブル」を意味する。「通常の気泡」は水中を急速に上昇して表面で破裂して消えるのに対し、「マイクロバブル」といわれる直径50μm以下の微小気泡は、水中で縮小していって消滅し、この際に、フリーラジカルと共に、直径100nm以下の極微小気泡である「ナノバブル」を発生し、この「ナノバブル」はある程度の長時間水中に残存する。
【0038】
本発明においては、個数平均直径が100μm以下の気泡を「マイクロバブル」といい、個数平均直径が1μm以下の気泡を「ナノバブル」という。マイクロバブルの気泡径を測定する方法としては、画像解析法、レーザー回折散乱法、電気的検知帯法、共振式質量測定法、光ファイバープローブ法等が一般に用いられ、ナノバブルの気泡径を測定する方法としては、動的光散乱法、ブラウン運動トラッキング法、電気的検知帯法、共振式質量測定法等が一般に用いられている。
【0039】
極微小気泡である「ナノバブル」は、「ウルトラファインバブル」とも呼ばれる。なお、現在、ISO(国際標準化機構)において、ファインバブル技術に関する国際標準の作成が検討されており、国際標準が作成されれば、現在一般的に用いられている「ナノバブル」との呼称が、「ウルトラファインバブル」に統一される可能性もある。
【0040】
マイクロナノバブル発生装置としては、公知あるいは市販されている装置を用いることができ、例えば、ある程度の高圧で十分な量の気体を水中に溶解させた後、その圧力を解放してやることで溶解した気体の過飽和条件を作り出す「加圧溶解型マイクロバブル発生装置」や、水流を起こして液体と気体からなる混合流体をループ状の流れとして撹拌混合し、水流によって発生した乱流により気泡が細分化する現象を利用した「ループ流式バブル発生ノズル」等を用いることができる。
【0041】
また、ナノバブル発生装置としては、例えば、特開2007−312690号公報、特開2006−289183号公報、特開2005−245817号公報、特開2007−136255号公報、特開2009−39600号公報に記載されたもの等を用いることができる。
【0042】
マイクロナノバブル発生装置として、水流方式のものを用いると、多量のMNBを経済的に発生させることができるので好ましい。
酸素含有率を高めた空気を得るためには、吸着剤を用いたPSA法、VSA法等、水の電気分解法、深冷分離法、膜分離法、化学吸着法等の公知の酸素富化手段を用いることができるが、経済的観点からは、酸素富化膜を用いるのが好ましい。
【0043】
酸素富化MNBの酸素含有率の上限値としては、60%未満が好ましく、55%以下がより好ましく、50%以下がさらに好ましく、45%以下が最も好ましい。酸素富化MNBの酸素濃度を60%以上と大きくしすぎると、酸素の酸化作用により微生物等が受けるストレス・ダメージが大きくなってしまう。また、酸素富化MNBの酸素濃度の下限値としては、23%以上が好ましく、25%以上がより好ましく、27%以上がさらに好ましく、30%以上が最も好ましい。酸素富化MNBの酸素濃度を23%未満と小さくしすぎると、溶存酸素濃度が低下し、微生物等微生物等の活性を高めることが困難となる。
【0044】
本発明の第1の特徴点は、前述のように、培養槽から抜き出した生物培養液に、酸素富化MNBを含有させ、この酸素富化MNBを含有させた生物培養液を前記培養槽に還流することにあるが、培養槽から抜き出した生物培養液に酸素富化MNBを含有させる方法として、次の2つの方法を採用することができる。
1)培養槽から抜き出した生物培養液を、ろ過器でろ過液とろ過液を除いた生物培養液とに分離し、このろ過液に酸素富化MNBを含有させる方法。
2)ろ過器を使用せず、培養槽から抜き出した生物培養液に、直接、酸素富化MNBを含有させる方法。
【0045】
上記1)の方法は、微生物等を実質的に含有しないろ過液に対して酸素富化MNBを吹き込むため、微生物等は、酸素富化MNBの吹き込み工程においてはストレス・ダメージを受けることはないが、ろ過工程においてストレス・ダメージを受ける場合がある。また、ろ過工程で分離されるろ過液は量が少ない(ろ過液の量は、通常、培養槽から抜き出した生物培養液の量の1/10〜1/100程度)ことから、培養槽中の生物培養液に十分な量の酸素富化MNBを供給するためには、培養槽から抜き出した生物培養液の量を増やす、酸素富化MNBの吹き込み量を増やすことが必要となる場合があり、装置の運転費用が高くなり、微生物等が受けるストレス・ダメージも増加する可能性がある。
【0046】
上記2)の方法は、微生物等を含有する、培養槽から抜き出した生物培養液に対して酸素富化MNBを吹き込むため、微生物等は、酸素富化MNBの吹き込み工程においてはストレス・ダメージを受ける場合があるが、上記1)の方法のように、ろ過工程においてストレス・ダメージが軽減される場合がある。また、上記1)の方法において、酸素富化MNBの吹き込み量を増やす必要が生じた場合においても、上記2)の方法であれば、培養槽から抜き出した生物培養液に直接、酸素富化MNBを含有されることから、生物培養液の量を増やす必要はなく、装置の運転費用が高くなったり、微生物等が受けるストレス・ダメージが増加することもない。
【0047】
上記1)の方法を採用した生物反応装置については、
図1に示す本発明の第1実施形態に基づいて説明し、上記2)の方法を採用した生物反応装置については、
図4に示す本発明の第2実施形態に基づいて説明する。
【0048】
○第1実施形態(
図1)
まず、
図1を参照しながら、本発明の第1実施形態について説明する。
第1実施形態は、微生物等に反応生成物を生成させるための生物反応装置であって、次のようにして、生物培養液に酸素富化MNBを含有させる。
a)培養槽2に培養液1を供給する。
b)バルブ12を閉、バルブ13及びバルブ14を開として培養槽ポンプ8を駆動して、培養液、微生物等を含有する生物培養液3を培養槽2から抜き出し、ろ過器4に供給する。
c)ろ過器4で分離された、ろ過液を除いた生物培養液B(すなわち、微生物等が濃縮された生物培養液)を、培養槽2に戻す。
d)ろ過器4で分離されたろ過液Aを、マイクロナノバブル発生槽6に貯留し、マイクロナノバブル発生装置7aにより、酸素富化MNBを含有させる。
g)返送ポンプ9を駆動して、酸素富化MNBを含有させたろ過液Dを、培養槽2に戻す。
h)このようにして、培養槽撹拌機11で培養槽2内の生物培養液3を撹拌しながら、生物反応を進める。
i)生物反応が十分に進行した時期で、バルブ13を閉、バルブ12及びバルブ14を開として培養槽ポンプ8を駆動し、培養槽2で生成された反応生成物をろ過液Aと共に回収し、ろ過液貯槽5に貯える。
【0049】
ろ過器4は、ろ過膜と該ろ過膜を収容する容器とからなる。ろ過膜は、有機膜、無機膜を問わない。ろ過膜の形状は、平膜、中空糸膜、スパイラル式などいずれの形状のものも採用することができるが、中でも、中空糸膜モジュールが好ましく、中空糸膜モジュールであれば、外圧式、内圧式のいずれの形状のものも採用することができる。
【0050】
ろ過方式としては、中空糸膜モジュールを用いたクロスフローろ過が好ましい。このろ過方式は、反応生成物、微生物等を含有する培養液を中空糸膜の内部に供給しつつろ過して、その外部からろ過液を取り出すものであり、中空糸膜の内部に堆積する微生物等の膜汚れが前記培養液の平行流による剪断力によって掻き取られるので、安定したろ過状態を長期にわたって維持することができる。
【0051】
中空糸膜モジュールを用いたクロスフローろ過を行う場合には、膜汚れを掻き取るためには、ろ過の対象となる液体をある程度以上の流速で中空糸膜内に流す必要がある。しかしながら、本発明では、ろ過の対象となる、微生物等を含有する生物培養液が酸素富化MNBを含んでいるため、通常より低い流速で流しても、膜汚れを掻き取ることができ、微生物等に与えるストレスやダメージを大幅に軽減することができる。
【0052】
具体的には、一般的なクロスフローろ過においては、 循環流速が、有機膜を用いた場合には1〜2m/s程度、セラミック膜を用いた場合には1〜3m/s程度で定常運転されるが、生物培養液に酸素富化MNBを含有させることにより、膜汚れを少なく、ろ過抵抗を小さく維持できるため、同じフラックス(単位時間・単位膜面積あたりの膜ろ過水量)を得るために必要な循環流速を0.2〜1.5m/s程度まで低減することができる。また、同じ循環流速で運転する場合、フラックスを1.2〜2.0倍程度増加することができる。
【0053】
ろ過膜としては、分離性能及び透水性能、さらには耐汚れ性の観点から、有機高分子化合物を好適に使用することができる。例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、セルロース系樹脂およびセルローストリアセテート系樹脂などが挙げられ、これらの樹脂を主成分とする樹脂の混合物であってもよい。溶液による製膜が容易で物理的耐久性や耐薬品性にも優れているポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂およびポリアクリロニトリル系樹脂が好ましく、ポリフッ化ビニリデン系樹脂またはそれを主成分とする樹脂が、化学的強度(特に耐薬品性)と物理的強度を併せ有する特徴をもつためより好ましく用いられる。
【0054】
ここで、ポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、フッ化ビニリデンの単独重合体が好ましく用いられる。さらに、ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、フッ化ビニリデンと共重合可能なビニル系単量体との共重合体を用いても構わない。フッ化ビニリデンと共重合可能なビニル系単量体としては、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよび三塩化フッ化エチレンなどが例示される。
【0055】
ろ過膜の平均細孔径は、使用する目的や状況に応じて適宜決定することができるが、ある程度小さい方が好ましく、通常は0.01μm以上1μm以下であることが好ましい。中空糸膜の平均細孔径が0.01μm未満であると、微生物等、糖や蛋白質などの成分やその凝集体などの膜汚れ成分が細孔を閉塞して、安定運転ができなくなる。透水性能とのバランスを考慮した場合、好ましくは0.02μm以上であり、さらに好ましくは0.03μm以上である。また、1μmを超える場合、膜表面の平滑性と膜面の流れによる剪断力や、逆洗やエアースクラビングなどの物理洗浄による細孔からの汚れの成分の剥離が不十分となり、安定運転ができなくなる。
【0056】
また、平均細孔径が微生物等の大きさに近づくと、これらが直接細孔を塞いでしまう場合がある。さらに発酵液中の微生物または培養細胞の一部が死滅することにより細胞の破砕物が生成する場合があり、これらの破砕物によって細孔の閉塞を回避するために、平均細孔径は0.4μm以下が好ましく、0.2μm以下が好適である。
【0057】
ここで、ろ過膜の平均細孔径は、倍率10,000倍以上の走査型電子顕微鏡観察で観察される複数の細孔の直径を測定し、平均することにより求めることができる。10個以上、好ましくは20個以上の細孔を無作為に選び、それら細孔の直径を測定し、数平均して求めることが好ましい。細孔が円状でない場合などは画像処理装置等によって、細孔が有する面積と等しい面積を有する円、すなわち等価円を求め、等価円直径を細孔の直径とする方法により求めることも好ましく採用できる。
【0058】
図1に示すように、第1実施形態では、MNB発生装置7aに、MNBを含有させる対象の液体であるろ過液Aを、MNB発生槽6から液供給ポンプ10を駆動して抜き出しMNB発生装置7aに供給すると共に、酸素富化手段により得られた、空気濃度を高めた空気CをMNB発生装置7aに供給する。
【0059】
第1実施形態で用いるMNB発生装置7aとしては、
図2にその概要を示すように、多量のMNBを経済的に発生できる、水流を用いて駆動する方式(水流方式)のものを用いる。このMNB発生装置7aでは、圧をかけた状態でノズルの入口部21からろ過液Aを供給し、管路の径を絞って流速を上げながら、のど部22で乱流を発生させる。この状態で、酸素含有率を高めた空気Cを気体入口24から供給し、吸引部23においてろ過液Aと混合され、水流によりMNBとなり、出口部25から、酸素含有率を高めた空気のMNBを含有するろ過液Dが排出され、マクロナノバブル発生槽6に供給される。
【0060】
MNB発生装置7aに供給する、ろ過液A及び酸素含有率を高めた空気Cの流速を調整することにより、MNBの量及び大きさを調整することができる。
【0061】
第1実施形態では、MNB発生装置7aに供給する、酸素含有率を高めた空気Cを得るために、
図3にその概要を示すような、酸素富化膜を用いた酸素富化手段を使用する。
【0062】
この酸素富化膜を用いた酸素富化手段では、基本的には、酸素富化膜30を配した容器31が、両端に、空気導入部33と酸素含有率の低い空気Fを排出する導出部34を有しており、吸気ファン32により加圧された空気を空気導入部33から酸素富化膜30に通気し、酸素含有率を高めた空気Cを導出部35から排出し、また、酸素含有率の低い空気Fを導出部34から排出するものである。
【0063】
第1実施形態では、MNBを形成する気体の酸素含有率を、空気の酸素含有率(約21%)よりも高くすることにより、培養槽から抜き出す生物培養液の量を減少させ、生物培養液が含有するMNBの量を減少させても、MNB状態の、吸収されやすい高濃度の酸素を微生物等に供給し微生物等の活性を維持できる。さらに、培養槽から抜き出す生物培養液の量を減少させることにより、微生物等が受けるストレス・ダメージを軽減できると共に、生物培養液の循環に要するエネルギーを減じることができる。
【0064】
また、第1実施形態では、培養槽ポンプ8、返送ポンプ9として、微生物等に与えるストレス・ダメージが比較的少ないチューブポンプ、ダイアフラムポンプ、スクリューポンプ、ロータリーポンプ等の容積式ポンプを好適に用いることができ、これによっても、微生物等が受けるストレス・ダメージをより一層軽減することができる。
さらに、培養液が含有するMNBの量を減少させることにより、MNB発生装置の駆動に要するエネルギーを減じることができる。
【0065】
○第2実施形態(
図4)
つぎに、
図4を参照しながら、本発明の第2実施形態について説明する。
第2実施形態は、微生物等に反応生成物を生成させるための生物反応装置であって、次のようにして、生物培養液に酸素富化MNBを含有させる。
a)培養槽2に培養液1を供給する。
b)バルブ15を閉、バルブ16を開として培養槽ポンプ8を駆動して、微生物等を含有する生物培養液3を培養槽2から抜き出し、マイクロナノバブル発生槽6に供給する。
c)生物培養液3をマイクロナノバブル発生槽6に貯留し、マイクロナノバブル発生装置7aにより、酸素富化MNBを含有させる。
d)返送ポンプ9を駆動して、酸素富化MNBを含有させた生物培養液Gを、培養槽2に戻す。
e)このようにして、培養槽撹拌機11で培養槽2内の生物培養液3を撹拌しながら、生物反応を進める。
f)生物反応が十分に進行した時期で、バルブ16を閉、バルブ15を開として培養槽ポンプ8を駆動し、培養槽2で生成された反応生成物をろ過液Aと共に回収し、ろ過液貯槽5に貯える。
【0066】
培養槽から抜き出した生物培養液に酸素富化MNBを含有させる方法である、前記1)の方法(第1実施形態)と前記2)の方法(第2実施形態)とは、微生物等の種類、生物反応の条件等に応じて、微生物等が受けるストレス・ダメージが総体的に少なくなる方法を採用するのが好ましい。
【0067】
本発明は、生物培養液に酸素富化MNBを含有させる手段として、第1の特徴点として挙げた、培養槽から抜き出した生物培養液に、酸素富化MNBを含有させ、培養槽に還流する手段(以下、「第1手段」という。)を用いることを特徴とするものであるが、これに他の手段を併用することもできる。
【0068】
第1手段を単独で用いた場合には、培養槽中の生物培養液のMNBの含有量を適正な値とするのに時間を要する可能性があるため、この時間を短縮する必要がある場合には、培養槽に供給される培養液に酸素富化MNBを含有させる手段(以下、「第2手段」という。)、培養槽中の生物培養液に酸素富化MNBを含有させる手段(以下、「第3手段」という。)等の手段を併用することが好ましい。特に、第2手段は、MNBの吹き込みによって、微生物等がストレス・ダメージを受けることがないので、第1手段と併用する手段として好ましい。
【0069】
○第3実施形態(
図5)
つぎに、
図5を参照しながら、本発明の第3実施形態について説明する。
第3実施形態は、微生物等に反応生成物を生成させるための生物反応装置であって、本発明の第1実施形態(第1手段を使用)に第2手段を併用したものである。
【0070】
第3実施形態では、次のようにして、微生物等の培養液への酸素富化MNBの含有が行われる。
a)マイクロナノバブル発生装置7bにより、培養槽2に供給する培養液1に、酸素富化MNBを含有させる(酸素富化MNBを含有させた培養液E)。
b)このようにして、培養槽撹拌機11で培養槽2内の生物培養液3を撹拌しながら、生物反応を進める。
c)生物反応当初の生物培養液3のマイクロナノバブルの含有量が少ない場合、生物反応が進行して生物培養液3のマイクロナノバブルの含有量が減少した場合等には、第1実施形態のb)〜g)の手順で、生物培養液3をろ過して得たろ過液Aに、酸素富化MNBを含有させ、培養槽2に還流することにより、生物培養液3のマイクロナノバブルの含有量を適正な値に調整する。
d)生物反応が十分に進行した時期で、バルブ13を閉、バルブ12及びバルブ14を開として培養槽ポンプ8を駆動し、培養槽2で生成された反応生成物をろ過液Aと共に回収し、ろ過液貯槽5に貯える。
【0071】
○第4実施形態(
図6)
つぎに、
図6を参照しながら、本発明の第4実施形態について説明する。
第4実施形態は、微生物等に反応生成物を生成させるための生物反応装置であって、本発明の第1実施形態(第1手段を使用)に、第2手段及び第3手段を併用したものである。
【0072】
第4実施形態では、次のようにして、微生物等の培養液への酸素富化MNBの含有が行われる。
a)マイクロナノバブル発生装置7bにより、培養槽2に供給する培養液1に、酸素富化MNBを含有させる(酸素富化MNBを含有させた培養液E)。
b)このようにして、培養槽撹拌機11で培養槽2内の生物培養液3を撹拌しながら、生物反応を進める。
c)生物反応当初の生物培養液3のマイクロナノバブルの含有量が少ない場合、生物反応が進行して生物培養液3のマイクロナノバブルの含有量が減少した場合等には、第1実施形態のb)〜g)の手順で、生物培養液3をろ過して得たろ過液Aに、酸素富化MNBを含有させ、培養槽2に還流するか、または、マイクロナノバブル発生装置7cにより、培養槽2中の生物培養液3に、酸素富化MNBを含有させることにより、生物培養液3のマイクロナノバブルの含有量を適正な値に調整する。
d)生物反応が十分に進行した時期で、バルブ13を閉、バルブ12及びバルブ14を開として培養槽ポンプ8を駆動し、培養槽2で生成された反応生成物をろ過液Aと共に回収し、ろ過液貯槽5に貯える。
【0073】
本発明の第3実施態様、第4実施形態として、本発明の第1実施形態(第1手段を使用)に、それぞれ、第2手段、第2手段及び第3手段を併用したものを説明したが、同様に、本発明の第2実施形態(第1手段を使用)に、それぞれ、第2手段、第2手段及び第3手段が併用でき、同様の作用効果を奏されることは、当業者であれば容易に理解できることである。
【0074】
以上に説明したように、本発明の生物反応装置及びこの生物反応装置を用いた生物反応方法では、MNBを形成する気体の酸素含有率を、空気の酸素含有率(約21%)よりも高くすることにより、培養槽から抜き出す生物培養液の量を減少させ、生物培養液が含有するMNBの量を減少させても、MNB状態の、吸収されやすい高濃度の酸素を微生物等に供給し微生物等の活性を維持できる。
【0075】
さらに、培養槽から抜き出す生物培養液の量を減少させることにより、微生物等が受けるストレス・ダメージを軽減できると共に、生物培養液の循環に要するエネルギーを減じることができる。
【0076】
また、生物培養液を培養槽から抜き出すためのポンプ、酸素富化MNBを含有させた生物培養液を培養槽に還流するためのポンプ等の生物培養液を培養槽外部に循環させるポンプとして、微生物等に与えるストレス・ダメージが比較的少ないチューブポンプ、ダイアフラムポンプ、スクリューポンプ、ロータリーポンプ等の容積式ポンプを好適に用いることができるようになり、これによっても、微生物等が受けるストレス・ダメージをより一層軽減することができる。
さらに、培養液が含有するMNBの量を減少させることにより、MNB発生装置の駆動に要するエネルギーを減じることができる。
【0077】
このように、本発明は、微生物等を用いた生物反応を効率的かつ経済的に行うことのできる優れたものである。
つぎに、本発明の特徴である、液循環割合を低く設定し、MNBの酸素含有率を高く設定することにより発揮される、微生物等が受けるストレス・ダメージを低減しつつ、溶存酸素濃度を増加させることができ、微生物等を用いた生物反応を効率的かつ経済的に行うことができる等の作用効果について実施例・比較例を用いて説明するが、本発明はこれら実験例・比較実験例により限定されるものではない。
【0078】
<実施例1〜2・比較例1〜5>
以下の実施例1〜2・比較例1〜5では、
図7に模式図で示すような装置を用いて、微生物の培養を行った。
培養槽2として、微生物培養装置(エイブル株式会社製微生物培養装置BMZ−P、内容積1000ml)を用い、この中に好気性微生物[コリネ型細菌(コリネバクテリウムグルタミカム)の標準株]、培養液[硫酸アンモニウムを主成分とする合成培地、グリコース濃度:4%]からなる生物培養液3を収容し、液量を500mLとした。生物培養液3の初期菌濃度は濁度(OD610の値):1であった。
【0079】
培養温度を33℃、培養圧力を1atm、培養槽撹拌機11の回転数を600rpmとして好気性微生物の培養を行いつつ、培養槽ポンプ8を駆動して、培養槽2から生物培養液3を設定した一定の液循環量で抜き出し、
図2に模式図で示すような水流方式のMNB発生装置7a[有限会社OKエンジニアリング製水流式マイクロナノバブル発生装置、型番:OKE−MB 200ml]に供給し、MNBを含有させた後、培養槽2に還流させた。MNB発生装置7aには、一定の酸素含有率に設定した気体Cを通気量250mL/分で供給した。
【0080】
このような条件で、液循環量及び気体Cの酸素含有率を変更して好気性微生物の培養を8時間行い、8時間経過後の培養槽2内の生物培養液3の菌濃度の濁度及び溶存酸素濃度を測定して、実施例1〜2・比較例1〜5とした。実施例1〜2・比較例1〜5における、液循環量(mL/分)、液循環割合(%)、MNBの酸素含有率C(%)、菌濃度の濁度(OD660の値)及び溶存酸素濃度(ppm)を表1に整理して示す。なお、前記「液循環割合」とは、培養槽2に収容された生物培養液3の量(500mL)に対する、1分間あたりの液循環量(mL/分)の割合をいう。
【0082】
以下、実施例1〜2・比較例1〜5について説明する。
まず、比較例1及び2では、水流方式のMNB発生装置7aに空気を供給し、MNBの酸素含有率Cを21%とし、液循環割合Bを比較例1では48%、比較例2では16%とした。このように液循環割合Bを低下させると、液循環により好気性微生物が受けるストレス・ダメージを軽減できるため、菌濃度を21(OD610)から25(OD610)と高くすることができる。一方、MNB発生装置7aのような一般に用いられる水流方式のMNB発生装置では、液循環割合Bを低下させるとMNBの発生量自体が減少してしまうため、溶存酸素濃度Eが6.9(ppm)から1.2(ppm)に低下してしまう。
【0083】
そこで、実施例1〜2・比較例3〜5では、液循環割合Bを比較例2と同様に16%に保ち、液循環により好気性微生物が受けるストレス・ダメージを軽減した状態で、MNBの酸素含有率Cをそれぞれ30%、40%、60%、80%及び100%と増加させ、溶存酸素濃度Eを増加させた。
【0084】
実施例1〜2・比較例3〜5におけるMNBの酸素含有率C(%)と菌濃度D(OD610)との関係を、表2に整理して示す。表2は、縦軸をMNBの酸素含有率C(%)及び菌濃度D(OD610)の数値を表すものとし、比較例2、実施例1〜2及び比較例3〜5のMNBの酸素含有率C(%)及び菌濃度D(OD610)をそれぞれを折れ線として示したものである。
【0085】
この表2からわかるように、MNBの酸素含有率Cをそれぞれ21%(比較例2)→30%(実施例1)→40%(実施例2)と増加させていくに従い菌濃度Dは増加する傾向にあるが、MNBの酸素含有率Cが40%付近を頂点として菌濃度Dは減少傾向に転じ、60%(比較例3)では21%(比較例2)より低いものとなってしまう。これは、MNBの酸素含有率Cが高くなりすぎると、酸素の酸化作用により好気性微生物がストレス・ダメージを受けるためと考えられる。
【0087】
これらの実施例1〜2・比較例1〜5から、微生物等を用いた生物反応を効率的かつ経済的に行うためには、
1)液循環割合Bを低く設定し、液循環により微生物等が受けるストレス・ダメージを軽減すると共に、
2)液循環割合Bを低く設定することに伴う溶存酸素濃度Eの低下を、MNBの酸素含有率Cを高く設定することにより、微生物等が酸素により受けるストレス・ダメージを避けつつ溶存酸素濃度Eを増加させることにより、
微生物等を用いた生物反応における菌濃度を高くすることができ、微生物等を用いた生物反応を効率的かつ経済的に行うことができることがわかる。
【0088】
つぎに、上記1)及び2)の事項を満たして、酸素富化MNBを用いた微生物等の培養を行う方法について具体的に説明する。なお、微生物等の培養条件は、微生物等の種類、培養装置のスケール、培養装置の構造等に依存するため、上記実施例1〜2・比較例1〜5で用いた、
図7に示すような微生物等の培養装置を用いて、微生物等の培養を行うケースも例示しながら説明を行う。
【0089】
1.上記1)について
図7に示す微生物等の培養装置では、生物培養液3は培養槽ポンプ8によって培養槽2から抜き出されて水流方式のMNB発生装置7aに供給され、このMNB発生装置7aで酸素富化MNBが含有され培養槽2に還流される。そして、微生物等は、MNB発生装置7aを通過する際に大きくストレス・ダメージを受けることから、「微生物等が受けるストレス・ダメージ」は、「MNB発生装置7aの入口における生物培養液3の圧力」(以下、「入口圧力」という。)を指標として評価することができる。
【0090】
表3は、
図7に示す微生物等の培養装置において、培養槽ポンプ8の駆動力を変化させて液循環割合(%)及び入口圧力(MPa)を測定し、液循環割合を横軸、入口圧力を縦軸としてプロットしたものである。
【0091】
培養する微生物等によりストレス・ダメージへの耐性が異なるため、微生物等の種類に応じた適切な入口圧力の上限値を予め調べデータベースを作成しておけば、培養当初から適切な入口圧力を設定することができる。また、このようなデータベースが作成されていない場合には、当初は適当を考えられる入口圧力を設定し、微生物等の培養状況等からストレス・ダメージの多寡を判断し、入口圧力を調整することができる。
【0092】
例えば、当初は入口圧力を0.075MPaと設定していたが、微生物等が受けるストレス・ダメージが大きく培養が順調に進まないような場合には、培養槽ポンプ8の駆動力を低下させて、入口圧力を0.04MPaに設定し直すような調整を行う。この調整により、微生物等が受けるストレス・ダメージは低減できるが、液循環割合が30%から20%に低下するため、生物培養液の溶存酸素濃度が低下することとなる。
【0094】
2.上記2)について
上記1)のように、微生物等が受けるストレス・ダメージを低減するために入口圧力を低下させると、液循環割合が低下し、生物培養液の溶存酸素濃度が低下することとなるが、これを補うために、MNBの酸素含有率を高く設定し直す必要がある。
MNBの適切な酸素含有率は次のようにして設定することができる。
【0095】
まず、溶存酸素濃度に関しては、下記の一般式(1)が知られている。
OTR=KLA×(Cs−C) (1)
この式(1)において、
OTR:酸素移動速度(mg/L・h)
KLA:物質移動容量係数(/h)
Cs :酸素の水中への飽和溶解度(mg/L)
C :酸素の水中への溶解度(mg/L)である。
【0096】
入口圧力、液循環割合が低下しても、生物培養液の溶存酸素濃度を一定値に保つためには、OTRを一定値に保つ必要がある。
OTRの値は、「KLA」及び「Cs」という変数及び「C」という定数により決まるが、このうち、「Cs」は、下記の一般式(2)のように酸素含有率の関数として表せる。
Cs=[(X÷100)×P÷H]×MO
2 (2)
この式(2)において、
X :酸素含有率(%)
P :培養槽の運転圧力(atm)
H :ヘンリー定数(atm・m
3/mol)
MO
2:酸素の分子量(g/mol)である。
【0097】
また、「KLA」は、使用する培養装置において液循環割合との関係を求めることにより、液循環割合の関数として表すことができる。例えば、表4は、
図7に示す微生物等の培養装置において、培養槽ポンプ8の駆動力を変化させて液循環割合(%)及びKLA(/h)を測定し、液循環割合を横軸(x)、KLAを縦軸(y)としてプロットしたものであるが、これから式(3)のような近似式を求めることができる。
y=aln(x)−b (3)
この式において、
y:KLA(/h)
x:液循環割合(%)
a、bは定数である。
【0099】
3.上記1)及び2)による制御について
上記の式(1)〜(3)により、例えば、当初は入口圧力を0.075MPaと設定していたが、微生物等が受けるストレス・ダメージが大きく培養が順調に進まないことから培養槽ポンプ8の駆動力を低下させて、入口圧力を0.04MPaに調整した場合には、液循環割合が30%から20%に低下し生物培養液の溶存酸素濃度が低下することとなるが、これを補い生物培養液の溶存酸素濃度を一定に保つために、MNBの酸素含有率をどの程度高める必要があるかを求めることができる。酸素含有率の制御を行う場合の設定割合としては、70%〜130%が好ましく、80%〜120%がより好ましく、90%〜110%がさらに好ましく、95%〜105%が最も好ましい。なお、前記「設置割合」とは、式(1)〜(3)により求めた酸素含有率の目標値に対する、制御設定値の割合をいう。
【0100】
また、上記の式(1)〜(3)に基づいて、
図7に示すような微生物等の培養装置において、培養槽ポンプ8を駆動する装置及びMNB発生装置7aに酸素富化空気を供給する装置を制御することにより入口圧力、液循環割合を低下させても、生物培養液の溶存酸素濃度を自動的に一定値に保つことができるので、微生物等を用いた生物反応を効率的かつ経済的に行うことができる。
本発明の生物反応装置及びこの生物反応装置を用いた生物反応方法の課題は、生物反応中に微生物等が受けるストレス・ダメージを軽減し、微生物等を用いた生物反応が効率的かつ経済的に行えるようにすることにある。
上記課題を解決するため、本発明の生物反応装置及びこの生物反応装置を用いた生物反応方法は、培養槽から抜き出した生物培養液に、マイクロナノバブル発生装置により、酸素含有率を高めた空気から形成されたマイクロナノバブル(酸素富化MNB)を含有させ、この酸素富化MNBを含有させた生物培養液を培養槽に還流することを特徴として備えるものである。培養槽から抜き出した生物培養液に酸素富化MNBを含有させる方法としては、1)培養槽から抜き出した生物培養液を、ろ過器でろ過液とろ過液を除いた生物培養液とに分離し、このろ過液に酸素富化MNBを含有させる方法、2)培養槽から抜き出した生物培養液に、直接、酸素富化MNBを含有させる方法のいずれかを採用することができる。